説明

11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法

11−(4−[2−ヒドロキシエトキシ]エチル)−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法を開示する。本方法においては、安価の2,2’−ジチオサリチル酸を出発物質として塩基性水溶液中での1−塩化−2−ニトロベンゼンと結合形成反応させ、ニトロ基還元反応を行い、当量のハロゲン化剤の存在下、環化反応及び塩素化反応を同時に行い、引き続き分離過程なしにピペラジンとの反応を行い、2−ハロエトキシエタノールとの反応を行って、環境親和的にクエチアピン(Quetiapine)、すなわち、11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを経済的に製造することができる。特に、安価の出発物質を用いるため経済的効率性が保証され、水溶液において反応を行うので有機溶媒の使用が最小化され、方法の反応工程数を減らし酸性廃棄物の生成を最小化するため商業的15有用性が高い環境親和的で経済的な方法の達成ができるという点において、本方法は有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法に関する。より具体的には、経済的、効率的、かつ商業的に、11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを、環境親和的に製造する方法に関する。本方法では、2,2’−ジチオサリチル酸を原料物質として塩基性水溶液中で1−クロロ−2−ニトロベンゼンとの結合形成反応をさせ、不均一触媒を用いてニトロ基還元反応を行い、同時に当量のハロゲン化剤と塩基との存在下環化反応及び塩素化反応を行い、引き続き分離過程なしにピペラジンとの反応を行い、2−ハロゲン化エトキシエタノールとの反応が行われることにより、酸性廃棄物の生成及び有機溶媒の使用を最小化する。
【背景技術】
【0002】
クエチアピン(Quetiapine)と名づけられている11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンは、抗精神病剤であって、下記式1で表される。
【0003】
【化1】

【0004】
前記11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの代表的な製造方法は、次の通りである。
ヨーロッパ特許第240228号には、1−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルピペラジンと下記式2で表される塩化イミノ化合物との反応によって製造する方法が開示されている。
【0005】
【化2】

【0006】
一方、前記式2で表される塩化イミノ化合物は、下記式3で表される10H−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン−11−オンとオキシ塩化リン(POCl3)とを反応させて製造する(Helv. Chim Acta, 50, 245 (1967))。
【0007】
【化3】

【0008】
前記式3の10H−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン−11−オンは、2−アミノジフェニルスルフィドと塩化ギ酸フェニルエステルとを反応させてフェニル2−(フェニルチオ)フェニルカルバメートを製造した後、これをポリリン酸の存在下、環化反応を行って製造する。
しかし、上記の製造方法では過量のポリリン酸が溶媒として用いられるため、過剰な量の酸性廃水を生成して環境に悪影響を与える。加えて、反応終了過程において水で希釈させるときに多くの熱が発生して、商業的に生産することは困難である。
【0009】
また、前記式1の11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを高純度で製造するために、カラムクロマトグラフィーを用いた精製を行わなければならず、経済的に非効率である。
その上、前記式2の塩化イミノ化合物は、不安定であって空気中の水分によって容易に加水分解されるので、分離、精製、保管において多くの問題がある。特に、該化合物を大量に用いる商業生産では、加水分解された不純物が最終製品に含まれて製品の純度を低下させ、望ましくない。
【0010】
ヨーロッパ特許第282236号には、下記式4の11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンと2−塩化エトキシエタノールとの反応によって11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する方法が開示されている。
【0011】
【化4】

【0012】
しかし、この方法も、上述したヨーロッパ特許第240228号と同じ中間体を用いているため、過剰量のポリリン酸の使用により生成する大量の酸性廃水と熱放射とにより、商業的生産を行うことが困難である。また、この方法には、例えば不安定な式2の塩化イミノ化合物の分解による加水分解が起こってしまうなどの多くの問題がある。
【0013】
国際公開特許WO0155125号によれば、2−アミノジフェニルスルフィドと塩化ギ酸フェニルエステルとを反応させてフェニル2−(フェニルチオ)フェニルカルバメートを製造し、ヒドロキシエチルピペラジンを用いた反応及び別の塩化チオニルを用いた反応によってN−[4−(2−塩化エチル)ピペラジン−1−アミノジフェニルスルフィドを製造する。生成物をオキシ塩化リンと五酸化リンと反応させて11−([4−(2−塩化エチル)−1−ピペラジニル]−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造した後、エチレングリコールと反応させて11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する。
【0014】
しかし、前記製造方法において反応溶媒として用いられるオキシ塩化リンは、大量の酸性廃棄物を生じさせ、また五酸化リンは空気中で不安定であり腐食性と毒性が強いことから取り扱いが困難であり、商業的に生産を行うことは困難である。その上、エチレングリコールとの反応で塩基として用いられるナトリウム金属は、可燃性および爆発性が高く、商業的に生産を行うことは困難である。
