説明

2次元読み出し回路

【課題】2次元ストリップのX方向とY方向とで同等の電子入射感度(放射線検出精度)を実現できるようにする。
【解決手段】複数のX軸ストリップ11と複数のY軸ストリップ12とから成る2次元ストリップにおいて、X軸ストリップ11と同じ表層において複数のX軸ストリップ11の間にストリップの断片を断続的に配置することによってY軸ストリップ12を構成し、各断片を電気的に接続する配線13をY軸ストリップ12の裏層に設ける。そして、X軸ストリップ11をX軸読み出し回路15に接続するとともに、Y軸ストリップ12を構成する複数の断片を接続した配線13をY軸読み出し回路16に接続する構造とすることにより、Y軸ストリップ12の方がX軸ストリップ11に比べて電子が入射しにくくなるという感度低下を抑制できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2次元読み出し回路に関し、特に、対象物に向けて照射された放射線が光電変換され更にガス電子増幅器により増倍された電子の2次元読み出し回路に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガンマ線やX線などの電離放射線を照射して対象物を破壊せずに検査する非破壊検査装置が提供されている。この種の非破壊検査装置には、放射線を検出する放射線検出装置が用いられている。そして、多くの放射線検出装置には、ガス電子増幅器(Gas Electorn Multiplier:GEM)が使用されている(例えば、特許文献1,2を参照)。ガス電子増幅器を用いた放射線検出装置は、図11に示すように、光電コンバータ101、ガス電子増幅器102および読み出し回路103を備えて構成されている。
【0003】
図11において、光電コンバータ101は、非破壊検査対象物に向けて照射された放射線を入射して光電変換する。ガス電子増幅器102は、光電コンバータ101により光電変換された電子(荷電粒子)を電子なだれ効果により増倍する。読み出し回路103は、ガス電子増幅器102により増倍された多数の電子を検出し、電気信号として読み出す。ガス電子増幅器102においては、電子なだれ効果を起こさせるために、増幅器内に所定の希ガスを充填させ、所定の電圧を印可することによって電界を発生させている。
【0004】
ところで、非破壊検査対象物がパイプラインのような大型構造物の場合、読み出し回路103として数十cm角もの大きなイメージングデバイスが必要になる。その一方、読み出し回路103は数mm以下の位置分解能が必要で、各位置を全て個々のピクセルで構成すると、極めて多数の読み出しチャンネルが必要となってしまい現実的でない。そこで従来、X軸とY軸の2次元状にストリップを配置し、当該2次元ストリップを用いて電子の読み出しを行う手法が用いられてきた(例えば、特許文献3,4を参照)。
【0005】
図12は、2次元ストリップを用いた読み出し回路103の概略構成例を示す図である。図12において、複数のX軸ストリップ201がそれぞれX軸読み出し回路202に接続されるとともに、複数のY軸ストリップ203がそれぞれY軸読み出し回路204に接続されている。
【0006】
X軸読み出し回路202は、複数のX軸ストリップ201のうち何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。また、Y軸読み出し回路204は、複数のY軸ストリップ203のうち何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。
【0007】
この場合、X軸読み出し回路202により電子が読み出されたX軸ストリップ201と、Y軸読み出し回路204により電子が読み出されたY軸ストリップ203との交点が電子の入射位置として特定される。X軸読み出し回路202およびY軸読み出し回路204により特定される電子入射位置が複数あるときは、その荷重重心位置を演算により求めることにより、ストリップ間隔よりも高い分解能で電子入射位置を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−302844号公報
【特許文献2】特開2007−234485号公報
【特許文献3】特開平10−300856号公報
