飛翔体およびその誘導制御方法
【課題】 飛翔体の運用状況により発生する目視線回転角速度の検出誤差等による飛翔体の誘導精度の劣化を防止する。
【解決手段】 レドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、飛翔体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、誘導信号指令値と飛翔体運動検出センサの検出値とを入力し、飛翔体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、オートパイロットが、誘導信号指令値と飛翔体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して各々飛翔体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を姿勢制御手段に出力するようにした。
【解決手段】 レドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、飛翔体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、誘導信号指令値と飛翔体運動検出センサの検出値とを入力し、飛翔体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、オートパイロットが、誘導信号指令値と飛翔体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して各々飛翔体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を姿勢制御手段に出力するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛翔体、特に電波誘導式飛翔体およびその誘導制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、飛翔体の誘導においては、速度ベクトルに対する飛翔体の機体姿勢を変更して迎角を取ることにより発生させた揚力により速度ベクトルに垂直な方向の横力加速度を発生させることにより、この速度ベクトルの方向を変更し、目標物との会合を実現する。特に、電波誘導式飛翔体では、機体前部に目標物を検知するアンテナを備えているが、アンテナは飛行による風圧を避けるために、レドームと称する尖塔型のセラミック製のカバーで覆われている。目標物からの電波はレドームを透過後、アンテナで受信され機体から目標物への屈折誤差の有る目視線方向(目視線とは、機体から目標物への方向を示すベクトルであり、目視線方向とは、一般的にはセンサ(ここではアンテナ)中心と目標を結ぶ線を意味する)および目標物との接近速度が信号処理装置で検出される。
【0003】
次に、レドームエラースロープ補正装置では、上記レドーム屈折角誤差を補正し、屈折誤差有りの目視線方向から屈折誤差補正済の目視線方向を導き出す。この装置では、レドームエラースロープを事前に取得したテーブル数値データを用いて、屈折角誤差を補正している。誘導信号計算装置では、このレドームエラースロープ補正装置からの屈折誤差補正済目視線方向の時間変化率(回転角速度)を算出し、信号処理装置で検出した接近速度を用いて、例えば比例航法と言った誘導則に基づいて、誘導信号と呼ばれる横力加速度指令値を次式(1)により計算し出力する。
横力加速度指令値=航法定数×接近速度×目視線回転角速度…(1)
この横力加速度指令値は、オーロパイロットに入力され、時々刻々、横力加速度センサで検出される機体の横力加速度と、レートジャイロで検出される機体角速度とをフィードバック信号として用いて、迎角を取るための操舵量がこのオーロパイロットで計算され、該操舵量が翼アクチュエータに入力されることにより機体の操舵翼は動き、誘導則で計算した所望の横力加速度が発生されるようになっている(例えば非特許文献1、2参照)。
【0004】
【非特許文献1】社団法人 日本航空宇宙学会編「航空宇宙工学便覧(第2版)」、1992年9月30日、p.730、図B7.15
【非特許文献2】Paul Zarchan著「Tactical and Strategic Missile Guidance」2nd Edition、ISBN1−56347−077−2、1994年、p.26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のレドームは、設計製造上の制約から、厚みが均一で、かつ充分滑らかなものにすることはできず、運用時には風圧による変形や空力加熱による変形も生じるため、レドーム屈折角誤差と呼ばれる目標位置からの電波の位置誤差は、飛行条件で様々に変化する。この電波的歪みは、レドームエラースロープと呼ばれる。これは、歪んだ眼鏡を通して物を見たときのような状態に相当し、この歪により、真の目視線方向は見かけの目視線方向とは異なったものとなり、誘導誤差を生ずる要因の1つとなる。
【0006】
実際の飛翔体の制御装置では、事前に地上設備を用いてレドームエラースロープを示すテーブル数値データ、すなわちアンテナから目標物への見かけの目視線方向と真の目視線方向から決まるレドーム屈折角誤差のテーブル数値データを作成しておき、機体の飛行中には、アンテナで得られた見かけの目視線方向からテーブル数値データを用いてレドーム屈折角の誤差分を補正し、より真値に近い目視線方向を得るようにしている。
【0007】
このとき横力加速度指令値を求めるために利用される目視線回転角速度に関しては、以下の課題がある。すなわち、比例航法による横力加速度指令値計算に必要となる検出信号のうち、接近速度は受信電波の信号処理で精度良く計測することが可能であるが、受信電波はレドーム透過による屈折により曲がり、見かけの目視線には真の目視線に対して方向誤差が含まれる。目視線回転角速度はその時間変化率であるから、例えば機体が角速度を有した状態で電波を受信する場合には、受信電波は時々刻々レドームの異なる部位を透過して受信され、目視線回転角速度はレドームエラースロープにより誤差を含むことになる。目視線回転角速度が検出誤差を含めば、誘導則を通して横力加速度指令値にも誤差を生じ、結果として飛翔体の誘導精度が劣化する。
【0008】
また、機体は計算された誤差を含む横力加速度指令値を発生させるために迎角を取るが、機体姿勢変更のための角速度は上記の誤差を含む横力加速度指令値に従って発生されるので、レドームエラースロープによる目視線回転角速度の検出誤差は再帰的に影響を及ぼし、特に地上から10数Km以上の高々度においては、少なくとも機体とその制御装置を備えた飛翔体が誘導の安定性を失い、その機能を果たせなくなる可能性もある。
【0009】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、飛翔体の誘導精度の劣化を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る飛翔体は、
機体のレドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、
この目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と、前記目標物との接近速度信号とを入力し、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値とを入力し、機体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、
