説明

高圧水素タンク

【課題】高圧水素タンクにおいて、樹脂ライナーの伸びの向上と耐ガス透過性の向上を両立させる。
【解決手段】高圧水素タンク1の樹脂ライナー10が、ガスバリア性を有する主材料としての樹脂(例えばナイロン)と、水素吸着性能を有する添加材を含有するエラストマーと、を有し、エラストマーによって樹脂ライナー10の伸びを向上する。また、エラストマー自身からの水素ガスの透過を、水素吸着性能を有する添加材によって抑制し、樹脂ライナー10全体として水素ガスの透過を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ライナーを備える高圧水素タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高圧水素タンクとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この高圧水素タンクは、樹脂ライナーの外周面にFRP層を積層した二層構造を有し、軸方向のタンク端部に口金が設けられる。樹脂ライナーは、ガスバリア性を有する樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66)に水素吸蔵合金などのガス不透過材料を混入して形成されており、この混入したガス不透過材料によってタンク内の水素ガスが樹脂ライナーを透過するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−300207号公報(0015−0017、図1、要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タンク内に高圧水素ガス(例えば35MPa、70MPa)が充填されると、タンクはその内部が加圧されて膨張する。しかし、特許文献1では、樹脂ライナーの膨張を考慮した材料については十分に検討されておらず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、樹脂ライナーの伸びの向上と耐ガス透過性の向上を両立させることができる高圧水素タンクを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の高圧水素タンクは、樹脂ライナーが、ガスバリア性を有する主材料としての樹脂と、水素吸着性能を有する添加材を含有するエラストマーと、を有するものである。主材料としての樹脂は、ナイロンであることが好ましい。
【0007】
本発明によれば、樹脂ライナーの材料としてエラストマーも用いられているので、樹脂ライナーに伸びの特性をもたせることができる。また、樹脂ライナーの主材料としてナイロンを用いた場合には、ナイロンがポリプロピレンやポリエチレンよりも耐ガス透過性が優れているので、特に燃料電池用高圧タンクに適した耐水素ガス透過性を向上できる。
ここで、本発明者は、エラストマーは非晶性であるがゆえにガスバリア性が低く、水素ガスがエラストマー(非晶性部)から透過するという知見を得た。かかる知見に鑑みて、上記の本発明ではエラストマーに水素吸着性能を有する添加材を含有させているため、エラストマー自身からの水素ガスの透過を抑制することができる。したがって、樹脂ライナー全体として耐ガス透過性を向上することができる。
また、本発明者は、樹脂ライナーにおいて、ナイロンが海相として存在し、エラストマーが島相として存在し、さらに、エラストマーに上記添加剤を含有させた場合には添加剤がナイロン内に入らないという知見も得た。かかる知見によると、エラストマーに上記添加剤を含有させている本発明によれば、主材料であるナイロン自体の特性(耐ガス透過性など)を損なうことなく、ナイロンに伸びをもたせることができる。
【0008】
本発明者は、さらに、エラストマーがナイロンとの相溶性が低いゆえにナイロンとの境界から水素ガスが透過するという知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の好ましい一態様によれば、樹脂ライナーは、ナイロンとエラストマーとの間に相溶化材を有するとよい。この構成によれば、ナイロン自体の特性を維持しつつ、ナイロンとエラストマーの相溶性を上げることができ、ナイロンとエラストマーの境界からの水素ガスの透過を抑制することができる。
【0010】
本発明の好ましい一態様によれば、上記の添加材は、水素吸蔵合金であるとよい。
【0011】
本発明の好ましい一態様によれば、エラストマーは、エチレン・オレフィン系エラストマー又はウレタン系エラストマーであるとよい。このような材料であれば、耐衝撃性を確保するのに適するからである。
【0012】
本発明の好ましい一態様によれば、樹脂ライナーの外周面にFRP層を積層するとよい。こうすることで、FRP層によって高圧水素タンクを補強することができる。なお、上記のとおり、本発明によれば、樹脂ライナーからの水素ガスの透過を抑制することができるため、樹脂ライナーとFRP層との間にガス溜まりが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る高圧水素タンクの要部を示す断面図である。
【図2】図1の高圧水素タンクの樹脂ライナーの内部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る高圧水素タンクについて説明する。
【0015】
