説明

高分子複合成形体、該成形体を用いたプリント配線基板及びそれらの製造方法

エポキシ樹脂または熱可塑性高分子と、繊維とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体または熱可塑性高分子複合成形体。該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されている。前記エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲である。第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数は、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、熱膨張係数が、その表面に沿う方向およびそれに交わる方向の双方において等方的に、小さくなるように制御された高分子複合成形体および該成形体を用いたプリント配線基板に関する。より詳細には、本発明は、熱膨張係数が、その表面に沿う方向およびそれに交わる方向の双方において等方的に、小さくなるように制御されたエポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体に関する。また、そのようなエポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体を用いて作製したプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マトリックスとしての高分子材料に、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維などの機能性繊維が配合されて複合化された高分子複合材料成形体が広く知られている。
【0003】
一方、プリント配線基板やその基板上に実装される半導体パッケージなどの電子部品等の絶縁材料としては、エポキシ樹脂や熱可塑性樹脂などからなる高分子組成物が汎用されている。それらのプリント配線基板および電子部品には、エポキシ樹脂や熱可塑性高分子のような高分子材料の他に、金属、セラミックス等の様々な異種材料が使用されている。そのため、これらの異種材料が接合或いは隣接して配置された基板または電子部品においては、周囲の環境温度が変化すると、それらの異種材料の熱膨張係数の差によって、基板または電子部品自身あるいはそれらの界面に熱応力が発生する。特に、基板を形成するエポキシ樹脂や熱可塑性高分子などの高分子材料(室温における一般的な熱膨張係数:>5×10−5(/K))と配線材料に用いられる銅(室温における熱膨張係数:1.65×10−5(/K))等の金属とでは、熱膨張係数の差が大きい。そのため、エポキシ樹脂などの高分子材料および金属で構成される基板や電子部品では、発生する熱応力によって亀裂が生じたり、エポキシ樹脂などの高分子材料部分と金属部分との界面の剥離や配線の断線、ショート等のトラブルが起こって問題になっている。
【0004】
上記のような問題に対処するため、プリント配線基板として、一般に、ガラスクロスなどの基材にエポキシ樹脂や熱可塑性高分子などを含む高分子組成物を含浸させて乾燥したプリプレグと、銅箔とを加熱加圧して一体成形することによって形成される、銅張積層板が用いられている。さらに、特許文献1〜3には、基板材料自体の熱膨張を低減するために、より低い熱膨張係数を有するエポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献4および5には、特殊な基材、補強相を導入した基板が開示されている。また、特許文献6には、フレキシブルプリント配線基板などの基板材料として、低熱膨張性であり、かつ平面内にてランダムに配向した等方性の液晶性高分子を用いることによって、基板面内の熱膨張係数の異方性を低減させた液晶性高分子積層体が開示されている。その他にも、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合した基板も提案されている。
【0005】
近年のプリント配線基板の多層化、複雑化にともない、スルーホール信頼性確保などの目的で、特にプリント基板材料の厚み方向における熱膨張を抑えることが重要となってきている。しかしながら、上記のようなガラスクロス含浸エポキシプリント配線基板、特殊な基材、および補強相を導入したエポキシプリント配線基板では、表面に沿う方向の熱膨張を低下させることは可能であるが、厚み方向における熱膨張は逆に増大する。
【0006】
また、より低い熱膨張係数を有するエポキシ樹脂組成物を用いたエポキシプリント配線基板や、シリカなどの低膨張性の充填剤を配合したエポキシプリント配線基板は、基板の熱膨張を等方的にある程度低下させることが可能であるが、十分ではない。例えば、特許文献7には、液晶性高分子と他の熱可塑性高分子とをブレンドした組成物を用いることで厚み方向の熱膨張係数を低減させたフィルムが開示されている。
【0007】
また、液晶性エポキシ樹脂に磁場を印加することにより、該樹脂の分子鎖を一定方向に配向させたエポキシ成形体では、その配向方向における熱膨張を低下させることは可能であるが、それ以外の方向における熱膨張が増大する。
【0008】
したがって、表面に沿う方向およびそれに直交する方向の双方において、等方的に熱膨張が低減されたエポキシ樹脂成形体などの高分子成形体が強く望まれている。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、熱膨張が、その表面に沿う方向およびそれに交わる方向の双方において等方的に低減されたエポキシ樹脂複合成形体などの高分子複合成形体および該成形体によって形成されたプリント配線基板を提供することにある。また、本発明の別の目的は、そのようなエポキシ樹脂複合成形体などの高分子複合成形体および該成形体によって形成されたプリント配線基板を製造する方法を提供することにある。
【特許文献1】特開2002−53646号公報
【特許文献2】特開2001−288251号公報、
【特許文献3】特開平10−145020号公報
【特許文献4】特開平11−147960号公報
【特許文献5】特開平8−255959号公報
【特許文献6】特開平10−034742号公報
【特許文献7】特開2004−175995号公報
【発明の開示】
【0009】
上記問題点を解決するために、本発明の第一の態様によれば、エポキシ樹脂と、繊維とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体が提供される。該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下である。この場合、熱膨張係数を等方的に小さく制御することにより、熱膨張に伴うクラック発生などの不具合を低減することができる。
【0010】
前記エポキシ樹脂が、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂であることが望ましい。
前記繊維が、繊維クロスおよび単繊維群の少なくともいずれか一方からなることが望ましい。
【0011】
また、前記繊維は、ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
別の態様によれば、エポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を設けることによって形成されるプリント配線基板も提供される。この場合、熱膨張係数が等方的に小さく制御されたエポキシ樹脂複合成形体を用いてプリント配線基板を形成することにより、導電層と基板の界面での熱膨張に伴うクラック発生などの問題を低減し、スルーホール信頼性を向上することができる。
【0012】
さらに別の態様によれば、エポキシ樹脂複合成形体を製造する方法が提供される。該方法は、繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、前記金型のキャビティ内にエポキシ樹脂組成物を注入して、前記繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる工程と、前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含む。この方法によれば、熱膨張係数が等方的に小さく制御されたエポキシ樹脂複合成形体を容易に得ることができる。
【0013】
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることが好ましい。
また、別の態様によれば、プリント配線基板を製造する方法が提供される。該方法は、繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、前記金型のキャビティ内にエポキシ樹脂組成物を注入して、前記繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる工程と、前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含み、さらに、前記配置する工程の前、含浸させる工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含む。この方法によれば、熱膨張係数が等方的に小さく制御されたプリント配線基板を容易に得ることができる。
【0014】
前記配向させる工程において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることが好ましい。
さらに別の態様によれば、前記エポキシ樹脂複合成形体を製造する別の方法が提供される。該方法は、前記繊維を含むエポキシ樹脂組成物を調製する工程と、前記エポキシ樹脂組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、金型のキャビティ内に注入する工程と、前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含む。この方法によれば、熱膨張係数が等方的に小さく制御されたエポキシ樹脂複合成形体を容易に得ることができる。
【0015】
また、別の態様によれば、熱可塑性高分子と、繊維とから形成される熱可塑性高分子複合成形体が提供される。該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記熱可塑性高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、
X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、
第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下である。この場合、熱膨張係数を等方的に小さく制御することにより、熱膨張に伴うクラック発生などの不具合を低減することができる。
【0016】
前記熱可塑性高分子は、分子内にメソゲン基を有する液晶性高分子であることが好ましい。
前記液晶性高分子は、好ましくは、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリエステルアミドから選ばれる少なくとも一種である。
【0017】
前記繊維が、繊維クロスおよび単繊維群の少なくとも何れか一方からなることが好ましい。
前記繊維は、ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
