説明

高交換容量過フッ化イオン交換樹脂、その調製方法、及び使用

本発明は、テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル含有短ペンダント基を含むビニルエーテルモノマーと、臭素含有ペンダント基を含むビニルエーテルモノマーとを共重合させることによって調製される、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル含有短ペンダント基を含み、ここで、コポリマー中の全てのモノマー単位に基づくと、テトラフルオロエチレンモノマーのmol%は50〜85%であり、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル含有短ペンダント基を含むビニルエーテルモノマーのmol%は5〜49%であり、かつ臭素含有ペンダント基を含むビニルエーテルモノマーのmol%は1〜10%である、高交換容量過フッ化樹脂を提供する。そのような過フッ化樹脂から調製される過フッ化イオン交換膜は、様々な化学的媒体に対する抵抗、高いイオン交換容量、高い伝導度、高い機械的強度、高いサイズ安定性、低い膜電気抵抗、及び長い耐用年数を有しており、また、燃料電池又は高温燃料電池中で適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含むポリマー材料の分野に属し、かつ高交換容量過フッ化イオン交換樹脂、その調製方法、及び使用に関し、特に、多変量共重合化過フッ化イオン交換樹脂、その調製方法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
デュポン社が過フッ化スルホン酸樹脂を過フッ化スルホン酸イオン交換膜に加工し、また、そのような膜を塩素−アルカリ工業やプロトン交換膜燃料電池に適用した1970年代以降、過フッ化スルホン酸イオン交換樹脂は世界中で広く研究されている。
【0003】
イオン交換基、特にスルホン酸基やカルボン酸基を含むフッ素含有イオン交換膜は、化学分解に対するその抵抗性のために、燃料電池や塩素−アルカリ電解質電池中で使用することができるより好適なイオン交換膜である。米国特許第3282875号は、フッ化スルホニル含有モノマーの合成及びスルホン酸樹脂の調製に関してデュポン社によって開示された最初の文書である。この特許では、水性系でのエマルジョン重合が行なわれており、また、フッ化スルホニルペンダント基を含有する機能性モノマーは、今日広く利用されている、式:FO2SCF2CF2OCF(CF3)CF2OCF=CF2を有している。米国特許第3560568号は、フッ化スルホニル短ペンダント基含有モノマー、スルホン酸樹脂の調製、及びその特性に関してデュポン社によって開示された特許である。この特許において、フッ化スルホニル含有モノマーは、式:FO2SCF2CF2OCF=CF2を有している。しかしながら、この調製方法の手順は、面倒であるのに収率が低い。米国特許第3884885号及び米国特許第3041317号には、RfCF=CFSO2Fという新しい構造式の過フッ化フッ化スルホニルモノマーから調製されるスルホン酸樹脂が記載された。そのようなモノマーは、反応活性が低い。米国特許第4358545号及び米国特許第4417969号は、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーによって開示された特許であり、これは主に、短ペンダント基モノマー(CF2=CFOCF2CF2SO2F)とテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有ビニルモノマーとの共重合によって調製されるコポリマーの特性及び使用に関するものである。この方法に従って得られるスルホン酸樹脂を用いて溶液コーティングによって薄いフィルムを調製するのは極めて困難であり、得られるフィルムは、米国特許第4661411号及び米国特許第5718647号に記載されているように、十分な機械的強度を持たない。米国特許第4940525号には、フッ化ビニリデンモノマー及びフッ化スルホニル短ペンダント基含有モノマーからコポリマー樹脂を調製するための方法が開示されており、ここで、該コポリマー樹脂は過フッ化構造を失っているため、腐食に対する抵抗性が乏しい。欧州特許第028969号には、EW値の低いスルホン酸樹脂の調製が開示されており、ここで、使用されるフッ化スルホニルモノマーは、今日広く採用されており、かつそのEW値が575〜800であるモノマー構造を有している。欧州特許第1451233号には、ミニエマルジョン重合によってEW値の低い樹脂を調製するための方法が報告されている。米国特許第7022428号、米国特許第7041409号、及び米国特許第6861489号には、ミニエマルジョン重合を採用し、かつ重合時にジビニルエーテル含有モノマーを導入することによってEW値の低い樹脂が調製されることが報告されており、ここで、このジビニルエーテル含有モノマーの式は、CF2=CF−O−CF2CF2CF2−OCF=CF2であり、そのEW値は625〜850である。英国特許第1034197号には、スルホン酸基を含有する過フッ化スルホン酸ポリマーが開示され、また、欧州特許第1091435号には、ブロックスルホン酸樹脂の構造が開示されており、ここで、2つの該ポリマーは、テトラフルオロエチレンモノマーとフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(例えば、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F)の共重合、又は二重結合を含むが、機能的イオン交換ペンダント基(例えば、米国特許第4940525号)を含まない他のモノマー成分の上記重合系へのさらなる導入によって調製される。重合法としては、溶液重合(米国特許第2393967号、米国特許第3041317号など)、エマルジョン重合(米国特許第4789717号、米国特許第4864006号など)、マイクロエマルジョン重合(例えば、米国特許第6639011号、欧州特許第1172382号、米国特許第5608022号など)、分散重合、懸濁重合、ミニエマルジョン重合(欧州特許第1451233号)などが挙げられる。フッ化スルホニルの適当な加水分解によって遊離スルホン酸基を得た後、フッ化スルホニルペンダント基を含有するこれらのポリマーは、燃料電池、電解質電池、拡散透析、触媒反応、貴金属回収などの分野で適用されるべきイオン交換膜として機能することができる。
【0004】
過フッ化スルホン酸樹脂の真っ先に挙げられる用途の1つは、燃料電池中に適用することができる膜材料として機能することである。この種のイオン交換膜の重要な要件は、そのイオン伝導度である。伝導度を高めるために、当技術分野で公知の通常の慣行は、スルホン酸樹脂のイオン交換容量を増加させることであるが、機械特性は、イオン交換容量が増加するにつれて低下する。交換容量の高いイオン交換樹脂は、過酷な条件の下で水に溶解することすらできる。欧州特許第0031724号に記載されているように、電解槽で使用される膜のイオン交換容量は、0.5〜1.6mmol/g(乾燥樹脂)、好ましくは0.8〜1.2mmol/gであるべきである。総イオン交換容量が0.5mmol/gよりも低い場合、膜の電気抵抗はより高くなり、その結果、電解槽の電圧及びエネルギー消費も高くなって、工業的用途を満たさない。総イオン交換容量が1.6mmol/gよりも高い場合、膜材料は、機械特性が悪く、その結果、寿命及び利用が限られる。交換容量を最大限まで増加させ、機械特性の喪失を最大限まで軽減するために、いくつかの代替法は、複合膜を利用することである。例えば、米国特許第5654109号及び米国特許第5246792号では、二層又は三層の膜材料が複合された。ここで、EW値の高い内膜は機械的強度の付与に関与しており、その一方で、EW値の低い外膜(複数可)はイオン伝導に関与している。米国特許第5981097号では、イオン交換容量の異なる多層膜が組み合わされ、一方、米国特許第5082472号では、2軸延伸ポリテトラフルオロエチレン多孔性膜とEW値の低い樹脂とを組み合わせることによって複合膜が得られた。上記の方法は、膜の機械特性をある程度保持するが、これらの方法で、イオン伝導の均一性及び伝導度を高めるのは比較的難しい。
【0005】
イオン交換膜の機械的強度及びサイズ安定性を高めるために、1つの解決法は、架橋可能な基を樹脂構造に導入するという当技術分野で周知の方法によって樹脂構造を修飾することである。例えば、米国特許第20020014405号及び米国特許第6767977号で用いられているように、ジエンモノマーを樹脂構造に導入した。中国特許第200480033602.1号には、ニトリル基を重合系に導入するための方法が開示されており、ここで、ニトリル基は、処理後に架橋され、その結果、膜の機械的強度が高まった。中国特許第200480033631.8号には、臭素、塩素、又はヨウ素基を重合系に導入し、その後、電子ビームの存在下で架橋するための方法が開示されている。代替の解決法は、コモノマーのフッ化スルホニルペンダント基を短縮し、それにより、イオン交換容量を増加させると同時に、膜材料の機械的強度を高めることである。しかしながら、米国特許第6680346号に記載されているように、短ペンダント基フッ化スルホニル含有モノマーから合成されたポリマーは、様々な重合条件による環化を受け、これにより、重合時の連鎖移動が生じ、その結果、材料の分子量及び機械的強度が低下する。短ペンダント基スルホニル含有モノマー対テトラフルオロエチレンモノマーのモル比が増大するにつれて、該副反応がさらに促進され、それにより、イオン交換容量及び材料安定性の増大が制限される可能性がある。
【0006】
過フッ化スルホン酸樹脂の最も重要な用途である膜材料として、過フッ化スルホン酸樹脂を燃料電池に適用する場合、この種の膜電極の重要な要件は、その化学安定性と、一酸化炭素中毒に対する電極触媒の抵抗を高める能力であり、ここで、該膜電極は、イオン交換膜と触媒層から形成されている。今日広く研究され、例証されている燃料電池の膜電極は、通常、25℃〜80℃の作業温度を有する。環境中のCO含量が10ppmに達すると、膜電極の触媒層は、中毒の発生に曝される可能性がある。例えば、触媒の活性及び利用をいかにして高めるかということ、一酸化炭素中毒に対する電極触媒の抵抗をいかにして高めるかということなどのような、ほとんど解決不可能な、低温燃料電池の膜電極の多くの問題を克服するために、有効な解決策は、燃料電池の操作温度を高めることである。温度が100℃を超えると、COに対する膜電極触媒の抵抗は約1000ppmに増大する。高温プロトン交換膜の開発は、燃料電池の商業化をより良く満足させるために、燃料電池の電気効率をより良く改善し、かつ電池システムのコストをより良く低下させることができる。現在のところ、燃料電池を研究している世界の主要な国々は、大量の人的資源と物的資源をこの研究に投入し始めている。長いペンダント基を含む現在のスルホン酸樹脂は、高温で使用するための要件を満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル含有短ペンダント基と臭素含有ペンダント基とを含み、かつ高いイオン交換容量と優れた機械特性を有する高容量過フッ化イオン交換膜を提供することである。本発明の別の目的は、上記の高交換容量過フッ化樹脂を調製するための方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、上記の高交換容量過フッ化樹脂から調製されたイオン交換膜を提供することである。本発明のさらなる目的は、上記のイオン交換膜を含む燃料電池又は電解質電池を提供することである。本発明のまたさらなる目的は、上記の高交換容量過フッ化樹脂の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、以下に記載するような技術的解決策を利用することによって達成することができる。
【0009】
一態様では、本発明は、テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーとの多変量共重合によって調製される高交換容量過フッ化イオン交換樹脂を提供する。そのような樹脂は、以下の式(I)に示すような反復単位を含む。
【化1】

