説明

高減衰積層体用ゴム組成物

【課題】減衰性が高く、せん断弾性率に優れ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さい積層体が実現可能な高減衰積層体用ゴム組成物の提供。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰積層体用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、震動エネルギーの吸収装置、すなわち、防震装置、除震装置、免震装置等が急速に普及しつつある。例えば、橋梁の支承やビルの基礎の免震には、免震用積層ゴムが用いられている。当該免震用積層ゴムは、ゴム組成物と硬質板とを通常数層から十数層交互に重ね接着させた積層体である。このような免震用積層ゴムは、垂直方向には建物を支えうる硬さを、水平方向には地震時に建物にゆるやかな往復運動を与える柔らかさを有する。即ち、免震用積層ゴムは、せん断剛性を小さくして、建築物の固有振動周期を地震の振動周期からずらすように作用させ、地震により建物が受ける加速度を非常に小さくするものである。上記の免震用積層ゴムに求められる特性としては、例えば、減衰性(振動をより多くの熱に変換して振動エネルギーを減衰させる)が高いことや、所望のせん断弾性率が発現することが挙げられる。
【0003】
免震用積層ゴムに用いられるゴム組成物としては、例えば、特許文献1〜4に記載されているものが挙げられる。
特許文献1に記載されている免震積層体用ゴム組成物は、天然ゴムを主成分とするゴム100質量部に対し、ポリスチレンとビニル−ポリイソプレンのガラス転移温度が−15℃以上のブロック共重合体5〜30質量部、石油樹脂15〜60質量部、および微粒子カーボンブラック50〜90質量部を含んでなる免震積層体用ゴム組成物である。当該免震積層体用ゴム組成物は、振動エネルギー吸収性および長期耐久性に優れていると記載されている。
特許文献2に記載されている高減衰ゴム組成物は、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを50質量部以上含有するゴム100質量部に対して、石油樹脂を15〜60質量部、微粒子カーボンブラックとシリカを合計で60〜95質量部含有し、前記微粒子カーボンブラックと前記シリカの質量部比率が95/5〜75/25の範囲であることを特徴とする高減衰ゴム組成物である。当該高減衰ゴム組成物は、弾性率が低く、かつ、減衰性能、破壊特性等に優れることが記載されている。
特許文献3に記載されている高減衰支承用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が120m2/g以上のカーボンブラックを60〜100質量部、および、補強効果の少ない無機充填剤を10質量部以上含有することを特徴とする高減衰支承用ゴム組成物である。当該高減衰支承用ゴム組成物は、減衰率が高く、かつ、減衰率とせん断弾性率の歪み依存性が低いことが記載されている。
特許文献4に記載されている免震積層体用ゴム組成物は、1)ジエン系ゴムと、2)CTAB比表面積が120〜220m2/gで、CTAB比表面積(m2/g)/よう素吸着量(mg/g)が0.90以下であるカーボンブラックと、3)軟化点70〜150℃のテルペン系樹脂および/または脂環式飽和炭化水素樹脂とを含有し、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有率が40〜160質量部、前記テルペン系樹脂および/または脂環式飽和炭化水素樹脂の含有率が1〜60質量部である免震積層体用ゴム組成物である。当該免震積層体用ゴム組成物は、優れた機械的特性および減衰率を保持しつつ、せん断弾性率の温度依存性が小さく、年間を通して安定したせん断弾性を有することが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−110063号公報
【特許文献2】国際公開第98/16580号パンフレット
【特許文献3】特開2002−20546号公報
【特許文献4】特開2004−27080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の免震用積層ゴムにおいて、(1)高減衰性、(2)優れたせん断弾性率を有することに加え、さらに、(3)免震用積層ゴムが長期にわたり繰り返しせん断変形されても、減衰性およびせん断弾性率が安定していること、(4)年間を通して、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さいことを満たしていることが要求されている。上記(3)は従来は要求されていなかった特性であり、これまで開発された免震用積層ゴム用のゴム組成物ではこのような新しい要求特性(3)とともに上記の他の要求特性をすべて満足させることはできなかった。
従って、本発明は、減衰性が高く、せん断弾性率に優れ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さい積層体を実現することができる高減衰積層体用ゴム組成物の提供を目的とする。
【0006】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、シリカと、無機充填剤と、石油樹脂とを特定の割合で配合したゴム組成物を用いると、減衰性が高く、せん断弾性率に優れ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さい積層体が得られることを知見し、本発明を完成させるに至った。
上記目的は、以下に示す(1)〜(3)の本発明によって達成される。
【0007】
(1)ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
【0008】
(2)前記シリカと前記無機充填剤との合計量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜75質量部であって、
前記シリカと前記無機充填剤の質量比が、1/1〜1/2.5である上記(1)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0009】
