高圧タンク
【課題】衝撃により受けたダメージを直接的かつ視覚的に、尚かつ低コストで判断できるようにする。
【解決手段】外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルム41(41a〜41c)を、高圧タンク21の外周の部位に応じて張り合わせる。発色フィルム41は、当該高圧タンク21の外周の部位における限界強度に応じて張り合わされていることが好ましい。発色フィルム41に内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されていることも好ましい。
【解決手段】外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルム41(41a〜41c)を、高圧タンク21の外周の部位に応じて張り合わせる。発色フィルム41は、当該高圧タンク21の外周の部位における限界強度に応じて張り合わされていることが好ましい。発色フィルム41に内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されていることも好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関する。さらに詳述すると、本発明は、車両用の燃料タンク等として用いられる高圧タンクの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電装置としての燃料電池を搭載した車両に関する研究や開発が多く行われている。車両等の動力源として用いられる燃料電池としては例えば固体高分子型燃料電池が搭載され、さらに該燃料電池に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給するための燃料タンクも搭載されている。従来、これら燃料タンクとして用いられているのは35MPa程度の高圧水素タンクであり、これらは例えば複数が車両の前後方向へと並列に配置された状態で搭載されている。
【0003】
このような高圧タンクに関しては、例えば車両の軽衝突時において外部から衝撃が加わったような場合にどれ程のダメージを受けているのかを的確に判断できる構成となっていることが重要である。ダメージの程度を的確に判断することができれば、当該高圧タンクを継続して使用するかどうか等の余寿命の判定をより精度よく行うことが可能となる。
【0004】
従来、高圧タンクが受けたダメージを判断し、異常であればこれを検出するべく、外部からの衝撃で物理的に変化する、圧潰しうる材料を表面に配置した高圧タンクが開示されている(例えば特許文献1参照)。また、高圧タンクの表面に設置したピエゾセンサでダメージを判断できるようにした技術(例えば特許文献2参照)、さらには、GセンサやAE(アコースティックエミッション)センサを用いる技術も開示されている。
【特許文献1】特開平8−35598号公報
【特許文献2】特開2006−275223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、高圧タンクにおける異常を検出するには適するものの、外部からの衝撃により受けたダメージを精度よく視覚的に判断するという点では十分でない場合がある。また、上述した各種センサはダメージを間接的に捉えるものであり、視覚的かつ直接的な判断結果を得るには適していない。
【0006】
そこで、本発明は、衝撃により受けたダメージを直接的かつ視覚的に、尚かつ低コストで判断することが可能な構造の高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。例えば従来用いられているGセンサは高圧タンクのダメージとは関係のないダミーの衝撃についても出力するため、当該高圧タンクの余寿命に影響するような重大なダメージを判別することが難しい(図11参照)。また、AEセンサは、ダメージが生じた瞬間にオン状態となっていなければ検出することができないもの(リアルタイム検出が必要なもの)であるため、例えば車両に搭載された場合、停車中(イグニッションオフの状態)も当該AEセンサを通電しておく必要がある。さらに、例えばAEセンサを用いた検出装置自体、一般に高価である。これらの観点から、新たなセンシング手段などについて検討を重ねた本発明者はかかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0008】
本発明にかかる高圧タンクは該知見に基づきなされたものであり、タンク外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルムが、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされているというものである。この場合、発色フィルムは、当該タンク外周の部位における限界強度に応じて張り合わされていることが好ましい。
