説明

高圧放電灯点灯装置及び点灯方法

交流電流を供給したときに電極間に温度差を生じる高圧放電灯であっても、その温度差をなくして安定点灯時のアーク移動及びこれに起因するチラツキを抑制する。
ランプ電流が、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とからなり、基準周期電流の半周期ごとに、次の半周期と同じ極性から反対極性に極性反転する短周期電流を1周期供給した電流波形に形成され、短周期電流の極性反転前後のデューティ比を任意に設定可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯装置及び点灯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクターなどバックライト用光源装置に使用される高圧放電灯点灯装置は、直流電源から供給される電流を所定の点灯周波数の矩形波電流に変換して高圧放電灯の点灯極性を切り換えながら点灯させるようになっている。
【0003】
図13はこのような従来の高圧放電灯点灯装置31を示し、直流電源2から出力された直流電力をチョッパ回路3へ入力し、スイッチング素子4のデューティ比をPWM制御回路32でコントロールすることにより適切な直流電流に変換した調整電流Iがフルブリッジ回路5へ入力される。
【0004】
フルブリッジ回路5では、イグナイタ回路6によって始動された高圧放電灯Lに対して、対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRがフルブリッジコントロール回路33により例えば100Hz程度の周波数で交互に導通されて、低周波矩形波からなるランプ電流Iが形成され、これによって高圧放電灯Lが点灯される。
【0005】
ところで、近年、液晶プロジェクターなどのバックライト光源として高圧水銀灯に替えて超高圧水銀灯が使用されている。
この超高圧水銀灯は、点灯中の蒸気分圧が極めて高く(10Pa程度以上)、アーク放電が放電管の中心に集まり輝度も温度も高いので、連続スペクトルを生じ、光色も白色に近く演色性も良好で、発光効率が高いというメリットがある。
【0006】
しかしながら、低周波矩形波のみで点灯する従来の高圧放電灯点灯装置では、超高圧水銀灯におけるアーク移動を制御する事ができないため、アーク移動によって受光部分に入る光の量が大きく変化し、これを液晶プロジェクターに使用すると、スクリーン照度変化が大きくなってスクリーン上にチラツキが発生するという問題を生じた。
特に、液晶プロジェクターの小型化、軽量化に伴い、光源の反射鏡の小型化、高照度化が進み、これにより、受光部分である液晶素子も小型化されているため、アーク移動量が同じであってもこれに起因するスクリーン上のチラツキへの影響が大きい。
【0007】
高圧放電灯のチラツキは、陰極側から陽極側へ向かうアークが形成されるときに、電子が飛び出す基点となるアークスポットが移動することにより生じる。
一般に、電極温度が均一であれば電極間距離が一番近い点(電極先端に形成される突起など)がアークスポットとなり、平行平板電極のように距離が一定であれば温度の最も高い点がアークスポットとなる。
【0008】
したがって、アークスポットをコントロールしようとする場合、まず、電極間に温度差がない状態で、電極上に局部的に高温部を形成してアークスポットを固定すれば、チラツキを抑えることができると考えられる。
【0009】
この対策として、本出願人は、交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる際に、予め設定された点灯周波数の矩形波状の基準周期電流の極性が反転するたびに基準周期電流に替えてこれより周波数の高い矩形波状の短周期電流を1周期供給すると共に、その短周期電流の電流値を基準周期電流より高くしたランプ電流を供給する高圧放電灯点灯装置を提案し、これによって高圧放電灯を点灯したところアークスポットが固定され、スクリーン上のチラツキを抑制することができた。
【特許文献1】特開2001−244088
【0010】
すなわち、高圧放電灯を交流点灯させる場合、対向する二つの電極が陰極と陽極に交互に切り換わりながら点灯されるが、この際に陰極から飛び出した電子が陽極に衝突することによって放電を生じ、電子が衝突する陽極は陰極よりも温度が上昇する。
したがって、上述のようなランプ電流を供給した場合は、電極間に同一条件の交流電流が供給されてどちらの電極も同様に陰極と陽極に切り換わるので、どちらの電極も同じように温度が上昇し、温度差が生じることがなく、しかも、電極上には局部的に高温部が形成されてアークスポットが固定される。
【0011】
しかし最近では、調光制御機能、随時電力変動機能など、高付加価値的な機能を有する高圧放電灯や超高圧放電灯が製造されており、このような高圧放電灯では、上述したようなランプ電流を供給しても、チラツキを有効に抑制できない場合があることが判明した。
この場合、電極間に同一条件の交流電流を供給しても電極の構造、放電灯の構造、反射鏡による影響、附属機器類の位置、それらの熱容量や伝熱特性などに起因して、電極間に温度差を生じるものと考えられる。
その結果、アークスポットが固定されずにチラツキが生じやすくなるだけでなく、電極表面への金属蒸気の付着や電極磨耗による変形量に差を生じて、電極間の大きさに差が生じ、交流点灯させようとする場合にアークスポットの制御がより困難になるという問題を生じた。
【0012】
そこで、発明者は様々な実験を行った結果、ランプ電流を操作することにより電極温度を一定に維持でき、その結果、チラツキを軽減できることを見出した。
すなわち、電極間に同一条件で電流を流したときに電極間に温度差を生じる場合は、低温側となる電極に対し陽極となる時間が長くなるようなランプ電流を供給すればよく、しかも、その時間割合は、高圧放電灯の種類に応じて夫々異なる最適値が存在し、同じ型式の高圧放電灯であればその最適値は等しいということも判明した。
【0013】
