説明

2次元フォトニック結晶及びそれを用いた光機能素子

【課題】 進路切り替えを行うことができる光進路切替スイッチ等に用いることができる2次元フォトニック結晶を提供する。
【解決手段】 本体11上に空孔131及び132の周期や大きさが異なる第1領域121及び第2領域122を形成し、これらの領域の境界14に斜めに交差するように幹導波路15を形成する。また、幹導波路15と境界14の交点を起点として幹導波路15から第1領域121側に分岐する枝導波路17を形成する。第2領域122を加熱して該領域内の本体の屈折率を変化させることにより、第2領域122の幹導波路15を通過することのできる周波数帯域が変化する。特定の周波数を有し幹導波路15の第1領域121側から伝播する光は、上記加熱の有無により、幹導波路15の第2領域122側から取り出されるか、第2領域122の幹導波路15を伝播できずに枝導波路17から取り出されるか、が切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スイッチや電気光学変調器等の光デバイスに用いられる2次元フォトニック結晶に関する。なお、本願において用いる「光」には、可視光以外の電磁波も含むものとする。
【背景技術】
【0002】
光通信は今後のブロードバンド通信の中心的役割を担う通信方式であることから、その普及のために、光通信システムに使用される光部品類に対して更なる高性能化、小型化、低価格化が求められている。このような要求を満たす次世代光通信部品の有力候補のひとつとして、フォトニック結晶を利用した光通信用デバイス(光機能素子)がある。これは既に一部で実用段階に入っており、偏波分散補償用フォトニック結晶ファイバーなどが実用に供されている。現在では更に、波長分割多重通信(Wavelength Division Multiplexing:WDM)に使用される光合分波器、電気信号と光信号との間の変換を行う電気光学変調器、光のON/OFFを制御する光スイッチ等の光機能素子の開発が実用化に向けて進められている。
【0003】
フォトニック結晶は、誘電体に周期構造を形成したものである。この周期構造は一般に、誘電体本体とは屈折率が異なる領域(異屈折率領域)を誘電体本体内に周期的に配置することにより形成される。その周期構造により、結晶中に光のエネルギーに関するバンド構造が形成され、光の伝播が不可能となるエネルギー領域が形成される。このようなエネルギー領域は「フォトニックバンドギャップ」(Photonic Band Gap:PBG)と呼ばれる。
【0004】
このフォトニック結晶中に適切な欠陥を設けることにより、PBG中にエネルギー準位(欠陥準位)が形成され、その欠陥準位に対応する周波数(波長)の光のみがその欠陥の近傍に存在できるようになる。点状に形成された欠陥はその周波数の光の光共振器として使用することができ、線状に形成された欠陥は導波路として使用することができる。
【0005】
上記技術の一例として、特許文献1には、空気よりも屈折率が高い材料から成る本体(スラブ)に異屈折率領域を周期的に配置し、その周期的配置に欠陥を線状に設けることにより導波路を形成するとともに、その導波路に隣接して点状欠陥を形成した2次元フォトニック結晶が記載されている。この2次元フォトニック結晶は、導波路内を伝播する様々な周波数の光のうち共振器の共振周波数に一致する周波数の光を外部へ取り出す分波器として機能すると共に、外部から導波路に導入する合波器としても機能する。
【0006】
特許文献2には、本体を複数の領域に分け、複数の領域を通過する導波路を形成し、領域毎に異屈折率領域の周期や大きさ等を異なるものとすることにより、各領域の導波路を通過することができる光の周波数帯域を異なるものとした2次元フォトニック結晶が記載されている。この構成では、ある領域(第1領域とする)の導波路通過周波数帯域には含まれ、その領域に隣接する領域(第2領域とする)の導波路通過周波数帯域には含まれない周波数の光は、第1領域の導波路から第2領域の導波路に伝播することができず、これらの領域の境界において反射される。上記周波数の光に共振する共振器を第1領域の導波路の近傍に設けることにより、導波路を伝播するこの周波数の光は、たとえ共振器に導入されずに通過したとしても、上記境界において反射され、上記共振器により取り出される。これにより、分波の効率が高くなる。
【0007】
