説明

高周波信号生成回路

【課題】低電圧で広帯域の動作が可能であり、回路面積の縮小が可能な高周波信号生成回路を提供する。
【解決手段】信号発生回路13は、出力信号の周波数と同一の周波数の信号を発生する。遅延手段14は、複数の遅延回路17を有し、信号発生回路13により発生された信号を遅延する。選択手段15は、複数の遅延回路17の出力信号を選択する。合成手段19は、選択手段15により選択された信号を合成し、出力信号を出力する。制御手段12は、出力信号の波形形状を設定するデータ、及び出力信号の少なくとも振幅、位相及び周波数を設定する制御信号に基づき、選択手段15を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路に適用される高周波信号生成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波無線通信用送信回路は、例えば発振回路からの正弦波信号とデータ信号I、Qとをそれぞれミキサ回路により直交変調し、増幅器により増幅してアンテナから無線信号として送出する。送信回路を構成する発振回路、ミキサ回路、増幅回路は、基本的に狭帯域である。ミキサ回路は、受動素子としての例えばインダクタ(L)や容量(C)を用いて構成されている。半導体集積回路に適用される高周波無線通信用送信回路において、これら受動素子は、同じ動作帯域特性を実現しようとする場合、固定の値を使用する必要があり、これら受動素子のサイズはトランジスタの微細化に追従しない。このため、トランジスタにより構成された回路部のチップに対する面積は縮小できるが、受動素子により構成された回路部分の面積は縮小できない。したがって、受動素子の面積が、デジタル処理回路を含む無線通信用LSIに占める割合が大きくなってしまい、微細プロセスにおいて低コスト化を制限する要因となっている。このため、従来のアナログ回路を主体とする構成ではなく、デジタル回路で高周波信号や無線信号を生成する研究開発が進められている。
【0003】
デジタル回路により高周波信号や無線信号を生成する技術としては、例えば(1)デジタルアナログ変換回路(DAC)による方法(例えば特許文献1参照)、(2)デジタル・ダイレクト・シンセサイザ回路(DDS)による方法(例えば特許文献2参照)がある。DACによる方法は、DACによりデジタルデータを処理し、所望の正弦波などの信号を生成する構成である。また、DDSによる方法は、基本的にはDACによる方法と同様であり、メモリとデジタル制御回路を搭載したDACにより、正弦波などの信号を生成する。
【0004】
しかし、上記(1)、(2)の回路とも無線周波数よりも少なくとも2倍以上の高いクロック周波数が必要であり、例えばGHz以上の高周波無線信号を生成する場合、回路の電力消費が大きくなる。また、無線通信に一般的に必要とされている60dB以上の高い信号雑音比を得るには、10bit以上の高い分解能が必要であり、回路が複雑になる。さらに、上記(1)、(2)の回路は、電圧モードの回路であるため、微細化に伴い電源電圧が低下された場合、分解能が低下してしまうことなどの問題がある。
【0005】
また、上記(1)、(2)の回路は、現在のところ数100MHzまでの信号しか生成できない状況であり、GHz以上で動作する高周波無線通信用送信回路には適用できない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−204558号公報
【特許文献2】特開2002−280838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低電圧で広帯域の動作が可能であり、回路面積の縮小が可能な高周波信号生成回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高周波信号生成回路の態様は、出力信号の周波数と同一の周波数の信号を発生する信号発生回路と、複数の遅延回路を有し、前記信号発生回路により発生された信号を遅延する遅延手段と、前記複数の遅延回路の出力信号を選択する選択手段と、前記選択手段により選択された信号を合成し、前記出力信号を出力する合成手段と、前記出力信号の波形形状を設定するデータ、及び前記出力信号の少なくとも振幅、位相及び周波数を設定する制御信号に基づき、前記選択手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、低電圧で広帯域の動作が可能であり、回路面積の縮小が可能な高周波信号生成回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図。
【図2】図1の動作を概略的に示す波形図。
【図3】図1の動作を概略的に示す波形図。
【図4】図1に示すデジタル制御発振回路の一例を示す回路図。
【図5】図4の一部を取り出して示す回路図。
【図6】図4に示すバラクタの動作を示す図。
