説明

音声再生装置、及び音声再生方法

【課題】二つのスピーカを搭載した携帯情報端末において、二つのスピーカを利用することで生じるクロストークのキャンセルの処理を経てサラウンド効果を受けることができるのは、特定の位置にいる受聴者一人のみであった。
【解決手段】特定の位置にそれぞれのスピーカを配置し、これらのスピーカから音を出力するときに、それぞれの位置に応じた伝達関数に基づいてクロストークキャンセルを行う処理回路を設ける。
この処理回路で処理したあと、両スピーカから音を出力することで、特定の位置にいる受聴者に加え、さらに他の位置にいる受聴者に対しても、クロストークキャンセルされた音を受聴可能であり、サラウンド効果を受けることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サラウンド効果をもたらすために、2つ以上のスピーカを有する音声再生装置と音声処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信技術の著しい発展により、様々な機能が携帯電話機などの情報通信端末に搭載されるようになり、またこの種々の機能の搭載に応じて、最適な設定変更の工夫が、情報通信端末に対してなされてきた。
【0003】
また、スピーカの配置位置も、携帯電話機に搭載する機能に応じて、最適な配置場所に設置することが求められてきている。
【0004】
たとえば、高音質のステレオ音響再生を行うために、二つのスピーカを携帯端末装置に設け、この音響用スピーカの間で起こってしまうクロストークを低減するために、最適なスピーカの配置位置を工夫したものがある(特許文献1:特開2002−111817号公報参照)。
【0005】
また、表示部の下側近傍の右方向に右チャンネルスピーカ部を、左方向に左チャンネルスピーカ部を有し、それぞれのスピーカの音響信号出力を制御する画像表示装置の構成を示したものがある(特許文献2:特開2005−295382号公報参照)。
【0006】
これは、図14に示すように、この装置の表示部10に表示する画像を縦長に表示するか(図14(a))、横長に表示するか(図14(b))に応じて、その表示方向に応じて最適な位置から音響効果を得られるように、仮想出力点を定位し、出力されたディジタル右チャネル信号と、ディジタル左チャネル信号に対して、音像定位するように処理を行うものである。ディジタル右チャネル信号は、右スピーカ71に出力され、ディジタル左チャネル信号は左スピーカ72に出力される。
【特許文献1】特開2002−111817号公報
【特許文献2】特開2005−295382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
端末が多様な機能を搭載するにつれ、複数の人が、一つの端末を介してこれらの機能を利用する機会も増えてきている。
【0008】
たとえば、地上波受信可能な端末では、テレビを複数人で閲覧することもある。
【0009】
しかしながら、これらの音響効果をもたらす処理は、全て携帯電話機のユーザが一人のみである場合のみを想定しており、単一のユーザに対してのみ効果を奏することが可能なものである。
【0010】
そのため、たとえば複数人が、一つの端末を用いて楽しむ場合があっても、二つのスピーカを有することによるサラウンド効果を享受できる人は、表示方向正面側に居るユーザの一人のみとなる問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来の課題である、複数の人が享受可能なサラウンド効果を提供しうる携帯電話機にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の音声再生装置は、少なくとも2つ以上のスピーカと、前記2つのスピーカへ出力するための入力信号に対して、クロストーク削除を行うための複数のフィルタを有する信号処理回路とを含み、前記2つのスピーカは、スピーカを搭載する筐体に対して対角となる位置に配置され、前記信号処理回路で処理した後の信号をそれぞれ前記2つのスピーカに対して出力することを特徴とする音声再生装置を提供する。
【0013】
また、本発明の音声再生方法は、筐体に対して対角となる位置に配置した少なくとも2つ以上のスピーカと、前記スピーカのうち、特定の2つのスピーカに供給される入力信号に対して、前記特定の2つのスピーカの出力により生じるクロストークを削除する処理を行い、処理した信号をそれぞれ前記2つのスピーカに対して出力することで、音声再生を行うことを特徴する音声再生方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の音声再生装置は、筐体に搭載された二つのスピーカに対して、クロストーク削除を行う信号処理回路を設け、かつ2つのスピーカを筐体に対して対角となる位置に配置したので、端末の表示方向に位置するユーザばかりでなく、他の方向に位置する他のユーザにも、2つのスピーカを利用することによるサラウンド効果を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
まず、2つのスピーカを有する本発明の実施の形態の情報通信端末1(以降、端末と称する)の構成について、図1から図3を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態における端末1の斜視図である。
【0018】
本発明の実施の形態の端末1は、複数人の受聴者に対して音響効果を提供できるように、表示部10を有する第1の筐体16において、表示部10をはさんで右下と左上の位置に対角となるようにそれぞれ右スピーカ(以降、右下スピーカ74と称する)及び左スピーカ(以降、左上スピーカ75と称する)を配置している。この位置により、特許文献2に記載されているように、ユーザは、動画閲覧時に、端末1の表示部10の表示方向を、従来からの主な使用形態である縦長としてもよいし、表示方向を横長にしてもよい。表示方向を横長に変更した場合にも、ユーザは、それぞれのスピーカ位置が離れていることによるサラウンド効果を享受することが可能となる。
【0019】
なお、図1に示すように、本発明の実施の形態の端末1は、表示部10を有する第1の筐体16と、第2の筐体17が図示しないヒンジを介して折りたたみ可能に結合する折畳み型端末を図示しているが、ストレート型、二軸回転ヒンジ型など、いずれの形態の端末でも構わない。
【0020】
図2は、本発明の実施の形態の端末1の構成を示すブロック図である。
【0021】