特許文献3には、特許文献1と同様の方法により導波路を形成した2次元フォトニック結晶に電流を注入しない/することにより、所定の周波数の光が導波路を伝播する/しない(光をON/OFFする)ように制御することができる光スイッチが記載されている。この光スイッチの動作原理は次の通りである。電流が注入されない時には、PBG内の周波数の光は本体内で存在することができないため導波路内に閉じ込められ、導波路内を伝播する(ON状態)。電流が注入された時には、本体の屈折率が変化することによりPBGが変化するため、その周波数の光は導波路から周囲の本体に漏れ出してしまい、導波路を伝播することができない(OFF状態)。本体の材料(屈折率)や異屈折率領域の周期を調整することにより、2次元フォトニック結晶に電流を注入しない時をOFF、注入した時をONとすることもできる。
【0008】
【特許文献1】特開2001-272555号公報([0023]〜[0027]、[0032]、図1、図5〜6)
【特許文献2】特開2004-233941号公報([0050]〜[0053]、図3)
【特許文献3】特開2002-303836号公報([0022]、[0028]〜[0043], 図3〜4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3の光スイッチの構成では、光の進路を切り替える光スイッチには用いることができない。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、進路切り替えを行うことができる光進路切替スイッチに用いることができる2次元フォトニック結晶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶の第1の態様のものは、
a)スラブ状の本体内に互いに隣接して形成された、異なる屈折率分布を有する第1領域及び第2領域と、
b)前記両領域の境界を斜交する、第1領域においては第1通過周波数帯域を、第2領域においては第2通過周波数帯域をそれぞれ有し、第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通通過周波数帯域を有する幹導波路と、
c)幹導波路と前記境界の交点から第1領域内に分岐する枝導波路と、
d)前記共通通過周波数帯域が変化するように第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる屈折率変化手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の第2の態様のものは、
a)スラブ状の本体内に互いに隣接して形成された、異なる屈折率分布を有する第1領域及び第2領域と、
b)前記両領域の境界を斜交する、第1領域においては第1通過周波数帯域を、第2領域においては第2通過周波数帯域をそれぞれ有する幹導波路と、
c)幹導波路と前記境界の交点から第1領域内に分岐する枝導波路と、
d)第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通通過周波数帯域を有するように第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる屈折率変化手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
屈折率分布を変化させる領域は第2領域であることが望ましい。
【0014】
第2領域の屈折率分布は第1領域の屈折率分布を比例拡大又は比例縮小したものとすることができる。これにより、第1通過周波数帯域及び第2通過周波数帯域を上記のように設定することができる。
【0015】
前記屈折率変化手段は、熱光学効果、電気光学効果、磁気光学効果、非線形光学効果、応力効果のいずれかを利用したものとすることができる。ここで熱光学効果とは、熱が加わることによりその領域の屈折率分布が変化し、その結果、その領域の光学的特性が変化するという効果をいい、具体的には、例えば熱光学効果を利用した屈折率変化手段としては、第2領域にレーザ光を照射することにより該領域を加熱するものや、第2領域の近傍に加熱用部材を設けたものを挙げることができる。同様に、電気光学効果、磁気光学効果とは、静電界や振動電界或いは静磁界や振動磁界が印加されることによりその領域の屈折率分布が変化し、その結果、その領域の光学的特性が変化するという効果をいう。更に、非線形光学効果とは、強い光が入射すると、通常は光強度に依存しない屈折率が変化をする効果をいう。応力効果とは、外部から力学的な力が印加されることによりその領域の内部に生じる応力が変化して屈折率分布が変化し、その結果、その領域の光学的特性が変化するという効果をいう。
【0016】
