説明

高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法

【課題】高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造する。
【解決手段】油脂類とアルコール類とを第1反応器10および第2反応器20において、固体触媒存在下で反応させ、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンを含んだ反応液を得る。滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔であるアルコール蒸留塔23を用いて上記反応液からアルコール類を留去した後に、該反応液を脂肪酸アルキルエステル相とグリセリン相とに相分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、動植物油脂から得られるものが食用として使用されているほか、化粧品または医薬品などの分野において広く用いられている。また、近年では、脂肪酸アルキルエステルを、軽油などの代替として直接使用する、または軽油などに添加して使用する、いわゆるバイオディーゼル燃料としての用途が注目されている。バイオディーゼル燃料は、従来の石油系ディーゼル燃料に比べ、環境に対する負荷が低い等の様々な利点を有している。
【0003】
グリセリンは、主として、ニトログリセリンの製造原料として用いられているほか、アルキド樹脂の原料、医薬品、食料品、印刷インキおよび化粧品などの幅広い分野において用いられている。
【0004】
以上のように、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンは非常に有用である。これらは、下記反応式に示すように、油脂の主成分であるトリグリセリドをアルコール類とエステル交換させることによって製造することができる。
【0005】
【化1】

【0006】
(なお、上記反応式中、Rは、炭素数6〜22のアルキル基または1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を指す)
ここで、従来、上記反応式に示す反応は、均一系アルカリ触媒を用いて行うことが一般的であった。
【0007】
しかしながら、均一系アルカリ触媒を用いた場合、触媒の分離除去工程が煩雑となる。また、油脂に含まれる遊離の脂肪酸がアルカリ触媒によってけん化されて、石鹸が副生する。そのため、多量の水で洗浄する洗浄工程が必要であるばかりでなく、石鹸の乳化作用によって脂肪酸アルキルエステルの収率が低下するという問題があった。さらに、グリセリンを精製するための精製処理も煩雑であった。
【0008】
そこで、上記の問題を解決するために、均一系アルカリ触媒に替えて固体触媒を用いる脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法が開発されている(例えば、特許文献1)。固体触媒を用いた方法では、均一系アルカリ触媒を用いる方法に比べて、処理の煩雑さを回避できるだけでなく、反応において生じる排水および廃塩などの廃棄物を削減することができる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0034244号明細書(平成16年2月19日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の固体触媒を用いた脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、蒸発等を伴う一般的な手法を用いて、随時、反応液中の未反応のアルコール類の留去を行っていた。これは、固体触媒を用いた方法では、均一アルカリ触媒を用いた方法に比べ、アルコール類を過剰に用いているためであり、また、水洗浄によるアルコール類の除去工程がないためである。
【0010】
一般に、動植物油脂を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンは沸点が高いので、反応液中に少量残存したアルコールを蒸発等の操作で留去するときは高温に加熱する必要があった。この時、反応液中に含まれる脂肪酸アルキルエステルとグリセリド類とが、または脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとがエステル交換反応を起こして、油脂類とアルコールとが生成する逆反応が生じる。上記逆反応が生じると、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの収率が低下するばかりでなく、反応中間体であるグリセリド類も生成するので、最終製品の脂肪酸アルキルエステルの純度も低下する。高温を回避するため、高真空下で蒸発等を行う方法も挙げられるが、高真空下では留去されるアルコールの沸点が低くなるので、これを捕集するための冷却設備を増強する必要があった。
【0011】
このように、従来の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造することができなかった。そのため、高収率かつ容易に製造することができる脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法が望まれている。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討を行ったところ、油脂類とアルコール類とを反応させた反応液から未反応のアルコールを留去する際に、滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔を使用することによって、最終製品である脂肪酸アルキルエステルの収率および純度が向上することを見出した。また、その際に上記第1の相分離工程で得られたグリセリン相のアルコール留去を同時に行うことによって、もう一つの最終製品であるグリセリンの純度が向上することを見出した。さらに、上記第2の相分離工程の前にアルコールを十分に留去することにより、グリセリン相への脂肪酸アルキルエステルの分配が小さくなり、脂肪酸アルキルエステルの収率が向上することを見出した。
【0014】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法は、上記課題を解決するために、油脂類とアルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第1の反応工程と、上記第1の反応工程において得られた第1の反応液を、第1の脂肪酸アルキルエステル相と第1のグリセリン相とに相分離する第1の相分離工程と、上記第1の脂肪酸アルキルエステル相に含まれる油脂類と、アルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第2の反応工程と、上記第2の反応工程において得られた第2の反応液から、上記第1の反応工程および第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔を用いて留去する精製工程と、上記精製工程において得られた精製物を、第2の脂肪酸アルキルエステル相と第2のグリセリン相とに相分離する第2の相分離工程を含むことを特徴としている。