さらに、時間割合を最適値に設定した上で、短周期電流をその極性反転前後のいずれか一方又は双方において電流値を漸増させたり漸減させたりする傾斜波とすることにより、高圧放電灯の種類によっては、より一層、効果的にチラツキを抑えられることが判明した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は、このような発明者の知見に基づいてなされたもので、交流電流を供給したときに電極間に温度差を生じる高圧放電灯であっても、その温度差に起因するチラツキを有効に抑制できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、請求項1の発明は、交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯装置において、前記ランプ電流が、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とからなり、基準周期電流の半周期ごとに、次の半周期と同じ極性から反対極性に極性反転する短周期電流が1周期供給された電流波形に形成されると共に、前記短周期電流の極性反転前後のデューティ比を任意に設定するランプ電流形成手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項2の発明は、ランプ電流が、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とを1周期ずつ交互に入れ替えた電流波形で形成され、前記基準周期電流及び短周期電流のいずれか一方または双方の極性反転前後のデューティ比を任意に設定するランプ電流形成手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、ランプ電流として供給される短周期電流や基準周期電流の極性反転前後のデューティ比を任意に設定できるので、低温側の電極が陽極として動作する時間が長くなるようにデューティ比を設定することにより、低温側の電極温度を上昇させて、各電極の温度をほぼ等しくすることができ、温度差に起因するアークスポットの移動をなくし、チラツキを抑制できる。
ここで、点灯しようとする高圧放電灯と同型の高圧放電灯を用い、電極の陽極及び陰極となる時間割合についてチラツキが最も少なくなる最適値を予め測定しておけば、ランプ電流のデューティ比をその最適値に応じて設定できるので、高圧放電灯の種類ごとに点灯装置を設計するまでもなく、どの高圧放電灯でも1種類の点灯装置で、そのチラツキを有効に抑制することができる。
【0018】
また、請求項3のように、短周期電流の極性反転前後の少なくとも一方において電流値を漸増させたり、漸減させる傾斜波とすることができるので、傾斜波を使用した方がより効果的にチラツキを抑えることができる高圧放電灯にも使用し得る。
【0019】
さらに、請求項4のように、短周期電流の極性反転前後の少なくとも一方の電流値を基準周期電流の電流値より高く設定し、特に、請求項5のように、短周期電流の電流値を基準周期電流の電流値の1.2倍以上5倍以下とすれば、電極のアークスポット部を温めるのに最も効果があるので、アークスポットが移動しづらくなり、チラツキをさらに有効に防止し得る。
【0020】
請求項6のように、基準周期電流の周期を1/60秒以上にすればその極性反転時の点滅によるチラツキは目視不能となり、1/500秒以下にすれば音響的共鳴現象が発生することもない。
さらに、短周期電流の周期を基準周期の1/4倍以上にすれば、その電流値を基準周期電流より高く設定した場合であっても、電極にかかる負荷がそれほど多くならないので、激しい電極磨耗の問題を生ずることがない。
また、基準周期の1/30倍以下にすることにより電極のアークスポット部を効率的に温めて、アークスポットの移動に起因するチラツキを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本例では、交流電流を供給したときに電極間に温度差を生じる高圧放電灯であっても、その温度差をなくして安定点灯時のアーク移動及びこれに起因するチラツキを抑制するという課題を、ランプ電流波形に改良を加えることにより実現した。
【0022】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明に係る点灯装置で生成されるランプ電流を示す説明図、図2は本発明に係る点灯装置を示すブロック図、図3は各信号波形を示す説明図、図4はランプ電流の形成過程を示す説明図、図5〜図7は他のランプ電流を示す説明図、図8は本発明の他の点灯装置で生成されるランプ電流を示す説明図、図9は本発明に係る他の点灯装置を示すブロック図、図10は合成波の形成手順を示す説明図、図11はランプ電流の形成手順を示す説明図、図12はランプ電流の他の例を示す説明図である。
【実施例1】
【0023】
図1は高圧放電灯に供給されるランプ電流I、基準周期電流I、短周期電流Iの波形である。
そして、ランプ電流Iは、予め設定された基準周期で供給される周期1/500秒以上1/60秒以下の基準周期電流Iと、周期がその1/30倍以上1/4倍以下に設定された短周期電流Iからなり、基準周期電流Iの極性が反転してその半周期HCが開始されるたびに、基準周期電流Iに替えてその同極性側から反対極性側に極性反転される短周期電流Iが1周期だけ供給されるようになっている。
【0024】
基準周期電流Iの点灯周期を1/500秒以上1/60秒以下としたのは、1/60秒を超えると極性反転時に生ずる点滅が目視可能となってチラツキを生じ、1/500未満とすると音響的共鳴現象が発生するためである。
また、短周期電流Iの周期を基準周期電流Iの1/30以上1/4倍以下に設定したのは、基準周期電流Iの1/4倍を超えると、その電流値を基準周期電流Iより高く設定した場合に電極に負荷がかかりすぎて激しい電極磨耗の問題を生ずるからであり、1/30倍未満とすると、電極のアークスポット部を温めることができなくなり、アークスポットが移動してチラツキを生ずる原因となるからである。
【0025】
短周期電流Iは、点灯させようとする高圧放電灯に応じて、その極性反転前後のデューティ比DR=d/(d+d)が予め設定された任意の値に調整されて出力される。
高圧放電灯は、その種類ごとにチラツキを防止し得る最適なデューティ比が異なるので、予め実験で求められたデューティ比に設定することにより、ランプの種類ごとに点灯装置を設計するまでもなく、1種類の点灯装置で対応することができる。
【0026】
また、短周期電流Iの極性反転前後の少なくとも一方の半周期の電流値が基準周期電流Iの電流値より高く設定され、本例では双方の電流値が基準周期電流Iの電流値の1.2倍以上5倍以下に設定されている。
電流値を1.2倍以上5倍以下にするのは、電極のアークスポット部を最も効果的に温めてアークスポットを移動し難くするためであり、これによりチラツキを有効に防止することができるからである。
【0027】
さらに、短周期電流Iは、その極性反転前後にわたり電流値が一定の矩形波であっても、極性反転前後のいずれか一方又は双方の電流値を漸増または漸減させて傾斜波とする場合であっても良い。
【0028】
図2に示す高圧放電灯点灯装置1は、図1に示すランプ電流Iを供給して高圧放電灯Lを点灯させるもので、直流電源2から出力された電力をチョッパ回路3へ入力して、スイッチング素子4のデューティ比をコントロールすることにより適切な電流に変換した後、フルブリッジ回路5へ入力する。
フルブリッジ回路5は、イグナイタ回路6によって始動される高圧放電灯Lに対して、対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通させて、その直流電力を所定のタイミングで反転させて交流のランプ電流Iを生成するように成されている。
【0029】
前記チョッパ回路3及びフルブリッジ回路5には、予め設定された周期の基準周期電流Iの極性が反転してその半周期HCが開始されるたびに、基準周期電流Iに替えてその同極性側から反対極性側に極性反転する短周期電流Iを1周期だけ供給するランプ電流形成手段11が接続されている。