【0009】
また、本発明にかかる高圧タンクは、外部からの衝撃の影響で発色する発色フィルムが、タンク外周へのフィラメントの巻回時に巻き込まれて複数層に配置されているというものである。発色フィルムとして、発色時の色が異なる複数種のフィルムが用いられていることが好ましい。
【0010】
さらに本発明にかかる高圧タンクは、外部からの衝撃の影響で発色する発色材が、タンク外周部を構成する構成部材に混合した状態で当該タンク外周に配置されているというものである。発色材として例えばマイクロカプセルが用いられている。また、構成部材が樹脂材であってもよい。
【0011】
発色フィルムに内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されていることも好ましい。
【0012】
本発明にかかる高圧タンクにおいては、衝撃を受けて高圧タンクにダメージが生じた場合に当該部位における発色フィルムやマイクロカプセル等が発色するから(この技術に関しては例えば特開平10−206342号公報参照)、視覚を通じ、その発色レベルから衝撃度を直接的に把握して判断することが可能である。また、複数種の発色フィルムが用いられている場合には異なる色によってダメージの内容をより詳細に判断することが可能である。しかも、従来における装置(例えばAEセンサを用いた検出装置)とは異なり、ダメージを検出するための装置をより低コストで構成することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衝撃により受けたダメージを直接的かつ視覚的に、尚かつ低コストで検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態では、本発明を、燃料電池車両等において利用される燃料電池システム1の燃料タンク21に適用した例を示す。以下、まずは燃料電池2や燃料タンク(高圧タンク)21などによって構成される燃料電池システム1の概略について説明し、その後、衝撃により受けたダメージを検出するための当該燃料タンク21の構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料電池2、酸化ガス配管系3及び燃料ガス配管系4を備える。燃料電池システム1は、車両に搭載することができるが、もちろん車両のみならず各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源にも適用可能である。
【0016】
燃料電池2は、多数の単セルを積層したスタック構造を備える。固体高分子電解質型の単セルは、電解質膜の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有する。電解質膜は、一般にフッ素系の膜が用いられる。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された酸化ガス及び燃料ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。また、電気化学反応により、燃料電池2は発熱すると共に空気極側に水を生成する。固体高分子電解質型の燃料電池2の温度は、およそ60〜80℃となる。
【0017】
酸化ガス配管系3は、供給路11及び排出路12を有する。コンプレッサ14は、供給路11に設けられ、エアクリーナ13を介して酸化ガスとしての外気を取り込み、燃料電池2の酸化ガス流路2aに圧送する。圧送される酸化ガスは、加湿器15によって酸化オフガスとの間で水分交換がなされ、適度に加湿される。酸化オフガスは、酸化ガス流路2aから排出路12に排出され、エア調圧弁16及び加湿器15を経た後、図示省略したマフラーを経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0018】
燃料ガス配管系4は、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に給排する。燃料ガス配管系4は、水素供給源21、供給路22、循環路23、水素ポンプ24及びパージ路25を有する。水素ガスは、元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出し、レギュレータ27及び遮断弁28を経て燃料ガス流路2bに供給される。その後、水素ガスは、燃料ガス流路2bから水素オフガスとして循環路23に排出される。水素オフガスは、循環路23と供給路22との合流点Aに水素ポンプ24によって圧送され、水素ガスに合流して再び燃料ガス流路2bに供給される。水素オフガスの一部は、パージ弁33の適宜の開弁により、循環路23からパージ路25へと排出され、図示省略した水素希釈器を経て外部に排出される。
【0019】
