説明

駆動力配分装置

【課題】ローラ間径方向押し付け力制御を介した駆動力配分制御を少ない電力消費で行い得るようにした省電力型の摩擦伝動式駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】入力軸12を経由する主駆動輪へのトルクの一部を、入力軸上のローラ31から、出力軸13上のローラ32を経て従駆動輪へ伝達する間、モータ58によりトルクダイオード61、ギヤボックス57、およびピニオン55L,55Rを介してクランクシャフト51L,51Rを回転させ、出力軸13およびローラ32の回転軸線O2を軸線Oの周りに旋回させることで、ローラ間押し付け力(主従駆動輪間駆動力配分)を制御する。トルクダイオード61は不可逆伝動作用により、ローラ間押し付け力指令値が不変の間はモータ58を非作動にしても、ローラ間押し付け力を指令値に保持可能で、モータ58の消費電力を軽減し得る。そこで、高精度な駆動力制御が必要でない直進中などでは、ローラ間押し付け力指令値の不変時間が長くなる、低分解能な指令値によりモータ58を駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車のトランスファーとして有用な駆動力配分装置、特に摩擦伝動式の駆動力配分装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動式の駆動力配分装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが知られている。
この文献に記載の駆動力配分装置は、主駆動輪に機械的に結合された第1ローラと、従駆動輪に機械的に結合された第2ローラとを具え、これら第1ローラおよび第2ローラを両者の外周面において相互に摩擦接触させることにより、主駆動輪へのトルクの一部を従駆動輪へ分配して出力させ得るようになしたものである。
【0003】
かかる駆動力配分装置にあっては、第1ローラおよび第2ローラ間における径方向押し付け力を加減することにより、これらローラ間のトルク伝達容量、従って主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御することができる。
【0004】
この駆動力配分制御を行うための機構として特許文献1には、第2ローラの回転軸をモータ等で偏心軸線周りに旋回させることにより第2ローラを第1ローラに対し径方向へ相対変位させ、これにより第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力、つまり主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御し得るようにした構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−173261号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる従来の駆動力配分装置にあっては、上記モータ等により第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力が指令値通りのものにされ、目標とする主従駆動輪間駆動力配分が達成された後、ローラ間径方向押し付け力指令値が不変である間も、上記モータ等はローラ間径方向押し付け力を当該不変の指令値に保持しておくよう作動し続ける必要がある。
【0007】
このことは、従駆動輪への駆動力配分が必要な限りにおいて、ローラ間径方向押し付け力指令値が不変の一定値である間も継続的に、モータ等がローラ間径方向押し付け力を当該不変の一定指令値に保持しておくための電力を消費することを意味し、エネルギー損失が大きくなるという問題を生ずる。
【0008】
本発明は、ローラ間径方向押し付け力制御(主従駆動輪間駆動力配分制御)に悪影響が及ばない範囲で、当該制御のために消費するエネルギーを0にしておける時間が出来るだけ長くなるようにして、エネルギー損失が大きくなるという上記の問題を解消し得るようにした駆動力配分装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため本発明による駆動力配分装置は、これを以下のように構成する。
先ず前提となる駆動力配分装置を説明するに、これは、
主駆動輪に機械的に結合された第1ローラと、
従駆動輪に機械的に結合され、上記第1ローラとの摩擦接触により従駆動輪へ駆動力を配分する第2ローラとを具え、
これら第1ローラおよび第2ローラ間における径方向押し付け力の加減により上記主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御するようにしたものである。
【0010】
本発明は、かかる駆動力配分装置に対し以下の改良を施す。
先ず、上記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力を指令値となるよう加減すべく該ローラ間径方向押し付け力指令値に応答するローラ間径方向押し付け力発生源からの操作力が不可逆下に伝達されるようにする不可逆伝動機構を設けて、上記ローラ間径方向押し付け力指令値が不変の間は上記ローラ間径方向押し付け力発生源の非作動によりローラ間径方向押し付け力を指令値に保持し得るようになす。
【0011】
更に、上記主駆動輪および従駆動輪間の高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態か、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態かを判定する運転状態判定手段を設けると共に、
この運転状態判定手段により高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態であると判定されたときは、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態である場合に比し、上記不変である時間が長い低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を上記ローラ間径方向押し付け力発生源の作動制御に資する指令値分解能切り替え手段を設ける。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の駆動力配分装置によれば、以下の作用効果が奏し得られる。
つまり、上記した不可逆伝動機構の設置により、ローラ間径方向押し付け力指令値が不変の間はローラ間径方向押し付け力発生源を非作動にしても、ローラ間径方向押し付け力を指令値に保持し得ることとなる。
上記のように駆動力配分制御中もローラ間径方向押し付け力発生源を非作動にしておくことができる時間は、駆動力配分制御のために消費されるエネルギーを0にしておく時間を提供することとなり、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制し得る。
【0013】
しかし上記エネルギー損失の抑制は、ローラ間径方向押し付け力発生源を非作動にしておくことができる時間、つまりローラ間径方向押し付け力指令値が不変の一定値である時間が長くないと実現することができない。
【0014】
ところで本発明においては、ローラ間径方向押し付け力指令値として、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態である場合に比し、上記不変である時間が長い低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を用いて、上記ローラ間径方向押し付け力発生源の作動制御を行うため、
高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、ローラ間径方向押し付け力指令値が不変である時間、つまりローラ間径方向押し付け力発生源の非作動により駆動力配分制御時の消費エネルギーを0にしておく時間が長くなり、
駆動力配分制御時のエネルギー損失が大きくなるという前記問題を解消することができる。
【0015】
なお、低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を用いると当然、駆動力配分制御も低精度になるが、
高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、駆動力配分制御が低精度でも実際上問題になることがないため、低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を用いても何ら支障はない。
【0016】
また、高精度な駆動力配分制御を要求される運転状態である場合は、上記の低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を用いないため、高精度な駆動力配分制御は、これを犠牲にすることなく予定通りに遂行することができる。
【0017】
従って本発明によれば、駆動力配分制御に悪影響が及ばない範囲で、当該制御のために消費されるエネルギーを0にしておくことができる時間が出来るだけ長くなり、