【0015】
上記の構成によれば、第1の反応工程において、油脂類とアルコール類とを固体触媒の存在下において反応させることにより、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、未反応の上記油脂類、未反応の上記アルコール類、およびグリセリド等の反応中間体を含む第1の反応液を得る。そして、第1の相分離工程において、第1の反応液を相分離することにより、脂肪酸アルキルエステル、未反応の上記油脂類、未反応の上記アルコール類、および上記反応中間体を含む第1の脂肪酸アルキルエステル相と、グリセリン、および未反応の上記アルコール類を含む第1のグリセリン相とを得る。さらに、第2の反応工程において、第1の脂肪酸アルキルエステル相とアルコール類とを固体触媒の存在下において反応させることにより、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、および未反応の上記アルコール類を含む第2の反応液を得る。
【0016】
続いて、上記精製工程において、第2の反応液から、未反応の上記アルコール類を滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔を用いて留去して精製物を得る。最後に、上記精製物を、第2の相分離工程において相分離することにより、脂肪酸アルキルエステルを含む第2の脂肪酸アルキルエステル相と、グリセリンを含む第2のグリセリン相とを得る。
【0017】
上記の構成によれば、上記第1精製工程において、滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔を用いてアルコール類を留去しているため、最終製品となるべき脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを過剰に加熱して逆反応が進行することを避けることができるとともに、第2の相分離工程において相分離すべき対象物(上記精製物)から、十分に上記アルコール類を除去することができるので、脂肪酸アルキルエステルが第2のグリセリン相に分配して、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することを避け、かつ、該相分離後の精製の手間を省くことができる。
【0018】
以上のように、上記の構成によれば、高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造することができる。
【0019】
なお、上記滞留時間の短い熱交換器を備えた蒸留塔としては、掻面式液膜熱交換器、液膜式熱交換器、薄膜上昇式熱交換器、および遠心薄膜式熱交換器からなる群より選ばれる熱交換器を備えた蒸留塔を好適に用いることができる。
【0020】
また、上記滞留時間は、20分以下であることが好ましい。上記滞留時間は、20分以下であれば、上記効果を好適に奏することができる。
【0021】
上記脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法の上記第1の精製工程では、上記蒸留塔を用いてさらに、上記第1のグリセリン相から、第1の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、一つの蒸留塔によって、第2の反応液および第1のグリセリン相からのアルコール類の留去が可能である。ここで、第1のグリセリン相からアルコール類を留去するための蒸留塔として、上記製造方法の各段階における蒸留塔を用いることができるが、上記の構成では、特に、第2の反応液からアルコール類を留去するための蒸留塔において、第2の反応液とともに第1のグリセリン相からもアルコール類を留去する。第1のグリセリン相からアルコールを留去する方法としては、例えば、第1の相分離工程の前にアルコールを蒸発させる方法が挙げられるが、グリセリン中のアルコール濃度を例えば1%以下とするためには、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む反応液を長時間加熱する必要があるので、エステル交換反応の逆反応が起こり好ましくない。また、特許文献1記載の製造方法のように、第1のグリセリン相からアルコールを留去する蒸留塔に第2の反応液の蒸留塔を用いない方法も挙げられるが、新たに蒸留塔および分離装置を設けなければならず、好ましくない。
【0023】
さらに、上記の構成では、第1のグリセリン相から上記蒸留塔を用いてアルコール類を留去する。したがって、第2の反応液に加えて第1のグリセリン相からも最終製品を取得する場合においても、過剰に加熱して逆反応が進行することを避けることができるとともに、第2の相分離工程において相分離すべき対象物(上記精製物)から、十分に上記アルコール類を除去することができるので、脂肪酸アルキルエステルが第2のグリセリン相に分配して、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することを避け、かつ、該相分離後の精製の手間を省くことができる。
【0024】
上記脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、上記第1の精製工程の前に、上記第2の反応液から、上記第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去する第2の精製工程をさらに含むことが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上記第1の精製工程の前に、上記第2の反応工程において得られた第2の反応液から、上記第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去するので、第1の精製工程において留去すべき対象物に含まれるアルコール類の量が低減し、さらに効率よく未反応アルコール類を留去することができる。
【0026】
上記脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、上記第1の相分離工程の前に、上記第1の反応工程において得られた第1の反応液から、上記第1の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去する第3の精製工程をさらに含むことが好ましい。
上記の構成によれば、第1の精製工程において留去すべき対象物に含まれるアルコール類の量が低減し、さらに効率よく未反応アルコール類を留去することができる。
【0027】
