説明

高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法

【課題】高周波回路用の疎水性基板であるPTFE基板表面に、均質かつ緻密な銅メッキ被膜を容易に形成させること。
【解決手段】本発明のメッキ方法では、PTFE基板をヘリウムガス存在下でプラズマ処理する工程(1)と、前記基板をアミノシランカップリング剤と反応させ、前記基板の表面に自己集積化単分子膜(SAM)を形成する工程(2)と、SAMを形成した前記基板を、パラジウム塩を含有する水溶液である無電解メッキ用触媒液で活性化処理する工程(3)と、前記基板に固定化されたパラジウムイオンを金属パラジウムに還元する工程(4)と、前記基板を無電解銅メッキ液で処理することにより、前記基板上に無電解銅メッキ被膜を形成する工程(5)と、前記基板を電解銅メッキ液で処理することにより、前記無電解銅メッキ被膜の上に電解銅メッキ被膜をさらに形成する工程(6)と、を順次行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路用のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基板に、均質かつ緻密な銅メッキ被膜を形成させるための銅メッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数十ギガヘルツ帯の高周波領域を利用する衛星放送又はITS(Intelligent Transport Systems)関連機器のような送受信機に組み込まれるプリント回路基板は、優れた高周波低損失特性が必要であり、基板材料には誘電特性に優れるフッ素樹脂であるPTFEが適している。PTFEは、誘電率2.1、誘電正接0.0002とフッ素樹脂材料では最も誘電特性に優れ、かつ耐熱性及び耐薬品性にも優れている。また、PTFEは、柔軟性があり大きく変形させることが可能なため、フレキシブルプリント基板となる。
【0003】
PTFE基板上に回路を形成する場合、基板表面に厚さ数μm以下の銅被膜を形成する必要がある。このような銅被膜を形成する従来法としては、全面に銅箔(厚さ18μm)を張られた基板から不要な部分を取り除いて回路を残すサブトラクティブ法がある。しかし、送受信機のさらなるミリ波帯への高周波化及び高密度実装化を図るために、回路パターンの配線幅/配線間隔を10μm/10μm以下に狭小化したファインピッチ回路基板を実現させることは、サブトラクティブ法では困難である。
【0004】
そこで、基板表面に直接、金属導体の銅被膜(厚さ0.1〜1μm)を形成させ、レジストパターン内の銅パターンを形成したくない導体部分をエッチング除去して、残った回路部分に電解銅メッキ(厚さ数μm)を施すことで回路パターンを形成する方法(セミアディティブ法)が提案さている。しかし、現状では、スパッタ法のような乾式成膜法によって厚さ1μm以下の銅被膜が形成されており、そのことがプロセス効率の低下及びコスト高の原因となっている。
【0005】
これら課題を解消するため、銅被膜の量産化には、湿式法である無電解銅メッキ処理の採用が望ましい。しかし、PTFEは高い化学的安定性を有するため、他の物質群との接着は極めて困難であり、その表面に銅の無電解めっき処理を施しても、強固な密着力を得ることは不可能である。従って、PTFE表面を機能化するには適切な前処理が必要となる。さらには、高周波応答特性の観点から、PTFE基板と銅被膜との界面の凹凸が可能な限り小さいことが望まれる。
【0006】
基板と銅被膜との密着性を向上させるためには、環境負荷の高い溶融金属による化学エッチングでフッ素樹脂表面に凹凸を形成した後、メッキ層を積層させることにより、投錨効果によって物理的に基板と銅被膜(銅メッキ被膜)とを結合させることが一般的である。
【0007】
ここで、特許文献1には、PTFE表面を紫外ランプ又はプラズマ処理によって親水化した後、PTFE表面の硫酸銅水溶液に真空紫外レーザを照射することによって、銅核(−C−O−Cu)を精製する技術が開示されている。特許文献2には、ヒドラジン蒸気存在下でPTFE基板表面に真空紫外レーザを照射し、アミノ基のような親水性基を導入するフッ素系高分子成形品表面の表面改質方法が開示されている。特許文献3には、コロナ放電による不活性ガスのプラズマ雰囲気かつ大気圧下で、フッ素樹脂基体上でアクリル系モノマーの蒸気プラズマにより気相重合を起こし、フッ素樹脂基体の表面上でグラフト重合したアクリル系樹脂層を得ることを特徴とする表面被覆フッ素樹脂基体の製造方法が開示されている。
【0008】
一方、Si基板に自己集積化単分子膜(SAM)を形成させ、最表層となる末端官能基のアミノ基に金属イオン錯体を化学吸着させる技術も存在する。非特許文献1には、Si基板を(3-アミノプロピル)エトキシシラン(APS)のアルコール溶液に浸漬してSAMを形成させた後、パラジウムイオン分散溶液に浸漬することにより、パラジウムイオンをSAMの末端官能基の一級アミノ基に化学吸着させる方法が開示されている。非特許文献2には、Si基板表面に3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)の蒸気を反応させてSAMを形成させた後、ルテニウムイオン分散液に浸漬することにより、ルテニウムイオンをSAMの末端官能基の一級アミノ基と二級アミノ基との間に化学吸着させ、金属イオン錯体化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−182516号公報
【特許文献2】特開平6−192452号公報
【特許文献3】特開2008−19393号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lina, Xu: Thin Solid Films, 434,121 (2003).