(3)前記無機充填剤と前記石油樹脂の質量比が、1/0.2〜1/3.5である上記(1)または(2)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、積層体としたときに、減衰性が高く、せん断弾性率に優れ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物である。
【0012】
本発明に用いられるジエン系ゴムは、特に限定されない。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等を挙げることができる。
【0013】
これらの中でも、減衰性、加工性等のバランスがよい観点からNRが、減衰性、せん断弾性率の温度依存性を低減させる観点からBRがそれぞれ好ましい。
これらのジエン系ゴムの平均分子量、単量体構成モル比、ハロゲン化率等は特に限定されず、用いられる用途に応じて任意に設定できる。
【0014】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物には、上記ジエン系ゴムをそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上を併用する場合の上記ジエン系ゴムの好適な組み合わせとしては、ゴム成分同士の相溶性、加工性、グリーン強度および加硫物性に優れ、また、高減衰積層体の温度依存性と減衰性を確保できる観点から、例えば、NRとBR、IRとBR、NRとIRとBRが挙げられる。中でも、この特性により優れる点で、NRとBRが好ましい。これらの混合比率は特に限定されない。
【0015】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、カーボンブラックを含有する。カーボンブラックを含有させると、高減衰積層体の高せん断弾性率が確保でき、また、高減衰性を確保できる。
【0016】
本発明に用いられるカーボンブラックは、従来公知のものを使用することができる。中でも、CTAB吸着比表面積が100m2/g以上、好ましくは110〜370m2/gのカーボンブラックが好ましい。CTAB吸着比表面積は、カーボンブラックがゴム分子との吸着に利用できる表面積を、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)の吸着により測定した値である。
【0017】
CTAB吸着比表面積が上記のような範囲の場合、得られるゴム組成物を使用する積層体の減衰性を高く維持することができる。このようなカーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAFを挙げることができる。なお、CATB吸着比表面積は、ASTM D3765−80に記載の方法により測定することができる。
【0018】
カーボンブラックの量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜75質量部であり、50〜75質量部であるのが好ましい。カーボンブラックの量がこのような範囲である場合、高減衰積層体の強度を確保できる上、優れたせん断弾性率と高減衰性をも確保でき、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定している。
【0019】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、シリカを含有する。
本発明に使用されるシリカは、従来公知のものを用いることができる。例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカを挙げることができる。
また、シリカは、平均凝集粒径が、5〜50μmのものが好ましく、5〜30μmのものがより好ましい。
【0020】
シリカの量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜35質量部であり、好ましくは10〜30質量部である。このような範囲の場合、減衰性およびせん断弾性率が優れたものとなる。
【0021】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、無機充填剤を含有する。
本発明において、無機充填剤には、カーボンブラックおよびシリカは含まれない。
使用される無機充填剤としては、例えば、T−クレー、カオリンクレー、ろう石クレー、セリサイトクレー、焼成クレーのようなソフトクレー;けいそう土;重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、石英とカオリナイトとの凝集体が挙げられる。これらの中でも、減衰性、および、長期せん断変形に対する安定性を特に高く保つことができるという観点から、T−クレー、カオリンクレー、石英とカオリナイトとの凝集体が好ましい。
【0022】
上記の石英とカオリナイトとの凝集体は、従来公知のものを使用することができる。中でも、塊状石英と板状のカオリナイトとの天然結合物であることが好ましい。市販品としては、具体的には、例えば、シリチン(シリチンZ86、シリチンV85、シリチンN82、シリチン85、シリチンN87、(いずれもホフマンミネラル社製))が好ましい。なお、人工的に製造された同様の構造を有するものを用いることもできる。
上記石英とカオリナイトとの凝集体を含む場合、高減衰積層体用ゴム組成物は、特に、後述する減衰性およびせん断弾性率の安定性改善効果に優れ、後述する石油樹脂と組み合わせて用いると、減衰性およびせん断弾性率を安定して発揮できる。
【0023】
上記石英とカオリナイトとの凝集体を構成する石英とカオリナイトの質量比(石英/カオリナイト)は、特に限定されない。当該凝集体を含有するゴム組成物を用いた積層体が繰り返しせん断変形されても、より高い減衰性およびより優れたせん断弾性率を安定して発揮できるという観点から、石英とカオリナイトの質量比は、12/1〜1/1であることが好ましく、該特性により優れる観点から、9/1〜2/1であることがより好ましい。
【0024】
上記石英とカオリナイトとの凝集体は、石英とカオリナイトとの他に、例えば、酸化鉄、リン成分、硫黄成分を含むことができる。このような凝集体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記無機充填剤の量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜55質量部であり、10〜50質量部が好ましく、15〜40質量部がより好ましい。無機充填剤の量がこのような範囲である場合、得られる積層体は、高い減衰性を維持しつつ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率を安定なものとすることができる。
