説明

高周波用誘電体磁器組成物、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置

高い比誘電率εrと高いQ値を有し、また共振周波数の温度係数τfが0ppm/℃を中心に任意に制御できる、高周波用誘電体磁器組成物を提供しようとする。
組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成を有し、上記組成式におけるx、y、z、a、b、c、d、およびe(ただしx、y、zはモル比である)は、0.475≦x≦0.58、0.21≦y≦0.505、0.018≦z≦0.25、x+y+z=1.000、0.9≦a≦1.05、0.9≦b≦1.1、0.9≦c≦1.1、0.9≦d≦1.1、0.9≦e≦1.05の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において利用される高周波用誘電体磁器組成物、ならびにそれを用いて構成される誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器や回路基板等を構成する材料として、誘電体磁器が広く利用されている。
【0003】
このような高周波用誘電体磁器が、特に誘電体共振器や誘電体フィルタ等の用途に向けられる場合、要求される誘電特性としては、(1)誘電体中では電磁波の波長が1/(εr1/2に短縮されるので、小型化の要求への対応として比誘電率(εr)が高いこと、(2)誘電損失が小さい、すなわちQ値が高いこと、(3)共振周波数の温度安定性が優れている、すなわち共振周波数の温度係数(τf)が0ppm/℃付近であること等が挙げられる。
【0004】
ここでτfは、25℃における共振周波数(f25)と、55℃における共振周波数(f55)の値とを用いて、共振周波数温度曲線を直線近似したときの傾き(1次微係数)を表わすものであり、その値はτf=(f55−f25)/(f25・(55℃−25℃))の式によって求められる。
【0005】
従来、上述したような要求を満たし得る高周波用誘電体磁器組成物として、例えばCaO−TiO2−Al23−(Nb、Ta)25系(特許文献1〜7参照)、Ca(Mg1/21/2)O3系等の磁器組成物が、既に多数提案されている。
【特許文献1】特開平10−95663号公報
【特許文献2】特開2001−302331号公報
【特許文献3】特開2001−302332号公報
【特許文献4】特開2001−302333号公報
【特許文献5】特開2001−302334号公報
【特許文献6】特開2002−255640号公報
【特許文献7】特開2002−308670号公報
【特許文献8】特開平9−241073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子機器の低損失化、かつ小型化の要求が高まり、誘電体共振器や誘電体フィルタ等の用途に向けられる高周波用誘電体磁器に要求される誘電特性に関して、より優れたものが必要とされるようになっている。特に、高周波領域で使用しても、高いεr、高いQ値、および高い温度安定性(τfが0ppm/℃付近)を併せ持つ材料に対する要求が高まってきている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載された組成系を有する誘電体磁器組成物は、εrが41〜66と高いものの、Q値(1GHz)が12000〜27300であり充分高いとは言えなかった。
【0008】
また、前記特許文献2〜7に記載された組成系を有する誘電体磁器組成物は、εrが35以上と高く、τfが0ppm/℃付近で制御できるものの、εrを高くするとτfとQ値(1GHz)が悪化するという問題があった。
【0009】
また、前記特許文献8に記載された組成系を有する誘電体磁器組成物は、Q値(1GHz)が45000以上と高いものの、εrが17〜19と低く、またτfの絶対値が70以上と大きかった。
【0010】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、すなわちマイクロ波やミリ波等の高周波領域で使用しても、高いεrと高いQ値を有し、またτfの絶対値が小さい、高周波用誘電体磁器組成物を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を解決するため、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、 組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成を有し、上記組成式におけるx、y、z、a、b、c、d、およびe(ただしx、y、zはモル比である)は、0.475≦x≦0.58、0.21≦y≦0.505、0.018≦z≦0.25、x+y+z=1.000、0.9≦a≦1.05、0.9≦b≦1.1、0.9≦c≦1.1、0.9≦d≦1.1、0.9≦e≦1.05の範囲内にある。
【0012】
そして、前記組成式中のNbの一部または全部が、Taおよび/またはSbで置換されており、かつSbの置換量l(ただしlはSb/(Nb+Ta+Sb)モル比である)は、0≦l≦0.5の範囲内にある。
【0013】
さらに、前記組成式中のMgの一部または全部が、Znで置換されている。
