説明

CNT製造用の四層型触媒基体、基板炭化層付きCNT、炭化層付きCNT、CNT製法、CNT回収方法及びCNT連続製造装置

【課題】触媒層上に秀麗な配向CNTを合成でき、CNTを分離回収した後、基板層の再利用を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明のCNT製造用の四層型触媒基体1は、基板層2の上に耐熱性樹脂層4を形成し、前記耐熱性樹脂層4の上にAl層6を形成し、前記Al層6の上にCNT合成用の触媒層8を形成している。また、前記基板層2がベルト状に形成された基板ベルトであり、前記基板ベルトの上に前記耐熱性樹脂層4、前記Al層6及び前記触媒層8を積層して四層型触媒基体ベルトも提供できる。400℃以上、好適には500℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂層4を形成して、CNT合成時に耐熱性樹脂層4が基板層2と樹脂層8との反応を防ぎ、触媒層8上に配向CNTを合成でき、CNTを分離回収しても基板層2の表面は合成前の状態であり、基板ベルトを含む基板層2の再利用を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向カーボンナノチューブを効率的に合成する触媒基体、製法及び装置に関し、更に詳細には、CNT合成時に触媒層から基板層への熱的影響を極力遮断して配向カーボンナノチューブを高効率に合成すると同時に基板の再利用を可能にする触媒基体、製法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配向カーボンナノチューブ(「ブラシ状CNT又は配向CNT」とも称される)を合成する方法として、触媒を利用して炭化水素などの原料ガスを分解し、触媒表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)がある。本発明における「配向カーボンナノチューブ」とは、カーボンナノチューブが基体上に一定方向に林立したものであり、基体上に一定方向に成長したカーボンナノチューブを指称する。配向カーボンナノチューブを製造する技術には、特許文献1として国際公開第WO2008/007750号、非特許文献1としてHiraoka et.al.,J.Am.Chem.Soc.,128(2006)13338及び非特許文献2としてH.S.Kim et.al.,J.Phys.Chem,C113(2009)17983がある。
【0003】
特許文献1では、図15の(15A)に示すように、例えばシリコン基板層102の表面に触媒層108を形成した触媒基体101を用いて、前記CCVD法により、触媒層108の表面にブラシ状CNTを成長させる方法が記載されている。また、非特許文献1では、図15の(15B)に示すように、SUS層102の上にAl2O3層105を形成し、その上に触媒層108を形成した触媒基体101を用いて、前記CCVD法により、触媒層108の表面にブラシ状CNTを成長させる方法が記載されている。更に、非特許文献2では、図15の(15C)に示すように、SUS層102の上にエポキシ樹脂層104を形成し、その上にAl層106を形成して、その上に触媒層108を形成した触媒基体101を用いて、前記CCVD法により、触媒層108の表面にブラシ状CNTを成長させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2008/007750号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiraoka et.al.,J.Am.Chem.Soc.,128(2006)13338
【非特許文献2】H.S.Kim et.al.,J.Phys.Chem,C113(2009)17983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、触媒層108の表面に原料ガスが流通すると、触媒層108が微粒子化すると同時に、この触媒微粒子によりCNTは成長し、形態的にはシリコン基板層102の表面にCNTが林立成長する。CNTをシリコン基板層102から機械的に分離すると、CNTは回収できる。しかし、分離されたシリコン基板層102の表面には機械分離による多少の傷が付き、新たなCNT製造に際しシリコン基板層として再利用できないという欠点があった。また、シリコン基板は柔軟性の無い剛体基板であるから外力により破断し易く、そのため大面積化できず、CNTの大量製造には向かないという欠点を有する。可撓性・柔軟性のある基板層としてステンレス基板であるSUS基板を用いることが別に検討された。しかし、(15A)のシリコン基板層102をSUS基板層102に交換した場合には、CNT製造用の触媒層108にFeやMoなどが含まれ、同時にSUS基板層102にFeが含まれるため、CNT合成時に触媒層108とSUS基板層102との間で金属同士の融合反応が生じ、CNT合成が困難になるという弱点があった。これを改善するために、SUS基板層を使用する場合には、前記金属融合反応を遮断するために、SUS基板層102と触媒層108の間にバッファ層を介装するアイデアが提案された。
【0007】
非特許文献1の技術では、バッファ層として金属酸化物であるAl2O3層105が使用されている。多くの金属酸化物からAl2O3を選択した理由は、触媒層108が触媒微粒子に変化するときに、Al2O3が微粒子化を促進する作用を有するからである。CNT合成温度で触媒層108の表面に原料ガスを流通させると、触媒層108が微粒子化すると同時に、この触媒微粒子をCNTの根元に内包しながらCNTは成長し、形態的にはSUS基板層102の表面にCNTが林立形成される点は特許文献1と同様である。しかし、金属酸化物であるAl2O3層105の融点は極めて高いから、CNT合成時の600℃〜900℃の高温でもAl2O3層105は触媒層108とSUS基板層102の間を完全に遮断している。しかし、金属酸化物であるAl2O3層105はSUS基板層102と強力に接合する特徴を有する。従って、形成されたCNT層を分離できても、Al2O3層105をSUS基板層102から分離することは殆ど不可能である。また、SUS基板層102の表面に残ったFeやMoの炭化物の除去も困難である。従って、SUS層基板102を基板層として再利用することは不可能である。CNTの大量製造において、基板価格が極めて高く、SUS基板層を再利用できない限り、CNTを低価格で大量製造することは不可能に近い。
【0008】
そこで、非特許文献2の技術が提案されたのである。(15C)において、SUS基板層102の上に、エポキシ樹脂層104とAl層106と触媒層108が積層されている。Al層106は触媒層108の微粒子化を促進する素材である。また、CNT合成時に、Al層は触媒微粒子をエポキシ樹脂層104から隔て、この触媒微粒子がCNTの根元に位置してCNTが成長する。他方、エポキシ樹脂の耐熱温度の上限は200℃であり、600℃〜900℃のCNT合成温度では、エポキシ樹脂の耐熱性は完全に破綻する。即ち、エポキシ樹脂層104の耐熱温度が低く過ぎるため、CNT合成時の高温では、エポキシ樹脂層104は分解消失する。たとえ炭化物が残っても、微細孔だらけの炭化層になる。これらの微細孔を通じてSUS層102のFeやMoが触媒層108のFeと融合反応を生起し、触媒層上に秀麗なCNT層を形成できないという欠点がある。同時に、CNT形成後に、CNT層をSUS層102から分離すると、SUS層102の表面には無数のエポキシ樹脂の炭化物やFeとMoの炭化物が残り、SUS層の再利用ができず、基板の再利用不能性はCNTの高価格化を招来するという弱点を露呈する。
【0009】
従って、本発明においては、基板層の上に耐熱性樹脂層を形成し、この耐熱性樹脂層の上にAl層と触媒層を形成した四層型触媒基体を提案し、特に400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂層を形成することによって、CNT合成時に耐熱性樹脂層が基板層を熱的に保護しながら、触媒層上に秀麗な配向CNTを合成でき、しかもCNTを分離回収しても基板層表面は合成前の状態を保持できるから、基板層の再利用を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、基板層の上に耐熱性樹脂層を形成し、前記耐熱性樹脂層の上にAl層を形成し、前記Al層の上にCNT合成用の触媒層を形成したことを特徴とするCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0011】
本発明の第2の形態は、前記四層型触媒基体がCNT合成のために還元性雰囲気の高温環境に配置されたとき前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化するCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0012】
