説明

駆動源の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】エンジンの異常時における出力を異常の種類に応じてきめ細やかに制御する。
【解決手段】ECUは、エンジンの異常が検出されると(S100にてYES)、出力の制御に用いる指令値の上限値の減少量を異常の種類に応じて設定するステップ(S106)と、設定された減少量だけ上限値を減少するステップ(S108)と、アクセル開度センサにより検出される実際のアクセル開度が上限値以下であると(S114にてYES)、実際のアクセル開度を指令値に設定するステップ(S116)と、実際のアクセル開度が上限値より大きいと(S114にてNO)、上限値を指令値に設定するステップ(S118)と、指令値に応じてエンジンの出力を制御するステップ(S120)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関し、特に、異常が検出された場合に駆動源の出力を制限する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンなどの駆動源の異常が発生した場合に2次故障の発生などを防止するために、駆動源の出力を制限する技術が知られている。駆動源の出力は、たとえば車両が走行可能であり、かつ2次故障が発生することがないように制限される。
【0003】
特開2001−317399号公報(特許文献1)は、車両の車軸から出力する駆動力を増加する要求を伝える指示信号を出力する指示部と、車両に搭載されて車両の駆動力を発生する動力発生装置に対して、指示部からの指示信号に応じて駆動力が変化するように制御を行なう制御部と、車両における特定種類の異常を検出する異常検出部と、異常が検出されたときに、制御部で実行される制御を、予め設定された複数の異常検出時制御のうち、検出された異常の種類に対応する異常検出時制御に変更する制御変更部とを備える運転制御装置を開示する。予め設定された複数の異常検出時制御のうちの少なくとも一つは、異常が検出されてからの経過時間と、異常が検出されてからの走行距離のうち、少なくとも一方の条件に基づいて、車両の駆動力を段階的に制限する制御である。
【0004】
特許文献1に記載の運転制御装置によれば、車両における特定種類の異常が検出されたときに、予め設定された複数の異常検出時制御のうち、検出された異常の種類に対応する異常検出時制御が実行される。そのため、異常発生時にも、発生した異常の種類に応じて車両の駆動力を確保することができる。したがって、動力発生装置による駆動力の発生に影響の少ない異常の発生時には、必要以上に車両の駆動力を制限しないようにして、運転者が操作性の低下を感じるのを抑えることができる。また、異常の種類に応じて異常発生時の駆動力を確保することで、異常発生時の退避行動をとる際の安全性を高めることができる。
【特許文献1】特開2001−317399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2001−317399号公報に記載の運転制御装置は、出力を異常の種類に応じて制限したり、出力を段階的に制限したりするものに過ぎない。そのため、異常発生時における出力をきめ細かく制御して、車両の挙動および運転性を良好にするにはさらなる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、異常発生時における出力をきめ細かく制御して、車両の挙動および運転性を良好にすることができる駆動源の制御装置、制御方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る駆動源の制御装置は、車両に搭載された駆動源の異常を検出するための手段と、運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように指令値を設定するための指令値設定手段と、駆動源の異常が検出された場合、上限値の減少率を異常の種類に応じて設定するための減少率設定手段と、設定された減少率で上限値が減少するように上限値を設定するための上限設定手段と、指令値に応じて駆動源の出力を制御するための手段とを備える。第6の発明に係る駆動源の制御方法は、第1の発明に係る駆動源の制御装置と同様の要件を備える。
【0008】
第1または第6の発明によると、駆動源の出力に関する指令値は、運転者により操作される操作部の操作量に応じて設定される。この指令値は、異常が検出された場合は上限値以下になるように設定される。駆動源の異常が検出された場合、上限値の減少率が異常の種類に応じて設定される。設定された減少率で上限値が減少するように上限値が設定される。このような上限値以下に制限される指令値に応じて駆動源の出力が制御される。これにより、駆動源の異常が検出された場合は、異常の種類の応じた減少率で減少するように駆動源の出力を制限することができる。そのため、たとえば異常の種類に応じて減少率を小さくしたり大きくしたりすることにより、異常発生時における出力をきめ細かく制御することができる。その結果、車両の挙動および運転性を良好にすることができる駆動源の制御装置もしくは制御方法を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る駆動源の制御装置においては、第1の発明の構成に加え、減少率設定手段は、第1の種類の異常が検出された場合、第1の減少率を上限値の減少率に設定するための手段と、第1の種類とは異なる第2の種類の異常が検出された場合、第1の減少率とは異なる第2の減少率を上限値の減少率に設定するための手段とを含む。上限設定手段は、第1の種類の異常が検出された場合、第1の制限値まで第1の減少率で減少するように上限値を設定するための手段と、第2の種類の異常が検出された場合、第1の制限値とは異なる第2の制限値まで第2の減少率で減少するように上限値を設定するための手段とを含む。第7の発明に係る駆動源の制御方法は、第2の発明に係る駆動源の制御装置と同様の要件を備える。