駆動力配分制御に影響が及ばないようにしつつ当該制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという前記の問題を確実に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施例になる駆動力配分装置を具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【図2】図1における駆動力配分装置の縦断側面図である。
【図3】図2に示す駆動力配分装置で用いたクランクシャフトを示す縦断正面図である。
【図4】図2の駆動力配分装置におけるトルクダイオードを、その出力軸側から軸線方向に見て示す端面図である。
【図5】図4に示すトルクダイオードの縦断側面図である。
【図6】図4,5に示すトルクダイオードの作用説明図で、 (a)は、駆動力配分制御用の入力トルクが存在しない状態における、トルクダイオードの不可逆伝動作用を説明するための説明図、 (b)は、駆動力配分制御用の入力トルクが発生した直後における状態を説明するための説明図、 (c)は、駆動力配分制御用の入力トルクが出力軸に伝達され始めた時の状態を説明するための説明図である。
【図7】図2におけるローラ間径方向押し付け力制御モータによる駆動力配分制御システムを示す制御システム図である。
【図8】図7におけるトランスファーコントローラが実行する駆動力配分制御プログラムを示すフローチャートである。
【図9】図8の制御プログラムで指令トルク容量を求めるときに用いるマップを特性線図として示すもので、 (a)は、高精度駆動力配分制御が必要でない運転時に用いる、低分解能な指令トルク容量の特性線図、 (b)は、高精度駆動力配分制御が必要な運転時に用いる、高分解能な指令トルク容量の特性線図である。
【図10】本発明の第2実施例になる駆動力配分装置の駆動力配分制御時に用いる、低分解能な指令トルク容量の特性線図である。
【図11】本発明の第3実施例になる駆動力配分装置の駆動力配分制御時における、低分解能な指令トルク容量の時系列変化特性図である。
【図12】本発明の第4実施例になる駆動力配分装置の駆動力配分制御時における、低分解能な指令トルク容量の時系列変化特性図である。
【図13】本発明の第5実施例になる駆動力配分装置の駆動力配分制御時における、低分解能な指令トルク容量の時系列変化特性図である。
【図14】本発明の第6実施例になる駆動力配分装置の駆動力配分制御時における、低分解能な指令トルク容量の時系列変化特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例>
図1は、本発明の第1実施例になる駆動力配分装置1をトランスファーとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【0020】
図1の四輪駆動車両は、エンジン2からの回転を変速機3による変速後、リヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を順次経て左右後輪6L,6Rに伝達するようにした後輪駆動車をベース車両とし、
左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を、駆動力配分装置1により、フロントプロペラシャフト7およびフロントファイナルドライブユニット8を順次経て左右前輪(従駆動輪)7L,7Rへ伝達することにより、四輪駆動走行が可能となるようにした車両である。
【0021】
駆動力配分装置1は、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)7L,7Rへ分配して出力することにより、左右後輪(主駆動輪)6L,6Rおよび左右前輪(従駆動輪)9L,9R間の駆動力配分比を決定するもので、本実施例においては、この駆動力配分装置1を図2に示すように構成する。
【0022】
図2において、11はハウジングを示し、このハウジング11内に入力軸12および出力軸13を、それぞれの回転軸線O1およびO2が交差するよう相互に傾斜させて横架する。
入力軸12は、その両端におけるボールベアリング14,15によりハウジング11に対し回転自在に支承する。
入力軸12の両端をそれぞれ、シールリング25,26による液密封止下でハウジング11から突出させる。
図2において入力軸12の左端を変速機3(図1参照)の出力軸に結合し、右端をリヤプロペラシャフト4(図1参照)を介してリヤファイナルドライブユニット5に結合する。
【0023】
入力軸12および出力軸13の両端近くにそれぞれ配して、これら入出力軸12,13間に一対のベアリングサポート16,17を架設し、これらベアリングサポート16,17をそれぞれの中程で、ボルト18,19によりハウジング11の軸線方向対向内壁に取着する。
ベアリングサポート16,17と入力軸12との間にはローラベアリング21,22を介在させ、これにより入力軸12をベアリングサポート16,17に対し回転自在となすことで、ベアリングサポート16,17を介しても入力軸12をハウジング11内に回転自在に支持する。
【0024】
ベアリングサポート16,17間(ローラベアリング21,22間)における入力軸12の軸線方向中程位置に第1ローラ31を同軸に一体成形し、この第1ローラ31に摩擦接触し得るよう配して出力軸13の軸線方向中程位置に第2ローラ32を同軸に一体成形する。
これら第1ローラ31および第2ローラ32の外周面は、入力軸12および出力軸13の前記した傾斜によっても、相互に線接触し得るような円錐テーパ面とする。
【0025】
出力軸13は、その両端近くにおける前記のベアリングサポート16,17に対し回転自在に支承することで、これらベアリングサポート16,17を介してハウジング11内に回転自在に支持する。
かように出力軸13をベアリングサポート16,17に対し回転自在に支承するに当たっては、以下のような支承構造を用いる。
【0026】
出力軸13と、これが貫通するベアリングサポート16,17との間にそれぞれ、中空アウターシャフト型式のクランクシャフト51L,51Rを遊嵌する。
クランクシャフト51Lおよび出力軸13をそれぞれ図2の左端においてハウジング11から突出させ、該突出部においてハウジング11およびクランクシャフト51L間にシールリング27を介在させると共に、クランクシャフト51L および出力軸13間にシールリング28を介在させて、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lおよび出力軸13の突出部をそれぞれ液密封止する。
【0027】
図2においてハウジング11から吐出する出力軸13の左端は、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8を介して左右前輪9L,9Rに結合する。
【0028】
クランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra(半径Ri)と、出力軸13の対応端部との間にローラベアリング52L,52Rを介在させて、出力軸13をクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra内で、これらの中心軸線O2の周りに自由に回転し得るよう支持する。
【0029】
クランクシャフト51L,51Rには図3に明示するごとく、中心孔51La,51Ra(中心軸線O2)に対し偏心した外周部51Lb,51Rb(半径Ro)を設定し、これら偏心外周部51Lb,51Rbの中心軸線O3は中心孔51La,51Raの軸線O2から、両者間の偏心分εだけオフセットしている。
クランクシャフト51L,51Rの偏心外周部51Lb,51Rbはそれぞれ、ローラベアリング53L,53Rを介して対応する側におけるベアリングサポート16,17内に回転自在に支持し、
この際、クランクシャフト51L,51Rをそれぞれ、第2ローラ32と共に、スラストベアリング54L,54Rで軸線方向に位置決めする。
【0030】
クランクシャフト51L,51Rの相互に向き合う隣接端にそれぞれ、同仕様のリングギヤ51Lc,51Rcを一体に設ける。
これらリングギヤ51Lc,51Rcにそれぞれ、同仕様のクランクシャフト駆動ピニオン55L,55Rを噛合させ、これらクランクシャフト駆動ピニオン55L,55Rを共通なピニオンシャフト56に結合する。
【0031】
なお、上記のごとくリングギヤ51Lc,51Rcにクランクシャフト駆動ピニオン55L,55Rを噛合させるに当たっては、クランクシャフト51L,51Rを両者の偏心外周部51Lb,51Rbが円周方向において相互に整列して同位相となる回転位置にした状態で、当該リングギヤ51Lc,51Rcに対するクランクシャフト駆動ピニオン55L,55Rの噛合を行わせる。
【0032】
ピニオンシャフト56は、その両端を軸受56a,56bによりハウジング11に対し回転自在に支持する。
図2の右側におけるピニオンシャフト56の右端をハウジング11に貫通してこれから突出させ、
