説明

CNS障害の治療のためのラノラジン

本発明は、治療的有効量のラノラジンの投与を含む、癲癇および片頭痛などのCNS障害のための方法に関する。本発明の一部の態様では、ラノラジンは、SCN1A変異に関連するCNS障害の治療または予防のために投与される。SCN1Aにおける変異に関連する状態には、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)2型、乳児重症ミオクロニー癲癇(SMEI)、家族性片麻痺性片頭痛3型(FHM3)、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)1型が挙げられるが、これらに限定されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラノラジンの投与による癲癇および他の中枢神経系(CNS)障害の治療方法に関する。この方法は、ナトリウムチャネルが阻害されるのが有益であると考えられる、癲癇および片頭痛などのいかなるCNS状態の治療にも有用性を見出す。本発明は、そのような併用投与に適している医薬製剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(この明細書は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、ラノラジン、(±)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)−プロピル]−1−ピペラジンアセトアミドおよびその薬学的に許容される塩、ならびに不整脈、異形狭心症と労作性狭心症、および心筋梗塞を含む心血管疾患の治療におけるその使用を開示している。その二塩酸塩の形態では、ラノラジンは、式
【0003】
【化1】

により表される。
【0004】
この特許は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、Tween80および0.9%生理食塩水をさらに含む、ラノラジン二塩酸塩の静注(IV)製剤も開示する。
【0005】
特許文献2(この特許は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、心臓麻痺、心筋もしくは骨格筋または脳組織への低酸素または再灌流傷害を含む、物理的または化学的損傷を受けた組織の治療および移植における使用のための、ラノラジンとその薬学的に許容される塩およびエステルの使用を開示している。放出制御製剤を含む、経口および非経口製剤が開示されている。特に、特許文献2の実施例7Dは、放出制御ポリマーで被膜されたラノラジンと微結晶性セルロースのマイクロスフィアを含むカプセル型の放出制御製剤を記載している。この特許は、低末端では、約5重量%デキストロースを含有するIV溶液のミリリットルあたり5mgのラノラジンを含むIVラノラジン製剤も開示している。さらに、高末端では、約4重量%デキストロースを含有するIV溶液のミリリットルあたり200mgのラノラジンを含有するIV溶液が開示されている。
【0006】
ラノラジンとその薬学的に許容される塩およびエステルの現在好ましい投与経路は経口である。典型的な経口剤形は、圧縮錠剤、混合粉末もしくは顆粒を充填された硬質ゼラチンカプセル、または液剤もしくは懸濁剤が充填された軟質ゼラチンカプセル(ソフトジェル)である。特許文献3(この明細書は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、硬質ゼラチンカプセルまたはソフトジェルのための充填溶液として過冷却された液体ラノラジンを用いる高用量経口製剤を開示している。
【0007】
特許文献4(この明細書は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、製剤が胃内の酸性環境と腸内のより塩基性の環境の両方を通過する間に満足のいく血漿レベルのラノラジンを与える問題を克服し、狭心症および他の心血管疾患の治療に必要な血漿レベルを提供するのに非常に効果的であることが判明している徐放製剤を開示している。
【0008】
特許文献5(この明細書は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、不整脈、異形狭心症と労作性狭心症、および心筋梗塞を含む、心血管疾患の治療法を開示している。
【0009】
特許文献6(この明細書は参照によりその全体を本明細書に組み込まれている)は、ラノラジンが35〜50%、好ましくは40〜45%ラノラジンが存在している経口徐放剤形を開示している。一実施形態では、この発明のラノラジン徐放製剤は、pH依存性結合剤、pH非依存性結合剤および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む。適切なpH依存性結合剤には、メタクリル酸コポリマー、たとえば、メタクリル酸コポリマーを約1〜20%、たとえば、約3〜6%の程度まで中和するのに十分な量で、強塩基、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムを用いて部分的に中和されているEudragit(登録商標)(Eudragit(登録商標)L100−55、Eudragit(登録商標)L100−55のシュードラテックスなど)が挙げられるが、これに限定されない。適切なpH非依存性結合剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、たとえば、Methocel(登録商標)E10M Premium CRグレードHPMCまたはMethocel(登録商標)E4M Premium HPMCが挙げられるが、これらに限定されない。適切な薬学的に許容される賦形剤には、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロース(Avicel(登録商標)pH101)が挙げられる。
【0010】
国立癲癇協会(National Society for Epilepsy)によれば、40以上の異なる種類の癲癇が存在する。各種類は、発作型、発症年齢、EEG所見のその独自の組合せにより定義される。発作の部位および/または分布も使用して、癲癇の種類は分類される。いずれか1種類の癲癇の特定の因果関係は分からないことがあるが、遺伝子SCN1Aに変異が起こると、いくつかの特定種類の癲癇およびCNS障害が生じることが現在では公知である。
【0011】
SCN1Aは、脳電位開口型ナトリウム(Na)チャネルNa1.1のポア形成αサブユニットをコードし、遺伝性癲癇を引き起こすもっとも一般的な変異遺伝子である。変異Na1.1チャネルは、熱性痙攣プラスを伴う比較的良性の全般癲癇(GEFS+)から衰弱性の乳児重症ミオクロニー癲癇(SMEI)までの広範囲の癲癇症候群を引き起こす。さらに最近では、SCN1Aの変異は、遺伝性片頭痛症候群家族性片麻痺性片頭痛3型(FHM3)を引き起こすことが見出された。いくつかのNa1.1変異体について観察される共通の特徴は著しく増加した永久電流であり、これは活動電位発生および伝搬を促進することにより神経興奮性亢進を引き起こすと考えられている。
【0012】
ラノラジンはいくつかの分子標的に対して活性を示すが、主要な治療作用機序は、Naチャネル永久電流の遮断であると考えられている。この効果は、永久ナトリウム電流が毒素ATX−IIにより誘導されるQT延長症候群(LQT)のモルモット心室筋細胞モデルにおいてはじめて明らかにされた(Wuら、非特許文献1;Songら、非特許文献2)。その後、ラノラジンは、Na1.5LQT変異チャネルにより直接搬送される増加した永久電流を優先的に遮断することが明らかにされた(Fredjら、非特許文献3;Rajamaniら、非特許文献4)。さらに最近では、ラノラジンは、筋肉(Na1.4)(Wangら、非特許文献5)、心臓(Na1.5)(Wangら、2008年)および末梢神経(Na1.7とNa1.8)(Wang、2008年;Rajamaniら、非特許文献6)中で発現される様々な野生型Naチャネルアイソフォームを遮断することが明らかにされている。
【0013】
しかし、脳Naチャネルアイソフォーム(たとえば、Na1.1またはNa1.2)を阻害するラノラジンの能力はこれまで報告されていない。ラノラジンは、変異Na1.1チャネルにより発生される永久電流を優先的に遮断する能力を有することが現在では発見されている。ラノラジンは、持続と使用依存性遮断パラダイムの両方においてNa1.1の高親和性阻害を示す。ラノラジンなどのNa1.1永久電流選択薬の臨床可能性は、SCN1A関連癲癇および片頭痛症候群などのCNS障害に対する新たな治療選択肢を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,567,264号明細書
【特許文献2】米国特許第5,506,229号明細書
【特許文献3】米国特許第5,472,707号明細書
【特許文献4】米国特許第6,503,911号明細書