また、別の態様によれば、前記熱可塑性高分子複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を設けることによって形成されるプリント配線基板が提供される。この場合、熱膨張係数が等方的に小さく制御された熱可塑性高分子複合成形体を用いてプリント配線基板を形成することにより、導電層と基板の界面での熱膨張に伴うクラック発生などの問題を低減し、スルーホール信頼性を向上することができる。
【0019】
さらに、別の態様によれば、前記熱可塑性高分子複合成形体を製造する方法が提供される。該方法は、前記繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、前記金型のキャビティ内に熱可塑性高分子組成物を注入して、前記繊維に熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含む。
【0020】
別の態様によれば、熱可塑性高分子複合成形体を製造する別の方法が提供される。該方法は、前記熱可塑性高分子を含む熱可塑性高分子組成物の予備成形体を形成する工程と、前記予備成形体および繊維を、第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、前記予備成形体を溶融させることにより、前記繊維に前記熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含む。
【0021】
別の態様によれば、熱可塑性高分子複合成形体を製造するさらに別の方法が提供される。該方法は、前記熱可塑性高分子および繊維を含む熱可塑性高分子組成物を調製する工程と、前記熱可塑性高分子組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、前記金型のキャビティ内に注入する工程と、前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含む。これらの方法によれば、熱膨張係数が等方的に小さく制御された熱可塑性高分子複合成形体を容易に得ることができる。
【0022】
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程において、熱可塑性高分子の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることが好ましい。
また、別の態様によれば、プリント配線基板を製造する方法も提供される。該方法は、繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、金型のキャビティ内に熱可塑性高分子組成物を注入して、前記繊維に熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、前記配置する工程の前、配置する工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含む。
【0023】
さらに別の態様によれば、プリント配線基板を製造する別の方法が提供される。該方法は、前記熱可塑性高分子を含む熱可塑性高分子組成物の予備成形体を形成する工程と、前記予備成形体および繊維を、第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、前記予備成形体を溶融させることにより、前記繊維に前記熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、前記配置する工程の前、配置する工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含む。
【0024】
さらに別の態様によれば、プリント配線基板を製造するさらに別の方法が提供される。該方法は、前記熱可塑性高分子および繊維を含む熱可塑性高分子組成物を調製する工程と、前記熱可塑性高分子組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、前記金型のキャビティ内に注入する工程と、前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、前記注入する工程の前、同工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含む。これらの方法によれば、熱膨張係数が等方的に小さく制御されたプリント配線基板を容易に得ることができる。
【0025】
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程において、熱可塑性高分子の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることが、好ましい。
【0026】
また、別の態様によれば、高分子と、繊維とから形成される高分子複合成形体が提供される。該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、
X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記高分子の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、
第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下である。この場合、熱膨張係数を等方的に小さく制御することにより、熱膨張に伴うクラック発生などの不具合を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体及び第3実施形態の熱可塑性高分子複合成形体を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体を示す断面図である。
【図3】第2実施形態のプリント配線基板を示す断面図である。
【図4】エポキシ樹脂複合成形体のエポキシ樹脂組成物成分のデバイ環の半径方向におけるX線回折強度分布を示すX線回折パターンである。
【図5】エポキシ樹脂複合成形体のエポキシ樹脂組成物成分の方位角方向の強度分布を示すグラフである。
【図6】第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図である。
【図7】第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図である。
【図8】第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体の製造方法を示す概略図である。
【図9】第2実施形態のプリント配線基板の製造方法を示す概略図である。
【図10】第2実施形態のプリント配線基板の製造方法を示す概略図である。
【図11】第3実施形態の熱可塑性高分子複合成形体を示す断面図である。
【図12】第4実施形態のプリント配線基板を示す断面図である。
【図13】第3実施形態の熱可塑性高分子複合成形体の製造方法を示す概略図である。
【図14】第3実施形態の熱可塑性高分子複合成形体の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施する最良の形態について詳細に説明する。
本発明は、高分子と繊維とから形成される高分子複合成形体を提供する。この高分子複合成形体は、該成形体中において、前記繊維は第1の平面に沿って配置されており、前記高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されていることにより、それらの方向において熱膨張係数が低減されている。
【0029】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態であるエポキシ樹脂複合成形体1を図1および図2に従って説明する。エポキシ樹脂複合成形体1は、板状の形状を有し、エポキシ樹脂組成物16と複数枚の繊維クロス15とから形成されている。エポキシ樹脂複合成形体1中において、各繊維クロス15は、多数の単繊維から構成された布であり、第1の平面、すなわち、本実施形態では成形体1の表面と平行になるように、エポキシ樹脂組成物16中に配置されている。エポキシ樹脂複合成形体1において、エポキシ樹脂組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖は、第1の平面に直交する方向、すなわち、本実施形態においては、成形体の厚み方向(図1のZ方向)に配向されている。つまり、エポキシ樹脂の分子鎖は繊維クロス15と直交するように配置されている。
【0030】
本実施形態において、繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。
その場合には、例えば、単繊維はその繊維軸がエポキシ樹脂複合成形体1の表面と平行になり(例えば、図1のX方向およびY方向)、かつ、好ましくは、繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、エポキシ樹脂の分子鎖は成形体1の厚み方向(図1のZ方向)に配向される。
【0031】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態のエポキシ樹脂複合成形体1を用いて具体化したプリント配線基板2を図3に従って説明する。プリント配線基板2は、第1実施形態と同様に形成されたエポキシ樹脂複合成形体1と、該成形体1を挟むように上下両面に形成された導電層14a,14bとを備える。エポキシ樹脂複合成形体1中において、繊維クロス15は、基板2の表面と平行になるように配置されている。エポキシ樹脂複合成形体1において、エポキシ樹脂の分子鎖は、基板2の表面と直交する方向、すなわち、基板2の厚み方向に配向されている。
【0032】
本実施形態においても、繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。その場合、第1実施形態の場合と同様に、単繊維はその繊維軸がエポキシ樹脂複合成形体1の表面と平行になり(例えば、図1のX方向およびY方向)、かつ、好ましくは、繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、エポキシ樹脂の分子鎖は成形体1の厚み方向(図1のZ方向)に配向される。
【0033】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態である熱可塑性高分子複合成形体10を図1および図11に従って説明する。熱可塑性高分子複合成形体10は、板状の形状を有し、熱可塑性高分子組成物160と複数枚の繊維クロス15とから形成されている。熱可塑性高分子複合成形体10中において、各繊維クロス15は、多数の単繊維から構成された布であり、第1の平面、すなわち、本実施形態では成形体10の表面と平行になるように、熱可塑性高分子組成物160中に配置されている。熱可塑性高分子複合成形体10において、熱可塑性高分子組成物160中の熱可塑性高分子の分子鎖は、第1の平面に直交する方向、すなわち、本実施形態においては、成形体の厚み方向(図1のZ方向)に配向されている。つまり、熱可塑性高分子の分子鎖は繊維クロス15と直交するように配置されている。
【0034】
本実施形態において、繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。
その場合には、例えば、単繊維は、その繊維軸が熱可塑性高分子複合成形体10の表面と平行に配置され、かつ、好ましくは、繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、熱可塑性高分子の分子鎖は成形体10の厚み方向(図1のZ方向)に配向される。