【0030】
このランプ電流形成手段11は、アナログ回路又はマイコンで形成され、基準周期電流Iに周期が等しい基準周期信号Sを生成する基準周期信号出力装置12と、短周期電流Iに周期が等しい短周期信号Sを生成する短周期信号出力装置13と、これらを合成してランプ電流Iと等しいタイミングで極性反転する合成信号MSを生成する合波器14を備えると共に、それぞれのタイミングを同期させるためのクロックパルスCPを出力するクロックパルス発振器15を備えている。
【0031】
そして、ランプ電流形成手段11には、合波器14から出力されたその合成信号MSの極性反転タイミングに基づいてフルブリッジ回路5の対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通させるスイッチ信号を出力するフルブリッジコントロール回路16と、チョッパ回路3のスイッチング素子4をPWM制御することによりランプ電流Iの電流値や短周期電流Iの波形を調整するPWM制御回路17が接続されている。
【0032】
以下、図3を参照しながら、ランプ電流形成手段11について詳述する。
基準周期信号出力装置12は、1/500秒以上1/60秒以下の範囲で基準周期を設定することにより、その周期に応じてクロックパルスCPに同期したタイミング信号TSを半周期ごとに出力する基準周期設定器18と、そのタイミング信号TSに同期して極性反転する基準周期信号Sを生成する基準周期信号生成器19を備えている。
【0033】
短周期信号出力装置13は、基準周期の1/30倍以上1/4倍以下の範囲の周期を設定することにより、その周期に応じて1周期ごとにクロックパルスCPに同期したタイミング信号TSを出力する短周期設定器20と、その1周期中の極性反転前後のデューティ比DRを設定することにより、そのデューティ比DRに応じてクロックパルスCPに同期した極性反転のタイミング信号TSを出力するデューティ比設定器21と、前記各タイミング信号TS、TSに応じて所定周期(周波数)及び所定デューティ比DRの短周期信号Sを生成する短周期信号生成器22を備えている。
【0034】
合波器14には、前記基準周期信号出力装置12及び短周期信号出力装置13で生成された基準周期信号S及び短周期信号Sと、点灯周波設定器18及び高周波設定器20で生成されたタイミング信号TS及びTSが入力される。
そして、基準周期に応じたタイミング信号TSが入力されるまで、基準周期信号Sを導通し、短周期信号Sを遮断する。
また、タイミング信号TSが入力されてから次にタイミング信号TSが入力されるまでの間は、基準周期信号Sを遮断し、短周期信号Sを1周期だけ導通させる。なお、この場合において、基準周期信号Sが極性反転して正であるときは短周期信号Sをそのまま導通させ、極性反転して負であるときは短周期信号Sの正負を入れ替えて導通させている。
これにより、常時は基準周期信号Sが出力されると共に、基準周期信号Sの極性が反転して半周期が開始されるたびに基準周期電流Sに替えてその同極性側から反対極性側に極性反転する短周期信号Sを1周期だけ供給する合成信号MSが出力されることになる。
【0035】
そして、フルブリッジコントロール回路16は、この合成信号MSの極性反転タイミングに基づいて、フルブリッジ回路5の対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通するスイッチ信号を出力し、これにより、ランプ電流Iが合成信号MSに同期して極性反転される。
【0036】
さらに、合波器14は、基準周期電流I及び短周期電流Iの電流値を設定する電流調整器23を介してPWM制御回路17に接続されている。
この電流調整器23は、ランプ電流Iの基準周期電流Iの電流値に応じた通常電流設定信号を出力する基準電流設定器24と、基準周期電流Iの1.2倍以上5倍以下に設定された短周期電流Iの電流値に応じた過電流設定信号を出力する過電流設定器25を備えている。
また、各設定器24及び25から出力される通常電流設定信号DS及び過電流設定信号DSを択一的にパスさせた電流設定信号DSをPWM制御回路17に供給するゲート26と、このゲート26を制御するゲートコントローラ27を備えている。
【0037】
ゲートコントローラ27は、基準周期信号Sの半周期に同期するタイミング信号TSと、短周期信号の1周期及び極性反転に同期するタイミング信号TS及びTSに基づいて、短周期電流Iの極性反転前後の一方又は双方の電流値を高くするゲート信号GS〜GSを出力する。
【0038】
極性反転前のみ電流値を高くする場合は、タイミング信号TSが入力されてから、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間のみ高レベルに維持されるゲート信号GSが出力される。
また、極性反転後のみ電流値を高くする場合は、タイミング信号TSの入力後、最初のタイミング信号TSが入力されてから、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間のみ高レベルに維持されるゲート信号GSが出力される。
極性反転前後の双方、すなわち1周期の電流値を高くする場合は、タイミング信号TSの入力後、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間のみ高レベルに維持されるゲート信号GSが出力される。
【0039】
そしていずれの場合も、夫々のゲート信号GS〜GSが低レベルに維持されている間は、基準電流設定器24から出力された通常電流設定信号DSがゲート26をパスしてPWM制御回路17に供給され、これによりPWM制御回路17から出力されるチョッパ信号CSによりスイッチング素子4が低デューティ比でオンオフされる。
また、高レベルに維持されている間は、過電流設定器25から出力された過電流設定信号DSがゲート26をパスしてPWM制御回路17に供給され、これによりPWM制御回路17から出力されるチョッパ信号CSによりスイッチング素子4が高デューティ比でオンオフされる。
すなわち、PWM制御回路17に供給される電流設定信号はDSは、基準レベルの通常電流設定信号DSと、高レベルの過電流設定信号DSからなり、そのレベルに応じてチョッパ信号CSのデューティ比が変化するので、短周期電流Iの極性反転前後の一方又は双方に同期する部分の電流値を基準周期電流Iの1.2倍以上5倍以下に設定することができる。
【0040】
さらに、過電流設定器25には、短周期電流Iの極性反転前後の少なくとも一方において電流値を漸増または漸減させて傾斜波とする波形設定器28が接続されている。
この波形設定器28は、過電流設定器25から出力される電流設定信号DSを短周期電流Iの極性反転前後でそれぞれ漸増又は漸減させるためのコントロール信号を出力する。
ランプ電流Iの電流値は、チョッパ信号CSのデューティ比に比例し、デューティ比は電流設定信号DSのレベルに依存するので、このレベルを経時的に変化させることにより短周期電流Iを傾斜波とすることができる(図7参照)。
