説明

高圧電源装置

【課題】 部品点数の増加や作業工程の複雑化を招くことなく、高圧回路部の良好なモールドを実現することができる高圧電源装置を提供する。
【解決手段】 単一の回路基板20上の領域を一端寄りと他端寄りとで低圧領域20aと高圧領域20bとに区分して各領域に低圧回路部5と高圧回路部6とを構成し、一端が基板挿入口30aとして開口する絶縁ケース30に回路基板20を他端側から挿入して高圧回路部6を覆う。これにより、回路基板20上の高圧回路部6側のみに絶縁性充填材35を充填してモールドする。さらに、回路基板20の他端側を製品本体に保持するためのネジ穴33を、絶縁ケース30に設けることにより、絶縁性充填材35の充填によって一端側よりも重量が極端に大きくなる他端側を、回路基板20に過剰なストレスを加えることなく保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、テレビブラウン管に電力供給を行う電源装置等のように、絶縁性充填材によるモールドを必要とする高圧回路部を備えた高圧電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、テレビブラウン管等に電極供給を行う高圧電源装置は、昇圧トランスや多段式倍電圧整流回路等からなる高圧回路部と、制御回路等からなる低圧回路部とを有する。この種の高圧電源装置において、高圧回路部には数KV以上の電圧が印加されるため、安全性や耐久性等の要請上、高圧回路部を絶縁性樹脂等の絶縁性充填材によってモールドする必要がある。従って、例えば、特許文献1に開示されているように、高圧回路部は、低圧回路部と別のユニットで構成され、モールドされた後、信号線やピン端子等を介して低圧回路部に接続されることが一般的である。
【特許文献1】特開2003−134824公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されているように、高圧回路部と低圧回路部とを別ユニットで構成する場合、少なくとも2枚以上の回路基板を必要とし、部品点数の増加や作業工程の複雑化等を招く虞がある。
【0004】
その一方で、高圧回路部と低圧回路部とを単一の回路基板上に構成することも考えられるが、例えば、回路基板上のレイアウト等によっては、絶縁性充填材を充填する領域が増大して重量の増加を招いたり、絶縁性充填材の充填に起因するストレス等を回路上の各部に発生させる等の虞がある。
【0005】
本発明は、部品点数の増加や作業工程の複雑化を招くことなく、高圧回路部の良好なモールドを実現することができる高圧電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単一の回路基板上の領域を一端寄りに設定した低圧領域と他端寄りに設定した高圧領域とに区分し、前記低圧領域に回路部品を実装して低圧回路部を構成するとともに、前記高圧領域に回路部品を実装して高圧回路部を構成し、一端が基板挿入口として開口する絶縁ケースに前記回路基板を他端側から挿入して前記高圧回路部を覆い、前記絶縁ケース内に絶縁性充填材を充填して前記高圧回路部をモールドし、前記回路基板を製品本体に保持する保持部を前記回路基板上の低圧領域と前記絶縁ケースとにそれぞれ設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高圧電源装置によれば、部品点数の増加や作業工程の複雑化を招くことなく、高圧回路部の良好なモールドを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は高圧電源装置の要部を示す分解斜視図、図2は高圧電源装置の平面図、図3は図2のI−I線に沿う要部断面図、図4は図2のII−II線に沿う要部断面図、図5は回路基板上に構成した低圧回路部と高圧回路部の概略構成を示す回路図、図6は図5中(A)〜(D)点における各出力特性を示すタイミングチャートである。
【0009】
図1乃至図5において、符号1は、例えば、テレビブラウン管に5〜20KVの電圧を印加する高圧電源装置(以下、単に電源装置と称する)を示す。
【0010】
図5に示すように、電源装置1の入力コネクタ10には、図示しない電源整流回路に接続する入力端子10aが設けられている。ここで、本実施形態において、電源整流回路は、例えば、100Vの交流電圧を150Vの直流電圧に変換して入力端子10aに供給する。
【0011】
