説明

3ピースリシール缶

【課題】溶接性、フィルムとの密着性、および、耐食性に優れ、果汁などの酸性飲料を高品質に貯蔵できる3ピースリシール缶を提供する。
【解決手段】ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に200〜1000mg/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁などの酸性飲料を高品質に貯蔵できる3ピースリシール缶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3ピースリシール缶は、缶胴、缶底部およびキャップの部材から構成されている。缶胴は、被溶接部を除き、予めPETフィルムをラミネートされた鋼板を円筒形に丸め、被溶接部を0.3〜0.6mmに重ね合わせ電気抵抗溶接することで筒状の缶が製造される。この缶の底底部の蓋を取付ける側はフランジ加工が行われ、底蓋が取付けられる。一方、キャップが取付けられる側は、ネック加工後、キャップのリシールを可能にするネジ加工が行われる。ネジ加工は、回転する圧子を缶の内面と外面から押し当て、缶の円周方向にネジの山谷の形状を形成させる加工であるが、その際、圧子が当っている箇所では、大きな剪断力が円周方向に発生する。そのため、ラミネートされたフィルムが、その剪断力によって胴材と剥離しないように密着性を確保する必要がある。こうしてネジ加工された箇所には、ネジ加工を施されたアルミ製のキャップが巻締められる。また、ネジ加工前にネジ加工の無いキャップを缶に被せ、キャップの上から圧子を押し当て、缶本体とキャップを一緒にネジ加工する工程もある(下記特許文献1)。
【0003】
通常の3ピース缶の胴材には、Snをめっきした後に溶融溶錫でSnの一部を合金化したブリキ等の鋼板(下記特許文献2〜7)が適しているが、Snを使用しないNiめっき鋼板(下記特許文献8〜9)も使用されている。果汁のような酸性飲料は腐食性が比較的高いため、その飲料中では合金化していないSnが地鉄に対して犠牲防食するSnめっき鋼板が使用される傾向にある。一方、Niめっき鋼板は、比較的、腐食性の低い飲料に適用されている。また、Snに比べて非常に優れたフィルム密着性、特に、加工部での密着性を有していることから、高加工部材で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−341851号公報
【特許文献2】特開平6−135441号公報
【特許文献3】特開平6−218462号公報
【特許文献4】特開平7−156953号公報
【特許文献5】特開平5−32256号公報
【特許文献6】特公平7−2998号公報
【特許文献7】特公平3−49628号公報
【特許文献8】特開平10−246644号公報
【特許文献9】特許第253372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3ピースリシール缶に、前記の酸性飲料を充填する場合、耐食性の観点では、胴材にはSnめっき鋼板が最適であるが、缶胴にネジ加工が施された際、強い剪断力によって合金化していないSnが変形しフィルムとの密着性が損なわれ、フィルムシワの発生やフィルム剥離が発生し易くなる。合金Sn(合金化したSn)は、密着性に優れているが酸性飲料に対する耐食性が不十分である。一方、Niめっき鋼板は、前記のフィルム剥離の問題は皆無であるが、酸性飲料に対する耐食性が不十分であることから、缶としては機能しないという問題点があった。そこで本発明は、溶接性、フィルムとの密着性、および、耐食性に優れ、酸性飲料を高品質に貯蔵できるラミネート3ピースリシール缶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のラミネート3ピースリシール缶の缶底部の蓋に無塗装、無フィルムのSnめっき鋼板を使用することで耐食性を確保し、缶の胴材にPETフィルムをラミネートしたSn合金層活用のSnめっき鋼板またはNiめっき鋼板を使用し、加工時のフィルム密着性を確保することで、酸性飲料を充填しても腐食の進行を抑制できることを見出した。また、缶胴材に使用されるSn合金層を活用したSnめっき鋼板のSnもPETフィルムを通じてわずかながら同様に腐食を抑制する効果を有す。これは、缶内での腐食が充填時に混入する酸素によって、急速に進行し、酸素が消費された後は、徐々に、進行する現象を活用している。即ち、腐食の初期段階では、缶内の酸素をSnが犠牲防食することで消費し、酸素が消費された後は、低腐食性飲料にしか適用されない比較的耐食性の低いNiめっき鋼板であっても、その腐食速度は格段に下がり、実用上、十分な寿命を確保できることを見出すに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1) ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に200〜1000mg/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