上記オートパイロットが、前記誘導信号指令値と前記機体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を前記姿勢制御手段に出力することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る飛翔体の誘導制御方法は、
機体のレドーム内に収納された目標物検出手段により、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出し、
前記目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と前記目標物との接近速度信号とから、機体を誘導するための誘導信号指令値を得、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値の差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離し、
分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与えて姿勢制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
飛翔体の制御装置であるオートパイロットにおいて、誘導信号指令値と機体運動検出センサである横力加速度センサ及びレートジャイロの検出値から計算した制御誤差信号(横力加速度指令値と横力加速度の差信号、または角速度指令値と角速度の差信号)を分離器により時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離し、遅い周波数成分は機体に迎角をとらせて横力加速度を発生させるための前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を計算する制御器へ、速い周波数成分は機体を並進させる横力加速度を発生させるための前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を計算する制御器へ入力し、合成器により前記前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を各々姿勢制御手段としての前翼アクチュエータあるいは後翼アクチュエータへの操舵量指令値として合成するように構成することで、機体の速い姿勢変化(角速度)を伴うことなく誘導に必要とされる横力加速度を発生させてレドームエラースロープの影響を受け難くし、飛翔体の誘導精度劣化や不安定化の可能性を低減できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の各実施の形態を図に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、本発明の飛翔体において、発明の発端である電波的歪みによる目視線方向の誤差を図1に基づいて説明する。この図において、受信電波が機体1のレドーム2のどの部位を透過したかにより、異なる屈折角で目標物検出手段としてのアンテナ3に到達することになる。この図に示すように、目標物からの電波はレドームにより屈折し(図中、「屈折した目視線方向」と記したものが該当)、見かけの目視線方向として受信され、真の目視線方向とは異なるものとなり、誤差を生ずる。この目標位置からの電波の位置誤差であるレドーム屈折角誤差の詳細を次に説明する。図に示すように、レドーム屈折角誤差εRとは、目標Ttからの電波がレドームを透過してアンテナで検知される時に、アンテナ方向、すなわち、アンテナからの見かけの目標であるTaの目視線方向と、電波のレドーム透過点からの目標であるTtの方向とのなす角のことである。また、レドームエラースロープとは、アンテナから見かけの目標Taへの目視線と機体X軸とのなす角をθとすると、レドーム屈折角誤差εRのθに対する変化率であるdεR/dθのことである。特に、このレドームエラースロープによる目視線回転角速度の検出誤差は、上述のように、再帰的に影響を及ぼすため、飛翔体を精度よく誘導するためには、この検出誤差を補正する必要がある。
【0014】
そこで、上記の誤差を補正して飛翔体の目標物への誘導精度をより高度なものとするため必要となった、飛翔体の具体例について以下に順に説明する。
図2は本発明の実施の形態1による飛翔体の制御装置を示す全体ブロック図である。目標物検出手段であるアンテナ3で目標物からの反射波を受信し、信号処理装置4で機体と目標物との接近速度および機体から目標物への屈折誤差のある見かけの目視線方向を検出する。次に、レドームエラースロープ補正装置5でこの見かけの目視線方向から、レドームエラースロープを事前に取得したテーブル数値データを用いて屈折誤差を補正した補正後目視線方向を得る。誘導信号計算装置6では、レドームエラースロープ補正装置5で得た補正後目視線方向の時間変化率(回転角速度)を算出し、信号処理装置4からの接近速度を用いて、例えば比例航法と言った誘導則に基づいて誘導信号指令値としての横力加速度指令値を計算出力する。出力された横力加速度指令値は、機体の回転運動と並進運動を分離する機能を持つオートパイロット9に入力され、時々刻々、例えばレートジャイロ7などの機体運動検出センサとしての角速度検出センサで検出される機体角速度と、同じく機体運動検出センサとしての横力加速度センサ8で検出される機体の横力加速度とを、フィードバック信号として用いて姿勢制御指令値である前翼操舵量指令値と後翼操舵量指令値とを計算し、それぞれ姿勢制御手段としての前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11へ出力する。また、図3には、迎角を取ることによる機体に発生する横力加速度の様子を、図4には、機体を並進させる前翼の揚力、後翼の揚力による横力加速度発生の様子を示す。これらの図中、機体中央部の白黒の斑をなす丸記号は重心位置を示し、横力加速度(図示せず)は、図3では揚力方向から迎角分だけ後翼側に傾いた方向、図4では揚力方向と同方向に働いている。なお図3では前翼、後翼とも操舵する場合を描いているが、前翼または後翼のみの操舵でも迎角を取ることが可能である。
【0015】
図5は本発明の実施の形態1による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で、この制御誤差信号をローパスフィルタ15を用いて時間変化の遅い周波数成分と時間変化の速い周波数成分に分離する。制御器A12では、上記制御誤差信号のうち時間変化の遅い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な、迎角を取るための機体角速度指令値を計算出力する。制御器B13では、機体角速度指令値と例えばレートジャイロ7からの機体角速度との誤差信号を入力として迎角を取るための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は逆相)を計算出力する。制御器C17では横力加速度の制御誤差信号のうち、時間変化の速い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な、機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は同相)を計算出力する。迎角を取るための翼操舵量指令入力と機体を並進させるための翼操舵量指令入力は合成器16に入力されて合成されるとともに、姿勢制御手段である前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11に、姿勢制御指令値であるそれぞれの操舵量指令値が出力され、機体1の前後翼が動作する。
【0016】