図2において、端末1は、CPU12(Central Processing Unit)と、端末1のネットワークとの通信制御、認証や、端末上のソフト等の実行、制御、及び表示部10の制御、操作部14からの入力制御など、端末1の動作を指示するコンピュータプログラムを記憶するメモリ(ROM:Read Only Memory)13を含む制御部11と、端末1が通常の動作時に利用する電話帳データ、メールデータなどを記憶するメモリ(RAM:Random Access Memory)15とを含む。
【0022】
無線通信部3は、アンテナ4を介して図示しない移動体通信網と無線通信を行う機能を有し、送信信号を変調して無線信号として移動体通信網に送出し、移動体通信網からの無線信号を復調しディジタル信号として制御部11に送出する。
【0023】
また、端末1は、音声通話を行うために、通話音声などの音声出力を行うレシーバ6と、ユーザの音声を受け付けるマイク5と、キーパッド等からユーザの入力を受け付け、これらの各種キーからのキー入力を信号に変換し、制御部11に送出する操作部14と、受信したメール情報や画像などの各種情報を表示可能な表示部10と、ユーザ(受聴者)に対して着信音や、音楽の再生を行うための再生手段である右下スピーカ74と左上スピーカ75とを含む。
【0024】
音声処理部2は、マイク5から入力された音声を音声データに変換して無線通信部3へ出力し、且つ無線通信部3から受信した音声データを音声に変換して、レシーバ6に出力する。また、着信音や音楽再生時には、音声処理部2は、信号処理回路21から出力される右信号及び左信号をそれぞれ、左右スピーカ(ここでは、右下スピーカ74及び左上スピーカ75)に出力する。
【0025】
このようにして、両スピーカから出力された音信号が、受聴者27の耳に届くことになるが、ここで二つの左右スピーカがあると、クロストークという事象がおこる。
【0026】
これは、右下スピーカ74、左上スピーカ75のそれぞれから放射された音信号が、伝達させたい側の耳以外の他方の耳でも聞こえてしまうことである。
【0027】
このため、通常、スピーカを二つ有する場合には、サラウンド効果を高めるため、余分な音を受聴者27に聞かせないためのクロストークをキャンセルするためのフィルタ設計を行う。
【0028】
音声処理部2は、これらのスピーカへ出力する信号に対して、クロストークキャンセルの処理も行う信号処理回路21を有する。
【0029】
この信号処理回路21は、フィルタ処理を行うことで、両スピーカへ出力する信号をそれぞれ処理する。
[一般的なクロストークキャンセル処理]
図3は、本発明の実施の形態の端末1と比較するための比較用端末1´(以降、単に端末1´と称する)を示す斜視図である。
【0030】
まず、信号処理回路21によるクロストークキャンセルについて説明するために、一般的なスピーカ配置を行った場合、すなわち、図3に示すように、単純に表示部10の左右に、同じ高さの位置に右スピーカ71及び左スピーカ72を配置した場合の例として、端末1´を用いて説明する。
【0031】
ここで、端末1´は、本発明の実施の形態の端末1と比較して、信号処理回路21´、及びこの回路に含まれるフィルタの構成のみ異なるため、それ以外の部品に関しては、共通の番号を用いるものとする。また、端末1´は、表示部10の左右、もしくは表示部10を配置している面に対して側壁面となる面上に、筐体の長手方向に対して同じ高さの位置に右スピーカ71と左スピーカ72を設けているものとする。
【0032】
図4は、端末1´の二つのスピーカと、クロストーク削除の信号処理を行う信号処理回路21´と、受聴者27との関係を示すイメージ図である。
【0033】
ここで、受聴者27は、端末1´の両スピーカの左右中心上に存在するものとする。
【0034】
左右スピーカ71、72のクロストークキャンセルは、音声処理部2が有する信号処理回路21´で行われる。
【0035】
信号処理回路21´は、音声処理部2で発生した入力信号である、右スピーカ用の右信号aと左スピーカ用の左信号bに対して、フィルタ処理を行った後、それぞれのスピーカに出力する。
【0036】
また、本図に示すように信号処理回路21´は、左スピーカ用の左信号bからの分岐信号を右スピーカ71に出力する第1フィルタ81と、右スピーカ用の右信号aからの分岐信号を左スピーカ72に出力する第2フィルタ82とを有し、それぞれの信号処理を行う。
【0037】
これらのフィルタは、左右スピーカの間で生じるクロストークをキャンセルするための等価回路であり、図4では、第1フィルタ81の伝達特性としてF1、第2フィルタ82の伝達特性としてF2で示している。
【0038】
また、これらの第1フィルタ81、第2フィルタ82は、ともに左右スピーカで生じるクロストークをキャンセルするため、入力した分岐信号の位相の変位の処理も行う。
【0039】
制御部11による制御に基づき、信号処理回路21´は、第1フィルタ81を通過した信号を、右減算器91を介して右スピーカ71に出力する。同様に、信号処理回路21´は、第2フィルタ82を通過した信号を、右減算器92を介して、左スピーカ72に出力する。
【0040】
これにより、右スピーカ71は、右信号aから、左信号bの一部を第1フィルタ81で処理した信号を減じたあとの音信号a出力し、同様に左スピーカ72は、左信号bから、右信号aの一部を第2フィルタ82で処理した信号を減じたあとの音信号bとを出力する。
【0041】
このフィルタによって、制御部11は、受聴者27の耳に届くクロストークとなる音の成分のみ、取り除くことが可能となる。
【0042】
すなわち、信号処理回路21´は、クロストークとなる音の成分に対して、フィルタで反転処理を行い、この処理後の音信号を、右スピーカ71及び左スピーカ72へ出力する。
【0043】
これより、クロストークとなる音の成分である音信号は、反転処理を行った音信号と互いに打ち消しあい、受聴者27の耳には届かない状態となる。
【0044】
この信号処理回路21´でクロストークキャンセル処理した受聴音について以下に説明する。
【0045】
ここで、右スピーカ71から受聴者27の右耳までの伝達特性を[A]、左耳までの伝達特性を[A]´、同様に、左スピーカ72から受聴者27の左耳までの伝達特性を[B]、右耳までの伝達特性を[B]´とする。
【0046】
また、図4に示す右スピーカ71から出力された音信号aに、右スピーカ71から右耳の間の音の伝達特性[A]を含めた受聴音を[SR]、同様に左スピーカ72から出力された音信号bに、左スピーカ72から左耳の間の伝達特性[B]を含めた受聴音を[SL]とする。
【0047】