【特許文献4】特開平11−72569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の2次元ストリップは、図12に示すように、X軸ストリップ201とY軸ストリップ203の何れか一方が上方に、他方が下方に配置される2層構造になっている(図12の例ではX軸ストリップ201が上方、Y軸ストリップ203が下方)。そのため、下方に位置するY軸ストリップ203は上方のX軸ストリップ201に比べて電子が入射しにくくなって感度が低下し、X方向とY方向とで同等の放射線検出精度が得られないという問題があった。
【0010】
また、従来の2次元ストリップでは、複数箇所に複数の電子がほぼ同時に入射した場合(具体的には、X軸読み出し回路202およびY軸読み出し回路204が備えるA/D変換器のサンプリング周期で同一の周期内に複数の電子が複数箇所に入射した場合)には、実際の入射位置以外にも電子が入射したものと誤検出してしまい、擬似画像が発生してしまうという問題があった。
【0011】
例えば、図13に示すように、X軸方向の位置がx1のX軸ストリップ201-1とY軸方向の位置がy1のY軸ストリップ203-1との交点および、X軸方向の位置がx2のX軸ストリップ201-2とY軸方向の位置がy2のY軸ストリップ203-2との交点の2箇所(●印で示す)に対して電子がほぼ同時に入射した場合、位置x1のX軸ストリップ201-1と位置y2のY軸ストリップ203-2との交点および、位置x2のX軸ストリップ201-2と位置y1のY軸ストリップ203-1との交点の2箇所(○印で示す)にも電子が入射したものと誤検出してしまい、そこに擬似画像が発生してしまう。
【0012】
なお、A/D変換器のサンプリング周期を短くして動作を高速化すれば、時間分解能が増すので、●印で示す2箇所の交点に対して電子が、A/D変換器の異なるサンプリング周期に入射したものと認識することができる。そのため、○印で示す2箇所の交点に電子が入射したものと誤検出してしまう不都合を抑制できる。つまり、●印で示す2箇所の交点にのみ電子が入射したという正しい検出を行うことができ、○印の部分における擬似画像の発生を抑制することができる。しかし、A/D変換器を高速化すると消費電力が大きくなるというデメリットが生じる。また、A/D変換器の回路面積も大きくなり、多数チャンネルを同一チップに集積することが難しくなる。
【0013】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、2次元ストリップのX方向とY方向とで同等の電子入射感度、ひいては同等の放射線検出精度を実現できるようにすることを目的とする。
また、本発明は、上記目的に加え、読み出し回路が備えるA/D変換器の時間分解能を上げることなく、電子入射位置を正確に検出して擬似画像の発生を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するために、本発明では、X方向に対して離間的に配置された複数のX軸ストリップと、Y方向に対して離間的に配置された複数のY軸ストリップとから成る2次元ストリップにおいて、X軸ストリップと同じ表層において複数のX軸ストリップの間にストリップの断片を断続的に配置することによってY軸ストリップを構成し、各断片を電気的に接続する配線をY軸ストリップの裏層に設けている。そして、X軸ストリップをX軸読み出し回路に接続するとともに、Y軸ストリップを構成する複数の断片を接続した配線をY軸読み出し回路に接続している。
【0015】
本発明の他の態様では、X軸読み出し回路およびY軸読み出し回路は、ストリップに入射した電子により生じるアナログ信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号にA/D変換するA/D変換器と、A/D変換器のサンプリング周期よりも短いサンプリング周期で動作しストリップに電子が入射したタイミングを検出するタイミング検出器とを備えている。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成した本発明によれば、Y軸ストリップもX軸ストリップと同じ表層に配置されているので、Y軸ストリップの方がX軸ストリップに比べて電子が入射しにくくなるという感度低下を抑制することができる。これにより、2次元ストリップのX方向とY方向とで同等の電子入射感度、ひいては同等の放射線検出精度を実現することができる。
【0017】
