説明

高周波モジュール

【課題】デュプレクサの受信用帯域通過フィルタの設計変更を最小限に留めた良好な減衰特性の高周波モジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高周波モジュールは、弾性表面波素子における複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極の一端を単独接地用端子に接続するとともに、その他の並列共振用励振電極の一端をリング状接地用端子に接続し、単独接地用端子およびリング状接地用端子をそれぞれ独立にインダクタンス成分を介して誘電体基板の裏面に形成されたグランドパターンに接続してなり、単独接地用端子とグランドパターンとの間に介在させるインダクタンス成分を、誘電体基板の表面に実装したチップインダクタで構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、無線LAN、WLL(Wireless Local Loop)などの無線通信装置に用いられる誘電体積層基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の普及が進みつつあり、携帯電話機の機能、サービスの向上が図られている。このような携帯電話機では、各送受信系の構成に必要な高周波回路が誘電体基板に搭載されている。
【0003】
前記高周波回路の一般的構成では、アンテナから入力された受信信号とアンテナに給電する送信信号とを切り替えるデュプレクサが設けられている。ここで、受信信号と送信信号の周波数間隔は狭いため、このデュプレクサを構成するフィルタ素子としては急峻な遮断特性を持つ弾性表面波素子が主に用いられる。
【0004】
この構成において、アンテナから入ってきた無線信号は、デュプレクサに入力され、ここで受信信号が選択的に通過される。受信信号は、低雑音増幅器で増幅され、信号処理回路に供給される。一方、送信信号は、所定の送信通過帯域内の送信信号を通過させる帯域通過フィルタを通ってノイズを落とされ、高周波電力増幅回路に伝送される。高周波電力増幅回路は、この送信信号を電力増幅して前記デュプレクサに供給するためのものである。
【0005】
また、GPS(Global Positioning System)による測位機能も携帯電話機に取り込まれつつある。GPS機能付きの携帯電話機においては、GPS信号を前記送受信信号から分離する必要があるので、分波器が設けられている。アンテナから入力されたGPS信号は、この分波器を通り、GPS信号のみを通過させるためのGPS用フィルタ素子を経て、信号処理回路に供給される。
【0006】
なお、デュプレクサのTx帯における減衰量が悪いと、高周波モジュールのノイズ特性、アイソレーション特性が悪くなるので、デュプレクサの受信用帯域通過フィルタの減衰量を大きくする設計が求められる。
【0007】
図8にデュプレクサを構成するフィルタ素子としての受信用帯域通過フィルタの等価回路の従来例を示す。本回路は、ラダー型弾性表面波フィルタという一般的なフィルタであり、信号線路に対して直列に挿入される直列共振用励振電極1s、2sと、入力端子と直列共振用励振電極1sの間に一端を接続される並列共振用励振電極1pと、直列共振用励振電極1sと直列共振用励振電極2sの間に一端を接続される並列共振用励振電極2pと、直列共振用励振電極2sと出力端子の間に一端を接続される並列共振用励振電極3pから構成される。並列共振用励振電極1p、2p、3p各々の他端はL成分Lgを介して接地される。減衰極の発生メカニズムとしては、並列共振用励振電極の共振周波数と直列共振用励振電極の反共振周波数に減衰極が形成される。これらの減衰極をTx帯の減衰量が最も良くなるような減衰極の配置になるような設計が望ましい(特許文献1参照)。
【0008】
図9にデュプレクサを構成するフィルタ素子としての受信用帯域通過フィルタの構造図の従来例を示す。支持基板906はLiTaOが用いられている。そして、信号の入力される入力端子902から、導体パターン905a、直列共振用励振電極901d、導体パターン905b、直列共振用励振電極901e、導体パターン905c、信号の出力される出力端子903へと順に接続されている。また、並列共振用励振電極901aは導体パターン905aと導体パターン905d間に配置され、並列共振用励振電極901bは導体パターン905bと導体パターン905d間に配置され、並列共振用励振電極901cは導体パターン905cと導体パターン905d間に配置されている。この導体パターン905dはリング状接地用端子904と接続されている。
【0009】
