BPC−1:前立腺および膀胱の癌細胞によって発現および分泌がなされる分泌型の脳特異的蛋白質
【課題】前立腺癌、膀胱癌など種々の癌の管理に有用な診断法、治療方法を提供する。
【解決手段】前立腺癌細胞に高レベルで発現することが知られる、特定のアミノ酸配列で示される分泌腫瘍抗原BPC−1蛋白質。また、該蛋白質をコードし特定の核酸配列を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、該発現ベクターを含む組み換え宿主細胞、該宿主細胞を培養することによる蛋白質の製造方法、BPC−1蛋白質と特異的に結合するモノクロナール抗体、これを産生するハイブリドーマ、検出可能なマーカーで標識された該抗体を用いるアッセイ法。
【解決手段】前立腺癌細胞に高レベルで発現することが知られる、特定のアミノ酸配列で示される分泌腫瘍抗原BPC−1蛋白質。また、該蛋白質をコードし特定の核酸配列を有するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、該発現ベクターを含む組み換え宿主細胞、該宿主細胞を培養することによる蛋白質の製造方法、BPC−1蛋白質と特異的に結合するモノクロナール抗体、これを産生するハイブリドーマ、検出可能なマーカーで標識された該抗体を用いるアッセイ法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本明細書で述べる発明は、BPC-1と命名された、新規遺伝子およびそれによりコードされる分泌腫瘍抗原、ならびに前立腺癌、および膀胱癌を特に含むBPC-1を発現する種々の癌の管理に有用な診断方法および治療方法、ならびに組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌は、冠動脈疾患に次いで2番目に多いヒトの死因である。世界的にみても毎年何百万もの人々が癌で死亡している。米国だけでも毎年50万人をはるかに上回る人々が癌が原因で死亡しており、毎年140万人が新たに癌と診断されている。心疾患による死亡は大幅に減少しているが、癌による死亡は全体として増加しつつある。次世紀の初頭には、癌が死因の第1位になると予想されている。
【0003】
世界的にみて、いくつかの癌は主な死因として顕著である。特に、肺、前立腺、乳房、結腸、膵臓および卵巣の癌は、癌による死亡の主な原因である。これらの癌および事実上すべての他の癌には致死性という共通の特徴がある。極めてわずかな例外を除き、癌の転移は致死的である。さらに、原発癌による死亡を免れた癌患者であっても、生活は大きく変化することが一般的な経験から示されている。多くの癌患者は、再発または治療の失敗が起こりうるという可能性を認識しているために強い不安を抱く。多くの癌患者は治療後に身体衰弱がみられる。多くの癌患者が、再発を経験している。
【0004】
一般的にみて、極めて致死性の高い癌の管理における基本的な問題は、有効でしかも毒性のない全身療法がないことである。分子医学は、まだ極めて初期の段階にあるに過ぎないが、これらの癌の管理のあり方の見直しにつながると期待される。言うまでもなく、癌の診断および治療のための新たな分子的アプローチの開発を目指した取り組みは世界中で盛んに行われている。例えば、診断および予後判定マーカーならびに/または治療標的もしくは薬剤として用いうると考えられる真に腫瘍特異的な遺伝子および蛋白質を同定することには大きな関心が集まっている。これらの領域における研究の取り組みは有望であり、有用な分子技術が数多く利用可能になっていることから、癌に関する有意義な知見がますます得られるようになっている。しかしながら、進歩は遅々としており、一般的には一様でない。
【0005】
以下に述べる通り、前立腺癌の管理は、分子生物学がもたらした診療の現実的な進歩が限定的な程度に過ぎないことを示す好適な一例である。若干の例外はあるが、上記の他の主な癌についても状況はほぼ同じである。
【0006】
前立腺癌は世界的にみて男性で4番目に有病率の高い癌である。米国および北欧では、これは男性で最も多い癌であり、死因としても男性で2番目に多い癌である。米国だけでも毎年4万人をはるかに超える男性がこの疾患で死亡しており、これは肺癌に次いで第2位である。このように大きな数字に上るものの、転移性前立腺癌に対して有効な治療法は現在もない。主な治療手段は現在も、外科的前立腺切除術、放射線療法、ホルモン除去療法および化学療法である。残念ながら、これらの治療法は多くの患者に対して無効であり、しばしば望ましくない重大な結果をもたらす。
【0007】
診断面では、早期の限局性腫瘍を正確に検出できる前立腺癌マーカーが存在しないことが、現在も本疾患の管理における大きな限界となっている。血清PSAアッセイ法は極めて有用なツールであるが、PSAの特異性および全般的有用性にはいくつかの重要な点で欠点があると一般にみなされており、これについては以下でさらに考察する。ほとんどの前立腺癌は、尿道から隔たった前立腺の末梢域でまず発生する。この区域内にある腫瘍は何ら症状を伴わないと考えられ、このため、早期前立腺癌のほとんどの男性は明らかな進行が起こるまで疾患の臨床症状を呈しないと考えられる。腫瘍が前立腺の移行部まで進行すると、尿道閉塞を招き、これが本疾患の最初の症状となることがある。しかし、これらの臨床症状は、良性前立腺肥大(BPH)の一般的な非悪性症状とは区別できない。現在、前立腺癌の早期の発見および診断は、直腸内診(DRE)、前立腺特異的抗原(PSA)の測定、経直腸的超音波断層法(TRUS)および経直腸的針生検(TRNB)に依拠している。現時点では、血清PSA測定とDREとの併用が、前立腺癌の検出および診断のために用いられる主な手段である。このどちらにも大きな限界があり、このことが、本疾患のより優れた診断マーカーの発見に向けた精力的な研究を喚起する要因となっている。
【0008】
同様に、致死的であることが一般的な転移期の前立腺癌の発生を予測するために使用できるマーカーもない。現在、転移期の診断は、外科的もしくは腹腔鏡下骨盤リンパ節摘出術、全身核医学スキャン、骨X線検査および/または骨病変生検分析によって行われる。明らかに、優れた画像診断法および他の比較的侵襲性の低い診断法により、このような処置が患者に与える苦痛は軽減され、診断精度が改善され、治療上の選択肢も改善されると期待される。同様の問題は、どの癌が無痛性(indolent)であり、どの癌が急速進行性(aggressive)である、または将来そうなるかを判定するための有効な予後判定マーカーが存在しないことである。例えば、PSAでは、無痛性の癌と急速進行性の癌とを正確に区別することができない。早期疾患の検出、転移の起こりやすさの予測、および腫瘍の正確な画像化を確実に行える前立腺腫瘍マーカーが得られるまでは、前立腺癌の管理は極めて困難なままであると考えられる。
【0009】
今日、PSAは前立腺癌のスクリーニング、診断およびモニタリングのための腫瘍マーカーとして最も広く用いられている。特に、血清PSA検出用のいくつかのイムノアッセイ法が広く臨床的用途に用いられている。最近、血清中のPSA mRNAに関する逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ法が開発された。しかし、PSA高値はBPHおよび前立腺炎の患者でも高率(25〜86%)に検出され(非特許文献1)、他の非悪性疾患の場合および一部の正常男性でも同様であるため、PSAは疾患特異的マーカーではなく、この要因によってこのマーカーの診断的特異性は大きく限定される。例えば、BPHでは血清PSAが4〜10ng/mlの範囲に上昇することが観察され、前立腺炎、特に急性前立腺炎ではさらに高値が観察される。BPHは男性に極めて高い頻度でみられる状態である。状況をさらに紛らわしくするものに、DREによる疾患の徴候がなくとも血清PSAの上昇が認められることや、その逆の場合もあるという事実がある。さらに、PSAが前立腺特異的でないことも現在では認識されている(概説については非特許文献1を参照)。
【0010】
PSAに基づく検出の特異性を改善するために、PSA密度、および遊離型PSAと複合型PSAとの比の測定といったさまざまな方法が考案されている。しかし、これらの方法はいずれも、悪性前立腺疾患から良性疾患を再現性よく識別することはできていない。加えて、PSAによる診断薬の感度は57〜79%の範囲であり(非特許文献2)、このため、前立腺癌をもつ男性のかなりの割合でこの癌が見逃されていることになる。
【0011】
前立腺で主として発現されるマーカーとしては、ラットニューロペプチダーゼとの同一性が85%の加水分解酵素である前立腺特異的膜抗原(PSM)など、いくつかが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。しかし、PSMが小腸および脳でも発現されており(非特許文献5)、それが脳内でのニューロペプチド分解に関与する可能性があることから、抗PSM療法には神経毒性のおそれがあるという懸念が生じた。インジウム111で標識した抗PSMモノクローナル抗体を再発性前立腺癌の画像化に用いた予備結果はある程度有望と思われるものであった(非特許文献6)。さらに最近になって同定された前立腺癌マーカーには、PCTA-1(非特許文献7)および前立腺幹細胞抗原(PSCA)(非特許文献8)が含まれる。新規ガレクチンであるPCTA-1は発現細胞の培地中に主として分布され、前立腺癌の血清診断マーカーとして有望な可能性がある(非特許文献7)。GPI連鎖型細胞表面分子であるPSCAはLAPC-4 cDNAからクローニングされたものであり、正常前立腺組織の基底細胞および癌上皮で主として発現されるという点で独特である(非特許文献8)。前立腺癌に対するワクチンも、PSMおよびPSAを含む種々の抗原を用いて精力的に開発が進められている。
【非特許文献1】Gaoら、1997、前立腺31:264〜281
【非特許文献2】Cupp & Osterling、1993、Mayo Clin Proc 68:297〜306
【非特許文献3】Carterら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:749
【非特許文献4】Bzdegaら、1997、J. Neurochem. 69:2270
【非特許文献5】Israeliら、1994、Cancer Res. 54:1807
【非特許文献6】Sodeeら、1996、Clin Nuc Med 21:759〜766
【非特許文献7】Suら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:7252
【非特許文献8】Reiterら、1998、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:1735
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明はBPC-1と命名された新規な分泌蛋白質に関する。正常個体では、BPC-1蛋白質は脳の特定の組織のみで発現される。前立腺癌では、BPC-1は腫瘍細胞で高レベルに発現される。BPC-1は膀胱癌細胞でも発現されるほか、他の癌細胞でも発現される可能性がある。BPC-1の構造にはシグナル配列およびCUBドメインが1つずつ含まれる。BPC-1蛋白質のCUBドメインは他のいくつかの蛋白質のCUBドメインと構造的に類似している。
【0013】
このため、BPC-1遺伝子は、診断、病期判定および/もしくは予後判定マーカーとして有用な、ならびに/または前立腺癌、膀胱癌およびBPC-1を発現する他の癌の治療に向けた種々のアプローチのための優れた標的として役立つ可能性のある、分泌型腫瘍抗原をコードする。BPC-1の明確な機能は現時点では不明であるが、予備的な実験の所見からは、BPC-1が発癌、またはBPC-1を発現する癌細胞のトランスフォーメーション性表現型の維持に直接関与することが示唆されている。また、BPC-1は前立腺癌細胞および他の細胞で発現される細胞蛋白質と特異的に結合するようにも思われる。以上を総合すると、この所見はBPC-1が発癌経路に機能的にかかわることを示している。本明細書で以下に述べるように、この認識は、BPC-1機能の阻害を含む、BPC-1を発現する癌の治療に向けた数多くのアプローチにつながる。
【0014】
本発明は、BPC-1蛋白質およびその断片をコードするポリヌクレオチド、BPC-1遺伝子もしくはmRNA配列またはその断片に対して相補的なDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび関連分子、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、およびBPC-1遺伝子、mRNAまたはBPC-1をコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む、好ましくは単離された形態のBPC-1遺伝子、mRNAおよび/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的なポリヌクレオチドを提供する。また、BPC-1をコードするcDNAおよび遺伝子を単離するための手段も提供する。BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子、このような分子による形質転換または形質導入を受けた細胞、およびBPC-1遺伝子の発現のための宿主-ベクター系も提供する。本発明はさらに、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片を提供する。本発明はさらに、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、マウスおよび他の哺乳動物抗体、キメラ抗体、ヒト化および完全ヒト抗体、ならびに検出マーカーで標識した抗体、および放射性核種、毒素または他の治療的組成物が結合した抗体を含む、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片と結合する抗体を提供する。本発明はさらに、種々の生物試料におけるBPC-1ポリヌクレオチドおよび蛋白質の存在を検出するための方法、ならびにBPC-1を発現する細胞を同定するための方法を提供する。本発明はさらに、抗体、ワクチンおよび低分子療法を含む、前立腺癌および膀胱癌のようなBPC-1を発現する癌を治療するための種々の治療的組成物および戦略、ならびにBPC-1における転写段階、翻訳段階、プロセッシング段階、または機能する段階での阻害を目的とする治療を提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語、表記およびその他の科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されている意味をもつものとする。いくつかの場合には、明確さおよび/または参照の便宜を図るために、意味が一般に理解されている用語の定義を本明細書で行っているが、このような定義を本明細書に含めたことは、当技術分野において一般に理解されているものと実質的に異なることを意味するとは必ずしもみなされるべきではない。本明細書で記載または参照する技法および手順は、当業者に一般によく理解されており、例えば、サムブルック(Sambrook)ら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.に記載された、広く用いられている分子クローニング法などの慣例的な方法を用いて一般に行われている。市販のキットおよび試薬を用いる手順は、別に特記する場合を除き、適宜、製造者が指示した手順および/またはパラメーターに従って一般に行われる。
【0016】
本明細書で用いる「進行前立腺癌」「局所進行前立腺癌」「進行癌(advanced disease)」および「局所進行癌(locally advanced disease)」という用語は、前立腺被膜を越えて進展した前立腺癌のことを意味し、米国泌尿器学会(American Urological Association)(AUA)の分類体系によるステージCの癌、ホイットモア-ジュエット(Whitmore-Jewett)分類体系によるステージC1〜C2の癌、ならびにTNM(腫瘍、リンパ節転移、臓器転移)分類体系によるステージT3〜 T4およびN+癌を含むものとする。一般に、局所進行癌の患者に対しては外科手術は推奨されず、臨床的に局所的な(臓器限局性の)前立腺癌の患者と比べて、これらの患者の転帰はかなり悪い。局所進行癌は臨床的には、前立腺の外側縁を越える硬化、または前立腺基部の非対称性もしくは硬化の触知所見によって発見される。局所進行前立腺癌は現在、根治的前立腺摘除術の結果、腫瘍が前立腺被膜を浸潤もしくは貫通して外科領域(surgical margin)に達していたか、または精嚢に浸潤していた場合に病理学的に診断される。
【0017】
本明細書で用いる「転移性前立腺癌」および「転移性癌(metastatic disease)」という用語は、所属リンパ節または遠隔部位まで波及した前立腺癌のことを意味し、AUA分類体系によるステージDの癌およびTNM分類体系によるステージTxNxM+を含むものとする。局所進行前立腺癌の場合と同じく、転移性癌の患者にも外科手術は一般に適応とはならず、ホルモン(アンドロゲン除去)療法が好ましい治療手段となる。転移性前立腺癌の患者は治療開始から12〜18カ月以内に最終的にはアンドロゲン不応状態となり、これらの患者のほぼ半数はその後6カ月以内に死亡する。前立腺癌転移が最も起こりやすい部位は骨である。前立腺癌の骨転移は、代謝平衡の面では破骨性ではなく造骨性であることが特徴的である(すなわち、正味の骨形成をもたらす)。骨転移は脊椎に認められる頻度が最も高く、大腿骨、骨盤、胸郭、頭蓋骨および上腕骨がこれに次ぐ。転移が起こりやすい他の部位には、リンパ節、肺、肝臓および脳が含まれる。転移性前立腺癌は、外科的もしくは腹腔鏡下骨盤リンパ節摘出術、全身核医学スキャン、骨格X線検査および/または骨病変生検分析によって診断されることが典型的である。
【0018】
本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチド、または改変型のいずれかの種類のヌクレオチドである、長さが少なくとも10塩基または塩基対の重合型ヌクレオチドを意味し、一本鎖型および二本鎖型のDNAを含むものとする。
【0019】
本明細書で用いる「ポリペプチド」という用語は、少なくとも10アミノ酸からなる重合体を意味する。本明細書の全体を通じて、アミノ酸に関する標準的な三文字または一文字表記を用いる。
【0020】
本明細書で用いる「ハイブリダイズする(hybridize)」「ハイブリダイズしている」「ハイブリダイズする(hybridizes)」などの用語は、好ましくはハイブリダイゼーションのための温度が37℃を上回り、0.1×SSC/0.1%SDS中での洗浄のための温度が55℃を上回る、50%ホルムアミド/6×SSC/0.1%SDS/100μg/ml ssDNA中でのハイブリダイゼーションなどの通常のハイブリダイゼーション条件、最も好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を意味する。
【0021】
アミノ酸配列の比較の文脈における「同一性(identity)」という用語は、同じ相対的位置にある同一なアミノ酸残基の比率を表すために用いられる。同じくこの文脈において「相同性(homology)」という用語は、当技術分野で一般的に理解されているBLAST解析の保存的アミノ酸の基準を用いた、同じ相対的位置にある同一または類似したアミノ酸残基の比率を表すために用いられる。このような基準の下で保存的とみなされるアミノ酸置換に関する詳細は以下に提示する。
【0022】
このほかの定義は以下のサブセクションの全体を通じて提示する。
【0023】
BPC-1の分子学的および生化学的特徴
以下の実施例の項でさらに述べるように、数多くの分析手法を用いてBPC-1遺伝子および蛋白質の特徴分析を行った。例えば、ヌクレオチドコード配列およびアミノ酸配列の分析を、関連分子と考えられるもの、さらにはBPC-1 mRNAおよび蛋白質の構造における認識可能な構造ドメイン、トポロジー的特徴および他の要素を同定するために行った。BPC-1メッセージを発現する正常および癌性組織の範囲を確かめるために、BPC-1 mRNAの発現に関するRT-PCRおよびノーザンブロット分析も行った。プロセシングを受けた、または受けていない組換えヒトBPC-1蛋白質の細胞内局在および分泌を明らかにするために、実験的にトランスフェクションを行った細胞におけるBPC-1蛋白質の発現に関するウエスタンブロット分析を行った。また、BPC-1の細胞結合パートナーとの相互作用、および活性を明らかにするためにデザインした機能的アッセイ法も行った。
【0024】
BPC-1は発癌性のある分泌型のCUBドメイン含有蛋白質であり、前立腺癌および膀胱癌細胞で発現され、細胞蛋白質と結合する。BPC-1の発現は、正常な成人の組織では極めて脳特異的である。胎児組織におけるBPC-1の発現は主として脳で認められるが、他の数多くの発生中の器官および組織でもみられる。ヒト前立腺癌ではBPC-1遺伝子の発現が活性化される。特にBPC-1は、悪性度の高い転移性前立腺癌の患者に元々由来するアンドロゲン依存性ヒト前立腺腫瘍異種移植片において極めて高いレベルで発現され、他の前立腺癌の試料でもこれよりは低いものの明らかなレベルで発現される。BPC-1は少なくとも一部の膀胱癌でも高レベルで発現される。
【0025】
BPC-1蛋白質はまず、シグナル配列を含む158アミノ酸の前駆体として翻訳される。このシグナル配列は翻訳後修飾の過程で切断され、135アミノ酸からなる成熟型の分泌蛋白質が生じる。BPC-1遺伝子の5'非コード領域は極めてG/Cに富んでおり(G/C含有率が約72%。これに対してコード領域では42%、3'非コード領域では30%である)、このことは、遺伝子のこの領域が転写または翻訳の制御にかかわる要素を含むことを意味する(図1)。
【0026】
BPC-1の一次構造は、認識可能なCUBドメイン(補体成分C1r/C1s、Uegf、Bmp1(Complement subcomponents C1r/C1s、Uegf、Bmp1)の頭文字)(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)を含んでおり、これは他のCUBドメイン蛋白質と相同性がある(図1;図3)。CUBドメインは補体成分C1rおよびC1sで最初に発見され、続いてUegf(上皮増殖因子関連ウニ蛋白質)および骨発育に関与するプロテアーゼであるBmp1(骨形成蛋白質1)で同定された。CUBドメインは機能的には、蛋白質相互作用、受容体結合および他の活動に関連している。ほかにも別の酵素機能を有する他のCUBドメイン蛋白質とは異なり、BPC-1は本質的には分泌型のCUBドメインであり、他に明らかな機能ドメインを伴っていない点で独特である。BPC-1のCUBドメインは、他の分泌分子、細胞外マトリックス分子および/または細胞表面受容体との相互作用を媒介する、蛋白質-蛋白質相互作用ドメインとしての役割を果たすと考えられる。これは、増殖因子または細胞刺激因子の機能をもつ可能性を意味する。
【0027】
BPC-1の構造にCUBドメインが存在することは、BPC-1が他の蛋白質と相互作用し、おそらくはそれと結合すると思われるという結論をさらに裏づけるものである。蛋白質-蛋白質相互作用にかかわる細胞外ドメインとしてみた場合、CUBドメインは、種々の発生過程にかかわる多種多様な分泌型または細胞表面蛋白質でみられる(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)。CUBドメインを特徴とし、BPC-1蛋白質とある程度関連すると思われる蛋白質のファミリーの1つに精子アドヘシンがある。精子アドヘシンは、精嚢によって産生されるCUBドメイン含有性の分泌蛋白質であり、そのサイズは約15〜18kd(ほぼ140アミノ酸)と推定されている。これらの蛋白質は精子の運動性を抑制するように働き、蛋白質分解によって不活性化される(Iwamotoら、1995、FEBBS Letters 368:420〜424)。
【0028】
予備的な実験の所見から、BPC-1が発癌、またはBPC-1を発現する癌細胞の形質転換表現型の維持に直接関与することが示唆されている。この点に関して、BPC-1は軟寒天アッセイ法においてトランスフォーミング活性を示し、BPC-1を発現するものを含む細胞によって発現される細胞蛋白質と結合する。以上を総合すると、この所見は、BPC-1が発癌経路に機能的に関与しており、この経路におけるBPC-1活性がBPC-1結合パートナーとの相互作用によって、または他の蛋白質との結合もしくは会合によって生じると思われることを示す。本明細書で以下に述べるように、この認識は、BPC-1機能の阻害を含む、BPC-1を発現する癌の治療に向けた数多くのアプローチにつながる。
【0029】
BPC-1ポリヌクレオチド
本発明の1つの局面は、BPC-1蛋白質およびその断片をコードするポリヌクレオチド、BPC-1遺伝子もしくはmRNA配列またはその断片に対して相補的なDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび関連分子、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、およびBPC-1遺伝子、mRNAまたはBPC-1をコードするポリヌクレオチド(「BPC-1ポリヌクレオチド」と総称する)とハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む、好ましくは単離された形態のBPC-1遺伝子、mRNAおよび/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的なポリヌクレオチドを提供する。本明細書で用いるBPC-1遺伝子および蛋白質は、本明細書に特に記載されるBPC-1遺伝子および蛋白質、ならびに他のBPC-1蛋白質および上記のものと構造的に類似する変異体に対応する遺伝子および蛋白質を含むものとする。このような他のBPC-1蛋白質および変異体は、BPC-1および/またはBPC-1-2コード配列との相同性が高いコード配列を一般に有すると考えられ、好ましくはアミノ酸の同一性が少なくとも約50%であってアミノ酸の相同性(BLASTの基準を用いる)が少なくとも約60%であり、より好ましくは相同性(BLASTの基準を用いる)が70%またはそれ以上である。
【0030】
BPC-1ポリヌクレオチドには、図1に示す、上記のものと相補的な配列を有するヒトBPC-1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、または上記のもののいずれかのポリヌクレオチド断片が含まれうる。もう1つの態様には、図1に示すヒトBPC-1 cDNA、またはそのポリヌクレオチド断片とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズしうるポリヌクレオチドが含まれる。
【0031】
特に考慮の対象となるものは、天然の源に由来するものか合成されたものかを問わず、ゲノムDNA、cDNA、リボザイムおよびアンチセンス分子のほか、代替的な骨格に基づくか、または代替的な塩基を含む核酸分子である。例えば、アンチセンス分子はRNAでもよく、ペプチド核酸(PNA)、またはDNAもしくはRNAと塩基対依存的な様式で特異的に結合するホスホロチオエート誘導体などの非核酸分子を含む他の分子でもよい。当業者は、本明細書で開示するBPC-1ポリヌクレオチドおよびポリヌクレオチド配列を用いて、これらの物質群(class)に属する核酸分子を容易に入手しうる。
【0032】
本発明のこの局面のさらに詳細な態様には、本発明のポリヌクレオチドまたはその任意の特定の部分の特異的増幅を可能とするプライマーおよびプライマー対、ならびに本発明の核酸分子またはその任意の部分と選択的または特異的にハイブリダイズするプローブが含まれる。プローブは例えば、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素などの検出マーカーで標識してもよい。このようなプローブおよびプライマーは、試料中のBPC-1ポリヌクレオチドの存在を検出するために、およびBPC-1蛋白質を発現する細胞を検出するための手段として用いることができる。このようなプローブの例には、図1に示すヒトBPC-1 cDNA配列の全体または一部を含むポリペプチドが含まれる。BPC-1 mRNAを特異的に増幅しうるプライマー対の例は、以下の実施例でも述べる。当業者には理解されると思われるが、本明細書で提示する配列に基づいて極めて多くの異なるプライマーおよびプローブを調製し、BPC-1 mRNAを増幅および/または検出するために有効に用いることができる。
【0033】
本明細書において用いられるように、ポリヌクレオチドは、BPC-1遺伝子以外の遺伝子に対応するか、もしくはそれに対して相補的な、またはBPC-1遺伝子産物もしくはその断片以外のものをコードする混入ポリヌクレオチドから実質的に分離されている場合に「単離された」という。当業者は、単離されたBPC-1ポリヌクレオチドを得るために核酸単離手順を容易に用いることができる。
【0034】
本発明のBPC-1ポリヌクレオチドは、BPC-1遺伝子、mRNAもしくはその断片の増幅および/または検出のためのプローブおよびプライマーとして;前立腺癌およびその他の癌の診断および/または予後判定のための試薬として;BPC-1ポリペプチドの発現を指令しうるコード配列として;BPC-1遺伝子の発現および/またはBPC-1転写物の翻訳を調節もしくは抑制するためのツールとして;ならびに治療薬としての使用を非制限的に含む、さまざまな目的に有用である。
【0035】
BPC-1をコードする核酸分子を単離するための方法
本明細書に記載するBPC-1 cDNA配列は、BPC-1遺伝子産物をコードする他のポリヌクレオチドの単離のほか、BPC-1遺伝子産物の相同体、選択的スプライシングを受けたアイソフォーム、対立遺伝子変異体(対立遺伝子variant)および変異型のBPC-1遺伝子産物の単離を可能にする。BPC-1遺伝子をコードする完全長cDNAを単離するために用いうる種々の分子クローニング法が周知である(例えば、サムブルック(Sambrook、J.)ら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Press、New York、1989、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、アウスユーベル(Ausubel)ら編、WileyおよびSons、1995を参照)。例えば、市販のクローニングシステム(例えば、Lambda ZAP Express、Stratagene)を用いて、λファージクローニング法を都合良く行うことができる。BPC-1遺伝子のcDNAを含むファージクローンは、標識したBPC-1 cDNAまたはその断片をプローブとして検索することによって同定しうる。例えば、1つの態様では、BPC-1 cDNA(図1)またはその一部を合成し、BPC-1遺伝子に対応する重複性および完全長cDNAを回収するためのプローブとして用いることができる。BPC-1遺伝子自体は、ゲノムDNAライブラリー、細菌人工染色体ライブラリー(BAC)、酵母人工染色体ライブラリー(YAC)などをBPC-1 DNAプローブまたはプライマーによってスクリーニングすることによって単離することが可能である。
【0036】
組換えDNA分子および宿主-ベクター系
本発明は、ファージ、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、BACのほか、当技術分野で周知の種々のウイルス性および非ウイルス性ベクター、ならびにこのような組換えDNAまたはRNA分子による形質転換またはトランスフェクションを受けた細胞を非制限的に含む、BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNAまたはRNA分子も提供する。本明細書で用いる組換えDNAまたはRNA分子とは、インビトロ分子操作を受けたDNAまたはRNA分子のことである。この種の分子を作製するための方法は周知である(例えば、Sambrookら、1989、前記を参照のこと)。
【0037】
本発明はさらに、BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子を適した原核または真核宿主細胞内に含む、宿主-ベクター系も提供する。適した真核宿主細胞の例には、酵母細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞もしくは昆虫細胞(例えば、Sf9またはHghFive細胞などのバキュロウイルス感染性細胞)などの動物細胞が含まれる。適した哺乳動物細胞の例には、LnCaP、PC-3、DU145、LAPC-4、TsuPr1などの種々の前立腺癌細胞株、トランスフェクションまたは形質導入が可能なその他の前立腺癌細胞株のほか、組換え蛋白質の発現のためにルーチンに用いられる数多くの哺乳動物細胞(例えば、COS、CHO、293、293T細胞)。より詳細には、BPC-1のコード配列を含むポリヌクレオチドは、ルーチンに用いられる当技術分野で周知の任意の数の宿主-ベクター系を用いて、BPC-1蛋白質またはその断片を作製するために用いうる。
【0038】
BPC-1蛋白質またはその断片の発現のために適した宿主-ベクター系は幅広い種類のものが入手可能である(例えば、サムブルック(Sambrook)ら、1989、前記、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、1995、前記を参照されたい)。哺乳動物細胞における発現のために好ましいベクターには、pcDNA 3.1myc-His-tag(Invitrogen)およびレトロウイルスベクターpSRαtkneo(Mullerら、1991、MCB 11:1785)が非制限的に含まれる。これらの発現ベクターを用いると、例えば293、293T、rat-1、3T3、PC-3、LNCaPおよびTsuPr1を含む、いくつかの前立腺癌および非前立腺細胞株におけるBPC-1の好ましい発現が得られる。本発明の宿主-ベクター系は、BPC-1蛋白質またはその断片の産生のために有用である。このような宿主-ベクター系を、BPC-1およびBPC-1変異の機能的特性を研究するために用いてもよい。
【0039】
成熟型の組換えヒトBPC-1蛋白質は、BPC-1前駆体をコードする作製物をトランスフェクトした哺乳動物細胞によって産生および分泌させることができる。実施例の項で述べる1つの具体的な態様では、前駆型BPC-1(すなわち、シグナル配列を含むもの)をコードする発現プラスミドによって293T細胞をトランスフェクトさせ、成熟BPC-1蛋白質を細胞培養液中に分泌させて、標準的な精製法を用いてそれを首尾よく単離することができる。成熟型の組換えヒトBPC-1を、成熟蛋白質のプロセシングは行うが分泌はしない細胞によって産生させてもよい。このような系の一例は、BPC-1をコードするバキュロウイルスに感染させた細胞である。実施例の項で述べるように、この種の細胞は細胞内で高レベルのBPC-1の発現およびプロセシングを行う。このような場合には、標準的な手順を用いて細胞可溶化物から成熟BPC-1蛋白質を回収することができる。成熟BPC-1が宿主細胞によって分泌される場合も細胞内に保持される場合も、BPC-1抗体を用いて培養液または細胞可溶化物からBPC-1をアフィニティー精製することができる。
【0040】
BPC-1遺伝子またはその断片によってコードされる蛋白質には、抗体の産生、ならびにBPC-1遺伝子産物と結合するリガンドおよび他の作用物質ならびに細胞成分を同定するための方法におけるものを非制限的に含む、さまざまな用途があると考えられる。BPC-1蛋白質またはその断片に対して産生された抗体は、診断および予後判定アッセイ法、画像診断法(特に癌画像診断を含む)、ならびに前立腺癌を非制限的に含む、BPC-1蛋白質の発現を特徴とするヒトの癌の管理における治療方法において有用であると思われる。さまざまな種類の放射免疫アッセイ法、固相酵素免疫アッセイ法(ELISA)、固相酵素免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)、免疫細胞化学法などを非制限的に含む、BPC-1蛋白質の検出のために有用な種々の免疫アッセイ法が考慮の対象となる。このような抗体を標識し、前立腺細胞を検出しうる免疫学的画像化試薬として用いることも可能である(例えば、放射シンチグラフィー画像法において)。また、BPC-1蛋白質は以下に詳細に述べる癌ワクチンの作製にも特に有用である。
【0041】
BPC-1蛋白質
本発明のもう1つの局面は、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片を提供する。本発明のBPC-1蛋白質には、本明細書で具体的に特定されるもののほか、以下に概要を示す方法に従った必要以上の実験を行わなくとも単離/生産および特徴分析を行いうる対立遺伝子変異体、保存的置換変異体および相同体が含まれる。異なるBPC-1蛋白質またはその断片の部分を組み合わせた融合蛋白質のほか、BPC-1蛋白質と異種ポリペプチドとの融合蛋白質も含まれる。このようなBPC-1蛋白質は、BPC-1蛋白質、本発明の蛋白質、またはBPC-1として総称するものとする。本明細書で用いる「BPC-1ポリペプチド」という用語は、少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも15アミノ酸からなるポリペプチド断片またはBPC-1蛋白質を意味する。
【0042】
BPC-1蛋白質の1つの具体的な態様は、図1のアミノ酸残基およそ1位からアミノ酸残基およそ158位までに示されたヒトBPC-1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。BPC-1蛋白質のもう1つの具体的態様は、図1のアミノ酸残基およそ24位からアミノ酸残基およそ158位までに示されたヒトBPC-1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0043】
一般に、ヒトBPC-1の天然の対立遺伝子変異体は、高度の構造的同一性および相同性を有すると考えられる(例えば、同一性が90%またはそれ以上)。典型的には、BPC-1蛋白質の対立遺伝子変異体は、本明細書に記載するBPC-1配列中に保存的アミノ酸置換を含むか、またはBPC-1相同体における対応位置に由来するアミノ酸置換を含むと考えられる。ある部類のBPC-1対立遺伝子変異体は、特定のBPC-1アミノ酸配列の少なくともわずかな領域とは高度の相同性を有するものの、非保存的置換、切断、挿入またはフレームシフトといった配列との根本的な差異をさらに含む蛋白質であると考えられる。
【0044】
保存的アミノ酸置換は、蛋白質の立体構造および機能をいずれも変化させずに蛋白質に加えることがしばしば可能である。このような変化には、イソロイシン(I)、バリン(V)およびロイシン(L)のいずれかによるそれ以外のこれらの疎水性アミノ酸の置換、アスパラギン酸(D)によるグルタミン酸(E)の置換およびその逆、グルタミン(Q)によるアスパラギン(N)の置換およびその逆、ならびにセリン(S)によるトレオニン(T)の置換およびその逆が含まれる。蛋白質の三次元構造における特定のアミノ酸の環境およびその役割によっては、その他の置換も保存的とみなしうる。例えば、グリシン(G)およびアラニン(A)はしばしば互換的であり、アラニン(A)およびバリン(V)についても同様である。比較的疎水性が高いメチオニン(M)は、ロイシンおよびイソロイシンとしばしば互換的であり、時にバリンと互換的である。リジン(K)およびアルギニン(R)は、アミノ酸残基の顕著な特徴がその電荷にあって、これらの2つのアミノ酸残基のpKの違いが重大でない位置ではしばしば互換的である。特定の環境においては、さらに他の変化も「保存的」とみなすことができる。
【0045】
BPC-1蛋白質は多くの形態として具現化しうるが、単離された形態が好ましい。本明細書における用い方では、蛋白質は、物理的、機械的または化学的方法を用いて、BPC-1蛋白質が、蛋白質に通常付随する細胞成分から切り離された場合に「単離された」という。当業者は標準的な精製法を容易に用いて単離されたBPC-1蛋白質を得ることができる。精製されたBPC-1蛋白質分子は、BPC-1と抗体または他のリガンドとの結合を妨げる他の蛋白質または分子を実質的に含まないと考えられる。単離および精製の性質および程度は、意図する用途によって決まると考えられる。BPC-1蛋白質の態様には、精製されたBPC-1蛋白質および機能的な可溶性BPC-1蛋白質が含まれる。1つの形態において、このような機能的な可溶性BPC-1蛋白質またはその断片は、抗体または他のリガンドとの結合能を保持している。
【0046】
本発明は、図1に示すBPC-1のアミノ酸配列の一部に対応するポリペプチドなどの、BPC-1アミノ酸配列における生物活性断片を含むBPC-1ポリペプチドも提供する。本発明のこの種のポリペプチドは、BPC-1蛋白質に付随するエピトープと特異的に結合する抗体の産生を誘発する能力というようなBPC-1蛋白質の特性を示す。
【0047】
BPC-1ポリペプチドは、本明細書で開示するヒトBPC-1蛋白質のアミノ酸配列に基づき、当技術分野で周知の標準的なペプチド合成技術または化学的切断法を用いて作製しうる。または、BPC-1蛋白質のポリペプチド断片をコードする核酸分子を得るために組換え法を用いることも可能である。この点に関して、本明細書で述べるBPC-1をコードする核酸分子は、BPC-1蛋白質の規定断片を作製するための手段を提供する。BPC-1ポリペプチドは、ドメイン特異的抗体(例えば、BPC-1蛋白質の細胞外または細胞内エピトープを認識する抗体)の作製および特徴分析、BPC-1またはその特定の構造ドメインと結合する物質または細胞因子の同定、ならびに癌ワクチンを非制限的に含む種々の治療状況において特に有用である。特に興味深い構造を含むBPC-1ポリペプチドは、例えば、シュウ-ファスマン(Chou-Fasman)、ガルニエ-ロブソン(Garnier-Robson)、カイト-ドゥーリトル(Kyte-Doolittle)、アイゼンバーグ(Eisenberg)、カープラス-シュルツ(Karplus-Schultz)もしくはジェームソン-ウルフ(Jameson-Wolf)の分析方法を含む当技術分野で周知のさまざまな分析技法を用いて、または免疫原性に基づいて、予想および/または同定することが可能である。このような構造を含む断片は、サブユニット特異的な抗BPC-1抗体の作製、またはBPC-1と結合する細胞因子の同定に特に有用である。
【0048】
以下の実施例の項で述べる1つの具体的な態様では、C末端に6XHisおよびMYCタグを付加したBPC-1をコードするCMV駆動性発現ベクター(pcDNA3.1/mycHIS、Invitrogen)をトランスフェクトした293T細胞において分泌型の成熟BPC-1を首尾よく発現させることができる。培養液中に分泌されたHIS標識BPC-1は、標準的な技法を用い、ニッケルカラムを用いて精製しうる。
【0049】
BPC-1抗体
本発明のもう1つの局面は、BPC-1蛋白質およびポリペプチドと結合する抗体を提供する。最も好ましい抗体は、BPC-1蛋白質とは選択的に結合するが、BPC-1以外の蛋白質およびポリペプチドとは結合しない(または結合が弱い)ものと考えられる。特に考慮の対象となる抗BPC-1抗体には、モノクローナルおよびポリクローナル抗体のほか、これらの抗体の抗原結合ドメインおよび/または1つもしくは複数の相補性決定領域を含む断片が含まれる。本明細書で用いる抗体断片とは、その標的と結合する免疫グロブリン分子の可変領域、すなわち抗原結合領域の少なくとも一部と定義される。