【非特許文献2】森口隆広:応用物理学関係連合講演会講演要旨集, 54, 3, 1283 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高周波電流は、表皮効果により銅被膜表面に集中する。そのため、高周波応答特性の観点から、その下層である銅被膜と基板との界面も平滑であることが求められる。しかし、特許文献1又は2に開示されているように、PTFE基板に高エネルギー密度のレーザを照射すると、PTFE表面には凹凸の発生が避けられない。また、処理コストが高いため、量産性に欠ける。
【0012】
特許文献3に開示されているコロナ放電によっても、フッ素樹脂表面には凹凸が発生すると考えられる。また、特許文献3に開示される技術では、フッ素樹脂上にグラフト重合したアクリル系樹脂層を形成させるが、このようなアクリル系樹脂層は、コロナ放電によってランダムに生じたフッ素樹脂表面の官能基と化学結合した状態と考えられる。また、アクリル系樹脂層と銅メッキ被膜には化学結合はなく物理的効果のみで接合しており、緻密な銅メッキ被膜を形成させる下層としては好ましいとは言い難い。さらに、特許文献3に開示されている方法では、無電解銅メッキ前に回路パターニングすることは困難である。
【0013】
本発明は、高周波回路用の疎水性基板であるPTFE基板表面に、均質かつ緻密な銅メッキ被膜を容易に形成させるための銅メッキ方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を続けた。その結果、PTFE表面をプラズマ処理によって親水化し、アミノシランカップリング剤と反応させてSAMを形成させた後、無電解銅メッキ及び電解銅メッキを行うことにより、均質かつ緻密な銅メッキ被膜を、均一な厚みで形成し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
PTFE基板をヘリウムガス存在下でプラズマ処理する工程(1)と、
前記基板をアミノシランカップリング剤と反応させ、前記基板の表面に自己集積化分子膜を形成する工程(2)と、
自己集積化分子膜を形成した前記基板を、パラジウム塩を含有する水溶液である無電解メッキ用触媒液で活性化処理する工程(3)と、
前記基板に固定化されたパラジウムイオンを金属パラジウムに還元する工程(4)と、
前記基板を無電解銅メッキ液で処理することにより、前記基板上に無電解銅メッキ被膜を形成する工程(5)と、
前記基板を電解銅メッキ液で処理することにより、前記無電解銅メッキ被膜の上に電解銅メッキ被膜をさらに形成する工程(6)と、
を順次行うことを特徴とする、高周波回路用PTFE基板の銅メッキ方法に関する。
【0016】
前記アミノシランカップリング剤は、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)であることが好ましい。
【0017】
前記工程(1)において、ヘリウムガスがメタノール蒸気又はエタノール蒸気を0.1容量%以上2容量%以下の範囲で含有していることが好ましい。
【0018】
前記工程(3)の前に、スズ塩を含有する水溶液で前記基板を感受性化処理する工程を行わないことも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高周波回路用PTFE基板の銅メッキ方法によれば、従来は不可能であった均一な厚みの銅メッキ被膜を、環境負荷の小さい容易な方法によってPTFE基板表面に形成させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の高周波回路用PTFE基板の銅メッキ方法を説明する概念図を示す。
【図2】図2は、プラズマ処理装置の概略構成図を示す。
【図3】図3は、実施例1〜3の工程(2)を説明する概念図を示す。
【図4】図4は、工程(2)を説明する図であり、(a)はAEAPS分子の加水分解、(b)はPTFE基板表面におけるAEAPSのSAM形成を示す。
【図5】図5は、実施例1の工程(1)後の試験基板のX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy, XPS)分析結果を表すスペクトルである。
【図6】図6は、実施例2の工程(1)後の試験基板のXPS分析結果を表すスペクトルである。
