説明

DNA結合タンパク質の使用

本発明は、特定のプロセスのための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用に関する。前記プロセスは、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、創傷治癒、創床血管形成、上皮化、及び歯や骨の移植における治癒から成る群から選択される。核酸は、HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、細胞の脱分化及び/又は細胞の再プログラム化のため、組織再生のため、組織老化に影響を及ぼすため、及び創傷治癒のための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用;血管新生、血管形成、新血管形成及び経心筋的血管再生のための方法、組織再生及び創傷治癒のための方法、及び組織老化に影響を及ぼすための方法;血管形成、特に、心筋梗塞の際、及び歯や骨の移植における治癒の際の血管形成のための方法;組織再生のための方法;細胞の脱分化及び/又は再プログラム化のための方法;このような核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含む担体材料;及び被覆基材と核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とを含む創傷被覆材料に関する。
【0002】
本発明の各種様相は、本発明に関与するプロセスが各種医療用途に適した細胞の(脱)分化に関連しているように思われる点で共通している。特に本発明は、脊椎動物(好ましくは哺乳動物及びヒト)の血管系、及びそれらの皮膚に適用される。
【背景技術】
【0003】
ヒトの血管系は、動脈、細動脈、毛細血管、末端血管床(terminal vascular beds)、細静脈及び静脈から成る。動脈は、心臓から血液を送り出す血管で、次の二種類、即ち筋性動脈と弾性動脈とに区分されるが、弾性動脈の方が心臓に近接している。通常、動脈は、内膜、中膜及び外膜から構成されており、内膜(脈管内膜とも呼ばれる)は、管腔に面する単層の内皮細胞と、緩い結合組織性の内皮下層と、内弾性膜(筋性動脈でよく発達している)とを有し、中膜は、筋性動脈の場合、高密度で円形或いはらせん形状に配置された平滑筋細胞層と微細膠原線維とから構成され、また、弾性動脈の場合、多くの窓のような穴及びそこに埋め込まれた平滑筋細胞を有する多数の弾性膜と膠原線維とから構成されており、外膜は、膠原結合組織と、弾性線維と、栄養管と、神経管とから構成されている。中膜と外膜との間に外弾性板が形成されている場合がある。
【0004】
動脈は、内皮と、格子線維網と、単層接触平滑筋層とから成る細動脈を最終血管部分として有するが、細動脈には動脈内に存在する内弾性板が存在せず、細動脈は心筋内皮と接触している。
【0005】
細動脈は、毛細血管、即ち、直径が約6〜約20〜30μmの小さい血管になる。毛細血管の壁は格子線維で囲まれた基底膜から成る内皮によって構成されている。この基底膜の外部は、分枝状細胞、いわゆる周皮細胞によって覆われている。周皮細胞は、毛細血管血液と組織との間の物質移動に関与する可能性が最も高い。
【0006】
次いで、毛細血管は細静脈になり、最後には静脈、即ち、心臓に血液を送る血管になる。通常、静脈の壁は、多数の弾性線維を有する内膜と、平滑筋束が緩く配置された中膜と、外膜とから成るが、静脈壁には内弾性板は存在しない。動脈の場合とは対照的に、組織プレパラートにおいてこれらの層の境界は不鮮明である。
【0007】
血液の微小循環を定める、細動脈、毛細血管及び細静脈から成る血管系の一部を末端血管床と称する。末端血管床は血液の動脈流入と静脈流出との間の血行力学の観点からは中立的部分であり、よって、循環系のターニングポイントである。この部分においては、血液と組織との間で物質やガスの交換が行われると共に、熱環境及びイオン環境が維持される。
【0008】
皮膚は、哺乳類の体、特に人体においても重要な器官である。皮膚は、狭義での皮膚、即ち、真皮と、広義での皮膚の要素としての皮下組織(subcutis)とから成り、真皮の外側には表皮及びcutis(coriumとも称する)があり、それに付属器(毛や爪、腺等)が続く。皮膚の機能は非常に多岐に亘る。環境に対する機械的バリアとして機能する一方、皮膚は、血流が非常に多いことや、毛や脂肪体の断熱作用、更に、水分代謝の調節にも関与する汗の蒸発によって、血液分布や温度調節に有効な熱防御器官としても機能する。また、酸性被覆(acidic coverage)による細菌に対する防御器官としての機能だけでなく、色素形成による放射線に対する防御器官としての機能や、脂肪蓄積によるエネルギー貯蔵器官としての機能も有する。更に、皮膚は、そこへ埋め込まれた末端器官によって重要な感覚器官としても機能する。更に、皮膚は、様々な防御機能を有する免疫器官でもある。このため、皮膚は、特に創傷治癒や皮膚老化に関して大いに注目されている。
【0009】
創傷治癒とは、細胞と、細胞外基質と、原形質膜と、各種サイトカインや成長因子によって調整、制御された血管新生との複雑な相互作用を伴う動的プロセスである。創傷の種類や組織損失の程度とは関係なく、創傷治癒は、時間的に重なる段階(炎症期や浸出期等)、増殖期、分化期及び再構築期にグループ分けすることができる。このグループ分けは、原則として修復プロセス時の形態学的変化に基づくものであり、修復プロセスの真の複雑さを反映していない。
【0010】