図10に図9で示した受信用帯域通過フィルタを実装した高周波モジュールの従来例を示す。誘電体基板1001の表面には、受信用帯域通過フィルタ1002のリング状接地用端子と接続されるリング状接地用電極1005と、受信用帯域通過フィルタ1002の入力端子と接続される入力用電極1003と、受信用帯域通過フィルタ1002の出力端子と接続される出力用電極1004が設けられている。受信用帯域通過フィルタ1002のリング状接地用端子と誘電体基板1001のリング状接地用電極1005とは半田等で接合され、直列共振用励振電極および並列共振用励振電極の形成面が気密に封止される。このように、この受信用帯域通過フィルタ1002においては、直列共振用励振電極および並列共振用励振電極の形成面の気密封止が必要となるが、図9および図10に示す構造で気密封止および並列共振用励振電極の一端の接地を兼ねている。そして、入力信号はデュプレクサの位相調整回路に接続される接続用配線1008aからビア1009aを介して入力用電極1003から受信用帯域通過フィルタ1002に入力される。出力信号は受信用フィルタ1002の出力端子から出力用電極1004、ビア1009eを介して、外部端子1006から出力される。また、リング状接地用電極1005と裏面接地電極1007は、ビア1009b、接続用配線1008b、ビア1009c、接続用配線1008c、ビア1009dによって直流的に接続されている。
【特許文献1】特開2002−217680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、前記高周波モジュールを用いる場合、受信用帯域通過フィルタの減衰極の調整方法として、減衰量が最も良くなるように図8の等価回路Lgを調整する方法がある。具体的には、図10の受信用帯域通過フィルタ1002のリング状接地用端子と誘電体基板1001の裏面接地電極1007間を接続する接続配線およびビアの電気長を変えることである。
【0011】
しかし、図10に示す構造においてLgを最適に調整しても、図11の従来例のデュプレクサ受信特性に示すような特性が限界である。図11の破線で示す範囲は、Cellular帯のTx帯(824MHz−849MHz)であって、減衰量として46dBであり、所望の減衰量に対して不足した特性しか得られない。
【0012】
これに対し、改善策として受信用帯域通過フィルタの励振電極の設計変更を行う方法があるが、コストと設計時間を費やすことになるため、容易に行えないという問題があった。
【0013】
本発明は、デュプレクサの受信用帯域通過フィルタの設計変更を最小限に留めた良好な減衰特性の高周波モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の高周波モジュールは、圧電基板の一方主面に、複数の直列共振用励振電極および複数の並列共振用励振電極が形成されるとともに、リング状接地用端子および該リング状接地用端子から独立して単独接地用端子が形成された弾性表面波素子を、誘電体基板の表面にフェイスダウン実装してなる高周波モジュールであって、前記弾性表面波素子における前記複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極の一端を前記単独接地用端子に接続するとともに、その他の並列共振用励振電極の一端を前記リング状接地用端子に接続し、前記単独接地用端子および前記リング状接地用端子をそれぞれ独立にインダクタンス成分を介して前記誘電体基板の裏面に形成されたグランドパターンに接続してなり、前記単独接地用端子と前記グランドパターンとの間に介在させる前記インダクタンス成分を、前記誘電体基板の表面に実装したチップインダクタで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高周波モジュールによれば、2箇所のインダクタンス成分(LG)で調整することが可能となり、調整の自由度が増すとともに、最適なインダクタンス成分を持たせることで、デュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの減衰量が最も良くなる減衰極位置に配することができる。特に、複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極の一端を単独接地用端子に接続したことで、送信用帯域通過フィルタの通過帯域における損失を維持しつつ、受信フィルタの良好な減衰量を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、携帯電話装置等の移動体通信機器に用いられる高周波信号処理回路の構成図であり、この図では、セルラーシステム(800MHz帯)と、GPS(Global Positioning System)測位システム(1575MHz)を共用する移動体通信機器の高周波信号処理回路を示している。
【0018】