【0035】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施形態の熱可塑性高分子複合成形体10を用いて具体化したプリント配線基板20を図12に従って説明する。プリント配線基板20は、第1実施形態と同様に形成された熱可塑性高分子複合成形体10と、該成形体10を挟むようにその成形体10の上下両面に形成された導電層14a,14bとを備える。熱可塑性高分子複合成形体10中において、繊維クロス15は、基板20の表面と平行になるように配置されている。熱可塑性高分子複合成形体10において、熱可塑性高分子の分子鎖は、基板20の表面と直交する方向、すなわち、基板20の厚み方向に配向されている。
【0036】
本実施形態においても、繊維クロス15に加えて、あるいはその代わりに単繊維群を用いることも可能である。その場合、第3実施形態の場合と同様に、単繊維はその繊維軸が熱可塑性高分子複合成形体10の表面と平行に配置され、かつ、好ましくは、繊維軸が向かう方向はランダムとなるように配向され、熱可塑性高分子の分子鎖は成形体10の厚み方向(図1のZ方向)に配向される。
【0037】
また、第2および第4実施形態においては、プリント配線基板の要求特性として、絶縁体部が電気的に高絶縁性であることが挙げられるため、前記エポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10内に配置された繊維クロス及び単繊維群も絶縁性であることが好ましい。導電層14a,14bとしては、金属箔、金属鍍金層、導電性ペースト層など、電気回路を形成可能なものが使用できる。
【0038】
第1〜第4実施形態のエポキシ樹脂複合成形体1または熱可塑性高分子複合成形体10において、X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αは、0.5以上1.0未満の範囲である。
【0039】
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
(ただし、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表す。)
配向度αを求めるには、エポキシ樹脂複合成形体1または熱可塑性高分子複合成形体10について広角X線回折測定(透過)を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)に配向がある場合には同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。まず、成形体試料について、このデバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示す回折パターンを得る(図4参照)。この回折パターンにおいて、横軸はX線の回折角度θの2倍の角度2θを示し、2θ=20度の位置に確認されるピークは、硬化したエポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖間の距離を表すものと考えられている。
【0040】
エポキシ樹脂または熱可塑性樹脂のこの回折ピークの角度(ピーク散乱角)は、エポキシ樹脂または熱可塑性樹脂の構造の違いやエポキシ樹脂組成物または熱可塑性高分子組成物の配合の違いによって、約15〜30度の範囲となる場合もあるが、概ね20度前後に現れる。この回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までのX線回折強度分布を測定することにより、図5に示すようなピーク散乱角における方位角方向のX線回折強度分布が得られる。この強度分布におけるピークが急峻であるほど、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖が一定方向に高度に配向されていることを示している。従って、この方位角方向の強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅Δβ)を求め、この半値幅Δβを上記式(1)に代入することによって、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αを算出することができる。図5に示す方位角方向の強度分布の場合、配向度αは0.72である。
【0041】
配向度αの値は、熱膨張係数をどの程度低下させる必要があるかによるが、本発明に期待される効果をより高く得るには、配向度αの範囲は、0.5以上1.0未満、好ましくは0.55以上1.0未満、さらに好ましくは0.6以上1.0未満、より好ましくは0.7以上1.0未満である。エポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体において、エポキシ樹脂および熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αがこのような範囲にあると、その配向方向における該成形体の熱膨張係数を有意に低下させることができる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体において、この配向度αが0.5未満であると、成形体の熱膨張係数が低下せず、十分な効果が得られない。一方、配向度αは、半値幅Δβが常に正の値を示すため、上記(1)式から1.0以上の値はとり得ない。
【0043】
前記エポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10において、第1の平面、すなわち本実施形態においては、該成形体1,10の表面に平行な方向、およびそれに直交する方向における熱膨張係数は、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)、より好ましくは、10×10−6〜40×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数とそれに直交する方向における熱膨張係数との差は、30×10−6(/K)以下である。
【0044】
上記実施形態においては、エポキシ樹脂複合成形体1または熱可塑性高分子複合成形体10中、繊維クロス15(または単繊維群)を成形体の表面(第1の平面)と平行になるように配置し、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖をその表面に直交する方向、すなわち、成形体の厚み方向に配向させている。このように、エポキシ樹脂複合成形体1または熱可塑性高分子複合成形体10のマトリックスであるエポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖を繊維クロス15(または単繊維群)と交わる方向に配向させることにより、繊維クロス15(または単繊維群)が拡がる方向(表面に沿う方向)と、それと交わってエポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖が延びる方向(厚み方向)の双方において、熱膨張を低減することが可能となる。また、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖は、繊維クロスの繊維や繊維間の空隙と比較すると非常に小さいため、その配向が繊維クロス15(または単繊維群)によって阻害され難い。したがって、成形体内に繊維クロス15(または単繊維群)を高密度に含有させることができる。
【0045】
このエポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10は、各種複合材料、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体等の絶縁材に適用することができる。それにより、各種電子部品において、エポキシ樹脂および熱可塑性高分子材料と他の材料との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減することができる。
【0046】
さらに、第2および第4実施形態におけるプリント配線基板2,20は、本発明のエポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10をそれぞれ絶縁体とし、導電層14a,14bをその絶縁体の両面に形成してなることを特徴とする。このようなプリント配線基板2,20は、導電層14a,14bと絶縁体(エポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10)との熱膨張の差に起因するクラックの発生、界面剥離、配線の断線、ショートなどの問題及びそれに伴う特性低下を低減し、スルーホール安定性を向上させることができるものである。
【0047】
以下、本発明のエポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10の各構成要素について詳述する。
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。これらの種類のエポキシ樹脂は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。さらに、このようなエポキシ樹脂のなかでも、特に分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂を用いることが好ましい。分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の液晶状態を利用することにより、エポキシ樹脂の分子鎖を容易に配向させることができる。また、その配向度も容易に制御することも可能である。エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂のうち、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂の含有量は、50重量%以上であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0048】
分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂としては、分子の主鎖にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂が特に好ましい。メソゲン基とは、液晶性を示す官能基を示し、具体的には、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、ビピリジン、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0049】
エポキシ樹脂分子鎖内に含まれるこれらのメソゲン基の数は、少なくとも一つ以上であり、二つ以上であってもよい。また、メソゲン基とメソゲン基の間に脂肪族炭化水素基、脂肪族エーテル基、脂肪族エステル基、シロキサン結合等から構成される屈曲鎖(スペーサ)と呼ばれる柔軟構造部を有していてもよい。
【0050】
このような液晶性エポキシ樹脂は、ある温度領域で液晶状態となり、部分的にメソゲン基が規則的に配列しやすい性質を有している。これらの液晶性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって、液晶に固有の強い複屈折性の発現により確認することができる。液晶状態の種類としては、ネマティック、スメクティック、コレステリック、ディスコティック等のいずれの液晶状態を発現するものでもかまわない。なお、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂と、分子内にメソゲン基を含まないエポキシ樹脂とを混合して用いてもよい。
【0051】
<熱可塑性高分子>