【0014】
また、この発明の誘電体共振器は、誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器は、上述したこの発明の高周波用誘電体磁器組成物からなる。
【0015】
また、この発明の誘電体フィルタは、上述した誘電体共振器と、この誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備える。
【0016】
また、この発明の誘電体デュプレクサは、少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが、上述したこの発明に係る誘電体フィルタである。
【0017】
さらに、この発明の通信機装置は、上述の誘電体デュプレクサと、この誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、この送信用回路に接続される上述の入出力手段とは異なる、少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成を有し、上記組成式におけるx、y、z、a、b、c、d、およびe(ただしx、y、zはモル比である)は、0.475≦x≦0.58、0.21≦y≦0.505、0.018≦z≦0.25、x+y+z=1.000、0.9≦a≦1.05、0.9≦b≦1.1、0.9≦c≦1.1、0.9≦d≦1.1、0.9≦e≦1.05の範囲内にあるようにしているので、εrが45以上であって、Q値(1GHz)で38000以上の高いQ値を示し、またτfの絶対値が25ppm/℃以内と小さい、高周波用誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0019】
そして、この発明の高周波用誘電体磁器組成物において、前記組成式中のNbの一部または全部を、Taおよび/またはSbで置換し、かつSbの置換量l(ただしlはSb/(Nb+Ta+Sb)モル比である)は、0≦l≦0.5の範囲内にあるようにすることにより、TaまたはSbで置換しない場合に比べて、τfの絶対値をより小さくすることができる。
【0020】
さらに、この発明の高周波用誘電体磁器組成物において、前記組成式中のMgの一部または全部を、Znで置換することにより、Znで置換しない場合に比べて、εrをより高くすることができる。
【0021】
したがって、例えば基地局、携帯電話、パーソナル無線機、衛星放送受信機等に搭載される誘電体共振器を小型化し、誘電損失を小さいものとし、また共振周波数の温度安定性を優れたものとすることができる。その結果、このような誘電体共振器を用いれば、小型化され、かつ優れた特性を有する誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置を有利に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の高周波用誘電体磁器組成物を用いて構成される誘電体共振器1の基本的構造を図解的に示す断面図である。
【図2】図2に示した誘電体共振器1を用いて構成される通信機装置の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
1 誘電体共振器
2 金属ケース
3 支持台
4 誘電体磁器
5、6 結合ループ
7、8 同軸ケーブル
10 通信機装置
12 誘電体デュプレクサ
14 送信用回路
16 受信用回路
18 アンテナ
20 入力接続手段
22 出力接続手段
24 アンテナ接続手段
26、28 誘電体フィルタ
30 外部結合手段
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
まず、この発明の高周波用誘電体磁器組成物が適用される誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置について説明する。
【0025】
図1は、この発明の高周波用誘電体磁器組成物を用いて構成される誘電体共振器1の基本的構造を図解的に示す断面図である。
【0026】
図1を参照して、誘電体共振器1は、金属ケース2を備え、金属ケース2内の空間には、支持台3によって支持された柱状の誘電体磁器4が配置されている。そして、同軸ケーブル7の中心導体と外導体との間に結合ループ5を形成して入力端子とする。また、同軸ケーブル8の中心導体と外導体との間に結合ループ6を形成して出力端子とする。それぞれの端子は、外導体と金属ケース2とが電気的に接合された状態で、金属ケース2によって保持されている。
【0027】
誘電体磁器4は、入力端子および出力端子に電磁界結合して作動するもので、入力端子から入力された所定の周波数の信号だけが出力端子から出力される。
【0028】
このような誘電体共振器1に備える誘電体磁器4が、この発明の高周波用誘電体磁器組成物から構成される。
【0029】
なお、図1に示した誘電体共振器1は、基地局等で用いられるTE01δモード共振器であるが、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、他のTEモード、TMモード、およびTEMモードなどを利用する誘電体共振器にも同様に適用することができる。
【0030】