このような構成の高周波信号処理回路を搭載した移動体通信機器においては、各部に対する小型化、軽量化の要求が強く、これらの要求を考慮して、高周波信号処理回路は、所望の特性が達成できる単位でモジュール化されている。すなわち、図1に破線で示したように、分波器2、送信用帯域通過フィルタ3aと受信用帯域通過フィルタ3bと位相調整回路3cとから構成されるデュプレクサ、送信用フィルタ6、電力増幅器5、方向性結合器4、電力検出回路7、GPS用フィルタ8などを含む主要回路が誘電体積層基板の上部または内部に配置され、1つの高周波モジュール16を形成している。なお、この高周波モジュールは、図1に示すセルラー受信系を構成する低雑音増幅器9や受信用フィルタ10も実装してさらに大きく形成してもよい。
【0019】
分波器2は、周波数をセルラーシステムとGPSシステムとに分けるものであり、低域通過フィルタと高域通過フィルタとを含んでいる。これらのフィルタは、誘電体積層基板内の内層導体パターンで形成されたキャパシタやインダクタで構成してもよく、チップ素子を誘電体誘電体積層基板の表面に実装する形で構成してもよい。また、これらの内層素子と表面実装素子との組み合わせで構成してもよい。
【0020】
GPS用フィルタ8は、セルラーシステムの周波数帯の信号を減衰させ、GPSシステムの周波数帯の受信信号のみを通過させるためのフィルタであり、急峻な遮断特性を持った弾性表面波(Surface Acoustic Wave)フィルタなどの表面実装部品で構成される。弾性表面波フィルタは減衰特性が急峻でかつ小型という特徴があるので、弾性表面波フィルタを用いることで高周波モジュールの性能を向上させ、小型化ができる。なお、弾性表面波フィルタの代わりに、誘電体フィルタ、FBARフィルタ、BAWフィルタなどを用いることもできる。
【0021】
デュプレクサは、セルラーシステムの送信信号と受信信号とを分けるためのものであり、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b及び位相調整回路3cからなる。ここで、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3bも、GPS用フィルタ8と同様に、急峻な遮断特性を持った弾性表面波フィルタなどが用いられる。
【0022】
送信用フィルタ6は、セルラーシステムの周波数帯(800MHz帯)の送信信号を通過させるためのフィルタであり、ここにも急峻な遮断特性を持った弾性表面波フィルタなどが用いられる。
【0023】
電力増幅器5は、800MHz帯の送信信号を電力増幅する回路であり、送信用フィルタ6を通過した送信信号をANT端子における定格出力まで電力を増幅するためのものである。定格出力はシステムや製品によってまちまちであるが、800MHzのCDMA方式では25dBm〜25.3dBmが良く規定される。
【0024】
方向性結合器4は、電力増幅器5からの出力信号のレベルをモニタして、そのモニタ信号に基づいて電力増幅器5をオートパワーコントロールするためのものである。そのモニタ出力は、電力検出回路7に入力される。
【0025】
ここで、セルラー送信系における信号の流れを説明すると、送信信号処理回路11から出力されるセルラー送信信号は、送信用フィルタ6でノイズが削減され、電力増幅器5に伝えられる。電力増幅器5で増幅された送信信号は、方向性結合器4を通り、送信用帯域通過フィルタ3aに入力され、分波器2を通してアンテナから放射される。
【0026】
一方、セルラー受信系における信号の流れとしては、アンテナから入力されたセルラー受信信号は、分波器2、位相調整回路3c、受信用帯域通過フィルタ3bを通り、低雑音増幅器9で増幅され、受信信号からノイズを除去する受信用フィルタ10を通して受信信号処理回路12に入力され、信号処理される。
【0027】
また、アンテナから入力されたGPS信号は、前記GPS用フィルタ8で分離され、受信信号処理回路12に入力され信号処理される。
【0028】
図2は、図1中の破線に囲まれた領域(高周波モジュール16)を1つの誘電体積層基板内にモジュール化した場合の高周波モジュールの斜視透過図である。
【0029】
図2において、誘電体積層基板17の表層には、電力増幅器5(図示しない)を構成する電力増幅用半導体素子18、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b、GPS用フィルタ8、送信用フィルタ6、電力検出回路7が実装されている。また、図示しないが、方向性結合器4や分波器2は、誘電体積層基板17の表面に搭載されるチップインダクタ(チップL)およびチップCや、誘電体積層基板17の表面や内部に形成される導体パターンによって構成されている。さらに、電力増幅器5を構成する電力増幅用位相調整回路も図示されていないが、この電力増幅用位相調整回路も誘電体積層基板17表面に搭載されるチップLや、誘電体積層基板17の表面や内部に形成される導体パターンによって構成されている。
