説明

駆動制御装置

【課題】駆動制御装置において、より適切に慣性走行することを可能とする。
【解決手段】駆動制御装置(100)は、車両(1)の動力源(10)で発生した回転動力を車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、回転動力を駆動輪に伝達せず前記車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方の状態からいずれか他方の状態へ切り替え可能な切り替え手段(23等)と、駆動輪の駆動を制動する制動力を駆動輪に対して付与する制動力付与手段(29等)と、運転者による車両の加速指示に応じて、いずれか一方の状態からいずれか他方の状態への切り替えを行う場合、切り替えの際の駆動輪の駆動力の変化を小さくさせる所定の制動力を付与するように制動力付与手段を制御する制御手段(42、43等)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両の駆動制御装置に関し、特に、車両が慣性走行している際の駆動制御を行う駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動制御装置として、例えば特許文献1等には、車両の速度が上限値を超えた場合、エンジンから車輪への駆動力の伝達を切断して車両の速度が下限値を下るまで慣性走行を実施する装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−278429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、慣性走行の最中に、運転者の指示によって車両を加速する場合、エンジンから車輪へ伝達される駆動力に起因して、運転者の指示に応じた加速度と実際の加速度とがかけ離れてしまい、運転者が運転操作上の違和感を感じる可能性があるという技術的な問題点が生じる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、より適切に慣性走行することが可能な駆動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の駆動制御装置は、車両の動力源で発生した回転動力を前記車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、前記回転動力を前記駆動輪に伝達せず前記車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方の状態からいずれか他方の状態へ切り替え可能な切り替え手段と、前記駆動輪の駆動を制動する制動力を前記駆動輪に対して付与する制動力付与手段と、運転者による前記車両の加速指示に応じて、前記いずれか一方の状態から前記いずれか他方の状態への切り替えを行う場合、前記切り替えの際の前記駆動輪の駆動力の変化を小さくさせる所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明に係る車両の駆動制御装置によれば、例えばクラッチ等を備えて構成可能な切り替え手段によって、車両の動力源で発生した回転動力を車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、回転動力を駆動輪に伝達せず車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方の状態からいずれか他方の状態へ切り替えられる。
【0008】
本発明に係る伝達状態とは、典型的には、車両の動力源としてのエンジンで発生した回転動力が、例えばクラッチが係合されることにより、車両の駆動輪に伝達している状態を意味する。本発明に係る非伝達状態とは、典型的には、エンジンで発生した回転動力が、例えばクラッチの係合が解放されることにより、車両の駆動輪に伝達されず、車両が慣性走行している状態を意味する。
【0009】
例えばリターダ等を備えて構成可能な制動力付与手段によって、駆動輪の駆動を制動する制動力が駆動輪に対して付与される。ここに、本発明に係る「駆動輪に対して」とは、駆動輪に直接的に付与してよいし、駆動輪の駆動軸を介して、駆動輪に間接的に付与してよい。要は、駆動輪の駆動を実質的に制動し、駆動輪の駆動力を変化させる限りにおいてその態様は問わない。
【0010】
特に、本発明によれば、運転者による車両の加速指示に応じて、いずれか一方の状態からいずれか他方の状態への切り替えを行う場合、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な制御手段の制御下で、運転者による車両の加速指示に基づいて、いずれか一方からいずれか他方へ切り替える場合、制動力付与手段によって、切り替えの際の駆動輪の駆動力の変化を小さくさせる所定の制動力が付与される。
【0011】
これにより、上述した伝達状態及び非伝達状態のうちいずれか一方の状態からいずれか他方の状態へ切り替える際に、例えば車両の加速度等の車両の走行速度の変化の度合いを低減させることができる。これにより、車両の運転者は、車両の慣性走行を開始したタイミング及び車両の慣性走行を終了したタイミングに、上述した切り替えに伴う走行ショックを体感する度合いを低減することが可能である。これにより、上述した切り替えの際に、運転者が感じる運転上の違和感を低減させることができ、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0012】