上記脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法の上記精製工程では、得られる精製物に含まれる上記未反応アルコール類が0.5重量%以下となるように、上記留去を行うことが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、上記精製工程において得られる精製物に含まれる上記未反応アルコール類が0.5重量%以下であるので、脂肪酸アルキルエステルが第2のグリセリン相に分配して、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することを避け、かつ、該相分離後の精製の手間を省くことができる。したがって、上記の構成によれば、高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、油脂類とアルコール類とを固体触媒の存在下で反応させて、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを製造する方法において、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを得るための相分離を行う前に、相分離すべき対象物から、上記蒸留塔を用いて未反応のアルコール類を留去するので、高品質な脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを、高収率かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法の一実施形態について説明する。なお、本明細書において、「脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリン」は、「脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンの少なくともいずれか1つ」と同義である。
【0031】
本実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法は、主として、第1の反応工程、第2の反応工程、第1の相分離工程、第2の相分離工程、第1の精製工程、第2の精製工程、第3の精製工程および再生工程を含んでいる。これら各工程の詳細については、以下に説明する。
【0032】
(脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造プロセス)
ここで、上述した各工程を含む脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造プロセスについて図1を参照して以下に説明する。図1は、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造装置を模式的に示した模式図である。
【0033】
図1に示すように、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを製造する製造装置1は、主として、油脂類貯留槽2、アルコール類貯留槽3、廃棄物貯留槽4、脂肪酸アルキルエステル貯留槽5、グリセリン貯留槽6、第1反応器10、第1加圧フラッシュ塔11、第1常圧フラッシュ塔12、アルコール精製塔13、第1分離器14、第2反応器20、第2加圧フラッシュ塔21、第2常圧フラッシュ塔22、アルコール蒸留塔23、第2分離器24、熱交換器30、熱交換器31、およびそれらを繋ぐラインを備えている。
【0034】
図1に示すように、アルコール類は、アルコール類貯留槽3から第1反応器10に供給され、油脂類は、油脂類貯留槽2から第1反応器10に供給される。このとき、油脂類およびアルコール類は、加熱および加圧された後、固体触媒の充填された第1反応器10に供給される。第1反応器10、および第1反応器10における第1の反応工程については下記に詳述する。
【0035】
第1反応器10において得られた、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、未反応の上記油脂類、未反応の上記アルコール類、およびグリセリド等の反応中間体を含む第1の反応液は、第1加圧フラッシュ塔11へと送られる。第1加圧フラッシュ塔11は、第1の反応液から未反応アルコール類を留去し、留去された未反応アルコール類は熱交換器30へと送られる。また、未反応アルコール類を留去した第1の反応液は、第1常圧フラッシュ塔12に供給される。第1常圧フラッシュ塔12は、第1の反応液に含有される未反応アルコール類を再度留去し、留去された未反応アルコール類は、アルコール精製塔13に供給される。また、第1常圧フラッシュ塔11において、未反応アルコール類を留去した反応液は、第1分離器14に供給される。第1加圧フラッシュ塔11および第1常圧フラッシュ塔12における第3の精製工程の詳細については下記に詳述する。
【0036】
続いて、熱交換器30は送られてきた未反応アルコール類の有する熱量を回収し、熱量を回収された未反応アルコール類はアルコール精製塔13内に供給される。アルコール精製塔13は、熱交換器30において未反応アルコール類から回収した熱量を利用して、未反応アルコール類からアルコール類を再生する。再生されたアルコール類は、アルコール類貯留槽3へ送られ、再度原料として使用される。また、未反応アルコール類に含有されていたアルコール類以外の物質(廃棄物)は、装置外へと排出され、廃棄物貯留槽4に貯留される。熱交換器30およびアルコール精製塔13、ならびにアルコール精製塔13における再生工程については下記に詳述する。
【0037】
一方、未反応アルコール類を留去した第1の反応液を供給された第1分離器14は、供給された第1の反応液を第1の脂肪酸アルキルエステル相(上層、疎水性相)と第1のグリセリン相(下層、親水性相)とに相分離する(第1の相分離工程)。上層の第1の脂肪酸アルキルエステル相は、アルコール類貯留槽3から供給されたアルコール類と混合され、第2反応器20に供給される。これによって、第1の脂肪酸アルキルエステル相に含有されている未反応の油脂類、および上記反応中間体をアルコール類と完全に反応させる。第2反応器20、および第2反応器20における第2の反応工程については下記に詳述する。
【0038】
第2反応器20において得られた、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、および未反応の上記アルコール類を含む第2の反応液は、第2加圧フラッシュ塔21へと送られる。第2加圧フラッシュ塔21は、第2の反応液から未反応アルコール類を留去し、留去された未反応アルコール類は、熱交換器31へと送られる。また、未反応アルコール類を留去された第2の反応液は、第2常圧フラッシュ塔22に供給される。第2常圧フラッシュ塔22は、第2の反応液に含有される未反応アルコール類を再度留去し、留去された未反応アルコール類は、アルコール類貯留槽3へと送られ、原料として再度利用される。また、第2常圧フラッシュ塔22において、未反応アルコール類を留去した第2の反応液は、アルコール蒸留塔23に供給される。なお、第1分離器14において相分離された下層である第1のグリセリン相もまた、アルコール蒸留塔23に供給される。第2加圧フラッシュ塔21および第2常圧フラッシュ塔22における第2の精製工程の詳細、およびアルコール蒸留塔23における第1の精製工程の詳細については下記に詳述する。
