説明

高周波増幅器

【課題】 高周波領域において動作する通信用増幅器の相互変調歪みの信号レベルを一定に保つことにより通信品質を確保し、また、環境温度が変化しても高効率で低消費電力動作が可能な高周波増幅器を提供する。
【解決手段】 高周波電力を入力する増幅器2と、増幅器2の出力ラインの分岐出力を検波出力とする歪レベル検波回路5と、この検波電圧と基準電圧とを比較する比較器6と、この比較器6の出力電圧が入力され、内部に比較器6の出力電圧に対応して増幅器2のゲート電極及びドレイン電極に対する供給電圧を定めるデータテーブルを書き込んだROMを有する制御回路7とを備えるようにし、ROMデ−タに基づき増幅器2のドレイン電圧とゲート電圧を制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波帯域などの高周波領域において動作する高周波増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動作環境温度変化に対して歪特性の劣化を最小限とするFET増幅器として、例えば、特開2003−224429号公報図1(特許文献1参照)には、LDMOS FET1のソース端子が接地され、ゲートバイアス端子3から温度補償回路2およびチョークコイルを介してゲート電圧Vgsが、またドレインバイアス端子4からチョークコイルを介してドレイン電圧Vdsがそれぞれ印加され、増幅器として動作するものが開示されている。
【0003】
また、特開平7−202580号公報図1(特許文献2参照)には、信号増幅用のFET1と制御専用のFET2のゲート同士を接続し、可変基準電圧発生器によってゲート電圧を可変し、ドレイン電流を制御する。FET1のドレイン端子は出力端子に接続され、FET2のドレイン端子は、歪が発生する周波数を通すバンドパスフィルタとピーク検出器を用いて歪量を検出し、電圧比較増幅器でこの歪量がある値を超えない様に可変基準電圧発生器を制御している。従ってFET2は常に歪特性が最適になる様にドレイン電流を制御され、結果、FET1も最適ドレイン電流となる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−224429号公報(第1図)
【0005】
【特許文献2】特開平7−202580号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のものでは、増幅器のゲート電圧Vg側に、温度補償回路としてサーミスタ(温度センサ)を利用し、環境温度に対応してゲート電圧を変化させ、増幅器に流れる電流を制御することで効率化を図っているものの温度補償回路2には、抵抗素子21、22やサーミスタ23、24の素子固有の抵抗値ばらつきがあり、十分な温度補償が困難であるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載のものでは、電圧比較増幅器6の一方の入力端子に基準電圧(Vref)を入力し、ピーク検出器5からの信号がVrefよりも小さいときは動作しないため、広いレンジに亘る動作が不可能であるという課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、マイクロ波、ミリ波帯などの高周波領域において動作する通信用増幅器の相互変調歪みの信号レベルを一定に保つことにより通信品質を確保し、また、環境温度が変化しても高効率で低消費電力動作が可能な高周波増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る高周波増幅器は、ソース電極が接地されたゲート電極及びドレイン電極を有し、高周波電力を入力する増幅器と、この増幅器の出力ラインに設けられ、一方の分岐出力を高周波増幅出力線路とし、他方の分岐出力を制御出力線路とする電力分配器と、この電力分配器の前記制御出力線路に接続され、前記増幅器で生じた非線形歪量を抽出し、検波出力とする歪レベル検波回路と、この歪レベル検波回路の出力電圧を一方の入力とし、あらかじめ設定した所望の高周波出力電力に対応した基準電圧を他方の入力とすることにより差分電圧を出力する比較器と、この比較器の出力電圧が入力され、出力は前記増幅器のゲート電極とドレイン電極とにそれぞれ接続され、内部に前記比較器の出力電圧に対応して前記増幅器のゲート電極及びドレイン電極に対する供給電圧を定めるデータテーブルを書き込んだROMを有する制御回路とを備え、前記比較器に入力する前記基準電圧の出力電圧値より大きい電圧値に対しては、前記増幅器のドレイン電圧を減少させると共にゲート電圧を減少させ、前記比較器に入力する前記基準電圧の出力電圧値より小さい電圧値に対しては、前記増幅器のドレイン電圧を増加させると共にゲート電圧を増加させることにより、前記基準電圧に対応する出力電力を保ちつつ動作するものである。
【0010】