これらの[SR]、[SL]は、右信号a、左信号b、伝達特性[A]、[B]、第1フィルタ81の伝達特性を示すF1、第2フィルタ82の伝達特性を示すF2を用いて、以下のように示すことができる。
【0048】
[SR]=[A]・(a−b・F1)−−−((1)−R)
[SL]=[B]・(b−a・F2)−−−((1)−L)
また、同様に左スピーカ72から出力された音信号bに、左スピーカ72から右耳の間の伝達特性[B]´を含めた受聴音を[SL]´、右スピーカ71から出力された音信号aに、右スピーカ71から左耳の間の伝達特性[A]´を含めた受聴音を[SR]´とすると、クロストークとなる受聴音は以下のように示すことができる。
【0049】
[SR]´=[A]´・(a−b・F1)−−−((2)−R)
[SL]´=[B]´・(b−a・F2)−−−((2)−L)
右耳で受聴する全ての音(以降、[HR]と称する)は、クロストークする音も含めるため、伝達特性[A]、[B]の値をそれぞれ1とすると、式(1)、(2)より、
[HR]=[SR]+[SL]´−−−((3)−R)
=[A]・(a−b・F1)+[B]´・(b−a・F2)
=a([A]−F2・[B]´)+b([B]´−[A]・F1)−−−((4)−R)
左耳で受聴する全ての音(以降、[HL]と称する)は、
[HL]=[SL]+[SR]´−−−((3)−L)
=[B]・(b−a・F2)+[A]´・(a−b・F1)
=a([A]´−F2・[B])+b([B]−F1・[A]´)−−−((4)−L)
ここで、左スピーカ72から受聴者27の右耳までの伝達特性について、[B]´=[A]・F1が成り立てば、式((5)−R)は、
[HR]=a([A]−F2・[B]´) (∵[B]´=[A]・F1)−−−((5)−R)
同様に、右スピーカ71から受聴者27の左耳までの伝達特性について、[A]´=[B]・F2が成り立てば、式((5)−L)は、
[HL]=b([B]−F1・[A]´) (∵[A]´−F2・[B]−−−((5)−L)
と示すことができる。これにより、右耳には、右スピーカ71から出力された音信号aのみが残り、左耳には、左スピーカ72から出力された音信号bのみが残る。
【0050】
このように、フィルタ値を算出して設計することにより、右スピーカ71からの音信号aを右耳のみで聞き、左スピーカ72の音信号bを左耳だけで聞くと、受聴者27は、サラウンド効果である音の広がりを体感することが可能となる。
【0051】
[本発明の実施の形態のクロストークキャンセル処理]
次に、本発明の実施の形態のサラウンド機能をもたらすフィルタ設計について説明する。
【0052】
まず、端末1に対して通常の視聴位置にいる受聴者(以降、縦受聴者28とする)と、縦受聴者28に対して右隣の視聴位置にいる受聴者(以降、右横受聴者29とする)の視聴状態について説明する。
【0053】
図5は、本発明の実施の形態の端末1の第1の筐体16と、及び縦受聴者28と右横受聴者29の立ち位置と、それぞれの受聴者の左右耳までの伝達特性を俯瞰で示したイメージ図である。
【0054】
図5に示すように、縦受聴者28の立ち位置から通常の縦長にした表示部10で視聴することを縦視聴、右横受聴者29の立ち位置から横長にした表示部10で視聴することを横視聴とする。
【0055】
また、縦受聴者28の立ち位置とは、前述の端末1´の受聴者の立ち位置と同様に、左右の両スピーカの左右中心上であるものとする。これにより、縦受聴者28の右耳における受聴音[HR(v)]、左耳における[HL(v)]受聴音は、前述の端末1´の受聴者の受聴音[HR]、[HL]と同一であり、
[HR(v)]=[HR]=[SR]+[SL]´−−−((4)−R)
[HL(v)]=[HL]=[SR]´+[SL]−−−((4)−L)
で示すことが可能である。
【0056】
端末1から縦受聴者28までと同じ等距離に存在し、かつ、右下スピーカ74及び左上スピーカ75の左右中心に居る右横受聴者29の受聴音について図5を用いて説明を行う。
【0057】
まず、図5において、端末1から右横受聴者29までの距離と、縦受聴者28までの距離が等距離であること、両受聴者は、両スピーカの中心に位置することより、伝達特性も、左上スピーカ75と右下スピーカ74を結んだ線(u−u´)を軸として、縦受聴者28の位置と線対称の位置に右横受聴者29が存在することになる。
【0058】
そのため、右下スピーカ74から縦受聴者28の右耳までと、右横受聴者29の左耳までの距離が等しくなり、従って、これらの間の音の伝達特性は、[A]で示すことが可能となる。
【0059】
同様に、左上スピーカ75から縦受聴者28の左耳までと、右横受聴者29の右耳までの距離は等しく、これらの間の伝達特性は[B]で示すことが可能となる。
【0060】
さらに、右下スピーカ74から右横受聴者29の右耳までの伝達特性は[A]´、左上スピーカ75から右横受聴者29の左耳までの伝達特性は[B]´で示すことができる。
【0061】
これにより、右横受聴者29の右耳における受聴音[HR(Rh)]は、図5に示す右下スピーカ74から出力された音信号aに、右下スピーカ74から左耳の間の伝達特性[A]´を含めた受聴音[SR]´と、左上スピーカ75から出力された音信号bに、左上スピーカ75から右耳の間の伝達特性[B]を含めた受聴音[SL]を加えたものとなる。
[HR(Rh)]=[SL]+[SR]´−−−((6)−R)
同様に、右横受聴者29の左耳における受聴音[HL(Rh)]は、左上スピーカ75から出力された音信号bに、左上スピーカ75から右横受聴者29の右耳の間の伝達特性[B]´を含めた受聴音である[SL]´と、右下スピーカ74から出力された音信号aに、右下スピーカ74から右横受聴者29の左耳の間の伝達特性[A]を含めた受聴音である[SR]とを加えたものである。
[HL(Rh)]=[SR]+[SL]´−−−((6)−L)
このとき、本発明の実施の形態の端末1における信号処理回路内で行われる信号処理、及び縦受聴者28及び右横受聴者29の受聴状態について、右信号a及び右信号bに対するフィルタ処理、及びスピーカから出力される音信号a、音信号bと、図6を用いて説明する。
【0062】
図6は、端末1の二つのスピーカと、クロストーク削除の信号処理を行う信号処理回路21と、縦受聴者28との関係を示すイメージ図である。
【0063】
本発明の実施の形態の端末1の信号処理回路21は、図4に示す端末1´における信号処理回路21´に、さらに第3フィルタ85を、音声処理部2から出力された入力信号のうち、左信号bが左上スピーカ75に入力されるまでの間に設けた点が異なる。
【0064】