(式中、nは0〜3の整数、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数であり;a、b、及びcは、それぞれ、3〜15の整数であり、一方、a’、b’、及びc’は、それぞれ、1〜3の整数であり;x/(x+y+z)=0.2〜0.7であり、y/(x+y+z)=0.2〜0.79であり、z/(x+y+z)=0.01〜0.1である(モル比)。)
【0010】
構造の異なる該2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、それぞれ、以下に示すような式を有することが好ましい。
【化2】

【0011】
該臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、以下の式を有する。
【化3】

(式中、n=0〜3、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数である。)
【0012】
好ましくは、該樹脂中の各重合モノマーの分子パーセントは、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが50〜85%であり;構造の異なる該2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが5〜49%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが1〜10%である。
【0013】
さらに、該樹脂中の各重合モノマーの好ましい分子パーセントは、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが70〜80%であり;構造の異なる該2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが15〜29%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが1〜5%である。
【0014】
また、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)及び(2)の重合モノマーのモル比は、0.2〜0.8:0.8〜0.2、好ましくは0.4〜0.6:0.6〜0.4である。
【0015】
別の態様では、本発明は、上記の高交換容量過フッ化樹脂の調製方法であって、開始剤の存在下の、テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーとを重合に供することを含む方法を提供することである。好ましくは、該重合の反応時間は1〜8時間であり、反応温度は10〜80℃であり、かつ反応圧力は2〜10MPaである。
【0016】
好ましくは、該開始剤は、N22、ペルフルオロアルキルペルオキシド、及びペルスルフェートの群から選択される1以上のものであってもよい。
【0017】
また、該ペルフルオロアルキルペルオキシドは、ペルフルオロアルキルアシルペルオキシド、ペルフルオロアルコキシアシルペルオキシド、ペルオキシド化部分がフルオロアルキルアシルを含有するペルオキシド、及びペルオキシド化部分がフルオロアルコキシアシルを含有するペルオキシドの群から選択される1以上のものであってもよく;該ペルスルフェートは、過硫酸アンモニウム、アルカリ金属ペルスルフィド、及びアルカリ土類金属ペルスルフィドの群から選択される1以上のものであってもよい。
【0018】

【0019】
また、該調製方法は、水相で行なわれるエマルジョン重合の工程を含んでいてもよい。
【0020】
好ましくは、エマルジョン重合の工程において、乳化剤は、アニオン性乳化剤、例えば、脂肪酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、及びアルキルアリールスルホン酸ナトリウム;並びに非イオン性乳化剤、例えば、アルキルフェノールポリエーテルオール、例えば、ノニルフェノールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸、及びポリオキシエチレン脂肪酸エーテルから選択される1以上のものであってもよい。
【0021】
さらに、エマルジョン重合の工程において、水中の乳化剤の重量パーセント濃度は0.1〜20%であり、水中の構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの重量パーセント濃度は5〜30%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの重量パーセント濃度は1〜12%である。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、上記の高交換容量過フッ化樹脂から調製されるイオン交換膜を提供する。
【0023】
別の一態様では、本発明は、上記のイオン交換膜を含む燃料電池又は電解質電池装置を提供するものであり;該燃料電池は、好ましくは、プロトン膜燃料電池又は高温燃料電池、より好ましくは、高温プロトン膜燃料電池であり;該電解質電池は、好ましくは、塩素−アルカリ電解質電池である。
【0024】
また別な態様では、本発明は、燃料電池又は電解質電池装置のイオン交換膜の調製における上記の高交換容量過フッ化樹脂の使用を提供するものであり;該燃料電池は、好ましくは、プロトン膜燃料電池又は高温燃料電池、より好ましくは、高温プロトン膜燃料電池であり;該電解質電池は、好ましくは、塩素−アルカリ電解質電池であり;臭素ペンダント基は、使用前に環化によって化学的に架橋されていることが好ましい。
【0025】
従来技術と比較して、本発明は、少なくとも以下の利点を有する。
1.本発明の過フッ化樹脂は、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含み、これにより、従来技術ではイオン交換容量と機械的強度が相容れないという対立が解消され、高いイオン交換容量と優れた機械特性を同時に有する過フッ化樹脂が提供される。
2.本発明の過フッ化樹脂は、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基とシアノペンダント基とを含み、これにより、短ペンダント基フッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーの重合時の連鎖移動のために、得られる樹脂分子の収率が十分には高くないという問題が解決された。ここで、詳細な反応機構は、以下に記載の通り公知である:まず、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを重合時に利用し、この2種類のモノマーが互いに協調的に作用する;次に、重合系において、既に存在する臭素含有ビニルエーテルモノマーが、他の2種類のビニルエーテルモノマーと相互作用すると同時に、重合に加わる。これらの異なる種類のビニルエーテルの存在は、高分子量を得ることができるほど相乗的に進行するように重合を推進し、これにより、連鎖移動による環化が消失する。
3.本発明は、テトラフルオロエチレン(TFE)を、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有モノマーとを用いる多変量共重合に供して、高い化学安定性、高いイオン交換容量、及び高温での優れた機械的安定性を有する高分子量の高交換容量過フッ化樹脂を得る。
【0026】
本発明の高交換容量過フッ化樹脂を利用して、燃料電池(例えば、高温燃料電池)、塩素−アルカリ電解質電池、及び他の装置のイオン交換膜を調製することができる。そのような樹脂から調製される膜材料は、高い電流効率、低い膜電気抵抗、及び比較的高い機械的強度を有する。
【0027】
本発明を以下で詳細に記載する。
【0028】
本発明は、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルと臭素ペンダント基とを含む高交換容量過フッ化交換樹脂を提供する。そのような過フッ化樹脂は、テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基を含有するビニルエーテルモノマーの多変量共重合によって調製される。このポリマー鎖の分子式は、以下の通りである。
【化4】