【図7】図1に示すデジタル制御発振回路の他の例を示す回路図。
【図8】図1に示すデジタル制御発振回路の他の例を示す回路図。
【図9】図1に示す遅延ラインの一例を示す回路図。
【図10】図1に示す遅延ラインの他の例を示す回路図。
【図11】図1に示す遅延ラインの他の例を示す回路図。
【図12】図1に示す選択合成回路の一例を示す回路図。
【図13】図1に示すデータ制御回路の一例を示す構成図。
【図14】図13に示すデータ制御回路の補償モードの動作を示すフローチャート。
【図15】図13に示すデータ制御回路の補償モードの動作を示す図。
【図16】検証のための実施例を示す回路図。
【図17】図16に示す回路を含む集積回路を示す顕微鏡写真。
【図18】図17に示す集積回路により生成された信号波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態を示す構成図である。本実施形態は、低電源電圧で広帯域動作を可能とするスケーラブル高周波信号生成回路に係わり、従来の電圧軸の制御による信号発生回路ではなく、デジタル信号の時間軸を制御すること、すなわち、時間軸をアナログ信号に変換(Time to analog conversion)するにより、高周波信号を生成する。また、受動素子としてのインダクタを用いることなく、インバータ回路レベルの基本デジタル回路で構成でき、低電源電圧動作を可能としている。
【0013】
図1に示す高周波信号生成回路11は、主としてデジタル制御回路12、デジタル制御発振回路(DCO)13、遅延ライン14、選択合成回路15により構成されている。
【0014】
デジタル制御回路12は、後述するように、基本的には例えばメモリと演算回路により構成される。メモリは、入力端16から供給される波形形状データDwfを記憶し、演算回路は、入力端16から供給される制御信号Scに基づきデジタル信号を演算する。この制御信号Scは、例えば高周波信号の生成に必要な波形形状、振幅、位相、周波数を設定するためのデータや、変調に必要な振幅、位相、周波数を設定するためのデータを含んでいる。
【0015】
デジタル制御回路12は、複数の機能を有している。すなわち、デジタル制御回路12は、制御信号Scに基づき、DCO13の発振周波数を制御するためのデジタル信号Dftを生成する。また、デジタル制御回路12は、メモリに記憶された波形形状データに基づき、高周波信号を生成するため、選択合成回路15のスイッチ回路18を制御して遅延信号を選択する。さらに、選択合成回路15の出力信号波形をモニタし、補償データを生成することにより出力信号の波形歪を補償する。また、波形形状データDwf及び制御信号Scに基づき、スイッチ回路18を制御し、高周波数信号の振幅、位相、周波数を変化させる変調機能も有している。
【0016】
DCO13は、例えばリング型発振回路により構成され、デジタル制御回路12から供給されるデジタル信号Dftに基づき、発振周波数が制御される。このDCO13は、例えば選択合成回路15の出力端20から出力される高周波信号と同一周波数の矩形のパルス信号を生成する。
【0017】
遅延ライン14は、例えば単位遅延時間τを有する複数の遅延回路17により構成されている。この遅延ライン14は、DCO13から出力されるパルス信号fiを遅延し、遅延量の異なる複数の遅延信号を生成する。
【0018】
選択合成回路15は、遅延ライン14により生成された複数の遅延信号を選択する複数のスイッチ回路18、及びこれらスイッチ回路18の出力端に接続され、スイッチ回路18により選択された信号を合成し、電圧信号に変換する合成回路19により構成されている。スイッチ回路18は、デジタル制御回路12から供給される制御データDcに基づき、遅延ライン14から出力される信号を選択する。合成回路19は、選択されたスイッチ回路18の出力電流を合成して電圧に変換する。この電圧に変換された信号は、出力端20から出力される。
【0019】
上記高周波信号生成回路11の動作は以下の通りである。
【0020】
先ず、デジタル制御回路12は、制御信号に基づきDCO13の発振周波数を決定する。DCO13はデジタル制御回路12から供給されるデジタル信号Dftに基づき、指定された周波数の矩形のパルス信号を出力する。遅延ライン14は、DCO13から供給されるパルス信号を遅延させ、単位遅延時間τ毎にシフトした複数のパルス信号を出力する。選択合成回路15は、デジタル制御回路12から供給される制御データに基づき、遅延ライン14から出力されるパルス信号を選択し合成する。この合成された高周波信号が出力端20から出力される。
【0021】
図2に示すように、遅延ライン14により一定間隔で遅延されたパルス信号を合成すると三角波となる。遅延されたパルス信号から合成すべき信号を選択合成回路15によって選択することにより、任意の波形形状の信号を生成することが可能である。
【0022】