【特許文献5】米国特許第6,852,724号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0177502号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】(2004年). J Pharmacol Exp Ther 310巻:599〜605頁
【非特許文献2】(2004年). J Cardiovasc Pharmacol 44巻:192〜199頁
【非特許文献3】(2006年). Br J Pharmacol 148巻:16〜24頁
【非特許文献4】(2009年). Heart Rhythm 6巻:1625〜1631頁
【非特許文献5】(2008年). Mol Pharmacol 73巻:940〜948頁
【非特許文献6】(2008年a)Channels 2巻:449〜460頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、片頭痛および癲癇を含むがこれらに限定されないCNS障害を治療するための方法であって、治療的有効量、または予防的有効量のラノラジン、または薬学的に許容されるその塩を、CNS障害の治療を必要とする患者に投与するステップを含む方法を提供することである。
【0017】
本発明の一部の態様では、ラノラジンは、SCN1A変異に関連するCNS障害の治療または予防のために投与される。SCN1Aにおける変異に関連する状態には、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)2型、乳児重症ミオクロニー癲癇(SMEI)、家族性片麻痺性片頭痛3型(FHM3)、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)1型が挙げられるが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、WT−Na1.1に対するラノラジンの効果を示している。図1(A)は、対照溶液に続いて30μMラノラジンの逐次灌流中に記録される代表的なホールセルナトリウム電流を表示している。電流は、−120mVの保持電位から−80から+20mVの間までの電圧ステップにより活性化された。図1(B)は、試験パルスにより様々な電位まで誘発され、対照溶液(白四角)に続いて30μMラノラジン(黒丸)の逐次灌流中に記録される細胞キャパシタンスに正規化されるピーク電流密度を表示している。図1(C)は、−140から−10mVの間までの100msプレパルスを用いて決定される急速不活性化の電圧依存性と共にプロットされる−80から+20mVの間までの電圧ステップ中に測定される活性化の電圧依存性を示している(符号はBにおいて定義されるのと同じである)。パルスプロトコールはパネル挿入図として表示されており、フィットパラメータは表1に提供されている。図1(D)は、−10mVまでの100ms不活性化プレパルスに続く急速不活性化からの時間依存性回復を表示している(符号は図1(B)において定義されるのと同じである)。パルスプロトコールはパネル挿入図として表示されており、フィットパラメータは表1に提供されている。
【図2】図2は、ラノラジンがNa1.1永久電流をどのようにして優先的に抑制するかを例示している。Na1.1ピークおよび永久電流の持続性抑制は、−120mVの保持電位から−10mVまでの200ms電圧ステップを使用して測定される。代表的なTTX減算ホールセルナトリウム電流は、対照溶液(黒色線)に続いて30μMラノラジン(灰色線)の逐次灌流中に、WT−Na1.1、図2(A)およびR1648H、図2(B)について記録される。破線はゼロ電流レベルを示している。図2(C)および2(D)は、WT−Na1.1とR1648Hピーク電流(白四角)および永久電流(黒四角)の濃度依存性持続性遮断をラノラジンがどのようにして示すかを図表で表示している。ラノラジン灌流中に測定されるピークと永久電流は、対照溶液において測定される電流に正規化された。フィットパラメータは実施例1の表2に提供されている。
【図3】図3は、ラノラジンによるNa1.1の使用依存性遮断を支持するデータを示している。反復刺激中のNa1.1アベイラビリティは、−120mVの保持電位からの脱分極パルス列(−10mV、5ms、300パルス、10Hz)を用いて評価された。代表的ホールセルナトリウム電流は、図3(A)に示される対照溶液、続いて30μMラノラジン、図3(B)の逐次灌流中、WT−Na1.1から記録される。明確にするため、パルス1、30および300からの電流トレースのみが表示されている。図3(C)および3(D)は、WT−Na1.1とR1648Hピーク電流の濃度依存性および使用依存性遮断をラノラジンがどのように示すかを図表で表示している(黒四角)。WT−Na1.1もR1648Hも、無薬物対照溶液に曝露される場合はアベイラビリティの使用依存性減少は示さなかった(白四角)。フィットパラメータは実施例1の表2に提供されている。
【図4】図4は、ラノラジンによる永久電流の優先的遮断を図表で例示している。ピークと永久電流の持続性遮断は、WT−Na1.1および変異Na1.1チャネルについて、30μMラノラジンの適用中、−10mVまでの200ms電圧ステップを使用して測定される。図4(A)は、ピーク(黒色バー)と永久(白色バー)電流振幅が、細胞ごとに(n=5〜7)無薬物対照溶液において記録される値に正規化されていたことを図表で表している。図4(B)は、30μMラノラジンについて同じ電圧プロトコール中に記録されるピーク電流の百分率として表される永久電流を図表で表している。無薬物溶液におけるWT−Na1.1からの有意差は、(p<0.05)および◆(P<0.01)により示されている。図4(C)は、30μMラノラジンの灌流中のWT−Na1.1および変異チャネルの使用依存性遮断を図表で表している(n=5〜7)。WT−Na1.1も変異Na1.1チャネルも、無薬物対照溶液に曝露される場合はアベイラビリティの使用依存性減少は示さなかった(黒色バー)。WTからの有意差は、(p<0.05)および◇(p<0.01)により示されている。
【図5】図4は、ラノラジンがランプと使用依存性電流をどのように抑制するのかを詳記している。図5(A)は、対照溶液に続いて3μMラノラジンの逐次灌流中の−120mVの保持電位からの20mV/s電圧ランプ中に測定される代表的TTX減算ランプ電流を表示している。点線はゼロ電流を示している。図5(B)は、R1648Hがこのランプの−40と0mVの間で著しく多い電荷を伝導し、これは3μMラノラジンによりWT−Na1.1のレベルまで抑制されたことを図表で例示している(n=9〜10)。図5(C)は、WT−Na1.1とR1648Hアベイラビリティが、対照溶液に続いてラノラジンの逐次灌流中10から135Hzの間の周波数で脱分極パルス列(−10mV、5ms、300パルス)を用いた反復刺激中に評価されたデータを表している。正規化ピーク電流(パルス300/パルス1)はパルス列ごとに周波数に対してプロットされた(それぞれn=9および8)。図5(D)は、3μMラノラジンおよび対照条件中チャネルアベイラビリティの比として計算される正規化ピーク電流の抑制を示す曲線を表している。WT−Na1.1とR1648H間の有意差は、(p<0.05)、◆(p<0.01)および
【0019】
【数1】

(p<0.01)により示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義および一般的パラメータ
本明細書で使用されるとき、以下の単語および語句は、単語および語句が使用される文脈が他のことを示す程度を除いて、以下に記載される意味を有することが一般に意図されている。
【0021】
「任意選択の(optional)」または「任意選択で(optionally)」は、その後に記載される事象または状況が起こっても起こらなくてもよく、その記載は前記事象または状況が起きる例および前記事象または状況が起こらない例を含むことを意味する。
【0022】
「非経口投与」は、注射を介した患者への治療薬の全身送達のことである。
【0023】
用語「治療的有効量」とは、そのような治療を必要とする哺乳動物へ投与された場合、下に定義される治療を達成するのに十分である式1の化合物の量のことである。治療的有効量は、使用されている治療薬の比活性、患者の病態の重症度、ならびに患者の年齢、健康状態、他の病態の存在、および栄養状態に応じて変わることになる。さらに、患者が受けている場合がある他の薬物療法があれば投与する治療薬の治療的有効量の決定に影響を与えることになる。
【0024】
用語「治療(treatment)」または「治療する(treating)」は、
(i)疾患を予防する、すなわち、疾患の臨床症状を発症させないこと、
(ii)疾患を抑制する、すなわち、臨床症状の進行を抑止すること、および/または
(iii)疾患を軽減する、すなわち、臨床症状を退行させること
を含む、哺乳動物における疾患の任意の治療を意味する。
【0025】
「チャネル病」とは、イオンチャネル奇形に関連する疾患または状態のことである。
【0026】
