高温スラグの処理方法
【課題】処理工程で強アルカリ水を生成させることがなく、処理に長時間を必要とせず、スラグを有価物として効率的に回収することができる高温スラグの処理方法を提供する。
【解決手段】CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する。一次冷却はピット2上のスラグに散水する方法で行われ、二次冷却はロータリークーラーなどの冷却装置10を使用して行われる。本発明は、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴としており、スラグが自由水と接触しないので従来のような強アルカリ水を生成させることなく、CaO含有率の低いスラグを得ることができる。
【解決手段】CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する。一次冷却はピット2上のスラグに散水する方法で行われ、二次冷却はロータリークーラーなどの冷却装置10を使用して行われる。本発明は、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴としており、スラグが自由水と接触しないので従来のような強アルカリ水を生成させることなく、CaO含有率の低いスラグを得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程や溶銑予備処理工程において発生する高温のスラグの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程や溶銑予備処理工程からは、1200℃〜1600℃の高温のスラグが大量に発生する。通常はこれらのスラグを面積が広いスラグヤードに排出し、大量の散水を行って冷却しているが、冷却効率が悪いために冷却に長時間を要するうえに、凝固したスラグの表面から発生する粉塵の飛散を防止するために、集塵コストが嵩むという問題があった。また散水が不均一になるとスラグ中にCaO成分が残存し、スラグを路盤材として使用する場合の障害となるおそれがあった。
【0003】
しかも、スラグ中の微粉部分に分散している未反応CaO成分が水中にCa(OH)2として分散し、更に、この水と接触したスラグ全体にCa(OH)2が付着して、全体が強アルカリ性となってしまい、スラグを路盤材、或いは海洋用途に使用する場合には、白濁を生じるので、中和処理が必要になる。また、この強アルカリ水により集中配管などの処理設備が腐食することがある。更に、このようにして生じた強アルカリ水を、中和する必要が生じる。
【0004】
なお特許文献1には、溶融状態の製鋼スラグを浅底広皿上に注入して散水による一次冷却を行い、次に排滓台車内で散水による二次冷却を行い、更に貯水ピットに浸漬する製鋼スラグの安定化処理方法が開示されている。しかしこの方法はスラグを水中に浸漬するため、上記した強アルカリ水が発生するという問題がある。
【0005】
また特許文献2には、製鋼スラグをスラグ容器に入れて徐冷し、得られたα´−Ca2SiO4を大量に含むスラグ大塊を破砕してスラグ小塊とし、これを急速冷却してα´−Ca2SiO4をγ−Ca2SiO4に変態させてスラグを粉化させることが記載されている。しかしこの方法はγ−Ca2SiO4を多量に析出可能なステンレススラグに対してのみ有効な方法であり、一般の製鋼工程から発生するスラグには適用することができない。しかも特許文献2の実施例に記載されているように、徐冷のために24時間にもわたる冷却時間を要するため、生産性が低いという問題もある。
【特許文献1】特公平5−42380号公報
【特許文献2】特開2003−247786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、従来のスラグヤードでの水冷方式のような発塵問題を生ずることがなく、かつ処理工程で強アルカリ水を生成させることがなく、処理に長時間を必要とせず、スラグを有価物として効率的に回収することができる高温スラグの処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する高温スラグの処理方法であって、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、請求項2のように、二次冷却を行う冷却装置として、内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段とを備えたロータリークーラーを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することができる。また請求項3のように、二次冷却を行う冷却装置として、ケーシングの内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段と振動板とを備えた振動冷却コンベヤを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することができる。