図3は、正弦波の生成をシミュレーションした結果を示している。具体的には、5bit(32段)の遅延回路を有する遅延ラインを用いてパルス信号を合成した結果である。信号の波形歪は、遅延回路の数を増やして分解能を上げたり、デジタル制御回路12によって補償したりすることにより軽減することが可能である。無線信号としての変調は、デジタル制御回路12において、波形形状データDwf及び制御信号Scに基づき、遅延ライン14から出力されるパルス信号を選択的に切り替えることにより実現することが可能である。
【0023】
尚、図1に示す歪み補償ループは、選択合成回路15の非線形動作を補償するためのループである。このループは、後述するように、補償データを生成するときのみ活性化される。
【0024】
図4は、DCO13の一例を示している。このDCO13は、例えば差動型リング発振回路により構成されている。すなわち、複数の差動回路41が直列接続され、最終段の差動回路の出力信号が初段の差動回路の入力端に正帰還されている。各差動回路41にデータ制御回路12から出力されたデジタル信号Dftが供給されている。
【0025】
図5は、図4に示す差動回路41の一例を示すものであり、図4と同一部分には同一符号を付している。図5において、差動対を構成する例えばNチャネルMOSトランジスタ42、43のドレイン間に可変容量としてのバラクタ44、45の複数の対が並列接続されている。各バラクタ44、45は、例えばMOSキャパシタにより構成されている。バラクタ44、45の各対において、バラクタ44と45の接続ノードにデジタル信号Dftが供給されている。各バラクタ44、45の容量は、デジタル信号Dftの電圧によりデジタル的に変化される。
【0026】
図6は、バラクタ44、45の電圧と容量の関係を示している。デジタル信号Dftの論理レベルを順次切り換えることにより、各バラクタ44、45の容量を変化させることができる。このため、デジタル信号Dftにより複数のバラクタ対の容量値を離散的に変化させることができる。DCO13の発振周波数は、差動回路41の段数と回路の遅延時間により決まる。このため、バラクタ対の容量を変化させて遅延時間を変えることにより、DCO13の発振周波数をデジタル的に制御できる。
【0027】
図7は、DCO13の他の例を示している。このDCO13は、例えば直列接続された複数のインバータ回路51a、51b…51n、52a、52b…52nと、複数のバラクタ53,54の対、及びラッチ回路55により構成されている。すなわち、シングルエンドの複数のインバータ回路の組み合わせで差動動作を実現するため、直列接続された複数のインバータ回路51a、51b…51nのうちインバータ回路51nの出力端は、直列接続された複数のインバータ回路52a、52b…52nのうち、インバータ回路52aの入力端に接続される。また、直列接続された複数のインバータ回路52a、52b…52nのうちインバータ回路52nの出力端は、直列接続された複数のインバータ回路51a、51b…51nのうちインバータ回路51aの入力端に接続されている。さらに、インバータ回路51a、52aの出力端間にラッチ回路55が接続されている。
【0028】
ラッチ回路55を構成するインバータ回路55a、55bのサイズは、他のインバータ回路51a、51b…51n、52a、52b…52nのサイズ以下で構成されている。このため、ラッチ回路55は高速動作が可能であり、差動の切り換え動作がスムーズになるように構成されている。このラッチ回路55は、図7において1カ所のみ挿入しているが、効果的な差動動作を得るため、インバータ回路51a〜51nと52a〜52nの出力間の全て、又は、適当な間隔でインバータ回路の出力間に接続することも可能である。
【0029】
また、インバータ回路51b、51c…、インバータ回路52b、52c…の各出力端間に、複数のバラクタ53,54の対が接続されている。各バラクタ53,54の接続ノードにデータ信号Dftが供給されている。インバータ回路51a、インバータ回路52bの端子間にバラクタ53,54の対が接続されていても同様の効果を得ることができる。
【0030】
図7に示すDCO13も、図4、図5に示すDCO13と同様に、デジタル信号Dftより、発振周波数がデジタル的に制御される。この回路は、インバータ回路により構成されているため、低電圧動作が可能であり、広帯域動作に有利である。
【0031】
図8は、DCO13のさらに他の例を示している。このDCO13は、例えばリング発振回路において、直列接続された複数のインバータ回路61a、61b…61nの段数を、複数のスイッチ62a、62b…62iにより切り換える構成である。これらスイッチ62a、62b…62iは、データ制御回路12から出力されるデジタル信号Dftにより制御される。
【0032】