ラノラジンはアミノ基および/もしくはカルボキシル基またはそれに類似の基の存在によって酸性塩および/または塩基性塩を形成することができる。用語「薬学的に許容される塩」とは、ラノラジンの生物学的有効性と特性を保持しており、生物学的にまたは他の点で有害ではない塩のことである。薬学的に許容される塩基付加塩は、無機および有機塩基から調製することが可能である。無機塩基由来の塩には、ほんの一例として、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩が挙げられる。有機塩基由来の塩には、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、置換アルキルアミン、ジ(置換アルキル)アミン、トリ(置換アルキル)アミン、アルケニルアミン、ジアルケニルアミン、トリアルケニルアミン、置換アルケニルアミン、ジ(置換アルケニル)アミン、トリ(置換アルケニル)アミン、シクロアルキルアミン、ジ(シクロアルキル)アミン、トリ(シクロアルキル)アミン、置換シクロアルキルアミン、二置換シクロアルキルアミン、三置換シクロアルキルアミン、シクロアルケニルアミン、ジ(シクロアルケニル)アミン、トリ(シクロアルケニル)アミン、置換シクロアルケニルアミン、二置換シクロアルケニルアミン、三置換シクロアルケニルアミン、アリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ヘテロアリールアミン、ジヘテロアリールアミン、トリヘテロアリールアミン、複素環アミン、ジ複素環式アミン、トリ複素環式アミン、アミン上の置換基のうちの少なくとも2つが異なっており、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、複素環などからなる群から選択される混合ジおよびトリアミンなどの第一級、第二級および第三級アミンの塩が挙げられるがこれらに限定されない。2つまたは3つの置換基がアミノ窒素と共に複素環またはヘテロアリール基を形成しているアミンも挙げられる。
【0027】
適切なアミンの特定の例には、ほんの一例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソプロピル)アミン、トリ(n−プロピル)アミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N−アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N−エチルピペリジンなどが挙げられる。
【0028】
薬学的に許容される酸付加塩は無機および有機酸から調製され得る。無機酸由来の塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。有機酸由来の塩には、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒、被膜剤、抗菌および抗真菌薬、等張および吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は当技術分野では周知である。いかなる従来の媒体または薬剤でも活性成分と適合しない場合を除いて、治療組成物中でのその使用が企図されている。補助的活性成分もこの組成物に取り込むことが可能である。
【0030】
ラノラジンは、N−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)プロピル]−1−ピペラジンアセトアミドと命名されているが{1−[3−(2−メトキシフェノキシ)−2−ヒドロキシプロピル]−4−[(2,6−ジメチルフェニル)−アミノカルボニルメチル]−ピペラジンとしても公知}、ラセミ混合物、もしくはその鏡像異性体、またはその鏡像異性体の混合物、または薬学的に許容されるその塩として存在することが可能である。ラノラジンは、米国特許第4,567,264号に記載される通りに調製することが可能であり、この明細書は参照により本明細書に組み込まれている。
【0031】
「即時放出」(「IR」)とは、インビトロで急速に溶解し、胃または上部消化管において完全に溶解され吸収されることが意図されている製剤または用量単位のことである。従来、そのような製剤は、投与から30分以内にその活性成分の少なくとも90%を放出する。
【0032】
「徐放」(「SR」)とは、約6時間またはそれ以上の期間かけて胃および消化管において緩徐に連続して溶解され吸収される本明細書で使用される製剤または用量単位のことである。好ましい徐放製剤は、下記の投与あたり2個またはそれ未満の錠剤の一日2回以下の投与に適したラノラジンの血漿中濃度を示す製剤である。
【0033】
「異性体」は同じ分子式を有する異なる化合物である。
【0034】
「立体異性体」は、空間における原子の配置の仕方のみが異なる異性体である。
【0035】
「鏡像異性体」は、互いに重ね合わせることができない鏡像である一対の立体異性体である。一対の鏡像異性体の1対1混合物は「ラセミ」混合物である。必要に応じて、用語「(±)」を使用してラセミ混合物であることを指定する。
【0036】
「ジアステレオ異性体」は、少なくとも2つの非対称性原子を有するが、互いの鏡像ではない立体異性体である。
【0037】
絶対立体化学は、カーン−インゴルド−プレローグR−S法に従って特定される。化合物が純粋な鏡像異性体である場合、各キラル炭素における立体化学はRまたはSのどちらかにより特定され得る。その絶対配置が未知の分割された化合物は、その化合物がナトリウムD線の波長で偏光の平面を回転させる方向(右旋性または左旋性)に応じて(+)または(−)のどちらかを指定される。
【0038】
本発明の方法
本発明の方法は、ラノラジンが永久Na1.1電流を抑制するという驚くべき発見に基づいている。電位開口型ナトリウムチャネルは、フェニトインおよびラモトリギンなどのいくつかの広く使用されている抗癲癇薬の重要な標的である。これらの薬物は、一部において不活性化状態を安定化し、それによってナトリウムチャネルアベイラビリティを減少させ、ニューロンが繰返し発火する能力を制限することにより機能する。反復的ニューロン活動中にナトリウムチャネルアベイラビリティを減少させることに加えて、これらの薬物の別の潜在的に重要な効果は、永久ナトリウム電流の抑止であり得る(Stafstrom CE (2007年)、Epilepsy Curr 7巻:15〜22頁)。脳全体の数種類のニューロンは、活性化されたナトリウムチャネルの不完全な閉鎖から生じる低振幅永久電流を示す。小さいが、永久ナトリウム電流は、ニューロン発火行動にかなり影響を与えることが可能であり、癲癇活性の伝播を可能にするのに決定的に重要であり得る(Stafstrom、2007年)。
【0039】
様々な癲癇において発見されたニューロンナトリウムチャネル変異の機能的意義が明らかにされると、癲癇の病因における永久ナトリウム電流の重要性はさらに注目された。GEFS+および他の癲癇に関連するSCN1Aのいくつかの変異は、優勢な生物物理学的異常としてときに永久電流の増加を示す(Lossinら、(2002年)、Neuron 34巻:877〜884頁;Rhodesら、(2004年)、Proc Natl Acad Sci USA 101巻:11147〜11152頁;Kahlig Kら、(2006年)、J Neurosci 26巻:10958〜10966頁;Kahligら、(2008年)、Proc Natl Acad Sci USA 105巻:9799〜9804頁;Spampanatoら、(2004年). J Neurosci 24巻:10022〜10034頁)。これらの所見は、癲癇発作における説得力のある病態生理学的因子として永久電流の増加を強調し、永久電流の選択的抑止が、この種のナトリウムチャネル機能障害を促進する変異に関連する珍しい家族性癲癇に治療戦略を提供し得るという着想を刺激した。
【0040】
慢性安定狭心症の治療に承認された薬物であるラノラジンは、SCN1A変異により誘起される永久電流の増加を選択的に抑止することができることが現在発見されている。ラノラジンは、ピーク電流の持続性遮断および使用依存性遮断と比べて永久電流の抑制の大きさはそれぞれ16倍と5倍を示すことが現在では確定されている。この抑制は、低マイクロモーラー濃度範囲で最大の選択性を有する濃度依存性であり、この抑制は通常の治療血漿中濃度の2〜10μMに匹敵する(Sicouriら、(2008年)、Heart Rhythm 5巻: 1019〜1026頁;Chaitman BR (2006年)、Circ 113巻:2462〜2472頁)。
【0041】
ラノラジンは電流密度、活性化および不活性化の電圧依存性に重大な効果を持たないが、化合物は確かにある程度の不活性化された状態安定化を示すことがある不活性化からの回復を遅くするように思われる。ラノラジンは、WTおよび変異Na1.1の使用依存性遮断も発揮し、不活性化安定化の追加の証拠を提供するが、これらの効果に必要な濃度は、薬物の通常の治療血漿内レベルよりもはるかに高い。
【0042】