【0050】
本発明のBPC-1抗体は、前立腺癌の治療戦略、診断および予後判定アッセイ法ならびに画像診断法において特に有用と思われる。同様に、この種の抗体は、他の種類の癌でBPC-1が同じく発現および過剰発現される限りにおいて、他の癌の治療、診断および/または予後判定に有用と思われる。BPC-1を発現するこのような癌の1つは膀胱癌である。
【0051】
本発明はまた、BPC-1および変異型BPC-1蛋白質ならびにポリペプチドの検出および定量的評価のために有用な種々の免疫アッセイ法を提供する。このようなアッセイ法は一般に、BPC-1または変異型BPC-1蛋白質を認識してそれと結合しうる1つまたは複数のBPC-1抗体を適宜含み、さまざまな種類の放射免疫アッセイ法、固相酵素免疫アッセイ法(ELISA)、固相酵素免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)、免疫細胞化学法などを非制限的に含む、当技術分野で周知のさまざまな免疫アッセイ法形式の範囲内で行うことができる。さらに、標識したBPC-1抗体を用いる放射シンチグラフィー画像法を非制限的に含む、前立腺癌を検出しうる免疫学的画像化法も本発明によって提供される。この種のアッセイ法は、前立腺癌、特に進行前立腺癌の発見、モニタリングおよび予後判定において臨床的に有用と思われる。
【0052】
また、BPC-1抗体を、BPC-1および変異型BPC-1蛋白質ならびにポリペプチドを精製するため、ならびにBPC-1相同体および関連分子を単離するための方法に用いることも可能である。例えば、1つの態様において、BPC-1蛋白質の精製方法は、BPC-1抗体のBPC-1との結合が許容される条件下で、固体基質に結合させたBPC-1抗体をBPC-1を含む可溶化液または他の溶液とともにインキュベートする段階、不純物を除去するために固体基質を洗浄する段階、および結合した抗体からBPC-1を溶出させる段階を含む。本発明のBPC-1抗体のその他の用途には、BPC-1蛋白質を模倣する抗イディオタイプ抗体の作製が含まれる。
【0053】
例えばBPC-1蛋白質の生物活性を調節もしくは阻害すること、またはBPC-1蛋白質もしくはBPC-1結合パートナーを発現する癌細胞のターゲティングおよび破壊を行うことにより、BPC-1抗体を治療的に用いることも可能である。BPC-1は細胞蛋白質と結合すると思われる分泌蛋白質であり、しかもBPC-1には発癌活性があると思われるため、BPC-1の受容体との結合能、またはそれが発癌生物活性を発揮する媒介となる他の蛋白質との相互作用能を妨げるために抗体は治療的に有用と思われる。1つの具体的な態様においては、抗体がBPC-1と結合してそれが機能を発揮する能力を阻害するように、BPC-1特異的抗体またはその組み合わせ(好ましくはモノクローナル抗体またはその組み合わせ)を、BPC-1発現性腫瘍に罹患した患者に投与する。BPC-1抗体療法については、以下の「治療方法および組成物」のサブセクションでさらに詳細に述べる。
【0054】
抗体の調製のためのさまざまな方法が当技術分野では周知である。例えば、単離形態または免疫複合形態にあるBPC-1蛋白質、ペプチドまたは断片を用いて適した哺乳動物宿主を免疫化することにより、抗体を調製することができる(抗体:実験マニュアル(Antibody:A Laboratory Manual)、CSH Press、Harlow and Lane編(1988)、Harlow、抗体(Antibody)、Cold Spring Harbor Press、NY(1989))。さらに、BPC-1 GST融合蛋白質などのBPC-1の融合蛋白質も用いうる。1つの特定の態様においては、図1のアミノ酸配列のオープンリーディングフレームの全体または大部分を含むGST融合蛋白質を作製し、適切な抗体を産生させるための免疫原として用いることができる。BPC-1を発現または過剰発現する細胞を免疫化に用いてもよい。同様に、BPC-1を発現するように操作された任意の細胞を用いることも可能である。このような戦略は、内因性BPC-1の認識能力が高いモノクローナル抗体の産生をもたらすと思われる。もう1つの有用な免疫原は、ヒツジ赤血球の形質膜と結合したBPC-1蛋白質を含む。さらに、コードされる免疫原に対する免疫応答を生じさせるために、当技術分野で公知の裸の(naked)DNAによる免疫化法を(精製BPC-1蛋白質またはBPC-1発現細胞とともに、または伴わずに)用いてもよい(概説については、Donnellyら、1997、Ann. Rev. Immunol. 15:617〜648を参照のこと)。
【0055】
図1に示すBPC-1のアミノ酸配列を、抗体の作製を目的としてBPC-1蛋白質の特定の領域を選択するために用いてもよい。例えば、BPC-1アミノ酸配列の疎水性および親水性分析を用いて、BPC-1構造における親水性領域を同定することができる。シュウ-ファスマン(Chou-Fasman)、ガルニエ-ロブソン(Garnier-Robson)、カイト-ドゥーリトル(Kyte-Doolittle)、アイゼンバーグ(Eisenberg)、カープラス-シュルツ(Karplus-Schultz)もしくはジェームソン-ウルフ(Jameson-Wolf)分析などの当技術分野で知られた他の種々の方法を用いて、免疫原性構造が認められるBPC-1蛋白質の領域のほか、他の領域およびドメインを容易に用いることもできる。
【0056】
BPC-1抗体の作製方法は、本明細書において提示される実施例における方法によってさらに例示される。
【0057】
免疫原として用いるための蛋白質またはポリペプチドを調製するため、および蛋白質とBSA、KLHまたは他の担体蛋白質などの担体との免疫原性結合物を調製するための方法は当技術分野で周知である。ある状況では例えばカルボジイミド試薬を用いる直接的結合を用いることができ、別の状況ではピアスケミカル社(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)が供給している結合剤が有効と思われる。BPC-1免疫原の投与は一般に、当技術分野で一般に知られた適切な期間にわたる注射および適切なアジュバントを用いて行う。免疫化期間中には、抗体形成が十分なことを判定するために抗体力価を測定することが可能である。
【0058】
好ましいものはBPC-1モノクローナル抗体であり、これは当技術分野で周知のさまざまな手段によって作製しうる。例えば、一般に知られた、リンパ球または脾細胞の不死化をもたらすケーラー(Kohler)およびミルスタイン(Milstein)の標準的な方法または変法を用いて、望ましいモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株を調製することができる。望ましい抗体を分泌する不死化細胞株は、BPC-1蛋白質またはBPC-1断片を抗原とするイムノアッセイ法によってスクリーニングする。望ましい抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が同定された時点で、細胞を増殖させてインビトロ培養物または腹水から抗体を得ることができる。
【0059】
最新技術を用いる組換え手段によって抗体または断片を作製することもできる。BPC-1蛋白質の望ましい領域と特異的に結合する領域を、複数の種に由来するキメラ性またはCDR接枝(CDR-grafted)抗体の文脈において作製することも可能である。ヒト化またはヒトBPC-1抗体を作製することもでき、これは治療状況における使用には好ましい。非ヒト抗体CDRの1つまたは複数を対応するヒト抗体配列と置換することによる、マウスおよび他の非ヒト抗体をヒト化するための方法はよく知られている(例えば、Jonesら、1986、Nature 321:522〜525;Riechmnanら、1988、Nature 332:323〜327;Verhoeyenら、1988、Science 239:1534〜1536を参照のこと)。また、カーター(Carter)ら、1993、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4285およびシムズ(Sims)ら、1993、J. Immunol. 151:2296も参照されたい。完全ヒトモノクローナル抗体を作製するための方法には、ファージディスプレイ法およびトランスジェニック法が含まれる(概説については、Vaughanら、1998、Nature Biotechnology 16:535〜539を参照のこと)。
【0060】
完全ヒトBPC-1モノクローナル抗体は、大規模なヒトIg遺伝子コンビナトリアルライブラリー(すなわち、ファージディスプレイ)を用いるクローニング技術を用いて作製しうる(Griffiths and Hoogenboom、インビトロ免疫系の構築:ファージディスプレイライブラリーに由来するヒト抗体(Building an in vitro immune system:human antibodies from phage display libraries)、ヒトにおける予防的および治療的用途のための抗体分子の蛋白質工学(Protein Engineering of Antibody Molecules for Prophylactic and Therapeutic Applications in Man)、Clark, M.(編)、Nottingham Academic、pp 45〜64(1993)、Burton and Barbas、コンビナトリアルライブラリーに由来するヒト抗体(Human Antibodies from combinatorial libraries)、同書、pp 65〜82)。1997年12月3日に刊行されたPCT特許出願・国際公開公報第98124893号、クチャーラパティ(Kucherlapati)およびジャコボビッツ(Jakobovits)らに記載された通りに、完全ヒトBPC-1モノクローナル抗体を、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むように操作されたトランスジェニックマウスを用いて作製することも可能である(Jakobovits、1998、Exp. Opin. Invest. Drugs 7(4):607〜614も参照されたい)。この方法では、ファージディスプレイ技術に必要なインビトロ操作が避けられ、高親和性の信頼しうるヒト抗体が効率よく得られる。
【0061】
BPC-1抗体とBPC-1蛋白質との反応性は、BPC-1蛋白質、ペプチド、BPC-1発現細胞またはその抽出物を適宜用いるウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISAおよびFACS分析を含む既知の数多くの手段によって確認しうる。
【0062】
本発明のBPC-1抗体もしくはその断片を検出マーカーで標識して、または細胞毒性物質などの第2の分子と結合させて、BPC-1陽性細胞に対する第2の分子のターゲティングのために用いることもできる(Vitetta、ES.ら、1993、免疫毒素療法(Immunotoxin therapy)、DeVita, Jr., V.T.ら編、癌:腫瘍学の原理および実践(Cancer:Principles and Practice of Oncology)、第4版、J.B. Lippincott Co.、Philadelphia、2624〜2636)。細胞毒性物質の例には、リシン、リシンA鎖、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデッシンA鎖、α-サルシン、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レツトリクトシン(retstrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、キュリシン(curicin)、クローチン(crotin)、カリケアミシン(calicheamicin)、サポンソウ常備阻害剤(sapaonaria officinalis inhibitor)およびグルココルチコイドならびに他の化学療法薬、さらには212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reなどの放射性同位体が非制限的に含まれる。適した検出可能マーカーには、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素が非制限的に含まれる。抗体を、プロドラッグを活性型に変換しうる抗癌プロドラッグ活性化酵素と結合させてもよい。例えば、米国特許第4,975,287号を参照のこと。
【0063】
さらに、当技術分野で一般に知られた方法を用いて、2つまたはそれ以上のBPC-1エピトープに対して特異的な二重特異性抗体を作製することもできる。さらに、癌細胞の増殖に対するBPC-1抗体の治療効果が増強されるように、抗体のエフェクター機能を改変することもできる。また、当技術分野で知られた架橋法を用いて、ホモ二量体抗体を作製することもできる(例えば、Wolffら、Cancer Res. 53:2560〜2565)。この種の抗体は、BPC-1の阻害を増強するための手段になると思われる。
【0064】
BPC-1の検出のための方法
本発明のもう1つの局面は、BPC-1ポリヌクレオチドおよびBPC-1蛋白質を検出するための方法、ならびにBPC-1を発現する細胞を同定するための方法に関する。
【0065】
より詳細には、本発明は、血清、骨、前立腺および他の組織、尿、精液、細胞調製物などの生物試料におけるBPC-1ポリヌクレオチドの検出のためのアッセイ法を提供する。検出可能なBPC-1ポリヌクレオチドには、例えば、BPC-1遺伝子またはその断片、BPC-1 mRNA、選択的スプライス変異型のBPC-1 mRNA、およびBPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNAまたはRNA分子が含まれる。BPC-1ポリヌクレオチドの増幅および/またはその存在の検出を行うための数多くの方法が当技術分野では周知であり、本発明のこの面の実践に用いることができる。
【0066】
1つの態様において、生物試料中のBPC-1 mRNAを検出するための方法は、少なくとも1つのプライマーを用いる逆転写によって試料からcDNAを作製すること、そのようにして作製したcDNAをその中のBPC-1 cDNAを増幅するためにBPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅すること、ならびに増幅されたBPC-1 cDNAの存在を検出することを含む。もう1つの態様において、生物試料中のBPC-1遺伝子を検出するための方法は、試料からゲノムDNAをまず単離する段階、単離されたゲノムDNAをその中のBPC-1遺伝子を増幅するためにBPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅する段階、ならびに増幅されたBPC-1遺伝子の存在を検出する段階を含む。BPC-1(図1)に関して提示されたヌクレオチド配列から、任意の数の適したセンスおよびアンチセンスプローブの組み合わせを設計し、この目的に用いることができる。
【0067】
また、本発明は、血清、骨、前立腺および他の組織、尿、細胞調製物などの生物試料の組織中のBPC-1蛋白質の存在を検出するためのアッセイ法も提供する。BPC-1蛋白質を検出するための方法も周知であり、これには例えば、免疫沈降法、免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析、分子結合アッセイ法、ELISA、ELIFAなどが含まれる。例えば、1つの態様において、生物組織中のBPC-1蛋白質の存在を検出するための方法は、試料をまずBPC-1抗体、そのBPC-1反応性断片またはBPC-1抗体の抗原結合領域を含む組換え蛋白質と接触させること、およびそれに対する試料中のBPC-1蛋白質の結合を検出することを含む。
【0068】
BPC-1を発現する細胞を同定するための方法も提供する。1つの態様において、BPC-1遺伝子を発現する細胞を同定するためのアッセイ法は、細胞内のBPC-1 mRNAの存在を検出することを含む。細胞内の特定のmRNAを検出するための方法は周知であり、これには例えば、相補的DNAプローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイ法(標識したBPC-1リボプローブ、ノーザンブロット法および関連技法を用いるインサイチューハイブリダイゼーションなど)および種々の核酸増幅アッセイ法(BPC-1に対して特異的な相補的プライマーを用いるRT-PCR、および例えば分枝DNA、SISBA、TMAなどを用いる他の増幅型検出法)が含まれる。または、BPC-1遺伝子を発現する細胞を同定するためのアッセイ法は、細胞内の、または細胞が分泌するBPC-1蛋白質の存在を検出することを含む。蛋白質を検出するためのさまざまな方法が当技術分野で周知であり、BPC-1蛋白質およびBPC-1発現細胞の検出に用いることができる。
【0069】
BPC-1発現解析は、BPC-1遺伝子の発現を調節する作用物質の同定および評価のためのツールとしても有用と思われる。例えば、前立腺癌においてBPC-1の発現が著しくアップレギュレートされ、かつその他の癌においても発現され得る。癌細胞において、BPC-1の発現および過剰発現を抑制しうる分子または生物的物質が同定されれば、治療的意義があると考えられる。このような物質は、RT-PCR、核酸ハイブリダイゼーションまたは抗体結合によりBPC-1発現の定量化を行うスクリーニングを用いて同定しうる。
【0070】
BPC-1の発現状態を判定するためのアッセイ法
個体におけるBPC-1発現パターンの状態の判定は癌の診断に用いることができ、適切な治療選択肢を定める上で有用な予後判定情報をもたらすと思われる。同様に、BPC-1の発現状態は特定の病期に対する感受性、進行および/または腫瘍の悪性度を予測するために重要な情報をもたらすと思われる。本発明は、BPC-1発現状態の判定およびBPC-1を発現する、前立腺癌および膀胱癌などの癌の診断のための方法およびアッセイ法を提供する。
【0071】
1つの局面において、本発明は、被験細胞または被験試料におけるBPC-1 mRNAまたは蛋白質発現の有意な増加を、対応する正常細胞または組織における発現レベルと対比して検出することを含む、前立腺癌および膀胱癌などの個体における癌の存在を判定する上で有用なアッセイ法を提供する。例えば、結腸、肺、前立腺、膵臓、膀胱、乳房、卵巣、子宮頸部、精巣、頭部および頸部、脳、胃などの組織試料におけるBPC-1 mRNAの存在を評価しうる。対応する正常組織はBPC-1 mRNAを発現しないか、または低レベルで発現するため、これらのいずれかの組織中にBPC-1の有意な発現が存在すれば、これらの癌の発生、存在および/または重症度を知る上で有用と思われる。
【0072】
関連する1つの態様では、BPC-1の発現状態を核酸レベルではなく蛋白質レベルで判定する。例えば、このような方法またはアッセイ法は、被験組織試料中、または血清、精液、もしくは尿中の細胞によって発現されるBPC-1蛋白質のレベルを判定する段階、およびこのようにして判定したレベルを対応する正常試料中で発現されるBPC-1のレベルと比較する段階を含むと考えられる。1つの態様では、BPC-1蛋白質の存在を、例えば免疫組織化学的な方法を用いて評価する。BPC-1蛋白質の発現を検出しうるBPC-1抗体または結合パートナーは、この目的のために当技術分野で周知のさまざまなアッセイ法形式に用いることができる。もう1つの態様では、血清もしくは尿または他の体液における分泌型BPC-1蛋白質の有無を検査する。
【0073】
BPC-1は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌でも発現されると思われる分泌蛋白質であるため、血中または血清中のBPC-1を検出し、定量化するためのアッセイ法は、個体におけるBPC-1発現性腫瘍の発見、診断、予後判定および/または病期判定に有用と考えられる。例えば、BPC-1は正常前立腺では発現されないが、前立腺癌および膀胱癌では発現される。したがって、血清中にBPC-1が検出されることは、前立腺または膀胱の腫瘍の存在を示す指標になると思われる。この情報および/または他の情報に基づいて、前立腺癌または膀胱癌を診断することが可能と思われる。例えば、前立腺癌に関しては、このような他の情報には、血清PSAの測定、DREおよび/または超音波検査が含まれる。さらに、血清中に検出されるBPC-1のレベルは、病期判定または予後判定に有用な情報になると思われる。例えば、血清中のBPC-1蛋白質が極めて高いレベルにあれば、腫瘍が比較的大きい、および/または悪性度が高いことが推察される。
【0074】
正常組織におけるBPC-1の脳特異的発現は本発明のこの局面の重要な利点をもたらし、すなわち、循環血中BPC-1の背景レベルが極めて低値または皆無であれば、血清BPC-1蛋白質の存在と癌の存在との間に高度の相関が得られる。この利点は、細胞、病原体および高分子のクモ膜下腔への出入りを妨げる、中枢神経系の毛細血管における密着結合系である血液脳関門の特性に起因すると考えられる。したがって、脳内で発現されたBPC-1は血管系には遊離されないと考えられる。検討した他の正常な組織ではBPC-1の明らかな発現は示されていないため、血清BPC-1の存在はBPC-1発現性腫瘍の存在を強く示唆していると思われる。
【0075】
また、末梢血では、BPC-1の発現を検出するためのRT-PCRを用いて、前立腺癌を非制限的に含む癌細胞の存在に関するアッセイ法を都合よく行いうる。RT-PCRで増幅可能なBPC-1 mRNAが存在することは、前立腺癌の存在を示す指標となる。末梢血中の腫瘍細胞に関するRT-PCR検出アッセイ法は現在、数多くのヒト固形腫瘍の診断および管理における使用に関して評価が進められている。前立腺癌の分野では、これらにはPSAおよびPSMを発現する細胞を検出するためのRT-PCRアッセイ法が含まれる(Verkaikら、1997、Urol. Res. 25:373〜384、Ghosseinら、1995、J. Clin. Oncol. 13:1195〜2000、Hestonら、1995、Clin. Chem. 41:1687〜1688)。RT-PCRアッセイ法は当技術分野で周知である。
【0076】
本発明の1つの関連した局面は、個体における癌の発症に対する感受性を予測することに向けられる。1つの態様において、癌に対する感受性を予測するための方法は、その存在によって癌に対する感受性が示され、存在するBPC-1 mRNA発現の程度が感受性の程度と比例するような、組織試料中のBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質の検出を含む。1つの具体的な態様では、前立腺組織におけるBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば前立腺癌の易罹患性(または前立腺腫瘍の発生または存在)が示される。もう1つの具体的な態様では、膀胱組織におけるBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば前立腺癌の易罹患性(または膀胱癌の発生または存在)が示される。さらにもう1つの具体的な態様においては、血清中のBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば膀胱または前立腺腫瘍などのBPC-1発現性腫瘍の易罹患性(または存在)が示される。もう1つの態様においては、尿中のBPC-1の存在を検討し、試料中にBPC-1が存在すればBPC-1発現性膀胱癌の易罹患性(または存在)が示される。
【0077】
本発明のもう1つの関連した局面は、腫瘍の悪性度を評価するための方法に向けられる。1つの態様において、腫瘍の悪性度を評価するための方法は、正常試料と対比した腫瘍試料におけるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質の発現の程度が悪性度の程度を示すような、腫瘍の試料中の細胞により発現されるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質のレベルを測定する段階、そのようにして測定したレベルを同じ個体から採取した対応する正常組織または正常組織基準標本で発現されるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質のレベルと比較する段階を含む。1つの具体的な態様においては、腫瘍細胞でBPC-1が発現される程度を決定することによって前立腺腫瘍の悪性度を評価し、発現レベルが高いほど悪性度の高い腫瘍であることが示される。
【0078】
1つの関連した態様では、BPC-1発現性腫瘍の程度および悪性度の指標を得るためにBPC-1の血清レベルが用いられ、血清BPC-1が高レベルであるほど腫瘍の進行度および悪性度が高いことが推測される。血清BPC-1の経時的測定によってさらに情報が得られると考えられ、この際、BPC-1の上昇は進行を反映すると考えられ、上昇速度は悪性度と相関すると考えられる。同様に、血清BPC-1の低下は腫瘍の増殖速度の遅さまたは縮退を反映すると考えられる。特に、正常個体におけるBPC-1の脳特異的発現プロフィールを考慮すれば、バックグラウンドでのBPC-1干渉は最小限または皆無であると考えられるため、血清中にBPC-1が同定されることは、発癌イニシエーションおよび早期疾患の検出に有用と思われる。手術または治療を受けた患者では、血清BPC-1レベルは治療反応および再発可能性のモニタリングに有用と考えられる。血清BPC-1測定に対する代替的または付加的な手法として、尿中に分泌されたBPC-1の存在またはレベルは膀胱癌に関して有用と思われる。
【0079】
BPC-1 mRNAまたは蛋白質の発現を検出または定量化するための方法は本明細書に記載しており、当技術分野で周知の標準的な核酸および蛋白質の検出および定量化の手法を用いる。BPC-1 mRNAの検出および定量化のための標準的な方法には、標識したBPC-1リボプローブを用いるインサイチューハイブリダイゼーション、BPC-1ポリヌクレオチドプローブを用いるノーザンブロット法および関連技法、BPC-1に対して特異的なプライマーを用いるRT-PCR解析、ならびに例えば分枝DNA、SISBA、TMAなどを用いる他の増幅型検出方法が含まれる。1つの具体的な態様では、以下の実施例で述べるように半定量的RT-PCRを用いてBPC-1 mRNA発現の検出および定量化を行う。この目的にはBPC-1を増幅しうる任意の数のプライマーを用いることができ、これには本明細書で詳細に述べる種々のプライマーのセットが非制限的に含まれる。この目的のためには蛋白質の検出および定量化のための標準的な方法を用いることができる。1つの具体的な態様では、野生型BPC-1蛋白質と特異的に反応するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を生検組織の免疫組織化学アッセイ法に用いうる。
【0080】
循環血中および排出されたBPC-1に関するアッセイ法
成熟BPC-1は分泌蛋白質である。BPC-1を発現する腫瘍はBPC-1を血管系に分泌する、および/または尿中もしくは精液中に排出すると考えられ、分子診断の技術分野で周知のアッセイ法および技法を用いて、本蛋白質をそこで検出および定量化することができる。排出されたBPC-1は尿および精液中でも検出可能である。循環血中または排出されたBPC-1のレベルの検出および定量化には、前立腺癌、膀胱癌および他のこのようなBPC-1発現性腫瘍の診断、病期判定および予後判定において数多くの用途があると考えられる。当技術分野では、血清蛋白質の検出および定量化のための多種多様な技術的アプローチが周知である。
【0081】
尿中にBPC-1蛋白質が検出されることにより、BPC-1を分泌する膀胱癌の存在が示されうる。通常、腎機能が正常である限り、この蛋白質は尿中では有意なレベルとしては検出されない。しかし、膀胱癌細胞によって発現および分泌される蛋白質は膀胱内で尿中に直接入り込み、尿中での検出が可能となる可能性がある。興味深いことに、BPC-1蛋白質は組換え細胞培養液中で比較的高度の安定性を示し、このことはこの蛋白質が尿中でも安定であるという可能性を示唆する。
【0082】
1つの態様では、血清、尿または精液中のBPC-1の検出および定量化のために捕捉ELISAを用いる。BPC-1に関する捕捉ELISAは一般に、BPC-1蛋白質の異なるエピトープを認識するアイソタイプの異なる少なくとも2つのモノクローナル抗体を含むか、または抗BPC-1モノクローナル抗体および異なる種(例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ハムスターなど)に由来する特異的なポリクローナル血清を1つずつ含む。このアッセイ法では、一方の試薬を捕捉(またはコーティング(coating))抗体として用い、もう一方を検出抗体として用いる(本明細書の実施例13を参照のこと)。
【0083】
治療方法および組成物
正常個体では脳組織でのみ発現されるが、前立腺癌では高発現される(さらに膀胱癌およびおそらくは他の癌においても発現される)分泌蛋白質としてのBPC-1の同定は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌の治療に向けた数多くの治療的アプローチへの道を開くものである。本出願者らの最初の機能的研究からは、BPC-1がトランスフォーメーション活性を有しており、この活性がBPC-1の細胞蛋白質との相互作用によって、または別の蛋白質との結合もしくは会合によって惹起されることが示唆された。この蛋白質のCUBドメインは、他の分泌分子、細胞外マトリックス分子および/または細胞表面受容体との相互作用を媒介する、蛋白質-蛋白質相互作用ドメインとしての役割も果たすと考えられる。
【0084】
したがって、BPC-1蛋白質の活性を阻害することを意図した治療的アプローチは、前立腺癌、膀胱癌およびBPC-1を発現する他の癌に罹患した患者に対して有用と考えられる。これらの治療的アプローチは一般に2つの分類に分けられる。一方の分類には、BPC-1蛋白質の受容体との結合を阻害するため、またはその別の蛋白質との結合もしくは会合を阻害するためのさまざまな方法が含まれる。もう一方の分類には、BPC-1遺伝子の転写またはBPC-1 mRNAの翻訳を阻害するための種々の方法が含まれる。
【0085】
A.BPC-1蛋白質機能の阻害に基づく治療法
治療的アプローチの第1の分類に含まれるものとして、本発明は、BPC-1蛋白質の受容体もしくは他の結合パートナーとの結合、またはその他の蛋白質との会合を阻害するためのさまざまな方法および組成物、さらにBPC-1機能を阻害するための方法を含む。
【0086】
A.1.BPC-1抗体によるBPC-1の治療的阻害
1つのアプローチでは、BPC-1と結合し、それによってBPC-1が協調的結合パートナーと結合する能力、または他の蛋白質と結合もしくは会合する能力を阻害する抗体を、BPC-1が関与する発癌/トランスフォーメーションシグナル伝達経路を弱めるために用いる。結合パートナーを介したシグナルにより、BPC-1が腫瘍細胞の増殖の開始、促進および/または維持に関与する範囲において、このような抗体は治療的に有用と考えられる。
【0087】
BPC-1の機能を阻害しうるBPC-1抗体およびその断片は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌の治療に有用と考えられる。このような抗体はさまざまな様式でBPC-1活性の阻害に働くと思われる。例えば、BPC-1抗体は、BPC-1の受容体との結合、または別の蛋白質との結合/会合を妨げるものでよい。
【0088】
または、BPC-1抗体は、BPC-1蛋白質の生物活性ドメインと結合し、それによって機能を阻害するものでもよい。この点に関しては、BPC-1のCUBドメイン(図1参照)に特異的に向けられた抗体が、BPC-1結合の阻害(CUBドメインが結合に機能的にかかわる場合)または別の形でのCUBドメインの機能の阻害に特に有用と思われる。このようなドメイン特異的BPC-1抗体は、以前に記載された通りに作製しうる。例えば、図1に示したCUBドメインのアミノ酸配列を用いて、このような抗体を作製するためのCUBドメイン免疫原を作製することができる。
【0089】
BPC-1抗体を用いる癌の治療に関しては、以下のものを非制限的に含む数多くの因子が考慮されるものと思われる。第1に、モノクローナル抗体、特に分泌型BPC-1蛋白質との極めて高い結合親和性を有するものが一般に好ましい。第2に、患者の体内での抗原性が低いか全くない完全ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体が好ましい。マウスまたは他の非ヒトモノクローナル抗体およびヒト/マウスキメラmAbの使用により、一部の患者では中等度から高度の免疫応答が誘発されるおそれがある。第3に、抗体を患者に送達する方法は、治療しようとする癌の種類によって異なると考えられる。
【0090】
一般に、治療の目的が標的腫瘍組織におけるBPC-1活性またはシグナル伝達の阻害にある場合には、BPC-1抗体の腫瘍部位への直接投与により、臨床効果を生じるのに十分なBPC-1機能の局所的除去が得られると思われる。BPC-1 mAbの直接投与も可能であり、ある種の状況では有益と思われる。例えば、膀胱癌の治療のためには、BPC-1 mAbを膀胱内に直接注入してもよい。
【0091】
または、BPC-1抗体を全身投与することもでき、これにより、原発腫瘍、循環血中の微小転移、および/または確立した転移におけるBPC-1機能の除去がもたらされると思われる。腫瘍の血管新生の程度は、推奨される送達手法に関する指針になると思われる。同様に、癌のグレードおよび/または病期もこの点に関する有用な情報になると考えられる。例えば、グレードが高く、より進行した腫瘍ほど転移を播種する可能性が高いと思われ、このことから、転移の発生を治療または予防するための全身投与が示唆される。
【0092】
BPC-1 mAbは、単独でも、さらには異なるエピトープを認識するといった異なるmAbの併用または「カクテル」でも治療的に有用と思われる。このようなmAbカクテルには、それらが異なるエピトープと結合し、BPC-1の機能的阻害を強める抗体を含む限りは、いくつか利点があると思われる。さらに、BPC-1 mAbの投与を、種々の化学療法薬、アンドロゲン拮抗薬および免疫調節薬(例えば、IL-2、GM-CSF)を非制限的に含む他の治療薬と組み合わせることもできる。
【0093】
BPC-1抗体を用いた癌の治療には一般に、静脈内注射(IV)またはボーラス注入などの許容される投与経路を介して、典型的には約0.1〜約200mg/kg体重の範囲の投与量でBPC-1抗体製剤を投与することが含まれる。 1週間当たり10〜500mg mAbの範囲(またはそれ以上)の投与量であれば有効であって忍容性も十分と思われる。初回投与の後に、それよりも低用量のmAb製剤を毎週投与することが可能である。当業者は理解すると思われるが、個々の症例における理想的な投薬方式にはさまざまな因子が影響すると思われる。このような因子には、例えば、用いる一つまたは複数のmAbの結合親和性および半減期、患者におけるBPC-1発現の程度、抗体の望ましい定常濃度レベル、投与頻度、ならびに本治療的組成物と併用する化学療法薬または他の治療法の影響が含まれる。
【0094】
A.2.細胞内抗体(intracellular antibody)によるBPC-1の治療的阻害
もう1つのアプローチでは、BPC-1と特異的に結合する一本鎖抗体をコードする組換えベクターを遺伝子導入技術によってBPC-1発現細胞に導入し、コードされる一本鎖抗BPC-1抗体を細胞内で発現させ、BPC-1蛋白質と結合させてそれによってその機能を阻害する。このような細胞内一本鎖抗体を作製するための方法はよく知られている。このような細胞内抗体は「イントラボディー(intrabody)」としても知られており、細胞内の特定の区画を特異的な標的とさせて、治療の阻害活性を集中させようとする領域を高度に制御することを可能にする。この技術は当技術分野で首尾よく用いられている(概説については、RichardsonおよびMarasco、1995、TIBTECH 第13巻を参照のこと)。イントラボディーは通常であれば豊富に存在する細胞表面受容体の発現を事実上消失させることが示されている。例えば、リチャードソン(Richardson)ら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3137〜3141、ベールリ(Beerli)ら、1994、J. Biol. Chem. 289:23931〜23936、デシェーン(Deshane)ら、1994、Gene Ther. 1:332〜337を参照されたい。
【0095】
一本鎖抗体は、柔軟なリンカーポリペプチドによって連結された重鎖および軽鎖の可変領域を含み、単一のポリペプチドとして発現される。選択的には、一本鎖可変領域断片に軽鎖定常領域が連結したものとして一本鎖抗体を発現させてもよい。発現されたイントラボディーが所望の細胞内区画を正確に標的とするように、よく知られた細胞内輸送シグナルを、このような一本鎖抗体をコードする組換えポリヌクレオチドベクターに組み込むことができる。例えば、リーダーペプチドおよび選択的にはKDELアミノ酸モチーフなどのC末端ER残留(retention)シグナルが小胞体(ER)を標的とするイントラボディーに組み込まれるように操作しうる。核内で活性を発揮させようとするイントラボディーは、核局在化シグナルを含むように操作することができる。原形質膜の細胞質側にイントラボディーを係留するために、脂質部分をイントラボディーに連結させてもよい。細胞質内で機能を発揮するようにイントラボディーの標的化を行うこともできる。例えば、細胞質内の因子を隔離し、それによってそれらが細胞内の通常の目的地に輸送されることを妨げるために、細胞質イントラボディーを用いることができる。
【0096】
1つの態様において、イントラボディーは、ER内のBPC-1を捕捉し、それによってその成熟および細胞外への分泌を阻止するために用いうる。所望のターゲティングを実現するために、ERを標的とするシグナルおよび/またはリーダーペプチドをこのようなBPC-1イントラボディーに組み込むこともできる。このようなイントラボディーは、BPC-1がERによるプロセシングを受ける段階でBPC-1を捕捉し、それによってBPC-1のプロセシングまたは細胞の原形質膜を介した輸送を阻害すると考えられる。この方法は、生物活性をもつ分泌型の成熟BPC-1の発生をERのレベルで本質的には阻止するものと考えられる。このようなBPC-1イントラボディーを、BPC-1前駆体のシグナル配列を含む、特定のBPC-1ドメインと特異的に結合するようにデザインすることもできる。BPC-1蛋白質と反応する、小胞体を標的とするイントラボディーは小胞体内でBPC-1を捕捉すると考えられる。もう1つの態様においては、細胞質内のBPC-1 CUBドメインの機能をブロックするために、BPC-1 CUBドメインと特異的に反応するイントラボディーを用いることができる。
【0097】
A.3.組換え蛋白質によるBPC-1の治療的阻害
もう1つのアプローチでは、BPC-1と結合し、それによってBPC-1が協調的受容体に到達/結合すること、または発癌シグナルの伝達に関与する別の蛋白質と会合することを妨げることができる組換え分子が、BPC-1の機能を阻害するために用いられる。このような組換え分子は、例えば、BPC-1特異的な抗体分子の反応性部分を含む。1つの具体的な態様では、BPC-1受容体または結合パートナーのBPC-1リガンド結合ドメインが、ヒトIgG1などのヒトIgGのFc部分と連結した2つのBPC-1リガンド結合ドメインを含む二量体融合蛋白質に組み込まれる。このようなIgG部分は、例えば、CH2およびCH3ドメインならびにヒンジ領域を含むが、CH1ドメインは含まない。このような二量体融合蛋白質は、前立腺癌および膀胱癌を非制限的に含む、BPC-1の発現に伴う癌に罹患した患者に可溶性形態として投与することができ、この際、二量体融合蛋白質はBPC-1と特異的に結合し、それによってBPC-1の受容体または他の結合パートナーとの相互作用を阻害する。既知の抗体連結技術を用いて、このような二量体融合蛋白質をさらに組み合わせて多量体蛋白質とすることもできる。
【0098】
B.BPC-1の転写または翻訳の阻害に基づく治療法
治療的アプローチの第2の分類に含まれるものとして、本発明は、BPC-1遺伝子の転写を阻害するためのさまざまな方法および組成物を提供する。同様に、本発明は、BPC-1 mRNAの蛋白質への翻訳を阻害するための方法および組成物も提供する。
【0099】
1つのアプローチにおいて、BPC-1遺伝子の転写を阻害する方法は、BPC-1遺伝子をBPC-1アンチセンスポリヌクレオチドと接触させることを含む。もう1つのアプローチにおいて、BPC-1 mRNAの翻訳を阻害する方法は、BPC-1 mRNAをアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることを含む。もう1つのアプローチでは、BPC-1メッセージを切断し、それによって翻訳を阻害するためにBPC-1特異的リボザイムが用いられる。この種のアンチセンスおよびリボザイムに基づく方法を、BPC-1プロモーターおよび/またはエンハンサー因子などのBPC-1遺伝子の調節領域に向けて行うこともできる。同様に、BPC-1遺伝子の転写因子を阻害しうる蛋白質を、BPC-1 mRNAの転写を阻害するために用いることもできる。前記の方法に有用な種々のポリヌクレオチドおよび組成物は上記の通りである。転写および翻訳を阻害するためのアンチセンスおよびリボザイム分子の使用は当技術分野では周知である。
【0100】
図1のBPC-1 cDNAの5'非翻訳領域(UTR)は極めてGCに富む配列であり、このことは、BPC-1 mRNAのこの部分に翻訳調節因子が存在することを強く意味する。BPC-1遺伝子のこの特徴は、5' UTRの利用をブロックすることによってBPC-1の翻訳が阻害されるという可能性を示唆する。1つのアプローチでは、BPC-1 mRNAの5' UTRに対して相補的なアンチセンス分子をBPC-1メッセージの5' UTRと接触させ、それによってハイブリダイゼーションを生じさせ、内因性BPC-1翻訳因子がBPC-1 5' UTR中の必要な活性化因子に到達するのを妨げる。このアプローチの変法では、BPC-1 mRNAのスプライシングを行い、それによって第2の階層の翻訳阻害を付加することが可能なリボザイムまたは類似の活性をもつポリヌクレオチドと連結させた、BPC-1 mRNAの5' UTRと相補的な配列を含むポリヌクレオチドを用いる。
【0101】
しかし、上記の方法では、BPC-1のスプライシングを行うリボザイムをBPC-1 mRNAと別に、すなわち、上記の抗5' UTRなどの異種配列とは連結させずに接触させて、リボザイムまたは類似の活性をもつポリヌクレオチドをこのような異種BPC-1ハイブリダイズ性ポリヌクレオチドの一部として送達することにより、リボザイムが標的配列に直接隣接して配置すると考えられ、より高いレベルの阻害活性が得られると思われる。
【0102】
BPC-1の転写活性化を妨げることによってBPC-1の転写を阻害する他の因子もBPC-1を発現する癌の治療に有用と思われ、このような因子を利用する癌治療法も本発明の範囲に含まれる。同様に、BPC-1のプロセシングを妨げることが可能な因子も、BPC-1を発現する癌の治療に有用と思われる。
【0103】
C.一般的考察