また、図5に示すように、それぞれのスピーカが第1の筐体16に対して対角に配置しており、それぞれのスピーカと受聴者までの距離は異なるため、図6に示す右下スピーカ74と左上スピーカ75は並立に存在するように図示していない。
【0065】
図6に示す受聴音[SR]、[SL]は、右信号a、左信号b、第1フィルタ83の伝達特性を示すF1、第2フィルタ84の伝達特性を示すF2と、第3フィルタ85の伝達特性を示すF3と、上述の伝達特性を用いて、以下のように示すことができる。
【0066】
[SR]=[A](a−b・F1)−−−((7)−R)
[SL]=[B](b・F3−a・F2)−−−((7)−L)
図6に示す右下スピーカ74が出力した音信号aが実際に縦受聴者28の左耳にまで届いた信号とその伝達特性を含めた受聴音を[SR]´、同様に左上スピーカ75の出力された音信号bが右耳まで届いた信号とその伝達特性を含めた受聴音を[SL]´とする。
【0067】
これにより、図6に示す受聴音[SR]´、[SL]´は、右信号a、左信号bと、上述の伝達特性を用いて、以下のように示すことができる。
【0068】
[SR]´=[A]´(a―b・F1)−−−((8)−R)
[SL]´=[B]´(b・F3−a・F2)−−−((8)−L)
縦受聴者28の受聴音[HR(v)]、[HL(v)]は、式(4)、(7)、(8)より、
[HR(v)]=[SR]+[SL]´
=[A](a−b・F1)+[B]´(b・F3−a・F2)
=[A]・a−[A]・b・F1+[B]´・b・F3−[B]´・a・F2
=a([A]−[B]´・F2)+b([B]´・F3−[A]・F1)−−−((9)−R)
[HL(v)]=[SR]´+[SL]
=[A]´(a―b・F1)+[B](b・F3−a・F2)
=[A]´・a−[A]´・b・F1+[B]・b・F3−[B]・a・F2
=a([A]´−[B]・F2)+b([B]・F3−[A]´・F1)−−−((9)−L)
で示すことができる。
【0069】
ここで、仮に[B]´・F3=[A]・F1であれば、式(9)−Rの値は以下の通りとなる。
【0070】
[HR(v)]=a([A]−[B]´・F2) (∵[B]´・F3=[A]・F1)
−−−((10)−R)
同様に、[A]´=[B]・F2であれば、式(9)−Lの値は以下の通りとなる。
【0071】
[HL(v)]=b([B]・F3−[A]´・F1) (∵[A]´=[B]・F2)
−−−((10)−L)
このように、第1フィルタ83(F1)、第2フィルタ84(F2)、及び第3のフィルタ85(F3)の値を、伝達関数[A]、[A]´、[B]、[B]´の値に対して、式((10)−R)、((10)−L)となるように設計する。
【0072】
これにより、縦受聴者28の右耳には右信号aのみ聞こえ、かつ左耳には左信号bのみ聞くことが可能となり、端末1は、サラウンド効果を提供可能となる。
【0073】
また、このときの右横受聴者29の聞こえ方について説明する。
【0074】
右横受聴者29の受聴音は、図5及び式(6)より、
[HR(Rh)]=[SR]´+[SL]−−−((6)−R)
[HL(Rh)]=[SR]+[SL]´−−−((6)−L)
で示される。
【0075】
このときの信号処理回路内で行われる信号処理について説明する。
【0076】
右横受聴者29の受聴音[HR(Rh)]、[HL(Rh)]は、式(7)、(8)で示した[SR]、[SL]、[SR]´、[SL]´を用いて、式(6)から以下の式を導くことができる。
【0077】
[HR(Rh)]=[SR]´+[SL](=[HL(v)])
=[A]´(a―b・F1)+[B](b・F3−a・F2)
=[A]´・a−[A]´・b・F1+[B]・b・F3−[B]・a・F2
=a([A]´−[B]・F2)+b([B]・F3−[A]´・F1)−−−((11)−R)
[HL(Rh)]=[SR]+[SL]´(=[HR(v)])
=[A](a−b・F1)+[B]´(b・F3−a・F2)
=a([A]−[B]´・F2)+b([B]´・F3−[A]・F1)−−−((11)−L)
式(10)で示した条件である『[A]´=[B]・F2』を式((11)−R)に、『[B]´・F3=[A]・F1』を式((11)−L)に代入すると、
[HR(Rh)]=b([B]・F3−[A]´・F1)−−−((11)−R)
[HL(Rh)]=a([A]−[B]´・F2)−−−((11)−L)
となる。
【0078】
この式(11)から、右横受聴者29は、右耳で左信号bのみを、左耳で右信号aのみを受聴することを示す。
【0079】
そのため、右横受聴者29も、クロストークキャンセルされた音を受聴することができる。
【0080】
また、[A]´=[B]・F2と、[B]´・F3=[A]・F1が成立する条件の元では、
式(10)、式(11)より、
([HR(Rh)]=[HL(v)])
([HL(Rh)]=[HR(v)])
が成立する。
【0081】
すなわち、縦受聴者28に比べて、右横受聴者29は、右下スピーカ74の音信号aは左耳へ、左上スピーカ75の音信号bは右耳へ届くようになり、縦受聴者28とは左右が逆転した音を聞くことになる。
【0082】
しかし、受聴者は、両方のスピーカからの音のクロストークキャンセル処理を行うだけで、立体的なサラウンド効果を享受することが可能であり、この点については、本発明の実施の形態のサラウンド効果をもたらす音声再生装置、及び音声再生装置を提供することが可能となる。
【0083】
次に、クロストークキャンセルされた音を受聴するだけではなく、左右耳において等価的な音を受聴するために、第3フィルタ85(F3)の値の決定の仕方について説明する。
【0084】
説明を簡略に行うため、図6に示す信号処理回路21内で行うクロストークキャンセルのための等価回路である、第1フィルタ83、第2フィルタ84は無いものと仮定する。
【0085】
ここで、この仮定に基づいて、式((9)−R)、及び式((9)−L)を用いて、縦受聴者28の左右耳に到達する信号音を考えると、以下の式で示すことが可能となる。
【0086】
[HR(v)]=a[A]+b[B]´・F3−−−((9)´−R)
[HL(v)]=a[A]´+b[B]・F3−−−((9)´−L)
次に、受聴者27の左右耳と、左右スピーカとの距離がそれぞれ等距離となる、図3に示す端末1´を用いた場合の受聴音[HR]、[HL]は、前述の式((4)−R)、式((4)−L)の通りである。
【0087】
すなわち、
[HR]=a([A]−F2・[B]´)+b([B]´−[A]・F1)−−−((4)−R)