(式中、nは0〜3の整数、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数であり;a、b、及びcは、それぞれ、3〜15の整数であり、一方、a’、b’、及びc’は、それぞれ、1〜3の整数であり;x/(x+y+z)=0.2〜0.7であり、y/(x+y+z)=0.2〜0.79であり、z/(x+y+z)=0.01〜0.1である。)
【0029】
該樹脂中の各重合モノマーのモルパーセントについては、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが50〜85%であり;フッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが5〜49%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが1〜10%である。
【0030】
好ましくは、該樹脂中の各重合モノマーの分子パーセントは、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが70〜80%であり;フッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが15〜29%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが1〜5%である。
【0031】
構造の異なる該2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、それぞれ、以下に示すような式を有する。
【化5】

【0032】
該臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、以下の式を有する。
【化6】

(式中、n=0〜3、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数である。)
【0033】
好ましくは、テトラフルオロエチレン対フッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー対臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの比は、50〜85:5〜49:1〜10(モル比)である。構造の異なるフッ化スルホニル短ペンダント基を含有する樹脂中の2種類のビニルエーテルモノマー((1)及び(2))の重合モノマーのモル比は、0.2〜0.8:0.8〜0.2(モル比)である。好ましくは、構造の異なるフッ化スルホニル短ペンダント基を含有する樹脂中の2種類のビニルエーテルモノマー((1)及び(2))の重合ユニットのモル比は、0.4〜0.6:0.6〜0.4(モル比)である。
【0034】
上記の高交換容量過フッ化樹脂の数−平均分子量は、100,000〜600,000、好ましくは、150,000〜300,000、最も好ましくは、180,000〜250,000であってもよい。上記の高交換容量過フッ化樹脂の分子量分布値(すなわち、重量−平均分子量対数−平均分子量の比)は1.5〜2.0であってもよい。
【0035】
本発明は、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む上記の高交換容量過フッ化樹脂の調製方法を提供する。そのような調製方法は、開始剤の存在下の、テトラフルオロエチレンモノマーと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーとを10〜80℃で共重合(重合)に供することによって、該過フッ化樹脂を生成させる。該重合の反応時間は1〜8時間であり、反応圧力は2〜10MPaである。
【0036】
上記の調製方法において、開始剤は、当技術分野で周知の開始剤か、又は自家製の開始剤かのいずれかであってもよい。
【0037】
該開始剤は、N22、ペルフルオロアルキルペルオキシド、又はペルスルフェートから選択される。
【0038】
好ましくは、該ペルフルオロアルキルペルオキシドは、ペルフルオロアルキルアシルペルオキシド、ペルフルオロアルコキシアシルペルオキシド、ペルオキシド化部分がフルオロアルキルアシルを含有するペルオキシド、及びペルオキシド化部分がフルオロアルコキシアシルを含有するペルオキシドを含む。