図2は、上述した誘電体共振器1を用いて構成される通信機装置の一例を示すブロック図である。
【0031】
図2に示した通信機装置10は、誘電体デュプレクサ12、送信用回路14、受信用回路16およびアンテナ18を含む。
【0032】
送信用回路14は、誘電体デュプレクサ12の入力接続手段20に接続され、受信用回路16は、誘電体デュプレクサ12の出力接続手段22に接続される。
【0033】
また、アンテナ18は、誘電体デュプレクサ12のアンテナ接続手段24に接続される。
【0034】
この誘電体デュプレクサ12は、2つの誘電体フィルタ26、28を含む。誘電体フィルタ26、28は、この発明の誘電体共振器に外部結合手段を接続して構成されるものである。図示の実施形態では、例えば図1に示した誘電体共振器1の入出力端子にそれぞれ外部結合手段30を接続して、誘電体フィルタ26および28のそれぞれが構成される。そして、一方の誘電体フィルタ26は、入力接続手段20と他方の誘電体フィルタ28との間に接続され、他方の誘電体フィルタ28は、一方の誘電体フィルタ26と出力接続手段22との間に接続される。
【0035】
次に、図1に示した誘電体共振器1に備える誘電体磁器4のように、高周波領域において有利に用いられる、この発明の高周波用誘電体磁器組成物について説明する。
【0036】
この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成を有している。ここで上記組成式におけるx、y、z、a、b、c、d、およびe(ただしx、y、zはモル比である)は、0.475≦x≦0.58、0.21≦y≦0.505、0.018≦z≦0.25、x+y+z=1.000、0.9≦a≦1.05、0.9≦b≦1.1、0.9≦c≦1.1、0.9≦d≦1.1、0.9≦e≦1.05の範囲内にあるように選ばれる。
【0037】
そして、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、τfの絶対値をより小さくするため、前記組成式中のNbの一部または全部が、Taおよび/またはSbで置換されており、かつSbの置換量l(ただしlはSb/(Nb+Ta+Sb)モル比である)は、0≦l≦0.5の範囲内にあるように選ばれる。
【0038】
さらに、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、εrをより高くするため、前記組成式中のMgの一部または全部が、Znで置換されている。
【0039】
この発明において、上述のような特定的な組成を選んだ根拠となる実施例について、以下に説明する。
【実施例1】
【0040】
出発原料として、高純度の炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化マグネシウム(MgO)、および酸化タングステン(WO3)の各粉末を準備した。
【0041】
次に、表1および2に示すx、y、z、a、b、c、d、およびeにそれぞれ選ばれた、組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成が得られるように、前記の各出発原料粉末を調合した。
【0042】
次に、この調合粉末を、ボールミルを用いて16時間湿式混合し、均一に分散させた後、脱水および乾燥処理を施して調整粉末を得た。
【0043】
次に、この調整粉末を、1000〜1300℃の温度で3時間仮焼し、得られた仮焼粉末に適量のバインダを加えて、再びボールミルを用いて16時間湿式粉砕することにより、焼成用粉末を得た。
【0044】
そして、この焼成用粉末を、0.98×102〜1.96×102MPaの圧力で円板状にプレス成形した後、1400〜1650℃の温度で4時間、大気中において焼成し、直径10mm、厚さ5mmの円板状の焼結体を得た。
【0045】
得られた各試料に係る焼結体について、測定周波数fが6〜8GHzにおけるεrとQ値を、TE011モードによる両端短絡型誘電体共振器法にて測定し、Q×f(周波数)=一定の式に基づき、Q値(1GHz)に換算した。また、TE01δモードによるキャビティ法にて共振周波数を測定し、25〜55℃の温度範囲でのτfを測定した。
【0046】
上述のようにして測定した、試料組成に対応したεr、Q値(1GHz)、およびτfを、表1および2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1および2において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の試料である。
【0050】
表1および2に示すように、この発明の範囲内にある試料8〜12、16〜20、23〜27、30〜34、37〜41、45〜48、57、58、61、62、65、66、69、70、73、および74に係る誘電体磁器組成物によれば、εrを45〜54程度と大きく、Q値(1GHz)を38000以上と高く、τfの絶対値を25ppm/℃以内に小さくすることができ、優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【0051】
これらに対して、この発明の範囲外にある試料について考察する。
【0052】
