説明

CSD塗布膜除去用組成物及びこれを用いたCSD塗布膜除去方法並びに強誘電体薄膜とその製造方法

【課題】基板の外周端部の膜をクラックや局部剥がれを生じることなく除去して、パーティクルの発生を防止することができるCSD溶液塗布膜除去用組成物及びこれを用いた強誘電体薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】β-ジケトン類、β‐ケトエステル類、多価アルコール類、カルボン酸類、
アルカノールアミン類、α‐ヒドロキシカルボン酸、α‐ヒドロキシカルボニル誘導体、およびヒドラゾン誘導体から選ばれる1種あるいは2種以上の有機溶剤と、水とを含むCSD塗布膜除去用組成物を噴射又は滴下して、CSD塗布膜の外周端部を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料溶液を塗布焼成してPZT膜、SBT膜等の強誘電体薄膜を形成するゾルゲル法等のCSD法において、原料溶液の塗布膜の外周端部を除去するために使用されるCSD塗布膜除去用組成物及びこれを用いて塗布膜の外周端部を除去する方法並びに強誘電体薄膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やSBT(タンタル酸ビスマスストロンチウム)等の強誘電体は、ペロブスカイト型結晶構造を有し、キャパシタや強誘電体メモリ(FeRAM)等のデバイスへの応用が期待されている。これら強誘電体からなる薄膜の成膜法としてゾルゲル法、MOD(Metal Organic Decomposition)法、あるいはこれらを併用した方法など、CSD(Chemical Solution Deposition)法と呼ばれる化学溶液堆積法がある(特許文献1,2参照)。
【0003】
ゾルゲル法は、金属アルコキシドからなるゾル(原料溶液)を基板に塗布して塗布膜を形成し、加水分解・重縮合反応により流動性を失ったゲル状塗膜とし、このゲル状塗膜を加熱焼成して酸化物膜(強誘電体薄膜)を形成する方法である。基板(ウエハー)上に原料溶液の塗布膜を形成する技術としては、基板を原料溶液に浸漬するディップコート法、ロールコート法、基板を回転させながら原料溶液を供給して成膜するスピンコート法等がある。このうち、特にスピンコート法の場合、基板の外周端部で膜が厚くなり易く、基板の裏面にも回り込む現象が生じ易い。
【0004】
ゾルゲル法等(以下ではCSD法と総称し、その溶液を原料溶液と称す)においては、膜厚が厚すぎると、熱処理後の膜にクラックが入りやすく、このクラックで剥がれた膜がパーティクルとなり、デバイスの歩留まりが低下する原因となり得る。このため、基板の外周端部の塗布膜は熱処理する前に除去する方法が取られる。
【0005】
また、PZT等の鉛系ペロブスカイト型酸化物を形成する場合には、PZT膜の下部層としてPt等が使われるが、基板端部ではSiO2(基板の素材)が剥き出しの構造のものもよく使われている。PZT膜とSiO2とが接触する場合には、PZT膜は薄くてもクラックが発生し易いため、この場合も基板の外周端部は熱処理する前に塗布膜を除去するという方法が取られる。
【0006】
基板の外周端部の塗布膜を除去する方法として、原料溶液を塗布した後に、基板を回転させながら基板の外周端部に有機溶剤を接触させるエッジビードリンス(EBR)と称する方法がある。
特許文献3及び特許文献4は、基板表面に形成したフォトレジスト層をEBRで除去する方法について示されており、その除去のためのリンス液としてシンナー組成物が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001‐72926号公報
【特許文献2】特開2002‐29752号公報
【特許文献3】特表2005‐227770号公報
【特許文献4】特開2007‐324393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、CSD法において塗布膜に有機溶剤を噴射してEBRを施す場合、噴射領域近傍の膜断面形状の制御が非常に難しい。すなわち、部分的に膜が厚くなった箇所では加熱処理後においてクラックが発生し、またこのクラックの発生に伴って局部的に膜剥がれが生じることがあり、パーティクルの原因となっていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、CSD法において、基板の外周端部の膜をクラックや局部剥がれを生じることなく除去して、パーティクルの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のCSD塗布膜除去用組成物は、β-ジケトン類、β‐ケトエステル類、多価アルコール類、カルボン酸類、アルカノールアミン類、α‐ヒドロキシカルボン酸、α‐ヒドロキシカルボニル誘導体、およびヒドラゾン誘導体から選ばれる1種あるいは2種以上の有機溶剤と、水とを含む。