【0010】
第2または第7の発明によると、第1の種類の異常が検出された場合、第1の制限値まで第1の減少率で減少するように上限値が設定される。第2の種類の異常が検出された場合、第2の制限値まで第2の減少率で減少するように上限値が設定される。これにより、異常の種類の応じた出力まで異常の種類に応じた減少率で減少するように駆動源の出力を制御することができる。そのため、駆動源の出力をよりきめ細かく制御することができる。
【0011】
第3の発明に係る駆動源の制御装置においては、第2の発明の構成に加え、第1の減少率は、第2の減少率よりも小さい。第1の制限値は、第2の制限値よりも大きい。第8の発明に係る駆動源の制御方法は、第3の発明に係る駆動源の制御装置と同様の要件を備える。
【0012】
第3または第8の発明によると、第1の種類の異常が検出された場合は、第2の種類の異常が検出された場合に比べて、小さい減少率で減少するように指令値の上限値が設定される。さらに、第1の種類の異常が検出された場合は、第2の種類の異常が検出された場合に比べて、指令値が最終的には大きい値に設定される。これにより、たとえば異常の程度が小さい場合には、大きい場合に比べて出力の制限量を小さくすることができる。そのため、必要以上に出力が制限されることがないようにすることができる。その結果、駆動源の異常が発生した場合に運転者に与え得る違和感を小さくすることができる。
【0013】
第4の発明に係る駆動源の制御装置は、車両に搭載された駆動源の異常を検出するための手段と、運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように指令値を設定するための指令値設定手段と、駆動源の異常が検出された場合、予め定められた制限値まで予め定められた減少率で減少するように上限値を設定するための手段と、操作部の操作量が制限値より小さい場合において、制限値を上限値に設定するか否かを駆動源の異常の種類に応じて選択するための手段と、指令値に応じて駆動源の出力を制御するための手段とを備える。第9の発明に係る駆動源の制御方法は、第4の発明に係る駆動源の制御装置と同様の要件を備える。
【0014】
第4または第9の発明によると、駆動源の出力に関する指令値は、運転者により操作される操作部の操作量に応じて設定される。この指令値は、異常が検出された場合は上限値以下になるように設定される。駆動源の異常が検出された場合、予め定められた制限値まで予め定められた減少率で減少するように上限値が設定される。操作部の操作量が制限値より小さくされた場合において、制限値を上限値に設定するか否かが駆動源の異常の種類に応じて選択される。これにより、駆動源の異常が検出された場合は、運転者の操作を加味した出力制限を行なうか否かを異常の種類に応じて選択することができる。そのため、異常発生時における出力を、異常の種類に応じてきめ細かく制御することができる。その結果、車両の挙動および運転性を良好にすることができる駆動源の制御装置もしくは制御方法を提供することができる。
【0015】
第5の発明に係る駆動源の制御装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加え、指令値設定手段は、アクセル開度に応じて指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように指令値を設定するための手段を含む。第10の発明に係る駆動源の制御方法は、第5の発明に係る駆動源の制御装置と同様の要件を備える。
【0016】
第5または第10の発明によると、駆動源の出力に関する指令値は、アクセル開度に応じて設定される。この指令値は、異常が検出された場合は上限値以下になるように設定される。これにより、運転者が高い出力を要求した場合であっても、異常の発生時には出力を制限することができる。そのため、2次故障が発生しないようにすることができる。
【0017】
第11の発明に係るプログラムは、第6〜10のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実現させるプログラムであって、第12の発明に係る記録媒体は、第6〜10のいずれかの発明に係る制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0018】
