説明

高清浄鋼の溶製方法

【課題】低融点酸化物含有フラックスを溶鋼中に極力残存させないための高清浄鋼溶製方法を提供する。
【解決手段】二次精錬設備において、主成分がCaOで、融点が1500℃以下の酸化物またはフッ化物を一種以上含む脱硫フラックスで溶鋼を脱硫した後にAlを溶鋼中に添加し、その後に溶鋼中に酸素ガスを吹き込むまたは吹き付けることを特徴とし、更にその際、Al添加の添加量が0.02〜0.04mass%であり、かつ酸素ガス吹き込みまたは吹き付け量が、溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nmであることを特徴とする高清浄鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高清浄鋼の溶製方法に関し、詳しくは、二次精錬工程で脱硫のために投入したフラックス粒子の残存を抑制した高清浄鋼の溶製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工性の良好な高張力鋼では、鋼の不純物としてのS濃度を極力低くすることが望まれている。このために、鋼製造時の二次精錬工程(例えばRH設備)で溶鋼の脱硫が行なわれている。この脱硫法に関しては、例えば、特許文献1には、CaOを含有し、溶鋼温度で固液2相となるようなフラックスの使用が記載されている。固液2相を得るための方法として、例えばCaFをCaOに添加することも記載されている。
【0003】
しかしながら、この方法では、脱硫後にも溶鋼中にCaOとCaFを含むフラックス粒子が残存し、この粒子のCaFが高い領域が鋼の圧延時に粒子の前後で伸びて、両側が伸びた針状の介在物となる恐れがある。この介在物が多量にあると、良加工性高張力鋼の加工性評価法の一種である穴拡げ試験での穴拡げ性が悪化する。このような現象は、CaFでなくても低融点の酸化物を含むCaO系フラックスであれば、生じる恐れがある。
【0004】
穴拡げ性に優れた熱延鋼板の製造方法として、特許文献2や特許文献3で、CaFを含む脱硫フラックスを用いた製造方法が記載されているが、脱硫後に溶鋼に残存するフラックス粒子が穴拡げ性に悪影響を与える観点からの説明はない。
【0005】
溶鋼に残存したフラックス粒子を浮上させる手段として、脱硫フラックス吹き込み終了後も続けて減圧下での溶鋼還流を行ない、粒子を浮上させる方法があるが、粒子数を確実に大幅に低減させるためには長時間の還流が必要であり、生産性向上の観点からは不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−240340号公報
【特許文献2】特開平8−176661号公報
【特許文献3】特開平8−291318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加工性の良好な高張力鋼では、鋼の不純物としてのS濃度を極力低くすることが望まれており、鋼製造時の二次精錬工程(例えばRH設備)で溶鋼の脱硫が行なわれているが、その際に脱硫材として溶鋼中に吹き込んだCaF2のような低融点酸化物を含有するCaO系フラックスが、溶鋼中に残留し、圧延時に伸びて、加工時の割れの起点となってしまう場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点を鑑みて案出したものであり、低融点酸化物含有フラックスを溶鋼中に極力残存させないための高清浄鋼溶製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その手段は、以下の通りである。
第1の発明に係る高清浄鋼の溶製方法は、二次精錬設備で、主成分がCaOで、融点が1500℃以下の酸化物またはフッ化物を一種以上含む脱硫フラックスで溶鋼を脱硫した後にAlを溶鋼中に、0.02〜0.04mass%分添加し、その後に溶鋼中に酸素ガスを、溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nm吹き込むまたは吹き付けることを特徴とする。