【発明の開示】
【0015】
発明の詳細な説明
技術的課題
本発明者らは、上記の問題を解決のため鋭意研究を行い、安価の化合物を出発物質として用い、環境親和的で経済的に高い生産性でクエチアピンを商業的に製造して、酸性廃棄物の生成と有機溶媒の使用を最小化し、工程数を減らすことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明の課題は、経済的、効率的、かつ環境親和的に、11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを商業的に製造し、酸性廃棄物の生成と有機溶媒の使用を最小化する方法を提供することにある。
【0016】
技術的解決方法
前記課題の達成のため、本発明は、式1で表される11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法であって下記工程を含む方法を提供する:
a)塩基性水溶液中、還元剤の存在又は非存在下で、式5で表される2,2’−ジチオサリチル酸と1−塩化−2−ニトロベンゼンとを反応させ、式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸を製造する工程;
(b)水素及び溶媒の存在下、不均一金属触媒を用いて、式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸のニトロ基を還元し、式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸を製造する工程;
(c)有機溶媒中、ハロゲン化剤及び塩基の存在下で、式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸の環化反応及び塩素化反応を同時に行い、得られた化合物を分離過程無しに引き続きピペラジンと反応させ、式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する工程;及び
(d)有機溶媒中、塩基を用いて、式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを2−ハロエトキシエタノールと反応させ、式1で表される11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する工程。
【0017】
【化5】

【0018】
有利な効果
本発明の11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法は、安価な2,2’−ジチオサリチル酸を出発物質として水溶液中で1−クロロ−2−ニトロベンゼンと結合形成反応させ、不均一触媒下でニトロ基還元反応を行うことにより、不要な有機溶媒の使用を避けることができ経済的および環境親和的である方法が補償されるという点で有利である。また、次の工程として、当量のハロゲン化剤と塩基を用いた環化反応及び塩素化反応を同時に行い、引き続き分離精製なしにピペラジンとの反応を行うことにより、酸性廃棄物の生成量を最小化し、生産性を高めて商業的生産の問題を効果的に解決する。
【0019】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を詳細に説明する。
前述したように、本発明は、経済的、効率的、かつ商業的に11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを環境親和的に製造する方法を提供する。この方法では、原料物質として用いられる安価な2,2’−ジチオサリチル酸を1−クロロ−2−ニトロベンゼンと塩基性水溶液中で結合形成反応させ、不均一触媒下でニトロ基還元反応を行い、当量のハロゲン化剤と塩基の存在下、環化反応と塩素化反応を同時に行い、引き続き分離過程なしにピペラジンとの反応を行い、2−ハロゲン化エトキシエタノールとの反応を行うことによって、酸性廃棄物の生成と有機溶媒の使用を最小化する。
【0020】
本発明の方法によれば、まず、前記式5で表される2,2’−ジチオサリチル酸を1−クロロ−2−ニトロベンゼンと塩基性水溶液中で反応させ、前記式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸を製造する。
1−クロロ−2−ニトロベンゼンは、前記式5で表される2,2’−ジチオサリチル酸1当量に対して、2〜4当量、好ましくは2〜2.5当量で用いられる。1−クロロ−2−ニトロベンゼンの使用量が2当量未満であると反応が完全に終了せず、4当量を超えると使用量が必要量を超え、経済的に非効率である。
【0021】
前記塩基性水溶液中の塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は重炭酸ナトリウム、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、最も好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。塩基の使用量は、2,2’−ジチオサリチル酸1当量に対して4〜5当量であり、好ましくは4〜4.5当量である。塩基の使用量が4当量未満であると反応の変換効率が低下し、5当量を超えると使用量が必要量を超え、経済的に非効率である。
【0022】
前記反応は、10〜150℃、好ましくは80〜110℃の反応温度で行われる。反応温度が10℃未満であると反応速度が低下して経済的に非効率である。
一方、前記反応は、還元剤の存在又は不存在下で行ってもよい。還元剤を使用する場合、反応速度が速くなり収率が上がる。しかし、還元剤は使用しなくてもよい。本発明で使用可能な還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、亜鉛、マグネシウム又はヒドラジン、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム又は亜鉛が例示される。
【0023】
