説明

ALIP型フローはんだ付け装置

【課題】
流路反転型のALIP型電磁ポンプは、推力発生流路から反転流路へと溶融はんだの流れる方向が反転する領域における流動損失が大きく、吐出力の微細な変動が発生し、はんだ付け品質を変動させる原因となっている。
【解決手段】
電磁ポンプ内の往路の推力発生流路36から復路の推力発生流路38へ送給流路が反転推移する位置に、外部コアおよび移動磁界発生用コイルが設けられていない領域でかつ内部コアを設けられていない領域を設けて、往路および復路の推力発生流路の送給流速よりも送給流速が低下する圧力室37を形成し、復路の流路に形成された吐出口38に吐出流速を急激に低下させる拡散室10を備えたチャンバ体9を連携して設け、該チャンバ体9に吹き口体16を設ける。
前記往路および復路の推力発生流路36、38と圧力室37と拡散室10とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の被はんだ付け部に溶融はんだを供給してはんだ付けを行うフローはんだ付け装置に関するものであって、特に、誘導型電磁ポンプを用いたフローはんだ付け装置に関する。
【0002】
誘導型電磁ポンプを使用したフローはんだ付け装置は、溶融はんだの噴流状態を安定に維持できると供に溶融はんだを送給するパラメータの再現性と安定性が極めて良好で、いつでも同じ条件のはんだ付け実装が可能になって安定したはんだ付け品質を得ることができる特徴を有している。
【背景技術】
【0003】
送給するべき媒体に直接に電磁力を作用させて推力を発生させ、これをポンプの吐出力および吸い込み力とする電磁ポンプ(LEP:linear electromagnetic pump)には、大別して誘導型(induction type)と伝導型(conduction type) とがある。一般的に、送給するべき媒体への通電が不要な誘導型が多く使用されている例が多い。
【0004】
そして、この誘導型の電磁ポンプには、大別してフラットリニア型(FLIP型:flat linear induction pump) とアニュラリニア型(ALIP型:annular linear induction pump)そしてヘリカル型(HIP型:helical induction pump) とがあり、それぞれ固有の構成を有している。
【0005】
ところで、ALIP型電磁ポンプを使用したフローはんだ付け装置の技術としては、特許文献1の技術がある。この技術は、ALIP型電磁ポンプの一端を封止すると共に内部コアに反転流路を設けて構成したもので、推力発生流路で推力が与えられて送給される溶融はんだの方向を前記封止端で反転させて前記反転流路に送給する構成であり、推力発生流路における溶融はんだの送給方向と内部コアに設けられた反転流路を流れる溶融はんだの送給方向とは逆方向になる。
【0006】
この特許文献1に開示される技術では、ALIP型電磁ポンプがはんだ槽の外側に位置しているので、特に電磁ポンプのメンテナンス作業を容易に行うことができる特徴を有している。また、はんだ槽の容積も小さくできる。なお、標準的なALIP型電磁ポンプの例としては、特許文献2が参考になる。
【特許文献1】特開2005−205479号公報
【特許文献2】特開平 5−260719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の技術では、推力パイプの封止端において全ての推力が圧力に変換された後に内部コアの反転流路へ溶融はんだを供給する構成であるので、溶融はんだの流れる方向が反転する封止端領域における流動損失が大きく、また、この流動損失の微細な変動が電磁ポンプの吐出力の微細な変動となって現れる。
【0008】
この吐出力の微細な変動は、従来の回転式ポンプによる吐出力の変動に比べれば遙に小さい大きさであるが、推力が一定している電磁ポンプの長所を完全に引き出すための障害になる。すなわち、前記の吐出力の微細な変動は溶融はんだの噴流波の形状を変動させ、この変動がプリント配線板への溶融はんだの供給圧力を変動させてはんだ付け品質を変動させる原因になるからである。
【0009】
近年になって、前記の吐出力の微細な変動のうちの短周期の変動が、1枚のプリント配線板内において部分的にはんだ付け品質を低下させる原因となっていることが判り、その解消が求められていた。