熱可塑性高分子組成物に含まれる熱可塑性高分子には、分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子を用いることが好ましい。分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子の液晶状態を利用することにより、該熱可塑性高分子の分子鎖を容易に配向させることができる。また、その配向度も容易に制御することも可能である。前記組成物中の熱可塑性高分子のうち、分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子の含有量は、50重量%以上であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0052】
分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子としては、分子の主鎖にメソゲン基を有する液晶性高分子(主鎖型液晶性高分子)が特に好ましい。メソゲン基とは、液晶性を示す官能基を示し、具体的には、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、ビピリジン、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン等及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0053】
液晶性の熱可塑性高分子の分子鎖内に含まれるこれらのメソゲン基の数は、少なくとも一つ以上であり、二つ以上であってもよい。また、メソゲン基とメソゲン基の間に脂肪族炭化水素基、脂肪族エーテル基、脂肪族エステル基、シロキサン結合等から構成される屈曲鎖(スペーサ)と呼ばれる柔軟構造部を有していてもよい。
【0054】
液晶性の熱可塑性高分子の具体例としては、熱液晶性高分子が挙げられる。
熱液晶性高分子は、熱可塑性を有する高分子であって、加熱により溶融した時、所定の温度範囲で光学的異方性を示す液晶状態となる液晶性高分子である。熱液晶性高分子としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリイミド等が挙げられる。これらの高分子は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。
【0055】
このような液晶性の熱可塑性高分子は、所定の温度領域で液晶状態となり、部分的にメソゲン基が規則的に配列しやすい性質を有している。これらの液晶性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって、液晶に固有の強い複屈折性の発現により確認することができる。液晶状態の種類としては、ネマティック、スメクティック、コレステリック、ディスコティック等のいずれの液晶状態を発現するものでもかまわない。なお、分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子と、分子内にメソゲン基を含まない熱可塑性高分子とを混合して用いてもよい。
【0056】
<繊維>
本発明のエポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10に用いられる繊維は、繊維クロスまたは単繊維の集合(単繊維群)である。使用する繊維クロスおよび単繊維群における単繊維の繊維長、繊維径、繊維クロスにおける繊維の織り密度は、特に限定されるものではない。しかしながら、単繊維の生産性や取り扱い、エポキシ樹脂組成物および熱可塑性高分子組成物への配合のし易さなどを考慮すると、実用的に好ましい単繊維の直径は0.1〜30μmであり、繊維クロスにおける単繊維の織り密度は横糸・縦糸ともに、5〜50本/25mm程度が好ましい。繊維クロス中の単繊維は、エポキシ樹脂組成物および熱可塑性高分子組成物が含浸し易いように、繊維同士が離間されて織成されていてもよい。また、縦糸と横糸の編みこむ数の割合についても、適宜調整しても構わない。また、繊維クロスは、フェルト布などのような繊維を高分子樹脂で固定した織布または不織布であっても構わない。繊維クロス及び単繊維群を構成する単繊維の種類は、特に制限されるものではないが、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミックス繊維、有機繊維から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0057】
繊維の異方性反磁性磁化率χが大きい値であると、磁場雰囲気下で繊維は磁力線に平行あるいは直交する方向に大きな力を受ける。異方性反磁性磁化率χとは、外部より磁場を印加することにより生じる、繊維の繊維軸方向の磁化率χ//から、繊維軸に直交する方向の磁化率χ差し引いた反磁性磁化率の異方性を示す値である。この異方性反磁性磁化率χが正の値を示す繊維、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維などは、磁場雰囲気下で、繊維軸が磁力線に沿って平行になるように力を受ける。また、主鎖型液晶性エポキシ樹脂および主鎖型の液晶性熱可塑性高分子の分子鎖も磁場雰囲気下で繊維軸が磁力線に沿って平行になるように力を受け、その方向に配向する。
【0058】
このように、エポキシ樹脂および熱可塑性高分子の分子鎖も、磁力線と平行になるように配向する性質を有する。したがって、異方性反磁性磁化率χが正の値を示す繊維を使用し、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖を磁場によって配向させる場合には、磁場によって繊維がエポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向方向と同一の方向に配向されないように留意する必要がある。この方法としては、磁場によって配向され難い繊維、すなわち異方性反磁性磁化率χ自体が小さい繊維を用いるか、あるいは、配向するのにより大きな力を必要とするように、長い繊維を用いる、凝集・密集している繊維を用いる、比重の高い繊維を用いる、もしくは高粘度のエポキシ樹脂組成物または熱可塑性組成物を使用するなどの方法が挙げられる。
【0059】
また、繊維クロスと単繊維群とを組み合わせて使用してもよい。さらに、2種類以上の繊維クロス及び単繊維群を併用してもよい。それらの繊維クロスおよび単繊維群のうち、少なくとも1種類の繊維クロスおよび単繊維群がエポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向方向と交わる方向に配置されていれば、他の繊維クロスおよび単繊維群は無配向であっても、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向方向と同一方向に配置されていても構わない。
【0060】
<エポキシ樹脂組成物>
エポキシ樹脂複合成形体1を形成するエポキシ樹脂組成物16は、上記のエポキシ樹脂と、任意で繊維クロスおよび単繊維群の少なくとも一方とを含有する。 エポキシ樹脂組成物には、上述のエポキシ樹脂を反応硬化させる目的で、硬化剤が配合されてもよい。配合される硬化剤の種類及び量、熱硬化条件、光硬化条件、湿気硬化条件については特に限定されるものではない。例えば、通常のアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、潜在性硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート類、ブロックイソシアネート等を用いることができる。それらの硬化剤は単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。また、これらの硬化剤の配合量は、通常これらの硬化剤が使用される際の使用量と同様である。
【0061】
また、硬化剤を配合せず、エポキシ樹脂のエポキシ基を自己重合させてもよい。この場合には、エポキシ樹脂組成物には重合開始剤が添加される。
本発明で使用するエポキシ樹脂は、AlCl、SnCl、TiCl、BF、PCl及びSbFのような酸およびそれらの塩を重合開始剤として用いて、カチオン重合することができる。同様に、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化ジメチルジベンジルアンモニウム等のようなアンモニウム塩を重合開始剤として用いて、アニオン重合することも可能である。
【0062】
また、エポキシ樹脂組成物には、上記エポキシ樹脂に加えて、他の反応硬化性樹脂が少量含有されていてもよい。
<熱可塑性高分子組成物>
熱可塑性高分子複合成形体10を形成する熱可塑性高分子組成物160は、上記の熱可塑性高分子を含有する。さらに、熱可塑性高分子組成物160は、繊維クロスおよび単繊維群の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0063】
上記のエポキシ樹脂組成物および熱可塑性高分子組成物には、エポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体の膨張率をさらに低下させるため及び破壊靭性、曲げ強度、誘電率、熱伝導性などの諸特性を向上させるために充填剤を適量配合することも可能である。充填剤としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属炭酸化合物、金属被覆樹脂、樹脂フィラー、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素系材料、タルク、クレー等が挙げられる。金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としては酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。エポキシ樹脂または熱可塑性高分子と充填剤との濡れ性の改善や、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子と充填剤との界面を補強したり、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子に対する充填剤の分散を促進する目的で、充填剤に通常のカップリング剤処理を施してもかまわない。
【0064】
なお、エポキシ樹脂組成物および熱可塑性高分子組成物には必要に応じて、硬化促進剤、硬化遅延剤、補強材、ゴムやエラストマー等の低応力化剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、エネルギー消光剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、難燃剤、消泡剤、可塑剤、溶剤等を添加することも可能である。
【0065】
次にエポキシ樹脂複合成形体1および熱可塑性高分子複合成形体10およびプリント配線基板2,20の製造方法について説明する。
エポキシ樹脂複合成形体1は、エポキシ樹脂組成物16中において、繊維クロス15を、第1の平面(例えば、成形体1の表面)に沿うように配置し、エポキシ樹脂組成物16中のエポキシ樹脂の分子鎖を前記第1の平面と交わる方向(例えば、成形体1の厚み方向)に配向させた状態で、エポキシ樹脂組成物16を硬化することによって形成される。
【0066】
熱可塑性高分子複合成形体10は、熱可塑性高分子組成物160中において、繊維クロス15を、第1の平面(例えば、成形体10の表面)に沿うように配置し、熱可塑性高分子組成物160中の熱可塑性高分子の分子鎖を前記第1の平面と交わる方向(例えば、成形体10の厚み方向)に配向させた状態で、熱可塑性高分子組成物160を固化させることによって形成される。
【0067】