【0011】
CSD法において原料溶液による塗布膜の一部を除去する場合、一般的には、その原料溶液に使用されている溶媒を用いるものと考えられる。この原料溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等が使用されている。しかしながら、原料溶液を塗布した後に基板の外周端部の塗布膜の除去のために外周端部にメタノール、エタノール、ブタノール等の溶媒を噴射又は滴下すると、噴射又は滴下領域近傍において加熱処理後にクラックや局部剥がれが生じ易い。
【0012】
その原因は次のように考えられる。すなわち、これらメタノール、エタノール、ブタノール等の溶媒は、原料溶液によるゲル状塗膜に噴射又は滴下されると、ゲル状塗膜に浸透する。この溶媒の浸透により溶けた膜の一部が、遠心力で半径方向外方に向けて引き剥がされる。このとき、溶媒の半径方向内方への浸透と、溶けた膜の半径方向外方への伸びとが相互に影響し合い、両者の作用力のばらつき等により、噴射又は滴下領域近傍の膜厚が不均一になる。このため、加熱処理後に噴射又は滴下領域近傍にクラックや局部剥がれが生じるものと想定される。
【0013】
これに対して、このゲル状塗膜を本発明の水および安定化剤としての有機溶剤を含んだ除去用液によって除去すると、水は膜への浸透力が小さいため、噴射又は滴下した箇所から半径方向外方位置の膜が部分的に厚くなることがなく、クラックや局部剥がれを防止することができる。またこの場合、原料溶液には加水分解性があるが、原料溶液の金属アルコキシドを安定化させる効果のある有機溶剤を水に加えることにより、除去された原料溶液の加水分解を抑制して沈殿物の生成を防止し、沈殿物による作業環境の汚染を防止することができる。
【0014】
本発明のCSD塗布膜除去用組成物において、前記有機溶剤と前記水との混合重量比が50:50〜5:95であるとよく、さらに30:70〜10:90とするのがより好ましい。
除去用組成物は原料溶液の塗布膜に触れるものであるため、有機溶剤を過剰に加えることなく、原料溶液の加水分解による沈殿物の精製を防止し得るに足る適量とし、水を主成分とした組成物とすることにより、塗布膜の膜特性を変化させないようにする。
【0015】
本発明のCSD塗布膜除去用組成物において、前記β‐ジケトンがアセチルアセトンであり、前記β‐ケトエステルが3‐オキソブタン酸メチル及び/又は3‐オキソブタン酸エチルであり、前記多価アルコールがプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上であり、前記カルボン酸類が酢酸、プロピオン酸、酪酸から選ばれる1種又は2種以上であり、前記アルカノールアミン類がモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれる1種又は2種以上であり、前記α−ヒドロキシカルボン酸が乳酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸から選ばれる1種又は2種以上であり、前記α−ヒドロキシカルボニル誘導体がアセトール、アセトイン、ヒドラゾン誘導体が2−プロパノンヒドラゾンから選ばれる1種又は2種以上であるとよい。
【0016】
本発明のCSD塗布膜除去用組成物は、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種または2種以上の混合溶媒Aと、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、から選ばれる1種または2種以上の混合溶媒Bとを溶媒として含有する原料溶液を塗布して形成された前記塗布膜を除去するとよい。
【0017】
このようなCSD塗布膜除去用組成物を用いて塗布膜を除去する方法は、基板を回転させながらこの基板の外周端部に前記CSD塗布膜除去用組成物を噴射又は滴下して、前記外周端部における前記塗布膜を除去する。
【0018】