本発明の第3の形態は、前記基板が、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物、金属を含む材料からなり、600℃〜900℃のCNT合成温度で耐熱性を有する材料から形成されるCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0013】
本発明の第4の形態は、前記耐熱性樹脂層が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂、その他の炭素骨格樹脂を含む材料からなり、400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂から形成されるCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0014】
本発明の第5の形態は、前記触媒層がFe、Co、Ni、Mo、Ptを含む遷移金属の一種以上から形成されるCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0015】
本発明の第6の形態は、前記基板層がベルト状に形成された金属製の基板ベルトであり、前記基板ベルトの上に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層を積層して四層型触媒基体ベルトを構成したCNT製造用の四層型触媒基体である。
【0016】
本発明の第7の形態は、CNT製造用の四層型触媒基体を反応室に配置し、反応室内をCNT合成温度に加熱して、原料ガスを前記四層型触媒基体の触媒層の表面に接触させ、前記触媒層の表面にCNTを成長させるCNT製造方法である。
【0017】
本発明の第8の形態は、前記四層型触媒基体を前記四層型触媒基体ベルトで構成し、前記四層型触媒基体ベルトを前記反応室に走行させながら、前記触媒層の表面にCNTを成長させ、前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを大量合成するCNT製造方法である。
【0018】
本発明の第9の形態は、CNT製造方法により製造され、前記合成温度により前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化し、前記Al層と前記触媒層が合成されたCNTからなるCNT層に組み込まれ、前記基板層の上に前記炭化層と前記CNT層がこの順に積層された基板炭化層付きCNTである。
【0019】
本発明の第10の形態は、基板炭化層付きCNTから基板層を剥離して得られ、前記炭化層の上に前記CNT層が配置された炭化層付きCNTである。
【0020】
本発明の第11の形態は、炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で加熱して前記炭化層を燃焼気散させ、前記CNT層だけをCNTとして回収するCNT回収方法である。
【0021】
本発明の第12の形態は、基板ベルトを駆動ローラと従動ローラの周囲に卷回して無端ベルトを構成し、前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを合成するCVD反応手段を配置して、前記四層型触媒基体ベルトを走行させながら前記四層型触媒基体ベルト上にCNT層を形成し、前記CNT層を形成した前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層と前記Al層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有するCNT連続製造装置である。
【0022】
本発明の第13の形態は、基板ベルトを卷回した基板ロールと、前記基板ロールから送出される前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回した四層型触媒基体ロールを製造する四層型触媒基体ロールの製造装置である。
【0023】
本発明の第14の形態は、四層型触媒基体ロールと、前記四層型触媒基体ロールから送出される前記四層型触媒基体ベルトの表面に前記CNT層を形成するCVD反応手段を配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回して回収する回収ロールを配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層と前記Al層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有するCNT連続製造装置である。
【0024】
本発明の第15の形態は、前記基板ベルトから、前記CNT層が前記炭化層と一体に積層された炭化層付きCNTを分離回収する分離手段を設け、前記炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で燃焼気散させて前記CNT層だけを回収する炭化層燃焼手段を設けるCNT連続製造装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の第1の形態によれば、基板層の上に耐熱性樹脂層とAl層とCNT合成用の触媒層をこの順に形成したCNT製造用の四層型触媒基体が提供される。本発明の触媒基体は四層型触媒基体に特徴があり、触媒層は600℃〜900℃のCNT合成温度で微粒子化してCNTを成長させる材料であり、Al層は触媒層の微粒子化を促進する材料である。Al金属の融点は660℃であり、蒸気圧が0.013Paになる蒸発温度は927℃と高温である。従って、触媒層の一種として利用されるFeが微粒子となって機能する温度、即ちCNT合成が為される通常温度の700℃程度では、Al溶液状であるが蒸気圧は極めて低い。そして、その場に存在するAlの促進作用により形成された触媒微粒子を根元に含みながら、高度に配向したCNTが触媒層上に成長し、CNT層が形成されてゆく。耐熱性樹脂層は、合成温度環境下でCNT層と基板を熱的に遮断する作用を行い、触媒金属とAlが基板中に熱的に拡散することを防止する作用を奏する。また、耐熱性樹脂層が耐熱性有機樹脂で形成される場合には、CNTを合成する原料ガスなどの還元性雰囲気中で、耐熱性樹脂層は炭化して炭化層(炭素膜)になり、この炭化層が下にある基板を保護する作用を奏する。しかも、この炭化層は下の基板層と分離(剥離)し易いから、CNT層が炭化層と一体になって基板から分離され、基板の表面が秀麗であり、基板の再利用を図ることができる。CNT層が炭化層と一体になって基板から分離されると、このCNT層を酸化性雰囲気中で燃焼すれば、エッジの多い炭化層はCO2になって気散し、純粋のCNT層だけを取出すことが容易になる。つまり、耐熱性有機樹脂の場合には、基板の再利用を実現でき、同時にCNTを純粋に精製することができるのである。
【0026】
触媒層の膜厚は、合成されるCNTの断面直径を決める因子であり、1nm〜100nm、好適には1nm〜20nmがよく、上記範囲内であれば自在に取捨選択できる。Al層の厚みは、樹脂層との隔たりを保持しながら触媒層の微粒子化を促進する意味から、触媒層の厚みと相関関係を有し、触媒層の厚みと同程度に調整される。従って、Al層の厚みとしては、1nm〜100nm、好適には1nm〜20nmがよく、上記範囲内であれば自在に取捨選択できる。耐熱性樹脂層は、CNT合成温度環境下で触媒層と基板層を合成時間の間、熱的に遮断できる耐熱性を有することが求められ、耐熱温度としては350℃以上、好適には400℃以上、更に好適には450℃以上あればよい。樹脂は高温により徐々に分解してゆくから、耐熱性樹脂層の厚みは合成の進行に従って低減するが、合成終了時点で耐熱性樹脂層が薄く残留していてもよいし、合成の終了時点では樹脂層の全量が炭化層に変化していてもよい。CNT合成中に耐熱性樹脂層が存在すれば、この耐熱性樹脂層が触媒層と基板層とを物理的に遮断する作用を奏する。また、耐熱性樹脂層の全量が炭化層に変化しても、この炭化層が触媒層と基板層とを物理的に遮断する作用を奏する。この物理的遮断作用が基板層を保護して基板層の再利用性を可能にし、しかも合成されたCNT層と基板層とを物理的に隔壁するからCNT層への基板層の影響を遮断することができる。従って、耐熱性樹脂層の厚みとして0.1μm〜100μm、好ましくは1μm〜20μmが好ましい。基板層は合成されるCNTを支持する基体であり、剛体からなる非可撓性素材、自由に撓む性質を有し曲げ変形も可能な可撓性素材、特に合金を含む金属、特に非錆性金属を使用した巻取可能素材が好適である。形態保持性及び再利用の観点から、基板層の厚みは剛体では10μm以上で、特に30μm以上が好ましい。形状は、平板、長手平板、巻取可能なベルト、その他各種形状がある。