また、前記結合形成反応において相転移触媒を使用する場合、反応速度はやや大きくなる傾向がある。しかし、その増加は使用しない場合と比較して顕著ではない。本発明で有益な相転移触媒の例としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルトリブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリブチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム硫酸、ベンジルトリエチルアンモニウム硫酸、ベンジルトリブチルアンモニウム硫酸、テトラメチルアンモニウム硫酸、テトラエチルアンモニウム硫酸、テトラブチルアンモニウム硫酸などが挙げられる。
【0024】
次に、前記式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸を水素及び溶媒の存在下で不均一金属触媒を用いてニトロ基還元反応させ、前記式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸を製造する。
前記還元(又は水素化)反応の触媒としては、金属自体又は金属を含浸させた担体を用いればよい。
【0025】
金属は、ラネ−ニッケル(Raney−Ni)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、好ましくはラネ−ニッケル(Raney−Ni)から選択される。
使用できる担体の例としては、アルミナ、シリカ、ゼオライト、或いは分子篩(Molecular Sieve)などの無機酸化物が挙げられる。
前記還元反応の反応物中の不均一金属触媒の含量は、2〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。前記金属触媒の含量が2重量%未満であるとニトロ基還元反応の活性及び2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸の選択性が低下する。前記金属触媒の含量が30重量%を超えると、金属の価格が高いので工程の経済性が低下するという欠点がある。
【0026】
前記ニトロ基還元反応に適した溶媒としては、水(H2O)、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、又はこれらの混合物、好ましくは水(H2O)又はメチルアルコールが例示される。
一方、前記反応物中の2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸の濃度は1〜50重量%、好ましくは10〜40重量%に維持する。この濃度が1重量%未満であると、溶媒が過剰量で用いられているので生産性が低下する。この濃度が50重量%を超えると、反応性が低くなるという欠点がある。
また、前記ニトロ基還元反応において、反応圧力は、10〜1000psig、好ましくは100〜900psigである。反応温度は1〜200℃、好ましくは10〜170℃である。反応時間は好ましくは1〜14時間である。
【0027】
次に、前記式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸を有機溶媒中、当量のハロゲン化剤と塩基との存在下で、同時に環化反応及び塩素化反応させた後、分離過程なしにピペラジンと反応させて、前記式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する。
本発明で使用可能なハロゲン化剤は、オキシ塩化リン(POCl3)又は塩化チオニル(SOC12)、好ましくはオキシ塩化リンである。塩化チオニルの使用は、環化反応はよく進行するが、塩素化反応で変換効率が乏しいという問題がある。ハロゲン化剤は、前記式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸1当量に対して2.0〜4.0当量、好ましくは2.0〜2.5当量で用いられる。前記ハロゲン化剤の使用量が2.0当量未満であると反応が完全に終了せず、前記ハロゲン化剤の使用量が4.0当量を超えると使用量が必要を超え経済的に非効率である。
【0028】
環化反応及び塩素化反応で使用可能な塩基は、ジメチルアニリン、ピリジン又はトリエチルアミンなどであり、好ましくはジメチルアニリンである。塩基は、2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸1当量に対して0.1〜2.0当量、好ましくは0.6〜1.5当量で使用する。塩基の使用量が0.1当量未満であると反応の変換効率が低下し、2.0当量を超えると使用量が必要を超え経済的に非効率である。
環化及び塩素化反応の反応温度は10〜150℃、好ましくは80〜110℃である。反応温度が10℃未満であると反応速度が低下し、反応温度が150℃を超えると、不純物生成が増加して経済的に非効率である。
【0029】
前記環化及び塩素化反応に使用可能な有機溶媒は、アセトニトリル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン又はこれらの混合物、好ましくはトルエン又はキシレンである。
一方、ピペラジンは、前記式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸1当量に対して1.0〜5.0当量、好ましくは2.0〜3.5当量で使用される。前記ピペラジンの使用量が1.0当量未満であると、反応の変換効率が低くなり副反応により選択性が低下する。ピペラジンの使用量が5.0当量を超えると使用量が必要を超え経済的に非効率である。
ピペラジンとの反応温度は、10〜150℃、好ましくは90〜120℃である。反応温度が10℃未満であると反応速度が減少して非効率的である。
【0030】
最後に、前記式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを有機溶媒中、塩基の存在下で2−ハロエトキシエタノールと反応させ、前記式1で表される11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する。
2−ハロエトキシエタノールは、2−塩化エトキシエタノール、2−臭化エトキシエタノール又は2−ヨウ化エトキシエタノール、好ましくは2−塩化エトキシエタノールである。