[HL]=a([A]´−F2・[B])+b([B]−F1・[A]´)−−−((4)−L)
ここで、式((9)´−R)と式((9)´−L)と同様に、図4に示す信号処理回路21´内で行うクロストークキャンセルのための等価回路である、第1フィルタ83、第2フィルタ84は無いものと仮定した場合の受聴音を考えると、以下の式で示すことができる。
【0088】
[HR]=a[A]+b[B]´
[HL]=a[A]´+b[B]
ここで、さらに、左右スピーカとの距離がそれぞれ等距離であることから、[A]=[B]、[A]´=[B]´を代入すると、式((4)−R)、式((4)−L)は、以下の式((4)´−R)、式((4)´−L)で示すことが可能となる。
[HR]=a[A]+b[B]´
=a[A]+b[A]´−−−((4)´−R)
[HL]=a[A]´+b[B]
=a[A]´+b[A]−−−((4)´−L)
この式((4)´−R)、式((4)´−L)は、受聴者27の左右耳と、左右スピーカの距離が等しくなる端末1´で、第1フィルタ81(F1)、第2フィルタ82(F2)を用いない場合における、左右耳に到達する受聴音を示す。
【0089】
ここで、前述の式((9)´−R)、式((9)´−L)と比較すると、[B]´・F3=[A]´、[B]・F3=[A]のときに、縦受聴者28の端末1に対する受聴音[HR(v)]、[HL(v)]は、受聴者27の端末1´に対する受聴音[HR]と[HL]とが等しくなる。
【0090】
すなわち、F3が、以下の式を満たすときに、端末1における左右耳における受聴音が、左右耳と左右スピーカが等距離にあるときにおける受聴音として、受聴するための条件となる。
【0091】
F3=([A]´/[B]´)
=([A]/[B])
これにより、端末1において、クロストークキャンセルを行うことによるサラウンド効果を提供するとともに、左右スピーカから受聴者の左右耳に対して、等価的な受聴音を提供することが可能となる。
【0092】
なお、右横受聴者29は、図5では端末1の右側に存在する場合のみ記載している。これは、左側に存在する右横受聴者29には、本発明の実施の形態のクロストークキャンセルによるサラウンド効果を享受できないためである。
[第2の実施の形態]
続いて、本発明の第2の実施の形態のクロストークキャンセルを行う情報通信端末100(以降、端末100と称する)について説明する。
【0093】
図7は、第2の実施の形態の端末100の斜視図である。
【0094】
第1の実施の形態の端末1を示す図1との相違は、スピーカの配置位置が異なる点、すなわち、右下スピーカ74の代わりに左下スピーカ76、左上スピーカ75の代わりに右上スピーカ73が配置されている点である。
【0095】
図8は、第2の実施の形態の端末100の構成を示すブロック図である。音声処理部2は、信号処理回路21で処理した信号を、それぞれ右下スピーカ74の代わりに右上スピーカ73、左上スピーカ75の代わりに左下スピーカ76へ出力する。
【0096】
このように、第2の実施の形態の端末100は、スピーカの位置のみ異なるため、他の構成部品に対しては、第1の実施の形態の構成を示すブロック図である図1と、同じ番号を用いている。
【0097】
図9は、第2の実施の形態の端末100(第1の筐体160のみ図示)における受聴者との関係を示すイメージ図である。
【0098】
図9に示されるように、第2の実施の形態の端末100は、第1の実施の形態の端末1に対して、左右スピーカの位置がそれぞれ上下が逆となる、いわゆる点対象の位置にある。
【0099】
このため、この端末100における横受聴者30(以降、左横受聴者と称する)は、縦受聴者28からみて左側に位置した場合として、説明を続ける。
【0100】
なお、ここで縦受聴者28、及び左横受聴者30は端末100の左右中心に居り、縦受聴者28から端末100までと、左横受聴者30と端末100までの距離は等距離であるとする。
【0101】
また、後述する説明を簡略化するため、縦受聴者28と端末100との距離は、図5で示した、第1の実施の形態における端末1から受聴者27までの距離と同じであるとする。
【0102】
すなわち、図9における端末100と縦受聴者28と左横受聴者30との位置関係と、第1の実施の形態の端末1として示した図5における端末1と縦受聴者28と右横受聴者29との位置関係は、端末100の左右の中心を軸とした線対称の位置にある。
【0103】
このため、第1の実施の形態と同様に、右上スピーカ73から縦受聴者28の右耳までの伝達特性を[B]、縦受聴者28の左耳までの伝達特性を[B]´、左下スピーカ76から縦受聴者28の左耳までの伝達特性を[A]、右耳までの伝達特性を[A]´で示すことが可能である。
【0104】
また、同様に左下スピーカ76から左横受聴者30の右耳までの伝達特性を[A]、左耳までの伝達特性を[A]´、右上スピーカ73から左横受聴者30の左耳までの伝達特性を[B]、右耳までの伝達特性を[B]´で示すことも可能である。
【0105】
第2の実施の形態の端末100が有する信号処理回路21の構成、及び処理内容は、第1の実施の形態の端末1と同じである。
【0106】
すなわち、第1の実施の形態の端末1では、右下スピーカ74へ出力していた信号が、第2の実施の形態の端末100では左下スピーカ76向けに出力され、同様に第1の実施の形態の端末1で、左上スピーカ75へ出力していた信号が、第2の実施の形態の端末100では、右上スピーカ73向けに出力しているものとする。
【0107】
この場合、縦受聴者28の耳に届く受聴音[HR(v)]、[HL(v)]は、第1の実施の形態の縦受聴者28の左右の耳に届く受聴音と左右が間逆となるため、式((9)−R)と式((9)−L)より、以下の式で示すことが可能となる。
【0108】
[HR(v)]=[SR]´+[SL]
=a([A]´−[B]・F2)+b([B]・F3−[A]´・F1)−−−((9)−R)
[HL(v)]=[SR]+[SL]´
=a([A]−[B]´・F2)+b([B]´・F3−[A]・F1)−−−((9)−L)
また、左横受聴者30は、第1の実施の形態における右横受聴者29の左右の耳における受聴音に対して左右反対になった受聴音を聞くことになる。
【0109】
このため、左横受聴者の左右の耳に届く受聴音[HR(Lh)]と[HL(Lh)]は、それぞれ、[HL(Rh)]と[HR(Rh)]を示す式((11)−L)と、式((11)−R)を用いて、式((12)−R)、式((12)−L)で示すことが可能である。
【0110】
[HR(Lh)]=[SR]+[SL]´
=[A](a−b・F1)+[B]´(b・F3−a・F2)