図8に示す構成によれば、デジタル信号Dftに基づき、ダイナミックに発振周波数を切り換えられることができる。すなわち、インバータ回路の段数が多くなると発振周波数が低くなり、インバータ回路の段数が少なくなると高くなる。本例は、インバータ型リング発振回路をベースにしているが、図4、図7に示した差動型のリング発振回路に適用することも可能である。この場合、より広帯域で高精度なデジタル制御発振回路を実現することができる。
【0033】
さらに、多段のリング発振回路型DCOを用いる場合、複数の段から遅延量の異なる発振信号を取り出すことができる。このため、図1に示す構成において、遅延ライン14を省略することができる。但し、リング発振回路型DCOにおいて、段数を多くすると発振周波数が低下するので、目的とする周波数と分解能を考慮する必要がある。
【0034】
図9から図11は、それぞれ遅延ライン14の例を示している。
【0035】
図9は、直列接続された複数のインバータ回路71の2段毎に出力信号を取り出す場合を示している。
【0036】
図10は、直列接続された複数の差動インバータ回路72の各段から出力信号を取り出す場合を示している。図9に示すように、シングルエンドのインバータ回路71により非反転の遅延信号を得るためには、2段のインバータ回路が必要となるが、差動インバータ回路72を用いた場合、1段で非反転の遅延信号を得ることが可能である。したがって、単位遅延時間を図9に示す回路に比べて短くすることができ、分解能を向上できる。
【0037】
図11は、さらに、遅延時間の分解能を向上する構成を示している。例えば複数の遅延回路が直列接続された複数の遅延回路群73、74、75…において、遅延回路群74、75の初段の遅延回路74a、75aの遅延時間を、遅延回路群73の初段の遅延回路73aの遅延時間に対して僅かに変えている。すなわち、遅延回路73aの遅延時間τiに対して、遅延回路74aの遅延時間は、Δτ+τiに設定され、遅延回路75aの遅延時間は、2Δτ+τiに設定されている。このように、複数の遅延回路群73、74、75…の遅延時間に差を設定し、この差分信号を利用することにより、高い時間分解能を実現することが可能である。尚、遅延時間差は、例えば遅延回路を構成するインバータ回路のトランジスタのサイズを変えるなどの手段を適用することができる。
【0038】
図12は、選択合成回路15の一例を示している。この選択合成回路15において、各スイッチ回路18は、アンド回路81、NチャネルMOSトランジスタ82、抵抗83により構成されている。アンド回路81の一方入力端には、遅延ライン14の対応する遅延信号が供給され、他方入力端には、デジタル制御回路12から出力される制御データDcが供給される。アンド回路81の出力端は、トランジスタ82のゲート電極に接続されている。トランジスタ82のソースは抵抗83を介して接地され、ドレインは、合成回路19に接続されている。
【0039】
この合成回路19は、例えば抵抗84、NチャネルMOSトランジスタ85、キャパシタ86により構成されている。抵抗84の一端は電源VDDが供給されるノードに接続され、他端はトランジスタ85のドレインに接続されている。トランジスタ85のゲート電極には信号Vgが供給されている。このトランジスタ85のソースは、複数のスイッチ回路18のトランジスタ82のドレインに接続されている。さらに、トランジスタ85のドレインは、キャパシタ86を介して出力端20に接続されている。
【0040】
上記構成において、スイッチ回路18は、デジタル制御回路12から供給される制御データDcがハイレベルの場合、遅延ライン14から出力される遅延信号を受ける。アンド回路81の出力信号によりトランジスタ82がオンとされる。デジタル制御回路12により選択されたスイッチ回路18の合成電流が合成回路19のトランジスタ85に流れ、この電流が電圧に変換されて出力端20から出力される。この出力端20から高周波信号が出力される。
【0041】
図13は、デジタル制御回路12の一例を示している。デジタル制御回路12は、書き込み回路91、メモリ92、演算回路93、DCO駆動回路94、スイッチ駆動回路95、アナログ・デジタル変換回路(ADC)96、クロック発生回路97を有している。書き込み回路91は、入力端16に供給された波形形状データDwfをメモリ92に書き込む。この波形形状データDwfは、例えば正弦波や三角波を生成するために必要な選択合成回路15を構成するスイッチ回路18の基本制御情報である。メモリ92は、波形形状データDwfや、後述する補償データを記憶する。演算回路93は、例えば一般的なマイクロコントローラと同様の機能を有する回路である。この演算回路93は、制御信号Scにより指定された高周波信号の生成、変調、波形歪の補償などに必要な演算を行う。
【0042】