BPC-1を合成する腫瘍細胞に治療用ポリヌクレオチド分子(すなわち、アンチセンス、リボザイム、イントラボディーおよび他のBPC-1阻害分子をコードするポリヌクレオチド)を送達するために、遺伝子導入および遺伝子治療技術を用いることができる。数多くの遺伝子治療アプローチが当技術分野では知られている。BPC-1アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、BPC-1の転写を妨げることが可能な因子、成熟BPC-1のプロセシングおよび/または分泌を妨げることが可能な因子などをコードする組換えベクターを、このような遺伝子治療アプローチを用いて標的腫瘍細胞に送達することができる。
【0104】
上記の治療アプローチを化学療法または放射線療法と併用してもよい。これらの治療アプローチにより、特に化学療法薬の毒性に対する忍容性がそれほど高くない患者では、併用化学療法に用いる投薬量を減らすことも可能になると考えられる。
【0105】
個々の組成物(例えば、抗体、リボザイム、組換え融合蛋白質)またはこのような組成物の組み合わせの抗腫瘍活性は、種々のインビトロおよびインビボアッセイ系を用いて評価しうる。治療能力を評価するためのインビトロアッセイ法には、細胞増殖アッセイ法、軟寒天アッセイ法および発癌促進活性を示す他のアッセイ法、治療的組成物がBPC-1の協調的受容体または他の結合パートナーとの結合を阻害する程度を決定しうる結合アッセイ法、細胞接着アッセイ法などが含まれる。例えば、HER2に対する抗体は、リガンドの受容体との結合を阻害し、腫瘍の増殖抑制をもたらす。さらに、例えば、EGFRに対する抗体は、EGFの受容体との結合を阻害し、増殖停止および腫瘍抑制をもたらす。以下の実施例も参照されたい。
【0106】
治療的組成物の標的に対する結合親和性を決定するためのさまざまなインビトロアッセイ法も知られている。例えば、BPC-1抗体の結合親和性は、当技術分野で周知の数多くの技法(例えば、ビアコア(BIAcore)技術)を用いて決定することができる。親和性の高いBPC-1抗体ほど、より高いレベルで所望の阻害をもたらすと考えられるため、好ましい。
【0107】
インビボでのBPC-1治療的組成物の効果は、適切な動物モデルで評価することができる。例えば、ヒト前立腺癌移植片または継代した異種移植片組織をヌードマウスまたはSCIDマウスなどの免疫機能低下動物に導入した外因性(xenogenic)前立腺癌モデルは、前立腺癌に関して適切であり、すでに記載されている(Kleinら、1997、Nature Medicine 3:402〜408)。例えば、1998年4月23日に刊行された国際公開公報第98/16628号、ソーヤーズ(Sawyers)らは、原発性腫瘍の発生、微小転移、および後期疾患の特徴である造骨性転移の形成を再現しうるヒト前立腺癌のさまざまな異種移植片モデルを記載している。膀胱癌モデルはさまざまなものが知られている(例えば、Russellら、1986、Cancer Res. 46:2035〜2040;Raghavanら、1992、Semin. Surg. Oncol. 8:279〜284;Riegerら、1995、Br. J. Cancer 72:683〜690;Oshinskyら、1995、J. Urol. 154:1925〜1929を参照のこと)。腫瘍形成、腫瘍退縮または転移の抑制などを測定するアッセイ法を用いて、有効性を予測することが可能と思われる。以下の実施例も参照されたい。
【0108】
アポトーシスの促進を定性的に評価(qualify)するインビボアッセイ法も、治療的組成物の可能性があるものの評価に有用と思われる。1つの態様では、治療的組成物を用いて治療したマウスから得た異種移植片をアポトーシス巣の有無に関して検査し、非治療対照異種移植片を有するマウスと比較する。治療マウスの腫瘍内に認められるアポトーシス巣の程度は、組成物の治療効果の指標になると考えられる。
【0109】
前記の方法の実践に用いられる治療的組成物を、望ましい送達法に適した担体を含む医薬組成物へと製剤化することもできる。適した担体には、治療的組成物と配合した際に治療的組成物の抗腫瘍機能を損なわず、しかも患者の免疫系と反応しないような任意の物質が含まれる。この例には、滅菌リン酸緩衝生理食塩水、滅菌精製水などの多数の標準的な薬学的担体の任意のものが非制限的に含まれる(概論については、レミントン製薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第16版、A. Osal編、1980を参照のこと)。
【0110】
治療製剤は、可溶化し、治療的組成物を腫瘍部位へと送達しうる任意の経路を介して投与することができる。有効と考えられる投与経路には、静脈内、非経口的、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、皮内、臓器内、同所性などが非制限的に含まれる。静脈内注射のために好ましい製剤は、滅菌精製水の保存溶液、新鮮滅菌水、および/または米国薬局方(USP)の0.9%滅菌塩化ナトリウム注射液を含むポリ塩化ビニルもしくはポリエチレンバッグ中に希釈された形で治療的組成物(すなわち、BPC-1モノクローナル抗体)を含む。抗BPC-1 mAb製剤は、凍結乾燥して好ましくは真空下にて滅菌粉末として保存した上で、注射前に例えばベンジルアルコール防腐剤を含む滅菌精製水、または滅菌水で再構成することができる。
【0111】
前記の方法を用いる癌の治療のための投与量および投与のプロトコールは、方法および標的の癌によって異なると考えられ、一般には、当技術分野で認識されている数多くの他の因子に依存すると考えられる。
【0112】
癌ワクチン
本発明はさらに、BPC-1蛋白質またはその断片を含む前立腺癌ワクチンを提供する。抗癌療法において体液性および細胞性免疫を生じさせるためのワクチンにおける腫瘍抗原の使用は当技術分野で周知であり、ヒトPSMAおよび齧歯類PAP免疫原を用いて前立腺癌に使用されている(Hodgeら、1995、Int. J. 癌 63:231〜237、Fongら、1997、J. Immunol. 159:3113〜3117)。このような方法は、BPC-1蛋白質もしくはその断片、またはBPC-1免疫原を発現して適切に提示することが可能なBPC-1をコードする核酸分子および組換えベクターを用いることにより、容易に実施しうる。
【0113】
BPC-1をコードする核酸分子を送達するためには、例えば、ウイルス性遺伝子送達システムを用いることができる。本発明のこの面の実践に用いうるウイルス性遺伝子送達システムはさまざまであり、これにはワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよびシンドバス(sindbus)ウイルス(Restifo、1996、Curr. Opin. Immunol. 8:658〜663)が非制限的に含まれる。抗腫瘍応答を誘発させるためにBPC-1蛋白質またはその断片をコードする裸のDNAを患者の体内(例えば、筋肉内)に導入する、非ウイルス性送達システムを用いてもよい。1つの態様では、完全長ヒトBPC-1 cDNAを用いうる。もう1つの態様では、特定の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトープをコードするBPC-1核酸分子を用いることができる。CTLエピトープは、特定のHLA対立遺伝子と最適に結合しうるBPC-1蛋白質内部のペプチドを同定するための特定のアルゴリズム(例えば、Epimer、Brown University)を用いて決定することができる。
【0114】
さまざまなエクスビボ戦略を用いることもできる。1つのアプローチでは、患者の免疫系に対してBPC-1抗原を提示するために樹状細胞を用いる。樹状細胞はMHCクラスIおよびII、B7副刺激因子ならびにIL-12を発現するため、非常に特殊化した抗原提示細胞である。前立腺癌では、前立腺癌患者の免疫系を刺激することを目的に前立腺特異的膜抗原(PSMA)のペプチドによるパルス刺激を行った自己樹状細胞を用いる第I相臨床試験が進行中である(Tjoaら、1996、Prostate 28:65〜69、Murphyら、1996、Prostate 29:371〜380)。樹状細胞は、MHCクラスIおよびII分子を背景としてT細胞にBPC-1ペプチドを提示するために用いることができる。1つの態様では、MHC分子と結合しうるBPC-1ペプチドによって自己樹状細胞のパルス刺激を行う。もう1つの態様では、完全なBPC-1蛋白質で樹状細胞のパルス刺激を行う。さらにもう1つの態様では、アデノウイルス(Arthurら、1997、Cancer Gene Ther. 4:17〜25)、レトロウイルス(Hendersonら、1996、Cancer Res. 56:3763〜3770)、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、DNAトランスフェクション(Ribasら、1997、Cancer Res. 57:2865〜2869)および腫瘍由来RNAのトランスフェクション(Ashleyら、1997、J. Exp. Med. 186:1177〜1182)などの当技術分野で知られた種々の実装(implementing)ベクターを用いて、樹状細胞においてBPC-1遺伝子が過剰発現するように操作する。BPC-1を発現する細胞は、GM-CSFなどの免疫モジュレーターを発現するように操作され、免疫化物質として用いられ得る。
【0115】
BPC-1蛋白質を発現する細胞に対する免疫応答を誘発するためのワクチンとして、抗癌療法において抗イディオタイプ抗BPC-1抗体を用いることも可能である。具体的には抗イディオタイプ抗体の作製は当技術分野で周知であり、BPC-1蛋白質上のエピトープを模倣する抗イディオタイプ抗BPC-1抗体を作製するために容易に適合化しうる(例えば、Wagnerら、1997、Hybridoma 16:33〜40、Foonら、1995、J Clin Invest 96:334〜342、Herlynら、1996、Cancer Immunol Immunother 43:65〜76を参照)。このような抗イディオタイプ抗体は癌ワクチンによる方法に用いることができる。
【0116】
BPC-1を発現する癌細胞に対する予防的または治療的な体液性および細胞性免疫応答を生じさせるために、遺伝子免疫化法(genetic immunization method)を用いてもよい。BPC-1蛋白質/免疫原をコードするDNAおよび適切な調節配列を含む作製物を対象の筋肉または皮膚に直接注入し、筋肉または皮膚の細胞が作製物を取り込んでコードされたBPC-1蛋白質/免疫原を発現するようにさせる。BPC-1蛋白質免疫原の発現により、前立腺癌に対する予防的または治療的な体液性および細胞性免疫がもたらされる。当技術分野で知られたさまざまな予防的および治療的な遺伝子免疫化法を用いることができる(総説については、インターネットアドレスwww.genweb.comで発表されている情報および参考文献を参照されたい)。
【0117】
キット
本発明は、上記において記載および提案した診断的および治療的用途における使用のためのキットも提供する。このようなキットは、バイアル、管などの1つまたは複数の容器手段を密に拘束して収容するために区画化された担体手段を含み、容器手段のそれぞれは本方法に用いる別々の要素の1つを含む。例えば、容器手段の1つは、検出可能な標識がなされているか、またはそれが可能なプローブを含む。このようなプローブは、BPC-1蛋白質またはBPC-1遺伝子もしくはmRNAに対してそれぞれ特異的な抗体またはポリヌクレオチドであってよい。標的核酸を検出するためにキットが核酸ハイブリダイゼーションを利用する場合には、キットは標的核酸配列の増幅のためのヌクレオチドを含む容器、および/または酵素性、蛍光性もしくは放射性ヌクレオチド標識などのレポーター分子を結合させたアビジンまたはストレプトアビジンなどのビオチン結合蛋白質などのレポーター手段を含む容器も有しうる。
【0118】
実施例
以下のいくつかの実施例により、本発明のさまざまな局面の説明および例示をさらに行うが、これらはいずれも発明の範囲を制限するためのものではない。
【0119】
実施例1:
BPC-1遺伝子のcDNA断片の単離
材料および方法
細胞株およびヒト組織
LAPC異種移植片:
LAPC異種移植片はチャールズ・ソーヤーズ博士(Dr. Charles Sawyers)(UCLA)から入手し、以前の記載の通りに作製した(Kleinら、1997、Nature Med. 3:402〜408)。アンドロゲン依存性および非依存性LAPC-4異種移植片(それぞれLAPC-4 ADおよびAI)ならびにLAPC-9 AD異種移植片を雄性SCIDマウスの体内で増殖させ、小型組織塊としてレシピエントの雄に継代した。LAPC-4 AI異種移植片はLAPC-4 AD腫瘍から得た。LAPC-4 AD腫瘍を有する雄性マウスを去勢し、2〜3カ月間飼育した。LAPC-4腫瘍が再び成長した時点で腫瘍を採取し、去勢雄または雌性SCIDマウスに継代した。
【0120】
細胞株:
ヒト細胞株(例えば、HeLa)はATCCから入手し、10%ウシ胎児血清を加えたDMEM中で維持した。
【0121】
RNAの単離:
全RNAを単離するために、腫瘍組織および細胞株をトリゾール(Trizol)試薬(Life Technologies、Gibco BRL)中にて10ml/ g組織または10ml/ 細胞108個の濃度で用いてホモジネート化した。ポリA RNAは、キアゲン(Qiagen)社のオリゴテックス(Oligotex)mRNAミニ(Mini)およびミィディ(Midi)キットを用いて全RNAから精製した。全RNAおよびmRNAを分光光度分析(O.D. 260/280nm)により定量化し、ゲル電気泳動によって分析した。
【0122】
オリゴヌクレオチド:
HPLCで精製した以下のオリゴヌクレオチドを用いた。
【0123】
抑制サブトラクション・ハイブリダイゼーション:
アンドロゲン依存性前立腺癌と比較して、アンドロゲン非依存性前立腺癌でダウンレギュレートされると思われる遺伝子に対応するcDNAを同定するために、抑制サブトラクション・ハイブリダイゼーション(SSH)を用いた。
【0124】
クローンテック(CLONTECH)社のPCR-セレクトcDNAサブトラクションキットおよびプライマーとして1ngのオリゴヌクレオチドDPNCDNを用いて、上記の通りに異種移植片組織から単離した2μgのポリ(A)+RNAから、LAPC-4 AD異種移植片(テスター)およびLAPC-4 AI異種移植片(ドライバー)に対応する2本鎖cDNAを合成した。第1の鎖および第2の鎖の合成は、キットのユーザーマニュアル手順書(CLONTECH手順書第PT1117-1号、カタログ番号K1804-1)に記載された通りに行った。この結果得られたcDNAをDpnIIにより37℃で3時間消化した。消化したcDNAをフェノール/クロロホルム(1:1)で抽出し、エタノールで沈殿させた。
【0125】
ドライバーcDNA(LAPC-4 AI)は、DpnIIで消化したLAPC-4 AI cDNAを、ヒト両性前立腺肥大(BPH)、ヒト細胞株HeLA、293、A431、Colo205、およびマウス肝臓由来の消化cDNAにおける混合物と1:1の比率で配合することによって作製した。
【0126】
テスターcDNA(LAPC-4 AD)は、DpnIIで消化したLAPC-4 AD cDNA 1μl(400ng)を水5μlで希釈することによって作製した。続いて、400uのT4DNAリガーゼ(CLONTECH)を用いて、希釈したcDNA(2μl、160ng)と2μlのアダプター1およびアダプター2(10μM)を、総容積を10μlとする16℃、一晩の別々のライゲーション反応でライゲーションした。0.2M EDTAを1μl添加し、72℃で5分間加熱することによってライゲーションを停止させた。
【0127】
第1のハイブリダイゼーションは、アダプター1およびアダプター2とライゲーションさせたテスターcDNA 1.5μl(20ng)を含む2本のチューブのそれぞれに対して、1.5μl(600ng)のドライバーcDNAを添加することによって行った。最終容積4μlとした試料の上に鉱油を重層し、MJリサーチ(MJ Research)社のサーマルサイクラー中で98℃、1.5分間の変性処理を加えた後に68℃で8時間ハイブリダイズさせた。続いて、2つのハイブリダイゼーション物を1μlの新鮮な変性ドライバーcDNAを加えた上で混合し、68℃で一晩ハイブリダイズさせた。この第2のハイブリダイゼーション物を、20mM Hepes、pH 8.3、50mM NaCl、0.2mM EDTAからなる200μl中に希釈し、70℃で7分間加熱して-20℃で保存した。
【0128】
SSHにより得られた遺伝子断片のPCR増幅、クローニングおよびシークエンシング:
SSH反応によって得た遺伝子断片を増幅するためにPCR増幅を2回行った。第1のPCR反応では、希釈した最終的なハイブリダイゼーション混合物1μlを、1μlのPCRプライマー1(10μM)、0.5μlのdNTP混合物(10μM)、2.5μlの10×反応バッファー(CLONTECH)および0.5μlの50×アドバンテージcDNAポリメラーゼ混合物(Advantage cDNA polymerase Mix)(CLONTECH)に添加し、最終容積25μlとした。PCR 1は以下の条件を用いて行った:75℃ 5分間、94℃ 25秒間の後、94℃ 10秒間、66℃ 30秒間、72℃ 1.5分間を27サイクル。各実験に関して第1のPCR反応を別々に5回ずつ行った。産物は集積し、水で1:10に希釈した。第2のPCR反応では、集積および希釈した第1のPCR反応物1μlに対して、PCRプライマー1の代わりにプライマーNP1およびNP2(10μM)を用いた点を除いてPCR 1に用いたものと同じ反応混合物を添加した。PCR 2は、94℃ 10秒間、68℃ 30秒間、72℃ 1.5分間を10〜12サイクル用いて行った。2%アガロースゲル電気泳動を用いてPCR産物を分析した。
【0129】
T/Aベクタークローニングキット(Invitrogen)を用いてPCR産物をpCR2.1中に挿入した。形質転換した大腸菌に対して青/白およびアンピシリン選択を行った。白色のコロニーを摘出し、96穴プレート中に配列した上で、液体培養下で一晩増殖させた。挿入物を同定するために、細菌培養液1mlに対して、PCR1の条件およびプライマーとしてNP1およびNP2を用いるPCR増幅を行った。PCR産物は2%アガロースゲル電気泳動を用いて分析した。
【0130】
細菌クローンは96ウェル形式で20%グリセロール中にて保存した。プラスミドDNAを調製してシークエンシングを行い、ジェンバンク(GenBank)、dBestおよびNCI-CGAPデータベースの核酸ホモロジー検索を行った。
【0131】
RT-PCR発現解析:
第1のcDNA鎖は、ギブコ社(Gibco-BRL)のスーパースクリプト・プレ増幅システム(Superscript Preamplification system)を用いるオリゴ(dT) 12-18プライミングにより、1μgのmRNAから作製した。製造者の手順を用いたが、これは逆転写酵素とともに42℃で50分間インキュベートした後にRNAse H処理を37℃で20分間行う段階を含む。反応を終えた後、水を加えて容積を200μlに増やしてから標準化を行った。16種の異なる正常ヒト組織に由来する第1のcDNA鎖はクローンテック(Clontech)社から入手した。
【0132】
複数組織に由来する第1のcDNA鎖の標準化は、β-アクチンを増幅するためのプライマー5'atatcgccgcgctcgtcgtcgacaa3'(配列番号:23)および5'agccacacgcagctcattgtagaagg 3'(配列番号:24)を用いて行った。第1のcDNA鎖(5μl)は、0.4μMのプライマー、0.2μMの各dNTP、1×PCRバッファー(Clontech、10mM Tris-HCL、1.5mM MgCI2、50mM KCI、pH8.3)および1×クレンタック(Klentaq)DNAポリメラーゼ(Clontech)を含む総容積50μl中で増幅した。18、20および22サイクルの時点でPCR反応物5μlを採取し、アガロースゲル電気泳動に用いた。PCRは、MJリサーチ(MJ Research)社のサーマルサイクラーを以下の条件で用いて行った:最初に94℃ 15秒間の変性処理を行った後、94℃ 15秒間、65℃ 2分間、72℃ 5秒間を18、20および22サイクル。72℃での最後の伸長処理は2分間行った。アガロースゲル電気泳動を行った後、複数組織で得られた283bpのβ-アクチンバンドのバンド強度を肉眼で比較した。22サイクルのPCRの後のすべての組織におけるβ-アクチンバンド強度が等しくなるように、第1のcDNA鎖に関する希釈係数を算出した。22サイクルのPCR後のすべての組織におけるバンド強度が等しくなるまでには標準化を3回行う必要があった。
【0133】
19P1E8遺伝子の発現レベルを判定するために、標準化した第1のcDNA鎖 5μlを、(MIT、詳細についてはwww.genome.wi.mit.eduを参照)の助けを借りて設計した以下のプライマー対を用い、25、30および35回の増幅サイクルを用いるPCRによって分析した:
【0134】
これらのプライマーは、19P1E8遺伝子として最初に単離されたSSH断片の配列から設計した。19P1E8遺伝子のオープンリーディングフレーム内の配列に基づく以下のプライマー対を使用した場合には、同じ発現パターンが生じた。
【0135】
半定量的発現解析は、薄いバンド強度が得られるサイクル数でPCR産物を比較することによって行った。
【0136】
結果:
前記の材料および方法の項に記載した通りにSSH実験をいくつか行い、候補となる遺伝子断片クローン(SSHクローン)を数多く単離した。対応する遺伝子の同一性に関する情報を得るため、および特定遺伝子の発現の差を分析するための決断を導く一助とするために、すべての候補クローンのシークエンシングを行い、主要な公的遺伝子およびESTデータベース中の全配列に対してホモロジー解析を行った。一般に、検索したいずれのデータベース中の既知の配列とも相同性がなく、このため新規遺伝子と考えられる遺伝子断片、ならびにこれまでにシークエンシングがなされた発現配列タグ(EST)との相同性が認められた遺伝子断片に対して、RT-PCRおよび/またはノーザン解析によるディファレンシャル発現解析を行った。
【0137】
既知の遺伝子またはEST配列との相同性が認められなかった、約700bpを含むSSHクローンの1つを19P1E8と命名した。このSHHクローンのヌクレオチド配列は、図1のヌクレオチド残基およそ1883〜2583に示されている。ノーザンブロットによる差分的発現分析では、19P1E8がLAPC-4 AD異種移植片で発現され、著しく程度は低いもののLAPC-4 AI、LAPC-9 ADおよびLAPC-9 AIでも発現されることが示された(図9)。正常前立腺では全く発現が認められなかった(図9)。サイズが3.5kb、8kbおよび9kb以上である3種類の異なる転写物が示されている。
【0138】
19P1E8の発現に関するRT-PCR分析でも本質的に同じ結果が得られた(図5、パネルA)。加えて、16種の正常組織由来の第1ストランドcDNAに関するRT-PCR発現解析をさらに行ったところ、19P1E8遺伝子の発現は脳、脾臓および精巣組織でのみ検出され、35サイクルのPCR増幅を行った場合のみに極めて低いレベルで検出されたが、30サイクルでは検出されなかった(図5、パネルBおよびC)。これに対して、LAPC-4 ADではわずか30サイクルでかなりの発現が検出された(図5)。
【0139】
実施例2:
完全長BPC-1をコードするcDNAの単離
上記の19P1E8 SHHクローン(実施例1)を用いて、完全長19P1E8 cDNAを単離した。簡潔に述べると、LAPC-4 mRNAから作製したcDNAライブラリーを、SSHクローンから作製した標識プローブによってスクリーニングした。具体的には、ラムダZAPエクスプレス(Stratagene)中に作製したLAPC-4 AD cDNAライブラリーから、2639塩基対(bp)の完全長19P1E8 cDNAをクローニングした。
【0140】
このcDNAは、シグナル配列およびCUBドメイン(補体成分C1r/C1s、Uegf、Bmp1(Complement subcomponents C1r/C1s、Uegf、Bmp1)の頭文字)(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)を1つずつ含む、158アミノ酸からなるオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする。その5' UTR(非翻訳領域)は極めてGCに富んでおり、このことはこの領域が翻訳に関する調節因子を含むことを示唆している。CUBドメインは補体成分C1rおよびC1sで最初に発見され、続いてUegf(上皮増殖因子関連ウニ蛋白質)および骨発育に関与するプロテアーゼであるBmp1(骨形成蛋白質1)で同定された。
【0141】
この遺伝子が脳で独占的に発現され、前立腺癌異種移植片でアップレギュレートされることに鑑みて、この遺伝子はBPC-1(脳/前立腺癌CUB蛋白質(Brain/Prostate Cancer CUB protein)の頭文字)と命名された。単離されたBPC-1 cDNAのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列は図1に示されている。BPC-1の構造の概略図は図2に示されている。BPC-1のCUBドメインと他の蛋白質のCUBドメインのアミノ酸のアラインメントは図3に示されている。図3を参照すると、BPC-1のCUBドメインとBMP-1におけるCUBドメインの同一性が30〜40%である点に特に関心がもたれる。
【0142】
この完全長BPC-1 cDNA(p19P1E8、クローン6.1)は、1998年8月7日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録され、ATCC登録番号98833を与えられている。
【0143】
実施例3:
BPC-1遺伝子の発現分析―正常組織では脳特異的である
正常ヒト組織におけるBPC-1 mRNAの発現に関する最初の分析はまず、標識した19P1E8 SSHクローン(実施例1)をプローブとして用いる、クローンテック(Clontech)社(Palo Alto、California)から入手した合計16種の異なる正常ヒト組織を含む2種類の複数組織ブロットに対するノーザンブロット法によって行った。RNA試料はβ-アクチンプローブを用いて定量的に標準化した。
【0144】
その結果を図4に示す。発現は正常脳でのみ検出された。ノーザンブロットでは3.5kbおよび8.0kbの2種類の転写物が認められた(図5)。3.5kb転写物は、BPC-1 ORFをコードする、LAPC-4 ADから同定されたcDNAに対応する。長い方の転写物は、プロセシングを受けていないmRNA、または遺伝子の選択的アイソフォームをコードすると思われる。
【0145】
正常組織におけるBPC-1の発現をさらに検討するために、複数組織のRNAドットブロットをBPC-1プローブで検索した。検討した37種の異なる正常組織のうち、BPC-1レベルが検出可能であったのは脳領域のみであった(図6)。興味深いことに、BPC-1の発現は側頭葉、前頭葉および頭頂葉などの脳の皮質領域に限定されていた。海馬、扁桃体、尾状核および被殻でも発現が検出された。視床、視床下核および黒質などの他の脳領域ではBPC-1は発現されなかった。同じく、小脳、脊髄および延髄(中脳)などの他の中枢系(CNS)構造でも発現は検出されなかった。RNAドットブロットの結果は、異なるCNS組織のRNAを含むノーザンブロット法によって裏づけられた(図7)。
【0146】
実施例4:
胎児組織におけるBPC-1発現―発生過程ではより広範な発現がみられる
CUBドメイン蛋白質はしばしば発生過程において調節を受ける。BPC-1がヒト胎児組織で発現されるかどうかを明らかにするために、8種の異なる胎児組織に由来する第1ストランドcDNAに対してRT-PCRを行った。その結果、BPC-1が胎児脳で高発現され、他のすべての胎児組織でもこれより低いレベルで検出されることが示された(図8)。このことは、成人における発現は脳に限定され、他の組織での発現は発生過程中に停止することを示唆している。
【0147】
実施例5:
前立腺癌における高レベルのBPC-1発現
癌組織および細胞株におけるBPC-1の発現を分析するために、LAPC前立腺癌異種移植片ならびに一連の前立腺癌および膀胱癌細胞株に由来するRNAに対してノーザンブロット分析を行った。図9に示す結果から、BPC-1の最も高レベルの発現は、いずれも前立腺癌のリンパ節転移に由来する、LAPC-4 AD前立腺癌異種移植片およびLNCaP前立腺癌細胞株で認められることが明らかになった(Kleinら、1997、Nature Med. 3:402;Horoszewiczら、1983、Cancer Res. 43:1809)。LAPC-4 AI、LAPC-9 ADおよびLAPC-9 AIではこれよりも低いレベルのBPC-1発現が検出された(図9)。検討した膀胱癌細胞株のうち1つ(5637)では、BPC-1の発現が検出された(図9)。前立腺および正常前立腺の基底細胞区画であるPrEC細胞(Clonetics)では全く発現が検出されなかった。
【0148】
実施例6:
分泌型組換えBPC-1のインビトロでの産生
組換えBPC-1を発現させて、BPC-1蛋白質の細胞内局在を分析するために、カルボキシ末端に6Hisタグを付与する発現ベクター(pCDNA 3.1 myc-his、InVitrogen)中に完全長cDNAをクローニングした。35S-メチオニンで1時間標識した293T細胞にこの作製物をトランスフェクトした。続いて細胞を洗浄し、さまざまな時点での標識蛋白質を追跡するために非放射性培地中でインキュベートした。追跡開始後のさまざまな時点で、細胞抽出物および細胞上清(培地)からの抗His抗体(Santa Cruz)を用いてBPC-1-His付加蛋白質を免疫沈降させた。SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動)に続いて35S-メチオニン標識蛋白質を可視化するためのオートラジオグラフィーを行うことにより、免疫沈降物を分析した。
【0149】
この結果は、BPC-1蛋白質が35S-メチオニン標識期間の直後に細胞抽出物および細胞培養液中に出現することを示している(図10)。BPC-1蛋白質はほぼすべて追跡から2時間以内に培地中に分泌され、数時間にわたって培地中に安定に保たれた。本蛋白質の半減期は24時間を上回ると推測される。ベクターをトランスフェクトした細胞も標識し、同じ手順を用いて分析した。興味深いことに、ベクターおよびBPC-1をトランスフェクトした細胞のいずれにおいても非特異的蛋白質が出現している。この蛋白質は4時間後の時点で消失したため、BPC-1と比べて培地中の半減期は極めて短いと思われる。これらの結果は、BPC-1が現実に、細胞培養液中で極めて安定と思われる分泌蛋白質であることを示す。
【0150】
実施例7:
バキュロウイルス系を用いた組換えBPC-1の産生
バキュロウイルス発現系で組換えBPC-1蛋白質を産生させるために、昆虫細胞の培養液中への分泌のためのミツバチメリチンシグナル配列をもたらすバキュロウイルス導入ベクターpMelBac(Invitrogen)中にBPC-1 cDNAをクローニングした。pMelBac-BPC-1をヘルパープラスミドpBlueBac4.5(Invitrogen)とともにSF9(Spodoptera frugiperda)昆虫細胞に同時トランスフェクトして、組換えバキュロウイルス(詳細についてはInvitrogen社の説明書を参照のこと)を作製した。バキュロウイルスを細胞上清から回収し、プラークアッセイ法によって精製した。
【0151】
組換えBPC-1蛋白質は、ハイファイブ(HighFive)昆虫細胞(InVitrogen)を精製したバキュロウイルスに感染させることによって産生させた。抗BPC-1マウスポリクローナル抗体を用いたところ、組換えBPC-1蛋白質は細胞抽出物および細胞上清でともに検出された (以下の実施例8を参照のこと)。興味深いことに、細胞抽出物はシグナル配列が切断されたBPC-1およびプロセシングを受けていないBPC-1という2種類の形態のBPC-1を含む(図11)。上清は切断された成熟BPC-1のみを含んでいた。この組換えBPC-1蛋白質は、精製して、種々の細胞に基づくアッセイ法において、またはBPC-1に対して特異的なポリクローナルおよびモノクローナル抗体を産生させるための免疫原として用いることができる。
【0152】
実施例8:
BPC-1ポリクローナル抗体の作製
BPC-1と特異的に結合する抗体試薬を作製するために、BPC-1蛋白質のアミノ酸29〜93を包含するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合蛋白質を合成し、免疫原として用いた。この融合蛋白質は、以下のプライマーを用いて、BPC-1のcDNAクローンのヌクレオチド877〜1,071(AA 29〜93)をPCRを介して増幅することによって作製した:
【0153】
この結果得られた生成物をpGEX-2T GST融合ベクター(Pharmacia)のEcoRIおよびXhoI制限部位にクローニングした。グルタチオン-セファロースアフィニティークロマトグラフィーにより、誘導細菌から組換えGST-BPC-1融合蛋白質を90%を上回る純度となるように精製した。
【0154】
BPC-1に対するポリクローナル血清を作製するために、精製した融合蛋白質を以下の通りに用いた。ウサギにまず、完全フロイントアジュバント中に混合した200μgのGST-BPC-1融合蛋白質による免疫処置を行った。このウサギに対して、不完全フロイントアジュバント中に含めた200μgのGST-BPC-1蛋白質を2週間毎に注射した。各免疫処置から約7〜10日後に試験採血を行った。ウサギ血清のBPC-1に対する特異性および力価の判定には、ELISA、ウエスタンブロット法および免疫沈降分析を用いた。抗血清の特徴分析には、LNCaPならびにトランスフェクション(293T)およびレトロウイルス感染(PC-3およびNIH 3T3)によってBPC-1を過剰発現するように操作された細胞株などの、BPC-1を内因性的に発現する細胞株を用いた。BPC-1蛋白質に対して特異的な高力価を示した抗血清を、以下の3段階の工程によって精製する:(1)GSTアフィニティーカラムを通して枯渇させることによるGST反応性抗体の除去、(2)BPC-1特異的IgG抗体はGST-BPC-1アフィニティーカラムを通過させることによって単離した、および(3)プロテインGクロマトグラフィー。
【0155】
バキュロウイルス発現系で発現された組換えBPC-1(上記の実施例7を参照)、アフィニティー(ニッケル)精製したMYC/HIS BPC-1蛋白質(図13)およびBPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中の組換えBPC-1蛋白質(図13)の検出には、マウスポリクローナル抗体を首尾よく用いた。ウサギポリクローナル血清も作製したが、これもBPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中のBPC-1を検出することが可能であった。
【0156】
実施例9:
BPC-1モノクローナル抗体の作製
BPC-1に対するmAbを作製するために、Balb Cマウス5匹にまず、完全フロイントアジュバント中に混合した200μgのGST-BPC-1融合蛋白質による腹腔内免疫処置を行った。続いてマウスに、不完全フロイントアジュバント中に混合した75μgのGST-BPC-1蛋白質による免疫処置を2週間毎に計3回行った。免疫化マウスから得た血清の完全長BPC-1蛋白質に対する反応性を、293T細胞により発現させたHIS付加BPC-1蛋白質の部分精製調製物を用いるELISAによって観測した。最も強い反応性が認められたマウス2匹を3週間安静にした後、PBS中に溶解した融合蛋白質の最終注射を行い、4日後に屠殺した。屠殺したマウスの脾臓を採取し、標準的な手順を用いてSPO/2骨髄腫細胞と融合させた(HarlowおよびLane、1988)。BPC-1特異的抗体を産生するクローンを同定するために、HAT選択後の増殖用ウェルの上清をELISAおよびウエスタンブロット法によってスクリーニングした。
【0157】
BPC-1モノクローナル抗体の結合親和性は標準的な技術を用いて決定しうる。親和性の測定は、抗体のエピトープとの結合の強度を定量化するものであり、これはどのBPC-1モノクローナル抗体が診断的または治療的な用途に好ましいかを明らかにする上でも有用である。ビアコア(BIAcore)システム(Uppsala、Sweden)は、結合親和性を決定するための好ましい方法である。ビアコアシステムでは、生体分子の相互作用をリアルタイムで観測するために表面プラスモン共鳴を用いる(SPR、Welford K. 1991、Opt. Quant. Elect. 23:1;MortonおよびMyszka、1998、Methods in Enzymology 295:268)。ビアコア分析により、会合速度定数、解離速度定数、平衡解離定数および親和定数が都合よく得られる。
【0158】
実施例10:
哺乳動物発現系において発現される組換えBPC-1の産生および精製
C末端に6XHisおよびMYCタグを有するBPC-1をコードするCMV駆動性発現ベクター(pcDNA3.1/mycHIS、Invitrogen)を一時的にトランスフェクトされた293T細胞、またはこれを安定的に発現する293細胞は、精製用の分泌型可溶性BPC-1蛋白質の供給源として役立つ(上記の実施例6を参照のこと)。馴化培地中に分泌されたHIS付加BPC-1蛋白質は以下の方法によって精製される。馴化培地(500ml)を10倍に濃縮し、同時にアミコン(amicon)限外濾過装置をMWカットオフ値10kdの膜とともに用いて、750mM NaClおよび10mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液(pH 8.0)への緩衝液交換を行う。続いてこの調製物を総容積(bed volume)0.5mlのニッケル金属アフィニティー樹脂(Ni-NTA、Qiagen)に通し、10%エタノールおよび300mM NaClを含むリン酸緩衝液(pH 6.0)で十分に洗浄する。続いて、250mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液(pH 6.0)でHIS付加BPC-1蛋白質を溶出させる。高ストリンジェンシー洗浄(75mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液)を含む上記のクロマトグラフィー手順を反復することにより、または抗HIS Abイムノアフィニティーカラムを通過させることにより、高純度の調製物が得られる。この方法を組換えHIS-BPC-1の精製に首尾よく用いた。精製された蛋白質のウエスタンブロットは、図13の最も左側のレーンに示されている。
【0159】
実施例11:
分泌型ヒトBPC-1のレトロウイルスを介した発現
BPC-1のコード領域をSRαmsvtkneoレトロウイルスベクター(Mullerら、1991 MOB 11:1785〜1792)中にサブクローニングした。BPC-1遺伝子を発現する細胞株を作製するためにレトロウイルスを作製して用いた。作製した細胞株は、3T3/BPC-1およびPC3/BPC-1である。SR-αBPC-1ウイルスを急性感染させた3T3細胞は、図12に示したノーザンブロットによって示されている通り、極めて高レベルのBPC-1 mRNAを発現する。BPC-1蛋白質のN末端部分(aa29〜93)を含むGST融合蛋白質に対するポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロット分析により、PC3/BPC-1可溶化物および上清をBPC-1発現に関して以下の通りに検査した。対照(Neo)またはBPC-1をコードするレトロウイルスを安定的に発現するPC3および3T3細胞、ならびにBPC-1レトロウイルスに急性感染させた3T3細胞を10cm径の組織培養プレート中で4日間培養した。各細胞株から得た25μlの非希釈上清を、マウス抗BPC-1ポリクローナル血清の1:500希釈物を用いるウエスタンブロット分析にかけた。続いてブロットを抗マウスHRP結合二次抗体とともにインキュベートし、BPC-1特異的シグナルをエンハンスト・ケミルミネセンス検出によって可視化した。このウエスタンブロット分析の結果は図13に示されている。
【0160】
実施例12:
インビトロおよびインビボでのBPC-1発現分析
BPC-1特異的抗体による細胞可溶化物および馴化培地のウエスタンおよび免疫沈降分析を用いて、LAPC4およびLAPC9異種移植片、LNCaP前立腺癌細胞、5637膀胱癌細胞、正常ヒト脳可溶化物(これらはすべてBPC-1 mRNAを発現する)、さらには他のさまざまな癌細胞株、異種移植片および正常組織などの細胞系および組織におけるBPC-1蛋白質の発現の同定および特徴分析を行うことができる。BPC-1とブタおよびウシの精子アドヘシンファミリーの蛋白質との間には構造的相同性があるため(Topfer-Petersenら、Andrologia、1998)、ヒト精液も検出可能なレベルのBPC-1蛋白質を含むと思われる。同じく、膀胱癌における発現からみて、BPC-1蛋白質は膀胱癌患者の尿中にも検出される可能性がある。MYC-HIS BPC-1をトランスフェクトした293T細胞、ならびにレトロウイルスによる形質導入を受けたPC3およびNIH 3T3細胞は、BPC-1蛋白質の発現に関する陽性対照として役立つ(図13)。
【0161】
ヒト血清、精液および尿の臨床試料中に存在するBPC-1蛋白質の同定および定量化は、以下の実施例で述べる捕捉ELISAによって行うことができる。正常および癌性組織におけるBPC-1蛋白質の免疫組織化学分析は、ホルマリン固定、パラフィン包埋または凍結した組織切片に対して、当技術分野で周知の標準的な免疫組織化学的方法、および本明細書で提供するBPC-1抗体を用いて行うことができる。ホルマリン固定し、パラフィン包埋したLNCaP細胞を陽性対照として用いることができる。
【0162】
実施例13:
BPC-1に関する捕捉ELISA
ヒト血清、精液および尿の臨床試料中に存在するBPC-1蛋白質の同定および定量化は、捕捉ELISAを用いて以下の通りに行うことができる。BPC-1に関する捕捉ELISAは、BPC-1蛋白質の異なるエピトープを認識するアイソタイプの異なる少なくとも2種類のmAb、またはmAbおよび特異的ウサギポリクローナル血清を1つずつ作製することに依存する。一方の試薬は捕捉(またはコーティング)抗体として、もう一方は検出抗体として用いられる。
【0163】
続いて、検出抗体に対する二次Ab-HRP結合物を添加し、続いてTMB基質とともにインキュベートすることにより、捕捉されたBPC-1を可視化する。続いて、分光光度プレートリーダーで450nmでのウェルの吸光度を測定する。精製されたMYC/HIS付加BPC-1蛋白質は、ELISA用の標準化抗原として役立つ。
【0164】
実施例14:
インビトロでの足場非依存的コロニー形成におけるBPC-1発現の結果