本発明の2次元フォトニック結晶は、光スイッチ、電気光学変調器、光強度変調器として用いることができる。このうち電気光学変調器では、前記屈折率変化手段には外部からの電気信号に応じて変化する電界を生成し、それにより第2領域の屈折率分布を変化させるものを用いる。また、光強度変調器には、前述の、屈折率分布を変化させる前後のいずれか一方又は双方において、共通周波数帯域が第2通過周波数帯域のうち、光の通過強度が最大値を持たない帯域を含む2次元フォトニック結晶を用いる。
【発明の実施の形態及び効果】
【0017】
本発明に係る2次元フォトニック結晶には、本体に、相異なる屈折率分布を有する第1領域及び第2領域の2つの領域を形成する。従来の2次元フォトニック結晶と同様、本体には平板状のスラブを用い、屈折率分布としては、例えば本体とは屈折率の異なる領域(異屈折率領域)を本体に周期的に配置することにより形成することができる。この異屈折率領域は、本体に空孔を設けることにより形成することが、作製が容易であり本体との屈折率の差を大きく取ることができるため望ましい。
【0018】
この本体に、第1領域と第2領域の境界を斜めに交差する導波路を設ける。この導波路を幹導波路と呼ぶ。幹導波路は、従来の2次元フォトニック結晶と同様に、屈折率分布の欠陥を線状に設けることにより形成することができる。2次元フォトニック結晶では、導波路の幅等の導波路自体のパラメータの他に、本体の屈折率分布の周期等の本体側のパラメータによっても導波路を伝播(通過)することができる光の周波数帯域(通過周波数帯域)が変化する。そのため、本発明の2次元フォトニック結晶では第1領域の通過周波数帯域である第1通過周波数帯域と第2領域の通過周波数帯域である第2通過周波数帯域は一般に異なるものとなる。第1態様の2次元フォトニック結晶では、第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通の帯域(共通通過周波数帯域)を有するように第1領域及び第2領域における上記パラメータを設定する。
【0019】
第2の態様の2次元フォトニック結晶は、第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通通過周波数帯域を持たない。それ以外の点では、上記第1の態様の2次元フォトニック結晶と同様である。
【0020】
第1、第2の両態様のフォトニック結晶とも、幹導波路と前記境界の交点から第1領域内に分岐する導波路を設ける。この導波路を枝導波路と呼ぶ。
【0021】
そして、前記共通通過周波数帯域が変化するように第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる屈折率変化手段を設ける。ここで、屈折率分布は第1領域又は第2領域全体の(分布を有する)屈折率を変化させるものであってもよいし、屈折率分布を構成する要素の一部のみを変化させるものであってもよい。例えば、本体に別異の部材を周期的に埋め込んで屈折率分布を形成した場合には、本体の屈折率と該部材の屈折率の双方を変化させてもよいし、いずれか一方のみを変化させてもよい。本体に空孔を周期的に設けて屈折率分布を形成した場合には、本体のみ屈折率を変化させればよい。屈折率変化手段の具体例については後述する。
【0022】
このように構成された本発明に係る2次元フォトニック結晶は、幹導波路の第1領域側から第2領域側に向けて伝播する光に対して、光スイッチとして作用する。以下では、スイッチされる光の周波数(以下、「スイッチ周波数」とする)が、(1)第1領域又は第2領域の屈折率分布が変化する前の共通通過周波数帯域に含まれる場合、及び、(2)該屈折率分布が変化する前の共通通過周波数帯域に含まれない場合、に分けて説明する。
【0023】
(1)スイッチ周波数が屈折率分布変化前の共通通過周波数帯域に含まれる場合
この場合、屈折率変化前には、スイッチ周波数の光は幹導波路の第1領域側と第2領域側の双方を通過することができるため、幹導波路を第1領域から伝播してくる光は第2領域側から取り出すことができる。第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させることにより共通通過周波数帯域が変化すると、変化前の第1通過周波数帯域の一部が共通通過周波数帯域から外れる。スイッチ周波数を、その変化する部分の共通通過周波数帯域内に設定しておくと、スイッチ周波数の光は幹導波路の第2領域側を伝播することができなくなり、前記境界において反射される。この反射光は、前記境界と幹導波路が斜交していることから、幹導波路の第1領域側にそのまま戻るのではなく、枝導波路に導入される。このように、幹導波路の第1領域側から第2領域側に向けて伝播するスイッチ周波数の光は、屈折率分布の変化の前後で、幹導波路の第2領域側を通過するか、第1領域側の枝導波路を通過するかが切り替えられる。