本発明の他の特徴によれば、X軸読み出し回路およびY軸読み出し回路が備えるA/D変換器のサンプリング周期で同一の周期内に複数の電子が異なる位置の複数のストリップに入射した場合でも、当該A/D変換器よりも短いサンプリング周期、つまりA/D変換器よりも高い時間分解能でタイミング検出器により検出された電子入射タイミングが異なっていれば、A/D変換器の時間分解能からすれば異なる位置に同時に入射したと見える電子を、異なるタイミングで入射した電子として互いに区別することが可能となる。
【0018】
これにより、電子が入射したX軸ストリップとY軸ストリップとのマトリクスで特定される実際の入射位置以外にも電子が入射したものと誤検出してしまう不都合を抑制することができる。すなわち、A/D変換器から出力される信号に基づき電子入射位置を正確に検出して、擬似画像の発生を抑制することができる。しかも、A/D変換器の時間分解能を上げる必要がないので、消費電力の増加および回路面積の増加を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態による2次元読み出し回路の構成例を示す図である。
【図2】第1の実施形態によるプリント基板の断面構成例を示す図である。
【図3】第1の実施形態による電子の2次元読み出し例を示す図である。
【図4】第2の実施形態による2次元読み出し回路の構成例を示す図である。
【図5】第2の実施形態によるX軸読み出し回路およびY軸読み出し回路の機能構成例を示すブロック図である。
【図6】第2の実施形態によるTDCの動作例を示す図である。
【図7】第2の実施形態による電子の2次元読み出し例を示す図である。
【図8】第2の実施形態による2次元読み出し回路において異なる2箇所に電子がほぼ同時に入射した場合のTDCの動作例を示す図である。
【図9】第2の実施形態の効果を説明するための図である。
【図10】2次元読み出し回路の他の構成例を示す図である。
【図11】ガス電子増幅器を用いた放射線検出装置の概略構成を示す図である。
【図12】従来の2次元ストリップを用いた読み出し回路の概略構成例を示す図である。
【図13】従来の2次元読み出し回路において異なる2箇所にほぼ同時に電子が入射した場合の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、第1の実施形態による2次元読み出し回路の構成例を示す図である。第1の実施形態による2次元読み出し回路10は、図11に示すように、ガス電子増幅器102を用いた放射線検出装置に適用する(つまり、図11において読み出し回路103の代わりに2次元読み出し回路10を用いる)ことが可能である。
【0021】
図1に示すように、第1の実施形態による2次元読み出し回路10は、複数のX軸ストリップ11、複数のY軸ストリップ12、複数の配線13、プリント基板14、X軸読み出し回路15およびY軸読み出し回路16を備えて構成されている。X軸ストリップ11、Y軸ストリップ12および配線13はプリント基板14の上に形成され、各軸の読み出し回路15,16は、それぞれが別個のLSIとして集積されている。あるいは、各軸の読み出し回路15,16を1つのLSIとして同一チップに集積しても良い。
【0022】
プリント基板14は、表層(第1層)と裏層(第2層)との2層構造を有している。複数のX軸ストリップ11は、プリント基板14の表層において横方向(X方向)に対して等間隔に配置されている。X軸ストリップ11の各々は、プリント基板14の縦方向(Y方向)をほぼ横断する1本の線状構造を有している。なお、図1では簡略化のためにX軸ストリップ11が6本であるものとして示しているが、実際にはこれより多数のX軸ストリップ11が配置されている。
【0023】
複数のY軸ストリップ12は、複数のX軸ストリップ11と同じ表層においてY方向に対して等間隔に配置されている。なお、図1ではY軸ストリップ12は5本であるものとして示しているが、実際にはこれより多数のY軸ストリップ12が配置されている。Y軸ストリップ12の各々は、複数のX軸ストリップ11の間に複数の断片がX方向に断続的に配置された構造を有している。図1の例では、X方向に並んだ5個の断片で1つのY軸ストリップ12が形成されている。X軸ストリップ11の長手方向と、Y軸ストリップ12を構成する各断片の長手方向とが成す角度は90度(直角)になっている。
【0024】
複数の配線13は、Y軸ストリップ12を構成するX方向の5個の断片を電気的に接続するものであり、複数のY軸ストリップ12の裏層においてY方向に対して等間隔に配置されている。図1の例では、配線13の長手方向と、Y軸ストリップ12を構成する各断片の長手方向とが成す角度は0度(平行)になっている。つまり、配線13の長手方向とX軸ストリップ11の長手方向とが成す角度は90度(直角)になっている。なお、配線13はY軸ストリップ12を構成する5個の断片を電気的に接続していればよく、必ずしも一直線でなくても良い。