創傷治癒のプロセスは、計量可能な側面から一次創傷治癒と二次創傷治癒とに分けることができるが、組織損傷の程度や種類に起因するであろう治療上の問題を考える上で、このプロセスを更に遷延一次治癒と慢性創傷とに分けることができる。一次創傷治癒は、例えば、切創表面が滑らかに密着しており、組織の損失が少なく、血管に富んだ組織内に異物の蓄積がない場合に起こる。一次創傷治癒は、通常、手術創傷や先の鋭い物によって偶発的に生じる創傷に関連して起こる。創傷が生じた過程によって、感染を考慮に入れる必要がある場合、遷延一次治癒となろう。感染が起こった場合、創傷治癒は二次治癒として分類される。二次治癒は、大きな欠損が生じたために肉芽組織を形成する必要がある場合、或いは感染によって傷口を直ぐに閉じることができない場合に行う。8週間以内に創傷治癒過程が完了しない場合、慢性創傷と呼ばれる。慢性創傷はどの創傷治癒段階においても生じ得るが、通常、起源の異なる組織疾患や、局所圧迫損傷、放射線損傷、腫瘍に起因する組織破壊の進行によって生じる。
【0011】
創傷治癒は更に、急性創傷と慢性創傷との区別に基づいて分類され得る。急性創傷の範囲は、急性外傷性創傷から、複合外傷性欠損、熱的及び化学的創傷、火傷及び切開、手術創傷に及ぶ。
【0012】
急性外傷性創傷の場合、任意に創傷を切除した後、張力を加えずに傷口を合わせることができれば、創傷の一次閉鎖は縫合、クリップ或いは傷用ストリップ類によって行うことができる。感染を示す可能性のある創傷の場合、先ず、感染が排除されるまで創傷を滅菌湿潤ドレッシング材によって開いたままにする。二次治癒や複合創傷においては、創傷の閉鎖はより複雑になる。
【0013】
熱的乃至化学的創傷、即ち、加熱、冷却、組織損傷放射線、酸或いは塩基によって生じる創傷の場合、損傷パターンに応じて治療がなされる。例えば、重度の熱傷患者の場合、先ず、壊死部切除術を行い、次いで皮膚移植によって外科的交換を行う。創傷に対して移植ができない場合、或いは熱傷の程度によって十分なドナー部位が得られない場合には、いわゆる同種異系(allo)或いは異種(xeno)移植を用いる。十分なドナー部位がある場合、永久自家皮膚移植を用いることができる。具体的な形態の一種に自家角化細胞移植がある。
【0014】
慢性創傷とは、原因療法や適切な局所療法にもかかわらず、8週間以内に治癒しない二次治癒創傷である。慢性創傷は急性創傷からどの段階でも生じ得るが、慢性創傷は主に、静脈、動脈或いは代謝起因の血管疾患、圧迫損傷、放射線損傷及び腫瘍によって引き起こされる組織損傷進行の最後の段階を示す。各種慢性創傷はそれぞれ異なる病態によって引き起こされるが、生化学的観点で言えば、このような創傷は同類と見なされる。創傷治癒に影響を及ぼす局所因子としては、異物や虚血、反復外傷、感染等が挙げられる。また、創傷治癒に影響を及ぼし得る全身性因子としては、加齢や栄養不良、栄養失調、糖尿病、腎疾患等が挙げられる。経済的に見て最も本発明に適応する慢性創傷治癒障害としては、静脈性下腿潰瘍や動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷等が挙げられる。
【0015】
急性創傷や慢性創傷は別として、皮膚老化は皮膚の本質的変化の一種であり、時間によって生じる老化と環境因子によって生じる老化とに分けられる。「時間による老化」とは、皮膚層の薄化や皮膚腺の機能低下を引き起こす通常の皮膚老化プロセスによって生じる変化を意味する。これによって、加齢に従い、皮膚は薄くなり、乾燥し、細かい皺が形成される。加齢に起因する小皺や皺はそれぞれ真皮内のコラーゲンや弾性線維の減少及び損失によって生じる。また、老化した皮膚の完全性はより簡単に阻害され、その再生に時間がかかるため、生体は高い感染の危険にさらされる。加齢による細胞再生の遅延や低下は、ホルモンの変化や遺伝的因子等に影響される。しかし、この老化プロセスの加速や促進に大きな影響を及ぼすのは環境因子である。
【0016】
環境因子によって生じる老化においては、生涯に亘る紫外線量は重要な因子であり、よって、このような老化は「光老化」とも呼ばれる。しかし、ニコチン乱用による皮膚内の血流低下等の他の因子によっても、このような老化プロセスが促進される。太陽光のUV−B部分は主に表皮細胞の損傷を引き起こして皮膚癌の前駆症(いわゆる光線性角化症)や皮膚癌(基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫)を生じさせ、一方、UV−A線は真皮に到達し皮膚の結合組織を破壊する(弾力線維症)。この結果、顔と首において皮膚がたるみ、皺が目立つようになり、ひだが形成される。紫外線への恒久的な曝露によって、いわゆる老斑も生じるが、これは好ましくは顔及び手の甲の光曝露部分で発生する。このような色素沈着過度とは対照的に、光によって色素沈着不足(滴状メラニン減少症(hypomelanosis guttata))が生じることもある。これらの現象は慢性光損傷と称され、不可逆的プロセスと見なされる。
【0017】
各種創傷の治療は、基本的に、受動的創傷治療と能動的創傷治療とに分類することができる。具体的な形態として、皮膚置換法も用いることができる。感染に対する防御用の単なる被覆材としての不活性繊維ドレッシング材を受動的創傷治療に用いる。不活性ドレッシング材とは対照的に、相互作用的創傷被覆は、湿潤な創傷環境を生み出すことによって治癒プロセスを促進することを目的としていることが多い。これに関連して、ハイドロコロイドやハイドロゲル、ハイドロポリマー、発泡体ドレッシング材、アルギン酸カルシウム等が用いられる。このような受動的創傷治療の不都合な点は、問題のある創傷、特に抗治療的であるとされることの多い慢性創傷の能動的治癒がドレッシング材によって促進されないということである。
【0018】
従来技術においては、血管新生及び/又は能動的創傷治療に用いることができ、創傷治癒プロセスの個々の標的分子をターゲットとする様々な成長因子が記載されている。このような成長因子としては、VEGFやトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インターロイキン1β、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CF)及び血液凝固因子XIII等が挙げられる。これらの化合物に対する期待は未だ実現されていないが、これは少なくとも一部創傷治癒プロセスの複雑さに起因するものである。