【0039】
続いて、熱交換器31は送られてきた未反応アルコール類の有する熱量を回収し、熱量を回収された未反応アルコール類はアルコール類貯留槽3へと送られる。一方、未反応アルコール類を留去した第2の反応液および第1分離器14において分離された第1のグリセリン相が供給されたアルコール蒸留塔23は、供給された第2の反応液および第1のグリセリン相に含有されている未反応アルコール類をさらに留去する。留去された未反応アルコール類は、アルコール精製塔13へと供給され、アルコール類として再生される。
【0040】
アルコール蒸留塔23において、第2の反応液および第1のグリセリン相から未反応アルコール類を留去されてなる精製物は、第2分離器24に供給される。第2分離器24は、供給された上記精製物を第2の脂肪酸アルキルエステル相(上層、疎水性相)と第2のグリセリン相(下層、親水性相)とに相分離する(第2の相分離工程)。そして、上層である第2の脂肪酸アルキルエステル相は脂肪酸アルキルエステル貯留槽5へと送られ、下層である第2のグリセリン相はグリセリン貯留槽6へと送られる。
【0041】
なお、「反応系」における一連の工程とは、上述した一連の処理工程全体を指している。すなわち、上述した処理工程以外の処理工程は、全て「反応系外」である。
【0042】
(第1の反応工程および第2の反応工程の詳細)
次に、第1の反応工程および第2の反応工程の詳細について説明する。第1の反応工程および第2の反応工程は、いずれも油脂類およびアルコール類を混合し、固体触媒存在下においてエステル交換反応させることにより脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを生成する工程である。
【0043】
エステル交換反応では、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを同時に得ることができるため、化学原料として各種の用途に有用である精製されたグリセリンおよびバイオディーゼル燃料用に有用である脂肪酸アルキルエステルを工業的に簡便に得ることができる。ここで、本発明において好適に用いることができる、固体触媒、アルコール類および油脂類については下記にて詳述する。
【0044】
第1反応器10および第2反応器20における油脂類およびアルコール類の混合溶液の温度、すなわち反応温度は、100〜300℃の範囲内であることが好ましく、120〜270℃の範囲内であることがより好ましく、150〜235℃の範囲内であることがさらに好ましい。反応温度を上記範囲内とすることによって、反応速度を十分に向上し、かつアルコール類の分解を十分に抑制することができる。
【0045】
第1反応器10および第2反応器20における圧力、すなわち反応圧力は、0.1〜10MPaの範囲内であることが好ましく、0.2〜9MPaの範囲内であることがより好ましく、0.3〜8MPaの範囲内であることがさらに好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることによって、反応速度を十分に向上し、かつ副反応を十分に抑制することができる。なお、反応圧力が10MPaを超える場合には、高圧に耐えうる特殊な装置が必要となるため、設備費などのコストが余分にかかることとなる。
【0046】
また、第1反応器10および第2反応器20に供給されるアルコール類および油脂類の供給量は、油脂類の供給量に対するアルコール類の供給量を理論必要量の1〜30倍の範囲内とすることが好ましく、1.2〜20倍の範囲内とすることがより好ましく、1.5〜15倍の範囲内とすることがさらに好ましく、2〜10倍の範囲内とすることがさらに一層好ましい。油脂類の供給量に対するアルコール類の供給量を上記範囲内とすることによって、油脂類とアルコール類とを十分に反応させることができ、油脂類の転化率を十分に向上させることができる。また、第3の精製工程または第2の精製工程におけるアルコール類の回収量および、アルコール類精製塔13またはアルコール類蒸留塔23にかかるユーティリティコストを低減することができるため、製造コストを低減することができる。
【0047】
なお、本明細書等におけるアルコールの理論必要量とは、油脂類のけん化価に対応するアルコールのモル数を指しており、下記式によって算出することができる。
【0048】
アルコールの理論必要量(g)=アルコールの分子量×[油脂の使用量(g)×けん化価(mg(KOH)/g(油脂))/56100]。
【0049】
第1反応器10および第2反応器20の形態は、バッチ式および固定床流通式のいずれであってもよいが、固定床流通式であることが好ましい。第1反応器10および第2反応器20を固体触媒を充填した固定床反応装置とすることによって、触媒を分離する工程を不要とすることができる。これによって、煩雑な作業工程を省くことができるため、工業的な製造を容易なものとすることができる。第1反応器10および第2反応器20を固定床反応装置とする場合、およびバッチ式の反応槽とする場合における反応時間等の条件は従来公知の条件を用いることができる。
【0050】
なお、油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質などの不純物を含む場合には、鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム処理を行うための脱ガム用反応槽を設けてもよい。脱ガム用反応槽は、第1反応器10の前に設置することが好ましく、油脂類とアルコール類と混合する前であることがより好ましい。
【0051】
(第3の精製工程および第2の精製工程の詳細)
続いて、第3の精製工程および第2の精製工程の詳細について説明する。第3の精製工程および第2の精製工程は、それぞれ第1の反応工程および第2の反応工程において得られた反応液から未反応アルコールを留去する工程である。
【0052】
第3の精製工程および第2の精製工程は、互いに異なる少なくとも2段階の圧力により行われることが好ましい。図1を参照すれば、1段階目の精製が、第1加圧フラッシュ塔11または第2加圧フラッシュ塔21における精製となり、2段階目の精製が、第1常圧フラッシュ塔12および第2常圧フラッシュ塔22における精製となる。
【0053】
第3の精製工程および第2の精製工程における1段階目の精製、すなわち、第1加圧フラッシュ塔11または第2加圧フラッシュ塔21における圧力は、0.15〜1.5MPaの範囲内であることが好ましく、0.20〜1.0MPaの範囲内であることがより好ましい。また、第1常圧フラッシュ塔12または第2常圧フラッシュ塔22における圧力は、常圧であることが好ましい。なお、本明細書等における「常圧」とは、0.095〜0.105MPaの範囲内であることを意味している。
【0054】