図1に示すように、高圧水素タンク1(以下、タンク1という。)は、タンク本体2及び口金3を有すると共に、口金3にバルブアッセンブリ4がねじ込み接続される。タンク本体2は、全体として密閉円筒状からなり、その内部は、水素ガスを常圧よりも高い圧力(すなわち高圧)で貯留する貯留空間6を構成する。例えば35MPaあるいは70MPaの水素ガスが貯留空間6内に貯留される。このタンク1は、燃料電池システムにおける燃料電池への水素ガスの供給源として用いるのに適したものである。
【0016】
口金3は、タンク本体2の軸方向の一端部又は両端部に位置し、例えばインサート成形によりタンク本体2と一体成形される。バルブアッセンブリ4は、複数のバルブを一体的に組み込んだものであり、口金3の開口部に着脱自在にねじ込み接続される。燃料電池システム上のタンク1は、バルブアッセンブリ4を介して図示省略した外部のガス充填ライン及びガス放出ラインに接続され、貯留空間6との間で水素ガスの給排がなされる。
【0017】
タンク本体2は、例えば二層構造を有しており、その二層は、内側の樹脂ライナー10と、樹脂ライナー10の外周側に位置するFRP層12である。FRP層12は、例えば、マトリックス樹脂(プラスチック)を炭素繊維で強化してなるCFRP層であり、FW法により成形される。一例を挙げると、FRP層12は、熱硬化性のエポキシ樹脂を含浸した炭素繊維を、FW法によって樹脂ライナー10に巻きつけ、エポキシ樹脂を加熱硬化させることで形成される。FRP層12は、大部分が樹脂ライナー10の外表面に積層されると共に、一部が口金3の外周面にも積層される。
【0018】
樹脂ライナー10は、タンク1の内殻又は内容器とも換言される部分である。樹脂ライナー10は、その大部分を構成する円筒状の胴部14と、胴部14の軸方向の端部に連続する返し部16と、を有する、返し部16は、FRP層12から離間するようにタンク本体2の内側へと折り返される。返し部16とFRP12との間には、口金3の鍔部3aが挟み込まれるようにして配置される。
【0019】
図2に示すように、樹脂ライナー10は、海相がナイロンで、島相がエラストマーの海島相分離構造を有し、エラストマーには水素吸収材が含有されている。また、ナイロンとエラストマーとの境界面には相溶化材が介在している。エラストマー及び水素吸収剤は、ナイロン内に入ることなく、散点状に存在している。
【0020】
ナイロンは、樹脂ライナー10を構成する主材料の樹脂であり、ガスバリア性を有する。ナイロンとしては、6−ナイロン、66−ナイロンなど、各種のものを用いることができる。耐ガス透過性の観点では、6−ナイロンと66−ナイロンでは大きな差はない。しかし、樹脂ライナー10の成形性の観点によれば、6−ナイロンの方が66−ナイロンよりも優位であることが評価試験により確認されたため、6−ナイロンを用いる方が好ましい。
【0021】
エラストマーは、樹脂ライナー10の伸びを向上するために、樹脂ライナー10の主材料(ナイロン)に添加されるものである。エラストマーとしては、衝撃性を吸収できる柔軟で且つゴム弾性をもつものを用いればよく、その中でも耐衝撃性を確保するのに適したエチレン・オレフィン系エラストマーやウレタン系エラストマーを用いることが好ましい。エラストマーは、これらの材料を1種類だけ使用してもよいし、2種類以上を任意に組み合わせて使用することもできる。そして好ましくは、エラストマーは、ナイロンに均一に分散して樹脂ライナー10の全域に亘って存在するとよい。
【0022】
ただし、エラストマー自体は、樹脂基材であるナイロンよりもガスバリア性が低い特性を有する。これは、エラストマーが非晶性であるからである。また、エラストマーは、ナイロンとの相溶性が低い特性を有するため、エラストマーとナイロンとの境界部のガスバリア性が低い。そこで、本実施形態では、前者の特性を補う手段として水素吸収材を、後者の特性を補う手段として相溶化材を用いている。
【0023】
水素吸収材は、エラストマー自体のガスバリア性を向上するために、エラストマー内に添加された水素吸着性能を有する材料である。エラストマー内の水素吸収材によって、エラストマーをとおってFRP層12に透過しようとする水素ガスが吸着されるため、その透過が抑制される。水素吸収材としては、例えば、水素吸蔵合金、活性炭素繊維、活性炭素粉末、カーボンナノチューブなどを挙げることができる。水素吸収材は、これらの材料を1種類だけ使用してもよいし、2種類以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくは、水素吸収材として水素吸蔵合金を用いると良く、より好ましくは、水素吸蔵合金としてチタン合金粉末を用いると良い。
【0024】
相溶化材は、ナイロンとエラストマーとの相溶性を向上するために、ナイロン又はエラストマー内に添加される材料である。相溶化材によって、ナイロン(海相)とエラストマー(島相)との界面からの水素ガスが抑制される。相溶化材としては、主材料であるナイロンとの相溶性が良いものであればよく、ナイロンと融点の近い樹脂であることが好ましい。例えば、相溶化材としてアクリル系樹脂(例えばPMMA)を用いることが好ましい。
【0025】
ここで、樹脂ライナー10を構成する材料(ナイロン、エラストマー、水素吸収材、相溶化材)の配合割合については、樹脂ライナー10の耐ガス透過性、伸び、耐圧強度、重量、耐衝撃性などに関する目標特性を考慮して適宜決定すればよい。ただし、エラストマーは、全材料中に占める割合が50%未満である必要があり、20%程度であることが好ましい。なお、樹脂ライナー10の材料には、これらの材料にガラス繊維などの補強繊維、酸化防止材、顔料などの着色材を添加してよい。