そして、本発明の強誘電体薄膜の製造方法は、CSD法において、強誘電体薄膜形成用の有機金属化合物を含有する原料溶液を基板に塗布して塗布膜を形成する工程と、基板を回転させながらこの基板の外周端部に前記CSD塗布膜除去用組成物を噴射又は滴下して、前記基板の前記外周端部における前記塗布膜を除去する工程と、前記塗布膜を加熱処理して強誘電体薄膜を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機溶剤および水を含んだ除去用液によって塗布膜を除去するから、除去した部分にクラックや局部剥がれを生じることなく、平滑な表面とすることができる。また、除去された原料溶液の加水分解を抑制して沈殿物の生成を防止し、沈殿物による作業環境の汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態において基板を回転させながら外周端部の塗布膜を除去する状態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のCSD塗布膜除去用組成物及びこれを用いたCSD塗布膜除去方法並びに強誘電体薄膜の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
この強誘電体薄膜の製造方法は、PZT、PLZTなどのPbを含有するペロブスカイト型酸化物薄膜、SBT、SBTNなどのBiを含有する層状ペロブスカイト形酸化物薄膜を製造する場合に好適であり、有機金属化合物を含有する原料溶液を基板2に塗布してゲル状塗膜(塗布膜)1を形成する工程(原料溶液塗布工程)と、この基板2を回転させながら基板2の外周端部に有機溶剤を含んだ除去用液(塗布膜除去用組成物)を噴射又は滴下して、この外周端部におけるゲル状塗膜1を除去する工程(EBR工程)と、ゲル状塗膜1を加熱処理して強誘電体薄膜を形成する工程(加熱処理工程)とを有する。
【0022】
<CSD法の原料溶液>
使用されるCSD法の原料溶液について説明しておくと、この原料溶液は、原料金属化合物を溶媒により溶解し、安定化剤等を添加したものであり、例えば、PLZT用、SBTN用として以下のものがある。
【0023】
PLZT用原料溶液の原料金属化合物には、鉛化合物及びランタン化合物としては酢酸塩(酢酸鉛、酢酸ランタン)などの有機酸塩並びにジイソプロポキシ鉛などのアルコキシド、チタン化合物としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn‐ブトキシチタン、テトラi‐ブトキシチタン、テトラt‐ブトキシチタン、ジメトキシジイソプロポキシチタンなどのアルコキシドが好ましいが、有機酸塩又は有機金属錯体も使用できる。ジルコニウム化合物はチタン化合物と同様である。2種類以上の成分金属を含有する複合化した金属化合物であってもよい。微量のドープ元素を含有させてもよい。
【0024】
一方、SBTN用のCSD溶液の原料金属化合物には、Sr有機金属化合物としてSrイソプロポキシド、Srブトキシド等のアルコキシド、2‐エチルヘキサン酸Sr等のカルボン酸塩等が挙げられる。Sr有機金属化合物はSrジエチレングリコラート又はSrトリエチレングリコラートであっても良く、従ってこの場合には、溶媒としてのジエチレングリコール又はトリエチレングリコールに金属Srを添加して加熱下反応させることにより、Srジエチレングリコラート又はSrトリエチレングリコラートを生成させても良い。Bi有機金属化合物としては2‐エチルヘキサン酸Bi、Ta有機金属化合物としてはTaジエチレングリコラート又はTaトリエチレングリコラート、Nb有機金属化合物としてはNbジエチレングリコラート又はNbトリエチレングリコラートが用いられる。
【0025】
有機溶媒(溶媒A)としては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種の単独溶媒、又は2種以上の混合溶媒のいずれでも良い。
この有機溶媒と各有機金属化合物を、所望の金属成分濃度となるように、適当な比率で混合する。また、溶液の均質化のために加熱還流することが行われる。
【0026】
このようにして得られた溶液を塗布に適した濃度及び濡れ性とするために、他の溶媒(溶媒B)を使用して濃度調整する。その有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノールから選ばれる1種の単独溶媒、又は2種以上の混合溶媒のいずれでもよい。
なお、溶液中の有機金属化合物の合計濃度は、金属酸化物換算量で0.1〜20重量%程度とするのが好ましい。
【0027】
また、原料溶液中に必要に応じて安定化剤としてβ‐ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)などを、金属に対するモル比で0.2〜3倍程度配合してもよい。
【0028】