【0041】
以上が本発明の一構成例であって、次にその作用について説明する。
まず、短周期電流Iの極性反転前後のデューティ比DRについて、点灯させようとする高圧放電灯Lと同型の放電灯について予め実験を行い、チラツキを抑制し得る最適値を求めておく。
また、短周期信号Iの極性反転前後の波形についても、点灯させようとする高圧放電灯Lと同型の放電灯について予め実験を行い、チラツキを抑制し得る最適の波形として、極性反転前後の少なくとも一方について電流値を漸増又は漸減させる傾斜波とすべきか否かを決定しておく。
【0042】
そして、出力させようとするランプ電流Iを形成するために、使用する高圧放電灯Lに応じた点灯周波数と、短周期電流Iの周期(周波数)及びデューティ比DRを設定すると、点灯周波設定器18、短周期設定器20、デューティ比設定器21からタイミング信号TS〜TSが出力され、これらに基づき、基準周期信号出力装置12及び高周期信号出力装置13から夫々基準周期信号S及び短周期信号Sが合波器14に対して出力され、合波器14から合成信号MSがフルブリッジコントロール回路16に対して出力される(図3参照)。
【0043】
そして、ランプ電流Iの短周期電流I部分の極性反転後のみ電流値を高く設定しようとする場合は、ゲートコントローラ27からタイミング信号TSの入力後、最初のタイミング信号TSが入力されてから、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間のみ高レベルに維持されるゲート信号GSを出力させる。
これにより、図4に示すように、電流調整器23からPWM制御回路17に対して出力される電流設定信号DSは、ゲート信号GSが低レベルのときは基準電流設定信号DSが出力され、高レベルのときは過電流設定信号DSが出力される。
【0044】
このときの放電灯点灯装置1の直流電源2から出力された直流電力DWは、チョッパ信号CSによりデューティ比がコントロールされるスイッチング素子4により、電流設定信号DSが低レベル時は基準周期電流Iに応じた電流に調整されると共に、高レベル時は短周期電流Iに応じた電流に調整されて、この調整電流Iがチョパ回路3からフルブリッジ回路5に出力される。
【0045】
フルブリッジ回路5では、フルブリッジコントロール回路16から出力されたスイッチ信号により、対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRが合成信号MSの極性反転タイミングと同期して交互に導通される。
したがって、フルブリッジ回路5からは、合成信号MSに同期して極性反転されたランプ電流がIが出力されると共に、調整電流Iの過電流部分は合成信号MSの短周期信号Sの極性反転後の部分に同期されるので、ランプ電流Iは短周期電流Iの極性反転後のみ過電流が流れる。
【0046】
そして、このように出力されたランプ電流Iで高圧放電灯Lを点灯させれば、短周期電流Iのデューティ比がその高圧放電灯Lのチラツキを防止する最適値に設定されているので、確実にチラツキを防止することができる。
【0047】
なお、短周期電流Iの極性反転前のみ電流値を高くしたい場合は、図5に示すように、タイミング信号TSが入力されてから、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間のみ高レベルに維持されるゲート信号GSをゲートコントローラ27から出力させれば、チョッパ信号CSにより極性反転前のみデューティ比が高くなるので、短周期電流Iの極性反転前に同期する部分のみが過電流となった調整電流Iがチョッパ回路23から出力される。
したがって、これをフルブリッジ回路5で極性反転させれば、短周期電流Iの極性反転前のみ電流値が高くなる。
【0048】
また、短周期電流Iの極性反転前後の双方、すなわち1周期の電流値を高くしたい場合は、図6に示すように、タイミング信号TSの入力後、次のタイミング信号TSが入力されるまでの間、高レベルに維持されるゲート信号GSをゲートコントローラ27から出力させれば、チョッパ信号CSにより短周期電流Iの1周期分に同期する部分のデューティ比が高くなり、したがって、その1周期分が過電流となった調整電流Iがチョッパ回路3から出力される。
したがって、これをフルブリッジ回路5で極性反転させれば、短周期電流Iの1周期分の電流値が高くなる。
【0049】
さらに、短周期電流Iを傾斜波としたい場合は、過電流設定器25から出力される電流設定信号DSを短周期電流Iの極性反転前後でそれぞれ漸増又は漸減させるコントロール信号を波形設定器28から出力させることにより、図7に示すように、チョッパ回路3から、短周期電流Iの1周期に同期する部分が傾斜波の過電流となった調整電流Iが出力される。
したがって、この調整電流Iを合成信号MSの極性反転タイミングに同期させてフルブリッジ回路5で極性反転させれば、それぞれ、短周期電流Iが極性反転前後で傾斜波となったランプ電流Iが得られる。
【0050】
なお、図7において、短周期電流Iの極性反転前後の一方のみを傾斜波とし、他方を矩形波としたい場合は、短周期電流Iの極性反転前後に対応させて、傾斜波としたい部分に対応する電流設定信号DSを漸増又は漸減させるコントロール信号を波形設定器28から出力させればよい。
さらに、図4又は図5において、短周期電流Iの極性反転前後一方の電流が高くなった方のみを傾斜波としたい場合は、過電流設定器25から出力される電流設定信号DSを漸増又は漸減させればよい。
【0051】
本発明の高圧放電灯点灯装置1を用いて定格ランプ電力135Wの同種の超高圧水銀放電灯について、図4に示すランプ電流波形を用いて、基準周期信号Sの点灯周波数を100Hz、短周期信号Sの周期を1/2000秒(周波数:2kHz)とし、9種類の異なるデューティ比DR=1/9、2/8、3/7,4/6、5/5……9/1で、正常点灯時のランプ電流値よりも3倍程度の過入力の電流値で点灯させるエージング試験を行ってスクリーン照度測定を行ったところ、デューティ比DR=3/7のときが、最も有効にアークの移動に伴うスクリーン照度変化を減少させることができ、スクリーン上でのチラツキを防止できた。
【0052】
さらに、ランプ電流Iの短周期電流Iの極性反転後の電流を漸増又は漸減させて傾斜波とする場合、一定の矩形波とする場合について、スクリーンの照度測定を行ったところ、電流が漸増させる傾斜波としたときのほうが、より効果的にチラツキを防止できた。
【0053】
ここで、基準周期信号Sの周期を1/60秒未満にすると点滅が目視可能となってチラツキを生じ、1/500秒よりも大きくすると音響的共鳴現象が発生する。
また、短周期信号Sの周期を基準周期信号の1/4倍より大きくすると、電極に負荷がかかって激しい電極磨耗を生じ、1/30倍未満とすると、電極のアークスポット部を温めることができなくなって、アークスポットが移動し、チラツキを生ずることとなる。
【0054】