【0026】
次に、樹脂ライナー10の製造方法について簡単に説明する。
樹脂ライナー10は、例えば、予め分割して成形された一対のライナー割体をレーザー溶接することで構成する。ライナー割体は、上記したナイロン、エラストマー、水素吸収材、相溶化材及びその他の添加材(酸化防止材、顔料など)を材料として、例えば射出成形される。具体的には、先ず、重合反応にて生成することで、ナイロンのペレットを製造する。また、縮合反応、ラジカル反応等にて生成することで、エラストマーのペレットを製造する。このとき、水素吸収材をエラストマーに添加しておく。また、相溶化材をナイロン又はエラストマーの原料に混練しておき、ナイロン又はエラストマーのペレットとして相溶化材を含んだものを製造する。
【0027】
その後、ナイロンのペレット、エラストマーのペレット、及びその他の添加材(酸化防止材、顔料など)を混合してストランド化し、射出成形機に投入するペレットを製造する。そして、このペレットを射出成形機にて可塑化し、ライナー割体のための金型内に射出する。これにより、ライナー割体が成形される。なお、射出成形の際には、金型に口金3をセットして、インサート成形することができる。また、射出成形法に代えて、ブロー成形法や回転成形法を用いることもできる。
【0028】
以上説明した本実施形態のタンク1の作用効果について説明する。
樹脂ライナー10の主材料として、ポリプロピレンやポリエチレンよりも耐ガス透過性が優れたナイロンを用いているので、特に燃料電池システムにおける高圧タンクに適した水素ガスの透過抑制を図ることができる。
また、樹脂ライナー10の材料として、ナイロンにエラストマーを添加したものを用いているので、樹脂ライナー10の伸びの特性を向上することができる。これにより、ガス充填による膨張の影響に配慮した樹脂ライナー10、すなわち充填時に応力集中しないように伸び特性をもった樹脂ライナー10を製造することができる。
さらに、エラストマーには水素吸収材を含有させているため、ガスバリア性が低いエラストマー自体からの水素ガスの透過を抑制することができる。
また、島相であるエラストマー内の水素吸収材は、海相であるナイロン内に入らないため、ナイロンが本来もっている特性(衝撃性、ガスバリア性など)を維持することができる。加えて、ナイロン又はエラストマー内に相溶化材を添加しているため、ナイロンとエラストマーの境界からの水素ガスの透過を抑制することができる。
【0029】
したがって、本実施形態によれば、エラストマーによって樹脂ライナー10の伸び特性の向上を図りつつ、このエラストマーの背反を水素吸収材及び相溶化材によって減少させることで、ナイロン自体の本来の物性を損なうことなく、樹脂ライナー10全体として耐ガス透過性を向上することができる。そして、耐ガス透過性の向上が図られるために、ライナー厚みを上げるなどの形状変更や工法変更しなく済み、樹脂ライナー10とFRP層12との間に水素ガスが溜まることを抑制することができる。また、物性が確保されるために、レーザー溶着性なども低下させずに済む。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本実施形態のタンク1として、ナイロン以外の樹脂を樹脂ライナー10の主材料として用いることもできる。例えば、燃料電池システムにおける高圧タンクよりも耐ガス透過性に厳しくないタンクであれば、ポリエチレンやポリプロピレンを用いてもよい。また、樹脂ライナー10として、これらの樹脂を二層以上組み合わせて、複数層から成る積層体として構成することも可能である。さらに、水素ガス以外の気体を貯留するタンクにも本実施形態を適用することが可能である。例えば、圧縮天然ガス(CNGガス)を20MPaで貯留するタンクに適用した場合には、上記した水素吸着性能を有する添加材(水素吸収材)は、天然ガスを吸着する性能を有するものを用いる必要がある。
【符号の説明】
【0031】
1:高圧水素タンク、10:樹脂ライナー、12:FRP層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ライナーを備える高圧水素タンクであって、
前記樹脂ライナーは、
ガスバリア性を有する主材料としての樹脂と、
水素吸着性能を有する添加材を含有するエラストマーと、を有する、高圧水素タンク。
【請求項2】
前記主材料としての樹脂は、ナイロンである、請求項1に記載の高圧水素タンク。
【請求項3】
前記樹脂ライナーは、前記ナイロンと前記エラストマーとの間に相溶化材を有する、請求項2に記載の高圧水素タンク。
【請求項4】
前記添加材は、水素吸蔵合金である、請求項2又は3に記載の高圧水素タンク。
【請求項5】
前記エラストマーは、エチレン・オレフィン系エラストマー又はウレタン系エラストマーである、請求項2ないし4のいずれか一項に記載の高圧水素タンク。
【請求項6】
前記樹脂ライナーの外周面にはFRP層が積層されている、請求項2ないし5のいずれか一項に記載の高圧水素タンク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−276146(P2010−276146A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130635(P2009−130635)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】