(−)−E−10−OH−NTの組成物、ならびにそれらの合成および使用のための方法
本開示は、ATおよびNTのE−10−0H−NT代謝物質を含む組成物、それらの合成方法、ならびにそれらの使用方法を提供する。1実施形態では、化合物(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンは、キラル特異的オキサザボロリジン触媒の存在下にE−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンを還元することにより製造される。他の実施形態では、ノルエピネフリン輸送体を、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む組成物と接触させることを含むノルエピネフリンの再取り込みを阻害する方法が記述される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願の引用
本願は、米国特許法1.119(e)条の下で、2007年4月30日に出願した仮出願60/915,103号、2008年2月11日に出願した仮出願61/028,122号および2008年2月12日に出願した仮出願61/028,122号に対する優先権を主張する。これらの出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
2.連邦政府の資金提供による研究開発に関する陳述
該当なし
3.共同研究契約の当事者
該当なし
4.配列表、表またはコンピュータプログラムの参照
該当なし
【背景技術】
【0003】
5.背景
アミトリプチリン(AT)およびノルトリプチリン(NT)を含む3環性抗うつ剤は、ノルエピネフリンやセロトニンを含むモノアミン類の再取込みを阻害することが示され、ノルエピネフリンやセロトニンの調節不全の取り込みまたは再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される多くの種々の障害や疾患の適応内使用(承認薬)および適応外使用(未承認薬)の両方で広く使用されてきており、それらの障害や疾患としては、限定されるものではないが、うつ病などの気分障害;強迫性障害(OCD)などの不安障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;抜毛症などの衝動制御障害;オピオイド離脱関連不眠症などの睡眠障害;注意欠陥多動性障害(ADHD)などの人格障害;およびある種の疼痛などの身体表現性障害などが挙げられる。ATおよびNTは、また、侵害受容性(例えば、体性または内臓性)起源または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)起源のいずれかである急性および慢性の疼痛のいろいろなタイプに対する一次治療として使用されてもきており、それらは、糖尿病性神経障害や疱疹後神経痛(PHN)などの非侵害受容性疼痛、および炎症性疼痛や間質性膀胱炎を含む侵害受容性疼痛が挙げられる。
【0004】
しかしながら、ATおよびNTの使用は、口腔乾燥症、便秘、吐き気、および尿閉;頭痛、多汗、耳鳴、不快な味、起立性低血圧、不整脈や頻拍などの心臓毒性効果;鎮静作用および体重増加などの抗ムスカリン効果を含むがそれらに限定されない、それらの不都合な副作用により制限される。また、NTおよびATは、シトクロムP450薬物代謝酵素とのNTおよびATが共有する副作用および/または相互作用により、様々な介在物質に使用することは禁忌である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その結果、ノルエピネフリンやセロトニンの調節不全の取り込みまたは再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される障害や疾患を治療することができる他の化合物、およびATと3環系抗うつ薬の薬理学に関与している他の標的(しかし、これらは、減少した、および/または、より少ない副作用を示し、ATやNTとの使用に対して禁忌である薬物と投与することができる)の同定は、有益であって、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
6.概要
ヒトを含む哺乳動物にインビボ投与した場合、アミトリプチリン(「AT」)およびノルトリプチリン(「NT」)は、インビボで多くの共通した代謝物を共有し、その主要なものの1つは、[(5−[3−メチルアミノ−プロピリデン]−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−10−オール(「10−OH−NT」)である。この10−OH−NT代謝物は、2重結合についての配置に依存して2つの幾何異性体(Z−10−OH−NTおよびE−10−OH−NT)を有する。これらの幾何異性体の各々は、10位の炭素のキラリティのために、2つの鏡像異性体、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT、ならびに(+)−Z−10−OH−NTおよび(−)−Z−10−OH−NTを含む。ある研究では、主要な10−OH−NT代謝物のラセミ体(±)−E−10−OH−NTは、ヒトに経口投与した場合、うつ病や不安の治療のために有用である可能性が示唆されている(Nordinら、1987a)。しかしながら、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体が、同様の効力でノルアドレナリン取り込みを阻害することを述べている未発表の研究(Nordin & Bertilsson,1995)について言及していることを除いては、このラセミ体ならびにまた単離された(+)および(−)鏡像異性体の特定の薬理学的および生化学的特性は、文献に報告されていない。
【0007】
出願人によって発見され、本明細書に提示された(さらに詳細に、後のセクションで議論される)確かな証拠は、E−10−OH−NTの(−)鏡像異性体が、治療的有用性と一致する重要な薬理学的および生化学的な特性を有することを示している。例えば、ATやNTのように、(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリン(「NE」)およびセロトニン(「5HT」)モノアミン輸送体と結合し、NEおよび5HTの取り込み(ATおよびNTの抗うつ性および他の治療特性と関連しているのが知られている生物学的活性)を阻害する。意義深いことに、組み換え輸送体結合アッセイで測定されたNE輸送体に対する(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ等しく、NTのそれの約10倍以内であった。同様の結果が、細胞系機能性アッセイで測定されたNE取り込み阻害について観測された。さらに、NTのように、(−)−E−10−OH−NTは、NE輸送体対5HT輸送体に関して選択性を示した。
【0008】
出願人は、(−)−E−10−OH−NTが、使用過程で不都合な副作用と相関するATおよびNTのある種の薬理学的および生化学的な特性を共有しないことを発見した。例えば、ATおよびNTの両方は、H1ヒスタミン受容体と強力に拮抗する(これは、ATおよびNTの短期および長期の使用の両方で観察される有意な体重増加(Altamuraら,1989;Wirshingら,1999;Richelson,2001;Khawamら,2006)および望ましくない鎮静効果(Bryson & Wilde,1996)において役割を果たす特性)のに対して、(−)−E−10−OH−NTは、H1ヒスタミン受容体に対して少ない程度で拮抗する。実際に、ATおよびNTと比較して、(−)−E−10−OH−NTの優れた非鎮静効果は、薬物の鎮静特質を評価するのに一般的に使用されるラットの回転棒試験で確認された。その結果、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTより鎮静作用がより弱く、不都合な食思効果がより少ないはずである。この分析評価では、51±20%および60±40%の回転棒行動のピーク欠陥(peak deficit)は、AT(30mg/kg、i.p.(腹腔内投与))およびNT(30mg/kg、i.p.)をそれぞれ投与後30分に観察された。全く対照的に、30mg/kg(i.p)の用量の(−)−E−10−OH−NTを服用したラットでは、行動の有意な減退は観察されなかった。
【0009】
(−)−E−10−OH−NTのこれらおよび他の新たに発見された有益な特性(以下にさらに議論される)は、3環系抗うつ剤に対して当該分野で先例のない治療効果を提供する。(−)−E−10−OH−NTは、治療的に関連のある薬理学的および生化学的な特性をATおよびNTと共有するので、それを実質的に鏡像異性体的に純粋な形態または鏡像異性体的に純粋な形態のどちらかで、本明細書でさらに記述される様々な障害および疾患を含むがそれらに限定されない、ATやNTで共通して治療される多くの適応症を治療するために使用することができる。しかしながら、(−)−E−10−OH−NTは、不都合な副作用の原因として知られるある種の薬理学的および生化学的な特性を有しないので、望ましくない副作用の発生を少なくして、患者に治療を施すことができる。特定の非限定的な例として、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTよりも、有意に弱い効力のH1ヒスタミン受容体拮抗剤であるので、ATおよび/またはNT治療で経験する有意な体重増加の望ましくない副作用および鎮静作用を伴うことなく、この薬剤で治療効果を達成することができる。
【0010】
(−)−E−10−OH−NTのように、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよびその(+)鏡像異性体は、また、インビトロでのアッセイで重要な、そしてほぼ同等の生化学的活性を有する。例えば、(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、それぞれ、ノルエピネフリン輸送体およびセロトニン輸送体に対してもほぼ同等の親和性を示す(参照:実施例14)。機能性アッセイでは、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体は、ノルエピネフリン取り込みに対して約同等の選択的阻害を示し、インビトロでの機能性アッセイにおいてATとほぼ同等の効力である(参照:実施例5)。さらに、インビボでの動物試験では、(−)−E−10−OH−NT鏡像異性体は、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの両方よりも、神経障害性疼痛のげっ歯類モデル(L5脊髄神経結紮ラットモデル:実施例15を参照)において治療的により有効であり、また、痛覚過敏(FCA誘発炎症性疼痛;実施例5および17から20参照)およびうつ病(強制水泳試験;実施例21参照)のげっ歯類モデルにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりもさらに有効でもある。(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ほぼ同等の生化学的活性とすると、こうしたインビボでの結果は全く驚くべきものであった。ラセミ体(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、疼痛およびうつ病のインビボでのげっ歯類モデルにおいて、ほぼ同等の効力を示すであろうことが期待された。しかし、(−)鏡像異性体のみが、有効であることが分かった。本開示は、(−)−E−10−OH−NTに関して発見された驚異的な効力に一部は基づいている。
【0011】
したがって、1つの態様では、本開示は、E−10−OH−NTと、任意に1つ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物を提供する。E−10−OH−NTは、その(−)鏡像異性体が富化された非ラセミ体混合物として組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、その組成物を含むE−10−OH−NTは、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである。いくつかの実施形態では、組成物を含むE−10−OH−NTは、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである。
【0012】
E−10−OH−NTは、遊離塩基または塩の形態で組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、医薬的に許容される酸付加塩の形態で存在する。E−10−OH−NT(塩の形態を含む)は、また、例えば、製造または精製の過程で使用される溶剤および/または水との溶媒物および/または水和物の形態で組成物中に存在することができる。
【0013】
E−10−OH−NT組成物は、以下でさらに詳細に説明されるように、インビトロまたはインビボで使用することができる。インビボで使用する場合、組成物は、獣医の指示で動物に投与するために、あるいは実質的に任意の投与経路または投与様式でヒトに投与するために処方することができ、これらは、限定されるものではないが、経口投与、局所投与、経眼投与、口腔投与、全身投与、経鼻投与、注射、経皮投与、経腸投与、経膣投与、吸入投与、またはガス注入を含む。
【0014】
上記したように、(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTとこれらの薬物の治療効果と相関する重要な生物学的特性を共有する。それは、また、疾患の動物モデルにおいて効力を示す。これらの同様の特性に基づいて、本明細書で記述される組成物は、ATおよびNTによる治療に応答性である多くの疾患および適応症を治療する際に同じように有効になると予想される。したがって、別の態様では、本開示は、ATまたはNT療法に応答性である疾患または適応症を治療する方法を提供する。その方法は、一般に、ATまたはNTによる治療に応答性である疾患または適応症に罹患しているヒトを含む哺乳動物に、疾患または適応症を治療するのに本明細書に記載された組成物の有効量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0015】
ATおよび/またはNTによる治療に応答性であることが知られている疾患または適応症の1つの重要なクラスは、精神疾患である。そのような精神疾患または適応症の具体例としては、限定されるものではないが、気分障害(例えば、うつ病など)、不安障害(例えば、OCDなど)、摂食障害(例えば、神経性食欲不振症や神経性過食症など)、衝動性障害(例えば、抜毛症など)、睡眠障害(例えば、オピオイド離脱に関連する不眠など)、人格障害(例えば、ADHDなど)、および身体表現性障害(ある種の疼痛など)として「Diagnostic and Statistic Manual of Mental Disorders IV(2000年改訂);以下、「DSM−IV」と称する」に分類されている様々な精神疾患および適応症が挙げられる。
【0016】
ATおよび/またはNTによる治療に応答性であることが知られている疾患または適応症の別の重要なクラスは、侵害受容性(例えば、体性または内臓性)または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)の起源にかかわらず、急性および慢性の両方を含む疼痛である(さらに詳細に、後に議論される)。
【0017】
こうした疾患または適応症の全ては、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の様々な実施形態による治療に応答することが期待される。そして、上記したように、H1ヒスタミン受容体における(−)−E−10−OH−NTの予想外の低い拮抗性および下記で議論する予想外の、真価が認められない性質のために、ATおよび/またはNTでの治療よりも、不都合な副作用がより少ない治療を達成することができると期待される。
【0018】
これらの様々な疾患または適応症を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、単剤療法として単独で使用することができるし、あるいはまた、他の治療と組み合わせて、またはそれに補助的に使用することができる。例えば、特定の精神疾患または適応症を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、同じ精神疾患または適応症を治療するために有用な別の治療剤と組み合わせて、またはそれに補助的に投与してもよい。特定のタイプの疼痛を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、同じタイプの疼痛を治療するために有用な別の治療剤と組み合わせて、またはそれに補助的に投与してもよい。しかしながら、そのような併用療法または補助療法は、同じ適応症を治療するために有用な化合物の組み合わせに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物で治療されている疾患または障害を治療しない治療剤と組み合わせて、あるいは補助的に投与することが有用であるか、または望ましい。いくつかの実施形態では、他の療法と組み合わせて、あるいは補助的に投与されるE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。適切な組み合わせの代表的な非限定的な例は、さらに詳細に後のセクションで議論される。
【0019】
どんな作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、NEおよび/または5HT輸送体などのモノアミン輸送体を阻害するATおよびNTの能力は、それらの多くの治療特性をある程度、担っていると考えられる。当該分野では十分に前例のあることであるが、少なくとも以下の疾患または適応症は、NEおよび/または5HT輸送体の阻害剤による治療に応答性である:尿失禁などの排尿障害;うつ病や季節的情動障害(SAD)などの気分障害;認知症などの認知障害;統合失調症や躁病などの精神障害;不安障害;ADHDなどの人格障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;ニコチン、アルコール、コカイン、ヘロイン、フェノバルビタール、およびベンゾジアゼピン類などに対する嗜癖などの乱用薬物や乱用物質の嗜癖から生じる化学物質依存症;離脱症状;高プロラクチン血症などの内分泌障害;抜毛症や盗癖などの衝動性障害;トゥーレット症候群などのチック障害;過敏性腸症候群(IBS)、腸閉塞、胃不全麻痺、消化性潰瘍、逆流性食道炎(GORD、またはその同義語のGERD)、鼓腸および消化不良(例えば、非潰瘍性胃腸症(NUD))や非心臓性胸痛(NCCP)などの他の機能的な腸障害などの胃腸管障害;脳血管系などにおける血管痙攣を含む血管障害;および他の種々雑多な障害(パーキンソン病、ショック、および高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群を含む)。
【0020】
上で議論したように、(−)−E−10−OH−NTは、また、NEおよび5HT輸送体並びにNEおよび/または5HTの取り込みを阻害する。したがって、なお別の態様では、本開示はNEおよび/または5HTの取り込みを阻害する方法を提供する。その方法は、一般的に、NEおよび/または5HT輸送体を、NEおよび/または5HTの取り込みを阻害するのに有効な量の(−)−E−10−OH−NTと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、その方法は、ATおよびNTの非存在下に実施される。いくつかの実施形態では、NEおよび/または5HT輸送体は、本明細書で記載されたようにE−10−OH−NT組成物と接触させる。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0021】
方法は、単離した輸送体または1つもしくは両方の輸送体を発現する細胞を用いてインビトロで、あるいは、NEおよび/または5HTの調節不全の取り込みおよび再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患や障害を治療するための治療的なアプローチとして、インビボで実施することができる。NEおよび/または5HTの調節不全の取り込みおよび再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患や障害の具体例としては、限定されるものではないが、上に列挙したものを含む。
【0022】
歴史的に、NE(NRIs)および/または5HT(SRIs)の再取込みを阻害するものを含む抗うつ剤は、侵害受容性起源または非侵害受容性起源のいずれかである急性および慢性の疼痛の両方、例えば、神経障害、疱疹後神経痛(PHN)、線維筋痛症関連疼痛、過敏性腸症候群関連疼痛および間質性膀胱炎を治療するための一次治療として使用されてきた(Sindrup & Jensen,1999;Collinsら,2000;Crowellら,2004)。最近の研究は、疼痛のげっ歯類モデルにおける最大効果に必要である、NEおよび/または5HT輸送体での相対活性を系統的に評価した(Leventhalら,2007)。観測された結果は、神経障害性疼痛状態を治療するために臨床的に観察されたものを再生している。すなわち、NE輸送体に対してより大きな親和性を有する化合物は、疼痛の治療においてより有効であり、5HT輸送体に対するより大きな親和性を有する化合物は、有効性が限られる(参照:例えば、Maxら,1992;Collinsら,2000)。実際、4環性NRIマプロチリンおよびSRIパロキセチンを比較する二重盲検プラセボ対照直接比較試験では、疼痛強度の減少は、パロキセチン(26%)またはプラセボ(27%)と比較して、マプロチリン(45%)に無作為化された試験完了者については有意に大きかった(Atkinsonら,1999)。最近、デュロキセチン(5HTおよびNE輸送体の両方で効力を有する2重のSRIおよびNRI)は、糖尿病性神経障害の治療のために承認された最初の再取込み阻害剤であった(Bymasterら,2005;Goldsteinら,2005)。
【0023】
(−)−E−10−OH−NTについて本明細書で示されるNRI活性は、この化合物を多くの種類の疼痛症候群の治療に理想的に適するようにさせる。実際に、出願人によって行われて、本明細書で報告された実験では、(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性の炎症性疼痛(参照:実施例6,15および16)および非侵害受容性の神経障害性疼痛(参照:実施例5および17から20)の両方のげっ歯類モデルで強い治療有効性を示した。両方のモデルにおいて、(−)−E−10−OH−NTに関して観察された有効性は、ATのそれと同等であった。
【0024】
したがって、さらに別の態様では、本開示はヒトを含む哺乳動物の疼痛を治療する方法を提供する。その方法は、一般に、疼痛に苦しむ哺乳動物(ヒトを含む)に、疼痛を治療するために有効な、本明細書で記述されたE−10−OH−NT組成物の量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が鏡像異性体的に富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0025】
方法は、いろいろな異なるタイプの疼痛症候群を治療するのに用いることができ、そのような症候群は、侵害受容性起源(例えば、体性または内臓性)または非侵害受容性起源(例えば、神経因性または交感神経性)のどちらかである急性または慢性の疼痛を含む。いくつかの実施形態では、疼痛は侵害受容性疼痛であって、限定されるものではないが、IBSまたは関節リウマチ関連炎症性疼痛、癌関連疼痛、および変形性関節炎関連疼痛が挙げられる。いくつかの実施形態では、疼痛は非侵害受容性疼痛であって、限定されるものではないが、疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛、病巣末梢神経損傷、有痛性知覚麻痺、中枢性疼痛(例えば、脳卒中後疼痛、脊髄損傷による疼痛または多発性硬化症関連疼痛)、および末梢神経障害(例えば、糖尿病性神経障害、遺伝性神経障害、または他の後天性神経障害)などの神経障害性疼痛が挙げられる。
【0026】
E−10−OH−NT組成物は、単独で投与することができるし、あるいは疼痛および/または他の適応症を治療するのに有用な1つ以上の他の薬剤と組み合わせて、もしくはそれに補助的に投与することができる。疼痛治療または治療計画におけるE−10−OH−NT組成物と組み合わせて、もしくはそれに補助的に使用することができる薬物の具体的な非限定例は、後のセクションで提供される。
【0027】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛、特に神経障害性疼痛症候群を治療および/または管理するのに現在使用されている薬物に対して、著しい利点を提供することが期待される。疼痛を治療するための最も一般的な3環系抗うつ薬は、H1ヒスタミン受容体と拮抗し、したがって、著しい体重増加と鎮静効果を伴う。以上のように、(−)−E−10−OH−NTは、この受容体にかなり少ない程度に拮抗し、侵害受容性炎症や非侵害受容性神経障害性疼痛の両方を治療する際に、インビボで有効であることが本明細書で証明された(−)−E−10−OH−NTの用量での鎮静作用のげっ歯類モデルで鎮静作用を誘発しないことが証明された。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、体重増加や鎮静作用を最小限にしながら、疼痛を治療または管理する手段を提供する。
【0028】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛または本明細書に記述される任意の他の多くの疾患および適応症を治療するために使用される場合、さらに著しい利点を提供する。例えば、ATおよびNTは、シトクロムP450アイソエンザイムのCYP2D6とCYP2C19の公知の阻害剤であり、その結果、こうした酵素で代謝されるいくつかの重要な薬物との使用は禁忌である。CYP2D6によって少なくとも一部が代謝されることが知られており、したがって、ATおよびNTとの使用に対して禁忌であるかもしれない代表的な薬物は、S−メトプロロール、プロパフェノン、チモロール、クロミプラミン、デシプラミン、イミプラミン、パロキセチン、ハロペリドール、リスペリドン、チオリダジン、アリピプラゾール、コデイン、デキストロメトルファン、デュロキセチン、フレカイニド、メキシレチン、オンダンセトロン、タモキシフェン、トラマドールおよびベンラファキシンを含む。CYP2C19によって少なくとも一部が代謝されることが知られており、したがって、ATおよびNTとの使用に対して禁忌であるかもしれない代表的な薬物は、オメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、ジアゼパム、フェニトイン、フェノバルビトン、クロミプラミン、シクロホスファミド、およびプロゲステロンを含む。本出願人によって得られ、本明細書(さらに詳細に、実施例の部で議論される)で報告されるデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ATおよびNTよりも、CYP2C19とCYP2D6の両方に対してそれほど強力でない阻害剤であることを示す。この驚くべき発見に一部は基づいて、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物は、特にこれらのシトクロムP450アイソエンザイムによって少なくとも一部は代謝されている薬物と組み合わせて、あるいは補助的に使用される場合、ATおよび/またはNT療法よりも、望ましくない臨床的結果をより少なく生じると考えられる。
【0029】
また、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTよりも、ムスカリン受容体に対して著しく低い親和性を有し、ATやNTよりも、ヒトエーテル・ア・ゴー・ゴー関連遺伝子(hERG)カリウムチャネルの弱い阻害を示し、ATやNTよりも、α1およびα2アドレナリン受容体の両方を含むアドレナリン受容体における拮抗性が弱いことが、出願人によって驚くべきことに発見された。これらの特性の全ては、ATおよびNT療法と比べて、向上した臨床的有益性をもたらすと予想される。例えば、ムスカリン受容体の阻害は、口腔乾燥症、便秘および霧視に関連している。α2アドレナリン受容体のアゴニストは、無痛覚をもたらすと報告(Ongiocoら,2000;Asanoら,2000;Hallら,2001)されているが、一方、拮抗剤は、こうした鎮痛作用(Kalsoら,1991;Millan & Colpaert 1991;Petrovaaraら,1990)を阻害する。どんな作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物で治療される患者は、ATおよび/またはNTで治療された患者よりも、より少ない、望ましくない副作用を示すであろうと予想される。具体的には、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物で治療される患者は、ATおよびNTで治療された患者よりも、上記の減少した薬物−薬物相互作用ならびに鎮静および食欲効果に加えて、低レベルの心臓毒性および便秘を経験すると予想される。実際に、当量の経口用量では、(−)−E−10−OH−NTは、胃腸管運動のげっ歯類モデルで、ATやNTに比べて、はるかに少ない便秘をもたらした。
【0030】
ATやNTと異なり、(−)−E−10−OH−NTは、α2アドレナリン受容体と拮抗しない。したがって、理論上、本明細書に記述されたE−10−OH−NT組成物は、また、疼痛の治療においてATやNTよりも優れていることが予想される。実際に、図3および4で例示されるように、(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性疼痛および非侵害受容性疼痛の両方のげっ歯類モデルにおいて、ATよりも優れていることが証明された。
【0031】
(±)−E−10−OH−NTの合成は、文献(Remyら,1973)にこれまでに報告されているが、個々の(+)および(−)鏡像異性体のキラル合成は、まだ一度も報告されたことがない。したがって、さらに別の態様では、本開示は、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体を合成するキラル−特異的方法、前記方法に有用な中間体、および中間体を合成するキラル特異的方法を提供する。
【0032】
いくつかの実施形態では、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのキラル−特異的合成に有用な中間体は、E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンのそれぞれ(+)および(−)鏡像異性体であって、図1Aの化合物(+)−7および化合物(−)−7としてそれぞれ例示されている。化合物7の(+)および(−)鏡像異性体のキラル10−炭素の絶対配置は、直接には確立されていない。したがって、水酸基をこのキラル炭素原子(キラリティは星印で示される)に結合する結合手は、不特定の立体化学で例示される。しかしながら、化合物7のキラリティは、(−)−E−10−OH NTの絶対立体化学(図6に記載)から推論することが可能であり、それは(−)−E−10−OH NTのリンゴ酸塩のX線結晶学的解析で決定された。
【0033】
キラル中間体(+)−7および(−)−7の合成方法は、一般に、E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン(図1Aで化合物6として例示)を、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒の存在下、還元することを含む。適切なキラル−特異的オキサザボロリジン触媒の非限定的な典型的実施形態は、図1Bに例示される。いくつかの実施形態では、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒は、(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(「7αS−CBS」;図1Aにおいて化合物S−10)であり、(−)−7を産生する。いくつかの実施形態では、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒は、(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(「7αR−CBS」;図1Bにおいて化合物R−10)であり、(+)−7を産生する。
【0034】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、中間体をメチルアミンと反応させることにより、中間体(+)−7および(−)−7からそれぞれ合成することができる。キラル−特異的触媒としてCBSを利用する合成の特定の実施形態は、図1Aに例示される。実施例のセクションで提供される反応条件下、このスキームを利用して、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、99%超の鏡像異性体純度の高収率で容易に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】図1Aは、鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTを合成するために使用することができる典型的なスキームを提供する;
【図1B】図1Bは、図1Aに例示された合成スキームで使用することのできるキラル−特異的オキサザボロリジン触媒の典型的な実施形態を提供する;
【図2】図2は、鎮静作用のラット回転棒モデルでのATおよびNTと比較した、(−)−E−10−OH−NTの非鎮静作用を示すグラフを提供する;
【図3】図3は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗痛覚過敏効果を示すグラフを提供する;
【図4】図4は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでのATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図5】図5は、GITのげっ歯類モデルでのATおよびNTの両方と比較した、胃腸管運動に関する(−)−E−10−OH−NTの優れた特性を示すグラフを提供する;
【図6】図6は、X線結晶学的解析で確立された(−)−E−10−OH−NTの絶対配置を表す;
【図7】図7は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでの(+)−E−10−OH−NT、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTおよびATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図8】図8は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでの、アミトリプチリンの抗アロディニア効果と比較した、経口投与された(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図9】図9は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのアミトリプチリンのFCAと回転棒用量−応答関係を示す曲線を提供する;
【図10】図10は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(−)−E−10−OH−NTのFCAと回転棒用量−応答関係を示す曲線を提供する;
【図11】図11は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(−)−E−10−OH−NTの用量−関連抗痛覚過敏活性を示すグラフを提供する;
【図12】図12は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(+)−E−10−OH−NTにより示される実質的抗痛覚過敏活性の非存在を示すグラフを提供する;
【図13】図13は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのE−10−OH−NTの鏡像異性体の異なる抗痛覚過敏活性を示すグラフを提供する;
【図14】図14は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのE−10−OH−NTの鏡像異性体の抗痛覚過敏活性を比較したグラフを提供する;
【図15A】図15Aは、うつ病のラット強制水泳試験モデルでのアミトリプチリン(AT)の活性を示すグラフを提供する;
【図15B】図15Bは、うつ病のラット強制水泳試験モデルでの(−)−E−10−OH−NTの活性を示すグラフを提供する;および
【図15C】図15Cは、うつ病のラット強制水泳試験モデルにおいて、試験した用量で(+)−E−10−OH−NTが統計学的に有意な活性を示さなかったことを表すグラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
8.詳細な説明
8.1 E−10−OH−NT化合物および組成物
本開示は、下記に図示される周知の3環系抗うつ薬アミトリプチリン(AT)およびノルトリプチリン(NT):(S/R)−5−[3−メチルアミノ−プロピ−(E)−イリデン−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−10−オール(本明細書では、「E−10−OH−NT」と称する)の一般的な主要代謝物のE−幾何異性体を含む組成物に関する。
【0037】
【化1】
【0038】
10位の炭素(星印で示される)のキラリティにより、E−幾何異性体は、2つの鏡像異性体:(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTを含む。X線結晶学的解析で確立された(−)異性体のキラルの10−炭素についての絶対配置は、図6に表記される。したがって、(−)および(+)異性体のキラリティは、以下に表記されるとおりである。
【0039】
【化2】
【0040】
本明細書で記述される様々な組成物において、E−10−OH−NT化合物は、(−)鏡像異性体が富化された非ラセミ体混合物として、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)鏡像異性体として、あるいは鏡像異性体的に純粋な(−)鏡像異性体として存在することができる。特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTであるE−10−OH−NTを含む。別の特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTであるE−10−OH−NTを含む。
【0041】