本発明に係る車両の駆動制御装置の一態様は、前記制御手段は、前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に、前記伝達状態における前記駆動輪の第1駆動力が前記非伝達状態における前記駆動輪の第2駆動力よりも小さくなる場合、前記非伝達状態において前記所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御する。
【0013】
この態様によれば、非伝達状態において所定の制動力が付与されることにより、非伝達状態から伝達状態へ実際に切り替える際に、第2駆動力の大きさを第1駆動力の大きさに近付けることができる。これにより、運転者による車両の加速指示に応じた非伝達状態から伝達状態への切り替えに伴って、車両の走行速度が減速する度合いを低減させることができる。これにより、車両の運転者は、非伝達状態から伝達状態への切り替えに伴う走行ショックを体感する度合いを低減することが可能である。これにより、非伝達状態から伝達状態への切り替えの際に、運転者が感じる運転上の違和感を低減させることができ、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0014】
本発明に係る車両の駆動制御装置の他の態様は、前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に、前記伝達状態における前記駆動輪の第1駆動力が前記非伝達状態における前記駆動輪の第2駆動力よりも小さくなるか否かを判定する判定手段を更に備え、前記制御手段は、前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に前記第1駆動力が前記第2駆動力よりも小さくなると判定される場合、前記非伝達状態において前記所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御する。
【0015】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な判定手段によって、非伝達状態から伝達状態へ切り替える際に、伝達状態における駆動輪の第1駆動力が非伝達状態における駆動輪の第2駆動力よりも小さくなるか否かが判定される。ここに、本発明に係る「判定」とは、典型的には、伝達状態における第1駆動力を示す何らかの物理量やパラメータの所定範囲と、非伝達状態における第2駆動力を示す何らかの物理量やパラメータの所定範囲とを比較し、第1駆動力と第2駆動力との大小関係を決定することを意味する。
【0016】
上述した判定手段によって、非伝達状態から伝達状態へ切り替える際に第1駆動力が第2駆動力よりも小さくなると判定される場合、制御手段の制御下で、制動力付与手段によって、非伝達状態において所定の制動力が付与される。これにより、非伝達状態から伝達状態へ実際に切り替える際に、第2駆動力の大きさを第1駆動力の大きさに近付けることができる。これにより、運転者による車両の加速指示に応じた非伝達状態から伝達状態への切り替えに伴って、車両の走行速度が減速する度合いを低減させることができる。これにより、車両の運転者は、非伝達状態から伝達状態への切り替えに伴う走行ショックを体感する度合いを低減することが可能である。これにより、非伝達状態から伝達状態への切り替えの際に、運転者が感じる運転上の違和感を低減させることができ、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0017】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る駆動制御装置における動作の流れを示したフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る、伝達状態における第1駆動力、及び、慣性走行における第2駆動力が走行速度に応じて変化する様子を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0020】
(実施形態)
(基本構成)
本発明に係る駆動制御装置の第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0021】
先ず、本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係のある部材のみ図示しており、他の部材については図示を省略している。
【0022】
図1において、車両1は、エンジン10、自動変速機20、エンジンECU(Electronic Control Unit)41、トランスミッションECU42、慣性走行制御用ECU43、及び、バッテリーECU44を備えて構成されている。
【0023】
エンジン10は、該エンジン10の始動時に、該エンジン10をクランキングするためのスタータモータ11と、エンジン10のクランクシャフトの回転に連動して回転するオルタネータ12と、を有している。
【0024】
自動変速機20は、無段変速機21、前後進クラッチ22、エンジン切り離しクラッチ23、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ24、機械式オイルポンプ25(以降、適宜“メカポンプ”と称する)、電動式オイルポンプ26、オルタネータ27、伝達軸28及びリターダー29(又はリターダ29)を有している。
【0025】
無段変速機21の入力軸は、伝達軸28を介して、前後進クラッチ22に連結されている。他方、無段変速機2の出力軸は、デファレンシャル31及びドライブシャフト32を介して駆動輪33a及び33bに連結されている。前後進クラッチ22は、その締結状態により、無段変速機21の入力軸の回転方向を制御する。