<原料溶液塗布工程>
基板2に原料溶液を塗布することにより、基板2の全面にゲル状塗膜1を形成する。
基板材料としては、シリコンウエハ(単結晶)、および白金、ニッケルなどの金属類、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)又はコバルト酸ランタンストロンチウム((LaxSr1-x)CoO3)などのペロブスカイト型導電性酸化物などの被膜を有した、シリコン、ガラス、アルミナ、石英などの基板が挙げられる。
原料溶液を基板2上に塗布する場合、スピンコート法が一般的であるが、噴霧塗布、浸漬塗布など他の塗布法も適用可能である。
【0029】
<EBR工程>
図1(a)に示すように、原料溶液を塗布した後のゲル状塗膜1が形成された基板2を回転させながら、基板2の外周端部に上方のノズル3から有機溶剤及び水を含んだ除去用液(塗布膜除去用組成物、以下EBR用組成物と称す)Wを噴射又は滴下することにより、図1(b)に示すようにゲル状塗膜1の外周端部を除去する。
【0030】
EBR用組成物Wは、有機溶剤と水との混合比が50:50〜5:95であることが好ましい。50:50よりも水の比率が大きいことにより有機溶剤が膜外周端部から膜内部へ浸透してしまうことが抑えられ、有機溶剤浸透により膨潤したゲル膜が熱処理後にクラックしてしまうと現象が抑制できるという効果が得られる。また、5:95よりも水の比率が小さいことにより、基板への原料溶液塗布後の残液とEBR組成物Wが接触した際に、原料溶液中の金属アルコキシドが加水分解して沈殿生成するのを防ぎ、安定な混合液となる。これにより、粉末飛散等によるパーティクル汚染を未然に防ぎ、高品質の膜が得られるという効果が得られる。さらに、EBR用組成物Wにおける有機溶剤と水とのより好ましい混合比は、30:70〜10:90である。混合比をこのように設定することにより、前述の2つの現象(すなわち、有機溶剤の浸透に起因するクラックおよび沈殿生成に起因するパーティクル汚染)を安定的に改善できるという効果が得られる。つまり、有機溶剤を過剰に加えることなく、原料溶液の加水分解による沈殿物の精製を防止し得るに足る適量とし、水を主成分とした組成物とすることにより、塗布膜の膜特性を変化させないようにすることが好ましい。
【0031】
EBR用組成物Wにおいて、有機溶剤は、原料溶液中の金属アルコキシド等、加水分解性化合物の分解による沈殿生成を防ぐ安定化剤として機能する。その有機溶剤としては、酸素、窒素、硫黄といった電子対供与対となりうる原子を分子内に一つあるいは複数有し、金属に配位結合することにより金属化合物を安定化させることのできる化合物、すなわち金属アルコキシドの安定化剤として利用できるものであればよく、具体的にはβ‐ジケトン類、β‐ケトエステル類、多価アルコール類、カルボン酸類、アルカノールアミン類、α‐ヒドロキシカルボン酸、α‐ヒドロキシカルボニル誘導体、およびヒドラゾン誘導体から選ばれる1種の単独溶剤、あるいは2種以上の混合溶剤が用いられる。この場合、β‐ジケトンとしてはアセチルアセトンが用いられる。β‐ケトエステルとしては3‐オキソブタン酸メチル及び/又は3‐オキソブタン酸エチルが用いられる。多価アルコールとしてはプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。カルボン酸類としては酢酸、プロピオン酸、酪酸から選ばれる1種又は2種以上が用いられる。アルカノールアミン類としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。α−ヒドロキシカルボン酸としては乳酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸から選ばれる1種または2種以上が用いられる。α−ヒドロキシカルボニル誘導体としてはアセトール、アセトインが用いられる。ヒドラゾン誘導体としては2−プロパノンヒドラゾンが用いられる。
【0032】
EBR工程における基板2の回転速度としては、例えば、1000〜3000rpmである。EBR用組成物Wの噴射又は滴下の位置は、除去対象の位置に対応して適宜設定すればよい。例えば、基板2の外周縁5mmから半径方向外側を除去する場合、その基板2の外周縁から半径方向内方に5mmの位置にEBR用組成物Wを噴射又は滴下し、その噴射又は滴下位置の外側の5mmの範囲の膜を除去する。噴射又は滴下量としては、ゲル状塗膜1の厚さ等から適宜に設定すればよく、除去対象の範囲に存在するゲル状塗膜1を洗い流すのに十分な量であればよい。上記の回転速度であれば2〜5秒間、EBR用組成物Wを噴射又は滴下し続ければ十分である。