【0010】
そこで、本発明は、電磁ポンプ内における推力の分布を適切に配置する等して流動損失を低減すると共に吐出力の微細な変動を吸収するALIP型フローはんだ付け装置を実現することによって、従来よりも一層安定した噴流波を形成して高いはんだ付け品質を安定に維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ALIP型電磁ポンプ内の往路と復路において溶融はんだに推力を与えることができるように電磁ポンプを構成したところに特徴がある。また、溶融はんだの送給方向が反転する位置に圧力室を設けると共に電磁ポンプの吐出口に体積の大きい拡散室を設け、溶融はんだを送給する際の流動損失を一層低減すると共に吐出力の微細な変動を吸収するように構成したところに特徴がある。
【0012】
(1)本発明に使用するアニュラリニア型(ALIP型:annular linear induction pump)電磁ポンプは、その推力パイプの一端を封止してキャップ形状にし、この推力パイプの内側に挿入される内部コアはその軸芯方向に沿って前記推力パイプ内を2つに分ける仕切り板部を備えて前記推力パイプ内にその横断面が半環状であり縦断面が「U」字状に形成された往路となる推力発生流路と復路となる推力発生流路とを形成して成るように構成する。他方で、前記推力パイプの外側には前記往路の推力発生流路に移動磁界を発生させる往路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルと前記復路の推力発生流路に移動磁界を発生させる復路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルとがそれぞれ別々に設けられて成るように構成する。
【0013】
そして、前記アニュラリニア型電磁ポンプの推力パイプがはんだ槽の槽壁に設けられると供に前記往路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルと前記復路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルとが前記推力パイプの外側に環装して設けられるように構成し、他方で、前記推力パイプに形成された復路が溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体に連繋されて成るように構成したALIP型フローはんだ付け装置である。
【0014】
これにより、電磁ポンプ内における往路と復路とが対称に構成され、さらに往路においても復路においても溶融はんだに推力が与えられ、これらの推力も同じ値に維持される。したがって、溶融はんだの送給流路形状およびそこで与えられる推力が往路と復路とで平衡し、溶融はんだを送給するための流動損失が少なくなる。すなわち、溶融はんだに与えられる全推力が往路と復路とに2分されて平衡するので、溶融はんだの流れが往路から復路へ移行する際の損失を大幅に少なくできる。また、溶融はんだの流れも安定になる。
【0015】
(2)前記(1)のALIP型フローはんだ付け装置において、次のように構成する。すなわち、往路となる推力発生流路から復路となる推力発生流路へ流路が移行する位置に外部コアおよび移動磁界発生用コイルと内部コアとが設けられていない領域を設けて前記往路における送給流速および復路における送給流速よりも送給流速が低下する圧力室を形成する。さらに、前記復路の出口となる吐出口に吐出流速を急激に低下させる拡散室を備えたチャンバ体が連繋して設けられると供に前記チャンバ体には溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体が設けられるように構成する。
【0016】
そして、前記往路および復路の推力発生流路と前記圧力室と前記拡散室とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成するように構成したALIP型フローはんだ付け装置である。
【0017】
これにより、往路の推力発生流路から復路の推力発生流路へ溶融はんだが送給される際に発生する流動損失がさらに少なくなる。また、往路の推力発生流路と復路の推力発生流路とはそれぞれ流動インダクタンスとして作用し、推力パイプの圧力室とチャンバ体の拡散室とがそれぞれ流動キャパシタンスとして作用するので、これらにより吐出力の高域変動除去フィルタが形成され、吐出力の微細な変動のうちの高域の変動が除去されて形状の安定した噴流波を形成することができる。