【0019】
創傷を被覆するための皮膚置換法に関しては、一時的皮膚置換と永久的皮膚置換とに区別される。一時的皮膚置換としては、同種異系生物起源の場合、例えば、死体から採取した脱細分化ヒト真皮等の外来皮膚と角化細胞或いは分層皮膚のシートとを併用する場合、或いは異種生物起源の場合、例えば、ウマコラーゲン線維、ウシコラーゲンスポンジ、或いは合成材料と生体物質との組合せ(シリコーン或いはナイロンとコラーゲン基質及び/又は線維芽細胞とを組み合わせたシート等)を用いる場合が挙げられる。永久的皮膚置換としては、自家皮膚移植の場合、或いは細胞培養に基づく場合が挙げられる。
【0020】
様々な生理的プロセスが一方では創傷治癒に、他方では皮膚老化に関与しており、皮膚老化に対抗するための様々な治療的及び美容的アプローチが、いわゆる老化防止製品を用いてなされている。スティフトゥング・ワレンテスト(Stiftung Warentest)によって行われた研究によると(テスト(test)Spezial Kosmetik 2002、17〜19頁、特別版)、市販製品の大部分は、特に皺を滑らかにするという点では、効果が全くないか或いは非常に低いとのことである。老化防止製品に関しては、老化プロセスを遅らせることをターゲットとした戦略のみが有効である。従って、皮膚を外部の環境因子(UV−B線や大気汚染等)から防御するために、ビタミン類や酸化防止剤が用いられている。それとは別に、皺や他の小さな皮膚損傷は美容整形によって治療されている。しかし、美容整形の場合、かなりの設備が必要となる。皺取りのために現在用いられている他の技法として、ボツリヌス毒素の注入がある。ボツリヌス毒素は中毒を引き起こすため、毒素を注入した皺部分の筋細胞を麻痺させ、皮膚を持ち上げる。原因不明の副作用とは別に、この治療の更なる不都合な点としては、毒素注入の際或いはそれ以降、約5%の患者において、中和抗体の形成により治療がもはや有効でなくなるということである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の課題は、血管新生や新血管形成を促進或いは阻害するか、又は経心筋的血管再生を促進することによってこのようなプロセスに関する疾患を治療するための手段を提供することである。更なる様相においては、本発明の課題は、創傷治癒を促進或いは開始するための手段を提供することである。
【0022】
更に、本発明の課題は、細胞、特に間葉細胞及び上皮細胞を分化、任意的には脱分化及び/又は増殖させることができる状態に該細胞を移行させるための手段を提供することである。更なる様相において、本発明の課題は、創傷治癒を促進或いは開始するための手段を提供することである。最後に、本発明の課題は、皮膚老化に抵抗するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の様相において、課題の解決は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、創傷治癒、創傷後血管形成、上皮化、及び歯や骨の移植における治癒から成る群から選択されるプロセスにおける一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、核酸は、HMGタンパク質(high mobility group proteins)の遺伝子から成る群から選択される使用によってなされる。
【0024】
本発明の第2の様相において、課題の解決は、不十分な或いは過剰な血管新生や新血管形成、或いは創傷治癒に関連するか、或いは経心筋的血管再生を必要とする疾患の群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、核酸は、HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用によってなされる。
【0025】
好ましくは第1及び第2の様相の実施形態である、本発明の第3の様相において、課題の解決は、疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、前記疾患が、糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑変性症、関節炎、子宮内膜症、パンヌス、組織球増殖症、乾癬、酒さ、小静脈瘤、発疹性血管腫、腫瘍疾患、海綿腫、唇血管腫、血管肉腫、痔核、動脈硬化、狭心症、虚血、梗塞、基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、腫瘍、妊娠中毒症、不妊症、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷、手術創傷及び慢性創傷から成る群から選択されることを特徴とする使用によってなされる。
【0026】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、慢性創傷は、褥瘡、下腿潰瘍、静脈性下腿潰瘍、動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷及び糖尿病性足潰瘍から成る群から選択される。
【0027】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、HMGタンパク質は、HMGAファミリー、HMGBファミリー及びHMGNファミリーから成る群から選択される。
【0028】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、HMGタンパク質はHMGBファミリーから選択される。
【0029】
第1、第2及び第3の様相の好ましい実施形態においては、HMGタンパク質は、HMGB1、HMGB2及びHMGB3から成る群から選択される。
【0030】
第1、第2及び第3の様相のより好ましい実施形態においては、HMGタンパク質はHMGB1である。