理論に縛られたくはないが、ラノラジンのNa1.1およびNa1.2への結合は、他のナトリウムアイソフォームで報告されている薬物−受容体部位相互作用を必要とすると考えられている。Na1.4およびNa1.7の遮断を調べた以前の報告では、Wangらは、ラノラジンは開口状態に選択的に結合し、閉鎖または不活性化状態への結合は最小であると断定した(Wangら、(2008年)、Mol Pharmacol 73巻:940〜948頁)。彼らの研究は、ステップ持続時間が増加していく電圧列プロトコールを利用して、ラノラジン使用依存性抑制とオープン構造の提示を相関させた。この筆者らは、Na1.4での適度に急速な会合速度(Kon=8.2μM−1s−1)も報告しており、これによりチャネルが膜脱分極に正常に応答した後にのみ薬物結合が可能になると筆者らは示唆していた。残念ながら、電流量を制御するために、この研究では逆ナトリウム勾配(65mM外側および130mM内側)が用いられ、特にラノラジンがオープン構造内のイオン伝導経路近くに結合した場合には、結果としてのナトリウムイオンの非生理的流出が薬物結合動態に影響した可能性がある。Rajamaniらによる別の研究も、Na1.7およびNa1.8チャネルへのラノラジンの状態依存性結合を調べた(Rajamaniら、(2008年a). Channels 2巻:449〜460頁)。
【0043】
前のデータと組み合わされた実施例1に示されるデータは、ナトリウムチャンルアイソフォーム間のラノラジンの多様な作用を強調している。それにもかかわらず、ラノラジンによるナトリウムチャネルの抑制を調べている各研究が、9から17倍の選択性での永久電流の優先的遮断を報告していた(Wangら、(2008年);Fredjら、(2006年). Br J Pharmacol 148巻:16〜24頁;Rajamaniら、(2009年). Heart Rhythm 6巻:1625〜1631頁)。
【0044】
ラノラジンによる永久電流遮断についての考え得る作用機序には、1)開口状態に結合しポアを閉鎖すること;2)開口状態に結合し二次不活性化安定化を提供すること;3)不活性化状態に結合し直接安定化不活性化にいたること;または4)それぞれの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。細胞内局所麻酔薬結合部位の関与の証拠は、Na1.5およびNa1.4において結合部位を変異させるとラノラジンの効力が減少するという知見により支持される(Wangら、(2008年);Fredjら(2006年))。
【0045】
通常の臨床用量では、ラノラジンに耐容性がよいのは、眩暈、悪心、頭痛および便秘などの軽度の副作用を起こす患者のうちの少数である(Nashら、(2008年)、Lancet 372巻:1335〜1341頁)。ラノラジンは、心臓の電圧開口型カリウムチャンルHERGも遮断し(Rajamaniら、(2008年b)、J Cardiovasc Pharmacol 51巻:581〜589頁)、このことが一部の被験体において観察される軽度のQT間隔延長を説明する。下の実施例1において考察されるように、ラノラジンは血液脳関門を通過することができ、このことが薬物を受けた被験体により報告される眩暈および頭痛などのある種の副作用を説明し得ることが現在では確定している。さらに、ラノラジン脳透過性が実証されたことは、本薬物が、実施例1において試験される変異などのある種のナトリウムチャネル変異を抱える人物において抗癲癇効果を発揮することになるという結論を支持している。
【0046】
本発明の一実施形態では、ラノラジンは前記薬物により発揮されるいくらか限られた程度の使用依存性遮断に基づいて活発な発作を中断させるのではなく、癲癇予防を予防する手段として投与される。ある程度のナトリウムチャネル使用依存性抑制は抗痙攣効果のためにおそらく重要であり、ラノラジンなどの永久電流に対して選択性のある薬物の治療効果は、これら2つの薬理作用の適正なバランスに依拠している可能性がある。したがって、本発明の別の実施形態は、高度に選択性の永久電流遮断剤とより慣用的な抗癲癇薬の同時投与を含む、CNS障害を治療するための方法である。そのような方法は、それを必要とする患者に相乗効果を提供することになる。
【0047】
有用性試験および投与
一般的有用性
本発明の方法は、癲癇および片頭痛を含むが、これらに限定されないCNS障害を治療するのに有用である。理論に縛られたくはないが、そのようなCNS障害を治療するラノラジンの能力は、脳における永久Na1.1および/またはNa1.2電流の抑制剤として作用するラノラジンの驚くべき能力の結果であると考えられている。
【0048】
医薬組成物および投与
ラノラジンは通常、医薬組成物の形態で投与される。したがって、本発明は、活性成分としてラドラジンまたは薬学的に許容されるその塩もしくはエステル、ならびに、不活性固体希釈剤と充填剤を含む1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤、担体、無菌水溶液と様々な有機溶媒を含む希釈剤、可溶化剤およびアジュバントを含有する医薬組成物を提供する。ラノラジンは単独で、または他の治療薬と組み合わせて投与され得る。そのような組成物は医薬分野で周知の方法で調製される(たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Co.、Philadelphia、PA 17th Ed.(1985年)および「Modern Pharmaceutics」、Marcel Dekker、Inc. 3rd Ed.(G.S. Banker & CT. Rhodes, Eds.参照)。
【0049】
ラノラジンは、たとえば、直腸、頬側、鼻腔内と経皮経路、動脈内注射により、静脈内に、腹腔内に、非経口的に、筋肉内に、皮下に、経口的に、局所的に、吸入剤として、または、たとえば、ステントもしくは動脈挿入円筒形ポリマーなどの浸透性もしくは被膜デバイスを介するものを含む、参照により組み込まれている特許および特許出願に記載されている類似の有用性を有する薬剤の認められた投与様式のうちのいずれによっても、単回投与または複数回投与のどちらかで投与され得る。
【0050】
適切な賦形剤のいくつかの例には、ラクトース、デキストロース、好くロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、減菌水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。前記製剤は、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどの滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;ヒドロキシ安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピルなどの保存剤;甘味剤;ならびに香味剤をさらに含むことが可能である。
【0051】
経口投与はラノラジンの投与のための好ましい経路である。投与は、カプセルもしくは腸溶コーティング錠などを介してであってよい。ラノラジンを含む医薬組成物を製造する際には、前記活性成分は通常、賦形剤により希釈されるおよび/またはカプセル、サシェ(sachet)、紙もしくは他の容器の形態であり得るような担体内に封入される。賦形剤が希釈剤として働く場合、賦形剤は固体、半流動性、または液状物質(上記)であることが可能であり、これらは活性成分のためのビヒクル、担体または媒体として作用する。したがって、前記組成物は、錠剤、丸薬、散剤、ロゼンジ剤、サシェ、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ、エアロゾル(固体としてもしくは液体媒体で)、たとえば、活性化合物を最大50重量%含有する軟膏剤、軟質および硬質ゼラチンカプセル、滅菌注射用溶液、および滅菌パッケージ化された粉末の形態であり得る。
【0052】
ラノラジンは、当技術分野で公知の手順を用いることにより、患者への投与後、活性成分の急速、持続または遅延放出を提供するように処方することも可能である。経口投与のための制御放出薬物送達システムには、ポリマー被膜貯蔵器または薬物ポリマーマトリックス製剤を含有する浸透圧ポンプシステムおよび溶解システムが挙げられる。制御放出システムの例は、米国特許第3,845,770号、米国特許第4,326,525号、米国特許第4,902,514号、および米国特許第5,616,345号に与えられている。本発明の方法における使用のための別の製剤は、経皮送達デバイス(「パッチ」)を用いている。そのような経皮パッチを使用して、制御された量での本発明の化合物の連続または不連続注入を提供し得る。医薬品の送達のための経皮パッチの構築および使用は当技術分野では周知である。たとえば、米国特許第5,023,252号、米国特許第4,992,445号、および米国特許第5,001,139号を参照されたい。そのようなパッチは、医薬品の連続性、拍動性またはオンデマンド送達のために構築され得る。
【0053】