(2)ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に200〜1000mg/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
(3)ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施し、次いで、Snめっきを0.2〜2g/m2施し、溶融溶錫処理を行いSnを合金化した後、クロメート皮膜を金属Cr換算で10〜30mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
(4)ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施し、次いで、Snめっきを0.2〜2g/m2施し、溶融溶錫処理を行いSnを合金化した後、クロメート皮膜を金属Cr換算で10〜30mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の缶底部に使用するSnめっき鋼板は、Snめっき後、溶融溶錫処理を行い、0.2g/m2〜1.5g/m2のSnを合金化することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の缶底部に使用するSnめっき鋼板は、Snめっきの前に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施すことを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶接性、フィルムとの密着性、および、耐食性に優れ、果汁などの酸性飲料を高品質に貯蔵できる3ピースリシール缶を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明に使用されるめっき原板の製造法、材質などは特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸先、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。このめっき原板に、Niめっきを行う際、通常、めっき原板表面を清浄化するため前処理として脱脂、酸洗が行われるが、それらの方法は特に規制するものでは無く、例えば、10%苛性ソーダ中で脱脂した後、5%硫酸溶液中で電解酸洗を行えばよい。脱脂、酸洗に引続き、電気的にNiめっきが行われる。Niめっきの方法についても特に規制しない。例えば、硫酸Niとホウ酸を用い、20〜40g/LのNiイオンを含む30〜45℃、pH4程度の液中で、電流密度1A/dm2から5A/dm2でNiめっきすると良い。Niをめっきする目的は、溶接性と耐食性及び加工密着性の確保である。Niは鍛接により固相接合し易い特性を有しており、優れた溶接性を発揮させることができる。この溶接性の向上効果は、Niめっき量が200mg/m2以上で発揮し始め、Niめっき量の増加に応じて緩やかに溶接性は向上するが、1000mg/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。従って、Niめっき量は200mg/m2から1000mg/m2に規定される。
【0010】
また、Niはクロメート処理皮膜との相乗効果で更に優れた加工密着性を発揮する。クロメート処理により形成される皮膜は、水素結合によりフィルムと強固な密着を形成する水和酸化Crで構成される。この優れた密着性は、クロメート皮膜が金属クロム換算で2mg/m2以上付与されると発揮され始め、付着量が増加する程、緩やかに密着性は向上する。一方、クロメート皮膜は、絶縁性のため、溶接に必要な電流が不安定になり、皮膜量が多すぎると局所的に発熱し、散りが発生しやすくなることから、クロメート皮膜量は金属クロム換算で10mg/ m2以下にする必要がある。このクロメート皮膜を付与する方法は、特に規制しない。例えば、Cr酸100g/L、硫酸1g/Lの溶液中で、1A/dm2から5A/dm2の電流密度でカソード電解することで得ることができる。