【0031】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、HMGタンパク質はHMGAファミリーから選択される。
【0032】
第1、第2及び第3の様相の好ましい実施形態においては、HMGタンパク質は、HMGA1a、HMGA1b、HMGA1c及びHMGA2から成る群から選択される。
【0033】
第1、第2及び第3の様相のより好ましい実施形態においては、HMGタンパク質はHMGA1aである。
【0034】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、第1のHMGタンパク質はHMGAファミリーから選択され且つ第2のHMGタンパク質はHMGBファミリーから選択され、好ましくはHMGAファミリーのタンパク質はHMGA1aであり、好ましくはHMGBファミリーのタンパク質はHMGB1である。
【0035】
第1、第2及び第3の様相の一実施形態においては、VEGF及び/又はこれをコードする核酸を更に用いる。
【0036】
本発明の第4の様相において、課題の解決は、組織の血管新生、新血管形成或いは創傷治癒に影響を及ぼすための方法であって、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と共に前記組織をインキュベートする工程とを含む方法において、前記核酸はHMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択され、任意的に
d)前記組織或いはその中間体を取得或いは回収する工程を含む、方法によってなされる。
【0037】
第4の様相の一実施形態においては、前記組織或いはその一部は、VEGF及び/又はこれをコードする核酸と共にインキュベートする。
【0038】
第4の様相の一実施形態においては、前記方法はin vitro法である。
【0039】
第4の様相の一実施形態においては、前記組織は外植組織或いはin vitro培養組織である。
【0040】
第4の様相の一実施形態においては、前記核酸、その転写物及びその翻訳物は、先の各様相及び各実施形態のいずれかに記載のものである。
【0041】
第4の様相の一実施形態においては、二種以上のHMGBタンパク質或いはそれらをコードする核酸を用い、好ましくは第1のHMGタンパク質はHMGAファミリーから選択されると共に第2のHMGタンパク質はHMGBファミリーから選択され、HMGAファミリーのタンパク質はHMGA1aが好ましく、HMGBファミリーのタンパク質はHMGB1が好ましい。
【0042】
第1、第2、第3及び第4の様相の一実施形態においては、HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を用いることに加え、血管内皮成長因子の遺伝子から成る群から選択される新たな核酸、その転写物或いはその翻訳物を用いる。
【0043】
本発明の第5の様相において、課題の解決は、本明細書に記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物によってなされる。
【0044】
本発明の第6の様相において、課題の解決は、本明細書に記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含む担体材料によってなされる。
【0045】
第6の様相の一実施形態においては、前記担体材料は、セルロース、アガロース、コラーゲン、シリコーン、ケイ素、プラスチック、ゲル、ハイドロゲル、フィブリン系マトリックス、人工連続フィラメント糸、ハイドロコロイド、脂肪コロイド(lipocolloids)、ポリウレタン、ポリウレタン樹脂、プラスター、合成生体材料、熱可塑性プラスチック、亜鉛膠(zinc glue)、ポリエステルフォーム、ポリイソブチレン、緩衝剤、安定剤、静菌剤、及び保湿剤から成る群から選択される材料から構成される。
【0046】
第6の様相の一実施形態においては、前記担体材料はインプラントとして、或いは創傷治癒のために用いる。
【0047】
本発明の第7の様相において、課題の解決は、被覆基材と、本明細書に記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とを含む創傷被覆材料によってなされる。
【0048】
第7の様相の一実施形態においては、前記被覆材料は、ハイドロコロイドドレッシング材、アルギン酸カルシウムドレッシング材、活性炭製圧定布及びオーバーレイ、発泡プラスチック製オーバーレイ、フィルムドレッシング材、透明ドレッシング材、発泡シリコーンドレッシング材、フリースオーバーレイ、ハイドロセルラードレッシング材、ハイドロセレクティブ創傷オーバーレイ、吸収創傷パッド、スプレードレッシング材、人工連続フィラメント製ガーゼ、綿ガーゼ、パラフィンガーゼ、銀被覆創傷ドレッシング材、及びハイドロポリマー/発泡体ドレッシング材から成る群から選択される。
【0049】
本発明の第8の様相において、課題の解決は、一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と担体相とを含む組成物であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は本明細書に記載のものであり、前記担体相は、好ましくは、クリーム、脂肪性軟膏、エマルジョン(水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、水中油中水(W/O/W)型)、マイクロエマルジョン、変性エマルジョン、ナノ粒子/ナノエマルジョン、リポソーム、ハイドロディスパージョンゲル(ハイドロゲル、アルコールゲル、リポゲル、テンサイドゲル(tenside gels))、ゲル−クリーム、ローション、オイル/オイルバス、及びスプレーから成る群から選択される、組成物によってなされる。
【0050】
本発明の第9の様相において、課題の解決は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)候補化合物を用意する工程と、