=a([A]−[B]´・F2)+b([B]´・F3−[A]・F1)−−−((12)−R)
[HL(Lh)]=[SR]´+[SL]
=[A]´(a―b・F1)+[B](b・F3−a・F2)
=a([A]´−[B]・F2)+b([B]・F3−[A]´・F1)−−−((12)−L)
ここで、仮に[B]´・F3=[A]・F1、[A]´=[B]・F2であれば、式(9)−R、式(9)−Lの値は以下の通りとなる。
【0111】
[HR(v)]=b([B]・F3−[A]´・F1) (∵[A]´=[B]・F2)
−−−((13)−R)
[HL(v)]=a([A]−[B]´・F2) (∵[B]´・F3=[A]・F1)
−−−((13)−L)
このように、第2の実施の形態における縦受聴者28は、第1の実施の形態における縦受聴者に対する受聴音とは左右反対となる。
【0112】
つまり、第2の実施の形態における縦受聴者28は、右耳で左信号bを受聴し、左耳で右信号aを受聴することが可能となり、その結果、式((13)−R)、式(13)−L)に示されるように、クロストークキャンセルされた受聴音を聞くことが可能となる。
【0113】
次に、左横受聴者30の受聴音[HR(Lh)]、[HL(Lh)]を示す上述の式((12)−R)、式((12)−L)は、[B]´・F3=[A]・F1、[A]´=[B]・F2の条件の下では、
[HR(Lh)]=a([A]´−[B]・F2)−−−((12)−R)
[HL(Lh)]=b([B]´・F3−[A]・F1)−−−((12)−L)
という式で示すことが可能となる。
【0114】
これは、左横受聴者30は、右信号aを右耳で受聴し、左信号bを左耳で受聴することを示す。
【0115】
さらに、この条件の下、
([HR(Lh)]=[HL(v)])
([HL(Lh)]=[HR(v)])
が成立する。
【0116】
これは、右横受聴者29の代わりに左横の位置にいる左横受聴者30も、縦受聴者28とは左右逆となる音を受聴することになるが、第2の実施の形態の端末100でも、クロストークキャンセルされた音を受聴音することが可能となることを示す。
【0117】
従って、本発明の第2の実施の形態の端末100を用いることで、端末100の左側に位置する左横受聴者30も、クロストークキャンセルされた音を受聴することが可能となる。
【0118】
このように、いずれの受聴者も、両方のスピーカからのクロストークキャンセルされた音を受聴することが可能であり、立体的なサラウンド効果を享受することが可能となる。
【0119】
縦受聴者28及び左横受聴者30に対して、本発明の第2の実施の形態のサラウンド効果をもたらす音声再生装置、及び音声再生方法を提供することが可能となる。
【0120】
なお、本発明の実施の形態と同様に、第2の実施の形態においては、左受聴者30のみがクロストークキャンセルされた音を受聴可能であり、右横に位置する右受聴者29は、本発明の第2の実施の形態のクロストークキャンセルによるサラウンド効果を享受できない。
【0121】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態の端末101について説明する。
【0122】
図11は、第3の実施の形態の端末101を示す斜視図である。
【0123】
図11に示されるように、端末101の筐体161は、スピーカを4つ有し、それぞれ右上スピーカ73、右下スピーカ74、左上スピーカ75、左下スピーカ76とする。
【0124】
図12は、第3の実施の形態の端末の構成を示すブロック図である。
【0125】
音声処理部20は、制御部11の制御により、信号処理回路21で処理された信号を、これらのスピーカに対して出力する。
【0126】
端末101は、スピーカ及び音声処理部20以外の構成部品は、図2に示す第1の実施の形態と共に同一であるため、図12では同じ番号を用いて説明を進める。
【0127】
ここで、第3の実施の形態の端末101は、スピーカより音を出力するとき、右下スピーカ74と、左上スピーカ75の二つを用いて出力する第1の出力形態と、右上スピーカ73と左下スピーカ76の二つを用いて出力する第2の出力形態のいずれかを選択して出力することを特徴とする。
【0128】
スピーカ(右上スピーカ73、右下スピーカ74、左上スピーカ75、左下スピーカ76)は、制御部11の指示に基づいて、音声処理部20に含まれる図示しない切り替え回路によって、自在に切り替え可能である。
【0129】
この切り替えによって、第1の出力形態と、第2の出力形態の切り替えも可能となる。
【0130】
第1の出力形態とは、制御部11が第1の実施の形態の端末1と同じスピーカ制御を行い、第2の出力形態とは、制御部11が第2の実施の形態の端末100と同じスピーカ制御を行うものである。
【0131】
制御部11の制御に基づき、いずれの出力形態を用いるかに応じて信号処理回路21で処理された信号を、いずれのスピーカに接続するかを、音声処理部20の図示しない切り替え回路で切替える。
【0132】
すなわち、第1の出力形態の場合には、信号処理回路21で処理され、右減算器93を通して出力された信号は、右下スピーカ74に出力され、左減算器94を通して出力された信号は、左上スピーカ75に出力される。
【0133】
また、第2の出力形態の場合には、右減算器93を通して出力された信号は、左下スピーカ76に出力され、左減算器94を通して出力された信号は、右上スピーカ73に出力される。
【0134】
受聴者は、横受聴者が右側か左側のいずれに位置するかに応じて、操作部14を介してこの端末101の出力形態を切替える。制御部11が、出力形態を切り替えることで、横受聴者がいずれの位置に居ても、受聴者が端末101を操作することによって、クロストークキャンセルされた音を受聴可能となる。
【0135】
なお、これまでの第1の実施の形態乃至第3の実施の形態では、長手方向をY軸、横手方向をX軸とする、縦受聴者28と、右横受聴者29か左横受聴者30のいずれかの二人に限って、二次元的な説明をした。しかし、受聴者が両スピーカの左右中心におり、かつ端末1から他の受聴者と同じく等距離に居ることを条件とした場合、Z軸方向に受聴者が存在してもよい。
【0136】
すなわち、これらの条件を満たす円弧上に受聴者が存在する場合、いずれの位置でも、受聴者は、本発明の実施の形態のクロストークキャンセルされた音を受聴可能となる。
【0137】
このように、本発明のクロストークキャンセル方法、及びクロストークキャンセルを行った情報通信端末では、複数の受聴者がクロストークキャンセルされた音を受聴可能となる。
【0138】
[変形例]