【0018】
すなわち、ALIP型電磁ポンプにおいて、推力方向を基準とする横断面における長さよりも縦断面の長さが長い推力発生流路は、送給される溶融はんだから見て流動インダクタンスとして作用し、送給流速が急激に低下する推力パイプの圧力室やチャンバ体の拡散室は流動キャパシタンスとして作用する。したがって、推力発生流路(往路)→圧力室→推力発生流路(復路)→拡散室と送給される溶融はんだは、流速や圧力の変動のうちの周期の短い成分すなわち高域成分を濾過して吸収する高域減衰フィルタとして作用する。そのため、吐出力の微細な変動のうちの高域の変動が確実に除去されて形状の安定した噴流波を形成することができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電磁ポンプ内における推力の分布を往路と復路で2分して平衡させることで溶融はんだの送給方向が反転する際の流動損失を大幅に低減することができると供に流動損失の変動も大幅に少なくなり、電磁ポンプの吐出力ひいては溶融はんだの噴流波をその形状や波高等の噴流状態を安定化させることができるようになる。
【0020】
また、電磁ポンプの推力の微細な高域変動も大幅に少なくなり、一層安定した噴流波を形成して高いはんだ付け品質を安定に維持することができるようになる。その結果、特に大型プリント配線板の各部のはんだ付け品質が均一かつ安定になり、高いはんだ付け品質を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明におけるALIP型フローはんだ付け装置の構成例を図1〜図4を用いて説明する。図1は、ALIP型フローはんだ付け装置の構成を説明する図で、はんだ槽部分は縦断面で示し、制御系の構成をブロック図で示してある。また、図2は、ALIP型フローはんだ付け装置の全容を説明する斜視図である。さらに図3は、図1および図2に示すALIP型電磁ポンプの縦断面を示す図である。図4は、図1、図2および図3に示すALIP型電磁ポンプにおいて、はんだ槽に設けられる推力パイプと、この推力パイプ内に挿入される内部コアと、推力パイプに挿抜自在に設けられる外部コアおよび移動磁界発生用コイルの挿抜関係を説明する分解斜視図である。
【0022】
(1)構成例
図1に示すようにはんだ槽1内には槽底や槽壁に沿ってヒータが設けてあり、該はんだ槽1内に収容されたはんだ5を加熱して溶融させ、目的とする温度に保持するように構成されている。はんだの温度は温度制御装置8により制御される仕組みであり、該温度制御装置8は温度センサ7の温度検出結果を参照し、はんだの温度が予め指示された温度になるようにヒータ6に供給する電力を制御する仕組みとなっている。
【0023】
一方、はんだ槽1の側壁2の推力パイプ取り付け孔3にALIP型電磁ポンプ30の推力パイプ33をそのフランジ部40を介して溶接やねじ込みまたはその他の手段で設けてあり、この推力パイプ33内には図3や図4に示すようにその軸芯方向に沿って前記推力パイプ内を2つに等分する仕切り板部43を備えた内部コア34a、bが挿抜自在に設けてある。そして、推力パイプ33にこの内部コア34a、bが挿入されることにより、前記推力パイプ33内にその横断面が半環状であり縦断面が「U」字状に形成された往路となる推力発生流路36と復路となる推力発生流路38とが形成される。
【0024】
なお、内部コアは板状の非磁性部材42に半円柱状の第1の内部コア34aと第2の内部コア34bを設けて構成され、仕切り板部43はこの非磁性部材で構成されている。その結果、図4に示すように円柱状の内部コア34a、bの側面に仕切り板部43が羽根のように設けられた形状に構成されている。
【0025】
そして、推力パイプ33の外側には前記往路の推力発生流路36に移動磁界を発生させる往路用の第1の外部コア31aおよび第1の移動磁界発生用コイル31bと復路の推力発生流路38に移動磁界を発生させる復路用の第2の外部コア32aおよび第2の移動磁界発生用コイル32bとがそれぞれ別々に設けられ、図2および図4に示すように全体として環挿されて構成される。もちろん、これら第1および第2の外部コアと移動磁界発生用コイルのパッケージは挿抜自在に環挿されて成り、図示しないねじ手段等により固定してある。なお、図2および図4に示すように、第1の外部コア31aと第2の外部コア32aとの間にはエアギャップを設けてあり、外部コア相互間における磁気抵抗を高めて磁気結合を生じないようにしてある。