第3の精製工程および第2の精製工程における1段階目の精製での圧力が上記範囲内であれば、反応液中に含まれる未反応アルコール類を十分に留去することができる。また、第3の精製工程および第2の精製工程における1段階目の精製での圧力が上記範囲内であれば、常圧下における沸点よりも高い温度で未反応アルコール類を回収することができ、それによって、未反応アルコール類の凝縮熱を再生工程において利用することができる。
【0055】
本実施形態では、第3の精製工程および第2の精製工程を2段階の精製としているが、これに限定されるものではなく、1段階であってもよいし、また3段階以上であってもよい。しかし、未反応アルコール類の有する熱量を反応系内のエネルギー源として有効に利用できる点から、第3の精製工程および第2の精製工程は2段階以上であることが好ましい。
【0056】
また、第1加圧フラッシュ塔11、第2加圧フラッシュ塔21、第1常圧フラッシュ塔12および第2常圧フラッシュ塔22は、従来公知のフラッシュ塔を用いることができる。
【0057】
なお、第3の精製工程および第2の精製工程は、必ずしも行う必要はない。ただし、第1および第2の反応液から未反応アルコールを留去しない場合、続く第1または第2の相分離工程において、第1または第2のグリセリン相中に脂肪酸アルキルエステルが分配して、最終的な脂肪酸アルキルエステルの収率が低下する虞がある。
【0058】
(再生工程の詳細)
再生工程の詳細について説明する。再生工程は、アルコール精製塔13において行われる工程であり、未反応アルコール類から第1または第2の反応工程における原料として再度用いることができるアルコール類を精製する工程である。なお、本明細書等において「再生」とは、未反応アルコール類を反応工程において原料として用いることができるアルコール類として精製することを意味している。
【0059】
より具体的には、再生工程において用いるアルコール精製塔13には、その下部(ボトム)に熱交換器30および31が備えられており、熱交換器30および31において得たエネルギーを利用して未反応アルコール類を蒸留することにより、アルコール類を精製する。
【0060】
未反応アルコール類中に含有されるアルコール類以外の物質(廃棄物)は、主として水であるため、一般的に水よりも沸点の低いアルコール類はアルコール精製塔13の上部からアルコール類ガスとして得られ、アルコール類よりも沸点の高い水などの廃棄物は、アルコール精製塔13の下部から取り出され、廃棄物貯留槽4へと送られる。
【0061】
なお、再生工程において精製されたアルコール類を原料として再利用する場合、アルコール類に含まれる水分濃度は、1000ppm以下の範囲内であることが好ましく、700ppm以下の範囲内であることがより好ましく、500ppm以下の範囲内であることがさらに好ましい。これは、アルコール類中に水分が含まれていると、第1または第2の反応工程において脂肪酸アルキルエステルの加水分解反応が進行し、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下するためである。
【0062】
熱交換器30および31は、特に限定されるものではないが、第3および第2の精製工程において得られる未反応アルコール類から回収された熱量を利用する熱交換器であることが好ましい。すなわち、第3および第2の精製工程において得られる未反応アルコール類を凝縮する際の熱を熱交換器30および31において回収し、アルコール精製塔13におけるエネルギー源として利用することが好ましい。
【0063】
また、熱交換器30および/または31は上記回収された熱量を利用しないものであってもよく、または熱交換器は30または31のいずれかであってもよい。
【0064】
(第1の精製工程の詳細)
アルコール蒸留塔23における第1の精製工程は、第2の反応液および第1のグリセリン相を相分離して最終的な製品(脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリン)を得る前に、第2の反応液および第1のグリセリン相からアルコール類を除去する工程である。
【0065】
アルコール蒸留塔23は、滞留時間が短い熱交換器(リボイラー)を備えた蒸留塔であればよく、具体的には、掻面式液膜熱交換器を備えた蒸留塔(例えば薄膜蒸発器)、液膜式熱交換器を備えた蒸留塔(例えばフォーリングフィルム型濃縮装置)、薄膜上昇式熱交換器を備えた蒸留塔、遠心薄膜式熱交換器を備えた蒸留塔などが挙げられる。
【0066】
滞留時間は好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内である。
【0067】
滞留時間が長いと、リボイラーの温度によっては、エステル交換反応の逆反応が起こり、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下して、それに伴い、精製物の純度が低下する。
【0068】
第1の精製工程のリボイラーの温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。リボイラーの温度が250℃を超えると、エステル交換反応の逆反応が極短時間で生じるため、好ましくない。例えば、脂肪酸アルキルエステルの0.1モル%が逆反応により分解するのに要する時間は、150℃では35分、200℃では10分、250℃では4分である。
【0069】
第1の精製工程の圧力は、0.012〜0.090MPaの範囲内であることが好ましく、0.020〜0.050MPaの範囲内であることがより好ましい。圧力が上記範囲内であれば、エステル交換反応の逆反応が生じ難い温度で蒸留し得、かつ、アルコールを捕集するための冷却装置を増強する必要がない。
【0070】
第1の精製工程は、上記のような構成のアルコール蒸留塔23を用いることにより、第2の反応液および第1のグリセリン相に対して、あまり熱履歴をかけずに微量のアルコール類を十分に留去することができる。そのため、第2の反応液および第1のグリセリン相に含まれる、最終製品となるべき脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを過剰に加熱して逆反応が進行することを避けることができる。また、第2の相分離工程の前に未反応のアルコール類を十分に除去することができるので、第2の相分離工程において、脂肪酸アルキルエステルが第2のグリセリン相に分配して、脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することを避けることができる。さらに、第2の相分離工程において得られる第2の脂肪酸アルキルエステル相、および第2のグリセリン相に含まれるアルコール類の量を低減させることができるので、第2の相分離工程後の精製の手間を省くことができる。
【0071】