請求項2の発明に係る高周波増幅器は、前記制御回路と前記増幅器のドレイン電極との接続、及び前記制御回路と前記増幅器のゲート電極との接続は、それぞれ高周波電力周波数のn/4(n:正の奇数)管内波長のストリップ線路を介している請求項1に記載のものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、請求項1に係る発明によれば、入力電力に対応して、あらかじめ設定した歪み信号レベルに合わせてドレイン電圧及びゲート電圧を制御することで、出力飽和電力以下の一定領域に出力電力を保つことができる。また、歪み信号レベルに対して適切なバックオフ量を保つことで、環境温度変化に対しても電力効率と低消費電力を考慮した通信品質の良い高周波増幅器を得ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、高周波の漏洩による制御回路への影響を軽減するため制御回路と高周波回路とは、1/4λg線路で隔離されているので、マイクロ波などの漏洩による制御信号の誤動作などを軽減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について図1を用いて説明する。図1は、実施の形態1による高周波増幅器のブロック構成図である。図1において、1はマイクロ波帯域などの高周波入力信号を入力する入力端子、2は高周波入力信号を増幅するFETトランジスタなどで構成した増幅器、3は増幅した高周波信号を出力する出力端子、4は増幅器2で増幅された増幅信号を通過させると共にその一部を分岐出力させる電力分配器などで構成された電力検出回路、5は電力検出回路4の分岐信号を受け、この分岐信号を検波する歪みレベル検波回路である。歪みレベル検波回路5は分岐信号レベルに応じて出力電圧(Vdet)を発生する。
【0014】
6は検波された検波電圧(Vdet)を一方の入力とし、任意に設定可能な基準電圧発生器からの基準電圧(Vref)を他方の入力する比較器である。7は、比較器6で比較したVdetとVrefとの比較結果に対応した出力電圧(Vcom)を受け、増幅器2に制御信号を送出する制御回路である。制御回路7は、あらかじめ、Vcomの出力電圧値に対応する内容を書き込み、メモリテーブルとしたROMなどの記憶素子を保有しており、Vcomに対応して増幅器2のドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)を発生させ、増幅器2のゲートとドレインに制御電圧を供給する機能を受け持つ。
【0015】
次に動作について説明する。制御回路7のROMに書き込まれたデータテーブルは、あらかじめ増幅器2の入出力電力特性を求め、増幅器2のドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)の最適定数(バックオフ量)を保有しており、最適定数は増幅器2の歪を抽出し、歪みレベル検波回路5の検波電圧の大小から抽出した出力電圧Vcomに対応している。Vcomに対応したドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)を合わせて制御することで予め設定した一定の歪み信号レベルを保つ。
【0016】
図2は、実施の形態1による高周波増幅器の回路図である。図2において、増幅器2が介在する高周波線路と制御回路7からのVd制御信号及びVg制御信号とは高周波の漏洩を防止するため、表面線路を(n/4)×λg(n:奇数の整数)長で構成し、裏面などを地導体としたマイクロ波ストリップ線路で隔離しており、増幅器2のドレイン電圧(Vd)は制御回路7の電源(PS)から可変減衰器(VATT)を介して直接供給される。また、増幅器2のゲート電圧(Vg)も同様に制御回路7のPSからVATTを介して供給され、高周波線路と結合する。なお、λgは高周波電力周波数(f)の逆数であり、搬送される高周波伝送線路の管内波長を示す。
【0017】
次に、増幅器2のドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)の最適定数(バックオフ量)を設定する方法について説明する。図3は、増幅器2の入出力特性を示す一例である。図3において、入力電力(P)が漸増することにより、低電力領域ではリニアに出力電力も増加するが、一定入力電力で出力電力は飽和する。このとき、既定の増幅器2のドレイン電圧(Vd)を増減させることにより、一定の入力電圧に対して出力飽和電力も変化する。すなわちVdが増加すると出力飽和電力も増加し、Vdが減少すると出力飽和電力も減少する。また、一般的に増幅器のゲート電圧Vgを変化させるとドレイン電流(Ids)も変化する。すなわちゲート電圧(Vg)が増加するとドレイン電流(Ids)も増加し、Vgが減少するとIdsも減少する。
【0018】