本明細書で使用される場合、その鏡像異性体がもう片方の鏡像異性体に対して過剰に存在しているとき、つまり、その鏡像異性体が組成物中の全E−10−OH−NTの50%超を含むとき、組成物は、特定の鏡像異性体が「富化」されている。特定の鏡像異性体が富化されている組成物は、典型的には、特定の鏡像異性体の少なくとも約60%、70%、80%、90%、またはさらにそれ以上を含むであろう。特定の鏡像異性体の富化の量は、当業者によって常套的に使用される従来の分析方法を使用して確認でき、そのような方法としては、キラルシフト試薬の存在下でのNMR分光分析、キラルカラムを使用するガスクロマトグラフィ分析、およびキラルカラムを使用する高圧液体クロマトグラフィ分析が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態では、単一の鏡像異性体は、対応する鏡像異性体を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、組成物が、当業者によって常套的に使用される従来の分析方法(例えば、上記した方法)を用いて確立された、特定の望まない鏡像異性体の約10%未満を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、望まれない鏡像異性体の量は、10%未満であってよく、例えば、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満またはそれ未満である。特定の鏡像異性体の少なくとも約95%を含む鏡像異性体的に富化された組成物は、本明細書では、「実質的に鏡像異性体的に純粋な」と称される。特定の鏡像異性体の少なくとも約99%を含む組成物は、本明細書では、「鏡像異性体的に純粋な」と称される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書で記述される、鏡像異性体的に富化されたE−10−OH−NT組成物は、(−)−E−10−OH−NTで約60%、70%、80%または90%純粋であるE−10−OH−NTを含む。言い換えると、(−)鏡像異性体は、約60、70、80または90%eeの範囲の鏡像体過剰率(ee)で存在する。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述される実質的に、鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体で約95〜98%純粋であるE−10−OH−NTを含む;言い換えると、(−)−E−10−OH−NTは、約95〜98%eeの範囲の鏡像体過剰率で存在している)。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体で約99.0〜100%純粋であるE−10−OH−NTを含む;言い換えると、(−)−E−10−OH−NTは、約99.0〜100%eeの範囲の鏡像体過剰率で存在している)。特定の非限定的な典型的実施形態は、E−10−OH−NTが(−)鏡像異性体で約99.0、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9または100%純粋であるE−10−OH−NT組成物を含む。
【0044】
インビボでの3環系抗うつ薬のヒドロキシ代謝物は、多形のシトクロムP450酵素CYP2D6によって形成される。NTは、この酵素により非常に立体特異的にE−10−OH−NTの(−)鏡像異性体へとヒドロキシル化されると考えられる(参照:例えば、Nordin & Bertilsson,1995)。したがって、理論上、(−)−E−10−OH−NTは、100%の鏡像異性体純度で生物資源から単離することができる。対照的に、当事者は、合成手段で製造された(−)−E−10−OH−NTの組成物は、通常、100%の鏡像異性体純度を達成することができないことを理解するであろう。例えば、実施例のセクションで記述される合成方法では、(−)鏡像異性体の約90〜99.5%eeの範囲の鏡像異性体純度が、通常、達成される。
【0045】
特に他に断りのない限り、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、生物起源および合成起源の両方の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含むものとする。したがって、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、約99%から100%までの鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含むことができる。
【0046】
生物起源(すなわち、生物資源から単離された)であり、したがって、100%の(−)−E−10−OH−NTを含み得る鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物の実施形態は、「生物由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT組成物」と、本明細書では称される。同様に、そのようなE−10−OH−NTは、「生物由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT」と、本明細書では称される。合成起源であり、CYP2D6などのキラル特異的生体触媒を用いて、生体外(ex vivo)で調製された組成物を含み、したがって、少なくとも約99%、しかし、通常は100%未満の(−)−E−10−OH−NTを含む、鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物の実施形態は、「合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT組成物」と、本明細書では称される。同様に、そのようなE−10−OH−NTは、「合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT」と、本明細書では称される。合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTは、通常、約99〜99.9%eeの範囲の鏡像異性体過剰率で(−)鏡像異性体を含むであろう。
【0047】
目的とする使用によって、E−10−OH−NTは、遊離塩基、または塩の形態で、例えば、酸付加塩の形態で組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、医薬的に許容される塩の形態で組成物中に存在する。一般に、医薬的に許容される塩は、親化合物の所望の薬理活性の1つ以上を実質的に保持しており、ヒトに投与するのに適しているそれらの塩である。医薬的に許容される塩は、無機酸または有機酸で形成された酸付加塩を含む。医薬的に許容される酸付加塩を形成するのに適切な無機酸は、例えば、限定されるものではないが、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸)、硫酸、硝酸、燐酸などを含む。医薬的に許容される酸付加塩を形成するのに適切な有機酸は、例えば、限定されるものではないが、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、蓚酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、パルミチン酸、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)ベンジン酸、桂皮酸、マンデル酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタン−ジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸など)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸など)、4−メチルビシクロ[2.2.2]−オクト−2−エン−1−カルボン酸、グルコヘプトン酸、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、有機酸付加塩、例えば、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸およびコハク酸から選択される有機酸で形成される酸付加塩として組成物中に存在する。
【0049】
化合物の様々な塩の形態は、異なる性質、例えば、異なる毒性、溶解度、安定性、吸湿性などを示し得ることは、当該分野で周知である。コハク酸とで形成された(−)−E−10−OH−NTの酸付加塩(コハク酸塩)は、マレイン酸とで形成された(−)−E−10−OH−NT塩(4.4mg/ml)よりも、生理食塩水中で優れた溶解度(18mg/ml)を有し、本質的に結晶性であり、非吸湿性であることが発見された。したがって、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTのマレイン酸塩形態の使用(Bertilssonら,1986)は、健常者ボランティアに投薬するために以前に使用されているが、一方、(−)−E−10−OH−NTのコハク酸塩は、優れた性質を有し得ると期待される。例えば、マレイン酸は、先に急性尿細管壊死の毒性と関連づけられている(Everettら,1993)。コハク酸塩は、マレイン酸塩よりも、優れたADMEと毒物学的な安全性特性を有するであろうと予想される。したがって、いくつかの実施形態では、組成物を構成する(−)−E−10−OH−NTは、コハク酸塩である。
【0050】
遊離塩基または塩の形態のいずれにせよ、E−10−OH−NTは、無水物形態で組成物中に存在することができるか、あるいは、それは溶媒和物および/または水和物であることができる。溶媒和物形成溶媒の程度と同定は、E−10−OH−NT化合物を合成し、保存するために使用される条件に一部分は依存するであろう。本明細書で使用される場合、特に他に断りの無い限り、表記「E−10−OH−NT」、(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、化合物の塩および/または溶媒和物および/または水和物の形態の全てを含むものとする。
【0051】
8.2 合成方法
(−)−E−10−OH−NT化合物は、文献に記載された方法により合成または調製することができる。例えば、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTは、Bertrandら,1994およびLassenら,1983に記載されているように合成することができ、その開示は引用することにより本明細書に取り込まれる。(−)−E−10−OH−NTの鏡像異性体的に富化された組成物は、そのようなラセミ混合物から、キラル分離の標準的な方法(参照:例えば、Chiral Separation Techniques;A Practical Approach 2001)を用いて所望の鏡像異性体を単離することにより合成できる。
【0052】
開示の別の態様は、キラル特異的合成方法を用いるE−10−OH−NTの鏡像異性体的に純粋な異性体を合成する手段を提供する。鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの合成に有用な方法の例示的実施形態は、図1Aに例示される。図1Aによれば、5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,b]−シクロヘプテン(化合物6)のE−異性体は、キラル特異的オキサザボロリジン触媒の存在下に還元される(化合物S−10およびR−10として図示される)。図示されるように、触媒(S−10)のS−異性体は、5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,b]−シクロヘプテンの(−)鏡像異性体(化合物(−)−7)を産生し、そしてR−異性体(R−10)は、(+)鏡像異性体である(+)−7を産生する。次に、これらの中間体は、メチルアミンとの反応により、それらのそれぞれの(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT生成物に変換することができる。
【0053】
化合物6の出発原料は、文献(参照:例えば、Bertrandら,1994;Lassenら,1983;これらの開示は引用により本明細書に取り込まれる)に記載された方法を用いて合成することができる。あるいはまた、図1Aで例示されるように、それらを合成することができる。各例示された工程の特定条件は、実施例の部で提供される。
【0054】
図1Aでは、特定のキラル特異的オキサザボロリジン触媒が例示される。他のキラル特異的オキサザボロリジン触媒もまた、使用することが可能である。特定の代表的な例が、図1B(図1Bにおいて、Rは水素またはメチルである)で例示され、Itsunoら,1983(触媒10a),Coreyら,1987(触媒10b),Hongら,1994(触媒10c),Quallichら,1993(触媒10d)およびBerenguerら,1994(触媒10e)に記載されている。CBS還元系により達成された不斉誘導は、ホウ素原子に結合した可変基により非常に影響を受ける。β−水素またはβ−メチルが最も一般的に使用されているが、この基は、特定の基質に適合させるために調整することができる。ホウ素原子に結合したこの基は、ケトンのβ−R基と小さい置換基との間の相互作用が最小限となるように結合するようにケトンを誘導する(メカニズム研究の詳細については、Kimら,2006を参照のこと)。還元が実施される一般的な条件は、前記引用の文献およびCoreyら,1991;Coreyら,1992;Coreyら,1998;Patersonら,2005;Zartmanら,2005;Tagatら,2004;Duquetteら,2003;Yanagiら,2003;およびCoeら,2003にも記載されており、これらの開示は引用により本明細書に取り込まれる。実施例の部で説明されるように、ボラン−ジメチルスルフィド錯体の存在下、THF中,−20℃で反応を実施する場合、反応は、図1Aで例示された特異的触媒を使用して、高収率および99%超の鏡像異性体純度でもって実施することができる。
【0055】
8.3 化合物および組成物の活性と用途
実施例4と14で詳細に記載されるように、(−)−E−10−OH−NTは、ATとNTのように、ノルエピネフリン(「NE」)輸送体に対して強力な親和性を有し、NE取り込みの強力な阻害剤である。また、(−)−E−10−OH−NTは、セロトニン輸送体と結合し、NEに対して観測された効力より弱い効力ではあるが、5HTの取り込みを阻害する。様々な疾患や障害を治療するために、NEおよび/または5HTの再取込みを阻害する化合物の使用は、十分に立証されている。例えば、AT、NT、デシプラミン、デュロキセチン、ベンラファキシン、シタロプラム、およびシンバルタは、うつ病治療のために承認されて、追加の適応外使用を有する;そしてパロキセチンとセルトラリンは、大うつ病性障害、OCD、パニック障害、外傷後ストレス障害、月経前不快気分障害、および社会不安障害の治療のために承認されており、また追加の適応外使用を有する。
【0056】
ラセミ体のE−10−OH−NTの血液脳関門を通過する能力は、文献(例えば、Nordinら,1987b参照)で確立されている。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、調節不全のNEの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患および/または障害の治療に有用であることが期待される。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、例として、限定されるものではないが、AT、NT、アトモキセチン、レボキセチン、およびマプロチリンを含む他のNRIやSNRI剤での治療に応答する多くの異なる疾患を治療するのに有用となるであろう。調節不全のNEの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介されることが知られており、NRIやSNRI化合物での治療に応答することが知られている疾患および/または障害としては、限定されるものではないが、尿失禁などの排尿障害;うつ病や季節的情動障害(SAD)などの気分障害;認知症などの認知障害;統合失調症や躁病などの精神障害;不安障害;ADHDなどの人格障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;ニコチン、アルコール、コカイン、ヘロイン、フェノバルビタール、およびベンゾジアゼピン類に対する嗜癖などの乱用薬物や乱用物質の嗜癖から生じる化学物質依存症;離脱症状;高プロラクチン血症などの内分泌障害;抜毛症や盗癖などの衝動性障害;トゥーレット症候群などのチック障害;過敏性腸症候群(IBS)、腸閉塞、胃不全麻痺、消化性潰瘍、逆流性食道炎(GORD、またはその同義語のGERD)、鼓腸および消化不良(例えば、機能性胃腸症(NUD))や非心臓性胸痛(NCCP)などの他の機能的な腸障害などの胃腸管障害;脳血管系などの血管痙攣を含む血管障害;および種々雑多な他の障害(パーキンソン病、ショック、および高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群が挙げられる。実際、実施例21で示されるように、(−)−E−10−OH−NTは、うつ病のげっ歯類モデルで、効力を示す。
【0057】
疼痛もまた、調節不全のNEおよび/または5−HTの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介されると考えられる。実際、多くのNRIおよび/またはSRI化合物は、また、疼痛を治療するための適応外使用に使用される。疼痛は、通常、不快な感覚または感情的な経験の認識または病態を指すと理解され、それは組織への実際の損傷と関係している場合があるか、そうでない場合がある。一般に、それは2つの広義のカテゴリーを含むことが理解される:侵害受容性(例えば、体性または内臓性)起源または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)起源のどちらかである急性および慢性(例えば、Buschmannら,2002;Jain,2000参照のこと)。急性疼痛は、一般に、緊張/捻挫、火傷、心筋梗塞、急性膵炎、手術、外傷および癌から起こる侵害受容性疼痛を含む。慢性疼痛は、一般に、侵害受容性疼痛を含み、それらは限定されるものではないが、IBSまたは関節リウマチなどを伴う炎症性疼痛、癌関連疼痛、および変形性関節炎関連疼痛が挙げられる;そして非侵害受容性疼痛を含み、それらは限定されるものではないが、疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛、病巣末梢神経損傷、有痛性知覚麻痺、中枢性疼痛(例えば、脳卒中後疼痛、脊髄損傷による疼痛または多発性硬化症関連疼痛)、および末梢神経障害(例えば、糖尿病性神経障害、遺伝性神経障害、または他の後天性神経障害)が挙げられる。
【0058】
実施例の部で示される動物データは、(−)−E−10−OH−NTが侵害受容性炎症および非侵害受容性神経障害性疼痛の両方の治療において有効であることを確認している。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、上記した様々なタイプの疼痛を含む疼痛の治療に使用される。上で述べたように、ある実施形態では、そのような組成物は、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、そのような組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0059】
本明細書で証明されるように、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリンおよびセロトニン輸送体(実施例14)に対して同様の親和性を示し、E−10−OH−NTの(−)および(+)異性体は、6つの異なるタイプの受容体と輸送体、すなわち、ノルエピネフリン輸送体(実施例4と14)、セロトニン輸送体(実施例4と14)、ドーパミン輸送体(実施例4)、ヒスタミン受容体(実施例7)、α−アドレナリン受容体(実施例9)、およびムスカリン受容体(実施例12)に対して、ならびにシトクロムP450機能(実施例10)およびhERGイオンチャネル(実施例11)に対しても、インビトロで同様の活性を示した。このデータから見て、特にひとまとめにすると、ラセミ体ならびに(+)および(−)鏡像異性体は、インビボで同様の効力を有するであろうと期待されるであろう。その期待にもかかわらず、本明細書で提示されたデータは、E−10−OH−NTの(−)鏡像異性体は、ラセミ体および(+)鏡像異性体の両方よりも、疼痛のげっ歯類モデルにおいて、治療的にさらに有効であり、そして、うつ病のげっ歯類モデルにおいて、(+)鏡像異性体よりも、さらに有効であることを意外にも示した。より具体的には、試験された用量では、(1)(−)−E−10−OH−NTは、非侵害受容性の神経障害性疼痛のげっ歯類L5−単一神経結紮モデルにおいて、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの両方よりも、さらに有効であり(実施例15);(2)(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性疼痛のFCA−誘発痛覚過敏アッセイにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりも、さらに有効であり(実施例19および20);そして(3)(−)−E−10−OH−NTは、うつ病のラット強制水泳試験モデルにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりも、さらに有効であった(実施例21)。ラセミ体のE−10−OH−NTならびにその(+)および(−)鏡像異性体で発生するインビトロでのデータに基づいて、これらの発見を予測できなかった。実際、疼痛のラットL5 SNLモデルでの(±)−E−10−OH−NTの場合に観測される有効性の欠如に基づき、疾患のそのインビボまたは他のいかなる動物モデルにおいても、単離された鏡像異性体を試験する必要はないであろう。
【0060】
いろいろな疾患または適応症を治療するのに用いられるとき、E−10−OH−NT組成物は、通常、特定の疾患または適応症を治療するために有効な量で投与されるであろう。当業者に認知されているように、何が「治療的に有効である」かや、治療的利益を提供することであるかの理解は、しばしば特異的疾患または適応症次第である。当業者は、特定の適応症に対して、古くからある評価基準に基づいて治療有効量を確かめることができるであろう。
【0061】
一般に、組成物の「治療有効」量は、治療されている基礎疾患または適応症を根絶または改善する、および/または患者が基礎疾患または適応症にまだ悩むかもしれないということに耐えるのではなく、患者が感情または状態の改善を報告するような、基礎疾患を伴う徴候の1つ以上を根絶または改善する量である。治療的な利益は、また、改善の自覚の有無にかかわらず、疾患または適応症の進行を停止するか、または遅くすることを含む。
【0062】
うつ病に関しては、治療有効量は、うつ病またはその徴候を根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのようなうつ病または徴候は、限定されるものではないが、気分の変化、激しい悲しみの感覚、絶望、精神的な遅滞、集中力の欠如、悲観的な心配と、動揺、自己卑下、不眠、拒食症と、体重減少、活動力および性衝動減退、およびホルモンの概日リズムを含む。
【0063】
不安障害に関しては、治療有効量は、不安障害またはその徴候の1つを根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのような不安障害または徴候としては、限定されるものではないが、自分自身の行動を制しきれなくなる恐怖、明らかな理由のない恐怖の意識、大災害に対する恐怖、不安、神経過敏、将来の事象についてのしつこい不確実性、頭痛、疲労および亜急性自律神経徴候が挙げられる。
【0064】
疼痛に関して、治療有効量は、疼痛またはその徴候を根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのような疼痛または徴候は、限定されるものではないが、銃撃感、灼熱感、電気感覚、痛み、不快、うずき、緊張、凝り、不眠、麻痺および弱さを含む。
【0065】
8.4 併用療法
ATおよびNTは、他の薬剤と組み合わせて様々な疾患や障害を治療するために使用されてきた。例えば、ATは、クロルジアゼポキシドと組み合わせて不安障害や大うつ病性障害を治療するのに使用されており、そしてペルフェナジンと組み合わせて不安障害、統合失調症および大うつ病性障害を治療するのに使用されてきた。さらに、NTは、ブデノシドと組み合わせて喘息を治療するのに使用されてきた。本明細書で記述されるAT、NTおよびE−10−OH−NT組成物は、NTおよび5HTの取り込みを阻害することを考慮すると、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、併用療法にも有用となることが期待される。
【0066】
併用療法で使用されるとき、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、他の薬剤と組み合わせて、あるいは補助物として使用されてもよい。本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物が、他の薬剤と組み合わせて使用される場合は、2つの薬剤は、単一の医薬組成物で投与されてもよいし、あるいは別々の医薬組成物として投与されてもよい。2つの成分は、同じ投与経路または異なる投与経路で投与されてもよい。また、2つの成分は、互いに同時に、あるいは順番に投与されてもよい。したがって、併用療法の各成分は、別々にではあるが、所望の効果を提供するために、他方の成分の投与と十分に接近した時間で投与することが可能である。
【0067】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物を含む併用療法は、多くの状況で有用であるが、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と使用される他の薬剤は、治療される特定の疾患または適応症に依存するであろう。当業者であれば、特定の適応症に対して、古くからある評価基準に基づいて、どんな他の薬剤と本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と組み合わせて使用するかを確かめることができるであろう。いかなる作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と、NEおよび5HTの再取込みを阻害することが知られている他の薬剤との投与を含む。あるいはまた、併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と、NEおよび5HTの再取込みを阻害しない薬剤との投与を含んでもよい。
【0068】
したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、NEや5HTの再取り込み、同様にうつ病を治療するために2重および3重のモノアミン取り込みを阻害する他の薬剤と併用してもよい。本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、また、例えば、限定されるものではないが、うつ病を治療するためのフルキセチン、パロキセチン、フルボキサミン、シタプロラム、およびセルトラリンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と併用することができる。うつ病の治療のための併用療法は、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)、例えばトラニルシプロミン、フェネルジン、およびイソカルボキサジドも含み得るが、これらに限定されるものではない。あるいはまた、併用療法は、アモキサピン、マプロチリン、およびトラゾドン(これらに限定されるものではない)などの複素環抗うつ剤、または別のベンラファキシン、ネファゾドン、およびミルタザピン(これらに限定されるものではない)などの別の抗うつ剤を含んでもよい。さらに、うつ病の治療のための併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物および抗不安薬(例えば、限定されるものではないが、クロルジアゼポキシドなど)、または抗精神病薬(例えば、限定されるものではないが、ペルフェナジンなど)を含むことが可能である。
【0069】
ATおよびNTのように、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、不安障害、統合失調症および喘息の治療のための併用療法に役立つと予想される。不安障害に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、クロルジアゼポキシドなどの抗不安剤と併用されてもよい。統合失調症に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、統合失調症を治療することが知られているペルフェナジンなどの薬剤と併用されてもよい。喘息に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、喘息を治療することが知られている、例えばブテノシドを含む副腎皮質ステロイドなどと併用されてもよい。
【0070】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛の治療のための併用療法において有用となるであろうことが、また期待される。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、カンナビノイドやオピオイドを含む他の鎮痛薬と併用することができる。併用療法の使用に適している多くのカンナビノイドが利用できる。したがって、併用療法は、Δ9−テトラヒドロカンナビノールおよびカンナビジオール、ならびにそれらの混合物から選択されるカンナビノイドを含んでもよい。
【0071】
あるいはまた、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、少なくとも1つのオピオイドと併用されてもよい。広範囲のオピオイドが利用可能であり、疼痛を治療する併用療法での使用に適している可能性がある。そのように、併用療法は、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジル−モルヒネ、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、シクラゾシン、デソモルヒネ、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルホン、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルヒネ、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオアフェチルブチレート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レバロルファン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、ロペラミド、メペリジン(ペチジン)、メプタジノール、メタゾシン、メタドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルブフィン、ナルセイン、ニコモルフィン、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ノルモルヒネ、ノルピナノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェノモルファン、ファナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロフェプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロピラム、プロポキシフェン、スルフェンタニル、チリジン、トラマドール、それらのジアステレオマー、それらの医薬的に許容される塩、それらの錯体;およびそれらの混合物から選択されるオピオイドを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、オピオイドは、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロコデイン、プロポキシフェン、フェンタニル、トラマドール、およびそれらの混合物から選択される。
【0072】
併用療法のオピオイド成分は、鎮痛剤および/または風邪咳の鎮咳剤の合剤で従来から使用され得る1つ以上の他の活性成分をさらに含んでもよい。そのような従来の成分は、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、デキストロメトルファン、フェニルプロパノールアミン、フェニレフリン、クロルフェニラミン、カフェイン、および/またはグアイフェネシンを含む。オピオイド成分に含まれる得る典型的または従来の成分は、例えば、Physicians’ Desk Reference,1999に記述され、その開示は、引用によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0073】
オピオイド成分は、オピオイドの鎮痛性効力を高める、および/または鎮痛耐性発現を減らすように設計された1つ以上の化合物を更に含むことが可能である。そのような化合物は、例えば、デキストロメトルファンまたは他のNMDA拮抗剤(Maoら,1996)、L−364,718および他のCCK拮抗剤(Dourishら,1988)、NOS阻害剤(Bhargavaら,1996)、PKC阻害剤(Bilskyら,1996)、およびダイノルフィン拮抗剤または抗血清(Nicholsら,1997)を含む。前記の文献の各々の開示は、引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0074】
あるいはまた、本明細書で記述される化合物は、少なくとも1つの非オピオイド性鎮痛剤(例えば、ジクロフェナク、COX2阻害剤、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセンなど、およびそれらの混合物)と共に使用されてもよい。
【0075】
さらに、疼痛の治療に関して、併用療法は、抗炎症剤を含んでもよく、それは限定されるものではないが、副腎皮質ステロイド、限定されるものではないが、エトフェナメート、メクロフェナム酸、メファナム酸、ニフルム酸などのアミノアリールカルボン酸誘導体系;限定されるものではないが、アセメタシン、アンフェナクシンメタシン、クロピラク、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンクロズ酸、フェンチアザク、グルカメタシン、イソゼパク、ロナゾラク、メチアジン酸、オキサメタシン、プログルメタシン、スリンダク、チアラミドおよびトルメチンなどのアリール酢酸誘導体系;限定されるものではないが、ブチブフェンおよびフェンブフェンなどのアリール酪酸誘導体系;限定されるものではないが、クリダナク、ケトロラクおよびチノリジンなどのアリールカルボン酸系;限定されるものではないが、ブクロキス酸、カルプロフェン、フェノプロフェン、フルノキサプロフェン、イブプロフェン、イブプロキサム、オキサプロジン、ピケトプロフェン、ピルプロフェン、プラノプロフェン、プロチジン酸およびチアプロフェン酸などのアリールプロピオン酸誘導体系;限定されるものではないが、メピリゾールなどのピラゾール系;限定されるものではないが、クロフェゾン、フェプラゾン、モフェブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、フェニルピラゾリジニノン、スキシブゾンおよびチアゾリノブタゾンなどのピラゾロン系;限定されるものではないが、ブロモサリゲニン、フェンドサール、グリコールサリチレート、メサラミン、1−ナフチルサリチレート、オルサラジンおよびスルファサラジンなどのサリチル酸誘導体系;限定されるものではないが、ドロキシカム、イソキシカムおよびピロキシカムなどのチアジンカルボキサミド系;限定されるものではないが、e−アセトアミドカプロン酸、s−アデノシルメチオニン、3−アミノ−4−ヒドロキシ酪酸、アミキセトリン、ベンダザク、ブコロム、カルバゾン類、ジフェンピラミド、ジタゾール、グアイアズレン、ミコフェノール酸の複素環アミノアルキルエステルおよび誘導体、ナブメトン、ニメスリド、オルゴテイン、オキサセプロール、オキサゾール誘導体、パラニリン、ピホキシム、2−置換−4,6−ジ−第3級−ブチル−s−ヒドロキシ−1,3−ピリミジン、プロクアゾンおよびテニダプなどの他の抗炎症剤を含んでもよい。
【0076】
8.5 製剤および投与
本明細書で記述される(−)−E−10−OH−NT化合物またはその医薬的に許容される塩は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、2005(その開示は、引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる)に記述されるように、投与の選択経路及び標準的な製薬実務に基づいて選択される医薬用担体と配合されてもよい。有効成分および担体の相対的な割合は、例えば、化合物の溶解度および化学的性質、投与の選択経路ならびに標準的な製薬実務により決定することが可能である。
【0077】
本明細書に開示される(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、有効成分(複数可)が、患者の体の所望の作用部位または複数の部位との接触をもたらす任意の手段により投与され得る。化合物は、個々の治療剤として、または治療剤と併用して、医薬との使用が利用できる任意の従来の手段で投与され得る。例えば、それらは、医薬組成物中の唯一の有効薬剤として投与されてもよいし、あるいは、それらは、他の治療的に有効な成分と組み合わせて用いることができる。
【0078】
本明細書に記述される(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、投与の選択経路(例えば、経口的または非経口的)に適した様々な形態で哺乳類宿主に投与することが可能である。これに関して、非経口投与としては、以下の経路:静脈内;筋肉内;皮下;眼内;滑液包内;経皮、眼、舌下および口腔を含む経上皮;眼、皮膚、眼内、直腸および通気法、エアロゾルによる鼻腔内吸入を含め局所的に;および、直腸全身系による投与が挙げられる。
【0079】
(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、例えば、不活性の希釈剤または同化可能な食用担体と経口投与用に製剤化することができるし、または硬質または軟質殻のゼラチンカプセル剤に入れることでき、または、錠剤に圧縮もでき、または、治療食の食物に直接的に配合することもできる。治療的な経口投与では、活性化合物は、賦形剤に配合し、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態で用いることもできる。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物(複数可)の量は、好ましくは、適切な用量が得られる量である。本発明による好ましい組成物および製剤は、経口用量単位形態が各活性化合物の約0.1〜1000mg(ならびにその中の範囲および特定の濃度のすべての組み合わせおよび下位の組み合わせ)を含むように調製し得る。
【0080】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどは、また、以下の1つ以上のものを含んでもよい:結合剤(例えば、トラガカント、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなど);賦形剤(例えば、リン酸ニカルシウムなど);崩壊剤(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど);甘味剤(例えば、スクロース、ラクトースまたはサッカリンなど);または風味剤(例えば、ペパーミント、冬緑樹油またはサクランボ香料)が含まれる。投薬単位形態がカプセルの場合、前記種類の材料に加えて、液体の担体を含む場合がある。コーティング剤として様々の他の材料が存在してもよく。例えば、錠剤、ピル、またはカプセルは、シェラック、砂糖、またはその両方を用いてコーティングされてもよい。シロップまたはエリキシルには、活性化合物、甘味剤としてスクロース、保存剤としてメチルおよびプロピルパラベン、色素および風味剤として、サクランボまたはオレンジ香料が含まれてよい。もちろん、任意の投薬単位形態の調製に使われる任意の材料は、使用される量において、好ましくは、医薬的に純粋であり、また実質的に非毒性である。
【0081】
(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、また、非経口または腹腔内投与用に製剤化されてもよい。活性化合物の遊離塩基または薬理学的に許容される塩の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を適度に混合した水中で製造することができる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で、および油中で調製することができる。貯蔵および使用の通常の条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するために保存剤を含有してもよい。
【0082】