また、このEBR工程においては、外周端部のゲル状塗膜1が流れ易いように、基板2を回転させながら、必要に応じて、ノズル3を半径方向外方に移動させるようにしてもよい。
【0033】
<加熱処理工程>
加熱処理工程は、さらに乾燥工程、仮焼工程、結晶化アニール工程から構成される。
【0034】
(乾燥工程)
外周端部を除去した後のゲル状塗膜1を乾燥させ、溶媒を除去する。この乾燥温度は溶媒の種類によっても異なるが、通常は80〜200℃程度であり、好ましくは100〜180℃の範囲でよい。但し、原料溶液中の金属化合物を金属酸化物に転化させるための次工程の加熱の際の昇温中に、溶媒は除去されるので、塗膜の乾燥工程は必ずしも必要とされない。
【0035】
(仮焼工程)
その後、仮焼工程として、ゲル状塗膜1を乾燥させた後の基板2を加熱し、有機金属化合物を完全に加水分解又は熱分解させて金属酸化物に転化させ、金属酸化物からなる酸化物膜を形成する。この加熱は、一般に加水分解の必要なゾルゲル法では水蒸気を含んでいる雰囲気、例えば、空気又は含水蒸気雰囲気(例えば、水蒸気を含有する窒素雰囲気)中で行われ、熱分解させるMOD法では含酸素雰囲気中で行われる。加熱温度は、金属酸化物の種類によっても異なるが、通常は150〜550℃の範囲であり、好ましくは、300〜450℃である。加熱時間は、加水分解及び熱分解が完全に進行するように選択するが、通常は1分ないし1時間程度である。
【0036】
ゾルゲル法等の場合は、1回の塗布で、ペロブスカイト型酸化物薄膜に必要な膜厚とすることは難しい場合が多いので、必要に応じて、上記の原料溶液塗布工程から仮焼工程までを繰返すことにより、原料溶液を重ね塗りし、その塗布の都度、外周端部についてゲル状塗膜1を除去しながら、所望の膜厚の金属酸化物の膜を得る。
【0037】
(結晶化アニール工程)
このようして得られた酸化物膜は、非晶質であるか、結晶質であっても結晶性が不十分であるので、分極性が低く、強誘電体薄膜として利用できない。そのため、最後に結晶化アニール工程として、その金属酸化物の結晶化温度以上の温度で焼成して、ペロブスカイト型の結晶構造を持つ結晶質の金属酸化物薄膜とする。なお、結晶化のための焼成は、最後に一度で行うのではなく、各塗布した塗膜ごとに、上記の仮焼に続けて行ってもよいが、高温での焼成を何回も繰返す必要があるので、最後にまとめて行う方が経済的には有利である。
【0038】
この結晶化のための焼成温度は通常は500〜800℃の比較的低い温度で良く、例えば550〜700℃である。従って、基板としては、この焼成温度に耐える程度の耐熱性を有するものを使用する。結晶化のための焼成(アニール)時間は、通常は1分から1時間程度であり、焼成雰囲気は特に制限されないが、通常は空気又は酸素である。
【0039】
このようにして形成されたペロブスカイト型酸化物薄膜は、基板の上に均一に形成され、その外周端部においてもクラックや局部剥がれがなく、したがって、パーティクルの付着のない強誘電体薄膜を得ることができる。
【0040】
前述したように、PZT等の鉛系ペロブスカイト型酸化物のように、基板表面のPt層に対して外周端部に基板のSiO2が剥き出しの構造のものの場合、このSiO2の上に塗布されたPZTにクラックが発生し易い。上記製造方法における塗布膜除去方法は、このSiO2のクラックが発生しやすい範囲の膜を除去する方法として有効である。この場合、SiO2の範囲の内周縁よりわずかに内側に水を噴射又は滴下すればよい。
【実施例】
【0041】
次に、Pb含有ペロブスカイト型酸化物としてPLZT、およびBi含有層状ペロブスカイト型酸化物としてSBTNの薄膜をそれぞれ形成して、基板の外周端部の膜を除去し、その表面を観察した実施例および比較例について説明する。
【0042】
Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜(PLZT)用の原料溶液としては以下の組成のものを用いた。
鉛原料として酢酸鉛3水和物、ランタン原料として酢酸ランタン1.5水和物、ジルコニウム原料としてジルコニウムn‐ブトキシド、チタン原料としてチタンテトライソプロポキシドを用い、溶媒Aと、ZrとTiの合計モル数の2倍量のアセチルアセトンを安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流した。その後150℃で減圧蒸留し、副生成物をはじめとした低沸点有機物を除去し、溶媒Bで酸化物換算で10wt%となるように希釈し、各種Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜用CSD溶液を得た。表1にPLZT組成、溶媒A、溶媒Bを記す。
