説明

高精密部品の加圧冷却処理方法

【課題】真空加熱処理作用が終了した被処理物へ対して加圧又は冷却用の気体を供給するとき、当該気体中に水分が含有されていると、その水分が被処理物に水分が付着することになり、被処理物に不良が発生するので、不良品の発生しない加圧冷却処理方法を提供する。
【解決手段】処理室24内を加圧又は冷却する際に気体供給源より送給される気体の温度及び蒸気圧を露点調整手段14によって調整し、気体を室24内に導入する時、当該処理室24内の露点が少なくともドライ・クリーンルーム内における気体の露点と同じか少なくともそれより僅かに低い露点になるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、ガラス板、エポキシ樹脂板、液晶デイスプレイ素子、その他種々の高精度電子部品の表面を熱処理するための加圧冷却処理方法に関する。より詳細には、所定の圧力容器内に収容した複数の部品を加圧加熱し次いで当該容器内を真空状態にし、そこに収容した部品に蒸着又は焼成等の所定の熱処理を施しその後、低露点の気体を供給することにより品質が極めて高い熱処理を短時間に行なうことが出来る高精密物品の加圧冷却処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の加熱加圧冷却処理作業においては、室内へ被処理部品としてのワークを配置すること、該室の周囲に設けた加熱手段を作動させると同時に当該室内の内部圧力を上昇すること、室内温度が所定の温度に達した後、当該室内温度を一定温度に保持すると共に当該室内圧力を高圧雰囲気に維持しながら部品を定圧定温状態に保持し所望の加熱処理を行なうこと、所定時間が経過後、室内温度を一定に保持しながら室内圧力を大気圧以下まで減圧し脱気処理を行なうこと、室内の圧力を再び大気圧以上まで上昇しかつ室内温度を徐々に降下しながら被処理部品に熟成処理を行なうこと、室内を更に上昇した圧力状態に維持しながら加熱手段を不作動とし被処理部品を急冷すること、室内の圧力を大気圧まで減圧すること、室から真空加熱処理済みの被処理部品を取り出すこと、の各工程によって所定の室内において高精密部品を加圧冷却処理する加圧冷却処理方法は知られている。
【0003】
更には、室内へ被処理部品を配置すること、該室の外周及び内周に配置した加熱手段を作動させること、加熱手段の作動と同時に当該室内の圧力を少なくとも2気圧以上の圧力まで上昇すること、室内温度が所定の温度に達した後、主に室の外周加熱手段によって当該室内温度を一定温度に保持すると共に当該室内圧力を約2気圧程度に維持しながら部品を加熱保持すること、所定時間が経過後、室内圧力を約1トールまで減圧すること、室の内周加熱手段によって室内温度を当該所定温度に保持すること、室内の圧力を再び少なくとも2気圧以上の圧力まで上昇しかつ室の内周加熱手段を不作動とすることにより室内温度を徐々に降下しながら被処理物品を熟成処理すること、室内圧力を更に上昇した圧力状態に維持しながら加熱手段を不作動としかつ加圧ガス導入弁とガス排気弁とを開放することにより被処理部品を急冷すること、室内の圧力を大気圧まで減圧すること、室から真空加熱処理済みの被処理部品を取り出すこと、の各工程によって所定の室内において高精密部品を加圧冷却処理する加圧冷却処理方法も知られている。
【0004】
上述したこれらの方法はいずれも、本件出願人が特許第2622356号において開示している。図2は上記加圧冷却処理方法を実施する時のワーク処理室内の圧力と、ワーク処理室内のワーク各部の温度状態と、の関係を経時的示したグラフが示されている。このグラフから明らかなように、上記処理方法即ち焼成工程は、概括的には、初期処理工程、圧力温度調整工程、加熱処理工程、脱気工程、熟成工程、冷却工程、開放工程、の諸工程を経て実行されている。
【0005】
これらの方法によれば、ワーク即ち被処理物の温度上昇が非常に早くまた、ワークの加熱を高圧力雰囲気下にて行なうことによりワークの配置位置によるワーク各部の温度分布に差がほとんど発生せず、均一化した温度分布が得られ、更に、熟成即ちアニール工程において室内加熱手段により室内温度を降下しないように維持することによりワーク全体にほぼ均一なアニール処理が施されるので、この方法によって処理されるワーク全体にわたり物理化学的に均質化した品質が得られる。このため歩留まりが極めてよい。更に、この方法によれば、所定の熱処理時間がこれまでの場合に比較して1〜2時間短縮出来、作業時間及び消費エネルギの減少が図れるという優れた効果を提供している。
【0006】