【0024】
(2)スイッチ周波数が屈折率分布変化前の共通通過周波数帯域に含まれない場合
この場合、屈折率分布の変化前には、スイッチ周波数の光は幹導波路の第2領域側を通過することができず、枝導波路に導入される。第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させることにより共通通過周波数帯域が変化すると、変化前には共通通過周波数帯域に含まれていなかった第1通過周波数帯域の一部が共通通過周波数帯域に含まれるようになる。スイッチ周波数がその帯域に含まれるように設定しておくことにより、スイッチ周波数の光は変化後に幹導波路の第2領域側を伝播することができるようになる。このように、幹導波路の第1領域側から第2領域側に向けて伝播するスイッチ周波数の光が、屈折率分布の変化の前後で、枝導波路を通過するか、幹導波路の第2領域側を通過するかが切り替えられる。
【0025】
第1の態様の2次元フォトニック結晶では上記(1)(2)のいずれの場合でもスイッチングが生じ、第2の態様の2次元フォトニック結晶は上記(2)の場合に(この場合、屈折率分布が変化する前には、共通通過周波数帯域が存在せず、変化後に共通通過周波数帯域が生成する)スイッチングが生じる。これらの2次元フォトニック結晶はいずれも、枝導波路と幹導波路の第2領域側の間で進路切り替えを行うことができる光進路切替スイッチとなる。また、枝導波路又は幹導波路の第2領域側のいずれか一方において、光を通過させるか遮断するかを切り替えることができる光ON/OFFスイッチとなる。
【0026】
また、本発明の2次元フォトニック結晶は、外部からの電気信号のON/OFFに応じて第1領域又は第2領域の屈折率を変化させる屈折率変化手段を用いることにより、電気信号のON/OFFを光のON/OFFに変換する電気光学変調器となる。
【0027】
第2領域の屈折率分布及び幹導波路を、第1領域のそれらを比例拡大又は比例縮小したものとすることにより、第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域の一部に共通周波数帯域を形成することができる。
【0028】
第1及び第2通過周波数帯域内では、その帯域内のほとんどの周波数において、導波路の光をほぼ100%通過させることができる。しかし、通過周波数帯域の端付近の一部の帯域(以下、これを「可変帯域」という)においては、導波路の伝播効率が100%以下となる。この可変帯域を用いることにより、導波路を伝播する光の強度変調を行うことができる。すなわち、屈折率分布変化の前後のいずれか一方又は双方において、共通周波数帯域が可変帯域を含むようにし、スイッチ周波数がその中に含まれるようにする。この場合、スイッチ周波数の光は、第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる前と後で、幹導波路の第2領域側又は枝導波路側においてその強度が変化する。従って、この態様の2次元フォトニック結晶は、第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させることにより光の強度を制御することのできる光強度変調器として使用することができる。
【0029】
次に、屈折率変化手段について説明する。第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させるために、前述の熱光学効果、電気光学効果、磁気光学効果、非線形光学効果又は応力効果を利用することができる。
【0030】
熱光学効果を利用した屈折率変化手段の一例として、屈折率を変化させる領域に強い光を照射するものを挙げることができる。この場合、光を照射しない方の領域の温度が変化しないように、照射光の光源にはレーザ光源を用いることが望ましい。なお、照射光をOFFにした時に光を照射した領域の温度を素早く元に戻すために、その領域に低温熱浴を接触させてもよい。
【0031】
熱光学効果を利用した屈折率変化手段の他の例として、屈折率を変化させる領域の近傍に加熱用部材を設けたものを挙げることができる。例えば原子間力顕微鏡の探針のような微小部材を屈折率を変化させる領域の直上に配置し、この微小部材を加熱することにより、微小部材の近傍の屈折率を変化させる領域のみを加熱し、微小部材から離れた屈折率を変化させない領域の温度が変化することを抑えることができる。