この構成によれば、信号帯域を制限するためのローパスフィルタ(以下LPFと略す。)15を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。遅い周波数成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い周波数成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(過大な機体の回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0017】
なお、上記では、電波によって目標物を検出する方法について述べたが、目標物を検出する方法はこのような電波センサの場合だけに限らず、赤外線センサなど、目標物検出手段として光学センサを用いる場合も同様の議論が成り立つ。ただし、光学センサを用いる場合には、レドームのうち、少なくとも目視線方向の対応する部分が光学的に透明である必要がある。
【0018】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。図5に示した実施の形態1とほぼ同じ構成であるが、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14でこの制御誤差信号をハイパスフィルタ(以下HPFと略す。)18を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する点が異なっている。
【0019】
この構成によれば、HPF18を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離し、遅い成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0020】
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。図5に示した実施の形態1とほぼ同じ構成であるが、誘導信号計算装置4からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で制御誤差信号をLPFの代替となり、ディジタル信号処理が容易な移動平均演算器19を用いて、時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する点が異なっている。
【0021】
この構成によれば、移動平均演算器19を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。遅い周波数成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い周波数成分は制御器C17を介して機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0022】
実施の形態4.
図8は本発明の実施の形態4による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との誤差信号を計算し、これを入力として制御器A12で機体角速度指令値を計算出力する。この機体角速度指令値と例えばレートジャイロ7からの機体角速度との制御誤差信号を分離器14でHPF18を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。制御器B13では、制御誤差信号のうち時間変化の遅い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な迎角を取るための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は逆相)を計算出力する。制御器D20では、角速度指令値と角速度の差を入力とする分離器の出力である制御誤差信号のうち、横力加速度指令値の時間変化の速い周波数成分に基づき、機体に並進横力加速度を発生させるための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令出力は同相)を計算出力する。迎角を取るための翼操舵量指令入力と機体並進加速度を発生させるための翼操舵量指令入力は合成器16に入力されて合成されるとともに、前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11にそれぞれの操舵量指令値が出力され、機体1の前後翼が動作する。
【0023】
この構成によれば、HPF18を用いた分離器14で、制御器A12からの機体角速度指令値とレートジャイロ7からの機体角速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離できる。従って、角速度の高周波数成分を並進による操舵角に変換し、遅い成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで機体の速い姿勢変化(回転角速度)をより確実に抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0024】
以上のように実施の形態1〜4では、飛翔体に構成した制御装置により、制御誤差信号の時間変化率の速い成分に対応する横力加速度が並進加速度として実現されるため、時間変化率の速い機体回転を伴わず、レドームエラースロープの影響による誘導精度の劣化や不安定化が低減される効果がある。
【0025】
実施の形態5.
図9は本発明の実施の形態5による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で制御誤差信号をローパスフィルタ15を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。分離閾値(ここでは、制御誤差信号の時間変化の速い周波数成分と遅い周波数成分とを分離する時のクロスオーバー周波数を意味する)変更器21は機体の飛行状況に応じて分離器14のローパスフィルタ15の帯域、すなわち横力加速度の制御誤差信号の分離特性を変更する。
【0026】
この構成によれば、分離器14の分離閾値を、機体の飛行高度や動圧等の運用状況に応じて可変にすることにより、例えば空力的効果の弱い高々度に上昇するに従い閾値を低くして横力加速度の発生に並進力を多用するような調節が可能となり、大きな姿勢変化を避けることができるため、上記実施の形態1〜4と同様の効果が、特に地上から10数Km以上の高々度で低動圧の運用時に強調される。
【0027】
実施の形態6.
図10は本発明の実施の形態6による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、ゲイン変更器22は、機体の飛行状況に応じて、迎角による横力加速度発生量と前翼、後翼揚力の並進力による横力加速度発生量の重み付けを変更するよう、制御器A、制御器B、制御器Cのゲインを調節する。
【0028】
この構成によれば、制御器のゲインを、目標物との距離等の運用状況に応じて可変にすることにより、例えば会合までに10数秒程度の時間的余裕のある時には、概略、会合経路にのせるためのバイアス的な経路変更が必要であり、交流的な経路変更は不要であるので、制御信号のうち、経路変更に対応する時間変化率の速い成分を軽視することにより無駄な横力加速度の発生を抑制することが可能となり、上記実施の形態1〜4と同様の効果が得られるとともに、無駄な操舵に伴う空気抵抗による減速も抑えられる。
【0029】
実施の形態1〜6では回転運動と並進運動を分離し、操舵量を合成する機能を持つオートパイロットで複数の制御器を用いた構成としているが、単一制御器を時分割で動作させることでも同様の効果が得られる。
【0030】
実施の形態7.