該ピニオンシャフト56の露出端部は、小径入力ギヤ57aおよび大径出力ギヤ57bより成る減速ギヤボックス57を介してローラ間径方向押し付け力制御モータ58(ローラ間径方向押し付け力発生源)の出力軸58aに駆動結合する。
【0033】
よって、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58によりピニオン55L,55Rおよびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御するとき、
出力軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が、図3に破線で示す軌跡円に沿って中心軸線Oの周りに旋回し、ローラ31,32間における軸間距離の変更により第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押し付け力を任意に制御することができる。
【0034】
ところで本実施例においては特に、小径入力ギヤ57aが結合されている減速ギヤボックス57の入力軸59と、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58の出力軸58aとを直結せず、以下に詳述するトルクダイオード61を介して減速ギヤボックス57の入力軸59と、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58の出力軸58aとを結合する。
【0035】
<トルクダイオード>
トルクダイオード61は、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58(出力軸58a)からの回転操作力が何れ方向のものであっても、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58(出力軸58a)から減速ギヤボックス57(入力軸59)への伝動を自由に行わせるが、逆に減速ギヤボックス57(入力軸59)からローラ間径方向押し付け力制御モータ58(出力軸58a)への逆伝動を減速ギヤボックス57(入力軸59)の両方向回転ロックにより行わせないようにする不可逆伝動機構の用をなすもので、図4〜6につき以下に説明するような構成とする。
【0036】
つまりトルクダイオード61は、その円筒形のケース62を図2に示すごとく減速ギヤボックス57のハウジング57cに取着して固定する。
図4,5に示すごとく、かかる固定ケース62の軸線方向一方側から入力軸63を、また軸線方向他方側から出力軸64を、相互に同軸となるよう配して固定ケース62内に進入させる。
入力軸63は軸受65により固定ケース62に対し回転自在に支持し、出力軸64は軸受66により固定ケース62に対し回転自在に支持する。
【0037】
固定ケース62内における出力軸64の進入端部を図6に明示するごとく、軸線方向に見て六角形の拡大端部64aとなす。
かかる六角形拡大端部64aの各辺を成す外周平坦面と、固定ケース62の内周面との間に、一対1組の噛み込みローラ67L,67Rを、ローラ軸線が入出力軸63,64の軸線と平行になるよう配して介在させる。
【0038】
図4,6に示すごとく、これら噛み込みローラ67L,67R間にバネ68を介在させて噛み込みローラ67L,67Rを相互に離間する方向へ附勢し、
これにより噛み込みローラ67L,67Rをそれぞれ図4および図6(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と、固定ケース62の内周面との間における円周方向漸減隙間に噛み込ませる。
【0039】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には、図4および図6(a)に示すごとく、各一対1組の噛み込みローラ67L,67Rをローラ配列方向両側から挟んでローラ保持器の用をなすよう、六角形拡大端部64aの各角部と、固定ケース62の内周面との間における最小隙間に位置させて、ローラ保持爪63L,63Rを設ける。
しかして、ローラ保持爪63L,63Rと、これに隣接するローラ67L,67Rとの間には、図6(a)にαで示すごとく、常態で隙間が存在するようになす。
【0040】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には更に、図5および図6(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aに向け軸線方向に突出する複数の駆動ピン63aを設け、
六角形拡大端部64aの端面には、これら各駆動ピン63aが所定の径方向隙間β(β>α)をもって遊嵌する盲孔64bを穿設する。
【0041】
上記の構成になるトルクダイオード61は、図2に示すように、ケース62を減速ギヤボックス57のハウジング57cに固着し、入力軸63をローラ間径方向押し付け力制御モータ58の出力軸58aに結合し、出力軸64を減速ギヤボックス57の入力軸59に結合して、駆動力配分装置1に実用する。
【0042】
<トルクダイオードの不可逆伝動作用>
トルクダイオード61の作用を、図6(a),(b),(c)に基づき以下に説明する。
図6(a)は、図2のモータ58が非作動状態でモータ58から入力軸63へトルクが入力されないときの状態を示す。
この場合、入力軸63のローラ保持爪63L,63Rが、隣接するローラ67L,67Rからそれぞれ隙間αをもって離れた中立位置にあり、また入力軸63の駆動ピン53aが、出力軸64(六角形拡大端部64a)に設けた盲孔64bの中心位置にある。
【0043】
この状態で出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力があっても、出力軸64(六角形拡大端部64a)は以下のようにして回転を阻止される。
出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図6(a)において時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Lを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する。
また出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図6(a)において反時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Rを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する。
【0044】
よって、図2のモータ58の非作動によりこれから入力軸63へトルクが入力されない状態である間、出力軸64(六角形拡大端部64a)が上記何れ方向の逆入力によっても回転されることなく現在の回転位置を保ち得て、クランクシャフト51L,51Rを現在の回転位置に保つことができ、かかる不可逆伝動作用によりローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を現在のままに保持することができる。
【0045】
しかして、図2に示すモータ58の作動によりこれから入力軸63へトルクが入力される場合は、このトルクをトルクダイオード61が以下のようにして六角形拡大端部64a(出力軸64)に伝達し、駆動力配分制御系へ向かわせることができる。
【0046】
モータ58から入力軸63へのトルクが、図6(b),(c)に矢印で示す方向のものである場合につき説明すると、
入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Lが隙間αだけ回転した後、図6(b)に示すように対応するローラ67Lに衝接し、このローラ67Lをバネ68に抗しローラ67Rに接近する方向へ押動して、図6(c)に示すごとく六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と固定ケース62の内周面との間隔が大きくなる方向へ変位させる。
【0047】
ローラ67Rは、かかる変位により固定ケース62に対する六角形拡大端部64a(出力軸64)の回転ロックを解除する。
この回転ロック解除がなされたとき、図6(c)に示すごとく入力軸63の駆動ピン63aが隙間βの回転により盲孔64bの内周面と係合し、入力軸63は駆動ピン63aと盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達し、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減(モータ58のトルク制御)により任意に制御することができる。
【0048】
モータ58から入力軸63へのトルクが、図6(b),(c)に矢印で示すと逆方向のものである場合も、入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Rが隙間αだけ回転した後、対応するローラ67Rに衝接してこのローラ67Rを押動することで回転ロック解除を行い、