なお、短周期電流Iの極性反転前後のいずれか一方又は双方の電流値を、基準周期電流Iの電流値の1.2倍以上5倍以下にするのは、電極のアークスポット部を温めるのに最も効果があり、アークスポットが移動し難くなるからである。
また、短周期電流Iの極性反転前後のデューティ比を可変にすることにより、高圧放電灯の種類ごとに異なる最適なデューティ比に設定することができるので、高圧放電灯点灯装置1を高圧放電灯Lの種類ごとに設計する手間や面倒をなくすだけでなく、製造コストが軽減され、在庫管理を容易にして、生産効率を向上させることができるというメリットがある。
【0055】
以上述べたように、本実施例によれば、超高圧水銀灯等の高圧放電灯Lの種類に拘わらず、アークスポットの移動を抑制して、アークの移動を減少させることができるので、スクリーン照度変化を減少させてスクリーン上でのチラツキを防止する事ができる。
さらに、高圧放電灯Lのランプ電力に応じて、周期,電流値,デューティ比などの各要素を夫々の設定範囲内で調整することにより、確実にスクリーン上のチラツキを防止する事ができる。
【実施例2】
【0056】
図8は高圧放電灯に供給されるランプ電流I、基準周期電流I、短周期電流Iの波形であって、ランプ電流Iは予め設定された基準周期Tで発振する周期1/500秒以上1/60秒以下の矩形波からなる基準周期電流Iと、周期Tがその1/30倍以上1/4倍以下に設定された図8に示す短周期電流Iとが1周期ずつ交互に供給されて形成される。
【0057】
基準周期電流Iの基準周期Tを1/500秒以上1/60秒以下としたのは、1/60秒を超えると極性反転時に生ずる点滅が目視可能となってチラツキを生じ、1/500秒未満とすると音響的共鳴現象が発生するためである。
また、短周期電流Iの周期Tを基準周期電流Iの基準周期Tの1/30以上1/4倍以下に設定したのは、基準周期電流Iの1/4倍を超えると、その電流値を基準周期電流Iより高く設定した場合に電極に負荷がかかりすぎて激しい電極磨耗の問題を生ずるからであり、1/30倍未満とすると、電極のアークスポット部を温めることができなくなり、アークスポットが移動してチラツキを生ずる原因となるからである。
【0058】
基準周期電流I及び短周期電流Iは、点灯させようとする高圧放電灯に応じてその極性反転前後のデューティ比D=b/b及びD=h/hが予め設定された任意の値に調整されて出力される。
これにより、電極間に同一条件で電流を流したときに電極間に温度差を生じる高圧放電灯において、低温側となる電極に対し陽極となる時間が長くなるようなランプ電流を供給することができ、電極間の温度差に起因するチラツキを防止できる。
しかも、その時間割合は、高圧放電灯の種類に応じて夫々異なる最適値が存在し、同じ型式の高圧放電灯であればその最適値は等しいので、予め実験で求められたデューティ比を設定するまでもなく、ランプの種類ごとに点灯装置を設計するまでもなく1種類の点灯装置で対応することとなる。
【0059】
また、短周期電流Iの極性反転前後の一方または双方の半周期の電流値を基準周期電流Iの電流値より高くすることができ、本例では極性反転後の電流値が基準周期電流Iの電流値の1.2倍以上5倍以下に設定されている。
電流値を1.2倍以上5倍以下にするのは、電極のアークスポット部を最も効果的に温めてアークスポットを移動し難くするためであり、これによりチラツキを有効に防止することができるからである。
【0060】
さらに、短周期電流Iは、その極性反転前後にわたり電流値が一定の矩形波であっても、極性反転前後のいずれか一方又は双方の電流値を漸増または漸減させて傾斜波とする場合であっても良い。
【0061】
図9に示す高圧放電灯点灯装置40は、図8に示すランプ電流Iを供給して高圧放電灯Lを点灯させるもので、直流電源2から出力された電力をチョッパ回路3へ入力して、スイッチング素子4のデューティ比をコントロールすることにより適切な電流に調整した後、その調整電流Iをフルブリッジ回路5へ入力する。
フルブリッジ回路5は、対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通させて、その直流電力を所定のタイミングで反転させて交流のランプ電流Iを生成し、イグナイタ回路6によって始動される高圧放電灯Lに対して出力するように成されている。
【0062】
前記チョッパ回路3及びフルブリッジ回路5には、予め設定された基準周期Tの基準周期電流Iと、それより短い周期Tの短い短周期電流Iとを1周期ずつ交互に入れ替えた電流波形でランプ電流Iを形成すると共に、基準周期電流I及び短周期電流Iのいずれか一方または双方の極性反転前後のデューティ比D、Dを任意に設定可能なランプ電流形成手段41が接続されている。
【0063】
このランプ電流形成手段41は、アナログ回路又はマイコンで形成され、基準周期電流I及び短周期電流Iの周期T及びT、夫々のデューティ比D及びDを設定する基礎データ設定器42と、これらのデータに基づき所定のタイミング信号TS11〜TS13を生成して出力するタイミング信号生成器43と、基準周期電流I及び短周期電流Iの極性反転タイミングに等しい1周期分の基準周期信号波W及び短周期信号波Wを生成して、夫々を所定のタイミングで個別に出力する基準周期信号発振器44及び短周期信号発振器45と、各発振器44及び45から出力された基準周期信号S及び短周期信号Sを合成してランプ電流Iと等しいタイミングで極性反転する合成信号MSを生成する合波器46と、それぞれのタイミングを同期させるクロックパルスCPを出力するクロックパルス発振器47を備えている。
【0064】
そして、ランプ電流形成手段41には、合波器46から出力された合成信号MSの極性反転タイミングに基づいてフルブリッジ回路5の対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通させるスイッチ信号を出力するフルブリッジコントロール回路48と、チョッパ回路3のスイッチング素子4をPWM制御することによりランプ電流Iの電流値や短周期電流Iの波形を調整するPWM制御回路49が接続されている。
【0065】
以下、図10を参照しながら、ランプ電流形成手段41で合成信号MSを生成するまでの手順について説明する。
まず、周期設定器及びデューティ比設定器として機能する基礎データ設定器42に、点灯しようとする高圧放電灯Lに応じて、基準周期電流Iの基準周期Tを1/500秒以上1/60秒以下の範囲で設定し、短周期電流Iの周期Tをその1/30倍以上1/4倍以下の範囲で設定すると共に、夫々のデューティ比D=b/(b+b)及びD=h/(h+h)を設定すると、基準周期信号発振器44で図10(a)に示す波形の基準周期信号波Wが生成され、短周期信号発振器45で図10(b)に示す波形の短周期信号波Wが生成される。
【0066】
タイミング信号生成器43では、基礎データ設定器42に設定された各データに基づいて、クロックパルスCPに同期させた三種類のタイミング信号TS11〜TS13が出力される(図10(c)及び図11参照)。