注射による投与に適した組成物としては、例えば、滅菌水溶液または分散液;および滅菌注射可能な溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。あらゆる場合において、その形態は、好ましくは、滅菌され、容易な注射可能性を生ずる液体である。それは、好ましくは、製造および貯蔵条件下で安定であり、微生物、例えば、細菌およびカビの汚染作用に対して、好ましくは、防腐される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および植物油を含有する溶剤または分散媒体であってよい。その適度な流動性は、例えば、塗膜、例として、レシチンの使用により、分散液の場合において要求される粒度の維持により、および、界面活性剤の使用により、維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗カビ剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって達成される。多くの場合、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続した吸収は、吸収遅延薬剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンの使用によって達成することができる。
【0083】
滅菌注射用液は、必要とされる場合、要求量の活性化合物を上記列挙した種々の他の成分とともに適切な溶剤に配合し、続いて、滅菌濾過することによって調製することができる。概して、分散剤は、基材分散媒体と上記列挙したものから必要とされるその他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に滅菌された活性成分を配合することによって調製することができる。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、調製の好ましい方法は、活性成分の粉末に加えて、先に滅菌濾過したその溶液からの所望されるさらなる成分を生成する減圧乾燥および凍結乾燥技術を含んでもよい。
【0084】
8.6 有効用量
本明細書で記述されるように、(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、通常、治療有効量で投与されるであろう。投与される化合物または組成物の量は、さまざまな要因、例えば、治療される特定の適応症、投与様式、望ましい利益が予防的または治療的であるかどうかの点、治療される適応症の重症度、および患者の年齢や体重、特定の活性化合物の生物学的利用能、その他に依存するであろう。有効用量の決定は、当業者能力の十分な範囲内である。
【0085】
投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となるが、期待される用量は、約5mg/日〜約500mg/日であり、他の要因の中でも、治療される特定の疾患または適応症、化合物および/または組成物の活性、その生物学的利用能、投与様式および上で議論した様々な要因に依存して、それより高くても、低くてもよい。投薬用量と間隔は、治療または予防効果を維持するのに十分な化合物および/または組成物の血漿レベルを提供するために個々に調整されてもよい。非限定的な例として、化合物および/または組成物は、1日に1回または1日に複数回、とりわけ、投与様式、治療される特定の適応症および処方する医師の判断に依存して投与され得る。局所外用投与など局所投与や選択的摂取の場合は、活性化合物および/または組成物の有効な局所濃度は、血漿濃度とは関連しないかもしれない。当業者は、不当な実験なしで有効な局所用量を最適化することができるであろう。
【0086】
疼痛の治療に有用な(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物の初回用量は、実施例の部で記述される動物モデルなどのインビボのデータから推定することができる。その上、初回用量は、当該分野で利用できるいろいろな障害の治療についてのATおよびNTの有効用量に関するデータから推定することが可能である。参照:例えば、Bryson & Wilde,1996(慢性疼痛の治療に対して、ATの10〜25mg/日の開始量から、最大推定用量75mg/日または耐用量に10〜25mg/週で増量したことを報告している);およびラセミ体(±)−E−10−OH−NT、ならびにラセミ体(±)−E−10−OH−NT、ATおよび/またはNT投与後のその分離された鏡像異性体の薬物動態学的および薬力学的特性に関して当該分野で入手可能なデータ(Dahl−Puustinenら,1989(ラセミ体(±)−10−OH−NTを単剤の75mg経口用量で投与したのちに分離された鏡像異性体についての平均AUCを報告している);Bertilssonら,1986(10から100mgの範囲の用量で投与後のE−10−OH−NTの薬物動態学的特性を報告している);Edelbroekら,1986(ATを75mg投与後のE−10−OH−NTの定常状態濃度を報告している))。
【0087】
実施例5、6および15〜21に記載された動物モデルに基づいて、ヒトでの疼痛治療に対する(−)−E−10−OH−NTの有効用量は、ラットに30mg/kg(i.p.)の投与後に達成される血漿濃度に類似した血漿濃度を達成するのに十分な(−)−E−10−OH−NTの用量を投与することによって得ることが可能であると考えられる。そのように、いくつかの実施形態では、疼痛治療のための(−)−E−OH−NTの有効用量は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)をラットに投与した場合に達成される血漿濃度を達成するのに必要な用量である。
【0088】
疼痛治療のための(−)−E−OH−NTの投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となり、期待される用量は、約5mg/日から約500mg/日であるが、それより高くても、低くてもよい。約10mg/日から約20または25または30または35または40または45または50または60または70または80または90または95または100または150または200または250または300mg/日の(−)−E−10−OH−NTの経口用量は、疼痛を治療するのに有効であると考えられる。したがって、いくつかの実施形態は、約10mg/日〜約100mg/日の範囲で、(−)−E−10−OH−NTの経口用量の投与を含む。
【0089】
実施例21で記述される強制水泳の動物モデル試験に基づいて、ヒトのうつ病の治療のための(−)−E−10−OH−NTの有効用量は、ラットに30mg/kg(i.p.)の投与後に達成される血漿濃度に類似した血漿濃度を達成するのに十分な(−)−E−10−OH−NTの用量を投与することによって得ることが可能であると考えられる。そのように、いくつかの実施形態では、うつ病治療のための(−)−E−OH−NTの有効用量は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)をラットに投与した場合に達成される血漿濃度を達成するのに必要な用量である。
【0090】
うつ病治療のための(−)−E−OH−NTの投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となるであろうが、期待される用量は、約5mg/日から約500mg/日であるが、それより高くても、低くてもよい。約10mg/日から約20または25または30または35または40または45または50または60または70または80または90または95または100または150または200または250または300mg/日の(−)−E−10−OH−NTの経口用量は、うつ病を治療するのに有効であると考えられる。したがって、いくつかの実施形態は、約10mg/日〜約100mg/日の範囲で、(−)−E−10−OH−NTの経口用量の投与を含む。
【0091】
さらに、E−10−OH−NTとその鏡像異性体の薬物動態学的特性の先の報告に基づいて、うつ病は、約140nMと約220nMの間でのE−10−OH−NTの鏡像異性体の血漿レベルで治療することができると考えられる。(−)−E−10−OH−NTの報告された薬物動態学的特性に基づいて、うつ病は、約140nMと220nMの間での(−)−E−10−OH−NTの血漿レベルで治療することができると考えられ、こうした血漿レベルは、約30mg/日から約35または40または45または50または55または60または65または70または75または80または85または90または95または100または150または200または250または300mg/日の範囲で投与することによって達成することができる。したがって、特定の実施形態は、約140nM〜220nMの間での血漿レベルを達成するのに必要な1日用量での(−)−E−10−OH−NTの投与を含む。他の実施形態では、(−)−E−10−OH−NTの用量は、約30mg/日〜約100mg/日である。
【0092】
併用療法に関しては、合剤の適切な用量は、(−)−E−10−OH−NTに対する上記の開示された用量および特定の適応症に対する古くからある評価基準に基づいて、当業者によって容易に確かめることができるであろう。一般的な指針として、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の薬剤が、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と併用される場合は、一般的に、用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約0.01〜約100mg/kg/日の範囲であり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.001〜約100mg/kg/日の範囲となる。特定の実施形態では、用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約0.1〜約10mg/kg/日の範囲であり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.01〜約10mg/kg/日の範囲であり、そして、他の実施形態では、1日用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約1.0mgであり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.1mgである。あるいはまた、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物が、カンナビノイド化合物(例えば、Δ9−テトラヒドロカンナビノールまたはカンナビジオール)、オピオイド化合物(例えば、モルヒネ)および/または他の薬剤と配合され、そして、その合剤が経口で投与される場合は、用量は、一般的に、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の薬剤の約15〜約200mg/kgの範囲であり、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.1〜約4mgである。
【0093】
8.7 (−)−E−10−OH−NTの有益な特性
本明細書で議論された不都合な副作用の結果、ATおよびNTは、うつ病または疼痛のための一次療法としては、もはや使用されない。驚くべきことに、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、不都合な副作用をかなり減少させた。
【0094】
例えば、数十年の間、(1)H1ヒスタミン受容体に対して高い親和性を有する中枢神経系に活性のある薬物は、体重増加を誘発することがある、(2)いくつかの抗精神病薬は、強力なH1ヒスタミン受容体拮抗薬である、(3)抗精神病薬は、体重増加を誘発することがあることが知られている。興味深いことに、高いH1ヒスタミン受容体への親和性を有する他の精神活性化合物、例えば、AT(Altamuraら,1989)は、著しい体重増加に関係している。オランザピンやクロザピンなどの非定型的抗精神病薬のみならず、ATやミルタザピンなどのそれぞれ3環系および4環系の抗うつ薬は、強力なH1ヒスタミン拮抗剤であるが、体重増加を誘発する高い傾向があることが示された(Wirshing、1999)。その上、H1ヒスタミン拮抗作用で媒介される体重増加は、主に過度の食欲の結果、3環系抗うつ薬での短期間および長期間の治療による一般的な、周知の副作用として記載されている(Richelson,2001;Khawamら,2006;Deshmukhら,2003)。H1ヒスタミン拮抗作用が、体重増加を誘発するかもしれないメカニズムは、先の研究によりH1ヒスタミン受容体拮抗作用が、げっ歯類の摂食を増加させるのに対して、H2ヒスタミン拮抗作用は、増加させないことが証明されたが、現在のところ不明である(Sakataら,1988;Fukagawaら,1989)。さらに、神経系ヒスタミンの減少は、摂食を増加させる(Menonら,1971;Sakaiら,1995)。最後に、H1ノックアウトマウスは、レプチンの食欲不振の作用に比較的抵抗して、高脂肪食で肥満になる傾向がある(Masakiら,2001a,Masakiら,2001b)。合わせて考えると、これらの結果は、H1ヒスタミン受容体が、レプチン依存性メカニズムによって摂食行動を調整することを意味する。Kroezeおよび協力者(Kroezeら,2003)による研究は、多数の定型および非定型抗精神病薬を調べて、H1ヒスタミン受容体親和性が短期間の体重増加と有意に相関していることを証明した。これらの結果は、比較的に高いH1ヒスタミン受容体親和性を有する抗精神病薬は、短期間の体重増加を誘発しやすいことを意味する。
【0095】
実施例7で詳細に説明されるように、全く予想外なことに、それぞれ、H1ヒスタミン受容体に対する(−)−E−OH−NTの親和性は、ATとNTのH1ヒスタミン受容体親和性と比較すると、220倍および40倍それぞれ低下した。これらのインビトロでの結果に基づいて、(−)−E−OH−NTは、ATおよびNTよりも、少ない体重増加をもたらすと予想される。
【0096】
H1ヒスタミン受容体に対する(−)−E−10−OH−NTの親和性に基づいて、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物での治療は、ATおよびNTよりも、さらに弱い鎮静作用をもたらすと予想される。実際、実施例8で詳細に説明されるように、薬物の鎮静効果を評価するために一般に使用されているラット回転棒アッセイを用いて、回転棒行動に関するAT(30mg/kg、i.p.)およびNT(30mg/kg、i.p.)の効果の大きさは、同様であり、30分でのピーク欠陥は、それぞれ51±20%および60±14%であった。しかし、回転棒行動での減退は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)では観察されなかった。これらの結果は、実施例17で確認された。これらのデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ATまたはNTより、鎮静作用がかなり弱いことを証明している。
【0097】
(−)−E−10−OH−NTのさらに有利な性質は、重要な薬物代謝酵素のその減少した阻害である。薬物の代謝変換は、一般に酵素による。検討されたすべての組織は、いくらかの代謝活性を有するが、薬物の生体内変換に関係する酵素系は、主として肝臓に局在する。薬物の非経口ではない投与に続いて、用量のかなりの部分は、体循環に達する前に、肝臓または腸のどちらかで代謝されて不活性化する可能性がある。この初回通過代謝は、高度に代謝された薬物の経口による生物学的利用能を著しく制限する(Benetら,1995)。シトクロムP450酵素ファミリーは、薬物の生体内変換反応の主な触媒である。酵素のこのスーパーファミリーは、多種多様な酸化反応および還元反応を触媒し、基質の化学的に多様なグループに対する活性を有する。重要なシトクロムP450酵素は、CYP2D6およびCYP2C19を含む。多形性のため、または阻害により、これらの酵素の活性の変更は、望ましくない臨床結果をもたらす(参照:Ingelman−Sundbergら,1999)。
【0098】
実施例10で詳細に説明されるように、ATおよびNTの両方は、CYP2D6とCYP2C19を阻害し、実際、これらの薬剤は、こうした酵素で代謝される薬物との使用に対して禁忌である。しかし、驚くべきことに、CYP2D6もCYP2C19も、(−)−E−10−OH−NTで阻害されなかった(参照:実施例10)。したがって、ATおよびNTと比べて、(−)−E−10−OH−NTは、生じる望ましくない臨床結果が少ないことが予想され、これらのシトクロムP450アイソエンザイムによって代謝される薬物と効果的に併用でき、ATまたはNT療法との使用に対して禁忌であった。
【0099】
(−)−E−10−OH−NTの使用のもう1つの利点は、ムスカリン受容体に対するその減少した親和性に起因する。ラセミの(±)−E−10−OH−NTの減少したムスカリン親和性が、当該分野で報告されているが、一般的なムスカリン受容体または特定のムスカリン受容体サブタイプに対するその(−)鏡像異性体の親和性については報告されていない。インビトロでのムスカリン受容体に対するE−10−OH−NTの親和性は、これらの受容体に対するNTの親和性のわずか18分の1であった(Nilvebrantら.1991;Waegnerら,1984)。健康な個体において、NTは、E−10−OH−NTまたはプラセボのいずれかよりも、唾液流量を有意に大幅に減少させた(Nordinら,1987a)。その上、NTの非常に高用量で処置されたNTの超迅速ヒドロキシレータにおいて、抱合されていない10−OH−NTの血漿濃度は、抗コリン作用性副作用のどんな徴候を示すことなく、非常に高かった。これらの結果は、10−OH−NT代謝物が、ATおよびNTよりも、はるかに少ない抗コリン作用を有することを示す。これらの結果と一致して、実施例12で詳細に説明されるデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ムスカリン受容体の4つのクラス、M1、M2、M3、M4に対して、ATまたはNTよりも、より弱い親和性を有することを証明した。
【0100】
ATおよびNTに対する(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点は、胃腸管(GI)輸送(参照:実施例13)に関するその減少した効果である。多数のシグナル伝達機構(腸管神経系内の様々な神経伝達物質によって媒介される)は、胃腸機能の生理的制御において大きな役割を果たすのが知られている。マウス胃腸管輸送(GIT)アッセイは、選択された化合物の潜在的GI傾向の前臨床マーカーとして使われる。実施例13で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりGITの著しく低い阻害を示した。
【0101】
ATおよびNTの使用は、不整脈を含む心毒性と関係している。心臓K+チャネル(Ikr)のブロッキングは、薬物−誘発性QT延長症候群(LQT)と関連があり、それは多形性心室性頻拍(命を脅かす型の不整脈)をもたらし、その後の心室細動に至ることがある(参照:Pearlsteinら,2003)。3環系抗うつ薬(TCAs)によるQT延長と関連する不整脈の危険性は、迅速遅延整流電流−hERGを媒介するクローン化α−サブユニットにより運ばれた生体心臓遅延整流(K+)チャネルおよび電流の薬理学的阻害と細胞レベルで一致する。実施例11で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点は、hERGチャネルにおいてATやNTよりも、かなり低い活性を有するということである。この結果に基づいて、(−)−E−10−OH−NTを利用する治療は、ATとNTと比較して、QT延長、多形性心室性頻拍および他の不整脈関連副作用の危険性を減少させると期待される。
【0102】
3環系抗うつ薬は、α1アドレナリン受容体の相互作用による血圧降下も生じさせる。α1アドレナリン受容体の遮断は、それはドキセピン、ネファゾドン、AT、およびクロミプラミンで顕著に起こるが、起立性低血圧、めまいおよび反射性頻脈の原因となる(Hamon & Bourgoin,2006)。実施例9で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTの利点は、ATやNTに比べて、α1aおよびα1aアドレナリン受容体における親和性が弱いことである。これらのインビトロのデータに基づいて、(−)−E−10−OH−NTは、起立性低血圧、めまいおよび反射性頻脈を発生させそうにないと予想される。
【0103】
(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点特性は、α2アドレナリン受容体に対するその低い親和性に起因する(参照:実施例9)。α2アドレナリン受容体アゴニストが無痛覚をもたらすことはよく証明されている(Ongiocoら,2000;Asanoら,2000;Hallら,2001)。α2アドレナリン受容体介在の抗侵害受容性を逆にするα2アドレナリン受容体拮抗剤の能力もまた、よく知られている(Kalsoら,1991;Millan and Colpaert,1991;Pertovaaraら,1990)。α2アドレナリン受容体拮抗剤RX821002([2−(2−メトキシ−1,−4−ベンゾジオキサン−2−イル)−2−イミダゾリン])は、最大3mg/kgの用量で皮下的に単独投与された場合、酢酸誘発性の腹部収縮(疼痛アッセイ)の有意な阻害を起こさなかった。同じ実験条件の下で、他方では、α2アドレナリン受容体アゴニストであるクロニジンは、0.01〜1.0mg/kg(s.c.)の範囲に渡り、また最大用量レベルで、腹部収縮の用量依存性阻害をもたらし、それは腹部収縮応答を全く無効とし、したがって、発痛刺激に対して100%の保護を与えた。その上、0.3および1.0mg/kgでクロニジンによって誘導される抗侵害受容性効果は、RX821002(1mg/kg)の同時皮下投与により著しく弱められたが、このことは、この試験におけるクロニジン応答は、α2アドレナリン受容体が関与したことを強調するものである(Grayら,1999)。
【0104】
疼痛応答におけるα2アドレナリン受容体拮抗剤の効果の結果は、しかし、非常に変わりやすいものであった。種々の疼痛試験でのα2アドレナリン受容体拮抗剤誘発作用における変わりやすさへの1つの説明は、これらの薬物が他の受容体タイプを介してそれらの挙動効果のいくつかを媒介する可能性があるという事実である(Dennisら,1980;Virtanenら,1989)。例えば、Kauppilaと協力者(Kauppilaら,1998)による結果は、α2アドレナリン受容体拮抗剤のアチパメゾールの疼痛行動に関する効果が、いくつかの実験的なパラメータに従い促進から抑制の間で変化することを示す。これらの報告から、α2アドレナリン受容体における拮抗性は、鎮痛活性のために必要であるようには見えない。
【0105】
実施例9でさらに詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTは、アドレナリン受容体α2a、α2b、およびα2cに対して、ATおよびNTよりも、著しく弱い親和性を示す。このデータに基づいて、(−)−E−10−OH−NTは、潜在的副作用に関してATおよび/またはNTより優れていると予想される:(−)−E−10−OH−NTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用で相殺されない可能性があるのに対して、ATおよびNTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用で減少する可能性がある。
【0106】
8.8 キット
本明細書に記述される(−)−E−10−OH−NT化合物および/またはその医薬塩類は、キットの形態で組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、キットは、投与するための組成物を調製するための化合物(複数可)および試薬を提供する。組成物は、乾燥形態または凍結乾燥形態、あるいは溶液、特に滅菌溶液であってよい。組成物が乾燥形態の場合は、試薬は液体製剤を調製するための医薬的に許容される希釈剤を含むことができる。キットは、組成物を投与するための、あるいは調剤するための、限定されるものではないが、注射器、ピペット、経皮パッチまたは吸入器を含む装置を含んでもよい。
【0107】
キットは、本明細書に記述される化合物とともに使用するために他の治療剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、治療剤は、別々の形態で提供されるか、本明細書に記述される化合物と混合される。
【0108】
キットは、組成物の調製および投与、組成物の副作用、ならびに任意の他の関連情報に関する適切な指示書を含む。指示書は、任意の適切なフォーマットで、印刷物、ビデオテープ、コンピュータ読み取り可能ディスク、または光ディスクを含むが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0109】
9.実施例
以下の実施例は、例示的であり、限定することを意図するものではないが、本明細書に記述される様々なE−10−OH−NT組成物および方法の様々な特徴と利点を強調する。
【0110】
実施例1:(+)−E−10−OH−NTのキラル特異的合成
図1Aを参照して、鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTが、以下のように合成された。
【0111】
化合物2の合成
臭素(35.0mL、679mmol、1.40当量)の4塩化炭素(200mL)中の溶液を、5−オキソ−10,11−ジヒドロ−ジベンゾ[a,b]シクロヘプタン(化合物1;100.0g、485mmol、1.00当量)と4塩化炭素(400mL)との攪拌混合溶液に室温で滴下して加えた。さらに200mLの4塩化炭素を加えて攪拌を促進し、混合物を室温で90分間、攪拌した。
【0112】
混合物を濾過し、4塩化炭素(200mL)で濯ぎ、乾燥して褐色の固体170g(90%収率)を得た。この固体(170g、464mmol、1.00当量)を水酸化ナトリウム(55.7g、1.39mol、3.00当量)と混合し、混合物を2時間メタノール(2L)中で還流した。その熱い溶液を濾過し、固体をジクロロメタン(400mL)に溶解し、水(300mL)と塩水(200mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、乾燥して淡いオレンジ色の固体96.24gを得た。ろ液は、一晩、室温に冷却放置してさらに生成物を析出させた。固体を濾過して淡いオレンジ色の結晶22.2gを得た。合計収率:88%。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.16(d,1H),7.93(m,2H),7.79(s,1H),7.68−7.51(m,4H),7.44(d,1H)。
【0113】
化合物3の合成
カリウムt−ブトキシド(62.7g、559mmol、1.40当量)を、化合物2(114g、400mmol、1.00当量)とピペリジン(79.1ml、800mmol、2.00当量)の混合物に、tブタノール(900ml)中で加えた。混合物を60分間還流し、室温に冷却し、殆ど乾固するまで減圧濃縮した。粗製生成物を酢酸エチル(400ml)に溶解し、得られた有機混合物を水(300ml)と塩水(200ml)で洗浄した。有機層を濃縮し、得られた粗製の油をメタノール(500mL)中で攪拌して黄色の固体を沈殿させ、これを濾過し、乾燥して所望の生成物63.6g(収率55%)を得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.08(dd,1H),7.87(dd,1H),7.82(dd,1H),7.58(dt,1H),7.52−7.45(m,2H),7.41(m,1H),7.33(dt,1H),6.38(s,1H),2.89(brs,4H),1.74(m,4H),1.61(brm,2H);質量分析m/z=290.1(M+H)+。
【0114】
化合物4の合成
臭化シクロプロピルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(THF中0.50M、531mL、266mmol、1.21当量)を、テトラヒドロフラン(100mL)に溶解した化合物3(63.6g、220mmol、1.00当量)の冷却(氷/水浴)溶液に、窒素下、滴下して加えた。反応混合物を室温で1時間攪拌した。臭化シクロプロピルマグネシウム(THF中0.50M、100mL、50mmol、0.23当量)の追加分を加え、さらに1時間攪拌して反応させた。反応混合物を殆ど乾固するまで濃縮し、ジクロロメタン(600mL)で希釈し、水(800mL)と塩水(300mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、乾燥して黄色−オレンジ色の粘着性の油70.1g(96%収率)を得た。粗製の生成物は、さらに精製することなく次の工程で使用された。質量分析 m/z=332.2(M+H)+。
【0115】
化合物5と6の混合物の合成
5−[3−ブロモ−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン−10−オンのZ−およびE−幾何異性体(それぞれ、化合物5および6)は、化合物4(70.0g、211mmol、1.00当量)の溶液を48%臭化水素酸水溶液(250mL)と酢酸(250mL)中で16時間還流することにより製造された。反応混合物を室温に冷却し、水(200mL)で希釈し、ジエチルエーテル(合計500mL)で3回抽出した。有機層を合わせ、大きなビーカー中で攪拌し、飽和重炭酸ナトリウム(300mL)を泡の発生が止むまで慎重に加えた。層を分離し、有機層を飽和重炭酸ナトリウム(200mL)と塩水(150mL)で洗浄し、濃縮して粗製の半固体を得た。粗製の生成物をシリカ上で処理する前に、不溶性の褐色固体11gを濾過してE−(化合物6)およびZ−(化合物5)幾何異性体(1H NMRによる化合物6/化合物5=87/13の比率)の混合物を得た。濾液を5〜10%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いてシリカゲルプラグにより精製し、精製された生成物を10%酢酸エチル/ヘキサンで粉末化して、幾何異性体5および6(6/5=55/45;1H NMRによる)の混合物に相当する褐色の固体19gを得た。異性体のこの混合物を1:1のベンゼン:ヘキサンで再結晶して純粋な化合物6の8.6g、76%を得た。次に、この物質を幾何異性体5および6(6/5=87/13;1H NMRによる)の先に分離した混合物(11g)と混合し、1:1のベンゼン:ヘキサンで結晶化して、幾何異性体5および6(6/5=91/9;1H NMRによる)の混合物に相当する淡いオレンジ色の固体12.7gを得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.11(dd,1H),7.50(m,2H),7.36(m,2H),7.24(m,3H),6.17(m,1H),4.48(d,1H),3.78(d,1H),3.47(m,2H),2.86−2.66(m,2H)。
【0116】
(+)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン、化合物(+)−7の合成
化合物6(2.00g、6.11mmol、1.00当量)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液を、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.326mL、3.67mmol、0.60当量)および(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.02g、3.67mmol、0.60当量)のテトラヒドロフラン(75mL)溶液に−20℃(ドライアイス/アセトニトリル浴)で滴下して加えた。反応は、90分間、−20℃で攪拌して行い、次いで室温で45分間攪拌した。ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.326mL、3.67mmol、0.60当量)と(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.02g、3.67mmol、0.60当量)の追加分を加え、さらに30分間、室温で攪拌して反応を行なった。反応混合物を氷/水浴中で0℃に冷却し、メタノール(15mL)を滴下して加えた。混合物を30分間、室温で攪拌し、再び0℃に冷却し、飽和重炭酸ナトリウム(20mL)を加えた。混合物を室温で30分間攪拌し、濃縮し、ジクロロメタン(75mL)と水(50mL)に分配した。有機層を濃縮し、粗製の生成物を10〜30%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製してオフホワイト色の半固体950mgを47%の収率で得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 7.50−7.10(m,8H),6.00−5.84(m,1H),5.09(brm,2/3H),4.85(brm,1/3H),3.65−3.43(m,3H),3.05(m,1H),2.78−2.62(m,2H),1.64(d,1H)。
【0117】
(+)−E−10−OH−NT、化合物(+)−8の合成
(+)−E−10−OH−NTは、(+)−7(0.95g、2.6mmol、1.00当量)とメチルアミン(水中40重量%、7.00mL、81mmol、31当量)の溶液をアセトニトリル(10mL)中で60℃、16時間、耐圧容器中で加熱することによって合成された。反応物を殆ど乾固するまで濃縮し、5〜9%メタノール/クロロホルム勾配(+1%水酸化アンモニウム)を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製して淡いオレンジ色の泡状物650mgを90%の収率で得た。いくらかのZ−異性体、すなわち(+)−Z−10−OH−NTが存在したので、不純な遊離塩基(650mg、2.33mmol、1.00当量)をアセトニトリルに溶解し、濾過して任意の不溶性粒子を除去した。濾液を濃縮し、アセトニトリル(15mL)に溶解し、マレイン酸(324mg、2.79mmol、1.20当量)を加えた。混合物を30分間攪拌し、固体を析出させた。混合物を濃縮し、乾燥し、イソプロパノール(100mL)から再結晶して535mgの白色の結晶性固体、つまり(+)−E−10−OH−NTをマレイン酸塩として得た。1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ 8.29(brs,2H),7.50−7.12(m,8H),6.02(s,2H),5.90(brm,1/3H),5.71(brm,2/3H),5.31(brs,1/3H),5.08(brs,1/3H),4.60(brs,1/3H),3.36(m,1H),3.06−2.86(brm,3H),2.52(d,3H),2.36(brm,2H)。質量分析m/z=280.1(M+H)+。キラルLC分析:99.4%キラル純度。カラム:Chromtech CHIRAL−AGP 150x4.0mm,5μ。流量:1.0mL/分。移動相:80% 20mMリン酸ナトリウム pH 6.0,20% IPA。検出器:240nmでのUV。ピーク保持時間:ピーク1[(+)−E−10−OH−NT]=5.4分。ピーク2[(−)−E−10−OH−NT]=7.3分。元素分析:C19H21NO.C4H4O4.理論値:%C 69.86;%H 6.37;%N 3.54。実測値:%C 69.91;%H 6.43;%N 3.61。[α]D23.3=+27.79(c.10.1mg/mL,MeOH).m.p.=180.5−182.0°C。
【0118】
実施例2:(−)−E−10−OH−NTのキラル特異的合成
図1Aを参照して、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTが、以下のように合成された。
【0119】
(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン、化合物(−)−7の合成
化合物6(2.50g、7.64mmol、1.00当量)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液を、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.455mL、5.12mmol、0.67当量)および(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.42g、5.12mmol、0.67当量)のテトラヒドロフラン(75mL)溶液に−20℃(ドライアイス/アセトニトリル浴)で滴下して加えた。反応は、60分間、−20℃で攪拌して行い、次いで室温で2時間攪拌した。ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.455mL、5.12mmol、0.67当量)と(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.42g、5.12mmol、0.67当量)の追加分を加え、さらに30分間、室温で攪拌して反応を行なった。反応混合物を氷/水浴中で0℃に冷却し、メタノール(15ml)を滴下して加えた。混合物を30分間、室温で攪拌し、再び0℃に冷却し、飽和重炭酸ナトリウム(20mL)を加えた。混合物を室温で30分間攪拌し、濃縮し、ジクロロメタン(75mL)と水(50mL)に分配した。有機層を濃縮し、粗製の生成物を10〜30%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製してオフホワイト色の粘着性泡状物2.45gを97%の収率で得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 7.50−7.10(m,8H),6.00−5.84(m,1H),5.09(brm,2/3H),4.85(brm,1/3H),3.65−3.43(m,3H),3.05(m,1H),2.78−2.62(m,2H),1.64(d,1H)。
【0120】
(−)−E−10−OH−NT、化合物(−)−8の合成
(−)−E−10−OH−NTは、(−)−7(2.45g、6.7mmol、1.00当量)とメチルアミン(水中40重量%、25.0mL、290mmol、43当量)の溶液をアセトニトリル(35mL)中で60℃、5時間、耐圧容器中で加熱することによって合成された。反応物を濃縮し、5〜9%メタノール/クロロホルム勾配(+1%水酸化アンモニウム)を用いるシリカゲルプラグにより精製した。いくらかのZ−異性体、すなわち、(−)−Z−10−OH−NTが存在したので、不純な遊離塩基をジクロロメタンに溶解し、濾過して、任意の不溶性粒子を除去し、濃縮し、乾燥して淡い黄色の泡状物1.9gを定量的に得た。遊離塩基(1.37g、4.9mmol、1.00当量)をアセトニトリル(40mL)に溶解し、マレイン酸(0.654g、5.64mmol、1.15当量)を加えた。混合物を60分間攪拌し、固体を析出させた。混合物を濃縮し、乾燥し、イソプロパノール(70mL)から再結晶して、(−)−E−10−OH−NTの淡いオレンジ色の針状晶820mgをマレイン酸塩として得た。1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ 8.29(brs,2H),7.50−7.12(m,8H),6.02(s,2H),5.90(brm,1/3H),5.71(brs,2/3H),5.31(brs,1/3H),5.08(brs,1/3H),4.60(brs,1/3H),3.36(m,1H),3.06−2.86(brm,3H),2.52(d,3H),2.36(brm, 2H).質量分析 m/z=280.1(M+H)+。キラルLC分析:98.6%キラル純度。カラム:Chromtech CHIRAL−AGP 150×4.0mm,5μ。流量:1.0mL/分。移動相:80% 20mMのリン酸ナトリウム pH6.0、20%IPA。検出器:240nmでのUV。ピーク保持時間:ピーク1[(+)−E−10−OH−NT]=6.1分。ピーク2[(−)−E−10−OH−NT]=8.6分。元素分析:C19H21NOC4H4O4、理論値:C 69.86%;H 6.37%;N 3.54%、実測値:C 69.53%;H 6.44%;N 3.57%。[α]D23.4=−24.12(c 10.7mg/mL、メタノール)。融点=177.5−179.0℃.