第11または第12の発明によると、コンピュータ(汎用でも専用でもよい)を用いて、第6〜10のいずれかの発明に係る駆動源の制御方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を、ディーゼルエンジンに適用した実施の形態について説明する。なお、ディーゼルエンジンの代わりに、ガソリンエンジンもしくはモータなどを車両の駆動源として用いるようにしてもよい。
【0021】
図1において、内燃機関(以下、エンジンという)1000は、燃料供給系100、燃焼室200、吸気系300および排気系400等を主要部として構成される直列4気筒のディーゼルエンジンシステムである。
【0022】
燃料供給系100は、サプライポンプ110、コモンレール120、燃料噴射弁130、遮断弁140、機関燃料通路800等を備えて構成される。
【0023】
サプライポンプ110は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした上で、機関燃料通路800を介してコモンレール120に供給する。コモンレール120は、サプライポンプ110から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各燃料噴射弁130に分配する。燃料噴射弁130は、その内部に電磁ソレノイドを備え、適宜開弁して燃焼室200内に燃料を噴射供給する。
【0024】
吸気系300は、各燃焼室200内に供給される吸入空気の通路(吸気通路)を形成する。排気系400は、上流から下流にかけ、排気ポート410、排気マニホールド420、触媒上流側通路430、触媒下流側通路440という各種通路部材が順次接続されて構成され、各燃焼室200から排出される排気ガスの通路(排気通路)を形成する。触媒上流側通路430および触媒下流側通路440の間に触媒450が設けられる。
【0025】
さらに、このエンジン1000には、周知の過給機(ターボチャージャ)500が設けられている。ターボチャージャ500は、シャフト510を介して連結された2つのタービンホイール520およびタービンホイール530を備える。一方のタービンホイール(吸気側タービンホイール)530は、吸気系300内の吸気に晒され、他方のタービンホイール(排気側タービンホイール)520は排気系400内の排気に晒される。このような構成を有するターボチャージャ500は、排気側タービンホイール520が受ける排気流(排気圧)を利用して吸気側タービンホイール530を回転させ、吸気圧を高めるといったいわゆる過給を行なう。
【0026】
吸気系300において、ターボチャージャ500に設けられたインタークーラ310は、過給によって昇温した吸入空気を強制冷却する。インタークーラ310よりもさらに下流に設けられたスロットル弁320は、その開度を無段階に調節することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、同吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有する。
【0027】
また、エンジン1000には、燃焼室200の上流(吸気系300)および下流(排気系400)をバイパスする排気還流通路(EGR通路)600が形成されている。このEGR通路600は、排気の一部を適宜吸気系300に戻す機能を有する。EGR通路600には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGR(Exhaust Gas Recirculation)弁610と、EGR通路600を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ620とが設けられている。
【0028】
エンジン1000の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1000の運転状態に関する信号を出力する。
【0029】
たとえば、レール圧センサ700は、コモンレール120内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。エアフローメータ720は、吸気系300内のスロットル弁320下流において吸入空気の流量(吸気量)Gaに応じた検出信号を出力する。
【0030】
また、アクセル開度センサ750はエンジン1000のアクセルペダル752に取り付けられ、同ペダルの操作量、すなわちアクセル開度Accに応じた検出信号を出力する。これら各センサは、電子制御装置(ECU)1100と電気的に接続されている。
【0031】
ECU(Electronic Control Unit)1100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびバックアップRAM、タイマーやカウンタ等を備え、これらと、A/D(Analog/Digital)変換器を含む外部入力回路および外部出力回路とが双方向性バスにより接続されて構成される。
【0032】
このように構成されたECU1100は、上記各種センサの検出信号を外部入力回路を介して入力し、これら信号に基づいてエンジン1000の燃料噴射等についての基本制御を行なう他、還元剤(還元剤として機能する燃料)添加にかかる添加タイミングや供給量の決定等に関する還元剤(燃料)添加制御等、エンジン1000の運転状態に関する各種制御を実行する。