このとき入力軸63の駆動ピン63aが盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達することで、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減により任意に制御することができる。
【0049】
<駆動力配分制御>
図7は、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58による駆動力配分制御システムを示し、このシステムはトランスファーコントローラ71を主たる構成要素とする。
トランスファーコントローラ71は、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqを演算するための必要トルク容量演算部72と、
この必要トルク容量Treqを達成するためにローラ間径方向押し付け力制御モータ58へ供給すべき必要電流iを演算するに際して用いる分解能を切り替えるための分解能切り替え部73とで構成する。
【0050】
そしてトランスファーコントローラ71には、
エンジン2の出力トルクTeを演算するエンジントルク演算部74からの信号と、
エンジン2のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APOを検出するアクセル開度センサ75からの信号と、
変速機3の選択ギヤ比γを検出するギヤ比センサ76からの信号と、
車両挙動制御VDC(Vehicle Dynamic Control)装置およびアンチスキッド装置ABS(Anti-Lock Brake System)77からのVDC作動中を示すVDCフラグおよびABS作動中を示すABSフラグと、
VDCおよびABS用のヨーレートφ、横加速度Gy、前後加速度Gx、車輪速Vwを検出するヨーレートセンサ78、横Gセンサ79、前後Gセンサ81、車輪速センサ82からの信号と、
操舵角θを検出する操舵角センサ83からの信号とを入力する。
【0051】
必要トルク容量演算部72および分解能切り替え部73よりなるトランスファコントローラ71は、上記の入力情報を基に図8の制御プログラムを実行して、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58への必要電流iを演算する。
先ずステップS11において、操舵角θ、車輪速Vw、前後加速度Gx、横加速度Gy、ヨーレートφ、エンジントルクTe、アクセル開度APO、変速機ギヤ比γ、ABSフラグ、VDCフラグを読み込む。
【0052】
次のステップS12においては、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqを演算する。
この演算に当たっては、図7の必要トルク容量演算部72が、例えば車輪速Vwのうち、主駆動輪である左右後輪6L,6Rに関わる主駆動輪速と、従駆動輪である左右前輪9L,9Rに関わる従駆動輪速とを対比して、主駆動輪6L,6Rの駆動スリップ状態を逐一チェックし、この主駆動輪スリップが許容範囲内に収まるようにするのに必要な目標駆動力配分比を、エンジントルクTeおよびアクセル開度APO並びに変速機ギヤ比γから求め、この目標駆動力配分比を達成するのに必要な第1ローラ31および第2ローラ32間の伝達トルク容量を演算して、これをローラ間必要トルク容量Treq(本発明におけるローラ間径方向押し付け力必要値に相当)と定める。
【0053】
しかして本実施例では、この必要トルク容量Treqをそのままローラ間径方向押し付け力制御モータ58の駆動制御に用いず、図7の分解能切り替え部73で指令トルク容量Ttgt(本発明におけるローラ間径方向押し付け力指令値に相当)に変換し、この指令トルク容量Ttgtをローラ間径方向押し付け力制御モータ58の駆動制御に資する。
先ず分解能切り替え部73は、図8のステップS13で操舵角θや、ヨーレートφや、横加速度Gyや、前後加速度Gxなどから、車輪6L,6R,9L,9Rの何れかが操舵されているか否かをチェックすると共に、ABSフラグまたはVDCフラグがONにされたABS作動中か、若しくはVDC作動中か否かをチェックする。
【0054】
図7の分解能切り替え部73は、ステップS13で車輪6L,6R,9L,9Rの何れも操舵されていない(直進中)と判定し、且つABSフラグおよびVDCフラグがともにOFF(ABS非作動、VDC非作動)であると判定するとき、ステップS14において図9(a)に実線で例示する高精度駆動力配分制御非要求時用の低分解能なマップを選択し、次のステップS16においてこの低分解能なマップを基に必要トルク容量Treqから指令トルク容量Ttgtを検索する。
【0055】
次いでステップS17において、第1ローラ31および第2ローラ32間の伝達トルク容量が指令トルク容量Ttgtとなるのに必要なローラ間径方向押し付け力指令値を実現するためのモータ必要電流値iを演算し、
次のステップS18において、このモータ必要電流値iをローラ間径方向押し付け力制御モータ58に指令する。
【0056】
しかし図7の分解能切り替え部73は、ステップS13で車輪6L,6R,9L,9Rの何れかが操舵されていると判定したり、或いは、ABSフラグまたはVDCフラグがON(ABS作動中、またはVDC作動中)であると判定するときは、ステップS15において図9(b)に実線で例示する高精度駆動力配分制御要求時用の高分解能なマップを選択し、
このマップを基に以後のステップS16〜ステップS18において、指令トルク容量Ttgtを求めると共に、第1ローラ31および第2ローラ32間の伝達トルク容量が指令トルク容量Ttgtとなるのに必要なローラ間径方向押し付け力指令値を実現するためのモータ必要電流値iを演算し、このモータ必要電流値iをローラ間径方向押し付け力制御モータ58に指令する。
【0057】
ここで、図9(b)に実線で例示する高精度駆動力配分制御要求時用の高分解能なマップは、ステップS12で求めた必要トルク容量Treqをそのまま指令トルク容量Ttgtとするようなものであるのが、高精度駆動力配分制御要求を満足させる意味合いにおいて好ましいのは言うまでもない。
しかもこの場合、ステップS12で求めた必要トルク容量TreqをそのままステップS16で指令トルク容量Ttgtとして用いることになることから、実質上は図9(b)に実線で例示する高精度駆動力配分制御要求時用の高分解能なマップが不要となり、その分だけメモリ容量を少なくすることができる。
【0058】
以上説明したところから明らかなように図7の分解能切り替え部73は、本発明における運転状態判定手段および指令値分解能切り替え手段を構成する。
【0059】
なお、図9(a)に実線で例示する低分解能なマップも、図9(b)に実線で例示する高分解能なマップも、Ttgt=Treqの破線特性より上の領域に位置するよう、つまり指令トルク容量Ttgtが常に必要トルク容量Treq以上になるよう、指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqに対応付けて予め設定するのがよい。
この場合、指令トルク容量Ttgtに対応した必要電流値iにより駆動制御されるローラ間径方向押し付け力制御モータ58がもたらすローラ31,32間の実伝達トルク容量が必要トルク容量Treq未満になってローラ31,32間にスリップを生じ、予定通りの駆動力配分制御を期待できなくなるという不都合を回避することができる。
【0060】
ところで本実施例においては、ステップS17において第1ローラ31および第2ローラ32間の伝達トルク容量が指令トルク容量Ttgtとなるのに必要なローラ間径方向押し付け力指令値を実現するためのモータ必要電流値iを演算するに際し、この演算を特に以下のごとくに行う。
図9(a),(b)において、指令トルク容量Ttgtが必要トルク容量Treqに対し不変の一定値を保つ間は、前記したトルクダイオード61の設置により前記したごとく、モータ必要電流値i=0によりローラ間径方向押し付け力制御モータ58を非作動状態にしておいても、ローラ間径方向押し付け力指令値が実現され続けて第1ローラ31および第2ローラ32間の伝達トルク容量を指令トルク容量Ttgtに保持し得る。
そのため、ローラ間伝達トルク容量が指令トルク容量Ttgtに達した後は、指令トルク容量Ttgtが不変の一定値を保っている限りにおいて、モータ必要電流値i=0によりローラ間径方向押し付け力制御モータ58を非作動状態にしておき、電力消費を抑制することとする。
【0061】
かかる電力消費の観点からは、図9(a)に実線で例示する低分解能なマップの方が、図9(b)に実線で例示する高分解能なマップよりも有利である。
その理由は、低分解能なマップの場合、指令トルク容量Ttgtが必要トルク容量Treqに対し長い間に亘って不変の一定値を保ち、モータ必要電流値i=0によりローラ間径方向押し付け力制御モータ58を非作動状態にしておくことができる時間が長いためである。
【0062】