耐熱性樹脂層を基板層に形成するには、耐熱性樹脂の溶液やペーストを塗布する方法、印刷する方法、具体的にはスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、その他の公知の塗布方法が利用でき、塗布後乾燥して耐熱性樹脂層とする。Al層と触媒層は薄膜形成するため、物理的蒸着法、化学的蒸着法、スパッタリング法などその他の公知の塗布方法が利用できる。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記四層型触媒基体がCNT合成のために還元性雰囲気の高温環境に配置されたとき前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化するCNT製造用の四層型触媒基体が提供される。還元性雰囲気の高温環境とは、CNT合成温度で炭化水素などの原料ガスをキャリアガスとともに触媒層の表面に対し流通させた高温環境を意味しており、炭化層に変化する耐熱性樹脂とは、耐熱性有機樹脂を意味する。有機樹脂が還元性雰囲気と反応して、有機樹脂が炭化して最終的に炭化層に変化する。この炭化層(又はC層)は炭素膜と言い換えてもよく、合成されたCNT層の根元部分に炭化層が形成され、この炭化層を介してCNT層は基板層と接合している。前述したように、触媒層はCNTの根元に含まれており、四層型触媒基体にCNT層が合成されると、CNT層とAl原子又はAl層を介して炭化層と基板層の四層体に変化し、本発明ではこの四層体を基板炭化層付きCNTと称する。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記基板が、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物、金属を含む材料からなり、600℃〜900℃のCNT合成温度で耐熱性を有する材料から形成されたCNT製造用の四層型触媒基体が提供される。セラミックス材の一例として金属酸化物、石英板、サファイヤ板などの剛体素材、無機非金属化合物の一例として水晶板、溶融シリカ板などの剛体素材、無機非金属の一例としては、シリコン板、グラファイト板などの剛体素材があり、これらの材料は非可撓性素材である。これらの非可撓性素材から基板層を形成すると、平板状の基板層が形成できる。他方、合金を含む金属、特に耐熱性金属で非錆性金属(又は耐食性金属)の一例として、ニッケル、チタン、ジルコニウム、タンタルなどがあり、また鉄基合金としてSUS(ステンレス)、インコロイ、ニッケル基合金としてインコネル、ハステロイ、コバルト基合金としてS816、ニッケル銅合金としてモネルなどが利用できる。特に、SUSは安価で大量生産が可能であり、本発明の基板層として有用である。金属は可撓性素材であるから、基板を薄く形成することにより巻取可能基板、即ち金属フィルムを多重に卷回した金属ロールの形成が可能になる。例えばSUS基板をロールにしたSUSロールを基板層に用いると、この基板層上に耐熱性樹脂層・Al層・触媒層を形成した長尺の四層型触媒基体を構成でき、CNTの安価な大量生産が可能になる。しかも、CNT層形成後に炭化層付きCNTを分離し、炭化層を燃焼気散させれば、金属ロールの再使用が可能になる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記耐熱性樹脂層が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂、その他の有機樹脂を含む材料からなり、400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂から形成されるCNT製造用の四層型触媒基体が提供できる。本発明の要点は、耐熱性樹脂層を基板層とAl層の間に形成した点にある。CNT合成温度で基板層を熱的に保護するために耐熱性樹脂でなければならず、しかもCNT合成時の還元性雰囲気中で炭化する素材、即ち有機樹脂が重要である。耐熱性有機樹脂は還元性雰囲気中で炭化し、耐熱性有機樹脂層は炭化層になる。CNT合成温度が、600℃〜900℃と高温であるため、合成時間に依存するが、耐熱温度としては、400℃以上、好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上がよい。第4形態では、400℃を耐熱温度の下限としている。ポリイミド樹脂の耐熱温度は一般に400℃以上であり、現在550℃の耐熱温度が提供される素材がある。ポリアミドイミド樹脂も熱分解開始温度が400℃以上であり、400℃以上の耐熱温度を有すると云える。全芳香族ポリエステル系樹脂でも400℃で溶融変形しない材料が開発されている。第4形態では、耐熱温度が400度以上の耐熱性有機樹脂が利用される。
【0030】
本発明の第5の形態によれば、前記触媒層がFe、Co、Ni、Mo、Ptを含む遷移金属の一種以上から形成されるCNT製造用の四層型触媒基体が提供される。例えば、Fe層、Co層、Ni層、Mo層、Pt層が最も簡単であるが、Fe−Co層や、Fe−Ni層、Fe−Mo層などの複合金属層や合金層としてもよい。効率よく配向CNT層を形成できる触媒層なら利用できる。
【0031】
本発明の第6の形態によれば、前記基板層がベルト状に形成された金属製の基板ベルトであり、前記基板ベルトの上に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層を積層して四層型触媒基体ベルトを構成したCNT製造用の四層型触媒基体が提供される。金属製基板ベルトとは、ロール状に卷回して巻き取れる金属ベルトのことであり、四層型触媒基体ベルトとは極めて長尺のベルトであり、合金を含む金属ベルトから容易に形成できる。従って、触媒層の表面が大面積化でき、CNTの大量合成が可能になる。一方から他方にベルトを走行させながら、触媒層表面にCNTを連続的に合成することが可能になる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、CNT製造用の四層型触媒基体を反応室に配置し、反応室内をCNT合成温度に加熱して、原料ガスを前記四層型触媒基体の触媒層の表面に接触させ、前記触媒層の表面にCNTを成長させるCNT製造方法を提供できる。四層型触媒基体を反応室に配置するとは、四層型触媒基体を静止状態で配置する場合、多数の四層型触媒基体をベルト上に間隔をおいて載置し、連続走行状態で反応室内に走行配置する場合、又は第6形態の四層型触媒基体ベルトを反応室内に連続走行させて反応室内に走行配置する場合などを含む。このようにすることによって、触媒層の表面にCNTを合成でき、しかも大量合成を可能にする。基板層に炭化層を介してCNTを形成できるから、炭化層付きCNTを基板層から分離(剥離)すれば、無傷の基板層を再利用することもできる。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記四層型触媒基体を前記四層型触媒基体ベルトで構成し、前記四層型触媒基体ベルトを前記反応室に走行させながら、前記触媒層の表面にCNTを成長させ、前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを大量合成するCNT製造方法を提供できる。この第8形態は、前記第7形態のなかでもベルト製造方法に限定した製法である。基板層がベルト状に形成された基板ベルトからなり、この基板ベルトの上に耐熱性樹脂層とAl層と触媒層が積層されて前記四層型触媒基体ベルトが構成されている。この四層型触媒基体ベルトを反応室に走行させれば、キャリアガスと原料ガスにより触媒層の表面にCNT層が合成される。前記ベルトを連続走行させれば、触媒層の上にCNT層が連続的に製造されてゆき、ベルトをロール状に卷回回収すれば、大量のCNTを連続製造することが可能になる。しかも、このベルトから炭化層付きCNTを分離すれば、基板ベルトは再利用可能になり、CNTを安価且つ大量に製造することができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、CNT製造方法により製造され、前記合成温度により前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化し、前記触媒層が合成されたCNT層に組み込まれ、前記基板層の上に前記炭化層と前記CNT層がこの順に積層された基板炭化層付きCNTを提供できる。前述したように、CNT合成温度では、触媒層はAl層の微粒子化促進作用により手ごろな触媒微粒子へと変化し、触媒微粒子がCNTの根元に内包されながらCNT層が成長する。他方、耐熱性樹脂層は高温にさらされて炭化層へと変化し、基板層の上に炭化層とAl層を介してCNT層が積層された状態でCNT合成が終了する。この基体全体を基板炭化層付きCNTと称し、本第9形態では、基板炭化層付きCNTが大量に製造できる。