タイミング信号TS11は、基準周期信号波Wを出力するトリガーとなる信号で、基準周期T+周期Tの時間間隔で出力されるタイミングパルスTP11で構成される。
タイミング信号TS12は、短周期信号波Wを出力するトリガーとなる信号で、基準タイミングパルスTP11が出力されてから基準周期T経過後に出力されるタイミングパルスTP12で構成される。
タイミング信号TS13は、短周期電流Iの極性反転タイミングに同期させるためのもので、タイミングパルスTP12が出力されてから、周期Tとデューティ比Dにより定まる極性反転までの時間D×Tが経過するたびに出力されるタイミングパルスTP13で構成される。
【0067】
基準周期信号発振器44では、基準周期電流Iの極性反転タイミングに等しい1周期分の基準周期信号波Wを生成して、タイミング信号TS11のタイミングパルスTP11が入力されるたびに一周期ずつ出力することにより基準周期信号Sを出力する。
【0068】
短周期信号発振器45では、基準周期電流Iの極性反転タイミングに等しい1周期分の基準周期信号波Wを生成して、タイミング信号TSのタイミングパルスTP12が入力されるたびに一周期ずつ出力することにより短周期信号Sを出力する。
【0069】
合波器46には、基準周期信号発振器44及び短周期信号発振器45で生成された基準周期信号S及び短周期信号Sが入力され、これらが重畳されて、基準周期信号波Wと短周期信号波Wが一周期ずつ交互に出力される合成信号MSが生成されて、フルブリッジコントロール回路48に出力される。
この合成信号MSの極性反転タイミングは、ランプ電流Iの極性反転タイミングに等しいので、フルブリッジコントロール回路48では、合成信号MSの極性反転タイミングに基づいて、フルブリッジ回路5の対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRを交互に導通するスイッチ信号を出力し、これにより、直流で供給される電流が合成信号MSに同期して極性反転され、交流のランプ電流Iとなる。
【0070】
また、前記タイミング信号生成器43は、基準周期電流I及び短周期電流Iの電流値を設定する電流調整器51を介してPWM制御回路49に接続されている。
この電流調整器51は、ランプ電流Iの基準周期電流Iの電流値に応じた基準電流設定信号DSを出力する基準電流設定器52と、基準周期電流Iの1.2倍以上5倍以下に設定された短周期電流Iの電流値に応じた過電流設定信号DSを出力する過電流設定器53を備えている。
また、各設定器52及び53から出力される基準電流設定信号DS及び過電流設定信号DSを択一的にパスさせた電流設定信号DSをPWM制御回路49に供給するゲート54と、このゲート54を制御するゲートコントローラ55を備えている。
【0071】
ゲートコントローラ55は、前記各タイミング信号TS11〜TS13に基づいて、図11(a)〜(d)に示すように、基準電流設定信号DSと過電流設定信号DSを切り換えるゲート信号GS11〜GS13を出力する。
ゲート信号GS11は、図11(a)に示すように、短周期電流Iの極性反転前のみ電流値が高いランプ電流Iを形成する場合に用いられ、タイミング信号TS12のタイミングパルスTP12が入力されてから、タイミング信号TS13のタイミングパルスTP13が入力される間のみ高レベルとなる。
ゲート信号GS12は、図11(b)に示すように、短周期電流Iの極性反転後のみ電流値が高いランプ電流Iを形成する場合に用いられ、タイミング信号TS13のタイミングパルスTP13が入力されてから、タイミング信号TS11のタイミングパルスTP11が入力される間のみ高レベルとなる。
さらに、ゲート信号GS13は、図11(c)に示すように、短周期電流Iの極性反転前後の双方、すなわち1周期の間、電流値が高いランプ電流Iを形成する場合に用いられ、タイミング信号TS12のタイミングパルスTP12が入力されてから、タイミング信号TS11のタイミングパルスTP11が入力される間中、高レベルとなる。
なお、短周期電流Iの電流値が常に基準周期電流Iの基準電流と等しいランプ電流Iを形成する場合は、図11(d)に示すように、常時低レベルに維持されるゲート信号GS14を出力させればよい。
【0072】
そしていずれの場合も、夫々のゲート信号GS11〜GS14が低レベルに維持されている間は、基準電流設定器52から出力された基準電流設定信号DSがゲート54をパスしてPWM制御回路49に供給され、これによりPWM制御回路49から出力されるチョッパ信号CSによりスイッチング素子4が低デューティ比でオンオフ動作を行うので、直流電源2から出力された電力の電流値が例えば基準周期電流Iの電流値として設定された定格電流で供給されることとなる。
【0073】
また、ゲート信号GS11〜GS14が高レベルに維持されている間は、過電流設定器53から出力された過電流設定信号DS12がゲート54をパスしてPWM制御回路49に供給され、これによりPWM制御回路49から出力されるチョッパ信号CSによりスイッチング素子4が高デューティ比でオンオフ動作を行うので、直流電源2から出力された電力の電流値が例えば基準周期電流Iの電流値として設定された定格電流の1.2倍〜5倍の電流値で供給されることとなる。
【0074】
すなわち、PWM制御回路49に供給される電流設定信号はDSは、基準電流設定信号DSと過電流設定信号DSからなり、そのレベルに応じてチョッパ信号CSのデューティ比が変化するので、短周期電流Iの極性反転前後の一方又は双方に同期する部分の電流値を基準周期電流Iの1.2倍以上5倍以下に設定することができる。
【0075】
さらに、過電流設定器53には、短周期電流Iの極性反転前後の少なくとも一方において電流値を漸増または漸減させて傾斜波とする波形設定器56が接続されている。
この波形設定器56は、過電流設定器53から出力される電流設定信号DSを短周期電流Iの極性反転前後でそれぞれ漸増又は漸減させるためのコントロール信号を出力する。
【0076】
図12(a)〜(d)は、短周期電流Iの極性反転前後のいずれか一方で電流値を漸増又は漸減させたランプ電流Iと、夫々のランプ電流Iを形成する電流設定信号DS及び調整電流Iを示し、図12(e)〜(h)は、短周期電流Iの極性反転前後の双方で電流値を漸増又は漸減させたランプ電流Iと、夫々のランプ電流Iを形成する電流設定信号DS及び調整電流Iを示す。
調整電流Iの電流値は、チョッパ信号CSのデューティ比に比例し、デューティ比は電流設定信号DSのレベルに依存するので、図12に示すように、過電流設定信号DSのレベルを経時的に変化させることにより、ランプ電流Iの短周期電流Iを傾斜波とすることができる。
【0077】
以上が本発明の一構成例であって、次にその作用について説明する。
まず、点灯させようとする高圧放電灯Lと同型の放電灯について予め実験を行い、基準周期電流I及び短周期電流Iの周期T及びTと、極性反転前のデューティ比D及びDについてチラツキを抑制し得る最適値を求め、その値を、基礎データ設定器42に設定する。
【0078】
