説明

高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮するWC基超硬合金製切削工具

【課題】鋳鉄等の高速断続切削加工において、長期の使用にわたって、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する切削工具を提供する。
【解決手段】質量%で、Co:4〜12%、Os:0.4〜3.0%、WC:残部の配合組成の圧粉体(あるいは、さらにVC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちの1種以上を合計で0.1〜2質量%含有)を焼結してなるWC基超硬合金焼結体からなるWC基超硬合金製切削工具において、WC基超硬合金焼結体は、その硬質相中に、平均Os含有量が0.5〜2.0質量%のOs富化領域を含み、また、その結合相として、Os含有量4〜30質量%のCo−W−Os相を含むことによって、すぐれた高温硬さ、破壊靭性値を備え、鋳鉄等の高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮するWC基超硬合金製切削工具あるいは表面被覆WC基超硬合金製切削工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高熱発生を伴うとともに、切れ刃に対して衝撃的かつ断続的負荷が作用する鋳鉄等の高速断続切削加工において、すぐれた高温硬さ、破壊靱性値を有することにより、長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮するWC基超硬合金製切削工具(以下、WC基超硬工具という)およびWC基超硬工具の表面に硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具(以下、表面被覆WC基超硬工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐摩耗性に優れた切削工具としては、例えば、結合相形成成分としてCoを含有し、残りがWCおよび不可避不純物からなるWC基超硬合金焼結体を基本構成としたWC基超硬工具、あるいは、WC基超硬工具の表面に硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬工具が良く知られている。
例えば、特許文献1に示すように、質量%で、Co:8〜10%、(W,Ti)C:20〜30%、NbC:5〜10%、WC:残り、からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体からなるWC基超硬工具において、分散相を、WC相と(W,Ti,Nb)C相とで構成し、また、結合相をCo−W系合金で構成したWC基超硬工具が知られており、このWC基超硬工具は、鋼や鋳鉄の高速切削加工ですぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮することが知られている。
また、WC基超硬合金の成分元素として、例えば、Os等の白金族元素を添加含有させたWC基超硬工具も知られており、その一つとして、例えば、特許文献2に示されるように、硬質相がWC、また、結合相がCoからなるWC基超硬工具において、結合相中に、例えば、(W,Os)C等の炭化物を分散分布させることによって、耐摩耗性と同時に耐食性の向上を図ったWC基超硬工具が知られている。
さらに、例えば、特許文献3に示されるように、硬質相がダイヤモンドとWCからなり、また、結合相がCoからなるWC基超硬工具において、ダイヤモンド原料粉末を予めOs等の金属で被覆しておくことにより、焼結性を高めるとともに、すぐれた硬度・耐摩耗性を備えたWC基超硬工具も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−326103号公報
【特許文献2】特開昭57−51239号公報
【特許文献3】特開平9−194978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに、高能率化、低コスト化が求められているところ、従来のWC基超硬工具を、通常条件の切削加工で用いた場合には特段の問題は生じないが、これを、特に、切れ刃が高熱となり、また、切れ刃に対して衝撃的かつ断続的負荷が作用する鋳鉄等の高速断続切削加工に供した場合には、WC基超硬工具の高温硬さが十分であっても、破壊靭性値が低いため耐チッピング性については満足できるものではなく、逆に、破壊靭性値が高くすぐれた耐チッピング性を備える場合には、高温硬さが十分でないため耐摩耗性に劣り、耐チッピング性と耐摩耗性の両立を図ることは困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合でも、すぐれた高温硬さとすぐれた破壊靱性値を相兼ね備え、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮するWC基超硬工具について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
【0006】
通常、WC基超硬合金からなる焼結体の製造は、特定の平均粒径のWC粉末、Co粉末を所定割合になるように配合した原料粉末を湿式ボールミル中で混合し、成形した後、この圧粉成形体を所定の温度で所定時間焼結することにより製造している。
【0007】
本発明者らは、上記通常のWC基超硬合金焼結体の製造方法において、結合相形成成分であるCo粉末に加えて、所定の平均粒径および所定の含有割合となるようにOs粉末をさらに追加して添加配合することで原料粉末を調製し、これをボールミル混合した後所定形状に成形して圧粉体を作製し、該圧粉体を、真空雰囲気中、1〜10℃/minの昇温速度で1400〜1450℃の範囲内の温度に昇温し、この温度に保持して焼結し、その後、例えば900℃に至るまでの平均冷却速度を10℃/min以上で冷却してWC基超硬合金焼結体を作製した場合には、得られたWC基超硬合金焼結体において、硬質相を構成するWC粒子の界面近傍にOs富化領域が形成されると同時に、結合相中にも所定量のOsが固溶し、Co−W−Os系合金からなる結合相が形成される。