しかし、前記したように指令トルク容量Ttgtが常に必要トルク容量Treq以上になるよう、指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqに対応付けてあるためもあって、図9(a)に実線で例示する低分解能なマップの場合、図9(b)に実線で例示する高分解能なマップよりも、ローラ間伝達トルク容量が必要トルク容量Treqよりも大きくなる傾向が強く、所謂リジッド四輪駆動状態に近い。
【0063】
そのため、操舵中に図9(a)に実線で例示する低分解能なマップを用いて指令トルク容量Ttgtを求めると、タイトコーナーブレーキ現象によりアンダーステア傾向となって旋回半径が大きくなるという問題を生ずる。
また、ABS作動中や、VDC作動中に図9(a)に実線で例示する低分解能なマップを用いて指令トルク容量Ttgtを求めると、ABS作動や、VDC作動で要求される駆動力配分を実行し得ず、所定の車輪制動ロック防止機能や所定の車両の挙動制御機能を果たし得ないという問題を生ずる。
【0064】
従って、操舵中や、ABS作動中や、VDC作動中のように高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態のときは、図9(b)に実線で例示する高分解能なマップを用いて指令トルク容量Ttgtを求めることにより、ローラ間伝達トルク容量が必要トルク容量Treqよりもさほど大きくならないようにして、所謂リジッド四輪駆動状態に近い状態になることのないようにする必要がある。
【0065】
これに対し、直進中で、且つ、ABSおよびVDCの何れも作動してないときのように高精度な駆動力配分制御が要求されない運転状態では、所謂リジッド四輪駆動状態に近い状態であっても、上記のような問題を懸念する必要がないため、モータ58の消費電力を抑制する意味合いにおいて、図9(a)に実線で例示する低分解能なマップを基に指令トルク容量Ttgtを求めるのがよい。
【0066】
以上が、本実施例のように、直進中で、且つABSおよびVDCの何れも作動してないときは、図9(a)に例示する低分解能なマップを基に必要トルク容量Treqから指令トルク容量Ttgtを求めるようにし、
操舵中だったり、或いは、ABSまたはVDCの何れかが作動しているときは、図9(b)に例示する高分解能なマップを基に必要トルク容量Treqから指令トルク容量Ttgtを求めるようにした理由である。
【0067】
<第1実施例の作用効果>
上記した図1〜9に示す第1実施例の駆動力配分装置の作用効果を以下に説明する。
図1における変速機3からの出力トルクは図2の左端から軸12へ入力され、一方では、この入力軸12からそのままリヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を経て左右後輪6L,6R(主駆動輪)へ伝達される。
【0068】
他方で駆動力配分装置1は、左右後輪6L,6Rへのトルクの一部を、第1ローラ31から、第2ローラ32を経て出力軸13に向かわせ、出力軸13に達したトルクは、図2において出力軸13の左端から、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8(図1参照)を経由し、左右前輪(従駆動輪)7L,7Rへ伝達される。
かくして車両は、左右後輪6L,6R(主駆動輪)および左右前輪(従駆動輪)7L,7Rの全てを駆動しての四輪駆動走行が可能である。
【0069】
かかる四輪駆動走行時の左右後輪6L,6Rおよび左右前輪7L,7R間における駆動力配分制御は、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58により実行する。
ローラ間径方向押し付け力制御モータ58の回転は、トルクダイオード61、減速ギヤボックス57、ピニオン55L,55Rおよびリングギヤ51Lc,51Rcを介してクランクシャフト51L,51Rに達する。
【0070】
よって、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58によりクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御することができ、
出力軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が図3に破線で示す軌跡円に沿って旋回し、ローラ31,32間における軸間距離の変更により第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押し付け力、つまりローラ31,32間の伝達トルク容量(前後輪駆動力配分)を、図8の演算結果通りに制御することができる。
【0071】
ところで本実施例においては、上記の制御に当たりローラ間径方向押し付け力制御モータ58の回転がトルクダイオード61を介して減速ギヤボックス57へ伝達されるようにしたため、
トルクダイオード61の不可逆伝動作用により、指令トルク容量Ttgt(ローラ間径方向押し付け力指令値)が不変の間はローラ間径方向押し付け力制御モータ58を非作動にしても、ローラ31,32間の伝達トルク容量(ローラ間径方向押し付け力)を指令値Ttgtに保持し得ることとなる。
従って本実施例においては、駆動力配分制御中でもローラ間径方向押し付け力制御モータ58を非作動にしておける時間、つまり駆動力配分制御のために消費されるエネルギーを0にしておく時間を生じさせることができ、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制し得る。
【0072】
本実施例においては更に、指令トルク容量Ttgtとして、直進中で、且つABSもVDCも作動しておらず、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、操舵時や、ABS作動時や、VDC作動時のように高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態である場合に比し、指令トルク容量Ttgtが不変の一定値である時間が長い、図9(a)に実線で例示した低分解能な指令トルク容量Ttgtを用いて、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58の作動制御を行うため、
高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、指令トルク容量Ttgtが不変の一定値である時間、つまりローラ間径方向押し付け力制御モータ58の非作動により駆動力配分制御時の消費エネルギーを0にしておける時間が長くなり、
駆動力配分制御時のエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題を解消することができる。
【0073】
なお、低分解能な指令トルク容量Ttgtを用いると当然ながら、駆動力配分制御も低精度になるが、
高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態である場合は、駆動力配分制御が低精度でも実際上問題になることがないため、低分解能な指令トルク容量Ttgtを駆動力配分制御に用いても何ら支障はない。
【0074】
一方で、高精度な駆動力配分制御を要求される運転状態である場合は、図9(a)に実線で例示する低分解能な指令トルク容量Ttgtに代えて、図9(b)に実線で例示する高分解能な指令トルク容量Ttgtを用いるため、高精度な駆動力配分制御は、これを犠牲にすることなく予定通りに遂行することができる。
【0075】
従って本実施例によれば、駆動力配分制御に悪影響が及ばない範囲で、当該制御のために消費されるエネルギーを0にしておくことができる時間をできるだけ長くすることができ、
駆動力配分制御に影響が及ばないようにしつつ当該制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題を確実に解消することができる。
【0076】
更に本実施例においては、低分解能な指令トルク容量Ttgt(ローラ間径方向押し付け力指令値)および高分解能な指令トルク容量Ttgt(ローラ間径方向押し付け力指令値)をそれぞれ図9(a),(b)に実線で例示するごとく、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treq(ローラ間径方向押し付け力必要値)に対応付けて予め決定してマップ化しておき、
高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態であるときは図9(a)のマップを基に、低分解能な指令トルク容量Ttgtを検索して求め、
また高精度な駆動力配分制御が必要な運転状態であるときは図9(b)のマップを基に、ローラ間必要トルク容量Ttgtから高分解能な指令トルク容量Ttgtを検索して求めるようにしたから、
マップ用のメモリ容量は大きくなるものの、指令トルク容量Ttgtの演算負荷が小さく、高性能で高価な演算システムを必要としないため、コスト的に有利である。
【0077】
なお、図9(b)に実線で例示する高精度駆動力配分制御要求時用の高分解能な指令トルク容量マップに代えて、ローラ間必要トルク容量Treqをそのまま指令トルク容量Ttgtとする場合、高精度駆動力配分制御要求を満足させ得るのに加えて、図9(b)に実線で例示する高精度駆動力配分制御要求時用の高分解能なマップが不要となり、その分だけメモリ容量を少なくすることができる利点がある。