c)前記候補化合物を試験し、前記試験系において候補化合物が起こす反応を決定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0051】
本発明の第10の様相において、課題の解決は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
f)前記試験系における参照化合物の反応と候補化合物の反応とを比較する工程とを含む、方法によってなされる。
【0052】
本発明の第11の様相において、課題の解決は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)マーカーを有する参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記参照化合物を含む試験系において前記候補化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した参照化合物の量及び/又は参照化合物から放出されたマーカーの量を測定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0053】
本発明の第12の様相において、課題の解決は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)マーカーを有する候補化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)参照化合物を用意する工程と、
e)前記候補化合物を含む試験系において前記参照化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した候補化合物の量及び/又は候補化合物から放出されたマーカーの量を測定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0054】
第9、第10、第11及び第12の様相の一実施形態においては、前記試験系はin vitro試験系或いはin vivo試験系である。
【0055】
第9、第10、第11及び第12の様相の一実施形態においては、前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの促進であり、好ましくは、試験系における候補化合物の反応が参照化合物の反応と同等か或いはそれよりも顕著である場合、候補化合物が前記プロセスを促進する化合物である。
【0056】
第9、第10、第11及び第12の様相の一実施形態においては、前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの阻害であり、好ましくは、候補化合物が起こす試験系の反応が試験系において参照化合物が起こす反応よりも顕著でない場合、候補化合物が前記プロセスを阻害する化合物である。
【0057】
第9、第10、第11及び第12の様相の一実施形態においては、前記参照化合物は、一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含み、前記核酸はHMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択されるものであり、好ましくは本明細書に記載のものである。
【0058】
第9、第10、第11及び第12の様相の一実施形態においては、前記プロセスは血管新生の阻害である。
【0059】
本発明の第13の様相において、課題の解決は、疾患の治療及び/又は予防のための化合物をスクリーニングするための第9〜第12の様相のいずれかに記載の方法の使用であって、用意される試験系は該疾患のための試験系である、使用によってなされる。
【0060】
第13の様相の一実施形態においては、前記疾患は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生或いは創傷治癒の促進或いは阻害を必要とする疾患から成る群から選択される。
【0061】
第13の様相の好ましい実施形態においては、前記疾患は、糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑変性症、関節炎、子宮内膜症、パンヌス、組織球増殖症、乾癬、酒さ、小静脈瘤、発疹性血管腫、腫瘍疾患、海綿腫、唇血管腫、血管肉腫、痔核、動脈硬化、狭心症、虚血、梗塞、基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、腫瘍、妊娠中毒症、不妊症、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷、手術創傷及び慢性創傷から成る群から選択される。
【0062】
第13の様相の一実施形態においては、前記疾患は腫瘍疾患であって、好ましくは、前記腫瘍疾患は壊死細胞、好ましくは壊死腫瘍細胞を含む。
【0063】
本発明の第14の様相において、課題の解決は、第9〜第12の様相のいずれかに記載の方法によって得られる化合物によってなされる。
【0064】
本発明の第15の様相において、課題の解決は、医薬、好ましくは本明細書に記載の疾患を治療及び/又は予防するための医薬を製造するための第14の様相に記載の化合物の使用によってなされる。
【0065】
本発明の第16の様相において、課題の解決は、組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスのための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、使用によってなされる。
【0066】
本発明の第17の様相において、課題の解決は、組織発達及び/又は組織再生、特に、発達或いは再生される組織の脱分化及び/又は分化に基づく組織発達及び/又は組織再生のための細胞の脱分化及び細胞の再プログラム化から成る群から選択されるプロセスのための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、使用によってなされる。