図11は、本発明の実施の形態7による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示すブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、横力加速度指令値と横力加速度の差である横力加速度の制御誤差信号を入力とし、分離器14においてそれを低い周波数成分と高い周波数成分に分けて出力する。低い周波数成分の出力は制御器A12に入力され、迎角を取るための機体角速度指令値が計算される。高い周波数成分の出力は制御器C17に入力され、機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令が計算される。この機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令は更に分離器A23に入力され、分離器Aにおいて、それを低い周波数成分と高い周波数成分に分けて出力する。出力された翼操舵量指令値のうち低い周波数成分の出力は、そのまま並進のための翼操舵量指令値として合成器16に入力され,高い周波数成分の出力は、制御器E24に入力される。制御器Eは、翼操舵量指令値を等価な横力加速度を発生させる姿勢制御指令値の1つであるサイドスラスタ噴射量指令値に変換してサイドスラスタ(サイドスラスタとは機体の横方向(機体長軸の垂直方向)に推力を発生する機体の姿勢制御手段の1つである)25に出力する。
【0031】
この構成によれば、並進のための翼操舵量指令値のうちの高い周波数成分を、翼操舵による揚力に代えてサイドスラスタによる推力で発生させることにより、特に空力操舵が充分に働かない高々度(おおよそ高度10数km以上)において横力加速度を指令値により忠実に実現することが可能となり、誘導精度の劣化を低減することができる。
【0032】
以上の実施の形態においては前翼と後翼を独立に操舵するように構成したが、上記のサイドスラスタを用いて、前翼とサイドスラスタ、サイドスラスタと後翼、前サイドスラスタと後サイドスラスタ等の構成としても同様の効果が得られる。また、機体の角速度センサとしては、レートジャイロを代表例として示したが、これに関わらず、角速度を検出するガスレートセンサなど他のセンサでも同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0033】
実施の形態1〜7では分離器をLPFやHPFや移動平均演算器を用いて構成したが、分離器への入力信号を時間変化率の速い成分と遅い成分に分離する機能を有するフィルタ(例えばカルマンフィルタなど)で有れば、同様の効果が得られる。
【0034】
また、実施の形態1〜7ではオートパイロットの入力として横力加速度指令値を用いているが、横力加速度を機体の飛行速度で除した経路角時間変化率を指令値およびフィードバック信号に用いても同様の効果が得られる。ここで、経路角とは、機体姿勢角と迎角の差で規定される量である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】目視線方向の説明図。
【図2】実施の形態1を示す飛翔体の制御装置を示す全体ブロック図。
【図3】迎角による横力加速度の説明図。
【図4】揚力による横力加速度の説明図。
【図5】実施の形態1を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図6】実施の形態2を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図7】実施の形態3を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図8】実施の形態4を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図9】実施の形態5を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図10】実施の形態6を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図11】実施の形態7を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【符号の説明】
【0036】
3 アンテナ、4 信号処理装置、5 レドームエラースロープ補正装置、6 誘導信号計算装置、7 レートジャイロ、8 横力加速度センサ、9 オートパイロット、10 前翼アクチュエータ、11 後翼アクチュエータ、14 分離器、21 分離閾値変更器、22 ゲイン変更器、23 分離器A、25 サイドスラスタ
【技術分野】
【0001】
本発明は飛翔体、特に電波誘導式飛翔体およびその誘導制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、飛翔体の誘導においては、速度ベクトルに対する飛翔体の機体姿勢を変更して迎角を取ることにより発生させた揚力により速度ベクトルに垂直な方向の横力加速度を発生させることにより、この速度ベクトルの方向を変更し、目標物との会合を実現する。特に、電波誘導式飛翔体では、機体前部に目標物を検知するアンテナを備えているが、アンテナは飛行による風圧を避けるために、レドームと称する尖塔型のセラミック製のカバーで覆われている。目標物からの電波はレドームを透過後、アンテナで受信され機体から目標物への屈折誤差の有る目視線方向(目視線とは、機体から目標物への方向を示すベクトルであり、目視線方向とは、一般的にはセンサ(ここではアンテナ)中心と目標を結ぶ線を意味する)および目標物との接近速度が信号処理装置で検出される。
【0003】
次に、レドームエラースロープ補正装置では、上記レドーム屈折角誤差を補正し、屈折誤差有りの目視線方向から屈折誤差補正済の目視線方向を導き出す。この装置では、レドームエラースロープを事前に取得したテーブル数値データを用いて、屈折角誤差を補正している。誘導信号計算装置では、このレドームエラースロープ補正装置からの屈折誤差補正済目視線方向の時間変化率(回転角速度)を算出し、信号処理装置で検出した接近速度を用いて、例えば比例航法と言った誘導則に基づいて、誘導信号と呼ばれる横力加速度指令値を次式(1)により計算し出力する。
横力加速度指令値=航法定数×接近速度×目視線回転角速度…(1)
この横力加速度指令値は、オーロパイロットに入力され、時々刻々、横力加速度センサで検出される機体の横力加速度と、レートジャイロで検出される機体角速度とをフィードバック信号として用いて、迎角を取るための操舵量がこのオーロパイロットで計算され、該操舵量が翼アクチュエータに入力されることにより機体の操舵翼は動き、誘導則で計算した所望の横力加速度が発生されるようになっている(例えば非特許文献1、2参照)。
【0004】
【非特許文献1】社団法人 日本航空宇宙学会編「航空宇宙工学便覧(第2版)」、1992年9月30日、p.730、図B7.15