熱光学効果を利用した屈折率変化手段の他の例として、屈折率を変化させる領域の周期屈折率分布を形成した部分の外側に設けたヒータを挙げることができる。
熱光学効果は、SiやInGaAsP等、2次元フォトニック結晶に用いられる材料に共通して生じ、それを利用するために特別な材料を用いる必要がない。
【0032】
電気光学効果を利用した屈折率変化手段の一例として、屈折率を変化させる領域に電界を印加し、外部信号に応じてその電界をON/OFFするものを挙げることができる。電気光学効果を有する材料には、LiNbO3等がありこれを本体の材料に用いることにより、本発明を実現することができる。同様に、磁気光学効果を利用した屈折率変化手段として、屈折率を変化させる領域に磁界を印加し、外部信号に応じてその磁界をON/OFFするものを用いることができる。磁気光学効果を有する材料には、イットリウム鉄ガーネット等があり、これを本体の材料に用いることにより、本発明を実現することができる。
【0033】
非線形光学効果を利用した屈折率変化手段としては、外部信号に応じて、屈折率を変化させる領域に光を照射するものを用いることができる。非線形光学効果を有する材料には、LiTaO3等があり、これを本体の材料に用いることにより、本発明を実現することができる。
【0034】
応力効果を利用した屈折率変化手段としては、マイクロアクチュエータや前記微小部材等、屈折率を変化させる領域に力を印加するものを用いることができる。応力効果は2次元フォトニック結晶に用いられる材料に一般的に生ずるものであるため、この効果を利用するために特別な材料を用いる必要はない。
【0035】
屈折率を変化させる領域は前述の通り第1領域、第2領域のいずれでもよいが、枝導波路を形成しない第2領域は第1領域よりも小さくすることができるため、第2領域の屈折率を変化させる方が望ましい。
【実施例】
【0036】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の第1の実施例を図1に示す。本実施例では、板状の本体11を3個の領域121、122、123に分ける。本体の材料にはSiやInGaAsP等、従来の2次元フォトニック結晶の材料と同じものを用いる。領域121は上記第1領域に該当し、領域122は第2領域に該当する。また、領域123を第3領域と呼ぶ。第1領域121と第3領域123にはそれぞれ同一の径を持つ円形の空孔131を多数、同一の周期で三角格子状に形成する。第2領域122にはそれらの空孔131よりも小さい空孔132を多数、第1領域121及び第3領域123よりも小さい周期で三角格子状に形成する。この第2領域122の空孔の大きさ及び周期は、第1領域121のそれらを比例縮小したものとなっている。
【0037】
第1領域121、第2領域122及び第3領域123を通り、第1領域121と第2領域122の境界14に対して斜交する(すなわち、90°以外の角度をなして通過する)ように、空孔131及び132による周期構造を設けない線状の空間を形成する。この線状の空間(線状欠陥)が幹導波路15となる。上記角度は、本実施例では60°とした。また、幹導波路15と境界14の交点16から第1領域121側に、幹導波路15及び境界14に対して60°の角度で伸びる枝導波路17を形成する。
【0038】
また、第2領域122内にあって、その領域の幹導波路15の長さと同程度の径を有する制御光照射領域18(図中の破線の円内)にレーザ光(制御光)を照射する制御光照射手段(図示せず)を設ける。この制御光照射手段は、制御光照射領域18への制御光の照射をON/OFFして該領域の温度を制御することにより、該領域内の本体11の屈折率を変化させるものである。本体11の材料がSi(室温での屈折率=3.4)である場合、制御光照射領域18に制御光を照射して温度を上昇させることにより、第2領域122の屈折率を大きくすることができる。制御光照射領域18の径は、例えば図1に示したように空孔8周期分程度であって幹導波路15を1.5μm帯の光が伝播するように空孔の周期を定めた場合には、約300μmとなる。
【0039】
第3領域123は第1領域121と同じ構成を有するため、第1領域121の幹導波路15と同じ通過周波数帯域を有する。従って、第1領域121の幹導波路15を通過することができる光は、第2領域122の幹導波路15を通過することができれば、そのまま第3領域123の幹導波路15を通過することができる。この第3領域123は、第2領域122の幹導波路15を通過した光の取り出し口としての役割を有する。
【0040】