第2の発明に係る高清浄鋼の溶製方法は、第1の発明において、酸素ガスの吹き込み終了後または吹き付け終了後2分以上還流することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、溶鋼中に懸濁する脱硫フラックスの問題を気にすることなく、高い生産性を確保しながら高い脱硫能を持つ、CaOを主成分とし、融点が1500℃以下の酸化物またはフッ化物を一種以上含む脱硫フラックスを用いてS濃度の非常に低い加工性の良好な高張力鋼を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】介在物の浮上率とAl添加量−酸素供給量の関係を表した図
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明者らは、溶鋼に介在物として残存したCaF含有脱硫フラックスを浮上させる方法を検討した。溶鋼中の介在物を浮上させる方法は、一般的に溶鋼をガスで攪拌して介在物の浮上を促進する方法が行なわれており、この観点からは、脱酸完了または脱硫フラックス吹き込み終了時点からの攪拌時間を長くすることが有効である。しかしながら攪拌時間を長くすることは生産性の低下を引き起こす問題がある。
【0013】
そこで、溶鋼中に懸濁した脱硫フラックスを短時間で浮上させる方法として、溶鋼中に多量にAlを添加し、そこに酸素ガスを吹き込む方法を着想した。溶鋼中にAlを添加し、酸素ガスを吹き込む方法自体は、Al昇熱法として知られており、溶鋼温度が低下した場合に、その温度を上げる目的で使われている。しかしながら、その場合はAl添加と酸素ガス吹込みを同時に行なっているので、すぐにアルミナ(Al)が生成し、脱酸に関する溶解度積、すなわち(mass%Al)2×(mass%O)の値が大きくならない。この結果、多量の介在物が生成しにくくので、後述するような生成した介在物が溶鋼中に懸濁している脱硫フラックスと凝集合体して、浮上を促進する効果が期待できない。
【0014】
本発明では、溶鋼中のAlが吹き込まれた酸素と反応してアルミナが生成する際に、既に溶鋼中に懸濁していたCaFのような低融点酸化物を含む脱硫フラックス粒子を核として核生成したアルミナが、それらどうしや直接均質核生成したアルミナと凝集合体し、粒径が大きくなって浮上することを狙いとしている。この場合には、溶解度積(mass%Al)2×(mass%O)を増大させるために、酸素ガス吹き込みより先にAlを添加してAl濃度(mass%Al)を大きくすることが重要である。
【0015】
そこで、どのようなAl濃度、酸素ガス吹き込み量で、溶鋼中の懸濁介在物が浮上し易いか、実験室規模での実験を行なった。実験の鋼成分(mass%)を表1に、実験条件を表2に示す。介在物浮上率の定義として、まず、溶鋼を所定の成分に調整してフラックスをインジェクションして溶鋼脱硫し、2分経過後、そのまま冷却・凝固させたインゴット中の介在物個数をベースとし、Al濃度や酸素吹き付け量を変化させた水準のインゴットの介在物量をベース個数で割り、100分率化した。酸素吹き付け時間は2分であり、脱硫後の経過時間がベース水準と同じ2分間となるようにした。Al濃度に関しては、まず、溶鋼脱硫を行なう前には、脱酸が必要なので、所定量のAlを脱硫前に添加した。脱硫を行なった後に更にAlを添加したが、この時に添加するAl量を変化させた。実験結果を図1に示すが、脱硫後に添加したAlが濃度として0.02〜0.04mass%の範囲で、かつ吹き込み酸素量が溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nmの範囲である場合に、溶鋼に懸濁した介在物の浮上率が80%以上と高いことが判った。
【0016】
【表1】

