説明

高密度の半製品又は構成要素を製造する方法

【課題】 微細結晶粒化された微細構造を有しながら、特に中心部において高い密度を示す半製品又は構成要素を提供する。
【解決手段】 本発明は、98.5%より大の平均相対密度および98.3%より大の相対コア密度を有し、モリブデン、モリブデン合金、タングステンおよびタングステン合金を含む群の物質からの構成要素又は半製品を製造する方法に関する。この方法は、相対密度Dが、90%<D<98.5%で、全体の気孔率に対する閉じた細孔の比率が0.8より大となるようにする焼結工程と、(0.40〜0.65)×固相線温度の温度と、50〜300MPaの圧力下で熱間等方加圧プレス加工する工程とを含む。このようにして製造した構成要素は、例えば電極としての使用時、可使時間の大幅な増大を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、98.5%より大の平均相対密度と、98.3%より大の相対コア密度とを有し、モリブデン、モリブデン合金、タングステンおよびタングステン合金を含む群の物質からなる半製品又は構成要素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱金属のモリブデン、タングステンおよびそれらの合金は、通常粉末冶金法により製造される。出発物質として精鉱(ore concentrate)を使用し、化学的に加工して中間体を形成し、次いで還元して金属粉末を得る。この場合、還元剤は水素である。合金要素は、還元前、還元中、又は還元後に混合することができる。
【0003】
典型的なモリブデン合金はTZM(Ti−Zr−C合金化Mo)、Mo−La23、Mo−Y23およびMo−Si−Bである。タングステン系では、AKS−W(カリウム(K)をドープしたW)、W−ThO2、W−La23、W−Ce23、W−Y23およびAKS−W−ThO2が挙げられる。AKS−WおよびAKS−W−ThO2は特に照明技術で使用される、即ち、特にフィラメントと電極に使用される。AKS−WはKを添加してなり、それが小さな気泡の形をとり、結晶粒の成長を安定化させ、その結果高い操作温度で長時間にわたり、安定な微細構造を保持できる。このことは、特に強力なランプ、例えば金属ハライドランプやショートアークランプ等の、表面温度が2600℃にも達するランプの電極の可使時間特性に極めて重要である。
【0004】
粉末を、ダイ加工プレス法又は冷間等方加工プレス法によって圧縮し緊密化することができる。寸法の大きな半製品は、冷間等方加工プレス法で製造すると好ましい。線材や小型のロールシートバーの場合、ダイ加工プレス法と冷間等方加工プレス法のいずも使用できる。フィッシャ法による典型的な粒径が2〜5μmのモリブデン粉末と、フィッシャ法による典型的な粒径が1.5〜4.5μmのタングステン粉末とを使用する場合、0.11〜0.17(モリブデン)および0.13〜0.22(タングステン)の範囲の分別かさ密度(fractional bulk density)が得られる。加圧圧力が200〜500MPaである場合、モリブデンおよびタングステンの何れにおいても、0.6〜0.68の分別未焼結密度(fractional green density)が達成される。
【0005】
次のプロセス工程で、その未焼結品を焼結する。この場合該焼結プロセスは、可能な限り焼結体の気孔率が低く、かつ微細結晶粒化された微細構造を有するように実施する。モリブデンおよびタングステンは、通常露点が0℃未満の水素中で焼結される。通常の焼結温度は、モリブデンの場合で1800〜2200℃、タングステンの場合で2100〜2700℃である。通常の焼結時間は、1〜24時間である。かかる焼結プロセスは結晶粒の境界拡散によって定まるので、粒径が小さい場合にはより低温での焼結が可能である。しかし粒径に応じ、焼結される半製品内の細孔サイズも決まってくる。例えば使用するモリブデン粉末の粒径をフィッシャ法による測定で10μmから2.6μm迄小さくすると、細孔のサイズは1/3に減少する。
【0006】
しかし微細結晶粒化粉末の欠点は、吸着ガス、特に酸素の割合が高くなることである。それは、焼結プロセス時、酸素が焼結ガス中の水素と反応して水蒸気を生成するからである。未焼結圧密品のガス透過性が低く、しかもそれが焼結プロセス中に一段と低下するため、水蒸気が、特に焼結体の中心部から充分に抜けきれない。このことは、特にフィッシャ法による測定で粒径が4.5μm未満の微細結晶粒化粉末を使用した際に必ず起きる。
【0007】
焼結体内部の水蒸気含量が高いと、CVT(化学気相輸送、Chemical Vapor Transport)反応の引き金になる。気相を介した物質輸送によって、このCVT反応は比表面積を低下し、その結果、特に焼結体の内部で焼結のための推進力が低下してしまう。このプロセスは、モリブデンおよびタングステン合金の場合に強力であり、焼結時の添加物が酸素含有化学種を放出し、水蒸気の生成を促進する。かかる例は、AKS−W、Mo−La23又はW−La23で観察される。そのため、特にこれら合金の場合、気相反応により焼結体の寸法に限度が生じる。焼結体の寸法が大きい場合や、極めて微細な結晶粒化粉末を使用する際には、特に焼結体の中心部分で得られる焼結密度が、小さな焼結体やより粗い粉末を使用した場合に比べて低下してしまう。
【0008】