続いて、衝撃により受けたダメージを検出するための当該燃料タンク21の構成について説明する(図2〜図10参照)。本実施形態では、車両衝突などによって当該燃料タンク21が外部からの衝撃を受けた場合に(図2参照)、マイクロカプセル等の発色材を発色させ、該発色レベルから衝撃レベルを判断できるように構成している(図3参照)。
【0020】
<第1の実施形態>
燃料タンク21の外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルム41が、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされている(図4、図5参照)。例えば本実施形態の場合には、3種類の発色フィルム41a〜41cが燃料タンク21の外周に張り合わされている。
【0021】
発色フィルム41(41a〜41c)としては、例えば発色層、粘着層などが積層された構成で、尚かつ発色層にマイクロカプセルを内包した例えば感圧紙のようなシート状のものを用いることができる。マイクロカプセルは着色インク等を封入している小容器であり、所定の大きさの外力を受けて破裂し、着色インク等を分散させる。上述の発色フィルム41やマイクロカプセルとして公知のものを用いて構わない。
【0022】
この場合、発色フィルム41は、燃料タンク21の外周の部位ごとに張り合わされていることが好ましい。例えば本実施形態では、分割型シートからなり異なる色を発色させる3種類の発色フィルム41a〜41cを、燃料タンク21のドーム状先端部、筒状胴部、ドーム状基端部(図4、図5中において各部を符号A,B,Cで示している)のそれぞれに張り合わせている(図4、図5参照)。さらにこの場合、燃料タンク21の外周の部位ごとに限界強度が異なっていれば、当該発色フィルム41a〜41c(またはこれらに内包されるマイクロカプセル)の発色レベル(発色が起こる面圧)を異ならせておき、当該限界強度に応じて張り合わせておけば、部位ごとの性状(強度)に応じてダメージの程度をより的確に判断することができる。例えば筒状の胴部よりもドーム状の先端部や基端部の方が強度に優る場合には、ドーム状先端部や基端部に採用する発色フィルム41a,41cの発色レベルを上げておくことができる。
【0023】
このように構成された燃料タンク21においては、衝撃を受けた部分に張り合わされている発色フィルム41a〜41cのマイクロカプセルが破裂して当該部分にて発色を生じさせるから、当該発色レベルから、衝撃度および当該部分が受けたダメージの程度を視覚によって直接的に判断することができる。一般に、燃料タンク(高圧タンク)21に外部から衝撃が加わればタンク強度や疲労耐久性が低下してしまうところ、従来の構成だと。余寿命に影響するような特に重大(クリティカル)なダメージを判別することが難しい場合があるが、本実施形態においては上述の判断結果を利用し、当該燃料タンク21を継続使用するかどうかを含む余寿命の判定をより精度よく行うことができる。しかも、従来のAEセンサを用いた検出装置などよりも低コストでダメージを精度よく判断できる構成とすることが可能である。
【0024】
<第2の実施形態>
本実施形態では、燃料タンク21の外周にフィラメント(繊維)を巻回(ワインディング)する際、発色フィルム41を巻き込むようにして発色層を形成している(図6参照)。この場合、外部からの衝撃がマイクロカプセルへと十分に伝わるよう、当該発色フィルム41は燃料タンク21の表層付近(外表面に近い部分)に配置されていることが好ましい。
【0025】
具体例としては、FRP層が形成される燃料タンク21を挙げることができる。この場合、発色フィルム41はガラス繊維を巻回させる際に巻き込まれて発色層を形成する(図6参照)。なお、図6等においては、ガラス繊維に巻き込まれてFRP層内に設けられた発色フィルム41の断面を黒塗り線で示している。
【0026】
また、異なる色を発色させる複数種類の発色フィルム41を用いることも好ましい(図7参照)。複数種類の発色フィルム41(図7中では2種類の発色フィルムを符号41d,41eで示している)を外側、中間、内側と層状に配置することによって、燃料タンク21におけるダメージがどの層まで進展しているかを判断しやすくなる。
【0027】
<第3の実施形態>
本実施形態では、発色材たるマイクロカプセル(図9中では符号42で示す)を、燃料タンク21の外周部分を構成する部材に混合した状態で当該燃料タンク21の外周部分に配するようにしている(図8、図9参照)。燃料タンク21の外周部分は、外部からの衝撃がマイクロカプセル42へと十分に伝わるように構成されていることが好ましい。
【0028】
このような構成の燃料タンク21の具体例としてFRP層が形成された高圧水素タンクを挙げることができる。この場合、マイクロカプセル42はFRP層の表層側に混合されており、樹脂と繊維からなるいわばノーマルな層Nの外周側(表層側)に、樹脂と繊維と当該マイクロカプセル42からなるダメージの検出層Dを構成する(図9参照)。
【0029】