ラノラジンは広い用量範囲にわたり効果的であり、一般に薬学的有効量で投与される。典型的には、経口投与では、各用量単位は、1mg〜2gのラノラジン、より一般的には1〜700mgを、非経口投与では、1〜700mgのラノラジンを、より一般的には約2〜200mgを含有する。しかし、実際に投与されるラノラジンの量は、治療される状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物およびその相対活性、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症状の重症度などを含む関連する状況を考慮して医者により決定されることになる。
【0054】
錠剤などの固体組成物を調製するために、主要活性成分は医薬賦形剤と混合されて、本発明の化合物の均一混合物を含有する固形予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物を均一と呼ぶ場合、組成物が錠剤、丸薬およびカプセルなどの等しく効果的な単位用量に容易に細分され得るように、活性成分が組成物全体に均等に分散していることを意味する。
【0055】
本発明の錠剤または丸薬は、被膜されるか、または他の方法で配合されて、長期間の作用または胃の酸性条件から保護するという利点を与える剤形を提供し得る。たとえば、錠剤または丸薬は、内部投薬および外部投薬成分を含み、後者は前者をおおう包膜の形態であることが可能である。2つの成分は、胃における分解に抵抗する働きをし、内部成分を無傷のまま十二指腸まで通過させるか、または放出を遅延させる腸溶層により分離されることが可能である。種々の物質をそのような腸溶層または被膜のために使用し、そのような物質はいくつかのポリマー酸ならびにポリマー酸とシェラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの物質の混合物を含むことが可能である。
【0056】
投与のための1つの様式は、非経口、特に注射によるものである。ラノラジンが注射による投与のために組み込まれ得る形態には、ゴマ油、コーン油、綿実油、もしくはピーナッツ油を有する水性もしくは油性懸濁液または乳濁液の他にもエリキシル剤、マンニトール、デキストロースもしくは滅菌水溶液、および類似の医薬ビヒクルが挙げられる。生理食塩水溶液も注射のために従来、使用されているが、本発明の文脈ではそれほど好ましくはない。エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど(およびその適切な混合物)、シクロデキストリン誘導体、ならびに植物油も用いられ得る。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどの被膜の使用により、分散剤の場合の必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により、維持することが可能である。微生物の作用の予防は、様々な抗菌および抗真菌薬、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらすことが可能である。
【0057】
滅菌注射用液剤は、上に列挙される様々な他の成分と一緒に、本発明の化合物を適切な溶媒中に必要な量で取り込み、必要に応じて、続いて濾過および滅菌することにより調製される。一般に、分散剤は、様々な滅菌化された活性成分を、基本的な分散媒および上に列挙される成分由来の必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに取り込むことにより調製される。滅菌注射用液剤の調製のための滅菌粉末の場合は、好ましい調製法は、活性成分の粉末プラスその予め滅菌濾過された溶液由来の任意の追加の望ましい成分をもたらす真空乾燥および凍結乾燥法である。
【0058】
ラノラジンの静注製剤は、以下の無菌充填工程を介して製造される。適切な器で、必要量のデキストロース一水和物を注射用水(WFI)に約78%の最終バッチ重量で溶解させる。絶えず攪拌しながら、必要量のラノラジン遊離塩基をデキストロース溶液に添加する。ラノラジンの溶解を促進するため、溶液pHを0.1Nまたは1N塩酸水溶液を用いて3.88〜3.92の目標に調整する。さらに、0.1N HClまたは1.0N NaOHを利用して、3.88〜3.92の目標pHに溶液を最終調整してもよい。ラノラジンが溶解した後、バッチはWFIを用いて最終重量に調整される。インプロセス仕様が満たされたと確認されると、ラノラジンバルク溶液は、2つの0.2μm滅菌濾過器を通した除菌により滅菌化される。それに続いて、滅菌ラノラジンバルク溶液は滅菌ガラスバイアルに無菌的に充填され、滅菌栓を用いて無菌的に栓をされる。次に、栓をされたバイアルは清潔な押し上げ式のアルミシールを用いて密封される。
【0059】
前記組成物は好ましくは、単位剤形で処方される。用語「単位剤形」とは、単一用量としてヒト被験体および哺乳動物に適した物理的に個別の単位のことであり、各単位は、適切な医薬賦形剤(たとえば、錠剤、カプセル、アンプル)と共同して望ましい治療効果を生み出すように計算された所定量の活性物質を含有する。しかし、実際に投与されるラノラジンの量は、治療される状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物およびその相対活性、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症状の重症度などを含む、関連する状況を考慮して医師により決定されることになると理解されるであろう。
【0060】
一実施形態では、ラノラジンは、患者への投与後に活性成分の急速、持続または遅延放出、特に徐放製剤を提供するように処方される。そうではないと記述されなければ、明細書および実施例において使用されるラノラジン血漿中濃度とは、ラノラジン遊離塩基のことである。
【0061】
本発明の好ましい徐放製剤は好ましくは、化合物ならびに胃における(典型的には約2)および腸における(典型的には約5.5)pHの範囲にわたり水性媒体中での溶解速度を制御する部分的に中和されたpH依存性結合剤の完全混和物を含む圧縮錠剤の形態である。徐放製剤の例は、米国特許第6,303,607号、米国特許第6,479,496号、米国特許第6,369,062号、および米国特許第6,525,057号に開示されており、その完全な開示はここに参照により組み込まれている。
【0062】
併用療法
癲癇などのCNS障害の治療を受けている患者は、1つを超える治療薬を用いた治療により利益を得る場合が多い。よく使用されている抗痙攣薬には、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトインおよびバルプロ酸が挙げられる。他のよく使用されている抗癲癇薬には、ガバペンチン、ラモトリギン、トピラマート、エトスクシミド、クロナゼパムおよびアセタゾラミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
ラノラジンと治療的有効量の少なくとも1つの抗癲癇薬の同時投与により、患者が現在受けている看護治療の標準を高めることができる。したがって、本発明の一態様は、CNS障害を治療するための方法であって、治療的有効量のラノラジンおよび治療的有効量の少なくとも1つの抗癲癇薬をそれを必要とする哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【0064】
併用療法の方法には、好ましくは、ラノラジンおよび1種または複数の治療薬がその治療影響を同時に発揮する期間が存在する、ラノラジンおよび1種または複数の治療薬を含有する単一製剤の同時投与、ラノラジンおよび1種または複数の治療薬を含む一つより多くの製剤の本質的に同時期の投与、ならびにいかなる順序であれラノラジンおよび治療薬または複数の治療薬の連続投与が挙げられる。好ましくは、ラノラジンは、本明細書に記載される経口投与量で投与される。
【0065】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下に続く実施例において開示される技法は、本発明の実施においてうまく機能することが本発明者により発見された技法を表しており、したがって、その実施のための好ましい様式を構成すると考えられることを当業者であれば認識すべきである。しかし、当業者であれば、開示される特定の実施形態には多くの変更を加えることが可能であり、それでも本発明の精神と範囲から逸脱することなく同様のまたは類似の結果を得ることを、本開示を考慮して、認識すべきである。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
材料および方法
ヒトNa1.1 cDNAの発現