また、入力端子10aに接続する電源ラインには、ノイズを除去するフィルタ11を介して、ハーフブリッジ回路12が接続されている。このハーフブリッジ回路12は、例えば、2個のFET(field effect transistor)素子12a,12bを直列接続した直列回路と、2個のコンデンサ12c,12dを直列接続した直列回路とが電源ラインに対して並列接続されて要部が構成され、これらFET素子12a,12bの共通接続点とコンデンサ12c,12dの共通接続点には、昇圧トランス15の1次コイル15aが接続されている。
【0012】
また、各FET素子12a,12bのゲートには、それぞれ、抵抗12e,12fを介してハイサイドドライバIC13が接続されている。図6(A),(B)に示すように、ハイサイドドライバIC13は、FET素子12a,12bの各ゲートに対し、交互にハイレベルとなる所定周波数(例えば10〜100KHz)のスイッチング信号(デューティ信号)を出力する。そして、2つのFET素子12a,12bが交互にオンされることにより、1次コイル15aの両端には互いに逆極性の駆動パルスが印加され、昇圧トランス15の2次コイル15bから、ピーク間電圧が1〜3KVに昇圧された正弦波電圧が取り出される(図6(C)参照)。
【0013】
さらに、2次コイル15bには、例えば、多段式倍電圧整流回路として、コッククロフト回路16が接続されている。このコッククロフト回路16は、2次コイル15bの一端に直列接続された複数のダイオード16aと、互いに隣接するダイオード16aのアノードとカソードとの間を接続するコンデンサ16bとを備えて要部が構成されている。そして、コッククロフト回路16では、2次コイル15bからの出力を、順次、ダイオード16aで半波整流しながらコンデンサ16bで充電することにより、出力電圧を昇圧させる。なお、本実施形態において、コッククロフト回路16は、例えば、8倍整流回路で構成され、図6(D)に示すように、1〜3KVの正弦波電圧を、5〜20KVの直流電圧に変換する。
【0014】
また、コッククロフト回路16には、出力コネクタ17に配設された出力端子17aが接続されるととともに、出力電圧検出回路18が接続されている。
【0015】
出力電圧検出回路18は、複数の抵抗18aとコンデンサ18bとがシリーズ接続されて要部が構成されている。この出力電圧検出回路18には制御IC14が接続され、制御IC14は、出力電圧検出回路18からの検出電圧に基づき、ハイサイドドライバIC13から出力される各スイッチング信号のデューティ比を可変制御する。これにより、出力端子17aに印加される出力電圧は、所定の一定電圧にフィードバック制御される。
【0016】
本実施形態において、上述の各回路部品10〜18は、単一の回路基板20上に実装される。図1,2に示すように、回路基板20は、例えば平面視略矩形形状をなし、その基板上の領域が、低圧領域20aと高圧領域20bとに区分されている。具体的には、回路基板20上の領域は、例えば、長手方向に沿う一端寄りの領域が低圧領域20aとして設定され、他端寄りの領域が高圧領域20bとして設定されている。
【0017】
そして、回路基板20上の低圧領域20aには、例えば、入力コネクタ10、フィルタ11、ハーフブリッジ回路12、ハイサイドドライバIC13、制御IC14、及び、出力電圧検出回路18の一部(低電位側)等が実装され、これらにより、低圧回路部5の要部が構成されている。また、図1,2に示すように、低圧領域20aには、一端寄りに偏倚する位置に、回路基板20(電源装置1)を図示しない製品本体(本実施形態においてはテレビ筐体等)に保持する保持部として、一対のネジ穴25が穿設されている。
【0018】
一方、回路基板20上の高圧領域20bには、例えば、昇圧トランス15、コッククロフト回路16、出力コネクタ17、及び、出力電圧検出回路18の一部(高電位側)等が実装され、これらにより、高圧回路部6の要部が構成されている。さらに、回路基板20上の高圧回路部6は、絶縁ケース30で覆われ、当該絶縁ケース30内に充填される絶縁性充填材35によってモールドされている(図3,4参照)。
【0019】
絶縁ケース30について具体的に説明すると、図1に示すように、絶縁ケース30は、例えば、扁平な略箱形形状をなす樹脂成型品で構成され、この絶縁ケース30の一端には、回路基板20の他端側を挿入するための基板挿入口30aが開口されている。
【0020】
また、絶縁ケース30には、基板挿入口30aに隣接して対向する一対の側板の内面に、回路基板20をガイドするためのガイド溝31が設けられている。そして、ガイド溝31は、基板挿入口30aを通じて絶縁ケース30内に挿入される回路基板20をガイドすることにより、高圧回路部6を絶縁ケース30内の所定位置に位置決めして保持する。
【0021】