【図7】図7は、実施例3の工程(1)後の試験基板のXPS分析結果を表すスペクトルである。
【図8】図8は、比較例1の工程(1)後の試験基板のXPS分析結果を表すスペクトルである。
【図9】図9は、工程(2)後の実施例2の試験基板をXPS分析した結果を示すスペクトルである。
【図10】図10は、工程(5)後の実施例2及び比較例2の試験基板表面の写真であり、図7(a)は実施例2、図7(b)は比較例2である。
【図11】図11は、工程(5)後の比較例2の試験基板のXPS分析結果を表すスペクトルである。
【図12】図12は、実施例2の試験基板の無電解銅メッキ被膜が形成された部分のXPS分析結果を表すスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参酌しながら説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されない。
【0022】
図1は、本発明の高周波回路用PTFE基板の銅メッキ方法を説明する概念図である。本発明では、まず、PTFE表面をヘリウム(He)ガス存在下、大気圧でプラズマ処理する(工程(1))。プラズマ処理することにより、PTFE表面に水酸基等が導入され、親水化される(図1(b))。プラズマ処理後のPTFE表面は、レーザ照射後又はコロナ放電処理後のPTFE表面と異なり、平滑である。
【0023】
次に、基板とAEAPSのようなアミノシランカップリング剤とを反応させる(工程(2))。すると、アミノシランカップリング剤が、基板表面にSAMを形成する(図1(c))。
【0024】
次に、SAMを形成した基板を、パラジウム塩を含有する水溶液である無電解メッキ用触媒液で活性化処理する(工程(3))。すると、パラジウムイオン(Pd2+)は、SAMの末端アミノ基によって金属イオン錯体として化学吸着される(図1(d))。ここで、塩基性の高い二級アミノ基は一級アミノ基より化学吸着作用が強いことから、AEAPSの一級アミノ基と二級アミノ基との間に生じる金属イオン錯体は、アミノシランカップリング剤としてAPSを使用した場合と比較して、リンス又は超音波洗浄によって容易に脱落しないと考えられる。
【0025】
次に、基板に固定化されたパラジウムイオンを、還元剤を用いて金属パラジウムに還元する(工程(4))。さらに、基板を無電解銅メッキ液で処理する(工程(5))。すると、パラジウムイオンによって銅イオンが還元され、無電解銅メッキ被膜が形成される(図1(e))。この無電解メッキ被膜は、平滑なPTFE表面上に形成されているため、厚みが均一である。また、無電解メッキ被膜は、SAMを介してPTFE表面と化学的に結合されているため、十分な密着強度を有している。
なお、工程(5)における無電解銅メッキは、市販の無電解銅メッキ用試薬のような公知の手法を用いることができる。
【0026】
無電解銅メッキ被膜の厚みは、0.1〜0.2μm程度である。ところが、数十ギガヘルツ帯の高周波電流が表皮効果によって集中する銅被膜の表面層は、表面下0.2〜0.6μmであるために、PTFE表面に形成させた無電解銅メッキ被膜だけでは、最表層面を構成できないという問題がある。また、銅被膜中には金属銅以外の不純物も含まれて、電気抵抗に損失が生じる可能性がある。そのため、最後に、工程(5)で形成された無電解銅メッキ被膜の上に、電解銅メッキ被膜を形成させる(工程(6))。電解メッキ被膜は、1〜5μm程度の厚みとすることが好ましい。
【0027】
[実施例1]
工程(1)
厚み0.2mmのPTFEフィルム(ニトフロンNo.900UL:日東電工社製)を50×80mmの寸法にカットし、このカット片を試験基板とした。試験基板をアセトン中で超音波洗浄した後、大気圧でプラズマ処理した。プラズマ処理には、図2に示す容量結合型大気圧プラズマ発生装置を用いた。プラズマ処理の条件は、表1に示すとおりとした。
【0028】
【表1】

【0029】
本実施例で使用した容量結合型大気圧プラズマ発生装置は、13.56MHz高周波発振電源11、マッチング回路ユニット12、電極ユニット、及び試料台走査ステージ(80×160mm)6から構成されている。電極ユニットは棒状形状になっており、直径3mmのアルミ合金製ロッド10に内径3mm、外径5mmのアルミナ製絶縁パイプ9を被覆した構造である。キャリアガスであるヘリウムガスは、ガスボンベ1から経路2、マスフローコントローラー(MFC)3、及び経路5を経て、アルミ合金製試料台6上にセットされた試験基板7付近に供給した。