【0026】
特許文献2に開示されるALIP型電磁ポンプでは、移動磁界発生用コイルから見ていわゆる外鉄型にコイルが捲回されているが、本実施例のALIP型電磁ポンプでは図3に示すようにいわゆる内鉄型にコイルを捲回して構成している。
【0027】
そして、第1の内部コア34a側の推力発生流路すなわち往路の推力発生流路36から第2の内部コア34b側の推力発生流路すなわち復路の推力発生流路38へ溶融はんだの流れる方向が反転する位置の推力パイプ内には圧力室37を設けてある。この圧力室37内には内部コアは無く圧力室外には外部コアや移動磁界発生用コイルも無い。
【0028】
また、この圧力室37の長さひいては容積は、圧力室37内での溶融はんだの平均流速が往路および復路の推力発生流路36、38を流れる溶融はんだの流速の1/2以下好ましくは1/10以下になるようにすると、溶融はんだの流れの乱れ等によって生じる流動損失の微細な変動や移動磁界発生用コイルに電力を供給する際の高調波励振等による微細な推力変動を大幅に減衰させることができる。
【0029】
なお、この圧力室は、往路から復路へ溶融はんだの流れ方向が反転する際の流動損失も低減させる作用を有する。すなわち、往路の推力→圧力室の圧力→復路の吐出力とエネルギー変換が行われる際のエネルギー変換損失を低減することができる。これは主に圧力室内における溶融はんだの流れが整えられることによって、乱流により生じていた摩擦損失を低減できるからである。
【0030】
一方で、図1に示すように電磁ポンプの往路の入り口となる吸い込み口35ははんだ槽1内に向けて開口され、電磁ポンプの復路の出口となる吐出口39にはチャンバ体9が嵌合溝41に嵌め合わされている。そして、この嵌め合わされた連繋位置には、溶融はんだの流れる方向を基準とした横断面積が急激に拡大する拡散室10がチャンバ体9に設けてあり、この拡散室10における溶融はんだの流速が電磁ポンプの復路における溶融はんだの流速の1/10以下になるようにその大きさを決められている。後述するが、先の圧力室37とチャンバ体の拡散室10とは流動キャパシタンスとして作用するものであり、この拡散室10における溶融はんだの流速の低下は数分の1以下でも良い作用が得られるが、これを1/10以下になるように決めることにより噴流波の形状の安定性が特にその波高の安定性が格段に良好となり、肉眼で確認できるような高域変動が皆無となる。
【0031】
このチャンバ体9は吊り下げ部12によりはんだ槽1の上端縁にねじ14で固定してあり、把手13により着脱容易に構成してある。すなわち、この把手13を把持してチャンバ体9を電磁ポンプの吐出口39に嵌合させ、その嵌合状態ではんだ槽1に固定している。そして、チャンバ体9には噴流波を形成するための吹き口体16が設けてあり、スリーブ20を通したねじ21により溶融はんだ液面上において固定とその解除の作業が行えるように構成してある。すなわち、プリント配線板の種類によりはんだ付けに使用する噴流波の種類を変更することすなわち吹き口体を交換することが行われているが、この交換作業を容易に行うことができるように考慮してある。そして、チャンバ体9内には溶融はんだの流れベクトルを揃える整流板15を設けてあり吹き口17の位置による噴流ベクトルを揃えるように構成してある。
【0032】
次に、このALIP型電磁ポンプの駆動システムについて説明する。
【0033】
このALIP型電磁ポンプは、多相交流電源装置50(例えば、VVVF型3相インバータ電源装置)と接続され、多相交流電力を電磁ポンプの移動磁界発生用コイルに供給する。但し、往路に発生させる推力方向すなわち移動磁界の移動方向と復路に発生される推力方向すなわち移動磁界の移動方向が逆方向になるように多相交流電源装置の各相と移動磁界発生用コイルとを接続する。図1ではこれを明示するために往路用の第1の移動磁界発生用コイル31bとの接続を白矢印、復路用の第2の移動磁界発生用コイル32bとの接続を黒矢印とに分けて描いている。