例えば制御信号Scが高周波信号の生成を示す場合、演算回路93は、制御信号Scに含まれる振幅、位相、周波数のデータに基づき、DCO13を制御するためのデジタル信号Dftを生成する。さらに、演算回路93は、制御信号Scにより指定された波形に対応する波形形状データをメモリ92から読み出し、この波形形状データ及び制御信号Scに含まれる振幅、位相、周波数のデータに基づき、選択合成回路15の選択すべきスイッチ回路18を示す制御データDcを生成する。演算回路93により生成されたデジタル信号DftはDCO駆動回路94を介してDCO13に供給され、演算回路93により生成された制御データDcはスイッチ駆動回路95を介して選択合成回路15に供給される。
【0043】
尚、データ制御回路12の動作に必要なクロック信号は、クロック発生回路97により発生される。このクロック信号は、例えば数百kHz以下の低速でも十分であり、DCO13に要求される数百MHz以上の高周波信号は必要ない。
【0044】
上記データ制御回路12の制御に基づき、DCO13、選択合成回路15を動作させることにより、所要の波形形状、振幅、位相、周波数を有する高周波信号を生成することができる。さらに、波形形状データDwf及び制御信号Scのデータに基づき、変調された高周波信号を生成することも可能である。
【0045】
次に、生成された高周波信号に含まれる歪を補償するための動作について説明する。
【0046】
この歪補償は、低周波で歪み特性を測定し、高週波信号に補償を施すものである。このため、高周波信号生成動作をオフとした状態で行われる。
【0047】
図14は、データ制御回路12の歪補償モードの動作を示している。
【0048】
先ず、DCO13の出力信号がハイレベルに固定される(S1)。このため、遅延ライン14の出力信号も全てハイレベルとなる。
【0049】
次に、選択合成回路15のスイッチ回路18が順番にオン状態とされる(S2)。このときのクロック信号は、デジタル制御回路12内のクロック発生回路97から出力される低周波のクロック信号が用いられる。
【0050】
スイッチ回路18が順番にオン状態とされることにより、出力端20の出力電圧は一定の電圧ステップで増加する。すなわち、出力端20の出力電圧は、階段波(ランプ波)となる。この出力電圧はADC96により、デジタル信号に変換され、演算回路93に供給される(S3)。
【0051】
演算回路93は、例えば予めメモリ92に記憶された基準データとしての出力電圧の理想の増加特性と、ADC96から供給されるデジタル信号との差分を検出する(S4)。
【0052】
図15は、基準データとしての理想の増加特性Vidと、ADC96から供給されたデジタル信号Vadcとの関係を示している。デジタル信号Vadcは、理想の増加特性Vidに従って増加することが好ましい。しかし、選択合成回路15の非線形動作により、破線Aで示すように、デジタル信号Vadcの増分が減少している。
【0053】
演算回路93は、検出された理想の増加特性Vidとデジタル信号Vadcの差分に基づき、デジタル信号Vadcが直線となるスイッチ回路18の制御データを計算し、メモリ92に記憶させる(S5)。
【0054】
すなわち、デジタル信号Vadcの増分が電圧の高い部分において小さくなってしまった場合、例えば電圧の低い部分において、図15に黒点で示すように、使用するスイッチ回路18の数を削減し、線形性を確保する。つまり、演算回路93は、使用するスイッチ回路18を計算し、この計算結果を制御データとしてメモリ92に記憶させる。このようにスイッチ回路18を間引いた場合、図15に示すように電圧振幅が減少することになる。しかし、高周波回路は線形性が良好な波形生成が優先されるため、多少の振幅の減少は問題にならない。
【0055】
この後、DCO13がオン状態とされて、高周波信号生成モードが設定される(S6)。この際、メモリ92に記憶された波形形状データと、補償モードにおいて記憶されたスイッチ回路18の制御データに基づき、高周波信号が生成される(S7)。すなわち、波形形状データに基づきスイッチ回路18を選択するとき、制御データによりスイッチ回路18の使用が制限される。これにより、線形性の高い高周波信号の生成が可能になる。
【0056】
尚、上記歪補償動作は、低周波で歪み特性を測定し、高周波信号に補償を施すものであり、低周波での歪みと高周波信号の歪みには一定の相関があることを前提としている。低周波での歪みと高周波信号との歪みの差分は、低周波と高周波信号の差分を前もって測定しておき、メモリに蓄えておき補償することにより、より高精度な補償が可能である。このため、歪補償動作のタイミングは、回路の電源投入時や無線回路の受信期間など、高周波信号の生成を必要としない時間帯に行なえばよい。
【0057】
尚、デジタル制御回路12は、マイクロコントローラであるため、マイクロコントローラ回路をLSI上に組み込み、その機能は、例えばHDL(Hardware Description Language)などによるプログラム処理により実現することができる。
【0058】