【0026】
また、シリカと無機充填剤との合計量は、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜75質量部であるのが好ましく、30〜65質量部がより好ましい。シリカと無機充填剤との合計量がこのような範囲である場合、減衰性がより高くなり、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率がより安定なものとなる、バランスの優れた高減衰積層体用ゴム組成物が得られる。
【0027】
そして、シリカと無機充填剤の質量比は、1/1〜1/2.5であるのが好ましく、1/1〜1/2.0であるのがより好ましい。シリカと無機充填剤との質量比がこの範囲の場合、良好な加工性が得られる。
【0028】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、石油樹脂を含有する。
使用される石油樹脂としては、例えば、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体が挙げられる。
上記石油樹脂を含む高減衰積層体用ゴム組成物は、特に、減衰性改善効果に優れ、上述した石英とカオリナイトとの凝集体と組み合わせて用いると高減衰性および優れたせん断弾性率を安定して発揮できる。
【0029】
C5系の脂肪族不飽和炭化水素としては、例えば、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれる、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンのようなオレフィン系炭化水素;2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンのようなジオレフィン系炭化水素が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0030】
C9系の芳香族不飽和炭化水素としては、例えば、ナフサの熱分解により得られるC9留分中に含まれる、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンのようなビニル置換芳香族炭化水素が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC9系の芳香族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC9系の芳香族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0031】
また、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、該共重合体の軟化点が高くなる点で、C9系の芳香族不飽和炭化水素ユニットが60モル%以上であるものが好ましく、90モル%以上であるものがより好ましい。
C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、適当な触媒の存在下で、共重合可能である。
【0032】
上記石油樹脂は、ジエン系ゴムの物性に対し、その分子量および二重結合の反応性が影響を与えるので、軟化点(JIS K2207)が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。
【0033】
石油樹脂の量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜55質量部であり、10〜45質量部であるのが好ましい。石油樹脂の量がこの範囲である場合、該ゴム組成物を用いた積層体は高減衰性を維持しつつ、温度依存性が小さく、長期の繰り返しせん断変形に対する安定性を悪化させることのないバランスの取れた特性が得られる。
【0034】
無機充填剤と石油樹脂の質量比(無機充填剤/石油樹脂)は、上記質量部の範囲において、1/0.2〜1/3.5であることが好ましい。このような範囲の場合、高減衰性、繰り返しせん断変形に対する安定性に優れる。該特性により優れるという観点から、1/1〜1/3.0であることがより好ましく、1/1〜1/2.5であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、その他の添加剤、例えば、硫黄、酸化亜鉛のような加硫剤;TMTDのような有機含硫黄化合物、ジクミルペルオキシドのような有機過酸化物等;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)のようなスルフェンアミド類、メルカプトベンゾチアゾールのようなチアゾール類、テトラメチルチウラムモノスルフィドのようなチウラム、ステアリン酸のような加硫促進剤;TMDQのようなケトン・アミン縮合物、DNPDのようなアミン類、スチレン化フェノールのようなモノフェノール類等の老化防止剤;DBP、DOPのようなフタール酸誘導体、DBSのようなセバシン酸誘導体、といったモノエステル類等の可塑剤;パラフィン系オイル等(プロセスオイル等)の軟化剤;加硫助剤;難燃剤;耐候剤;耐熱剤を含有することができる。
【0036】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、上述の各成分を配合した未加硫ゴム組成物を、適宜成形して公知の方法、装置を用いて、混練等により調製できる。
【0037】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物が用いられる積層体(以下、これを「高減衰積層体」ということがある)としては、例えば、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られるものが挙げられる。
【0038】
このような高減衰積層体は、例えば、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を成形・加硫して、シート状のゴム組成物を得た後、接着剤を含む層を設けて硬質板と交互に積層させて製造することもできるし、また、あらかじめ未加硫の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形し、硬質板と交互に積層した後、加熱して加硫・接着を同時に行って製造することもできる。硬質板としては、例えば、鋼板等の金属板が用いられる。