すべての野生型(WT)および変異構築物は、以前我が研究所により研究されたことがあり(Kahlig、2008年;Lossin、2002年;Rhodes、2004年)、cDNA発現は以前記載された通りに実施された(Kahlig、2008年)。手短に言えば、Na1.1の発現は、Qiagen Superfect試薬を使用して一過性トランスフェクションにより実現された(5.5μgのDNAは、a:β:βについて10:1:1のプラスミド質量比でトランスフェクトされた)。ヒトβおよびβcDNAは、マーカー遺伝子DsRed(DsRed−IRES2−hβ)またはEGFP(EGFP−IRES2−hβ)を配列内リボソーム進入部位(IRES)と共に含有するプラスミドにクローニングされた。そうではないと言及されなければ、すべての試薬はSigma−Aldrich(St Louis、MO、U.S.A.)から購入されたものである。
【0067】
電気生理学
以前記載された通りに(Kahlig、2008年)、ホールセル電圧クランプ記録法を使用してWTおよび変異Na1.1チャネルの生物物理学的特性を測定した。手短に言えば、ピペット溶液は、pH7.35および容量オスモル濃度300mOsmol/kgの110CsF、10NaF、20CsCl、2EGTA、10HEPES(mM)で構成された。バス(対照)溶液は、pH7.35および容量オスモル濃度310mOsmol/kgの145NaCl、4KCl、1.8CaCl、1MgCl、10デキストロース、10HEPES(mM)を含有していた。細胞は、電流を測定する前にホールセル配置が確立した後10分間安定化させた。直列抵抗は、確実に電圧誤差<2mVでマイクロ秒以内にコマンド電位に到達するように90%保証された。漏洩電流は、オンラインP/4手順を使用することにより減算され、全電流は、5kHzで低域Besselフィルターされ、50kHzでデジタル化された。明確にするために、代表的ランプ電流は、50Hzでオフラインにより低域フィルターされた。
【0068】
反復刺激中のチャネル活性化、急速不活性化およびアベイラビリティを評価する特定の電圧クランププロトコールを、挿入図として描かれている通りに使用した。ホールセルコンダクタンスは、GNa=INa/(V−ENa)によりピーク電流振幅から計算され、−80と+20mV間で最大コンダクタンスに正規化された。コンダクタンス−電圧および定常状態チャネルアベイラビリティ曲線は、最大半量活性化/不活性化(V1/2)および傾斜係数(k)についての電圧を決定するためにボルツマン関数を用いてフィットさせた。不活性化への時間依存性進入および不活性化からの時間依存性回復は、ピーク電流回復を2つの指数関数、I/Imax=A×[1−exp(−t/τ)]+A×[1−exp(−t/τ)](τおよびτは時間定数(それぞれ、急速および緩徐成分)を意味し、AおよびAは急速および緩徐分数振幅を表す)を用いてフィットさせることにより評価された。
【0069】
使用依存性研究では、細胞は、−120mVの保持電位から脱分極パルス列(−10mV、5ms、300パルス、10Hz)を用いて刺激した。次に、電流は、各周波数列において第一パルスに応答して記録されたピーク電流に正規化された。持続遮断研究では、ピークおよび永久電流は、0.5μMテトロドトキシン(TTX)の存在および不在下で記録された電流のデジタルサブストラクションに続いて−10mV(0.2Hz)までの200ms脱分極に応答して評価された。永久電流は、200msステップの最終10ms中に計算された。データ解析は、Clampfit9.2(Axon Instruments、Union City、CA、U.S.A.)、Excel 2002(Microsoft、Seattle、WA、U.S.A.)、およびOriginPro7.0(OriginLab、Northampton、MA、U.S.A.)ソフトウェアを使用して実施された。結果は、平均±SEMとして示されている。そうではないと言及されなければ、WT−Na1.1に関連して、一元配置ANOVAに続いてチューキー事後検定を使用して統計的比較は行われた。
【0070】
インビトロ薬理学
20mMラノラジン(Gilead、Foster City、CA)の保存液は0.1M HCl中で調製された。バス溶液中のラノラジンの新鮮な希釈液は実験日ごとに調製され、そのpHは7.35に再調整された。クランプされた細胞への灌流液の直接適用は、灌流ペンシル(Perfusion Pencil)システム(Automate、Berkeley、CA)を使用して実現された。直接細胞灌流は、250ミクロンチップを使用して、流速350μL/分で重力により推進された。このシステムは、クランプされた細胞を灌流の流れ内に隔離し、1秒以内の完全な溶液交換を可能にする。クランプされた細胞は、ホールセル配置を確立させた直後に開始して連続して灌流された。対照電流は、対照溶液灌流中に測定された。
【0071】
ラノラジン含有溶液は、平衡(持続)薬物遮断を可能にするために電流記録に先立って3分間灌流された。ピークおよび永久電流の持続遮断は、この定常状態条件から測定された。3つの連続電流トレースは平均されて、記録条件ごとに(対照、ラノラジンおよびTTX)平均電流を得た。平均電流トレースは、オフライン減算および解析のために利用された。ピーク電流の使用依存性遮断は、−120mVの保持電位からパルス列(−10mV、5ms、300パルス、10Hz)のパルス数300中に測定された。2つの連続パルス列刺激は平均されて、記録条件ごとに平均電流トレースを得、次に平均電流トレースはオフライン減算および解析のために使用された。ランプ電流の遮断は、30秒ごとに刺激されて20mV/秒の速度で−120mVの保持電位から+20mVまでの電圧ランプにより評価された。時間依存性電流ドリフトを最小限にするため、対照、ラノラジンまたはTTX灌流中に記録される1トレースのみが解析された。TTXは、ラノラジンの存在下で適用された。濃度抑制曲線は、ヒルの式:I/Imax=1/[1+10(logIC50−I)k](IC50は、半抑制を生み出す濃度であり、kは斜面係数である)を用いてフィットされた。
【0072】
インビボ薬理学
頸静脈にカニューレ処置されたオススプラーグドーリーラット(250〜350g、Charles River Laboratories、Hollister、CA)を使用して、インビボでのラノラジンの脳透過性を調べた。動物使用は、動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)、Gilead Sciencesにより承認された。群あたり3匹のラットが、85.5μg/kg/分で生理食塩水中のラノラジンを静脈内に注入された。1、2.5または5時間後、動物は屠殺されて血漿および脳が採取され、ラノラジン濃度は、タンデム質量分析と連結させた液体クロマトグラフィー(LC−MS/MS)により測定された。脳組織は、1%2N HClで酸性化された5%フッ化ナトリウム中でホモジネートされた(最終ホモジネートは3倍希釈された)。血漿および脳ホモジネート試料(50μl)は、内部標準として重水素化D3−ラノラジンと一緒に沈殿され、ボルテックスされ遠心分離された。上清(50μL)は移され、注射(10μl)に先立って水(450μl)で希釈された。高速液体クロマトグラフィーは、Shimadzu LC−10AD液体クロマトグラフおよび0.1%ギ酸(溶液A)とアセトニトリル(溶液B)を含有する水からなる移動相を用いるLunaC18(2)、3μm、20×2.0mmカラムを使用して実施され、均一濃度条件(75%溶液A、25%溶液B;流速0.300ml/分)下で実行された。質量分析は、陽イオンモードで作動する、MRMトランジション428.1>98のAPI3000質量分光計(Applied Biosystems、Foster City、CA)を使用して実施された。脳対血漿ラノラジン比は、試料ごとにngラノラジン/g脳をngラノラジン/ml血漿で割ることにより計算された。
【0073】
結果
ラノラジンはWT−Na1.1を阻害する能力を有することが現在実証されており、癲癇および片頭痛症候群GEFS+、SMEIおよびFHM3に関連するNa1.1変異チャネルのパネルはこれら変異チャネルが運ぶ永久電流の異常増加を優先的に遮断するラノラジンの能力を実証している。
【0074】
WT−Na1.1活性化および不活性化に対するラノラジン効果
tsA201細胞において異種性に発現されるWT−Na1.1の活性化および不活性化特性を変えるラノラジンの能力が確定された。図1(A)は、対照溶液(無薬物)においてWT−Na1.1を発現している細胞および30μMラノラジンを有する灌流中の同一細胞から記録された代表的ホールセルナトリウム電流を図示している。薬物の適用は、この高濃度でもWT−Na1.1機能に対して顕著な効果を及ぼさなかった。同様に、対照溶液および30μMラノラジンの逐次適用中に記録されたピーク電流密度に対して薬物の著しい効果はなかった(図1(B))。さらに、30μMラノラジンはWT−Na1.1活性化または不活性化の電圧依存性を著しく変化させることはなかった(図1(C)、表1)。これらの結果により、ラノラジンは、チャネルの活性化とは干渉しないことが示された。しかし、30μMラノラジンは、不活性化状態の安定性が増加したことと一致して、不活性化からのわずかであるが有意な回復の遅滞を確かに引き起こした(図1(D)、表1)。これらの結果から、30μMラノラジンはWT−Na1.1機能に対して最小の効果を及ぼすことが示されている。
