説明

高強度高結晶性四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体

【課題】予め電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂粉末を室温で圧縮成形したのち焼成する工業的な汎用技術により、実用強度を保持し、高い結晶化度と高い延伸性ならびに引裂き強度、さらには、ガス透過度、圧縮クリープ、線膨張率などを著しく改善した四フッ化エチレン樹脂の成形品を提供する。
【解決手段】電離放射線の吸収線量が0.5kGy〜3kGyである四フッ化エチレン樹脂成形用粉末を用い、それを成形した樹脂の結晶融解熱量が27J/gから40J/gの範囲にあって、その引張り破断強度の保持率が電離放射線を照射しない成形用粉末を用いたときの1/2以上である高い延伸性を持つ、四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用に用いられる四フッ化エチレン樹脂(PTFE)粉末に予め電離放射線を照射し、これを室温で圧縮成形したのち焼結するフリーベーキング法による手法を用いることによって得られる実用強度を保持し、かつ、高い結晶化度と高い延伸性を有する四フッ化エチレン樹脂の圧縮成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
四フッ化エチレン樹脂は、その分子鎖を形成する炭素とフッ素の結合エネルギーが大きく、非常に緻密で安定であるため、元来、結晶化度が高く、さらに融点(327℃)以上の温度でもほとんど溶融流動性がないため、通常のプラスチックのように射出成形、押出し成形等ができない耐熱、耐薬品性等に優れた高分子として知られている。一般に、成形用の四フッ化エチレン樹脂粉末の結晶化度は93%〜98%であるが、この粉末を用いて成形した焼成品の結晶化度は、通常50〜60%である。一方、かくして成形された四フッ化エチレン樹脂の耐放射線性は極めて低く、電離放射線の照射を受けることで分子鎖が切断されて、強度や伸びの機械特性は急激に低下することから、放射線による代表的な崩壊型の樹脂であることが知られている。したがって、成形した四フッ化エチレン樹脂に電離放射線を照射したあとで、再び融点以上の温度まで加熱、溶融したのち徐冷することにより、切断された分子鎖が再配列して結晶化が進むため、さらに結晶化度が増大することは推測の域であり、また、すでに公知である。この場合、結晶化度の増大は機械特性において伸びの増大をもたらすが、強度はさらに低下するために実用強度を損ない、例えば、延伸四フッ化エチレン樹脂多孔質膜の製造加工技術にこの高い延伸性を利用しようとすれば、引張り破断強度が低いために、技術的な困難を伴うことは避けられない。一方、本発明者らによって、成形用の四フッ化エチレン樹脂粉末に一定線量の電離放射線を照射し、これを成形することによって得られる四フッ化エチレン樹脂は驚異的に機械特性の低下が抑制され、引裂き強度や伸びの増大など、むしろ優れた材料特性を発現することが見出されており、放射線照射が必ずしも崩壊に結びつかない言わば改質手段として提案されている(特許文献1,2及び3)。
【0003】
しかしながら、これらの文献は基本的に溶融加圧下による成形であり、急冷した四フッ化エチレン樹脂の場合に限定される。すなわち、産業界で最も汎用される成形技術となっている室温で圧縮成形した当該四フッ化エチレン樹脂粉末のフリーベーキング法による室温での圧縮成形性と、緩慢な熱処理工程による結晶性を吟味した材料特性については、これを言及するに至っていない。したがって、これまでに圧縮工程と熱処理工程を経た明白な裏付けがなく、電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂粉末の応用範囲を狭めているのが実情である。
【特許文献1】特開2001−335643号公報
【特許文献2】特開2002−256080号公報
【特許文献3】特開2004−149650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、予め電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂粉末を室温で圧縮成形したのち焼成する工業的な汎用技術により、実用強度を保持し、高い結晶化度と高い延伸性ならびに引裂き強度、さらには、ガス透過度、圧縮クリープ、線膨張率などを著しく改善した四フッ化エチレン樹脂の成形品を提供することにより、本発明が広く産業技術として普及することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かねてから四フッ化エチレン樹脂の成形用粉末に電離放射線を照射し、四フッ化エチレン樹脂の融点である327℃以上の温度においてこれを溶融状態で圧縮成形した際のさまざまな照射効果を検討してきた。