【0030】
図2に示す高周波モジュールにおいて、送信用フィルタ6、送信用帯域通過フィルタ3a、受信用帯域通過フィルタ3b、GPS用フィルタ8は、上述したように、弾性表面波フィルタや誘電体フィルタ、FBARフィルタが使用されている。ここで、弾性表面波フィルタを用いる場合、弾性表面波フィルタ素子を誘電体積層基板17の表層に実装することでフィルタとして機能させることができる。
【0031】
誘電体積層基板17は、同一寸法形状の誘電体層を複数層積層してなり、その表面や内部に配線導体層が形成されてなるものである。例えば、ガラスエポキシ樹脂などの有機誘電体層に対して、銅箔などの導体によって配線導体層を形成し、積層して熱硬化させたもの、又は、セラミック材料などの無機誘電体グリーンシートに種々の配線導体層を形成し、これらを積層後同時に焼成したものが用いられる。
【0032】
上記セラミック材料としては、(1)Al、AlN、Si、SiCなどを主成分とする焼成温度が1100℃以上のセラミック材料、(2)金属酸化物の混合物からなる1100℃以下、特に1050℃以下で焼成される低温焼成セラミック材料、(3)ガラス粉末、あるいはガラス粉末とセラミックフィラー粉末との混合物からなる1100℃以下、特に1050℃以下で焼成される低温焼成セラミック材料の群から選ばれる少なくとも1種が選択される。そして、上記(2)の混合物としては、BaO−TiO、Ca−TiO、MgO−TiO等のセラミック材料が用いられる。これらのセラミック材料に、SiO、Bi、CuO、LiO、B等の助剤を適宜添加したものも用いられる。また、上記(3)のガラス組成物としては、少なくともSiOを含み、Al、B、ZnO、PbO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物のうちの少なくとも1種以上を含有したもの、さらにはこれらにZnO、PbO、Pb、ZrO、TiO等を配合した組成物が挙げられる。さらに、上記(3)のガラスとしては、例えば、焼成処理によって、アルカリ金属シリケート、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、エンスタタイト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ディオプサイド、イルメナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライトやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種を析出する結晶化ガラスなどが用いられる。また、上記(3)におけるセラミックフィラーとしては、Al、SiO(クォーツ、クリストバライト)、フォルステライト、コージェライト、ムライト、エンスタタイト、スピネル、マグネシア、ZrO、AlN、Si、SiC、MgTiO、CaTiOなどのチタン酸塩の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、ガラス20〜80質量%、フィラー20〜80質量%の割合で混合されることが望ましい。
【0033】
一方、配線導体層は、誘電体積層基板17と同時焼成して形成するために、誘電体積層基板17を形成するセラミック材料の焼成温度に応じて種々組み合わせられる。例えば、セラミック材料が前記(1)の場合、タングステン、モリブデン、マンガン、銅の群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする導体材料が好適に用いられる。また、低抵抗化のために、銅などとの混合物としてもよい。セラミック材料が前記(2)(3)の低温焼成セラミック材料を用いる場合、銅、銀、金、アルミニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする低抵抗導体材料が用いられる。
【0034】
また、各層を接続するためのビアホール導体は、誘電体層に形成した貫通孔にメッキ処理するか、導体ペーストを充填するかして形成される。
【0035】
特に、誘電体積層基板17にセラミック材料を用いれば、セラミック誘電体の比誘電率は通常7〜25と樹脂積層基板に比べて高いので、誘電体層を薄くでき、誘電体層に内装された回路の素子のサイズを小さくでき、素子間距離も狭くすることができる。とりわけ、ガラスセラミックスなどの低温で焼成が可能なセラミック材料を用いると、前述したように、導体パターンを低抵抗の銅、銀などによって形成することができるので望ましい。
【0036】