まず、x<0.475の場合は、試料53、および54に示すように、εrが45未満となり、またτfの絶対値が25ppm/℃を超える。他方、x>0.58の場合は、試料3、および4に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0053】
次に、y<0.21の場合は、試料13に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。他方、y>0.505の場合は、試料44に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0054】
次に、z<0.018の場合は、試料7、15、22、29、および36に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。他方、z>0.25の場合は、試料49、および50に示すように、εrが45未満となり、またτfの絶対値が25ppm/℃を超える。
【0055】
次に、a<0.9、またはa>1.05の場合は、それぞれ試料56、59に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0056】
次に、b<0.9、またはb>1.1の場合は、それぞれ試料60、63に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0057】
次に、c<0.9、またはc>1.1の場合は、それぞれ試料64、67に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0058】
次に、d<0.9、またはd>1.1の場合は、それぞれ試料68、71に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0059】
次に、e<0.9、またはe>1.05の場合は、それぞれ試料72、75に示すようにQ値(1GHz)が38000未満となる。
【実施例2】
【0060】
実施例2は、Nbの一部または全部を、TaまたはSbで置換することにより及ぼされる影響について調査するために実施したものである。
【0061】
出発原料として、高純度の炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化タンタル(Ta25)、酸化アンチモン(Sb23)、酸化マグネシウム(MgO)、および酸化タングステン(WO3)の各粉末を準備した。
【0062】
次に、表3に示すx、y、z、a、b、c、d、e、k、およびlにそれぞれ選ばれた、組成式:xCaTia1+2a−yCa{Alb/2(Nb1-k-lTakSblc/2}O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成が得られるように、前記の各出発原料粉末を調合した。
【0063】
その後、実施例1の場合と同様の方法によって、試料となる円板状の焼結体を得、得られた各試料に係る焼結体について、εr、Q値(1GHz)、およびτfをそれぞれ測定した。
【0064】
試料組成に対応したεr、Q値(1GHz)、およびτfの測定結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の試料である。
【0067】
表3に示すように、この発明の範囲内にある試料76、77、79〜81、83、84、86〜90に係る誘電体磁器組成物によれば、Nbの一部または全部を、Taおよび/またはSbで置換していない場合に比べて、εrおよびQ値(1GHz)を悪化させることなく、τfの絶対値を小さくすることができ、優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【0068】
これらに対して、この発明の範囲外にある試料について考察する。
【0069】
l>0.5の場合は、試料78、82、および85に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【実施例3】
【0070】
実施例3は、Mgの一部または全部を、Znで置換することにより及ぼされる影響について調査するために実施したものである。
【0071】
出発原料として、高純度の炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化タンタル(Ta25)、酸化アンチモン(Sb23)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)および酸化タングステン(WO3)の各粉末を準備した。
【0072】
次に、表4に示すx、y、z、a、b、c、d、e、k、l、およびmにそれぞれ選ばれた、組成式:xCaTia1+2a−yCa{Alb/2(Nb1-k-lTakSblc/2}O1+(3b+5c)/4−zCa{(Mg1-mZnmd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成が得られるように、前記の各出発原料粉末を調合した。
【0073】
その後、実施例1の場合と同様の方法によって、試料となる円板状の焼結体を得、得られた各試料に係る焼結体について、εr、Q値(1GHz)、およびτfをそれぞれ測定した。
【0074】