【非特許文献2】Paul Zarchan著「Tactical and Strategic Missile Guidance」2nd Edition、ISBN1−56347−077−2、1994年、p.26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のレドームは、設計製造上の制約から、厚みが均一で、かつ充分滑らかなものにすることはできず、運用時には風圧による変形や空力加熱による変形も生じるため、レドーム屈折角誤差と呼ばれる目標位置からの電波の位置誤差は、飛行条件で様々に変化する。この電波的歪みは、レドームエラースロープと呼ばれる。これは、歪んだ眼鏡を通して物を見たときのような状態に相当し、この歪により、真の目視線方向は見かけの目視線方向とは異なったものとなり、誘導誤差を生ずる要因の1つとなる。
【0006】
実際の飛翔体の制御装置では、事前に地上設備を用いてレドームエラースロープを示すテーブル数値データ、すなわちアンテナから目標物への見かけの目視線方向と真の目視線方向から決まるレドーム屈折角誤差のテーブル数値データを作成しておき、機体の飛行中には、アンテナで得られた見かけの目視線方向からテーブル数値データを用いてレドーム屈折角の誤差分を補正し、より真値に近い目視線方向を得るようにしている。
【0007】
このとき横力加速度指令値を求めるために利用される目視線回転角速度に関しては、以下の課題がある。すなわち、比例航法による横力加速度指令値計算に必要となる検出信号のうち、接近速度は受信電波の信号処理で精度良く計測することが可能であるが、受信電波はレドーム透過による屈折により曲がり、見かけの目視線には真の目視線に対して方向誤差が含まれる。目視線回転角速度はその時間変化率であるから、例えば機体が角速度を有した状態で電波を受信する場合には、受信電波は時々刻々レドームの異なる部位を透過して受信され、目視線回転角速度はレドームエラースロープにより誤差を含むことになる。目視線回転角速度が検出誤差を含めば、誘導則を通して横力加速度指令値にも誤差を生じ、結果として飛翔体の誘導精度が劣化する。
【0008】
また、機体は計算された誤差を含む横力加速度指令値を発生させるために迎角を取るが、機体姿勢変更のための角速度は上記の誤差を含む横力加速度指令値に従って発生されるので、レドームエラースロープによる目視線回転角速度の検出誤差は再帰的に影響を及ぼし、特に地上から10数Km以上の高々度においては、少なくとも機体とその制御装置を備えた飛翔体が誘導の安定性を失い、その機能を果たせなくなる可能性もある。
【0009】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、飛翔体の誘導精度の劣化を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る飛翔体は、
機体のレドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、
この目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と、前記目標物との接近速度信号とを入力し、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値とを入力し、機体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、
上記オートパイロットが、前記誘導信号指令値と前記機体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を前記姿勢制御手段に出力することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る飛翔体の誘導制御方法は、
機体のレドーム内に収納された目標物検出手段により、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出し、
前記目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と前記目標物との接近速度信号とから、機体を誘導するための誘導信号指令値を得、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値の差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離し、
分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与えて姿勢制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
飛翔体の制御装置であるオートパイロットにおいて、誘導信号指令値と機体運動検出センサである横力加速度センサ及びレートジャイロの検出値から計算した制御誤差信号(横力加速度指令値と横力加速度の差信号、または角速度指令値と角速度の差信号)を分離器により時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離し、遅い周波数成分は機体に迎角をとらせて横力加速度を発生させるための前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を計算する制御器へ、速い周波数成分は機体を並進させる横力加速度を発生させるための前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を計算する制御器へ入力し、合成器により前記前翼操舵量指令入力あるいは後翼操舵量指令入力を各々姿勢制御手段としての前翼アクチュエータあるいは後翼アクチュエータへの操舵量指令値として合成するように構成することで、機体の速い姿勢変化(角速度)を伴うことなく誘導に必要とされる横力加速度を発生させてレドームエラースロープの影響を受け難くし、飛翔体の誘導精度劣化や不安定化の可能性を低減できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の各実施の形態を図に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、本発明の飛翔体において、発明の発端である電波的歪みによる目視線方向の誤差を図1に基づいて説明する。この図において、受信電波が機体1のレドーム2のどの部位を透過したかにより、異なる屈折角で目標物検出手段としてのアンテナ3に到達することになる。この図に示すように、目標物からの電波はレドームにより屈折し(図中、「屈折した目視線方向」と記したものが該当)、見かけの目視線方向として受信され、真の目視線方向とは異なるものとなり、誤差を生ずる。この目標位置からの電波の位置誤差であるレドーム屈折角誤差の詳細を次に説明する。図に示すように、レドーム屈折角誤差εRとは、目標Ttからの電波がレドームを透過してアンテナで検知される時に、アンテナ方向、すなわち、アンテナからの見かけの目標であるTaの目視線方向と、電波のレドーム透過点からの目標であるTtの方向とのなす角のことである。また、レドームエラースロープとは、アンテナから見かけの目標Taへの目視線と機体X軸とのなす角をθとすると、レドーム屈折角誤差εRのθに対する変化率であるdεR/dθのことである。特に、このレドームエラースロープによる目視線回転角速度の検出誤差は、上述のように、再帰的に影響を及ぼすため、飛翔体を精度よく誘導するためには、この検出誤差を補正する必要がある。