この高周波モジュールは、複数個取りになった誘電体積層基板の作製、誘電体積層基板へのクリーム半田の印刷、表面実装部品を誘電体積層基板に載せるためのチップマウント、半田を硬化させるためのリフロー、誘電体積層基板を個片にするためのダイシング又はスナップという製造工程で作られる。なお、ダイシングの前に樹脂封止工程を入れれば、表面を平らにでき、ユーザーがメインボードに搭載するのが容易になるので、高周波モジュール単体として望ましい形状となる。
【0037】
図3に本発明の等価回路を示す。本回路は、ラダー型弾性表面波フィルタという一般的なフィルタであり、信号線路に対して直列に挿入される直列共振用励振電極1s、2sと、入力端子と直列共振用励振電極1sの間に一端を接続される並列共振用励振電極1pと、直列共振用励振電極1sと直列共振用励振電極2sの間に一端を接続される並列共振用励振電極2pと、直列共振用励振電極2sと出力端子の間に一端を接続される並列共振用励振電極3pから構成される。そして、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極3pの他端はインダクタ成分のLg2を介して接地され、その他の並列共振用励振電極1p、2p各々の他端はインダクタンス成分Lg1を介して接地される。
【0038】
ここで、減衰極の発生メカニズムとして、並列共振用励振電極の共振周波数と直列共振用励振電極の反共振周波数に減衰極が形成される。そして、並列共振用励振電極3pと裏面接地電極(グランドパターン)間にあるLg2を調整することで、減衰極の反共振周波数を調整することができ、Lg1とのバランスを変化させることでも同様の効果を得ることができることから、並列共振用励振電極3pによって形成される減衰極の位置を調整することができる。そして、図7に示す本発明のデュプレクサの受信特性を図11に示す従来のデュプレクサの受信特性と比較して明らかなように、図7の破線で示す範囲がCellular帯のTx帯(824MHz−849MHz)で、減衰量として56dBであり、図11の従来例と比べて減衰量が約6dB改善していることがわかる。
【0039】
次に、図4に本発明のデュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの構造図を示す。支持基板406はLiTaOを用いる。信号は入力端子402から入力されて、導体パターン405a、直列共振用励振電極401d、導体パターン405b、直列共振用励振電極401e、導体パターン405c、出力端子403の順に接続される。また、並列共振用励振電極401aは導体パターン405aと導体パターン405d間に配置され、並列共振用励振電極401bは導体パターン405bと導体パターン405d間に配置され、並列共振用励振電極401cは導体パターン405eと導体パターン405c間に配置される。そして、導体パターン405dはリング状接地用端子404と接続されており、導体パターン405e上には単独接地用端子407が設けられている。このように、並列共振用励振電極の全てがリング状接地用端子404に接続されておらず、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極(並列共振用励振電極401c)の一端をリング状接地用端子404から独立して設けられた単独接地用端子407に接続されていることから、後述のように、2箇所のインダクタンス成分(LG)で調整することが可能となり、調整の自由度が増すとともに、最適なインダクタンス成分を持たせることで、デュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの減衰量が最も良くなる減衰極位置に配することができる。ここで、仮に複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も入力に近い並列共振用励振電極の一端を単独接地用端子に接続した場合には、送信用帯域通過フィルタの通過帯域において損失が大きくなるとともに、VSWRが劣化してしまうという問題があり、最も入力に近くもなく出力に近くもない並列共振用励振電極の一端を単独接地用端子に接続した場合には、受信フィルタの減衰極周波数に対する感度がよくない。これに対し、複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極の一端を単独接地用端子に接続した本発明によれば、送信用帯域通過フィルタの通過帯域における損失を維持しつつ、受信フィルタの良好な減衰量を確保することができる。
【0040】
なお、導体パターンの材質としては、例えばTiとAl−Cuの積層構造のものが採用でき、端子の材質としては、例えばCrとNiとAuの積層構造のものが採用できる。また、導体パターン405eおよび単独接地用端子407の設けられる位置については、並列共振用励振電極401cの一端に接続されるものであれば図4に示す配置に限定はされない。
