説明

高PH依存性溶解度を有する有効成分の放出制御のための医薬品多層錠剤

本発明は、少なくとも2層、少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む医薬品放出制御多層錠剤であって、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が、それぞれ少なくとも1つの相異なる層に含有されることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高PH依存性溶解度を有する有効成分の放出制御のための、新規な医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
速放性の従来型製剤、錠剤、カプセル、非コーティングペレット錠として処方された場合、多くの有効成分は毎日数回の投与を必要とする。このような場合、有効成分を放出制御製剤として処方して、有効成分が消化管を下降するにつれ徐々に放出され、その結果血管系にゆっくりと吸収されるようにすることがしばしば有利である。したがって多くの場合、1日の投与回数は3または4回から2回へ、2回の投与から1回へ低減できる。そのような剤形は、速放型よりも多くの場合有効成分の血漿レベルがより一定であり、投与直後の過度に高いピークレベルのため観察される可能性がある副作用も非常に減少し、治療領域の向上が得られるという更なる利点の可能性を有する。
【0003】
該製剤からのこの緩慢で規則的な解放を得るための多くの方法を当業者は利用できる。薬物放出は、(i)製剤を被覆する膜を介した緩徐な拡散、(ii)通常ポリマー、または蝋質物質、またはこれらの両方の組み合わせのいずれかにより形成されるマトリックスを介した緩徐な拡散、により減速できる。(ii)の場合の放出速度は消化管に沿って移動する間の製剤、通常はマトリックス型錠剤である製剤の浸食により調節できる。したがって、そのようなマトリックス製剤からの有効成分の放出は拡散、または表面の浸食、またはこれらの両方の組み合わせによる可能性がある。
【0004】
マトリックス型錠剤に関しては、親水性ポリマー、脂質賦形剤のどちらがマトリックスを形成していても、経時的に溶出速度が遅くなるという問題がしばしば生じる。放出は一次プロフィールに従い指数関数的に減速するか、T.ヒグチが最初に提唱した、放出量は放出開始からの時間の平方根に比例するという関係(Mechanism of Sustained−Action Medication : Theoretical Analysis of Rate of Release of Solid Drugs Dispersed in Solid Matrixes,J.Pharm.Sci.12, 1145−9,1963)に従うかのいずれかである。速度が一定であることが有利であるとしても、いずれの場合も速度は経時的に急速に低下する。
【0005】
経時的に放出速度をより一定にするために使用する方法のうち、いくつかの層状の錠剤を調製することからなる1つの成功的な方法が完成した。最も単純な形態の1つは、錠剤が3層からなる場合である。内層はセルロース誘導体および有効成分を含む親水性のマトリックスである。複数の外層は親水性ポリマーを含む。複数の外層は胃液および腸液との接触で膨潤し、その後浸食される。この浸食は露出した内層の表面を増加し、解放が促進され、マトリックス型錠剤に通常見られる経時的な解放の減速が補われる。
【0006】
この方法の多くの変法がUS 4839177号、第5422123号およびWO 98/08515号に記載されている。EP 0598309号に開示されているもう1つの方法においては、錠剤は、有効成分非含有の浸食可能なディスクにより隔てられた有効成分含有の2つの親水性マトリックスディスクとして処方できる。複数の外層は膨潤して複数のマトリックスを形成し、それを介して有効成分がゆっくりと拡散する。最終的に錠剤が2つの部分に分離するまで、中央ディスクの浸食が表面および放出速度を増大しながら外層の露出表面を増大し、これによりマトリックス型錠剤からの放出の通常の減速が再び補われる。
【0007】
後に説明する理由により、マトリックス型錠剤中の高PH依存性溶解度を有する有効成分の製剤に関する問題は不変であり、多層錠剤の製造に関して依然として残されている。
【0008】
特に、塩基性有効成分またはそれらの塩類(すなわち、塩基の塩類)はPH依存性の溶解度を有し、すなわちpH7(中性)では溶解度は低いがヒトの胃の酸条件下でははるかに高くなる。それらは酸性のpHでは高い溶解性であるが、多くは中性のpHでは溶解しにくいか、または殆ど溶解しない。
【0009】
分子中に単一の塩基性基を有する高pH依存性有効成分の見かけの溶解度とpHとの関係に関する古典的公式を以下に示す。
【0010】
【数1】

式中、Sは見かけの溶解度であり、Sは非プロトン化塩基の溶解度である。pH7とpH2での溶解度は10倍異なる。加えて、pH5.5の溶媒中の溶解度はpH7.5での溶解度より最大2桁大きく、両方の値は小腸および大腸で普通に見られる。
【0011】
酸性の有効成分もまた高pH依存性溶解度を示す可能性がある。無電荷の酸の溶解度は多くの場合、低いpHでは低く、酸のpKaより低いが、pHがpKaを超えて増大するにつれ溶解度も著しく増大する。分子中に単一の酸性基を有する酸性の有効成分の見かけの溶解度とpHとの関係に関する、塩基性有効成分に対する上記の式に対応する式は以下の通りである。
【0012】
【数2】

式中、Sは見かけの溶解度であり、Sは非解離性の酸の溶解度である。
【0013】
製剤からの放出速度は製剤中の局所的pHでの有効成分の溶解度に依存する。
【0014】
錠剤のマトリックスは有効成分を放出するために透過性でなくてはならないため、製剤中のその局所的pH(これを我々は「ミクロpH」と呼んでいる)は周囲を取り囲んでいる生体液の性質により影響されるであろう。
【0015】
さらに製剤は、ヒトの消化管中の生体液へ有効成分を放出する。制御された緩徐な放出形態により、消化管の全長の大部分に亘って有効成分を放出することができる。放出条件は製剤が胃、小腸または大腸のどこにあるかにより非常に異なり、製剤をとりまく媒体のpH(これを我々は「外部pH条件」と呼んでいる)は酸性から中性まで変化する可能性がある。
【0016】
したがって、製剤が胃から排出された後は、塩基性有効成分の放出は減速するかほとんど停止し、それによりpH依存性溶解度を有する有効成分をマトリックス中に組み込むことにより、放出制御製剤を得るこの単純な方法はこのような場合失敗する。同じ理由によりU.Conte, L. Maggi, P. Colombo, および A. La Manna, (Multi−layered hydrophilic matrixes as constant release devices (Geomatrix systems); J. Controlled Release 26:39−47(1993))により記載された種類の多層錠剤は、pHと無関係に一定の放出速度で送達することに失敗している。
【0017】