また、この場合において、異なる色を発色させる複数種類のマイクロカプセル42を用いて発色を差別化し(例えば内側が赤、中間が黄、外側が青、など)、衝撃やダメージの進展度を視覚的に判断しやすくすることも好ましい(図10参照)。マイクロカプセル42の混合層を複数設けることによって、燃料タンク21におけるダメージがどの層まで進展しているかを判断しやすくなる。
【0030】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した各実施形態では発色材(マイクロカプセル42、またはこれを内包する発色フィルム41)を燃料タンク21の一部として外層(外周部分)に配置した場合を例示したが、この他、燃料タンク21の他の構成部材例えばタンク保護カバー等へ適用することとしてもよい。例示すれば、車両搭載用の燃料タンク21を保護するためのカバーに発色フィルム41を張り合わせておけば、外部からの衝撃をまずカバーが受け止めることから当該カバーが受けたダメージに基づき燃料タンク21への衝撃の程度を判断することが可能である。
【0031】
また、発色フィルム41等の発色材を車両搭載時に当該燃料タンク21に配置して用いるようにしてももちろん構わないが、それよりも前の段階、例えば作製あるいは搬送の前の段階で発色フィルム41等を配置することもできる。こうした場合には、作製工程や搬送中に落下、衝突、工具による衝撃などがあった場合に当該衝撃の履歴を検出しやすい形で残しておくことができるから例えば目視検査による検出も行いやすく、ひいては品質管理機能を強化することにもつながる。
【0032】
さらに、発色材として、色やその輝度が経時変化するものを採用してもよい。例えば発色の輝度の違いによって発色時期すなわち衝撃を受けた時期を特定することが可能である。あるいは、インクの色合いが経時変化により劣化するマイクロカプセルを採用することにより、複数の衝撃を受けた燃料タンク21において当該衝撃の順番(時期)を推定することが可能となる。一般に、同様のダメージであっても比較的新しいものと古いものとでは、製品の余寿命を判定するうえでは古い時期のものをよりシビアに判断すべきであるが、経時変化を輝度や色合いの経時変化を利用すればこのような判断を行う場合に好適である。
【0033】
また、上述の実施形態では高圧タンクの一例として車両に搭載される燃料タンク21を例示したがこれは好適な一例に過ぎず、圧縮ガスや高圧液化ガスを封入する耐圧容器等の種々のタンクにおいても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】燃料電池車両に搭載される燃料電池システムの構成例を概略的に示す図である。
【図2】燃料タンクに外部からの衝撃が加わった様子を示す図である。
【図3】衝撃が加わった際にマイクロカプセル等の発色材を用いて発色させた様子を示す図である。
【図4】燃料タンクおよびその外周に張り合わされる複数種の発色フィルムを示す図である。
【図5】複数種の発色フィルムが張り合わされた燃料タンクを示す図である。
【図6】外周のFRP層に発色フィルムを巻き込んで配置した燃料タンクの断面図である。
【図7】外周のFRP層に複数種類の発色フィルムを巻き込んで層状に配置した燃料タンクの断面図である。
【図8】FRP構成部材にマイクロカプセルを混合して外周部分に配した燃料タンクの断面図である。
【図9】図8中の矩形破線部分の拡大図である。
【図10】FRP構成部材にマイクロカプセルの混合層を複数設けた燃料タンクの断面図である。
【図11】GセンサやAEセンサを備えた従来構造の高圧タンクを示す参考図である。
【符号の説明】
【0035】
21…燃料タンク(高圧タンク)、41(41a〜41e)…発色フィルム、42…マイクロカプセル
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関する。さらに詳述すると、本発明は、車両用の燃料タンク等として用いられる高圧タンクの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電装置としての燃料電池を搭載した車両に関する研究や開発が多く行われている。車両等の動力源として用いられる燃料電池としては例えば固体高分子型燃料電池が搭載され、さらに該燃料電池に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給するための燃料タンクも搭載されている。従来、これら燃料タンクとして用いられているのは35MPa程度の高圧水素タンクであり、これらは例えば複数が車両の前後方向へと並列に配置された状態で搭載されている。
【0003】
このような高圧タンクに関しては、例えば車両の軽衝突時において外部から衝撃が加わったような場合にどれ程のダメージを受けているのかを的確に判断できる構成となっていることが重要である。ダメージの程度を的確に判断することができれば、当該高圧タンクを継続して使用するかどうか等の余寿命の判定をより精度よく行うことが可能となる。