【0078】
また本実施例においては、低分解能な指令トルク容量Ttgtおよび高分解能な指令トルク容量Ttgtをそれぞれ図9(a),(b)に実線で例示するごとく、ローラ間必要トルク容量Ttgt以上の値に保たれるよう、これに対応付けて定めたため、
指令トルク容量Ttgtに対応した必要電流値i(図8のステップS17およびステップS18)により駆動制御されるローラ間径方向押し付け力制御モータ58がもたらすローラ31,32間の実伝達トルク容量が必要トルク容量Treq未満になることがなく、ローラ31,32間にスリップが生じて予定通りの駆動力配分制御を期待できなくなるという不都合を回避することができる。
【0079】
<第2実施例>
本実施例は、図9(a)に実線で例示した低分解能な指令トルク容量Ttgtに代えて、図10に示すごとき低分解能な指令トルク容量Ttgtを用いるようにしたものである。
本実施例では、図10に示す実線特性を、図9(a)に実線で示すと同じ特性とするが、但しこれを、低分解能な指令トルク容量Ttgtが1段階ずつ上昇するときの特性とする。
低分解能な指令トルク容量Ttgtが1段階ずつ低下するときは、図10に一点鎖線で示すように、上昇時の場合よりも小さな必要トルク容量Treqで低下するようにして、上昇時と低下時との間にヒステリシスを設定する。
【0080】
<第2実施例の効果>
図9(a)に実線で例示した低分解能な指令トルク容量Ttgtの場合、指令トルク容量Ttgtを増大および低下させるときの必要トルク容量Treqが同じ値であるため、この値付近で必要トルク容量Treqが振動的に変化したとき、これに逐一呼応して指令トルク容量Ttgtが頻繁に上下動するハンチング現象を生じて制御不安定となる。
かかる指令トルク容量Ttgtの頻繁な変化は、その都度、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58の作動を惹起させて、電力消費を増大させることとなり、本発明の趣旨である電力消費軽減に逆行する。
【0081】
しかし本実施例のようにヒステリシスを設定している場合、指令トルク容量Ttgtを増大および低下させるべき必要トルク容量Treqがヒステリシス分だけ違うため、このヒステリシス範囲内で必要トルク容量Treqが振動的に変化しても、指令トルク容量Ttgtが上下動してハンチング現象を生ずることがない。
従って、上記のヒステリシス範囲内で必要トルク容量Treqが振動的に変化しても、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58が作動されることはなく、このモータ58を非作動状態に維持することができ、高精度な駆動力配分制御が要求されない運転状態で電力消費を抑制し得るようになすという本発明の目的を確実に達成することができる。
【0082】
<第3実施例>
本実施例においては、高分解能な指令トルク容量Ttgtを第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqと同じ値に定める。
しかし低分解能な指令トルク容量Ttgtは、上記した第1,2実施例のように、つまり図9(a)および図10に示すごとく、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqに対応付けて、予めマップ化しておくのでなく、
図11に示すように、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqに基づき時々刻々演算により求めて決定するようにする。
【0083】
この演算に際しては図11に示すごとく、低分解能な指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqの立ち上がり瞬時t1に0から第1段階だけ上昇させた初期値とし、
以後は、現在の低分解能な指令トルク容量Ttgtよりも増大側不感帯分Aだけ大きな増大側基準値(Ttgt+A)および減少側不感帯分B(=A)だけ小さな減少側基準値(Ttgt−B)を基に、必要トルク容量Treqが増大側基準値(Ttgt+A)以上になる瞬時t2に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階だけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−B)以下になるとき(図11には示されていない)低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階だけ減少させる。
【0084】
<第3実施例の効果>
本実施例においても、高精度な駆動力分配制御が必要でない運転状態の場合に用いられる低分解能な指令トルク容量Ttgtは図11に示すように、不変の一定値である時間が長いものとなる。
よって本実施例でも第1,2実施例と同様に、駆動力配分制御に悪影響が及ばないようにしつつ、ローラ間径方向押し付け力制御モータ58を消費エネルギー0により非作動状態にしておくことができる時間が長くなり、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題を確実に解消することができる。
【0085】
しかも本実施例によれば、第1,2実施例で不可欠なマップ用のメモリ容量が不要であるし、加えて、必要トルク容量Treqが増大側基準値(Ttgt+A)以上になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階だけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−B)以下になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階だけ減少させるため、必要トルク容量Treqの振動的変化によっても低分解能な指令トルク容量Ttgtがこれに応答して変動(ハンチング)するのを防止することができる。
【0086】
<第4実施例>
本実施例においても、高分解能な指令トルク容量Ttgtを第3実施例と同様に、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqと同じ値に定める。
また低分解能な指令トルク容量Ttgtは、第3実施例と同様、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqに基づき時々刻々演算により求めて決定するが、演算要領を図12に示すようなものとして、第3実施例と異ならせる。
【0087】
つまり第4実施例では図12に示すごとく、低分解能な指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqの立ち上がり瞬時t1に0から第1段階ΔTaだけ上昇させた初期値とし、
以後は、現在の低分解能な指令トルク容量Ttgt、およびこれよりも減少側不感帯分Cだけ小さな減少側基準値(Ttgt−C)を基に、必要トルク容量Treqが現在の低分解能な指令トルク容量Ttgt以上になる瞬時t2に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−C)以下になる瞬時t3に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ減少させる。
【0088】
<第4実施例の効果>
本実施例においても、高精度な駆動力分配制御が必要でない運転状態の場合に用いられる低分解能な指令トルク容量Ttgtは図12に示すように、不変の一定値である時間が長いものとなる。
よって本実施例でも、前記各実施例と同様に、駆動力配分制御に悪影響が及ばないようにしつつ、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題を確実に解消することができる。
【0089】
また本実施例によれば、必要トルク容量Treqが現在の低分解能な指令トルク容量Ttgt以上になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−C)以下になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ減少させため、必要トルク容量Treqの振動的変化によっても低分解能な指令トルク容量Ttgtがこれに応答して変動(ハンチング)するのを防止することができる。
しかも本実施例によれば、指令トルク容量Ttgtが決して必要トルク容量Treq未満になることがなく、このTtgt<Treqに起因してローラ31,32間にスリップを生じ、予定通りの駆動力配分制御を期待できなくなるという不都合を回避することができる。
【0090】
<第5実施例>
本実施例においても、高分解能な指令トルク容量Ttgtを第3実施例および第4実施例と同様に、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqと同じ値に定める。