この理由により有効成分を徐放性剤形に製剤する場合、有効成分を塩の形で組み込むことが普通であり、それにより、pHがどうであろうと溶出速度が一定に保たれる。しかしながら、塩基性有効成分の場合、塩基性イオンは腸液から有効成分製剤中に拡散でき、その結果有効成分製剤中のミクロpHが増加し、遊離の塩基は沈殿する。この問題を克服し、したがって一定の放出速度を維持する1つの方法は、製剤中の有効成分に関して化学量論的に過剰の、1つ以上の酸、通常有機酸または多塩基性有機酸の酸性塩を製剤中の有効成分に添加して、製剤中の低いpHを維持する方法である。したがって、有効成分製剤中のミクロpHは一定に低く保たれる。この手法は塩基性の有効成分が遊離の塩基として製剤中に組み込まれていても、塩として組み込まれていてもどちらでも有用である。このアプローチは簡易なマトリックス錠剤、親水性マトリックス(K. Ventouras and P. Buri, Role of the actification of hydrophilic matrices on the release of poorly soluble active substances in intestinal fluid, Pharm. Acta Helv., 52, 314−320(1978)),ワックスマトリックス(WO 97/32584号)、および被覆ペレット(US 5616345号)によりなされた。
【0018】
同様の効果が、徐放性目的で処方された酸性の有効成分の場合にも観察される。酸性の有効成分は胃の酸性条件下で非常に緩徐に放出される可能性があるが、胃内容排出後より急速に放出される。酸性の有効成分が塩として組み込まれる場合、ヒドロニウムイオンHが胃液から製剤中に拡散する可能性があり、遊離の酸を製剤中で沈殿させる。製剤に塩基を添加してミクロpHを有効成分のpKaより高く保つことが可能である。
【0019】
製剤内部のミクロpHを外部pH条件とは無関係に保つための別の方法としては、酸性の有効成分を遊離の酸として処方し、製剤中に酸を含める方法がある。同様に、塩基性有効成分を遊離の塩基および製剤に添加される塩基性の賦形剤として処方することが可能である。この手法では、溶出速度ははるかに遅くできる。
【0020】
上記を考慮して、多層錠剤のために、放出速度をpHとは無関係に保つ、または放出速度へのpH増加の抑制効果を減少する周知の方法は、薬学的に許容できる酸または塩基のいずれかを、塩基性または酸性のいずれかの有効成分を含む層に加える方法である。
【0021】
しかしながら、これらの方法すべての第1の不都合は、多くの場合ミクロpHを維持するために大量の酸または塩基を加えなければならないことである。第2の不都合は医薬有効成分が多くの場合固体製剤中で酸または塩基と化学的に適合しないことである。
【0022】
さらに詳細には、放出制御のために従来技術を使用して、高pH依存性溶解度を有する塩基性または酸性の有効成分を処方することが困難であろう状況は、以下の特徴の1つまたは複数が満たされる場合である。
(i)高pH依存性溶解度を有する有効成分の無電荷分子の溶解度が10mg/l未満である、
(ii)多層錠剤内の高pH依存性溶解度を有する有効成分の全質量が20mg未満である、
(iii)8時間を超す時間にわたって高pH依存性溶解度を有する有効成分の放出が必要である、
(iv)高pH依存性溶解度を有する有効成分が強酸と適合しない、即ち例えば強酸の存在が、有効成分または薬剤放出を制御する賦形剤の分解を引き起こす。
【0023】
このような有効成分は非常に多く存在し、新しく合成される有効成分は高い割合で高親油性であり、したがって中性pHでの溶解度が低い。加えて、有効成分の用量が少なくなり、有効成分の経口投与が1日に1回または多くとも2回の投与になることは有利である。
【発明の開示】
【0024】
この度、驚くべきことに、高pH依存性溶解度を有する塩基性または酸性有効成分の放出制御を得るために、新規な製剤によって、上記の問題を克服できることが見出された。とりわけ、本発明による新規な製剤は一定のミクロpHを得ることを有利に可能にし、外部媒体のpHに依存する放出速度は明らかに減少する。
【0025】
したがって、本発明は少なくとも2層、少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む医薬品放出制御多層錠剤であって、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤がそれぞれ少なくとも1つの相異なる層に含有されることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【0026】
本発明によれば、「高pH依存性溶解度を有する有効成分」は、pH7の溶媒中および同一の溶媒ではあるがpH2の溶媒中において、個々の溶解度が少なくとも10倍異なる、特に少なくとも100倍異なる任意の医薬有効成分(塩基性または酸性)を意味する。
【0027】
「相異なる層」により、本発明の好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分を含む1つ(または複数)の層中には薬学的に許容できるpH維持賦形剤を殆ど含まず(したがって以下に定義される薬学的に許容できるどのようなpH維持賦形剤も、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分を含む1つ(または複数)の層中には、多層錠剤の全重量に対して0.1重量%を超える割合で存在すべきではないと理解される)、それぞれ少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤を含む1つ(または複数)の層中には高pH依存性溶解度を有する有効成分を殆ど含まない(したがって、どのような高pH依存性溶解度を有する有効成分も、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤を含む1つ(または複数)の層の中に、多層錠剤中の高pH依存性溶解度を有する有効成分の全重量に対してで0.1重量%を超す割合で存在すべきではないと理解される)と理解されたい。
【0028】
さらに本発明によれば、「pH維持賦形剤」は一定のミクロpHおよび外部媒体のpHへの依存性を低減された放出速度を得るために適合した、当業者に周知の任意の酸またはそれらの酸性塩および任意の塩基またはそれらの塩基性塩またはそれらの混合物を意味する。上記で説明したように、望ましい放出速度によりpH維持賦形剤は酸性または塩基性のいずれかである。
【0029】
本発明による医薬品組成物はpH維持賦形剤の別々の区画を含む。本発明による実施形態は多層錠中に1つまたは複数の別々の層中にpH維持賦形剤を含有することからなる。本発明は、
少なくとも第1の層が、高pH依存性溶解度を有する有効成分を、非崩壊性の、膨潤性の、および/または浸食可能なマトリックスを形成できる1つ以上の賦形剤、および必要に応じて希釈剤、結合剤、滑剤、および、例えば流動促進剤などの他の錠剤化補助剤として働く追加の賦形剤とともに含み、