これからCNTを分離すれば良い訳である。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、基板炭化層付きCNTから基板層を分離して得られ、前記炭化層の上に前記CNT層が配置された炭化層付きCNTが提供される。第9形態によって基板炭化層付きCNTが大量に製造されており、この基板炭化層付きCNTから基板層をスクレイパーなどの分離手段で分離すると、基板層と炭化層付きCNTに分離される。基板層は再利用に回され、炭化層付きCNTはCNT精製処理に回される。基板炭化層付きCNTと炭化層付きCNTはCNTを分離する中で得られる中間体である。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で加熱して前記炭化層を燃焼気散させ、前記CNT層だけをCNTとして回収するCNT回収方法が提供される。前記第10形態により、大量の炭化層付きCNTが中間体として製造される。炭化層付きCNTを酸化性雰囲気、即ち大気中で燃焼すると、炭化層とは炭素膜であるから、酸素と化合してCO2となって気散してゆく。完全に燃焼すると、炭化層は全てCO2になり、最終的にCNT層だけが回収できる。CNTの耐熱温度は極めて高いから、燃焼によりCNTは何ら変化せず、CNT層だけを回収できる。従って、この方法により、配向CNTが製造されることになる。基板炭化層付きCNTと炭化層付きCNT及びこれからCNTを回収する方法は本発明により初めて提案された画期的なCNT製造方法である。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、基板ベルトを駆動ローラと従動ローラの周囲に卷回して無端ベルトを構成し、前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを合成するCVD反応手段を配置して、前記四層型触媒基体ベルトを走行させながら前記四層型触媒基体ベルト上にCNT層を形成し、前記CNT層を形成した前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有するCNT連続製造装置が提供される。この第12形態を簡単に述べると、基板ベルトを無端ベルト状に周回させ、周回中に基板ベルト上に耐熱性樹脂層とAl層と触媒層を連続的に積層して四層型触媒基体ベルトへと変化させ、この四層型触媒基体ベルトの触媒層上にCNT層を周回中に連続製造するCNT連続製造装置が実現されている。これにより、従来から平板状の基板にCNTを合成した場合と比較して、大面積のベルト表面にCNTを大量合成する道を開くことができる。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、基板ベルトを卷回した基板ロールと、前記基板ロールから送出される前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回した四層型触媒基体ロールを製造する四層型触媒基体ロールの製造装置を提供することができる。本第13形態は、基板ロールから送出される基板ベルトに耐熱性樹脂層とAl層と触媒層を順次積層して四層型触媒基体ベルトを形成し、この四層型触媒基体ベルトを卷回して四層型触媒基体ロールを製造する装置を開示している。CNT合成の前段階の処理である。この四層型触媒基体ロールは四層型触媒基体ベルトを多重に卷回したものであるから、四層型触媒基体ベルトの全長は極めて長く、その表面積は第12形態の無端ベルトの周回長と比較しても格段に大面積化されており、次のCNT合成処理で大量のCNT合成を可能にするものである。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、四層型触媒基体ロールと、前記四層型触媒基体ロールから送出される前記四層型触媒基体ベルトの表面に前記CNT層を形成するCVD反応手段を配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回して回収する回収ロールを配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有するCNT連続製造装置を提供することができる。第13形態によって製造された四層型触媒基体ロールを出発ロールとし、この四層型触媒基体ロールから送出される四層型触媒基体ベルトにCNTを合成してゆき、CNTを合成された四層型触媒基体ベルトを回収ロールに卷回回収するものである。CNTを合成することによって、触媒層はCNTに組み込まれてゆき、また耐熱性樹脂層は炭化層に変化し、回収されるベルトは基板ベルトに炭化層を介してCNT層が形成されたベルトになっている。このベルトをCNT層を形成された四層型触媒基体ベルトと称している。ベルトの全長に亘ってCNTが合成されているから、CNTの大量合成を実現することができる。
【0040】
本発明の第15の形態によれば、前記基板ベルトから、前記CNT層が前記炭化層と一体に積層された炭化層付きCNTを分離回収する分離手段を設け、前記炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で燃焼気散させて前記CNT層だけを回収する炭化層燃焼手段を設けるCNT連続製造装置を提供することができる。第12形態の無端ベルト、及び第14形態の回収ロールにはCNTが接合しており、このCNTを分離して回収する必要がある。両者の基板ベルトには炭化層を介してCNT層が接合している。これらのベルトに対し、例えばスクレイパーの様な分離手段により炭化層付きCNT(炭化層が付着したCNT層)を機械的に分離する。この分離によって炭化層付きCNTは容器に回収される。炭化層付きCNTは基板ベルトから容易に剥離されるから、基板ベルトは無傷のまま秀麗な基板ベルトとして回収され、次のCNT合成に再利用される。炭化層付きCNTは酸化性雰囲気中、例えば大気中で燃焼させると、炭化層はCO2ガスとして気散され、CNT層だけが最終的に容器内に残留し、CNTの回収が完了する。炭化層燃焼手段とは、例えば加熱手段を付設した大気に連通する容器と考えればよい。本第15形態の分離装置と炭化層燃焼手段を、第12形態の無端ベルトに近接配置したり、また第14形態のベルトに近接配置すれば、炭化層付きCNTの回収と連続してCNTの精製回収を実現でき、同時に基板ベルトの再利用をも実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る四層型触媒基体の構成図である。
【図2】本発明に係る四層型触媒基体の製造手順図である。
【図3】本発明に係る四層型触媒基体を用いてCNTを製造する概略手順と、得られた基板炭化層付きCNTの概略構成図である。
【図4】本発明に係る四層型触媒SUS基体上に生成されたCNT層の断面SEM写真図である。
【図5】本発明に係る四層型触媒SUS基体上に生成されたCNTのTEM写真と直径分布図である。
【図6】本発明に係る基板炭化層付きCNTから炭化層付きCNTを製造する製造手順図である。
【図7】本発明に係る炭化層付きCNTからCNTを製造する製造手順図である。
【図8】本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無に依存したCNTの断面SEM写真図である。
【図9】本発明に係る四層型触媒SUS基体の加熱時間に依存した断面SEM写真図である。
【図10】本発明に係る四層型触媒SUS基体の加熱時間に依存した断面SEM写真と表面AFM像の比較説明図である。
【図11】本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無と加熱時間に依存した表面AFM像図である。
【図12】本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無に依存したCNT成長の比較モデル説明図である。
【図13】本発明に係る四層型触媒基体ベルトの製造説明図とこれを用いたCNT連続製造装置の構成図である。
【図14】本発明に係る四層型触媒基体を無端ベルトに適用したCNT連続製造装置の構成図である。
【図15】従来の積層型触媒基体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る四層型触媒基体の構成図である。(1A)には、本発明の四層型触媒基体の基本構成が示されている。基板層2の上に耐熱性樹脂層4が形成され、耐熱性樹脂層4の上にAl層6が形成され、更にAl層6の上に触媒層8が形成されて四層型触媒基体1が完成される。基板層2は各種材料で形成されるが、(1B)には可撓性基板層の代表例としてSUS基板層2が開示されている。SUS基板層はCNT合成温度である600℃〜900℃で耐熱性且つ耐食性を有し、しかも平板状のみならずロール状に形成できるから大面積化が容易である。勿論、SUS以外にも、例えばニッケル、チタン、ジルコニウム、タンタルなどがあり、また鉄基合金としてインコロイ、ニッケル基合金としてインコネル、ハステロイ、コバルト基合金としてS816、ニッケル銅合金としてモネルなどが利用できる。また、(1C)には非可撓性基板層の代表例としてシリコン基板層2が開示されている。シリコン基板層2はCNT合成温度である600℃〜900℃で耐熱性且つ耐食性を有し、平板状に形成できる。またシリコン以外にも、セラミックス材の一例として金属酸化物、石英板、サファイヤ板などの剛体素材、無機非金属化合物の一例として水晶板、溶融シリカ板などの剛体素材、無機非金属の一例としては、シリコン板、グラファイト板などの剛体素材があり、これらの材料は非可撓性素材として纏められる。