試料組成に対応したεr、Q値(1GHz)、およびτfの測定結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の試料である。
【0077】
表4に示すように、この発明の範囲内にある試料91〜110、116〜120に係る誘電体磁器組成物によれば、Mgの一部または全部を、Znで置換していない場合に比べて、Q値(1GHz)およびτfの絶対値を悪化させることなく、εrを向上させることができ、優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【0078】
これらに対して、この発明の範囲外にある試料について考察する。
【0079】
Mgの一部または全部を、Znで置換した場合においても、l>0.5の場合、試料111〜115に示すように、Q値(1GHz)が38000未満となる。
【0080】
なお、この発明の高周波用誘電体磁器組成物は、この発明の目的を損なわない範囲内で、わずかな添加物を加えてもよい。例えば、ZrO2、SiO2、Li2O、B23、PbO、Bi23、MnO2、NiO、CuO、Fe23、Cr23、V25等を0.01〜1.00重量%添加することで、誘電体磁器の特性を劣化させることなく、焼成温度を20〜30℃低下させることができる。
【0081】
また、BaCO3、SrCO3等を1.00〜3.00重量%添加することで、εrとτの微調整が可能となり、優れたマイクロ波誘電特性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上述のように、この発明によれば、εrが45以上、Q値(1GHz)が38000以上、τfの絶対値が25ppm/℃以内の高周波用誘電体磁器組成物を得ることが可能で、この高周波用誘電体磁器組成物を用いることにより、小型化され、かつ優れた特性を有する誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置を有利に構成することができる。
したがって、本願発明は、誘電体共振器、誘電体フィルタ、誘電体デュプレクサ、および通信機装置などの分野に広く利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:xCaTia1+2a−yCa(Alb/2Nbc/2)O1+(3b+5c)/4−zCa(Mgd/2e/2)O1+(d+3e)/2で表わされる組成を有し、上記組成式におけるx、y、z、a、b、c、d、およびe(ただしx、y、zはモル比である)は、
0.475≦x≦0.58、
0.21≦y≦0.505、
0.018≦z≦0.25、
x+y+z=1.000、
0.9≦a≦1.05、
0.9≦b≦1.1、
0.9≦c≦1.1、
0.9≦d≦1.1、
0.9≦e≦1.05
の範囲内にある、高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記組成式中のNbの一部または全部が、Taおよび/またはSbで置換されており、かつSbによる置換量l(ただしlはSb/(Nb+Ta+Sb)モル比である)は、
0≦l≦0.5
の範囲内にある、請求項1に記載の高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記組成式中のMgの一部または全部が、Znで置換されている、請求項1または2に記載の高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項4】
誘電体磁器が入出力端子に電磁界結合して作動するものである誘電体共振器であって、前記誘電体磁器は、請求項1から3のうちのいずれか1つに記載の高周波用誘電体磁器組成物からなる、誘電体共振器。
【請求項5】
請求項4に記載の誘電体共振器と、前記誘電体共振器の入出力端子に接続される外部結合手段とを備える、誘電体フィルタ。
【請求項6】
少なくとも2つの誘電体フィルタと、前記誘電体フィルタのそれぞれに接続される入出力接続手段と、前記誘電体フィルタに共通に接続されるアンテナ接続手段とを備える誘電体デュプレクサであって、前記誘電体フィルタの少なくとも1つが請求項5に記載の誘電体フィルタである、誘電体デュプレクサ。
【請求項7】
請求項6に記載の誘電体デュプレクサと、前記誘電体デュプレクサの少なくとも1つの入出力接続手段に接続される送信用回路と、前記送信用回路に接続される前記入出力手段とは異なる少なくとも1つの入出力接続手段に接続される受信用回路と、前記誘電体デュプレクサのアンテナ接続手段に接続されるアンテナとを備える、通信機装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/051861
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515736(P2005−515736)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013064
【国際出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【特許番号】特許第3979433号(P3979433)
【特許公報発行日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】