少なくとも第2の層が、1つ以上のpH維持賦形剤を非崩壊性の、膨潤性のおよび/または浸食可能なマトリックスを形成できる賦形剤とともに含んで、第1の層に隣接して配置され、第2の層の賦形剤は(pH維持賦形剤を除いて)第1の層と同一であっても異なっていてもよい、ことを特徴とする放出制御多層錠剤を提供する。
【0030】
したがって、特に本発明は、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む少なくとも1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤、および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含み、前記少なくとも1つの第1の型の層に隣接して配置される少なくとも1つの第2の型の層、
を含むことを特徴とする 医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【0031】
したがって上記によれば、本発明はさらに詳細には、少なくとも2つの層、少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤、および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む医薬品放出制御多層錠剤であって、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、および前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が少なくとも1つの相異なる層にそれぞれ含まれ、前記医薬品放出制御多層錠剤は、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む少なくとも1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む、前記少なくとも1つの第1の型の層に隣接して配置される少なくとも1つの第2の型の層を含むことを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【0032】
すでに上記に示したように、本発明の好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分を含む前記少なくとも1つの第1の層中には、薬学的に許容できるpH維持賦形剤を殆ど含まず(したがってどのような高pH依存性溶解度を有する有効成分も、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤を含む前記少なくとも1つの第2の型の層中には多層錠剤中の高pH依存性溶解度を有する有効成分の全重量に対して0.1重量%を超える割合で存在すべきではないと理解される)、少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む前記少なくとも1つの第2の型の層中には高pH依存性溶解度を有する有効成分は殆ど含まない(したがって、どのような高pH依存性溶解度を有する有効成分も前記少なくとも1つの医薬pH維持賦賦形剤を含む少なくとも1つの第2の型の層中には、多層錠剤内の高pH依存性溶解度を有する有効成分全重量に対して0.1重量%を超える割合で存在すべきではないと理解される)と理解されたい。
【0033】
したがって上記によれば、本発明はさらに詳細には、少なくとも2つの層、少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤、および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む医薬品放出制御多層錠剤であって、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が少なくとも1つの相異なる層にそれぞれ含まれ、前記医薬品放出制御多層錠剤が
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できる少なくとも1つのマトリックス形成賦形剤を含む第1の型の層、および
前記少なくとも1つの医薬pH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含み、少なくとも1つの前記第1の型の層に隣接して配置される少なくとも1つの第2の型の層を含み、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分を含む前記少なくとも1つの第1の型の層中には薬学的に許容できるpH維持賦賦形剤を殆ど含まず、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦賦形剤を含む前記少なくとも1つの第2の型の層中には高pH依存性溶解度を有する有効成分を殆ど含まないと理解されることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【0034】
各層が上記の型のそれぞれである2層を有する多層錠剤、および第1の型である中間層および第2の型である中間層の両側に配置される2層を含む3層を有する多層錠剤が好ましい。3層の多層錠剤において、第2の型である2つの外層が組成において(定性的および/または定量的に)同一であってもよく、またはお互いに異なっていてもよい。したがって特に本発明は、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む、前記第1の型の層に隣接して配置される1つの第2の型の層、
を含む2層錠剤から成ることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤に関する。
【0035】
本発明は又、特に、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む1つの第1の型の層および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤をそれぞれが含む、前記第1の型の層に隣接して配置される組成が同一または異なる(すなわち、定性的および定量的組成において)2つの第2の型の層を含み、前記第1の型の層が前記2つの第2の型の層の間に配置される、3層錠剤からなることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤にも関する。
【0036】
本発明は又、特に、
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤をそれぞれが含む組成が同一または異なる(すなわち定性的および定量的組成において)2つの第1の型の層、および
前記2つの第1の型の層に隣接して配置され、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含み、前記2つの第1の層の間に配置される1つの第2の型の層を含む、3層錠剤からなることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤にも関する。
【0037】
前記薬学的に許容できるpH維持賦形剤は、当業者に周知のすべての薬学的に許容できる酸、それらの酸性塩およびそれらの混合物の中から、ならびにすべての薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩およびそれらの混合物の中から選択できる。言い換えれば、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤は、薬学的に許容できる酸、それらの酸性塩およびそれらの混合物からなる群、または薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩およびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0038】
特に、前記pH維持賦形剤が少なくとも1つの薬学的に許容できる酸、それらの酸性の塩、またはそれらの混合物である場合、それは有機酸、多塩基有機酸、無機酸、それらの酸性塩およびそれらの混合物からなる群において選択され、前記pH維持賦形剤が少なくとも1つの薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩またはそれらの混合物である場合、それは有機塩基、無機塩基、それらの塩基性塩、有機多塩基酸の塩基性塩、有機多塩基酸の塩基性塩およびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0039】
さらに特に、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が、薬学的に許容できる酸、それらの酸性塩またはそれらの混合物である場合、それは6.5未満のpKaを有し、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩またはそれらの混合物である場合、それらの共役酸は7.5を超えるpKaを有する。
【0040】
さらに特に、前記pH維持賦形剤が少なくとも1つの薬学的に許容できる酸、またはそれらの酸性塩である場合、それは酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸、グルコン酸、それらの酸性塩、リン酸の酸性塩およびそれらの混合物からなる群において選択され、前記pH維持賦形剤が少なくとも1つの薬学的に許容できる塩基、またはそれらの塩基性塩である場合、それはリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸の塩基性塩、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸マグネシウムおよびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0041】
本発明による新規の製剤により、錠剤の全重量に対して少なくとも10重量%の過剰のpH維持賦形剤を用いることが可能となり、製造および摂取直前までの貯蔵の間のpH維持賦形剤と有効成分との物理的分離が可能となる。
【0042】
特に、前記少なくとも1つのpH維持賦形剤の割合は、多層錠剤の全重量に対して5重量%と50重量%との間、さらに特には8重量%と25重量%との間に含まれる。
【0043】
本発明によれば「薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤」は、当業者には周知のように、マトリックス錠剤中で非崩壊性で膨潤性なおよび/または浸食可能なマトリックスを形成できる任意の薬学的に許容できる賦形剤を意味する。
【0044】
特に、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤は、親水性ポリマー類、両親媒性ポリマー類、脂質賦形剤類およびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0045】
さらに特に、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(または「ヒプロメロース」)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリメタクリレート(メチルアクリレートコポリマー類を含む)、ポリオキシエチレン、ポリアクリル酸、ポリビニルアセテート、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0046】
本発明によれば、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤は、多層錠剤の第1の型および第2の型の層それぞれの中で同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
本発明の特に技術的に有利な点として、酸に対して不安定であるおよび/または適合しない薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、高pH依存性溶解度を有する有効成分を含む1つ(または複数)の層中において使用可能なことである。実際、有効成分の放出制御に使用される一定のマトリックス形成賦形剤は酸に対して不安定で、したがって放出プロフィールは、このようなマトリックス形成物質を含む錠剤が酸に接触している時間にわたって変化する可能性がある。特に、マトリックス形成ポリマー賦形剤が酸が触媒する加水分解のために低分子量の断片になるため、薬剤の放出プロフィールは速くなることが可能であり、薬剤製剤はもはや薬剤の放出を制御しない。
【0048】
酸に対して不安定なマトリックス形成物質の例としては、セルロース誘導体、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースおよびエチルセルロースが挙げられる。
【0049】
したがって、本発明の特別な実施形態として前記第1の型の層の前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択され、前記第2の型の層の前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤は、ポリメタクリレート(メタクリレートコポリマーを含む)、ポリオキシエチレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択される。
【0050】
無論、当業者には周知のように、本発明の多層錠剤は希釈剤、結合剤、流路形成剤(water−channelling agents)、潤滑剤、グライダント(glidant)およびそれらの混合物からなる群において選択される少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤をさらに含むことができる。このような可能な追加の賦形剤の例を以下の表にまとめた。
【0051】
【表1】

【0052】