本発明に係る2次元フォトニック結晶の第2の実施例を図2に示す。第2実施例では、第1実施例と同様に本体21を3個の領域(第1領域221、第2領域222、第3領域223)に分け、第1領域221と第3領域223にはそれぞれ同一の径を持つ円形の空孔231を多数、同一の周期で三角格子状に形成する。第2領域222にはそれらの空孔231よりも大きい空孔232を多数、第1領域221及び第3領域223よりも大きい周期で三角格子状に形成する。この第2領域222の空孔の大きさ及び周期は、第1領域221のそれらを比例拡大したものとなっている。また、第1実施例の場合と同様に、幹導波路25、枝導波路27、制御光照射手段を設ける。
【0041】
第1及び第2実施例の2次元フォトニック結晶の動作を、図3を用いて説明する。(a-1)及び(a-2)は第1実施例の2次元フォトニック結晶の動作を示し、(b-1)及び(b-2)は第2実施例の2次元フォトニック結晶の動作を示す。
【0042】
第1実施例の2次元フォトニック結晶では、第1領域121と第2領域122の空孔の周期及び大きさが上記のように異なることにより、幹導波路15の第2領域122側の通過周波数帯域(第2通過周波数帯域)32aは幹導波路15の第1領域121側の通過周波数帯域(第1通過周波数帯域)31aよりも高周波数(短波長)側に形成される(図3(a-1))。第1通過周波数帯域31aと第2通過周波数帯域32aには共通の周波数帯域33aが存在する。第2領域122に制御光を照射し該領域を加熱することにより、第2領域122の本体11の屈折率が大きくなり、それにより第2通過周波数帯域32aは低周波数(長波長)側にシフトする(第2通過周波数帯域32a’、図3(a-2))。一方、第1通過周波数帯域31aは変化しない。これにより、共通周波数帯域は制御光照射前よりも大きくなる(共通周波数帯域33a’)。
ここで、共通周波数帯域33aには含まれず、共通周波数帯域33a’には含まれる周波数34aをスイッチ周波数とする。このスイッチ周波数34aを有する光は、第1領域121側から幹導波路15に導入されると、以下のように導波路(幹導波路15及び枝導波路17)を伝播する。制御光照射前には、この光はそのスイッチ周波数34aが共通周波数帯域33aに含まれないため、幹導波路15の第2領域122側を通過することができない。そのため、この光は境界14において反射されて枝導波路17に導入される。制御光照射後には、スイッチ周波数34aが共通周波数帯域33aに含まれるため、この光は境界14を通過して第2領域122内の幹導波路15に導入され、第3領域123側から取り出される。このように、第1実施例の2次元フォトニック結晶は、制御光を照射することによりスイッチ周波数34aの光の進路が枝導波路17から幹導波路15の第3領域123側に切り替わる進路切替スイッチとして機能する。また、枝導波路17又は幹導波路15の第3領域123側のいずれかから見れば、光ON/OFFスイッチとして機能する。
【0043】
第2実施例の2次元フォトニック結晶では、第2通過周波数帯域32bは第1通過周波数帯域31bよりも低周波数(長波長)側に形成される(図3(b-1))。第2領域122に制御光を照射することにより、第2通過周波数帯域32bは低周波数(長波長)側にシフトする(第2通過周波数帯域32b’、図3(b-2))。これにより、共通周波数帯域33bは小さくなる(共通周波数帯域33b’)。
共通周波数帯域33bには含まれ、共通周波数帯域33b’には含まれないスイッチ周波数34bを有する光は、第1領域121側から幹導波路15に導入されると、以下のように導波路(幹導波路15及び枝導波路17)を伝播する。制御光照射前には、スイッチ周波数34bが共通周波数帯域33bに含まれるため、この光は境界14を通過して幹導波路15の第2領域122側に導入され、第3領域123側から取り出される。一方、制御光照射後には、スイッチ周波数34bが共通周波数帯域33b’には含まれないため、この光は境界14において反射されて枝導波路17に導入される。このように、第1実施例の2次元フォトニック結晶は、制御光を照射することによりスイッチ周波数34bの光の進路が幹導波路15の第3領域123側から枝導波路17に切り替わる進路切替スイッチとして機能する。この動作は第1実施例の場合とはちょうど反対となる。また、光ON/OFFスイッチとしての動作も第1実施例の場合とはちょうど反対となる。
【0044】