実施例3:(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩は、(−)−E−10−OH−NTマレイン酸塩と比べて、改善された性質を有する。
【0121】
(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩の調製
(−)−E−10−OH−NTのコハク酸塩は、(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩は、9.15gの(−)−8(遊離塩基、88.6%のE異性体、11.4%のZ異性体)をイソプロパノール(40mL)に溶解し、コハク酸(4.25g、1.10当量)のイソプロパノール(90mL)溶液を加えることによって製造された。少量の生成物が2日後に溶液から結晶化し、混合物を20mL混合物に濃縮し、得られた固体を濾過して、(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩11gを得たが、これは94%のE異性体と6%のZ異性体であった。固体をアセトニトリル(400mLと300mL)から、2回再結晶して淡いオレンジ色の結晶6.78g(99.2%のE異性体、0.8%のZ異性体)を得た。得られたコハク酸塩は、事実上、結晶質であり、非吸湿性であり、生理食塩水中で、マレイン酸塩(4.4mg/ml)より高い溶解度(18mg/ml)を有する。
【0122】
実施例4:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリン再取込みの強力な選択的阻害剤である。
【0123】
プロトコル
ノルエピネフリン(NE)輸送体、セロトニン(5HT)輸送体およびドーパミン(DA)輸送体に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの結合親和性は、放射能標識されたリガンドを用いる競合的結合アッセイで測定された。NE輸送体結合アッセイのために、[3H]ニソキセチン(1.0nM)は、いろいろな濃度の試験化合物と共に、クローン化ヒトNE輸送体(hNET)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)細胞から調製された膜を用いて、4℃で2時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMのデシプラミンの存在下で起きた結合の量と定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0124】
5HT輸送体結合アッセイのために、[3H]イミプラミン(2.0nM)は、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、ヒトセロトニン輸送体(hSERT)を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜を用いて、22℃で1時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μMイミプラミン圧で起きた結合の量と定義された。いろいろな試験化合物に対するKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0125】
DA輸送体結合アッセイのために、([3H]N−[1−(2−ベンゾ[b]チオフェニル)シクロヘキシル]−ピペリジン([3H]BTCP)(4.0nM)は、クローン化ヒトドーパミン輸送体(hDAT)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜を用いて4℃で2時間、インキュベーションされた。いろいろな濃度の試験化合物を加え、結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μM BTCPの存在下で起きた結合として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0126】
NE、5HTおよびDAの取り込みを阻害するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの能力もまた評価された。NE取り込みでのIC50値は、37℃で20分間インキュベーションした際の、[3H]−ノルエピネフリンのラット視床下部シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。5HTの取り込みにおけるIC50値は、37℃で15分間インキュベーションした際の、[3H]−5HTのラット脳シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。DAの取り込みにおけるIC50値は、37℃で15分間インキュベーションした際の、[3H]−DAのラット線条体シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。
【0127】
結果
いろいろな輸送体に対する結合親和性は、下記の表1に示される。表1において、Ki値は、ナノモルで表わされる。パーセントは、10μM試験化合物で観察された結合のパーセント阻害である。
【0128】
取り込み阻害データは、下記の表2で報告される。表2において、IC50値は、ナノモルで表わされる。パーセントは、10μM試験化合物で観察された取り込みのパーセント阻害である。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
NE輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ同等であり、NTのそれとは約10倍の範囲内であった。類似した結果は、NE取り込みの阻害に関するIC50値についても観察された。NE取り込み阻害に関するIC50値は、ラセミのE−10−OH−NTについて先に報告されたものよりも低い(参照:Hyttel,1980;これは、マウス心房でのNE取り込みアッセイに対して130nMのIC50を報告した)。
【0132】
NE輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ同等であったが、NTの親和性のように、5HT輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATの親和性よりも、著しく大きい。同様の結果は、5HT取り込みの阻害に関するIC50についても観察された。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTは、NTのように、NE輸送体対5HT輸送体に対して選択性を示す。
【0133】
実施例14で示されるように、ラセミの(±)−E−10−OH−NTはまた、(+)および(−)鏡像異性体のそれと略同等の効力の、NEと5HT輸送体に対する選択的親和性を示す。
【0134】
実施例5:(−)−E−10−OH−NTは、有効な抗痛覚過敏薬剤である。
【0135】
プロトコル
(−)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏の有効性は、侵害受容性炎症性疼痛のフロイント完全アジュバント誘発げっ歯類モデルで証明された。比較のために、ATは陽性対照として試験された。薬物は、30mg/kg、i.p.で投与された。滅菌水ビヒクルは、陰性対照として試験された。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。アッセイに関しては、DeHaven−Hudkinsら,1999の方法が、150μLフロイント完全アジュバント(FCA)の足底内投与の24時間後にラットで機械痛覚過敏を測定するのに用いられた。後肢耐圧閾値を測定するために、ラットは、ガーゼラップで軽く拘束され、そして、圧力は、加圧式無痛覚装置を用いて円錐ピストンで、炎症を起こしている後肢および起こしていない後肢の背側面に印加された(Stoelting Instruments,Wood Dale,IL)。後肢耐圧閾値は、250グラムのカットオフ値を使い、逃避反応を誘発するのに必要な力(グラムで)の量と定義された。後肢耐圧閾値は、薬物治療の前に、および薬物治療後の指定された時間に測定された。
【0136】
結果
結果は、図3に例示される。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)は、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに相当する強い抗痛覚過敏活性を示した。
【0137】
実施例6:(−)−E−10−OH−NTは、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療に有効である。
【0138】
プロトコル
アミトリプチリンの抗アロディニア活性と比較して、(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア活性は、LaBuda and Little,2005に記載されているように、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使って、インビボでも試験された。試験動物は、プレキシガラス室(10cm×20cm×25cm)に置き、15分間馴化させた。フォン・フレイ(von Frey)モノフィラメントが両方の後肢の底側面に提示することができるように、その部屋はメッシュスクリーン上に配置された。各後肢についての触覚感度の測定は、7つのフレイ・モノフィラメント(0.4、1、2、4、6、8および15グラム)でアップ/ダウン法(Dixon,1980)を使用して得られた。各試験は、約1〜2秒間、右後肢、次いで左後肢に加える2グラムのフォン・フレイ力で開始した。離脱反応がなかったならば、次のより高い力が加えられた。反応があったならば、次の低い力が加えられた。この手順は、最も高い力(15グラム)で反応がなくなるまで、あるいは、最初の反応の後、4つの刺激が施されるまで行われた。各々の試験群は、8匹の動物を含んだ。疑似手術対照群(それは手術されたが、神経結紮されなかった)は、4匹の動物を含んだ。全ての動物は、試験化合物の投与後、60分と240分に試験された。
【0139】
各々の肢に対する50%後肢離脱閾値は、以下の式を使用して計算された:[Xth]log=[vFr]log+ky(式中、[vFr]は、使用された最後のフォン・フレイ力であり、k=0.2249であり、これはフォン・フレイモノフィラメント間の平均間隔(log単位で)であり、yは、離脱反応のパターンに依存する値である(Dixon,1980)。動物が最も高いフォン・フレイ・モノフィラメント(15グラム)に反応しないときは、肢は18.23グラムの値に割り当てられた。触覚感度のための試験は2回実行され、そして、平均50%の離脱値が各々の動物の左右の肢に対する触覚感度として割り当てられた。
【0140】
結果
結果は、図4に例示される。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩として投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群(ビヒクル処置、L5 SNL ラット)に対して観測された活性よりも統計的に有意であり、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。
【0141】
実施例7:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、弱い親和性のH1ヒスタミン受容体と結合する。
【0142】
プロトコル
H1ヒスタミン受容体に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、競合的結合アッセイにより評価された。アッセイのために、[3H]ピリラミン(3nM)は、クローン化ヒトH1ヒスタミン受容体を異種的に発現するヒト胚腎臓(HEK−293)細胞から調製された膜を用いて、いろいろな濃度の試験化合物とともに22℃で1時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μM非標識ピリラミンの存在下で起きた結合の量として定義された。
【0143】
結果
結合試験は、(+)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTのH1ヒスタミン受容体親和性は、ATおよびNTのH1ヒスタミン受容体親和性に比べて、意外にも220倍および40倍それぞれ減少したことを示す。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATまたはNTより、鎮静作用がより弱く、体重増加は少ないであろうと予想される。
【0144】
実施例8:(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、インビボで鎮静作用が有意に弱い。
【0145】
プロトコル
ラット回転棒アッセイは、化学的薬物と関連した鎮静作用を評価するために一般的に用いられる。経時実験が、AT(30mg/kg、i.p.)、NT(30mg/kg、i.p.)および(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)を用いて実施された。回転棒は、恒常的な速度で動くように設定し、そして、ラットはその装置の個々の回転ドラム上に置かれた。一旦ネズミが所定位置についたら、タイマーはゼロにセットされ、そして、回転棒は、加速度的なモードに切り換えられた。回転棒は、5分間隔で、4から40rpmまで加速した。ネズミが回転ドラムから落ちたとき、タイマーは自動的に切れ、落下する潜時を秒単位で記録した。ラットは、薬剤投与の前に、少なくとも15分は間隔をあけた3つのトレーニングセッションを過した。行動得点は、各間隔の間、秒単位で記録された。ベースラインの回転棒行動得点は、3回目のトレーニングセッションで回転棒から落下する潜時であった。ベースラインは、ラットが実験に含まれるために、60秒以上の持続でなければならない。動物は、試験化合物の投与後、30分、60分および120分に試験された。
【0146】
結果
結果は、図2に示される。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩として投与された。NTおよびATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。回転棒行動におけるピーク欠陥は、ATまたはNTで処置されたラットでは、30分に観察された。回転棒行動におけるATおよびNTの効果の程度は、類似したものであり、それぞれ、51±20%と60±14%のピーク欠陥であった。際立って対照的に、行動減退は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)で処置されたラットでは観察されなかった。
【0147】
実施例9:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、α−アドレナリン受容体に対して低い親和性を有する。
【0148】
AT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのα1a、α1b、α2a、α2bおよびα2cアドレナリン受容体に対する親和性が試験された。α1aアドレナリン受容体に対する親和性は、ラット唾液腺から調製された膜を使って試験された。[3H]プラゾシン(0.06nM)は、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、その膜と22℃で1時間、インキュベーションされた。非特異的結合は、10μMフェントラミンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0149】
α1bアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]プラゾシン(0.15nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、10μMフェントラミンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0150】
α2aアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]RX821002(1.0nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0151】
α2bアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]RX821002(2.5nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0152】
α2cアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞とともに[3H]RX821002(2.0nM)とを、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、22℃、1時間、用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0153】
結果
結果は、下記の表3に示される。表3において、Ki値は、ナノモルで表わされる。パーセンテージは、10μM試験化合物で観察された結合阻害のパーセントである。
【0154】
【表3】
【0155】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、列挙したすべてのアドレナリン受容体、特にα2受容体に対して、ATおよびNTより、著しく低い親和性を示す。したがって、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用により相殺され得ないかもしれないが、一方、ATおよびNTの鎮痛応答は、α2アドレナリン受容体との相互作用により相殺され得ると、予想される。さらにまた、α1aとα1b受容体における、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NT間の親和性の違いは、(−)−E−10−OH−NTのプロファイルが(+)鏡像異性体より優れていることを示唆する。
【0156】
実施例10:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、シトクロムP450機能を阻害しない。
【0157】
プロトコル
シトクロムP450機能に関するATとNT、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTの阻害活性は、Chauretら,2001の方法を使用し、基質として7−メトキシ−4−(アミノメチル)−クマリン(MAMC)(Venhorstら,2000)を用いて試験された。酵素源は、BD Bioscienceから得られるヒト組み換え型CYP2D6を含むミクロソームであった。7−ヒドロキシ−4−(アミノメチル)クマリンへのMAMCの変換は、390nm励起フィルタと460mn蛍光フィルタを備えたPerkinElmer Fusionを使って測定された。
【0158】
CYP2C19活性は、基質としてジベンジルフルオレセイン(DBF)を使って測定された。酵素源は、BD Biosciences(San Jose,CA)から得られるヒト組み換え型CYP2C19を含むミクロソームであった。フルオレセインへのDBFの変換は、485nm励起フィルタと535mn蛍光フィルタを備えたPerkinElmer Fusionを使って測定された。
【0159】
結果
結果は下記の表4に示される。表4において、IC50値は、ナノモルの値であり、95%信頼限界は、括弧内に示される。パーセンテージは、10μM試験化合物で観察された%阻害を表す。報告された値は、6件の反復された実験の平均である。
【0160】
【表4】
【0161】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTの両方よりも、多形シトクロムP450アイソエンザイムCYP2D6およびCYP2C19での阻害活性における著しい、予想外の減少を、驚くべきことに証明した。E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体に対する阻害活性のこの減少は、ATおよびNTと比較した場合、望ましくない臨床結果を減らすことに繋がると期待され、そして、ATやNTとの使用が禁忌である薬物を服用している患者で(+)および(−)−E−10−OH−NTの使用を可能にすることが期待される。
【0162】
実施例11:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、hERGチャネルを低い程度で阻害する。
【0163】
プロトコル
心臓遅延整流カリウムチャネルを遮断するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの能力は、迅速遅延整流電流(hERG)を示す密接なαサブユニットを用いて試験された。
【0164】
結果
10μM試験化合物で達成されたhERGチャンネルの%阻害は、以下に示される:
AT:68.6%
NT:55.1%
(+)−E−10−OH−NT:8.8%
(−)−E−10−OH−NT:6.0%。
【0165】
著しく低い活性が、ATとNTよりも、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの場合に観察される。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTを利用する治療は、ATやNTでの治療に比べて、QT延長および他の不整脈関連副作用の危険性を少なくできるであろうことが期待される。
【0166】
実施例12:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、ムスカリン受容体に対して、より低い親和性を有する。
【0167】
プロトコル
ムスカリン受容体M1、M2、M3、M4およびM5に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性が、クローン化されたヒトムスカリン受容体M1、M2、M3、M4およびM5を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜を用いて測定された。アッセイのために、膜および放射能標識リガンドが、いろいろな濃度の試験化合物と22℃で1時間インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMアトロピンの存在下で、結合された放射性リガンドの量として定義された。M1受容体に対する放射性リガンドは、[3H]ピレンゼピン(2nM)であった。M2受容体に対する放射性リガンドは、[3H]AF−DX384(2nM)であった。M3、M4およびM5受容体に対する放射性リガンドは、[3H]4−DAMPであった。
【0168】
結果
種々の受容体に対する様々な異なる試験化合物の親和性定数(ナノモルで)は、下記の表5に示される。
【0169】
【表5】
【0170】
全ての場合において、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ほぼ同等の親和性を、そして、ATおよびNTの両方よりも著しく低い親和性を示した。
【0171】
実施例13:(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、胃腸管輸送の少ない抑制を示す。
【0172】
プロトコル
AT、NTおよび(−)−E−10−OH−NTの阻害効果は、胃腸管輸送のげっ歯類モデルで評価された。アッセイために、雄のSwiss−Websterマウス(20〜25g)を一晩、絶食させ、活性炭:小麦粉:水(1:2:8、w:w:w)から成る炭末の各経口投与前1、2、または4時間目に、試験化合物または滅菌水ビヒクル対照で処置した。胃腸管輸送能は、炭末摂取の25分後に測定された。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された;ATとNTは、塩酸塩として投与された;投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。
【0173】
胃腸管輸送(GIT)は、小腸の全長を摘出し、炭末の最先端が小腸でどこまで遠くに移行するかを測定することにより決定された。パーセントGIT(%GIT)は、以下の式で測定された:
%GIT=[炭末最先端までの距離(cm)/小腸の長さ(cm)×100]
結果
試験化合物(滅菌水ビヒクルと比較して)で観察された%GITは、図5に例示される。(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTの両方と比較して、輸送について著しく低い抑制を示した。
【0174】
実施例14:モノアミン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのインビトロでの結合親和性は、お互いに匹敵する。
【0175】
プロトコル
ノルエピネフリン(NE)輸送体およびセロトニン(SERT)輸送体に対するラセミ体E−10−OH−NT(「(±)−E−10−OH−NT」)、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの結合親和性は、放射能標識リガンドとの競合的結合アッセイで測定された。NE輸送体結合アッセイのために、[3H]ニソキセチン(1.0nM)が、いろいろな濃度の試験化合物とクローン化されたヒトNE輸送体(hNET)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜とともに、4℃で2時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMデシプラミンの存在下で起きた結合量として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0176】
5HT輸送体(SERT)結合アッセイのために、[3H]イミプラミン(2.0nM)を、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、ヒトセロトニン輸送体(hSERT)を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜とともに、22℃で1時間、インキュベーションした。結合放射能活性は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μMイミプラミン圧で起きた結合量として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0177】
結果
いろいろな輸送体に対する結合親和性は、下記の表6に提供される。
【0178】
【表6】
【0179】
ノルエピネフリン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NTの結合親和性は、精製された鏡像異性体(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT(これらは、互いにほぼ同等である)に関して観測された結合親和性に匹敵した。同様に、セロトニン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NTの結合親和性も、また、精製された(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの両方に対して観測された結合親和性に匹敵した。
【0180】
実施例15:(−)−E−10−OH−NTは、(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTよりも、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療において、より有効である。
【0181】
プロトコル:
(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア活性は、アミトリプチリン、(±)−E−10−OH−NT、および(+)−E−10−OH−NTのそれと比較して、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使用して、Labuda & Little,2005に記載されているようにインビボで試験された。E−10−OH−NT化合物は、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。試験動物は、プレキシガラス室(10cm×20cm×25cm)に置かれ、15分間馴化させた。フォン・フレイ(von Frey)モノフィラメントが両方の後肢の底側面に提示することができるように、その部屋はメッシュスクリーン上に配置された。各後肢についての触覚感度の測定は、7つのフレイ・モノフィラメント(0.4、1、2、4、6、8および15グラム)でアップ/ダウン法(Dixon,1980)を使用して得られた。各試験は、約1〜2秒間、右後肢、次いで左後肢に加える2グラムのフォン・フレイ力で開始した。離脱反応がなかったならば、次のより高い力が加えられた。反応があったならば、次の低い力が加えられた。この手順は、最も高い力(15グラム)で反応がなくなるまで、あるいは、最初の反応の後、4つの刺激が施されるまで、行われた。各々の試験群は、8匹の動物を含んだ。疑似手術対照群(それは手術されたが、神経結紮されなかった)は、4匹の動物を含んだ。全ての動物は、試験化合物の投与後、60分に試験された。
【0182】
各々の肢に対する50%後肢離脱閾値は、以下の式を使用して計算された:[Xth]log=[vFr]log+ky(式中、[vFr]は、使用された最後のフォン・フレイ力であり、k=0.2249であり、これはフォン・フレイモノフィラメント間の平均間隔(log単位で)であり、そしてyは、離脱反応のパターンに依存する値である(Dixon,1980)。動物が最も高いフォン・フレイ・モノフィラメント(15グラム)に反応しないときは、肢は18.23グラムの値に割り当てられた。触覚感度のための試験は2回実行され、そして、平均50%の離脱値が、各々の動物の左右の肢に対する触覚感度として割り当てられた。
【0183】
結果
結果は、図7に例示される。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群(ビヒクル処置、L5 SNL ラット)(「VEH」)に対して観測された活性よりも大きく、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、また、(±)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)および(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の両方で観測された抗アロディニア活性よりも大きかった。ラセミ体混合物および(+)鏡像異性体の活性は、両方ともビヒクルだけの対照(「VEH」)のそれに匹敵した。
【0184】
実施例16:(−)−E−10−OH−NTは、L5 SNLラットモデルでの経口投与により、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療の際にアミトリプチリンと同じくらい有効である。
【0185】
プロトコル:
経口投与された(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)の抗アロディニア活性は、実施例15で上記された方法に従って、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使用して、アミトリプチリン(塩酸塩)のそれとインビボで比較された。
【0186】
結果
結果は、図8に例示される。(−)−E−l0−OH−NT(30mg/kg、p.o.と60mg/kg、p.o.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群に対して観測された活性よりも大きく、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。投薬用量は、投与された遊離塩基の量に基づく。
【0187】
実施例17:(−)−E−10−OH−NTおよびATに対するFCA誘発痛覚過敏および回転棒用量−応答曲線
用量−応答実験は、アミトリプチリン(塩酸塩)と(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)を用いて、IP(腹腔内)投与後の抗痛覚過敏有効性と鎮静作用の間の治療可能比を測定するために、ラットFCA誘発痛覚過敏(Randall Selitto法)アッセイおよびラット回転棒アッセイにおいて実行された。ラットは、滅菌水ビヒクル、AT、または(−)−E−10−OH−NTを用いて、最大60mg/kg、IP(用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)で処置された。後肢耐圧閾値は、処置後1時間に測定された。ATおよび(−)−E−10−OH−NTは、24時間FCA処置ラットにおいて、機械痛覚過敏の逆転に対して同様の効力および有効性を示した。60mg/kg、IPにおいて、高レベルの抗痛覚過敏活性(%AH)が、ATおよび(−)−E−10−OH NTの場合に観察され、ATおよび(−)−E−10−OH NTで処置されたラットでの%AHの値は、それぞれ、259±39および270±53であった(図9、図10)。機械痛覚過敏のATおよび(−)−E−10−OH NT逆転のためのED50値を推定するために、60mg/kg、IPで処置されたラットで得られた応答は、最大応答(100%)として使用され、より低用量での応答が、最大効果の%として計算された。ATおよび(−)−E−10−OH NTに対してのED50値は、それぞれ38および36mg/kg、IPであった(図9、図10)。
【0188】
ラットでの回転棒行動における減退は、(−)−E−10−OH−NTおよびATでもたらされる鎮静作用の程度を評価するのに用いられた。ATは、用量依存的に回転棒行動を減少させ、27mg/kg、IPのED50値および100mg/kg、IPの用量で観察される96%の最大減退を有した(図9)。対照的に、30mg/kg、IPの(−)−E−10−OH−NTは、回転棒行動の5%減退をもたらすだけであった。回転棒行動の(−)−E−10−OH−NT減退に対する推定ED50値は、120mg/kg、IPであった(図10)。
【0189】
これらのデータをまとめると、(−)−E−10−OH−NTは、ATよりも、少ないオフターゲット薬理学的副作用を示す可能性があることを証明する。
【0190】
実施例18:ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイでの(−)−E−10−OH NTの抗痛覚過敏活性
プロトコル
経口投与された(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)の抗痛覚過敏効力は、侵害受容性炎症性疼痛(用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)のフロイント完全アジュバント誘発げっ歯類モデルにおいて証明された。比較のために、滅菌水ビヒクルは、陰性対照として試験された。DeHaven−Hudkinsら,1999の方法が、150μLのフロイント完全アジュバント(FCA)の足底内投与後24時間のラットで機械痛覚過敏を測定するために使用された。後肢耐圧閾値を測定するために、ラットは、ガーゼラップで軽く拘束され、そして、圧力が加圧式無痛覚装置を用いて円錐ピストンで、炎症を起こしている後肢および起こしていない後肢の背側面に印加された(Stoelting Instruments,Wood Dale,IL)。後肢耐圧閾値は、250グラムのカットオフ値を用い、逃避反応を誘発するのに必要な力(グラムで)の量と定義された。後肢耐圧閾値は、薬物治療の前に、および薬物治療後の指定された時間に測定された。
【0191】
結果
結果は図11に例示され、経口投与された(−)−E−10−OH−NTは、ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおいて、著しい活性を提供することを証明する。
【0192】
実施例19:ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおける、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏活性の比較
(+)−E−10−OH−NTが、24時間FCA処置ラットで、(−)−E−10−OH−NTと同様の抗痛覚過敏効力および効能を有するかどうかを測定するために実験が行われた。経時実験が、(+)−E−10−OH NTの30mg/kgのIPを用いて実施された。この実験では、FCA処置の24時間後に、ラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩を投与した;投薬用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)の30mg/kg IPが投与された。後肢耐圧閾値は、実施例5と18で開示された方法を使用して、投与して1、2または4時間後に測定された。ビヒクル処置ラットは、処置1時間後に試験された。(+)−E−10−OH NTは、試験されたどの時点でも抗痛覚過敏ではなかった(図12)。
【0193】
これらの結果を確かめるために、24時間FCA誘発痛覚過敏実験が、行われたが、そこではラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH NTもしくは(−)−E−10−OH NTの30mg/kgのIPで処置され、1時間後に抗痛覚過敏について試験された。結果は、図13に示される。また、(−)−E−10−OH NTは、著しい抗痛覚過敏(55±7%AH)をもたらすのに対して、(+)−E−10−OH NTは、抗痛覚過敏でなかった。(−)−E−10−OH NTで観察された抗痛覚過敏の大きさは、前の実験(例えば、実験18)と一致した。
【0194】
実施例20:30mg/kgおよび60mg/kg IPでのラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおける、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏活性の比較
実験が、FCA誘発機械痛覚過敏アッセイにおける(+)−E−10−OH NTの効果についての用量−応答関係を広げるために行われた(図14)。実施例18と19で示されるように、(+)−E−10−OH NTは、30mg/kg IPまでの用量で活性ではなかった。したがって、ラットは、FCAの投与後24時間に、滅菌水ビヒクル、30、または60mg/kg IPで処置された。ラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH NTでの処置の1時間後に、痛覚過敏について試験された。
【0195】
結果:
抗痛覚過敏活性の統計的に有意であるが、適度なレベルが、(+)−E−10−OH−NTの60mg/kg IP(40±13%AH)で処置されたラットで観察されたが、30mg/kg IPでは、観察されなかった。(−)−E−10−OH NT鏡像異性体は、(+)−E−10−OH NT鏡像異性体よりも、試験された用量範囲(化合物は、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された;投薬用量は、遊離塩基の量に基づく)に渡って、より大きな効力および効果を有した。
【0196】
実施例21:うつ病のラット強制水泳試験における、アミトリプチリン、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの評価
プロトコル:
雄のSprague−Dawleyラット(約200g)を15分の練習水泳のために室温水のタンクに入れる。練習水泳の最初の5分間の5秒おきに、ラットは、静止(頭を水面から出しておくために必要な運動をしながら浮いている)、水泳(泳いで渡る動き)、またはよじ登り(活発に、水のタンクからよじ登ろうとする、前足の上方への動き)として評価される。ラットがこれらの反応の各々に費やした時間のパーセントが計算される。
【0197】
練習水泳の約24時間後に、ラットは、ビヒクルまたは試験化合物で処置され、5分間水泳のためにタンクに入れられる。練習水泳の場合のように、ラットは、試験水泳の間、静止、水泳またはよじ登りにランク付けされ、これらの反応の各々に費やした時間のパーセントが計算される。データは、3つの行動の反応の各々に対して、ビヒクル処置後の行動反応を薬物処置後の行動反応と比較するために、事後分析での一元配置分散分析によって分析される。有意水準は、p<0.05にセットされる。
【0198】