【0030】
MFCは、センサー部で検出したガスの質量流量信号と流量設定信号を瞬時比較し一致するようにバルブ開閉調整を行い、ガス流量制御する。試験基板7付近にヘリウムガスが存在した状態で、高周波電力を電極ユニットとアルミ合金製の試料台走査ステージ6のギャップ間に印加して、プラズマ8を発生させた。これにより、誘電体バリア放電条件下でのグロープラズマ放電を実現している。そして、プラズマ8内に試験基板7を所定往復回数往復走査させた。実施例1では、試験基板付近に供給するガス濃度は、ヘリウムガス100容量%とした。プラズマ処理後の試験基板7は、アセトン中で超音波洗浄された。
【0031】
工程(2)
図3に示されるように、洗浄後の試験基板7と、トルエン希釈AEAPS溶液25を入れたビーカー24とを、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製容器22内に収納し、密封した。PFA製容器22を、さらにステンレス製容器21内に収納し、密封した。その後、ステンレス製容器21をオーブンに入れて加熱することにより、試験基板7表面にAEAPSのSAMを形成させた。実験条件は、表2に示すとおりとした。加熱終了後、試験基板7は、1mol/L塩酸水溶液、蒸留水、及び1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に順次各1分間浸漬して洗浄し、最後に蒸留水を用いて1分間超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0032】
なお、トルエン希釈AEAPS溶液の替わりに、AEAPSだけを用いて操作した場合にも、実施例1と同様の結果が得られることが確認された。
【0033】
【表2】

【0034】
加熱により、ビーカー24からAEAPS蒸気が発生する。AEAPS分子中のメトキシ基は、図4(a)に示されるように、大気中の水分と反応して加水分解され、水酸基へと変化する。その後、図4(b)に示されるように、試験基板7表面の水酸基と、AEAPS分子中に形成された水酸基との間で脱水縮合が起こり、AEAPS分子が試験基板7表面に結合する。さらに、隣接するAEAPS分子の水酸基間でも脱水縮合が起こり、AEAPSのSAMが形成される。
【0035】
工程(3)
洗浄後の試験基板を、無電解銅メッキ用の活性化処理溶液(アクチベータ溶液:塩化パラジウム0.1〜0.3g/L、塩酸濃度1〜3mL/L)中に浸漬してアクチベーティング処理を行った。処理時間は5分間、処理温度は25℃とした。処理後の試験基板を、蒸留水に浸漬して洗浄した。
【0036】
工程(4)
洗浄後の試験基板を、0.5mol/Lジメチルアミンボラン水溶液に5分間浸漬した。処理温度は、25℃とした。処理後の試験基板を、蒸留水に浸漬して洗浄した。
【0037】
工程(5)
洗浄後の試験基板を、市販の無電解銅メッキ用溶液(OPC-750無電解銅M:奥野製薬工業製)中に5分間浸漬した。処理温度は40℃とした。無電解メッキ処理後の試験基板を、蒸留水に浸漬して洗浄した後、乾燥させた。
【0038】
[実施例2]
工程(1)において、キャリアガスであるヘリウムガスにメタノール蒸気を1容量%含有させること以外、すべて実施例1と同様の操作を行い、試験基板上に無電解銅メッキ被膜を形成させた。
【0039】
キャリアガスであるヘリウムガスにメタノール蒸気、エタノール蒸気又は水蒸気を含有させる方法を、図2に基づいて説明する。ヘリウムガスの一部を経路2から分岐して経路13へと供給した。経路13は、溶媒タンク15へと接続されており、その内部には溶媒16(メタノール、エタノール又は水)が蓄えられている。ヘリウムガスは、溶媒16中でバブリングした後、経路17を経てバルブ4へと至る。そして、経路5を流れるヘリウムガスと混合される。経路5以降のヘリウムガス中に含有されるメタノール蒸気、エタノール蒸気又は水蒸気は、0.1〜2容量%となるように、MFC3とMFC14を用いて流量調整する。
【0040】
実施例2では、溶媒16はメタノールであるが、後述する実施例3ではエタノール、比較例1では蒸留水である。