なお、本実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、上述したように、第2の反応液は第3の精製工程において未反応のアルコール類が留去されている。また、第1のグリセリン相は、第2の精製工程において予め未反応のアルコール類が留去された第1の反応液を相分離して得られる。したがって、第1の精製工程においてアルコール類を除去すべき第2の反応液および第1のグリセリン相はともに、既に未反応アルコール類の含有量が少なくなっている。そのため、第1の精製工程では、第2の反応液および第1のグリセリン相に含まれる微量のアルコール類を留去すればよく、より好適に、得られる精製物のアルコール類含有量を低減させることができる。
【0072】
具体的には、第1の精製工程では、得られる精製物に含まれるアルコール類の量が、0.5重量%以下となるように精製することがより好ましく、0.3重量%以下となるように精製することがさらに好ましく、0.2重量%以下となるように精製することがなお好ましい。
【0073】
以上のように、本実施形態では、上記精製物のアルコール類の含有量が非常に少なくなっているので、上述したように、脂肪酸アルキルエステルの収率の向上、および第2の相分離工程後の精製の手間の抑制が実現される。
【0074】
なお、本実施形態では、第1のグリセリン相を、アルコール蒸留塔23において蒸留しているが、これに限られない。すなわち、他の蒸留塔において蒸留してもよい。ただし、その場合、第1のグリセリン相から十分にアルコール類を留去することができない虞がある。また、既に存在するアルコール蒸留塔を用いない場合、コストがさらに掛かる虞がある。しがしながら、そのような場合であっても、本発明は、すくなくとも第2の反応液を上記蒸留塔を用いて蒸留するので、上述したような効果を有している。
【0075】
(付記事項)
第1分離器14および第2分離器24は従来公知の分離器を用いることができ、また第1分離器14および第2分離器24における相分離は、従来公知の方法を用いて行うことができる。なお、第1分離器14および第2分離器24において、より一層純度の高い脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを得る場合には、第1分離器14および第2分離器24の後にさらに精製塔を設けてもよい。
【0076】
(固体触媒、アルコール類および油脂類)
ここで、本発明において好適に用いることができる固体触媒、アルコール類および油脂類について説明する。
【0077】
(固体触媒)
本発明に好適に用いることができる固体触媒は、エステル交換反応において、原料および生成物などが含まれる反応液にほとんど溶解することなく、触媒作用を有する化合物であり、原料である油脂類およびアルコール類ならびに生成物である脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンなどが含まれる反応液に不溶である不溶性の固体触媒であることが好ましい。本明細書等における固体触媒の「不溶性」とは、エステル交換反応後の反応液において、活性成分(例えば、活性金属成分)が1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、最も好ましくは分析装置で検出されないことを意味している。なお、反応液における不溶性固体触媒の活性成分の濃度(溶出量)は、蛍光X線分析法(XRF)を用いて測定することができる。蛍光X線分析法では、反応後の反応液を、溶液状態のまま用いることができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定してもよい。
【0078】
本発明において好適に用いることができる固体触媒としては、油脂類とアルコール類とのエステル交換反応後に反応系から容易に除去できることが好ましい。また、固体触媒は、油脂類中に含まれる遊離脂肪酸のエステル化反応に対して活性を持つ触媒、すなわち油脂類中に含まれるグリセリドのエステル交換反応と遊離脂肪酸のエステル化反応の両反応に対して活性を持つ触媒であることが好ましい。これによって、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含んでいても、エステル交換反応とエステル化反応とを同時に行うことができる。これによって、エステル交換反応とは別にエステル化反応を行うことなく、脂肪酸アルキルエステルの収率を向上させることができる。
【0079】
本発明に好適に用いることができる固体触媒として、具体的には、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミニウム含有化合物、ケイ素含有化合物、チタン含有化合物、バナジウム含有化合物、クロム含有化合物、マンガン含有化合物、鉄含有化合物、コバルト含有化合物、ニッケル含有化合物、銅含有化合物、亜鉛含有化合物、ジルコニウム含有化合物、ニオブ含有化合物、モリブデン含有化合物、スズ含有化合物、希土類含有化合物、タングステン含有化合物、鉛含有化合物、ビスマス含有化合物、またはイオン交換樹脂であることが好ましい。
【0080】
上記化合物としては、上記必須成分を有する限り特に限定されないが、例えば、単一、混合または複合酸化物、硫酸塩、リン酸塩、シアン化物、ハロゲン化物、錯体などの形態であること好ましい。これらの中でも、単一、混合または複合酸化物もしくはシアン化物であることがより好ましく、具体的には、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、マンガン酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、およびこれらもしくは他の金属との混合および/または複合酸化物、シアン化亜鉛、シアン化鉄、シアン化コバルト、およびこれらもしくは他の金属との混合および/または複合シアン化物などを挙げることができる。なお、これらの形態のものを担体上に坦持または固定化した形態であってもよく、担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化すず、酸化鉛などを挙げることができる。
【0081】
また、イオン交換樹脂としては、アニオン交換樹脂などを挙げることができる。アニオン交換樹脂の具体例としては、強塩基性アニオン樹脂、弱塩基性アニオン樹脂などを挙げることができ、アニオン交換樹脂を架橋度または多孔度から分類した場合には、ゲル型、ポーラス型およびハイポーラス型などを挙げることができる。
【0082】
(油脂類)
本発明において好適に用いることができる油脂類は、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共に脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれる、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであれば特に限定されるものではない。通常は、トリグリセリド(グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸およびその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレインまたはトリパルミチンなどのグリセリンの脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0083】