【0067】
本発明の第18の様相において、課題の解決は、DNA損傷の修復を必要とする疾患、組織再生を必要とする疾患、創傷治癒を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、歯や骨の移植を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、創傷治癒障害、皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン(Leaderhaut, leather skin)、皮膚癌、火傷後の皮膚癌、火傷後の皮膚老化、火傷、及び心筋梗塞から成る群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、使用によってなされる。
【0068】
本発明の第19の様相において、課題の解決は、化粧品、好ましくは、組織再生、創傷治癒、レザースキンの防止、皮膚癌、特に日焼け(サンバーン)後の皮膚癌の防止、皮膚老化、特にサンバーン後の皮膚老化防止、組織老化抑制及び/又は組織若返りのための化粧品を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、前記核酸は塩基性DNAタンパク質の遺伝子から成る群から選択される、使用によってなされる。
【0069】
本発明の第20の様相において、課題の解決は、皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン、皮膚癌、サンバーン後の皮膚癌、サンバーン、急性創傷及び慢性創傷からなる群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、使用によってなされる。
【0070】
第20の様相の一実施形態においては、前記急性創傷は、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷及び手術創傷から成る群から選択される。
【0071】
第20の様相の一実施形態においては、前記慢性創傷は、褥瘡、下腿潰瘍、静脈性下腿潰瘍、動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷及び糖尿病性足潰瘍から成る群から選択される。
【0072】
第16〜第20の様相の一実施形態においては、前記塩基性DNA結合タンパク質はHMGタンパク質からなる群から選択される。
【0073】
第16〜第20の様相の一実施形態においては、前記HMGタンパク質は、HMGA、HMGB及びHMGNから成る群から選択される。
【0074】
第16〜第20の様相の一実施形態においては、前記HMGタンパク質はHMGAファミリーのタンパク質である。
【0075】
第16〜第20の様相の好ましい実施形態においては、前記タンパク質は、HMGA1a、HMGA1b及びHMGA2から成る群から選択される。
【0076】
第16〜第20の様相の一実施形態においては、前記核酸は、配列番号31〜64の核酸及びそれぞれの誘導体から成る群から選択される。
【0077】
第16〜第20の様相の一実施形態においては、前記翻訳物は、配列番号1〜30の配列を有するポリペプチド及びそれぞれの誘導体から成る群から選択される。
【0078】
第16〜第20の様相の好ましい実施形態においては、前記タンパク質は変性を有しており、変性はリン酸化及びアセチル化から成る群から選択される。
【0079】
本発明の第21の様相において、課題の解決は、組織を再生するための方法であって、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記組織と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含む方法において、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択され、任意的に
d)再生した組織或いはその中間体を取得或いは回収する工程を含む、方法によってなされる。
【0080】
第21の様相の一実施形態においては、前記方法はin vitro法である。
【0081】
第21の様相の一実施形態においては、再生しようとする組織は工程a)で用意される組織と異なるか或いは同一である。
【0082】
第21の様相の一実施形態においては、再生しようとする組織及び/又は工程a)で用意される組織は、互いに独立的に、皮膚組織、脂肪組織、軟骨組織、筋肉組織、血液細胞、造血細胞、及び神経細胞から成る群から選択される。
【0083】
第21の様相の一実施形態においては、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は、本明細書に記載のものである。
【0084】
本発明の第22の様相において、課題の解決は、細胞を脱分化及び/又は再プログラム化するための方法であって、
a)一種以上の細胞を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記細胞と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含む方法において、核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、方法によってなされる。
【0085】
第22の様相の一実施形態においては、前記方法はin vitro法である。
【0086】
第22の様相の一実施形態においては、前記方法は更に、
d)脱分化した細胞及び/又は再プログラム化された細胞を取得する工程を含む。
【0087】
第22の様相の一実施形態においては、脱分化した細胞及び/又は再プログラム化された細胞及び/又は工程a)で用意された細胞は、独立的に、表皮細胞、皮膚細胞、脂肪組織細胞、軟骨組織細胞、筋肉組織細胞、血液細胞、造血組織細胞及び神経細胞から成る群から選択される。