【0026】
エンジン切り離しクラッチ23は、図1に示すように、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間に配置され、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達を切断可能に構成されている。尚、このエンジン切り離しクラッチ23によって、本発明に係る切り替え手段の一例が構成されている。
【0027】
トルクコンバータ24は、ロックアップクラッチ、ポンプインペラ、タービンライナ及びステータを備えて構成されている。ロックアップクラッチは、トルクコンバータカバー(以降、適宜「トルコンカバー」と称す)及びロックアップピストンにより構成されている。
【0028】
トルクコンバータ24の入力軸は、トルコンカバーを介してポンプインペラに接続されている。他方、トルクコンバータ24の出力軸は、ロックアップピストン及びタービンライナに接続されている。ステータは、ワンウェイクラッチを有し、トルク増幅機能を有する。ロックアップクラッチの係合及び解放は、トルクコンバータ24に供給されるオイルの油圧により制御される。尚、トルクコンバータ24の出力軸の回転数は、タービン回転数と一致する。特に、本実施形態において、「ポンプインペラ」及び「トルコンカバー」を、それらの機能に着目して「入力側回転体」と総称する。加えて、本実施形態において、「ロックアップピストン」及び「タービンインペラ」を、それらの機能に着目して「出力側回転体」と総称する。
【0029】
特に、ロックアップクラッチの係合及び解放は、メカポンプ25又は電動式オイルポンプ26によってトルクコンバータ24に供給されるオイルの油圧(具体的には、解放側油室及び係合側油室の各々に供給されるオイルの油圧)により制御される。
【0030】
メカポンプ25は、トルクコンバータ24の入力側回転体の回転により油圧を発生させる。より具体的には、メカポンプ25は、連結部材を介して、トルクコンバータ24のポンプインペラに接続され、トロコイド型の外歯を有するインナロータと、該外歯と係合する内歯を有するアウタロータとを備えるトロコイド式のオイルポンプである。トルクコンバータ24のポンプインペラの回転に伴ってインナロータが回転駆動されると、内歯と外歯とが係合しているので、アウタロータも回転し、両ロータの回転に起因して油圧が発生される。
【0031】
電動式オイルポンプ26は、トランスミッションECU42から出力される信号に応じて、油圧を発生させる。オルタネータ27は、無段変速機21の入力軸の回転と連動して回転する。
【0032】
リターダー29は、典型的には、渦電流(eddy current)ブレーキであり、慣性走行制御用ECU43の制御下で、例えば無段変速機2の出力軸において、渦電流を発生させ、駆動輪の駆動を制動可能な装置である。尚、このリターダー29によって、本発明に係る制動力付与手段の一例が構成されている。
【0033】
尚、自動変速機20は、無段変速機21に代えて、例えば、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)等を有していてもよい。
【0034】
エンジンECU41は、エンジン10の駆動状態を制御する。トランスミッションECU42は、自動変速機20を制御する。慣性走行制御用ECU43は、車両1の慣性走行を許可するか否か判定すると共に、エンジンECU41及びトランスミッションECU42に対して、車両1の慣性走行を許可するか否かを示す信号を送信する。
【0035】
バッテリーECU44は、バッテリー(図示せず)の状態(例えば、充電率、温度等)を監視すると共に、監視結果を示す信号を慣性走行制御用ECU43に送信する。
【0036】
駆動制御装置100は、自動変速機20、エンジン切り離しクラッチ23、メカポンプ25、電動式オイルポンプ26、トランスミッションECU42、慣性走行制御用ECU43を備えて構成されている。
【0037】
トランスミッションECU42は、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジン切り離しクラッチ23によりエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断された状態で車両1が走行する慣性走行へ移行する際に、トルクコンバータ24のロックアップピストン及びトルコンカバー(即ち、ロックアップクラッチ)が係合された状態で、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達を切断するようにエンジン切り離しクラッチ23を制御する。尚、上述したトランスミッションECU42及び慣性走行制御用ECU43によって、本発明に係る制御手段の一例が構成されている。また、上述した慣性走行制御用ECU43によって、本発明に係る判定手段の一例が構成されている。
【0038】
(駆動制御装置の動作原理)
次に、図2を参照して、第1実施形態に係る駆動制御装置100の動作原理について説明する。ここに、図2は、第1実施形態に係る駆動制御装置100における動作の流れを示したフローチャートである。尚、図2に示された駆動制御装置100における動作は、一定の周期で又は不定周期で、或いは連続して実行される。
【0039】
(制動力の付与)