しかしながら、これを室温で圧縮成形したのち圧力を開放し、引き続き焼成することによって得られる照射の効果については、当該樹脂が結晶性であることから焼成条件との関係がつかめず未知であった。そこで発明者らは鋭意検討を重ねることにより、四フッ化エチレン樹脂の圧縮、焼成、および電離放射線の照射条件との相互の関係をつかみ、明らかな付加価値が係る成形体に数多く生まれることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)予め電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂成形用粉末を用いることにより、成形した樹脂の結晶融解熱量が27J/gから40J/gの範囲にあるとともに、その引張り破断強度の保持率が電離放射線を照射しない成形用粉末を用いたときの1/2以上である高い延伸性を持つ、フリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体、
(2)四フッ化エチレン樹脂の成形用粉末に照射する電離放射線の吸収線量が0.5kGy〜3kGyである上記(1)のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体、
(3)フィラーとしてカーボン、カーボングラファイト、ガラス、エコノールなどの繊維状物質もしくは粉体と混合して成る四フッ化エチレン樹脂成形用粉末である上記(1)のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体、
(4)成形した樹脂の気体透過度、線膨張率、圧縮クリープなどが低く抑えられ、物性が改善された上記(1)のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体、
(5)上記(1)記載の四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体を用いて得られる機械加工による切削加工品、
(6)上記(1)記載の四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体から機械加工により切削したテープあるいはシートを用いて延伸加工した四フッ化エチレン樹脂の多孔質体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、四フッ化エチレン樹脂成形用粉末への電離放射線の照射吸収線量を0.5kGy〜3kGyに限定し、それを圧縮成形後に焼成し、その焼成後の樹脂の結晶融解熱量が高い結晶性を示す27J/g〜40J/gの範囲に調整することにより、成形品の実用強度を保持し、高い結晶化度と高い延伸性ならびに引裂き強度、さらには、ガス透過度、圧縮クリープ、線膨張率などを著しく改善した四フッ化エチレン樹脂の成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の圧縮成形には、通常、圧縮凝集性に優れているモールディングパウダーが用いられる。また、モールディングパウダーは、成形品の耐摩耗性を高めるためにフィラーとしてカーボン、カーボングラファイト、ガラス、エコノールなどの繊維状物質、もしくは粉末を混合したものであっても良い。このモールディングパウダーに対しては、あらかじめ室温、大気中で電離放射線の照射を行い、その吸収線量が0.5kGy〜3kGy(キログレイ)の範囲にあるものが用いられる。ここで、電離放射線とは、γ線、電子線、X線、中性子線,および高エネルギーイオンなどを指し、これらを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
本発明において、圧縮成形するときの保持圧ならびに保持時間は、従来技術を特に改める必要はなく、30MPa〜40MPaで10分〜15分間の予備成形で何ら焼成後の物性に与える影響はないが、所定の保持圧まで上昇するに必要な時間は、ここで言う保持時間の1/3程度をかけて、できるだけリニアな昇圧を行うことが推奨される。
【0010】
予備成形体をフリーベーキングするときの温度は低い方が好ましく、また時間は短い方が好ましい。換言すれば、高い温度で長時間の焼成を行うと、引張破断強度が低下する傾向があるため、長時間の焼成が必要であればできるだけ低い焼成温度を選択し、350℃で少なくとも4時間以上であることが好ましい。例えば、直径50mm、高さ70mmの圧縮成形ロッドの焼成条件は、350℃〜380℃の中から選ばれ、焼成時間は350℃で4時間以上、360℃で2時間以上、380℃で1時間以上必要とされる。また、焼成時間を長く取ることにより、さらに結晶性を高めることができる。この際、所定の焼成温度に上昇するまでの時間、ならびに所定の焼成温度から室温まで降下させるときの速度は、毎時間当り70℃〜80℃が好ましく、とりわけ急速な温度降下は、成形体の内部にクラックを生じるなどの不都合が生じ易い。