【0039】
好ましくは、該ペルスルフェートは、過硫酸アンモニウム、アルカリ金属ペルスルフィド、及びアルカリ土類金属ペルスルフィドを含み;過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムがより好ましい。
【0040】
好ましくは、樹脂中のテトラフルオロエチレン重合モノマー対構造の異なるフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマー対臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーのモル比は、50〜85:5〜49:1〜10である。
【0041】
樹脂中で、構造の異なるフッ化スルホニル短ペンダント基を含有する2種類のビニルエーテル重合ユニット((1)及び(2))のモル比は、好ましくは0.2〜0.8:0.8〜0.2である。より好ましくは、構造の異なるフッ化スルホニル短ペンダント基を含有する2種類のビニルエーテル重合ユニット((1)及び(2))のモル比は、0.4〜0.6:0.6〜0.4である。
【0042】
好ましくは、上記の共重合は、水相で行なわれるエマルジョン重合である。エマルジョン重合の手順を以下で詳細に記載する。
【0043】
1)容器を掃除した後、純水と、異なる部の2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、乳化剤とを反応容器に投入する。ここで、水中の乳化剤の総重量パーセント濃度は0.1〜20%とし、水中のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの総重量パーセント濃度は5〜30%とし、かつ水中の臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの重量パーセント濃度は1〜12%とする。
【0044】
該乳化剤は、アニオン性乳化剤及び/又は非イオン性乳化剤から選択される1以上のものを含む。アニオン性乳化剤は、脂肪酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルアリールスルホン酸ナトリウムなどを含み;非イオン性乳化剤は、アルキルフェノールポリエーテルオール、例えば、ノニルフェノールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸、及びポリオキシエチレン脂肪酸エーテルを含む。上記の乳化剤は、別々に又は組み合わせて使用してもよい。
【0045】
2)圧力が2〜10MPaに達するまで、テトラフルオロエチレンモノマーを気体計量タンクを通して反応容器に投入する。
【0046】
3)反応容器を10〜80℃の温度に加熱した後、開始剤を計量ポンプを通して反応系に投入して反応を開始させ、その後、テトラフルオロエチレンモノマー及び開始剤を反応容器に断続的に再投入して、2〜10MPaの圧力を維持する。ここで、反応時間は1〜8時間とする。
【0047】
4)反応の最後に、開始剤及びテトラフルオロエチレンモノマーを反応容器に投入するのを止め、通気し、通気管路を通して未反応のテトラフルオロエチレンモノマーを回収し、反応容器のタンクを再利用して、アイボリーホワイトの凝集スラリーを得;排出システムを通して液体スラリーを後処理装置に排出し;スラリーを高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得;粉末をオーブンにて100℃で乾燥させて、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む高イオン交換容量過フッ化イオン交換樹脂を得;リサイクリングシステムを通して濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用する。
【0048】
工程1)では、2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)及び(2)の比は、0.2〜0.8:0.8〜0.2(モル比)であり;好ましくは、2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)及び(2)の比は、0.4〜0.6:0.6〜0.4(モル比)である。
【0049】
該開始剤は、N22、ペルフルオロアルキルペルオキシド、又はペルスルフェートから選択され;当業者は、開始剤の濃度を決定することができる。
【0050】
該ペルフルオロアルキルペルオキシドは、ペルフルオロアルキルアシルペルオキシド、ペルフルオロアルコキシアシルペルオキシド、ペルオキシド化部分がフルオロアルキルアシルを含有するペルオキシド、又はペルオキシド化部分がフルオロアルコキシアシルを含有するペルオキシドを含む。
【0051】
該ペルスルフェートは、硫酸アンモニウム、アルカリ金属ペルスルフィド、又はアルカリ土類金属ペルスルフィドを含み;過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムが好ましい。
【0052】
本発明によって記載されたような構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む高イオン交換容量過フッ化イオン交換樹脂を、燃料電池又は高温燃料電池のイオン交換膜の調製に適用してもよい。
【0053】
本発明によって記載されたような構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む高イオン交換容量過フッ化イオン交換樹脂の適用とは、具体的には、プロトン膜燃料電池、高温プロトン膜燃料電池、塩素−アルカリ電解質電池、及びその他の装置のイオン交換膜として機能することを意味する。そのようなイオン交換膜は、高い化学安定性、高い電流効率、低い膜電気抵抗、高いサイズ安定性、及び比較的高い機械的強度などを有する。
【0054】
本発明によって記載されたような構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む高イオン交換容量過フッ化イオン交換樹脂の適用とは、そのような樹脂を、溶液鋳造法によって適当な厚さの過フッ化スルホン酸イオン交換膜に、又は溶融押出し装置での高温溶融押出しによって適当な厚さの膜材料に調製することができることを意味し得る。その後、当技術分野で周知の手段、例えば、放射線架橋、熱処理架橋、光開始剤の導入によって開始される架橋、又はラジカル開始剤の導入によって開始される架橋に従って臭素ペンダント基を脱臭素化することにより、膜材料を架橋してもよい。次に、フッ化スルホニルペンダント基をスルホン酸ペンダント基に変換することができる。得られた過フッ化イオン交換膜は、燃料電池、高温燃料電池、又は塩素−アルカリ電解質電池に非常にうまく適用することができる。なぜなら、該膜は、様々な化学媒体に対する抵抗を有するだけでなく、高い伝導度、高い機械的強度、高いサイズ安定性、及び低い膜電気抵抗も有するからである。
【0055】
本発明によって記載されたような構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む高イオン交換容量過フッ化イオン交換樹脂の燃料電池への適用に関して、臭素ペンダント基の脱臭素化に基づく架橋はさらに、イオン交換膜の保水力、サイズ安定性、及び機械的強度を高め、また、膜材料の有用性も効果的に高め、それにより、膜材料の耐用年数をさらに延長することができる。
【0056】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。
【0057】
本発明において合成される過フッ化イオン交換樹脂は、0.5〜2.6mmol/g(乾燥樹脂)のイオン交換容量を有しており、イオン交換容量がより小さければ、機械的強度はより大きくなるという規則に従っている。ここで、1.28〜1.95mmol/gのイオン交換容量を有する非架橋樹脂の機械的強度は20MPaを超える。得られた膜材料は、優れた熱安定性を有し、その機械的強度は、架橋処理後に30MPaを超える。室温で検出される膜材料の伝導度は0.2S/cmよりも高いが、100℃の温度及び45%の湿度で検出される伝導度は0.05S/cmよりもさらに高い。これは、燃料電池のプロトン膜材料及び塩素−アルカリ電解質膜材料の要件を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態中の過フッ化樹脂のF19 NMRスペクトログラムを示す。
【図2】本発明の実施形態中の過フッ化樹脂の赤外線スペクトログラムを示す。
【図3】本発明の実施形態中の過フッ化樹脂の赤外線スペクトログラムを示す。
【図4】本発明の実施形態中の過フッ化樹脂のF19 NMRスペクトログラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明は、実施形態によって以下でさらに説明されているが、これらの実施形態によって限定されるものではない。特に明記しない限り、全ての実施例で用いられる反応容器は、オートクレーブ内部に温度センサー、圧力センサー、加熱循環システム、冷却循環システム、撹拌モーター、内部冷却管、液体計量ポンプ、気体供給入口弁、液体供給入口弁、及び材料排出弁を備えた10Lのステンレス製オートクレーブである。
【0060】
特に明記しない限り、以下の実施例のイオン交換容量は全て、フッ化スルホニルからスルホン酸への加水分解の後に測定した。
【0061】
本発明の合成プロセスで用いられるペルフルオロアルキル開始剤は、当技術分野で公知の技術に従って調製することができ、推奨される調製方法は、参照までに、J.Org.Chem.,1982,47(11);2009−2013に見出すことができる。
【0062】
本発明の合成プロセスで用いられる過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、及びN2F2ガスは購入することができ、その場合、使用される過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムは、China National Medicines Corporation Ltdから購入することができる。一方、N2F2ガスは、Dongyue Chemicals Co.,Ltd.から市販で入手可能である。
【0063】
本発明の合成プロセスで用いられるテトラフルオロエチレンモノマーは、Shandong Dongyue Polymer Materials Co.,Ltd.から購入することができる。フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、米国特許第3560568号及び同第6624328号に記載されているような調製方法に従って調製することができる。本発明では、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、中国特許出願第200910229444.1号、中国特許出願第200910229446.0号、及び中国特許出願第200910230218.5号に従って得られた。臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、欧州特許第0380129号及び欧州特許第0194862号に記載されているような調製方法に従って調製することができる。
【実施例】
【0064】
実施例1
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、100gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートと、乳化剤としての125gのノニルフェノールポリオキシエチレンエーテルNP−10とを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して500gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2−CF2−SO2F)と、650gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2−CF2−CF2CF2−SO2F)と、405gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2−Br)とを投入した。圧力が2.9MPaに達するまで、反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を20℃に加熱し、計量ポンプを通して2.6gのペルフルオロブタノイルペルオキシド(CF3CF2CF2CO−OO−CCF2CF2CF3)を投入して、重合を開始させ、テトラフルオロエチレンモノマー(CF2=CF2)を断続投入して、2.9MPaの反応圧力を維持し、このシステムに0.75gの開始剤を15分おきに添加した。2時間後、開始剤の添加を止めたが、反応を15分間進行させておき、その後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0065】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR及びIR分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは62.71%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは16.5%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは16.3%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは4.49%であり、かつ総イオン交換容量は1.77mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が401℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm-1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0066】