【0034】
そして、この多相交流電源装置50は、制御装置51との通信によりその出力電圧や周波数、電力等々が任意に調節され制御される構成である。そして、制御装置51はコンピュータシステムで構成され、キーボード等の指示操作部52とLCD等の表示部53とを備えていて、指示操作部52からの指示により前記多相交流電源装置50の作動を制御する構成である。
【0035】
また、前記の温度制御装置8も制御装置51との通信によりヒータ6への供給電力や温度またPID等の制御特性が任意に調節され制御される構成となっている。
【0036】
ここで、はんだの融点ははんだの種類により異なり、従来から使用されて来た錫−鉛はんだ(例えば鉛37%で残部が錫)では約183℃、鉛フリーはんだの錫−亜鉛はんだ(例えば亜鉛9%で残部が錫)では約199℃、錫−銀−銅はんだ(例えば銀約3.5%,銅約0.7%,残部が錫)では約220℃、等々である。
【0037】
そのため、使用されるはんだの種類により被はんだ付けワークであるプリント配線板のはんだ付け実装に際して使用されるはんだの温度は異なるが、プリント配線板に搭載される電子部品の耐熱温度が考慮されるため、約220℃〜260℃程度の範囲で使用される例が最も多い。
【0038】
次に、はんだ槽について説明しておくと、はんだ槽1には、FCD−400やFCD−500(JIS)等の鋳鉄を使用する。これにより電磁ポンプからの漏洩磁界は、その殆どを推力パイプ取り付け孔3においてはんだ槽1で捕捉してはんだ槽1内すなわちはんだ内に漏洩することを阻止することができる。電磁ポンプの外部コアから推力発生流路を通り内部コアに至った移動磁界の殆どは逆のルートを通り外部コアに戻る。しかし、どうしても吸い込み口35や吐出口39となる電磁ポンプの端部においては漏洩磁界を生じ易く、この漏洩磁界がはんだ内に漏洩することを阻止することができる。
【0039】
はんだ槽の部材として従来から使用されているステンレスは非磁性の部材であり、はんだも同様に非磁性の部材である(最大でも透磁率は数10程度以下)。これに対し、鋳鉄等の鉄部材の透磁率は、数1000〜10000程度であり、この100倍以上の相違によって、漏洩磁界は磁気抵抗の少ないはんだ槽に捕捉される。しかも、電磁ポンプの内部コアの透磁率と同等以上の透磁率を有する鉄部材によりはんだ槽を構成するので、漏洩磁界を確実に捕捉できる。
【0040】
(2)作動
多相交流電源装置50からALIP型電磁ポンプ30に電力が供給されると、往路の推力発生流路36では圧力室37へ向けて移動する磁界が発生し復路の推力発生流路38では吐出口39へ向けて移動する磁界が発生する。そして、溶融はんだには移動磁界の移動方向へ推力が与えられる。そのため、往路の溶融はんだは圧力室方向への推力が与えられ、吸い込み口35から吸い込まれた溶融はんだは往路の推力発生流路36を経て推力パイプ33の圧力室37へ送給される。
【0041】
この圧力室37で流速が低減された溶融はんだは、往路の推力発生流路36で得た運動エネルギーを圧力エネルギーに変換した後に復路の推力発生流路38へ送給される。往路の推力により復路に送給された溶融はんだは、この復路でも吐出口39方向への推力が与えられて吐出口に送給される。
【0042】
往路と復路を対称に構成したALIP型電磁ポンプは、その流路形状においても推力においても往路と復路とが平衡した状態にある。すなわち、溶融はんだに与えられる全推力が往路と復路とに2分されて平衡するので、溶融はんだの流れが往路から復路へ移行する際の損失を大幅に少なくできる。また、溶融はんだの流れも安定になって、電磁ポンプの吐出力も安定する。
【0043】
続いて、吐出口39から送給される溶融はんだはチャンバ体9へ流れ、チャンバ体9の拡散室10で流速が急速に低減された溶融はんだは整流板15で流速のベクトルを揃えた後に吹き口体16の吹き口17から噴流して噴流波19を形成し、続いて案内板18(図2参照)を流下してはんだ槽1内に還流する。
【0044】
ALIP型電磁ポンプにおいては、推力方向を基準とする横断面における長さよりも縦断面の長さが長い推力発生流路が送給される溶融はんだから見て流動インダクタンスとして作用し、送給流速が急激に低下する推力パイプの圧力室やチャンバ体の拡散室は流動キャパシタンスとして作用する。そのため、これを等価な電気回路で描くと図5のように描くことができる。