【0041】
図5に、本発明の高周波モジュールの一実施形態を示す。図5に示す構造は、単独接地用端子とグランドパターンの間に介在されるインダクタンス成分を、誘電体基板の表面に実装したチップLで構成したものである。
【0042】
誘電体基板501の表面には、デュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタ502のリング状接地用端子と接続されるリング状接地用電極505と、受信用帯域通過フィルタ502の入力端子と接続される入力用電極503と、受信用帯域通過フィルタ502の出力端子と接続される出力用電極504が設けられている。入力信号はデュプレクサを構成する位相調整回路に接続される接続用配線508aからビア509aを経由して入力用電極から受信用帯域通過フィルタ502に入力され、出力信号は受信用帯域通過フィルタ502の出力端子から出力用電極504、ビア509eを経由して、外部端子506から出力される。また、リング状接地用電極505と裏面接地電極507(誘電体基板501の裏面に形成されたグランドパターン)とは、ビア509b、接続用配線508b、ビア509c、接続用配線508c、ビア509dによって直流的に接続されている。ここで、図においては、2つのコ字状の接続用配線を誘電体基板501内部の異なる層に90度向きをかえて配置しており、このような配置により接続用配線とビアとがくずれた螺旋状構造を呈することでインダクタンス成分となっている。また、受信用帯域通過フィルタ502の単独接地用端子は単独接地用電極510に接続された後、ビア509f、接続用配線508d、ビア509gを介して誘電体基板501の表面に形成されたチップL用電極511aに接続されている。そして、誘電体基板501の表面にはチップL512が実装されており、このチップL512の一端はチップL用電極511aに接続され、他端はチップL用電極511bと接続されている。チップL用電極511bはビア509hを介して裏面接地電極507に接続される。
【0043】
このような構造においては、チップL512の交換をすることで、受信用帯域通過フィルタ502の単独接地用端子と誘電体基板501の裏面接地電極507間のインダクタンス値を変化させることができるので、受信用帯域通過フィルタ502の減衰極を調整することが出来る。これによりデュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの減衰量を最適化できる。
【0044】
また、参考例を図6に示す。図6に示す構造は、事前にデュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの単独接地用端子と裏面接地電極間のインダクタンス値が分かっている場合に採用できる構造であり、単独接地用端子とグランドパターンの間に介在されるインダクタンス成分を、誘電体基板の内層導体パターンで形成したものである。
【0045】
誘電体基板601の表面には、受信用帯域通過フィルタ602のリング状接地用端子と接続されるリング状接地用電極605と、受信用帯域通過フィルタ602の入力端子と接続される入力用電極603と、デュプレクサの受信用帯域通過フィルタ602の出力端子と接続される出力用電極604が設けられている。入力信号はデュプレクサを構成する位相調整回路に接続される接続用配線608aからビア609aを経由して入力用電極603から受信用帯域通過フィルタ602に入力され、出力信号は受信用帯域通過フィルタ602の出力端子から出力用電極604、ビア609eを経由して、外部端子606から出力される。
【0046】
リング状接地用電極605と裏面接地電極607(誘電体基板601の裏面に形成されたグランドパターン)とは、ビア609b、接続用配線608b、ビア609c、接続用配線608c、ビア609dによって直流的に接続されている。ここで、図においては、2つのコ字状の接続用配線を誘電体基板501内部の異なる層に90度向きをかえて配置しており、このような配置により接続用配線とビアとがくずれた螺旋状構造を呈することでインダクタンス成分となっている。また、デュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタ602の単独接地用端子は、単独接地用電極610に接続された後、ビア609f、接続用配線608d、ビア609g、接続用配線608e、ビア609hを介して裏面接地電極607に接続される。この構造も同様に、2つのコ字状の接続用配線を誘電体基板501内部の異なる層に90度向きをかえて配置しており、このような配置により接続用配線とビアとがくずれた螺旋状構造を呈することでインダクタンス成分となっている。なお、本例では接続用配線の形状としてコ字状のものを示してあるが、この形状に限定されず、L字状、U字状など必要に応じて変更可能である。