また低分解能な指令トルク容量Ttgtは、第3実施例および第4実施例と同様、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqに基づき時々刻々演算により求めて決定するが、演算要領を図13に示すようなものとして、第3実施例および第4実施例と異ならせる。
【0091】
つまり第5実施例では図13に示すごとく、低分解能な指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqの立ち上がり瞬時t1に0から第1段階ΔTaだけ上昇させた初期値とし、
以後は、現在の低分解能な指令トルク容量Ttgtよりも増大側不感帯分Dだけ小さな増大側基準値(Ttgt−D)と、この増大側基準値(Ttgt−D)よりも更に減少側不感帯分Eだけ小さな減少側基準値(Ttgt−D−E)とを基に、必要トルク容量Treqが増大側基準値(Ttgt−D)以上になる瞬時t2に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−D−E)以下になる瞬時t3に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ減少させる。
【0092】
<第5実施例の効果>
本実施例においても、高精度な駆動力分配制御が必要でない運転状態の場合に用いられる低分解能な指令トルク容量Ttgtは図13に示すように、不変の一定値である時間が長いものとなる。
よって本実施例でも、前記各実施例と同様に、駆動力配分制御に悪影響が及ばないようにしつつ、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題を確実に解消することができる。
【0093】
また本実施例によれば、必要トルク容量Treqが増大側基準値(Ttgt−D)以上になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させ、必要トルク容量Treqが減少側基準値(Ttgt−D−E)以下になる時に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ減少させため、必要トルク容量Treqの振動的変化によっても低分解能な指令トルク容量Ttgtがこれに応答して変動(ハンチング)するのを防止することができる。
しかも本実施例によれば、指令トルク容量Ttgtが決して必要トルク容量Treq未満になることがなく、このTtgt<Treqに起因してローラ31,32間にスリップを生じ、予定通りの駆動力配分制御を期待できなくなるという不都合を回避することができる。
【0094】
なお、図12に示した第4実施例におけるように、必要トルク容量Treqが現在の低分解能な指令トルク容量Ttgt以上になる瞬時t2に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させたのでは、応答遅れにより一時的に指令トルク容量Ttgtが必要トルク容量Treq未満になってローラ31,32間にスリップを生ずる懸念がある。
しかし本実施例では、現在の低分解能な指令トルク容量Ttgtよりも増大側不感帯分Dだけ小さな増大側基準値(Ttgt−D)を用い、必要トルク容量Treqがこの増大側基準値(Ttgt−D)以上になる瞬時t2に低分解能な指令トルク容量Ttgtを1段階ΔTbだけ増大させるようにしたため、
応答遅れによっても指令トルク容量Ttgtが必要トルク容量Treq未満になることがなく、ローラ31,32間にスリップを生ずる上記の懸念を払拭することができる。
【0095】
<第6実施例>
本実施例においても、高分解能な指令トルク容量Ttgtを第3〜5実施例と同様に、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqと同じ値に定める。
また低分解能な指令トルク容量Ttgtは、第3〜5実施例と同様、第1ローラ31および第2ローラ32間の必要トルク容量Treqに基づき時々刻々演算により求めて決定するが、演算要領を図14に示すようなものとして、第3〜5実施例と異ならせる。
【0096】
つまり第6実施例では図14に示すごとく、低分解能な指令トルク容量Ttgtを必要トルク容量Treqの立ち上がり瞬時t1に0から最大値に上昇させ、
以後は、必要トルク容量Treqが消失する瞬時t2に、低分解能な指令トルク容量Ttgtを最大値から0にする。
【0097】
<第6実施例の効果>
本実施例においても、高精度な駆動力分配制御が必要でない運転状態の場合に用いられる低分解能な指令トルク容量Ttgtは図14に示すように、不変の一定値である時間が長いものとなり、本実施例ではこの一定値時間がどの実施例よりも長い。
よって本実施例によれば、前記各実施例と同様に、駆動力配分制御に悪影響が及ばないようにしつつ、駆動力配分制御時のエネルギー損失を抑制して、このエネルギー損失が大きくなるという、前記した従来技術の問題をどの実施例よりも確実に解消することができると共に、必要トルク容量Treqの振動的変化時における低分解能な指令トルク容量Ttgtのハンチング防止効果をどの実施例よりも顕著に奏し得る。
【0098】
しかも本実施例によれば、指令トルク容量Ttgtが決して必要トルク容量Treq未満になることがなく、このTtgt<Treqに起因してローラ31,32間にスリップを生じ、予定通りの駆動力配分制御を期待できなくなるという不都合を回避することができる。
【0099】
<その他の実施例>
なお上記各実施例では、駆動力配分制御系に挿入する不可逆伝動機構として図2,4,5,6に示すようなトルクダイオード61を用いる場合について説明したが、不可逆伝動機構としてはトルクダイオード61に限らず、例えばウォームおよびウォームホイールよりなるウォームギヤボックスなど他の不可逆伝動機構を用いてもよいのは勿論である。
但し、トルクダイオード61に較べてウォームギヤボックスなどは伝動効率が悪いため、トルクダイオード61を用いる方が駆動力配分制御の軽快さおよび消費電力の何れの点でも有利である。
【符号の説明】
【0100】
1 駆動力配分装置
2 エンジン
3 変速機
4 リヤプロペラシャフト
5 リヤファイナルドライブユニット
6L,6R 左右後輪(主駆動輪)
7 フロントプロペラシャフト
8 フロントファイナルドライブユニット
9L,9R 左右前輪(従駆動輪)
11 ハウジング
12 入力軸
13 出力軸
16,17 ベアリングサポート
31 第1ローラ
32 第2ローラ
51L,51R クランクシャフト
51La,51Ra 中心孔
51Lb,51Rb 偏心外周部
51Lc,51Rc リングギヤ
55L,55R クランクシャフト駆動ピニオン
56 ピニオンシャフト
57 減速ギヤボックス
58 ローラ間径方向押し付け力制御モータ(ローラ間径方向押し付け力発生源)
61 トルクダイオード(不可逆伝動機構)
62 固定ケース
63 入力軸
63a 駆動ピン
63L,63R ローラ保持爪
64 出力軸
64a 六角形拡大端部
64b 盲孔
65,66 軸受
67L,67R 噛み込みローラ
68 バネ
71 トランスファーコントローラ
72 必要トルク容量演算部
73 分解能切り替え部(運転状態判定手段および指令値分解能切り替え手段)
74 エンジントルク演算部
75 アクセル開度センサ
76 ギヤ比センサ
77 車両挙動制御装置およびアンチスキッド装置ABS
78 ヨーレートセンサ
79 横Gセンサ
81 前後Gセンサ
82 車輪速センサ
83 操舵角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主駆動輪に機械的に結合された第1ローラと、
従駆動輪に機械的に結合され、前記第1ローラとの摩擦接触により従駆動輪へ駆動力を配分する第2ローラとを具え、
これら第1ローラおよび第2ローラ間における径方向押し付け力の加減により前記主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御するようにした駆動力配分装置において、
前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力を指令値となるよう加減すべく該ローラ間径方向押し付け力指令値に応答するローラ間径方向押し付け力発生源からの操作力が不可逆下に伝達されるようにする不可逆伝動機構を設けて、前記ローラ間径方向押し付け力指令値が不変の間は前記ローラ間径方向押し付け力発生源の非作動によりローラ間径方向押し付け力を指令値に保持し得るようになし、
前記主駆動輪および従駆動輪間の高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態か、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態かを判定する運転状態判定手段と、