このOsの富化領域とは、WC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって平均Os含有量が0.5〜2.0 質量%であるOsの含有領域でありOsの富化領域以外、即ち、WC粒子の内部側では平均Os含有量は0.5質量%未満である。
そして、このような焼結体組織からなるWC基超硬合金焼結体は、すぐれた高温硬さを備えるとともに、すぐれた破壊靭性値を示すようになり、その結果として、このようなWC基超硬合金焼結体から構成したWC基超硬工具を、高熱発生を伴い、かつ、切れ刃に対して衝撃的・断続的負荷が作用する鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合には、長期の使用に亘ってすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮し、工具寿命の延命化が図られることを見出したのである。
【0008】
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 質量%で、Co:4〜12%、Os:0.4〜3.0%、残部WCおよび不可避不純物からなる配合組成の圧粉体を焼結してなるWC基超硬合金焼結体で構成されたWC基超硬合金製切削工具であって、上記WC基超硬合金焼結体は、その硬質相として、WC粒内の界面近傍にOs富化領域が形成されたWC粒子を含み、また、上記WC基超硬合金焼結体は、その結合相として、CoとWとOsの複合相を含むことを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。
(2) 上記WC基超硬合金焼結体は、WC粒内全体にOsが含有されているWC粒子を含有することを特徴とする前記(1)に記載のWC基超硬合金製切削工具。
(3) 上記結合相中のOs含有量は4〜30質量%であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のWC基超硬合金製切削工具。
(4) 上記Os富化領域は、WC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって形成され、かつ、該深さ領域における平均Os含有量が0.5〜2.0質量%であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のWC基超硬合金製切削工具。
(5)上記WC基超硬合金焼結体が、その成分として、さらにVC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%含有することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のWC基超硬合金製切削工具。
(6)前記(1)乃至(5)のいずれかに記載のWC基超硬合金製切削工具の表面に、硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
に特徴を有するものである。
【0009】
この発明のWC基超硬工具について、以下に詳細に説明する。
まず、この発明のWC基超硬工具は、例えば、以下の製造方法で作製することができる。
即ち、所定の平均粒径のWC粉末、Co粉末に加えてOs粉末を配合し、さらに、必要に応じて、VC粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末を所定割合になるように配合した原料粉末を、湿式ボールミル中で混合し、所定形状にプレス成形したのち、この圧粉体を、1〜15Paの真空中で、1〜10℃/minの昇温速度で1400〜1450℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に約1時間保持して焼結した後、例えば、900℃に至るまでの平均冷却速度は10℃/min以上で冷却することによってWC基超硬合金焼結体を作製し、これを所定の工具形状に加工することによってWC基超硬工具を作製する。
【0010】
ここで、焼結条件として、その雰囲気を1〜15Paの真空中と定めたのは、WCの脱炭素及び結合相の酸化を防止するという理由であり、また、1〜10℃/minの昇温速度で1400〜1450℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に約1時間保持して液相焼結させるとしたのは、硬質相にOsを固溶させるという理由である。
また、焼結後の900℃に至るまでの平均冷却速度を、例えば、10℃/min以上としたのは、焼結時に硬質相に固溶させたOsを結合相へ拡散するのを防止するという理由による。
【0011】
そして、上記の製造工程で作製したWC基超硬合金焼結体について、エネルギー分散型X線分析EDSを装備した透過型電子顕微鏡(TEM)による組成分析を行った結果によれば、硬質相中のOsは、WC粒子の界面近傍から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって平均Os含有量が0.5〜2.0 質量%のOs富化領域が存在することが確認されている。
【0012】
本発明WC基超硬工具において結合相を構成するCo成分は、その含有量が4質量%未満では、WC基超硬合金の緻密化が十分になされず、一方、結合相の含有割合が12質量%を越えると、WC基超硬合金の硬度が低下し、高速断続切削加工において耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、本発明WC基超硬合金焼結体におけるCoの含有割合は4〜12質量%と定めた。
【0013】
また、本発明で、WC粉末、Co粉末とともに配合するOs粉末は結合相を構成するCoに大部分が固溶し、一部がWC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって固溶するが、Co中に固溶するOs含有量(Os/(Co+Os))が4質量%未満であると、結合相の硬さ向上効果が不十分であり、一方、Coに固溶するOs含有量(Os/(Co+Os))が30質量%を超えると、結合相の靭性が著しく低下するため、破壊靭性値が低下し、高速断続切削においてチッピング、欠損等を発生しやすくなることから、結合相を構成するCoに固溶するOs含有量(Os/(Co+Os))は4〜30 質量%と定めた。