【0043】
前記耐熱性樹脂層4としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂、その他の有機樹脂を含む材料からなり、400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂が選択される。CNT合成温度が、600℃〜900℃と高温であるため、合成時間に依存するが、耐熱温度としては、400℃以上、好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上がよい。ポリイミド樹脂の耐熱温度は一般に400℃以上であり、現在550℃の耐熱温度が提供される素材がある。ポリアミドイミド樹脂も熱分解開始温度が400℃以上であり、400℃以上の耐熱温度を有すると云える。全芳香族ポリエステル系樹脂でも400℃で溶融変形しない材料が開発されている。しかもこれらの耐熱性樹脂は有機樹脂であるから、CNT合成温度且つ炭化水素などの原料ガスといった還元性雰囲気中では、炭化して炭化層に変化する。CNT合成温度が600℃以上であるから、現在最も耐熱温度の高いポリイミド樹脂が好適である。
前記触媒層はFe、Co、Ni、Mo、Ptを含む遷移金属の一種以上から形成される。例えば、Fe層、Co層、Ni層、Mo層、Pt層が最も簡単であるが、Fe−Co層や、Fe−Ni層、Fe−Mo層などの複合金属層や合金層としてもよい。
Al層6は、触媒層8がCNT合成温度で微粒子化するときに、樹脂層との隔たりを作り、微細化と同時に粒径の均一化を促進するために配置される。
【0044】
図2は、本発明に係る四層型触媒基体の製造手順図である。以下では、各層の層厚が一例として例示されている。まず50μmの基板層が2が配置され、この基板層2の上面に耐熱性樹脂層4がスピンコート法により5μmの厚さで塗布され、その後乾燥される。次に、耐熱性樹脂層4の上面にAl層6がスパッタリング法により10nmの膜厚で形成される。更に、Al層6の上面に触媒層8としてFe層がスパッタリング法により4nmの膜厚で形成され、最終的に四層型触媒基体1が完成される。
膜厚に関しては、種々に変更可能である。例えば、触媒層の膜厚は、合成されるCNTの断面直径を決める因子であり、1nm〜100nm、好適には1nm〜20nmがよい。Al層の厚みは、樹脂層との隔たり及び触媒層の微粒子化を促進する意味から、触媒層の厚みと相関関係を有し、触媒層の厚みと同程度に調整される。従って、Al層の厚みとしては、1nm〜100nm、好適には1nm〜20nmがよい。耐熱性樹脂層の厚みとして0.1μm〜100μm、好ましくは1μm〜20μmが好ましい。基板層の厚みは形態保持性と耐熱性の観点から、非可撓性基板では10μm以上で、特に30μm以上が好ましい。また、非可撓性基板では市販状況から10μm以上で、再利用し易いためには40μm以上が好ましい。耐熱性樹脂層を基板層に形成するには、耐熱性樹脂の溶液やペーストを塗布する方法、印刷する方法、具体的にはスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、その他の公知の塗布方法が利用でき、塗布後乾燥して耐熱性樹脂層とする。Al層と触媒層は薄膜形成するため、物理的蒸着法、化学的蒸着法、スパッタリング法、溶液塗布法などその他の公知の塗布方法が利用できる。
【0045】
図3は、本発明に係る四層型触媒基体を用いてCNTを製造する概略手順と、得られた基板炭化層付きCNTの概略構成図である。四層型触媒基体1は、図示しないベルト面上に載置され、前記四層型触媒基体1を上方から覆うように反応室が配置されており、反応室とベルト面とは接触しないように隙間が開けら、外気と大気圧で連通している。従って、反応圧力は大気圧である。四層型触媒基体1の基板層2の大きさは20mm×20mmの平板である。反応室に収容された四層型触媒基体1は680℃で10分間だけ予熱される。予熱時間の10分が経過してから、680℃に保持された反応室中に、キャリアガスとしてHeを245sccmの流量で流通させ、原料ガスとしてC2H2を14sccmの流量で流通させる。反応時間は10分間であり、この10分間でCNTが触媒層8の上面に合成される。反応時間が経過するとキャリアガスと原料ガスの供給は遮断され、CNT合成は停止される。CNT合成反応の結果、基板層2の上には炭化層10を介してCNT層12が形成されており、この全体を基板炭化層付きCNT14と称する。触媒層8はFe層であり、合成温度でFe層はAlの微粒子化促進作用によりAlに包まれて均一なFe触媒微粒子に変化する。この触媒微粒子はCNTの根元に残ってCNTは上方へ伸長する。触媒層8はCNTに組み込まれながらCNT層へと変化する。AlはCNTに組み込まれずにCNT根元の外に残る。また、耐熱性樹脂層4は高温環境により分解気散しながら炭化層10へと変化する。この炭化層10は炭素だけからなる層で、C層といってもよいし、炭素膜といってもよい。
【0046】
図4は、本発明に係る四層型触媒SUS基体上に生成されたCNT層の断面SEM写真図である。この写真は、基板層2として50μm厚のSUS基板を使用してCNT合成された写真であるから、四層型触媒基体1を四層型触媒SUS基体と称する。左側写真では、SUS基板層2の上に38μmの高さの配向CNTが成長したCNT層12が合成されている。右側写真は、CNT層12の一部の拡大写真であり、多少ジグザグしているが、CNT層全体としては配向CNTが合成されている。
【0047】
図5は、本発明に係る四層型触媒SUS基体上に生成されたCNTのTEM写真と直径分布図である。左側写真から分かるように、合成されたCNTは多層CNT(写真中ではMWNTと表記)であり、断面直径は約20nmである。右側写真は、多数のCNTの断面直径を計測して得られたCNTの直径分布図である。平均直径は11.6nmであった。良質のCNTが得られることが実証された。
【0048】
[実施例1〜9:ポリイミド樹脂]
表1は、基板の材質・厚さ及び耐熱性樹脂層(ポリイミド樹脂)の厚さを変えたときに生成されたCNTの評価を与えている。基板の材質は、SUS、チタン、ニッケル、インコネル、ハステロイ、アロイ、シリコン及びセラミックの8種類で、20mm×20mmの正方形基板である。基板厚さは表1の通りである。耐熱性樹脂として耐熱温度が550℃のポリイミド樹脂が使用された。耐熱性樹脂層厚は5μmと10μmの2種類に設定され、スピンコート法が使用された。Al層厚は10nmで、スパッタリング法で蒸着された。Fe層からなる触媒層厚は4nmに設定され、スパッタリング法で蒸着された。反応条件は、図3で説明された条件と全く同様である。即ち、四層型触媒基体1は、予熱温度680℃で10分間保持され、その後に、He流量が245sccm、C2H2流量が15sccm、合成温度680℃、大気圧条件下で10分間だけCNT合成を行った。合成されたCNTの評価は4段階で行われた。◎は良質、○は普通、△はやや不十分、×は不十分である。表1に示す通り、全て普通以上の評価が得られる結果となった。従って、基板の種類を変更してもポリイミド樹脂を使用した場合には、良好なCNT合成が行われることが分かった。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例10〜18:全芳香族ポリエステルとポリアミドイミド]
表2は、基板の材質・厚さ及び耐熱性樹脂層の厚さを変えたときに生成されたCNTの評価を与えている。使用された樹脂は、全芳香族ポリエステル樹脂とポリアミドイミド樹脂の二通りである。基板の材質は表1と同様に、SUS、チタン、ニッケル、インコネル、ハステロイ、アロイ、シリコン及びセラミックの8種類で、20mm×20mmの正方形基板である。基板厚さは表2の通りである。耐熱性樹脂として耐熱温度が400℃の全芳香族ポリエステル樹脂とポリアミドイミド樹脂が使用された。耐熱温度がポリイミド樹脂より150℃低いため、耐熱性樹脂層厚はやや大きめに10μmと15μmの2種類に設定され、スピンコート法が使用された。Al層厚は10nmで、スパッタリング法で蒸着された。Fe層からなる触媒層厚は4nmに設定され、スパッタリング法で蒸着された。反応条件は、樹脂の耐熱温度が低いため、予熱温度及び反応温度ともに600℃に設定された。四層型触媒基体1は、予熱温度600℃で10分間保持された。合成温度が低いため、He流量が300sccm、C2H2流量が20sccmと流量を増加した。合成温度600℃、大気圧条件下で13分間だけCNT合成を行った。合成温度がやや低いために合成時間は13分間と増加された。合成されたCNTの評価は4段階で行われた。◎は良質、○は普通、△はやや不十分、×は不十分である。表2に示す通り、普通が6例で、やや不十分が3例であった。表1と比較して全体的に評価が低下したのは、樹脂の耐熱温度が400℃と低く、それに応じて合成温度を600℃と低下させたことが主たる理由と考えられる。