また、絶縁ケース30の外部には、一対の平板部32が設けられている。本実施形態において、各平板部32は、例えば、絶縁ケース30の一部を凹状に成形することにより絶縁ケース30に一体形成され、これら平板部32上には、電源装置1を図示しない製品本体に保持する保持部として、ネジ穴33がそれぞれ穿設されている。ここで、各平板部32は、絶縁ケース30の他端側に偏倚する位置に設けられることが望ましい。また、絶縁ケース30側のネジ穴33と低圧回路部5側のネジ穴25の高さを一致させるため、各平板部32は絶縁ケース30内に保持される回路基板20と面一に設定されていることが望ましい。
【0022】
ところで、周知のように、高圧回路部6に配設される昇圧トランス15は、1次コイル15a及び2次コイル15bが巻装されるボビン37と、このボビン37の軸穴37cに挿入保持される一対のコア38とを有する。図1に示すように、本実施形態において、ボビン37は、その軸穴37cが回路基板20の一端側から他端側へと指向するよう位置決めされ、軸穴37cにコア38を挿入保持しないままの状態で回路基板20に固設される。
【0023】
このボビン37に対応して、絶縁ケース30の上板には一端側から他端側に延びるアーチ状のトンネル部34が形成されている。ここで、図1に示すように、トンネル部34の一端側に開口する開口部34aは基板挿入口30aと一体的に開口されている。これにより、回路基板20が基板挿入口30aを通じて絶縁ケース30内に挿入される際に、回路基板20上のボビン37は、開口部34aを通じてトンネル部34内に挿入される。そして、トンネル部34内の設定位置までボビン37が挿入されると、トンネル部34両端の開口部34a,34bは、ボビン37の両端部に形成されたフランジ37a,37bによってそれぞれ閉塞される。すなわち、トンネル部34の各開口部34a,34b及びボビン37の各フランジ37a,37bは、それぞれ、互いに嵌合可能な形状に形成されている。また、本実施形態において、トンネル部34の各稜線34cは、ボビン37の軸穴37cよりも回路基板20側に位置するよう設定されている(図4参照)。これにより、絶縁ケース30内への回路基板20の挿入後においても、ボビン37の軸穴37cが、絶縁ケース30の外部に露呈され、絶縁ケース30の外側からコア38を挿入可能となっている。
【0024】
次に、高圧回路部6に対する絶縁性充填材35によるモールドの手順について説明する。
先ず、最初の手順として、各回路部品10〜18(但し、昇圧トランス15のコア38は除く)が実装された回路基板20の他端側が、基板挿入口30aを通じて絶縁ケース30内に挿入される(すなわち、絶縁ケース30内に回路基板20上の高圧回路部6が収容される)。
【0025】
次いで、絶縁ケース30の外部に露呈するボビン37の軸穴37cに対し、両端から、コア38がそれぞれ挿入され、保持される。
【0026】
次いで、回路基板20が挿入された絶縁ケース30が基板挿入口30aを上にした状態で保持され、例えば、熱硬化性樹脂等からなる絶縁性充填材35が、基板挿入口30aを通じて絶縁ケース30内に充填される。その際、トンネル部34の開口部34a,34bはボビン37のフランジ37a,37bによって閉塞されているため、絶縁性充填材35の絶縁ケース30からの漏出が防止される。そして、充填された絶縁性充填材35が硬化されることにより、高圧回路部6がモールドされる。
【0027】
このような実施形態によれば、単一の回路基板20上の領域を一端寄りと他端寄りとで低圧領域20aと高圧領域20bとに区分して各領域に低圧回路部5と高圧回路部6とを構成することにより、部品点数や作業工程等を効率的に削減することができる。
【0028】
そして、一端が基板挿入口30aとして開口する絶縁ケース30に回路基板20を他端側から挿入して高圧回路部6を覆うことにより、回路基板20上の高圧回路部6側のみに絶縁性充填材35を効率よく充填することができる。従って、単一の回路基板20上に低圧回路部5と高圧回路部6とを構成した場合にも、余剰な領域のモールド等を的確に防止することができ、絶縁性充填材35による重量の増加等を抑制することができる。
【0029】
さらに、回路基板20の他端側(高圧回路部6側)を製品本体に保持するためのネジ穴33を、絶縁ケース30に設けることにより、絶縁性充填材35の充填によって一端側よりも重量が極端に大きくなる電源装置1の他端側を、回路基板20等に過剰なストレスを加えることなく保持することができる。
【0030】