【0014】
また、本発明では、WC粒子からなる硬質相界面近傍、即ち、WC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたってOs富化領域を形成し、硬質相であるWC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域(Os富化領域)での平均Os含有量(Os/(W+Os))を0.5〜2質量%であるとしているが、硬質相のOs富化領域に固溶する平均Os含有量(Os/(W+Os))が0.5質量%未満では、WC粒の高温硬さ向上効果が得られず、一方、平均Os含有量(Os/(W+Os))が2質量%を超えるようになると、硬質相の熱伝導性が低下し切れ刃が過熱されやすくなるとともに、硬質相−結合相間での密着性が低下し、チッピングが発生しやすくなることから、WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって固溶含有させた平均Os含有量(Os/(W+Os))は0.5〜2質量%と定めた。
【0015】
本発明WC基超硬焼結体、WC基超硬工具における結合相中のOs含有量、及び、硬質相中の平均Os含有量を上記の数値範囲にするためには、WC粉末、Co粉末との合量に占めるOs粉末の配合割合は、0.4〜3.0質量%とする必要がある。
Os粉末の配合割合が0.4〜3.0質量%の範囲を外れた場合には、焼結条件の調整によっては、上記本発明で規定する平均Os含有量を得ることはできない。
【0016】
本発明WC基超硬焼結体、WC基超硬工具では、VC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分を更に含有することができる。
VC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分は、いずれも、焼結時のWCの粒成長を抑制する作用があるが、その合計含有量が0.1質量%未満では、粒成長抑制作用が小さく、一方、2質量%を越えて含有すると複合炭化物相が析出し、硬度が低下傾向を示すようになるので、VC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分の含有量は、その合計量で0.1〜2質量%と定めた。
【0017】
また、本発明WC基超硬工具は、これをそのまま切削工具として用いることができるが、その表面に硬質被覆層を蒸着形成することによって、一段と耐チッピング性、耐摩耗性の向上を図り、工具寿命の一段の延命化を図ることができる。
ここで、上記硬質被覆層とは、例えば、「周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、BおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物」からなり、また、より具体的には、例えば、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、TiとAlの複合窒化物、AlとCrの複合窒化物、TiとSiの複合窒化物、TiとAlとSiの複合窒化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる物理的蒸着膜または通常知られているTiの炭化物、窒化物アルミニウム酸化物膜から選ばれる1種の単層または2種類以上の複層からなる化学的蒸着膜からなる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のWC基超硬工具、表面被覆WC基超硬工具は、これを構成するWC基超硬合金の結合相及び硬質相中にOsが固溶し高温硬さを高めるとともに、硬質相を構成するWC粒子界面から1〜10%の深さ領域(Os富化領域)にわたって0.5〜2質量%のOsが固溶含有していることにより、結合相と硬質相との密着強度を高め、また、結合相に固溶したOsが結合相の破壊靱性値を高めることから、高熱を発生し、かつ、切刃部に衝撃的・断続的負荷が作用する鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、欠損等の発生を生じることなく長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明の切削工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
(a)原料粉末として、1.0μmの平均粒径を有するWC粉末、0.9μmの平均粒径を有するCo粉末、1.3μmの平均粒径を有するOs粉末、それぞれ0.5〜5μmの平均粒径を有するVC粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアルコール中で6時間ボールミルで湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、
(b)これらの圧粉体を、6Paの真空中で表2に示される昇温速度で同じく表2に示される焼結温度に昇温し、この温度で1時間保持し、次いで、同じく表2に示される冷却速度で900℃まで冷却後、室温まで自然冷却し、
(c)得られた焼結体を、所定寸法となるように加工
して、SEEN1203AFEN1のインサート形状をもった表5に示す本発明WC基超硬工具1〜10(以下、単に、本発明1〜10という)を作製した。
なお、本発明6〜10については、工具基体表面に、アークイオンプレーティング装置、または通常の化学蒸着装置を用いて、表3に示されるとおりの組成および平均膜厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表5に示す本発明の表面被覆WC基超硬合金製切削工具を作製した。
【0021】
また、比較の目的で、表1に示される配合組成となるように原料粉末を配合した後、本発明1〜10の製造工程(a)〜(c)と同様にして、SEEN1203AFEN1のインサート形状をもった表5に示す比較例WC基超硬工具1〜10(以下、単に、比較例1〜10という)を作製した。