焼結プロセス後、モリブデン、タングステンおよびそれらの合金に、通常加工熱処理を施す。この加工熱処理により、所望の成形、気孔率の低下/除去、所望の機械的性質および微細構造的性質の設定を行える。成形の程度を高くすることで密度を理論密度に迄上げたり、結晶粒のサイズを小さくしたりできる。従って結晶粒のサイズは、選択した成形温度および中間の焼鈍温度に大きく依存する。
【0009】
既述のように、微細結晶粒化粉末を使用したり、焼結プロセスの際に酸素又は水を放出するような化学種を含む合金を使用したりする場合、焼結体のサイズに限度が生ずる。この焼結体から、より寸法の大きな製品を製造しようとすると、そこで可能な成形度では、特に焼結体の中心部の気孔を閉じるには充分でないことがあり得る。
【0010】
このことは、例えばランプの電極材料として使用されるAKSタングステンにあてはまる。特にショートアークランプでは、直径が最高55mmにも達するアノードが使用される。かかる電極の可使時間を決めるのは、その寸法安定性である。電極の変形は、熱により誘導される応力から始まる。この熱的に誘導された応力により、例えば電極の平坦部の領域が持ち上がる可能性がある。するとアークがこの持ち上がり部分に集中し、そのために局所過熱が起きる。このためその領域での電極の溶融が起こり得る。
【0011】
更に、局所的な過熱に伴い、電極材料の蒸発が盛んになる。蒸発した電極材料がランプの球体の上に堆積し、その結果、光束が著しく低下する。
【0012】
これ迄の研究の結果、クリープ現象に伴い、前記の持ち上がりが起きることが明らかになった。材料が細孔を含んでいると、それらのクリープ現象が顕著となる。それは、細孔が空隙源および沈下源として働くからである。更に、細孔が熱の消散を抑制するため、局所的な温度上昇が顕著となる。
【0013】
これに加えて、微細結晶粒化電極材料はより長い可使時間を示す。これは、粗結晶粒化した材料では、損傷が幾つかの結晶粒境界に集中し、その結果アークが集中するため、自己増強効果がそこで起きるという事実に原因があると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の課題は、微細結晶粒化された微細構造を有しながら、特に中心部において高い密度を持つ半製品又は構成要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法により解決される。
【0016】
本発明の方法を用い、98.5%より大の平均相対密度と、98.3%より大の相対コア密度とを有し、モリブデン、タングステンおよびそれらの合金からなる半製品又は構成要素を製造できる。ここで平均相対密度とは単位容積の重量に関する平均密度を、コア密度とは、当業者の間では、半製品又は構成要素の中心部分の密度を意味する。全体の容積に対するコア容積を特定していないので、以下の記述では、コア密度を求めるためのコア容積を以下のように定義する。即ち、
変形に対して直角の方向と変形の方向の大きさとの積の、総合的な表面積の中心に最も近い10%の部分。
【0017】
変形状態において、半製品又は構成要素が、変形の方向と直角をなす方向に、100結晶粒/mm2より多くの数の結晶粒を有していると好ましい。
【0018】
本発明による方法では、フィッシャ法による測定で粒径範囲が0.5〜10μmに入る市販のモリブデンおよびタングステン粉末を使用する。
【0019】
それらの粉末に対し、還元プロセスの前、途中又は後に合金化元素を添加してもよい。それらの粉末を、通常の圧縮高密度化プロセス、例えばプレス法又は冷間等方プレス法により、100〜500MPaの圧力下に圧縮し高密度化させる。
【0020】
焼結は、(0.55〜0.92)×固相線温度の温度で起きる。この際、焼結温度を選択し、理論密度の90〜98.5%にあたる焼結密度を得て、閉じた細孔の全体の気孔に対する比率を0.8より大きくする。相対密度が98.5%より高いと、目的物、即ち結晶粒の数が100結晶粒/mm2より大きい構成要素又は半製品は製造不可能となる。
【0021】
閉じた気孔の全体の気孔に対する比率が0.8より大きいと、次の工程である熱間等方加圧プレスで所望の性質が確実に得られる。その値が0.8より低いと、焼結プロセス後2%<ψ<60%である成形工程が必要となる。ψは以下のように定義する。
((初期横断表面積−成形プロセス後横断表面積)/初期横断表面積)×100。
これにより、周辺部の細孔を確実に閉じられる。
【0022】
熱間等方加圧プレス法は、金型は用いず、50〜300MPaの圧力下、(0.40〜0.65)×固相線温度の温度で実施する。温度が0.4×固相線温度よりも低いと、構成要素又は半製品における98.5%より大の平均相対密度と98.3%より大の相対コア密度という目的を達成できない。温度が0.65×固相線温度より高いと、通常又は異常な結晶粒の成長のため、結晶粒の粗大化が起きるので望ましくない。圧力が50MPaより低いと、同様にして目的とする密度が得られない。圧力が300MPaを超えると、本発明による方法の採算がもはやとれなくなる。
【0023】
それに続く工程で、熱間等方加圧法により圧縮し高密度化した部品の成形を行う。この際の成形度ψは15〜90%である。成形度ψが15%未満であると、98.3%より大の相対コア密度が得られない。成形度が90%を超えると、この方法では採算がとれなくなる。それは、本発明による熱間等方加圧プレス法を使用せずとも、高密度製品の生産が可能だからである。