実施例2
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、220gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートとを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して500gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2CF2−SO2F)と、405gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2−SO2F)と、225gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2CF2Br)とを投入した。圧力が2.9MPaに達するまで、反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を35℃に加熱し、計量ポンプを通して8.0gのペルフルオロプロポキシプロピルペルオキシド(CF3CF2CF2OCF(CF3)CO−OO−CCF(CF3)OCF2CF2CF3)を投入して、重合を開始させ、テトラフルオロエチレンモノマー(CF2=CF2)を断続投入して、2.9MPaの反応圧力を維持し、このシステムに2.3gの開始剤を25分おきに添加した。2.5時間後、開始剤の添加を止めたが、反応を25分間進行させておき、その後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0067】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR(図1に示したもの)及びIR分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは73.8%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは15%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは9%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは2.2%であり、かつ総イオン交換容量は1.53mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が405℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm-1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0068】
実施例3
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、120gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートと、乳化剤としての95gのノニルフェノールポリオキシエチレンエーテルNP−10とを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して300gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2CF2−SO2F)と、610gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2−SO2F)と、250gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2Br)とを投入した。圧力が3.2MPaに達するまで反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を80℃に加熱し、計量ポンプを通して320gの10%過硫酸アンモニウム水溶液を投入して、重合を開始させ、テトラフルオロエチレンモノマー(CF2=CF2)を断続投入して、3.2MPaの反応圧力を維持し、3時間後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0069】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR及びIR(図2に示したもの)分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは75.7%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは8.9%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは12.28%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは3.12%であり、かつ総イオン交換容量は1.34mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が395℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm-1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;940cm-1は−CF3の振動から生じた;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0070】
実施例4
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、180gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートと、乳化剤としての45gのノニルフェノールポリオキシエチレンエーテルNP−10とを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して300gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2CF2−SO2F)と、400gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2−SO2F)と、250gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF(CF3)OCF2CF2Br)とを投入した。圧力が2.7MPaに達するまで反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を20℃に加熱し、気体流量計の制御下で容器中にN22を投入して、重合を開始させ、テトラフルオロエチレンモノマー(CF2=CF2)を投入して、2.7MPaからの反応圧力の漸増を維持し、このシステムに開始剤N22を断続的に添加した。2時間後、容器の反応圧力は3.0MPaに達した。開始剤の添加を止めたが、反応を1分間進行させておき、その後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0071】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR及びIR(図3に示したもの)分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは74.5%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは10.5%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは13.79%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは1.21%であり、かつ総イオン交換容量は1.54mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が387℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm-1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0072】
実施例5
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、乳化剤の215gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートとを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して780gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2CF2−SO2F)と、720gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2−SO2F)と、650gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2Br)とを投入した。圧力が2.8MPaに達するまで反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を25℃に加熱し、気体流量計の制御下で容器中にN22を投入して、重合を開始させ、テトラフルオロエチレンモノマー(CF2=CF2)を投入して、2.8MPaからの反応圧力の漸増を維持し、このシステムに開始剤N22を断続的に添加した。2時間後、容器の反応圧力は3.2MPaに達した。開始剤の添加を止めたが、反応を1分間進行させておき、その後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0073】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR(図4に示したもの)及びIR分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは67.14%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは14.2%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは11.46%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは7.24%であり、かつ総イオン交換容量は1.44mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が384℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm−1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;940cm-1は、−CF3の振動から生じた;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0074】
実施例6
反応容器を掃除し、5.0Lの脱イオン水と、225gの乳化剤ナトリウムラウリルベンゼンスルフェートとを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して420gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2CF2−SO2F)と、265gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2−SO2F)と、350gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2CF2CF2Br)とを投入した。圧力が5.2MPaに達するまで反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。