【0043】
【表1】

【0044】
Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物(SBTN)用の原料溶液としては以下の組成のものを用いた。
ビスマス原料として2‐エチルヘキサン酸ビスマス、ストロンチウム原料として2‐エチルヘキサン酸ストロンチウム、タンタル原料としてタンタルペンタエトキシド、ニオブ原料としてニオブペンタエトキシドを用い、溶媒Aと、TaとNbの合計モル数の2.5倍量の2‐エチルヘキサン酸を安定化剤として混合し、150℃で1時間、窒素雰囲気の中で還流した。その後150℃で減圧蒸留し、副生成物をはじめとした低沸点有機物を除去し、溶媒Bで酸化物換算で10wt%となるように希釈し、各種Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜用CSD溶液を得た。表2にSBTN組成、溶媒A、溶媒Bを記す。
【0045】
【表2】

【0046】
また、形成する膜厚が厚くなるほどエッジでのクラックが発生しやすくなる。そのような条件でのエッジクラック発生状況を前述の10wt%溶液と比較するため、前述のPb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜用の原料溶液、およびBi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜用の原料溶液と同様の方法で、25wt%溶液を作製した。表3にPLZT組成、溶媒Aおよび溶媒Bを示す。また、表4に、SBTN組成、溶媒Aおよび溶媒Bを示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
これら原料溶液を用いて、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜(PLZT薄膜)、Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物(SBTN)薄膜を形成した。基板は、直径が4インチのSi基板の表面にSiO2膜を熱酸化により厚さ500nm形成し、その上に外周端部から半径方向内側3mmまでの領域を除きスパッタ法にてPt膜を形成したPt(200nm)/SiO2(500nm)/Si基板とした。
【0050】
(Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜)
まず、予備実験として、表1の溶液A1〜A6を用い、4インチPt/SiO2/Si基板上に2ml噴射し、スピン条件として500rpm×3sec回転した後、3000rpm×15sec回転して基板の全面にコーティングした。その後350℃に加熱したホットプレート上に基板を載せて5分間加熱し、有機物の熱分解を行い、鉛含有酸化物膜を得た。この操作を繰り返し、EBR工程を行わずに計6回塗布を行った後、急速熱処理装置RTA(Rapid Thermal Annealing)により700℃で5分焼成を行い、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。
この実験に使用した基板の最外周部はPtがコーティングされておらず、いずれもPLZT薄膜がSiO2と直接接触している部分は焼成後にクラックが発生した。
【0051】
(実施例1)
次に、実施例1として、同じPt/SiO2/Si基板上に、上記予備実験の方法と同様にして、溶液A1〜A6をスピンコートした後、Pb含有膜とSiO2の焼成時の反応を避けるため、基板をスピンコーターで2500rpmで回転させながら、基板の外周端部から半径方向内側5mmの位置に以下の表5及び表6に示すC1〜C61の各EBR用組成物をそれぞれ噴射してゲル状塗膜を溶解するEBR処理を行った。
【0052】
この基板を上記予備実験と同様にホットプレートに載せて加熱し、外周端部がエッチングされて除去された状態の鉛含有酸化物膜を得た。この操作を繰り返し、都度EBR処理を行いながら計6回原料溶液を塗布し、RTAにより700℃で5分焼成を行い、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。
得られたサンプルは、いずれのEBR用組成物を用いたものもPb含有膜端部にはクラックや膜剥がれは全く発生していなかった。また、このEBR処理によって基板周囲にCSD溶液塗布膜がEBR用組成物とともに飛散するが、これらがゲル状に白濁して付着することはなかった。