更にまた、正規の低温運転時にはドレン排出孔を閉じて該孔からの外気侵入による冷却器への結露や霜付きを抑制でき、それにより冷却能力の維持および低温連続運転時間の延長を図ることが出来る低温恒温器であって、ドレン排出孔からの排出の処理を、別途バット等を準備する必要がなく簡単に処理できる低温恒温器として、恒温槽の底部にドレン排出孔を設けると共に、該排出孔に、正規の低温運転時には閉じ、デフロスト運転時には開くような感温型自動開閉弁を設け、これにより排出孔からのドレン水を冷凍機の恒温槽外露受けに導くようにした低温恒温器が知られている(実開平5−26145)。この低温恒温器によれば、正規の低温運転時にはドレン排出孔を自動的に閉じて該孔からの外気侵入による冷却器への結露や霜付きを抑制でき、これにより冷却能力の維持および低温連続運転時間の延長を図ることが出来、またドレン水を冷凍機の霜受けに導くように配管してある時は、デフロスト運転時にドレン水は別途バット等を準備する必要なく簡単に処理しうるという効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2622356号
【特許文献2】実開平5−26145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然しながら、特許第2622356号に開示してある方法において、室内での反応促進のために、初期処理領域時に当該室内へ加圧気体としての空気、窒素、その他の乾燥気体を供給したり、反応処理後の冷却領域時に同様に乾燥気体を導入することがある。しかし、しばしば、当該乾燥気体内に湿気が含まれていることがあるため、特に、ワークを加熱乾燥処理した後の室内へ乾燥気体を導入したときに、該乾燥気体内に残っている僅かな湿気がワーク表面へ付着し、このため、ワークの仕上がり品質に劣化が発生するという課題があった。このため、ワークを加熱乾燥処理した後の室内へ乾燥気体を導入することを行なわないという選択も可能であるが、そうすると、ワークの処理時間、更には処理済のワークを室内から取出すまでの時間を短縮することが出来ず、昨今の作業時間短縮の要請に応えることが出来ない。更にまた、実開平5−26145に係る低温恒温器において、ドレン排水孔から排水されるドレン水には多分の水分が包含されており、面状ヒータで加熱した露受けパンが必須であり、装置の価格上昇を免れない。そこで、本件発明はこれらの課題を解消することを目的としている。
【0009】
しかしながら、上記方法においては、真空加熱処理手段12の圧力容器20へ所定の気体を供給して当該圧力容器20内部の圧力を調整する際に、当該気体中に水分が含まれているときには当該水分を除去するために多少処理時間を長くするよう調整する必要があった。この調整は加熱処理領域の前段階においては加熱手段の作用温度を高めたりまたは作用時間を長くするなど、加熱手段を適切に調整することにより容易に解消できる。然るに加熱処理領域の後段階においては所望の真空加熱処理作用が終了した被処理物26へ対して湿気のある気体を供給する結果となり、このため、被処理物26に水分が付着することになり、このため、被処理物26に不良が発生する危険がある。この危険を防止するために、加熱処理領域の後段階においては、圧力容器20内への気体の供給を行なわないという選択が可能である。しかしそうすると、加熱処理作業の時間が長くなり、経済的面からは大きな課題となる。そこで、本件真空加熱処理方法においては、露点調整手段14を設置することによりこの課題を解消している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明は、高精密部品を加圧冷却処理する方法であって、処理室内へ被処理部品としてのワークを配置すること、該処理室の周囲に設けた加熱手段を作動させると同時に当該処理室内の内部圧力を上昇すること、処理室内温度が所定の温度に達した後、当該処理室内温度を一定温度に保持すると共に当該処理室内圧力を高圧雰囲気に維持しながら部品を定圧定温状態に保持し所望の加熱処理を行なうこと、所定時間が経過後、処理室内温度を一定に保持しながら処理室内圧力を大気圧以下まで減圧し脱気処理を行なうこと、処理室内の圧力を再び大気圧以上まで上昇しかつ処理室内温度を徐々に降下しながら被処理部品に熟成処理を行なうこと、処理室内を更に上昇した圧力状態に維持しながら加熱手段を不作動または目的の冷却曲線を得るための補助的手段とし被処理部品を急冷すること、処理室内の圧力を大気圧まで減圧すること、次いで処理室から真空加熱処理済みの被処理部品を取り出すこと、の諸工程よりなり、処理室内を加圧する際に気体供給源より送給される気体の温度及び蒸気圧を露点調整手段によって調整し、気体を室内に導入する時、当該処理室内の露点が少なくともドライ・クリーンルーム内における気体の露点と同じか少なくともそれより僅かに低い露点になるように調整されていることを特徴とする高精密部品の加圧冷却処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