【0014】
そこで、上記の誤差を補正して飛翔体の目標物への誘導精度をより高度なものとするため必要となった、飛翔体の具体例について以下に順に説明する。
図2は本発明の実施の形態1による飛翔体の制御装置を示す全体ブロック図である。目標物検出手段であるアンテナ3で目標物からの反射波を受信し、信号処理装置4で機体と目標物との接近速度および機体から目標物への屈折誤差のある見かけの目視線方向を検出する。次に、レドームエラースロープ補正装置5でこの見かけの目視線方向から、レドームエラースロープを事前に取得したテーブル数値データを用いて屈折誤差を補正した補正後目視線方向を得る。誘導信号計算装置6では、レドームエラースロープ補正装置5で得た補正後目視線方向の時間変化率(回転角速度)を算出し、信号処理装置4からの接近速度を用いて、例えば比例航法と言った誘導則に基づいて誘導信号指令値としての横力加速度指令値を計算出力する。出力された横力加速度指令値は、機体の回転運動と並進運動を分離する機能を持つオートパイロット9に入力され、時々刻々、例えばレートジャイロ7などの機体運動検出センサとしての角速度検出センサで検出される機体角速度と、同じく機体運動検出センサとしての横力加速度センサ8で検出される機体の横力加速度とを、フィードバック信号として用いて姿勢制御指令値である前翼操舵量指令値と後翼操舵量指令値とを計算し、それぞれ姿勢制御手段としての前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11へ出力する。また、図3には、迎角を取ることによる機体に発生する横力加速度の様子を、図4には、機体を並進させる前翼の揚力、後翼の揚力による横力加速度発生の様子を示す。これらの図中、機体中央部の白黒の斑をなす丸記号は重心位置を示し、横力加速度(図示せず)は、図3では揚力方向から迎角分だけ後翼側に傾いた方向、図4では揚力方向と同方向に働いている。なお図3では前翼、後翼とも操舵する場合を描いているが、前翼または後翼のみの操舵でも迎角を取ることが可能である。
【0015】
図5は本発明の実施の形態1による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で、この制御誤差信号をローパスフィルタ15を用いて時間変化の遅い周波数成分と時間変化の速い周波数成分に分離する。制御器A12では、上記制御誤差信号のうち時間変化の遅い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な、迎角を取るための機体角速度指令値を計算出力する。制御器B13では、機体角速度指令値と例えばレートジャイロ7からの機体角速度との誤差信号を入力として迎角を取るための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は逆相)を計算出力する。制御器C17では横力加速度の制御誤差信号のうち、時間変化の速い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な、機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は同相)を計算出力する。迎角を取るための翼操舵量指令入力と機体を並進させるための翼操舵量指令入力は合成器16に入力されて合成されるとともに、姿勢制御手段である前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11に、姿勢制御指令値であるそれぞれの操舵量指令値が出力され、機体1の前後翼が動作する。
【0016】
この構成によれば、信号帯域を制限するためのローパスフィルタ(以下LPFと略す。)15を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。遅い周波数成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い周波数成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(過大な機体の回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0017】
なお、上記では、電波によって目標物を検出する方法について述べたが、目標物を検出する方法はこのような電波センサの場合だけに限らず、赤外線センサなど、目標物検出手段として光学センサを用いる場合も同様の議論が成り立つ。ただし、光学センサを用いる場合には、レドームのうち、少なくとも目視線方向の対応する部分が光学的に透明である必要がある。
【0018】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。図5に示した実施の形態1とほぼ同じ構成であるが、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14でこの制御誤差信号をハイパスフィルタ(以下HPFと略す。)18を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する点が異なっている。
【0019】
この構成によれば、HPF18を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離し、遅い成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0020】
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。図5に示した実施の形態1とほぼ同じ構成であるが、誘導信号計算装置4からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で制御誤差信号をLPFの代替となり、ディジタル信号処理が容易な移動平均演算器19を用いて、時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する点が異なっている。
【0021】
この構成によれば、移動平均演算器19を用いた分離器14で、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。遅い周波数成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い周波数成分は制御器C17を介して機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで、機体の速い姿勢変化(回転角速度)を抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0022】
実施の形態4.