BPC-1の発癌性能力を評価するための軟寒天アッセイ法を行うために、レトロウイルスに感染したBPC-1発現細胞を実施例11に記載した通りに作製し、それぞれのneo対照細胞株とともに用いた。寒天アッセイ法は以前に記載された条件に従って行った(Lugo, T.RおよびO.N.Witte、1989、Molec. Cell. Biol. 9:1263〜1270)。簡潔に述べると、細胞をトリプシン処理し、0.3%ノーブル(Noble)寒天および20%ウシ胎児血清を含むイスコーブ培地中に再懸濁した。この細胞寒天懸濁液(細胞104個/60mmプレート)を0.6%ノーブル寒天および20%ウシ胎児血清を含む培地の底層と上層との間に播いた。プレートには7日後に栄養分を加え、コロニーのサイズに応じて、寒天アッセイ法の開始から2または3週間後にコロニーの検討およびスコア化を行った。コロニーの算定にはアルファイメージャー(Alphalmager)200のソフトウエアを用いた。この結果を以下の表1に示す。
BPC-1の発現は細胞のトランスフォーメーションを誘導する
【表1】
【0165】
BPC-1を発現するレトロウイルスまたはneoに感染させた3T3CL7細胞を用いた。寒天アッセイ法の開始から3週間後にコロニーをスコア化した。急性感染細胞の場合、3T3CL7/BPC-1細胞から生じたコロニーの数は対照プレートの約8倍であった。G418で選択した細胞を用いた場合には、3T3CL7/BPC-1プレートにおけるコロニー数は3T3CL7/neoプレートの約3.6倍であった。
【0166】
上記の結果は、BPC-1蛋白質が、BPC-1を発現および分泌するように実験的操作を加えた細胞における足場非依存的増殖を誘導し、これにより、この種の細胞に対してトランスフォーメーション効果を及ぼすことを示している。
【0167】
実施例15:
BPC-1は細胞蛋白質と結合する
BPC-1が前立腺癌細胞および他の癌細胞または正常細胞で発現される細胞蛋白質と結合するか否かを確かめるために、2種類のアプローチを用いた。第1のアプローチでは、組換えHIS付加BPC-1(上記の実施例6)の種々の細胞株との結合に関するインビトロアッセイ法を用いる。もう1つのアプローチでは、BPC-1のさまざまな前立腺癌細胞株との結合を検討するために、ジェンハンター社(GenHunter Corporation)(Nashville、TN、カタログ番号Q202)のAP-TAGシステム、およびAP-TAG融合を用いて、組換えアルカリホスファターゼ-BPC-1融合蛋白質を作製する。
【0168】
A.HIS付加BPC-1の細胞表面結合分析
PC-3およびNIH 3T3細胞を、HIS付加BPC-1(293Tトランスフェクト細胞からのもの)を含む馴化培地または精製したHIS付加BPC-1を含む培地または対照培地とともに、4℃で2時間、氷上でインキュベートする。0.5%FBSを加えた氷冷PBSで細胞を十分に洗浄した後、過剰量の抗HISウサギポリクローナル抗体(5ug/ml、PBS 0.5%FBS)とともに4℃で1時間インキュベートする。細胞を再び洗浄し、続いて抗ウサギFITC結合二次Ab(1:4,000、PBS/0.5%FBS中)とともに4℃で30分間インキュベートする。続いて、細胞と結合したBPC-1を、サイトフルオロ(Cytofluor)4000蛍光計(PE Biosystems)での蛍光定量分析によって、および/またはフローサイトメトリーによって検出する。
【0169】
上記の蛍光利用アッセイ法に対する代替法として、125Iで標識したBPC-1蛋白質を用いる結合アッセイ法を行うこともできる。細胞上のBPC-1受容体の数および親和性の決定、ならびに受容体と結合したBPC-1蛋白質のインターナリゼーションの観測は、発表されている標準的な手順を用いて行う(RaitanoおよびKorc、J. Biol. Chem.、1990、J. Biol. Chem. 265:10466〜10472)。
【0170】
B.アルカリホスファターゼを付加したBPC-1は前立腺癌細胞において細胞表面染色を生じさせる
アルカリホスファターゼ付加BPC-1を以下の通りに作製した。成熟BPC-1(すなわち、シグナル配列をもたないもの)をコードする配列を、pAPtag-5(GenHunter Corp. Nashville、TN)中にクローニングした。以下のBPC-1.HindIIIおよびBPC-1.BamHIプライマーを用いて、プラスミドテンプレートSRa-19P1E8クローン1に由来するアミノ酸23から58までのBPC-1のオープンリーディングフレームを増幅した。IgGKシグナル配列、BPC-1 ORFおよびアルカリホスファターゼをすべてインフレームに保ちながら、HindIIIおよびBamHIで消化したPCR産物をHindIIIおよびBglIIで消化したpAPtag-5と連結した。このBPC-1-AP融合蛋白質は、アルカリホスファターゼのカルボキシ末端にmyc/Hisタグを伴った形での分泌を促進するためのIgGKシグナル配列を含む。
【0171】
BPC-1が前立腺癌細胞上の細胞表面受容体と結合するか否かを検出するためには、いくつかの前立腺癌細胞株および異種移植片組織を上記の通りにBPC-1-AP融合蛋白質とともにインキュベートする(ChengおよびFlanagan、1994、Cell 79:157〜168)。細胞を洗浄し、脱リン酸によって不溶性の青色の沈殿を形成するAP基質BCIPを添加した後に、青色に染色される細胞を光学顕微鏡下で同定することにより、BPC-1受容体の結合を判定する。種々の前立腺癌細胞株(例えば、LNCaP、PC-3、DU145、TSUPR、LAPC4)および膀胱癌細胞株を非制限的に含む、さまざまな癌細胞株の検査を行うことができる。PREC前立腺細胞株、293TおよびNIH 3T3などの他の細胞株も検査することができる。加えて、LAPCおよび他の前立腺癌異種移植片の試験を行うこともできる。
【0172】
結合相互作用の強度を評価するために平衡解離速度定数を算出してもよい。さらに、細胞1個当たりの細胞表面受容体数を決定することもできる。BPC-1受容体または他の結合パートナーのクローニングのためには、BPC-1との結合能が最も高い細胞系または組織が好ましいと考えられる。
【0173】
上記の作製物をトランスフェクトした293T細胞の馴化培地中には、ウエスタンブロット分析により、BPC-1-AP融合蛋白質が検出された。抗アルカリホスファターゼおよび抗HIS抗体を用いるウエスタンブロット分析では、約90kDaの箇所に泳動するBPC-1-AP融合蛋白質が検出される(図14)。
【0174】
この融合蛋白質を含む馴化培地を用いて、以下の通りに、BPC-1に対する45kDaの結合パートナーを検出した(図15)。BPC-1と相互作用する45kDa受容体の同定にはウエスタンブロット法を用いた。脳、精巣、前立腺、異種移植片LAPC4 ADおよびLAPC9 ADならびに細胞株3T3、LAPC4、LNCaPおよびPC-3からの可溶化物を用いて、ウエスタンブロットを2つずつ作製した。5%乳(PBS中)にて1時間ブロックし、PBS-Tweenで7分間ずつ2回洗浄した後に、分泌型アルカリホスファターゼのみを産生する293T細胞株による馴化培地またはBPC-1-AP融合蛋白質を含む培地とともにブロットをインキュベートした(図14参照)。PBS-Tweenで3回洗浄した後に、化学発光アルカリホスファターゼ基質(Immune-Star、BioRad、カタログ番号170-5010)を用いてブロットを現像した。この結果を図15に示す。矢印(図15)は、3T3、LAPC9 AD、LNCaP、PC-3、ならびに程度はより低いもののLAPC4 ADおよびLAPC-4細胞株における、BPC-1-APの45kDa蛋白質との結合を示している。脳、精巣および前立腺では45kDa蛋白質は検出されなかった。図15に示すブロット(AP馴化培地とともにインキュベートしたもの)で45kDa蛋白質との結合は検出されなかったため、この蛋白質相互作用はAPではなくBPC-1に起因するものである。
【0175】
実施例16:
シグナル伝達経路と考えられるものの同定
BPC-1が細胞内の既知のシグナル伝達経路を直接的または間接的に活性化するか否かを明らかにするためには、BPC-1を発現するか、またはBPC-1を外因性に添加した細胞において、ルシフェラーゼ(luc)に基づく転写レポーターアッセイ法を行う。これらの転写レポーターは、詳細に特徴が調べられているシグナル伝達経路の下流に位置する既知の転写因子に関するコンセンサス結合部位を含む。レポーターならびにそれに伴う転写因子、シグナル伝達経路および活性化刺激の例を以下に列挙する。
1.NFκB-luc、NFκB/Rel;Ikキナーゼ/SAPK;増殖/アポトーシス/ストレス
2.SRE-luc、SRF/TCF/ELK1;MAPK/SAPK;増殖/分化
3.AP-1-luc、FOS/JUN;MAPK/SAPK/PKC;増殖/アポトーシス/ストレス
4.ARE-luc、アンドロゲン受容体;ステロイド/MAPK;増殖/分化/アポトーシス
5.p53-luc、p53;SAPK;増殖/分化/アポトーシス
6.CRE-luc、CREB/ATF2;PKA/p38;増殖/アポトーシス/ストレス
【0176】
BPC-1を介した影響に関してアッセイするための細胞には、LAPC4、LNCaP、PC3およびNIH 3T3が含まれる。ルシフェラーゼレポータープラスミドは脂質を介したトランスフェクト(TFX-50、Promega)によって導入しうる。相対的転写活性の指標となるルシフェラーゼ活性は、細胞抽出物をルシフェリン基質とともにインキュベートし、反応物の蛍光を照度計で観測することによって測定する。
【0177】
実施例17:
BPC-1機能のインビトロアッセイ法
A.細胞浸潤/移動/化学誘引アッセイ法
マトリゲル(matrigel)コート多孔性膜チャンバー(Becton Dickinson)の通過を測定することにより、BPC-1を発現する細胞株を浸潤および移動特性の変化に関してアッセイすることができる。膜の反対側への細胞の通過は、カルセイン-Am(Molecular Probes)を添加した指標細胞を用いる蛍光アッセイ法(Becton Dickinson技術報告書第428号)を用いて観測される。分析する細胞株にはPC3、3T3およびLNCaP細胞の親細胞およびBPC-1過剰発現細胞が含まれる。BPC-1が化学誘引特性を有する否かをアッセイするためには、BPC-1馴化培地の勾配に向かっての親指標細胞の多孔性膜の通過を観測し、対照培地と比較する。
【0178】
癌治療的組成物の候補による、BPC-1で誘導される効果の特異的中和を定性的および定量的に評価するために、このアッセイ法を用いることもできる。
【0179】
B.細胞増殖アッセイ法
BPC-1が確立された前立腺および非前立腺細胞株の増殖速度を変化させるか否かを明らかにするためには、対照レトロウイルスベクターによる形質導入を行った親細胞とBPC-1遺伝子をコードするレトロウイルスによる形質導入を行った細胞を比較する増殖曲線を作成する。アッセイする細胞株には、LNCaP、PC3、TsuPR前立腺細胞株およびマウスNIH 3T3線維芽細胞ならびに種々の他のヒト非前立腺細胞株が含まれる。さらに、外因性に添加した精製MYC-HIS BPC-1の存在下および非存在下における親細胞の増殖速度をアッセイする。外因性BPC-1の代替的な供給源としては、BPC-1レトロウイルスによる形質導入を行ったそれぞれの細胞株の馴化培地を用いることができる。細胞株の増殖は、96ウェルを用いるMTT比色アッセイ法で観測する(RaitanoおよびKorc、1990、J. Biol. Chem. 265:10466〜10472)。
【0180】
実施例18:
BPC-1の研究および前立腺癌治療的組成物の試験のためのインビボモデル
A.外因性(xenogenic)腫瘍を有するマウスにおける血清BPC-1レベルの測定
ノーザンブロット分析による判定では、LNCaP前立腺癌細胞およびLAPC-4 AD異種移植片細胞は高レベルのBPC-1を発現する。血清診断マーカーとしてのBPC-1を評価するには、SCIDマウスに1×106個のLNCaPまたはLAPC-4 AD細胞を皮下または同所的に注入する。注射はマウスの両脇腹に行い、長さ×幅×高さ(L×W×H)を反映するキャリパー測定によって腫瘍の増殖を観測する。触知可能な腫瘍が最初に出現した時点でマウスから採血し、以降は腫瘍のサイズが1,000mm3になるまで毎週採血する。上記のELISAアッセイ法により、連続採血したものをBPC-1の有無に関してスクリーニングする。対照としては、特異的ELISAキットを用いて、腫瘍を有するマウスから採取した血清をPSAの分泌に関して評価する。BPC-1の発現を確認するためには、腫瘍をマウスから採取し、BPC-1の発現をウエスタンブロット法によってスクリーニングする。
【0181】
さらに、5637膀胱癌細胞株もBPC-1を発現することがノーザンブロット分析によって示されている。膀胱癌のBPC-1発現を評価するには、5637膀胱腫瘍異種移植片をSCIDマウスで確立し、血清を回収して、上記のELISAによってBPC-1蛋白質に関して評価する。
【0182】
または、BPC-1の分泌を確認するために、内因性BPC-1は発現しないが、BPC-1を過剰発現するように操作された前立腺癌細胞株をSCIDマウスに注入することもできる。これらにはPC-3、TSUPR1およびDU145が含まれる。エンプティtkNeoベクター(tkNeo)またはBPC-1を含むベクターを発現する1×106個のPC3、TSUPR1およびDU145細胞のいずれかを個々のマウスに皮下注射する。すべてのマウスに両脇腹への注射を行い、上記の通りのキャリパー測定によって腫瘍の増殖を観測する。触知可能な腫瘍が最初に出現した時点でマウスから採血し、以降は腫瘍のサイズが1,000mm3になるまで毎週採血する。腫瘍増殖速度に差が認められた場合には、それを記録し、さらに検討する(以下を参照)。ELISAアッセイ法により、連続採血したものをBPC-1の有無に関してスクリーニングしてもよい。BPC-1の発現を確認するためには、腫瘍をマウスから採取し、BPC-1の発現をウエスタンブロット法によってスクリーニングするとよい。
【0183】
B.BPC-1の腫瘍増殖促進に関するインビボアッセイ法
腫瘍細胞の増殖に対するBPC-1蛋白質の影響は、遺伝子の過剰発現、または腫瘍を有するマウスに可溶性の精製BPC-1蛋白質を投与することによってインビボで評価しうる。第1の例では、tkNeoエンプティベクターまたはBPC-1を含む1×106個のPC3、TSUPR1またはDU145細胞のいずれかをSCIDマウスの両脇腹に皮下注射する。少なくとも2種類の戦略を用いることができる:(1)LTRプロモーターの調節下にある構成的なBPC-1発現、および(2)エクジソン誘導ベクター系の制御下にある調節性発現。続いて、BPC-1発現細胞がより早い速度で増殖するかどうかを判定するために、触知可能な腫瘍が出現した時点で腫瘍体積を測定し、経時的に追跡する。さらに、BPC-1が前立腺における局所的増殖、または細胞の転移能、特に肺、リンパ節および骨髄への転移能に影響を及ぼすかどうかを明らかにするために、1×105個の同一細胞をマウスに同所的に移植することもできる。
【0184】
第2の例では、精製したBPC-1蛋白質を、インビボでの腫瘍細胞の増殖に対する影響について評価する。マウスをまず、BPC-1を発現する1×106個のLNCaPもしくはLAPC-4 AD細胞、またはBPC-1を発現しないPC3細胞のいずれかを皮下注射する群に分ける。腫瘍細胞を注入したのと同じ日に、一定範囲の精製BPC-1蛋白質(例えば100、500または1,000μg)の静脈注射を各群に行う。対照として、それぞれの種類の腫瘍のうち1群にはPBSのみを注射する。腫瘍が増殖して1,000mm3のサイズに達するまで、毎週2回の注射を連続4週間にわたって行う。BPC-1が腫瘍増殖に対して用量反応的な影響を及ぼすかどうかを判定するために、腫瘍体積を追跡する。
【0185】
BPC-1が腫瘍増殖を加速するかどうかを判定するための別の一連の実験では、LNCaP、LAPC-4 ADおよびPC3腫瘍を皮下で100mm3のサイズまで確立させ、その時点で精製BPC-1蛋白質を上記に示した投与量および方式で静脈注射する。BPC-1が転移を促進するかどうかを判定するために、同じ腫瘍を同所性に移植し、腫瘍が確立された後に(循環血中PSA濃度によって判定)精製BPC-1を上記の通りに投与して転移増殖を評価することもできる。
【0186】
上記のアッセイ法は、例えばBPC-1抗体およびイントラボディー、BPC-1 mRNAアンチセンス分子およびリボザイム、ならびにBPC-1受容体組成物といった治療的組成物の候補のBPC-1阻害効果を判定するためにも有用である。
【0187】
C.インビボでのBPC-1抗体の腫瘍阻害アッセイ法
腫瘍の形成および増殖に対するBPC-1特異的mAbの効果を検討するために、BPC-1陽性のLNCaP、LAPC-4 ADおよびPC3-BPC-1腫瘍、またはBPC-1を発現しないPC3-tkNeoのいずれかに関する群にマウスを分ける。腫瘍形成に対する効果を評価するには、マウスに1×106個の腫瘍細胞を皮下注射し、それと同じ日に一定範囲のBPC-1特異的mAbまたは対照Ig(例えば100、500または1,000μg)の腹腔内注射を行う。mAbの注射は毎週2回、連続4週間にわたって行う。腫瘍の増殖は上記の通りに追跡する。または、確立した腫瘍に対する効果を評価するために、100mm3のサイズの確立した腫瘍を有する各群にマウスを分け、以前に述べた投与量および方式に従ってmAbの腹腔内注射を行う。確立した腫瘍の増殖に対するmAbの効果を判定するために、腫瘍体積を追跡する。
【0188】
転移に対する効果を検討するためには、1×105個のLAPC-4 AD細胞をSCIDマウスに同所性に注入する。同時にマウスには上記の通りの一定範囲の抗BPC-1 mAbまたは対照Igを腹腔内投与する。循環血中PSAを毎週測定することにより、腫瘍の増殖を追跡する。抗体投与終了時にマウスを屠殺し、腫瘍の局所的増殖ならびに肺、リンパ節および骨髄への転移を評価する。確立した腫瘍を有するマウスに対する効果を検討するためには、LAPC-4 ADを同所性に注入し、PSAレベルを毎週追跡する。PSAが測定可能なレベルに到達した時点で、上記と同じ投与量および方式でマウスにmAbを注射する。抗体の注射が完了した後にマウスを屠殺し、腫瘍の局所的増殖ならびに転移を評価する。
【0189】
実施例19:
BPC-1受容体または結合パートナーの分子クローニング
タルタリア(Tartaglia)ら、1995、Cell 83:1263〜1271、ならびにチェン(Cheng)およびフラナガン(Flanagan)、1994、Cell 79:157〜168などに記載されたものといった発現クローニング法を用いて、BPC-1に対する受容体をクローニングすることができる。まず、BPC-1-AP結合を示す細胞から発現ライブラリーを作製する。約1000個のクローンのプールでライブラリーを作製した後に、姉妹選択法によってスクリーニングを行ってもよい。各プールからのDNAによるCOS細胞の一時的トランスフェクションに続いて、BPC-1-AP結合によるスクリーニング、洗浄、およびAP活性に関する染色を行うことにより、BPC-1と結合する細胞、すなわちBPC-1受容体を発現する細胞が同定される。プールの細分およびスクリーニングを連続して行うことにより、BPC-1-APと結合する単一のコロニーを同定することができる。
【0190】
BPC-1受容体/結合パートナー遺伝子のクローニングに対する代替的なアプローチでは、ファージにおいて発現クローニングを用いる(Stone J、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)(1997):20.3.1〜20.3.9)。例えば、ラムダザップエクスプレス(Lambda Zap Express)(Stratagene)中のLAPC-9 ADファージ発現ライブラリーを用いることができる。BPC-1-APを用いてメンブレンリフトのプローブ検索を行い、アルカリホスファターゼ化学発光試薬(例えば、BioRad)で陽性クローンを検出することができる。BPC-1-APと結合し、青色の沈殿物を生じるプラークを選択して、プラスミドを単離し、受容体/結合パートナー配列に関して評価する。このアプローチにより、BPC-1と相互作用する細胞質性または分泌型の蛋白質が同定されることも考えられる。
【0191】
本出願の全体を通じて、種々の刊行物を括弧内で参照している。これらの刊行物の開示は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0192】
本発明は、本発明の個々の面を単に例示することを意図した本明細書で開示する態様によって制限されるものではなく、機能的に同等なものはいずれも本発明の範囲に含まれる。本明細書で述べるものに加えて、上記の説明および教示から本発明のモデルおよび方法に対するさまざまな改変が当業者には明らかであると思われ、これらは同様に本発明の範囲に含まれる。このような改変または他の態様は、本発明の真の範囲および精神を逸脱することなく実践可能である。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1−1】ヒトBPC-1の分子構造:BPC-1クローン6 cDNAのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列。シグナル配列は太字で示し、CUBドメインには太字に加えて下線を施し、SSH由来の核酸配列は太字で示している。
【図1−2】図1−1の続きを示す図である。
【図1−3】図1−2の続きを示す図である。
【図2】ヒトBPC-1の分子構造:ヒトBPC-1の構造の概略図。配列の各領域におけるCG含有率も示している。
【図3】ヒトBPC-1の分子構造:BPC-1のCUBドメインと、種々の既知の蛋白質に由来するCUBドメインとのアミノ酸配列のアラインメント。(A)BPC-1と、C.エレガンス(C. elegans)のCUBドメイン蛋白質(Wilsonら、1994、Nature 368:32〜38)とのアラインメント、および(B)マウスBMP-1のCUBドメイン(Fukagawaら 1994、Dev. Biol 163:175〜183)とのアラインメント。配列の同一性を図示している。
【図4】脳での独占的発現を示す、種々の正常組織におけるヒトBPC-1発現のノーザンブロット分析。
【図5】前立腺癌異種移植片および限定された数のヒト正常組織におけるヒトBPC-1の発現を示す、半定量的RT-PCR発現分析。
【図6】脳の特定領域のみでの発現を示す、37種の正常組織におけるヒトBPC-1 mRNA発現のRNAドットブロット分析。
【図7】皮質の特定領域のみでの発現を示す、脳の皮質領域におけるヒトBPC-1 mRNA発現のノーザンブロット分析。
【図8】BPC-1の発現が胎児脳で主に認められ、他の数多くの胎児組織でもこれより低いレベルで発現されることを示す、胎児組織におけるヒトBPC-1発現の半定量的RT-PCR発現分析。
【図9】前立腺癌異種移植片のすべての試料、LnCAP前立腺癌細胞株および膀胱癌細胞株における発現を示す、一連の前立腺癌および膀胱癌異種移植片および/または細胞株におけるヒトBPC-1 mRNA発現のノーザンブロット分析。
【図10】BPC-1をトランスフェクトした293T細胞の組織培養液中に分泌された免疫沈降組換えヒトBPC-1蛋白質のSDS-PAGEオートラジオグラフィー。
【図11】細胞可溶化物中のプロセシングを受けた成熟BPC-1およびプロセシングを受けていないBPC-1前駆体、ならびに細胞培養液中のプロセシングを受けた低レベルの成熟BPC-1を示す、BPC-1をコードするバキュロウイルスに感染したハイファイブ(HighFive)昆虫細胞で発現された組換えヒトBPC-1蛋白質のウエスタンブロット分析。
【図12】BPC-1をコードするレトロウイルスに感染したPC3および3T3CL7細胞によって発現された組換えヒトBPC-1のノーザンブロット分析。
【図13】BPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中のBPC-1蛋白質のウエスタンブロット検出。種々の細胞株から得た非希釈上清25μlを、マウス抗BPC-1ポリクローナル抗血清の1:500希釈物を用いるウエスタンブロット分析にかけた。続いてブロットを抗マウスHRP結合二次抗体とともにインキュベートし、BPC-1特異的シグナルをエンハンスト・ケミルミネセンス検出によって可視化した。左側のブロット。レーン1:アフィニティー(ニッケル)精製したMYC/HIS BPC-1;レーン2:293T対照細胞、24時間馴化培地。右側のブロット。レーン1:293T対照細胞、24時間馴化培地;レーン2:MYC/HIS付加BPC-1ベクターをトランスフェクトした293T、24時間馴化培地;レーン3:アルカリホスファターゼ(AP)/BPC-1融合ベクターをトランスフェクトした293T細胞、24時間馴化培地;レーン4:対照Neoレトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4日馴化培地;レーン5:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4℃で1週間保存した4日馴化培地;レーン6:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4日馴化培地;レーン7:対照Neoレトロウイルスに急性感染させたNIH 3T3細胞、4日馴化培地;レーン8:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったNIH 3T3細胞、4日馴化培地;レーン8:BPC-1レトロウイルスに急性感染させたNIH 3T3細胞、4日馴化培地。
【図14】BPC-1-APが馴化培地中に存在することを示すウエスタンブロット分析。各レーンは、293T細胞、またはBPC-1-AP作製物もしくはAPのみを有する作製物によるトランスフェクト物から培地交換48時間後に回収した293T細胞からの馴化培地20μlを含む。蛋白質の検出には抗HIS抗体を用いた。
【図15】ファーウエスタン分析を用いるとBPC-1-APは45kDa蛋白質と結合する。ウエスタンブロットの作製には、脳、精巣、前立腺、異種移植片LAPC4ADおよびLAPC9AD、ならびに細胞株3T3、LAPC4、LNCaPおよびPC-3からの可溶化物を用いた。ブロットは、分泌型アルカリホスファターゼのみを産生する293T細胞株からの馴化培地(B)、およびBPC-1-APを含む培地(A)とともにインキュベートした。アルカリホスファターゼシグナルは化学発光AP検出システムを用いて検出した。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本明細書で述べる発明は、BPC-1と命名された、新規遺伝子およびそれによりコードされる分泌腫瘍抗原、ならびに前立腺癌、および膀胱癌を特に含むBPC-1を発現する種々の癌の管理に有用な診断方法および治療方法、ならびに組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌は、冠動脈疾患に次いで2番目に多いヒトの死因である。世界的にみても毎年何百万もの人々が癌で死亡している。米国だけでも毎年50万人をはるかに上回る人々が癌が原因で死亡しており、毎年140万人が新たに癌と診断されている。心疾患による死亡は大幅に減少しているが、癌による死亡は全体として増加しつつある。次世紀の初頭には、癌が死因の第1位になると予想されている。
【0003】
世界的にみて、いくつかの癌は主な死因として顕著である。特に、肺、前立腺、乳房、結腸、膵臓および卵巣の癌は、癌による死亡の主な原因である。これらの癌および事実上すべての他の癌には致死性という共通の特徴がある。極めてわずかな例外を除き、癌の転移は致死的である。さらに、原発癌による死亡を免れた癌患者であっても、生活は大きく変化することが一般的な経験から示されている。多くの癌患者は、再発または治療の失敗が起こりうるという可能性を認識しているために強い不安を抱く。多くの癌患者は治療後に身体衰弱がみられる。多くの癌患者が、再発を経験している。
【0004】
一般的にみて、極めて致死性の高い癌の管理における基本的な問題は、有効でしかも毒性のない全身療法がないことである。分子医学は、まだ極めて初期の段階にあるに過ぎないが、これらの癌の管理のあり方の見直しにつながると期待される。言うまでもなく、癌の診断および治療のための新たな分子的アプローチの開発を目指した取り組みは世界中で盛んに行われている。例えば、診断および予後判定マーカーならびに/または治療標的もしくは薬剤として用いうると考えられる真に腫瘍特異的な遺伝子および蛋白質を同定することには大きな関心が集まっている。これらの領域における研究の取り組みは有望であり、有用な分子技術が数多く利用可能になっていることから、癌に関する有意義な知見がますます得られるようになっている。しかしながら、進歩は遅々としており、一般的には一様でない。
【0005】
以下に述べる通り、前立腺癌の管理は、分子生物学がもたらした診療の現実的な進歩が限定的な程度に過ぎないことを示す好適な一例である。若干の例外はあるが、上記の他の主な癌についても状況はほぼ同じである。
【0006】
前立腺癌は世界的にみて男性で4番目に有病率の高い癌である。米国および北欧では、これは男性で最も多い癌であり、死因としても男性で2番目に多い癌である。米国だけでも毎年4万人をはるかに超える男性がこの疾患で死亡しており、これは肺癌に次いで第2位である。このように大きな数字に上るものの、転移性前立腺癌に対して有効な治療法は現在もない。主な治療手段は現在も、外科的前立腺切除術、放射線療法、ホルモン除去療法および化学療法である。残念ながら、これらの治療法は多くの患者に対して無効であり、しばしば望ましくない重大な結果をもたらす。
【0007】
診断面では、早期の限局性腫瘍を正確に検出できる前立腺癌マーカーが存在しないことが、現在も本疾患の管理における大きな限界となっている。血清PSAアッセイ法は極めて有用なツールであるが、PSAの特異性および全般的有用性にはいくつかの重要な点で欠点があると一般にみなされており、これについては以下でさらに考察する。ほとんどの前立腺癌は、尿道から隔たった前立腺の末梢域でまず発生する。この区域内にある腫瘍は何ら症状を伴わないと考えられ、このため、早期前立腺癌のほとんどの男性は明らかな進行が起こるまで疾患の臨床症状を呈しないと考えられる。腫瘍が前立腺の移行部まで進行すると、尿道閉塞を招き、これが本疾患の最初の症状となることがある。しかし、これらの臨床症状は、良性前立腺肥大(BPH)の一般的な非悪性症状とは区別できない。現在、前立腺癌の早期の発見および診断は、直腸内診(DRE)、前立腺特異的抗原(PSA)の測定、経直腸的超音波断層法(TRUS)および経直腸的針生検(TRNB)に依拠している。現時点では、血清PSA測定とDREとの併用が、前立腺癌の検出および診断のために用いられる主な手段である。このどちらにも大きな限界があり、このことが、本疾患のより優れた診断マーカーの発見に向けた精力的な研究を喚起する要因となっている。
【0008】
同様に、致死的であることが一般的な転移期の前立腺癌の発生を予測するために使用できるマーカーもない。現在、転移期の診断は、外科的もしくは腹腔鏡下骨盤リンパ節摘出術、全身核医学スキャン、骨X線検査および/または骨病変生検分析によって行われる。明らかに、優れた画像診断法および他の比較的侵襲性の低い診断法により、このような処置が患者に与える苦痛は軽減され、診断精度が改善され、治療上の選択肢も改善されると期待される。同様の問題は、どの癌が無痛性(indolent)であり、どの癌が急速進行性(aggressive)である、または将来そうなるかを判定するための有効な予後判定マーカーが存在しないことである。例えば、PSAでは、無痛性の癌と急速進行性の癌とを正確に区別することができない。早期疾患の検出、転移の起こりやすさの予測、および腫瘍の正確な画像化を確実に行える前立腺腫瘍マーカーが得られるまでは、前立腺癌の管理は極めて困難なままであると考えられる。
【0009】
今日、PSAは前立腺癌のスクリーニング、診断およびモニタリングのための腫瘍マーカーとして最も広く用いられている。特に、血清PSA検出用のいくつかのイムノアッセイ法が広く臨床的用途に用いられている。最近、血清中のPSA mRNAに関する逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ法が開発された。しかし、PSA高値はBPHおよび前立腺炎の患者でも高率(25〜86%)に検出され(非特許文献1)、他の非悪性疾患の場合および一部の正常男性でも同様であるため、PSAは疾患特異的マーカーではなく、この要因によってこのマーカーの診断的特異性は大きく限定される。例えば、BPHでは血清PSAが4〜10ng/mlの範囲に上昇することが観察され、前立腺炎、特に急性前立腺炎ではさらに高値が観察される。BPHは男性に極めて高い頻度でみられる状態である。状況をさらに紛らわしくするものに、DREによる疾患の徴候がなくとも血清PSAの上昇が認められることや、その逆の場合もあるという事実がある。さらに、PSAが前立腺特異的でないことも現在では認識されている(概説については非特許文献1を参照)。
【0010】
PSAに基づく検出の特異性を改善するために、PSA密度、および遊離型PSAと複合型PSAとの比の測定といったさまざまな方法が考案されている。しかし、これらの方法はいずれも、悪性前立腺疾患から良性疾患を再現性よく識別することはできていない。加えて、PSAによる診断薬の感度は57〜79%の範囲であり(非特許文献2)、このため、前立腺癌をもつ男性のかなりの割合でこの癌が見逃されていることになる。
【0011】
前立腺で主として発現されるマーカーとしては、ラットニューロペプチダーゼとの同一性が85%の加水分解酵素である前立腺特異的膜抗原(PSM)など、いくつかが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。しかし、PSMが小腸および脳でも発現されており(非特許文献5)、それが脳内でのニューロペプチド分解に関与する可能性があることから、抗PSM療法には神経毒性のおそれがあるという懸念が生じた。インジウム111で標識した抗PSMモノクローナル抗体を再発性前立腺癌の画像化に用いた予備結果はある程度有望と思われるものであった(非特許文献6)。さらに最近になって同定された前立腺癌マーカーには、PCTA-1(非特許文献7)および前立腺幹細胞抗原(PSCA)(非特許文献8)が含まれる。新規ガレクチンであるPCTA-1は発現細胞の培地中に主として分布され、前立腺癌の血清診断マーカーとして有望な可能性がある(非特許文献7)。GPI連鎖型細胞表面分子であるPSCAはLAPC-4 cDNAからクローニングされたものであり、正常前立腺組織の基底細胞および癌上皮で主として発現されるという点で独特である(非特許文献8)。前立腺癌に対するワクチンも、PSMおよびPSAを含む種々の抗原を用いて精力的に開発が進められている。
【非特許文献1】Gaoら、1997、前立腺31:264〜281
【非特許文献2】Cupp & Osterling、1993、Mayo Clin Proc 68:297〜306
【非特許文献3】Carterら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:749
【非特許文献4】Bzdegaら、1997、J. Neurochem. 69:2270
【非特許文献5】Israeliら、1994、Cancer Res. 54:1807
【非特許文献6】Sodeeら、1996、Clin Nuc Med 21:759〜766
【非特許文献7】Suら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:7252
【非特許文献8】Reiterら、1998、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:1735
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明はBPC-1と命名された新規な分泌蛋白質に関する。正常個体では、BPC-1蛋白質は脳の特定の組織のみで発現される。前立腺癌では、BPC-1は腫瘍細胞で高レベルに発現される。BPC-1は膀胱癌細胞でも発現されるほか、他の癌細胞でも発現される可能性がある。BPC-1の構造にはシグナル配列およびCUBドメインが1つずつ含まれる。BPC-1蛋白質のCUBドメインは他のいくつかの蛋白質のCUBドメインと構造的に類似している。
【0013】
このため、BPC-1遺伝子は、診断、病期判定および/もしくは予後判定マーカーとして有用な、ならびに/または前立腺癌、膀胱癌およびBPC-1を発現する他の癌の治療に向けた種々のアプローチのための優れた標的として役立つ可能性のある、分泌型腫瘍抗原をコードする。BPC-1の明確な機能は現時点では不明であるが、予備的な実験の所見からは、BPC-1が発癌、またはBPC-1を発現する癌細胞のトランスフォーメーション性表現型の維持に直接関与することが示唆されている。また、BPC-1は前立腺癌細胞および他の細胞で発現される細胞蛋白質と特異的に結合するようにも思われる。以上を総合すると、この所見はBPC-1が発癌経路に機能的にかかわることを示している。本明細書で以下に述べるように、この認識は、BPC-1機能の阻害を含む、BPC-1を発現する癌の治療に向けた数多くのアプローチにつながる。
【0014】
本発明は、BPC-1蛋白質およびその断片をコードするポリヌクレオチド、BPC-1遺伝子もしくはmRNA配列またはその断片に対して相補的なDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび関連分子、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、およびBPC-1遺伝子、mRNAまたはBPC-1をコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む、好ましくは単離された形態のBPC-1遺伝子、mRNAおよび/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的なポリヌクレオチドを提供する。また、BPC-1をコードするcDNAおよび遺伝子を単離するための手段も提供する。BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子、このような分子による形質転換または形質導入を受けた細胞、およびBPC-1遺伝子の発現のための宿主-ベクター系も提供する。本発明はさらに、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片を提供する。本発明はさらに、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、マウスおよび他の哺乳動物抗体、キメラ抗体、ヒト化および完全ヒト抗体、ならびに検出マーカーで標識した抗体、および放射性核種、毒素または他の治療的組成物が結合した抗体を含む、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片と結合する抗体を提供する。本発明はさらに、種々の生物試料におけるBPC-1ポリヌクレオチドおよび蛋白質の存在を検出するための方法、ならびにBPC-1を発現する細胞を同定するための方法を提供する。本発明はさらに、抗体、ワクチンおよび低分子療法を含む、前立腺癌および膀胱癌のようなBPC-1を発現する癌を治療するための種々の治療的組成物および戦略、ならびにBPC-1における転写段階、翻訳段階、プロセッシング段階、または機能する段階での阻害を目的とする治療を提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語、表記およびその他の科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されている意味をもつものとする。いくつかの場合には、明確さおよび/または参照の便宜を図るために、意味が一般に理解されている用語の定義を本明細書で行っているが、このような定義を本明細書に含めたことは、当技術分野において一般に理解されているものと実質的に異なることを意味するとは必ずしもみなされるべきではない。本明細書で記載または参照する技法および手順は、当業者に一般によく理解されており、例えば、サムブルック(Sambrook)ら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.に記載された、広く用いられている分子クローニング法などの慣例的な方法を用いて一般に行われている。市販のキットおよび試薬を用いる手順は、別に特記する場合を除き、適宜、製造者が指示した手順および/またはパラメーターに従って一般に行われる。
【0016】
本明細書で用いる「進行前立腺癌」「局所進行前立腺癌」「進行癌(advanced disease)」および「局所進行癌(locally advanced disease)」という用語は、前立腺被膜を越えて進展した前立腺癌のことを意味し、米国泌尿器学会(American Urological Association)(AUA)の分類体系によるステージCの癌、ホイットモア-ジュエット(Whitmore-Jewett)分類体系によるステージC1〜C2の癌、ならびにTNM(腫瘍、リンパ節転移、臓器転移)分類体系によるステージT3〜 T4およびN+癌を含むものとする。一般に、局所進行癌の患者に対しては外科手術は推奨されず、臨床的に局所的な(臓器限局性の)前立腺癌の患者と比べて、これらの患者の転帰はかなり悪い。局所進行癌は臨床的には、前立腺の外側縁を越える硬化、または前立腺基部の非対称性もしくは硬化の触知所見によって発見される。局所進行前立腺癌は現在、根治的前立腺摘除術の結果、腫瘍が前立腺被膜を浸潤もしくは貫通して外科領域(surgical margin)に達していたか、または精嚢に浸潤していた場合に病理学的に診断される。
【0017】
本明細書で用いる「転移性前立腺癌」および「転移性癌(metastatic disease)」という用語は、所属リンパ節または遠隔部位まで波及した前立腺癌のことを意味し、AUA分類体系によるステージDの癌およびTNM分類体系によるステージTxNxM+を含むものとする。局所進行前立腺癌の場合と同じく、転移性癌の患者にも外科手術は一般に適応とはならず、ホルモン(アンドロゲン除去)療法が好ましい治療手段となる。転移性前立腺癌の患者は治療開始から12〜18カ月以内に最終的にはアンドロゲン不応状態となり、これらの患者のほぼ半数はその後6カ月以内に死亡する。前立腺癌転移が最も起こりやすい部位は骨である。前立腺癌の骨転移は、代謝平衡の面では破骨性ではなく造骨性であることが特徴的である(すなわち、正味の骨形成をもたらす)。骨転移は脊椎に認められる頻度が最も高く、大腿骨、骨盤、胸郭、頭蓋骨および上腕骨がこれに次ぐ。転移が起こりやすい他の部位には、リンパ節、肺、肝臓および脳が含まれる。転移性前立腺癌は、外科的もしくは腹腔鏡下骨盤リンパ節摘出術、全身核医学スキャン、骨格X線検査および/または骨病変生検分析によって診断されることが典型的である。
【0018】
本明細書で用いる「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチド、または改変型のいずれかの種類のヌクレオチドである、長さが少なくとも10塩基または塩基対の重合型ヌクレオチドを意味し、一本鎖型および二本鎖型のDNAを含むものとする。
【0019】
本明細書で用いる「ポリペプチド」という用語は、少なくとも10アミノ酸からなる重合体を意味する。本明細書の全体を通じて、アミノ酸に関する標準的な三文字または一文字表記を用いる。
【0020】
本明細書で用いる「ハイブリダイズする(hybridize)」「ハイブリダイズしている」「ハイブリダイズする(hybridizes)」などの用語は、好ましくはハイブリダイゼーションのための温度が37℃を上回り、0.1×SSC/0.1%SDS中での洗浄のための温度が55℃を上回る、50%ホルムアミド/6×SSC/0.1%SDS/100μg/ml ssDNA中でのハイブリダイゼーションなどの通常のハイブリダイゼーション条件、最も好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を意味する。