【0088】
第22の様相の一実施形態においては、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は本明細書に記載のものである。
【0089】
本発明の第23の様相において、課題の解決は、本明細書に記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と薬学的に適切な担体とを含有する医薬組成物によってなされる。
【0090】
本発明の第24の様相において、課題の解決は、核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含む担体材料であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は本明細書に記載のものである、担体材料によってなされる。
【0091】
第24の様相の一実施形態においては、前記担体材料は、セルロース、アガロース、コラーゲン、シリコーン、ケイ素、プラスチック、ゲル、ハイドロゲル、フィブリン系マトリックス、人工連続フィラメント糸、ハイドロコロイド、脂肪コロイド、ポリウレタン、ポリウレタン樹脂、プラスター、合成生体材料、熱可塑性プラスチック、亜鉛膠、ポリエステルフォーム、ポリイソブチレン、緩衝剤、安定剤、静菌剤、及び保湿剤から成る群から選択される材料を含む。
【0092】
第24の様相の一実施形態においては、前記担体材料はインプラントとして、或いは創傷治癒のために用いる。
【0093】
本発明の第25の様相において、課題の解決は、被覆基材と核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とを含む創傷被覆材料であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は本明細書に開示のものである、創傷被覆材料によってなされる。
【0094】
第25の様相の一実施形態においては、前記被覆材料は、ハイドロコロイドドレッシング材、アルギン酸カルシウムドレッシング材、活性炭製圧定布及びオーバーレイ、発泡プラスチック製オーバーレイ、フィルムドレッシング材、透明ドレッシング材、発泡シリコーンドレッシング材、フリースオーバーレイ、ハイドロセルラードレッシング材、ハイドロセレクティブ創傷オーバーレイ、吸収創傷パッド、スプレードレッシング材、人工連続フィラメント製ガーゼ、綿ガーゼ、パラフィンガーゼ、銀被覆創傷ドレッシング材、及びハイドロポリマー/発泡体ドレッシング材から成る群から選択される。
【0095】
本発明の第26の様相において、課題の解決は、核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と担体相とを含む化粧料組成物であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は本明細書に開示のものであり、前記担体相は、好ましくは、クリーム、脂肪性軟膏、エマルジョン(水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、水中油中水(W/O/W)型)、マイクロエマルジョン、変性エマルジョン、ナノ粒子/ナノエマルジョン、リポソーム、ハイドロディスパージョンゲル(ハイドロゲル、アルコールゲル、リポゲル、テンサイドゲル)、ゲル−クリーム、ローション、オイル/オイルバス、及びスプレーから成る群から選択される、化粧料組成物によってなされる。
【0096】
本発明の第27の様相において、課題の解決は、組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)候補化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記候補化合物を試験し、候補化合物が起こす反応を決定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0097】
本発明の第28の様相において、課題の解決は、組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
f)前記試験系における参照化合物の反応と候補化合物の反応とを比較する工程とを含む、方法によってなされる。
【0098】
本発明の第29の様相において、課題の解決は、組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)標識を有する参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記参照化合物を含む試験系において前記候補化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した参照化合物の量及び/又は参照化合物から放出された標識の量を測定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0099】
本発明の第30の様相において、課題の解決は、組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)標識を有する候補化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)参照化合物を用意する工程と、
e)前記候補化合物を含む試験系において前記参照化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した候補化合物の量及び/又は候補化合物から放出された標識の量を測定する工程とを含む、方法によってなされる。
【0100】
第27〜第30の様相の一実施形態においては、前記試験系はin vitro試験系或いはin vivo試験系である。
【0101】