このような油脂の具体例としては、ココナツ油、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油およびヒマシ油などの植物油脂、牛脂、豚油、魚油および鯨脂などの動物油脂、ならびに各種食用油の使用済み油(廃食油)などを挙げることができる。なお、これらの油脂は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
なお、上述の油脂類が、不純物としてリン脂質やタンパク質などの不純物を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸またはホウ酸などの鉱酸を添加して、不純物を除去することが好ましい。本発明の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法では、鉱酸による反応阻害を受けにくいものを触媒として用いれば、油脂類に鉱酸が含まれていても、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンを効率よく製造することができるため、より好ましい。
【0085】
(アルコール類)
本発明に好適に用いることができるアルコール類は、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、アルコール類として、炭素数1〜6のアルコール類を用いることが好ましく、炭素数1〜3のアルコール類を用いることがより好ましい。炭素数1〜6のアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノールおよび2−ヘキサノールなどを挙げることができる。これらの中でも、メタノールまたはエタノールであることが好ましい。また、これらのアルコール類は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0086】
なお、食用油、化粧品および医薬などに用いる材料の製造を目的とする場合には、アルコール類として、ポリオールを用いることが好ましい。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールおよびソルビトールなど挙げることができる。これらの中でも、グリセリンであることが好ましい。また、これらのアルコール類は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0087】
アルコールとしてポリオールを用いる場合には、本発明における脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリド類の製造方法と読み替えることができ、グリセリド類を得る方法において好適に用いることができることとなる。また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法においては、油脂類、アルコール類および固体触媒以外のその他の微量成分が存在してもよい。
【0088】
なお、本明細書等における「アルコール類」とは、炭化水素の水素原子をヒドロキシル基によって置換した形の化合物の総称を意味している。
【0089】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0090】
〔実施例1〕
本実施例中では、反応原料として、パーム油とメタノールとを使用した。パーム油は、あらかじめ、リン酸を添加することによってタンパク質やリン脂質を沈殿させて除去した脱ガムパーム油を使用し、遊離脂肪酸含有率5.1重量%、水分量0.06質量%のパーム油を使用した。
【0091】
脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンの収率は以下の式(1)および(2)のように算出した。
【0092】
脂肪酸アルキルエステルの収率 = (第2の分離装置24から抜き出された上層(エステル層)の脂肪酸アルキルエステルのモル数) / (第1の反応器10の入口のトリグリセリドのモル数 × 3 + ジグリセリドのモル数 × 2 + モノグリセリドのモル数) ・・・ (1)
グリセリンの収率 = (第2の分離装置24から抜き出された下層(グリセリン相)のグリセリンのモル数) / (第1の反応器10の入口のグリセリド類のモル数の和) ・・・ (2)
固体触媒としてはMnTiO触媒を使用した。
【0093】
図1に示したような製造装置1を用いて、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセンリンを製造した。精密高圧定量ポンプを用いて、パーム油(2.5kg/h)とメタノール(2.5kg/h)とを混合させて、第1反応器10の上部より下向きに連続的に流通させた。反応器内の圧力は5MPaとし、温度は200℃とした。反応前後のマテリアルバランスを表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
第1反応器10において得られた反応液を第1加圧フラッシュ塔11へ供給した。第1加圧フラッシュ塔11の圧力は0.35MPaとした。第1加圧フラッシュ塔のボトムから連続的に抜き出された重質液は16.6%のメタノールを含んでいた。これを第1常圧フラッシュ塔12へ供給した。第1常圧フラッシュ塔12のボトムから抜き出された重質液は9.7%のメタノールを含んでいた。
【0096】
第1常圧フラッシュ塔12のボトムから抜き出された重質液を分離器14へ供給し、相分離した。分離器14から抜き出された上層(脂肪酸アルキルエステル相)には脂肪酸メチルエステルが87.1%、トリグリセリドが2.4%、ジグリセリドが1.1%、モノグリセリドが3.5%、メタノールが5.4%含まれ、下層(グリセリン相)にはグリセリンが58.2%、脂肪酸メチルエステルが0.3%、モノグリセリドが0.4%、メタノールが41.1%含まれていた。分離器14から抜き出された上層(脂肪酸アルキルエステル相)(2.67kg/h)とメタノール(2.36kg/h)とを混合させて、第2反応器20の上部より下向きに連続的に流通させた。反応器内の圧力は5MPaとし、温度は200℃とした。反応前後のマテリアルバランスを表1に示す。
【0097】
第2反応器20において得られた反応液を第2加圧フラッシュ塔21へ供給した。第1加圧フラッシュ塔21の圧力は0。35MPaとした。第2加圧フラッシュ塔のボトムから連続的に抜き出された重質液は14.4%のメタノールを含んでいた。
【0098】
第2常圧フラッシュ塔22のボトムから抜き出された重質液と分離器14から抜き出された下層(グリセリン相)を混合し、アルコール蒸留塔23へ供給した。アルコール蒸留塔23は、薄膜蒸発装置を用いた。圧力は0.034MPa、リボイラーの温度は175℃とした。このときの液の滞留時間は2分であった。アルコール蒸留塔23のボトムから連続的に抜き出された重質液は0。07%のメタノールを含んでいた。
【0099】