また、同様に、基準周期電流I及び短周期電流Iの電流値を電流設定器52及び53に設定すると共に、過電流とする場合にその電流値と過電流にする部分(極性反転前後のいずれか一方または双方)をゲートコントローラ55で設定する。
さらに、電流値を漸増又は漸減させる傾斜波とする場合は、傾斜波の形状(漸増・漸減)及び傾斜波とする部分(極性反転前後のいずれか一方または双方)どの部分を傾斜波とするか波形設定器56に設定する。
【0079】
これにより、タイミング信号生成器43から三種類のタイミング信号TS11〜TS13が出力され、基準周期信号発振器44から出力された基準周期信号Sと、短周期信号発振器45から出力された短周期信号Sが合波器46で重畳されて合成信号MSが生成されて、これがフルブリッジコントロール回路48に出力される。
【0080】
また、電流設定器52及び53から出力される基準電流設定信号DS及び過電流設定信号DSを所定のタイミングで切替供給される電流設定信号DSがゲート54を介してPWM制御回路49に供給される。
【0081】
ここで、短周期電流Iの極性反転前の電流値のみを基準電流より高い過電流とする場合は、図11(a)に示すように、ゲートコントローラ55からゲート信号GSを出力させると、短周期電流Iの極性反転前に対応する部分を過電流設定信号DSとし、その他の部分を基準電流設定信号DSとする電流設定信号DSがPWM制御回路49に出力される。
PWM制御回路49からは電流設定信号DSのレベルに応じたデューティ比のチョッパ信号CSが出力されて、このチョッパ信号CSのデューティ比でスイッチ素子4がオンオフ動作される。
これにより、電源2から出力された直流電力の電流値が調整されて、短周期電流Iの極性反転前に対応する部分が過電流に等しく、それ以外の部分が基準電流に等しい調整電流Iが、チョッパ回路3からフルブリッジ回路5に出力される。
そして、フルブリッジ回路5で、フルブリッジコントロール回路48により合成信号MSと等しい極性反転タイミングで対となるトランジスタTR及びTR、TR及びTRが交互に導通されて、調整電流Iが合成信号MSと同期して極性反転されて、所望のランプ電流Iが形成される。
【0082】
短周期電流Iの極性反転後の電流値のみを基準電流より高い過電流とする場合は、図11(b)に示すように、ゲートコントローラ55からゲート信号GSを出力させると、短周期電流Iの極性反転後に対応する部分を過電流設定信号DSとし、その他の部分を基準電流設定信号DSとする電流設定信号DSがPWM制御回路49に出力される。
PWM制御回路49から出力されたチョッパ信号CSによりスイッチ素子4がオンオフ動作され、電源2から出力された直流電力の電流値が調整されて、短周期電流Iの極性反転後に対応する部分が過電流に等しく、それ以外の部分が基準電流に等しい調整電流Iが、チョッパ回路3からフルブリッジ回路5に出力される。
そして、フルブリッジ回路5により、調整電流Iが合成信号MSと同期して極性反転されて、所望のランプ電流Iが形成される。
【0083】
短周期電流Iの極性反転前後双方の電流値を基準電流より高い過電流とする場合は、図11(c)に示すように、ゲートコントローラ55からゲート信号GSを出力させると、短周期電流Iの一周期に対応する部分を過電流設定信号DSとし、基準周期電流Iの一周期に対応する部分を基準電流設定信号DSとする電流設定信号DSがPWM制御回路49に出力される。
PWM制御回路49から出力されたチョッパ信号CSによりスイッチ素子4がオンオフ動作され、電源2から出力された直流電力の電流値が調整されて、短周期電流Iの極性反転後に対応する部分が過電流に等しく、それ以外の部分が基準電流に等しい調整電流Iが、チョッパ回路3からフルブリッジ回路5に出力される。
そして、フルブリッジ回路5により、調整電流Iが合成信号MSと同期して極性反転されて、所望のランプ電流Iが形成される。
【0084】
短周期電流Iの電流値を基準電流と等しくする場合は、図11(d)に示すように、ゲートコントローラ55から低レベルに維持されたゲート信号GSを出力させると、ゲートコントローラ55からゲート信号GSを出力させ、電流設定信号DSとして基準電流設定信号DSが連続してPWM制御回路49に出力される。
これにより、PWM制御回路49から出力されたチョッパ信号CSによりスイッチ素子4がオンオフ動作され、電源2から出力された直流電力の電流値が調整されて、常時、基準電流に等しい調整電流Iが、チョッパ回路3からフルブリッジ回路5に出力される。
【0085】
さらに、短周期電流Iを傾斜波にする場合は、図12に示すように、過電流設定信号DSを短周期電流Iの極性反転前後でそれぞれ漸増又は漸減させるコントロール信号を波形設定器56から過電流設定器53に出力させて、過電流設定器53から出力される過電流設定信号DSを傾斜させることにより、PWM制御回路49から、そのレベル変化に応じたデューティ比変化を伴うチョッパ信号CSを出力させ、短周期電流Iに対応する部分を傾斜させた調整電流Iが出力される。
したがって、この調整電流Iを合成信号MSの極性反転タイミングに同期させてフルブリッジ回路5で極性反転させれば、それぞれ、短周期電流Iが極性反転前後で傾斜波となったランプ電流Iが得られる。
【0086】
本発明の高圧放電灯点灯装置40を用いて定格ランプ電力135Wの同一仕様の超高圧水銀放電灯について、図11及び図12に示す様々なランプ電流Iを用いて、基準周期電流I及び短周期電流Iの周期T及びT、デューティ比D及びDを様々に変化させて設定し、正常点灯時のランプ電流値よりも3倍程度の過入力の電流値で点灯させるエージング試験を行ってスクリーン照度測定を行ったところ、以下の条件のランプ電流Iで点灯させた場合に、最も有効にアークの移動に伴うスクリーン照度変化を減少させることができ、スクリーン上でのチラツキを防止できた。
基準周期電流Iの周期T=1/100秒、
基準周期電流Iのデューティ比D=5/10(b:b=5:5)、
短周期電流Iの周期T=1/2000秒、
短周期電流Iのデューティ比D=4/10(h:h=4:6)、
過電流:基準電流値の2.2倍
過電流部分:短周期電流Iの極性反転後
過電流部分の波形:漸増
【0087】
したがって、この超高圧水銀放電灯と同じ型式の放電灯を点灯させる場合は、実験で求めた夫々の値を高圧放電灯点灯装置40のランプ電流形成手段41に設定して点灯させれば、実験と同一条件で点灯させることができるので、その結果、最も有効にアークの移動に伴うスクリーン照度変化を減少させることが期待でき、電流値を過入力ではなく正常点灯時のランプ電流値にする以外は実験と同一条件で点灯試験をしたところスクリーン上でのチラツキを防止できた。
【0088】
なお、基準周期電流Iの基準周期Tを1/60秒より長くすると点滅が目視可能となってチラツキを生じ、基準周期を1/500秒未満とするとと音響的共鳴現象が発生する。
また、短周期電流Iの周期Tを基準周期Tの1/4倍より大きくすると電極に負荷がかかって激しい電極磨耗を生じ、周期Tを基準周期Tの1/30倍未満とすると、電極のアークスポット部を温めることができなくなって、アークスポットが移動し、チラツキを生ずることとなる。