図8は本発明の実施の形態4による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの出力である横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの出力である横力加速度との誤差信号を計算し、これを入力として制御器A12で機体角速度指令値を計算出力する。この機体角速度指令値と例えばレートジャイロ7からの機体角速度との制御誤差信号を分離器14でHPF18を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。制御器B13では、制御誤差信号のうち時間変化の遅い周波数成分の横力加速度指令値を実現するのに必要な迎角を取るための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令値は逆相)を計算出力する。制御器D20では、角速度指令値と角速度の差を入力とする分離器の出力である制御誤差信号のうち、横力加速度指令値の時間変化の速い周波数成分に基づき、機体に並進横力加速度を発生させるための翼操舵量指令入力(概略、前翼と後翼とで操舵量指令出力は同相)を計算出力する。迎角を取るための翼操舵量指令入力と機体並進加速度を発生させるための翼操舵量指令入力は合成器16に入力されて合成されるとともに、前翼アクチュエータ10と後翼アクチュエータ11にそれぞれの操舵量指令値が出力され、機体1の前後翼が動作する。
【0023】
この構成によれば、HPF18を用いた分離器14で、制御器A12からの機体角速度指令値とレートジャイロ7からの機体角速度との制御誤差信号を時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離できる。従って、角速度の高周波数成分を並進による操舵角に変換し、遅い成分は機体が迎角を取ることによる横力加速度発生に、速い成分は機体を並進させることによる横力加速度発生に振り分けることで機体の速い姿勢変化(回転角速度)をより確実に抑制し、レドームエラースロープによる誘導精度の劣化や不安定化を低減することができる。
【0024】
以上のように実施の形態1〜4では、飛翔体に構成した制御装置により、制御誤差信号の時間変化率の速い成分に対応する横力加速度が並進加速度として実現されるため、時間変化率の速い機体回転を伴わず、レドームエラースロープの影響による誘導精度の劣化や不安定化が低減される効果がある。
【0025】
実施の形態5.
図9は本発明の実施の形態5による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、誘導信号計算装置6からの横力加速度指令値と横力加速度センサ8からの横力加速度との制御誤差信号を計算し、分離器14で制御誤差信号をローパスフィルタ15を用いて時間変化の遅い周波数成分と速い周波数成分に分離する。分離閾値(ここでは、制御誤差信号の時間変化の速い周波数成分と遅い周波数成分とを分離する時のクロスオーバー周波数を意味する)変更器21は機体の飛行状況に応じて分離器14のローパスフィルタ15の帯域、すなわち横力加速度の制御誤差信号の分離特性を変更する。
【0026】
この構成によれば、分離器14の分離閾値を、機体の飛行高度や動圧等の運用状況に応じて可変にすることにより、例えば空力的効果の弱い高々度に上昇するに従い閾値を低くして横力加速度の発生に並進力を多用するような調節が可能となり、大きな姿勢変化を避けることができるため、上記実施の形態1〜4と同様の効果が、特に地上から10数Km以上の高々度で低動圧の運用時に強調される。
【0027】
実施の形態6.
図10は本発明の実施の形態6による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示す部分ブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、ゲイン変更器22は、機体の飛行状況に応じて、迎角による横力加速度発生量と前翼、後翼揚力の並進力による横力加速度発生量の重み付けを変更するよう、制御器A、制御器B、制御器Cのゲインを調節する。
【0028】
この構成によれば、制御器のゲインを、目標物との距離等の運用状況に応じて可変にすることにより、例えば会合までに10数秒程度の時間的余裕のある時には、概略、会合経路にのせるためのバイアス的な経路変更が必要であり、交流的な経路変更は不要であるので、制御信号のうち、経路変更に対応する時間変化率の速い成分を軽視することにより無駄な横力加速度の発生を抑制することが可能となり、上記実施の形態1〜4と同様の効果が得られるとともに、無駄な操舵に伴う空気抵抗による減速も抑えられる。
【0029】
実施の形態1〜6では回転運動と並進運動を分離し、操舵量を合成する機能を持つオートパイロットで複数の制御器を用いた構成としているが、単一制御器を時分割で動作させることでも同様の効果が得られる。
【0030】
実施の形態7.