ワークの温度上昇が非常に早くまた、ワークの加熱を高圧力雰囲気下にて行うことによりワークの配置位置によるワーク各部の温度分布に差がほとんど発生せず、均一化した温度分布が得られる。更に、熟成即ちアニール工程において室内加熱手段により室内温度を降下しないように維持することによりワーク全体にほぼ均一なアニール処理が施されるので、この装置によって処理されるワーク全体にわたり物理化学的に均質化した品質が得られる。このため歩留まりが極めてよい。更に、本発明装置によれば、所定の熱処理時間がこれまでの場合に比較して1〜2時間短縮出来、作業時間及び消費エネルギの減少が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本件発明の方法を実施するために最適な装置の概略図である。
【図2】処理室内の圧力と被処理物の温度状態とを、時間との関連で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本件発明は、実質的に本件出願人が特許第2622356号において公開した方法を改良することによって、これまでの物品よりも一層高精密な部品、たとえばリチウム電池、燃料電池、太陽電池、更には液晶部品等に使用される各種の高精度基板に所望の加圧冷却処理を適用することが出来る方法を開示するものである。図1は本件発明の方法を好適に実施するために最適な高精密部品の加圧冷却処理装置10の概略図を示している。この装置10は、概括的には、加圧冷却処理手段12と、露点調整手段14と、から構成されている。実質的に加圧冷却処理作用を行なう機能を有している加圧冷却処理手段12は、本質的に上記特許において公開した公知の装置と類似した構成を有している。
【0014】
加圧冷却処理手段12は、一端が開放の圧力容器20と、該圧力容器20の開放端部を開閉自在に密封封止可能な圧力容器扉22と、を有している。圧力容器20の断面形状は円形、楕円形又は矩形等を有することが出来、また、扉22はその断面形状の開放端部を適切に密封出来る形態を有している。圧力容器20の内部には処理室24が画定されている。処理室24内には上述した各種の高精度基板からなる被処理物26がそれ自体公知の手段により配設されている。なお、被処理物26を処理室24の内部へ送給したりそこから取り出すためには上記特許に開示したような公知の架台やワーク支持台等が使用され得る。なお、圧力容器20と圧力容器扉22とは隔壁28によって隔絶されており、隔壁28の一方(図において左方)はドライ・クリーンルーム16となっている。このため、圧力容器扉22はドライ・クリーンルーム内に存置している。
【0015】
更に、処理室24内には被処理物26の周辺部において処理室内部の圧力を感知するための圧力センサー30が配置されている。また、処理室24の閉鎖端部付近には処理室内部の気体を攪拌し、処理室内部の温度を均一にするための攪拌用ファン32が設置されている。このファン32は、例えば圧力容器20の閉鎖端外部に配置されたモーター34により、回転軸36及び軸シール手段38を介して、駆動される。また、圧力容器20の内部においてファン32の周辺部には処理室冷却用コイル40が配置されている。この冷却コイル40は圧力容器20の外部に設置した冷凍機42に接続されており、圧力容器20の内部を冷却する際に冷凍機42からの冷気が膨張弁44を介して供給される。膨張弁44を開閉することにより処理室24内の温度を適切に調節することが出来る。この処理室冷却用コイル40は、熱交換器であるので設置位置はファン32から離れている場合もある。形状もコイル状であったりプレート状であったり、最適の形状が選ばれる。更に、図示していないが、処理室24の内部であって被処理物26に対置する部分や閉鎖端部付近、更には処理室24の外周部分、ワーク支持台から立ち上がっている立上片のワークに面する部分等にはコイルヒータ又はパネルヒータ等の加熱手段が配置されている。
【0016】