次に本発明の実施の形態の変形例について説明する。
【0139】
図13は、本発明の実施の形態の変形例における端末102を示すものである。
【0140】
本発明の実施の形態の変形例における端末102は、スピーカ兼用レシーバ77と、スピーカの機能を果たすスピーカ兼用レシーバ77を有する。
【0141】
今までの本発明の第1乃至第3の形態では、所定の箇所に配置したスピーカに応じて、音声処理部2から信号a及び信号bを所定のスピーカに対して出力していた。
【0142】
変形例における端末102では、制御部11は、スピーカ兼用レシーバ77を利用することにより、一方の信号(たとえば信号a)は、たとえば左下スピーカ76に出力、他方の信号(たとえば信号b)は、筐体162の右上に配置したスピーカ兼用レシーバ77に出力する。
【0143】
ここで、対となる左下スピーカ76とスピーカ兼用レシーバ77を用いて、音声再生を行う。
【0144】
すなわち、図13に示す端末102では、制御部11は、左下スピーカ76と、右上スピーカ73を用いて音声再生を行う本発明の第2の実施の形態の端末100と同様の音声再生の制御を行う。
【0145】
なお、ここでは左下スピーカ76と、左下スピーカと対角の位置となる右上の位置に、スピーカ兼用レシーバ77を配置した形態として説明を行っている。
【0146】
しかし、図2、図8、図11に示すように、本発明の第1乃至第3の形態と同様に、スピーカ及びスピーカ兼用レシーバ77の配置は、対角となる位置であれば、いずれの位置でも構わない。
【0147】
このように、本発明の実施の形態の変形例では、スピーカ兼用レシーバ77を代用することにより、複数個のスピーカの配置のための実装面積を削除することが可能となる。
【0148】
また、本発明の実施の形態、及び第2、第3の実施の形態や変形例においては、これらのスピーカの配置位置は、対角となる位置に配置するものとして説明を行ったが、厳密に対角とせず、デザインに応じて概略の位置であってもよいし、また四角形を示す筐体の頂角4つに備えたものであっても良い。また、第1の筐体16、第1の筐体160、第1の筐体161、第1の筐体162の表示部10を配置している面に対して側壁面となる面上に配置した場合として説明をしたが、それぞれの筐体の正面、背面に配置しても構わない。
【0149】
さらに、本発明の実施の形態で説明した、左右耳における等価的な音を受聴するための第3フィルタ85(F3)の値を決定は、本発明の第2の実施の形態、及び第3の実施の形態、及び変形例に適用しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明の実施の形態における端末の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の端末の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態の端末と比較するための比較用端末のスピーカ位置を示す斜視図である。
【図4】比較用端末の二つのスピーカと、クロストーク削除の信号処理を行う信号処理回路と、受聴者との関係を示すイメージ図である。
【図5】本発明の実施の形態の端末、及び縦受聴者と横受聴者の立ち位置と、それぞれのユーザへ届く音信号を、俯瞰で示したイメージ図である。
【図6】本発明の実施の形態の端末の二つのスピーカと、クロストーク削除の信号処理を行う信号処理回路と、縦受聴者との関係を示すイメージ図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態における端末の斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態の端末の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の端末、及び縦受聴者と横受聴者の立ち位置と、それぞれのユーザへ届く音信号を、俯瞰で示したイメージ図である。
【図10】本発明の実施の形態の端末の二つのスピーカと、クロストーク削除の信号処理を行う信号処理回路と、縦受聴者との関係を示すイメージ図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態における端末の斜視図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態の端末の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の実施の形態の変形例の端末の斜視図である。
【図14】従来の情報通信端末におけるスピーカの位置、及び表示内容の違いを示すイメージ図であり、特に(a)は縦表示を行った場合、(b)は横表示を行った場合のイメージ図である。
【符号の説明】
【0151】
1 情報通信端末
1´ 情報通信端末
100 情報通信端末
101 情報通信端末
102 情報通信端末
2 音声処理部
20 音声処理部
3 無線通信部
4 アンテナ
5 マイク
6 レシーバ
70 スピーカ
71 右スピーカ
72 左スピーカ
73 右上スピーカ
74 右下スピーカ
75 左上スピーカ
76 左下スピーカ
77 スピーカ兼用レシーバ
81 第1フィルタ
82 第2フィルタ
83 第1フィルタ
84 第2フィルタ
85 第3フィルタ
90 減算器
91 右減算器
92 左減算器
93 右減算器
94 左減算器
10 表示部
10´ 表示部
11 制御部
12 CPU
13 ROM(メモリ)
14 操作部
15 RAM(メモリ)
16 第1の筐体
160 第1の筐体
161 第1の筐体
162 第1の筐体
17 第2の筐体
170 第2の筐体
171 第2の筐体
172 第2の筐体
21 信号処理回路
21´ 信号処理回路
27 受聴者
28 縦受聴者
29 右横受聴者
30 左横受聴者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つ以上のスピーカと、前記2つのスピーカへ出力するための入力信号に対して、クロストーク削除を行うための複数のフィルタを有する信号処理回路とを含み、
前記2つのスピーカは、スピーカを搭載する筐体に対して対角となる位置に配置され、
前記信号処理回路で処理した後の信号をそれぞれ前記2つのスピーカに対して出力することで、音声再生を行う音声再生装置。
【請求項2】
前記スピーカは、前記筐体の長手方向に対して互いに対角となる位置に配置した請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項3】