【0051】
【表2】

【0052】
図6は、本発明に係る基板炭化層付きCNTから炭化層付きCNTを製造する製造手順図である。図3によって製造された基板炭化層付きCNT14から基板層2を分離することによって、基板層2と炭化層付きCNT16に2分割される。分離方法には機械的分離方法が最も効率がよく、例えばスクレイパーで炭化層付きCNT16を基板層2から剥離する。炭化層10と基板層2との接合力は弱く、簡単に剥離することができる。従って、分離された基板層2の表面は秀麗であり、再度のCNT合成に利用できる長所を有している。本発明は、基板の再利用を初めて可能にしたもので、今後のCNT合成の価格低下を招来することが可能になった。また、炭化層10はCNT層の土台になり、CNT層がバラけることを防止する作用をする。
【0053】
図7は、本発明に係る炭化層付きCNTからCNTを製造する製造手順図である。基板層2を分離して得られる炭化層付きCNT16はCNT層12の根元に土台となる炭化層10が存在する構成を有する。この炭化層付きCNT16を大量に回収して大気に開放された燃焼容器内に堆積する。燃焼容器の外周に加熱装置を配置し、この加熱によってエッジの多い炭化層12は燃焼し、CO2になって気散する。その結果、燃焼容器内には炭化層10を消失したCNT層12だけが残留し、CNTを簡単に精製回収することが可能になった。CNT層の耐熱性は極めて高いから、燃焼温度が400℃〜500℃程度であれば、CNTへの影響は全くないことが実証された。
【0054】
[実施例20〜28:CNT評価、ポリイミド]
表3は、表1の実施例1〜9から得られるCNTの評価の表である。表1は、耐熱性樹脂としてポリイミドを使用した場合の実施例を示すことは前述した通りである。表3は3種類のCNTの評価を与えている。即ち、基板炭化層付きCNT14、炭化層付きCNT16及び分離されたCNT層12におけるCNTの評価を示している。基板炭化層付きCNT14の評価とは、表1の評価と同一である。炭化層付きCNT16の評価とは、基板炭化層付きCNT14から基板層2を分離した際にCNTへの影響を考慮した評価である。CNT層12の評価とは、炭化層付きCNT16から炭化層を燃焼気散させて得られるCNT層12の評価であり、燃焼によるCNT層への影響を考慮した評価である。結果として、炭化層付きCNTの評価と燃焼分離CNTの評価は、基板炭化層付きCNTの評価とほぼ同様であった。このことは、基板の分離や炭化層の燃焼気散がCNTに与える影響はほとんどないということを示している。
【0055】
【表3】

【0056】
[実施例29〜37:CNT評価:全芳香族ホ゜リエステル、ホ゜リアミト゛イミト゛]
表4は、表2の実施例10〜18から得られるCNTの評価の表である。表2は、耐熱性樹脂として全芳香族ポリエステル及びポリアミドイミドを使用した場合の実施例を示すことは前述した通りである。表4は3種類のCNTの評価を与えている。即ち、基板炭化層付きCNT14、炭化層付きCNT16及び分離されたCNT層12におけるCNTの評価を示している。基板炭化層付きCNT14の評価とは、表1の評価と同一である。炭化層付きCNT16の評価とは、基板炭化層付きCNT14から基板層2を分離した際にCNTへの影響を考慮した評価である。CNT層12の評価とは、炭化層付きCNT16から炭化層を燃焼気散させて得られるCNT層12の評価であり、燃焼によるCNT層への影響を考慮した評価である。結果として、炭化層付きCNTの評価と燃焼分離CNTの評価は、基板炭化層付きCNTの評価とほぼ同様であった。従って、基板の分離や炭化層の燃焼気散がCNTに与える影響はほとんどないということができる。
【0057】
【表4】

【0058】
図8は、本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無に依存したCNTの断面SEM写真図であり、基板層としてSUS基板層を使用した。耐熱性樹脂層の典型例であるポリイミド層を使用した場合(四層型触媒基体)と、全く耐熱性樹脂層を形成しない場合(三層型触媒基体)を比較検討した。上側の写真が、ポリイミド層有りでCNT合成した四層型触媒基体の断面SEM像で、下側の写真が、ポリイミド層無しでCNT合成した三層型触媒基体の断面SEM像である。ポリイミド層有りの場合には、配向CNTが秀麗に直立成長していることが分かる。他方、ポリイミド層無しの場合には、短いCNTがランダムに形成されてはいるが、配向CNTは全く合成されていないことが分かる。この結果から、ポリイミド層を典型例として示したが、耐熱性樹脂層がSUS基板層への配向CNT合成に有効であることが実証された。
【0059】
図9は、本発明に係る四層型触媒SUS基体の加熱時間に依存した断面SEM写真図である。ここで四層型触媒SUS基体とは、基板層としてSUS基板層を使用した四層型触媒基体を意味する。まず、右上の図から分かるように、SUS基板層にポリイミド層とAl層と触媒層を積層した四層型触媒SUS基体を(1)及び(2)の2個用意する。この実験では、Heガスだけを流通させ、原料ガスであるC2H2ガスは流通させないから、CNTは合成されない。パターン(1)では、四層型触媒SUS基体を合成温度である680℃まで加熱して10分間保持した後に室温にまで冷却する。前述したCNT合成実験では、四層型触媒SUS基体を680℃まで加熱して10分間だけ予熱し、その後にC2H2ガスを流通させたから、パターン(1)は合成開始直前の四層型触媒SUS基体の状態を確認するために作成した。他方、パターン(2)では、基体を680℃まで加熱して30分間保持した後、室温まで冷却した。パターン(1)、(2)の温度制御で、ポリイミド層がどのように変化するかを確認した。
【0060】
図9において、左上の写真は、加熱する前の(1)、(2)の四層型触媒SUS基体の断面SEM像である。50μmのSUS基板層の上に5μmのポリイミド層が形成されている。10nmのAl層と4nmの触媒層は薄層のため写真には現れていない。左下写真はパターン(1)の680℃・10分保持した断面SEM像、右下写真はパターン(2)の680℃・30分保持した断面SEM像を示している。加熱前に5μmの厚さを有したポリイミド層は、パターン(1)では加熱分解により減少しているが、10分経過後でも少し残留している。他方、パターン(2)のポリイミド層は30分間の加熱分解により完全に消失している。但し、パターン(2)では、C2H2ガスは通気していないから、ポリイミド層は炭化層には変化せず、ほぼ完全にポリイミド層は消失している。但し、実際には、10分間の予熱後に、C2H2という還元性ガスを通気するから、薄く残留したポリイミド層が炭化され、炭化層へと変化する。この炭化層の出現が本発明では極めて重要であることは上述した通りである。従って、予熱直後の時点でポリイミド層が存在することが本発明の重要点である。
前述したCNT合成実験では、680℃・10分間予熱、その後の10分間合成により秀麗な配向CNTが製造できた事実があるから、10分間予熱直後の時点で、ポリイミド層で代表される耐熱性樹脂層が残留していることが、基板層と触媒層間の断熱及び配向CNT合成に極めて重要であることが判明した。また、耐熱性樹脂の種類により耐熱温度は変化するから、耐熱温度が低い場合には耐熱樹脂層厚さを厚くし、耐熱温度が高い場合には耐熱樹脂層厚さを薄くすることができることを意味している。つまり、耐熱樹脂層厚さは耐熱温度の減少関数と考えてよい。
【0061】
図10は、本発明に係る四層型触媒SUS基体の加熱時間に依存した断面SEM写真と表面AFM像の比較説明図である。図10の左上のSEM写真と右上のSEM写真は、図9の左下のSEM写真と右下のSEM写真と夫々同一である。図10の左下のAFM像は図9のパターン(1)の表面AFM像であり、図10の右下のAFM像は図9のパターン(2)の表面AFM像である。左下及び右下のAFM像は、共に1μm×1μmの領域を示している。パターン(1)では、ポリイミド層が薄く残留しているため、表面が凹凸のある多孔質状になっていることが分かる。他方、パターン(2)では、ポリイミド層が消失しているため、鉄触媒と考えられる微小触媒粒子が均一な大きさで存在していることが分かる。即ち、10分間の加熱ではポリイミド層の残留により表面凹凸状になり、10分間以上の加熱により、いずれかの時点でポリイミド層は完全に消失し、表面凹凸形状は次第に均一な触媒微粒子状へと変化する。この均一触媒微粒子が配向CNTの合成に重要である。