本件発明において特に留意されるべき点は、処理室24の内部の圧力を調整するために当該処理室24へ送給する気体の露点を予め調整するための露点調整手段14が設けてあることである。処理室24の内部へ気体を送給するのは、処理室内部の圧力を迅速に上昇させたり、処理室24の内部を迅速に冷却することにより当該加圧冷却処理に要する時間を短縮するためである。また、処理室24の内部へ送給する気体の露点を予め調整するのは、送給する気体中に過度の湿気が含まれていると、その湿気がワークへ付着してワークの品質を劣化するので、予めかかる危険を阻止するためである。ここで、使用される気体としては、空気、窒素ガス、アルゴン、その他の不活性ガスが好ましい。
【0017】
露点調整手段14は、圧力容器50を有している。この容器50の内部には前記気体の露点を予め所定の値に調節する気体露点調整室52が画定されている。当該調整室52の内部には調整室52内部を冷却するための冷却コイル54が配置されている。この冷却コイル54の一端部は、矢印で示すように、冷凍機42へ接続されている。冷却コイル54の他端部は冷凍機42へ接続されており、冷凍機42と冷却コイル54の他端部との間を結ぶ配管中には膨張弁58が設置されている。この膨張弁58を開閉することにより調整室52内部の温度を適切に調節することが出来る。更に調整室52には室内の圧力を感知するための圧力センサー56が設けてある。
【0018】
更に気体露点調整室52には、当該調整室52へ所定の気体を供給するための気体供給源60が接続されている。この気体供給源60は実際には使用者が具備しているユーティリティが一般的であり、必要に応じて増圧器が付加されることもあるが、多くの場合は、エアーコンプレッサー等が使用され得る。なお、本件発明において使用される気体としては、空気、窒素ガス、アルゴン、その他の不活性ガスが好ましいことは前述の通りである。気体供給源60と圧力容器50との間には圧力調整のための減圧弁62が配置されている。更に、圧力容器50は、別の減圧弁64および気体供給弁66を介して、真空加熱処理手段12の圧力容器20へ接続されている。こうして圧力容器20へ送給される気体の圧力および量を調整可能としている。また、当該気体供給弁66から供給される気体を適切に排出して圧力容器20の内部圧力を適正圧力に調整するため、真空加熱処理手段12の圧力容器20には圧力開放弁68が設けてある。
【0019】
本件の真空加熱処理装置10において、真空加熱処理手段12は、上記特許において開示したものと同様の工程に基づき、気体供給弁66を介して圧力容器20内を加圧し、圧力開放弁68を介して圧力容器20内を減圧又は脱気し、更には圧力容器20の周辺に配置した図示していない加熱手段を介して圧力容器20内を加熱し、処理室冷却用コイル40を介して圧力容器20内を冷却することにより、被処理物26を適切に真空加熱処理することが出来る。
【0020】
本件発明の方法では、露点調整手段14によって、真空加熱処理手段12の圧力容器20へ供給する気体の露点を予め所定の値になるように調整している。このため、圧力容器20内へ対する、加熱処理領域の前段階における加熱手段の作用時間または温度の調整を不要とし、さらに加熱処理領域の後段階における気体供給を可能とし、こうしてこれまでの課題を完全に解消したのである。即ち本件発明では、処理室24へ送給する気体の露点を、露点調整手段14により、処理室24内の露点以下に調整している。このため、露点を予め低くなるように調整された気体が処理室24へ送給されるので当該気体の送給によってワーク自体へ結露が発生するということが完全に防止出来るのである。更に、この露点をドライ・クリーンルーム16内の雰囲気での露点に接近した値に予め調整しておけば、圧力容器扉22を開放して処理済のワークを取り出すときにも、当該ドライ・クリーンルーム内の露点を上げてしまうことはない。
【0021】
またワークの冷却温度をドライ・クリーンルーム内の温度より2℃以上高めにすることにより、当該ドライ・クリーンルーム内においてワークへ結露が発生する事を完全に防止し極めて高品質な処理が達成出来る。以下にその作用を述べる。
【0022】
図示の装置10において、露点調整手段14のユーティリティ即ち気体供給源60は、たとえば、これを窒素とすると、具体的には液化窒素、窒素ボンベ、窒素製造装置が考えられる。ここで、液化窒素は、設備も大きなものとなりかつ高額な設備投資も必要となる。可搬式液化窒素も存在するが、これは内部の窒素を使用しなくても時間の経過と共に消費してしまうので好ましくない。窒素ボンベは、多数の中型容器を枠組し、固定した供給装置を使用してガスを供給する集合設備であるカードル式や長尺容器を使用したセルフローダー式やトレーラー式があるがいずれの場合にも、当該ボンベを頻繁に交換する必要があり、また純度によって価格の差が著しい。たとえば純度99.5%の窒素の価格を5とすると、純度99.999%の窒素では28、純度99.9998%の窒素では31と言った具合である。そこで、一般的には無尽の空気を原料にした窒素製造装置が使用されている。