【0053】
また、表5に示すD1〜D6の25wt%溶液を使用し、上記同様にC1〜C61の各EBR用組成物によりEBR処理を行い、ホットプレート処理、RTA処理を行い、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。得られたサンプルは、いずれのEBR用組成物を用いたものもPb含有膜端部にはクラックや膜剥がれが全く発生しておらず、EBR時の膜厚が厚くてもクラック等防止の効果があることがわかった。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
(比較例1)
次に、比較例1として、EBR用溶剤として、表5又は表6の各EBR用組成物の代わりにn‐ブタノールを使うこと以外は全て実施例1と同様にして、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。得られたサンプルのPb含有膜端部には、クラックや膜剥がれが発生した。
【0057】
(Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜)
(実施例2)
実施例2として、Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜の場合も、Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜の場合(実施例1)と同様にして、表2の溶液B1〜B6を4インチPt/SiO2/Si基板上にスピンコートした後、基板の外周端部での厚膜化によるクラックを避けるため、基板をスピンコーターで2500rpmで回転させながら、基板の外周端部から半径方向内側5mmの位置に表5及び表6に示すC1〜C61の各EBR用組成物を噴射してゲル状塗膜を溶解し、EBR処理を行った。この基板をPb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜の場合と同様にホットプレート上で加熱し、外周端部がエッチングされた状態のBi含有酸化物薄膜を得た。Pb含有ペロブスカイト型酸化物薄膜の場合と同様にこの操作を繰り返し、計6回原料溶液の塗布を行って、都度EBR処理を行った後、RTAにより800℃で5分焼成を行い、Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。
得られたサンプルは、いずれのEBR用組成物を用いたものもBi含有膜端部にはクラック、膜剥がれは全く発生していなかった。また、基板周囲に飛散した原料溶液塗布膜がゲル状に白濁して付着することはなかった。
【0058】
またE1〜E6の25wt%溶液を使用し、同様にC1〜C61の各EBR用組成物によりEBR処理を行い、ホットプレート処理、RTA処理を行い、Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。得られたサンプルは、いずれのEBR用組成物を用いたものもBi含有膜端部にはクラックや膜剥がれは全く発生しておらず、EBR時の膜厚が厚くてもクラック等防止の効果があることがわかった。
【0059】
(比較例2)
また、比較例2として、EBR用溶剤として、表5又は表6の各EBR用組成物の代わりにn‐ブタノールを使うこと以外は全て実施例2と同様にして、Bi含有層状ペロブスカイト型酸化物薄膜を得た。得られたサンプルのBi含有膜端部には、クラック、膜剥がれが発生した。
【0060】
次に、このようにして得られたサンプル(実施例1,2および比較例1,2)について、米国Veeco Instruments社製の触針式表面形状測定器Dektakを使用して表面の段差を確認したところ、比較例1及び比較例2の各サンプルとも、強誘電体薄膜の外周縁部に1000〜1500μmの幅の範囲で数百nm程度の凹凸が確認されたが、実施例1及び実施例2の各サンプルは100nm以下の微細な段差が認められるだけで、極めて平滑な表面であった。
【0061】
また、水を適量ビーカに入れ、これに表1又は表2の各原料溶液(A1〜A6,B1〜B6)を添加したところ、沈殿物が生じることが確認されたが、表5又は表6に示す各EBR用組成物(C1〜C61)に原料溶液を添加した場合には、白濁するような沈澱物は認められなかった。特に、表5及び表6の中でも、有機溶剤と水との混合比が30:70〜10:90の範囲のEBR用組成物は、原料溶液がEBR用組成物に溶解して無色透明の液体となっていた。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記実施形態ではPLZT膜、SBTN膜を中心に説明したが、CSD法により成膜される他の強誘電体薄膜を形成する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ゲル状塗膜