図2に示されるように、先ず、慣性走行制御用ECU43の制御下で、車両1が慣性走行の最中であるか否かが判定される(ステップS101)。ここに、本実施形態に係る慣性走行とは、車両1がエンジン10の駆動力とは独立して、車両1の重量と車両1が有する運動エネルギーに起因した慣性力によって走行する状態を意味する。典型的には、慣性走行とは、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態における車両1の走行状態を意味する。
【0040】
上述したステップS101の判定の結果、車両1が慣性走行の最中であると判定される場合(ステップS101:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、運転者から車両1の走行速度の加速が要求されたか否かが判定される(ステップS102)。ここで、運転者から車両1の走行速度の加速が要求されたと判定される場合(ステップS102:Yes)、更に、燃料噴射中のエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態における車両1の第1駆動力F1が、慣性走行における車両1の第2駆動力F2より小さくなるか否かが判定される(ステップS103)。典型的には、現在の慣性走行から、燃料噴射が停止されていないエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態における走行へ移行した場合における第1駆動力F1が、現在の慣性走行における車両1の第2駆動力F2より小さくなるか否かが判定される。
【0041】
上述したステップS103の判定の結果、燃料噴射中のエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態における車両1の第1駆動力F1が、慣性走行における車両1の第2駆動力F2より小さくなると判定される場合(ステップS103:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、無段変速機21の入力軸の回転と連動して回転するオルタネータ27における回生量を増大させるように、オルタネータ27が制御される(ステップS104)。これにより、慣性走行における車両1に制動力、所謂、ブレーキ力を付与し、慣性走行における第2駆動力を低下させることができる。尚、このように回生量が増大されたオルタネータ27によって、本発明に係る制動力付与手段の一例が構成されている。
【0042】
このように、慣性走行中において車両1に所定の制動力が付与されることにより、慣性走行から、燃料噴射中のエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態での通常走行へ実際に切り替える際に、第2駆動力F2の大きさを第1駆動力F1の大きさに近付けることができる。これにより、運転者による車両の加速指示に応じた慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えに伴って、車両の走行速度が減速する度合いを低減させることができる。これにより、車両の運転者は、慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えに伴う走行ショックを体感する度合いを低減することが可能である。これにより、慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えの際に、運転者が感じる運転上の違和感を低減させることができ、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0043】
続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、上述した伝達状態における車両1の第1駆動力F1と、上述したステップS104によって低下された慣性走行での第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいか否かが判定される(ステップS105)。尚、この差ΔFは、次の式(10)によって示される。
【0044】
(差ΔF) = (第1駆動力F1) − (第2駆動力F2)
……… (10)
ここに、本実施形態に係る所定閾値F0とは、運転者にとって変化が感じられない加速度差の大きさを意味してよい。この所定閾値F0は、運転者にとって変化が感じられない加速度差を、実験的、理論的、経験的又はシミュレーション等によって、個別具体的に定義可能である。
【0045】
上述したステップS105の判定の結果、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいと判定されない場合、言い換えると、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より大きいと判定される場合(ステップS105:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、リターダー29によって、慣性走行における車両1に制動力、所謂、ブレーキ力が付与される(ステップS106)。これにより、慣性走行における第2駆動力を、更に低下させることができる。
【0046】