【0009】
なお請求項4のように、冷却装置の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することが好ましく、請求項5のように、冷却装置の入口にグリズリーを設置し、一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することが好ましい。さらに、請求項6のように、CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることが好ましく、請求項7のように、一次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炉から排出されたCaOを含有する高温のスラグを、熱間状態から冷却するに際し、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却により行うので、従来のようにスラグ中のCaOが冷却水中に溶出することがなく、強アルカリ水が発生することがない。このためスラグ全体がアルカリ性となってしまうことがなく、また強アルカリ水によって装置が腐食することもない。
【0011】
しかも高温のスラグが水分子と接触することによってスラグ中の炭素と水との水性ガス化反応が進行するとともに、この反応によって生じたCOがCO2となるシフト反応も進行し、生成されたCO2がスラグ中のCaOをCaCO3に変化させる。この結果、冷却されたスラグ中のCaOの含有率を低下させることができる。
【0012】
なお、二次冷却は自由水を発生させないようにガス冷却で行うことも考えられるが、本願発明のように水冷却により行うことによって冷却能力が高まり、冷却装置の出側におけるスラグ温度が安定する。なお、製鋼工程において脱硫剤や脱リン剤として溶銑や溶鋼中に添加されるCaOの粒径は75μm前後のものが普通であるから、スラグ中に残留している未反応のCaOの粒径はこれ以下である。このため、冷却されたスラグを粗大粒と微小粒とに分級すると未反応のCaOは微小粒側に集まり、粗大粒中の未反応のCaO含有率はさらに低くなる。このため分級を行うことにより未反応CaO含有率の低いスラグと未反応CaO含有率が比較的高いスラグとに分離することができ、それぞれの有効活用が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態の説明図であり、CaOを含有する高温のスラグをスラグパン1からピット2に流下させ、先ず一次冷却を行う。本発明で処理対象とする高温のスラグは、炉または鍋から排出された製鋼スラグや溶銑予備処理スラグであり、製鋼スラグには転炉吹錬スラグ、溶銑予備処理スラグには溶銑脱リンスラグ、溶銑脱硫スラグなどが含まれる。
【0014】
これらの製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグ中には、溶銑中に吹き込まれたCaOの微粉末(前記したように75μm前後)の一部が未反応のフリーCaOとして含有されている。なお、炉や鍋から排出されるスラグの温度はスラグの種類により異なるが、一般的には製鋼スラグでは1400〜1600℃であり、溶銑予備処理スラグでは1200〜1400℃である。
【0015】
一次冷却を行うピット2の構造は特に限定されるものではないが、ここでは砕石層の上に厚さ0.25mのスラブを敷き詰めた構造を採用している。このほか、冷却ボックスを使用して一次冷却を行うこともできる。高温のスラグはピット2上で均一な厚さに掻き均され、大きな塊や地金を取り除かれる。さらに自由水を発生させない範囲で散水ノズル3から冷却水を噴霧する。このとき、噴霧した冷却水が瞬時に蒸発してスラグから気化熱を奪い、自由水の状態で残留しないようにすることが必要であり、自由水を発生させるとスラグ全体からのアルカリ溶出の問題が生ずるので好ましくない。この一次冷却によって、スラグ温度を800〜1250℃程度にまで降下させる。
【0016】
次にピット2からパワーショベル等の適宜の機器によりスラグを取り出し、冷却装置10において二次冷却を行う。冷却装置10の前段にはホッパー11が設置されており、その表面にはグリズリーと呼ばれる篩分け用の格子12が傾斜状態で設けられている。一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊はこの篩分け格子12によって分離され、グリズリーを通過した小径のスラグのみが振動フィーダー13によって冷却装置10に投入される。
【0017】