【0089】
さらに、短周期電流Iの極性反転前後のいずれか一方又は双方の電流値を、基準周期電流Iの電流値の1.2倍以上5倍以下にするのは、電極のアークスポット部を温めるのに最も効果があり、アークスポットが移動し難くなるからである。
また、短周期電流Iの極性反転前後のデューティ比を可変にすることにより、高圧放電灯の種類ごとに異なる最適なデューティ比に設定することができるので、高圧放電灯点灯装置40を高圧放電灯Lの種類ごとに設計する手間や面倒をなくすだけでなく、製造コストが軽減され、在庫管理を容易にして、生産効率を向上させることができるというメリットがある。
【0090】
なお、基準周期電流Iは短周期電流Iに比して周期が長いことから、デューティ比Dを僅かに変えるだけで、各電極へ供給される電力の極性変化の影響が大きい。
したがって、通常のランプ電流で点灯したときに著しい温度差が生ずるような高圧放電灯を点灯させる場合は、まず、基準周期電流Iのデューティ比Dで概ね温度差をなくし、短周期電流Iのデューティ比Dを調整することにより、微調整を行えばよい。
また、電極間に著しい温度差が生じない場合は、上述したように短周期電流Iのデューティ比Dのみを調整すれば足りる。
【0091】
以上述べたように、本実施例によれば、基準周期電流I及び短周期電流Iの極性反転前後のデューティ比を可変調節できるので、交流電流を供給したときに電極間に温度差を生じる高圧放電灯であっても、デューティ比をその高圧放電灯に応じた最適値に調節することにより、電極温度差を無くして、これに起因するチラツキを有効に抑制することができるという優れた効果を奏する。
さらに、高圧放電灯Lの種類やランプ電力に応じて、周期、電流値、デューティ比などの各要素を夫々の設定範囲内で調整することにより、確実にスクリーン上のチラツキを防止することができるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、照度を均一にし、且つ、チラツキを極めて少なくすることが厳しく要求される液晶プロジェクターなどのバックライト用光源装置の用途に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る点灯装置で生成されるランプ電流を示す説明図。
【図2】本発明に係る点灯装置を示すブロック図。
【図3】各信号波形を示す説明図。
【図4】ランプ電流の形成過程を示す説明図。
【図5】他のランプ電流を示す説明図。
【図6】他のランプ電流を示す説明図。
【図7】他のランプ電流を示す説明図。
【図8】本発明の他の点灯装置で生成されるランプ電流を示す説明図。
【図9】本発明に係る他の点灯装置を示すブロック図。
【図10】合成波の形成手順を示す説明図。
【図11】ランプ電流の形成手順を示す説明図。
【図12】ランプ電流の他の例を示す説明図。
【図13】従来の点灯装置を示すブロック図。
【符号の説明】
【0094】
1 高圧放電灯点灯装置
3 チョッパ回路
5 フルブリッジ回路
L 高圧放電灯
11 ランプ電流形成手段
12 基準周期信号出力装置
13 短周期信号出力装置
14 合波回路
16 フルブリッジコントロール回路
17 PWM制御回路
23 電流調整器
28 波形設定器
ランプ電流
基準周期電流
短周期電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯装置において、
前記ランプ電流が、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とからなり、
基準周期電流の半周期ごとに、次の半周期と同じ極性から反対極性に極性反転する短周期電流が1周期供給された電流波形に形成されると共に、
前記短周期電流の極性反転前後のデューティ比を任意に設定するランプ電流形成手段を備えたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項2】
交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯装置において、
前記ランプ電流が、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とを1周期ずつ交互に入れ替えた電流波形で形成され、
前記基準周期電流及び短周期電流のいずれか一方または双方の極性反転前後のデューティ比を任意に設定するランプ電流形成手段を備えたことを特徴とする高圧放電灯点灯装置。
【請求項3】
前記ランプ電流形成手段が、前記短周期電流の極性反転前後のいずれか一方または双方の電流値を漸増または漸減させて傾斜波とする波形設定器を備えた請求項1又は2記載の高圧放電灯点灯装置。
【請求項4】
前記ランプ電流形成手段が、前記短周期電流の極性反転前後のいずれか一方または双方の電流値を基準周期電流の電流値より高く設定する電流調整器を備えた請求項1又は2記載の高圧放電灯点灯装置。
【請求項5】
前記電流調整器で、短周期電流の電流値が基準周期電流の電流値の1.2倍以上5倍以下に設定される請求項4記載の高圧放電灯点灯装置。
【請求項6】
前記ランプ電流形成手段が、基準周期電流の基準周期を1/500秒以上1/60秒以下、短周期電流の周期を基準周期の1/30倍以上1/4倍以下に設定する周期設定器を備えた請求項1記載の高圧放電灯点灯装置。
【請求項7】
交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯方法において、
前記ランプ電流として、予め設定された基準周期で供給される基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とを用い、基準周期電流の半周期ごとに、次の半周期と同じ極性から反対極性に極性反転する短周期電流をその極性反転前後のデューティ比を任意に設定して1周期だけ供給することを特徴とする高圧放電灯点灯方法。
【請求項8】
交流のランプ電流を供給して高圧放電灯を点灯させる高圧放電灯点灯方法において、
予め設定された基準周期の基準周期電流と、それより短い周期の短周期電流とを1周期ずつ交互に入れ替えた電流波形で前記ランプ電流を形成すると共に、前記基準周期電流及び短周期電流のいずれか一方または双方の極性反転前後のデューティ比を前記高圧放電灯に応じて設定されたデューティ比に調整して供給することを特徴とする高圧放電灯点灯方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【国際公開番号】WO2005/074332
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517503(P2005−517503)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001197
【国際出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】