また、絶縁ケース30の側板に回路基板20をガイドするガイド溝31を設けることにより、回路基板20の絶縁ケース30内での位置決め精度を向上することができる。従って、絶縁ケース30にネジ穴33を設けた場合にも、回路基板20上のネジ穴25との相対的な位置関係を良好に保つことができる。
【0031】
さらに、絶縁ケース30の外部に回路基板20と面一の平板部32を形成し、この平板部32上にネジ穴33を設けることにより、回路基板20の製品本体に対する取付高さを一端側と他端側とで一致させることができる。
【0032】
また、昇圧トランス15を構成するボビン37を、軸穴37cが回路基板20の一端側から他端側へと指向するよう位置決めし、軸穴37cにコア38を挿入保持しないままの状態で回路基板20に固設するとともに、稜線34cが軸穴37cよりも回路基板20側に位置するトンネル部34を絶縁ケース30の上板に形成し、トンネル部34両端の開口部34a,34bを、ボビン37両端部のフランジ37a,37bによって閉塞する構成とすることにより、絶縁ケース30外に軸穴37cを露呈させ、絶縁性充填材35が充填される領域以外でボビン37にコア38を保持することができる。従って、一般に、熱膨張率が大きく異なる絶縁性充填材35とコア38との間で、熱膨張時の干渉を防止でき、絶縁性充填材35のクラックの発生等を防止することができる。
【0033】
なお、上述の実施形態においては、テレビブラウン管用の高圧電源装置の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、高電圧を必要とする他の電子機器等にも適用が可能であることは勿論である。
【0034】
また、回路基板上に低圧回路部及び高圧回路部を構成する各回路部品は上述のものに限定されるものではなく、適宜変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】高圧電源装置の要部を示す分解斜視図
【図2】高圧電源装置の平面図
【図3】図2のI−I線に沿う要部断面図
【図4】図2のII−II線に沿う要部断面図
【図5】回路基板上に構成した低圧回路部と高圧回路部の概略構成を示す回路図
【図6】図5中(A)〜(D)点における各出力特性を示すタイミングチャート
【符号の説明】
【0036】
1…高圧電源装置、5…低圧回路部、6…高圧回路部、10…入力コネクタ(回路部品)、11…フィルタ(回路部品)、12…ハーフブリッジ回路(回路部品)、13…ハイサイドドライバIC(回路部品)、14…制御IC(回路部品)、15…昇圧トランス(回路部品)、16…コッククロフト回路(回路部品)、17…出力コネクタ(回路部品)、18…出力電圧検出回路(回路部品)、20…回路基板、20a…低圧領域、20b…高圧領域、25…ネジ穴(保持部)、30…絶縁ケース、30a…基板挿入口、31…ガイド溝、32…平板部、33…ネジ穴(保持部)、34…トンネル部、34a,34b…開口部、34c…稜線、35…絶縁性充填材、37…ボビン、37a,37b…フランジ、37c…軸穴、38…コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の回路基板上の領域を一端寄りに設定した低圧領域と他端寄りに設定した高圧領域とに区分し、前記低圧領域に回路部品を実装して低圧回路部を構成するとともに、前記高圧領域に回路部品を実装して高圧回路部を構成し、
一端が基板挿入口として開口する絶縁ケースに前記回路基板を他端側から挿入して前記高圧回路部を覆い、前記絶縁ケース内に絶縁性充填材を充填して前記高圧回路部をモールドし、
前記回路基板を製品本体に保持する保持部を前記回路基板上の低圧領域と前記絶縁ケースとにそれぞれ設けたことを特徴とする高圧電源装置。
【請求項2】
前記絶縁ケースは、前記基板挿入口に隣接して互いに対向する側板の内面に、前記回路基板をガイドするガイド溝を有することを特徴とする請求項1記載の高圧電源装置。
【請求項3】
前記絶縁ケースは、内部に挿入された前記回路基板と面一の平板部を外部に有し、当該平板部上に、前記保持部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の高圧電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−215270(P2007−215270A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30128(P2006−30128)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【出願人】(590006332)和光電気株式会社 (20)
【Fターム(参考)】