【0041】
[実施例3]
工程(1)において、キャリアガスであるヘリウムガスにエタノール蒸気を1容量%含有させること以外、すべて実施例1と同様の操作を行い、試験基板上に無電解銅メッキ被膜を形成させた。
【0042】
[比較例1]
工程(1)において、キャリアガスであるヘリウムガスに水蒸気を1容量%含有させること以外、すべて実施例1と同様の操作を行い、試験基板上に無電解銅メッキ被膜を形成させた。
【0043】
[比較例2]
工程(4)を省略すること以外、すべて実施例2と同様の操作を行なった。しかし、試験基板上に無電解銅メッキ被膜を形成させることはできなかった。
【0044】
<大気圧プラズマ処理後の親水化>
実施例1〜3、及び比較例1の工程(1)後の試験基板について、XPS分析を行った。図5〜図8は、その結果を表すグラフである。主ピークであるF1S、C1Sの他に、O1Sピークも確認され、いずれの試験基板表面にも水酸基等が生成されたことが確認された。実施例2及び実施例3は、プラズマ処理前のPTFE基板と比較して、F1Sピーク強度が減少し、C1Sピーク強度が増加していた。しかし、比較例1では、そのような傾向がほとんど認められなかった。
【0045】
実施例1〜3、及び比較例1の工程(1)後の試験基板について、蒸留水に対する接触角を測定した結果を、表3に示す。表3より、実施例1〜3の試験基板は、表面の濡れ性を示す接触角が、プラズマ処理前のPTFE基板と比較して小さくなり、親水性化の程度が高いことが示された。
【0046】
【表3】

【0047】
<AEAPS処理後のSAM形成>
工程(2)後の実施例2の試験基板をXPS分析した結果を、図9に示す。図9(a)より、F1Sク強度が減少する一方、図9(b)より、C1S及びN1Sクが明瞭に出現していることが確認された。このことから、親水化処理した試験基板表面にAEAPSのSAMが形成されたことが確認された。なお、蒸留水の接触角は、48°と大きく減少した。
【0048】
<無電解メッキ処理による無電解銅メッキ被膜の形成>
工程(5)後の実施例2及び比較例2の試験基板表面の写真を、それぞれ図10(a)及び図10(b)に示す。実施例2では、無電解銅メッキ被膜を形成させることができた。蛍光X線測定による無電解銅メッキ被膜の膜厚測定を行った結果、0.14μmであった。無電解銅メッキ被膜の簡易的な密着試験として、粘着テープ(スコッチテープ:住友スリーエム社製)による剥離テストを行ったところ、銅被膜の剥離は全く観察されなかった。一方、比較例2では、無電解銅メッキ被膜を形成させることができなかった。図10(b)に示す比較例2の試験基板のXPS分析結果を、図11に示す。なお、実施例1及び3についても、実施例2と同様の無電解銅メッキ被膜が形成された。
【0049】
図11(b)は、図11(a)の一部を拡大したグラフである。図11(b)より、Pd3d5/2ピークが明瞭に出現している一方、パラジウムがイオン状態であることが確認された。すなわち、SAMの末端官能基(アミノ基)にパラジウムイオンが化学吸着しているものの、パラジウムは金属化されていないと考察された。
【0050】
図12は、実施例2の試験基板の無電解銅メッキ被膜が形成された部分のXPS分析結果を示す。図9(b)より、Cu2d3/2ピークは明瞭に出現しており、DMAB溶液による還元作用のためにパラジウムイオンが金属パラジウムへと還元されたことが確認された。そして、金属パラジウムの触媒作用によって、無電解銅メッキ被膜が形成されたと考察された。実施例1及び3の試験基板についても、同様の結果が得られた。
【0051】
<スズイオンによる感受性化処理>
上記実施例1〜3においては、工程(3)の前に、スズ塩を含有する水溶液で試験基板を感受性化処理する工程は行わなかったが、市販の無電解銅メッキ用の感受性化処理溶液を用いて感受性化処理を行った場合も、実施例1〜3と同様に、無電解銅メッキ被膜が得られた。コスト削減と作業の簡略化の観点から、感受性化処理工程を省略することが好ましい。
【0052】
<電解銅メッキ処理>
工程(6)の電解銅メッキ処理は、公知の処理方法を利用することにより達成し得る。すなわち、公知の電解銅メッキ処理によって、無電解銅メッキ被膜の上に、さらに電解層メッキ被膜を形成させることが可能である。この場合、PTFE基板表面が平滑なまま、その上に厚みが均一で結合力の強い銅メッキ被膜(無電解銅メッキ被膜+電解銅メッキ被膜)が形成される。