当業者には理解されると思われるが、本発明による多層錠剤の各層は、1つ以上の先に引用したような追加の賦形剤を含むことができる。これらの賦形剤および同一または追加の機能を有する賦形剤が当業者に周知のように共に組み合わされて、溶出試験において望ましい放出プロフィールが得られる。
【0053】
本発明によれば、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分は、塩基性または酸性の成分である。特に、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分は以下の特徴:
(i)高pH依存性溶解度を有する有効成分の無電荷分子の溶解度が10mg/l未満である;
(ii)多層錠剤内の高pH依存性溶解度を有する有効成分の全質量が20mg未満である、
(iii)高pH依存性溶解度を有する有効成分の放出が8時間を超える時間に亘っていることが要求される;
(iv)高pH依存性溶解度を有する有効成分が強酸と不適合であり、すなわち、例えば、強酸の存在が有効成分または薬剤放出制御賦形剤の分解を引き起こす;
のうちの少なくとも1つを提示する。
【0054】
さらに特に、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分が、N‐[2‐[[4‐アミノカルボニルピリミジン‐2‐イル]アミノ]エチル]‐2‐[[3‐[4‐(5‐クロロ‐2‐メトキシフェニル)ピペラジン‐1‐イル]プロピル]アミノ]ピリミジン‐4‐カルボキシイミド、5−(8−アミノ−7−クロロ−2,3−ジヒドロ‐1,4−ベンゾジオキシン−5−イル)3−[1−(2−フェニルエチル)ピペリジン−4−イル]−1,3,4−オキソジアゾール−2(3H)−オン、クロルヒドラート、7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド、クロピドグレル(clopidogrel)、ミゾラスチン(mizolastin)、プラバスタチン(pravastatin)、ナプロキセン(naproxen)、アセチルサリチル酸、ジクロフェナク(diclofenac)、ゾルピデム(zolpidem)およびそれらの塩からなる群において選択される。
【0055】
本発明によれば、前記高pH依存性溶解度を有する有効成分の割合は、多層錠剤の全重量に対して0.1重量%から30重量%の間、さらに特には0.5重量%から15重量%の間に含まれる。したがって、本発明による多層錠剤は例えば、高pH依存性溶解度を有する有効成分を0.1〜100mg含有してよい。
【0056】
本発明による多層錠剤は、当業者には周知の方法に従って調製することができる。例えば、第1の型または第2の型の層の組成物に対応する異なる散剤をまず上記のように製造し、多層錠剤を成形するために圧縮するという2段階により調製できる。散剤は単純な混合物でよく、錠剤は直接圧縮により成形される。別法としては、水または他の液体を用いた造粒、乾式造粒、高温溶融造粒といった医薬製剤分野の当業者には一般に周知の造粒方法のうちの1つまたは他の方法に従って、第1の型または第2の型の層のための賦形剤混合物を造粒してよい。
【0057】
これらの造粒物は最終的にエチルセルロース、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、水素化ヒマシ油、カルナバワックスの中から選択される保護ポリマーまたは液体コーティングにより、放出速度を制御するために被覆することができる。
【0058】
造粒または単純な混合により2種の散剤を調製した後、それらを多層タブレット成形により圧縮して2層以上からなる層を成す錠剤を得る。
【0059】
(実施例)
【0060】
図1〜7において、実線(黒く塗られた四角または黒く塗られた円)は0.01Mの塩酸(pH2)中における溶出を表し、および点線(中空の四角または中空の円)は0.006Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)中における溶出を表す。
【0061】
図1は、実施例2に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図2は、実施例3に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図3は、実施例4に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図4は、比較実施例1に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図5は、実施例5に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図6は、比較実施例2に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
図7は、実施例6に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す。
【0062】
以下の実施例は本発明を例示する目的のもので、したがって本発明の範囲を限定すると解釈するべきではない。
【0063】
以下の実施例において、EP 577470号の実施例1に記載された有効成分、化学名N−[2−[[4−アミノカルボニル)ピリミジン−2−イル]アミノ]エチル]−2−[[3−[4−(5−クロロ−2−メトキシフェニル)ピペラジン−1−イル]プロピル]アミノ]ピリミジン−4−カルボキシイミド、を良性前立腺肥大の治療に有用なそのメタンスルホン酸塩(これ以降、薬剤1と呼ぶ)の形で用いて実施した。
【実施例1】
【0064】
薬剤1およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む造粒物
造粒物Aを、Hobartの混合粉砕機を用いて、下記の混合物(ステアリン酸マグネシウムおよびAerosilを除く)より、湿式造粒法により調製した。造粒物は続いてオーブンで50℃にて乾燥し、0.8mmに口径を調整し、ついで残りの構成成分中で混合することにより潤滑化した。
薬剤1 11.6%
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(Methocel(登録商標)K100M) 10.0%
マンニトール60 20.0%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 54.0%
ポビドンK29/32 3.2%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
______
100.0%
【実施例2】
【0065】
外層にコハク酸を含む3層錠剤
造粒物Bを、以下のようにコハク酸を含めて調製した。方法は実施例1と同じである。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(Methocel(登録商標)K100M) 35.0%
乳糖150M 24.5%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 13.9%
コハク酸 20.0%