【0075】
【表1】

永久電流の優先的ラノラジン遮断
WT−Na1.1および唯一の明白な生物物理学的欠陥として永久電流の著しい増加を示すことを発明者らが以前実証したGEFS+(Lossinら、2002年;Kahligら、2006年)に関連する変異Na1.1(R1648H)により運ばれるピークおよび永久電流の濃度依然性持続抑制を発明者らは調べた。図2(A)は、対照溶液(黒トレース)に続いて30μMラノラジン(灰色トレース)の逐次適用中、WT−Na1.1から記録されたホールセルナトリウム電流を図示している。データが拡大時間スケールでプロットされている挿入図により図示されるように、WT−Na1.1ピーク電流の持続遮断は最小限であった。図2(B)では、R1648Hについての同じ実験順序を図示しているが、永久電流は、無薬物条件と比べてラノラジンの灌流中は実質的に減少した。WT−Na1.1について観察されたように、30μMラノラジンは、R1648Hピーク電流の最小持続遮断を発揮した(図2(B)挿入図)。
【0076】
WT−Na1.1とR1648Hの両方でのピーク電流と比べた場合、ラノラジンは永久電流のより大きな程度の持続抑制を示した(それぞれ図2(C)および2(D))。ヒルの式を用いた濃度抑制曲線のフィットは、持続ピーク電流遮断についてWT−Na1.1では871μMの、R1648Hでは490μMのIC50値を提供したが(表2)、WT−Na1.1およびR1648Hにより運ばれる永久電流のラノラジン遮断は、それぞれ53.7μMおよび30.2μMのIC50値を示した。これらの結果から、ラノラジンはWT−Na1.1またはR1648Hのどちらかにより運ばれる永久電流の持続遮断に対して約16倍の選択性を有することが実証される。
【0077】
【表2】

発明者らは、ラノラジンによるWT−Na1.1およびR1648Hの使用依存性遮断も評価した。図3Aは、対照溶液灌流中の反復脱分極プロトコール(5ms、−10mV、300パルス、10Hz)に応答したWT−Na1.1から記録されたホールセルナトリウム電流を図示している。無薬物対照溶液では、WT−Na1.1のアベイラビリティは反復脱分極中は変化していない。これとは対照的に、同じ細胞へ30μMラノラジンを適用すると反復パルシング中ピーク電流の減少を引き起こし、チャネルの使用依存性遮断と一致していた(図3(B))。WT−Na1.1およびR1648Hのラノラジン使用依存性遮断の濃度依存性は、それぞれ195μMおよび138μMのIC50値により特徴付けられた(図3(C)および3(D)、表2)。これらの結果から、ラノラジンは、ピーク電流の使用依存性遮断と比べて、WT−Na1.1およびR1648Hにより運ばれる永久電流を抑制するのにそれぞれ3.6倍および4.6倍強力であることが実証された。
【0078】
変異Na1.1チャネルのラノラジン遮断
発明者らは、3つの臨床症状:GEFS+(R1648H、T875M)、SMEI(R1648C、F1661S)およびFHM3(L263V、Q14899K)を表す6つのNa1.1変異チャネル間でラノラジン遮断の程度を比較した。図4(A)は、無薬物対照溶液において記録された電流振幅に正規化された変異チャネルのこのパネルについて30μMラノラジンによるピークおよび永久電流の持続遮断を図示している。すべての変異体では、ピーク電流と比べて永久電流のラノラジン遮断の程度のほうがはるかに大きいことを発明者らは観察した。変異チャネルにより示される永久電流の大きさをWT−Na1.1により伝導されるレベルにまで減少させるラノラジンの能力も発明者らは評価した。図4(B)では、永久電流はピーク電流のパーセントとして表され、無薬物条件に正規化されなかった。一般に、変異チャネルにより運ばれる永久電流のレベルは約50%減少された(範囲44〜60%)が、一部の変異体(R1648H、T875M、L263V)では、ラノラジンの存在下でのレベルは、薬物の不在下でのWT−Na1.1チャネルと有意に違ってはいなかった。
【0079】
発明者らは、ラノラジンによる変異Na1.1ピーク電流の使用依存性遮断も評価した。図4(C)は、WT−Na1.1および変異チャネルについての30μMラノラジンによるピーク電流の使用依存性遮断を図示している。WT−Na1.1もどの変異チャネルも300thパルスによる対照溶液におけるチャネルアベイラビリティの著しい消失を示さなかったが、WT−Na1.1と変異チャネルの両方でラノラジン適用中チャネルアベイラビリティが著しく消失した。しかし、変異体のR1648H、T875MおよびR1648Cは、WT−Na1.1と比べて30μMラノラジンの存在下でチャンルアベイラビリティの著しく大きな減少を示した。
【0080】
永久電流遮断の程度をピーク電流の使用依存性遮断の程度で割ることにより、変異Na1.1チャネルに対するラノラジンの効果を表す選択指数を発明者らは計算した。ラノラジンは、L263VおよびF1661Sチャネル上で永久電流のもっとも選択的な遮断を、R1648HおよびR1648Cチャネル上ではもっとも選択性の少ない遮断を示し、全体の順位序列はL263V>F1661S>Q1489K>T875M>R1648H=R1648Cであった。これらの関係は、増加した永久電流の選択的抑止をより受け入れられる可能性のあるNa1.1変異の分子サブセットを予想するのに役立ち得る。
【0081】
ラノラジンの脳透過性
血液脳関門を通過するラノラジンの能力はこれまで報告されていない。1、2.5および5時間の薬物(85.5μg/kg/分)の連続静脈内注入に続くラットにおけるラノラジンの脳透過性の程度を発明者らは測定した。ラノラジンは、すべての時点で著しい脳透過性を示し、5時間後に470ngラノラジン/g脳(約1.1μM、表3)でピークに達した。調べられた時間経過全体で、ラノラジンの平均脳レベルは、対応する血漿中レベルの約3分の1であった。ラノラジンの治療血漿中濃度が2〜10μMであることを考慮すると、最大3.3μMの脳濃度がふさわしいはずである。
【0082】
【表3】

治療ラノラジン濃度による永久電流の抑止
発明者らは次に、緩徐脱分極電圧ランプ、すなわち永久電流の増加に起因する現象中にR1648H活性化を抑止する、達成可能な脳濃度である3μMラノラジンの能力を試験した。図5(A)は、緩徐脱分極電圧ランプに応答して発生する代表的内向き電流を表示している。R1648H細胞は、3μMラノラジン(薄い灰色トレース)により遮断される脱分極電流の増加(WTと比べて;中間灰色対黒色トレース)を示した。平均内向き電荷(pC)は、チャネル発現の変化を説明するために、複数の細胞について−40と0mV間の電流トレース下の面積として計算され、−10mVまでの電圧ステップにより発生する対応するピーク電流(nA)に正規化された。図5(B)は、対照溶液に続いて3μMラノラジンの逐次灌流が、R1648Hにより伝導される電荷を薬物の不在下で記録されたWTチャネルを発現している細胞において観察されたレベルにまで減少させたことを実証している。
【0083】
最後に、発明者らは、3μMラノラジンによるWTおよび変異Na1.1の使用依存性遮断を評価した。図5(C)は、10と135Hz間のパルシング周波数でのWT−Na1.1およびR1648Hチャネルの使用依存性遮断を図示している。対照溶液では、WTとR1648Hの両方が、チャネルアベイラビリティの予想される程度の周波数依存性消失を示したが、3μMラノラジンを適用すると、22Hzよりも大きな周波数すべてにおいてアベイラビリティの消失を拡大した。これらの結果は3μMラノラジンによる著しい使用依存性遮断と一致している。図5Dは、3μMラノラジンが、100HzまでWTおよびR1648Hチャネルの類似する程度の遮断を生じたことを表示している。
【0084】
(実施例2)
材料および方法
ヒトNa1.2 cDNAの発現
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に安定的にトランスフェクトされた野生型(WT)cDNAを使用して、Na+電流を記録する。そうではないと言及されなければ、すべての試薬はSigma−Aldrich(St Louis、MO、U.S.A.)から購入している。
【0085】
電気生理学
ホールセル電圧クランプ記録を使用して、WTの生物物理学的特性を測定する。手短に言えば、ピペット溶液は、pH7.35および容量オスモル濃度300mOsmol/kgの110CsF、10NaF、20CsCl、2EGTA、10HEPES(mM)からなる。バス(対照)溶液は、pH7.35および容量オスモル濃度310mOsmol/kgの145NaCl、4KCl、1.8CaCl、1MgCl、10デキストロース、10HEPES(mM)を含有する。細胞は、電流を測定する前にホールセル配置の確立後10分間安定化させる。直列抵抗は、確実に電圧誤差<2mVでマイクロ秒以内にコマンド電位に到達するように90%保証される。漏洩電流は、オンラインP/4手順を使用することにより減算され、全電流は、5kHzで低域Besselフィルターされ、50kHzでデジタル化される。
【0086】