【表2】

【0017】
以下に本発明の作用を記す。まず、二次精錬での溶鋼脱流は、脱硫前に溶鋼酸素を極力下げておくことが前提であり、一般にはAl添加で脱酸が行なわれている。したがって、この時点で溶鋼中の酸素濃度は非常に低い。次に脱硫を行なうために、CaO系脱硫フラックスを溶鋼中に吹き込む。このときの脱硫フラックスは、良好な脱硫能を得るために、CaOを主成分とし、融点が1500℃以下の酸化物またはフッ化物を一種以上含む脱硫フラックスである。このような脱硫フラックスは、脱硫能は非常に良いが、溶鋼中に懸濁して残った場合には、圧延で伸ばされるため、鋼板の穴拡げ試験で低値が出やすくなる。溶鋼脱硫処理の間は溶鋼の攪拌も同時に行なわれる。脱硫が終了すると、溶鋼中には浮上し切れなかった脱硫フラックスが懸濁している状態となる。
【0018】
ここからが本発明の重要な点であり、まず、溶鋼攪拌は継続したままでAlを0.02〜0.04mass%の範囲で添加する。より好ましくは0.03〜0.04mass%の範囲で添加する。Alは、脱酸のために、脱硫前にすでに添加されているが、本発明では脱硫後に新たに添加する。Alの添加が終了した後に酸素ガスを溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nmの範囲で溶鋼中に吹き込む。より好ましくは溶鋼1tあたり0.15〜0.2Nmの範囲で溶鋼中に吹き込む。この操作により、多量のアルミナが生成する。
【0019】
このアルミナの生成の仕方は二通りあり、一方は懸濁している脱硫フラックスを核として、その周りに生成し、脱硫フラックス粒子と一体の粒子となる。他方は、直接溶鋼中に単独粒子の状態で均質核生成する。Al濃度と酸素濃度の積が所定の値以上になっていれば、双方の粒子は凝集合体し、サイズの大きな粒子となって溶鋼中を浮上する。
【0020】
脱硫後、酸素吹き込みまたは吹き付け前に添加するAl量を、濃度で0.02〜0.04mass%の範囲と規定したのは、ラボ実験の結果で介在物浮上に効果があったAl濃度に基づき決定した。添加量が0.02よりも低い場合には、アルミナ介在物の生成量が少ないため、溶鋼中に懸濁している脱硫フラックス粒子を多量に浮上させる事が出来ない。また、添加量の上限を0.04mass%としたのは、Al濃度が高すぎると、多量にアルミナが生成するために、今度は浮上し切れなかったアルミナそのものが逆に製品特性に悪影響を与えるためである。
【0021】
吹き込み酸素量が溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nmの範囲と規定したのも、ラボ実験の結果で介在物浮上に効果があった酸素量に基づき決定した。酸素量が溶鋼1tあたり0.1よりも低い場合には、アルミナ介在物の生成量が少ないため、溶鋼中に懸濁している脱硫フラックス粒子を多量に浮上させる事が出来ない。また、酸素量の上限を0.2Nm3としたのは、Alの場合と同様に、多量にアルミナが生成するために、今度は浮上し切れなかったアルミナそのものが逆に製品特性に悪影響を与えるためである。
【0022】
このようにして、懸濁していた脱硫フラックス粒子は浮上し、溶鋼外に排出される。更に、フラックス粒子の浮上を確実なものにするには、酸素ガス吹き込み終了後の還流時間を2分以上確保することが望ましい。なお、本発明を実施すると、Alの酸化発熱のために溶鋼温度が上昇する。しかしながら、一般に溶鋼脱硫時には温度低下を危惧する場合が多いので、本発明は脱硫処理において、良い方向に作用することになる。
【実施例】
【0023】
400t容量の転炉を用いて溶製した溶鋼を、RH真空脱ガス装置を用いて脱硫した。脱硫後、条件を変えてAl添加と酸素ガス供給を行ない、その後連続鋳造して熱延を行ない、熱延板の介在物調査を行なった。併せて穴拡げ試験で評価した。鋼の組成(mass%)を表3に、使用した脱硫フラックス組成(mass%)を表4に、試験条件を表5に示す。酸化物・フッ化物の融点: CaO: 約2570℃、CaF: 1423℃、NaO: 1133℃である。
【0024】
【表3】

【表4】

【表5】

【0025】
結果を表6に示すが、水準1〜5は本発明の場合の条件を満たすものであり、熱延板の介在物個数が減少し、特に伸びた介在物が著しく減少した。また、穴拡げ性も良好な結果を得た。
【0026】
【表6】

【0027】
一方、水準6〜11のいずれの比較例においても、熱延板の介在物個数、特に伸びた介在物の個数が多く、穴拡げ性も不良であった。すなわち、水準6では、追加添加分のAl濃度が低いために、水準7および8では、吹き込み酸素ガス量が少ないために、また水準9および10では、追加添加分のAl濃度が多すぎるために、本発明条件を満足できず、評価結果が不良であった。また水準11は、酸素ガス吹込みを除けば本発明の条件を満たす水準3と同じ条件であるが、Al添加と酸素ガス吹込みが同時なので効果がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
特に、自動車足回り部品として用いられる高張力鋼で、複雑な形状の部品製造のために高度な成形性・加工性が要求される鋼である良加工性高張力鋼の加工性を更に高めるための高清浄鋼溶製技術として利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次精錬設備で、主成分がCaOで、融点が1500℃以下の酸化物またはフッ化物を一種以上含む脱硫フラックスで溶鋼を脱硫した後にAlを溶鋼中に、0.02〜0.04mass%分添加し、その後に溶鋼中に酸素ガスを、溶鋼1tあたり0.1〜0.2Nm吹き込むまたは吹き付けることを特徴とする高清浄鋼の溶製方法。
【請求項2】
酸素ガスの吹き込み終了後または吹き付け終了後2分以上還流することを特徴とする請求項1に記載の高清浄鋼の溶製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280940(P2010−280940A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134392(P2009−134392)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】