【0021】
アミノ酸配列の比較の文脈における「同一性(identity)」という用語は、同じ相対的位置にある同一なアミノ酸残基の比率を表すために用いられる。同じくこの文脈において「相同性(homology)」という用語は、当技術分野で一般的に理解されているBLAST解析の保存的アミノ酸の基準を用いた、同じ相対的位置にある同一または類似したアミノ酸残基の比率を表すために用いられる。このような基準の下で保存的とみなされるアミノ酸置換に関する詳細は以下に提示する。
【0022】
このほかの定義は以下のサブセクションの全体を通じて提示する。
【0023】
BPC-1の分子学的および生化学的特徴
以下の実施例の項でさらに述べるように、数多くの分析手法を用いてBPC-1遺伝子および蛋白質の特徴分析を行った。例えば、ヌクレオチドコード配列およびアミノ酸配列の分析を、関連分子と考えられるもの、さらにはBPC-1 mRNAおよび蛋白質の構造における認識可能な構造ドメイン、トポロジー的特徴および他の要素を同定するために行った。BPC-1メッセージを発現する正常および癌性組織の範囲を確かめるために、BPC-1 mRNAの発現に関するRT-PCRおよびノーザンブロット分析も行った。プロセシングを受けた、または受けていない組換えヒトBPC-1蛋白質の細胞内局在および分泌を明らかにするために、実験的にトランスフェクションを行った細胞におけるBPC-1蛋白質の発現に関するウエスタンブロット分析を行った。また、BPC-1の細胞結合パートナーとの相互作用、および活性を明らかにするためにデザインした機能的アッセイ法も行った。
【0024】
BPC-1は発癌性のある分泌型のCUBドメイン含有蛋白質であり、前立腺癌および膀胱癌細胞で発現され、細胞蛋白質と結合する。BPC-1の発現は、正常な成人の組織では極めて脳特異的である。胎児組織におけるBPC-1の発現は主として脳で認められるが、他の数多くの発生中の器官および組織でもみられる。ヒト前立腺癌ではBPC-1遺伝子の発現が活性化される。特にBPC-1は、悪性度の高い転移性前立腺癌の患者に元々由来するアンドロゲン依存性ヒト前立腺腫瘍異種移植片において極めて高いレベルで発現され、他の前立腺癌の試料でもこれよりは低いものの明らかなレベルで発現される。BPC-1は少なくとも一部の膀胱癌でも高レベルで発現される。
【0025】
BPC-1蛋白質はまず、シグナル配列を含む158アミノ酸の前駆体として翻訳される。このシグナル配列は翻訳後修飾の過程で切断され、135アミノ酸からなる成熟型の分泌蛋白質が生じる。BPC-1遺伝子の5'非コード領域は極めてG/Cに富んでおり(G/C含有率が約72%。これに対してコード領域では42%、3'非コード領域では30%である)、このことは、遺伝子のこの領域が転写または翻訳の制御にかかわる要素を含むことを意味する(図1)。
【0026】
BPC-1の一次構造は、認識可能なCUBドメイン(補体成分C1r/C1s、Uegf、Bmp1(Complement subcomponents C1r/C1s、Uegf、Bmp1)の頭文字)(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)を含んでおり、これは他のCUBドメイン蛋白質と相同性がある(図1;図3)。CUBドメインは補体成分C1rおよびC1sで最初に発見され、続いてUegf(上皮増殖因子関連ウニ蛋白質)および骨発育に関与するプロテアーゼであるBmp1(骨形成蛋白質1)で同定された。CUBドメインは機能的には、蛋白質相互作用、受容体結合および他の活動に関連している。ほかにも別の酵素機能を有する他のCUBドメイン蛋白質とは異なり、BPC-1は本質的には分泌型のCUBドメインであり、他に明らかな機能ドメインを伴っていない点で独特である。BPC-1のCUBドメインは、他の分泌分子、細胞外マトリックス分子および/または細胞表面受容体との相互作用を媒介する、蛋白質-蛋白質相互作用ドメインとしての役割を果たすと考えられる。これは、増殖因子または細胞刺激因子の機能をもつ可能性を意味する。
【0027】
BPC-1の構造にCUBドメインが存在することは、BPC-1が他の蛋白質と相互作用し、おそらくはそれと結合すると思われるという結論をさらに裏づけるものである。蛋白質-蛋白質相互作用にかかわる細胞外ドメインとしてみた場合、CUBドメインは、種々の発生過程にかかわる多種多様な分泌型または細胞表面蛋白質でみられる(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)。CUBドメインを特徴とし、BPC-1蛋白質とある程度関連すると思われる蛋白質のファミリーの1つに精子アドヘシンがある。精子アドヘシンは、精嚢によって産生されるCUBドメイン含有性の分泌蛋白質であり、そのサイズは約15〜18kd(ほぼ140アミノ酸)と推定されている。これらの蛋白質は精子の運動性を抑制するように働き、蛋白質分解によって不活性化される(Iwamotoら、1995、FEBBS Letters 368:420〜424)。
【0028】
予備的な実験の所見から、BPC-1が発癌、またはBPC-1を発現する癌細胞の形質転換表現型の維持に直接関与することが示唆されている。この点に関して、BPC-1は軟寒天アッセイ法においてトランスフォーミング活性を示し、BPC-1を発現するものを含む細胞によって発現される細胞蛋白質と結合する。以上を総合すると、この所見は、BPC-1が発癌経路に機能的に関与しており、この経路におけるBPC-1活性がBPC-1結合パートナーとの相互作用によって、または他の蛋白質との結合もしくは会合によって生じると思われることを示す。本明細書で以下に述べるように、この認識は、BPC-1機能の阻害を含む、BPC-1を発現する癌の治療に向けた数多くのアプローチにつながる。
【0029】
BPC-1ポリヌクレオチド
本発明の1つの局面は、BPC-1蛋白質およびその断片をコードするポリヌクレオチド、BPC-1遺伝子もしくはmRNA配列またはその断片に対して相補的なDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドおよび関連分子、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、およびBPC-1遺伝子、mRNAまたはBPC-1をコードするポリヌクレオチド(「BPC-1ポリヌクレオチド」と総称する)とハイブリダイズするポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含む、好ましくは単離された形態のBPC-1遺伝子、mRNAおよび/またはコード配列の全体または一部に対応する、または相補的なポリヌクレオチドを提供する。本明細書で用いるBPC-1遺伝子および蛋白質は、本明細書に特に記載されるBPC-1遺伝子および蛋白質、ならびに他のBPC-1蛋白質および上記のものと構造的に類似する変異体に対応する遺伝子および蛋白質を含むものとする。このような他のBPC-1蛋白質および変異体は、BPC-1および/またはBPC-1-2コード配列との相同性が高いコード配列を一般に有すると考えられ、好ましくはアミノ酸の同一性が少なくとも約50%であってアミノ酸の相同性(BLASTの基準を用いる)が少なくとも約60%であり、より好ましくは相同性(BLASTの基準を用いる)が70%またはそれ以上である。
【0030】
BPC-1ポリヌクレオチドには、図1に示す、上記のものと相補的な配列を有するヒトBPC-1のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、または上記のもののいずれかのポリヌクレオチド断片が含まれうる。もう1つの態様には、図1に示すヒトBPC-1 cDNA、またはそのポリヌクレオチド断片とストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズしうるポリヌクレオチドが含まれる。
【0031】
特に考慮の対象となるものは、天然の源に由来するものか合成されたものかを問わず、ゲノムDNA、cDNA、リボザイムおよびアンチセンス分子のほか、代替的な骨格に基づくか、または代替的な塩基を含む核酸分子である。例えば、アンチセンス分子はRNAでもよく、ペプチド核酸(PNA)、またはDNAもしくはRNAと塩基対依存的な様式で特異的に結合するホスホロチオエート誘導体などの非核酸分子を含む他の分子でもよい。当業者は、本明細書で開示するBPC-1ポリヌクレオチドおよびポリヌクレオチド配列を用いて、これらの物質群(class)に属する核酸分子を容易に入手しうる。
【0032】
本発明のこの局面のさらに詳細な態様には、本発明のポリヌクレオチドまたはその任意の特定の部分の特異的増幅を可能とするプライマーおよびプライマー対、ならびに本発明の核酸分子またはその任意の部分と選択的または特異的にハイブリダイズするプローブが含まれる。プローブは例えば、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素などの検出マーカーで標識してもよい。このようなプローブおよびプライマーは、試料中のBPC-1ポリヌクレオチドの存在を検出するために、およびBPC-1蛋白質を発現する細胞を検出するための手段として用いることができる。このようなプローブの例には、図1に示すヒトBPC-1 cDNA配列の全体または一部を含むポリペプチドが含まれる。BPC-1 mRNAを特異的に増幅しうるプライマー対の例は、以下の実施例でも述べる。当業者には理解されると思われるが、本明細書で提示する配列に基づいて極めて多くの異なるプライマーおよびプローブを調製し、BPC-1 mRNAを増幅および/または検出するために有効に用いることができる。
【0033】
本明細書において用いられるように、ポリヌクレオチドは、BPC-1遺伝子以外の遺伝子に対応するか、もしくはそれに対して相補的な、またはBPC-1遺伝子産物もしくはその断片以外のものをコードする混入ポリヌクレオチドから実質的に分離されている場合に「単離された」という。当業者は、単離されたBPC-1ポリヌクレオチドを得るために核酸単離手順を容易に用いることができる。
【0034】
本発明のBPC-1ポリヌクレオチドは、BPC-1遺伝子、mRNAもしくはその断片の増幅および/または検出のためのプローブおよびプライマーとして;前立腺癌およびその他の癌の診断および/または予後判定のための試薬として;BPC-1ポリペプチドの発現を指令しうるコード配列として;BPC-1遺伝子の発現および/またはBPC-1転写物の翻訳を調節もしくは抑制するためのツールとして;ならびに治療薬としての使用を非制限的に含む、さまざまな目的に有用である。
【0035】
BPC-1をコードする核酸分子を単離するための方法
本明細書に記載するBPC-1 cDNA配列は、BPC-1遺伝子産物をコードする他のポリヌクレオチドの単離のほか、BPC-1遺伝子産物の相同体、選択的スプライシングを受けたアイソフォーム、対立遺伝子変異体(対立遺伝子variant)および変異型のBPC-1遺伝子産物の単離を可能にする。BPC-1遺伝子をコードする完全長cDNAを単離するために用いうる種々の分子クローニング法が周知である(例えば、サムブルック(Sambrook、J.)ら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第2版、Cold Spring Harbor Press、New York、1989、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、アウスユーベル(Ausubel)ら編、WileyおよびSons、1995を参照)。例えば、市販のクローニングシステム(例えば、Lambda ZAP Express、Stratagene)を用いて、λファージクローニング法を都合良く行うことができる。BPC-1遺伝子のcDNAを含むファージクローンは、標識したBPC-1 cDNAまたはその断片をプローブとして検索することによって同定しうる。例えば、1つの態様では、BPC-1 cDNA(図1)またはその一部を合成し、BPC-1遺伝子に対応する重複性および完全長cDNAを回収するためのプローブとして用いることができる。BPC-1遺伝子自体は、ゲノムDNAライブラリー、細菌人工染色体ライブラリー(BAC)、酵母人工染色体ライブラリー(YAC)などをBPC-1 DNAプローブまたはプライマーによってスクリーニングすることによって単離することが可能である。
【0036】
組換えDNA分子および宿主-ベクター系
本発明は、ファージ、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、BACのほか、当技術分野で周知の種々のウイルス性および非ウイルス性ベクター、ならびにこのような組換えDNAまたはRNA分子による形質転換またはトランスフェクションを受けた細胞を非制限的に含む、BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNAまたはRNA分子も提供する。本明細書で用いる組換えDNAまたはRNA分子とは、インビトロ分子操作を受けたDNAまたはRNA分子のことである。この種の分子を作製するための方法は周知である(例えば、Sambrookら、1989、前記を参照のこと)。
【0037】
本発明はさらに、BPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子を適した原核または真核宿主細胞内に含む、宿主-ベクター系も提供する。適した真核宿主細胞の例には、酵母細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞もしくは昆虫細胞(例えば、Sf9またはHghFive細胞などのバキュロウイルス感染性細胞)などの動物細胞が含まれる。適した哺乳動物細胞の例には、LnCaP、PC-3、DU145、LAPC-4、TsuPr1などの種々の前立腺癌細胞株、トランスフェクションまたは形質導入が可能なその他の前立腺癌細胞株のほか、組換え蛋白質の発現のためにルーチンに用いられる数多くの哺乳動物細胞(例えば、COS、CHO、293、293T細胞)。より詳細には、BPC-1のコード配列を含むポリヌクレオチドは、ルーチンに用いられる当技術分野で周知の任意の数の宿主-ベクター系を用いて、BPC-1蛋白質またはその断片を作製するために用いうる。
【0038】
BPC-1蛋白質またはその断片の発現のために適した宿主-ベクター系は幅広い種類のものが入手可能である(例えば、サムブルック(Sambrook)ら、1989、前記、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、1995、前記を参照されたい)。哺乳動物細胞における発現のために好ましいベクターには、pcDNA 3.1myc-His-tag(Invitrogen)およびレトロウイルスベクターpSRαtkneo(Mullerら、1991、MCB 11:1785)が非制限的に含まれる。これらの発現ベクターを用いると、例えば293、293T、rat-1、3T3、PC-3、LNCaPおよびTsuPr1を含む、いくつかの前立腺癌および非前立腺細胞株におけるBPC-1の好ましい発現が得られる。本発明の宿主-ベクター系は、BPC-1蛋白質またはその断片の産生のために有用である。このような宿主-ベクター系を、BPC-1およびBPC-1変異の機能的特性を研究するために用いてもよい。
【0039】
成熟型の組換えヒトBPC-1蛋白質は、BPC-1前駆体をコードする作製物をトランスフェクトした哺乳動物細胞によって産生および分泌させることができる。実施例の項で述べる1つの具体的な態様では、前駆型BPC-1(すなわち、シグナル配列を含むもの)をコードする発現プラスミドによって293T細胞をトランスフェクトさせ、成熟BPC-1蛋白質を細胞培養液中に分泌させて、標準的な精製法を用いてそれを首尾よく単離することができる。成熟型の組換えヒトBPC-1を、成熟蛋白質のプロセシングは行うが分泌はしない細胞によって産生させてもよい。このような系の一例は、BPC-1をコードするバキュロウイルスに感染させた細胞である。実施例の項で述べるように、この種の細胞は細胞内で高レベルのBPC-1の発現およびプロセシングを行う。このような場合には、標準的な手順を用いて細胞可溶化物から成熟BPC-1蛋白質を回収することができる。成熟BPC-1が宿主細胞によって分泌される場合も細胞内に保持される場合も、BPC-1抗体を用いて培養液または細胞可溶化物からBPC-1をアフィニティー精製することができる。
【0040】
BPC-1遺伝子またはその断片によってコードされる蛋白質には、抗体の産生、ならびにBPC-1遺伝子産物と結合するリガンドおよび他の作用物質ならびに細胞成分を同定するための方法におけるものを非制限的に含む、さまざまな用途があると考えられる。BPC-1蛋白質またはその断片に対して産生された抗体は、診断および予後判定アッセイ法、画像診断法(特に癌画像診断を含む)、ならびに前立腺癌を非制限的に含む、BPC-1蛋白質の発現を特徴とするヒトの癌の管理における治療方法において有用であると思われる。さまざまな種類の放射免疫アッセイ法、固相酵素免疫アッセイ法(ELISA)、固相酵素免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)、免疫細胞化学法などを非制限的に含む、BPC-1蛋白質の検出のために有用な種々の免疫アッセイ法が考慮の対象となる。このような抗体を標識し、前立腺細胞を検出しうる免疫学的画像化試薬として用いることも可能である(例えば、放射シンチグラフィー画像法において)。また、BPC-1蛋白質は以下に詳細に述べる癌ワクチンの作製にも特に有用である。
【0041】
BPC-1蛋白質
本発明のもう1つの局面は、BPC-1蛋白質およびそのポリペプチド断片を提供する。本発明のBPC-1蛋白質には、本明細書で具体的に特定されるもののほか、以下に概要を示す方法に従った必要以上の実験を行わなくとも単離/生産および特徴分析を行いうる対立遺伝子変異体、保存的置換変異体および相同体が含まれる。異なるBPC-1蛋白質またはその断片の部分を組み合わせた融合蛋白質のほか、BPC-1蛋白質と異種ポリペプチドとの融合蛋白質も含まれる。このようなBPC-1蛋白質は、BPC-1蛋白質、本発明の蛋白質、またはBPC-1として総称するものとする。本明細書で用いる「BPC-1ポリペプチド」という用語は、少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも15アミノ酸からなるポリペプチド断片またはBPC-1蛋白質を意味する。
【0042】
BPC-1蛋白質の1つの具体的な態様は、図1のアミノ酸残基およそ1位からアミノ酸残基およそ158位までに示されたヒトBPC-1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。BPC-1蛋白質のもう1つの具体的態様は、図1のアミノ酸残基およそ24位からアミノ酸残基およそ158位までに示されたヒトBPC-1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0043】
一般に、ヒトBPC-1の天然の対立遺伝子変異体は、高度の構造的同一性および相同性を有すると考えられる(例えば、同一性が90%またはそれ以上)。典型的には、BPC-1蛋白質の対立遺伝子変異体は、本明細書に記載するBPC-1配列中に保存的アミノ酸置換を含むか、またはBPC-1相同体における対応位置に由来するアミノ酸置換を含むと考えられる。ある部類のBPC-1対立遺伝子変異体は、特定のBPC-1アミノ酸配列の少なくともわずかな領域とは高度の相同性を有するものの、非保存的置換、切断、挿入またはフレームシフトといった配列との根本的な差異をさらに含む蛋白質であると考えられる。
【0044】
保存的アミノ酸置換は、蛋白質の立体構造および機能をいずれも変化させずに蛋白質に加えることがしばしば可能である。このような変化には、イソロイシン(I)、バリン(V)およびロイシン(L)のいずれかによるそれ以外のこれらの疎水性アミノ酸の置換、アスパラギン酸(D)によるグルタミン酸(E)の置換およびその逆、グルタミン(Q)によるアスパラギン(N)の置換およびその逆、ならびにセリン(S)によるトレオニン(T)の置換およびその逆が含まれる。蛋白質の三次元構造における特定のアミノ酸の環境およびその役割によっては、その他の置換も保存的とみなしうる。例えば、グリシン(G)およびアラニン(A)はしばしば互換的であり、アラニン(A)およびバリン(V)についても同様である。比較的疎水性が高いメチオニン(M)は、ロイシンおよびイソロイシンとしばしば互換的であり、時にバリンと互換的である。リジン(K)およびアルギニン(R)は、アミノ酸残基の顕著な特徴がその電荷にあって、これらの2つのアミノ酸残基のpKの違いが重大でない位置ではしばしば互換的である。特定の環境においては、さらに他の変化も「保存的」とみなすことができる。
【0045】
BPC-1蛋白質は多くの形態として具現化しうるが、単離された形態が好ましい。本明細書における用い方では、蛋白質は、物理的、機械的または化学的方法を用いて、BPC-1蛋白質が、蛋白質に通常付随する細胞成分から切り離された場合に「単離された」という。当業者は標準的な精製法を容易に用いて単離されたBPC-1蛋白質を得ることができる。精製されたBPC-1蛋白質分子は、BPC-1と抗体または他のリガンドとの結合を妨げる他の蛋白質または分子を実質的に含まないと考えられる。単離および精製の性質および程度は、意図する用途によって決まると考えられる。BPC-1蛋白質の態様には、精製されたBPC-1蛋白質および機能的な可溶性BPC-1蛋白質が含まれる。1つの形態において、このような機能的な可溶性BPC-1蛋白質またはその断片は、抗体または他のリガンドとの結合能を保持している。
【0046】
本発明は、図1に示すBPC-1のアミノ酸配列の一部に対応するポリペプチドなどの、BPC-1アミノ酸配列における生物活性断片を含むBPC-1ポリペプチドも提供する。本発明のこの種のポリペプチドは、BPC-1蛋白質に付随するエピトープと特異的に結合する抗体の産生を誘発する能力というようなBPC-1蛋白質の特性を示す。
【0047】
BPC-1ポリペプチドは、本明細書で開示するヒトBPC-1蛋白質のアミノ酸配列に基づき、当技術分野で周知の標準的なペプチド合成技術または化学的切断法を用いて作製しうる。または、BPC-1蛋白質のポリペプチド断片をコードする核酸分子を得るために組換え法を用いることも可能である。この点に関して、本明細書で述べるBPC-1をコードする核酸分子は、BPC-1蛋白質の規定断片を作製するための手段を提供する。BPC-1ポリペプチドは、ドメイン特異的抗体(例えば、BPC-1蛋白質の細胞外または細胞内エピトープを認識する抗体)の作製および特徴分析、BPC-1またはその特定の構造ドメインと結合する物質または細胞因子の同定、ならびに癌ワクチンを非制限的に含む種々の治療状況において特に有用である。特に興味深い構造を含むBPC-1ポリペプチドは、例えば、シュウ-ファスマン(Chou-Fasman)、ガルニエ-ロブソン(Garnier-Robson)、カイト-ドゥーリトル(Kyte-Doolittle)、アイゼンバーグ(Eisenberg)、カープラス-シュルツ(Karplus-Schultz)もしくはジェームソン-ウルフ(Jameson-Wolf)の分析方法を含む当技術分野で周知のさまざまな分析技法を用いて、または免疫原性に基づいて、予想および/または同定することが可能である。このような構造を含む断片は、サブユニット特異的な抗BPC-1抗体の作製、またはBPC-1と結合する細胞因子の同定に特に有用である。
【0048】
以下の実施例の項で述べる1つの具体的な態様では、C末端に6XHisおよびMYCタグを付加したBPC-1をコードするCMV駆動性発現ベクター(pcDNA3.1/mycHIS、Invitrogen)をトランスフェクトした293T細胞において分泌型の成熟BPC-1を首尾よく発現させることができる。培養液中に分泌されたHIS標識BPC-1は、標準的な技法を用い、ニッケルカラムを用いて精製しうる。
【0049】
BPC-1抗体
本発明のもう1つの局面は、BPC-1蛋白質およびポリペプチドと結合する抗体を提供する。最も好ましい抗体は、BPC-1蛋白質とは選択的に結合するが、BPC-1以外の蛋白質およびポリペプチドとは結合しない(または結合が弱い)ものと考えられる。特に考慮の対象となる抗BPC-1抗体には、モノクローナルおよびポリクローナル抗体のほか、これらの抗体の抗原結合ドメインおよび/または1つもしくは複数の相補性決定領域を含む断片が含まれる。本明細書で用いる抗体断片とは、その標的と結合する免疫グロブリン分子の可変領域、すなわち抗原結合領域の少なくとも一部と定義される。
【0050】
本発明のBPC-1抗体は、前立腺癌の治療戦略、診断および予後判定アッセイ法ならびに画像診断法において特に有用と思われる。同様に、この種の抗体は、他の種類の癌でBPC-1が同じく発現および過剰発現される限りにおいて、他の癌の治療、診断および/または予後判定に有用と思われる。BPC-1を発現するこのような癌の1つは膀胱癌である。
【0051】
本発明はまた、BPC-1および変異型BPC-1蛋白質ならびにポリペプチドの検出および定量的評価のために有用な種々の免疫アッセイ法を提供する。このようなアッセイ法は一般に、BPC-1または変異型BPC-1蛋白質を認識してそれと結合しうる1つまたは複数のBPC-1抗体を適宜含み、さまざまな種類の放射免疫アッセイ法、固相酵素免疫アッセイ法(ELISA)、固相酵素免疫蛍光アッセイ法(ELIFA)、免疫細胞化学法などを非制限的に含む、当技術分野で周知のさまざまな免疫アッセイ法形式の範囲内で行うことができる。さらに、標識したBPC-1抗体を用いる放射シンチグラフィー画像法を非制限的に含む、前立腺癌を検出しうる免疫学的画像化法も本発明によって提供される。この種のアッセイ法は、前立腺癌、特に進行前立腺癌の発見、モニタリングおよび予後判定において臨床的に有用と思われる。
【0052】
また、BPC-1抗体を、BPC-1および変異型BPC-1蛋白質ならびにポリペプチドを精製するため、ならびにBPC-1相同体および関連分子を単離するための方法に用いることも可能である。例えば、1つの態様において、BPC-1蛋白質の精製方法は、BPC-1抗体のBPC-1との結合が許容される条件下で、固体基質に結合させたBPC-1抗体をBPC-1を含む可溶化液または他の溶液とともにインキュベートする段階、不純物を除去するために固体基質を洗浄する段階、および結合した抗体からBPC-1を溶出させる段階を含む。本発明のBPC-1抗体のその他の用途には、BPC-1蛋白質を模倣する抗イディオタイプ抗体の作製が含まれる。
【0053】
例えばBPC-1蛋白質の生物活性を調節もしくは阻害すること、またはBPC-1蛋白質もしくはBPC-1結合パートナーを発現する癌細胞のターゲティングおよび破壊を行うことにより、BPC-1抗体を治療的に用いることも可能である。BPC-1は細胞蛋白質と結合すると思われる分泌蛋白質であり、しかもBPC-1には発癌活性があると思われるため、BPC-1の受容体との結合能、またはそれが発癌生物活性を発揮する媒介となる他の蛋白質との相互作用能を妨げるために抗体は治療的に有用と思われる。1つの具体的な態様においては、抗体がBPC-1と結合してそれが機能を発揮する能力を阻害するように、BPC-1特異的抗体またはその組み合わせ(好ましくはモノクローナル抗体またはその組み合わせ)を、BPC-1発現性腫瘍に罹患した患者に投与する。BPC-1抗体療法については、以下の「治療方法および組成物」のサブセクションでさらに詳細に述べる。
【0054】
抗体の調製のためのさまざまな方法が当技術分野では周知である。例えば、単離形態または免疫複合形態にあるBPC-1蛋白質、ペプチドまたは断片を用いて適した哺乳動物宿主を免疫化することにより、抗体を調製することができる(抗体:実験マニュアル(Antibody:A Laboratory Manual)、CSH Press、Harlow and Lane編(1988)、Harlow、抗体(Antibody)、Cold Spring Harbor Press、NY(1989))。さらに、BPC-1 GST融合蛋白質などのBPC-1の融合蛋白質も用いうる。1つの特定の態様においては、図1のアミノ酸配列のオープンリーディングフレームの全体または大部分を含むGST融合蛋白質を作製し、適切な抗体を産生させるための免疫原として用いることができる。BPC-1を発現または過剰発現する細胞を免疫化に用いてもよい。同様に、BPC-1を発現するように操作された任意の細胞を用いることも可能である。このような戦略は、内因性BPC-1の認識能力が高いモノクローナル抗体の産生をもたらすと思われる。もう1つの有用な免疫原は、ヒツジ赤血球の形質膜と結合したBPC-1蛋白質を含む。さらに、コードされる免疫原に対する免疫応答を生じさせるために、当技術分野で公知の裸の(naked)DNAによる免疫化法を(精製BPC-1蛋白質またはBPC-1発現細胞とともに、または伴わずに)用いてもよい(概説については、Donnellyら、1997、Ann. Rev. Immunol. 15:617〜648を参照のこと)。
【0055】
図1に示すBPC-1のアミノ酸配列を、抗体の作製を目的としてBPC-1蛋白質の特定の領域を選択するために用いてもよい。例えば、BPC-1アミノ酸配列の疎水性および親水性分析を用いて、BPC-1構造における親水性領域を同定することができる。シュウ-ファスマン(Chou-Fasman)、ガルニエ-ロブソン(Garnier-Robson)、カイト-ドゥーリトル(Kyte-Doolittle)、アイゼンバーグ(Eisenberg)、カープラス-シュルツ(Karplus-Schultz)もしくはジェームソン-ウルフ(Jameson-Wolf)分析などの当技術分野で知られた他の種々の方法を用いて、免疫原性構造が認められるBPC-1蛋白質の領域のほか、他の領域およびドメインを容易に用いることもできる。
【0056】
BPC-1抗体の作製方法は、本明細書において提示される実施例における方法によってさらに例示される。
【0057】
免疫原として用いるための蛋白質またはポリペプチドを調製するため、および蛋白質とBSA、KLHまたは他の担体蛋白質などの担体との免疫原性結合物を調製するための方法は当技術分野で周知である。ある状況では例えばカルボジイミド試薬を用いる直接的結合を用いることができ、別の状況ではピアスケミカル社(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)が供給している結合剤が有効と思われる。BPC-1免疫原の投与は一般に、当技術分野で一般に知られた適切な期間にわたる注射および適切なアジュバントを用いて行う。免疫化期間中には、抗体形成が十分なことを判定するために抗体力価を測定することが可能である。
【0058】
好ましいものはBPC-1モノクローナル抗体であり、これは当技術分野で周知のさまざまな手段によって作製しうる。例えば、一般に知られた、リンパ球または脾細胞の不死化をもたらすケーラー(Kohler)およびミルスタイン(Milstein)の標準的な方法または変法を用いて、望ましいモノクローナル抗体を分泌する不死化細胞株を調製することができる。望ましい抗体を分泌する不死化細胞株は、BPC-1蛋白質またはBPC-1断片を抗原とするイムノアッセイ法によってスクリーニングする。望ましい抗体を分泌する適切な不死化細胞培養物が同定された時点で、細胞を増殖させてインビトロ培養物または腹水から抗体を得ることができる。
【0059】
最新技術を用いる組換え手段によって抗体または断片を作製することもできる。BPC-1蛋白質の望ましい領域と特異的に結合する領域を、複数の種に由来するキメラ性またはCDR接枝(CDR-grafted)抗体の文脈において作製することも可能である。ヒト化またはヒトBPC-1抗体を作製することもでき、これは治療状況における使用には好ましい。非ヒト抗体CDRの1つまたは複数を対応するヒト抗体配列と置換することによる、マウスおよび他の非ヒト抗体をヒト化するための方法はよく知られている(例えば、Jonesら、1986、Nature 321:522〜525;Riechmnanら、1988、Nature 332:323〜327;Verhoeyenら、1988、Science 239:1534〜1536を参照のこと)。また、カーター(Carter)ら、1993、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:4285およびシムズ(Sims)ら、1993、J. Immunol. 151:2296も参照されたい。完全ヒトモノクローナル抗体を作製するための方法には、ファージディスプレイ法およびトランスジェニック法が含まれる(概説については、Vaughanら、1998、Nature Biotechnology 16:535〜539を参照のこと)。
【0060】
完全ヒトBPC-1モノクローナル抗体は、大規模なヒトIg遺伝子コンビナトリアルライブラリー(すなわち、ファージディスプレイ)を用いるクローニング技術を用いて作製しうる(Griffiths and Hoogenboom、インビトロ免疫系の構築:ファージディスプレイライブラリーに由来するヒト抗体(Building an in vitro immune system:human antibodies from phage display libraries)、ヒトにおける予防的および治療的用途のための抗体分子の蛋白質工学(Protein Engineering of Antibody Molecules for Prophylactic and Therapeutic Applications in Man)、Clark, M.(編)、Nottingham Academic、pp 45〜64(1993)、Burton and Barbas、コンビナトリアルライブラリーに由来するヒト抗体(Human Antibodies from combinatorial libraries)、同書、pp 65〜82)。1997年12月3日に刊行されたPCT特許出願・国際公開公報第98124893号、クチャーラパティ(Kucherlapati)およびジャコボビッツ(Jakobovits)らに記載された通りに、完全ヒトBPC-1モノクローナル抗体を、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むように操作されたトランスジェニックマウスを用いて作製することも可能である(Jakobovits、1998、Exp. Opin. Invest. Drugs 7(4):607〜614も参照されたい)。この方法では、ファージディスプレイ技術に必要なインビトロ操作が避けられ、高親和性の信頼しうるヒト抗体が効率よく得られる。
【0061】
BPC-1抗体とBPC-1蛋白質との反応性は、BPC-1蛋白質、ペプチド、BPC-1発現細胞またはその抽出物を適宜用いるウエスタンブロット法、免疫沈降法、ELISAおよびFACS分析を含む既知の数多くの手段によって確認しうる。
【0062】
本発明のBPC-1抗体もしくはその断片を検出マーカーで標識して、または細胞毒性物質などの第2の分子と結合させて、BPC-1陽性細胞に対する第2の分子のターゲティングのために用いることもできる(Vitetta、ES.ら、1993、免疫毒素療法(Immunotoxin therapy)、DeVita, Jr., V.T.ら編、癌:腫瘍学の原理および実践(Cancer:Principles and Practice of Oncology)、第4版、J.B. Lippincott Co.、Philadelphia、2624〜2636)。細胞毒性物質の例には、リシン、リシンA鎖、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデッシンA鎖、α-サルシン、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レツトリクトシン(retstrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、キュリシン(curicin)、クローチン(crotin)、カリケアミシン(calicheamicin)、サポンソウ常備阻害剤(sapaonaria officinalis inhibitor)およびグルココルチコイドならびに他の化学療法薬、さらには212Bi、131I、131In、90Yおよび186Reなどの放射性同位体が非制限的に含まれる。適した検出可能マーカーには、放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素が非制限的に含まれる。抗体を、プロドラッグを活性型に変換しうる抗癌プロドラッグ活性化酵素と結合させてもよい。例えば、米国特許第4,975,287号を参照のこと。
【0063】
さらに、当技術分野で一般に知られた方法を用いて、2つまたはそれ以上のBPC-1エピトープに対して特異的な二重特異性抗体を作製することもできる。さらに、癌細胞の増殖に対するBPC-1抗体の治療効果が増強されるように、抗体のエフェクター機能を改変することもできる。また、当技術分野で知られた架橋法を用いて、ホモ二量体抗体を作製することもできる(例えば、Wolffら、Cancer Res. 53:2560〜2565)。この種の抗体は、BPC-1の阻害を増強するための手段になると思われる。
【0064】
BPC-1の検出のための方法
本発明のもう1つの局面は、BPC-1ポリヌクレオチドおよびBPC-1蛋白質を検出するための方法、ならびにBPC-1を発現する細胞を同定するための方法に関する。
【0065】
より詳細には、本発明は、血清、骨、前立腺および他の組織、尿、精液、細胞調製物などの生物試料におけるBPC-1ポリヌクレオチドの検出のためのアッセイ法を提供する。検出可能なBPC-1ポリヌクレオチドには、例えば、BPC-1遺伝子またはその断片、BPC-1 mRNA、選択的スプライス変異型のBPC-1 mRNA、およびBPC-1ポリヌクレオチドを含む組換えDNAまたはRNA分子が含まれる。BPC-1ポリヌクレオチドの増幅および/またはその存在の検出を行うための数多くの方法が当技術分野では周知であり、本発明のこの面の実践に用いることができる。
【0066】
1つの態様において、生物試料中のBPC-1 mRNAを検出するための方法は、少なくとも1つのプライマーを用いる逆転写によって試料からcDNAを作製すること、そのようにして作製したcDNAをその中のBPC-1 cDNAを増幅するためにBPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅すること、ならびに増幅されたBPC-1 cDNAの存在を検出することを含む。もう1つの態様において、生物試料中のBPC-1遺伝子を検出するための方法は、試料からゲノムDNAをまず単離する段階、単離されたゲノムDNAをその中のBPC-1遺伝子を増幅するためにBPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅する段階、ならびに増幅されたBPC-1遺伝子の存在を検出する段階を含む。BPC-1(図1)に関して提示されたヌクレオチド配列から、任意の数の適したセンスおよびアンチセンスプローブの組み合わせを設計し、この目的に用いることができる。
【0067】
また、本発明は、血清、骨、前立腺および他の組織、尿、細胞調製物などの生物試料の組織中のBPC-1蛋白質の存在を検出するためのアッセイ法も提供する。BPC-1蛋白質を検出するための方法も周知であり、これには例えば、免疫沈降法、免疫組織化学分析、ウエスタンブロット分析、分子結合アッセイ法、ELISA、ELIFAなどが含まれる。例えば、1つの態様において、生物組織中のBPC-1蛋白質の存在を検出するための方法は、試料をまずBPC-1抗体、そのBPC-1反応性断片またはBPC-1抗体の抗原結合領域を含む組換え蛋白質と接触させること、およびそれに対する試料中のBPC-1蛋白質の結合を検出することを含む。
【0068】
BPC-1を発現する細胞を同定するための方法も提供する。1つの態様において、BPC-1遺伝子を発現する細胞を同定するためのアッセイ法は、細胞内のBPC-1 mRNAの存在を検出することを含む。細胞内の特定のmRNAを検出するための方法は周知であり、これには例えば、相補的DNAプローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイ法(標識したBPC-1リボプローブ、ノーザンブロット法および関連技法を用いるインサイチューハイブリダイゼーションなど)および種々の核酸増幅アッセイ法(BPC-1に対して特異的な相補的プライマーを用いるRT-PCR、および例えば分枝DNA、SISBA、TMAなどを用いる他の増幅型検出法)が含まれる。または、BPC-1遺伝子を発現する細胞を同定するためのアッセイ法は、細胞内の、または細胞が分泌するBPC-1蛋白質の存在を検出することを含む。蛋白質を検出するためのさまざまな方法が当技術分野で周知であり、BPC-1蛋白質およびBPC-1発現細胞の検出に用いることができる。
【0069】
BPC-1発現解析は、BPC-1遺伝子の発現を調節する作用物質の同定および評価のためのツールとしても有用と思われる。例えば、前立腺癌においてBPC-1の発現が著しくアップレギュレートされ、かつその他の癌においても発現され得る。癌細胞において、BPC-1の発現および過剰発現を抑制しうる分子または生物的物質が同定されれば、治療的意義があると考えられる。このような物質は、RT-PCR、核酸ハイブリダイゼーションまたは抗体結合によりBPC-1発現の定量化を行うスクリーニングを用いて同定しうる。
【0070】
BPC-1の発現状態を判定するためのアッセイ法
個体におけるBPC-1発現パターンの状態の判定は癌の診断に用いることができ、適切な治療選択肢を定める上で有用な予後判定情報をもたらすと思われる。同様に、BPC-1の発現状態は特定の病期に対する感受性、進行および/または腫瘍の悪性度を予測するために重要な情報をもたらすと思われる。本発明は、BPC-1発現状態の判定およびBPC-1を発現する、前立腺癌および膀胱癌などの癌の診断のための方法およびアッセイ法を提供する。
【0071】
1つの局面において、本発明は、被験細胞または被験試料におけるBPC-1 mRNAまたは蛋白質発現の有意な増加を、対応する正常細胞または組織における発現レベルと対比して検出することを含む、前立腺癌および膀胱癌などの個体における癌の存在を判定する上で有用なアッセイ法を提供する。例えば、結腸、肺、前立腺、膵臓、膀胱、乳房、卵巣、子宮頸部、精巣、頭部および頸部、脳、胃などの組織試料におけるBPC-1 mRNAの存在を評価しうる。対応する正常組織はBPC-1 mRNAを発現しないか、または低レベルで発現するため、これらのいずれかの組織中にBPC-1の有意な発現が存在すれば、これらの癌の発生、存在および/または重症度を知る上で有用と思われる。
【0072】
関連する1つの態様では、BPC-1の発現状態を核酸レベルではなく蛋白質レベルで判定する。例えば、このような方法またはアッセイ法は、被験組織試料中、または血清、精液、もしくは尿中の細胞によって発現されるBPC-1蛋白質のレベルを判定する段階、およびこのようにして判定したレベルを対応する正常試料中で発現されるBPC-1のレベルと比較する段階を含むと考えられる。1つの態様では、BPC-1蛋白質の存在を、例えば免疫組織化学的な方法を用いて評価する。BPC-1蛋白質の発現を検出しうるBPC-1抗体または結合パートナーは、この目的のために当技術分野で周知のさまざまなアッセイ法形式に用いることができる。もう1つの態様では、血清もしくは尿または他の体液における分泌型BPC-1蛋白質の有無を検査する。