上記実施形態によれば、DCO13により出力すべき高周波信号と同一の周波数を有するパルス信号を生成し、このパルス信号を遅延ライン14により遅延量の異なる複数のパルス信号を生成し、このパルス信号をデジタル信号制御回路12から供給される制御データDcに基づき、選択合成回路15により選択し合成している。このため、従来のDACやDDSとは異なり、出力すべき高周波信号より高い周波数を有するクロック信号を用いる必要がない。したがって、低消費電力で、GHz以上の所要の高周波信号を高精度に生成することが可能である。
【0059】
また、従来の電圧軸を制御する場合、素子の微細化に伴い電源電圧が低下された場合、十分な分解能が得られなくなり所要の高周波信号を生成することが困難となる。しかし、本実施形態は、パルス信号の時間軸を制御することにより高周波信号を生成しているため、電源電圧が低下された場合においても、分解能が低下することなく、所要の高周波信号を容易に生成することが可能である。
【0060】
図16から図18は、本発明の基本動作の確認を目的とした実施例を示すものであり、180nmCMOSプロセス技術により本発明の基本回路を搭載した集積回路チップの試作評価を行った。図16は、試作した回路を示し、図17は、試作したチップを示している。図16に示すように、本試作回路は、遅延ライン14として単純な(5bit:32段)インバータ回路を用いている。また、選択合成回路15は、アンド回路による遅延信号の選択機能を搭載していない。このため、遅延信号の選択を固定した三角波発生回路と正弦波発生回路の2品種を作成し評価した。図18(a)(b)は、評価により得た出力波形を示している。歪が多少あるが、三角波と正弦波を合成できていることが分かる。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変えない範囲において種々変形可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
12…デジタル制御回路、13…デジタル制御発振回路(DCO)、14…遅延ライン、15…選択合成回路、17…遅延回路、18…スイッチ回路、19…合成回路、92…メモリ、93…演算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力信号の周波数と同一の周波数の信号を発生する信号発生回路と、
複数の遅延回路を有し、前記信号発生回路により発生された信号を遅延する遅延手段と、
前記複数の遅延回路の出力信号を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された信号を合成し、前記出力信号を出力する合成手段と、
前記出力信号の波形形状を設定するデータ、及び前記出力信号の少なくとも振幅、位相及び周波数を設定する制御信号に基づき、前記選択手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする高周波信号生成回路。
【請求項2】
前記制御手段は、前記波形形状を設定するデータを記憶する記憶部と、
前記少なくとも振幅及び周波数を設定する制御信号と前記記憶部に記憶されたデータに基づき、前記選択手段を制御する制御データを演算する演算回路と
を具備することを特徴とする請求項1記載の高周波信号生成回路。
【請求項3】
前記演算回路は、前記合成手段から出力される前記出力信号と基準データの差分を検出し、この検出された差分に基づき、前記選択手段を制御するための補償データを生成することを特徴とする請求項2記載の高周波信号生成回路。
【請求項4】
前記演算回路は、前記出力信号の少なくとも振幅、位相及び周波数を設定する制御信号に基づき、前記信号発生回路を制御するデジタル信号を生成することを特徴とする請求項2記載の高周波信号生成回路。
【請求項5】
前記信号発生回路は、前記演算回路から供給される前記デジタル信号に基づき動作するデジタル制御発振回路であることを特徴とする請求項4記載の高周波信号生成回路。
【請求項6】
前記デジタル制御発振回路は、複数のインバータ回路が直列接続され出力信号が入力端に正帰還されるリング型発振回路と、
前記複数のインバータ回路の出力端に設けられ、前記デジタル信号に基づき容量が変化される可変容量回路と
を具備することを特徴とする請求項5記載の高周波信号生成回路。
【請求項7】
前記合成手段は、前記制御手段から出力される制御データに基づき前記遅延手段から出力される遅延された信号を選択する複数のスイッチ回路と、
前記複数のスイッチ回路の出力電流を電圧に変換する電圧変換回路と
を具備することを特徴とする請求項1又は2記載の高周波信号生成回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−41105(P2011−41105A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188066(P2009−188066)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】