【0033】
なお、ECU1100は複数のECUに分割するようにしてもよい。また、ECU1100により実行されるプログラムをCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記録して市場に流通させてもよい。
【0034】
図2を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1100の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現するようにしてもよく、ソフトウェアにより実現するようにしてもよい。
【0035】
ECU1100は、異常検出部1110と、指令値設定部1120と、減少率設定部1130と、上限設定部1140と、出力制御部1150とを含む。
【0036】
異常検出部1110は、エンジン1000の異常を検出する。たとえば、ターボチャージャ500の過給圧が不足するという異常、EGR弁610が閉じないという異常、エアフローメータ720の異常、コモンレール120内の燃料の圧力が過剰に高いという異常などが検出される。なお、これらの異常を検出する方法については、周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰り返さない。また、異常の種類はこれらに限らない。
【0037】
指令値設定部1120は、エンジン1000の出力を制御するために用いるアクセル開度の指令値を、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度に応じて設定する。さらに、指令値設定部1120は、エンジン1000の異常が検出された場合は、上限設定部1140により設定される上限値以下になるように指令値を設定する。すなわち、エンジン1000の異常が検出された場合は、上限値以下の範囲で実際のアクセル開度に応じて指令値が設定される。
【0038】
減少率設定部1130は、指令値の上限値の減少率を異常の種類に応じて設定する。たとえば、ターボチャージャ500の過給圧が不足するという異常、EGR弁610が閉じないという異常またはエアフローメータ720の異常が検出された場合、第1減少率が上限値の減少率に設定される。より具体的には、上限値が周期的に減少される量を表わす減少量に、第1減少量が設定される。
【0039】
一方、コモンレール120内の燃料の圧力が過剰に高いという異常が検出された場合、第1減少率よりも大きい第2減少率が上限値の減少量に設定される。より具体的には、第1減少量よりも大きい第2減少量が上限値の減少量に設定される。
【0040】
上限設定部1140は、異常の種類に応じて定められる制限値まで、設定された減少率で減少するように指令値の上限値を設定する。たとえば、ターボチャージャ500過給圧が不足するという異常、EGR弁610が閉じないという異常またはエアフローメータ720の異常が検出された場合、第1制限値まで第1減少率で上限値が減少するように設定される。一方、コモンレール120内の燃料の圧力が過剰に高いという異常が検出された場合、第1制限値よりも小さい第2制限値まで第2減少率で上限値が減少するように設定される。上限値の初期値はたとえば、アクセル開度の最大値である100%である。
【0041】
出力制御部1150は、設定された指令値に応じてエンジン1000の出力を制御する。たとえば、指令値が小さいほど燃料噴射弁130からの燃料噴射量がより少なくなるように制御することにより、エンジン1000の出力を制御する。
【0042】
図3を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1100が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0043】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU1100は、エンジン1000の異常を検出したか否かを判断する。エンジン1000の異常を検出すると(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS122に移される。
【0044】
S102にて、ECU1100は、アクセル開度の指令値の上限値を減少中であるか否かを判断する。たとえば、前回の制御サイクルにおいて上限値が減少されると、上限値が減少中であると判断される。上限値を減少中であると(S102にてYES)、処理はS106に移される。もしそうでないと(S102にてNO)、処理はS104に移される。S104にて、ECU110は、上限値を初期化する。たとえば、アクセル開度の最大値が上限値に設定される。
【0045】
S106にて、ECU1100は、上限値の減少量および制限値を異常の種類に応じて設定する。S108にて、ECU1100は、設定された減少量だけ上限値を減少する。
【0046】
S110にて、ECU1100は、上限値が異常の種類に応じて設定された制限値以下であるか否かを判断する。上限値が制限値以下であると(S110にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS114に移される。S112にて、ECU1100は、制限値を上限値に設定する。