前記スピーカは、前記筐体に対して対角中心より右下の位置に第1のスピーカを、左上の位置に第2のスピーカを配置した請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項4】
前記スピーカは、前記筐体に対して対角中心より左下の位置に第1のスピーカを、右上の位置に第2のスピーカを配置した請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項5】
前記スピーカは、前記筐体の4隅に配置し、さらに第1の出力形態として前記筐体に対して対角中心より右下の位置に配置したスピーカを第1のスピーカとして、左上の位置に配置したスピーカを第2のスピーカとして用い、第2の出力形態として前記筐体に対して対角中心より左下の位置に配置したスピーカを第1のスピーカとして、右上の位置に配置したスピーカを第2のスピーカとして用いるよう、制御を行う制御部を含む請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項6】
スピーカ兼用レシーバを、前記第1、もしくは前記第2のスピーカと置き換えた前記請求項3乃至5のいずれか1項に記載の音声再生装置。
【請求項7】
前記信号処理回路は、
第2のスピーカへ出力する第2の入力信号の一部に対して処理を行い、第1のスピーカへ出力する第1フィルタと、
第1のスピーカへ出力する第1の入力信号の一部に対して処理を行い第2のスピーカへ出力する第2フィルタと、
第2のスピーカへ出力する第2の入力信号に対して処理を行い、第2のスピーカへ出力する第3のフィルタとを有する請求項3乃至6のいずれか1項に記載の音声再生装置。
【請求項8】
前記情報通信端末の長手方向であり、前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカの左右中心に位置する縦受聴者の右耳及び左耳から、前記第1のスピーカまでの伝達特性をそれぞれ[A]、[A]´、前記第2のスピーカから前記縦受聴者の右耳及び左耳までの伝達特性をそれぞれ[B]´、[B]とし、前記第1、第2、第3のフィルタの伝達特性をF1、F2、F3とするとき、[B]´・F3=[A]・F1、[A]´=[B]・F2の関係を満たすことを特徴とする、請求項7に記載の音声再生装置。
【請求項9】
前記第3のフィルタの伝達特性F3は、F3=[A]/[B]=[A]´/[B]´を満たす請求項8に記載の音声再生装置。
【請求項10】
前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカの左右中心の平面上、かつ、前記情報通信端末より等距離に位置する受聴者に対して、第1のスピーカと第2のスピーカから出力される受聴音をそれぞれ、受聴者の片方の耳でのみ受聴することが可能となる請求項8乃至9のいずれか1項に記載の音声再生装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の音声再生装置を含む情報通信端末。
【請求項12】
筐体に対して対角となる位置に配置した少なくとも2つ以上のスピーカと、前記スピーカのうち、特定の2つのスピーカに供給される入力信号に対して、前記特定の2つのスピーカの出力により生じるクロストークを削除する処理を行い、
処理した信号をそれぞれ前記2つのスピーカに対して出力する音声再生方法。
【請求項13】
前記スピーカは、前記筐体の垂直方向に対して互いに対角となる位置に配置した請求項12に記載の音声再生方法。
【請求項14】
前記スピーカは、前記筐体に対して対角中心より右下の位置に第1のスピーカを、左上の位置に第2のスピーカを配置した請求項13に記載の音声再生方法。
【請求項15】
前記スピーカは、前記筐体に対して対角中心より左下の位置に第1のスピーカを、右上の位置に第2のスピーカを配置した請求項13に記載の音声再生方法。
【請求項16】
前記スピーカは、前記筐体の4隅に配置し、第1の出力形態として前記筐体に対して対角中心より右下の位置に配置したスピーカを第1のスピーカとして、左上の位置に配置したスピーカを第2のスピーカとして用い、第2の出力形態として前記筐体に対して対角中心より左下の位置に配置したスピーカを第1のスピーカとして、右上の位置に配置したスピーカを第2のスピーカとして用いるよう、制御を行う請求項13に記載の音声再生方法。
【請求項17】
スピーカ兼用レシーバを、前記第1、もしくは前記第2のスピーカと置き換えた前記請求項14乃至16のいずれか1項に記載の音声再生方法。
【請求項18】
前記信号処理回路は、前記2つのスピーカは、第1のスピーカと第2のスピーカとからなり、
第2のスピーカへ出力する第2の入力信号の一部に対して処理を行い、第1のスピーカへ出力する第1のフィルタと、
第1のスピーカへ出力する第1の入力信号の一部に対して処理を行い第2のスピーカへ出力する第2のフィルタと、
第2のスピーカへ出力する第2の入力信号に対して処理を行い、第2のスピーカへ出力する第3のフィルタとからなる請求項14乃至17に記載の音声再生方法。
【請求項19】
前記情報通信端末の長手方向であり、前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカの左右中心に位置する縦受聴者の右耳及び左耳から、前記第1のスピーカまでの伝達特性をそれぞれ[A]、[A]´、前記第2のスピーカから前記縦受聴者の右耳及び左耳までの伝達特性をそれぞれ[B]´、[B]とし、前記第1、第2、第3のフィルタの伝達特性をF1、F2、F3とするとき[B]´・F3=[A]・F1、[A]´=[B]・F2の関係を満たすことを特徴とする、請求項18に記載の音声再生方法。
【請求項20】
前記第3のフィルタの伝達特性F3は、F3=[A]/[B]=[A]´/[B]´を満たす請求項19に記載の音声再生方法。
【請求項21】
前記第1のスピーカ及び前記第2のスピーカの左右中心の平面上、かつ、前記情報通信端末より等距離に位置する受聴者に対して、第1のスピーカと第2のスピーカから出力される受聴音をそれぞれ、受聴者の片方の耳でのみ受聴することが可能となる請求項19乃至20のいずれか1項に記載の音声再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−236476(P2008−236476A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74303(P2007−74303)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】