前記最終工程の反応は、特に限定されないが、当分野で公知の技術によって行えばよい。好ましくは、反応は次の条件の下で行われる。
【0031】
この反応で使用可能な塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが例示され、反応溶媒としては、ベンゼン又はトルエンなどの芳香族溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、又はこれらの混合物、好ましくはN−メチルピロリドンとプロパノールとの混合溶媒が例示される。
また、ハロゲン化アルカリ金属を触媒として使用してもよく、最も効果的な触媒はヨウ化ナトリウムである。触媒必要量でヨウ化ナトリウムを使用した場合、2−ハロゲン化エトキシエタノールのハロゲンがヨウ素で置換され反応速度が増加する。
一方、反応温度は、室温から混合溶媒の還流条件に相当する温度までの範囲であり、好ましくは混合溶媒の還流条件に相当する温度である。反応時間は15〜30時間、好ましくは24時間である。
【0032】
前述のように、本発明に係る方法では、安価な2,2’−ジチオサリチル酸を塩基性水溶液中で1−クロロ−2−ニトロベンゼンと反応させ、続いて同じ水溶液中で、不均一触媒を用いてニトロ基の還元反応を行っており、不要な有機溶媒の使用が避けられ、経済的かつ環境親和的な方法が保証される。また、前記ニトロ基還元反応によって得られた2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸を当量のハロゲン化剤と塩基との存在下、環化反応及び塩素化反応させ、引き続き分離過程なしに連続してピペラジンとの反応を行うことにより、酸性廃棄物の生成と有機溶媒の使用を最小化して環境親和的方法を保証し、経済的非効率を避けることが可能である。その上、商業的に生産し、方法の工程数を減らすことによって商業生産性を向上させることが可能である。
【0033】
発明を実施するための形態
この発明の概要を説明したので、例示のみを目的とし特に言及しない限り限定を意図しないここに記載される具体例を参照してさらなる理解を得ることができる。
実施例1
a)2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸の製造
攪拌器及び還流装置の付いた0.5Lの反応器に2,2’−ジチオサリチル酸(45.7g、0.15moL)と水酸化ナトリウム(24.5g,0.61moL)を入れ、160mLの水に溶かした。亜鉛(9.8g)を入れて40℃で1時間反応させた。1−クロロ−2−ニトロベンゼン(48.2g、0.31moL)を入れて得られた混合物を6時間還流させた後、トルエン(200mL×2)で抽出して未反応の1−クロロ−2−ニトロベンゼンを除去し、2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸水溶液を得た。
【0034】
b)2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸の製造
工程a)で得られた2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸水溶液にラネ−ニッケル(16.7g)と87mLの水を入れ、水素圧力450psi、反応温度110℃で3時間反応させた。反応物を室温に冷却した後、金属触媒を濾過して除去した。濾過液を塩酸水溶液で中和し、固体を濾過した後、減圧乾燥を行って2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸塩酸塩(55g)を得た。
【0035】
c)11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造
攪拌器及び還流装置の付いた0.5Lの反応器を用いて、工程b)で得られた2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸(50g)をトルエン(216mL)に懸濁させ、オキシ塩化リン(273g)を加え、90℃で2時間反応を行った。HPLCで出発物質がなくなったことを確認し、ジメチルアニリン(21.5g)とオキシ塩化リン(28.6g)をさらに加え、2時間還流を行った。反応物を室温に冷却した後、水(160mL)で洗浄した。
得られたトルエン溶液にピペラジン(53.6g)を加えて1時間還流を行い、得られた溶液を室温まで冷却した。水(125mL×3)で洗浄を行い、残ったピペラジンを除去した後、有機層を真空蒸留して油状物を得た。得られた油状物をエタノールに溶かし、塩酸エタノール溶液を添加して11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン塩酸塩(46.4g)を得た。
【0036】
d)11−[4−[2−(ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル]−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造
工程c)で得られた11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン塩酸塩(40g)、炭酸ナトリウム(69.3g)、ヨウ化ナトリウム(0.65g)及び2−塩化エトキシエタノール(14.7g)をn−プロピルアルコール(260mL)とN−メチルピロリドン(65mL)の溶液に入れ、還流を24時間行った。酢酸エチル(327mL)を入れ、水(2×1000mL)を用いて洗浄を行い、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去して油状物を得た。得られた油状物をエタノールに完全に溶かした後、フマル酸(7.1g)を入れて11−[4−[2−(ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル]−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンフマル酸塩(34g)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンの製造方法であって下記工程を含む方法:
a)塩基性水溶液中、還元剤の存在又は非存在下で、式5で表される2,2’−ジチオサリチル酸と1−塩化−2−ニトロベンゼンとを反応させ、式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸を製造する工程;
(b)水素及び溶媒の存在下、不均一金属触媒を用いて、式6で表される2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸のニトロ基を還元し、式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸を製造する工程;
(c)有機溶媒中、ハロゲン化剤及び塩基の存在下で、式7で表される2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸の環化反応及び塩素化反応を同時に行い、得られた化合物を分離過程無しに引き続きピペラジンと反応させ、式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する工程;及び
(d)有機溶媒中、塩基を用いて、式4で表される11−ピペラジニル−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを2−ハロエトキシエタノールと反応させ、式1で表される11−(4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル]−1−ピペラジニル)−ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピンを製造する工程。
【化1】

【請求項2】
工程(a)において、反応温度が10〜150℃であり、かつ1−クロロ−2−ニトロベンゼンが2,2’−ジチオサリチル酸1当量に対して2〜4当量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、塩基性水溶液の塩基が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は重炭酸ナトリウムであり、かつ該塩基が2,2’−ジチオサリチル酸1当量に対して4〜5当量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、還元剤が水素化ホウ素ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、亜鉛、マグネシウム又はヒドラジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、反応圧力が10〜1000psigであり、反応温度が1〜200℃であり、かつ反応時間が1〜14時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、反応物中の2−(2−ニトロフェニルチオ)安息香酸の含量が1〜50重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、溶媒が水、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はこれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)において、不均一金属触媒がラネ−ニッケル(Raney−Ni)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)及びロジウム(Rh)よりなる群から選択され、かつ反応物中の不均一金属触媒の含量が2〜30重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)において、不均一金属触媒がアルミナ、シリカ、ゼオライト及び分子篩よりなる群から選択される少なくとも1つの担体にラネ−ニッケル、ルテニウム、パラジウム、白金及びロジウムよりなる群から選択される少なくとも1つの金属を含浸させることにより製造され、かつ反応物中の不均一金属触媒の含量が2〜30重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)において、環化反応及び塩素化反応の反応温度が10〜150℃であり、かつ2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸1当量に対して、ハロゲン化剤が2.0〜4.0当量で用いられ、塩基が0.1〜2.0当量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)において、ピペラジンとの反応における反応温度が10〜150℃であり、かつピペラジンが2−(2−アミノフェニルチオ)安息香酸1当量に対して1.0〜5.0当量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、ハロゲン化剤がオキシ塩化リン(POCl3)又は塩化チオニル(SOCl2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において、塩基がジメチルアニリン、ピリジン又はトリメチルアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)において、有機溶媒がアセトニトリル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、キシレン又はこれらの混合物である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−503565(P2008−503565A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517945(P2007−517945)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001866
【国際公開番号】WO2006/001619
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(303024622)エスケー ホルディングス カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】