【0011】
かくして成形、焼成した本発明における四フッ化エチレン樹脂の実用強度とは、その切削テープについて測定した引張破断強度が、照射していないモールディングパウダーを用いて成形したとき(線量が0のとき)の50%以上を保持していることを言う。すなわち、本発明において実用強度が得られるモールディングパウダーの吸収線量は3kGy以下であり、常法による未照射のモールディングパウダーを用いて成形した切削シートに電離放射線を照射して、その引張破断強度が50%以下になる常識的な吸収線量(0.8〜0.9kGy)に比べると、約3倍高い吸収線量であることも本発明の特長のひとつである。
【0012】
高い延伸性とは、照射していないモールディングパウダーを圧縮成形したのち焼成したロッドの切削テープに対して、電離放射線を照射してから再びアニーリングを施こすことで、通常1.5kGy以下の線量において回復する図1に示すところの室温における伸び率を基準とし、未照射時の150〜175%の範囲にあることを言う。この場合、アニーリングによる引張破断強度の回復は認められず、強度保持率は0.5kGy以上の線量で未照射時の50%以下に低下するのが常識である。本発明において、あらかじめモールディングパウダーに照射して得られる高い延伸性は、実用強度が得られる3kGy以下の線量であればこれを達成できるが、強度保持率の高い1kGy〜2kGyの範囲内が特に推奨される。
【0013】
本発明によれば、図1に示すような高い延伸性を得るための手段として、照射してからアニーリングを施す必要はなく、実用強度を保持しながら高い延伸性を持つ四フッ化エチレン樹脂の成形体をつくることができる。本発明の高い延伸性は、すなわち高い結晶性に起因し、当該四フッ化エチレン樹脂の結晶融解熱量が示差走査熱量計による分析によれば、モールディングパウダーの吸収線量が2kGyのとき、未照射時の約1.85倍に相当する37J/gであることによる。この値は、前述した常法により成形したシートに対して照射したのち、これを更にアニーリング処理することによって、伸びが約700%まで増大する吸収線量、換言すれば、0.5kGy照射したのちアニーリングした時の融解熱量である37J/gに等しいことによる。
【0014】
かくして製造される四フッ化エチレン樹脂は、高い破断応力ならびに降伏点強度と高い延伸性を有することはもとより、ガス透過度、線膨張率、および圧縮クリープなどを小さく抑えることができるなどの特長がある。さらには、熱収縮することがないため、薄い切削テープを用いて微小孔径化した延伸多孔質膜を製造するに際しても、照射やアニーリングなど複雑な工程を省いて直ちに延伸工程へ導くことができることから、未照射の四フッ化エチレン樹脂成形用粉末からは得られない高度な付加価値と実用性を備えている。
【実施例】
【0015】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0016】
実施例1
旭硝子フロロポリマーズ(株)製モールディングパウダー(G350)に対して、Co-60を照射線源とする1kGy/hのγ線を室温、大気中で0.5時間、1時間、1.5時間、および2時間照射した試料をそれぞれ用意した。照射しないものを含め、それぞれの試料から直径50mm、高さ70mmの圧縮成形ロッドを調製した。このとき、圧縮成形は5分間かけて30MPaまでリニアに加圧したのち、30MPaで10分間保持した。さらに、金型から取り出した圧縮成形ロッドは、焼成を行うためオーブンに移し、80℃/hの速度で温度を上げ、360℃で4時間保持したのち−100℃/hで室温まで冷却した。かくして調製した圧縮成形ロッドにクラックなどの欠陥はなかった。当該圧縮成形ロッドを切削機にかけ、それぞれを厚さ0.5mmの切削シートとして調製した。さらに、この切削シートから、切削方向と圧縮方向に向きを合わせたダンベル状の引張試験片を打ち抜き、インストロン4302型引張試験機により引張速度200mm/minで、それぞれの破断強度と破断伸びを測定した。なお、破断伸びは標線間隔を追尾し、真の値を求めた。その結果は表1-1(切削方向の引張強度特性)、および表1-2(圧縮方向の引張強度特性)に示すように、未照射時に対する破断強度の保持率は各線量で大きく、また、破断伸びは線量の増大に伴って著しく増大していた。
【0017】
【表1】

【0018】
比較例1