2時間後、開始剤の添加を止めたが、反応を45分間進行させておき、その後、テトラフルオロエチレンモノマーの添加を止めた。反応容器を冷却循環システムで冷却し、同時に、未反応のテトラフルオロエチレンモノマーをリサイクリングシステムで回収した。容器中のアイボリーホワイトのスラリーを底面の排出弁を通して後処理システムに排出し、高速剪断し、濾過により分離して、白色のポリマー粉末を得た。その後、これをオーブンにて100℃で乾燥させて、フッ化スルホニル短ペンダント基と臭素ペンダント基とを含む過フッ化イオン交換樹脂を最終的に得た。濾液中のフッ化スルホニル含有ビニルエーテルモノマーと臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーを再利用のためにリサイクリングシステムを通して回収した。
【0075】
得られたポリマーのデータ:F19 NMR及びIR分析により、得られた生成物は多成分コポリマーであることが分かった。フッ素のNMR積分値から、ポリマー構造中、テトラフルオロエチレン重合モノマーの分子パーセントは80%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)の分子パーセントは8.2%であり、フッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)の分子パーセントは9.92%であり、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの分子パーセントは1.88%であり、かつ総イオン交換容量は1.27mmol/g(乾燥樹脂)であることが示唆された。TGAの結果は、窒素雰囲気における樹脂の分解温度(Td)が387℃であることを示した;IRスペクトログラム:1468cm-1は、フッ化スルホニルのS=Oの振動吸収ピークである;1200及び1148cm-1の2つの最も強い吸収はCFの振動から生じた;720cm-1及び641cm-1は、テトラフルオロエチレンの共重合後の−CF2−CF2−の振動吸収から生じた。
【0076】
実施例7
実施例7は、実施例1〜6で得られた過フッ化イオン交換樹脂及びその機械特性を用いたイオン交換膜の調製手順を例示するために本明細書に含まれている。
【0077】
イオン交換膜の調製手順
凝集体の調製:実施例1〜6で得られた白色の粉末生成物を押し出して、それぞれ、小型の溶融押出し装置中で凝集体を調製した。ここで、押出し温度は、第1のスクリュー部分では250℃に、第2のスクリュー部分では255℃に、第3のスクリュー部分では260℃に、及びダイオリフィスでは270℃に設定し;ダイオリフィスの直径は3mmに設定した。押し出された円柱状の透明な材料を剪断し、剪断速度を調整することによって、長さ2〜4mmの透明な樹脂凝集体を調製した。その後、この凝集体を二層PEプラスチックバッグに密封し、保存した。
【0078】
溶融押出しによる膜押出し:溶融押出し装置のダイオリフィスをフィルム押出しダイヘッドに交換する一方、スクリュー部分の温度を前述のように設定した。得られた透明な凝集体を溶融押出しによってフィルムへと調製した。このフィルムの厚さは、ダイオリフィスの幅を調整することによって調節することができる。得られたフィルムは、20〜100μmの厚さであった。
【0079】
溶融押出しフィルムの変換:フィルムのフッ化スルホニル(−SO2F)ペンダント基をスルホン酸イオン(−SO3H)の形態に変換した。得られたフィルムは、順次、80℃の30wt.%水酸化ナトリウム溶液と、30℃の30wt.%硫酸溶液(H2SO4)と、脱イオン流水で満たされた洗い桶とに通した。ここで、フィルムは、アルカリ溶液中に30分間、硫酸溶液中に10分間静置し、脱イオン水桶中の脱イオン水で10分間洗浄した。膜材料を包装し、密封し、保存して、膜製品を得た。実施例1〜6で得られた過フッ化イオン交換樹脂から調製されたイオン交換膜を、それぞれ、膜1〜膜6と記した。
【0080】
膜の機械特性に関する評価:方法GB/T1040−92を評価に採用した。実施例1〜6で得られた過フッ化イオン交換樹脂で得られた膜1〜膜6及びデュポン社によって生産されたスルホン酸膜NRE211の機械特性を明らかにした。結果を表1に示す。
【表1】