【0047】
このような構造においては、受信用帯域通過フィルタの単独接地用端子と誘電体基板の裏面接地電極間の接続用配線とビアの長さを調整する(例えば螺旋の巻き数を増やす)ことで、インダクタンス値を変化させることができるので、図5に示す本発明の実施形態と同等の効果を得ることが出来る。例えば、誘電体基板が12層からなる場合は、前記インダクタンス値が800MHzにおいて3.6nHになるように螺旋の巻き数を調整すれば良い。このような構造では、誘電体基板の内層領域を有効に使用することで、実装エリア(実装部品)が少なく、高周波モジュールの小型化、部材のコストダウンが可能になる。
【0048】
しかしながら、このような構造では後調整できないので、表面にチップインダクタを実装する本発明の形態のほうが好ましく採用できる。
【0049】
なお、本発明の実施形態として、弾性表面波フィルタを用いた場合について示したが、FBARフィルタ等を用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】移動体通信機器に用いられる高周波信号処理回路の構成図である。
【図2】図1の破線に囲まれた領域を1つの誘電体積層基板内にモジュール化した高周波モジュール16の斜視透過図を示す。
【図3】本発明の高周波モジュールの等価回路である。
【図4】本発明のデュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの構造図である。
【図5】本発明の高周波モジュールの一実施形態である。
【図6】高周波モジュールの参考例である。
【図7】本発明のデュプレクサの受信特性である。
【図8】従来の高周波モジュールの等価回路である。
【図9】従来のデュプレクサを構成する受信用帯域通過フィルタの構造図である。
【図10】従来の高周波モジュールの斜視透過図である。
【図11】従来のデュプレクサの受信特性である。
【符号の説明】
【0051】
1:アンテナ
2:分波器
3a:送信用帯域通過フィルタ
3b:受信用帯域通過フィルタ
3c:位相調整回路
4:方向性結合器
5:電力増幅器
6:送信用フィルタ
7:電力検出回路
8:GPS用フィルタ
9:低雑音増幅器
10:受信用フィルタ
11:送信信号処理回路
12:受信信号処理回路
13:ベースバンドIC
14:VC−TCXO
15:VCO
16:高周波モジュール
17:誘電体積層基板
18:電力増幅用半導体素子
401a、401b、401c:並列共振用励振電極
401d、401e:直列共振用励振電極
402:入力端子
403:出力端子
404:リング状接地用端子
405a、405b、405c、405d、405e:導体パターン
406:支持基板
407:単独接地用端子
501、601:誘電体基板
502、602:受信用帯域通過フィルタ
503、603:入力用電極
504、604:出力用電極
505、605:リング状接地用電極
506、606:外部端子
507、607:裏面接地電極
508a〜508d、608a〜608e:接続用配線
509a〜509h、609a〜609h:ビア
510、610:単独接地用電極
511a、511b:チップL用電極
512:チップL
A:受信用帯域通過フィルタ搭載部
B:チップL搭載部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方主面に、複数の直列共振用励振電極および複数の並列共振用励振電極が形成されるとともに、リング状接地用端子および該リング状接地用端子から独立して単独接地用端子が形成された弾性表面波素子を、誘電体基板の表面にフェイスダウン実装してなる高周波モジュールであって、
前記弾性表面波素子における前記複数の並列共振用励振電極のうち、回路上最も出力に近い並列共振用励振電極の一端を前記単独接地用端子に接続するとともに、その他の並列共振用励振電極の一端を前記リング状接地用端子に接続し、
前記単独接地用端子および前記リング状接地用端子をそれぞれ独立にインダクタンス成分を介して前記誘電体基板の裏面に形成されたグランドパターンに接続してなり、
前記単独接地用端子と前記グランドパターンとの間に介在させる前記インダクタンス成分を、前記誘電体基板の表面に実装したチップインダクタで構成したことを特徴とする高周波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−333168(P2006−333168A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155046(P2005−155046)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】