二次冷却のための冷却装置10としては様々な形式のものを用いることができるが、この実施形態ではロータリークーラーが用いられている。これはケーシング14を水平面に対してわずかに傾斜させた軸線のまわりに回転させ、その内部に冷却風吹付け手段15を設けたものである。冷却風吹付け手段15はケーシング14の中心を貫通するように設置されており、この冷却風吹付け手段15から冷却風を噴出して内部のスラグを冷却する構造のクーラーである。なおケーシング14の外周にも冷却水供給手段19が配置されて外部冷却を行うようになっている。一次冷却によって800〜1250℃となったスラグはケーシング14の上端のホッパー11から投入され、ケーシング14の回転に連れて徐々に出口16の方向に移動して行く。
【0018】
なお二次冷却のための冷却装置10としては、このようなロータリー型の冷却装置のほか、図2に示すようにケーシング14の内部に冷却風吹付け手段15と振動板21とを備えた振動冷却コンベヤを使用することもできる。振動板21の下方から吹き上がる冷却風によってスラグは流動しながら出口16の方向に移動して行く。いずれの場合にも冷却装置10を使用するのは、スラグの保有熱を有効利用して水性ガス化反応やシフト反応を進行させるためである。また冷却装置10を使用することにより、水性ガス化反応によって生成されるCOが周囲の雰囲気中に放出される危険も防止することができる。
【0019】
このように本発明では冷却装置10を用いてスラグの二次冷却を行うのであるが、一次冷却のみならず二次冷却も、自由水を発生させない範囲での水冷却とした点に特徴がある。このために冷却装置10の内部には冷却水供給手段17が配置されており、冷却装置10の内部を移動するスラグに対して散水を行う。しかしその散水量は高温のスラグと散水とが接触した瞬間に気化し、自由水を発生させない量とする。このときスラグから大量の気化熱が奪われ、スラグは300℃以下、好ましくは250℃以下にまで冷却される。なお、自由水の発生を確実に防止するためには、冷却装置10の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することが必要である。
【0020】
このように本発明では一次冷却および二次冷却工程において、スラグと自由水とが接触することはないので、従来のようにアルカリ水が発生することはない。従ってスラグ全体がアルカリ性となってしまうことがなく、また強アルカリ水によって装置が腐食することも防止できる。しかも水性ガス化反応およびシフト反応を進行させることによって、スラグ中のフリーCaOを低下させることができる。
【0021】
二次冷却により300℃以下にまで冷却されたスラグは、コンベヤ20に排出される。前記したようにスラグ中に残留しているCaOはおおよそ75μm以下がほとんどであり、自由水を発生させずに冷却されたスラグ中には微細粒子として分散しているため、排出されたスラグを篩などで分級すれば、未反応CaOは微小粒側に集中し、粗大粒側にはほとんど含まれない。このため、CaO含有率の低い粗大粒と、CaO含有率の高い微小粒とを得ることも可能となる。
【0022】
なお、冷却装置10の内部においてはスラグの冷却に伴う粉砕や、機械的な撹拌に伴う粉砕によって粉塵が発生するので、内部の空気をサイクロン集塵機18に通して集塵したうえで外部に排気している。
【0023】
本発明の方法により処理されたスラグはCaOの含有率が低いので、そのまま、あるいはわずかに炭酸化処理するのみで、例えば漁礁などの海洋資材として使用可能である。また従来はスラグを路盤材として使用する際にはエージング処理を要していたが、本発明によって得られた粗大粒のスラグはフリーCaOの含有率が低いので、エージングレスまたはエージング期間の短縮を図ることが可能となる。
【0024】
このように本発明の高温スラグの処理方法によれば、高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却するので、従来のような広大なスラグヤードが不要となり、巨大な集塵機が不要となる。また冷却はスラグを自由水と接触させることなく行うため、処理工程で強アルカリ水を生成させることがなく、装置の腐食も生じない。また水冷による強制冷却方式を採用しているので処理に長時間を必要としない。
【実施例1】
【0025】
CaO粉末を吹き込んで溶銑の脱りん・脱硫処理を行った際に生成した約1300℃の溶銑予備処理スラグを、スラブ敷きのピットに移し替え、均一な厚さに掻き均した上で、表面に散水して1000℃まで一次冷却した。スラブ層の厚さは0.25mであり、その面積は約6m×5mである。冷却水は瞬時に蒸発し、自由水は発生しない。
【0026】
このようにして一次冷却されたスラグをホッパーに投入してグリズリーで地金大塊を分離除去したうえ、直径約2m、長さ約8mのロータリークーラーに供給し、二次冷却を行った。ロータリークーラーの入口におけるスラグ温度は850℃である。このスラグに142m3/hの冷却風を吹付けて内部空冷した。またロータリークーラーの外周面を30T/hの冷却水で水冷するとともに、内部の冷却水供給手段から1T/hの冷却水をスラグに散水し、自由水を発生させない範囲でスラグの水冷却を行った。ロータリークーラー内のスラグの平均滞留時間は20分である。
【0027】