【0025】
X軸読み出し回路15は、複数のX軸ストリップ11がそれぞれ接続され、当該複数のX軸ストリップ11の何れかに入射した電子(検査対象物に向けて照射された放射線が光電変換されて更に図示しないガス電子増幅器により増倍された電子)により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。Y軸読み出し回路16は、複数の配線13がそれぞれ接続され、当該配線13に接続された複数の断片から成る複数のY軸ストリップ12の何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。
【0026】
X軸読み出し回路15およびY軸読み出し回路16には、図示しないコンピュータが接続されている。当該コンピュータは、X軸読み出し回路15により電子が読み出されたX軸ストリップ1の位置と、Y軸読み出し回路16により電子が読み出されたY軸ストリップ12の位置とに基づき電子の入射位置を特定する。そして、特定した電子入射位置に検査対象物の画像を描画する。
【0027】
なお、本実施形態の場合、Y軸ストリップ12は隣り合うX軸ストリップ11の間に配置された複数の断片により構成されるため、厳密に言えばX軸ストリップ11とY軸ストリップ12との交点は存在しない。そこで、コンピュータは、例えば、Y軸ストリップ12を構成する複数の断片を仮に繋げた場合に得られる直線と、X軸ストリップ11により形成される直線との交点(以下、これを疑似交点という)を電子入射位置として特定する。
【0028】
または、図2に示すように、X軸ストリップ11およびY軸ストリップ12に入射する電子を複数ストリップにまたがって分布させるための抵抗膜17を、X軸ストリップ11およびY軸ストリップ12を覆うようにプリント基板14上に形成する。そして、X軸読み出し回路15およびY軸読み出し回路16により電子の読み出しが行われたストリップにより特定される複数の疑似交点の荷重重心位置を演算により求めるようにしても良い。このようにことにより、ストリップ間隔よりも高い分解能で電子入射位置を特定することができる。
【0029】
図3は、第1の実施形態による電子の2次元読み出し例を示す図である。図3に示すように、増倍された電子が分布領域A1に入射したとする。この場合、X軸読み出し回路15およびY軸読み出し回路16は、★印を付けた位置のX軸ストリップ11およびY軸ストリップ12において電子の読み出しを行う。図示しないコンピュータは、これら電子の読み出しが行われた4本のストリップの疑似交点P1,P2,P3,P4の荷重重心位置を演算により求め、その荷重重心位置に電子が入射したものとして特定する。
【0030】
以上詳しく説明したように、第1の実施形態では、X方向に対して等間隔に配置された複数のX軸ストリップ11と、Y方向に対して等間隔に配置された複数のY軸ストリップ12とから成る2次元ストリップにおいて、X軸ストリップ11と同じ表層において複数のX軸ストリップ11の間にストリップの断片を断続的に配置することによってY軸ストリップ12を構成し、各断片を電気的に接続する配線13をY軸ストリップ12の裏層に設けている。そして、X軸ストリップ11をX軸読み出し回路15に接続するとともに、Y軸ストリップ12を構成する複数の断片を接続した配線13をY軸読み出し回路16に接続している。
【0031】
このように構成した2次元読み出し回路10によれば、Y軸ストリップ12もX軸ストリップ11と同じ表層に配置されているので、Y軸ストリップ12の方がX軸ストリップ11に比べて電子が入射しにくくなるという感度低下を抑制することができる。これにより、2次元ストリップのX方向とY方向とで同等の電子入射感度、ひいては同等の放射線検出精度を実現することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。図4は、第2の実施形態による2次元読み出し回路の構成例を示す図である。図4に示すように、第2の実施形態による2次元読み出し回路20は、X軸読み出し回路15およびY軸読み出し回路16に代えて、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26を備えている。
【0033】