【0081】
表1に示すデータは、本発明の樹脂から調製された膜製品が、従来技術と比べて、より大きい分子量、より高い化学安定性、より高い熱耐性温度、より大きいイオン交換容量、及び高温でのより優れた機械特性を有することを示唆している。
【0082】
実施例8
1.0Lの反応容器を掃除し、500mlの脱イオン水と、10gのナトリウムラウリルベンゼンスルフェートと、乳化剤としての13gのノニルフェノールポリオキシエチレンエーテルNP−10とを投入し、その後、撹拌装置を起動した。容器を空にし、その後、高純度窒素で3回スイープした。容器の測定酸素含量が1ppmよりも少なくなった後、容器を再び空にし、液体供給入口弁を通して50gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2−CF2−SO2F)と、60gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(2)(F2C=CF−O−CF2−CF2−CF2CF2−SO2F)と、40gの臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(F2C=CF−O−CF2CF2−Br)とを投入した。圧力が3.9MPaに達するまで反応容器にテトラフルオロエチレンモノマーを投入した。反応容器を80℃に加熱し、開始剤として5.2gの過硫酸アンモニウムを投入した。圧力を3.2MPaに維持しながら重合を行なった後、2時間後に止め、次いで解乳化して、白色のポリマー粉末を得た。洗浄し、乾燥させた後、白色のポリマー粉末を溶媒DMF溶解させて、10mg/ml溶液を調製した。この溶液に対するGPC試験の結果から、数−平均分子量が225,000であり、重量−平均分子量が360,000であることが示された。赤外線放射試験の結果において、異常振動吸収ピークは示されなかった。
【0083】
前述のように設定したものと同じ条件の下で重合を行なったが、変更した唯一の条件は、液体供給入口弁を通して145gのフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)(F2C=CF−O−CF2−CF2−SO2F)を容器に投入することであった。これによって、システム中の二重結合の総濃度が上記のものと一致することを保証した。得られたポリマー粉末を溶解させ、GPC試験で調べた。この結果から、数−平均分子量が123,000であり、重量−平均分子量が205,000であることが示された。赤外線放射試験の結果から、単結合−S−O−C−の逆対称伸縮振動吸収ピークが830cm−1で現われることが示された。
【0084】
これらの結果から、1種類のフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)しか利用しない場合、重合時に短ペンダント基上で環化が実際に生じることが示唆された。本発明では、2種類のフッ化スルホニルペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)及び(2)、並びに互いに相互作用し得る他のビニルエーテルモノマーが利用されており、したがって、環化は減少しているか又は消失している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーとの多変量共重合によって調製される高交換容量過フッ化樹脂であって、前記樹脂が式(I)に示すような反復単位を含むことを特徴とする高交換容量過フッ化樹脂。
【化1】