【0011】
Snめっきを実施する場合も、Niめっきと同様にめっき原板表面を清浄化するための前処理として脱脂、酸洗が行われるが、それらの方法は特に規制するものでは無く、例えば、10%苛性ソーダ中で脱脂した後、5%硫酸溶液中で電解酸洗を行えばよい。脱脂、酸洗に引続き、電気的にSnめっきが行われる。Snめっきの方法についても特に規制しない。例えば、硫酸と硫酸Snを用い、15〜30g/LのSnイオンを含むpH1程度の酸性溶液を作液し、30〜45℃、電流密度1A/dm2から5A/dm2でSnめっきすると良い。
【0012】
缶底部にSnめっき鋼板を使用する目的は、耐食性の確保である。Snは酸性飲料中では地鉄に対して犠牲防食し、特に、充填直後、即ち、腐食の初期段階では腐食を促進する缶内の酸素と反応することで、耐食性が確保される。このSnによる耐食性向上は、Snめっき量が2g/m2以上で発揮し始め、Snめっき量の増加に応じて緩やかに向上するが、15g/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。従って、Snめっき量は2g/m2から15g/m2に規定される。
【0013】
Snめっき層には、目には見えないミクロなピンホールが存在し、地鉄が露出する場合がある。そこで、Snめっきの後に溶融溶錫処理を行うことで、ピンホールを解消し、耐食性を向上させると共に、耐食性に優れたSn合金層を形成させ、犠牲防食作用によりSnが溶出し、Snめっき層が薄くなった箇所の腐食を防止し、鉄溶出を抑制することができる。このSn合金層による耐食性向上は、合金層のSnめっき量が0.2g/m2以上で発揮し始め、合金層のSnめっき量の増加に応じて緩やかに向上するが、1.5g/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。従って、合金層のSnめっき量は0.2g/m2から1.5g/m2に規定される。溶融溶錫処理の方法は特に規制するものではなく、Snの融点を超える温度まで加熱できる装置を使えば良く、例えば、通電加熱や誘導加熱あるいは電気炉中での加熱処理で可能である。
【0014】
缶底部に使用するSnめっき鋼板のSnめっき前にNiめっきすることで、上記のSn合金層の外観を銀白色にする効果が発揮される。これは、通常のSn合金は柱状晶で粗い表面のため、灰色または黒色の外観になっているが、NiがあるとSn合金の結晶が微細化し、更に緻密に析出するため、外観が銀白色になると考えられている。このNiの効果は、Niめっき量が10mg/m2以上で発揮し始め、Niめっきの増加に伴って緩やかに向上するが、200mg/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。Niめっき量は10mg/m2から200mg/m2に規定される。Niめっきの方法は特に規制しない。例えば、前述のNiめっき方を用いても良く、Ni-Fe合金めっきでも構わない。Ni-Fe合金めっきは、硫酸Feと硫酸Niとホウ酸を用い、20〜40g/LのNiおよびFeイオンを含む30〜45℃、pH2〜3程度の液中で、電流密度1A/dm2から5A/dm2でめっきすると良い。
【0015】
Snめっきに引続き、塗装等の密着性確保のためにクロメート処理が行われる。缶底部に使用されるSnめっき鋼板の内面側は、そのまま使用されるが、外面側は発錆の防止やすべり性を確保するため、簡単な塗装が施される。クロメート処理により形成される皮膜は、水素結合により塗料と強固な密着を形成する水和酸化Crで構成される。この優れた密着性は、クロメート皮膜が金属クロム換算で2mg/m2以上付与されると発揮され始め、付着量が増加する程、緩やかに密着性は向上すが、10mg/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。従って、クロメート皮膜量は金属クロム換算で2mg/m2から10mg/m2以下にする必要がある。また、この範囲のクロメート皮膜量であれば、缶内面側での発揮されるSnの耐食性向上効果に影響しない。このクロメート皮膜を付与する方法は、特に規制しない。例えば、重クロム酸ソーダ40g/L、pH4の溶液中で、1A/dm2から5A/dm2の電流密度でカソード電解することで得ることができる。
【0016】