【0073】
BPC-1は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌でも発現されると思われる分泌蛋白質であるため、血中または血清中のBPC-1を検出し、定量化するためのアッセイ法は、個体におけるBPC-1発現性腫瘍の発見、診断、予後判定および/または病期判定に有用と考えられる。例えば、BPC-1は正常前立腺では発現されないが、前立腺癌および膀胱癌では発現される。したがって、血清中にBPC-1が検出されることは、前立腺または膀胱の腫瘍の存在を示す指標になると思われる。この情報および/または他の情報に基づいて、前立腺癌または膀胱癌を診断することが可能と思われる。例えば、前立腺癌に関しては、このような他の情報には、血清PSAの測定、DREおよび/または超音波検査が含まれる。さらに、血清中に検出されるBPC-1のレベルは、病期判定または予後判定に有用な情報になると思われる。例えば、血清中のBPC-1蛋白質が極めて高いレベルにあれば、腫瘍が比較的大きい、および/または悪性度が高いことが推察される。
【0074】
正常組織におけるBPC-1の脳特異的発現は本発明のこの局面の重要な利点をもたらし、すなわち、循環血中BPC-1の背景レベルが極めて低値または皆無であれば、血清BPC-1蛋白質の存在と癌の存在との間に高度の相関が得られる。この利点は、細胞、病原体および高分子のクモ膜下腔への出入りを妨げる、中枢神経系の毛細血管における密着結合系である血液脳関門の特性に起因すると考えられる。したがって、脳内で発現されたBPC-1は血管系には遊離されないと考えられる。検討した他の正常な組織ではBPC-1の明らかな発現は示されていないため、血清BPC-1の存在はBPC-1発現性腫瘍の存在を強く示唆していると思われる。
【0075】
また、末梢血では、BPC-1の発現を検出するためのRT-PCRを用いて、前立腺癌を非制限的に含む癌細胞の存在に関するアッセイ法を都合よく行いうる。RT-PCRで増幅可能なBPC-1 mRNAが存在することは、前立腺癌の存在を示す指標となる。末梢血中の腫瘍細胞に関するRT-PCR検出アッセイ法は現在、数多くのヒト固形腫瘍の診断および管理における使用に関して評価が進められている。前立腺癌の分野では、これらにはPSAおよびPSMを発現する細胞を検出するためのRT-PCRアッセイ法が含まれる(Verkaikら、1997、Urol. Res. 25:373〜384、Ghosseinら、1995、J. Clin. Oncol. 13:1195〜2000、Hestonら、1995、Clin. Chem. 41:1687〜1688)。RT-PCRアッセイ法は当技術分野で周知である。
【0076】
本発明の1つの関連した局面は、個体における癌の発症に対する感受性を予測することに向けられる。1つの態様において、癌に対する感受性を予測するための方法は、その存在によって癌に対する感受性が示され、存在するBPC-1 mRNA発現の程度が感受性の程度と比例するような、組織試料中のBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質の検出を含む。1つの具体的な態様では、前立腺組織におけるBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば前立腺癌の易罹患性(または前立腺腫瘍の発生または存在)が示される。もう1つの具体的な態様では、膀胱組織におけるBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば前立腺癌の易罹患性(または膀胱癌の発生または存在)が示される。さらにもう1つの具体的な態様においては、血清中のBPC-1の有無を検査し、試料中にBPC-1が存在すれば膀胱または前立腺腫瘍などのBPC-1発現性腫瘍の易罹患性(または存在)が示される。もう1つの態様においては、尿中のBPC-1の存在を検討し、試料中にBPC-1が存在すればBPC-1発現性膀胱癌の易罹患性(または存在)が示される。
【0077】
本発明のもう1つの関連した局面は、腫瘍の悪性度を評価するための方法に向けられる。1つの態様において、腫瘍の悪性度を評価するための方法は、正常試料と対比した腫瘍試料におけるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質の発現の程度が悪性度の程度を示すような、腫瘍の試料中の細胞により発現されるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質のレベルを測定する段階、そのようにして測定したレベルを同じ個体から採取した対応する正常組織または正常組織基準標本で発現されるBPC-1 mRNAまたはBPC-1蛋白質のレベルと比較する段階を含む。1つの具体的な態様においては、腫瘍細胞でBPC-1が発現される程度を決定することによって前立腺腫瘍の悪性度を評価し、発現レベルが高いほど悪性度の高い腫瘍であることが示される。
【0078】
1つの関連した態様では、BPC-1発現性腫瘍の程度および悪性度の指標を得るためにBPC-1の血清レベルが用いられ、血清BPC-1が高レベルであるほど腫瘍の進行度および悪性度が高いことが推測される。血清BPC-1の経時的測定によってさらに情報が得られると考えられ、この際、BPC-1の上昇は進行を反映すると考えられ、上昇速度は悪性度と相関すると考えられる。同様に、血清BPC-1の低下は腫瘍の増殖速度の遅さまたは縮退を反映すると考えられる。特に、正常個体におけるBPC-1の脳特異的発現プロフィールを考慮すれば、バックグラウンドでのBPC-1干渉は最小限または皆無であると考えられるため、血清中にBPC-1が同定されることは、発癌イニシエーションおよび早期疾患の検出に有用と思われる。手術または治療を受けた患者では、血清BPC-1レベルは治療反応および再発可能性のモニタリングに有用と考えられる。血清BPC-1測定に対する代替的または付加的な手法として、尿中に分泌されたBPC-1の存在またはレベルは膀胱癌に関して有用と思われる。
【0079】
BPC-1 mRNAまたは蛋白質の発現を検出または定量化するための方法は本明細書に記載しており、当技術分野で周知の標準的な核酸および蛋白質の検出および定量化の手法を用いる。BPC-1 mRNAの検出および定量化のための標準的な方法には、標識したBPC-1リボプローブを用いるインサイチューハイブリダイゼーション、BPC-1ポリヌクレオチドプローブを用いるノーザンブロット法および関連技法、BPC-1に対して特異的なプライマーを用いるRT-PCR解析、ならびに例えば分枝DNA、SISBA、TMAなどを用いる他の増幅型検出方法が含まれる。1つの具体的な態様では、以下の実施例で述べるように半定量的RT-PCRを用いてBPC-1 mRNA発現の検出および定量化を行う。この目的にはBPC-1を増幅しうる任意の数のプライマーを用いることができ、これには本明細書で詳細に述べる種々のプライマーのセットが非制限的に含まれる。この目的のためには蛋白質の検出および定量化のための標準的な方法を用いることができる。1つの具体的な態様では、野生型BPC-1蛋白質と特異的に反応するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を生検組織の免疫組織化学アッセイ法に用いうる。
【0080】
循環血中および排出されたBPC-1に関するアッセイ法
成熟BPC-1は分泌蛋白質である。BPC-1を発現する腫瘍はBPC-1を血管系に分泌する、および/または尿中もしくは精液中に排出すると考えられ、分子診断の技術分野で周知のアッセイ法および技法を用いて、本蛋白質をそこで検出および定量化することができる。排出されたBPC-1は尿および精液中でも検出可能である。循環血中または排出されたBPC-1のレベルの検出および定量化には、前立腺癌、膀胱癌および他のこのようなBPC-1発現性腫瘍の診断、病期判定および予後判定において数多くの用途があると考えられる。当技術分野では、血清蛋白質の検出および定量化のための多種多様な技術的アプローチが周知である。
【0081】
尿中にBPC-1蛋白質が検出されることにより、BPC-1を分泌する膀胱癌の存在が示されうる。通常、腎機能が正常である限り、この蛋白質は尿中では有意なレベルとしては検出されない。しかし、膀胱癌細胞によって発現および分泌される蛋白質は膀胱内で尿中に直接入り込み、尿中での検出が可能となる可能性がある。興味深いことに、BPC-1蛋白質は組換え細胞培養液中で比較的高度の安定性を示し、このことはこの蛋白質が尿中でも安定であるという可能性を示唆する。
【0082】
1つの態様では、血清、尿または精液中のBPC-1の検出および定量化のために捕捉ELISAを用いる。BPC-1に関する捕捉ELISAは一般に、BPC-1蛋白質の異なるエピトープを認識するアイソタイプの異なる少なくとも2つのモノクローナル抗体を含むか、または抗BPC-1モノクローナル抗体および異なる種(例えば、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ハムスターなど)に由来する特異的なポリクローナル血清を1つずつ含む。このアッセイ法では、一方の試薬を捕捉(またはコーティング(coating))抗体として用い、もう一方を検出抗体として用いる(本明細書の実施例13を参照のこと)。
【0083】
治療方法および組成物
正常個体では脳組織でのみ発現されるが、前立腺癌では高発現される(さらに膀胱癌およびおそらくは他の癌においても発現される)分泌蛋白質としてのBPC-1の同定は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌の治療に向けた数多くの治療的アプローチへの道を開くものである。本出願者らの最初の機能的研究からは、BPC-1がトランスフォーメーション活性を有しており、この活性がBPC-1の細胞蛋白質との相互作用によって、または別の蛋白質との結合もしくは会合によって惹起されることが示唆された。この蛋白質のCUBドメインは、他の分泌分子、細胞外マトリックス分子および/または細胞表面受容体との相互作用を媒介する、蛋白質-蛋白質相互作用ドメインとしての役割も果たすと考えられる。
【0084】
したがって、BPC-1蛋白質の活性を阻害することを意図した治療的アプローチは、前立腺癌、膀胱癌およびBPC-1を発現する他の癌に罹患した患者に対して有用と考えられる。これらの治療的アプローチは一般に2つの分類に分けられる。一方の分類には、BPC-1蛋白質の受容体との結合を阻害するため、またはその別の蛋白質との結合もしくは会合を阻害するためのさまざまな方法が含まれる。もう一方の分類には、BPC-1遺伝子の転写またはBPC-1 mRNAの翻訳を阻害するための種々の方法が含まれる。
【0085】
A.BPC-1蛋白質機能の阻害に基づく治療法
治療的アプローチの第1の分類に含まれるものとして、本発明は、BPC-1蛋白質の受容体もしくは他の結合パートナーとの結合、またはその他の蛋白質との会合を阻害するためのさまざまな方法および組成物、さらにBPC-1機能を阻害するための方法を含む。
【0086】
A.1.BPC-1抗体によるBPC-1の治療的阻害
1つのアプローチでは、BPC-1と結合し、それによってBPC-1が協調的結合パートナーと結合する能力、または他の蛋白質と結合もしくは会合する能力を阻害する抗体を、BPC-1が関与する発癌/トランスフォーメーションシグナル伝達経路を弱めるために用いる。結合パートナーを介したシグナルにより、BPC-1が腫瘍細胞の増殖の開始、促進および/または維持に関与する範囲において、このような抗体は治療的に有用と考えられる。
【0087】
BPC-1の機能を阻害しうるBPC-1抗体およびその断片は、前立腺癌、膀胱癌およびおそらくは他の癌の治療に有用と考えられる。このような抗体はさまざまな様式でBPC-1活性の阻害に働くと思われる。例えば、BPC-1抗体は、BPC-1の受容体との結合、または別の蛋白質との結合/会合を妨げるものでよい。
【0088】
または、BPC-1抗体は、BPC-1蛋白質の生物活性ドメインと結合し、それによって機能を阻害するものでもよい。この点に関しては、BPC-1のCUBドメイン(図1参照)に特異的に向けられた抗体が、BPC-1結合の阻害(CUBドメインが結合に機能的にかかわる場合)または別の形でのCUBドメインの機能の阻害に特に有用と思われる。このようなドメイン特異的BPC-1抗体は、以前に記載された通りに作製しうる。例えば、図1に示したCUBドメインのアミノ酸配列を用いて、このような抗体を作製するためのCUBドメイン免疫原を作製することができる。
【0089】
BPC-1抗体を用いる癌の治療に関しては、以下のものを非制限的に含む数多くの因子が考慮されるものと思われる。第1に、モノクローナル抗体、特に分泌型BPC-1蛋白質との極めて高い結合親和性を有するものが一般に好ましい。第2に、患者の体内での抗原性が低いか全くない完全ヒトまたはヒト化モノクローナル抗体が好ましい。マウスまたは他の非ヒトモノクローナル抗体およびヒト/マウスキメラmAbの使用により、一部の患者では中等度から高度の免疫応答が誘発されるおそれがある。第3に、抗体を患者に送達する方法は、治療しようとする癌の種類によって異なると考えられる。
【0090】
一般に、治療の目的が標的腫瘍組織におけるBPC-1活性またはシグナル伝達の阻害にある場合には、BPC-1抗体の腫瘍部位への直接投与により、臨床効果を生じるのに十分なBPC-1機能の局所的除去が得られると思われる。BPC-1 mAbの直接投与も可能であり、ある種の状況では有益と思われる。例えば、膀胱癌の治療のためには、BPC-1 mAbを膀胱内に直接注入してもよい。
【0091】
または、BPC-1抗体を全身投与することもでき、これにより、原発腫瘍、循環血中の微小転移、および/または確立した転移におけるBPC-1機能の除去がもたらされると思われる。腫瘍の血管新生の程度は、推奨される送達手法に関する指針になると思われる。同様に、癌のグレードおよび/または病期もこの点に関する有用な情報になると考えられる。例えば、グレードが高く、より進行した腫瘍ほど転移を播種する可能性が高いと思われ、このことから、転移の発生を治療または予防するための全身投与が示唆される。
【0092】
BPC-1 mAbは、単独でも、さらには異なるエピトープを認識するといった異なるmAbの併用または「カクテル」でも治療的に有用と思われる。このようなmAbカクテルには、それらが異なるエピトープと結合し、BPC-1の機能的阻害を強める抗体を含む限りは、いくつか利点があると思われる。さらに、BPC-1 mAbの投与を、種々の化学療法薬、アンドロゲン拮抗薬および免疫調節薬(例えば、IL-2、GM-CSF)を非制限的に含む他の治療薬と組み合わせることもできる。
【0093】
BPC-1抗体を用いた癌の治療には一般に、静脈内注射(IV)またはボーラス注入などの許容される投与経路を介して、典型的には約0.1〜約200mg/kg体重の範囲の投与量でBPC-1抗体製剤を投与することが含まれる。 1週間当たり10〜500mg mAbの範囲(またはそれ以上)の投与量であれば有効であって忍容性も十分と思われる。初回投与の後に、それよりも低用量のmAb製剤を毎週投与することが可能である。当業者は理解すると思われるが、個々の症例における理想的な投薬方式にはさまざまな因子が影響すると思われる。このような因子には、例えば、用いる一つまたは複数のmAbの結合親和性および半減期、患者におけるBPC-1発現の程度、抗体の望ましい定常濃度レベル、投与頻度、ならびに本治療的組成物と併用する化学療法薬または他の治療法の影響が含まれる。
【0094】
A.2.細胞内抗体(intracellular antibody)によるBPC-1の治療的阻害
もう1つのアプローチでは、BPC-1と特異的に結合する一本鎖抗体をコードする組換えベクターを遺伝子導入技術によってBPC-1発現細胞に導入し、コードされる一本鎖抗BPC-1抗体を細胞内で発現させ、BPC-1蛋白質と結合させてそれによってその機能を阻害する。このような細胞内一本鎖抗体を作製するための方法はよく知られている。このような細胞内抗体は「イントラボディー(intrabody)」としても知られており、細胞内の特定の区画を特異的な標的とさせて、治療の阻害活性を集中させようとする領域を高度に制御することを可能にする。この技術は当技術分野で首尾よく用いられている(概説については、RichardsonおよびMarasco、1995、TIBTECH 第13巻を参照のこと)。イントラボディーは通常であれば豊富に存在する細胞表面受容体の発現を事実上消失させることが示されている。例えば、リチャードソン(Richardson)ら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3137〜3141、ベールリ(Beerli)ら、1994、J. Biol. Chem. 289:23931〜23936、デシェーン(Deshane)ら、1994、Gene Ther. 1:332〜337を参照されたい。
【0095】
一本鎖抗体は、柔軟なリンカーポリペプチドによって連結された重鎖および軽鎖の可変領域を含み、単一のポリペプチドとして発現される。選択的には、一本鎖可変領域断片に軽鎖定常領域が連結したものとして一本鎖抗体を発現させてもよい。発現されたイントラボディーが所望の細胞内区画を正確に標的とするように、よく知られた細胞内輸送シグナルを、このような一本鎖抗体をコードする組換えポリヌクレオチドベクターに組み込むことができる。例えば、リーダーペプチドおよび選択的にはKDELアミノ酸モチーフなどのC末端ER残留(retention)シグナルが小胞体(ER)を標的とするイントラボディーに組み込まれるように操作しうる。核内で活性を発揮させようとするイントラボディーは、核局在化シグナルを含むように操作することができる。原形質膜の細胞質側にイントラボディーを係留するために、脂質部分をイントラボディーに連結させてもよい。細胞質内で機能を発揮するようにイントラボディーの標的化を行うこともできる。例えば、細胞質内の因子を隔離し、それによってそれらが細胞内の通常の目的地に輸送されることを妨げるために、細胞質イントラボディーを用いることができる。
【0096】
1つの態様において、イントラボディーは、ER内のBPC-1を捕捉し、それによってその成熟および細胞外への分泌を阻止するために用いうる。所望のターゲティングを実現するために、ERを標的とするシグナルおよび/またはリーダーペプチドをこのようなBPC-1イントラボディーに組み込むこともできる。このようなイントラボディーは、BPC-1がERによるプロセシングを受ける段階でBPC-1を捕捉し、それによってBPC-1のプロセシングまたは細胞の原形質膜を介した輸送を阻害すると考えられる。この方法は、生物活性をもつ分泌型の成熟BPC-1の発生をERのレベルで本質的には阻止するものと考えられる。このようなBPC-1イントラボディーを、BPC-1前駆体のシグナル配列を含む、特定のBPC-1ドメインと特異的に結合するようにデザインすることもできる。BPC-1蛋白質と反応する、小胞体を標的とするイントラボディーは小胞体内でBPC-1を捕捉すると考えられる。もう1つの態様においては、細胞質内のBPC-1 CUBドメインの機能をブロックするために、BPC-1 CUBドメインと特異的に反応するイントラボディーを用いることができる。
【0097】
A.3.組換え蛋白質によるBPC-1の治療的阻害
もう1つのアプローチでは、BPC-1と結合し、それによってBPC-1が協調的受容体に到達/結合すること、または発癌シグナルの伝達に関与する別の蛋白質と会合することを妨げることができる組換え分子が、BPC-1の機能を阻害するために用いられる。このような組換え分子は、例えば、BPC-1特異的な抗体分子の反応性部分を含む。1つの具体的な態様では、BPC-1受容体または結合パートナーのBPC-1リガンド結合ドメインが、ヒトIgG1などのヒトIgGのFc部分と連結した2つのBPC-1リガンド結合ドメインを含む二量体融合蛋白質に組み込まれる。このようなIgG部分は、例えば、CH2およびCH3ドメインならびにヒンジ領域を含むが、CH1ドメインは含まない。このような二量体融合蛋白質は、前立腺癌および膀胱癌を非制限的に含む、BPC-1の発現に伴う癌に罹患した患者に可溶性形態として投与することができ、この際、二量体融合蛋白質はBPC-1と特異的に結合し、それによってBPC-1の受容体または他の結合パートナーとの相互作用を阻害する。既知の抗体連結技術を用いて、このような二量体融合蛋白質をさらに組み合わせて多量体蛋白質とすることもできる。
【0098】
B.BPC-1の転写または翻訳の阻害に基づく治療法
治療的アプローチの第2の分類に含まれるものとして、本発明は、BPC-1遺伝子の転写を阻害するためのさまざまな方法および組成物を提供する。同様に、本発明は、BPC-1 mRNAの蛋白質への翻訳を阻害するための方法および組成物も提供する。
【0099】
1つのアプローチにおいて、BPC-1遺伝子の転写を阻害する方法は、BPC-1遺伝子をBPC-1アンチセンスポリヌクレオチドと接触させることを含む。もう1つのアプローチにおいて、BPC-1 mRNAの翻訳を阻害する方法は、BPC-1 mRNAをアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることを含む。もう1つのアプローチでは、BPC-1メッセージを切断し、それによって翻訳を阻害するためにBPC-1特異的リボザイムが用いられる。この種のアンチセンスおよびリボザイムに基づく方法を、BPC-1プロモーターおよび/またはエンハンサー因子などのBPC-1遺伝子の調節領域に向けて行うこともできる。同様に、BPC-1遺伝子の転写因子を阻害しうる蛋白質を、BPC-1 mRNAの転写を阻害するために用いることもできる。前記の方法に有用な種々のポリヌクレオチドおよび組成物は上記の通りである。転写および翻訳を阻害するためのアンチセンスおよびリボザイム分子の使用は当技術分野では周知である。
【0100】
図1のBPC-1 cDNAの5'非翻訳領域(UTR)は極めてGCに富む配列であり、このことは、BPC-1 mRNAのこの部分に翻訳調節因子が存在することを強く意味する。BPC-1遺伝子のこの特徴は、5' UTRの利用をブロックすることによってBPC-1の翻訳が阻害されるという可能性を示唆する。1つのアプローチでは、BPC-1 mRNAの5' UTRに対して相補的なアンチセンス分子をBPC-1メッセージの5' UTRと接触させ、それによってハイブリダイゼーションを生じさせ、内因性BPC-1翻訳因子がBPC-1 5' UTR中の必要な活性化因子に到達するのを妨げる。このアプローチの変法では、BPC-1 mRNAのスプライシングを行い、それによって第2の階層の翻訳阻害を付加することが可能なリボザイムまたは類似の活性をもつポリヌクレオチドと連結させた、BPC-1 mRNAの5' UTRと相補的な配列を含むポリヌクレオチドを用いる。
【0101】
しかし、上記の方法では、BPC-1のスプライシングを行うリボザイムをBPC-1 mRNAと別に、すなわち、上記の抗5' UTRなどの異種配列とは連結させずに接触させて、リボザイムまたは類似の活性をもつポリヌクレオチドをこのような異種BPC-1ハイブリダイズ性ポリヌクレオチドの一部として送達することにより、リボザイムが標的配列に直接隣接して配置すると考えられ、より高いレベルの阻害活性が得られると思われる。
【0102】
BPC-1の転写活性化を妨げることによってBPC-1の転写を阻害する他の因子もBPC-1を発現する癌の治療に有用と思われ、このような因子を利用する癌治療法も本発明の範囲に含まれる。同様に、BPC-1のプロセシングを妨げることが可能な因子も、BPC-1を発現する癌の治療に有用と思われる。
【0103】
C.一般的考察
BPC-1を合成する腫瘍細胞に治療用ポリヌクレオチド分子(すなわち、アンチセンス、リボザイム、イントラボディーおよび他のBPC-1阻害分子をコードするポリヌクレオチド)を送達するために、遺伝子導入および遺伝子治療技術を用いることができる。数多くの遺伝子治療アプローチが当技術分野では知られている。BPC-1アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、BPC-1の転写を妨げることが可能な因子、成熟BPC-1のプロセシングおよび/または分泌を妨げることが可能な因子などをコードする組換えベクターを、このような遺伝子治療アプローチを用いて標的腫瘍細胞に送達することができる。
【0104】
上記の治療アプローチを化学療法または放射線療法と併用してもよい。これらの治療アプローチにより、特に化学療法薬の毒性に対する忍容性がそれほど高くない患者では、併用化学療法に用いる投薬量を減らすことも可能になると考えられる。
【0105】
個々の組成物(例えば、抗体、リボザイム、組換え融合蛋白質)またはこのような組成物の組み合わせの抗腫瘍活性は、種々のインビトロおよびインビボアッセイ系を用いて評価しうる。治療能力を評価するためのインビトロアッセイ法には、細胞増殖アッセイ法、軟寒天アッセイ法および発癌促進活性を示す他のアッセイ法、治療的組成物がBPC-1の協調的受容体または他の結合パートナーとの結合を阻害する程度を決定しうる結合アッセイ法、細胞接着アッセイ法などが含まれる。例えば、HER2に対する抗体は、リガンドの受容体との結合を阻害し、腫瘍の増殖抑制をもたらす。さらに、例えば、EGFRに対する抗体は、EGFの受容体との結合を阻害し、増殖停止および腫瘍抑制をもたらす。以下の実施例も参照されたい。
【0106】
治療的組成物の標的に対する結合親和性を決定するためのさまざまなインビトロアッセイ法も知られている。例えば、BPC-1抗体の結合親和性は、当技術分野で周知の数多くの技法(例えば、ビアコア(BIAcore)技術)を用いて決定することができる。親和性の高いBPC-1抗体ほど、より高いレベルで所望の阻害をもたらすと考えられるため、好ましい。
【0107】
インビボでのBPC-1治療的組成物の効果は、適切な動物モデルで評価することができる。例えば、ヒト前立腺癌移植片または継代した異種移植片組織をヌードマウスまたはSCIDマウスなどの免疫機能低下動物に導入した外因性(xenogenic)前立腺癌モデルは、前立腺癌に関して適切であり、すでに記載されている(Kleinら、1997、Nature Medicine 3:402〜408)。例えば、1998年4月23日に刊行された国際公開公報第98/16628号、ソーヤーズ(Sawyers)らは、原発性腫瘍の発生、微小転移、および後期疾患の特徴である造骨性転移の形成を再現しうるヒト前立腺癌のさまざまな異種移植片モデルを記載している。膀胱癌モデルはさまざまなものが知られている(例えば、Russellら、1986、Cancer Res. 46:2035〜2040;Raghavanら、1992、Semin. Surg. Oncol. 8:279〜284;Riegerら、1995、Br. J. Cancer 72:683〜690;Oshinskyら、1995、J. Urol. 154:1925〜1929を参照のこと)。腫瘍形成、腫瘍退縮または転移の抑制などを測定するアッセイ法を用いて、有効性を予測することが可能と思われる。以下の実施例も参照されたい。
【0108】
アポトーシスの促進を定性的に評価(qualify)するインビボアッセイ法も、治療的組成物の可能性があるものの評価に有用と思われる。1つの態様では、治療的組成物を用いて治療したマウスから得た異種移植片をアポトーシス巣の有無に関して検査し、非治療対照異種移植片を有するマウスと比較する。治療マウスの腫瘍内に認められるアポトーシス巣の程度は、組成物の治療効果の指標になると考えられる。
【0109】
前記の方法の実践に用いられる治療的組成物を、望ましい送達法に適した担体を含む医薬組成物へと製剤化することもできる。適した担体には、治療的組成物と配合した際に治療的組成物の抗腫瘍機能を損なわず、しかも患者の免疫系と反応しないような任意の物質が含まれる。この例には、滅菌リン酸緩衝生理食塩水、滅菌精製水などの多数の標準的な薬学的担体の任意のものが非制限的に含まれる(概論については、レミントン製薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第16版、A. Osal編、1980を参照のこと)。
【0110】
治療製剤は、可溶化し、治療的組成物を腫瘍部位へと送達しうる任意の経路を介して投与することができる。有効と考えられる投与経路には、静脈内、非経口的、腹腔内、筋肉内、腫瘍内、皮内、臓器内、同所性などが非制限的に含まれる。静脈内注射のために好ましい製剤は、滅菌精製水の保存溶液、新鮮滅菌水、および/または米国薬局方(USP)の0.9%滅菌塩化ナトリウム注射液を含むポリ塩化ビニルもしくはポリエチレンバッグ中に希釈された形で治療的組成物(すなわち、BPC-1モノクローナル抗体)を含む。抗BPC-1 mAb製剤は、凍結乾燥して好ましくは真空下にて滅菌粉末として保存した上で、注射前に例えばベンジルアルコール防腐剤を含む滅菌精製水、または滅菌水で再構成することができる。
【0111】
前記の方法を用いる癌の治療のための投与量および投与のプロトコールは、方法および標的の癌によって異なると考えられ、一般には、当技術分野で認識されている数多くの他の因子に依存すると考えられる。
【0112】
癌ワクチン
本発明はさらに、BPC-1蛋白質またはその断片を含む前立腺癌ワクチンを提供する。抗癌療法において体液性および細胞性免疫を生じさせるためのワクチンにおける腫瘍抗原の使用は当技術分野で周知であり、ヒトPSMAおよび齧歯類PAP免疫原を用いて前立腺癌に使用されている(Hodgeら、1995、Int. J. 癌 63:231〜237、Fongら、1997、J. Immunol. 159:3113〜3117)。このような方法は、BPC-1蛋白質もしくはその断片、またはBPC-1免疫原を発現して適切に提示することが可能なBPC-1をコードする核酸分子および組換えベクターを用いることにより、容易に実施しうる。
【0113】
BPC-1をコードする核酸分子を送達するためには、例えば、ウイルス性遺伝子送達システムを用いることができる。本発明のこの面の実践に用いうるウイルス性遺伝子送達システムはさまざまであり、これにはワクシニアウイルス、鶏痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスおよびシンドバス(sindbus)ウイルス(Restifo、1996、Curr. Opin. Immunol. 8:658〜663)が非制限的に含まれる。抗腫瘍応答を誘発させるためにBPC-1蛋白質またはその断片をコードする裸のDNAを患者の体内(例えば、筋肉内)に導入する、非ウイルス性送達システムを用いてもよい。1つの態様では、完全長ヒトBPC-1 cDNAを用いうる。もう1つの態様では、特定の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトープをコードするBPC-1核酸分子を用いることができる。CTLエピトープは、特定のHLA対立遺伝子と最適に結合しうるBPC-1蛋白質内部のペプチドを同定するための特定のアルゴリズム(例えば、Epimer、Brown University)を用いて決定することができる。
【0114】
さまざまなエクスビボ戦略を用いることもできる。1つのアプローチでは、患者の免疫系に対してBPC-1抗原を提示するために樹状細胞を用いる。樹状細胞はMHCクラスIおよびII、B7副刺激因子ならびにIL-12を発現するため、非常に特殊化した抗原提示細胞である。前立腺癌では、前立腺癌患者の免疫系を刺激することを目的に前立腺特異的膜抗原(PSMA)のペプチドによるパルス刺激を行った自己樹状細胞を用いる第I相臨床試験が進行中である(Tjoaら、1996、Prostate 28:65〜69、Murphyら、1996、Prostate 29:371〜380)。樹状細胞は、MHCクラスIおよびII分子を背景としてT細胞にBPC-1ペプチドを提示するために用いることができる。1つの態様では、MHC分子と結合しうるBPC-1ペプチドによって自己樹状細胞のパルス刺激を行う。もう1つの態様では、完全なBPC-1蛋白質で樹状細胞のパルス刺激を行う。さらにもう1つの態様では、アデノウイルス(Arthurら、1997、Cancer Gene Ther. 4:17〜25)、レトロウイルス(Hendersonら、1996、Cancer Res. 56:3763〜3770)、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、DNAトランスフェクション(Ribasら、1997、Cancer Res. 57:2865〜2869)および腫瘍由来RNAのトランスフェクション(Ashleyら、1997、J. Exp. Med. 186:1177〜1182)などの当技術分野で知られた種々の実装(implementing)ベクターを用いて、樹状細胞においてBPC-1遺伝子が過剰発現するように操作する。BPC-1を発現する細胞は、GM-CSFなどの免疫モジュレーターを発現するように操作され、免疫化物質として用いられ得る。
【0115】
BPC-1蛋白質を発現する細胞に対する免疫応答を誘発するためのワクチンとして、抗癌療法において抗イディオタイプ抗BPC-1抗体を用いることも可能である。具体的には抗イディオタイプ抗体の作製は当技術分野で周知であり、BPC-1蛋白質上のエピトープを模倣する抗イディオタイプ抗BPC-1抗体を作製するために容易に適合化しうる(例えば、Wagnerら、1997、Hybridoma 16:33〜40、Foonら、1995、J Clin Invest 96:334〜342、Herlynら、1996、Cancer Immunol Immunother 43:65〜76を参照)。このような抗イディオタイプ抗体は癌ワクチンによる方法に用いることができる。
【0116】
BPC-1を発現する癌細胞に対する予防的または治療的な体液性および細胞性免疫応答を生じさせるために、遺伝子免疫化法(genetic immunization method)を用いてもよい。BPC-1蛋白質/免疫原をコードするDNAおよび適切な調節配列を含む作製物を対象の筋肉または皮膚に直接注入し、筋肉または皮膚の細胞が作製物を取り込んでコードされたBPC-1蛋白質/免疫原を発現するようにさせる。BPC-1蛋白質免疫原の発現により、前立腺癌に対する予防的または治療的な体液性および細胞性免疫がもたらされる。当技術分野で知られたさまざまな予防的および治療的な遺伝子免疫化法を用いることができる(総説については、インターネットアドレスwww.genweb.comで発表されている情報および参考文献を参照されたい)。
【0117】
キット
本発明は、上記において記載および提案した診断的および治療的用途における使用のためのキットも提供する。このようなキットは、バイアル、管などの1つまたは複数の容器手段を密に拘束して収容するために区画化された担体手段を含み、容器手段のそれぞれは本方法に用いる別々の要素の1つを含む。例えば、容器手段の1つは、検出可能な標識がなされているか、またはそれが可能なプローブを含む。このようなプローブは、BPC-1蛋白質またはBPC-1遺伝子もしくはmRNAに対してそれぞれ特異的な抗体またはポリヌクレオチドであってよい。標的核酸を検出するためにキットが核酸ハイブリダイゼーションを利用する場合には、キットは標的核酸配列の増幅のためのヌクレオチドを含む容器、および/または酵素性、蛍光性もしくは放射性ヌクレオチド標識などのレポーター分子を結合させたアビジンまたはストレプトアビジンなどのビオチン結合蛋白質などのレポーター手段を含む容器も有しうる。
【0118】
実施例
以下のいくつかの実施例により、本発明のさまざまな局面の説明および例示をさらに行うが、これらはいずれも発明の範囲を制限するためのものではない。
【0119】
実施例1:
BPC-1遺伝子のcDNA断片の単離
材料および方法
細胞株およびヒト組織
LAPC異種移植片:
LAPC異種移植片はチャールズ・ソーヤーズ博士(Dr. Charles Sawyers)(UCLA)から入手し、以前の記載の通りに作製した(Kleinら、1997、Nature Med. 3:402〜408)。アンドロゲン依存性および非依存性LAPC-4異種移植片(それぞれLAPC-4 ADおよびAI)ならびにLAPC-9 AD異種移植片を雄性SCIDマウスの体内で増殖させ、小型組織塊としてレシピエントの雄に継代した。LAPC-4 AI異種移植片はLAPC-4 AD腫瘍から得た。LAPC-4 AD腫瘍を有する雄性マウスを去勢し、2〜3カ月間飼育した。LAPC-4腫瘍が再び成長した時点で腫瘍を採取し、去勢雄または雌性SCIDマウスに継代した。
【0120】
細胞株:
ヒト細胞株(例えば、HeLa)はATCCから入手し、10%ウシ胎児血清を加えたDMEM中で維持した。
【0121】
RNAの単離:
全RNAを単離するために、腫瘍組織および細胞株をトリゾール(Trizol)試薬(Life Technologies、Gibco BRL)中にて10ml/ g組織または10ml/ 細胞108個の濃度で用いてホモジネート化した。ポリA RNAは、キアゲン(Qiagen)社のオリゴテックス(Oligotex)mRNAミニ(Mini)およびミィディ(Midi)キットを用いて全RNAから精製した。全RNAおよびmRNAを分光光度分析(O.D. 260/280nm)により定量化し、ゲル電気泳動によって分析した。
【0122】
オリゴヌクレオチド:
HPLCで精製した以下のオリゴヌクレオチドを用いた。
【0123】
抑制サブトラクション・ハイブリダイゼーション:
アンドロゲン依存性前立腺癌と比較して、アンドロゲン非依存性前立腺癌でダウンレギュレートされると思われる遺伝子に対応するcDNAを同定するために、抑制サブトラクション・ハイブリダイゼーション(SSH)を用いた。
【0124】
クローンテック(CLONTECH)社のPCR-セレクトcDNAサブトラクションキットおよびプライマーとして1ngのオリゴヌクレオチドDPNCDNを用いて、上記の通りに異種移植片組織から単離した2μgのポリ(A)+RNAから、LAPC-4 AD異種移植片(テスター)およびLAPC-4 AI異種移植片(ドライバー)に対応する2本鎖cDNAを合成した。第1の鎖および第2の鎖の合成は、キットのユーザーマニュアル手順書(CLONTECH手順書第PT1117-1号、カタログ番号K1804-1)に記載された通りに行った。この結果得られたcDNAをDpnIIにより37℃で3時間消化した。消化したcDNAをフェノール/クロロホルム(1:1)で抽出し、エタノールで沈殿させた。
【0125】
ドライバーcDNA(LAPC-4 AI)は、DpnIIで消化したLAPC-4 AI cDNAを、ヒト両性前立腺肥大(BPH)、ヒト細胞株HeLA、293、A431、Colo205、およびマウス肝臓由来の消化cDNAにおける混合物と1:1の比率で配合することによって作製した。
【0126】
テスターcDNA(LAPC-4 AD)は、DpnIIで消化したLAPC-4 AD cDNA 1μl(400ng)を水5μlで希釈することによって作製した。続いて、400uのT4DNAリガーゼ(CLONTECH)を用いて、希釈したcDNA(2μl、160ng)と2μlのアダプター1およびアダプター2(10μM)を、総容積を10μlとする16℃、一晩の別々のライゲーション反応でライゲーションした。0.2M EDTAを1μl添加し、72℃で5分間加熱することによってライゲーションを停止させた。
【0127】
第1のハイブリダイゼーションは、アダプター1およびアダプター2とライゲーションさせたテスターcDNA 1.5μl(20ng)を含む2本のチューブのそれぞれに対して、1.5μl(600ng)のドライバーcDNAを添加することによって行った。最終容積4μlとした試料の上に鉱油を重層し、MJリサーチ(MJ Research)社のサーマルサイクラー中で98℃、1.5分間の変性処理を加えた後に68℃で8時間ハイブリダイズさせた。続いて、2つのハイブリダイゼーション物を1μlの新鮮な変性ドライバーcDNAを加えた上で混合し、68℃で一晩ハイブリダイズさせた。この第2のハイブリダイゼーション物を、20mM Hepes、pH 8.3、50mM NaCl、0.2mM EDTAからなる200μl中に希釈し、70℃で7分間加熱して-20℃で保存した。
【0128】
SSHにより得られた遺伝子断片のPCR増幅、クローニングおよびシークエンシング:
SSH反応によって得た遺伝子断片を増幅するためにPCR増幅を2回行った。第1のPCR反応では、希釈した最終的なハイブリダイゼーション混合物1μlを、1μlのPCRプライマー1(10μM)、0.5μlのdNTP混合物(10μM)、2.5μlの10×反応バッファー(CLONTECH)および0.5μlの50×アドバンテージcDNAポリメラーゼ混合物(Advantage cDNA polymerase Mix)(CLONTECH)に添加し、最終容積25μlとした。PCR 1は以下の条件を用いて行った:75℃ 5分間、94℃ 25秒間の後、94℃ 10秒間、66℃ 30秒間、72℃ 1.5分間を27サイクル。各実験に関して第1のPCR反応を別々に5回ずつ行った。産物は集積し、水で1:10に希釈した。第2のPCR反応では、集積および希釈した第1のPCR反応物1μlに対して、PCRプライマー1の代わりにプライマーNP1およびNP2(10μM)を用いた点を除いてPCR 1に用いたものと同じ反応混合物を添加した。PCR 2は、94℃ 10秒間、68℃ 30秒間、72℃ 1.5分間を10〜12サイクル用いて行った。2%アガロースゲル電気泳動を用いてPCR産物を分析した。
【0129】
T/Aベクタークローニングキット(Invitrogen)を用いてPCR産物をpCR2.1中に挿入した。形質転換した大腸菌に対して青/白およびアンピシリン選択を行った。白色のコロニーを摘出し、96穴プレート中に配列した上で、液体培養下で一晩増殖させた。挿入物を同定するために、細菌培養液1mlに対して、PCR1の条件およびプライマーとしてNP1およびNP2を用いるPCR増幅を行った。PCR産物は2%アガロースゲル電気泳動を用いて分析した。
【0130】
細菌クローンは96ウェル形式で20%グリセロール中にて保存した。プラスミドDNAを調製してシークエンシングを行い、ジェンバンク(GenBank)、dBestおよびNCI-CGAPデータベースの核酸ホモロジー検索を行った。
【0131】
RT-PCR発現解析:
第1のcDNA鎖は、ギブコ社(Gibco-BRL)のスーパースクリプト・プレ増幅システム(Superscript Preamplification system)を用いるオリゴ(dT) 12-18プライミングにより、1μgのmRNAから作製した。製造者の手順を用いたが、これは逆転写酵素とともに42℃で50分間インキュベートした後にRNAse H処理を37℃で20分間行う段階を含む。反応を終えた後、水を加えて容積を200μlに増やしてから標準化を行った。16種の異なる正常ヒト組織に由来する第1のcDNA鎖はクローンテック(Clontech)社から入手した。
【0132】