【0047】
S114にて、ECU1100は、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度が上限値以下であるか否かを判断する。実際のアクセル開度が上限値以下であると(S114にてYES)、処理はS116に移される。もしそうでないと(S114にてNO)、処理はS118に移される。
【0048】
S116にて、ECU1100は、実際のアクセル開度を指令値に設定する。S118にて、ECU1100は、上限値を指令値に設定する。S120にて、ECU1100は、指令値に応じてエンジン1000の出力を制御する。
【0049】
S122にて、ECU1100は、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度を、指令値の上限値に設定する。上限値を減少中であった場合は、実際のアクセル開度が上限値に設定されることにより、上限値の減少が停止される。
【0050】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU1100の動作について説明する。
【0051】
エンジン1000の異常が検出されると(S100にてYES)、アクセル開度の指令値の上限値が減少中であるか否かが判断される(S102)。ここでは、上限値を減少中でない(S102にてNO)と想定する。
【0052】
この場合、アクセル開度の指令値の上限値が初期化される(S104)。この上限値の減少量および制限値が異常の種類に応じて設定される(S106)。設定された減少量だけ上限値が減少される(S108)。すなわち、異常の種類に応じて設定された減少率で上限値が減少するように上限値が設定される。
【0053】
上限値が異常の種類に応じて設定された制限値以下であると(S110にてYES)、制限値が上限値に設定される(S112)。上限値が制限値より大きいと(S110にてNO)、制限値以下になるまで上限値が繰り返し減少される(漸減される)。
【0054】
これにより、図4に示すように、異常の種類に応じた制限値まで、異常の種類に応じた減少率で上限値を減少することができる。そのため、たとえば2次故障が発生する可能性が小さい異常が検出された場合には、2次故障が発生する可能性が大きい異常が検出された場合に比べて、緩やかに上限値を減少することができる。
【0055】
アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度が上限値以下であると(S114にてYES)、実際のアクセル開度が指令値に設定される(S116)。実際のアクセル開度が上限値より大きいと(S114にてNO)、上限値が指令値に設定される(S118)。この指令値に応じてエンジン1000の出力が制御される(S120)。
【0056】
これにより、たとえば2次故障が発生する可能性が小さい異常が検出された場合には、2次故障が発生する可能性が大きい異常が検出された場合に比べて、出力を緩やかに減少することができる。そのため、2次故障が発生する可能性が小さい異常が検出された場合において、必要以上に出力を制限しないようにすることができる。また、2次故障が発生する可能性が大きい異常が検出された場合において、出力を速やかに減少することができる。その結果、異常発生時における出力をきめ細かく制御することができる。
【0057】
一方、エンジン1000の異常が検出されないと(S100にてNO)、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度が、指令値の上限値に設定される(S122)。これにより、実際のアクセル開度に応じた出力を得ることができる。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、エンジンの異常が検出されると、指令値の上限値の減少量および制限値が異常の種類に応じて設定される。さらに、異常の種類に応じて設定された制限値まで、異常の種類に応じて設定された減少率で上限値が減少するように設定される。この上限値以下になるように設定されるアクセル開度の指令値に応じて、エンジンの出力が制御される。これにより、エンジンの異常が検出された場合は、異常の種類の応じた減少率で減少するようにエンジンの出力を制限することができる。そのため、たとえば異常の種類に応じて減少率を小さくしたり大きくしたりすることにより、異常発生時における出力をきめ細かく制御することができる。その結果、車両の挙動および運転性を良好にすることができる。
【0059】
<第2の実施の形態>
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、実際のアクセル開度が制限値より小さくされた場合において、制限値を上限値に設定するか否かをエンジンの異常の種類に応じて選択する点で、前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構造については、前述の第1の実施の形態と同じである。それらの機能についても同じである。したがって、ここではそれらの詳細は説明は繰り返さない。
【0060】