続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、上述した伝達状態における車両1の第1駆動力F1と、上述したステップS106によって低下された慣性走行での第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいか否かが判定される(ステップS107)。ここで、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいと判定されない場合、言い換えると、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より大きいと判定される場合(ステップS107:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、エンジン切り離しクラッチ23の締結が実施される(ステップS108)。典型的には、このエンジン切り離しクラッチ23の締結の実施の際には、エンジン10の回転速度に応じたクラッチ係合圧の制御が、通常のクラッチ係合圧より小さくさせて、実施されることが好ましい。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間で伝達される伝達力を変化させ、慣性走行における第2駆動力を低下させる度合いを高精度に変化させることができる。尚、このエンジン切り離しクラッチ23によって、本発明に係る制動力付与手段の一例が構成されている。
【0047】
このステップS108の後、一連の制御処理は終了される。
【0048】
他方、上述したステップS105の判定の結果、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいと判定される場合(ステップS105:Yes)、或いは、上述したステップS107の判定の結果、第1駆動力F1と第2駆動力F2との差ΔFが、所定閾値F0より小さいと判定される場合(ステップS107:Yes)、一連の制御処理は終了される。
【0049】
他方、上述したステップS102の判定の結果、運転者から車両1の走行速度の加速が要求されたと判定されない場合(ステップS102:No)、再度、ステップS102に戻る。
【0050】
(クリープ走行)
他方、上述したステップS101の判定の結果、車両1が慣性走行の最中であると判定されない場合(ステップS101:No)、或いは、上述したステップS103の判定の結果、燃料噴射中のエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態における車両1の第1駆動力F1が、慣性走行における車両1の第2駆動力F2より小さくなると判定されない場合(ステップS103:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、車両1において、クリープ走行すべき運転領域、所謂、クリープ走行領域か否かが判定される(ステップS109)。尚、このステップS109では、車両1において、クリープ走行領域であり、且つ、アイドリングが実施中であるか否かが判定されてよい。ここに、本実施形態に係るクリープ走行とは、エンジン10が、アイドリング状態で運転する際に出力する駆動力がトルクコンバータ24を介して駆動輪へ伝達し、車両1がゆっくりと動く走行状態を意味する。即ち、このクリープ走行においては、運転者によるアクセルの踏み込み無しに、車両1はゆっくりと動くことになる。
【0051】
上述したステップS109の判定の結果、車両1において、クリープ走行領域である場合(ステップS109:Yes)、更に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、運転者によって、ブレーキが掛けられているか否かが判定される(ステップS110)。尚、「ブレーキが掛けられていること」を、適宜「ブレーキがオン」と称す。このステップS110の判定の結果、運転者によって、ブレーキが掛けられていない、即ち、ブレーキがオンでないオフであると判定される場合(ステップS110:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオフにされる(ステップS111)。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態から、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態へ変化させることができる。
【0052】
続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、エンジン10は停止中であるか否かが判定される(ステップS112)。ここで、エンジン10が停止中であると判定された場合(ステップS112:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、エンジン10が始動される(ステップS113)。
【0053】
他方、上述したステップS112の判定の結果、エンジン10が停止中であると判定されない場合、言い換えると、エンジン10が停止中でない、即ち駆動状態であると判定される場合(ステップS112:No)、エンジン10を始動するステップS113は省略される。
【0054】
続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、エンジン切り離しクラッチ23の締結が実施される(ステップS114)。典型的には、このエンジン切り離しクラッチ23の締結が実施される場合、エンジンの回転速度に応じたクラッチ係合圧の制御が実施されることが好ましい。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸とを適切且つ確実に伝達可能に係合することができる。
【0055】
(慣性走行)
他方、上述したステップS109の判定の結果、車両1において、クリープ走行領域でない場合(ステップS109:No)、更に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、アイドリングが実施中であるか否かが判定される(ステップS115)。尚、このステップS115では、車両1において、通常の走行状態であり、且つ、アイドリングが実施中であるか否かが判定されてよい。