ポビドンK29/32 5.0%
酸化鉄(黄) 0.4%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
【0066】
11.6mgの薬剤1を調薬した実施例1の造粒物Aを内層として、酸を含んだ上記造粒物Bを2つの外層として使用した3層錠剤を製造した。個々の層は100mgの造粒物を含んだ。圧縮は交互タブレット成形FrogeraisA0を使用し、サイズ8R16のパンチを使用し実施した。個々の層(それぞれ100mg)は手作業で詰めた。続いてin vitro の溶出を次のような方法を使用して、pH2およびpH6.8において試験した。
【0067】
欧州薬局方に記載の装置を使用した。撹拌はパドル法(100rpm)によった。溶媒は蠕動ポンプにより連続的に試料採取し、複光束紫外線分光光度計により紫外線吸光度を測定した。溶出した薬剤1の割合は、各測定時点で、溶媒中の薬剤1濃度11.6μg.ml−1の標準溶液の吸光度と比較することにより側定した。溶媒は0.01Mの塩酸500mlまたは0.006Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)500mlであった。結果を図1に表す。
【実施例3】
【0068】
外層に酒石酸を含む3層錠剤
造粒物Cを実施例2の造粒物Bと全く同じ方法で、コハク酸の代わりに酒石酸を使用した以外は同一の組成を用い、調製した。内層に薬剤1を含む造粒物Aを、外層に造粒物C(酒石酸を用いた)を使用した3層錠剤を実施例2のように調製した。次いでそれらのin vitroの溶出を、実施例2と同じ溶出法を使用して、pH2およびpH6.8にて試験した。
結果は図2に表す。
【実施例4】
【0069】
外層にフマル酸を含む3層錠剤
造粒物Dは実施例2の造粒物Bと全く同じ方法で、コハク酸の代わりにフマル酸を使用した以外は同一の組成を用い、調製した。内層に薬剤1を含む造粒物Aを、外層に造粒物D(フマル酸を用いた)を使用した3層錠剤を実施例2のように調製した。次いでそれらのin vitroの溶出を、偽薬錠剤の溶出により得たプロフィールを減算することにより、フマル酸の紫外吸光度に関する結果を補正した以外は、実施例2と同じ溶出法を使用して、pH2およびpH6.8にて試験した。結果を図3に表す。
【0070】
比較実験1:酸を含まない3層錠
造粒物Eを実施例2の造粒物Bと全く同じ方法で、以下の組成を用いて調製した。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(Methocel(登録商標)K100M) 35.0%
乳糖150M 34.5%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 23.9%
ポビドンK29/32 5.0%
酸化鉄(黄) 0.4%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
______
100.0%
内層に薬剤1を含む造粒物Aを、外層に造粒物E(酸を含まない)を使用した3層錠剤を実施例2のように調製した。次いでそれらのin vitroの溶出を実施例2と同じ溶出法を使用して、pH2およびpH6.8で試験した。結果を図4に表し、その溶出は酸を含む錠剤のpH2における溶出に非常に類似しているが(実施例2、図1)、中性では非常に緩徐であることが見られた。
【0071】
これらの実施例は、溶媒のpHにかかわらず速度が一定傾向の溶出プロフィールを得、多様な酸がpH維持賦形剤として、多層錠剤に適合されることを表している。
【0072】
安定性試験により、単層錠剤、即ち前記薬剤1およびコハク酸を同一の単層に含む錠剤と比較して、上記実施例2の錠剤の安定性が改良されているという結果を表した。特に、単層錠が前記薬剤1とコハク酸との間の適合性の不具合の結果と判断される、許容できない黄変という問題を伴うのに対して、実施例2の錠剤は13週間の保存後にいかなる許容できない黄変も表さなかった。
【実施例5】
【0073】
酒石酸を含む2つの外層と酒石酸ゾルピデムを含む内層を有する3層錠剤
有効成分は含まず、ヒプロメロースおよび酒石酸を含む造粒物Gを、実施例2の造粒物Bに関する同じ方法を使用して、下記組成に従って調製した。
酒石酸 12.0%
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(または「ヒプロメロース」、
Metholose(登録商標)90SH4000SR) 28.0%
乳糖150メッシュ 38.8%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 20.0%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
酒石酸ゾルピデムを含む造粒物Hを、同じ方法を用いて下記組成に従って同様に調製した。
酒石酸ゾルピデム 5.0
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(または「ヒプロメロース」、
Metholose(登録商標)90SH4000SR) 12.0%
乳糖150メッシュ 61.8%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 20.0%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
内層に造粒物Hを、外層に造粒物Gを使用した3層錠剤を実施例2のように調製した。続いてそれらのin vitro溶出を以下の方法を使用してpH2およびpH6.8において試験した。
【0074】
欧州薬局方に記載の装置を使用した。撹拌はパドル法(100rpm)によった。溶媒は蠕動ポンプにより連続的に試料採取し、紫外線分光光度計により紫外線吸光度を測定した。溶出した酒石酸ゾルピデムの割合は、各測定時点で、溶媒中の酒石酸ゾルピデム濃度10.0μg.ml−1の標準溶液の吸光度と比較することにより側定した。溶媒は0.01Mの塩酸500mlまたは0.015Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)500mlであった。結果を図5に表す。
【0075】
比較実験2:酸を含まない2つの外層と酒石酸ゾルピデムを含む内層を有する3層錠剤
ヒプロメロースを含み、有効成分も酸も含まない造粒物Iを実施例2の造粒物Bと同じ方法で下記組成に従って調製した。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(または「ヒプロメロース(Hypromellose)」、
Metholose(登録商標)90SH4000SR) 28.0%
乳糖150メッシュ 50.8%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 20.0%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
内層に酒石酸ゾルピデムを含む造粒物Hを、外層に造粒物I(酸を含まない)を使用した3層錠剤を実施例IIのように調製した。続いてそれらのin vitro溶出を実施例IVと同じ溶出方法を使用してpH2およびpH6.8において試験した。結果を図6に表す。