X軸読み出し回路25は、複数のX軸ストリップ11がそれぞれ接続され、当該複数のX軸ストリップ11の何れかに入射した電子(照射された放射線が光電変換されて更に図示しないガス電子増幅器により増倍された電子)により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。詳しくは後述するが、本実施形態のX軸読み出し回路25は、ADC(Analog-Digital Converter)の他にTDC(Time to Digital Converter)を備えている。
【0034】
Y軸読み出し回路26は、複数の配線13がそれぞれ接続され、当該配線13に接続された複数の断片から成る複数のY軸ストリップ12の何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出す。X軸読み出し回路26もX軸読み出し回路25と同様、ADCの他にTDCを備えている。
【0035】
図5は、第2の実施形態によるX軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26の機能構成例を示すブロック図である。図5に示すように、X軸読み出し回路25は、X軸ADC51(本発明のX軸A/D変換器に相当)、X軸TDC52(本発明のX軸タイミング検出器に相当)、X軸データバッファ53およびX軸セレクタ54を備えて構成されている。ブロック51〜53により1チャンネルが構成され、同様の構成がX軸ストリップ11の本数(図4の例では6本)に対応したチャンネル数だけ備えられている。
【0036】
X軸ADC51は、X軸ストリップ11から出力される電子のアナログ信号を、クロックCK1に従って所定のサンプリング周期でデジタル信号にA/D変換する。X軸TDC52は、クロックCK2に従ってX軸ADC51のサンプリング周期よりも短いサンプリング周期で動作し、X軸ストリップ11に電子が入射したタイミングを検出する。クロックCK2のサンプリング周波数f2は、クロックCK1のサンプリング周波数f1に比べて大きい(f1<f2)。
【0037】
例えば、X軸TDC52は、X軸ストリップ11に電子が入射した時点から、X軸ADC51のサンプリング周期が次に切り替わるまでの時間をカウントする。そして、このカウント値を、X軸ストリップ11に電子が入射したタイミングを表す信号として出力する。
【0038】
図6は、X軸TDC52の動作例を示す図である。図6において、T1は、サンプリング周波数f1のクロックCK1に従って規定されるX軸ADC51のサンプリング周期である。サンプリング周波数f1は従来と同程度で良く、例えば10MHzとする。図6に示すように、X軸ADC51のサンプリング周期T1の途中でX軸ストリップ11に入射した電子の読み出しが行われると、X軸TDC52は、その時点からサンプリング周期T1が次に切り替わるまでの時間tを、サンプリング周波数f2のクロックCK2に従ってカウントする。このサンプリング周波数f2は、クロックCK1のサンプリング周波数f1に比べて大きく、例えば100MHzとする。
【0039】
X軸データバッファ53は、X軸ADC51から出力されるデジタル信号(電子が入射したX軸ストリップ11のX方向の位置を表す。以下、これをX軸位置信号という。)と、X軸TDC52から出力されるデジタル信号(X軸ストリップ11に電子が入射したタイミングを表す。以下、これをX軸タイミング信号という。)とを一時的に格納する。X軸セレクタ54は、各チャンネルCh1〜Ch6のX軸データバッファ53から出力されるX軸位置信号およびX軸タイミング信号を選択してチップ外部のコンピュータ30に順次出力する。
【0040】
Y軸読み出し回路26は、Y軸ADC61(本発明のY軸A/D変換器に相当)、Y軸TDC62(本発明のY軸タイミング検出器に相当)、Y軸データバッファ63およびY軸セレクタ64を備えて構成されている。ブロック61〜63により1チャンネルが構成され、同様の構成がY軸ストリップ12の本数(図4の例では5本)に対応したチャンネル数だけ備えられている。
【0041】
Y軸ADC61は、Y軸ストリップ12から出力される電子のアナログ信号を、クロックCK1に従って所定のサンプリング周期でデジタル信号にA/D変換する。Y軸TDC62は、クロックCK2に従ってX軸ADC61のサンプリング周期よりも短いサンプリング周期で動作し、Y軸ストリップ12に電子が入射したタイミングを検出する。
【0042】