【0045】
すなわち、往路の推力発生流路36と復路の推力発生流路38はインダクタンスとして表現され、推力パイプの圧力室37とチャンバ体の拡散室10とはキャパシタンスとして表現される。そして、推力が電源であり吹き口体16が負荷として表現できる。なお、推力は往路の推力発生流路と復路の推力発生流路とにおいて一様に分布する分布定数として表現するべきであるが、図5ではこれを等価な集中定数として表現している。
【0046】
図5に示される回路は低域通過フィルタの回路でありそれは高域除去フィルタである。流速や圧力の変動周期が短い成分は往路および復路の推力発生流路36、38で阻止されつつ圧力室37と拡散室10で吸収され、吹き口体16には高域変動が除去された噴流波19が形成される。そして、特に波高の高域変動が除去される。
【0047】
流速や圧力の変動周期が短い成分は、推力発生流路における摩擦や往路から復路へ送給方向が反転する際の推力パイプとの摩擦や溶融はんだの流れが乱れることによって生じる溶融はんだ相互の摩擦、さらには多相交流電源装置で発生する高調波による励振等々によって発生する。しかし、これらの高域変動成分は図5の等価回路で示される除去フィルタによって大幅に減衰・吸収され、吹き口体16の吹き口17には流速の安定した溶融はんだを供給できるようになる。
【0048】
このように、高域変動が除去された噴流波でプリント配線板に溶融はんだを供給すると、このプリント配線板に多数存在する各被はんだ付け部に短時間的にも長時間的にも一様なパラメータで溶融はんだが供給されるようになり、プリント配線板のどの位置(領域)においても一様なはんだ付け品質を得ることができるようになる。すなわち、隣り合う複数の被はんだ付け部において同じ濡れ性で同じフィレット形状のはんだ付けを行うことができるようになる。
【0049】
これにより、プリント配線板上の位置(領域)によってはんだ付け品質が低下する部分が個々のプリント配線板ごとに変化するということが無くなり、高いはんだ付け品質を安定に維持することができる。
【0050】
ところで、はんだ槽内の清掃作業を行うためにはんだ槽内から溶融はんだを抜き去ることが行われている。この作業は、はんだ槽の槽底に設けられたドレン弁から行うことが通常である。他方で、特許文献1においては、電磁ポンプの推力パイプ下端部にドレン弁を設けてはんだ槽内の溶融はんだを抜き去るように構成されている。これは、はんだ槽内から溶融はんだを抜き去っても、電磁ポンプの推力パイプ内に溶融はんだが残ってしまうからである。
【0051】
しかし、特許文献1のように溶融はんだの流れ方向が反転する部分にドレン弁を設けると、すなわち電磁ポンプの推力パイプの下端部にドレン弁を設けると、この下端部の形状がドレン弁による段部を有する不連続な形状になるために、溶融はんだの吐出力を減衰させたり吐出力に微細な変動を与えたりする問題がある。
【0052】
本発明のフローはんだ付け装置の構成では、はんだ槽1に設けたドレン弁4を開放すれば、ALIP型電磁ポンプの推力パイプ33内の溶融はんだがその吸い込み口35や吐出口39から流出するため、推力パイプ33にドレン弁を設ける必要がない。したがって、この点からも特許文献1の技術のように吐出力を減衰させたり吐出力に微細な変動を与えたりすることがなくなる。
【0053】
なお、吹き口体16内やチャンバ体9内の溶融はんだもALIP型電磁ポンプ30を通して流出する。また、それらを一体にしてはんだ槽から取り外すことにより流出させることもできる。さらに、チャンバ体に微細な孔11を設けておけばその孔から流出させることもできる。
【0054】
上記のとおり、実施例としてはんだ槽の側壁にALIP型電磁ポンプを設けた例について説明したが、本発明においてもALIP型電磁ポンプをはんだ槽の槽底に設けることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るALIP型フローはんだ付け装置は、電子部品をプリント配線板にはんだ付け実装する際に使用される。本発明により、大型平面テレビ等において採用が著しい大型のプリント配線板のフローはんだ付けに際して、その各部のはんだ付け品質が高くかつ均一なプリント配線板を製造することができるようになり、高信頼性の電子装置を供給できるようにすることによって電子産業に対する貢献は著しいものになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のALIP型フローはんだ付け装置の構成を説明する図