用量応答実験は、アミトリプチリン、(−)−E−10−OH NTおよび(+)−E−10−OH NTを用いて、強制水泳試験でそれらの効力と有効性を測定するために3つの別々の実験で実施された。これらの実験において、調整水泳の24時間後に、ラットは、ビヒクル、アミトリプチリン(3〜30mg/kg IP)、(−)−E−10−OH−NT(3〜30mg/kg IP)、または(+)−E−10−OH−NT(3〜30mg/kg IP)を投与され、1時間後、ラットは5分間水泳試験に曝された。水泳試験での静止、水泳、およびよじ登り(活発に、水泳タンクの側面を登ろうとすること)に費やされる時間のパーセントは、図15A、B、およびCに示される。
【0199】
結果:
アミトリプチリンは、10または30mg/kg IPで処置されたラットで観察された著しい減少で、静止に費やされる時間を用量依存的に減少させた。ビヒクル処置ラットに関して、アミトリプチリンは、10および30mg/kg IPで処置されたラットでは、静止を33および47%それぞれ減少させた。水泳に費やされる時間の量に対応する有意な増加が、アミトリプチリンの10mg/kg(81%増加)または30mg/kg(147%増加)処置後に観察された。アミトリプチリンは、よじ登りに費やした時間の量を変更しなかった(図15A)。
【0200】
(−)−E−10−OH−NTは、アミトリプチリンと同様の程度の効果をもたらし、30mg/kg IPでの処置後、静止において有意な減少(47%減少)、および10(64%増加)または30mg/kg IP(108%)で処置したラットで、水泳において有意な増加を証明した。アミトリプチリンの場合のように、(−)−E−10−OH NTは、よじ登りに費やされる時間の量を変更しなかった(図15B)。対照的に、(+)−E−10−OH−NTは、30mg/kg IPまでの用量での強制水泳試験では、活性ではなかった(図15C)。
【0201】
様々な特定の実施形態が例示されて、説明されているが、本発明の精神よび範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。
【0202】
本出願で引用されるすべての刊行物、特許、特許出願、および他の文書は、あたかも各々の個々の刊行物、特許、特許出願または他の文書が、すべての目的のために参照により取り込まれることが個々に示されているかのように同程度に、あらゆる目的のために全体として参照することにより本明細書に取り込まれる。参照により本明細書に取り込まれる参考文献は以下のものを含む:
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【技術分野】
【0001】
1.関連出願の引用
本願は、米国特許法1.119(e)条の下で、2007年4月30日に出願した仮出願60/915,103号、2008年2月11日に出願した仮出願61/028,122号および2008年2月12日に出願した仮出願61/028,122号に対する優先権を主張する。これらの出願の開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
2.連邦政府の資金提供による研究開発に関する陳述
該当なし
3.共同研究契約の当事者
該当なし
4.配列表、表またはコンピュータプログラムの参照
該当なし
【背景技術】
【0003】
5.背景
アミトリプチリン(AT)およびノルトリプチリン(NT)を含む3環性抗うつ剤は、ノルエピネフリンやセロトニンを含むモノアミン類の再取込みを阻害することが示され、ノルエピネフリンやセロトニンの調節不全の取り込みまたは再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される多くの種々の障害や疾患の適応内使用(承認薬)および適応外使用(未承認薬)の両方で広く使用されてきており、それらの障害や疾患としては、限定されるものではないが、うつ病などの気分障害;強迫性障害(OCD)などの不安障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;抜毛症などの衝動制御障害;オピオイド離脱関連不眠症などの睡眠障害;注意欠陥多動性障害(ADHD)などの人格障害;およびある種の疼痛などの身体表現性障害などが挙げられる。ATおよびNTは、また、侵害受容性(例えば、体性または内臓性)起源または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)起源のいずれかである急性および慢性の疼痛のいろいろなタイプに対する一次治療として使用されてもきており、それらは、糖尿病性神経障害や疱疹後神経痛(PHN)などの非侵害受容性疼痛、および炎症性疼痛や間質性膀胱炎を含む侵害受容性疼痛が挙げられる。
【0004】
しかしながら、ATおよびNTの使用は、口腔乾燥症、便秘、吐き気、および尿閉;頭痛、多汗、耳鳴、不快な味、起立性低血圧、不整脈や頻拍などの心臓毒性効果;鎮静作用および体重増加などの抗ムスカリン効果を含むがそれらに限定されない、それらの不都合な副作用により制限される。また、NTおよびATは、シトクロムP450薬物代謝酵素とのNTおよびATが共有する副作用および/または相互作用により、様々な介在物質に使用することは禁忌である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その結果、ノルエピネフリンやセロトニンの調節不全の取り込みまたは再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される障害や疾患を治療することができる他の化合物、およびATと3環系抗うつ薬の薬理学に関与している他の標的(しかし、これらは、減少した、および/または、より少ない副作用を示し、ATやNTとの使用に対して禁忌である薬物と投与することができる)の同定は、有益であって、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
6.概要
ヒトを含む哺乳動物にインビボ投与した場合、アミトリプチリン(「AT」)およびノルトリプチリン(「NT」)は、インビボで多くの共通した代謝物を共有し、その主要なものの1つは、[(5−[3−メチルアミノ−プロピリデン]−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−10−オール(「10−OH−NT」)である。この10−OH−NT代謝物は、2重結合についての配置に依存して2つの幾何異性体(Z−10−OH−NTおよびE−10−OH−NT)を有する。これらの幾何異性体の各々は、10位の炭素のキラリティのために、2つの鏡像異性体、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT、ならびに(+)−Z−10−OH−NTおよび(−)−Z−10−OH−NTを含む。ある研究では、主要な10−OH−NT代謝物のラセミ体(±)−E−10−OH−NTは、ヒトに経口投与した場合、うつ病や不安の治療のために有用である可能性が示唆されている(Nordinら、1987a)。しかしながら、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体が、同様の効力でノルアドレナリン取り込みを阻害することを述べている未発表の研究(Nordin & Bertilsson,1995)について言及していることを除いては、このラセミ体ならびにまた単離された(+)および(−)鏡像異性体の特定の薬理学的および生化学的特性は、文献に報告されていない。
【0007】
出願人によって発見され、本明細書に提示された(さらに詳細に、後のセクションで議論される)確かな証拠は、E−10−OH−NTの(−)鏡像異性体が、治療的有用性と一致する重要な薬理学的および生化学的な特性を有することを示している。例えば、ATやNTのように、(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリン(「NE」)およびセロトニン(「5HT」)モノアミン輸送体と結合し、NEおよび5HTの取り込み(ATおよびNTの抗うつ性および他の治療特性と関連しているのが知られている生物学的活性)を阻害する。意義深いことに、組み換え輸送体結合アッセイで測定されたNE輸送体に対する(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ等しく、NTのそれの約10倍以内であった。同様の結果が、細胞系機能性アッセイで測定されたNE取り込み阻害について観測された。さらに、NTのように、(−)−E−10−OH−NTは、NE輸送体対5HT輸送体に関して選択性を示した。
【0008】
出願人は、(−)−E−10−OH−NTが、使用過程で不都合な副作用と相関するATおよびNTのある種の薬理学的および生化学的な特性を共有しないことを発見した。例えば、ATおよびNTの両方は、H1ヒスタミン受容体と強力に拮抗する(これは、ATおよびNTの短期および長期の使用の両方で観察される有意な体重増加(Altamuraら,1989;Wirshingら,1999;Richelson,2001;Khawamら,2006)および望ましくない鎮静効果(Bryson & Wilde,1996)において役割を果たす特性)のに対して、(−)−E−10−OH−NTは、H1ヒスタミン受容体に対して少ない程度で拮抗する。実際に、ATおよびNTと比較して、(−)−E−10−OH−NTの優れた非鎮静効果は、薬物の鎮静特質を評価するのに一般的に使用されるラットの回転棒試験で確認された。その結果、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTより鎮静作用がより弱く、不都合な食思効果がより少ないはずである。この分析評価では、51±20%および60±40%の回転棒行動のピーク欠陥(peak deficit)は、AT(30mg/kg、i.p.(腹腔内投与))およびNT(30mg/kg、i.p.)をそれぞれ投与後30分に観察された。全く対照的に、30mg/kg(i.p)の用量の(−)−E−10−OH−NTを服用したラットでは、行動の有意な減退は観察されなかった。
【0009】
(−)−E−10−OH−NTのこれらおよび他の新たに発見された有益な特性(以下にさらに議論される)は、3環系抗うつ剤に対して当該分野で先例のない治療効果を提供する。(−)−E−10−OH−NTは、治療的に関連のある薬理学的および生化学的な特性をATおよびNTと共有するので、それを実質的に鏡像異性体的に純粋な形態または鏡像異性体的に純粋な形態のどちらかで、本明細書でさらに記述される様々な障害および疾患を含むがそれらに限定されない、ATやNTで共通して治療される多くの適応症を治療するために使用することができる。しかしながら、(−)−E−10−OH−NTは、不都合な副作用の原因として知られるある種の薬理学的および生化学的な特性を有しないので、望ましくない副作用の発生を少なくして、患者に治療を施すことができる。特定の非限定的な例として、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTよりも、有意に弱い効力のH1ヒスタミン受容体拮抗剤であるので、ATおよび/またはNT治療で経験する有意な体重増加の望ましくない副作用および鎮静作用を伴うことなく、この薬剤で治療効果を達成することができる。
【0010】
(−)−E−10−OH−NTのように、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよびその(+)鏡像異性体は、また、インビトロでのアッセイで重要な、そしてほぼ同等の生化学的活性を有する。例えば、(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、それぞれ、ノルエピネフリン輸送体およびセロトニン輸送体に対してもほぼ同等の親和性を示す(参照:実施例14)。機能性アッセイでは、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体は、ノルエピネフリン取り込みに対して約同等の選択的阻害を示し、インビトロでの機能性アッセイにおいてATとほぼ同等の効力である(参照:実施例5)。さらに、インビボでの動物試験では、(−)−E−10−OH−NT鏡像異性体は、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの両方よりも、神経障害性疼痛のげっ歯類モデル(L5脊髄神経結紮ラットモデル:実施例15を参照)において治療的により有効であり、また、痛覚過敏(FCA誘発炎症性疼痛;実施例5および17から20参照)およびうつ病(強制水泳試験;実施例21参照)のげっ歯類モデルにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりもさらに有効でもある。(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ほぼ同等の生化学的活性とすると、こうしたインビボでの結果は全く驚くべきものであった。ラセミ体(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、疼痛およびうつ病のインビボでのげっ歯類モデルにおいて、ほぼ同等の効力を示すであろうことが期待された。しかし、(−)鏡像異性体のみが、有効であることが分かった。本開示は、(−)−E−10−OH−NTに関して発見された驚異的な効力に一部は基づいている。
【0011】
したがって、1つの態様では、本開示は、E−10−OH−NTと、任意に1つ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物を提供する。E−10−OH−NTは、その(−)鏡像異性体が富化された非ラセミ体混合物として組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、その組成物を含むE−10−OH−NTは、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである。いくつかの実施形態では、組成物を含むE−10−OH−NTは、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである。
【0012】
E−10−OH−NTは、遊離塩基または塩の形態で組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、医薬的に許容される酸付加塩の形態で存在する。E−10−OH−NT(塩の形態を含む)は、また、例えば、製造または精製の過程で使用される溶剤および/または水との溶媒物および/または水和物の形態で組成物中に存在することができる。
【0013】
E−10−OH−NT組成物は、以下でさらに詳細に説明されるように、インビトロまたはインビボで使用することができる。インビボで使用する場合、組成物は、獣医の指示で動物に投与するために、あるいは実質的に任意の投与経路または投与様式でヒトに投与するために処方することができ、これらは、限定されるものではないが、経口投与、局所投与、経眼投与、口腔投与、全身投与、経鼻投与、注射、経皮投与、経腸投与、経膣投与、吸入投与、またはガス注入を含む。
【0014】
上記したように、(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTとこれらの薬物の治療効果と相関する重要な生物学的特性を共有する。それは、また、疾患の動物モデルにおいて効力を示す。これらの同様の特性に基づいて、本明細書で記述される組成物は、ATおよびNTによる治療に応答性である多くの疾患および適応症を治療する際に同じように有効になると予想される。したがって、別の態様では、本開示は、ATまたはNT療法に応答性である疾患または適応症を治療する方法を提供する。その方法は、一般に、ATまたはNTによる治療に応答性である疾患または適応症に罹患しているヒトを含む哺乳動物に、疾患または適応症を治療するのに本明細書に記載された組成物の有効量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0015】
ATおよび/またはNTによる治療に応答性であることが知られている疾患または適応症の1つの重要なクラスは、精神疾患である。そのような精神疾患または適応症の具体例としては、限定されるものではないが、気分障害(例えば、うつ病など)、不安障害(例えば、OCDなど)、摂食障害(例えば、神経性食欲不振症や神経性過食症など)、衝動性障害(例えば、抜毛症など)、睡眠障害(例えば、オピオイド離脱に関連する不眠など)、人格障害(例えば、ADHDなど)、および身体表現性障害(ある種の疼痛など)として「Diagnostic and Statistic Manual of Mental Disorders IV(2000年改訂);以下、「DSM−IV」と称する」に分類されている様々な精神疾患および適応症が挙げられる。
【0016】
ATおよび/またはNTによる治療に応答性であることが知られている疾患または適応症の別の重要なクラスは、侵害受容性(例えば、体性または内臓性)または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)の起源にかかわらず、急性および慢性の両方を含む疼痛である(さらに詳細に、後に議論される)。
【0017】
こうした疾患または適応症の全ては、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の様々な実施形態による治療に応答することが期待される。そして、上記したように、H1ヒスタミン受容体における(−)−E−10−OH−NTの予想外の低い拮抗性および下記で議論する予想外の、真価が認められない性質のために、ATおよび/またはNTでの治療よりも、不都合な副作用がより少ない治療を達成することができると期待される。
【0018】
これらの様々な疾患または適応症を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、単剤療法として単独で使用することができるし、あるいはまた、他の治療と組み合わせて、またはそれに補助的に使用することができる。例えば、特定の精神疾患または適応症を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、同じ精神疾患または適応症を治療するために有用な別の治療剤と組み合わせて、またはそれに補助的に投与してもよい。特定のタイプの疼痛を治療するために使用する場合、E−10−OH−NT組成物は、同じタイプの疼痛を治療するために有用な別の治療剤と組み合わせて、またはそれに補助的に投与してもよい。しかしながら、そのような併用療法または補助療法は、同じ適応症を治療するために有用な化合物の組み合わせに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物で治療されている疾患または障害を治療しない治療剤と組み合わせて、あるいは補助的に投与することが有用であるか、または望ましい。いくつかの実施形態では、他の療法と組み合わせて、あるいは補助的に投与されるE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。適切な組み合わせの代表的な非限定的な例は、さらに詳細に後のセクションで議論される。
【0019】
どんな作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、NEおよび/または5HT輸送体などのモノアミン輸送体を阻害するATおよびNTの能力は、それらの多くの治療特性をある程度、担っていると考えられる。当該分野では十分に前例のあることであるが、少なくとも以下の疾患または適応症は、NEおよび/または5HT輸送体の阻害剤による治療に応答性である:尿失禁などの排尿障害;うつ病や季節的情動障害(SAD)などの気分障害;認知症などの認知障害;統合失調症や躁病などの精神障害;不安障害;ADHDなどの人格障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;ニコチン、アルコール、コカイン、ヘロイン、フェノバルビタール、およびベンゾジアゼピン類などに対する嗜癖などの乱用薬物や乱用物質の嗜癖から生じる化学物質依存症;離脱症状;高プロラクチン血症などの内分泌障害;抜毛症や盗癖などの衝動性障害;トゥーレット症候群などのチック障害;過敏性腸症候群(IBS)、腸閉塞、胃不全麻痺、消化性潰瘍、逆流性食道炎(GORD、またはその同義語のGERD)、鼓腸および消化不良(例えば、非潰瘍性胃腸症(NUD))や非心臓性胸痛(NCCP)などの他の機能的な腸障害などの胃腸管障害;脳血管系などにおける血管痙攣を含む血管障害;および他の種々雑多な障害(パーキンソン病、ショック、および高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群を含む)。
【0020】
上で議論したように、(−)−E−10−OH−NTは、また、NEおよび5HT輸送体並びにNEおよび/または5HTの取り込みを阻害する。したがって、なお別の態様では、本開示はNEおよび/または5HTの取り込みを阻害する方法を提供する。その方法は、一般的に、NEおよび/または5HT輸送体を、NEおよび/または5HTの取り込みを阻害するのに有効な量の(−)−E−10−OH−NTと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、その方法は、ATおよびNTの非存在下に実施される。いくつかの実施形態では、NEおよび/または5HT輸送体は、本明細書で記載されたようにE−10−OH−NT組成物と接触させる。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0021】
方法は、単離した輸送体または1つもしくは両方の輸送体を発現する細胞を用いてインビトロで、あるいは、NEおよび/または5HTの調節不全の取り込みおよび再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患や障害を治療するための治療的なアプローチとして、インビボで実施することができる。NEおよび/または5HTの調節不全の取り込みおよび再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患や障害の具体例としては、限定されるものではないが、上に列挙したものを含む。
【0022】
歴史的に、NE(NRIs)および/または5HT(SRIs)の再取込みを阻害するものを含む抗うつ剤は、侵害受容性起源または非侵害受容性起源のいずれかである急性および慢性の疼痛の両方、例えば、神経障害、疱疹後神経痛(PHN)、線維筋痛症関連疼痛、過敏性腸症候群関連疼痛および間質性膀胱炎を治療するための一次治療として使用されてきた(Sindrup & Jensen,1999;Collinsら,2000;Crowellら,2004)。最近の研究は、疼痛のげっ歯類モデルにおける最大効果に必要である、NEおよび/または5HT輸送体での相対活性を系統的に評価した(Leventhalら,2007)。観測された結果は、神経障害性疼痛状態を治療するために臨床的に観察されたものを再生している。すなわち、NE輸送体に対してより大きな親和性を有する化合物は、疼痛の治療においてより有効であり、5HT輸送体に対するより大きな親和性を有する化合物は、有効性が限られる(参照:例えば、Maxら,1992;Collinsら,2000)。実際、4環性NRIマプロチリンおよびSRIパロキセチンを比較する二重盲検プラセボ対照直接比較試験では、疼痛強度の減少は、パロキセチン(26%)またはプラセボ(27%)と比較して、マプロチリン(45%)に無作為化された試験完了者については有意に大きかった(Atkinsonら,1999)。最近、デュロキセチン(5HTおよびNE輸送体の両方で効力を有する2重のSRIおよびNRI)は、糖尿病性神経障害の治療のために承認された最初の再取込み阻害剤であった(Bymasterら,2005;Goldsteinら,2005)。
【0023】
(−)−E−10−OH−NTについて本明細書で示されるNRI活性は、この化合物を多くの種類の疼痛症候群の治療に理想的に適するようにさせる。実際に、出願人によって行われて、本明細書で報告された実験では、(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性の炎症性疼痛(参照:実施例6,15および16)および非侵害受容性の神経障害性疼痛(参照:実施例5および17から20)の両方のげっ歯類モデルで強い治療有効性を示した。両方のモデルにおいて、(−)−E−10−OH−NTに関して観察された有効性は、ATのそれと同等であった。
【0024】
したがって、さらに別の態様では、本開示はヒトを含む哺乳動物の疼痛を治療する方法を提供する。その方法は、一般に、疼痛に苦しむ哺乳動物(ヒトを含む)に、疼痛を治療するために有効な、本明細書で記述されたE−10−OH−NT組成物の量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体が鏡像異性体的に富化されているE−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NT組成物は、実質的に鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0025】
方法は、いろいろな異なるタイプの疼痛症候群を治療するのに用いることができ、そのような症候群は、侵害受容性起源(例えば、体性または内臓性)または非侵害受容性起源(例えば、神経因性または交感神経性)のどちらかである急性または慢性の疼痛を含む。いくつかの実施形態では、疼痛は侵害受容性疼痛であって、限定されるものではないが、IBSまたは関節リウマチ関連炎症性疼痛、癌関連疼痛、および変形性関節炎関連疼痛が挙げられる。いくつかの実施形態では、疼痛は非侵害受容性疼痛であって、限定されるものではないが、疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛、病巣末梢神経損傷、有痛性知覚麻痺、中枢性疼痛(例えば、脳卒中後疼痛、脊髄損傷による疼痛または多発性硬化症関連疼痛)、および末梢神経障害(例えば、糖尿病性神経障害、遺伝性神経障害、または他の後天性神経障害)などの神経障害性疼痛が挙げられる。
【0026】
E−10−OH−NT組成物は、単独で投与することができるし、あるいは疼痛および/または他の適応症を治療するのに有用な1つ以上の他の薬剤と組み合わせて、もしくはそれに補助的に投与することができる。疼痛治療または治療計画におけるE−10−OH−NT組成物と組み合わせて、もしくはそれに補助的に使用することができる薬物の具体的な非限定例は、後のセクションで提供される。
【0027】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛、特に神経障害性疼痛症候群を治療および/または管理するのに現在使用されている薬物に対して、著しい利点を提供することが期待される。疼痛を治療するための最も一般的な3環系抗うつ薬は、H1ヒスタミン受容体と拮抗し、したがって、著しい体重増加と鎮静効果を伴う。以上のように、(−)−E−10−OH−NTは、この受容体にかなり少ない程度に拮抗し、侵害受容性炎症や非侵害受容性神経障害性疼痛の両方を治療する際に、インビボで有効であることが本明細書で証明された(−)−E−10−OH−NTの用量での鎮静作用のげっ歯類モデルで鎮静作用を誘発しないことが証明された。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、体重増加や鎮静作用を最小限にしながら、疼痛を治療または管理する手段を提供する。
【0028】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛または本明細書に記述される任意の他の多くの疾患および適応症を治療するために使用される場合、さらに著しい利点を提供する。例えば、ATおよびNTは、シトクロムP450アイソエンザイムのCYP2D6とCYP2C19の公知の阻害剤であり、その結果、こうした酵素で代謝されるいくつかの重要な薬物との使用は禁忌である。CYP2D6によって少なくとも一部が代謝されることが知られており、したがって、ATおよびNTとの使用に対して禁忌であるかもしれない代表的な薬物は、S−メトプロロール、プロパフェノン、チモロール、クロミプラミン、デシプラミン、イミプラミン、パロキセチン、ハロペリドール、リスペリドン、チオリダジン、アリピプラゾール、コデイン、デキストロメトルファン、デュロキセチン、フレカイニド、メキシレチン、オンダンセトロン、タモキシフェン、トラマドールおよびベンラファキシンを含む。CYP2C19によって少なくとも一部が代謝されることが知られており、したがって、ATおよびNTとの使用に対して禁忌であるかもしれない代表的な薬物は、オメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、ジアゼパム、フェニトイン、フェノバルビトン、クロミプラミン、シクロホスファミド、およびプロゲステロンを含む。本出願人によって得られ、本明細書(さらに詳細に、実施例の部で議論される)で報告されるデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ATおよびNTよりも、CYP2C19とCYP2D6の両方に対してそれほど強力でない阻害剤であることを示す。この驚くべき発見に一部は基づいて、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物は、特にこれらのシトクロムP450アイソエンザイムによって少なくとも一部は代謝されている薬物と組み合わせて、あるいは補助的に使用される場合、ATおよび/またはNT療法よりも、望ましくない臨床的結果をより少なく生じると考えられる。
【0029】
また、(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTよりも、ムスカリン受容体に対して著しく低い親和性を有し、ATやNTよりも、ヒトエーテル・ア・ゴー・ゴー関連遺伝子(hERG)カリウムチャネルの弱い阻害を示し、ATやNTよりも、α1およびα2アドレナリン受容体の両方を含むアドレナリン受容体における拮抗性が弱いことが、出願人によって驚くべきことに発見された。これらの特性の全ては、ATおよびNT療法と比べて、向上した臨床的有益性をもたらすと予想される。例えば、ムスカリン受容体の阻害は、口腔乾燥症、便秘および霧視に関連している。α2アドレナリン受容体のアゴニストは、無痛覚をもたらすと報告(Ongiocoら,2000;Asanoら,2000;Hallら,2001)されているが、一方、拮抗剤は、こうした鎮痛作用(Kalsoら,1991;Millan & Colpaert 1991;Petrovaaraら,1990)を阻害する。どんな作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物で治療される患者は、ATおよび/またはNTで治療された患者よりも、より少ない、望ましくない副作用を示すであろうと予想される。具体的には、本明細書に記述されるE−10−OH−NT組成物で治療される患者は、ATおよびNTで治療された患者よりも、上記の減少した薬物−薬物相互作用ならびに鎮静および食欲効果に加えて、低レベルの心臓毒性および便秘を経験すると予想される。実際に、当量の経口用量では、(−)−E−10−OH−NTは、胃腸管運動のげっ歯類モデルで、ATやNTに比べて、はるかに少ない便秘をもたらした。
【0030】
ATやNTと異なり、(−)−E−10−OH−NTは、α2アドレナリン受容体と拮抗しない。したがって、理論上、本明細書に記述されたE−10−OH−NT組成物は、また、疼痛の治療においてATやNTよりも優れていることが予想される。実際に、図3および4で例示されるように、(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性疼痛および非侵害受容性疼痛の両方のげっ歯類モデルにおいて、ATよりも優れていることが証明された。
【0031】
(±)−E−10−OH−NTの合成は、文献(Remyら,1973)にこれまでに報告されているが、個々の(+)および(−)鏡像異性体のキラル合成は、まだ一度も報告されたことがない。したがって、さらに別の態様では、本開示は、E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体を合成するキラル−特異的方法、前記方法に有用な中間体、および中間体を合成するキラル特異的方法を提供する。
【0032】
いくつかの実施形態では、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのキラル−特異的合成に有用な中間体は、E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンのそれぞれ(+)および(−)鏡像異性体であって、図1Aの化合物(+)−7および化合物(−)−7としてそれぞれ例示されている。化合物7の(+)および(−)鏡像異性体のキラル10−炭素の絶対配置は、直接には確立されていない。したがって、水酸基をこのキラル炭素原子(キラリティは星印で示される)に結合する結合手は、不特定の立体化学で例示される。しかしながら、化合物7のキラリティは、(−)−E−10−OH NTの絶対立体化学(図6に記載)から推論することが可能であり、それは(−)−E−10−OH NTのリンゴ酸塩のX線結晶学的解析で決定された。
【0033】
キラル中間体(+)−7および(−)−7の合成方法は、一般に、E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン(図1Aで化合物6として例示)を、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒の存在下、還元することを含む。適切なキラル−特異的オキサザボロリジン触媒の非限定的な典型的実施形態は、図1Bに例示される。いくつかの実施形態では、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒は、(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(「7αS−CBS」;図1Aにおいて化合物S−10)であり、(−)−7を産生する。いくつかの実施形態では、キラル−特異的オキサザボロリジン触媒は、(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(「7αR−CBS」;図1Bにおいて化合物R−10)であり、(+)−7を産生する。
【0034】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、中間体をメチルアミンと反応させることにより、中間体(+)−7および(−)−7からそれぞれ合成することができる。キラル−特異的触媒としてCBSを利用する合成の特定の実施形態は、図1Aに例示される。実施例のセクションで提供される反応条件下、このスキームを利用して、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、99%超の鏡像異性体純度の高収率で容易に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】図1Aは、鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTを合成するために使用することができる典型的なスキームを提供する;
【図1B】図1Bは、図1Aに例示された合成スキームで使用することのできるキラル−特異的オキサザボロリジン触媒の典型的な実施形態を提供する;
【図2】図2は、鎮静作用のラット回転棒モデルでのATおよびNTと比較した、(−)−E−10−OH−NTの非鎮静作用を示すグラフを提供する;
【図3】図3は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗痛覚過敏効果を示すグラフを提供する;
【図4】図4は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでのATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図5】図5は、GITのげっ歯類モデルでのATおよびNTの両方と比較した、胃腸管運動に関する(−)−E−10−OH−NTの優れた特性を示すグラフを提供する;
【図6】図6は、X線結晶学的解析で確立された(−)−E−10−OH−NTの絶対配置を表す;
【図7】図7は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでの(+)−E−10−OH−NT、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTおよびATと比較した、(−)−E−10−OH−NTの優れた抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図8】図8は、非侵害受容性神経障害性疼痛のげっ歯類モデルでの、アミトリプチリンの抗アロディニア効果と比較した、経口投与された(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア効果を示すグラフを提供する;
【図9】図9は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのアミトリプチリンのFCAと回転棒用量−応答関係を示す曲線を提供する;
【図10】図10は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(−)−E−10−OH−NTのFCAと回転棒用量−応答関係を示す曲線を提供する;
【図11】図11は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(−)−E−10−OH−NTの用量−関連抗痛覚過敏活性を示すグラフを提供する;
【図12】図12は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでの(+)−E−10−OH−NTにより示される実質的抗痛覚過敏活性の非存在を示すグラフを提供する;
【図13】図13は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのE−10−OH−NTの鏡像異性体の異なる抗痛覚過敏活性を示すグラフを提供する;
【図14】図14は、侵害受容性炎症性疼痛のげっ歯類モデルでのE−10−OH−NTの鏡像異性体の抗痛覚過敏活性を比較したグラフを提供する;
【図15A】図15Aは、うつ病のラット強制水泳試験モデルでのアミトリプチリン(AT)の活性を示すグラフを提供する;
【図15B】図15Bは、うつ病のラット強制水泳試験モデルでの(−)−E−10−OH−NTの活性を示すグラフを提供する;および
【図15C】図15Cは、うつ病のラット強制水泳試験モデルにおいて、試験した用量で(+)−E−10−OH−NTが統計学的に有意な活性を示さなかったことを表すグラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
8.詳細な説明
8.1 E−10−OH−NT化合物および組成物
本開示は、下記に図示される周知の3環系抗うつ薬アミトリプチリン(AT)およびノルトリプチリン(NT):(S/R)−5−[3−メチルアミノ−プロピ−(E)−イリデン−10,11−ジヒドロ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−10−オール(本明細書では、「E−10−OH−NT」と称する)の一般的な主要代謝物のE−幾何異性体を含む組成物に関する。
【0037】
【化1】
【0038】
10位の炭素(星印で示される)のキラリティにより、E−幾何異性体は、2つの鏡像異性体:(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTを含む。X線結晶学的解析で確立された(−)異性体のキラルの10−炭素についての絶対配置は、図6に表記される。したがって、(−)および(+)異性体のキラリティは、以下に表記されるとおりである。
【0039】
【化2】
【0040】
本明細書で記述される様々な組成物において、E−10−OH−NT化合物は、(−)鏡像異性体が富化された非ラセミ体混合物として、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)鏡像異性体として、あるいは鏡像異性体的に純粋な(−)鏡像異性体として存在することができる。特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTであるE−10−OH−NTを含む。別の特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTであるE−10−OH−NTを含む。
【0041】