成形装置としては、トランスファー成形装置、プレス成形装置、注型成形装置、射出成形装置、押出成形装置等のエポキシ樹脂および熱可塑性高分子の成形が可能である装置を用いることができる。エポキシ樹脂組成物16および熱可塑性高分子組成物160は、シート状、フィルム状、ブロック状、粒状、棒状、チューブ状、繊維状等の様々な形状のエポキシ樹脂複合成形体および熱可塑性高分子複合成形体に成形することができる。
【0068】
エポキシ樹脂組成物16および熱可塑性高分子組成物160中のエポキシ樹脂および熱可塑性高分子の分子鎖を配向させる方法としては、エポキシ樹脂組成物および熱可塑性高分子組成物の硬化/固化前または硬化/固化時に、ラビング、延伸、圧延、流動場、せん断場、磁場及び電場から選ばれる少なくとも一種によって分子鎖を配向させる方法が挙げられる。これらの配向方法の中でも、配向する方向を容易に制御できることから、磁場による配向方法が好ましい。エポキシ樹脂または熱可塑性高分子に磁場を印加すると、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖は、磁力線と平行になるように配向する。また、必要に応じて上記の配向処理を併用することもできる。
【0069】
磁場を発生する磁場発生装置としては、永久磁石、電磁石、超電導磁石、コイル等が挙げられる。これらの磁場発生装置の中でも、実用的な磁束密度を有する磁場を発生させることができることから超電導磁石が好ましい。
【0070】
エポキシ樹脂組成物に印加する磁場の磁束密度は、好ましくは0.2〜20テスラ(T)、さらに好ましくは0.5〜15T、最も好ましくは1〜10Tである。この磁束密度が0.2T未満であると、エポキシ樹脂の剛直な分子鎖を十分に配向させることができず、熱膨張係数の低下が不十分となる。一方、磁束密度が20Tを超える磁場は、実用上得られ難い。この磁束密度の範囲が0.2〜20Tであると、熱膨張係数の低いエポキシ樹脂複合成形体が得られるとともに、実用的である。
【0071】
熱可塑性高分子組成物に印加する磁場の磁束密度は、好ましくは1〜20テスラ(T)、さらに好ましくは2〜15T、最も好ましくは3〜10Tである。この磁束密度が1T未満であると、熱可塑性高分子の分子鎖を十分に配向させることができず、熱膨張係数の低下が不十分となる。一方、磁束密度が20Tを超える磁場は、実用上得られ難い。この磁束密度の範囲が1〜20Tであると、熱膨張係数の低い熱可塑性高分子複合成形体が得られるとともに、実用的である。
【0072】
次いで、エポキシ樹脂複合成形体1、熱可塑性高分子複合成形体10及びプリント配線基板2,20を製造する具体的な方法について、図6〜図10および図13〜図14に基づいて詳細に説明する。
【0073】
まず、図2に示す第1の実施形態の板状に形成されたエポキシ樹脂複合成形体1の製造方法について説明する。図6において、金型11の内部には、所望の成形体の形状に対応した形状を有するキャビティ12が形成されている。まず、図6に示すように、このキャビティ12内に、一枚の繊維クロス15をキャビティの底面に沿うように、好ましくは、底面と平行になるように配置する。次いで、図7に示すように、エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に充填する。この際、複数枚の繊維クロス15を積層して配置した後に、エポキシ樹脂組成物16を流し込んで、複数の繊維クロス15にエポキシ樹脂組成物16を含浸させてもよい。あるいは、繊維クロス15を一枚配置した後に、エポキシ樹脂組成物16を流し込んで繊維クロス15にエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後に、さらに別の繊維クロス15を配置してもよく、さらには、これらの作業を繰り返すことにより、得られる成形体1内において複数枚の繊維クロス15を積層させてもよい。
【0074】
エポキシ樹脂組成物16を充填する工程の最中、またはその後で、減圧或いは加圧により、混入した気泡を除去する工程を加えることが好ましい。
必要に応じて、金型11には加熱装置(図示せず)が備えられる。前記エポキシ樹脂組成物16を充填する工程において、エポキシ樹脂組成物16は、溶融状態に維持される。また、エポキシ樹脂組成物16が分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有する場合には、エポキシ樹脂組成物16は液晶状態に維持される。
【0075】
次に、図8に示すように、金型11の上下に磁場発生装置として配置された一対の永久磁石13によって、キャビティ12に充填されたエポキシ樹脂組成物16に所定の磁束密度の磁場を印加する。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように配置されている。なお、磁場は、エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に充填する前から金型11に印加しておいてもかまわない。このとき、磁力線Mは、エポキシ樹脂組成物16の厚さ方向に一致するため、エポキシ樹脂の分子鎖、好ましくは、分子内にメソゲン基を有するエポキシ樹脂の剛直な分子鎖を、エポキシ樹脂組成物16の厚さ方向に配向させることができる。
【0076】
このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させて、金型11から取り出す。それにより、本発明のエポキシ樹脂複合成形体1が得られる。
また、予め繊維クロス15にエポキシ樹脂組成物16が含浸したプリプレグを用いてもよい。このプリプレグを溶融状態に加熱しながら、上述のように磁場を印加して、エポキシ樹脂の分子鎖を繊維クロスと交わる方向に配向させてもよい。この際、エポキシ樹脂は、加熱時にその分子鎖の磁場配向が可能である程度の溶融粘度を有することが必要である。
【0077】
さらに、上記の製造方法において、繊維クロス15の代わりに繊維を用いる場合には、予め繊維をエポキシ樹脂組成物に添加しておき、その繊維が添加されたエポキシ樹脂組成物を金型11のキャビティ12内に充填してもよい。この時、キャビティ12の厚みと比べて、繊維の方が長い場合には、前記繊維は、その長軸がキャビティ12の底面に沿う方向に自発的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、繊維の長軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。
【0078】
図11に示す第3の実施形態の板状に形成された熱可塑性高分子複合成形体10の製造方法について説明する。図13において、金型11の内部には、所望の成形体の形状に対応した形状、ここでは板形状を有するキャビティ12が形成されている。まず、図13に示すように、このキャビティ12内に、シート状または平板状に予備成形された熱可塑性高分子組成物160をキャビティの底面に沿うように、好ましくは、底面と平行になるように配置する。次いで、少なくとも一枚の繊維クロス15を熱可塑性高分子組成物160のシートの上面に沿うように、好ましくは、金型の底面と平行になるように配置する。さらにこれらの作業を繰り返し、複数枚の熱可塑性高分子組成物シートと繊維クロス15とを積層する。
【0079】
金型11には加熱装置(図示せず)が備えられ、積層した熱可塑性高分子組成物シートおよび繊維クロス15を加熱プレス成形する。このプレス成形中、熱可塑性高分子組成物シートは溶融して液体状態となり、繊維クロス15に含浸される。また、熱可塑性高分子組成物160が分子内にメソゲン基を有する液晶性高分子を含有する場合には、熱可塑性高分子組成物160は液晶状態に維持される。加熱プレス成形の工程の中、キャビティ12内を減圧して、溶融した熱可塑性高分子組成物160に空気が混入しないようにすることが好ましい。さらに、図14に示すように、金型11の上下には磁場発生装置として一対の永久磁石13が配置され、キャビティ12に配置された高分子組成物160に所定の磁束密度の磁場を印加する。本実施形態においては、永久磁石13によって発生する磁場の磁力線Mは、キャビティ12の厚さ方向に一致するように配置されている。これにより、熱可塑性高分子の分子鎖、好ましくは、分子内にメソゲン基を有する液晶性の熱可塑性高分子の剛直な分子鎖を、前記キャビティ12内で板状に成形された熱可塑性高分子組成物160の厚さ方向に配向させることができる。なお、磁場は、熱可塑性高分子組成物シートをキャビティ12内に積層する前から金型11に印加しておいてもかまわない。
【0080】
この熱可塑性高分子の配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物160を冷却などにより固化させて、金型11から取り出す。それにより、本発明の熱可塑性高分子複合成形体10が得られる。
【0081】
上記の製造方法において、予め熱可塑性高分子に単繊維群を配合した熱可塑性高分子組成物160のシートを用いてもよい。単繊維群を含む熱可塑性高分子組成物160をシート状に予備成形すると、前記単繊維は、その長軸がシート面に沿う方向に自発的に配向する。このような熱可塑性高分子組成物160のシートを溶融状態に加熱しながら、上述のようにシートの厚さ方向に磁場を印加して、熱可塑性高分子の分子鎖を単繊維と交わる方向に配向させる。
【0082】
また、熱可塑性高分子複合成形体10の製造方法として、第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体1の製造方法と同様に、まず金型11のキャビティ12内に繊維クロス15を配置し、次いで溶融状態の熱可塑性高分子組成物160をキャビティ12内に射出する方法も可能である。この場合、エポキシ樹脂組成物を、溶融した熱可塑性高分子組成物と置き換えること以外は上述した第1実施形態のエポキシ樹脂複合成形体1の製造方法とほぼ同様である。
【0083】
さらに、この製造方法において、繊維クロス15の代わりに単繊維群を用いる場合には、予め単繊維群を熱可塑性高分子組成物160に添加しておき、その単繊維群が添加された熱可塑性高分子組成物を金型11のキャビティ12内に射出してもよい。この時、キャビティ12の厚みと比べて、繊維の方が長い場合には、前記繊維は、その長軸がキャビティ12の底面に沿う方向に自発的に配向する。もちろん、流動場やせん断場などの外力によって、繊維の長軸をキャビティ12の底面に沿う方向に配向させてもよい。そのような外力は、熱可塑性高分子組成物を金型11のキャビティ12内に射出する際に生じ得る。
【0084】
いずれの場合においても熱可塑性高分子組成物は、溶融時にその分子鎖の磁場配向を可能にする程度の溶融粘度を有することが必要である。
図3に示す第2実施形態のプリント配線基板を製造するためには、上述した第1の実施形態のエポキシ樹脂複合成形体1の製造方法において、金型11のキャビティ12内に繊維クロス15を配置する工程の前に、図9に示すように、例えば金属箔からなる導電層14aをキャビティ12の底面上に配置する。さらに、キャビティ12内にエポキシ樹脂組成物16を充填する工程の後、図10に示すように、キャビティ12内に充填されたエポキシ樹脂組成物16の上に、さらに導電層14bを配置する。その後、図8に示した第1実施形態の製造方法と同様に、磁場を印加することによって、エポキシ樹脂の分子鎖をエポキシ樹脂組成物16の厚さ方向に配向させる。このエポキシ樹脂の配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させて、金型11から取り出すことにより、両面に導電層14a,14bが設けられたエポキシ樹脂複合成形体が得られる。さらに、導電層14a,14bを、例えば、エッチングなどの周知の方法によってパターンニングすることによって、本発明のプリント配線基板2を得ることができる。
【0085】