2 基板
3 ノズル
W CSD塗布膜除去用組成物(除去用液またはEBR用組成物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CSD法における熱処理前の塗布膜を除去するための組成物であって、
β‐ジケトン類、β‐ケトエステル類、多価アルコール類、カルボン酸類、アルカノールアミン類、α‐ヒドロキシカルボン酸、α‐ヒドロキシカルボニル誘導体、およびヒドラゾン誘導体から選ばれる1種あるいは2種以上の有機溶剤と、水とを含むことを特徴とするCSD塗布膜除去用組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤と前記水との混合重量比が50:50〜5:95であることを特徴とする請求項1記載のCSD塗布膜除去用組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤と前記水との混合重量比が30:70〜10:90であることを特徴とする請求項2記載のCSD塗布膜除去用組成物。
【請求項4】
前記β‐ジケトンがアセチルアセトンであり、前記β‐ケトエステルが3‐オキソブタン酸メチル及び/又は3‐オキソブタン酸エチルであり、前記多価アルコールがプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上であり、前記カルボン酸類が酢酸、プロピオン酸、酪酸から選ばれる1種又は2種以上であり、前記アルカノールアミン類がモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれる1種又は2種以上であり、前記α−ヒドロキシカルボン酸が乳酸、マンデル酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸から選ばれる1種又は2種以上であり、前記α−ヒドロキシカルボニル誘導体がアセトール、アセトイン、ヒドラゾン誘導体が2−プロパノンヒドラゾンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のCSD塗布膜除去用組成物。
【請求項5】
プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールから選ばれる1種または2種以上の混合溶媒Aと、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、から選ばれる1種または2種以上の混合溶媒Bとを溶媒として含有する原料溶液を塗布して形成された前記塗布膜を除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のCSD塗布膜除去用組成物。
【請求項6】
CSD法において、原料溶液を基板に塗布して形成された塗布膜を除去する方法であって、
前記基板を回転させながらこの基板の外周端部に請求項1〜5のいずれか一項に記載のCSD塗布膜除去用組成物を噴射又は滴下して、前記外周端部における前記塗布膜を除去することを特徴とするCSD塗布膜除去方法。
【請求項7】
CSD法において、強誘電体薄膜形成用の有機金属化合物を含有する原料溶液を基板に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記基板を回転させながらこの基板の外周端部に請求項1〜5のいずれか一項に記載のCSD塗布膜除去用組成物を噴射又は滴下して、前記基板の前記外周端部における前記塗布膜を除去する工程と、
前記塗布膜を加熱処理して強誘電体薄膜を形成する工程とを有することを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の強誘電体薄膜の製造方法により製造された強誘電体薄膜。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−40708(P2011−40708A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16071(P2010−16071)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】