【0056】
このステップS115の判定の結果、アイドリングが実施中であると判定される場合(ステップS115:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンにされる(ステップS116)。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態から、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態へ変化させることができる。
【0057】
次に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、エンジン切り離しクラッチ23の解放が実施される(ステップS117)。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間で動力が伝達されない。
【0058】
典型的には、エンジン切り離しクラッチ23の解放が実施される際に、エンジンに燃料が供給されないフューエルカット状態である場合、エンジン10が停止してしまうので、電動式オイルポンプ26を始動することが好ましい。これにより、エンジンの停止に関わらず作動油を自動変速機20に供給することが可能である。
【0059】
他方、エンジン10に燃料が供給されないフューエルカット状態でない場合、エンジン切り離しクラッチ23の解放の後にエンジン10を停止してよい。典型的には、前後進クラッチ22によって、エンジン10と自動変速機20とを切り離す場合は、作動油の油圧が無くなってしまうので、電動式オイルポンプ26を起動することが好ましい。これにより、前後進クラッチ22による非伝達状態に関わらず作動油を自動変速機20に供給することが可能である。
【0060】
(第1駆動力と第2駆動力との大小関係)
次に、図3を参照して、本実施形態に係る、伝達状態における第1駆動力F1と、慣性走行における第2駆動力F2との大小関係について説明する。ここに、図3は、本実施形態に係る、伝達状態における第1駆動力F1、及び、慣性走行における第2駆動力F2が走行速度に応じて変化する様子を示したグラフである。尚、図3中の横軸は、走行速度を示し、図3中の縦軸は駆動力、所謂、トルクを示す。尚、縦軸のT0は基準となる所定の駆動力T0を示す。また、図3中の太い実線は、慣性走行における車両1の第2駆動力F2に対応し、細い実線は、アクセル開度が、例えば0.5%等の微小の開度である時の伝達状態における第1駆動力F1bに対応する。一点鎖線は、フューエルカットが実施されず、且つ、アイドリングが実施される時の伝達状態における第1駆動力F1aに対応し、太い点線は、フューエルカットが実施時の伝達状態における第1駆動力F1cに対応する。図3中の細い点線は、制動力付与後の慣性走行における車両1の第2駆動力F2に対応する。
【0061】
本願発明者による研究によれば、図3中の点P1に示されるように、走行速度がV1を超える場合、フューエルカットが実施されず、且つ、アイドリングが実施される時の伝達状態における第1駆動力F1aは、慣性走行における車両1の第2駆動力F2よりも小さくなることが判明している。
【0062】
概ね同様にして、図3中の点P2に示されるように、走行速度がV2を超える場合、アクセル開度が、例えば0.5%等の微小の開度である時の伝達状態における第1駆動力F1bは、慣性走行における車両1の第2駆動力F2よりも小さくなることが判明している。
【0063】
より具体的には、上述した第1駆動力F1a、及び、第1駆動力F1bは、次の式(1a)及び式(1b)で夫々示される。
【0064】
(第1駆動力F1a) =
[{(エンジントルク−ポンプ駆動トルク−補機トルク)×トルク比 − TM損失}
× 変速比 ×リダクションギヤ比 ×デフ比 /タイヤ半径 ] − 走行抵抗
……… (1a) 。
【0065】
概ね同様にして、
(第1駆動力F1b) =
[{(エンジントルク−ポンプ駆動トルク−補機トルク)×トルク比 − TM損失}
× 変速比 ×リダクションギヤ比 ×デフ比 /タイヤ半径 ] − 走行抵抗
……… (1b)
これに対して、慣性走行における車両1の第2駆動力F2は、次の式(2a)又は式(2b)で示される。尚、式(2a)は、所謂、C1クラッチによって、エンジンを切り離し、エンジンを停止する場合に対応し、式(2b)は、自動変速機20の入力側のエンジン10の最も近い位置においてクラッチを追加し、その追加されたクラッチによってエンジン10を切り離し、エンジンを停止する場合に対応する。
【0066】
(第2駆動力F2) =
{(− C1クラッチより力が伝達される下流側における自動変速機内部の機械損失
− 入力軸オルタ損失)
×変速比 ×リダクションギヤ比 ×デフ比 /タイヤ半径 } − 走行抵抗
……… (2a) 。
【0067】
或いは、
(第2駆動力F2) =
{(−ポンプ駆動トルク−補機トルク)×トルク比 − TM損失 −入力軸オルタ損失)
×変速比 ×リダクションギヤ比 ×デフ比 /タイヤ半径 } − 走行抵抗
……… (2b) 。
【0068】
尚、フューエルカットが実施時の伝達状態における第1駆動力F1cは、次の式(1c)で示される。
【0069】
(第1駆動力F1c) =
{(エンジンフリクショントルク−ポンプ駆動トルク−補機トルク)×トルク比
− TM損失) ×変速比 ×リダクションギヤ比 ×デフ比 /タイヤ半径 }