【0004】
従来、高圧タンクが受けたダメージを判断し、異常であればこれを検出するべく、外部からの衝撃で物理的に変化する、圧潰しうる材料を表面に配置した高圧タンクが開示されている(例えば特許文献1参照)。また、高圧タンクの表面に設置したピエゾセンサでダメージを判断できるようにした技術(例えば特許文献2参照)、さらには、GセンサやAE(アコースティックエミッション)センサを用いる技術も開示されている。
【特許文献1】特開平8−35598号公報
【特許文献2】特開2006−275223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、高圧タンクにおける異常を検出するには適するものの、外部からの衝撃により受けたダメージを精度よく視覚的に判断するという点では十分でない場合がある。また、上述した各種センサはダメージを間接的に捉えるものであり、視覚的かつ直接的な判断結果を得るには適していない。
【0006】
そこで、本発明は、衝撃により受けたダメージを直接的かつ視覚的に、尚かつ低コストで判断することが可能な構造の高圧タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。例えば従来用いられているGセンサは高圧タンクのダメージとは関係のないダミーの衝撃についても出力するため、当該高圧タンクの余寿命に影響するような重大なダメージを判別することが難しい(図11参照)。また、AEセンサは、ダメージが生じた瞬間にオン状態となっていなければ検出することができないもの(リアルタイム検出が必要なもの)であるため、例えば車両に搭載された場合、停車中(イグニッションオフの状態)も当該AEセンサを通電しておく必要がある。さらに、例えばAEセンサを用いた検出装置自体、一般に高価である。これらの観点から、新たなセンシング手段などについて検討を重ねた本発明者はかかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0008】
本発明にかかる高圧タンクは該知見に基づきなされたものであり、タンク外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルムが、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされているというものである。この場合、発色フィルムは、当該タンク外周の部位における限界強度に応じて張り合わされていることが好ましい。
【0009】
また、本発明にかかる高圧タンクは、外部からの衝撃の影響で発色する発色フィルムが、タンク外周へのフィラメントの巻回時に巻き込まれて複数層に配置されているというものである。発色フィルムとして、発色時の色が異なる複数種のフィルムが用いられていることが好ましい。
【0010】
さらに本発明にかかる高圧タンクは、外部からの衝撃の影響で発色する発色材が、タンク外周部を構成する構成部材に混合した状態で当該タンク外周に配置されているというものである。発色材として例えばマイクロカプセルが用いられている。また、構成部材が樹脂材であってもよい。
【0011】
発色フィルムに内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されていることも好ましい。
【0012】
本発明にかかる高圧タンクにおいては、衝撃を受けて高圧タンクにダメージが生じた場合に当該部位における発色フィルムやマイクロカプセル等が発色するから(この技術に関しては例えば特開平10−206342号公報参照)、視覚を通じ、その発色レベルから衝撃度を直接的に把握して判断することが可能である。また、複数種の発色フィルムが用いられている場合には異なる色によってダメージの内容をより詳細に判断することが可能である。しかも、従来における装置(例えばAEセンサを用いた検出装置)とは異なり、ダメージを検出するための装置をより低コストで構成することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衝撃により受けたダメージを直接的かつ視覚的に、尚かつ低コストで検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態では、本発明を、燃料電池車両等において利用される燃料電池システム1の燃料タンク21に適用した例を示す。以下、まずは燃料電池2や燃料タンク(高圧タンク)21などによって構成される燃料電池システム1の概略について説明し、その後、衝撃により受けたダメージを検出するための当該燃料タンク21の構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料電池2、酸化ガス配管系3及び燃料ガス配管系4を備える。燃料電池システム1は、車両に搭載することができるが、もちろん車両のみならず各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源にも適用可能である。