また、上述したプリプレグ間に回路を予め形成した金属箔を配置することにより、多層プリント配線基板を製造することもできる。
図12に示す第4実施形態のプリント配線基板を製造するためには、上述した第3の実施形態の熱可塑性高分子複合成形体10の製造方法において、金型11のキャビティ12内にシート状に予備成形された熱可塑性高分子組成物160および繊維クロス15を配置する工程の前に、図9に示すように、例えば金属箔からなる導電層14aをキャビティ12の底面上に配置する。さらに、キャビティ12内に熱可塑性高分子組成物160および繊維クロス15を積層して配置する工程の後、図10に示すように、キャビティ12内の最上部に配置された熱可塑性高分子組成物160の上に、さらに導電層14bを配置する。その後、図8に示した第3実施形態の製造方法と同様に、磁場を印加することによって、熱可塑性高分子の分子鎖をキャビティ12内の熱可塑性高分子組成物160の厚さ方向に配向させる。この熱可塑性高分子の配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させて、金型11から取り出すことにより、両面に導電層14a,14bが設けられた熱可塑性高分子複合成形体が得られる。さらに、導電層14a,14bを、例えば、エッチングなどの周知の方法によってパターンニングすることによって、本発明のプリント配線基板20を得ることができる。
また、高分子組成物シートと繊維クロス15を積層して配置する際に、2枚の高分子組成物シートの間に予め回路を形成した金属箔を配置することにより、多層プリント配線基板を製造することもできる。
【0086】
なお、上記実施形態を以下のように変更して構成することもできる。
・予めエポキシ樹脂複合成形体または熱可塑性高分子複合成形体を製造し、接着層などを介して、金属箔などからなる導電層をエポキシ樹脂複合成形体または熱可塑性高分子複合成形体に一体化させることによりプリント配線基板を形成する。
【0087】
・導電層として、金属箔の代わりに、金属鍍金層あるいは導電性ペースト層を用いる。この際、予め繊維クロスにエポキシ樹脂組成物または熱可塑性高分子組成物が含浸したプリプレグを用いても、予めエポキシ樹脂複合成形体または熱可塑性高分子複合成形体を製造してもかまわない。
【0088】
・エポキシ樹脂複合成形体1または熱可塑性高分子複合成形体10において、繊維クロスを成形体の厚み方向と平行に配置し、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖を該成形体の表面と平行に配向させてもよい。この場合、上記製造方法において、磁力線Mがキャビティ12内のエポキシ樹脂組成物16または熱可塑性高分子組成物160の表面と平行になるように、一対の永久磁石13を金型11の両側方に対向させて配設する。
【0089】
・前記永久磁石13は、金型11を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石13を省略してもよい。
・前記永久磁石13は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
【0090】
・前記磁力線Mは、直線状であるが、曲線状等でもよい。また、前記永久磁石13は磁力線Mが一方向に延びるように配設されているが、磁力線Mが二方向以上に延びるように永久磁石13を配設してもよい。さらに、磁力線M又は金型11のいずれか一方を回転させてもよい。
【0091】
・繊維クロスの代わりに多数の単繊維を用いてもよい。その場合には、上記製造方法において、得られる成形体の表面に平行になるように複数の単繊維をキャビティ12内に配置した後、エポキシ樹脂組成物16をキャビティ12内に充填してもよい。あるいは、予めエポキシ樹脂組成物16または熱可塑性高分子組成物160中に単繊維を配合しておいてもよい。この場合には、前述したように、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖を磁場によって配向させる際に、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖の配向方向と同一の方向に繊維をも配向させないように留意することが必要である。
【0092】
・成形体中において、繊維はその繊維軸が第1の平面に沿うように配向されていればよく、必ずしも第1の平面と平行である必要はない。また、エポキシ樹脂または熱可塑性高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されていればよく、第1の平面に直交している必要はない。
【0093】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0094】
エポキシ樹脂複合成形体によるプリント配線基板
(実施例1)
本発明のエポキシ樹脂複合成形体を絶縁層として用い、導電層として銅箔を使用したプリント配線基板を作製した。エポキシ樹脂として、分子の主鎖にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭ファイバーグラス製「MS130」(重量106g/m、密度19本/25mm)を使用した。導電層14a,14bとしては、銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が8vol%となるように設定した。金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に3枚のガラスクロス15をキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、エポキシ樹脂組成物16をガラスクロス15に含浸させた後、そのエポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃、10分間にわたって組成物16を硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板を得た。次に、その積層板にドリルによって穴径0.9mm.穴数200個の穴あけを行い、各穴のランド径1.3mm、回路幅0.2mm,回路間隔を0.2mmとなるように銅スルーホールメッキ処理を経て、パターンニングを行い、プリント配線基板2を作製した。
【0095】
(実施例2及び3)
表1に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を変更した以外は、実施例1と同様の方法で各プリント配線基板2を作製した。
【0096】
(実施例4)
表1に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)および磁束密度を変更した以外は、実施例1と同様の方法でプリント配線基板2を作製した。
【0097】
(実施例5)
実施例1と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合した。その混合物に、実施例1〜4のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長3mm)を添加して、エポキシ樹脂組成物16を調製した。ガラス繊維の添加量は、成形体におけるガラス繊維含有量が21vol%となるように設定した。前記導電層14a,14bとして実施例1と同一の銅箔を使用した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁束密度10テスラの磁場中にて、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃、10分間で硬化させた。それにより、厚み2mmの積層板が得られた。磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例1との同様の方法で、プリント配線基板2を作製した。
【0098】
(実施例6)
実施例1と同一のエポキシ樹脂および硬化剤を、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物を使用した。繊維クロスとしては、実施例1と同一のガラスクロスを用い、導電層14a,14bとしては実施例1と同一の銅箔を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が17vol%となるように設定した。まず、1枚のガラスクロス15に加熱溶融させたエポキシ樹脂組成物16を含浸させた後、磁束密度10テスラの磁場中にて冷却固化させて、プリプレグを作成した。実施例1と同様の金型11のキャビティ12内に銅箔を配置し、その銅箔の上に前記プリプレグを10枚重ね、さらにその上に別の銅箔を配置して、磁束密度10テスラの磁場中にて、170°Cで加熱および加圧することによって、厚み2mmの積層体を得た。磁力線の方向は積層板の厚み方向とした。次に、この積層板を用いて、実施例1との同様の方法で、プリント配線基板2を作製した。
【0099】
(比較例1)
エポキシ樹脂として分子内にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物16を使用し、繊維クロス及び繊維を含有しないプリント配線基板を作製した。導電層として実施例1と同一の銅箔を使用した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填した後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁場を印加せずに、前記エポキシ樹脂組成物16を170℃、10分間で硬化させることにより、厚み2mmの積層板を得た。次に、この積層板を用いて、実施例1との同様の方法で、プリント配線基板2を作製した。
【0100】
(比較例2)
エポキシ樹脂として分子内にメソゲン基を有するテレフタリリデン−ビス−(4−アミノ−3−メチルフェノール)ジグリシジルエーテルと、硬化剤として4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタンとを、1モル:0.5モルで混合したエポキシ樹脂組成物を使用し、繊維クロス及び繊維を含有しないプリント配線基板を作製した。導電層として実施例1と同一の銅箔を使用した。金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物を充填した後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。次に、磁束密度10テスラの磁場中にて、170℃、10分間で硬化させ、厚み2mmのプリント配線基板を作製した。磁力線の方向は積層板の厚み方向とした。次に、この積層板を用いて、実施例1との同様の方法で、プリント配線基板2を作製した。
【0101】
(比較例3)
実施例1と同一のエポキシ樹脂組成物16、ガラスクロス及び銅箔を使用した。ガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が17vol%となるように設定した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に10枚のガラスクロスをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。その後、金型11を温度170℃に加熱し、キャビティ12内に前記エポキシ樹脂組成物16を充填し、そのエポキシ樹脂組成物16にガラスクロス15を含浸させた後、前記エポキシ樹脂組成物16上に別の銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁場を印加せずに、170℃、10分間で前記エポキシ樹脂組成物16を硬化させた。これにより、厚み2mmの積層板を得た。次に、この積層板を用いて、実施例1との同様の方法で、プリント配線基板2を作製した。