この運転状態判定手段により高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態であると判定されたときは、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態である場合に比し、前記不変である時間が長い低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を前記ローラ間径方向押し付け力発生源の作動制御に資する指令値分解能切り替え手段とを具備して構成したことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力配分装置において、
前記運転状態判定手段は、前記主駆動輪および従駆動輪の少なくとも一方が転舵されている状態を、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態と判定し、これら主駆動輪および従駆動輪が全て転舵されていない状態を、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態と判定するものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動力配分装置において、
前記運転状態判定手段は、前記主駆動輪および従駆動輪の少なくとも一輪が制動ロック防止制御されている状態を、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態と判定し、これら主駆動輪および従駆動輪が全て制動ロック防止制御されていない状態を、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態と判定するものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記運転状態判定手段は、前記主駆動輪および従駆動輪の少なくとも一輪が車両の挙動制御用に制駆動力制御されている状態を、高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態と判定し、これら主駆動輪および従駆動輪が何れも車両の挙動制御用に制駆動力制御されていない状態を、高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態と判定するものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値に対応付けて予め決定しておき、
前記運転状態判定手段により高精度な駆動力配分制御が必要でない運転状態であると判定されたときは、前記ローラ間径方向押し付け力必要値から前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を検索して求めるものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動力配分装置において、
前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値は、前記ローラ間径方向押し付け力必要値以上の値に保たれるよう、該ローラ間径方向押し付け力必要値に対応付けられたものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の駆動力配分装置において、
前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値は、上昇時のローラ間径方向押し付け力必要値よりも小さなローラ間径方向押し付け力必要値で低下するようヒステリシスを設定したものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値を基に前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を演算により求めて決定し、この演算に際して、
該低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を、前記ローラ間径方向押し付け力必要値の立ち上がり時に0から第1段階だけ上昇させた初期値とし、
以後は、低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値よりも増大側不感帯分だけ大きな増大側基準値および減少側不感帯分だけ小さな減少側基準値を基に、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が増大側基準値以上になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ増大させ、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が減少側基準値以下になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ減少させるものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値を基に前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を演算により求めて決定し、この演算に際して、
該低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を、前記ローラ間径方向押し付け力必要値の立ち上がり時に0から第1段階だけ上昇させた初期値とし、
以後は、低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値と、この低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値よりも減少側不感帯分だけ小さな減少側基準値とを基に、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値以上になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ増大させ、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が減少側基準値以下になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ減少させるものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値を基に前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を演算により求めて決定し、この演算に際して、
該低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を、前記ローラ間径方向押し付け力必要値の立ち上がり時に0から第1段階だけ上昇させた初期値とし、
以後は、低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値よりも増大側不感帯分だけ小さな増大側基準値と、この増大側基準値よりも更に減少側不感帯分だけ小さな減少側基準値とを基に、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が増大側基準値以上になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ増大させ、前記ローラ間径方向押し付け力必要値が減少側基準値以下になるとき低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を1段階だけ減少させるものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値を基に前記低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を演算により求めて決定し、この演算に際して、
該低分解能なローラ間径方向押し付け力指令値を、前記ローラ間径方向押し付け力必要値の立ち上がり時に0から最大値に上昇させ、該ローラ間径方向押し付け力必要値の消失時に最大値から0に低下させるものであることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の駆動力配分装置において、
前記指令値分解能切り替え手段は、前記運転状態判定手段により高精度な駆動力配分制御が要求される運転状態であると判定された場合に前記ローラ間径方向押し付け力発生源の作動制御に資するべき高分解能なローラ間径方向押し付け力指令値として、前記第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力必要値を用いるものであることを特徴とする駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−11794(P2012−11794A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147112(P2010−147112)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】