【0016】
燃料電池2は、多数の単セルを積層したスタック構造を備える。固体高分子電解質型の単セルは、電解質膜の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有する。電解質膜は、一般にフッ素系の膜が用いられる。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された酸化ガス及び燃料ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。また、電気化学反応により、燃料電池2は発熱すると共に空気極側に水を生成する。固体高分子電解質型の燃料電池2の温度は、およそ60〜80℃となる。
【0017】
酸化ガス配管系3は、供給路11及び排出路12を有する。コンプレッサ14は、供給路11に設けられ、エアクリーナ13を介して酸化ガスとしての外気を取り込み、燃料電池2の酸化ガス流路2aに圧送する。圧送される酸化ガスは、加湿器15によって酸化オフガスとの間で水分交換がなされ、適度に加湿される。酸化オフガスは、酸化ガス流路2aから排出路12に排出され、エア調圧弁16及び加湿器15を経た後、図示省略したマフラーを経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0018】
燃料ガス配管系4は、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に給排する。燃料ガス配管系4は、水素供給源21、供給路22、循環路23、水素ポンプ24及びパージ路25を有する。水素ガスは、元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出し、レギュレータ27及び遮断弁28を経て燃料ガス流路2bに供給される。その後、水素ガスは、燃料ガス流路2bから水素オフガスとして循環路23に排出される。水素オフガスは、循環路23と供給路22との合流点Aに水素ポンプ24によって圧送され、水素ガスに合流して再び燃料ガス流路2bに供給される。水素オフガスの一部は、パージ弁33の適宜の開弁により、循環路23からパージ路25へと排出され、図示省略した水素希釈器を経て外部に排出される。
【0019】
続いて、衝撃により受けたダメージを検出するための当該燃料タンク21の構成について説明する(図2〜図10参照)。本実施形態では、車両衝突などによって当該燃料タンク21が外部からの衝撃を受けた場合に(図2参照)、マイクロカプセル等の発色材を発色させ、該発色レベルから衝撃レベルを判断できるように構成している(図3参照)。
【0020】
<第1の実施形態>
燃料タンク21の外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルム41が、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされている(図4、図5参照)。例えば本実施形態の場合には、3種類の発色フィルム41a〜41cが燃料タンク21の外周に張り合わされている。
【0021】
発色フィルム41(41a〜41c)としては、例えば発色層、粘着層などが積層された構成で、尚かつ発色層にマイクロカプセルを内包した例えば感圧紙のようなシート状のものを用いることができる。マイクロカプセルは着色インク等を封入している小容器であり、所定の大きさの外力を受けて破裂し、着色インク等を分散させる。上述の発色フィルム41やマイクロカプセルとして公知のものを用いて構わない。
【0022】
この場合、発色フィルム41は、燃料タンク21の外周の部位ごとに張り合わされていることが好ましい。例えば本実施形態では、分割型シートからなり異なる色を発色させる3種類の発色フィルム41a〜41cを、燃料タンク21のドーム状先端部、筒状胴部、ドーム状基端部(図4、図5中において各部を符号A,B,Cで示している)のそれぞれに張り合わせている(図4、図5参照)。さらにこの場合、燃料タンク21の外周の部位ごとに限界強度が異なっていれば、当該発色フィルム41a〜41c(またはこれらに内包されるマイクロカプセル)の発色レベル(発色が起こる面圧)を異ならせておき、当該限界強度に応じて張り合わせておけば、部位ごとの性状(強度)に応じてダメージの程度をより的確に判断することができる。例えば筒状の胴部よりもドーム状の先端部や基端部の方が強度に優る場合には、ドーム状先端部や基端部に採用する発色フィルム41a,41cの発色レベルを上げておくことができる。
【0023】