【0062】
図11は、本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無と加熱時間に依存した表面AFM像図である。ポリイミド層がある場合とポリイミド層が無い場合について、パターン(1)とパターン(2)を比較する実験を行った。勿論、Heガスを通気させるだけで、還元性ガスであるC2H2ガスは通気させていない。上側がポリイミド層有りの場合で、下側がポリイミド層無しの場合である。ポリイミド層有りの場合には、ポリイミド層が消失した後に、鉄触媒が均一で小さな触媒微粒子の状態を維持していることが分かる。他方、ポリイミド層が無い場合には、680℃で10分間保持しただけで粒子径が不均一に比較的に大きくなり、30分間保持すると不均一度が急激に高まり、触媒粒子は急激に増大していることが分かった。ポリイミド層有りと無しの両者を対比すると、その違いは明らかである。ポリイミド無しの場合において、触媒粒子は不均一性と団子状の凹凸を示しているから、配向CNTは到底合成できないことを物語る。
【0063】
図12は、本発明に係る耐熱性樹脂層(ポリイミド層)の有無に依存したCNT成長の比較モデル説明図である。ここでは、図8〜図11の実験結果から得られる耐熱性触媒層の配向CNT合成に与える作用効果をまとめる。図12の上側はポリイミド層がある場合、下側はポリイミド層が無い場合の説明図である。まず上側図において、ポリイミド層を典型例とする耐熱性触媒層は強力な耐熱性を示し、加熱によって触媒層が微粒子となる高温でも凹凸のある多孔性の触媒微粒子構造を与える。この多孔質構造が四層型触媒基体の表面エネルギーを調整することで触媒微粒子の凝集を防ぎ、均一な触媒微粒子を形成する。C2H2を流通させる直前時点でも、まだポリイミド層は残留している。その後、炭素源となるC2H2を触媒微粒子に供給すると、触媒微粒子をもとにCNTが合成される。残留していたポリイミド層は炭化層へと変化する。他方、図12の下側図のポリイミド層が無い場合には、加熱すると、触媒の凝集作用が強く、触媒粒子径がどんどん大きくなり、また大きさや粒子間隔も不均一になる。そのため、炭素源となるC2H2を供給しても全ての触媒が活性ではなくなり、配向CNTが合成されないと考えられる。以上の説明は、耐熱性樹脂としてポリイミドを例にとって説明したが、他の耐熱性樹脂でも同様の作用効果を奏することが、本発明において確認されている。耐熱温度が400℃以上であればよく、500℃以上であれば更に好適であることは言うまでもない。
【0064】
図13は、本発明に係る四層型触媒基体ベルトの製造説明図とこれを用いたCNT連続製造装置の構成図である。(13A)は四層型触媒基体ベルト製造装置の説明図であり、(13B)はCNT連続製造装置の説明図である。まず、(13A)において、19は四層型触媒基体ベルト製造装置、28は耐熱性樹脂層形成手段、30はAl層形成手段、32は触媒層形成手段、43は金属製の基板ベルト、44は四層型触媒基体ロール、45は四層型触媒基体ベルト、46は基板ロールである。より具体的には、耐熱性樹脂層形成手段28は耐熱性樹脂溶液を基板ベルト表面に薄膜形成する手段で、例えばスプレー手段、スピンコート手段等である。Al層形成手段30は蒸着装置で、物理的蒸着装置や化学的蒸着装置などである。触媒層形成手段32は触媒物質の蒸着装置で、物理的蒸着装置や化学的蒸着装置などである。基板ベルト46はSUS基板ベルトのように薄い金属製フィルムで、基板ロール46に卷回されている。基板ベルト43を基板ロール46から四層型触媒基体ロール44に張設し、四層型触媒基体ロール44を駆動ロールとして矢印e方向に回転させると、基板ロール46も矢印e方向に回転する。この回転により基板ベルト43は矢印d方向に走行する。基板ベルト43の表面に耐熱性樹脂層形成手段28により耐熱性樹脂層を形成して乾燥させ、この耐熱性樹脂層の上にAl層形成手段30によりAl層を形成し、最後に前記Al層の上に触媒層形成手段32により触媒層を形成して、四層型触媒基体ベルト45が完成する。この四層型触媒基体ベルト45は四層型触媒基体ロール44により卷回してロール状に回収される。従って、長尺の四層型触媒基体ベルト45からなる四層型触媒基体ロール44が製造される。
【0065】
次に、CNT連続製造装置20を示す図13の(13B)を説明する。10は炭化層、12はCNT層、14は基板炭化層付きCNT、16は炭化層付きCNT、34はCVD反応手段、36はCNT分離手段、38はCNT回収手段、40は炭化層燃焼手段、44は四層型触媒基体ロール、45は四層型触媒基体ベルト、48は回収ロールである。まず、(13A)で完成した四層型触媒基体ロール44から四層型触媒基体ベルト45を引き出して回収ロール48に卷回して張設する。回収ロール48を駆動軸にして矢印g方向に回転させると、四層型触媒基体ロール44も矢印g方向に回転し、四層型触媒基体ベルト45は矢印f方向に走行する。CVD反応手段34により、四層型触媒基体ベルト45の表面にCNT層12を合成し、CNT層12が形成された四層型触媒基体ベルト45が基板炭化層付きCNT14として形成される。CNT分離手段36により基板炭化層付きCNT14から炭化層付きCNT16を剥離し、基板ベルト43が回収ロール48に卷回回収されて、(13A)の基板ロール46として再利用される。炭化層付きCNT16は簡単に分離するから、基板ベルト43の表面は秀麗であり、そのまま再利用することができる。他方、分離された炭化層付きCNT16はCNT回収手段38に落下し、炭化層燃焼手段40の中に堆積回収される。炭化層燃焼手段40は大気に開放されており、図示しない加熱手段により炭化層付きCNT16は加熱される。この加熱により耐熱性の高いCNT層12は変化しないが、炭化層10はCO2になってガス化し、大気中に気散してゆく。その結果、炭化層燃焼手段40の中には、炭化層10の無い純粋の高配向したCNT層が大量に収容されることになる。
【0066】
[実施例41、42:図13の燃焼分離法によるCNT評価]
表5は、図13により製造されたSUSベルト製造法による燃焼分離されたCNTの評価表である。CVD反応手段34のCVD条件は、680℃・10分間の予熱過程と、Heガスが245sccm、C2H2ガスが15sccmで10分間のCNT合成過程である。SUSベルト走行速度は10cm/minであり、合成は大気圧下で実施された。更に、炭化層燃焼手段40内では、燃焼温度500℃、大気中燃焼で、燃焼時間は10分間であった。使用触媒構成とSUSベルト厚は実施例1と実施例2で示された条件と同一である。その結果、基板炭化層付きCNT14、炭化層付きCNT16及び最終分離されたCNT層12の品質評価は全て良質であった。本発明の装置方法の優秀性が実証された。
【0067】
【表5】

【0068】
図14は、本発明に係る四層型触媒基体を無端ベルトに適用したCNT連続製造装置の説明図である。符号説明は図13と同様であるから、ここでは図符号の説明は省略する。基板ベルト43からなる無端ベルト26は駆動ローラ22と従動ローラ24の間に卷設されている。駆動ローラ22が矢印a方向に回転すると、従動ローラ―24も矢印a方向に回転し、無端ベルト26は矢印b方向に走行する。矢印b方向に走行する過程で、無端ベルト26は耐熱性樹脂層形成手段28により耐熱性樹脂層を形成され、次に前記耐熱性樹脂層の上にAl層形成手段30によりAl層が形成され、更に前記Al層の上に触媒層形成手段32により触媒層が形成され、無端ベルトが四層型触媒基体ベルト45に変化する。四層型触媒基体ベルト45が矢印c方向に走行する過程で、CVD反応手段34により触媒層の表面にCNT層12が合成され、四層型触媒基体ベルト45は基板炭化層付きCNT14に変化する。CNT分離手段36は、前記基板炭化層付きCNT14から炭化層付きCNT16を剥離し、基板炭化層付きCNT14は基板ベルト43と炭化層付きCNT16に分離する。基板ベルト43は矢印b方向に走行して前記CNT製造工程に入るために再利用される。他方、分離された炭化層付きCNT16はCNT回収手段38に落下し、炭化層燃焼手段40の中に堆積回収される。炭化層燃焼手段40は大気に開放されており、図示しない加熱手段により炭化層付きCNT16は加熱される。この加熱により耐熱性の高いCNT層12は変化しないが、炭化層10はCO2になってガス化し、大気中に気散してゆく。その結果、炭化層燃焼手段40の中には、炭化層10の無い純粋の高配向したCNT層が大量に収容されることになる。
【0069】
[実施例43、44:図14の燃焼分離法によるCNT評価]