【0023】
現在は取り出し圧力0.7MPaまたは0.88MPa、窒素ガス純度99.9%のものが比較的導入しやすい価格で市販されている。しかし、この窒素製造装置は、−60℃、−55℃、−38℃のような低露点のドライ・クリーンルームに使用することは想定していない。ましてや露点を調節しながら圧力容器に供給し圧力容器の中で低露点の加圧冷却を行なうことも全く想定されていない。
【0024】
また、気体を空気とすると、冷凍式エアードライヤー内蔵型エアーコンプレッサーでも室温30℃において出口空気1.08MPaの露点は10℃程度であり、このときの水の蒸気圧は1.227KPaである。これを大気圧まで下げても[1227÷10.8=114Pa]であり、これは露点が約−19℃である。これではやはり低露点の加圧冷却には適さないことは明らかである。
【0025】
そこで本件発明の方法では特に市販の窒素製造装置若しくは冷凍式エアードライヤー内蔵型エアーコンプレッサーを、必要であればこれらの装置の後にブースターポンプを追加設置して気体供給源60とすることが望ましい低露点気体を供給することにより加圧冷却作用を行なう真空加熱処理方法の具体例について開示する。
【実施例1】
【0026】
気体供給源60の取り出し圧力を0.8MPaの窒素ガス発生装置とし、0.2MPa(ゲージ圧0.1MPa)の加圧雰囲気下で−55℃の露点で被処理物26を冷却する場合について述べる。まず取り出し圧力0.8MPaからの供給圧力を安定させるため減圧弁62を介して気体露点調節室52の圧力を正確に0.7MPaに維持し、この気体の温度を−45℃以下とすることにより、蒸気圧は7.2Pa以下となる。この気体は減圧弁64を介して0.2MPaに調整して処理室24に送ることにより処理室24の蒸気圧は[7.2×0.2÷0.7=2.057Pa]以下となり、このときの処理室24の露点は約−55℃以下が得られ、低露点での加圧冷却が可能となる。
【0027】
加圧冷却が完了したら、圧力開放弁68を介して処理室24の雰囲気を0.2MPaからドライ・クリーンルーム16内と同じ0.1MPaに減圧することにより処理室24の蒸気圧は[2.057×0.1÷0.2=1.028Pa]以下となり露点−60℃となり、ドライ・クリーンルーム16内の露点が−60℃までであれば、当該ドライ・クリーンルームの露点を上げてしまうことはない。
【実施例2】
【0028】
次に、例えば露点−10℃、圧力1.08MPaの冷凍式エアードライヤー内蔵型エアーコンプレッサーを、気体供給源60とし、0.4MPa(ゲージ圧0.3MPa)の加圧雰囲気下で−50℃の露点で被処理物26を冷却する場合について述べる。まず気体供給源60の取り出し圧力が1.18から1.47MPaと振れるエアーコンプレッサーの供給圧力を安定させるため減圧弁62を介して気体露点調節室52の圧力を正確に1MPaに維持し、この温度を−43℃以下にすることにより、蒸気圧は9.1Pa以下となり、この気体を減圧弁64を介して処理室24に送ることにより、処理室24の蒸気圧は[9.1×0.4÷1.0=3.64Pa]となり、このときの処理室24の露点は約−50℃以下が得られ、低露点での加圧冷却が可能となる。加圧冷却が完了したら、圧力開放弁68を介して処理室24の雰囲気を0.4MPaからドライ・クリーンルーム16内と同じ0.11MPaに減圧することにより処理室24の蒸気圧は[3.64×0.1÷0.4=0.91Pa]以下となり露点−61℃となり、ドライ・クリーンルーム16内の露点が−60℃までであれば、当該ドライ・クリーンルームの露点を上げてしまうことはない。
【実施例3】
【0029】
更に比較的高圧の実施例として、例えば露点取り出し圧力7.0MPaのエアーコンプレッサーを、気体供給源60としてこの後にブースターポンプを追加設置して、0.6MPa(ゲージ圧0.5MPa)の加圧雰囲気下で−60℃の露点で被処理物26を冷却する場合について述べる。まず取り出し圧力が3.1MPa(ゲージ圧3.0MPa)のブースターポンプの供給圧力を安定させるため減圧弁62を介して気体露点調節室52の圧力を正確に3.0MPaに維持し、この温度を−48℃以下にすることにより、蒸気圧は5.03Pa以下となる。この気体を減圧弁64を介して処理室24へ送る。これにより処理室24の蒸気圧は[5.03×0.6÷3.0=1.006Pa]となり、このときの処理室24の露点は約−60℃以下が得られ、低露点で加圧冷却が可能となる。
【0030】