この結果、ロータリークーラーの出口から約220℃に冷却されたスラグが排出され、ロータリークーラーの内部を通過する間のスラグの温度降下量は630℃であった。スラグはロータリークーラーの内部を搬送される間に粉砕され、粉砕スラグとなっている。なお、元のスラグに含有されるCaOの含有率は6〜9%であるが、ロータリークーラーの出口では2.5〜4%にまで低下した。このスラグは後処理を行わなくても、JIS−5015において路盤材に要求される膨張比1.5%以下の特性を満足することができる。
【0028】
一方、ロータリークーラーの内部冷却をガス冷却とした場合には、ロータリークーラーの内部を通過する間のスラグの温度降下量は450℃にとどまり、自由水の発生はないものの、冷却能力の低下は明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 スラグパン
2 ピット
3 散水ノズル
10 冷却装置
11 ホッパー
12 篩分け用の格子
13 振動フィーダー
14 ケーシング
15 冷却風吹付け手段
16 出口
17 冷却水供給手段
18 サイクロン集塵機
19 冷却水供給手段
20 コンベヤ
21 振動板
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程や溶銑予備処理工程において発生する高温のスラグの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程や溶銑予備処理工程からは、1200℃〜1600℃の高温のスラグが大量に発生する。通常はこれらのスラグを面積が広いスラグヤードに排出し、大量の散水を行って冷却しているが、冷却効率が悪いために冷却に長時間を要するうえに、凝固したスラグの表面から発生する粉塵の飛散を防止するために、集塵コストが嵩むという問題があった。また散水が不均一になるとスラグ中にCaO成分が残存し、スラグを路盤材として使用する場合の障害となるおそれがあった。
【0003】
しかも、スラグ中の微粉部分に分散している未反応CaO成分が水中にCa(OH)2として分散し、更に、この水と接触したスラグ全体にCa(OH)2が付着して、全体が強アルカリ性となってしまい、スラグを路盤材、或いは海洋用途に使用する場合には、白濁を生じるので、中和処理が必要になる。また、この強アルカリ水により集中配管などの処理設備が腐食することがある。更に、このようにして生じた強アルカリ水を、中和する必要が生じる。
【0004】
なお特許文献1には、溶融状態の製鋼スラグを浅底広皿上に注入して散水による一次冷却を行い、次に排滓台車内で散水による二次冷却を行い、更に貯水ピットに浸漬する製鋼スラグの安定化処理方法が開示されている。しかしこの方法はスラグを水中に浸漬するため、上記した強アルカリ水が発生するという問題がある。
【0005】
また特許文献2には、製鋼スラグをスラグ容器に入れて徐冷し、得られたα´−Ca2SiO4を大量に含むスラグ大塊を破砕してスラグ小塊とし、これを急速冷却してα´−Ca2SiO4をγ−Ca2SiO4に変態させてスラグを粉化させることが記載されている。しかしこの方法はγ−Ca2SiO4を多量に析出可能なステンレススラグに対してのみ有効な方法であり、一般の製鋼工程から発生するスラグには適用することができない。しかも特許文献2の実施例に記載されているように、徐冷のために24時間にもわたる冷却時間を要するため、生産性が低いという問題もある。
【特許文献1】特公平5−42380号公報
【特許文献2】特開2003−247786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、従来のスラグヤードでの水冷方式のような発塵問題を生ずることがなく、かつ処理工程で強アルカリ水を生成させることがなく、処理に長時間を必要とせず、スラグを有価物として効率的に回収することができる高温スラグの処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する高温スラグの処理方法であって、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、請求項2のように、二次冷却を行う冷却装置として、内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段とを備えたロータリークーラーを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することができる。また請求項3のように、二次冷却を行う冷却装置として、ケーシングの内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段と振動板とを備えた振動冷却コンベヤを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することができる。
【0009】