【0039】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を用いた高減衰積層体は、減衰性が高く、せん断弾性率に優れ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さい。
【0040】
従って、高減衰積層体においては、製品各々に要求される等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)を満たした上、後述する本発明の高減衰積層体におけるHeq変化比、Geq変化比、温度依存性が以下の範囲であるのが好ましい。
【0041】
高減衰積層体におけるHeq変化比の下限は、繰り返しせん断変形に対してHeqの低下が小さい(減衰性の低下が小さい)との観点から、0.81以上が好ましく、この特性により優れる点で、0.83以上がより好ましく、0.85以上が特に好ましい。HeqおよびHeq変化比の求め方については後述する。
【0042】
また、高減衰積層体におけるGeq変化比の上限は、Geqの上昇が小さい(せん断剛性の上昇が小さい)との観点から、1.07以下が好ましく、これらにより優れる点で、1.06以下がより好ましく、1.05以下が特に好ましい。また、Geq変化比の下限は、Geqの低下が小さいとの観点から、0.93以上が好ましく、これらにより優れる点で、0.94以上がより好ましく、0.95以上が特に好ましい。GeqおよびGeq変化比の求め方については後述する。
高減衰積層体におけるGeqの温度依存性は、室温(23℃)で測定したGeq(Geq23℃)に対する−10℃で測定したGeq(Geq-10℃)の比が、1.00〜1.40であるのが好ましく、1.00〜1.30であるのがより好ましい。
高減衰積層体におけるHeqの温度依存性は、室温(23℃)で測定したHeq(Heq23℃)に対する−10℃で測定したHeq(Heq-10℃)の比が、1.00〜1.30であるのが好ましく、1.00〜1.20であるのがより好ましい。
【0043】
高減衰積層体のHeqおよびGeqは、ラップシェアせん断試験により測定される。
図1は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。図1において、1はラップシェア型せん断試験用試料を、2は未加硫ゴム組成物を、3は鋼板を示す。
未加硫ゴム組成物2は、幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延された、本発明の高減衰積層用ゴム組成物の未加硫ゴム組成物である。鋼板3は、表面がサンドブラストされ、金属接着剤が塗布された鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm)である。
ラップシェア型せん断試験用試料1は、未加硫ゴム組成物2と、鋼板3とを、図1に示されるように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫して得られる。
【0044】
ラップシェアせん断試験は、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用いて、以下に示す条件で行われる。
上記のように作製されたラップシェア型せん断試験用試料を用いて、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下、175%歪みを10回加えたときの各1回のせん断特性値の平均(n=10)(Geq、Heq)を求める。Geq、Heqは、上記ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシスループより、下記式(1)、(2)に従って算出する。図2に、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシスループの一例を示す。
また、この高減衰積層体を用いて、引き続き、同様の条件で、70%歪みを5000回加えた後に上記せん断特性値と同条件で平均せん断特性値(Geq2、Heq2)を求める。
【0045】
このようにして求められたGeq1、Heq1、Geq2、Heq2から、Geq変化比、Geq変化比が得られる。即ち、Heq変化比は、Heq2をHeq1で割った値である。また、Geq変化比は、Geq2をGeq1で割った値である。このHeq変化比およびGeq変化比によって、積層体が長期に繰り返しせん断変形されたときの物性の変化を評価することができる。
【0046】
高減衰積層体の等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)は、それぞれ、下記式(1)および式(2)で表される。
【0047】
【数1】

【0048】
式(1)中、△Wはヒステリシスループの面積(図2中、斜線部分)である。
式(2)中、Keqは下記式(3)で表され、Hは高減衰積層体中に積層されるゴム層の合計の厚みを表し、Aはゴム層の断面積である。
【0049】
【数2】

【0050】
高減衰積層体は、振動エネルギーの吸収装置として用いられればその用途、適用条件等は、特に限定されない。中でも、上述の優れた特性を有するため、建築用の振動エネルギーの吸収装置として用いられるのが好ましく、例えば、各種の免震、除振、防振等の振動エネルギーの吸収装置(より具体的には、例えば、道路橋の支承や、橋梁、ビルの基礎免震、戸建免震用途)に好適に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に従ってより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1〜7、比較例1〜5(ラップシェア型せん断試験用試料の作製)
まず、下記第1表に記載の組成(単位は質量部)にて、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練して調製した未加硫ゴム組成物を、幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延した。当該未加硫ゴム組成物(図1中の2)と、表面をサンドブラストして金属接着剤を塗布した鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm、図1中の3)とを、図1のラップシェア型せん断試験用試料1の側面図に示すように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫してラップシェア型せん断試験用試料を作製した。