(式中、nは0〜3の整数、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数であり;a、b、及びcは、それぞれ、3〜15の整数であり、一方、a’、b’、及びc’は、それぞれ、1〜3の整数であり;x/(x+y+z)=0.2〜0.7であり、y/(x+y+z)=0.2〜0.79であり、z/(x+y+z)=0.01〜0.1である(モル比)。)
【請求項2】
構造の異なる前記2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは、式:
【化2】

を有し、前記臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーは:
【化3】

を有し、ここで、n=0〜3、好ましくはn=0であり;mは2〜4の整数である、
請求項1に記載の高交換容量過フッ化樹脂。
【請求項3】
前記ポリマー中の各重合モノマーの分子パーセントは、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが50〜85%であり;構造の異なる前記2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの総分子パーセントが5〜49%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合モノマーの総分子パーセントが1〜10%であり;
前記ポリマー中の各重合モノマーの分子パーセントは、テトラフルオロエチレンの総分子パーセントが70〜80%であり;構造の異なる前記2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの総分子パーセントが15〜29%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテル重合ユニットの総分子パーセントが1〜5%である、請求項1又は2に記載の高交換容量過フッ化樹脂。
【請求項4】
前記樹脂中の構造の異なる前記2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマー(1)及び(2)のモル比は、0.2〜0.8:0.8〜0.2、好ましくは0.4〜0.6:0.6〜0.4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高交換容量過フッ化樹脂。
【請求項5】
開始剤の存在下の、テトラフルオロエチレンと、構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーと、臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーとを共重合に供することを含み、ここで、前記共重合の反応時間は1〜8時間であり、反応温度は10〜80℃であり、かつ反応圧力は2〜10MPaである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高交換容量過フッ化樹脂の調製方法。
【請求項6】
前記開始剤はN22、ペルフルオロアルキルペルオキシド、及びペルスルフェートの群から選択される1以上のものであり;
前記ペルフルオロアルキルペルオキシドは、ペルフルオロアルキルアシルペルオキシド、ペルフルオロアルコキシアシルペルオキシド、ペルオキシド化部分がフルオロアルキルアシルを含有するペルオキシド、及びペルオキシド化部分がフルオロアルコキシアシルを含有するペルオキシドの群から選択される1以上のものであり;前記ペルスルフェートは、硫酸アンモニウム、アルカリ金属ペルスルフィド、及びアルカリ土類金属ペルスルフィドの群から選択される1以上のものであり、;

前記ペルスルフェートは、過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウムの群から選択される1以上のものであることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記調製方法は、水相で行なわれるエマルジョン重合の工程をさらに含み;
前記エマルジョン重合の工程において、乳化剤は、アニオン性乳化剤、例えば、脂肪酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、及びアルキルアリールスルホン酸ナトリウム;並びに非イオン性乳化剤、例えば、アルキルフェノールポリエーテルオール、例えば、ノニルフェノールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸、及びポリオキシエチレン脂肪酸エーテルから選択される1以上のものであり;
前記エマルジョン重合の工程において、水中の乳化剤の重量パーセント濃度は0.1〜20%であり、水中の構造の異なる2種類のフッ化スルホニル短ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの重量パーセント濃度は5〜30%であり、かつ臭素ペンダント基含有ビニルエーテルモノマーの重量パーセント濃度は1〜12%であることを特徴とする請求項5又は6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の高交換容量過フッ化樹脂から調製されるイオン交換膜。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン交換膜を含む燃料電池又は電解質電池装置であって;前記燃料電池は、プロトン膜燃料電池又は高温燃料電池、あるいは高温プロトン膜燃料電池であり;前記電解質電池は、塩素−アルカリ電解質電池であることを特徴とする燃料電池又は電解質電池装置。
【請求項10】
燃料電池又は電解質電池装置中のイオン交換膜として機能する請求項1〜4のいずれか一項に記載の高交換容量過フッ化樹脂の使用であって;前記燃料電池は、プロトン膜燃料電池又は高温燃料電池、あるいは高温プロトン膜燃料電池であり;前記電解質電池は、塩素−アルカリ電解質電池であり;前記臭素ペンダント基は使用前の環化によって化学的に架橋されていることを特徴とするフッ化樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−513707(P2013−513707A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543434(P2012−543434)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/CN2009/001457
【国際公開番号】WO2011/072418
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512152488)シャンドン・フアシャ・シェンゾウ・ニュー・マテリアル・カンパニー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】