なお請求項4のように、冷却装置の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することが好ましく、請求項5のように、冷却装置の入口にグリズリーを設置し、一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することが好ましい。さらに、請求項6のように、CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることが好ましく、請求項7のように、一次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炉から排出されたCaOを含有する高温のスラグを、熱間状態から冷却するに際し、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却により行うので、従来のようにスラグ中のCaOが冷却水中に溶出することがなく、強アルカリ水が発生することがない。このためスラグ全体がアルカリ性となってしまうことがなく、また強アルカリ水によって装置が腐食することもない。
【0011】
しかも高温のスラグが水分子と接触することによってスラグ中の炭素と水との水性ガス化反応が進行するとともに、この反応によって生じたCOがCO2となるシフト反応も進行し、生成されたCO2がスラグ中のCaOをCaCO3に変化させる。この結果、冷却されたスラグ中のCaOの含有率を低下させることができる。
【0012】
なお、二次冷却は自由水を発生させないようにガス冷却で行うことも考えられるが、本願発明のように水冷却により行うことによって冷却能力が高まり、冷却装置の出側におけるスラグ温度が安定する。なお、製鋼工程において脱硫剤や脱リン剤として溶銑や溶鋼中に添加されるCaOの粒径は75μm前後のものが普通であるから、スラグ中に残留している未反応のCaOの粒径はこれ以下である。このため、冷却されたスラグを粗大粒と微小粒とに分級すると未反応のCaOは微小粒側に集まり、粗大粒中の未反応のCaO含有率はさらに低くなる。このため分級を行うことにより未反応CaO含有率の低いスラグと未反応CaO含有率が比較的高いスラグとに分離することができ、それぞれの有効活用が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明の実施形態の説明図であり、CaOを含有する高温のスラグをスラグパン1からピット2に流下させ、先ず一次冷却を行う。本発明で処理対象とする高温のスラグは、炉または鍋から排出された製鋼スラグや溶銑予備処理スラグであり、製鋼スラグには転炉吹錬スラグ、溶銑予備処理スラグには溶銑脱リンスラグ、溶銑脱硫スラグなどが含まれる。
【0014】
これらの製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグ中には、溶銑中に吹き込まれたCaOの微粉末(前記したように75μm前後)の一部が未反応のフリーCaOとして含有されている。なお、炉や鍋から排出されるスラグの温度はスラグの種類により異なるが、一般的には製鋼スラグでは1400〜1600℃であり、溶銑予備処理スラグでは1200〜1400℃である。
【0015】
一次冷却を行うピット2の構造は特に限定されるものではないが、ここでは砕石層の上に厚さ0.25mのスラブを敷き詰めた構造を採用している。このほか、冷却ボックスを使用して一次冷却を行うこともできる。高温のスラグはピット2上で均一な厚さに掻き均され、大きな塊や地金を取り除かれる。さらに自由水を発生させない範囲で散水ノズル3から冷却水を噴霧する。このとき、噴霧した冷却水が瞬時に蒸発してスラグから気化熱を奪い、自由水の状態で残留しないようにすることが必要であり、自由水を発生させるとスラグ全体からのアルカリ溶出の問題が生ずるので好ましくない。この一次冷却によって、スラグ温度を800〜1250℃程度にまで降下させる。
【0016】
次にピット2からパワーショベル等の適宜の機器によりスラグを取り出し、冷却装置10において二次冷却を行う。冷却装置10の前段にはホッパー11が設置されており、その表面にはグリズリーと呼ばれる篩分け用の格子12が傾斜状態で設けられている。一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊はこの篩分け格子12によって分離され、グリズリーを通過した小径のスラグのみが振動フィーダー13によって冷却装置10に投入される。
【0017】
二次冷却のための冷却装置10としては様々な形式のものを用いることができるが、この実施形態ではロータリークーラーが用いられている。これはケーシング14を水平面に対してわずかに傾斜させた軸線のまわりに回転させ、その内部に冷却風吹付け手段15を設けたものである。冷却風吹付け手段15はケーシング14の中心を貫通するように設置されており、この冷却風吹付け手段15から冷却風を噴出して内部のスラグを冷却する構造のクーラーである。なおケーシング14の外周にも冷却水供給手段19が配置されて外部冷却を行うようになっている。一次冷却によって800〜1250℃となったスラグはケーシング14の上端のホッパー11から投入され、ケーシング14の回転に連れて徐々に出口16の方向に移動して行く。