Y軸TDC62もX軸TDC52と同様、Y軸ストリップ12に電子が入射した時点から、Y軸ADC61のサンプリング周期が次に切り替わるまでの時間をカウントする。そして、このカウント値を、Y軸ストリップ12に電子が入射したタイミングを表す信号として出力する。
【0043】
Y軸データバッファ63は、Y軸ADC61から出力されるデジタル信号(電子が入射したY軸ストリップ12のY方向の位置を表す。以下、これをY軸位置信号という。)と、Y軸TDC62から出力されるデジタル信号(Y軸ストリップ12に電子が入射したタイミングを表す。以下、これをY軸タイミング信号という。)とを一時的に格納する。Y軸セレクタ64は、各チャンネルCh1〜Ch5のY軸データバッファ63から出力されるY軸位置信号およびY軸タイミング信号を選択してチップ外部のコンピュータ30に順次出力する。
【0044】
コンピュータ30は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)により構成されている。このコンピュータ30は、例えば、X軸読み出し回路25から出力されるX軸位置信号により特定されるX軸ストリップ11の直線と、Y軸読み出し回路26から出力されるY軸位置信号により特定されるY軸ストリップ12を構成する複数の断片を仮に繋げた場合に得られる直線との疑似交点を電子入射位置として特定する。疑似交点が複数ある場合は、当該複数の疑似交点の荷重重心位置を演算により求め、これを電子入射位置として特定する。
【0045】
上述の疑似交点を特定する際に、コンピュータ30は、X軸読み出し回路25から出力されるX軸タイミング信号により特定される電子入射タイミングと、Y軸読み出し回路26から出力されるY軸タイミング信号により特定される電子入射タイミングとが同一であるX軸ストリップ11およびY軸ストリップ12に基づいて、擬似交点を特定する。すなわち、コンピュータ30は、電子入射タイミングが互いに異なるX軸ストリップ11とY軸ストリップ12との組み合わせからは疑似交点を特定しない。
【0046】
図7は、第2の実施形態による電子の2次元読み出し例を示す図である。図8は、第2の実施形態による2次元読み出し回路20において異なる2箇所に電子がほぼ同時に入射した場合のTDCの動作例を示す図である。図7に示すように、分布領域A1および分布領域A2の2箇所に、増倍された複数の電子がほぼ同時(X軸ADC51およびY軸ADC61のサンプリング周期T1で同一の周期内)に入射したとする。
【0047】
例えば、図8に示すように、X軸TDC52およびY軸TDC62によりカウントされる時間(電子入射時点からサンプリング周期T1が次に切り替わるまでの時間)がt1のときに電子が分布領域A1に入射したとする。また、分布領域A1への電子入射と同一のサンプリング周期T1内でX軸TDC52およびY軸TDC62によりカウントされる時間がt2(t1≠t2)のときに電子が分布領域A2に入射したとする。
【0048】
この場合、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26は、分布領域A1への電子入射に関して、★印を付けた位置のX軸ストリップ11およびY軸ストリップ12において電子の読み出しを行う。すなわち、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26は、★印を付けた位置のX軸位置信号およびY軸位置信号を出力するとともに、時間t1を表すX軸タイミング信号およびY軸タイミング信号を出力する。コンピュータ30は、これら電子の読み出しが行われた4本のストリップの疑似交点P1,P2,P3,P4の荷重重心位置を演算により求め、その荷重重心位置に電子が入射したものとして特定する。
【0049】
また、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26は、分布領域A2への電子入射に関して、☆印を付けた位置のX軸ストリップ11およびY軸ストリップ12において電子の読み出しを行う。すなわち、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26は、☆印を付けた位置のX軸位置信号およびY軸位置信号を出力するとともに、時間t2を表すX軸タイミング信号およびY軸タイミング信号を出力する。コンピュータ30は、これら電子の読み出しが行われた4本のストリップの疑似交点P5,P6,P7,P8の荷重重心位置を演算により求め、その荷重重心位置に電子が入射したものとして特定する。