【0024】
本発明による方法は、放電ランプに使用する直径15〜55mmの電極の製造に特に有用であることが判った。直径が15mm未満の場合には、この種の電極は従来からの製造方法により、経済的に製造することができる。上限の55mmは、この種のランプの限界電力から導いた数字である。
【0025】
電極のための原料物質は、ラジアル鍛造加工法又は圧延加工法による成形にかけると好ましい。試験の結果、本発明の方法により製造した電極は、従来の製造方法で製造した電極より、平均的に20%長い可使時間を有することが判った。
【0026】
以下の実施例を用いて、本発明を更に詳しく説明する。
【0027】
実施例
AKS−W電極を製造すべく、フィッシャ法による測定で粒径が4.1μmのAKS−W粉末を使用した。該粉末を、200MPaのプレス圧で、冷間等方加工プレス加工法により圧縮して高密度化させ、未焼結圧密品を成形した。次いで、水素中2250℃で焼結を行った。完成した焼結ロッドは、浮力法を用いた測定で92.0%の平均相対密度を示した。閉じた気孔の比率は95%より大であった。測定は、水銀ポロシメータ法で行った。次工程で、焼結体を熱間等方加圧法により、温度1750℃、圧力195MPaで3時間かけて、圧縮し高密度化した。熱間等方加圧法操作後の相対平均密度は97.9%であった。次いでロッドを、ラジアル鍛造加工機で成形した。成形度ψは67%であった。成形プロセス後、ロッドは99.66%の平均相対密度、99.63%の相対コア密度を示した。未成形の状態および1800℃/4時間の焼鈍後に結晶粒サイズを測定した。未成形の状態ではロッドの中心部および周辺部の何れにおいても、約10000結晶粒/mm2であった。焼鈍状態では、極めて微細な、結晶粒化した微細構造ができており、平均結晶粒数は、ロッドの中心部で約800、周辺部で850結晶粒/mm2であった。
【0028】
この完成したロッドの化学分析を行ったところ、カリウム:15μg/g、ケイ素:6μg/g、炭素:5μg/g未満、酸素:7μg/gなる結果を得た。
【0029】
本発明により調製した材料を用い、映画投影用の2.5kWショートアークランプのアノードを製造し、平均可使時間が2060時間であることを確認した。比較のため、焼結プロセス後の熱間等方加圧プレス法操作による圧縮高密度化は行わない点を除いて同一の製造プロセスを用いた材料を使用したところ、平均可使時間は1710時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、モリブデン合金、タングステンおよびタングステン合金を含む群の物質から、98.55%より大の平均相対密度および98.3%より大の相対コア密度を有する構成要素又は半製品を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする方法。
フィッシャ法による測定で0.5〜10μmの粒径を有する粉末を準備する工程、
前記粉末をI00〜500MPaの圧力下で加圧する工程、
(0.55〜0.92)×固相線温度の温度で焼結し、相対密度Dを、90%<D<98.5%とする工程、
金型を使用することなく、(0.40〜0.65)×固相線温度の温度と、50〜300MPaの圧力下で、熱間等方加圧プレス加工をする工程、および
成形度ψが、15%<ψ<90%になるように成形する工程。
【請求項2】
前記構成要素又は半製品が、変形した状態で、100結晶粒/mm2より大の平均結晶粒数を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱間等方加圧プレス加工の前に、前記焼結体に2%<ψ<60%の更なる成形を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記焼結体において、全体の細孔に対する閉じた細孔の比率が、0.8よりも大であることを特徴とする請求項1から3の1つに記載の方法。
【請求項5】
前記構成要素又は半製品が、カリウムをドープしたタングステン(AKS−W)からなり、カリウム含量が5〜70μg/gであることを特徴とする請求項1から4の1つに記載の方法。
【請求項6】
前記成形をラジアル鍛造加工又は圧延加工により実施し、この方法によりロッドを製造することを特徴とする請求項1から5に1つ記載の方法。
【請求項7】
前記ロッドが、15〜55mmの直径を有することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ロッドを、ランプ電極を製造するために使用することを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記ランプ電極を、ショートアークランプに使用することを特徴とする請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2007−169789(P2007−169789A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344389(P2006−344389)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506423752)プランゼー メタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【Fターム(参考)】