複数組織に由来する第1のcDNA鎖の標準化は、β-アクチンを増幅するためのプライマー5'atatcgccgcgctcgtcgtcgacaa3'(配列番号:23)および5'agccacacgcagctcattgtagaagg 3'(配列番号:24)を用いて行った。第1のcDNA鎖(5μl)は、0.4μMのプライマー、0.2μMの各dNTP、1×PCRバッファー(Clontech、10mM Tris-HCL、1.5mM MgCI2、50mM KCI、pH8.3)および1×クレンタック(Klentaq)DNAポリメラーゼ(Clontech)を含む総容積50μl中で増幅した。18、20および22サイクルの時点でPCR反応物5μlを採取し、アガロースゲル電気泳動に用いた。PCRは、MJリサーチ(MJ Research)社のサーマルサイクラーを以下の条件で用いて行った:最初に94℃ 15秒間の変性処理を行った後、94℃ 15秒間、65℃ 2分間、72℃ 5秒間を18、20および22サイクル。72℃での最後の伸長処理は2分間行った。アガロースゲル電気泳動を行った後、複数組織で得られた283bpのβ-アクチンバンドのバンド強度を肉眼で比較した。22サイクルのPCRの後のすべての組織におけるβ-アクチンバンド強度が等しくなるように、第1のcDNA鎖に関する希釈係数を算出した。22サイクルのPCR後のすべての組織におけるバンド強度が等しくなるまでには標準化を3回行う必要があった。
【0133】
19P1E8遺伝子の発現レベルを判定するために、標準化した第1のcDNA鎖 5μlを、(MIT、詳細についてはwww.genome.wi.mit.eduを参照)の助けを借りて設計した以下のプライマー対を用い、25、30および35回の増幅サイクルを用いるPCRによって分析した:
【0134】
これらのプライマーは、19P1E8遺伝子として最初に単離されたSSH断片の配列から設計した。19P1E8遺伝子のオープンリーディングフレーム内の配列に基づく以下のプライマー対を使用した場合には、同じ発現パターンが生じた。
【0135】
半定量的発現解析は、薄いバンド強度が得られるサイクル数でPCR産物を比較することによって行った。
【0136】
結果:
前記の材料および方法の項に記載した通りにSSH実験をいくつか行い、候補となる遺伝子断片クローン(SSHクローン)を数多く単離した。対応する遺伝子の同一性に関する情報を得るため、および特定遺伝子の発現の差を分析するための決断を導く一助とするために、すべての候補クローンのシークエンシングを行い、主要な公的遺伝子およびESTデータベース中の全配列に対してホモロジー解析を行った。一般に、検索したいずれのデータベース中の既知の配列とも相同性がなく、このため新規遺伝子と考えられる遺伝子断片、ならびにこれまでにシークエンシングがなされた発現配列タグ(EST)との相同性が認められた遺伝子断片に対して、RT-PCRおよび/またはノーザン解析によるディファレンシャル発現解析を行った。
【0137】
既知の遺伝子またはEST配列との相同性が認められなかった、約700bpを含むSSHクローンの1つを19P1E8と命名した。このSHHクローンのヌクレオチド配列は、図1のヌクレオチド残基およそ1883〜2583に示されている。ノーザンブロットによる差分的発現分析では、19P1E8がLAPC-4 AD異種移植片で発現され、著しく程度は低いもののLAPC-4 AI、LAPC-9 ADおよびLAPC-9 AIでも発現されることが示された(図9)。正常前立腺では全く発現が認められなかった(図9)。サイズが3.5kb、8kbおよび9kb以上である3種類の異なる転写物が示されている。
【0138】
19P1E8の発現に関するRT-PCR分析でも本質的に同じ結果が得られた(図5、パネルA)。加えて、16種の正常組織由来の第1ストランドcDNAに関するRT-PCR発現解析をさらに行ったところ、19P1E8遺伝子の発現は脳、脾臓および精巣組織でのみ検出され、35サイクルのPCR増幅を行った場合のみに極めて低いレベルで検出されたが、30サイクルでは検出されなかった(図5、パネルBおよびC)。これに対して、LAPC-4 ADではわずか30サイクルでかなりの発現が検出された(図5)。
【0139】
実施例2:
完全長BPC-1をコードするcDNAの単離
上記の19P1E8 SHHクローン(実施例1)を用いて、完全長19P1E8 cDNAを単離した。簡潔に述べると、LAPC-4 mRNAから作製したcDNAライブラリーを、SSHクローンから作製した標識プローブによってスクリーニングした。具体的には、ラムダZAPエクスプレス(Stratagene)中に作製したLAPC-4 AD cDNAライブラリーから、2639塩基対(bp)の完全長19P1E8 cDNAをクローニングした。
【0140】
このcDNAは、シグナル配列およびCUBドメイン(補体成分C1r/C1s、Uegf、Bmp1(Complement subcomponents C1r/C1s、Uegf、Bmp1)の頭文字)(BorckおよびBeckmann、1993、J. Mol. Biol. 231:539〜545)を1つずつ含む、158アミノ酸からなるオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする。その5' UTR(非翻訳領域)は極めてGCに富んでおり、このことはこの領域が翻訳に関する調節因子を含むことを示唆している。CUBドメインは補体成分C1rおよびC1sで最初に発見され、続いてUegf(上皮増殖因子関連ウニ蛋白質)および骨発育に関与するプロテアーゼであるBmp1(骨形成蛋白質1)で同定された。
【0141】
この遺伝子が脳で独占的に発現され、前立腺癌異種移植片でアップレギュレートされることに鑑みて、この遺伝子はBPC-1(脳/前立腺癌CUB蛋白質(Brain/Prostate Cancer CUB protein)の頭文字)と命名された。単離されたBPC-1 cDNAのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列は図1に示されている。BPC-1の構造の概略図は図2に示されている。BPC-1のCUBドメインと他の蛋白質のCUBドメインのアミノ酸のアラインメントは図3に示されている。図3を参照すると、BPC-1のCUBドメインとBMP-1におけるCUBドメインの同一性が30〜40%である点に特に関心がもたれる。
【0142】
この完全長BPC-1 cDNA(p19P1E8、クローン6.1)は、1998年8月7日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録され、ATCC登録番号98833を与えられている。
【0143】
実施例3:
BPC-1遺伝子の発現分析―正常組織では脳特異的である
正常ヒト組織におけるBPC-1 mRNAの発現に関する最初の分析はまず、標識した19P1E8 SSHクローン(実施例1)をプローブとして用いる、クローンテック(Clontech)社(Palo Alto、California)から入手した合計16種の異なる正常ヒト組織を含む2種類の複数組織ブロットに対するノーザンブロット法によって行った。RNA試料はβ-アクチンプローブを用いて定量的に標準化した。
【0144】
その結果を図4に示す。発現は正常脳でのみ検出された。ノーザンブロットでは3.5kbおよび8.0kbの2種類の転写物が認められた(図5)。3.5kb転写物は、BPC-1 ORFをコードする、LAPC-4 ADから同定されたcDNAに対応する。長い方の転写物は、プロセシングを受けていないmRNA、または遺伝子の選択的アイソフォームをコードすると思われる。
【0145】
正常組織におけるBPC-1の発現をさらに検討するために、複数組織のRNAドットブロットをBPC-1プローブで検索した。検討した37種の異なる正常組織のうち、BPC-1レベルが検出可能であったのは脳領域のみであった(図6)。興味深いことに、BPC-1の発現は側頭葉、前頭葉および頭頂葉などの脳の皮質領域に限定されていた。海馬、扁桃体、尾状核および被殻でも発現が検出された。視床、視床下核および黒質などの他の脳領域ではBPC-1は発現されなかった。同じく、小脳、脊髄および延髄(中脳)などの他の中枢系(CNS)構造でも発現は検出されなかった。RNAドットブロットの結果は、異なるCNS組織のRNAを含むノーザンブロット法によって裏づけられた(図7)。
【0146】
実施例4:
胎児組織におけるBPC-1発現―発生過程ではより広範な発現がみられる
CUBドメイン蛋白質はしばしば発生過程において調節を受ける。BPC-1がヒト胎児組織で発現されるかどうかを明らかにするために、8種の異なる胎児組織に由来する第1ストランドcDNAに対してRT-PCRを行った。その結果、BPC-1が胎児脳で高発現され、他のすべての胎児組織でもこれより低いレベルで検出されることが示された(図8)。このことは、成人における発現は脳に限定され、他の組織での発現は発生過程中に停止することを示唆している。
【0147】
実施例5:
前立腺癌における高レベルのBPC-1発現
癌組織および細胞株におけるBPC-1の発現を分析するために、LAPC前立腺癌異種移植片ならびに一連の前立腺癌および膀胱癌細胞株に由来するRNAに対してノーザンブロット分析を行った。図9に示す結果から、BPC-1の最も高レベルの発現は、いずれも前立腺癌のリンパ節転移に由来する、LAPC-4 AD前立腺癌異種移植片およびLNCaP前立腺癌細胞株で認められることが明らかになった(Kleinら、1997、Nature Med. 3:402;Horoszewiczら、1983、Cancer Res. 43:1809)。LAPC-4 AI、LAPC-9 ADおよびLAPC-9 AIではこれよりも低いレベルのBPC-1発現が検出された(図9)。検討した膀胱癌細胞株のうち1つ(5637)では、BPC-1の発現が検出された(図9)。前立腺および正常前立腺の基底細胞区画であるPrEC細胞(Clonetics)では全く発現が検出されなかった。
【0148】
実施例6:
分泌型組換えBPC-1のインビトロでの産生
組換えBPC-1を発現させて、BPC-1蛋白質の細胞内局在を分析するために、カルボキシ末端に6Hisタグを付与する発現ベクター(pCDNA 3.1 myc-his、InVitrogen)中に完全長cDNAをクローニングした。35S-メチオニンで1時間標識した293T細胞にこの作製物をトランスフェクトした。続いて細胞を洗浄し、さまざまな時点での標識蛋白質を追跡するために非放射性培地中でインキュベートした。追跡開始後のさまざまな時点で、細胞抽出物および細胞上清(培地)からの抗His抗体(Santa Cruz)を用いてBPC-1-His付加蛋白質を免疫沈降させた。SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動)に続いて35S-メチオニン標識蛋白質を可視化するためのオートラジオグラフィーを行うことにより、免疫沈降物を分析した。
【0149】
この結果は、BPC-1蛋白質が35S-メチオニン標識期間の直後に細胞抽出物および細胞培養液中に出現することを示している(図10)。BPC-1蛋白質はほぼすべて追跡から2時間以内に培地中に分泌され、数時間にわたって培地中に安定に保たれた。本蛋白質の半減期は24時間を上回ると推測される。ベクターをトランスフェクトした細胞も標識し、同じ手順を用いて分析した。興味深いことに、ベクターおよびBPC-1をトランスフェクトした細胞のいずれにおいても非特異的蛋白質が出現している。この蛋白質は4時間後の時点で消失したため、BPC-1と比べて培地中の半減期は極めて短いと思われる。これらの結果は、BPC-1が現実に、細胞培養液中で極めて安定と思われる分泌蛋白質であることを示す。
【0150】
実施例7:
バキュロウイルス系を用いた組換えBPC-1の産生
バキュロウイルス発現系で組換えBPC-1蛋白質を産生させるために、昆虫細胞の培養液中への分泌のためのミツバチメリチンシグナル配列をもたらすバキュロウイルス導入ベクターpMelBac(Invitrogen)中にBPC-1 cDNAをクローニングした。pMelBac-BPC-1をヘルパープラスミドpBlueBac4.5(Invitrogen)とともにSF9(Spodoptera frugiperda)昆虫細胞に同時トランスフェクトして、組換えバキュロウイルス(詳細についてはInvitrogen社の説明書を参照のこと)を作製した。バキュロウイルスを細胞上清から回収し、プラークアッセイ法によって精製した。
【0151】
組換えBPC-1蛋白質は、ハイファイブ(HighFive)昆虫細胞(InVitrogen)を精製したバキュロウイルスに感染させることによって産生させた。抗BPC-1マウスポリクローナル抗体を用いたところ、組換えBPC-1蛋白質は細胞抽出物および細胞上清でともに検出された (以下の実施例8を参照のこと)。興味深いことに、細胞抽出物はシグナル配列が切断されたBPC-1およびプロセシングを受けていないBPC-1という2種類の形態のBPC-1を含む(図11)。上清は切断された成熟BPC-1のみを含んでいた。この組換えBPC-1蛋白質は、精製して、種々の細胞に基づくアッセイ法において、またはBPC-1に対して特異的なポリクローナルおよびモノクローナル抗体を産生させるための免疫原として用いることができる。
【0152】
実施例8:
BPC-1ポリクローナル抗体の作製
BPC-1と特異的に結合する抗体試薬を作製するために、BPC-1蛋白質のアミノ酸29〜93を包含するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合蛋白質を合成し、免疫原として用いた。この融合蛋白質は、以下のプライマーを用いて、BPC-1のcDNAクローンのヌクレオチド877〜1,071(AA 29〜93)をPCRを介して増幅することによって作製した:
【0153】
この結果得られた生成物をpGEX-2T GST融合ベクター(Pharmacia)のEcoRIおよびXhoI制限部位にクローニングした。グルタチオン-セファロースアフィニティークロマトグラフィーにより、誘導細菌から組換えGST-BPC-1融合蛋白質を90%を上回る純度となるように精製した。
【0154】
BPC-1に対するポリクローナル血清を作製するために、精製した融合蛋白質を以下の通りに用いた。ウサギにまず、完全フロイントアジュバント中に混合した200μgのGST-BPC-1融合蛋白質による免疫処置を行った。このウサギに対して、不完全フロイントアジュバント中に含めた200μgのGST-BPC-1蛋白質を2週間毎に注射した。各免疫処置から約7〜10日後に試験採血を行った。ウサギ血清のBPC-1に対する特異性および力価の判定には、ELISA、ウエスタンブロット法および免疫沈降分析を用いた。抗血清の特徴分析には、LNCaPならびにトランスフェクション(293T)およびレトロウイルス感染(PC-3およびNIH 3T3)によってBPC-1を過剰発現するように操作された細胞株などの、BPC-1を内因性的に発現する細胞株を用いた。BPC-1蛋白質に対して特異的な高力価を示した抗血清を、以下の3段階の工程によって精製する:(1)GSTアフィニティーカラムを通して枯渇させることによるGST反応性抗体の除去、(2)BPC-1特異的IgG抗体はGST-BPC-1アフィニティーカラムを通過させることによって単離した、および(3)プロテインGクロマトグラフィー。
【0155】
バキュロウイルス発現系で発現された組換えBPC-1(上記の実施例7を参照)、アフィニティー(ニッケル)精製したMYC/HIS BPC-1蛋白質(図13)およびBPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中の組換えBPC-1蛋白質(図13)の検出には、マウスポリクローナル抗体を首尾よく用いた。ウサギポリクローナル血清も作製したが、これもBPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中のBPC-1を検出することが可能であった。
【0156】
実施例9:
BPC-1モノクローナル抗体の作製
BPC-1に対するmAbを作製するために、Balb Cマウス5匹にまず、完全フロイントアジュバント中に混合した200μgのGST-BPC-1融合蛋白質による腹腔内免疫処置を行った。続いてマウスに、不完全フロイントアジュバント中に混合した75μgのGST-BPC-1蛋白質による免疫処置を2週間毎に計3回行った。免疫化マウスから得た血清の完全長BPC-1蛋白質に対する反応性を、293T細胞により発現させたHIS付加BPC-1蛋白質の部分精製調製物を用いるELISAによって観測した。最も強い反応性が認められたマウス2匹を3週間安静にした後、PBS中に溶解した融合蛋白質の最終注射を行い、4日後に屠殺した。屠殺したマウスの脾臓を採取し、標準的な手順を用いてSPO/2骨髄腫細胞と融合させた(HarlowおよびLane、1988)。BPC-1特異的抗体を産生するクローンを同定するために、HAT選択後の増殖用ウェルの上清をELISAおよびウエスタンブロット法によってスクリーニングした。
【0157】
BPC-1モノクローナル抗体の結合親和性は標準的な技術を用いて決定しうる。親和性の測定は、抗体のエピトープとの結合の強度を定量化するものであり、これはどのBPC-1モノクローナル抗体が診断的または治療的な用途に好ましいかを明らかにする上でも有用である。ビアコア(BIAcore)システム(Uppsala、Sweden)は、結合親和性を決定するための好ましい方法である。ビアコアシステムでは、生体分子の相互作用をリアルタイムで観測するために表面プラスモン共鳴を用いる(SPR、Welford K. 1991、Opt. Quant. Elect. 23:1;MortonおよびMyszka、1998、Methods in Enzymology 295:268)。ビアコア分析により、会合速度定数、解離速度定数、平衡解離定数および親和定数が都合よく得られる。
【0158】
実施例10:
哺乳動物発現系において発現される組換えBPC-1の産生および精製
C末端に6XHisおよびMYCタグを有するBPC-1をコードするCMV駆動性発現ベクター(pcDNA3.1/mycHIS、Invitrogen)を一時的にトランスフェクトされた293T細胞、またはこれを安定的に発現する293細胞は、精製用の分泌型可溶性BPC-1蛋白質の供給源として役立つ(上記の実施例6を参照のこと)。馴化培地中に分泌されたHIS付加BPC-1蛋白質は以下の方法によって精製される。馴化培地(500ml)を10倍に濃縮し、同時にアミコン(amicon)限外濾過装置をMWカットオフ値10kdの膜とともに用いて、750mM NaClおよび10mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液(pH 8.0)への緩衝液交換を行う。続いてこの調製物を総容積(bed volume)0.5mlのニッケル金属アフィニティー樹脂(Ni-NTA、Qiagen)に通し、10%エタノールおよび300mM NaClを含むリン酸緩衝液(pH 6.0)で十分に洗浄する。続いて、250mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液(pH 6.0)でHIS付加BPC-1蛋白質を溶出させる。高ストリンジェンシー洗浄(75mMイミダゾールを含むリン酸緩衝液)を含む上記のクロマトグラフィー手順を反復することにより、または抗HIS Abイムノアフィニティーカラムを通過させることにより、高純度の調製物が得られる。この方法を組換えHIS-BPC-1の精製に首尾よく用いた。精製された蛋白質のウエスタンブロットは、図13の最も左側のレーンに示されている。
【0159】
実施例11:
分泌型ヒトBPC-1のレトロウイルスを介した発現
BPC-1のコード領域をSRαmsvtkneoレトロウイルスベクター(Mullerら、1991 MOB 11:1785〜1792)中にサブクローニングした。BPC-1遺伝子を発現する細胞株を作製するためにレトロウイルスを作製して用いた。作製した細胞株は、3T3/BPC-1およびPC3/BPC-1である。SR-αBPC-1ウイルスを急性感染させた3T3細胞は、図12に示したノーザンブロットによって示されている通り、極めて高レベルのBPC-1 mRNAを発現する。BPC-1蛋白質のN末端部分(aa29〜93)を含むGST融合蛋白質に対するポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロット分析により、PC3/BPC-1可溶化物および上清をBPC-1発現に関して以下の通りに検査した。対照(Neo)またはBPC-1をコードするレトロウイルスを安定的に発現するPC3および3T3細胞、ならびにBPC-1レトロウイルスに急性感染させた3T3細胞を10cm径の組織培養プレート中で4日間培養した。各細胞株から得た25μlの非希釈上清を、マウス抗BPC-1ポリクローナル血清の1:500希釈物を用いるウエスタンブロット分析にかけた。続いてブロットを抗マウスHRP結合二次抗体とともにインキュベートし、BPC-1特異的シグナルをエンハンスト・ケミルミネセンス検出によって可視化した。このウエスタンブロット分析の結果は図13に示されている。
【0160】
実施例12:
インビトロおよびインビボでのBPC-1発現分析
BPC-1特異的抗体による細胞可溶化物および馴化培地のウエスタンおよび免疫沈降分析を用いて、LAPC4およびLAPC9異種移植片、LNCaP前立腺癌細胞、5637膀胱癌細胞、正常ヒト脳可溶化物(これらはすべてBPC-1 mRNAを発現する)、さらには他のさまざまな癌細胞株、異種移植片および正常組織などの細胞系および組織におけるBPC-1蛋白質の発現の同定および特徴分析を行うことができる。BPC-1とブタおよびウシの精子アドヘシンファミリーの蛋白質との間には構造的相同性があるため(Topfer-Petersenら、Andrologia、1998)、ヒト精液も検出可能なレベルのBPC-1蛋白質を含むと思われる。同じく、膀胱癌における発現からみて、BPC-1蛋白質は膀胱癌患者の尿中にも検出される可能性がある。MYC-HIS BPC-1をトランスフェクトした293T細胞、ならびにレトロウイルスによる形質導入を受けたPC3およびNIH 3T3細胞は、BPC-1蛋白質の発現に関する陽性対照として役立つ(図13)。
【0161】
ヒト血清、精液および尿の臨床試料中に存在するBPC-1蛋白質の同定および定量化は、以下の実施例で述べる捕捉ELISAによって行うことができる。正常および癌性組織におけるBPC-1蛋白質の免疫組織化学分析は、ホルマリン固定、パラフィン包埋または凍結した組織切片に対して、当技術分野で周知の標準的な免疫組織化学的方法、および本明細書で提供するBPC-1抗体を用いて行うことができる。ホルマリン固定し、パラフィン包埋したLNCaP細胞を陽性対照として用いることができる。
【0162】
実施例13:
BPC-1に関する捕捉ELISA
ヒト血清、精液および尿の臨床試料中に存在するBPC-1蛋白質の同定および定量化は、捕捉ELISAを用いて以下の通りに行うことができる。BPC-1に関する捕捉ELISAは、BPC-1蛋白質の異なるエピトープを認識するアイソタイプの異なる少なくとも2種類のmAb、またはmAbおよび特異的ウサギポリクローナル血清を1つずつ作製することに依存する。一方の試薬は捕捉(またはコーティング)抗体として、もう一方は検出抗体として用いられる。
【0163】
続いて、検出抗体に対する二次Ab-HRP結合物を添加し、続いてTMB基質とともにインキュベートすることにより、捕捉されたBPC-1を可視化する。続いて、分光光度プレートリーダーで450nmでのウェルの吸光度を測定する。精製されたMYC/HIS付加BPC-1蛋白質は、ELISA用の標準化抗原として役立つ。
【0164】
実施例14:
インビトロでの足場非依存的コロニー形成におけるBPC-1発現の結果
BPC-1の発癌性能力を評価するための軟寒天アッセイ法を行うために、レトロウイルスに感染したBPC-1発現細胞を実施例11に記載した通りに作製し、それぞれのneo対照細胞株とともに用いた。寒天アッセイ法は以前に記載された条件に従って行った(Lugo, T.RおよびO.N.Witte、1989、Molec. Cell. Biol. 9:1263〜1270)。簡潔に述べると、細胞をトリプシン処理し、0.3%ノーブル(Noble)寒天および20%ウシ胎児血清を含むイスコーブ培地中に再懸濁した。この細胞寒天懸濁液(細胞104個/60mmプレート)を0.6%ノーブル寒天および20%ウシ胎児血清を含む培地の底層と上層との間に播いた。プレートには7日後に栄養分を加え、コロニーのサイズに応じて、寒天アッセイ法の開始から2または3週間後にコロニーの検討およびスコア化を行った。コロニーの算定にはアルファイメージャー(Alphalmager)200のソフトウエアを用いた。この結果を以下の表1に示す。
BPC-1の発現は細胞のトランスフォーメーションを誘導する
【表1】
【0165】
BPC-1を発現するレトロウイルスまたはneoに感染させた3T3CL7細胞を用いた。寒天アッセイ法の開始から3週間後にコロニーをスコア化した。急性感染細胞の場合、3T3CL7/BPC-1細胞から生じたコロニーの数は対照プレートの約8倍であった。G418で選択した細胞を用いた場合には、3T3CL7/BPC-1プレートにおけるコロニー数は3T3CL7/neoプレートの約3.6倍であった。
【0166】
上記の結果は、BPC-1蛋白質が、BPC-1を発現および分泌するように実験的操作を加えた細胞における足場非依存的増殖を誘導し、これにより、この種の細胞に対してトランスフォーメーション効果を及ぼすことを示している。
【0167】
実施例15:
BPC-1は細胞蛋白質と結合する
BPC-1が前立腺癌細胞および他の癌細胞または正常細胞で発現される細胞蛋白質と結合するか否かを確かめるために、2種類のアプローチを用いた。第1のアプローチでは、組換えHIS付加BPC-1(上記の実施例6)の種々の細胞株との結合に関するインビトロアッセイ法を用いる。もう1つのアプローチでは、BPC-1のさまざまな前立腺癌細胞株との結合を検討するために、ジェンハンター社(GenHunter Corporation)(Nashville、TN、カタログ番号Q202)のAP-TAGシステム、およびAP-TAG融合を用いて、組換えアルカリホスファターゼ-BPC-1融合蛋白質を作製する。
【0168】
A.HIS付加BPC-1の細胞表面結合分析
PC-3およびNIH 3T3細胞を、HIS付加BPC-1(293Tトランスフェクト細胞からのもの)を含む馴化培地または精製したHIS付加BPC-1を含む培地または対照培地とともに、4℃で2時間、氷上でインキュベートする。0.5%FBSを加えた氷冷PBSで細胞を十分に洗浄した後、過剰量の抗HISウサギポリクローナル抗体(5ug/ml、PBS 0.5%FBS)とともに4℃で1時間インキュベートする。細胞を再び洗浄し、続いて抗ウサギFITC結合二次Ab(1:4,000、PBS/0.5%FBS中)とともに4℃で30分間インキュベートする。続いて、細胞と結合したBPC-1を、サイトフルオロ(Cytofluor)4000蛍光計(PE Biosystems)での蛍光定量分析によって、および/またはフローサイトメトリーによって検出する。
【0169】
上記の蛍光利用アッセイ法に対する代替法として、125Iで標識したBPC-1蛋白質を用いる結合アッセイ法を行うこともできる。細胞上のBPC-1受容体の数および親和性の決定、ならびに受容体と結合したBPC-1蛋白質のインターナリゼーションの観測は、発表されている標準的な手順を用いて行う(RaitanoおよびKorc、J. Biol. Chem.、1990、J. Biol. Chem. 265:10466〜10472)。
【0170】
B.アルカリホスファターゼを付加したBPC-1は前立腺癌細胞において細胞表面染色を生じさせる
アルカリホスファターゼ付加BPC-1を以下の通りに作製した。成熟BPC-1(すなわち、シグナル配列をもたないもの)をコードする配列を、pAPtag-5(GenHunter Corp. Nashville、TN)中にクローニングした。以下のBPC-1.HindIIIおよびBPC-1.BamHIプライマーを用いて、プラスミドテンプレートSRa-19P1E8クローン1に由来するアミノ酸23から58までのBPC-1のオープンリーディングフレームを増幅した。IgGKシグナル配列、BPC-1 ORFおよびアルカリホスファターゼをすべてインフレームに保ちながら、HindIIIおよびBamHIで消化したPCR産物をHindIIIおよびBglIIで消化したpAPtag-5と連結した。このBPC-1-AP融合蛋白質は、アルカリホスファターゼのカルボキシ末端にmyc/Hisタグを伴った形での分泌を促進するためのIgGKシグナル配列を含む。
【0171】
BPC-1が前立腺癌細胞上の細胞表面受容体と結合するか否かを検出するためには、いくつかの前立腺癌細胞株および異種移植片組織を上記の通りにBPC-1-AP融合蛋白質とともにインキュベートする(ChengおよびFlanagan、1994、Cell 79:157〜168)。細胞を洗浄し、脱リン酸によって不溶性の青色の沈殿を形成するAP基質BCIPを添加した後に、青色に染色される細胞を光学顕微鏡下で同定することにより、BPC-1受容体の結合を判定する。種々の前立腺癌細胞株(例えば、LNCaP、PC-3、DU145、TSUPR、LAPC4)および膀胱癌細胞株を非制限的に含む、さまざまな癌細胞株の検査を行うことができる。PREC前立腺細胞株、293TおよびNIH 3T3などの他の細胞株も検査することができる。加えて、LAPCおよび他の前立腺癌異種移植片の試験を行うこともできる。
【0172】
結合相互作用の強度を評価するために平衡解離速度定数を算出してもよい。さらに、細胞1個当たりの細胞表面受容体数を決定することもできる。BPC-1受容体または他の結合パートナーのクローニングのためには、BPC-1との結合能が最も高い細胞系または組織が好ましいと考えられる。
【0173】
上記の作製物をトランスフェクトした293T細胞の馴化培地中には、ウエスタンブロット分析により、BPC-1-AP融合蛋白質が検出された。抗アルカリホスファターゼおよび抗HIS抗体を用いるウエスタンブロット分析では、約90kDaの箇所に泳動するBPC-1-AP融合蛋白質が検出される(図14)。
【0174】
この融合蛋白質を含む馴化培地を用いて、以下の通りに、BPC-1に対する45kDaの結合パートナーを検出した(図15)。BPC-1と相互作用する45kDa受容体の同定にはウエスタンブロット法を用いた。脳、精巣、前立腺、異種移植片LAPC4 ADおよびLAPC9 ADならびに細胞株3T3、LAPC4、LNCaPおよびPC-3からの可溶化物を用いて、ウエスタンブロットを2つずつ作製した。5%乳(PBS中)にて1時間ブロックし、PBS-Tweenで7分間ずつ2回洗浄した後に、分泌型アルカリホスファターゼのみを産生する293T細胞株による馴化培地またはBPC-1-AP融合蛋白質を含む培地とともにブロットをインキュベートした(図14参照)。PBS-Tweenで3回洗浄した後に、化学発光アルカリホスファターゼ基質(Immune-Star、BioRad、カタログ番号170-5010)を用いてブロットを現像した。この結果を図15に示す。矢印(図15)は、3T3、LAPC9 AD、LNCaP、PC-3、ならびに程度はより低いもののLAPC4 ADおよびLAPC-4細胞株における、BPC-1-APの45kDa蛋白質との結合を示している。脳、精巣および前立腺では45kDa蛋白質は検出されなかった。図15に示すブロット(AP馴化培地とともにインキュベートしたもの)で45kDa蛋白質との結合は検出されなかったため、この蛋白質相互作用はAPではなくBPC-1に起因するものである。
【0175】
実施例16:
シグナル伝達経路と考えられるものの同定
BPC-1が細胞内の既知のシグナル伝達経路を直接的または間接的に活性化するか否かを明らかにするためには、BPC-1を発現するか、またはBPC-1を外因性に添加した細胞において、ルシフェラーゼ(luc)に基づく転写レポーターアッセイ法を行う。これらの転写レポーターは、詳細に特徴が調べられているシグナル伝達経路の下流に位置する既知の転写因子に関するコンセンサス結合部位を含む。レポーターならびにそれに伴う転写因子、シグナル伝達経路および活性化刺激の例を以下に列挙する。
1.NFκB-luc、NFκB/Rel;Ikキナーゼ/SAPK;増殖/アポトーシス/ストレス
2.SRE-luc、SRF/TCF/ELK1;MAPK/SAPK;増殖/分化
3.AP-1-luc、FOS/JUN;MAPK/SAPK/PKC;増殖/アポトーシス/ストレス
4.ARE-luc、アンドロゲン受容体;ステロイド/MAPK;増殖/分化/アポトーシス
5.p53-luc、p53;SAPK;増殖/分化/アポトーシス
6.CRE-luc、CREB/ATF2;PKA/p38;増殖/アポトーシス/ストレス
【0176】
BPC-1を介した影響に関してアッセイするための細胞には、LAPC4、LNCaP、PC3およびNIH 3T3が含まれる。ルシフェラーゼレポータープラスミドは脂質を介したトランスフェクト(TFX-50、Promega)によって導入しうる。相対的転写活性の指標となるルシフェラーゼ活性は、細胞抽出物をルシフェリン基質とともにインキュベートし、反応物の蛍光を照度計で観測することによって測定する。
【0177】
実施例17:
BPC-1機能のインビトロアッセイ法
A.細胞浸潤/移動/化学誘引アッセイ法
マトリゲル(matrigel)コート多孔性膜チャンバー(Becton Dickinson)の通過を測定することにより、BPC-1を発現する細胞株を浸潤および移動特性の変化に関してアッセイすることができる。膜の反対側への細胞の通過は、カルセイン-Am(Molecular Probes)を添加した指標細胞を用いる蛍光アッセイ法(Becton Dickinson技術報告書第428号)を用いて観測される。分析する細胞株にはPC3、3T3およびLNCaP細胞の親細胞およびBPC-1過剰発現細胞が含まれる。BPC-1が化学誘引特性を有する否かをアッセイするためには、BPC-1馴化培地の勾配に向かっての親指標細胞の多孔性膜の通過を観測し、対照培地と比較する。
【0178】
癌治療的組成物の候補による、BPC-1で誘導される効果の特異的中和を定性的および定量的に評価するために、このアッセイ法を用いることもできる。
【0179】
B.細胞増殖アッセイ法
BPC-1が確立された前立腺および非前立腺細胞株の増殖速度を変化させるか否かを明らかにするためには、対照レトロウイルスベクターによる形質導入を行った親細胞とBPC-1遺伝子をコードするレトロウイルスによる形質導入を行った細胞を比較する増殖曲線を作成する。アッセイする細胞株には、LNCaP、PC3、TsuPR前立腺細胞株およびマウスNIH 3T3線維芽細胞ならびに種々の他のヒト非前立腺細胞株が含まれる。さらに、外因性に添加した精製MYC-HIS BPC-1の存在下および非存在下における親細胞の増殖速度をアッセイする。外因性BPC-1の代替的な供給源としては、BPC-1レトロウイルスによる形質導入を行ったそれぞれの細胞株の馴化培地を用いることができる。細胞株の増殖は、96ウェルを用いるMTT比色アッセイ法で観測する(RaitanoおよびKorc、1990、J. Biol. Chem. 265:10466〜10472)。
【0180】
実施例18:
BPC-1の研究および前立腺癌治療的組成物の試験のためのインビボモデル
A.外因性(xenogenic)腫瘍を有するマウスにおける血清BPC-1レベルの測定
ノーザンブロット分析による判定では、LNCaP前立腺癌細胞およびLAPC-4 AD異種移植片細胞は高レベルのBPC-1を発現する。血清診断マーカーとしてのBPC-1を評価するには、SCIDマウスに1×106個のLNCaPまたはLAPC-4 AD細胞を皮下または同所的に注入する。注射はマウスの両脇腹に行い、長さ×幅×高さ(L×W×H)を反映するキャリパー測定によって腫瘍の増殖を観測する。触知可能な腫瘍が最初に出現した時点でマウスから採血し、以降は腫瘍のサイズが1,000mm3になるまで毎週採血する。上記のELISAアッセイ法により、連続採血したものをBPC-1の有無に関してスクリーニングする。対照としては、特異的ELISAキットを用いて、腫瘍を有するマウスから採取した血清をPSAの分泌に関して評価する。BPC-1の発現を確認するためには、腫瘍をマウスから採取し、BPC-1の発現をウエスタンブロット法によってスクリーニングする。
【0181】
さらに、5637膀胱癌細胞株もBPC-1を発現することがノーザンブロット分析によって示されている。膀胱癌のBPC-1発現を評価するには、5637膀胱腫瘍異種移植片をSCIDマウスで確立し、血清を回収して、上記のELISAによってBPC-1蛋白質に関して評価する。
【0182】
または、BPC-1の分泌を確認するために、内因性BPC-1は発現しないが、BPC-1を過剰発現するように操作された前立腺癌細胞株をSCIDマウスに注入することもできる。これらにはPC-3、TSUPR1およびDU145が含まれる。エンプティtkNeoベクター(tkNeo)またはBPC-1を含むベクターを発現する1×106個のPC3、TSUPR1およびDU145細胞のいずれかを個々のマウスに皮下注射する。すべてのマウスに両脇腹への注射を行い、上記の通りのキャリパー測定によって腫瘍の増殖を観測する。触知可能な腫瘍が最初に出現した時点でマウスから採血し、以降は腫瘍のサイズが1,000mm3になるまで毎週採血する。腫瘍増殖速度に差が認められた場合には、それを記録し、さらに検討する(以下を参照)。ELISAアッセイ法により、連続採血したものをBPC-1の有無に関してスクリーニングしてもよい。BPC-1の発現を確認するためには、腫瘍をマウスから採取し、BPC-1の発現をウエスタンブロット法によってスクリーニングするとよい。
【0183】
B.BPC-1の腫瘍増殖促進に関するインビボアッセイ法
腫瘍細胞の増殖に対するBPC-1蛋白質の影響は、遺伝子の過剰発現、または腫瘍を有するマウスに可溶性の精製BPC-1蛋白質を投与することによってインビボで評価しうる。第1の例では、tkNeoエンプティベクターまたはBPC-1を含む1×106個のPC3、TSUPR1またはDU145細胞のいずれかをSCIDマウスの両脇腹に皮下注射する。少なくとも2種類の戦略を用いることができる:(1)LTRプロモーターの調節下にある構成的なBPC-1発現、および(2)エクジソン誘導ベクター系の制御下にある調節性発現。続いて、BPC-1発現細胞がより早い速度で増殖するかどうかを判定するために、触知可能な腫瘍が出現した時点で腫瘍体積を測定し、経時的に追跡する。さらに、BPC-1が前立腺における局所的増殖、または細胞の転移能、特に肺、リンパ節および骨髄への転移能に影響を及ぼすかどうかを明らかにするために、1×105個の同一細胞をマウスに同所的に移植することもできる。
【0184】
第2の例では、精製したBPC-1蛋白質を、インビボでの腫瘍細胞の増殖に対する影響について評価する。マウスをまず、BPC-1を発現する1×106個のLNCaPもしくはLAPC-4 AD細胞、またはBPC-1を発現しないPC3細胞のいずれかを皮下注射する群に分ける。腫瘍細胞を注入したのと同じ日に、一定範囲の精製BPC-1蛋白質(例えば100、500または1,000μg)の静脈注射を各群に行う。対照として、それぞれの種類の腫瘍のうち1群にはPBSのみを注射する。腫瘍が増殖して1,000mm3のサイズに達するまで、毎週2回の注射を連続4週間にわたって行う。BPC-1が腫瘍増殖に対して用量反応的な影響を及ぼすかどうかを判定するために、腫瘍体積を追跡する。
【0185】
BPC-1が腫瘍増殖を加速するかどうかを判定するための別の一連の実験では、LNCaP、LAPC-4 ADおよびPC3腫瘍を皮下で100mm3のサイズまで確立させ、その時点で精製BPC-1蛋白質を上記に示した投与量および方式で静脈注射する。BPC-1が転移を促進するかどうかを判定するために、同じ腫瘍を同所性に移植し、腫瘍が確立された後に(循環血中PSA濃度によって判定)精製BPC-1を上記の通りに投与して転移増殖を評価することもできる。
【0186】
上記のアッセイ法は、例えばBPC-1抗体およびイントラボディー、BPC-1 mRNAアンチセンス分子およびリボザイム、ならびにBPC-1受容体組成物といった治療的組成物の候補のBPC-1阻害効果を判定するためにも有用である。
【0187】
C.インビボでのBPC-1抗体の腫瘍阻害アッセイ法
腫瘍の形成および増殖に対するBPC-1特異的mAbの効果を検討するために、BPC-1陽性のLNCaP、LAPC-4 ADおよびPC3-BPC-1腫瘍、またはBPC-1を発現しないPC3-tkNeoのいずれかに関する群にマウスを分ける。腫瘍形成に対する効果を評価するには、マウスに1×106個の腫瘍細胞を皮下注射し、それと同じ日に一定範囲のBPC-1特異的mAbまたは対照Ig(例えば100、500または1,000μg)の腹腔内注射を行う。mAbの注射は毎週2回、連続4週間にわたって行う。腫瘍の増殖は上記の通りに追跡する。または、確立した腫瘍に対する効果を評価するために、100mm3のサイズの確立した腫瘍を有する各群にマウスを分け、以前に述べた投与量および方式に従ってmAbの腹腔内注射を行う。確立した腫瘍の増殖に対するmAbの効果を判定するために、腫瘍体積を追跡する。
【0188】
転移に対する効果を検討するためには、1×105個のLAPC-4 AD細胞をSCIDマウスに同所性に注入する。同時にマウスには上記の通りの一定範囲の抗BPC-1 mAbまたは対照Igを腹腔内投与する。循環血中PSAを毎週測定することにより、腫瘍の増殖を追跡する。抗体投与終了時にマウスを屠殺し、腫瘍の局所的増殖ならびに肺、リンパ節および骨髄への転移を評価する。確立した腫瘍を有するマウスに対する効果を検討するためには、LAPC-4 ADを同所性に注入し、PSAレベルを毎週追跡する。PSAが測定可能なレベルに到達した時点で、上記と同じ投与量および方式でマウスにmAbを注射する。抗体の注射が完了した後にマウスを屠殺し、腫瘍の局所的増殖ならびに転移を評価する。
【0189】
実施例19:
BPC-1受容体または結合パートナーの分子クローニング
タルタリア(Tartaglia)ら、1995、Cell 83:1263〜1271、ならびにチェン(Cheng)およびフラナガン(Flanagan)、1994、Cell 79:157〜168などに記載されたものといった発現クローニング法を用いて、BPC-1に対する受容体をクローニングすることができる。まず、BPC-1-AP結合を示す細胞から発現ライブラリーを作製する。約1000個のクローンのプールでライブラリーを作製した後に、姉妹選択法によってスクリーニングを行ってもよい。各プールからのDNAによるCOS細胞の一時的トランスフェクションに続いて、BPC-1-AP結合によるスクリーニング、洗浄、およびAP活性に関する染色を行うことにより、BPC-1と結合する細胞、すなわちBPC-1受容体を発現する細胞が同定される。プールの細分およびスクリーニングを連続して行うことにより、BPC-1-APと結合する単一のコロニーを同定することができる。
【0190】
BPC-1受容体/結合パートナー遺伝子のクローニングに対する代替的なアプローチでは、ファージにおいて発現クローニングを用いる(Stone J、分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)(1997):20.3.1〜20.3.9)。例えば、ラムダザップエクスプレス(Lambda Zap Express)(Stratagene)中のLAPC-9 ADファージ発現ライブラリーを用いることができる。BPC-1-APを用いてメンブレンリフトのプローブ検索を行い、アルカリホスファターゼ化学発光試薬(例えば、BioRad)で陽性クローンを検出することができる。BPC-1-APと結合し、青色の沈殿物を生じるプラークを選択して、プラスミドを単離し、受容体/結合パートナー配列に関して評価する。このアプローチにより、BPC-1と相互作用する細胞質性または分泌型の蛋白質が同定されることも考えられる。