缶胴材に使用するSnめっき鋼板には、Snめっきの前にNiめっきを行う必要がある。Niめっきの方法は特に規制しない。例えば、前述のNiめっき方を用いても良く、Ni-Fe合金めっきでも構わない。Ni-Fe合金めっきは、硫酸Feと硫酸Niとホウ酸を用い、20〜40g/LのNiおよびFeイオンを含む30〜45℃、pH2〜3程度の液中で、電流密度1A/dm2から5A/dm2でめっきすると良い。
【0017】
Snめっき前にNiをめっきする目的は、耐食性と密着性の確保である。Niは耐食性に優れた金属であることから溶融溶錫処理で生成するSn合金層の耐食性を向上させることができる。また、Snめっき前にNiをめっきすると溶融溶錫処理で溶融したSnが弾き易くなり、密着性に優れた合金Sn層の露出が増加し、合金化していないSnの露出を小さくなるため、加工部でのフィルム密着性を確保することができる。これらのNiの効果は、Niめっき量が10mg/m2以上で発揮し始め、Niめっきの増加に伴って緩やかに向上するが、200mg/m2を超えると、その向上効果が飽和し経済的に不利益である。Niめっき量は10mg/m2から200mg/m2に規定される。
【0018】
缶胴材に使用するSnめっき鋼板のSnの役割は溶接性の確保である。Snは接触抵抗を下げる効果があり、Snめっき鋼板は電気抵抗溶接を容易に行うことができる。Snの溶接性の向上効果は、Snめっき量が0.2mg/m2以上で発揮し始め、Snめっき量の増加に応じて緩やかに溶接性は向上するが、2g/m2を超えると、Niめっきがあっても、溶融溶錫後の合金Sn層の露出が確保できなくなり、密着性が阻害される。従って、Snめっき量は0.2g/m2から2g/m2に規定される。
【0019】
更に、前述した様に、密着性を確保するため、溶融溶錫処理が行われるが、その処理で生成されるSnの合金量が0.2g/m2以上から密着性が向上し始め、Snの合金の増加に応じて緩やかに密着性は向上する。しかし、1g/m2を超えると硬いSn合金層がネジ等の加工に追従出来なくなり、Sn合金層に割れ等の損傷が生じ、密着性や耐食性が著しく劣化する。従って、Snの合金量は、0.2g/m2から1g/m2に規制する必要がある。Snの合金量の制御は溶融溶錫処理時の温度や時間を調整することで可能であるが、工業的には通電加熱や誘導加熱あるいは電気炉中での加熱処理で可能である。
【0020】
Snめっきに引続き、優れたフィルム加工密着性確保のためにクロメート処理が行われる。クロメート処理により形成される皮膜は、水素結合によりフィルムと強固な密着を形成する水和酸化Crと金属Crで構成される。この優れた加工密着性は、クロメート皮膜が金属クロム換算で10mg/m2以上付与されると発揮され始め、付着量が増加する程、緩やかに密着性は向上する。一方、クロメート皮膜は、絶縁性のため、溶接に必要な電流が不安定になり、皮膜量が多すぎると局所的に発熱し、散りが発生しやすくなることから、クロメート皮膜量は金属クロム換算で30mg/m2以下にする必要がある。このクロメート皮膜を付与する方法は、特に規制しない。例えば、Cr酸100g/L、硫酸1g/Lの溶液中で、10A/dm2から40A/dm2の電流密度でカソード電解することで得ることができる。
【0021】
上記のNiめっき鋼板および缶同材用のSnめっき鋼板を用いて、3ピースリシール缶が製造される。3ピースリシール缶の製造方法についても特に規制しない。例えば、特許文献1に記載の方法を用いれば良い。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例及び比較例について述べ、その結果を表1に示す。
缶胴材用のめっき鋼板は以下の方法で作製した。
【0023】
(製法1)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、硫酸Niとホウ酸を用い、40g/LのNiイオンを含む45℃、pH4の液中で、電流密度1A/dm2でNiめっきを付与し、引続き、Cr酸100g/L、硫酸1g/Lの45℃の液中で、5A/dm2の電流密度でカソード電解しクロメート処理行ってNiめっき鋼板を作製した。前記Niめっき鋼板を縦110mm、横170mmに剪断し、被溶接部になる縦辺近傍を除いて、2軸延伸された厚さ15μmのPETフィルムを板の両面にラミネートして、缶胴材用のNiめっき鋼板を作製した。
【0024】