あらかじめモールディングパウダーに電離放射線を照射してから成形する本発明のメリットを明らかにするため、常法により成形した四フッ化エチレン樹脂のシートに対して同等の電離放射線を照射した場合の線量と機械特性の変化を比較した。すなわち、表1に示した未照射のモールディングパウダーを用いて、実施例1同様に調製した切削シート試料に対し、実施例1に同じ条件でγ線を照射した。これらの照射試料は、各線量で実施例1同様に切削方向の引張破断強度と破断伸びを測定した。その結果は、表2に示すように、破断強度の照射による低下が激しく、1kGy以下の線量で半減した。一方、破断伸びは0.5kGyまで僅かに増大するものの、0.5kGyを超えると単純に低下した。これらの結果は、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の放射線による劣化が極めて速く、照射による材料特性の改善策を否定しているものであり、実施例1の本発明による照射効果が優れた材料特性の改善策となって現れていることは明白である。
【0019】
【表2】

【0020】
比較例2
本発明によるフリーベーキング法による圧縮成形では、照射した粉末を室温で圧縮成形したのち時間をかけて焼成するため、この熱履歴が再結晶化を促進する。そこで、常法により成形した四フッ化エチレン樹脂シートに電離放射線を照射した場合の照射後の条件として、熱履歴を与えた後の機械特性を測定した。比較例1同様、未照射のモールディングパウダーを用いて調製した切削シートに各線量のγ線を照射した。照射した各シートは、アニーリングによる破断伸びの変化量を調べるためオーブンに入れ80℃/hで360℃まで加熱し、360℃で2時間保持したのち、−100℃/hの速度で室温まで冷却した。これらの試料は、各線量で実施例1同様に破断強度と破断伸びを測定したところ、破断伸びは図1のごとく増大したが、破断強度は各線量で増大することはなく同等もしくは、さらに低下していた。
【0021】
図1において、曲線1は、常法により圧縮成形した四フッ化エチレン樹脂のシートに対して電離放射線を照射したときの線量と破断伸びの関係を示し、曲線2は、照射後さらに360℃で2時間アニーリングした後の線量と破断伸びの関係を示す。
【0022】
実施例2
実施例1同様に調製した切削シートについて、示差走査熱量計(DSC)により10℃/分の昇温速度で結晶の融解熱量として吸熱量(J/g)を測定したところ、あらかじめ電離放射線を照射したモールディングパウダーを用いた場合、表3に示すように、未照射のモールディングパウダーを用いて調製した切削シート試料より各線量で結晶の融解熱量は大きくなり、明らかに結晶性が高くなっていることを示した。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例3
実施例1同様に2kGy照射したモールディングパウダーを用いて圧縮成形した切削シートの引裂き強度(Trouser shear strength)を測定したところ、厚さ1mm当りの切削方向に向けた引裂き応力は90.4N、および圧縮方向に向けた引裂き応力は94.4Nであった。同様に測定した未照射のモールディングパウダーを用いて圧縮成形した切削シートの引裂き応力は、それぞれ27.6Nおよび25.3Nであった。この結果から、あらかじめモールディングパウダーを照射しておくことによって、引裂き強度は切削方向で約3.3倍、および圧縮方向で約3.7倍大きくなり、裂け目を開いても容易に裂けない特長があることがわかった。
【0025】
実施例4
ダイキン工業株式会社製のモールディングパウダー(ニューポリフロンPTFE、M-139)を用いて、実施例1同様に、あらかじめ1kGyの電離放射線を照射して圧縮成形したフリーベーキング法による切削シート(厚さ0.5mm)の切削方向の機械特性と、同様に未照射のモールディングパウダーを用いて調製した切削シートの機械特性を測定して両者を比較した。その結果は表4に示す通り、微量の変性処理をした新しいタイプの四フッ化エチレン樹脂(PTFE)においても、電離放射線の照射により引張強度は僅かに低下するものの、実用的には降伏点強度が高くなるほか、引張弾性率、破断伸び、引裂き強さも顕著に増大し、優れた照射効果を発揮した。
【0026】
【表4】

【0027】
実施例5
あらかじめ1kGy照射したモールディングパウダー(G350)を用い、焼成時間を2時間としたほかは実施例1と同様に成形した切削シート(厚さ0.5mm)、および、あらかじめ1kGy照射したモールディングパウダー(M-139)を用い、実施例1同様に成形した切削シート(厚さ0.5mm)の23℃における乾燥窒素および酸素に対するガス透過性を差圧法(JIS K7126準拠、差圧1気圧)により測定し、モールディングパウダーの未照射と照射改質の場合を表5に比較した。その結果、ガス透過性は照射改質により明らかに改善されることが証明された。
【0028】
【表5】

【0029】
実施例6