図5を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1100の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現するようにしてもよく、ソフトウェアにより実現するようにしてもよい。なお、前述の第1の実施の形態と同じ機能については、同じ符号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0061】
ECU1100は、異常検出部1110と、指令値設定部1120と、減少率設定部1130と、上限設定部1140と、出力制御部1150とに加えて、選択部1160を含む。
【0062】
選択部1160は、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度が制限値より小さくされた場合において、制限値を上限値に設定するか否かをエンジンの異常の種類に応じて選択する。
【0063】
たとえば、コモンレール120内の燃料の圧力が過剰に高いという異常が検出された場合において、実際のアクセル開度が第2制限値より小さくされると、第2制限値が上限値に設定される。
【0064】
一方、たとえば、ターボチャージャ500過給圧が不足するという異常、EGR弁610が閉じないという異常またはエアフローメータ720の異常が検出された場合、実際のアクセル開度が第1制限値より小さくされても、第1制限値は上限値に設定されない。
【0065】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU1100が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは予め定められた周期で繰り返し実行される。また、前述の第1の実施の形態と同じ処理については、同じステップ番号を付してある。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0066】
S200にて、ECU1100は、アクセル開度センサ750により検出される実際のアクセル開度が制限値より小さいか否かを判断する。実際のアクセル開度が制限値より小さいと(S200にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S200にてNO)、処理はS108に移される。
【0067】
このようにすれば、図7に示すように、時間T(0)においてアクセル開度が制限値よりも小さくなった時点で、制限値を上限値に設定することができる。そのため、たとえば2次故障が発生する可能性が大きい異常が検出された場合において、一旦小さくなった出力が大きくならないようにすることができる。また、2次故障が発生する可能性が小さい異常が検出された場合において、必要以上に出力を制限しないようにすることができる。
【0068】
以上のように、本実施の形態に係る制御装置であるECUによれば、実際のアクセル開度が制限値より小さくされた場合において、制限値を上限値に設定するか否かがエンジンの異常の種類に応じて選択される。これにより、運転者の操作を加味した出力制限を行なうか否かを異常の種類に応じて選択することができる。そのため、異常発生時における出力を、異常の種類に応じてきめ細かく制御することができる。その結果、車両の挙動および運転性を良好にすることができる。
【0069】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUにより制御されるディーゼルエンジンシステムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図4】指令値の上限値の推移を示すタイミングチャート(その1)である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図7】指令値の上限値の推移を示すタイミングチャート(その2)である。
【符号の説明】
【0071】
100 燃料供給系、110 サプライポンプ、120 コモンレール、130 燃料噴射弁、200 燃焼室、300 吸気系、310 インタークーラ、320 スロットル弁、400 排気系、410 排気ポート、420 排気マニホールド、430 触媒上流側通路、440 触媒下流側通路、450 触媒、500 ターボチャージャ、510 シャフト、520,530 タービンホイール、600 排気還流通路、610 EGR弁、620 EGRクーラ、700 レール圧センサ、720 エアフローメータ、750 アクセル開度センサ、752 アクセルペダル、800 機関燃料通路、1000 エンジン、1100 ECU、1110 異常検出部、1120 指令値設定部、1130 減少率設定部、1140 上限設定部、1150 出力制御部、1160 選択部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された駆動源の異常を検出するための手段と、
運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように前記指令値を設定するための指令値設定手段と、
前記駆動源の異常が検出された場合、前記上限値の減少率を異常の種類に応じて設定するための減少率設定手段と、