第1領域と第2領域の空孔の周期及び大きさの差が大きい場合、図4(1)に示すように、第1通過周波数帯域31cと第2通過周波数帯域32cが共通周波数帯域を持たないことがある。この場合において第2領域の屈折率分布を変化させて第2通過周波数帯域を移動させることにより、第1通過周波数帯域31cと第2通過周波数帯域32c’が共通周波数帯域33c’を持つようにすることができる(図4(2))。この場合、幹導波路に導入され共通周波数帯域33c’内のスイッチ周波数34cを有する光は、上記第1実施例と同様に制御光のON/OFFにより枝導波路17又は幹導波路15の側の第3領域123の光をON/OFFすることができる。
【0045】
図5に示すように、第2通過周波数帯域32dのうち、高周波数側及び低周波数側の端付近の周波数帯域である可変帯域35d及び36dでは、わずかな周波数の変化により、導波路を通過する光の強度が変化する。これを利用して、制御光を第2領域に照射し、第1通過周波数帯域31d内にあるスイッチ周波数34dに可変帯域35d又は36dが差し掛かるように第2通過周波数帯域32dを移動させる。これにより、幹導波路の第3領域側又は枝導波路から取り出される光の強弱を制御することができる。
【0046】
次に、第1実施例(図1)に対して光スイッチとしての動作実験を行った結果について述べる。なお、以下では周波数の代わりに真空中における波長で表す。
本体11には厚さ250nmのSi(屈折率=3.4、温度による屈折率の変化率=1.86×10-4K-1)製スラブを用いた。第1領域121及び第3領域123の空孔131の周期は410.0nm、直径は238nmとした。また、第2領域122の空孔132の周期は413.0nm、直径は240nmとした。図6に、第1領域121及び第2領域122の導波路について、それぞれ通過波長帯域を測定した結果を示す。スペクトル41は第1領域121の幹導波路15内の光のスペクトル、スペクトル42はレーザ光を照射する前における第2領域122の幹導波路15内の光のスペクトル、スペクトル43はレーザ光を照射した時における第2領域122の幹導波路15内の光のスペクトルである。第1領域121内の幹導波路15の通過波長帯域44は1505nm〜1568nm、レーザ光照射前の第2領域122内の幹導波路15の通過波長帯域45は1501nm〜1560nmである。従って、共通波長帯域は1505nm〜1560nmとなる。なお、1550nm以下の波長帯域は図示を省略した。
【0047】
制御光照射領域18に制御光を照射することなく、幹導波路15に第1領域121側から波長1400nm〜1600nmの光を導入し、第3領域123側から取り出される光の強度を測定したところ、上記共通波長帯域の光が検出され、それ以外の波長の光は検出されなかった。次に、制御光照射領域18(直径約3μm)に波長405nm、強度3mWのGaNレーザ光(制御光)を照射して同様の測定を行ったところ、幹導波路15の第3領域123側から、上記共通波長帯域に加えて、1560nm〜1563nmの波長帯46の光が検出された。これは、第2領域の通過波長帯域がレーザ光照射により長波長側に移動した(移動後の帯域47)ことによる。
【0048】
次に、幹導波路15の第1領域121側から中心波長1560nm、半値幅0.2nmのレーザ光を導入し、光スイッチ実験を行った。このレーザ光は、制御光がOFFの時には枝導波路に、制御光がONの時には幹導波路15の第3領域123側から取り出された。この時、切り替えに要した時間(スイッチング速度)は約20μsecであった。これは、従来のバルク型熱光学光スイッチのスイッチング速度の約1/100である。
【0049】
制御光の照射による共通波長帯域の増加量とSiの温度による屈折率の変化率から、この実験において第2領域122の温度は制御光の照射により60℃上昇した、と見積もられる。更に制御光の出力を大きくして第2領域122の温度変化を大きくすれば、光のスイッチングが可能な波長帯域を更に広くすることができる。
【0050】
図7に示すように、本実施例の2次元フォトニック結晶において、幹導波路15を第2領域122内で枝導波路17と平行になるように曲げてもよい。これにより、枝導波路17及び幹導波路15から、互いに近傍に光を取り出すことができる。
【0051】
なお、本実施例では第2領域にレーザ光を照射して屈折率を変化させることを例に挙げて説明したが、第1領域の屈折率を変化させても上記実施例と同様に光のスイッチングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る2次元フォトニック結晶の第1実施例を示す平面図。
【図2】本発明に係る2次元フォトニック結晶の第2実施例を示す平面図。
【図3】本実施例の2次元フォトニック結晶の導波路通過周波数帯域を示すグラフ。
【図4】本実施例の2次元フォトニック結晶の導波路通過周波数帯域を示すグラフ(制御光がOFFの時に共通周波数帯域がない場合)。