表6は、図14により製造された無端SUSベルト製造法による燃焼分離されたCNTの評価表である。CVD反応装置34のCVD条件は、図13と全く同様で、680℃・10分間の予熱過程と、Heガスが245sccm、C2H2ガスが15sccmで10分間のCNT合成過程である。SUSベルト走行速度は10cm/minであり、合成は大気圧化で実施された。更に、炭化層燃焼手段40内では、燃焼温度500℃、大気中燃焼で、燃焼時間は10分間であった。使用触媒構成とSUSベルト厚は実施例1と実施例2で示された条件と同一である。
【0070】
【表6】

【0071】
表6に示すように、基板炭化層付きCNT14、炭化層付きCNT16及び最終分離されたCNT層12の品質評価は全て良質であった。本発明の無端ベルト装置方法の優秀性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明においては、基板層の上に耐熱性樹脂層を形成し、この耐熱性樹脂層の上にAl層と触媒層を形成した四層型触媒基体を提案し、特に400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂層を形成することによって、CNT合成時に耐熱性樹脂層が基板層を熱的に保護しながら、触媒層上に秀麗な配向CNTを合成でき、しかもCNTを分離回収しても基板層表面は合成前の状態を保持できるから、基板層の再利用を実現することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 四層型触媒基体
2 基板層
4 耐熱性樹脂層
6 Al層
8 触媒層
10 炭化層
12 CNT層
14 基板炭化層付きCNT
16 炭化層付きCNT
19 四層型触媒基体ベルト製造装置
20 CNT連続製造装置
22 駆動ローラ
24 従動ローラ
26 無端ベルト
28 耐熱性樹脂層形成手段
30 Al層形成手段
32 触媒層形成手段
34 CVD反応手段
36 CNT分離手段
38 CNT回収手段
40 炭化層燃焼手段
43 基板ベルト
44 四層型触媒基体ロール
45 四層型触媒基体ベルト
46 基板ロール
48 回収ロール
101 触媒基体
102 シリコン基板層、SUS基板層
104 エポキシ樹脂層
105 Al2O3層
106 Al層
108 触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板層の上に耐熱性樹脂層を形成し、前記耐熱性樹脂層の上にAl層を形成し、前記Al層の上にCNT合成用の触媒層を形成したことを特徴とするCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項2】
前記四層型触媒基体がCNT合成のために還元性雰囲気の高温環境に配置されたとき前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化する請求項1に記載のCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項3】
前記基板は、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物、金属、合金を含む材料からなり、600℃〜900℃のCNT合成温度で耐熱性を有する材料から形成される請求項1又は2に記載のCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂層は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂、その他の炭素骨格樹脂を含む材料からなり、400℃以上の耐熱温度を有した耐熱性樹脂から形成される請求項1、2又は3に記載のCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項5】
前記触媒層はFe、Co、Ni、Mo、Ptを含む遷移金属の一種以上から形成される請求項1〜4のいずれかに記載のCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項6】
前記基板層がベルト状に形成された金属製の基板ベルトであり、前記基板ベルトの上に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層を積層して四層型触媒基体ベルトを構成した請求項1〜5のいずれかに記載のCNT製造用の四層型触媒基体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載されたCNT製造用の四層型触媒基体を反応室に配置し、反応室内をCNT合成温度に加熱して、原料ガスを前記四層型触媒基体の触媒層の表面に接触させ、前記触媒層の表面にCNTを成長させることを特徴とするCNT製造方法。
【請求項8】
前記四層型触媒基体を前記四層型触媒基体ベルトで構成し、前記四層型触媒基体ベルトを前記反応室内に搬送させながら、前記触媒層の表面にCNTを成長させ、前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを大量合成する請求項7に記載のCNT製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のCNT製造方法により製造され、前記合成温度により前記耐熱性樹脂層が炭化層に変化し、前記Al層と前記触媒層が合成されたCNTからなるCNT層に組み込まれ、前記基板層の上に前記炭化層と前記CNT層がこの順に積層されたことを特徴とする基板炭化層付きCNT。
【請求項10】
請求項9に記載の基板炭化層付きCNTから基板層を剥離して得られ、前記炭化層の上に前記CNT層が配置されたことを特徴とする炭化層付きCNT。
【請求項11】
請求項10に記載の炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で加熱して前記炭化層を燃焼気散させ、前記CNT層だけをCNTとして回収することを特徴とするCNT回収方法。
【請求項12】
請求項6に記載された基板ベルトを駆動ローラと従動ローラの周囲に卷回して無端ベルトを構成し、前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトの表面にCNTを合成するCVD反応手段を配置して、前記四層型触媒基体ベルトを走行させながら前記四層型触媒基体ベルト上にCNT層を形成し、前記CNT層を形成した前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層と前記Al層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有することを特徴とするCNT連続製造装置。
【請求項13】
請求項6に記載された基板ベルトを卷回した基板ロールと、前記基板ロールから送出される前記基板ベルトの表面に前記耐熱性樹脂層、前記Al層及び前記触媒層をこの順に積層して前記四層型触媒基体ベルトを形成する耐熱性樹脂層形成手段、Al層形成手段及び触媒層形成手段を配置し、形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回して回収する四層型触媒基体ロールを有することを特徴とする四層型触媒基体ロールの製造装置。
【請求項14】
請求項13に記載された四層型触媒基体ロールと、前記四層型触媒基体ロールから送出される前記四層型触媒基体ベルトの表面に前記CNT層を形成するCVD反応手段を配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトを卷回して回収する回収ロールを配置し、前記CNT層を形成された前記四層型触媒基体ベルトでは、前記触媒層と前記Al層がCNTに組み込まれた前記CNT層が、前記耐熱性樹脂層が変化した炭化層を介して前記基板ベルト上に積層された形態を有することを特徴とするCNT連続製造装置
【請求項15】
前記基板ベルトから、前記CNT層が前記炭化層と一体に積層された炭化層付きCNTを分離回収する分離手段を設け、前記炭化層付きCNTを酸化雰囲気中で燃焼気散させて前記CNT層だけを回収する炭化層燃焼手段を設ける請求項12又は14に記載されたCNT連続製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−166988(P2012−166988A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30140(P2011−30140)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月14日 社団法人応用物理学会発行の「2010年(平成22年)秋季 第71回応用物理学会学術講演会 公式ガイドブック」に発表
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】