(製法2)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、硫酸Niと硫酸Feとホウ酸を用い、40g/LのNiイオンと20g/lのFeイオンを含む45℃、pH2.5の液中で、電流密度10A/dm2でNiめっきを付与し、引続き、硫酸Snと硫酸から20g/LのSnイオンを含むpH1.1のSnめっき液を作製し、45℃、2A/dm2でSnめっきを付与した。溶融溶錫処理は、通電加熱方式で行い、約245℃まで加熱した直後に60℃の水で冷却した。クロメート処理は、Cr酸100g/L、硫酸1g/Lの溶液中で、20A/dm2の電流密度でカソード電解することで実施した。前記Snめっき鋼板を縦110mm、横170mmに剪断し、被溶接部になる縦辺近傍を除いて、2軸延伸された厚さ15μmのPETフィルムを板の両面にラミネートして、缶胴材用のSnめっき鋼板を作製した。
【0025】
(製法3)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、硫酸Niを用い、40g/LのNiイオンを含む45℃、pH4の液中で、電流密度1A/dm2でNiめっきを付与し、引続き、硫酸Snと硫酸から20g/LのSnイオンを含むpH1.1のSnめっき液を作製し、45℃、2A/dm2でSnめっきを付与した。溶融溶錫処理は、通電加熱方式で行い、約245℃まで加熱した直後に60℃の水で冷却した。クロメート処理は、Cr酸100g/L、硫酸1g/Lの溶液中で、20A/dm2の電流密度でカソード電解することで実施した。前記Snめっき鋼板を縦110mm、横170mmに剪断し、被溶接部になる縦辺近傍を除いて、2軸延伸された厚さ15μmのPETフィルムを板の両面にラミネートして、缶胴材用のSnめっき鋼板を作製した。缶底材用のSnめっき鋼板を以下の方法で作製した。
【0026】
(製法4)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、硫酸Snと硫酸から20g/LのSnイオンを含むpH1.1のSnめっき液を作製し、45℃、2A/dm2でSnめっきを付与した。溶融溶錫処理は、通電加熱方式で行い、約245℃まで加熱した直後に60℃の水で冷却した。クロメート処理は、重クロム酸ソーダ40g/L、pH4の溶液中で、3A/dm2の電流密度でカソード電解することで実施した。
【0027】
(製法5)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、(製法2)記載のNiめっきを付与し、硫酸Snと硫酸から20g/LのSnイオンを含むpH1.1のSnめっき液を作製し、45℃、2A/dm2でSnめっきを付与した。溶融溶錫処理は、通電加熱方式で行い、約245℃まで加熱した直後に60℃の水で冷却した。クロメート処理は、重クロム酸ソーダ40g/L、pH4の溶液中で、3A/dm2の電流密度でカソード電解することで実施した。
【0028】
(製法6)冷間圧延後、焼鈍、調圧された0.19mm厚のめっき原板の両面に、(製法3)記載のNiめっきを付与し、硫酸Snと硫酸から20g/LのSnイオンを含むpH1.1のSnめっき液を作製し、45℃、2A/dm2でSnめっきを付与した。溶融溶錫処理は、通電加熱方式で行い、約245℃まで加熱した直後に60℃の水で冷却した。クロメート処理は、重クロム酸ソーダ40g/L、pH4の溶液中で、3A/dm2の電流密度でカソード電解することで実施した。
【0029】
前記Niめっき鋼板およびSnめっき鋼板をスードロニック社の溶接機を用いて、被溶接部の重ね代を0.4mmm、加圧力45daNに設定し、550cpmで溶接した。溶接性の評価は、溶接電流を変更して試験材を溶接し、十分な溶接強度が得られる最小電流値とチリ及び溶接スパッタなどの溶接欠陥が目立ち始める最大電流値からなる適正電流範囲の広さと溶接ナゲットの連続性から総合的に判断し、4段階(◎:非常に良い、○:良い、△:劣る、×:溶接不能)で評価した。
【0030】
十分な溶接強度を有する前記の缶に、1mm間隔の溝を付与した円筒状の2つの圧子を150mpmで回転させ、缶上部の内面と外面を挟み込み1mm間隔で1mm高さの山谷を有するネジ加工を缶に施した。その後、125℃、30分のレトルト処理を行い、ネジ加工部のフィルムの剥離状況を4段階(◎:加工後およびレトルト処理でも全く剥離無し、○:加工後は剥離なしでレトルト処理で実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:加工後に軽微な剥離有り、×:加工後に大部分で剥離)で評価した。
【0031】
Snめっき鋼板は、エポキシフェノール系の樹脂を塗布し、200℃、30minで焼き付けを行い、その後、缶底部の蓋加工を施し、カールやカウンターシンク加工部をテープ剥離し、剥離状況を4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。
【0032】