【図5】本実施例の2次元フォトニック結晶の導波路通過周波数帯域を示すグラフ(幹導波路から取り出す光の強度制御を行う場合)。
【図6】本実施例の2次元フォトニック結晶の導波路通過周波数帯域の実験結果を示すグラフ。
【図7】第1実施例の2次元フォトニック結晶の変形例を示す平面図。
【符号の説明】
【0053】
11、21…本体
121、221…第1領域
122、222…第2領域
123、223…第3領域
131、132…空孔
14、24…第1領域と第2領域の境界
15、25…幹導波路
16、26…境界と幹導波路の交点
17、27…枝導波路
18、28…制御光照射領域
31a、31b、31c、31d…第1通過周波数帯域
32a、32a’、32b、32b’、32c、32c’、32d…第2通過周波数帯域
33a、33a’、33b、33b’、33c’…共通周波数帯域
34a、34b、34c、34d…スイッチ周波数
35d、36d…可変帯域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)スラブ状の本体内に互いに隣接して形成された、異なる屈折率分布を有する第1領域及び第2領域と、
b)前記両領域の境界を斜交する、第1領域においては第1通過周波数帯域を、第2領域においては第2通過周波数帯域をそれぞれ有し、第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通通過周波数帯域を有する幹導波路と、
c)幹導波路と前記境界の交点から第1領域内に分岐する枝導波路と、
d)前記共通通過周波数帯域が変化するように、第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる屈折率変化手段と、
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項2】
a)スラブ状の本体内に互いに隣接して形成された、異なる屈折率分布を有する第1領域及び第2領域と、
b)前記両領域の境界を斜交する、第1領域においては第1通過周波数帯域を、第2領域においては第2通過周波数帯域をそれぞれ有する幹導波路と、
c)幹導波路と前記境界の交点から第1領域内に分岐する枝導波路と、
d)第1通過周波数帯域と第2通過周波数帯域が共通通過周波数帯域を有するように第1領域又は第2領域の屈折率分布を変化させる屈折率変化手段と、
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項3】
屈折率分布を変化させる領域が第2領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項4】
第2領域の屈折率分布が第1領域の屈折率分布を比例拡大又は比例縮小したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項5】
前記屈折率変化手段が熱光学効果、電気光学効果、磁気光学効果、非線形光学効果、応力効果のいずれかを利用したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項6】
前記屈折率変化手段が第2領域にレーザ光を照射することにより該領域を加熱するものであることを特徴とする請求項5に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項7】
前記屈折率変化手段が第2領域の近傍に加熱用部材を設けたものであることを特徴とする請求項5に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の2次元フォトニック結晶から成る光スイッチ。
【請求項9】
請求項1〜7に記載の2次元フォトニック結晶から成り、前記屈折率変化手段が外部からの電気信号の変化により第2領域の屈折率分布を変化させるものであることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項10】
請求項3〜7に記載の2次元フォトニック結晶から成る光強度変調器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−184618(P2006−184618A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378707(P2004−378707)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】