本明細書で使用される場合、その鏡像異性体がもう片方の鏡像異性体に対して過剰に存在しているとき、つまり、その鏡像異性体が組成物中の全E−10−OH−NTの50%超を含むとき、組成物は、特定の鏡像異性体が「富化」されている。特定の鏡像異性体が富化されている組成物は、典型的には、特定の鏡像異性体の少なくとも約60%、70%、80%、90%、またはさらにそれ以上を含むであろう。特定の鏡像異性体の富化の量は、当業者によって常套的に使用される従来の分析方法を使用して確認でき、そのような方法としては、キラルシフト試薬の存在下でのNMR分光分析、キラルカラムを使用するガスクロマトグラフィ分析、およびキラルカラムを使用する高圧液体クロマトグラフィ分析が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態では、単一の鏡像異性体は、対応する鏡像異性体を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、組成物が、当業者によって常套的に使用される従来の分析方法(例えば、上記した方法)を用いて確立された、特定の望まない鏡像異性体の約10%未満を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、望まれない鏡像異性体の量は、10%未満であってよく、例えば、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満またはそれ未満である。特定の鏡像異性体の少なくとも約95%を含む鏡像異性体的に富化された組成物は、本明細書では、「実質的に鏡像異性体的に純粋な」と称される。特定の鏡像異性体の少なくとも約99%を含む組成物は、本明細書では、「鏡像異性体的に純粋な」と称される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書で記述される、鏡像異性体的に富化されたE−10−OH−NT組成物は、(−)−E−10−OH−NTで約60%、70%、80%または90%純粋であるE−10−OH−NTを含む。言い換えると、(−)鏡像異性体は、約60、70、80または90%eeの範囲の鏡像体過剰率(ee)で存在する。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述される実質的に、鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体で約95〜98%純粋であるE−10−OH−NTを含む;言い換えると、(−)−E−10−OH−NTは、約95〜98%eeの範囲の鏡像体過剰率で存在している)。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、(−)鏡像異性体で約99.0〜100%純粋であるE−10−OH−NTを含む;言い換えると、(−)−E−10−OH−NTは、約99.0〜100%eeの範囲の鏡像体過剰率で存在している)。特定の非限定的な典型的実施形態は、E−10−OH−NTが(−)鏡像異性体で約99.0、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9または100%純粋であるE−10−OH−NT組成物を含む。
【0044】
インビボでの3環系抗うつ薬のヒドロキシ代謝物は、多形のシトクロムP450酵素CYP2D6によって形成される。NTは、この酵素により非常に立体特異的にE−10−OH−NTの(−)鏡像異性体へとヒドロキシル化されると考えられる(参照:例えば、Nordin & Bertilsson,1995)。したがって、理論上、(−)−E−10−OH−NTは、100%の鏡像異性体純度で生物資源から単離することができる。対照的に、当事者は、合成手段で製造された(−)−E−10−OH−NTの組成物は、通常、100%の鏡像異性体純度を達成することができないことを理解するであろう。例えば、実施例のセクションで記述される合成方法では、(−)鏡像異性体の約90〜99.5%eeの範囲の鏡像異性体純度が、通常、達成される。
【0045】
特に他に断りのない限り、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、生物起源および合成起源の両方の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含むものとする。したがって、本明細書で記述される鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物は、約99%から100%までの鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含むことができる。
【0046】
生物起源(すなわち、生物資源から単離された)であり、したがって、100%の(−)−E−10−OH−NTを含み得る鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物の実施形態は、「生物由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT組成物」と、本明細書では称される。同様に、そのようなE−10−OH−NTは、「生物由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT」と、本明細書では称される。合成起源であり、CYP2D6などのキラル特異的生体触媒を用いて、生体外(ex vivo)で調製された組成物を含み、したがって、少なくとも約99%、しかし、通常は100%未満の(−)−E−10−OH−NTを含む、鏡像異性体的に純粋なE−10−OH−NT組成物の実施形態は、「合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT組成物」と、本明細書では称される。同様に、そのようなE−10−OH−NTは、「合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT」と、本明細書では称される。合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTは、通常、約99〜99.9%eeの範囲の鏡像異性体過剰率で(−)鏡像異性体を含むであろう。
【0047】
目的とする使用によって、E−10−OH−NTは、遊離塩基、または塩の形態で、例えば、酸付加塩の形態で組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、医薬的に許容される塩の形態で組成物中に存在する。一般に、医薬的に許容される塩は、親化合物の所望の薬理活性の1つ以上を実質的に保持しており、ヒトに投与するのに適しているそれらの塩である。医薬的に許容される塩は、無機酸または有機酸で形成された酸付加塩を含む。医薬的に許容される酸付加塩を形成するのに適切な無機酸は、例えば、限定されるものではないが、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸)、硫酸、硝酸、燐酸などを含む。医薬的に許容される酸付加塩を形成するのに適切な有機酸は、例えば、限定されるものではないが、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、蓚酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、パルミチン酸、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)ベンジン酸、桂皮酸、マンデル酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタン−ジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸など)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸など)、4−メチルビシクロ[2.2.2]−オクト−2−エン−1−カルボン酸、グルコヘプトン酸、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第3級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、E−10−OH−NTは、有機酸付加塩、例えば、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸およびコハク酸から選択される有機酸で形成される酸付加塩として組成物中に存在する。
【0049】
化合物の様々な塩の形態は、異なる性質、例えば、異なる毒性、溶解度、安定性、吸湿性などを示し得ることは、当該分野で周知である。コハク酸とで形成された(−)−E−10−OH−NTの酸付加塩(コハク酸塩)は、マレイン酸とで形成された(−)−E−10−OH−NT塩(4.4mg/ml)よりも、生理食塩水中で優れた溶解度(18mg/ml)を有し、本質的に結晶性であり、非吸湿性であることが発見された。したがって、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTのマレイン酸塩形態の使用(Bertilssonら,1986)は、健常者ボランティアに投薬するために以前に使用されているが、一方、(−)−E−10−OH−NTのコハク酸塩は、優れた性質を有し得ると期待される。例えば、マレイン酸は、先に急性尿細管壊死の毒性と関連づけられている(Everettら,1993)。コハク酸塩は、マレイン酸塩よりも、優れたADMEと毒物学的な安全性特性を有するであろうと予想される。したがって、いくつかの実施形態では、組成物を構成する(−)−E−10−OH−NTは、コハク酸塩である。
【0050】
遊離塩基または塩の形態のいずれにせよ、E−10−OH−NTは、無水物形態で組成物中に存在することができるか、あるいは、それは溶媒和物および/または水和物であることができる。溶媒和物形成溶媒の程度と同定は、E−10−OH−NT化合物を合成し、保存するために使用される条件に一部分は依存するであろう。本明細書で使用される場合、特に他に断りの無い限り、表記「E−10−OH−NT」、(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、化合物の塩および/または溶媒和物および/または水和物の形態の全てを含むものとする。
【0051】
8.2 合成方法
(−)−E−10−OH−NT化合物は、文献に記載された方法により合成または調製することができる。例えば、ラセミ体(±)−E−10−OH−NTは、Bertrandら,1994およびLassenら,1983に記載されているように合成することができ、その開示は引用することにより本明細書に取り込まれる。(−)−E−10−OH−NTの鏡像異性体的に富化された組成物は、そのようなラセミ混合物から、キラル分離の標準的な方法(参照:例えば、Chiral Separation Techniques;A Practical Approach 2001)を用いて所望の鏡像異性体を単離することにより合成できる。
【0052】
開示の別の態様は、キラル特異的合成方法を用いるE−10−OH−NTの鏡像異性体的に純粋な異性体を合成する手段を提供する。鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの合成に有用な方法の例示的実施形態は、図1Aに例示される。図1Aによれば、5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,b]−シクロヘプテン(化合物6)のE−異性体は、キラル特異的オキサザボロリジン触媒の存在下に還元される(化合物S−10およびR−10として図示される)。図示されるように、触媒(S−10)のS−異性体は、5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,b]−シクロヘプテンの(−)鏡像異性体(化合物(−)−7)を産生し、そしてR−異性体(R−10)は、(+)鏡像異性体である(+)−7を産生する。次に、これらの中間体は、メチルアミンとの反応により、それらのそれぞれの(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT生成物に変換することができる。
【0053】
化合物6の出発原料は、文献(参照:例えば、Bertrandら,1994;Lassenら,1983;これらの開示は引用により本明細書に取り込まれる)に記載された方法を用いて合成することができる。あるいはまた、図1Aで例示されるように、それらを合成することができる。各例示された工程の特定条件は、実施例の部で提供される。
【0054】
図1Aでは、特定のキラル特異的オキサザボロリジン触媒が例示される。他のキラル特異的オキサザボロリジン触媒もまた、使用することが可能である。特定の代表的な例が、図1B(図1Bにおいて、Rは水素またはメチルである)で例示され、Itsunoら,1983(触媒10a),Coreyら,1987(触媒10b),Hongら,1994(触媒10c),Quallichら,1993(触媒10d)およびBerenguerら,1994(触媒10e)に記載されている。CBS還元系により達成された不斉誘導は、ホウ素原子に結合した可変基により非常に影響を受ける。β−水素またはβ−メチルが最も一般的に使用されているが、この基は、特定の基質に適合させるために調整することができる。ホウ素原子に結合したこの基は、ケトンのβ−R基と小さい置換基との間の相互作用が最小限となるように結合するようにケトンを誘導する(メカニズム研究の詳細については、Kimら,2006を参照のこと)。還元が実施される一般的な条件は、前記引用の文献およびCoreyら,1991;Coreyら,1992;Coreyら,1998;Patersonら,2005;Zartmanら,2005;Tagatら,2004;Duquetteら,2003;Yanagiら,2003;およびCoeら,2003にも記載されており、これらの開示は引用により本明細書に取り込まれる。実施例の部で説明されるように、ボラン−ジメチルスルフィド錯体の存在下、THF中,−20℃で反応を実施する場合、反応は、図1Aで例示された特異的触媒を使用して、高収率および99%超の鏡像異性体純度でもって実施することができる。
【0055】
8.3 化合物および組成物の活性と用途
実施例4と14で詳細に記載されるように、(−)−E−10−OH−NTは、ATとNTのように、ノルエピネフリン(「NE」)輸送体に対して強力な親和性を有し、NE取り込みの強力な阻害剤である。また、(−)−E−10−OH−NTは、セロトニン輸送体と結合し、NEに対して観測された効力より弱い効力ではあるが、5HTの取り込みを阻害する。様々な疾患や障害を治療するために、NEおよび/または5HTの再取込みを阻害する化合物の使用は、十分に立証されている。例えば、AT、NT、デシプラミン、デュロキセチン、ベンラファキシン、シタロプラム、およびシンバルタは、うつ病治療のために承認されて、追加の適応外使用を有する;そしてパロキセチンとセルトラリンは、大うつ病性障害、OCD、パニック障害、外傷後ストレス障害、月経前不快気分障害、および社会不安障害の治療のために承認されており、また追加の適応外使用を有する。
【0056】
ラセミ体のE−10−OH−NTの血液脳関門を通過する能力は、文献(例えば、Nordinら,1987b参照)で確立されている。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、調節不全のNEの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介される疾患および/または障害の治療に有用であることが期待される。いくつかの特定の実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、例として、限定されるものではないが、AT、NT、アトモキセチン、レボキセチン、およびマプロチリンを含む他のNRIやSNRI剤での治療に応答する多くの異なる疾患を治療するのに有用となるであろう。調節不全のNEの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介されることが知られており、NRIやSNRI化合物での治療に応答することが知られている疾患および/または障害としては、限定されるものではないが、尿失禁などの排尿障害;うつ病や季節的情動障害(SAD)などの気分障害;認知症などの認知障害;統合失調症や躁病などの精神障害;不安障害;ADHDなどの人格障害;神経性食欲不振症や神経性過食症などの摂食障害;ニコチン、アルコール、コカイン、ヘロイン、フェノバルビタール、およびベンゾジアゼピン類に対する嗜癖などの乱用薬物や乱用物質の嗜癖から生じる化学物質依存症;離脱症状;高プロラクチン血症などの内分泌障害;抜毛症や盗癖などの衝動性障害;トゥーレット症候群などのチック障害;過敏性腸症候群(IBS)、腸閉塞、胃不全麻痺、消化性潰瘍、逆流性食道炎(GORD、またはその同義語のGERD)、鼓腸および消化不良(例えば、機能性胃腸症(NUD))や非心臓性胸痛(NCCP)などの他の機能的な腸障害などの胃腸管障害;脳血管系などの血管痙攣を含む血管障害;および種々雑多な他の障害(パーキンソン病、ショック、および高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群が挙げられる。実際、実施例21で示されるように、(−)−E−10−OH−NTは、うつ病のげっ歯類モデルで、効力を示す。
【0057】
疼痛もまた、調節不全のNEおよび/または5−HTの再取り込みにより少なくとも一部分は媒介されると考えられる。実際、多くのNRIおよび/またはSRI化合物は、また、疼痛を治療するための適応外使用に使用される。疼痛は、通常、不快な感覚または感情的な経験の認識または病態を指すと理解され、それは組織への実際の損傷と関係している場合があるか、そうでない場合がある。一般に、それは2つの広義のカテゴリーを含むことが理解される:侵害受容性(例えば、体性または内臓性)起源または非侵害受容性(例えば、神経因性または交感神経性)起源のどちらかである急性および慢性(例えば、Buschmannら,2002;Jain,2000参照のこと)。急性疼痛は、一般に、緊張/捻挫、火傷、心筋梗塞、急性膵炎、手術、外傷および癌から起こる侵害受容性疼痛を含む。慢性疼痛は、一般に、侵害受容性疼痛を含み、それらは限定されるものではないが、IBSまたは関節リウマチなどを伴う炎症性疼痛、癌関連疼痛、および変形性関節炎関連疼痛が挙げられる;そして非侵害受容性疼痛を含み、それらは限定されるものではないが、疱疹後神経痛(PHN)、三叉神経痛、病巣末梢神経損傷、有痛性知覚麻痺、中枢性疼痛(例えば、脳卒中後疼痛、脊髄損傷による疼痛または多発性硬化症関連疼痛)、および末梢神経障害(例えば、糖尿病性神経障害、遺伝性神経障害、または他の後天性神経障害)が挙げられる。
【0058】
実施例の部で示される動物データは、(−)−E−10−OH−NTが侵害受容性炎症および非侵害受容性神経障害性疼痛の両方の治療において有効であることを確認している。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、上記した様々なタイプの疼痛を含む疼痛の治療に使用される。上で述べたように、ある実施形態では、そのような組成物は、実質的に、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。いくつかの実施形態では、そのような組成物は、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTを含む。
【0059】
本明細書で証明されるように、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリンおよびセロトニン輸送体(実施例14)に対して同様の親和性を示し、E−10−OH−NTの(−)および(+)異性体は、6つの異なるタイプの受容体と輸送体、すなわち、ノルエピネフリン輸送体(実施例4と14)、セロトニン輸送体(実施例4と14)、ドーパミン輸送体(実施例4)、ヒスタミン受容体(実施例7)、α−アドレナリン受容体(実施例9)、およびムスカリン受容体(実施例12)に対して、ならびにシトクロムP450機能(実施例10)およびhERGイオンチャネル(実施例11)に対しても、インビトロで同様の活性を示した。このデータから見て、特にひとまとめにすると、ラセミ体ならびに(+)および(−)鏡像異性体は、インビボで同様の効力を有するであろうと期待されるであろう。その期待にもかかわらず、本明細書で提示されたデータは、E−10−OH−NTの(−)鏡像異性体は、ラセミ体および(+)鏡像異性体の両方よりも、疼痛のげっ歯類モデルにおいて、治療的にさらに有効であり、そして、うつ病のげっ歯類モデルにおいて、(+)鏡像異性体よりも、さらに有効であることを意外にも示した。より具体的には、試験された用量では、(1)(−)−E−10−OH−NTは、非侵害受容性の神経障害性疼痛のげっ歯類L5−単一神経結紮モデルにおいて、ラセミ体の(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの両方よりも、さらに有効であり(実施例15);(2)(−)−E−10−OH−NTは、侵害受容性疼痛のFCA−誘発痛覚過敏アッセイにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりも、さらに有効であり(実施例19および20);そして(3)(−)−E−10−OH−NTは、うつ病のラット強制水泳試験モデルにおいて、(+)−E−10−OH−NTよりも、さらに有効であった(実施例21)。ラセミ体のE−10−OH−NTならびにその(+)および(−)鏡像異性体で発生するインビトロでのデータに基づいて、これらの発見を予測できなかった。実際、疼痛のラットL5 SNLモデルでの(±)−E−10−OH−NTの場合に観測される有効性の欠如に基づき、疾患のそのインビボまたは他のいかなる動物モデルにおいても、単離された鏡像異性体を試験する必要はないであろう。
【0060】
いろいろな疾患または適応症を治療するのに用いられるとき、E−10−OH−NT組成物は、通常、特定の疾患または適応症を治療するために有効な量で投与されるであろう。当業者に認知されているように、何が「治療的に有効である」かや、治療的利益を提供することであるかの理解は、しばしば特異的疾患または適応症次第である。当業者は、特定の適応症に対して、古くからある評価基準に基づいて治療有効量を確かめることができるであろう。
【0061】
一般に、組成物の「治療有効」量は、治療されている基礎疾患または適応症を根絶または改善する、および/または患者が基礎疾患または適応症にまだ悩むかもしれないということに耐えるのではなく、患者が感情または状態の改善を報告するような、基礎疾患を伴う徴候の1つ以上を根絶または改善する量である。治療的な利益は、また、改善の自覚の有無にかかわらず、疾患または適応症の進行を停止するか、または遅くすることを含む。
【0062】
うつ病に関しては、治療有効量は、うつ病またはその徴候を根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのようなうつ病または徴候は、限定されるものではないが、気分の変化、激しい悲しみの感覚、絶望、精神的な遅滞、集中力の欠如、悲観的な心配と、動揺、自己卑下、不眠、拒食症と、体重減少、活動力および性衝動減退、およびホルモンの概日リズムを含む。
【0063】
不安障害に関しては、治療有効量は、不安障害またはその徴候の1つを根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのような不安障害または徴候としては、限定されるものではないが、自分自身の行動を制しきれなくなる恐怖、明らかな理由のない恐怖の意識、大災害に対する恐怖、不安、神経過敏、将来の事象についてのしつこい不確実性、頭痛、疲労および亜急性自律神経徴候が挙げられる。
【0064】
疼痛に関して、治療有効量は、疼痛またはその徴候を根絶するか、または改善する組成物の量であり、そのような疼痛または徴候は、限定されるものではないが、銃撃感、灼熱感、電気感覚、痛み、不快、うずき、緊張、凝り、不眠、麻痺および弱さを含む。
【0065】
8.4 併用療法
ATおよびNTは、他の薬剤と組み合わせて様々な疾患や障害を治療するために使用されてきた。例えば、ATは、クロルジアゼポキシドと組み合わせて不安障害や大うつ病性障害を治療するのに使用されており、そしてペルフェナジンと組み合わせて不安障害、統合失調症および大うつ病性障害を治療するのに使用されてきた。さらに、NTは、ブデノシドと組み合わせて喘息を治療するのに使用されてきた。本明細書で記述されるAT、NTおよびE−10−OH−NT組成物は、NTおよび5HTの取り込みを阻害することを考慮すると、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、併用療法にも有用となることが期待される。
【0066】
併用療法で使用されるとき、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、他の薬剤と組み合わせて、あるいは補助物として使用されてもよい。本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物が、他の薬剤と組み合わせて使用される場合は、2つの薬剤は、単一の医薬組成物で投与されてもよいし、あるいは別々の医薬組成物として投与されてもよい。2つの成分は、同じ投与経路または異なる投与経路で投与されてもよい。また、2つの成分は、互いに同時に、あるいは順番に投与されてもよい。したがって、併用療法の各成分は、別々にではあるが、所望の効果を提供するために、他方の成分の投与と十分に接近した時間で投与することが可能である。
【0067】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物を含む併用療法は、多くの状況で有用であるが、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と使用される他の薬剤は、治療される特定の疾患または適応症に依存するであろう。当業者であれば、特定の適応症に対して、古くからある評価基準に基づいて、どんな他の薬剤と本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と組み合わせて使用するかを確かめることができるであろう。いかなる作用原理によっても束縛されることを意図するものではないが、併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と、NEおよび5HTの再取込みを阻害することが知られている他の薬剤との投与を含む。あるいはまた、併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と、NEおよび5HTの再取込みを阻害しない薬剤との投与を含んでもよい。
【0068】
したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、NEや5HTの再取り込み、同様にうつ病を治療するために2重および3重のモノアミン取り込みを阻害する他の薬剤と併用してもよい。本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、また、例えば、限定されるものではないが、うつ病を治療するためのフルキセチン、パロキセチン、フルボキサミン、シタプロラム、およびセルトラリンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と併用することができる。うつ病の治療のための併用療法は、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)、例えばトラニルシプロミン、フェネルジン、およびイソカルボキサジドも含み得るが、これらに限定されるものではない。あるいはまた、併用療法は、アモキサピン、マプロチリン、およびトラゾドン(これらに限定されるものではない)などの複素環抗うつ剤、または別のベンラファキシン、ネファゾドン、およびミルタザピン(これらに限定されるものではない)などの別の抗うつ剤を含んでもよい。さらに、うつ病の治療のための併用療法は、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物および抗不安薬(例えば、限定されるものではないが、クロルジアゼポキシドなど)、または抗精神病薬(例えば、限定されるものではないが、ペルフェナジンなど)を含むことが可能である。
【0069】
ATおよびNTのように、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、不安障害、統合失調症および喘息の治療のための併用療法に役立つと予想される。不安障害に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、クロルジアゼポキシドなどの抗不安剤と併用されてもよい。統合失調症に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、統合失調症を治療することが知られているペルフェナジンなどの薬剤と併用されてもよい。喘息に関して、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、喘息を治療することが知られている、例えばブテノシドを含む副腎皮質ステロイドなどと併用されてもよい。
【0070】
本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、疼痛の治療のための併用療法において有用となるであろうことが、また期待される。したがって、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、限定されるものではないが、カンナビノイドやオピオイドを含む他の鎮痛薬と併用することができる。併用療法の使用に適している多くのカンナビノイドが利用できる。したがって、併用療法は、Δ9−テトラヒドロカンナビノールおよびカンナビジオール、ならびにそれらの混合物から選択されるカンナビノイドを含んでもよい。
【0071】
あるいはまた、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、少なくとも1つのオピオイドと併用されてもよい。広範囲のオピオイドが利用可能であり、疼痛を治療する併用療法での使用に適している可能性がある。そのように、併用療法は、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジル−モルヒネ、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、シクラゾシン、デソモルヒネ、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルホン、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルヒネ、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオアフェチルブチレート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レバロルファン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、ロペラミド、メペリジン(ペチジン)、メプタジノール、メタゾシン、メタドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルブフィン、ナルセイン、ニコモルフィン、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ノルモルヒネ、ノルピナノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェノモルファン、ファナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロフェプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロピラム、プロポキシフェン、スルフェンタニル、チリジン、トラマドール、それらのジアステレオマー、それらの医薬的に許容される塩、それらの錯体;およびそれらの混合物から選択されるオピオイドを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、オピオイドは、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロコデイン、プロポキシフェン、フェンタニル、トラマドール、およびそれらの混合物から選択される。
【0072】
併用療法のオピオイド成分は、鎮痛剤および/または風邪咳の鎮咳剤の合剤で従来から使用され得る1つ以上の他の活性成分をさらに含んでもよい。そのような従来の成分は、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、デキストロメトルファン、フェニルプロパノールアミン、フェニレフリン、クロルフェニラミン、カフェイン、および/またはグアイフェネシンを含む。オピオイド成分に含まれる得る典型的または従来の成分は、例えば、Physicians’ Desk Reference,1999に記述され、その開示は、引用によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0073】
オピオイド成分は、オピオイドの鎮痛性効力を高める、および/または鎮痛耐性発現を減らすように設計された1つ以上の化合物を更に含むことが可能である。そのような化合物は、例えば、デキストロメトルファンまたは他のNMDA拮抗剤(Maoら,1996)、L−364,718および他のCCK拮抗剤(Dourishら,1988)、NOS阻害剤(Bhargavaら,1996)、PKC阻害剤(Bilskyら,1996)、およびダイノルフィン拮抗剤または抗血清(Nicholsら,1997)を含む。前記の文献の各々の開示は、引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0074】
あるいはまた、本明細書で記述される化合物は、少なくとも1つの非オピオイド性鎮痛剤(例えば、ジクロフェナク、COX2阻害剤、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセンなど、およびそれらの混合物)と共に使用されてもよい。
【0075】
さらに、疼痛の治療に関して、併用療法は、抗炎症剤を含んでもよく、それは限定されるものではないが、副腎皮質ステロイド、限定されるものではないが、エトフェナメート、メクロフェナム酸、メファナム酸、ニフルム酸などのアミノアリールカルボン酸誘導体系;限定されるものではないが、アセメタシン、アンフェナクシンメタシン、クロピラク、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、フェンクロラク、フェンクロズ酸、フェンチアザク、グルカメタシン、イソゼパク、ロナゾラク、メチアジン酸、オキサメタシン、プログルメタシン、スリンダク、チアラミドおよびトルメチンなどのアリール酢酸誘導体系;限定されるものではないが、ブチブフェンおよびフェンブフェンなどのアリール酪酸誘導体系;限定されるものではないが、クリダナク、ケトロラクおよびチノリジンなどのアリールカルボン酸系;限定されるものではないが、ブクロキス酸、カルプロフェン、フェノプロフェン、フルノキサプロフェン、イブプロフェン、イブプロキサム、オキサプロジン、ピケトプロフェン、ピルプロフェン、プラノプロフェン、プロチジン酸およびチアプロフェン酸などのアリールプロピオン酸誘導体系;限定されるものではないが、メピリゾールなどのピラゾール系;限定されるものではないが、クロフェゾン、フェプラゾン、モフェブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、フェニルピラゾリジニノン、スキシブゾンおよびチアゾリノブタゾンなどのピラゾロン系;限定されるものではないが、ブロモサリゲニン、フェンドサール、グリコールサリチレート、メサラミン、1−ナフチルサリチレート、オルサラジンおよびスルファサラジンなどのサリチル酸誘導体系;限定されるものではないが、ドロキシカム、イソキシカムおよびピロキシカムなどのチアジンカルボキサミド系;限定されるものではないが、e−アセトアミドカプロン酸、s−アデノシルメチオニン、3−アミノ−4−ヒドロキシ酪酸、アミキセトリン、ベンダザク、ブコロム、カルバゾン類、ジフェンピラミド、ジタゾール、グアイアズレン、ミコフェノール酸の複素環アミノアルキルエステルおよび誘導体、ナブメトン、ニメスリド、オルゴテイン、オキサセプロール、オキサゾール誘導体、パラニリン、ピホキシム、2−置換−4,6−ジ−第3級−ブチル−s−ヒドロキシ−1,3−ピリミジン、プロクアゾンおよびテニダプなどの他の抗炎症剤を含んでもよい。
【0076】
8.5 製剤および投与
本明細書で記述される(−)−E−10−OH−NT化合物またはその医薬的に許容される塩は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、2005(その開示は、引用することによりその全体が本明細書に取り込まれる)に記述されるように、投与の選択経路及び標準的な製薬実務に基づいて選択される医薬用担体と配合されてもよい。有効成分および担体の相対的な割合は、例えば、化合物の溶解度および化学的性質、投与の選択経路ならびに標準的な製薬実務により決定することが可能である。
【0077】
本明細書に開示される(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、有効成分(複数可)が、患者の体の所望の作用部位または複数の部位との接触をもたらす任意の手段により投与され得る。化合物は、個々の治療剤として、または治療剤と併用して、医薬との使用が利用できる任意の従来の手段で投与され得る。例えば、それらは、医薬組成物中の唯一の有効薬剤として投与されてもよいし、あるいは、それらは、他の治療的に有効な成分と組み合わせて用いることができる。
【0078】
本明細書に記述される(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、投与の選択経路(例えば、経口的または非経口的)に適した様々な形態で哺乳類宿主に投与することが可能である。これに関して、非経口投与としては、以下の経路:静脈内;筋肉内;皮下;眼内;滑液包内;経皮、眼、舌下および口腔を含む経上皮;眼、皮膚、眼内、直腸および通気法、エアロゾルによる鼻腔内吸入を含め局所的に;および、直腸全身系による投与が挙げられる。
【0079】
(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、例えば、不活性の希釈剤または同化可能な食用担体と経口投与用に製剤化することができるし、または硬質または軟質殻のゼラチンカプセル剤に入れることでき、または、錠剤に圧縮もでき、または、治療食の食物に直接的に配合することもできる。治療的な経口投与では、活性化合物は、賦形剤に配合し、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態で用いることもできる。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物(複数可)の量は、好ましくは、適切な用量が得られる量である。本発明による好ましい組成物および製剤は、経口用量単位形態が各活性化合物の約0.1〜1000mg(ならびにその中の範囲および特定の濃度のすべての組み合わせおよび下位の組み合わせ)を含むように調製し得る。
【0080】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどは、また、以下の1つ以上のものを含んでもよい:結合剤(例えば、トラガカント、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなど);賦形剤(例えば、リン酸ニカルシウムなど);崩壊剤(例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムなど);甘味剤(例えば、スクロース、ラクトースまたはサッカリンなど);または風味剤(例えば、ペパーミント、冬緑樹油またはサクランボ香料)が含まれる。投薬単位形態がカプセルの場合、前記種類の材料に加えて、液体の担体を含む場合がある。コーティング剤として様々の他の材料が存在してもよく。例えば、錠剤、ピル、またはカプセルは、シェラック、砂糖、またはその両方を用いてコーティングされてもよい。シロップまたはエリキシルには、活性化合物、甘味剤としてスクロース、保存剤としてメチルおよびプロピルパラベン、色素および風味剤として、サクランボまたはオレンジ香料が含まれてよい。もちろん、任意の投薬単位形態の調製に使われる任意の材料は、使用される量において、好ましくは、医薬的に純粋であり、また実質的に非毒性である。
【0081】