上記のネジ加工を施した缶胴部にアルミ性のキャップで蓋をし、市販の100%オレンジジュース(酸性飲料)を充填し、上記の蓋加工した缶底部を巻締め、30℃で6ヶ月保管後、内容物を取り出し、鉄溶出量を測定すると共に缶内面の腐食状況を観察した。腐食状況は、ネジ部を中心に目視で観察し、4段階(◎:ネジ部、平板部に腐食が全く認められない、○:ネジ部に実用上問題無い程度の僅かな腐食が認められるが、平板部には腐食が全く認められない、△:ネジ部と平板部に微小な腐食が認められる、×:ネジ部に激しい腐食が認められと平板部にも腐食が認められる)で判断して評価した。また、缶底部に露出した合金層の外観も観察した。
【0033】
また、底底部に使用するSnめっき鋼板の塗料密着性は、Snめっき鋼板にエポキシ−フェノール樹脂を塗布し、200℃、30minで焼付けた後、1mm間隔で地鉄に達する深さのゴバン目を入れ、テープで剥離し、剥離状況を4段階(◎:全く剥離無し、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離有り、△:僅かな剥離有り、×:大部分で剥離)で評価した。
【0034】
表1に示すように、本発明の条件を満足する発明例は溶接性、フィルムとの密着性、および、耐食性に優れている一方、本発明の条件を満足しない比較例は、溶接性、フィルムとの密着性、耐食性のいずれかが劣っていた。なお、表1の比較例6は缶底部にも缶胴部と同じPETフィルムがラミネートされたNiめっき鋼板を使用した時の結果を示している。比較例6の缶は、ネジ等の加工部分や平板部でスポット状に腐食し、鉄溶出量も多い。また、腐食箇所の断面観察では、穿孔腐食が進行し、激しいものは、板厚の4/5程度まで進行していた。一方、Snめっき鋼板を缶底に使用した場合は、腐食は殆ど認められず、腐食が認められた箇所でも、穿孔腐食は軽微で、板厚の1/10程度の進行であった。
【0035】
以上の実施例に示すように、本発明の3ピースリシール缶は溶接性、フィルムとの密着性、および、耐食性に優れ、酸性飲料を高品質に貯蔵できることが明らかになり、本発明の効果が確認された。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に200〜1000mg/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【請求項2】
ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に200〜1000mg/ m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【請求項3】
ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施し、次いで、Snめっきを0.2〜2g/m2施し、溶融溶錫処理を行いSnを合金化した後、クロメート皮膜を金属Cr換算で10〜30mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【請求項4】
ネジ加工を施された缶体の缶底部に、Snめっきを片面に2〜15g/m2施し、次いで、クロメート皮膜を金属Cr換算で2〜10mg/m2施した無塗装、無フィルムの鋼板を使用し、缶胴部に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施し、次いで、Snめっきを0.2〜2g/m2施し、溶融溶錫処理を行いSnを合金化した後、クロメート皮膜を金属Cr換算で10〜30mg/m2施し、更に、PETフィルムをラミネートした鋼板を使用することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の缶底部に使用するSnめっき鋼板は、Snめっき後、溶融溶錫処理を行い、0.2g/m2〜1.5g/m2のSnを合金化することを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の缶底部に使用するSnめっき鋼板は、Snめっきの前に、Niめっきを片面に10〜200mg/m2施すことを特徴とする酸性飲料用3ピースリシール缶。



【公開番号】特開2011−117071(P2011−117071A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218071(P2010−218071)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】