カーボングラファイトおよび、ガラス短繊維入りのモールディングパウダーを用いて成形したそれぞれの切削シートについて、実施例5同様のガス透過性試験を実施した。なお、カーボングラファイトの場合、成形圧力は40MPa、焼成時間は2時間、ガラス短繊維の場合は焼成時間を2時間としたほか実施例1同様の成形条件とした。また、照射改質に要したモールディングパウダーの線量は、カーボングラファイトの場合0.8kGy、およびガラス短繊維の場合0.5kGyとした。表6に示すように、もともとガス透過度の高いこれらのフィラー入りモールディングパウダーは、照射改質によるガス透過度の抑制効果が特に大きく、カーボングラファイトの場合は約1/2に、またガラス短繊維の場合は窒素ガスに対する効果が大きく1/4強まで低下した。
【0030】
【表6】

【0031】
実施例7
あらかじめ1.6kGy照射したモールディングパウダー(G350)を用い、実施例1同様に成形した圧縮成形ロッドから、機械加工により直径20φ、高さ50mmの検体を作り、試験応力7MPaで100℃の圧縮クリープを測定したところ、同じ未照射のモールディングパウダーを用いた成形体が2.4%であったのに対し、1.6kGy照射したモールディングパウダーを用いた成形体は1.8%であった。すなわち、照射改質したモールディングパウダーを用いた四フッ化エチレン樹脂は、変形しにくい特長があり、耐クリープ性に優れていることがわかった。
【産業上の利用分野】
【0032】
本発明においては、電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂粉末を圧縮成形することにより、実用強度を保持し、高い結晶化度と高い延伸性ならびに引裂き強度、さらには、ガス透過度、圧縮クリープ、線膨張率などを著しく改善した四フッ化エチレン樹脂の成形品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】四フッ化エチレン樹脂のシートに電離放射線を照射したときの破断伸びと線量の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め電離放射線を照射した四フッ化エチレン樹脂成形用粉末を用いることにより、成形した樹脂の結晶融解熱量が27J/gから40J/gの範囲にあるとともに、その引張り破断強度の保持率が電離放射線を照射しない成形用粉末を用いたときの1/2以上である高い延伸性を持つ、フリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。
【請求項2】
四フッ化エチレン樹脂の成形用粉末に照射する電離放射線の吸収線量が0.5kGy〜3kGyである請求項1記載のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。
【請求項3】
フィラーとしてカーボン、カーボングラファイト、ガラス、エコノールなどの繊維状物質もしくは粉体と混合して成る四フッ化エチレン樹脂成形用粉末である請求項1記載のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。
【請求項4】
成形した樹脂の気体透過度、線膨張率、圧縮クリープなどが低く抑えられ、物性が改善された請求項1記載のフリーベーキング法による四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。
【請求項5】
予め電離放射線を照射したことにより吸収線量が0.5kGy〜3kGyである四フッ化エチレン樹脂成形用粉末を圧縮成形し、その圧縮成形体を350〜380℃で焼成して得られた四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体であって、その焼成後の樹脂の結晶融解熱量が高い結晶性を示す27J/g〜40J/gの範囲にあるとともに、その引張り破断強度の保持率が電離放射線を照射しない成形用粉末を用いたときの1/2以上である高い延伸性を持ち、且つその窒素及び酸素の気体透過係数が電離放射線を照射しない成形用粉末を用いたときと比較して低くいことを特徴とする四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体。
【請求項6】
請求項1記載の四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体を用いて得られる機械加工による切削加工品。
【請求項7】
請求項1記載の四フッ化エチレン樹脂圧縮成形体から機械加工により切削したテープあるいはシートを用いて延伸加工した四フッ化エチレン樹脂の多孔質体。




【図1】
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【公開番号】特開2007−314645(P2007−314645A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144933(P2006−144933)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(502381771)株式会社プラクト (3)
【Fターム(参考)】