(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、また、非経口または腹腔内投与用に製剤化されてもよい。活性化合物の遊離塩基または薬理学的に許容される塩の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を適度に混合した水中で製造することができる。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で、および油中で調製することができる。貯蔵および使用の通常の条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するために保存剤を含有してもよい。
【0082】
注射による投与に適した組成物としては、例えば、滅菌水溶液または分散液;および滅菌注射可能な溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。あらゆる場合において、その形態は、好ましくは、滅菌され、容易な注射可能性を生ずる液体である。それは、好ましくは、製造および貯蔵条件下で安定であり、微生物、例えば、細菌およびカビの汚染作用に対して、好ましくは、防腐される。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および植物油を含有する溶剤または分散媒体であってよい。その適度な流動性は、例えば、塗膜、例として、レシチンの使用により、分散液の場合において要求される粒度の維持により、および、界面活性剤の使用により、維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗カビ剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって達成される。多くの場合、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続した吸収は、吸収遅延薬剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンの使用によって達成することができる。
【0083】
滅菌注射用液は、必要とされる場合、要求量の活性化合物を上記列挙した種々の他の成分とともに適切な溶剤に配合し、続いて、滅菌濾過することによって調製することができる。概して、分散剤は、基材分散媒体と上記列挙したものから必要とされるその他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に滅菌された活性成分を配合することによって調製することができる。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、調製の好ましい方法は、活性成分の粉末に加えて、先に滅菌濾過したその溶液からの所望されるさらなる成分を生成する減圧乾燥および凍結乾燥技術を含んでもよい。
【0084】
8.6 有効用量
本明細書で記述されるように、(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物は、通常、治療有効量で投与されるであろう。投与される化合物または組成物の量は、さまざまな要因、例えば、治療される特定の適応症、投与様式、望ましい利益が予防的または治療的であるかどうかの点、治療される適応症の重症度、および患者の年齢や体重、特定の活性化合物の生物学的利用能、その他に依存するであろう。有効用量の決定は、当業者能力の十分な範囲内である。
【0085】
投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となるが、期待される用量は、約5mg/日〜約500mg/日であり、他の要因の中でも、治療される特定の疾患または適応症、化合物および/または組成物の活性、その生物学的利用能、投与様式および上で議論した様々な要因に依存して、それより高くても、低くてもよい。投薬用量と間隔は、治療または予防効果を維持するのに十分な化合物および/または組成物の血漿レベルを提供するために個々に調整されてもよい。非限定的な例として、化合物および/または組成物は、1日に1回または1日に複数回、とりわけ、投与様式、治療される特定の適応症および処方する医師の判断に依存して投与され得る。局所外用投与など局所投与や選択的摂取の場合は、活性化合物および/または組成物の有効な局所濃度は、血漿濃度とは関連しないかもしれない。当業者は、不当な実験なしで有効な局所用量を最適化することができるであろう。
【0086】
疼痛の治療に有用な(−)−E−10−OH−NT化合物および/または組成物の初回用量は、実施例の部で記述される動物モデルなどのインビボのデータから推定することができる。その上、初回用量は、当該分野で利用できるいろいろな障害の治療についてのATおよびNTの有効用量に関するデータから推定することが可能である。参照:例えば、Bryson & Wilde,1996(慢性疼痛の治療に対して、ATの10〜25mg/日の開始量から、最大推定用量75mg/日または耐用量に10〜25mg/週で増量したことを報告している);およびラセミ体(±)−E−10−OH−NT、ならびにラセミ体(±)−E−10−OH−NT、ATおよび/またはNT投与後のその分離された鏡像異性体の薬物動態学的および薬力学的特性に関して当該分野で入手可能なデータ(Dahl−Puustinenら,1989(ラセミ体(±)−10−OH−NTを単剤の75mg経口用量で投与したのちに分離された鏡像異性体についての平均AUCを報告している);Bertilssonら,1986(10から100mgの範囲の用量で投与後のE−10−OH−NTの薬物動態学的特性を報告している);Edelbroekら,1986(ATを75mg投与後のE−10−OH−NTの定常状態濃度を報告している))。
【0087】
実施例5、6および15〜21に記載された動物モデルに基づいて、ヒトでの疼痛治療に対する(−)−E−10−OH−NTの有効用量は、ラットに30mg/kg(i.p.)の投与後に達成される血漿濃度に類似した血漿濃度を達成するのに十分な(−)−E−10−OH−NTの用量を投与することによって得ることが可能であると考えられる。そのように、いくつかの実施形態では、疼痛治療のための(−)−E−OH−NTの有効用量は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)をラットに投与した場合に達成される血漿濃度を達成するのに必要な用量である。
【0088】
疼痛治療のための(−)−E−OH−NTの投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となり、期待される用量は、約5mg/日から約500mg/日であるが、それより高くても、低くてもよい。約10mg/日から約20または25または30または35または40または45または50または60または70または80または90または95または100または150または200または250または300mg/日の(−)−E−10−OH−NTの経口用量は、疼痛を治療するのに有効であると考えられる。したがって、いくつかの実施形態は、約10mg/日〜約100mg/日の範囲で、(−)−E−10−OH−NTの経口用量の投与を含む。
【0089】
実施例21で記述される強制水泳の動物モデル試験に基づいて、ヒトのうつ病の治療のための(−)−E−10−OH−NTの有効用量は、ラットに30mg/kg(i.p.)の投与後に達成される血漿濃度に類似した血漿濃度を達成するのに十分な(−)−E−10−OH−NTの用量を投与することによって得ることが可能であると考えられる。そのように、いくつかの実施形態では、うつ病治療のための(−)−E−OH−NTの有効用量は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)をラットに投与した場合に達成される血漿濃度を達成するのに必要な用量である。
【0090】
うつ病治療のための(−)−E−OH−NTの投薬用量は、一般的に、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日から約0.1または1.0または2.0または2.5または5.0または10.0または20.0または25.0または50.0または75.0または100mg/kg/日の範囲内となるであろうが、期待される用量は、約5mg/日から約500mg/日であるが、それより高くても、低くてもよい。約10mg/日から約20または25または30または35または40または45または50または60または70または80または90または95または100または150または200または250または300mg/日の(−)−E−10−OH−NTの経口用量は、うつ病を治療するのに有効であると考えられる。したがって、いくつかの実施形態は、約10mg/日〜約100mg/日の範囲で、(−)−E−10−OH−NTの経口用量の投与を含む。
【0091】
さらに、E−10−OH−NTとその鏡像異性体の薬物動態学的特性の先の報告に基づいて、うつ病は、約140nMと約220nMの間でのE−10−OH−NTの鏡像異性体の血漿レベルで治療することができると考えられる。(−)−E−10−OH−NTの報告された薬物動態学的特性に基づいて、うつ病は、約140nMと220nMの間での(−)−E−10−OH−NTの血漿レベルで治療することができると考えられ、こうした血漿レベルは、約30mg/日から約35または40または45または50または55または60または65または70または75または80または85または90または95または100または150または200または250または300mg/日の範囲で投与することによって達成することができる。したがって、特定の実施形態は、約140nM〜220nMの間での血漿レベルを達成するのに必要な1日用量での(−)−E−10−OH−NTの投与を含む。他の実施形態では、(−)−E−10−OH−NTの用量は、約30mg/日〜約100mg/日である。
【0092】
併用療法に関しては、合剤の適切な用量は、(−)−E−10−OH−NTに対する上記の開示された用量および特定の適応症に対する古くからある評価基準に基づいて、当業者によって容易に確かめることができるであろう。一般的な指針として、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の薬剤が、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物と併用される場合は、一般的に、用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約0.01〜約100mg/kg/日の範囲であり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.001〜約100mg/kg/日の範囲となる。特定の実施形態では、用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約0.1〜約10mg/kg/日の範囲であり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.01〜約10mg/kg/日の範囲であり、そして、他の実施形態では、1日用量は、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の活性化合物の約1.0mgであり、そして、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.1mgである。あるいはまた、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物が、カンナビノイド化合物(例えば、Δ9−テトラヒドロカンナビノールまたはカンナビジオール)、オピオイド化合物(例えば、モルヒネ)および/または他の薬剤と配合され、そして、その合剤が経口で投与される場合は、用量は、一般的に、カンナビノイド、オピオイドおよび/または他の薬剤の約15〜約200mg/kgの範囲であり、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物の約0.1〜約4mgである。
【0093】
8.7 (−)−E−10−OH−NTの有益な特性
本明細書で議論された不都合な副作用の結果、ATおよびNTは、うつ病または疼痛のための一次療法としては、もはや使用されない。驚くべきことに、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物は、不都合な副作用をかなり減少させた。
【0094】
例えば、数十年の間、(1)H1ヒスタミン受容体に対して高い親和性を有する中枢神経系に活性のある薬物は、体重増加を誘発することがある、(2)いくつかの抗精神病薬は、強力なH1ヒスタミン受容体拮抗薬である、(3)抗精神病薬は、体重増加を誘発することがあることが知られている。興味深いことに、高いH1ヒスタミン受容体への親和性を有する他の精神活性化合物、例えば、AT(Altamuraら,1989)は、著しい体重増加に関係している。オランザピンやクロザピンなどの非定型的抗精神病薬のみならず、ATやミルタザピンなどのそれぞれ3環系および4環系の抗うつ薬は、強力なH1ヒスタミン拮抗剤であるが、体重増加を誘発する高い傾向があることが示された(Wirshing、1999)。その上、H1ヒスタミン拮抗作用で媒介される体重増加は、主に過度の食欲の結果、3環系抗うつ薬での短期間および長期間の治療による一般的な、周知の副作用として記載されている(Richelson,2001;Khawamら,2006;Deshmukhら,2003)。H1ヒスタミン拮抗作用が、体重増加を誘発するかもしれないメカニズムは、先の研究によりH1ヒスタミン受容体拮抗作用が、げっ歯類の摂食を増加させるのに対して、H2ヒスタミン拮抗作用は、増加させないことが証明されたが、現在のところ不明である(Sakataら,1988;Fukagawaら,1989)。さらに、神経系ヒスタミンの減少は、摂食を増加させる(Menonら,1971;Sakaiら,1995)。最後に、H1ノックアウトマウスは、レプチンの食欲不振の作用に比較的抵抗して、高脂肪食で肥満になる傾向がある(Masakiら,2001a,Masakiら,2001b)。合わせて考えると、これらの結果は、H1ヒスタミン受容体が、レプチン依存性メカニズムによって摂食行動を調整することを意味する。Kroezeおよび協力者(Kroezeら,2003)による研究は、多数の定型および非定型抗精神病薬を調べて、H1ヒスタミン受容体親和性が短期間の体重増加と有意に相関していることを証明した。これらの結果は、比較的に高いH1ヒスタミン受容体親和性を有する抗精神病薬は、短期間の体重増加を誘発しやすいことを意味する。
【0095】
実施例7で詳細に説明されるように、全く予想外なことに、それぞれ、H1ヒスタミン受容体に対する(−)−E−OH−NTの親和性は、ATとNTのH1ヒスタミン受容体親和性と比較すると、220倍および40倍それぞれ低下した。これらのインビトロでの結果に基づいて、(−)−E−OH−NTは、ATおよびNTよりも、少ない体重増加をもたらすと予想される。
【0096】
H1ヒスタミン受容体に対する(−)−E−10−OH−NTの親和性に基づいて、本明細書で記述されるE−10−OH−NT組成物での治療は、ATおよびNTよりも、さらに弱い鎮静作用をもたらすと予想される。実際、実施例8で詳細に説明されるように、薬物の鎮静効果を評価するために一般に使用されているラット回転棒アッセイを用いて、回転棒行動に関するAT(30mg/kg、i.p.)およびNT(30mg/kg、i.p.)の効果の大きさは、同様であり、30分でのピーク欠陥は、それぞれ51±20%および60±14%であった。しかし、回転棒行動での減退は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)では観察されなかった。これらの結果は、実施例17で確認された。これらのデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ATまたはNTより、鎮静作用がかなり弱いことを証明している。
【0097】
(−)−E−10−OH−NTのさらに有利な性質は、重要な薬物代謝酵素のその減少した阻害である。薬物の代謝変換は、一般に酵素による。検討されたすべての組織は、いくらかの代謝活性を有するが、薬物の生体内変換に関係する酵素系は、主として肝臓に局在する。薬物の非経口ではない投与に続いて、用量のかなりの部分は、体循環に達する前に、肝臓または腸のどちらかで代謝されて不活性化する可能性がある。この初回通過代謝は、高度に代謝された薬物の経口による生物学的利用能を著しく制限する(Benetら,1995)。シトクロムP450酵素ファミリーは、薬物の生体内変換反応の主な触媒である。酵素のこのスーパーファミリーは、多種多様な酸化反応および還元反応を触媒し、基質の化学的に多様なグループに対する活性を有する。重要なシトクロムP450酵素は、CYP2D6およびCYP2C19を含む。多形性のため、または阻害により、これらの酵素の活性の変更は、望ましくない臨床結果をもたらす(参照:Ingelman−Sundbergら,1999)。
【0098】
実施例10で詳細に説明されるように、ATおよびNTの両方は、CYP2D6とCYP2C19を阻害し、実際、これらの薬剤は、こうした酵素で代謝される薬物との使用に対して禁忌である。しかし、驚くべきことに、CYP2D6もCYP2C19も、(−)−E−10−OH−NTで阻害されなかった(参照:実施例10)。したがって、ATおよびNTと比べて、(−)−E−10−OH−NTは、生じる望ましくない臨床結果が少ないことが予想され、これらのシトクロムP450アイソエンザイムによって代謝される薬物と効果的に併用でき、ATまたはNT療法との使用に対して禁忌であった。
【0099】
(−)−E−10−OH−NTの使用のもう1つの利点は、ムスカリン受容体に対するその減少した親和性に起因する。ラセミの(±)−E−10−OH−NTの減少したムスカリン親和性が、当該分野で報告されているが、一般的なムスカリン受容体または特定のムスカリン受容体サブタイプに対するその(−)鏡像異性体の親和性については報告されていない。インビトロでのムスカリン受容体に対するE−10−OH−NTの親和性は、これらの受容体に対するNTの親和性のわずか18分の1であった(Nilvebrantら.1991;Waegnerら,1984)。健康な個体において、NTは、E−10−OH−NTまたはプラセボのいずれかよりも、唾液流量を有意に大幅に減少させた(Nordinら,1987a)。その上、NTの非常に高用量で処置されたNTの超迅速ヒドロキシレータにおいて、抱合されていない10−OH−NTの血漿濃度は、抗コリン作用性副作用のどんな徴候を示すことなく、非常に高かった。これらの結果は、10−OH−NT代謝物が、ATおよびNTよりも、はるかに少ない抗コリン作用を有することを示す。これらの結果と一致して、実施例12で詳細に説明されるデータは、(−)−E−10−OH−NTが、ムスカリン受容体の4つのクラス、M1、M2、M3、M4に対して、ATまたはNTよりも、より弱い親和性を有することを証明した。
【0100】
ATおよびNTに対する(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点は、胃腸管(GI)輸送(参照:実施例13)に関するその減少した効果である。多数のシグナル伝達機構(腸管神経系内の様々な神経伝達物質によって媒介される)は、胃腸機能の生理的制御において大きな役割を果たすのが知られている。マウス胃腸管輸送(GIT)アッセイは、選択された化合物の潜在的GI傾向の前臨床マーカーとして使われる。実施例13で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりGITの著しく低い阻害を示した。
【0101】
ATおよびNTの使用は、不整脈を含む心毒性と関係している。心臓K+チャネル(Ikr)のブロッキングは、薬物−誘発性QT延長症候群(LQT)と関連があり、それは多形性心室性頻拍(命を脅かす型の不整脈)をもたらし、その後の心室細動に至ることがある(参照:Pearlsteinら,2003)。3環系抗うつ薬(TCAs)によるQT延長と関連する不整脈の危険性は、迅速遅延整流電流−hERGを媒介するクローン化α−サブユニットにより運ばれた生体心臓遅延整流(K+)チャネルおよび電流の薬理学的阻害と細胞レベルで一致する。実施例11で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点は、hERGチャネルにおいてATやNTよりも、かなり低い活性を有するということである。この結果に基づいて、(−)−E−10−OH−NTを利用する治療は、ATとNTと比較して、QT延長、多形性心室性頻拍および他の不整脈関連副作用の危険性を減少させると期待される。
【0102】
3環系抗うつ薬は、α1アドレナリン受容体の相互作用による血圧降下も生じさせる。α1アドレナリン受容体の遮断は、それはドキセピン、ネファゾドン、AT、およびクロミプラミンで顕著に起こるが、起立性低血圧、めまいおよび反射性頻脈の原因となる(Hamon & Bourgoin,2006)。実施例9で詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTの利点は、ATやNTに比べて、α1aおよびα1aアドレナリン受容体における親和性が弱いことである。これらのインビトロのデータに基づいて、(−)−E−10−OH−NTは、起立性低血圧、めまいおよび反射性頻脈を発生させそうにないと予想される。
【0103】
(−)−E−10−OH−NTのさらなる利点特性は、α2アドレナリン受容体に対するその低い親和性に起因する(参照:実施例9)。α2アドレナリン受容体アゴニストが無痛覚をもたらすことはよく証明されている(Ongiocoら,2000;Asanoら,2000;Hallら,2001)。α2アドレナリン受容体介在の抗侵害受容性を逆にするα2アドレナリン受容体拮抗剤の能力もまた、よく知られている(Kalsoら,1991;Millan and Colpaert,1991;Pertovaaraら,1990)。α2アドレナリン受容体拮抗剤RX821002([2−(2−メトキシ−1,−4−ベンゾジオキサン−2−イル)−2−イミダゾリン])は、最大3mg/kgの用量で皮下的に単独投与された場合、酢酸誘発性の腹部収縮(疼痛アッセイ)の有意な阻害を起こさなかった。同じ実験条件の下で、他方では、α2アドレナリン受容体アゴニストであるクロニジンは、0.01〜1.0mg/kg(s.c.)の範囲に渡り、また最大用量レベルで、腹部収縮の用量依存性阻害をもたらし、それは腹部収縮応答を全く無効とし、したがって、発痛刺激に対して100%の保護を与えた。その上、0.3および1.0mg/kgでクロニジンによって誘導される抗侵害受容性効果は、RX821002(1mg/kg)の同時皮下投与により著しく弱められたが、このことは、この試験におけるクロニジン応答は、α2アドレナリン受容体が関与したことを強調するものである(Grayら,1999)。
【0104】
疼痛応答におけるα2アドレナリン受容体拮抗剤の効果の結果は、しかし、非常に変わりやすいものであった。種々の疼痛試験でのα2アドレナリン受容体拮抗剤誘発作用における変わりやすさへの1つの説明は、これらの薬物が他の受容体タイプを介してそれらの挙動効果のいくつかを媒介する可能性があるという事実である(Dennisら,1980;Virtanenら,1989)。例えば、Kauppilaと協力者(Kauppilaら,1998)による結果は、α2アドレナリン受容体拮抗剤のアチパメゾールの疼痛行動に関する効果が、いくつかの実験的なパラメータに従い促進から抑制の間で変化することを示す。これらの報告から、α2アドレナリン受容体における拮抗性は、鎮痛活性のために必要であるようには見えない。
【0105】
実施例9でさらに詳細に説明されるように、(−)−E−10−OH−NTは、アドレナリン受容体α2a、α2b、およびα2cに対して、ATおよびNTよりも、著しく弱い親和性を示す。このデータに基づいて、(−)−E−10−OH−NTは、潜在的副作用に関してATおよび/またはNTより優れていると予想される:(−)−E−10−OH−NTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用で相殺されない可能性があるのに対して、ATおよびNTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用で減少する可能性がある。
【0106】
8.8 キット
本明細書に記述される(−)−E−10−OH−NT化合物および/またはその医薬塩類は、キットの形態で組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、キットは、投与するための組成物を調製するための化合物(複数可)および試薬を提供する。組成物は、乾燥形態または凍結乾燥形態、あるいは溶液、特に滅菌溶液であってよい。組成物が乾燥形態の場合は、試薬は液体製剤を調製するための医薬的に許容される希釈剤を含むことができる。キットは、組成物を投与するための、あるいは調剤するための、限定されるものではないが、注射器、ピペット、経皮パッチまたは吸入器を含む装置を含んでもよい。
【0107】
キットは、本明細書に記述される化合物とともに使用するために他の治療剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、治療剤は、別々の形態で提供されるか、本明細書に記述される化合物と混合される。
【0108】
キットは、組成物の調製および投与、組成物の副作用、ならびに任意の他の関連情報に関する適切な指示書を含む。指示書は、任意の適切なフォーマットで、印刷物、ビデオテープ、コンピュータ読み取り可能ディスク、または光ディスクを含むが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0109】
9.実施例
以下の実施例は、例示的であり、限定することを意図するものではないが、本明細書に記述される様々なE−10−OH−NT組成物および方法の様々な特徴と利点を強調する。
【0110】
実施例1:(+)−E−10−OH−NTのキラル特異的合成
図1Aを参照して、鏡像異性体的に純粋な(+)−E−10−OH−NTが、以下のように合成された。
【0111】
化合物2の合成
臭素(35.0mL、679mmol、1.40当量)の4塩化炭素(200mL)中の溶液を、5−オキソ−10,11−ジヒドロ−ジベンゾ[a,b]シクロヘプタン(化合物1;100.0g、485mmol、1.00当量)と4塩化炭素(400mL)との攪拌混合溶液に室温で滴下して加えた。さらに200mLの4塩化炭素を加えて攪拌を促進し、混合物を室温で90分間、攪拌した。
【0112】
混合物を濾過し、4塩化炭素(200mL)で濯ぎ、乾燥して褐色の固体170g(90%収率)を得た。この固体(170g、464mmol、1.00当量)を水酸化ナトリウム(55.7g、1.39mol、3.00当量)と混合し、混合物を2時間メタノール(2L)中で還流した。その熱い溶液を濾過し、固体をジクロロメタン(400mL)に溶解し、水(300mL)と塩水(200mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、乾燥して淡いオレンジ色の固体96.24gを得た。ろ液は、一晩、室温に冷却放置してさらに生成物を析出させた。固体を濾過して淡いオレンジ色の結晶22.2gを得た。合計収率:88%。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.16(d,1H),7.93(m,2H),7.79(s,1H),7.68−7.51(m,4H),7.44(d,1H)。
【0113】
化合物3の合成
カリウムt−ブトキシド(62.7g、559mmol、1.40当量)を、化合物2(114g、400mmol、1.00当量)とピペリジン(79.1ml、800mmol、2.00当量)の混合物に、tブタノール(900ml)中で加えた。混合物を60分間還流し、室温に冷却し、殆ど乾固するまで減圧濃縮した。粗製生成物を酢酸エチル(400ml)に溶解し、得られた有機混合物を水(300ml)と塩水(200ml)で洗浄した。有機層を濃縮し、得られた粗製の油をメタノール(500mL)中で攪拌して黄色の固体を沈殿させ、これを濾過し、乾燥して所望の生成物63.6g(収率55%)を得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.08(dd,1H),7.87(dd,1H),7.82(dd,1H),7.58(dt,1H),7.52−7.45(m,2H),7.41(m,1H),7.33(dt,1H),6.38(s,1H),2.89(brs,4H),1.74(m,4H),1.61(brm,2H);質量分析m/z=290.1(M+H)+。
【0114】
化合物4の合成
臭化シクロプロピルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(THF中0.50M、531mL、266mmol、1.21当量)を、テトラヒドロフラン(100mL)に溶解した化合物3(63.6g、220mmol、1.00当量)の冷却(氷/水浴)溶液に、窒素下、滴下して加えた。反応混合物を室温で1時間攪拌した。臭化シクロプロピルマグネシウム(THF中0.50M、100mL、50mmol、0.23当量)の追加分を加え、さらに1時間攪拌して反応させた。反応混合物を殆ど乾固するまで濃縮し、ジクロロメタン(600mL)で希釈し、水(800mL)と塩水(300mL)で洗浄した。有機層を濃縮し、乾燥して黄色−オレンジ色の粘着性の油70.1g(96%収率)を得た。粗製の生成物は、さらに精製することなく次の工程で使用された。質量分析 m/z=332.2(M+H)+。
【0115】
化合物5と6の混合物の合成
5−[3−ブロモ−プロピリデン]−5,11−ジヒドロ−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン−10−オンのZ−およびE−幾何異性体(それぞれ、化合物5および6)は、化合物4(70.0g、211mmol、1.00当量)の溶液を48%臭化水素酸水溶液(250mL)と酢酸(250mL)中で16時間還流することにより製造された。反応混合物を室温に冷却し、水(200mL)で希釈し、ジエチルエーテル(合計500mL)で3回抽出した。有機層を合わせ、大きなビーカー中で攪拌し、飽和重炭酸ナトリウム(300mL)を泡の発生が止むまで慎重に加えた。層を分離し、有機層を飽和重炭酸ナトリウム(200mL)と塩水(150mL)で洗浄し、濃縮して粗製の半固体を得た。粗製の生成物をシリカ上で処理する前に、不溶性の褐色固体11gを濾過してE−(化合物6)およびZ−(化合物5)幾何異性体(1H NMRによる化合物6/化合物5=87/13の比率)の混合物を得た。濾液を5〜10%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いてシリカゲルプラグにより精製し、精製された生成物を10%酢酸エチル/ヘキサンで粉末化して、幾何異性体5および6(6/5=55/45;1H NMRによる)の混合物に相当する褐色の固体19gを得た。異性体のこの混合物を1:1のベンゼン:ヘキサンで再結晶して純粋な化合物6の8.6g、76%を得た。次に、この物質を幾何異性体5および6(6/5=87/13;1H NMRによる)の先に分離した混合物(11g)と混合し、1:1のベンゼン:ヘキサンで結晶化して、幾何異性体5および6(6/5=91/9;1H NMRによる)の混合物に相当する淡いオレンジ色の固体12.7gを得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.11(dd,1H),7.50(m,2H),7.36(m,2H),7.24(m,3H),6.17(m,1H),4.48(d,1H),3.78(d,1H),3.47(m,2H),2.86−2.66(m,2H)。
【0116】
(+)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン、化合物(+)−7の合成
化合物6(2.00g、6.11mmol、1.00当量)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液を、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.326mL、3.67mmol、0.60当量)および(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.02g、3.67mmol、0.60当量)のテトラヒドロフラン(75mL)溶液に−20℃(ドライアイス/アセトニトリル浴)で滴下して加えた。反応は、90分間、−20℃で攪拌して行い、次いで室温で45分間攪拌した。ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.326mL、3.67mmol、0.60当量)と(7αR)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.02g、3.67mmol、0.60当量)の追加分を加え、さらに30分間、室温で攪拌して反応を行なった。反応混合物を氷/水浴中で0℃に冷却し、メタノール(15mL)を滴下して加えた。混合物を30分間、室温で攪拌し、再び0℃に冷却し、飽和重炭酸ナトリウム(20mL)を加えた。混合物を室温で30分間攪拌し、濃縮し、ジクロロメタン(75mL)と水(50mL)に分配した。有機層を濃縮し、粗製の生成物を10〜30%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製してオフホワイト色の半固体950mgを47%の収率で得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 7.50−7.10(m,8H),6.00−5.84(m,1H),5.09(brm,2/3H),4.85(brm,1/3H),3.65−3.43(m,3H),3.05(m,1H),2.78−2.62(m,2H),1.64(d,1H)。
【0117】
(+)−E−10−OH−NT、化合物(+)−8の合成
(+)−E−10−OH−NTは、(+)−7(0.95g、2.6mmol、1.00当量)とメチルアミン(水中40重量%、7.00mL、81mmol、31当量)の溶液をアセトニトリル(10mL)中で60℃、16時間、耐圧容器中で加熱することによって合成された。反応物を殆ど乾固するまで濃縮し、5〜9%メタノール/クロロホルム勾配(+1%水酸化アンモニウム)を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製して淡いオレンジ色の泡状物650mgを90%の収率で得た。いくらかのZ−異性体、すなわち(+)−Z−10−OH−NTが存在したので、不純な遊離塩基(650mg、2.33mmol、1.00当量)をアセトニトリルに溶解し、濾過して任意の不溶性粒子を除去した。濾液を濃縮し、アセトニトリル(15mL)に溶解し、マレイン酸(324mg、2.79mmol、1.20当量)を加えた。混合物を30分間攪拌し、固体を析出させた。混合物を濃縮し、乾燥し、イソプロパノール(100mL)から再結晶して535mgの白色の結晶性固体、つまり(+)−E−10−OH−NTをマレイン酸塩として得た。1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ 8.29(brs,2H),7.50−7.12(m,8H),6.02(s,2H),5.90(brm,1/3H),5.71(brm,2/3H),5.31(brs,1/3H),5.08(brs,1/3H),4.60(brs,1/3H),3.36(m,1H),3.06−2.86(brm,3H),2.52(d,3H),2.36(brm,2H)。質量分析m/z=280.1(M+H)+。キラルLC分析:99.4%キラル純度。カラム:Chromtech CHIRAL−AGP 150x4.0mm,5μ。流量:1.0mL/分。移動相:80% 20mMリン酸ナトリウム pH 6.0,20% IPA。検出器:240nmでのUV。ピーク保持時間:ピーク1[(+)−E−10−OH−NT]=5.4分。ピーク2[(−)−E−10−OH−NT]=7.3分。元素分析:C19H21NO.C4H4O4.理論値:%C 69.86;%H 6.37;%N 3.54。実測値:%C 69.91;%H 6.43;%N 3.61。[α]D23.3=+27.79(c.10.1mg/mL,MeOH).m.p.=180.5−182.0°C。
【0118】
実施例2:(−)−E−10−OH−NTのキラル特異的合成
図1Aを参照して、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTが、以下のように合成された。
【0119】
(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン、化合物(−)−7の合成
化合物6(2.50g、7.64mmol、1.00当量)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液を、ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.455mL、5.12mmol、0.67当量)および(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.42g、5.12mmol、0.67当量)のテトラヒドロフラン(75mL)溶液に−20℃(ドライアイス/アセトニトリル浴)で滴下して加えた。反応は、60分間、−20℃で攪拌して行い、次いで室温で2時間攪拌した。ボラン−ジメチルスルフィド錯体(0.455mL、5.12mmol、0.67当量)と(7αS)−3−メチル−1,1−ジフェニルパーヒドロ−3−ボラ−2−オキサピロリジン(1.42g、5.12mmol、0.67当量)の追加分を加え、さらに30分間、室温で攪拌して反応を行なった。反応混合物を氷/水浴中で0℃に冷却し、メタノール(15ml)を滴下して加えた。混合物を30分間、室温で攪拌し、再び0℃に冷却し、飽和重炭酸ナトリウム(20mL)を加えた。混合物を室温で30分間攪拌し、濃縮し、ジクロロメタン(75mL)と水(50mL)に分配した。有機層を濃縮し、粗製の生成物を10〜30%酢酸エチル/ヘキサン勾配を用いるフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製してオフホワイト色の粘着性泡状物2.45gを97%の収率で得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 7.50−7.10(m,8H),6.00−5.84(m,1H),5.09(brm,2/3H),4.85(brm,1/3H),3.65−3.43(m,3H),3.05(m,1H),2.78−2.62(m,2H),1.64(d,1H)。
【0120】
(−)−E−10−OH−NT、化合物(−)−8の合成
(−)−E−10−OH−NTは、(−)−7(2.45g、6.7mmol、1.00当量)とメチルアミン(水中40重量%、25.0mL、290mmol、43当量)の溶液をアセトニトリル(35mL)中で60℃、5時間、耐圧容器中で加熱することによって合成された。反応物を濃縮し、5〜9%メタノール/クロロホルム勾配(+1%水酸化アンモニウム)を用いるシリカゲルプラグにより精製した。いくらかのZ−異性体、すなわち、(−)−Z−10−OH−NTが存在したので、不純な遊離塩基をジクロロメタンに溶解し、濾過して、任意の不溶性粒子を除去し、濃縮し、乾燥して淡い黄色の泡状物1.9gを定量的に得た。遊離塩基(1.37g、4.9mmol、1.00当量)をアセトニトリル(40mL)に溶解し、マレイン酸(0.654g、5.64mmol、1.15当量)を加えた。混合物を60分間攪拌し、固体を析出させた。混合物を濃縮し、乾燥し、イソプロパノール(70mL)から再結晶して、(−)−E−10−OH−NTの淡いオレンジ色の針状晶820mgをマレイン酸塩として得た。1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ 8.29(brs,2H),7.50−7.12(m,8H),6.02(s,2H),5.90(brm,1/3H),5.71(brs,2/3H),5.31(brs,1/3H),5.08(brs,1/3H),4.60(brs,1/3H),3.36(m,1H),3.06−2.86(brm,3H),2.52(d,3H),2.36(brm, 2H).質量分析 m/z=280.1(M+H)+。キラルLC分析:98.6%キラル純度。カラム:Chromtech CHIRAL−AGP 150×4.0mm,5μ。流量:1.0mL/分。移動相:80% 20mMのリン酸ナトリウム pH6.0、20%IPA。検出器:240nmでのUV。ピーク保持時間:ピーク1[(+)−E−10−OH−NT]=6.1分。ピーク2[(−)−E−10−OH−NT]=8.6分。元素分析:C19H21NOC4H4O4、理論値:C 69.86%;H 6.37%;N 3.54%、実測値:C 69.53%;H 6.44%;N 3.57%。[α]D23.4=−24.12(c 10.7mg/mL、メタノール)。融点=177.5−179.0℃.