なお、比較例6〜10については、工具基体表面に、アークイオンプレーティング装置または通常の化学蒸着装置を用いて、表3に示されるとおりの組成および平均膜厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表5に示す比較例の表面被覆WC基超硬合金製切削工具を作製した。
【0022】
上記本発明1〜10および比較例4,5,9,10について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、画像解析によりWC粒(硬質相)の位置を特定し、さらに、WC粒(硬質相)内と結合相について、エネルギー分散型X線分析EDSを装備した透過型電子顕微鏡(TEM)による組成分析を行うことにより、固溶Os含有量を測定した。
より具体的にいえば、WC粒(硬質相)内のWC粒子界面から1〜10%の深さ領域にわたって固溶しているOs含有量は、WC粒子の粒径の界面から1〜10%の深さ領域にわたって、EDS分析して10箇所のOs含有量を測定し、その平均値として、硬質相のWC粒子界面から1〜10%の深さ領域にわたって固溶している平均Os含有量を求めた。
また、結合相のOs含有量は、EDS分析にて10箇所のOs含有量を測定し、その平均値として、結合相のOs含有量を求めた。
表4に、それぞれ求めた値を示す。
【0023】
つぎに、上記本発明1〜10および比較例1〜10のそれぞれを、直径32mmの合金鋼製のカッターにねじ止め固定し、以下の条件で切削加工試験を行った。
被削材 : FC300の角材、
切削速度 : 200 m/min、
切り込み : 2.0 mm、
一刃送り量 : 0.25 mm/刃
上記切削加工試験において、逃げ面摩耗幅が0.15mmに達するまでの切削時間を測定し、また、切削加工試験後の切れ刃の摩耗状況を観察した。
この測定結果、観察結果を表5に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
表4、表5に示される結果から、本発明1〜10では、WC基超硬合金焼結体の硬質相のWC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域のOs富化領域で、平均Os含有量(Os/(W+Os))は0.5〜2質量%であり、また、結合相中には、Os含有量4〜30質量%のOsが固溶していることによって、高温硬さが向上するとともに破壊靱性値が高められ、また、結合相と硬質相との密着強度も高められ、その結果、高熱発生を伴い、かつ、切刃部に衝撃的・断続的負荷が作用する鋳鉄等の高速断続切削加工に用いた場合でも、チッピング、欠損等の発生を生じることなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性が発揮される。
これに対して、比較例1〜3、6〜8では、本発明1〜3、6〜8に比して、高温硬さ及び破壊靭性値のいずれもが低いため、高速断続切削加工においては、チッピング発生により使用寿命になるか、あるいは、耐摩耗性に劣り短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
また、比較例4,5,9,10では、ある程度の耐チッピング性、耐摩耗性の向上は見られるものの、Os含有量が本発明で規定する範囲外であるため、本発明4,5,9,10に比して耐チッピング性および耐摩耗性ともに充分満足できるものであるとはいえない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明のWC基超硬合金製切削工具、表面被覆WC基超硬合金製切削工具は、鋳鉄の高速断続切削加工ばかりでなく、各種被削材の切削加工にも勿論適用可能であり、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に適うものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Co:4〜12%、Os:0.4〜3.0%、残部WCおよび不可避不純物からなる配合組成の圧粉体を焼結してなるWC基超硬合金焼結体で構成されたWC基超硬合金製切削工具であって、上記WC基超硬合金焼結体は、その硬質相として、WC粒内の界面近傍にOs富化領域が形成されたWC粒子を含み、また、上記WC基超硬合金焼結体は、その結合相として、CoとWとOsの複合相を含むことを特徴とするWC基超硬合金製切削工具。
【請求項2】
上記WC基超硬合金焼結体は、WC粒内全体にOsが含有されているWC粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のWC基超硬合金製切削工具。
【請求項3】
上記結合相中のOs含有量は4〜30質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のWC基超硬合金製切削工具。
【請求項4】
上記Os富化領域は、WC粒子の界面から、該WC粒子の粒径の1〜10%の深さ領域にわたって形成され、かつ、該深さ領域における平均Os含有量が0.5〜2.0質量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のWC基超硬合金製切削工具。
【請求項5】
上記WC基超硬合金焼結体が、その成分として、さらにVC、Cr、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のWC基超硬合金製切削工具。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のWC基超硬合金製切削工具の表面に、硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具。

【公開番号】特開2012−86297(P2012−86297A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234389(P2010−234389)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】