次に加熱処理、脱気処理、熟成処理を経て、更に上記時指令で述べたような加圧冷却処理を完了した後に被処理物26を圧力容器20から取り出す作業について述べる。被処理物26を冷却した後、圧力容器扉22を開けて被処理物26を圧力容器20から取り出すが、このときの取り出し温度は、本件処理装置が設置されたドライ・クリーンルームの室温より若干高い方が、被処理物へ再び水分が付着することを予防する効果が高いことは、水の性質または蒸気の性質から考えて当然である。よって、処理後の被処理物26の取り出しは、本件処理装置が設置されたドライ・クリーンルームの室温より2℃程度高く上限は、低温やけどの危険性のある44℃を避けるために40℃程度が望ましい。例えばドライ・クリーンルームの室温が23℃であれば、25℃から40℃程度が望ましい。
【0031】
一方、窒化、酸化に敏感な被処理物26に関しては、窒化、酸化に敏感でなくなる領域までアルゴン等の不活性ガスまたは300KPa程度の陰圧での冷却を行い、敏感でなくなる領域以下になったなら、低露点加圧冷却を行なうことも有効である。
【0032】
上述した実施例では、特に図2において、加熱処理領域後の冷却領域における加圧冷却工程に関して述べているが、上述した内容は、当然、加熱処理領域前の初期処理領域における加圧加熱工程に関しても同様に適用出来るのである。
【0033】
なお、図1に示した装置10において、処理室24を冷却する工程は、処理室24内の冷却用コイル40へ冷凍機42からの冷気を付与しファン32を回転しながら、露点調整手段14の気体供給弁66を開放して冷気を処理室24へ供給することにより迅速に行うことができることは明らかである。なおこのとき圧力開放弁68を開放状態に保持し、露点調整手段14からの冷気が処理室24内を完全に貫通状態として冷却することが出来るが、圧力開放弁68を調時的に開閉することにより、前記冷気を効率よく経済的に使用することも出来る。
【符号の説明】
【0034】
10 高精度部品の加圧冷却処理装置
12 加圧冷却処理手段
14 露点調整手段
16 ドライ・クリーンルーム
20 圧力容器
22 圧力容器扉
24 処理室
26 被処理物
28 隔壁
30 圧力センサー
32 攪拌用ファン
34 モーター
36 回転軸
38 軸シール手段
40 処理室冷却用コイル
42 冷凍機
44 膨張弁
50 圧力容器
52 気体露点調整室
54 冷却コイル
56 圧力センサー
58 膨張弁
60 気体供給源
62、64 減圧弁
66 気体供給弁
68 圧力開放弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高精密部品を加圧冷却処理する方法であって、処理室内へ被処理部品としてのワークを配置すること、該処理室の周囲に設けた加熱手段を作動させると同時に当該処理室内の内部圧力を上昇すること、処理室内温度が所定の温度に達した後、当該処理室内温度を一定温度に保持すると共に当該処理室内圧力を高圧雰囲気に維持しながら部品を定圧定温状態に保持し所望の加熱処理を行なうこと、所定時間が経過後、処理室内温度を一定に保持しながら処理室内圧力を大気圧以下まで減圧し脱気処理を行なうこと、処理室内の圧力を再び大気圧以上まで上昇しかつ処理室内温度を徐々に降下しながら被処理部品に熟成処理を行なうこと、処理室内を更に上昇した圧力状態に維持しながら加熱手段を不作動または目的の冷却曲線を得るための補助的手段とし被処理部品を急冷すること、処理室内の圧力を大気圧まで減圧すること、次いで処理室から真空加熱処理済みの被処理部品を取り出すこと、の諸工程よりなり、
処理室内を加圧する際に気体供給源より送給される気体の温度及び蒸気圧を露点調整手段によって調整し、気体を室内に導入する時、当該処理室内の露点が少なくともドライ・クリーンルーム内における気体の露点と同じか少なくともそれより僅かに低い露点になるように調整されていることを特徴とする高精密部品の加圧冷却処理方法。
【請求項2】
気体供給源より送給される気体が、空気、窒素ガス、アルゴン、その他の不活性ガスから選択される請求項1に記載の高精密部品の加圧冷却処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−21846(P2011−21846A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168553(P2009−168553)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(593139695)株式会社協真エンジニアリング (14)
【Fターム(参考)】