明確にするために、代表的ランプ電流は、50Hzでオフラインにより低域フィルターされる。反復刺激中のチャネル活性化、急速不活性化およびアベイラビリティを評価する特定の電圧クランププロトコールを使用する。結果は、平均±SEMとして表され、そうではないと言及されなければ、統計的比較は一元配置ANOVAを使用して行われる。
【0087】
ピーク電流の持続遮断が測定される。平均電流トレースはオフライン減算および解析のために利用される。ピーク電流の使用依存性遮断は、−120mVの保持電位から10と135Hzの間の周波数でパルス列(−10mV、5ms、300パルス)のパルス数300中に測定される。2つの連続パルス列刺激は平均されて、記録条件ごとに平均電流トレースを得、次に平均電流トレースはオフライン減算および解析のために使用される。
【0088】
反復刺激中のチャネル活性化、急速不活性化およびアベイラビリティを評価する特定の電圧クランププロトコールを使用する。ホールセルコンダクタンスは、GNa=INa/(V−ENa)によりピーク電流振幅から計算され、−80と+20mV間の最大コンダクタンスに正規化される。コンダクタンス−電圧および定常状態チャネルアベイラビリティ曲線は、最大半量活性化/不活性化(V1/2)および傾斜係数(k)の電圧を決定するためにボルツマン関数を用いてフィットさせる。不活性化への時間依存性進入および不活性化からの時間依存性回復は、ピーク電流回復を2つの指数関数、I/Imax=A×[1−exp(−t/τ)]+A×[1−exp(−t/τ)](τおよびτは時間定数(それぞれ、急速および緩徐成分)を意味し、AおよびAは急速および緩徐分数振幅を表す)を用いてフィットさせることにより評価される。
【0089】
使用依存性研究では、細胞は、−120mVの保持電位から脱分極パルス列(−10mV、5ms、300パルス、10Hz)を用いて刺激される。次に、電流は、各周波数列において第一パルスに応答して記録されたピーク電流に正規化される。持続遮断研究では、ピークおよび永久電流は、0.5μMテトロドトキシン(TTX)の存在および不在下で記録された電流のデジタルサブストラクションに続いて−10mV(0.2Hz)までの200ms脱分極に応答して評価される。永久電流は、200msステップの最終10ms中に計算される。データ解析は、Clampfit9.2(Axon Instruments、Union City、CA、U.S.A.)、Excel2002(Microsoft、Seattle、WA、U.S.A.)、およびOriginPro7.0(OriginLab、Northampton、MA、U.S.A.)ソフトウェアを使用して実施される。結果は、平均±SEMとして示されている。そうではないと言及されなければ、WT−Na1.2に関連して、一元配置ANOVAに続いてチューキー事後検定を使用して統計的比較は行われる。
【0090】
インビトロ薬理学
20mMラノラジン(Gilead、Foster City、CA)の保存液は0.1M HCl中で調製される。バス溶液中のラノラジンの新鮮な希釈液は実験日ごとに調製され、そのpHは7.35に再調整される。クランプされた細胞への灌流液の直接適用は、灌流ペンシル(Perfusion Pencil)システム(Automate、Berkeley、CA)を使用して実現される。直接細胞灌流は、250ミクロンチップを使用して、流速350μL/分で重力により推進される。このシステムは、クランプされた細胞を灌流の流れ内に隔離し、1秒以内の完全な溶液交換を可能にする。クランプされた細胞は、ホールセル配置を確立させた直後に開始して連続して灌流される。対照電流は、対照溶液灌流中に測定される。
【0091】
ラノラジン含有溶液は、平衡(持続)薬物遮断を可能にするために電流記録に先立って3分間灌流される。ピークおよび永久電流の持続遮断は、この定常状態条件から測定される。3つの連続電流トレースは平均されて、記録条件ごとに(対照、ラノラジンおよびTXX)平均電流を得る。平均電流トレースは、オフライン減算および解析のために利用される。ピーク電流の使用依存性遮断は、−120mVの保持電位からパルス列(−10mV、5ms、300パルス、10Hz)のパルス数300中に測定される。2つの連続パルス列刺激は平均されて、記録条件ごとに平均電流トレースを得、次に平均電流トレースはオフライン減算および解析のために使用される。ランプ電流の遮断は、30秒ごとに刺激されて20mV/秒の速度で−120mVの保持電位から+20mVまでの電圧ランプにより評価される。時間依存性電流ドリフトを最小限にするため、対照、ラノラジンまたはTTX灌流中に記録される1トレースのみが解析される。TTXは、ラノラジンの存在下で適用される。濃度抑制曲線は、ヒルの式:I/Imax=1/[1+10(logIC50−I)k](IC50は、半抑制を生み出す濃度であり、kは斜面係数である)を用いてフィットされる。
【0092】
結果
したがって、ラノラジンはWT−Na1.2を阻害する能力を有することが実証されており、このチャネルが運ぶ永久電流の異常増加を優先的に遮断するラノラジンの能力を実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系障害を治療するための方法であって、治療的有効量のラノラジンを中枢神経系障害の治療を必要とする哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記中枢神経系障害が片頭痛または癲癇である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中枢神経系障害がSCN1A変異に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記中枢神経系障害が1つのSCN1A変異に関連する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記中枢神経系障害が、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)2型、乳児重症ミオクロニー癲癇(SMEI)、家族性片麻痺性片頭痛3型(FHM3)、熱性痙攣プラスを伴う全般癲癇(GEFS+)1型からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ラノラジンが薬学的に許容される塩の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薬学的に許容される塩が二塩酸塩である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ラノラジンが遊離塩基の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
中枢神経系障害を治療するための方法であって、治療的有効量のラノラジンおよび治療的有効量の少なくとも1つの抗癲癇薬を中枢神経系障害の治療を必要とする哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項10】
前記抗癲癇薬が、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、バルプロ酸、ガバペンチン、ラモトリギン、トピラマート、エトスクシミド、クロナゼパムおよびアセタゾラミドからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ラノラジンおよび前記抗癲癇薬が別々の剤形として投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ラノラジンおよび前記抗癲癇薬が単一剤形として投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ラノラジンおよび前記抗癲癇薬が別々の剤形として投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ラノラジンおよび前記抗癲癇薬が単一剤形として投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
治療的有効量のラノラジン、治療的有効量の少なくとも1つの抗癲癇薬、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む、医薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−526848(P2012−526848A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511019(P2012−511019)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/034778
【国際公開番号】WO2010/132696
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(500029420)ギリアード サイエンシーズ, インコーポレイテッド (141)
【Fターム(参考)】