【0053】
1.ラップシェアせん断試験
ラップシェアせん断試験を、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用いて行った。サンプルとしては、上記のラップシェア型せん断試験用試料を用いた(各実施例で使用した試料の数は10個であった)。当該試料に対し、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下、175%歪みを10回加え、ラップシェアせん断試験を行った。当該ラップシェアせん断試験によって得られたヒステリシスループが示すXmaxおよびQmaxを用い、式(1)、式(2)に従って平均せん断特性値(Geq、Heq)を求めた。引き続き、当該試料を用いて、上記と同様のせん断試験機により、変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下、70%歪みを5000回加えて、再度ラップシェアせん断試験を行った。上記平均せん断特性値(Geq、Heq)と同様に平均せん断特性値(Geq2、Heq2)を求めた。各々の結果を第1表に示す。
【0054】
2.Geq変化比およびHeq変化比の算出・評価結果
Geq2をGeq1で割りGeq変化比を求めた。また、Heq2をHeq1で割りHeq変化比を求めた。
Geq変化比の評価結果として、Geq2/Geq1の値が、0.95以上1.04未満の場合を○、1.04以上1.05未満の場合を△、1.05以上の場合を×とした。
Heq変化比の評価結果として、Heq2/Heq1の値が、0.80未満の場合を×、0.80以上0.81未満の場合を△、0.81以上1.00以下の場合を○とした。
それぞれの結果を第1表に示す。
【0055】
3.温度依存性の評価
上記のように作製されたラップシェア型せん断試験用試料を用いて、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度が室温(23℃)で、175%歪みを10回加えたときの各1回の室温でのせん断特性値の平均(n=10)(Geq23℃、Heq23℃)を求めた。次に、測定温度を−10℃に代えた他は測定温度が室温(23℃)の場合と同様にして、−10℃でのせん断特性値の平均(n=10)(Geq-10℃、Heq-10℃)を求めた。そして、Geq温度依存性として、Geq-10℃/Geq23℃(第1表中では、「−10℃/室温」と記載した)を算出した。また、Geq温度依存性の評価結果として、Geq-10℃/Geq23℃の値が、1.00以上1.30以下の場合を○、1.30より大きく1.40以下の場合を△、1.40より大きい場合を×とした。Heq温度依存性についても同様に行った。結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
第1表中の成分
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:NipolBR1220、日本ゼオン社製
カーボンブラック:ダイヤブラックI、三菱化学社製
石油樹脂:ハイレジン#120(軟化点120℃、東邦化学社製)
ソフトクレー:ユニオンクレーRC−1、竹原化学工業社製
シリチン:シリチンZ86(質量比(石英:カオリナイト)約6.8:1、密度2.6g/cm3)、ホフマンミネラル社製
水酸化アルミニウム:ハイジライトH−42M、SHEPHERD CHEMICAL CO.社製
タルク:MISTRON VAPOR、日本ミストロン社製
硫酸バリウム:沈降性硫酸バリウム100、堺化学工業社製
シリカ:ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製
アロマオイル:ダイアナプロセスAH−20、出光興産社製
硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
加硫促進剤:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0058】
第1表から明らかなように、実施例1〜7の高減衰積層体用ゴム組成物から得られた積層体はいずれも、(1)減衰性が高く、(2)せん断弾性率に優れ、(3)長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率が安定で、(4)減衰性およびせん断弾性率の温度依存性が小さかった。このように、実施例1〜7の高減衰積層体用ゴム組成物は、特定の配合のバランスにより上記の4つの特性を併せ持つことができた。
比較例1〜5の高減衰積層体用ゴム組成物から得られた積層体は、上記(3)および/または(4)の特性を満足させることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。
【図2】図2は、積層体のヒステリシス曲線の一例を表したグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 ラップシェア型せん断試験用試料
2 未加硫ゴム組成物
3 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項2】
前記シリカと前記無機充填剤との合計量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜75質量部であって、
前記シリカと前記無機充填剤の質量比が、1/1〜1/2.5である請求項1に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤と前記石油樹脂の質量比が、1/0.2〜1/3.5である請求項1または2に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−143849(P2006−143849A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334477(P2004−334477)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】