【0018】
なお二次冷却のための冷却装置10としては、このようなロータリー型の冷却装置のほか、図2に示すようにケーシング14の内部に冷却風吹付け手段15と振動板21とを備えた振動冷却コンベヤを使用することもできる。振動板21の下方から吹き上がる冷却風によってスラグは流動しながら出口16の方向に移動して行く。いずれの場合にも冷却装置10を使用するのは、スラグの保有熱を有効利用して水性ガス化反応やシフト反応を進行させるためである。また冷却装置10を使用することにより、水性ガス化反応によって生成されるCOが周囲の雰囲気中に放出される危険も防止することができる。
【0019】
このように本発明では冷却装置10を用いてスラグの二次冷却を行うのであるが、一次冷却のみならず二次冷却も、自由水を発生させない範囲での水冷却とした点に特徴がある。このために冷却装置10の内部には冷却水供給手段17が配置されており、冷却装置10の内部を移動するスラグに対して散水を行う。しかしその散水量は高温のスラグと散水とが接触した瞬間に気化し、自由水を発生させない量とする。このときスラグから大量の気化熱が奪われ、スラグは300℃以下、好ましくは250℃以下にまで冷却される。なお、自由水の発生を確実に防止するためには、冷却装置10の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することが必要である。
【0020】
このように本発明では一次冷却および二次冷却工程において、スラグと自由水とが接触することはないので、従来のようにアルカリ水が発生することはない。従ってスラグ全体がアルカリ性となってしまうことがなく、また強アルカリ水によって装置が腐食することも防止できる。しかも水性ガス化反応およびシフト反応を進行させることによって、スラグ中のフリーCaOを低下させることができる。
【0021】
二次冷却により300℃以下にまで冷却されたスラグは、コンベヤ20に排出される。前記したようにスラグ中に残留しているCaOはおおよそ75μm以下がほとんどであり、自由水を発生させずに冷却されたスラグ中には微細粒子として分散しているため、排出されたスラグを篩などで分級すれば、未反応CaOは微小粒側に集中し、粗大粒側にはほとんど含まれない。このため、CaO含有率の低い粗大粒と、CaO含有率の高い微小粒とを得ることも可能となる。
【0022】
なお、冷却装置10の内部においてはスラグの冷却に伴う粉砕や、機械的な撹拌に伴う粉砕によって粉塵が発生するので、内部の空気をサイクロン集塵機18に通して集塵したうえで外部に排気している。
【0023】
本発明の方法により処理されたスラグはCaOの含有率が低いので、そのまま、あるいはわずかに炭酸化処理するのみで、例えば漁礁などの海洋資材として使用可能である。また従来はスラグを路盤材として使用する際にはエージング処理を要していたが、本発明によって得られた粗大粒のスラグはフリーCaOの含有率が低いので、エージングレスまたはエージング期間の短縮を図ることが可能となる。
【0024】
このように本発明の高温スラグの処理方法によれば、高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却するので、従来のような広大なスラグヤードが不要となり、巨大な集塵機が不要となる。また冷却はスラグを自由水と接触させることなく行うため、処理工程で強アルカリ水を生成させることがなく、装置の腐食も生じない。また水冷による強制冷却方式を採用しているので処理に長時間を必要としない。
【実施例1】
【0025】
CaO粉末を吹き込んで溶銑の脱りん・脱硫処理を行った際に生成した約1300℃の溶銑予備処理スラグを、スラブ敷きのピットに移し替え、均一な厚さに掻き均した上で、表面に散水して1000℃まで一次冷却した。スラブ層の厚さは0.25mであり、その面積は約6m×5mである。冷却水は瞬時に蒸発し、自由水は発生しない。
【0026】
このようにして一次冷却されたスラグをホッパーに投入してグリズリーで地金大塊を分離除去したうえ、直径約2m、長さ約8mのロータリークーラーに供給し、二次冷却を行った。ロータリークーラーの入口におけるスラグ温度は850℃である。このスラグに142m3/hの冷却風を吹付けて内部空冷した。またロータリークーラーの外周面を30T/hの冷却水で水冷するとともに、内部の冷却水供給手段から1T/hの冷却水をスラグに散水し、自由水を発生させない範囲でスラグの水冷却を行った。ロータリークーラー内のスラグの平均滞留時間は20分である。
【0027】