− 走行抵抗
……… (1c) 。
【0070】
このように、本実施形態では、車両1の走行速度に応じて、伝達状態における車両1の第1駆動力F1と、慣性走行における車両1の第2駆動力F2との大小関係が変化する。
【0071】
そこで、本実施形態では、上述したように、慣性走行中において車両1に所定の制動力が付与されることにより、慣性走行から、燃料噴射中のエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態での通常走行へ実際に切り替える際に、第2駆動力F2の大きさを第1駆動力F1の大きさに近付けることができる。これにより、運転者による車両の加速指示に応じた慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えに伴って、車両の走行速度が減速する度合いを低減させることができる。これにより、車両の運転者は、慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えに伴う走行ショックを体感する度合いを低減することが可能である。これにより、慣性走行から伝達状態での通常走行への切り替えの際に、運転者が感じる運転上の違和感を低減させることができ、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0072】
尚、本実施形態では、第2駆動力F2と当該第2駆動力F2より小さい第1駆動力F1とを近付けるために、第2駆動力F2を低下させる制御を行った。しかしながら、本発明はこの限りでなく、第2駆動力F2と当該第2駆動力F2より小さい第1駆動力F1とを近付けるために、第1駆動力F1を増加させる制御を行ってよい。具体的には、エンジン10の出力トルクを増加させるようにスロットル開度を変化させることにより、第1駆動力F1を増加させてよい。或いは、エンジン10の出力軸に連結された電動発電機の回転トルクを増加させ、出力トルクを増加させることにより、第1駆動力F1を増加させてよい。
【0073】
また、本実施形態では、制動力付与手段の一例として、リターダー、オルタネータの回生、又は、エンジン10の回転速度に応じたクラッチ係合圧の制御を行うエンジン切り離しクラッチ23の締結について説明したが、本発明はこの限りでなく、機構的又は電磁気的に制動力を付与可能な制動力付与装置を用いてよい。
【0074】
また、本実施形態では、エンジン切り離しクラッチ23によって、エンジン10の動力を駆動軸に伝達されなくさせたが、本発明はこの限りでなく、エンジン切り離しクラッチ23に代えて、前後進クラッチ22を解放することによって、エンジン10の動力を駆動軸に伝達されなくさせてよい。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば自動車等の車両の駆動制御装置に利用可能であり、特に、車両が慣性走行している際の駆動制御を行う駆動制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…車両、
10…エンジン、
20…自動変速機、
21…無段変速機、
22…前後進クラッチ、
23…エンジン切り離しクラッチ、
24…ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ、
25…メカポンプ、
26…電動式オイルポンプ、
29…リターダー
41…エンジンECU、
42…トランスミッションECU、
43…慣性走行制御用ECU
44…バッテリーECU
100…駆動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源で発生した回転動力を前記車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、前記回転動力を前記駆動輪に伝達せず前記車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方の状態からいずれか他方の状態へ切り替え可能な切り替え手段と、
前記駆動輪の駆動を制動する制動力を前記駆動輪に対して付与する制動力付与手段と、
運転者による前記車両の加速指示に応じて、前記いずれか一方の状態から前記いずれか他方の状態への切り替えを行う場合、前記切り替えの際の前記駆動輪の駆動力の変化を小さくさせる所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に、前記伝達状態における前記駆動輪の第1駆動力が前記非伝達状態における前記駆動輪の第2駆動力よりも小さくなる場合、前記非伝達状態において前記所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に、前記伝達状態における前記駆動輪の第1駆動力が前記非伝達状態における前記駆動輪の第2駆動力よりも小さくなるか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替える際に前記第1駆動力が前記第2駆動力よりも小さくなると判定される場合、前記非伝達状態において前記所定の制動力を付与するように前記制動力付与手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−239613(P2011−239613A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110517(P2010−110517)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】