【0102】
実施例1〜6及び比較例2で得られたプリント配線基板のエポキシ樹脂複合成形体部分についてエポキシ樹脂の配向度αを測定した。配向度αの測定は、実施例1〜6および比較例2のプリント配線基板のエポキシ樹脂成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用いて、エポキシ樹脂の配向度αをX線回折装置(株式会社マック・サイエンス製「M18XHF22−SRA」)によって測定したX線回折パターンより求めた。
【0103】
また、各実施例及び比較例で得られた各プリント配線基板2のエポキシ樹脂複合成形体部分について、プリント配線基板2の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。熱膨張係数の測定は、各実施例および比較例のプリント配線基板のエポキシ樹脂成形体部分のみからなる試験片(厚さ2mm)を用い、熱機械分析装置(株式会社島津製作所「TMA−50」)によって、荷重3g、昇温速度10°C/分にて行なった。
【0104】
さらに、各プリント配線基板2について、スルーホール信頼性試験を行なった。各プリント配線基板2をJIS−C0025に準拠して、260°Cの油および20°Cの水中へ、それぞれ10秒間ずつ浸漬させることを1サイクルとし、このサイクルを繰り返して、断線が発生するまでのサイクル数を計測した。
【0105】
実施例1〜6及び比較例1〜3において得られたプリント配線基板について、上記測定値および試験結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

表1の結果から明らかなように、実施例1〜4および6では、ガラスクロスが拡がる基板の表面に沿う方向と、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させた厚み方向の双方において、熱膨張係数は40×10−6/K以下という低い値を示した。また、実施例5においても、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させた厚み方向においてだけでなく、基板の表面に沿う方向においても、熱膨張係数は40×10−6/K以下という低い値を示した。これは、エポキシ樹脂組成物16に添加されたガラス繊維が、板状に成形されたことにより、その繊維軸が基板の表面に沿う方向に配向され、その後、磁場を作用させても、3mmという比較的長い繊維長のため磁場の影響を受け難く、前記配向状態を維持したためと考えられる。したがって、実施例1〜6においては、表面に沿う方向における熱膨張係数と厚さ方向における熱膨張係数との差は、最大でも30×10−6/K(実施例3)となり、基板の表面に沿う方向および厚み方向の双方において、熱膨張係数が小さく制御されたエポキシ樹脂複合成形体からなるプリント配線基板が得られることが分かる。また、実施例1〜6のプリント配線基板は、比較例1〜3のプリント配線基板と比較して、いずれも良好なスルーホール信頼性を有した。
【0107】
一方、比較例1では、基板の表面に沿う方向と厚さ方向とにおける熱膨張係数の差は小さいものの、熱膨張係数の値がいずれも60×10−6/Kを超える大きなものとなった。比較例2では、エポキシ樹脂の分子鎖を配向させた厚さ方向の熱膨張係数は低い値となったが、表面に沿う方向の熱膨張係数が非常に高い値を示している。比較例3では、ガラスクロスが拡がる表面に沿う方向における熱膨張係数は低い値であるが、厚さ方向の熱膨張係数は高い値を示している。また、比較例1〜3のプリント配線基板では、十分なスルーホール信頼性が得られなかった。
【0108】
熱可塑性高分子複合成形体によるプリント配線基板
(実施例7)
本発明の熱可塑性高分子複合成形体10を絶縁層として用い、導電層として銅箔を使用したプリント配線基板を作製した。熱可塑性高分子として、構成単位が4−ヒドロキシ安息香酸/(テレフタル酸とエチレングリコール(モル比:1:1))=80/20モル%である熱可塑性高分子組成物160を使用した。繊維クロス15としては、ガラスクロスである旭シュエーベル製「1080」(重量48g/m、密度:縦60本×横47本/インチ)を使用した。導電層14a,14bとしては、日鉱マテリアルズ製電解銅箔(厚さ18μm)を使用した。使用するガラスクロスの枚数は、成形体におけるガラスクロス含有量が3.7vol%となるように設定した。
【0109】
まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に厚さ0.40mmのシート状に予備成形した熱可塑性高分子組成物160とガラスクロス15とをキャビティ12の底面と平行になるように重ねて配置した。これを4層重ねた上にさらに熱可塑性高分子組成物160のシートを重ね、その上に銅箔(導電層14b)を配置した。その後、金型を磁束密度10テスラの磁場中にて、310℃、15分間にわたって加熱および加圧し、その後室温まで徐冷することにより、厚み2mmの積層板を得た。磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、その積層板にドリルによって穴径0.9mmで200個の穴をあけ、銅スルーホールメッキ処理を行ったあと、各穴のランド径1.3mm、回路幅0.2mm、回路間隔を0.2mmとなるようにパターンニングを行い、プリント配線基板20を作製した。
【0110】
(実施例8)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を変更した以外は、実施例7と同様の方法で各プリント配線基板20を作製した。
【0111】
(実施例9)
表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)および磁束密度を変更した以外は、実施例7と同様の方法でプリント配線基板20を作製した。
【0112】
(実施例10)
熱可塑性高分子として、2、2’−ビピリジン−4、4’−ジカルボン酸と、1、12−ジアミノドデカンを反応させて合成した熱可塑性高分子組成物160を使用し、表2に示すように、キャビティ12内に配置するガラスクロスの枚数(ガラスクロス含有量)を変更した以外は、実施例7と同様の方法で各プリント配線基板20を作製した。
【0113】
(実施例11)
実施例7〜10のガラスクロスの代わりに、単繊維群として、ガラス繊維である旭ファイバーグラス製「CS03BC273」(繊維長1mm)を、実施例7と同一の熱可塑性高分子に配合して、熱可塑性高分子組成物160を調製した。ガラス繊維の添加量は、熱可塑性高分子組成物160におけるガラス繊維含有量が19vol%となるように設定した。まず、磁束密度10テスラの磁場中に設置した金型11に熱可塑性高分子組成物160を射出し、310℃、15分間にわたって加熱および加圧したのちに室温まで徐冷することにより、厚さ2mmの熱可塑性高分子複合成形体10を得た。磁力線の方向は成形体の厚み方向と一致させた。次に、この熱可塑性高分子複合成形体10の両面に銅メッキを施し、導電層14a,14bを形成した。導電層14a,14bが形成された熱可塑性高分子複合成形体10を、実施例1と同様の方法でパターンニングして、プリント配線基板20を作製した。
【0114】
(比較例4)
実施例7〜9と同一の熱可塑性高分子組成物160を使用し、繊維クロス及び繊維を含有しないプリント配線基板を作製した。導電層として実施例7と同一の銅箔を使用した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に厚さ2mmのシート状に予備成形した熱可塑性高分子組成物160をキャビティ12の底面と平行になるように配置し、その上に銅箔(導電層14b)を配置した。その後、磁場を印加せずに、金型を310℃、15分間にわたって加熱および加圧し、その後、室温まで徐冷することにより、厚み2mmの積層板を得た。次に、この積層板を用いて、実施例1と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0115】
(比較例5)
実施例7〜9と同一の熱可塑性高分子組成物160を使用し、繊維クロス及び繊維を含有しないプリント配線基板を作製した。導電層として実施例7と同一の銅箔を使用した。まず、金型11のキャビティ12の底面上に銅箔(導電層14a)を配置し、その上に厚さ2mmのシート状に予備成形した熱可塑性高分子組成物160をキャビティ12の底面と平行になるように配置し、その上に銅箔(導電層14b)を配置した。その後、金型を磁束密度10テスラの磁場中にて、310℃、15分間にわたって加熱および加圧し、その後室温まで徐冷することにより、厚み2mmの積層板を得た。磁力線の方向は積層板の厚み方向と一致させた。次に、この積層板を用いて、実施例7と同様の方法で、プリント配線基板を作製した。
【0116】
(比較例6)
実施例9と同一の材料及び分量の熱可塑性高分子組成物およびガラスクロスを用いて、成形時に磁場を印加しないこと以外は、実施例9と同一の方法によって、プリント配線基板を作成した。
【0117】
実施例7〜11及び比較例4〜6で得られたプリント配線基板の熱可塑性高分子複合成形体部分について、先に実施例1〜6および比較例2に関して説明したのと同一の方法で、熱可塑性高分子の配向度α、並びに、プリント配線基板の表面に沿う方向および厚み方向の熱膨張係数を測定した。比較例4および6の配向度αは、これらの試験片のX線回折強度分布においてピークが観察されなったため、算出不能であった。
【0118】
さらに、各プリント配線基板について、スルーホール信頼性試験を行った。各プリント配線基板2をJIS−C5012に準拠して、260°Cのシリコーンオイルの中に5秒間、20°Cの2−プロパノールの中へ20秒間浸漬させることを1サイクルとし、このサイクルを繰り返して、亀裂や剥離、断線が発生するまでのサイクル数を計測した。
【0119】
実施例7〜11及び比較例4〜6において得られたプリント配線基板について、上記測定値および試験結果を表2に示す。
【0120】
【表2】

表2の結果から明らかなように、実施例7〜10では、ガラスクロスが拡がる基板の表面に沿う方向と、熱可塑性高分子の分子鎖を配向させた厚み方向の双方において、熱膨張係数は35×10−6/K以下という低い値を示した。また、ガラス単繊維を用いた実施例5においても、熱可塑性高分子の分子鎖を配向させた厚み方向においてだけでなく、基板の表面に沿う方向においても、熱膨張係数は28×10−6/K以下という低い値を示した。これは、熱可塑性高分子組成物160が型11のキャビティ12内に射出される際に生じた組成物160の流れによって、組成物160中のガラス繊維が、その長軸がキャビティ12の底面に沿う方向、すなわち積層板の表面に沿う方向に配向されたためと考えられる。その後、磁場を積層板の厚み方向に作用させても、ガラス繊維の異方性反磁性磁化率χが小さいため磁場の影響を受け難く、前記配向状態が維持されたものと考えられる。
【0121】
したがって、実施例7〜11においては、表面に沿う方向における熱膨張係数と厚さ方向における熱膨張係数との差は、最大でも29×10−6/K(実施例1)となり、基板の表面に沿う方向および厚み方向の双方において、熱膨張係数が小さく制御された熱可塑性高分子複合成形体からなるプリント配線基板が得られることが分かる。また、実施例7〜11のプリント配線基板は、比較例4〜6のプリント配線基板と比較して、いずれも良好なスルーホール信頼性を有した。
【0122】