【0191】
本出願の全体を通じて、種々の刊行物を括弧内で参照している。これらの刊行物の開示は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0192】
本発明は、本発明の個々の面を単に例示することを意図した本明細書で開示する態様によって制限されるものではなく、機能的に同等なものはいずれも本発明の範囲に含まれる。本明細書で述べるものに加えて、上記の説明および教示から本発明のモデルおよび方法に対するさまざまな改変が当業者には明らかであると思われ、これらは同様に本発明の範囲に含まれる。このような改変または他の態様は、本発明の真の範囲および精神を逸脱することなく実践可能である。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1−1】ヒトBPC-1の分子構造:BPC-1クローン6 cDNAのヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列。シグナル配列は太字で示し、CUBドメインには太字に加えて下線を施し、SSH由来の核酸配列は太字で示している。
【図1−2】図1−1の続きを示す図である。
【図1−3】図1−2の続きを示す図である。
【図2】ヒトBPC-1の分子構造:ヒトBPC-1の構造の概略図。配列の各領域におけるCG含有率も示している。
【図3】ヒトBPC-1の分子構造:BPC-1のCUBドメインと、種々の既知の蛋白質に由来するCUBドメインとのアミノ酸配列のアラインメント。(A)BPC-1と、C.エレガンス(C. elegans)のCUBドメイン蛋白質(Wilsonら、1994、Nature 368:32〜38)とのアラインメント、および(B)マウスBMP-1のCUBドメイン(Fukagawaら 1994、Dev. Biol 163:175〜183)とのアラインメント。配列の同一性を図示している。
【図4】脳での独占的発現を示す、種々の正常組織におけるヒトBPC-1発現のノーザンブロット分析。
【図5】前立腺癌異種移植片および限定された数のヒト正常組織におけるヒトBPC-1の発現を示す、半定量的RT-PCR発現分析。
【図6】脳の特定領域のみでの発現を示す、37種の正常組織におけるヒトBPC-1 mRNA発現のRNAドットブロット分析。
【図7】皮質の特定領域のみでの発現を示す、脳の皮質領域におけるヒトBPC-1 mRNA発現のノーザンブロット分析。
【図8】BPC-1の発現が胎児脳で主に認められ、他の数多くの胎児組織でもこれより低いレベルで発現されることを示す、胎児組織におけるヒトBPC-1発現の半定量的RT-PCR発現分析。
【図9】前立腺癌異種移植片のすべての試料、LnCAP前立腺癌細胞株および膀胱癌細胞株における発現を示す、一連の前立腺癌および膀胱癌異種移植片および/または細胞株におけるヒトBPC-1 mRNA発現のノーザンブロット分析。
【図10】BPC-1をトランスフェクトした293T細胞の組織培養液中に分泌された免疫沈降組換えヒトBPC-1蛋白質のSDS-PAGEオートラジオグラフィー。
【図11】細胞可溶化物中のプロセシングを受けた成熟BPC-1およびプロセシングを受けていないBPC-1前駆体、ならびに細胞培養液中のプロセシングを受けた低レベルの成熟BPC-1を示す、BPC-1をコードするバキュロウイルスに感染したハイファイブ(HighFive)昆虫細胞で発現された組換えヒトBPC-1蛋白質のウエスタンブロット分析。
【図12】BPC-1をコードするレトロウイルスに感染したPC3および3T3CL7細胞によって発現された組換えヒトBPC-1のノーザンブロット分析。
【図13】BPC-1遺伝子を発現する細胞の組織培養上清中のBPC-1蛋白質のウエスタンブロット検出。種々の細胞株から得た非希釈上清25μlを、マウス抗BPC-1ポリクローナル抗血清の1:500希釈物を用いるウエスタンブロット分析にかけた。続いてブロットを抗マウスHRP結合二次抗体とともにインキュベートし、BPC-1特異的シグナルをエンハンスト・ケミルミネセンス検出によって可視化した。左側のブロット。レーン1:アフィニティー(ニッケル)精製したMYC/HIS BPC-1;レーン2:293T対照細胞、24時間馴化培地。右側のブロット。レーン1:293T対照細胞、24時間馴化培地;レーン2:MYC/HIS付加BPC-1ベクターをトランスフェクトした293T、24時間馴化培地;レーン3:アルカリホスファターゼ(AP)/BPC-1融合ベクターをトランスフェクトした293T細胞、24時間馴化培地;レーン4:対照Neoレトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4日馴化培地;レーン5:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4℃で1週間保存した4日馴化培地;レーン6:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったPC3細胞、4日馴化培地;レーン7:対照Neoレトロウイルスに急性感染させたNIH 3T3細胞、4日馴化培地;レーン8:BPC-1レトロウイルスに感染させてG418選択を行ったNIH 3T3細胞、4日馴化培地;レーン8:BPC-1レトロウイルスに急性感染させたNIH 3T3細胞、4日馴化培地。
【図14】BPC-1-APが馴化培地中に存在することを示すウエスタンブロット分析。各レーンは、293T細胞、またはBPC-1-AP作製物もしくはAPのみを有する作製物によるトランスフェクト物から培地交換48時間後に回収した293T細胞からの馴化培地20μlを含む。蛋白質の検出には抗HIS抗体を用いた。
【図15】ファーウエスタン分析を用いるとBPC-1-APは45kDa蛋白質と結合する。ウエスタンブロットの作製には、脳、精巣、前立腺、異種移植片LAPC4ADおよびLAPC9AD、ならびに細胞株3T3、LAPC4、LNCaPおよびPC-3からの可溶化物を用いた。ブロットは、分泌型アルカリホスファターゼのみを産生する293T細胞株からの馴化培地(B)、およびBPC-1-APを含む培地(A)とともにインキュベートした。アルカリホスファターゼシグナルは化学発光AP検出システムを用いて検出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1のアミノ酸残基1位からアミノ酸残基158位までに示されたアミノ酸配列を有する、単離されたBPC-1蛋白質。
【請求項2】
図1のアミノ酸残基24位からアミノ酸残基158位までに示されたアミノ酸配列を有する、単離されたBPC-1蛋白質。
【請求項3】
図1のアミノ酸残基約51位からアミノ酸残基約152位までに示されたBPC-1蛋白質のCUBドメインを少なくとも1つ含む、単離された蛋白質。
【請求項4】
請求項1記載の蛋白質の少なくとも15個の連続したアミノ酸からなる単離されたポリペプチド。
【請求項5】
請求項2記載の蛋白質のアミノ酸配列との全長にわたる同一性が少なくとも90%である、単離ポリペプチド。
【請求項6】
(a)TがUであってもよい、図1に示された配列を有するポリヌクレオチド、(b)TがUであってもよい、図1のヌクレオチド残基793位からヌクレオチド残基1269位までに示された配列を有するポリヌクレオチド、(c)TがUであってもよい、図1のヌクレオチド残基862位からヌクレオチド残基1269位までに示された配列を有するポリヌクレオチド、(d)アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録番号98833として登録されたプラスミドp19P1E8クローン6.1中に含まれるcDNAによって配列がコードされるBPC-1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(e)請求項1記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、(f)請求項2記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および(g)請求項3記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、からなる群より選択される、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
図1のヌクレオチド残基793位から1269位までに示されたBPC-1前駆体のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
図1のヌクレオチド残基862位から1269位までに示された成熟BPC-1のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
図1のヌクレオチド残基943位から1248位までに示されたBPC-1 CUBドメインのコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項6記載のポリヌクレオチドに対して完全に相補的である、単離ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項13】
検出可能なマーカーで標識された、請求項6記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項14】
ポリペプチドの産生のために十分な条件下で請求項12記載の宿主細胞を培養すること、および培養物からBPC-1蛋白質を回収することを含む、BPC-1蛋白質を生産するための方法。
【請求項15】
BPC-1蛋白質が培養液中に分泌される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項14または15記載の方法によって生産されるBPC-1ポリペプチド。
【請求項17】
請求項1記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項18】
請求項2記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項19】
請求項3記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項20】
請求項4記載のポリペプチドと免疫特異的に結合する抗体。
【請求項21】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項22】
検出可能なマーカーで標識された、請求項21記載のモノクローナル抗体。
【請求項23】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項22記載のモノクローナル抗体。
【請求項24】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体のFab、F(ab')2、FvまたはSfv断片。
【請求項25】
検出可能なマーカーで標識された、請求項24記載のモノクローナル抗体の断片。
【請求項26】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項25記載のモノクローナル抗体の断片。
【請求項27】
マウス抗原結合領域残基およびヒト抗体残基を含む、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項28】
ヒト抗体である、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項29】
請求項28記載のモノクローナル抗体を産生するトランスジェニック動物。
【請求項30】
請求項21記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項31】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体の抗原結合領域を含む組換え蛋白質。
【請求項32】
検出可能なマーカーで標識された、請求項31記載の組換え蛋白質。
【請求項33】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項32記載の組換え蛋白質。
【請求項34】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む、一本鎖モノクローナル抗体。
【請求項35】
請求項34記載の一本鎖モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項36】
有効量の前記抗体で治療された患者におけるBPC-1を発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項37】
成熟BPC-1蛋白質内部の2種類のエピトープと結合する、二重特異性モノクローナル抗体。
【請求項38】
試料を請求項22記載の抗体、請求項25記載の抗体断片または請求項32記載の組換え蛋白質と接触させること、およびそれに対する試料中のBPC-1蛋白質の結合を検出することを含む、生物試料中のBPC-1蛋白質の存在を検出するためのアッセイ法。
【請求項39】
生物試料が血清である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項40】
生物試料が精液である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項41】
生物試料が尿である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項42】
生物試料中のBPC-1ポリヌクレオチドの存在を検出するためのアッセイ法であって、
(a)試料を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録番号98833として登録されたプラスミドp19P1E8クローン6.1中に含まれるBPC-1 cDNAまたは図1に示すポリヌクレオチドもしくはその相補物と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブと接触させる段階、および
(b)ハイブリダイゼーション複合体の存在によって試料中にBPC-1ポリヌクレオチドが存在することが示されるような、プローブと試料中のBPC-1ポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって形成されるハイブリダイゼーション複合体の存在を検出する段階
を含むアッセイ法。
【請求項43】
生物試料中のBPC-1 mRNAの存在を検出するためのアッセイ法であって、
(a)少なくとも1つのプライマーを用いる逆転写によって試料からcDNAを作製する段階、
(b)そのようにして作製したcDNAを、その中のBPC-1 cDNAを増幅するために、BPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅する段階、
(c)増幅されたBPC-1 cDNAの存在を検出する段階
を含み、
センスおよびアンチセンスプローブとして用いるBPC-1ポリヌクレオチドが図1に示すポリヌクレオチドを増幅しうるアッセイ法。
【請求項44】
請求項38記載のアッセイ法を用いて個体の血清中に存在するBPC-1蛋白質を検出することを含む、個体におけるBPC-1蛋白質を発現する癌の存在を検出するための方法。
【請求項45】
個体の被験血清試料中に存在するBPC-1蛋白質の量を定量化して、正常個体の同等の血清試料中に存在するBPC-1蛋白質の量と比較することをさらに含み、正常血清試料と比べて被験血清試料中により多量のBPC-1蛋白質が存在することによってBPC-1蛋白質を発現する癌の存在が示されるような、請求項44記載の方法。
【請求項46】
癌が前立腺癌である、請求項44または45記載の方法。
【請求項47】
癌が膀胱癌である、請求項44または45記載の方法。
【請求項48】
請求項38記載のアッセイ法を用いて個体の尿中に存在するBPC-1蛋白質を検出することを含む、個体におけるBPC-1蛋白質を発現する膀胱癌の存在を検出する方法。
【請求項49】
BPC-1蛋白質を発現する癌の存在を検出する方法であって、個体から得た被験組織試料中、または個体から得た血清、精液もしくは尿試料中の細胞によって発現されるBPC-1蛋白質のレベルを測定すること、およびこのようにして測定したレベルを対応する正常試料で発現されるBPC-1のレベルと比較することを含み、正常試料と比べて被験試料中のBPC-1蛋白質が増加していることによって個体にこのような癌が存在することが示されるような方法。
【請求項50】
個体における癌の存在を診断する方法であって、
(a)個体から組織の被験試料を採取する段階、
(b)被験試料中で発現されるBPC-1 mRNAのレベルを測定する段階、および
(c)そのようにして測定したレベルを既知の同等の正常組織試料で発現されるBPC-1 mRNAのレベルと比較する段階を含み、
正常組織試料と比べて被験試料におけるBPC-1 mRNAの発現が増加していることによって癌の存在が示されるような方法。
【請求項51】
癌が前立腺癌であり、被験および正常組織試料が前立腺組織、骨組織、リンパ組織、血清、血液または精液からなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項52】
癌が膀胱癌であり、被験および正常組織試料が膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液または尿からなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項53】
個体における癌の存在を診断する方法であって、
(a)個体から組織の被験試料を採取する段階、
(b)被験試料中で発現されるBPC-1蛋白質のレベルを測定する段階、および
(c)そのようにして測定したレベルを既知の同等の正常組織試料で発現されるBPC-1蛋白質のレベルと比較する段階を含み、
正常組織試料と比べて被験試料におけるBPC-1蛋白質が増加していることによって癌の存在が示されるような方法。
【請求項54】
癌が前立腺癌であり、被験および正常組織試料が前立腺組織、リンパ組織、骨組織、血清、血液または精液からなる群より選択される、請求項53記載の方法。
【請求項55】
癌が膀胱癌であり、被験および正常組織試料が膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液または尿からなる群より選択される、請求項53記載の方法。
【請求項56】
BPC-1を発現する癌に罹患しやすいまたはそれを有する患者を治療する方法であって、BPC-1の機能を阻害するのに十分な量の請求項18または19記載の抗体を該患者に投与することを含む方法。
【請求項57】
癌が前立腺癌および膀胱癌からなる群より選択される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、ベクターが一本鎖モノクローナル抗体コード配列を癌細胞に送達し、コードされている一本鎖抗体がその細胞内で発現されるように、請求項35記載のベクターを該患者に投与することを含む方法。
【請求項59】
癌が前立腺癌および膀胱癌からなる群より選択される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1の転写を阻害することを含む方法。
【請求項61】
BPC-1の転写が、BPC-1遺伝子を請求項6記載のポリヌクレオチドに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることによって阻害される、請求項60記載の方法。
【請求項62】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1 mRNAの翻訳を阻害することを含む方法。
【請求項63】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAを請求項6記載のポリヌクレオチドに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることによって阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAをBPC-1 mRNAの5' UTRに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることにより阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項65】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAを該BPC-1 mRNAを切断できるリボザイムと接触させることにより阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項66】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1のプロセシングを阻害することを含む方法。
【請求項67】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞からのBPC-1の分泌を阻害することを含む方法。
【請求項68】
化学療法または放射線療法を患者に施すことをさらに含む、請求項66記載の方法。
【請求項69】
請求項2記載のBPC-1蛋白質の免疫原性部分および生理学的に許容される担体を含む、BPC-1を発現する癌の治療のためのワクチン組成物。
【請求項70】
請求項2記載のBPC-1蛋白質の免疫原性部分をコードするポリペプチドおよび生理学的に許容される担体を含む、BPC-1を発現する癌の治療のためのワクチン組成物。
【請求項71】
請求項69または70記載のワクチン組成物の有効量を患者に投与することを含む、患者におけるBPC-1を発現する癌の発生を抑制する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、BPC-1タンパク質を発現する癌の存在を検出する方法:
試験試料を提供する段階;
試料を、図1において示されるアミノ酸残基番号1〜アミノ酸残基番号158のアミノ酸配列を有するBPC-1タンパク質に結合する抗体またはその断片と接触させる段階;および
試料におけるBPC-1タンパク質の、該抗体またはその断片への結合を検出する段階。
【請求項2】
試験試料に存在するBPC-1タンパク質の量を定量化し、かつ比較可能な正常試料に存在するBPC-1タンパク質の量と比較する段階であって、正常試料に対する試験試料におけるより多い量のBPC-1タンパク質の存在がBPC-1タンパク質を発現する癌の存在を提示する、段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が前立腺癌である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
癌が膀胱癌である、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
試料が血清である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項6】
試料が尿である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項7】
試料が精液である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、癌の存在を診断する方法:
(a)組織の試験試料を入手する段階;
(b)試験試料において発現するBPC-1 mRNAまたはタンパク質のレベルを決定する段階;および
(c)前記で決定されたレベルを、比較可能な既知の正常組織試料において発現するBPC-1 mRNAまたはタンパク質のレベルと比較する段階であって、正常組織試料に対する試験試料における上昇したBPC-1 mRNAまたはタンパク質の発現の存在が癌の存在の提示を提供する、段階。
【請求項9】
癌が前立腺癌であり、かつ試験試料および正常組織試料が、前立腺組織、骨組織、リンパ組織、血清、血液、または精液からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
癌が膀胱癌であり、かつ試験試料および正常組織試料が、膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液、または尿からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項1】
図1のアミノ酸残基1位からアミノ酸残基158位までに示されたアミノ酸配列を有する、単離されたBPC-1蛋白質。
【請求項2】
図1のアミノ酸残基24位からアミノ酸残基158位までに示されたアミノ酸配列を有する、単離されたBPC-1蛋白質。
【請求項3】
図1のアミノ酸残基約51位からアミノ酸残基約152位までに示されたBPC-1蛋白質のCUBドメインを少なくとも1つ含む、単離された蛋白質。
【請求項4】
請求項1記載の蛋白質の少なくとも15個の連続したアミノ酸からなる単離されたポリペプチド。
【請求項5】
請求項2記載の蛋白質のアミノ酸配列との全長にわたる同一性が少なくとも90%である、単離ポリペプチド。
【請求項6】
(a)TがUであってもよい、図1に示された配列を有するポリヌクレオチド、(b)TがUであってもよい、図1のヌクレオチド残基793位からヌクレオチド残基1269位までに示された配列を有するポリヌクレオチド、(c)TがUであってもよい、図1のヌクレオチド残基862位からヌクレオチド残基1269位までに示された配列を有するポリヌクレオチド、(d)アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録番号98833として登録されたプラスミドp19P1E8クローン6.1中に含まれるcDNAによって配列がコードされるBPC-1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(e)請求項1記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、(f)請求項2記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、および(g)請求項3記載のBPC-1蛋白質をコードするポリヌクレオチド、からなる群より選択される、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
図1のヌクレオチド残基793位から1269位までに示されたBPC-1前駆体のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
図1のヌクレオチド残基862位から1269位までに示された成熟BPC-1のコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
図1のヌクレオチド残基943位から1248位までに示されたBPC-1 CUBドメインのコード配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項6記載のポリヌクレオチドに対して完全に相補的である、単離ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項6記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項13】
検出可能なマーカーで標識された、請求項6記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項14】
ポリペプチドの産生のために十分な条件下で請求項12記載の宿主細胞を培養すること、および培養物からBPC-1蛋白質を回収することを含む、BPC-1蛋白質を生産するための方法。
【請求項15】
BPC-1蛋白質が培養液中に分泌される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項14または15記載の方法によって生産されるBPC-1ポリペプチド。
【請求項17】
請求項1記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項18】
請求項2記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項19】
請求項3記載のBPC-1蛋白質と免疫特異的に結合する抗体。
【請求項20】
請求項4記載のポリペプチドと免疫特異的に結合する抗体。
【請求項21】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項22】
検出可能なマーカーで標識された、請求項21記載のモノクローナル抗体。
【請求項23】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項22記載のモノクローナル抗体。
【請求項24】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体のFab、F(ab')2、FvまたはSfv断片。
【請求項25】
検出可能なマーカーで標識された、請求項24記載のモノクローナル抗体の断片。
【請求項26】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項25記載のモノクローナル抗体の断片。
【請求項27】
マウス抗原結合領域残基およびヒト抗体残基を含む、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項28】
ヒト抗体である、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項29】
請求項28記載のモノクローナル抗体を産生するトランスジェニック動物。
【請求項30】
請求項21記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項31】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体の抗原結合領域を含む組換え蛋白質。
【請求項32】
検出可能なマーカーで標識された、請求項31記載の組換え蛋白質。
【請求項33】
検出可能なマーカーが放射性同位体、蛍光化合物、生物発光化合物、化学発光化合物、金属キレート剤または酵素からなる群より選択される、請求項32記載の組換え蛋白質。
【請求項34】
請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む、一本鎖モノクローナル抗体。
【請求項35】
請求項34記載の一本鎖モノクローナル抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項36】
有効量の前記抗体で治療された患者におけるBPC-1を発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する、請求項17、18、19または20記載のモノクローナル抗体。
【請求項37】
成熟BPC-1蛋白質内部の2種類のエピトープと結合する、二重特異性モノクローナル抗体。
【請求項38】
試料を請求項22記載の抗体、請求項25記載の抗体断片または請求項32記載の組換え蛋白質と接触させること、およびそれに対する試料中のBPC-1蛋白質の結合を検出することを含む、生物試料中のBPC-1蛋白質の存在を検出するためのアッセイ法。
【請求項39】
生物試料が血清である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項40】
生物試料が精液である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項41】
生物試料が尿である、請求項38記載のアッセイ法。
【請求項42】
生物試料中のBPC-1ポリヌクレオチドの存在を検出するためのアッセイ法であって、
(a)試料を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に登録番号98833として登録されたプラスミドp19P1E8クローン6.1中に含まれるBPC-1 cDNAまたは図1に示すポリヌクレオチドもしくはその相補物と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブと接触させる段階、および
(b)ハイブリダイゼーション複合体の存在によって試料中にBPC-1ポリヌクレオチドが存在することが示されるような、プローブと試料中のBPC-1ポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによって形成されるハイブリダイゼーション複合体の存在を検出する段階
を含むアッセイ法。
【請求項43】
生物試料中のBPC-1 mRNAの存在を検出するためのアッセイ法であって、
(a)少なくとも1つのプライマーを用いる逆転写によって試料からcDNAを作製する段階、
(b)そのようにして作製したcDNAを、その中のBPC-1 cDNAを増幅するために、BPC-1ポリヌクレオチドをセンスおよびアンチセンスプライマーとして用いて増幅する段階、
(c)増幅されたBPC-1 cDNAの存在を検出する段階
を含み、
センスおよびアンチセンスプローブとして用いるBPC-1ポリヌクレオチドが図1に示すポリヌクレオチドを増幅しうるアッセイ法。
【請求項44】
請求項38記載のアッセイ法を用いて個体の血清中に存在するBPC-1蛋白質を検出することを含む、個体におけるBPC-1蛋白質を発現する癌の存在を検出するための方法。
【請求項45】
個体の被験血清試料中に存在するBPC-1蛋白質の量を定量化して、正常個体の同等の血清試料中に存在するBPC-1蛋白質の量と比較することをさらに含み、正常血清試料と比べて被験血清試料中により多量のBPC-1蛋白質が存在することによってBPC-1蛋白質を発現する癌の存在が示されるような、請求項44記載の方法。
【請求項46】
癌が前立腺癌である、請求項44または45記載の方法。
【請求項47】
癌が膀胱癌である、請求項44または45記載の方法。
【請求項48】
請求項38記載のアッセイ法を用いて個体の尿中に存在するBPC-1蛋白質を検出することを含む、個体におけるBPC-1蛋白質を発現する膀胱癌の存在を検出する方法。
【請求項49】
BPC-1蛋白質を発現する癌の存在を検出する方法であって、個体から得た被験組織試料中、または個体から得た血清、精液もしくは尿試料中の細胞によって発現されるBPC-1蛋白質のレベルを測定すること、およびこのようにして測定したレベルを対応する正常試料で発現されるBPC-1のレベルと比較することを含み、正常試料と比べて被験試料中のBPC-1蛋白質が増加していることによって個体にこのような癌が存在することが示されるような方法。
【請求項50】
個体における癌の存在を診断する方法であって、
(a)個体から組織の被験試料を採取する段階、
(b)被験試料中で発現されるBPC-1 mRNAのレベルを測定する段階、および
(c)そのようにして測定したレベルを既知の同等の正常組織試料で発現されるBPC-1 mRNAのレベルと比較する段階を含み、
正常組織試料と比べて被験試料におけるBPC-1 mRNAの発現が増加していることによって癌の存在が示されるような方法。
【請求項51】
癌が前立腺癌であり、被験および正常組織試料が前立腺組織、骨組織、リンパ組織、血清、血液または精液からなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項52】
癌が膀胱癌であり、被験および正常組織試料が膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液または尿からなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項53】
個体における癌の存在を診断する方法であって、
(a)個体から組織の被験試料を採取する段階、
(b)被験試料中で発現されるBPC-1蛋白質のレベルを測定する段階、および
(c)そのようにして測定したレベルを既知の同等の正常組織試料で発現されるBPC-1蛋白質のレベルと比較する段階を含み、
正常組織試料と比べて被験試料におけるBPC-1蛋白質が増加していることによって癌の存在が示されるような方法。
【請求項54】
癌が前立腺癌であり、被験および正常組織試料が前立腺組織、リンパ組織、骨組織、血清、血液または精液からなる群より選択される、請求項53記載の方法。
【請求項55】
癌が膀胱癌であり、被験および正常組織試料が膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液または尿からなる群より選択される、請求項53記載の方法。
【請求項56】
BPC-1を発現する癌に罹患しやすいまたはそれを有する患者を治療する方法であって、BPC-1の機能を阻害するのに十分な量の請求項18または19記載の抗体を該患者に投与することを含む方法。
【請求項57】
癌が前立腺癌および膀胱癌からなる群より選択される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、ベクターが一本鎖モノクローナル抗体コード配列を癌細胞に送達し、コードされている一本鎖抗体がその細胞内で発現されるように、請求項35記載のベクターを該患者に投与することを含む方法。
【請求項59】
癌が前立腺癌および膀胱癌からなる群より選択される、請求項58記載の方法。
【請求項60】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1の転写を阻害することを含む方法。
【請求項61】
BPC-1の転写が、BPC-1遺伝子を請求項6記載のポリヌクレオチドに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることによって阻害される、請求項60記載の方法。
【請求項62】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1 mRNAの翻訳を阻害することを含む方法。
【請求項63】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAを請求項6記載のポリヌクレオチドに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることによって阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAをBPC-1 mRNAの5' UTRに対して相補的なアンチセンスポリヌクレオチドと接触させることにより阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項65】
BPC-1 mRNAの翻訳が、BPC-1 mRNAを該BPC-1 mRNAを切断できるリボザイムと接触させることにより阻害される、請求項62記載の方法。
【請求項66】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞内でのBPC-1のプロセシングを阻害することを含む方法。
【請求項67】
BPC-1を発現する癌の患者を治療する方法であって、該癌の細胞からのBPC-1の分泌を阻害することを含む方法。
【請求項68】
化学療法または放射線療法を患者に施すことをさらに含む、請求項66記載の方法。
【請求項69】
請求項2記載のBPC-1蛋白質の免疫原性部分および生理学的に許容される担体を含む、BPC-1を発現する癌の治療のためのワクチン組成物。
【請求項70】
請求項2記載のBPC-1蛋白質の免疫原性部分をコードするポリペプチドおよび生理学的に許容される担体を含む、BPC-1を発現する癌の治療のためのワクチン組成物。
【請求項71】
請求項69または70記載のワクチン組成物の有効量を患者に投与することを含む、患者におけるBPC-1を発現する癌の発生を抑制する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、BPC-1タンパク質を発現する癌の存在を検出する方法:
試験試料を提供する段階;
試料を、図1において示されるアミノ酸残基番号1〜アミノ酸残基番号158のアミノ酸配列を有するBPC-1タンパク質に結合する抗体またはその断片と接触させる段階;および
試料におけるBPC-1タンパク質の、該抗体またはその断片への結合を検出する段階。
【請求項2】
試験試料に存在するBPC-1タンパク質の量を定量化し、かつ比較可能な正常試料に存在するBPC-1タンパク質の量と比較する段階であって、正常試料に対する試験試料におけるより多い量のBPC-1タンパク質の存在がBPC-1タンパク質を発現する癌の存在を提示する、段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が前立腺癌である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
癌が膀胱癌である、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
試料が血清である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項6】
試料が尿である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項7】
試料が精液である、請求項1〜4いずれか一項記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、癌の存在を診断する方法:
(a)組織の試験試料を入手する段階;
(b)試験試料において発現するBPC-1 mRNAまたはタンパク質のレベルを決定する段階;および
(c)前記で決定されたレベルを、比較可能な既知の正常組織試料において発現するBPC-1 mRNAまたはタンパク質のレベルと比較する段階であって、正常組織試料に対する試験試料における上昇したBPC-1 mRNAまたはタンパク質の発現の存在が癌の存在の提示を提供する、段階。
【請求項9】
癌が前立腺癌であり、かつ試験試料および正常組織試料が、前立腺組織、骨組織、リンパ組織、血清、血液、または精液からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
癌が膀胱癌であり、かつ試験試料および正常組織試料が、膀胱組織、リンパ組織、血清、血液、精液、または尿からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−320324(P2006−320324A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138321(P2006−138321)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【分割の表示】特願2000−565126(P2000−565126)の分割
【原出願日】平成11年8月10日(1999.8.10)
【出願人】(500553659)アジェンシス,インコーポレイテッド (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【分割の表示】特願2000−565126(P2000−565126)の分割
【原出願日】平成11年8月10日(1999.8.10)
【出願人】(500553659)アジェンシス,インコーポレイテッド (35)
【Fターム(参考)】
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