設定された減少率で前記上限値が減少するように前記上限値を設定するための上限設定手段と、
前記指令値に応じて前記駆動源の出力を制御するための手段とを備える、駆動源の制御装置。
【請求項2】
前記減少率設定手段は、
第1の種類の異常が検出された場合、第1の減少率を前記上限値の減少率に設定するための手段と、
前記第1の種類とは異なる第2の種類の異常が検出された場合、前記第1の減少率とは異なる第2の減少率を前記上限値の減少率に設定するための手段とを含み、
前記上限設定手段は、
前記第1の種類の異常が検出された場合、第1の制限値まで前記第1の減少率で減少するように前記上限値を設定するための手段と、
前記第2の種類の異常が検出された場合、前記第1の制限値とは異なる第2の制限値まで前記第2の減少率で減少するように前記上限値を設定するための手段とを含む、請求項1に記載の駆動源の制御装置。
【請求項3】
前記第1の減少率は、前記第2の減少率よりも小さく、
前記第1の制限値は、前記第2の制限値よりも大きい、請求項2に記載の駆動源の制御装置。
【請求項4】
車両に搭載された駆動源の異常を検出するための手段と、
運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように前記指令値を設定するための指令値設定手段と、
前記駆動源の異常が検出された場合、予め定められた制限値まで予め定められた減少率で減少するように前記上限値を設定するための手段と、
前記操作部の操作量が前記制限値より小さくされた場合において、前記制限値を前記上限値に設定するか否かを前記駆動源の異常の種類に応じて選択するための手段と、
前記指令値に応じて駆動源の出力を制御するための手段とを備える、駆動源の制御装置。
【請求項5】
前記指令値設定手段は、アクセル開度に応じて前記指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は前記上限値以下になるように前記指令値を設定するための手段を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の駆動源の制御装置。
【請求項6】
車両に搭載された駆動源の異常を検出するステップと、
運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように前記指令値を設定するステップと、
前記駆動源の異常が検出された場合、前記上限値の減少率を異常の種類に応じて設定するステップと、
設定された減少率で前記上限値が減少するように前記上限値を設定するステップと、
前記指令値に応じて前記駆動源の出力を制御するステップとを備える、駆動源の制御方法。
【請求項7】
前記上限値の減少率を設定するステップは、
第1の種類の異常が検出された場合、第1の減少率を前記上限値の減少率に設定するステップと、
前記第1の種類とは異なる第2の種類の異常が検出された場合、前記第1の減少率とは異なる第2の減少率を前記上限値の減少率に設定するステップとを含み、
前記上限値を設定するステップは、
前記第1の種類の異常が検出された場合、第1の制限値まで前記第1の減少率で減少するように前記上限値を設定するステップと、
前記第2の種類の異常が検出された場合、前記第1の制限値とは異なる第2の制限値まで前記第2の減少率で減少するように前記上限値を設定するステップとを含む、請求項6に記載の駆動源の制御方法。
【請求項8】
前記第1の減少率は、前記第2の減少率よりも小さく、
前記第1の制限値は、前記第2の制限値よりも大きい、請求項7に記載の駆動源の制御方法。
【請求項9】
車両に搭載された駆動源の異常を検出するステップと、
運転者により操作される操作部の操作量に応じて駆動源の出力に関する指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は上限値以下になるように前記指令値を設定するステップと、
前記駆動源の異常が検出された場合、予め定められた制限値まで予め定められた減少率で減少するように前記上限値を設定するステップと、
前記操作部の操作量が前記制限値より小さくされた場合において、前記制限値を前記上限値に設定するか否かを前記駆動源の異常の種類に応じて選択するステップと、
前記指令値に応じて駆動源の出力を制御するステップとを備える、駆動源の制御方法。
【請求項10】
前記指令値を設定するステップは、アクセル開度に応じて前記指令値を設定し、かつ異常が検出された場合は前記上限値以下になるように前記指令値を設定するステップを含む、請求項6〜9のいずれかに記載の駆動源の制御方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラム。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれかに記載の制御方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−13893(P2009−13893A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177365(P2007−177365)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】