図4は、高周波増幅器の環境温度変化などによる入出力特性を説明する図である。図4では、常温時既定の増幅器のドレイン電圧(Vd)及びゲート電圧(Vg)に対して低温時には出力飽和電力は増加し、高温時には出力飽和電量は減少する。これは、常温時、既定のゲート電圧(Vg)に対して、低温時にはゲート電圧(Vg)は上昇するためIdsも増加する。逆に高温時にはゲート電圧(Vg)は減少するためIdsも減少するためである。
【0019】
以上から比較器6に入力する基準電圧(Vref)の出力値より大きい電圧値に対しては、ドレイン電圧を減少させるとともにゲート電圧も減少させ、比較器6に入力する基準電圧の出力値より小さい電圧値に対しては、ドレイン電圧を増加させると共にゲート電圧を増加させることにより、独立して制御する場合と比べて制御スピードの効率化を図ることが可能となる。
【0020】
従って、図3、図4に示すように入力電力や環境温度変化に対して出力飽和電力に到らない規定出力電力(P)を維持するためには、出力飽和電力(Psat)と規定出力電力(P)との差分であるバックオフ電力量を設定することにより、これに対応するVdとVgのデータテーブルを作成し、規定出力電圧(P)時の歪レベル検波回路5からの情報に基づき制御回路7で増幅器2のドレインとゲートとを制御することにより省電力化を図ることが可能である。
【0021】
すなわち、歪レベルを一定にするためには、規定出力電力(P)に対応するVrefを設定し、このときのバックオフ量を零とし、バックオフ量と制御電圧を設定する。もしくは規定出力電力より大きい電力で設定する場合には、バックオフ量を+の規定値とすることにより入力電力などの増減に対応させて制御する。
【0022】
以上のように、実施形態1によれば温度補償回路を用いることなく、歪み信号成分のみを検出することで、入力電力や環境温度が変動した場合でも適切なバックオフ量を保つことで、一定の出力電力を保つようにする動作が可能となる。
【0023】
また歪み信号レベルを一定に保ちつつバイアス制御を行うので,回路構成素子によるばらつきの影響を受けにくくなり、安定した通信品質を保つことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態1による高周波増幅器のブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による高周波増幅器の回路図である。
【図3】この発明の実施の形態1による高周波増幅器回路の高周波増幅器の入出力特性を説明する図である。
【図4】高周波増幅器の環境温度変化などによる入出力特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0025】
1・・入力端子 2・・増幅器 3・・出力端子 4・・電力検出回路(電力分配器)
5・・歪みレベル検波回路 6・・比較器 7・・制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース電極が接地されたゲート電極及びドレイン電極を有し、高周波電力を入力する増幅器と、この増幅器の出力ラインに設けられ、一方の分岐出力を高周波増幅出力線路とし、他方の分岐出力を制御出力線路とする電力分配器と、この電力分配器の前記制御出力線路に接続され、前記増幅器で生じた非線形歪量を抽出し、検波出力とする歪レベル検波回路と、この歪レベル検波回路の出力電圧を一方の入力とし、あらかじめ設定した所望の高周波出力電力に対応した基準電圧を他方の入力とすることにより差分電圧を出力する比較器と、この比較器の出力電圧が入力され、出力は前記増幅器のゲート電極とドレイン電極とにそれぞれ接続され、内部に前記比較器の出力電圧に対応して前記増幅器のゲート電極及びドレイン電極に対する供給電圧を定めるデータテーブルを書き込んだROMを有する制御回路とを備え、前記比較器に入力する前記基準電圧の出力電圧値より大きい電圧値に対しては、前記増幅器のドレイン電圧を減少させると共にゲート電圧を減少させ、前記比較器に入力する前記基準電圧の出力電圧値より小さい電圧値に対しては、前記増幅器のドレイン電圧を増加させると共にゲート電圧を増加させることにより、前記基準電圧に対応する出力電力を保ちつつ動作する高周波増幅器。
【請求項2】
前記制御回路と前記増幅器のドレイン電極との接続、及び前記制御回路と前記増幅器のゲート電極との接続は、それぞれ高周波電力周波数のn/4(n:正の奇数)管内波長のストリップ線路を介している請求項1に記載の高周波増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−244986(P2008−244986A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84050(P2007−84050)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】