このように構成された燃料タンク21においては、衝撃を受けた部分に張り合わされている発色フィルム41a〜41cのマイクロカプセルが破裂して当該部分にて発色を生じさせるから、当該発色レベルから、衝撃度および当該部分が受けたダメージの程度を視覚によって直接的に判断することができる。一般に、燃料タンク(高圧タンク)21に外部から衝撃が加わればタンク強度や疲労耐久性が低下してしまうところ、従来の構成だと。余寿命に影響するような特に重大(クリティカル)なダメージを判別することが難しい場合があるが、本実施形態においては上述の判断結果を利用し、当該燃料タンク21を継続使用するかどうかを含む余寿命の判定をより精度よく行うことができる。しかも、従来のAEセンサを用いた検出装置などよりも低コストでダメージを精度よく判断できる構成とすることが可能である。
【0024】
<第2の実施形態>
本実施形態では、燃料タンク21の外周にフィラメント(繊維)を巻回(ワインディング)する際、発色フィルム41を巻き込むようにして発色層を形成している(図6参照)。この場合、外部からの衝撃がマイクロカプセルへと十分に伝わるよう、当該発色フィルム41は燃料タンク21の表層付近(外表面に近い部分)に配置されていることが好ましい。
【0025】
具体例としては、FRP層が形成される燃料タンク21を挙げることができる。この場合、発色フィルム41はガラス繊維を巻回させる際に巻き込まれて発色層を形成する(図6参照)。なお、図6等においては、ガラス繊維に巻き込まれてFRP層内に設けられた発色フィルム41の断面を黒塗り線で示している。
【0026】
また、異なる色を発色させる複数種類の発色フィルム41を用いることも好ましい(図7参照)。複数種類の発色フィルム41(図7中では2種類の発色フィルムを符号41d,41eで示している)を外側、中間、内側と層状に配置することによって、燃料タンク21におけるダメージがどの層まで進展しているかを判断しやすくなる。
【0027】
<第3の実施形態>
本実施形態では、発色材たるマイクロカプセル(図9中では符号42で示す)を、燃料タンク21の外周部分を構成する部材に混合した状態で当該燃料タンク21の外周部分に配するようにしている(図8、図9参照)。燃料タンク21の外周部分は、外部からの衝撃がマイクロカプセル42へと十分に伝わるように構成されていることが好ましい。
【0028】
このような構成の燃料タンク21の具体例としてFRP層が形成された高圧水素タンクを挙げることができる。この場合、マイクロカプセル42はFRP層の表層側に混合されており、樹脂と繊維からなるいわばノーマルな層Nの外周側(表層側)に、樹脂と繊維と当該マイクロカプセル42からなるダメージの検出層Dを構成する(図9参照)。
【0029】
また、この場合において、異なる色を発色させる複数種類のマイクロカプセル42を用いて発色を差別化し(例えば内側が赤、中間が黄、外側が青、など)、衝撃やダメージの進展度を視覚的に判断しやすくすることも好ましい(図10参照)。マイクロカプセル42の混合層を複数設けることによって、燃料タンク21におけるダメージがどの層まで進展しているかを判断しやすくなる。
【0030】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した各実施形態では発色材(マイクロカプセル42、またはこれを内包する発色フィルム41)を燃料タンク21の一部として外層(外周部分)に配置した場合を例示したが、この他、燃料タンク21の他の構成部材例えばタンク保護カバー等へ適用することとしてもよい。例示すれば、車両搭載用の燃料タンク21を保護するためのカバーに発色フィルム41を張り合わせておけば、外部からの衝撃をまずカバーが受け止めることから当該カバーが受けたダメージに基づき燃料タンク21への衝撃の程度を判断することが可能である。
【0031】
また、発色フィルム41等の発色材を車両搭載時に当該燃料タンク21に配置して用いるようにしてももちろん構わないが、それよりも前の段階、例えば作製あるいは搬送の前の段階で発色フィルム41等を配置することもできる。こうした場合には、作製工程や搬送中に落下、衝突、工具による衝撃などがあった場合に当該衝撃の履歴を検出しやすい形で残しておくことができるから例えば目視検査による検出も行いやすく、ひいては品質管理機能を強化することにもつながる。
【0032】
さらに、発色材として、色やその輝度が経時変化するものを採用してもよい。例えば発色の輝度の違いによって発色時期すなわち衝撃を受けた時期を特定することが可能である。あるいは、インクの色合いが経時変化により劣化するマイクロカプセルを採用することにより、複数の衝撃を受けた燃料タンク21において当該衝撃の順番(時期)を推定することが可能となる。一般に、同様のダメージであっても比較的新しいものと古いものとでは、製品の余寿命を判定するうえでは古い時期のものをよりシビアに判断すべきであるが、経時変化を輝度や色合いの経時変化を利用すればこのような判断を行う場合に好適である。
【0033】