一方、比較例4では、表面に沿う方向の熱膨張係数は比較的低い値となったが、厚さ方向の熱膨張係数は高い値を示した。比較例5では、熱可塑性高分子の分子鎖を配向させた厚さ方向の熱膨張係数は非常に低い値となったが、表面に沿う方向の熱膨張係数が高い値を示した。比較例6では、ガラスクロスが拡がる表面に沿う方向における熱膨張係数は低い値であるが、厚さ方向の熱膨張係数は高い値を示た。また、比較例4〜6のプリント配線基板では、十分なスルーホール信頼性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、繊維とから形成されるエポキシ樹脂複合成形体であって、該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記エポキシ樹脂の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、
X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記エポキシ樹脂の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、
第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下であることを特徴とするエポキシ樹脂複合成形体。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、分子内にメソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂複合成形体。
【請求項3】
前記繊維が、繊維クロスおよび単繊維群の少なくとも何れか一方からなる請求項1または2に記載のエポキシ樹脂複合成形体。
【請求項4】
前記繊維が、ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂複合成形体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を設けることによって形成されるプリント配線基板。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂複合成形体を製造する方法であって、
前記繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記金型のキャビティ内にエポキシ樹脂組成物を注入して、前記繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる工程と、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂の分子鎖を配向させる工程において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項5に記載のプリント配線基板を製造する方法であって、
前記繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記金型のキャビティ内にエポキシ樹脂組成物を注入して、前記繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させる工程と、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含み、さらに、
前記配置する工程の前、含浸させる工程の後、および硬化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記配向させる工程において、エポキシ樹脂の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂複合成形体を製造する方法であって、
前記繊維を含むエポキシ樹脂組成物を調製する工程と、
前記エポキシ樹脂組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、金型のキャビティ内に注入する工程と、
前記エポキシ樹脂の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、エポキシ樹脂組成物を硬化させる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
熱可塑性高分子と、繊維とから形成される熱可塑性高分子複合成形体であって、該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記熱可塑性高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、
X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記熱可塑性高分子の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、
第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下であることを特徴とする熱可塑性高分子複合成形体。
【請求項12】
前記熱可塑性高分子が、分子内にメソゲン基を有する液晶性高分子であることを特徴とする請求項11に記載の熱可塑性高分子複合成形体。
【請求項13】
前記液晶性高分子が、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリエステルアミドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項12に記載の熱可塑性高分子複合成形体。
【請求項14】
前記繊維が、繊維クロスおよび単繊維群の少なくとも何れか一方からなる請求項11乃至13のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体。
【請求項15】
前記繊維が、ガラス繊維、セラミックス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体。
【請求項16】
請求項11乃至15のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を設けることによって形成されるプリント配線基板。
【請求項17】
請求項11乃至15のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体を製造する方法であって、
前記繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記金型のキャビティ内に熱可塑性高分子組成物を注入して、前記繊維に熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項11乃至15のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体を製造する方法であって、
前記熱可塑性高分子を含む熱可塑性高分子組成物の予備成形体を形成する工程と、
前記予備成形体および繊維を、第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記予備成形体を溶融させることにより、前記繊維に前記熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項11乃至15のいずれか1項に記載の熱可塑性高分子複合成形体を製造する方法であって、
前記熱可塑性高分子および繊維を含む熱可塑性高分子組成物を調製する工程と、
前記熱可塑性高分子組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、前記金型のキャビティ内に注入する工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程において、熱可塑性高分子の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることを特徴とする請求項17乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項16に記載のプリント配線基板を製造する方法であって、
前記繊維を第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記金型のキャビティ内に熱可塑性高分子組成物を注入して、前記繊維に熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、
前記配置する工程の前、配置する工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項16に記載のプリント配線基板を製造する方法であって、
前記熱可塑性高分子を含む熱可塑性高分子組成物の予備成形体を形成する工程と、
前記予備成形体および繊維を、第1の平面に沿うように金型のキャビティ内に配置する工程と、
前記予備成形体を溶融させることにより、前記繊維に前記熱可塑性高分子組成物を含浸させる工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、
前記配置する工程の前、配置する工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項16に記載のプリント配線基板を製造する方法であって、
前記熱可塑性高分子および繊維を含む熱可塑性高分子組成物を調製する工程と、
前記熱可塑性高分子組成物を、前記繊維の長軸が第1の平面に沿うように、前記金型のキャビティ内に注入する工程と、
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程と、
その配向状態を維持したまま、熱可塑性高分子組成物を固化させる工程とを含み、さらに、
前記注入する工程の前、同工程の後、および固化させる工程の後の少なくとも何れかにおいて、該プリント配線基板の表面および内部の少なくともいずれかに導電層を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
前記熱可塑性高分子の分子鎖を第1の平面と交わる方向に配向させる工程において、熱可塑性高分子の分子鎖の配向が磁場を印加することによって行なわれることを特徴とする請求項21乃至23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
高分子と、繊維とから形成される高分子複合成形体であって、該成形体中において、前記繊維が第1の平面に沿って配置されており、前記高分子の分子鎖は第1の平面に交わる方向に配向されており、
X線回折測定から下記式(1)によって求められる前記高分子の分子鎖の配向度αが、0.5以上1.0未満の範囲であり、
配向度α=(180−Δβ)/180・・・(1)
上記式中、ΔβはX線回折測定によるピーク散乱角を固定して、方位角方向の0〜360度までの強度分布における半値幅を表しており、
第1の平面に沿った方向および第1の平面に交わる方向における該成形体の熱膨張係数が、いずれも5×10−6〜50×10−6(/K)であり、かつ第1の平面に沿った方向における熱膨張係数と第1の平面に交わる方向における熱膨張係数との差が30×10−6(/K)以下であることを特徴とする高分子複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【国際公開番号】WO2005/085334
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510636(P2006−510636)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002643
【国際出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】