アルコール蒸留塔23のボトムから抜き出された重質液を分離器24へ供給し、相分離した。分離器24から抜き出された上層(脂肪酸アルキルエステル相)には脂肪酸メチルエステルが99.4%、トリグリセリドが0.10%、ジグリセリドが0.06%、モノグリセリドが0.41%、メタノールが0.05%含まれ、下層(グリセリン相)にはグリセリンが99.7%、メタノールが0.3%含まれていた。
【0100】
脂肪酸アルキルエステルの収率は99.5%、グリセリンの収率は98.9%であった。
【0101】
〔比較例1〕
アルコール蒸留塔23として強制循環式熱交換器を備えた蒸留塔を用いてメタノールの蒸留を行った以外は実施例と同様の操作を行った。この場合のアルコール蒸留塔23の滞留時間は116分であった。逆反応が生じ、脂肪酸メチルエステルが0.65%分解した。脂肪酸メチルエステルの収率は98.9%、純度は98.6%で、トリグリセリドが0.32%、ジグリセリドが0.18%、モノグリセリドが0.80%、メタノールが0.12%含まれていた。また、グリセリンの収率は98.1%、純度は99.2%であった。
【0102】
〔比較例2〕
第2常圧フラッシュ塔22のボトムから抜き出された液を分離器24に供給し、分離器24で得られた上層(脂肪酸アルキルエステル相)をアルコール蒸留装置23で蒸留を行い、分離装置14および分離装置24の下層(グリセリン相)の混合液をあらたなスコール蒸留塔で蒸留した以外は実施例1と同様の操作を行った。第2分離器24で脂肪酸メチルエステルの0.22%がグリセリン相に分配した。脂肪酸メチルエステルの収率は99.3%、純度は99.4%であった。また、グリセリンの収率は98.9%、純度は97.7%であり、脂肪酸メチルエステルを2.1%含んでいた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、食品、化粧品、医薬品、燃料等として使用し得る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはニトログリセリンの原料、アルキド樹脂の原料、医薬品、食品、塗料、化粧品等として使用し得るグリセリンの製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法を実施するための製造装置を模式的に示した模式図である。
【符号の説明】
【0105】
1 製造装置
2 油脂類貯留槽
3 アルコール類貯留槽
4 廃棄物貯留槽
5 脂肪酸アルキルエステル貯留槽
6 グリセリン貯留槽
10 第1反応器
11 第1加圧フラッシュ塔
12 第1常圧フラッシュ塔
13 アルコール精製塔
14 第1分離器
20 第2反応器
21 第2加圧フラッシュ塔
22 第2常圧フラッシュ塔
23 アルコール蒸留塔
24 第2分離器
30、31 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第1の反応工程と、
上記第1の反応工程において得られた第1の反応液を、第1の脂肪酸アルキルエステル相と第1のグリセリン相とに相分離する第1の相分離工程と、
上記第1の脂肪酸アルキルエステル相に含まれる油脂類と、アルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第2の反応工程と、
上記第2の反応工程において得られた第2の反応液から、上記第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を、掻面式液膜熱交換器、液膜式熱交換器、薄膜上昇式熱交換器、および遠心薄膜式熱交換器からなる群より選ばれる熱交換器を備えた蒸留塔を用いて留去する第1の精製工程と、
上記第1の精製工程において得られた精製物を、第2の脂肪酸アルキルエステル相と第2のグリセリン相とに相分離する第2の相分離工程と、を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項2】
油脂類とアルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第1の反応工程と、
上記第1の反応工程において得られた第1の反応液を、第1の脂肪酸アルキルエステル相と第1のグリセリン相とに相分離する第1の相分離工程と、
上記第1の脂肪酸アルキルエステル相に含まれる油脂類と、アルコール類とを固体触媒の存在下において反応させる第2の反応工程と、
上記第2の反応工程において得られた第2の反応液から、上記第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を、滞留時間が20分以下の熱交換器を備えた蒸留塔を用いて留去する第1の精製工程と、
上記第1の精製工程において得られた精製物を、第2の脂肪酸アルキルエステル相と第2のグリセリン相とに相分離する第2の相分離工程と、を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項3】
上記第1の精製工程では、上記蒸留塔を用いてさらに、上記第1のグリセリン相から、第1の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去することを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項4】
上記第1の精製工程では、上記蒸留塔を用いて、第2の反応工程において得られた第2の反応液から、第2の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去するとともに、第1のグリセリン相から、第1の反応工程において反応することなく残余した未反応アルコール類を留去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項5】
上記第1の精製工程の前に、上記第2の反応液から未反応アルコール類を留去する第2の精製工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項6】
上記第1の相分離工程の前に、上記第1の反応液中の残余した未反応アルコール類を留去する第3の精製工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。
【請求項7】
上記第1の精製工程では、得られる精製物に含まれる上記未反応アルコール類が0.5重量%以下となるように、上記留去を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の脂肪酸アルキルエステルおよび/またはグリセリンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108266(P2009−108266A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284403(P2007−284403)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】