【0053】
実施例2の試験基板の無電解銅メッキ被膜が形成された部分に、公知の処理方法(トップルチナ81-HL:奥野製薬工業製の建浴資料)による電解銅メッキを施した。蛍光X線測定による電解銅メッキ被膜の膜厚測定を行った結果、9.83μmであった。電解銅メッキ被膜の簡易的な密着試験として、粘着テープ(スコッチテープ:住友スリーエム社製)による剥離テストを行ったところ、銅被膜の剥離は全く観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法は、高周波回路のメッキ基板の製造方法として有用である。なお、アミノシランカップリング剤のSAMを形成させた後、パターニングしたマスク材を介して真空紫外線露光すれば、回路の不要部分に相当するSAMのアミノ基を除去することができるため、その後の無電解メッキ処理及び電解銅メッキ処理では、フルアディティブ法による回路パターン導体部分の銅メッキ被膜を積層させることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:ガスボンベ
2:経路
3:マスフローコントローラー(MFC)
4:バルブ
5:経路
6:試料台走査ステージ
7:試験基板
8:プラズマ
9:アルミナ製絶縁パイプ
10:アルミ合金製ロッド
11:高周波発振電源
12:マッチング回路ユニット
13:経路
14:マスフローコントローラー(MFC)
15:溶媒タンク
16:溶媒
17:経路
21:ステンレス製容器
22:PFA製容器
23:ビーカー
24:AEAPSのトルエン溶液
25:AEAPS蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン基板をヘリウムガス存在下でプラズマ処理する工程(1)と、
前記基板をアミノシランカップリング剤と反応させ、前記基板の表面に自己集積化単分子膜を形成する工程(2)と、
自己集積化単分子膜を形成した前記基板を、パラジウム塩を含有する水溶液である無電解メッキ用触媒液で活性化処理する工程(3)と、
前記基板に固定化されたパラジウムイオンを金属パラジウムに還元する工程(4)と、
前記基板を無電解銅メッキ液で処理することにより、前記基板上に無電解銅メッキ被膜を形成する工程(5)と、
前記基板を電解銅メッキ液で処理することにより、前記無電解銅メッキ被膜の上に電解銅メッキ被膜をさらに形成する工程(6)と、
を順次行うことを特徴とする、高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法。
【請求項2】
前記アミノシランカップリング剤が3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシシランである、請求項1に記載の高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、ヘリウムガスがメタノール蒸気又はエタノール蒸気を0.1容量%以上2容量%以下の範囲で含有している、請求項1又は2に記載の高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法。
【請求項4】
前記工程(3)の前に、スズ塩を含有する水溶液で前記基板を感受性化処理する工程を行わない、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波回路用ポリテトラフルオロエチレン基板の銅メッキ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−46781(P2012−46781A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188148(P2010−188148)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 社団法人 表面技術協会 刊行物名 表面技術協会第121回講演大会講演要旨集 発行年月日 平成22年2月26日
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】