【0050】
なお、従来はX軸タイミング信号およびY軸タイミング信号がなく、X軸位置信号およびY軸位置信号しか用いていなかった。そのため、図8のように同一のサンプリング周期T1内において分布領域A1および分布領域A2の2箇所に電子が入射すると、☆印を付けた位置のX軸ストリップ11と★印を付けた位置のY軸ストリップ12とが交差する領域G1、★印を付けた位置のX軸ストリップ11と☆印を付けた位置のY軸ストリップ12とが交差する領域G2にも電子が入射したものと誤検出してしまっていた。
【0051】
これに対して、第2の実施形態では、X軸位置信号およびY軸位置信号に加えて、X軸タイミング信号およびY軸タイミング信号を用いている。図7の例の場合、☆印を付けた位置のX軸ストリップ11への電子入射タイミング(時間t2)と、★印を付けた位置のY軸ストリップ12への電子入射タイミング(時間t1)とが異なっている。そのため、コンピュータ30は、X軸タイミング信号とY軸タイミング信号との違いから、☆印を付けた位置のX軸ストリップ11へ入射した電子と、★印を付けた位置のY軸ストリップ12へ入射した電子とを互いに異なるタイミングで入射したものとして区別することができる。よって、コンピュータ30は、領域G1では疑似交点を特定しないようにすることができる。
【0052】
同様に、★印を付けた位置のX軸ストリップ11への電子入射タイミング(時間t1)と、☆印を付けた位置のY軸ストリップ12への電子入射タイミング(時間t2)とが異なっている。そのため、コンピュータ30は、★印を付けた位置のX軸ストリップ11と☆印を付けた位置のY軸ストリップ12との組み合わせから領域G2では疑似交点を特定しないようにすることができる。
【0053】
以上のように、第2の実施形態によれば、X軸読み出し回路25およびY軸読み出し回路26が備える各ADC51,61の同一のサンプリング周期内において複数の電子が異なる分布領域A1,A2に入射した場合でも、当該ADC51,61よりも短いサンプリング周期、つまりADC51,52よりも高い時間分解能で各TDC52,62により検出された電子入射タイミングが異なっていれば、ADC51,61の時間分解能からすれば異なる位置に同時に入射したと見える電子を、異なるタイミングで入射した電子として互いに区別することができる。
【0054】
これにより、電子が入射したX軸ストリップ11とY軸ストリップ12とのマトリクスで特定される実際の疑似交点P1〜P8の位置以外にも電子が入射した疑似交点があるものと誤検出してしまう不都合を抑制することができる。すなわち、ADC51,61から出力されるX軸位置信号およびY軸位置信号に基づき電子入射位置を正確に検出して、擬似画像の発生を抑制することができる。しかも、ADC51,61の時間分解能を上げる必要がないので、消費電力の増加および回路面積の増加を防ぐこともできる。
【0055】
ADC51,61の高速化は大幅な消費電力および回路面積の増加につながるため、多数チャンネルを同一チップに納めることが難しくなってくる。これに対して、第2の実施形態のように、ADC51,61を高速化する代わりに、TDC52,62を導入することで、消費電力の増加および回路面積の増加を抑えつつ、電子入射位置を正確に検出して擬似画像の発生を抑制することができる。例えば、10MHzのADC51,61を100MHzのADCに置き換えるよりも、ADC51,61は10MHzのままとして、100MHzのTDC52,62を導入する方が、消費電力および回路規模をほとんど変えることなく、同等の擬似画像発生抑制性能を得ることが可能である。
【0056】
図9は、第2の実施形態の効果を説明するための図である。図9において、横軸は電子入射頻度、つまりADC51,61のサンプリング周波数を表している。縦軸はデータ取得効率、つまり擬似画像を発生せずにデータを取得できる効率を表している。図9に示すように、従来方式では、ADC51,61のサンプリング周波数(電子入射頻度)が10MHzの場合、擬似画像の生じた事象を捨てることによってデータ取得確率は40%程度と低くなっている。一方、第2の実施形態では、ADC51,61のサンプリング周波数(電子入射頻度)が10MHzのままであっても、データ取得効率を80%程度と2倍にすることができる。これにより、非破壊検査対象物のイメージング像の取得時間を短縮することができる。
【0057】