【実施例6】
【0076】
酒石酸およびメタクリレートコポリマーを含む層および酒石酸ゾルピデムを含む第2の層を有する2層錠剤
有効成分を含まず、酒石酸およびメタクリレートコポリマーを含む造粒物Jを実施例2の造粒物Bと同じ方法で、下記組成に従って調製した。
酒石酸 12.0%
メタクリレートコポリマー(EudragitNE40D) 12.0%
乳糖150メッシュ 54.8%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 20.0%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
酒石酸ゾルピデムおよびヒプロメロースを含む造粒物Kを、造粒物Aと同じ方法で下記組成に従って調製した。
酒石酸ゾルピデム 5.0%
ヒドロキシプロピルメチルセルロース
(または「ヒプロメロース」、
Metholose(登録商標)90SH4000SR) 28.0%
乳糖150メッシュ 45.8%
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)PH101) 20.0%
コロイド状二酸化ケイ素(Aerosil(登録商標)200) 0.2%
ステアリン酸マグネシウム 1.0%
_______
100.0%
第1の層のための生成物を含む造粒物Kおよび第2の層のための造粒物Jを使用した2層錠剤を実施例2のように調製した。続いてそれらのin vitro溶出を、実施例5と同じ溶出方法を使用してpH2およびpH6.8において試験した。結果を図7に表す。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例2に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図2】実施例3に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図3】実施例4に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図4】比較実施例1に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図5】実施例5に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図6】比較実施例2に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。
【図7】実施例6に記載された錠剤の、高pH依存性溶解度を有する有効成分の溶出割合を、時間の関数として表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層、少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤、および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む医薬品放出制御多層錠剤であって、前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分、および前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤がそれぞれ少なくとも1つの相異なる層に含有されることを特徴とする医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項2】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む少なくとも1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含み、前記少なくとも1つの第1の型の層に隣接して配置される少なくとも1つの第2の層
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項3】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む、前記第1の型の層に隣接して配置される1つの第2の型の層
を含む2層錠剤からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項4】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含む1つの第1の型の層、および
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤をそれぞれが含み、前記第1の型の層に隣接して配置される、組成が同一または異なる2つの第2の型の層を含み、前記第1の型の層が前記2つの第2の型の層の間に配置される、
3層錠剤からなることを特徴とする請求項1または2に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項5】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤をそれぞれが含む組成が同一または異なる2つの第1の型の層、および
前記2つの第1の型の層に隣接して配置され、前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤および少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤を含み、前記2つの第1の型の層の間に配置される1つの第2の型の層を含む、
3層錠剤からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項6】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が、薬学的に許容できる酸、それらの酸塩およびそれらの混合物からなる群、または薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩およびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項7】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が有機酸、多塩基有機酸、無機酸、それらの酸塩およびそれらの混合物からなる群、または有機塩基、無機塩基、それらの塩基性塩、有機多塩基酸の塩基性塩、有機多塩基酸の塩基性塩およびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項8】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が、薬学的に許容できる酸、それらの酸塩、またはそれらの混合物である場合、それは6.5未満のpKaを有し、ならびに前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