この結果、ロータリークーラーの出口から約220℃に冷却されたスラグが排出され、ロータリークーラーの内部を通過する間のスラグの温度降下量は630℃であった。スラグはロータリークーラーの内部を搬送される間に粉砕され、粉砕スラグとなっている。なお、元のスラグに含有されるCaOの含有率は6〜9%であるが、ロータリークーラーの出口では2.5〜4%にまで低下した。このスラグは後処理を行わなくても、JIS−5015において路盤材に要求される膨張比1.5%以下の特性を満足することができる。
【0028】
一方、ロータリークーラーの内部冷却をガス冷却とした場合には、ロータリークーラーの内部を通過する間のスラグの温度降下量は450℃にとどまり、自由水の発生はないものの、冷却能力の低下は明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 スラグパン
2 ピット
3 散水ノズル
10 冷却装置
11 ホッパー
12 篩分け用の格子
13 振動フィーダー
14 ケーシング
15 冷却風吹付け手段
16 出口
17 冷却水供給手段
18 サイクロン集塵機
19 冷却水供給手段
20 コンベヤ
21 振動板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する高温スラグの処理方法であって、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴とする高温スラグの処理方法。
【請求項2】
二次冷却を行う冷却装置として、内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段とを備えたロータリークーラーを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項3】
二次冷却を行う冷却装置として、ケーシングの内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段と振動板とを備えた振動冷却コンベヤを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項4】
冷却装置の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項5】
冷却装置の入口にグリズリーを設置し、一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項6】
CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項7】
一次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項1】
CaOを含有する高温のスラグを一次冷却したうえ、冷却装置の内部を移動させつつ二次冷却する高温スラグの処理方法であって、一次冷却および二次冷却を何れも、自由水を発生させない範囲での水冷却とすることを特徴とする高温スラグの処理方法。
【請求項2】
二次冷却を行う冷却装置として、内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段とを備えたロータリークーラーを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項3】
二次冷却を行う冷却装置として、ケーシングの内部に冷却風吹付け手段と冷却水供給手段と振動板とを備えた振動冷却コンベヤを使用し、自由水を発生させない範囲での水冷却と空冷とを併用することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項4】
冷却装置の出口におけるスラグ温度を100℃以上に維持することを特徴とする請求項1に記載の高温スラグの処理方法。
【請求項5】
冷却装置の入口にグリズリーを設置し、一次冷却を終えたスラグ中の地金大塊を分離することを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項6】
CaOを含有するスラグが、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグであることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【請求項7】
一次冷却を終えたスラグの温度が、800〜1250℃であることを特徴とする請求項1記載の高温スラグの処理方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2009−127093(P2009−127093A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304215(P2007−304215)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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