また、上述の実施形態では高圧タンクの一例として車両に搭載される燃料タンク21を例示したがこれは好適な一例に過ぎず、圧縮ガスや高圧液化ガスを封入する耐圧容器等の種々のタンクにおいても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】燃料電池車両に搭載される燃料電池システムの構成例を概略的に示す図である。
【図2】燃料タンクに外部からの衝撃が加わった様子を示す図である。
【図3】衝撃が加わった際にマイクロカプセル等の発色材を用いて発色させた様子を示す図である。
【図4】燃料タンクおよびその外周に張り合わされる複数種の発色フィルムを示す図である。
【図5】複数種の発色フィルムが張り合わされた燃料タンクを示す図である。
【図6】外周のFRP層に発色フィルムを巻き込んで配置した燃料タンクの断面図である。
【図7】外周のFRP層に複数種類の発色フィルムを巻き込んで層状に配置した燃料タンクの断面図である。
【図8】FRP構成部材にマイクロカプセルを混合して外周部分に配した燃料タンクの断面図である。
【図9】図8中の矩形破線部分の拡大図である。
【図10】FRP構成部材にマイクロカプセルの混合層を複数設けた燃料タンクの断面図である。
【図11】GセンサやAEセンサを備えた従来構造の高圧タンクを示す参考図である。
【符号の説明】
【0035】
21…燃料タンク(高圧タンク)、41(41a〜41e)…発色フィルム、42…マイクロカプセル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルムが、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記発色フィルムは、当該タンク外周の部位における限界強度に応じて張り合わされている請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
外部からの衝撃の影響で発色する発色フィルムが、タンク外周へのフィラメントの巻回時に巻き込まれて複数層に配置されていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項4】
前記発色フィルムとして、発色時の色が異なる複数種のフィルムが用いられている請求項3に記載の高圧タンク。
【請求項5】
外部からの衝撃の影響で発色する発色材が、タンク外周部を構成する構成部材に混合した状態で当該タンク外周に配置されていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項6】
前記発色材としてマイクロカプセルが用いられている請求項5に記載の高圧タンク。
【請求項7】
前記構成部材が樹脂材である請求項5または6に記載の高圧タンク。
【請求項8】
前記発色フィルムに内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されている請求項1から7のいずれか一項に記載の高圧タンク。
【請求項1】
タンク外周に、外部からの衝撃の影響で発色する複数種の発色フィルムが、当該タンク外周の部位に応じて張り合わされていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記発色フィルムは、当該タンク外周の部位における限界強度に応じて張り合わされている請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
外部からの衝撃の影響で発色する発色フィルムが、タンク外周へのフィラメントの巻回時に巻き込まれて複数層に配置されていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項4】
前記発色フィルムとして、発色時の色が異なる複数種のフィルムが用いられている請求項3に記載の高圧タンク。
【請求項5】
外部からの衝撃の影響で発色する発色材が、タンク外周部を構成する構成部材に混合した状態で当該タンク外周に配置されていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項6】
前記発色材としてマイクロカプセルが用いられている請求項5に記載の高圧タンク。
【請求項7】
前記構成部材が樹脂材である請求項5または6に記載の高圧タンク。
【請求項8】
前記発色フィルムに内包されているマイクロカプセルに、色合いまたは輝度が経時変化する着色インクが封入されている請求項1から7のいずれか一項に記載の高圧タンク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−144804(P2009−144804A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322102(P2007−322102)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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