が薬学的に許容できる塩基、それらの塩基性塩またはそれらの混合物である場合、それらの共役酸は7.5を超えるpKaを有することを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項9】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤が、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸、グルコン酸、それらの酸性塩、リン酸の酸性塩およびそれらの混合物からなる群、またはリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸の塩基性塩、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸マグネシウムおよびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項10】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるpH維持賦形剤の割合が、多層錠剤の全重量に対して5重量%と50重量%との間に含まれることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項11】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、親水性ポリマー類、両親媒性ポリマー類、脂質賦形剤類およびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項12】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレン、ポリアクリル酸、ポリビニルアセテート、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項11に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項13】
前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、第1の型および第2の型の層それぞれにおいて同一であっても異なっていてもよいことを特徴とする、請求項2ないし12のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項14】
前記第1の型の層の前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択され、ならびに前記第2の型の層の前記少なくとも1つの薬学的に許容できるマトリックス形成賦形剤が、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレン、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレン・コポリマー、水素化ヒマシ油、カルナバワックスおよびそれらの混合物からなる群において選択されることを特徴とする、請求項2ないし13のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項15】
希釈剤、結合剤、流路形成剤(water−channeling agents)、潤滑剤、グライダントおよびそれらの混合物からなる群において選択される少なくとも1つの薬学的に許容できる賦形剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項16】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分が塩基性成分であることを特徴とする、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項17】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分が酸性成分であることを特徴とする、請求項1ないし15のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項18】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分が以下の特徴:
(i)高pH依存性溶解度を有する有効成分の無電荷分子の溶解度が10mg/l未満である;
(ii)多層錠剤内の高pH依存性溶解度を有する有効成分の全質量が20mg未満である;
(iii)高pH依存性溶解度を有する有効成分の放出が8時間を超える時間に亘ることが要求される;
(iv)高pH依存性溶解度を有する有効成分が強酸と不適合である;
の少なくとも1つを提示することを特徴とする、請求項1ないし17のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項19】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分が、N‐[2‐[[4‐アミノカルボニル]ピリミジン‐2‐イル]アミノ]エチル]‐2‐[[3‐[4‐(5‐クロロ‐2‐メトキシフェニル)ピペラジン‐1‐イル]プロピル]アミノ]ピリミジン‐4‐カルボキシイミド、5−(8−アミノ−7−クロロ−2,3−ジヒドロ‐1,4−ベンゾジオキシン−5−イル)3−[1−(2−フェニルエチル)ピペリジン−4−イル]−1,3,4−オキソジアゾール−2(3H)−オン、クロルヒドラート、7−フルオロ−2−オキソ−4−[2−[4(チエノ[3,2−c]ピリジン−4−イル)ピペラジン−1−イル]エチル]−1,2−ジヒドロキノリン−1−アセトアミド、クロピドグレル(clopidogrel)、ミゾラスチン(mizolastin)、プラバスタチン(pravastatin)、ナプロキセン(naproxen)、アセチルサリチル酸、ジクロフェナク(diclofenac)、ゾルピデム(zolpidem)およびそれらの塩からなる群において選択されることを特徴とする、請求項1ないし18のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。
【請求項20】
前記少なくとも1つの高pH依存性溶解度を有する有効成分の割合が、多層錠剤の全重量に対して0.1重量%から30重量%の間に含まれることを特徴とする、請求項1ないし19のいずれか1項に記載の医薬品放出制御多層錠剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−508227(P2008−508227A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523037(P2007−523037)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008719
【国際公開番号】WO2006/010640
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】