実施例3:(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩は、(−)−E−10−OH−NTマレイン酸塩と比べて、改善された性質を有する。
【0121】
(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩の調製
(−)−E−10−OH−NTのコハク酸塩は、(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩は、9.15gの(−)−8(遊離塩基、88.6%のE異性体、11.4%のZ異性体)をイソプロパノール(40mL)に溶解し、コハク酸(4.25g、1.10当量)のイソプロパノール(90mL)溶液を加えることによって製造された。少量の生成物が2日後に溶液から結晶化し、混合物を20mL混合物に濃縮し、得られた固体を濾過して、(−)−E−10−OH−NTコハク酸塩11gを得たが、これは94%のE異性体と6%のZ異性体であった。固体をアセトニトリル(400mLと300mL)から、2回再結晶して淡いオレンジ色の結晶6.78g(99.2%のE異性体、0.8%のZ異性体)を得た。得られたコハク酸塩は、事実上、結晶質であり、非吸湿性であり、生理食塩水中で、マレイン酸塩(4.4mg/ml)より高い溶解度(18mg/ml)を有する。
【0122】
実施例4:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ノルエピネフリン再取込みの強力な選択的阻害剤である。
【0123】
プロトコル
ノルエピネフリン(NE)輸送体、セロトニン(5HT)輸送体およびドーパミン(DA)輸送体に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの結合親和性は、放射能標識されたリガンドを用いる競合的結合アッセイで測定された。NE輸送体結合アッセイのために、[3H]ニソキセチン(1.0nM)は、いろいろな濃度の試験化合物と共に、クローン化ヒトNE輸送体(hNET)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)細胞から調製された膜を用いて、4℃で2時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMのデシプラミンの存在下で起きた結合の量と定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0124】
5HT輸送体結合アッセイのために、[3H]イミプラミン(2.0nM)は、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、ヒトセロトニン輸送体(hSERT)を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜を用いて、22℃で1時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μMイミプラミン圧で起きた結合の量と定義された。いろいろな試験化合物に対するKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0125】
DA輸送体結合アッセイのために、([3H]N−[1−(2−ベンゾ[b]チオフェニル)シクロヘキシル]−ピペリジン([3H]BTCP)(4.0nM)は、クローン化ヒトドーパミン輸送体(hDAT)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜を用いて4℃で2時間、インキュベーションされた。いろいろな濃度の試験化合物を加え、結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μM BTCPの存在下で起きた結合として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0126】
NE、5HTおよびDAの取り込みを阻害するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの能力もまた評価された。NE取り込みでのIC50値は、37℃で20分間インキュベーションした際の、[3H]−ノルエピネフリンのラット視床下部シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。5HTの取り込みにおけるIC50値は、37℃で15分間インキュベーションした際の、[3H]−5HTのラット脳シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。DAの取り込みにおけるIC50値は、37℃で15分間インキュベーションした際の、[3H]−DAのラット線条体シナプトソームへの取り込みの阻害を測定することにより決定された。
【0127】
結果
いろいろな輸送体に対する結合親和性は、下記の表1に示される。表1において、Ki値は、ナノモルで表わされる。パーセントは、10μM試験化合物で観察された結合のパーセント阻害である。
【0128】
取り込み阻害データは、下記の表2で報告される。表2において、IC50値は、ナノモルで表わされる。パーセントは、10μM試験化合物で観察された取り込みのパーセント阻害である。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
NE輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ同等であり、NTのそれとは約10倍の範囲内であった。類似した結果は、NE取り込みの阻害に関するIC50値についても観察された。NE取り込み阻害に関するIC50値は、ラセミのE−10−OH−NTについて先に報告されたものよりも低い(参照:Hyttel,1980;これは、マウス心房でのNE取り込みアッセイに対して130nMのIC50を報告した)。
【0132】
NE輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATのそれとほぼ同等であったが、NTの親和性のように、5HT輸送体に対する(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、ATの親和性よりも、著しく大きい。同様の結果は、5HT取り込みの阻害に関するIC50についても観察された。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTは、NTのように、NE輸送体対5HT輸送体に対して選択性を示す。
【0133】
実施例14で示されるように、ラセミの(±)−E−10−OH−NTはまた、(+)および(−)鏡像異性体のそれと略同等の効力の、NEと5HT輸送体に対する選択的親和性を示す。
【0134】
実施例5:(−)−E−10−OH−NTは、有効な抗痛覚過敏薬剤である。
【0135】
プロトコル
(−)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏の有効性は、侵害受容性炎症性疼痛のフロイント完全アジュバント誘発げっ歯類モデルで証明された。比較のために、ATは陽性対照として試験された。薬物は、30mg/kg、i.p.で投与された。滅菌水ビヒクルは、陰性対照として試験された。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。アッセイに関しては、DeHaven−Hudkinsら,1999の方法が、150μLフロイント完全アジュバント(FCA)の足底内投与の24時間後にラットで機械痛覚過敏を測定するのに用いられた。後肢耐圧閾値を測定するために、ラットは、ガーゼラップで軽く拘束され、そして、圧力は、加圧式無痛覚装置を用いて円錐ピストンで、炎症を起こしている後肢および起こしていない後肢の背側面に印加された(Stoelting Instruments,Wood Dale,IL)。後肢耐圧閾値は、250グラムのカットオフ値を使い、逃避反応を誘発するのに必要な力(グラムで)の量と定義された。後肢耐圧閾値は、薬物治療の前に、および薬物治療後の指定された時間に測定された。
【0136】
結果
結果は、図3に例示される。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)は、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに相当する強い抗痛覚過敏活性を示した。
【0137】
実施例6:(−)−E−10−OH−NTは、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療に有効である。
【0138】
プロトコル
アミトリプチリンの抗アロディニア活性と比較して、(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア活性は、LaBuda and Little,2005に記載されているように、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使って、インビボでも試験された。試験動物は、プレキシガラス室(10cm×20cm×25cm)に置き、15分間馴化させた。フォン・フレイ(von Frey)モノフィラメントが両方の後肢の底側面に提示することができるように、その部屋はメッシュスクリーン上に配置された。各後肢についての触覚感度の測定は、7つのフレイ・モノフィラメント(0.4、1、2、4、6、8および15グラム)でアップ/ダウン法(Dixon,1980)を使用して得られた。各試験は、約1〜2秒間、右後肢、次いで左後肢に加える2グラムのフォン・フレイ力で開始した。離脱反応がなかったならば、次のより高い力が加えられた。反応があったならば、次の低い力が加えられた。この手順は、最も高い力(15グラム)で反応がなくなるまで、あるいは、最初の反応の後、4つの刺激が施されるまで行われた。各々の試験群は、8匹の動物を含んだ。疑似手術対照群(それは手術されたが、神経結紮されなかった)は、4匹の動物を含んだ。全ての動物は、試験化合物の投与後、60分と240分に試験された。
【0139】
各々の肢に対する50%後肢離脱閾値は、以下の式を使用して計算された:[Xth]log=[vFr]log+ky(式中、[vFr]は、使用された最後のフォン・フレイ力であり、k=0.2249であり、これはフォン・フレイモノフィラメント間の平均間隔(log単位で)であり、yは、離脱反応のパターンに依存する値である(Dixon,1980)。動物が最も高いフォン・フレイ・モノフィラメント(15グラム)に反応しないときは、肢は18.23グラムの値に割り当てられた。触覚感度のための試験は2回実行され、そして、平均50%の離脱値が各々の動物の左右の肢に対する触覚感度として割り当てられた。
【0140】
結果
結果は、図4に例示される。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩として投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群(ビヒクル処置、L5 SNL ラット)に対して観測された活性よりも統計的に有意であり、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。
【0141】
実施例7:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、弱い親和性のH1ヒスタミン受容体と結合する。
【0142】
プロトコル
H1ヒスタミン受容体に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性は、競合的結合アッセイにより評価された。アッセイのために、[3H]ピリラミン(3nM)は、クローン化ヒトH1ヒスタミン受容体を異種的に発現するヒト胚腎臓(HEK−293)細胞から調製された膜を用いて、いろいろな濃度の試験化合物とともに22℃で1時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μM非標識ピリラミンの存在下で起きた結合の量として定義された。
【0143】
結果
結合試験は、(+)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTのH1ヒスタミン受容体親和性は、ATおよびNTのH1ヒスタミン受容体親和性に比べて、意外にも220倍および40倍それぞれ減少したことを示す。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATまたはNTより、鎮静作用がより弱く、体重増加は少ないであろうと予想される。
【0144】
実施例8:(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、インビボで鎮静作用が有意に弱い。
【0145】
プロトコル
ラット回転棒アッセイは、化学的薬物と関連した鎮静作用を評価するために一般的に用いられる。経時実験が、AT(30mg/kg、i.p.)、NT(30mg/kg、i.p.)および(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)を用いて実施された。回転棒は、恒常的な速度で動くように設定し、そして、ラットはその装置の個々の回転ドラム上に置かれた。一旦ネズミが所定位置についたら、タイマーはゼロにセットされ、そして、回転棒は、加速度的なモードに切り換えられた。回転棒は、5分間隔で、4から40rpmまで加速した。ネズミが回転ドラムから落ちたとき、タイマーは自動的に切れ、落下する潜時を秒単位で記録した。ラットは、薬剤投与の前に、少なくとも15分は間隔をあけた3つのトレーニングセッションを過した。行動得点は、各間隔の間、秒単位で記録された。ベースラインの回転棒行動得点は、3回目のトレーニングセッションで回転棒から落下する潜時であった。ベースラインは、ラットが実験に含まれるために、60秒以上の持続でなければならない。動物は、試験化合物の投与後、30分、60分および120分に試験された。
【0146】
結果
結果は、図2に示される。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩として投与された。NTおよびATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。回転棒行動におけるピーク欠陥は、ATまたはNTで処置されたラットでは、30分に観察された。回転棒行動におけるATおよびNTの効果の程度は、類似したものであり、それぞれ、51±20%と60±14%のピーク欠陥であった。際立って対照的に、行動減退は、(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)で処置されたラットでは観察されなかった。
【0147】
実施例9:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、α−アドレナリン受容体に対して低い親和性を有する。
【0148】
AT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのα1a、α1b、α2a、α2bおよびα2cアドレナリン受容体に対する親和性が試験された。α1aアドレナリン受容体に対する親和性は、ラット唾液腺から調製された膜を使って試験された。[3H]プラゾシン(0.06nM)は、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、その膜と22℃で1時間、インキュベーションされた。非特異的結合は、10μMフェントラミンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0149】
α1bアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]プラゾシン(0.15nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、10μMフェントラミンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0150】
α2aアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]RX821002(1.0nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0151】
α2bアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞(これは、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、[3H]RX821002(2.5nM)と22℃、1時間、インキュベーションされた)を用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0152】
α2cアドレナリン受容体に対する親和性は、クローン化されたヒト受容体を異種的に発現するCHO細胞とともに[3H]RX821002(2.0nM)とを、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、22℃、1時間、用いて試験された。非特異的結合は、100μM(−)−エピネフリンの存在下で測定された。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。
【0153】
結果
結果は、下記の表3に示される。表3において、Ki値は、ナノモルで表わされる。パーセンテージは、10μM試験化合物で観察された結合阻害のパーセントである。
【0154】
【表3】
【0155】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、列挙したすべてのアドレナリン受容体、特にα2受容体に対して、ATおよびNTより、著しく低い親和性を示す。したがって、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの鎮痛効果は、α2アドレナリン受容体との相互作用により相殺され得ないかもしれないが、一方、ATおよびNTの鎮痛応答は、α2アドレナリン受容体との相互作用により相殺され得ると、予想される。さらにまた、α1aとα1b受容体における、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NT間の親和性の違いは、(−)−E−10−OH−NTのプロファイルが(+)鏡像異性体より優れていることを示唆する。
【0156】
実施例10:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、シトクロムP450機能を阻害しない。
【0157】
プロトコル
シトクロムP450機能に関するATとNT、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTの阻害活性は、Chauretら,2001の方法を使用し、基質として7−メトキシ−4−(アミノメチル)−クマリン(MAMC)(Venhorstら,2000)を用いて試験された。酵素源は、BD Bioscienceから得られるヒト組み換え型CYP2D6を含むミクロソームであった。7−ヒドロキシ−4−(アミノメチル)クマリンへのMAMCの変換は、390nm励起フィルタと460mn蛍光フィルタを備えたPerkinElmer Fusionを使って測定された。
【0158】
CYP2C19活性は、基質としてジベンジルフルオレセイン(DBF)を使って測定された。酵素源は、BD Biosciences(San Jose,CA)から得られるヒト組み換え型CYP2C19を含むミクロソームであった。フルオレセインへのDBFの変換は、485nm励起フィルタと535mn蛍光フィルタを備えたPerkinElmer Fusionを使って測定された。
【0159】
結果
結果は下記の表4に示される。表4において、IC50値は、ナノモルの値であり、95%信頼限界は、括弧内に示される。パーセンテージは、10μM試験化合物で観察された%阻害を表す。報告された値は、6件の反復された実験の平均である。
【0160】
【表4】
【0161】
(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATやNTの両方よりも、多形シトクロムP450アイソエンザイムCYP2D6およびCYP2C19での阻害活性における著しい、予想外の減少を、驚くべきことに証明した。E−10−OH−NTの(+)および(−)鏡像異性体に対する阻害活性のこの減少は、ATおよびNTと比較した場合、望ましくない臨床結果を減らすことに繋がると期待され、そして、ATやNTとの使用が禁忌である薬物を服用している患者で(+)および(−)−E−10−OH−NTの使用を可能にすることが期待される。
【0162】
実施例11:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、hERGチャネルを低い程度で阻害する。
【0163】
プロトコル
心臓遅延整流カリウムチャネルを遮断するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの能力は、迅速遅延整流電流(hERG)を示す密接なαサブユニットを用いて試験された。
【0164】
結果
10μM試験化合物で達成されたhERGチャンネルの%阻害は、以下に示される:
AT:68.6%
NT:55.1%
(+)−E−10−OH−NT:8.8%
(−)−E−10−OH−NT:6.0%。
【0165】
著しく低い活性が、ATとNTよりも、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの場合に観察される。これらの結果に基づいて、(+)−E−10−OH−NTと(−)−E−10−OH−NTを利用する治療は、ATやNTでの治療に比べて、QT延長および他の不整脈関連副作用の危険性を少なくできるであろうことが期待される。
【0166】
実施例12:(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、ムスカリン受容体に対して、より低い親和性を有する。
【0167】
プロトコル
ムスカリン受容体M1、M2、M3、M4およびM5に対するAT、NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの親和性が、クローン化されたヒトムスカリン受容体M1、M2、M3、M4およびM5を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜を用いて測定された。アッセイのために、膜および放射能標識リガンドが、いろいろな濃度の試験化合物と22℃で1時間インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMアトロピンの存在下で、結合された放射性リガンドの量として定義された。M1受容体に対する放射性リガンドは、[3H]ピレンゼピン(2nM)であった。M2受容体に対する放射性リガンドは、[3H]AF−DX384(2nM)であった。M3、M4およびM5受容体に対する放射性リガンドは、[3H]4−DAMPであった。
【0168】
結果
種々の受容体に対する様々な異なる試験化合物の親和性定数(ナノモルで)は、下記の表5に示される。
【0169】
【表5】
【0170】
全ての場合において、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTは、ほぼ同等の親和性を、そして、ATおよびNTの両方よりも著しく低い親和性を示した。
【0171】
実施例13:(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTよりも、胃腸管輸送の少ない抑制を示す。
【0172】
プロトコル
AT、NTおよび(−)−E−10−OH−NTの阻害効果は、胃腸管輸送のげっ歯類モデルで評価された。アッセイために、雄のSwiss−Websterマウス(20〜25g)を一晩、絶食させ、活性炭:小麦粉:水(1:2:8、w:w:w)から成る炭末の各経口投与前1、2、または4時間目に、試験化合物または滅菌水ビヒクル対照で処置した。胃腸管輸送能は、炭末摂取の25分後に測定された。(−)−E−10−OH−NTは、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された;ATとNTは、塩酸塩として投与された;投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。
【0173】
胃腸管輸送(GIT)は、小腸の全長を摘出し、炭末の最先端が小腸でどこまで遠くに移行するかを測定することにより決定された。パーセントGIT(%GIT)は、以下の式で測定された:
%GIT=[炭末最先端までの距離(cm)/小腸の長さ(cm)×100]
結果
試験化合物(滅菌水ビヒクルと比較して)で観察された%GITは、図5に例示される。(−)−E−10−OH−NTは、ATおよびNTの両方と比較して、輸送について著しく低い抑制を示した。
【0174】
実施例14:モノアミン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NT、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTのインビトロでの結合親和性は、お互いに匹敵する。
【0175】
プロトコル
ノルエピネフリン(NE)輸送体およびセロトニン(SERT)輸送体に対するラセミ体E−10−OH−NT(「(±)−E−10−OH−NT」)、(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの結合親和性は、放射能標識リガンドとの競合的結合アッセイで測定された。NE輸送体結合アッセイのために、[3H]ニソキセチン(1.0nM)が、いろいろな濃度の試験化合物とクローン化されたヒトNE輸送体(hNET)を異種的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞から調製された膜とともに、4℃で2時間、インキュベーションされた。結合放射能は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、1.0μMデシプラミンの存在下で起きた結合量として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0176】
5HT輸送体(SERT)結合アッセイのために、[3H]イミプラミン(2.0nM)を、いろいろな濃度の試験化合物の存在下、ヒトセロトニン輸送体(hSERT)を異種的に発現するCHO細胞から調製された膜とともに、22℃で1時間、インキュベーションした。結合放射能活性は、シンチレーション分光法で測定された。非特異的結合は、10μMイミプラミン圧で起きた結合量として定義された。いろいろな試験化合物のKi値は、標準的な方法を使用して測定された。
【0177】
結果
いろいろな輸送体に対する結合親和性は、下記の表6に提供される。
【0178】
【表6】
【0179】
ノルエピネフリン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NTの結合親和性は、精製された鏡像異性体(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NT(これらは、互いにほぼ同等である)に関して観測された結合親和性に匹敵した。同様に、セロトニン輸送体に対するラセミ体(±)−E−10−OH−NTの結合親和性も、また、精製された(+)−E−10−OH−NTおよび(−)−E−10−OH−NTの両方に対して観測された結合親和性に匹敵した。
【0180】
実施例15:(−)−E−10−OH−NTは、(±)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTよりも、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療において、より有効である。
【0181】
プロトコル:
(−)−E−10−OH−NTの抗アロディニア活性は、アミトリプチリン、(±)−E−10−OH−NT、および(+)−E−10−OH−NTのそれと比較して、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使用して、Labuda & Little,2005に記載されているようにインビボで試験された。E−10−OH−NT化合物は、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された。ATは、塩酸塩として投与された。投薬用量は、遊離塩基の量に基づく。試験動物は、プレキシガラス室(10cm×20cm×25cm)に置かれ、15分間馴化させた。フォン・フレイ(von Frey)モノフィラメントが両方の後肢の底側面に提示することができるように、その部屋はメッシュスクリーン上に配置された。各後肢についての触覚感度の測定は、7つのフレイ・モノフィラメント(0.4、1、2、4、6、8および15グラム)でアップ/ダウン法(Dixon,1980)を使用して得られた。各試験は、約1〜2秒間、右後肢、次いで左後肢に加える2グラムのフォン・フレイ力で開始した。離脱反応がなかったならば、次のより高い力が加えられた。反応があったならば、次の低い力が加えられた。この手順は、最も高い力(15グラム)で反応がなくなるまで、あるいは、最初の反応の後、4つの刺激が施されるまで、行われた。各々の試験群は、8匹の動物を含んだ。疑似手術対照群(それは手術されたが、神経結紮されなかった)は、4匹の動物を含んだ。全ての動物は、試験化合物の投与後、60分に試験された。
【0182】
各々の肢に対する50%後肢離脱閾値は、以下の式を使用して計算された:[Xth]log=[vFr]log+ky(式中、[vFr]は、使用された最後のフォン・フレイ力であり、k=0.2249であり、これはフォン・フレイモノフィラメント間の平均間隔(log単位で)であり、そしてyは、離脱反応のパターンに依存する値である(Dixon,1980)。動物が最も高いフォン・フレイ・モノフィラメント(15グラム)に反応しないときは、肢は18.23グラムの値に割り当てられた。触覚感度のための試験は2回実行され、そして、平均50%の離脱値が、各々の動物の左右の肢に対する触覚感度として割り当てられた。
【0183】
結果
結果は、図7に例示される。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群(ビヒクル処置、L5 SNL ラット)(「VEH」)に対して観測された活性よりも大きく、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の抗アロディニア活性は、また、(±)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)および(−)−E−10−OH−NT(30mg/kg、i.p.)の両方で観測された抗アロディニア活性よりも大きかった。ラセミ体混合物および(+)鏡像異性体の活性は、両方ともビヒクルだけの対照(「VEH」)のそれに匹敵した。
【0184】
実施例16:(−)−E−10−OH−NTは、L5 SNLラットモデルでの経口投与により、非侵害受容性神経障害性疼痛の治療の際にアミトリプチリンと同じくらい有効である。
【0185】
プロトコル:
経口投与された(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)の抗アロディニア活性は、実施例15で上記された方法に従って、非侵害受容性神経障害性疼痛のL5−単一神経結紮モデルを使用して、アミトリプチリン(塩酸塩)のそれとインビボで比較された。
【0186】
結果
結果は、図8に例示される。(−)−E−l0−OH−NT(30mg/kg、p.o.と60mg/kg、p.o.)の抗アロディニア活性は、ビヒクル処置対照群に対して観測された活性よりも大きく、AT(30mg/kg、i.p.)のそれに匹敵した。投薬用量は、投与された遊離塩基の量に基づく。
【0187】
実施例17:(−)−E−10−OH−NTおよびATに対するFCA誘発痛覚過敏および回転棒用量−応答曲線
用量−応答実験は、アミトリプチリン(塩酸塩)と(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)を用いて、IP(腹腔内)投与後の抗痛覚過敏有効性と鎮静作用の間の治療可能比を測定するために、ラットFCA誘発痛覚過敏(Randall Selitto法)アッセイおよびラット回転棒アッセイにおいて実行された。ラットは、滅菌水ビヒクル、AT、または(−)−E−10−OH−NTを用いて、最大60mg/kg、IP(用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)で処置された。後肢耐圧閾値は、処置後1時間に測定された。ATおよび(−)−E−10−OH−NTは、24時間FCA処置ラットにおいて、機械痛覚過敏の逆転に対して同様の効力および有効性を示した。60mg/kg、IPにおいて、高レベルの抗痛覚過敏活性(%AH)が、ATおよび(−)−E−10−OH NTの場合に観察され、ATおよび(−)−E−10−OH NTで処置されたラットでの%AHの値は、それぞれ、259±39および270±53であった(図9、図10)。機械痛覚過敏のATおよび(−)−E−10−OH NT逆転のためのED50値を推定するために、60mg/kg、IPで処置されたラットで得られた応答は、最大応答(100%)として使用され、より低用量での応答が、最大効果の%として計算された。ATおよび(−)−E−10−OH NTに対してのED50値は、それぞれ38および36mg/kg、IPであった(図9、図10)。
【0188】
ラットでの回転棒行動における減退は、(−)−E−10−OH−NTおよびATでもたらされる鎮静作用の程度を評価するのに用いられた。ATは、用量依存的に回転棒行動を減少させ、27mg/kg、IPのED50値および100mg/kg、IPの用量で観察される96%の最大減退を有した(図9)。対照的に、30mg/kg、IPの(−)−E−10−OH−NTは、回転棒行動の5%減退をもたらすだけであった。回転棒行動の(−)−E−10−OH−NT減退に対する推定ED50値は、120mg/kg、IPであった(図10)。
【0189】
これらのデータをまとめると、(−)−E−10−OH−NTは、ATよりも、少ないオフターゲット薬理学的副作用を示す可能性があることを証明する。
【0190】
実施例18:ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイでの(−)−E−10−OH NTの抗痛覚過敏活性
プロトコル
経口投与された(−)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩)の抗痛覚過敏効力は、侵害受容性炎症性疼痛(用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)のフロイント完全アジュバント誘発げっ歯類モデルにおいて証明された。比較のために、滅菌水ビヒクルは、陰性対照として試験された。DeHaven−Hudkinsら,1999の方法が、150μLのフロイント完全アジュバント(FCA)の足底内投与後24時間のラットで機械痛覚過敏を測定するために使用された。後肢耐圧閾値を測定するために、ラットは、ガーゼラップで軽く拘束され、そして、圧力が加圧式無痛覚装置を用いて円錐ピストンで、炎症を起こしている後肢および起こしていない後肢の背側面に印加された(Stoelting Instruments,Wood Dale,IL)。後肢耐圧閾値は、250グラムのカットオフ値を用い、逃避反応を誘発するのに必要な力(グラムで)の量と定義された。後肢耐圧閾値は、薬物治療の前に、および薬物治療後の指定された時間に測定された。
【0191】
結果
結果は図11に例示され、経口投与された(−)−E−10−OH−NTは、ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおいて、著しい活性を提供することを証明する。
【0192】
実施例19:ラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおける、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏活性の比較
(+)−E−10−OH−NTが、24時間FCA処置ラットで、(−)−E−10−OH−NTと同様の抗痛覚過敏効力および効能を有するかどうかを測定するために実験が行われた。経時実験が、(+)−E−10−OH NTの30mg/kgのIPを用いて実施された。この実験では、FCA処置の24時間後に、ラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH−NT(マレイン酸塩またはコハク酸塩を投与した;投薬用量は、投与された遊離塩基の量に基づく)の30mg/kg IPが投与された。後肢耐圧閾値は、実施例5と18で開示された方法を使用して、投与して1、2または4時間後に測定された。ビヒクル処置ラットは、処置1時間後に試験された。(+)−E−10−OH NTは、試験されたどの時点でも抗痛覚過敏ではなかった(図12)。
【0193】
これらの結果を確かめるために、24時間FCA誘発痛覚過敏実験が、行われたが、そこではラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH NTもしくは(−)−E−10−OH NTの30mg/kgのIPで処置され、1時間後に抗痛覚過敏について試験された。結果は、図13に示される。また、(−)−E−10−OH NTは、著しい抗痛覚過敏(55±7%AH)をもたらすのに対して、(+)−E−10−OH NTは、抗痛覚過敏でなかった。(−)−E−10−OH NTで観察された抗痛覚過敏の大きさは、前の実験(例えば、実験18)と一致した。
【0194】
実施例20:30mg/kgおよび60mg/kg IPでのラットFCA誘発痛覚過敏アッセイにおける、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの抗痛覚過敏活性の比較
実験が、FCA誘発機械痛覚過敏アッセイにおける(+)−E−10−OH NTの効果についての用量−応答関係を広げるために行われた(図14)。実施例18と19で示されるように、(+)−E−10−OH NTは、30mg/kg IPまでの用量で活性ではなかった。したがって、ラットは、FCAの投与後24時間に、滅菌水ビヒクル、30、または60mg/kg IPで処置された。ラットは、ビヒクルまたは(+)−E−10−OH NTでの処置の1時間後に、痛覚過敏について試験された。
【0195】
結果:
抗痛覚過敏活性の統計的に有意であるが、適度なレベルが、(+)−E−10−OH−NTの60mg/kg IP(40±13%AH)で処置されたラットで観察されたが、30mg/kg IPでは、観察されなかった。(−)−E−10−OH NT鏡像異性体は、(+)−E−10−OH NT鏡像異性体よりも、試験された用量範囲(化合物は、マレイン酸塩またはコハク酸塩のいずれかで投与された;投薬用量は、遊離塩基の量に基づく)に渡って、より大きな効力および効果を有した。
【0196】
実施例21:うつ病のラット強制水泳試験における、アミトリプチリン、(−)−E−10−OH−NTおよび(+)−E−10−OH−NTの評価
プロトコル:
雄のSprague−Dawleyラット(約200g)を15分の練習水泳のために室温水のタンクに入れる。練習水泳の最初の5分間の5秒おきに、ラットは、静止(頭を水面から出しておくために必要な運動をしながら浮いている)、水泳(泳いで渡る動き)、またはよじ登り(活発に、水のタンクからよじ登ろうとする、前足の上方への動き)として評価される。ラットがこれらの反応の各々に費やした時間のパーセントが計算される。
【0197】
練習水泳の約24時間後に、ラットは、ビヒクルまたは試験化合物で処置され、5分間水泳のためにタンクに入れられる。練習水泳の場合のように、ラットは、試験水泳の間、静止、水泳またはよじ登りにランク付けされ、これらの反応の各々に費やした時間のパーセントが計算される。データは、3つの行動の反応の各々に対して、ビヒクル処置後の行動反応を薬物処置後の行動反応と比較するために、事後分析での一元配置分散分析によって分析される。有意水準は、p<0.05にセットされる。
【0198】
用量応答実験は、アミトリプチリン、(−)−E−10−OH NTおよび(+)−E−10−OH NTを用いて、強制水泳試験でそれらの効力と有効性を測定するために3つの別々の実験で実施された。これらの実験において、調整水泳の24時間後に、ラットは、ビヒクル、アミトリプチリン(3〜30mg/kg IP)、(−)−E−10−OH−NT(3〜30mg/kg IP)、または(+)−E−10−OH−NT(3〜30mg/kg IP)を投与され、1時間後、ラットは5分間水泳試験に曝された。水泳試験での静止、水泳、およびよじ登り(活発に、水泳タンクの側面を登ろうとすること)に費やされる時間のパーセントは、図15A、B、およびCに示される。
【0199】
結果:
アミトリプチリンは、10または30mg/kg IPで処置されたラットで観察された著しい減少で、静止に費やされる時間を用量依存的に減少させた。ビヒクル処置ラットに関して、アミトリプチリンは、10および30mg/kg IPで処置されたラットでは、静止を33および47%それぞれ減少させた。水泳に費やされる時間の量に対応する有意な増加が、アミトリプチリンの10mg/kg(81%増加)または30mg/kg(147%増加)処置後に観察された。アミトリプチリンは、よじ登りに費やした時間の量を変更しなかった(図15A)。
【0200】
(−)−E−10−OH−NTは、アミトリプチリンと同様の程度の効果をもたらし、30mg/kg IPでの処置後、静止において有意な減少(47%減少)、および10(64%増加)または30mg/kg IP(108%)で処置したラットで、水泳において有意な増加を証明した。アミトリプチリンの場合のように、(−)−E−10−OH NTは、よじ登りに費やされる時間の量を変更しなかった(図15B)。対照的に、(+)−E−10−OH−NTは、30mg/kg IPまでの用量での強制水泳試験では、活性ではなかった(図15C)。
【0201】
様々な特定の実施形態が例示されて、説明されているが、本発明の精神よび範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。
【0202】
本出願で引用されるすべての刊行物、特許、特許出願、および他の文書は、あたかも各々の個々の刊行物、特許、特許出願または他の文書が、すべての目的のために参照により取り込まれることが個々に示されているかのように同程度に、あらゆる目的のために全体として参照することにより本明細書に取り込まれる。参照により本明細書に取り込まれる参考文献は以下のものを含む:
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Sindrup & Jensen, 1999, Pain 83(3):389−400.
Tagat et al., 2004, J. Med. Chem. 47:2405−2408.
Venhorst et al., 2000, Eur. J. Pharm. Sci. 12:151−158.
Virtanen et al., 1989, Arch. Int. Pharmacodyn. Ther. 297:190-204.
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Zartman et al., 2005, Bioorg. Med. Chem. Lett. 15:1647−1650.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
E−10−OH−NTならびに医薬的に許容される賦形剤、担体および/または希釈剤を含む医薬組成物であって、ここで該E−10−OH−NTは、(−)−鏡像異性体が富化されている医薬組成物。
【請求項2】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約60%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約70%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約80%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約90%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記E−10−OH−NTが、鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記E−10−OH−NTが、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記E−10−OH−NTが、前記組成物中に塩として存在する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記塩がD−またはL−リンゴ酸塩である請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記塩がコハク酸塩である請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物での疼痛を処置する方法。
【請求項12】
前記疼痛が、侵害受容性起源の疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記疼痛が、非侵害受容性起源の疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
疼痛が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害または化学療法誘発性神経障害性疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、経口投与のために処方される請求項11に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物のうつ病を処置する方法。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む、アミトリプチリンまたはノルトリプチリンでの処置に応答性である患者の障害を処置する方法。
【請求項18】
アミトリプチリンまたはノルトリプチリン療法に応答性である前記障害が、排尿障害、気分障害、認知障害、精神病性障害、不安障害、人格障害、摂食障害、薬物への嗜癖または物質乱用のから生じる化学物質依存症、離脱症候群、内分泌障害、衝動性障害、チック障害、胃腸管障害、血管障害、身体表現性障害、パーキンソン病、ショック、高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、アミトリプチリンまたはノルトリプチリンとともに使用することが禁忌である薬剤を服用している請求項17に記載の方法。
【請求項20】
鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン。
【請求項21】
鏡像異性体的に純粋な(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン。
【請求項22】
合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項23】
前記E−10−OH−NTが、遊離塩基の形態である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項24】
前記E−10−OH−NTが、塩の形態である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な、(−)−E−10−OH−NT。
【請求項25】
前記塩がリンゴ酸塩である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項26】
前記塩がコハク酸塩である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項27】
E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをキラル特異的オキサザボロリジン触媒の存在下で還元することを含む、(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンの製造方法。
【請求項28】
前記オキサザボロリジン触媒が、
【化3】
である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させることを含む(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項30】
鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させる工程を含む、鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項31】
(i)E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンを、
【化4】
の存在下、還元して(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンを生成する工程;および
(ii)(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させる工程、
を含む(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項32】
ノルエピネフリン輸送体を、(−)鏡像異性体が富化されたE−10−OH−NTを含む組成物に接触させることを含むノルエピネフリンの取り込みを阻害する方法。
【請求項33】
インビトロで実施される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ノルエピネフリンの再取り込みを阻害するためのE−10−OH−NTの有効量を含む組成物の量を対象に投与することによりインビボで実施される請求項32に記載の方法であって、該E−10−OH−NTは(−)鏡像異性体が富化されている方法。
【請求項35】
哺乳動物の疼痛を処置するために有用な医薬を製造するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項36】
前記疼痛が、侵害受容性起源の疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記疼痛が、非侵害受容性起源の疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項38】
前記疼痛が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害または化学療法誘発性神経障害性疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項39】
前記医薬が、経口投与のために処方される請求項35に記載の使用。
【請求項40】
哺乳動物でのうつ病を処置するのに有用な医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項41】
アミトリプチリンまたはノルトリプチリンでの処置に応答性である障害を処置するのに有用な医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項42】
障害が、排尿障害、気分障害、認知障害、精神病性障害、不安障害、人格障害、摂食障害、薬物嗜癖または物質乱用から生じる化学物質依存症、離脱症候群、内分泌障害、衝動性障害、チック障害、胃腸管障害、血管障害、身体表現性障害、パーキンソン病、ショック、高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群から選択される請求項41に記載の使用。
【請求項1】
E−10−OH−NTならびに医薬的に許容される賦形剤、担体および/または希釈剤を含む医薬組成物であって、ここで該E−10−OH−NTは、(−)−鏡像異性体が富化されている医薬組成物。
【請求項2】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約60%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約70%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約80%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記E−10−OH−NTが、少なくとも約90%の(−)−E−10−OH−NTを含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記E−10−OH−NTが、鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記E−10−OH−NTが、鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NTである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記E−10−OH−NTが、前記組成物中に塩として存在する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記塩がD−またはL−リンゴ酸塩である請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記塩がコハク酸塩である請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物での疼痛を処置する方法。
【請求項12】
前記疼痛が、侵害受容性起源の疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記疼痛が、非侵害受容性起源の疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
疼痛が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害または化学療法誘発性神経障害性疼痛である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、経口投与のために処方される請求項11に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を哺乳動物に投与することを含む哺乳動物のうつ病を処置する方法。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を患者に投与することを含む、アミトリプチリンまたはノルトリプチリンでの処置に応答性である患者の障害を処置する方法。
【請求項18】
アミトリプチリンまたはノルトリプチリン療法に応答性である前記障害が、排尿障害、気分障害、認知障害、精神病性障害、不安障害、人格障害、摂食障害、薬物への嗜癖または物質乱用のから生じる化学物質依存症、離脱症候群、内分泌障害、衝動性障害、チック障害、胃腸管障害、血管障害、身体表現性障害、パーキンソン病、ショック、高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群から選択される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、アミトリプチリンまたはノルトリプチリンとともに使用することが禁忌である薬剤を服用している請求項17に記載の方法。
【請求項20】
鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン。
【請求項21】
鏡像異性体的に純粋な(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテン。
【請求項22】
合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項23】
前記E−10−OH−NTが、遊離塩基の形態である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項24】
前記E−10−OH−NTが、塩の形態である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な、(−)−E−10−OH−NT。
【請求項25】
前記塩がリンゴ酸塩である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項26】
前記塩がコハク酸塩である、請求項22に記載の合成由来の鏡像異性体的に純粋な(−)−E−10−OH−NT。
【請求項27】
E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをキラル特異的オキサザボロリジン触媒の存在下で還元することを含む、(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンの製造方法。
【請求項28】
前記オキサザボロリジン触媒が、
【化3】
である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させることを含む(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項30】
鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させる工程を含む、鏡像異性体的に実質的に純粋な(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項31】
(i)E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンを、
【化4】
の存在下、還元して(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンを生成する工程;および
(ii)(−)−E−5−(γ−ブロモプロピリデン)−10,11−ジヒドロ−10−ヒドロキシ−5H−ジベンゾ[a,d]−シクロヘプテンをメチルアミンと反応させる工程、
を含む(−)−E−10−OH−NTの製造方法。
【請求項32】
ノルエピネフリン輸送体を、(−)鏡像異性体が富化されたE−10−OH−NTを含む組成物に接触させることを含むノルエピネフリンの取り込みを阻害する方法。
【請求項33】
インビトロで実施される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ノルエピネフリンの再取り込みを阻害するためのE−10−OH−NTの有効量を含む組成物の量を対象に投与することによりインビボで実施される請求項32に記載の方法であって、該E−10−OH−NTは(−)鏡像異性体が富化されている方法。
【請求項35】
哺乳動物の疼痛を処置するために有用な医薬を製造するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項36】
前記疼痛が、侵害受容性起源の疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記疼痛が、非侵害受容性起源の疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項38】
前記疼痛が、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害または化学療法誘発性神経障害性疼痛である請求項35に記載の使用。
【請求項39】
前記医薬が、経口投与のために処方される請求項35に記載の使用。
【請求項40】
哺乳動物でのうつ病を処置するのに有用な医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項41】
アミトリプチリンまたはノルトリプチリンでの処置に応答性である障害を処置するのに有用な医薬の製造のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項42】
障害が、排尿障害、気分障害、認知障害、精神病性障害、不安障害、人格障害、摂食障害、薬物嗜癖または物質乱用から生じる化学物質依存症、離脱症候群、内分泌障害、衝動性障害、チック障害、胃腸管障害、血管障害、身体表現性障害、パーキンソン病、ショック、高血圧、性的機能不全、月経前症候群および線維筋痛症候群から選択される請求項41に記載の使用。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図3】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図3】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−526075(P2010−526075A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506436(P2010−506436)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061189
【国際公開番号】WO2008/134325
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(501094339)アドロー コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/061189
【国際公開番号】WO2008/134325
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(501094339)アドロー コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
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