図11は、本発明の実施の形態7による飛翔体の制御装置のオートパイロット9の詳細とその周辺部を示すブロック図である。当該オートパイロット9の内部では、横力加速度指令値と横力加速度の差である横力加速度の制御誤差信号を入力とし、分離器14においてそれを低い周波数成分と高い周波数成分に分けて出力する。低い周波数成分の出力は制御器A12に入力され、迎角を取るための機体角速度指令値が計算される。高い周波数成分の出力は制御器C17に入力され、機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令が計算される。この機体を並進させる横力加速度を発生させるための翼操舵量指令は更に分離器A23に入力され、分離器Aにおいて、それを低い周波数成分と高い周波数成分に分けて出力する。出力された翼操舵量指令値のうち低い周波数成分の出力は、そのまま並進のための翼操舵量指令値として合成器16に入力され,高い周波数成分の出力は、制御器E24に入力される。制御器Eは、翼操舵量指令値を等価な横力加速度を発生させる姿勢制御指令値の1つであるサイドスラスタ噴射量指令値に変換してサイドスラスタ(サイドスラスタとは機体の横方向(機体長軸の垂直方向)に推力を発生する機体の姿勢制御手段の1つである)25に出力する。
【0031】
この構成によれば、並進のための翼操舵量指令値のうちの高い周波数成分を、翼操舵による揚力に代えてサイドスラスタによる推力で発生させることにより、特に空力操舵が充分に働かない高々度(おおよそ高度10数km以上)において横力加速度を指令値により忠実に実現することが可能となり、誘導精度の劣化を低減することができる。
【0032】
以上の実施の形態においては前翼と後翼を独立に操舵するように構成したが、上記のサイドスラスタを用いて、前翼とサイドスラスタ、サイドスラスタと後翼、前サイドスラスタと後サイドスラスタ等の構成としても同様の効果が得られる。また、機体の角速度センサとしては、レートジャイロを代表例として示したが、これに関わらず、角速度を検出するガスレートセンサなど他のセンサでも同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0033】
実施の形態1〜7では分離器をLPFやHPFや移動平均演算器を用いて構成したが、分離器への入力信号を時間変化率の速い成分と遅い成分に分離する機能を有するフィルタ(例えばカルマンフィルタなど)で有れば、同様の効果が得られる。
【0034】
また、実施の形態1〜7ではオートパイロットの入力として横力加速度指令値を用いているが、横力加速度を機体の飛行速度で除した経路角時間変化率を指令値およびフィードバック信号に用いても同様の効果が得られる。ここで、経路角とは、機体姿勢角と迎角の差で規定される量である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】目視線方向の説明図。
【図2】実施の形態1を示す飛翔体の制御装置を示す全体ブロック図。
【図3】迎角による横力加速度の説明図。
【図4】揚力による横力加速度の説明図。
【図5】実施の形態1を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図6】実施の形態2を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図7】実施の形態3を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図8】実施の形態4を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図9】実施の形態5を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図10】実施の形態6を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【図11】実施の形態7を示す飛翔体制御装置のオートパイロットの詳細とその周辺部の部分ブロック図。
【符号の説明】
【0036】
3 アンテナ、4 信号処理装置、5 レドームエラースロープ補正装置、6 誘導信号計算装置、7 レートジャイロ、8 横力加速度センサ、9 オートパイロット、10 前翼アクチュエータ、11 後翼アクチュエータ、14 分離器、21 分離閾値変更器、22 ゲイン変更器、23 分離器A、25 サイドスラスタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体のレドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、
この目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と、前記目標物との接近速度信号とを入力し、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値とを入力し、機体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、
上記オートパイロットが、前記誘導信号指令値と前記機体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を前記姿勢制御手段に出力することを特徴とする飛翔体。
【請求項2】
目標物検出手段は、電波センサであるアンテナ又は光学センサであり、機体運動検出センサは、横力加速度センサ又は角速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項3】
オートパイロットは、機体の姿勢変化に応じて、前記制御誤差信号の時間変化率の大小による分離閾値を変更する分離閾値変更器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項4】
オートパイロットは、機体の姿勢変化に応じて、前記制御器のゲインを変更するゲイン変更器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項5】
姿勢制御手段はサイドスラスタを含むものであって、前記オートパイロットは、前記分離器によって分離された周波数成分のうちの高周波成分をさらに複数の周波数に分離する第2の分離器を備えるとともに、当該第2の分離器によって分離された周波数成分のうちの高周波成分が前記サイドスラスタに入力されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の飛翔体。
【請求項6】
機体のレドーム内に収納された目標物検出手段により、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出し、
前記目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と前記目標物との接近速度信号とから、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を得、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値の差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離し、
分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与えて姿勢制御することを特徴とする飛翔体の誘導制御方法。
【請求項1】
機体のレドーム内に収納され、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出する目標物検出手段と、
この目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と、前記目標物との接近速度信号とを入力し、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を出力する誘導信号計算装置と、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値とを入力し、機体の姿勢を制御する姿勢制御手段に姿勢制御指令値を与えるオートパイロットとを備えたものにおいて、
上記オートパイロットが、前記誘導信号指令値と前記機体運動検出センサの検出値との差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離する分離器を備え、該分離器で分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与える姿勢制御指令値を前記姿勢制御手段に出力することを特徴とする飛翔体。
【請求項2】
目標物検出手段は、電波センサであるアンテナ又は光学センサであり、機体運動検出センサは、横力加速度センサ又は角速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項3】
オートパイロットは、機体の姿勢変化に応じて、前記制御誤差信号の時間変化率の大小による分離閾値を変更する分離閾値変更器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項4】
オートパイロットは、機体の姿勢変化に応じて、前記制御器のゲインを変更するゲイン変更器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の飛翔体。
【請求項5】
姿勢制御手段はサイドスラスタを含むものであって、前記オートパイロットは、前記分離器によって分離された周波数成分のうちの高周波成分をさらに複数の周波数に分離する第2の分離器を備えるとともに、当該第2の分離器によって分離された周波数成分のうちの高周波成分が前記サイドスラスタに入力されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の飛翔体。
【請求項6】
機体のレドーム内に収納された目標物検出手段により、このレドーム外にある目標物の見かけの目視線方向を検出し、
前記目標物検出手段からの出力を補正して得た補正後目視線方向信号と前記目標物との接近速度信号とから、前記機体を誘導するための誘導信号指令値を得、
前記誘導信号指令値と機体運動検出センサの検出値の差である制御誤差信号を複数の周波数成分信号に分離し、
分離された各信号に対応して機体に回転又は並進運動を与えて姿勢制御することを特徴とする飛翔体の誘導制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−10260(P2006−10260A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190043(P2004−190043)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]