【図2】本発明のALIP型フローはんだ付け装置の斜視図
【図3】本発明に用いられるALIP型電磁ポンプの縦断面図
【図4】本発明に用いられるALIP型電磁ポンプの分解斜視図
【図5】はんだの流れを電気回路で描いた等価回路図
【符号の説明】
【0057】
1 はんだ槽
2 側壁
3 推力パイプ取り付け孔
4 ドレン弁
5 はんだ
6 ヒータ
7 温度センサ
8 温度制御装置
9 チャンバ体
10 拡散室
11 孔
12 吊り下げ部
13 把手
14 ねじ
15 整流板
16 吹き口体
17 吹き口
18 案内板
19 噴流波
20 スリーブ
21 ねじ
30 ALIP型電磁ポンプ
31a 第1の外部コア
32a 第2の外部コア
31b 第1の移動磁界発生用コイル
32b 第2の移動磁界発生用コイル
33 推力パイプ
34a 第1の内部コア
34b 第2の内部コア
35 吸い込み口
36 往路の推力発生流路
37 圧力室
38 復路の推力発生流路
39 吐出口
40 フランジ部
41 チャンバ嵌合溝
42 非磁性板
43 仕切板部
50 多相交流電源装置
51 制御装置
52 指示操作部
53 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプをはんだ槽の槽壁に設けたフローはんだ付け装置であって、
前記アニュラリニア型(ALIP型)電磁ポンプは、その推力パイプの一端を封止してキャップ形状にし、この推力パイプの内側に挿入される内部コアはその軸芯方向に沿って前記推力パイプ内を2つに分ける仕切り板部を備えて前記推力パイプ内にその横断面が半環状であり縦断面が「U」字状に形成された往路となる推力発生流路と復路となる推力発生流路とを形成して成り、前記推力パイプの外側には前記往路の推力発生流路に移動磁界を発生させる往路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルと前記復路の推力発生流路に移動磁界を発生させる復路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルとがそれぞれ別々に設けられて成り、
前記アニュラリニア型電磁ポンプの推力パイプがはんだ槽の槽壁に設けられると供に前記往路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルと前記復路用の外部コアおよび移動磁界発生用コイルとが前記推力パイプの外側に環装して設けられ、
前記推力パイプに形成された復路が溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体に連繋されて成ること、
を特徴とするALIP型フローはんだ付け装置。
【請求項2】
請求項1記載のALIP型フローはんだ付け装置において、
往路となる推力発生流路から復路となる推力発生流路へ流路が移行する位置に外部コアおよび移動磁界発生用コイルと内部コアとが設けられていない領域を設けて前記往路における送給流速および復路における送給流速よりも送給流速が低下する圧力室を形成し、
前記復路の出口となる吐出口に吐出流速を急激に低下させる拡散室を備えたチャンバ体が連繋して設けられると供に前記チャンバ体には溶融はんだの噴流波を形成する吹き口体が設けられ、
前記往路および復路の推力発生流路と前記圧力室と前記拡散室とにより溶融はんだの流速の微細な変動のうちの繰り返し周期の短い変動を吸収する高域変動除去フィルタを形成して成ること、
を特徴とするALIP型フローはんだ付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−30074(P2008−30074A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204395(P2006−204395)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000232450)日本電熱計器株式会社 (25)
【Fターム(参考)】