なお、上記第1および第2の実施形態では、X軸ストリップ11の長手方向と、Y軸ストリップ12を構成する各断片の長手方向とが成す角度を90度とする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図10に示すように、X軸ストリップ11の長手方向と、Y軸ストリップ12を構成する各断片の長手方向とが成す角度を0度とするようにしても良い。あるいは、90度または0度以外の角度としても良い。
【0058】
また、上記第1および第2の実施形態では、X軸ストリップ11を1本の線状構造により形成し、Y軸ストリップ12を複数の断片により形成する例について説明したが、その逆としても良い。すなわち、X軸ストリップ11を複数の断片により形成し、Y軸ストリップ12を1本の線状構造により形成しても良い。

【0059】
また、上記第2の実施形態では、X軸タイミング検出器およびY軸タイミング検出器の一例としてX軸TDC52およびY軸TDC62を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、X軸ADC51およびY軸ADC61の時間分解能よりも高い時間分解能で電子の入射タイミングを検出できるものであれば、TDC以外のものを用いても良い。
【0060】
その他、上記第1および第2の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 2次元読み出し回路
11 X軸ストリップ
12 Y軸ストリップ
13 配線
14 プリント基板
15 X軸読み出し回路
16 Y軸読み出し回路
20 2次元読み出し回路
25 X軸読み出し回路
26 Y軸読み出し回路
51 X軸ADC
52 X軸TDC
61 Y軸ADC
62 Y軸TDC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層においてX方向に対して離間的に配置された複数のX軸ストリップと、
上記X軸ストリップと同じ表層においてY方向に対して離間的に、かつ、上記複数のX軸ストリップの間に複数の断片として断続的に配置された複数のY軸ストリップと、
上記複数のY軸ストリップの裏層にそれぞれ配置され、Y軸ストリップを構成する上記複数の断片を電気的に接続する複数の配線と、
上記複数のX軸ストリップがそれぞれ接続され、当該複数のX軸ストリップの何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出すX軸読み出し回路と、
上記複数の配線がそれぞれ接続され、当該配線に接続された上記複数の断片から成る複数のY軸ストリップの何れかに入射した電子により生じるアナログ信号をデジタル信号にA/D変換して読み出すY軸読み出し回路とを備えたことを特徴とする2次元読み出し回路。
【請求項2】
上記X軸読み出し回路は、上記複数のX軸ストリップから出力されるアナログ信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号にA/D変換する複数のX軸A/D変換器と、上記X軸A/D変換器のサンプリング周期よりも短いサンプリング周期で動作し上記複数のX軸ストリップに電子が入射したタイミングをそれぞれ検出する複数のX軸タイミング検出器とを備え、
上記Y軸読み出し回路は、上記複数のY軸ストリップが接続された上記配線から出力されるアナログ信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号にA/D変換する複数のY軸A/D変換器と、上記Y軸A/D変換器のサンプリング周期よりも短いサンプリング周期で動作し上記複数のY軸ストリップに電子が入射したタイミングをそれぞれ検出する複数のY軸タイミング検出器とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の2次元読み出し回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−99813(P2011−99813A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255948(P2009−255948)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月27日 「IEEE/NSS Conference 2009」に発表
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【Fターム(参考)】