第27〜第30の様相の一実施形態においては、前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの促進であり、好ましくは、試験系における候補化合物の反応が参照化合物の反応と同等か或いはそれよりも顕著である場合、候補化合物が前記プロセスを促進する化合物である。
【0102】
第27〜第30の様相の一実施形態においては、前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの阻害であり、好ましくは、候補化合物が起こす試験系の反応が参照化合物が起こす試験系の反応よりも顕著でない場合、候補化合物が前記プロセスを阻害する化合物である。
【0103】
第27〜第30の様相の一実施形態においては、前記参照化合物は、核酸、その転写物及び/又はその翻訳物であり、前記核酸は、塩基性DNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のものの遺伝子から成る群から選択される。
【0104】
本発明の第31の様相において、課題の解決は、疾患の治療及び/又は予防のための化合物をスクリーニングするための第27〜第30の様相のいずれかに記載の方法の使用であって、用意される試験系は前記疾患のための試験系である、使用によってなされる。
【0105】
第31の様相の一実施形態においては、前記疾患は、DNA損傷の修復を必要とする疾患、組織再生を必要とする疾患、創傷治癒を必要とする疾患、歯や骨の移植を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、創傷治癒障害、皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン、皮膚癌、日焼け(サンバーン)後の皮膚、サンバーン後の皮膚老化、サンバーン、及び心筋梗塞から成る群から選択される。
【0106】
本発明の第32の様相において、課題の解決は、少なくとも核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含み、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される、日焼け防止剤によってなされる。
【0107】
第32の様相の一実施形態においては、前記塩基性DNAタンパク質は、HMGタンパク質、特に本明細書に記載のものである。
【0108】
本発明の第33の様相において、課題の解決は、第27〜第30の様相のいずれかに記載の方法或いは第31の様相に記載の使用によって得られる化合物によってなされる。
【0109】
本発明の第34の様相において、課題の解決は、医薬、好ましくは本明細書に開示された疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための第33の様相に記載の化合物の使用によってなされる。
【0110】
本発明の第35の様相において、課題の解決は、生体を治療するための方法であって、有効量のDNA結合タンパク質、HMGタンパク質、それらをコードする核酸、或いはその転写物及び/又はその翻訳物、それらと相互作用する機能性核酸、それらと相互作用するペプチド、或いはそれらと相互作用する抗体、及び/又は第33の様相に記載の化合物を生体に投与することを特徴とする、方法によってなされる。
【0111】
第35の様相の一実施形態においては、前記生体は、疾患、好ましくは本明細書に記載の疾患に罹患しているか、前記疾患に罹患する可能性があるか或いはその疾患により症状を発する可能性がある。
【0112】
本発明において、課題の解決は、添付の特許請求の範囲の独立請求項の内容によってもなされ、特に好ましい実施形態は従属請求項から得ることができる。
【0113】
日焼け防止剤に関する本発明の様相によると、日焼け防止剤は、太陽光の強烈な光線の反射や吸収によってサンバーンや紅斑の損傷を生じさせる衝撃から防御するように作用することを意図している。本発明の日焼け防止剤は、水性やアルコール性や油状の溶液やエマルジョンやローション、クリーム、ファットスティック、ゲル、エアロゾル、発泡クリーム、その他当業者に知られた形態をとり得る。本発明の日焼け防止剤は、本明細書に記載のDNA結合タンパク質及びそれらをコードする核酸だけでなく、吸収光遮断剤及び/又は反射剤を含んでもよい。反射剤としては、特に、酸化亜鉛や酸化鉄、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物が挙げられる。光吸収化合物(光フィルター或いは紫外線吸収剤とも称する)は、通常、紫外線を無放射失活によって無害な熱へ変換させるように機能する。次の化合物及び化合物クラス、即ち、ベンゾフェノンン誘導体、ヒドロキシナフトキノン、フェニルベンズオキサゾールやフェニルベンズイミダゾール、ジガロイルトリオレエート、アミノ安息香酸エステル、サリチル酸エステル、脂環式ジエノン、ベンザルアジン、芳香族尿素誘導体、スルホンアミド、クマリン誘導体、及びフェニルグリオキシル酸誘導体の一種以上を用いるのが好ましい。他の成分としては、ミンク油、アボカド油、アーモンド油、ゴマ油、ピーナッツ油、オリーブ油、サフラワー油及び/又はココナッツ油、ウロカニン酸を挙げることができる。更なる成分としては、ジヒドロキシアセトン、カロチン、クルミ殻エキス、及び肌のタンニング増加に特に適した他の化合物等を挙げることができる。
【0114】
本発明は、塩基性DNA結合タンパク質(HMGタンパク質等)が、細胞を次の状態、即ち、脱分化、分化及び/又は分化の変化、或いはこれらのプロセスの組合せを可能とする状態に移行させるのに好適であるという驚くべき知見に基づく。より詳細には、前記タンパク質の影響下で細胞の脱分化或いは再プログラム化が生じ、次いで、この細胞が、開始細胞の状態或いは開始細胞とは異なる細胞の状態に相当する分化状態へと任意的に分化する。いずれの場合でも、前記タンパク質の影響下で細胞は反応状態に移行する。本発明の各種用途及び方法の基礎となるこのメカニズムは、前記タンパク質(いわゆるマスタータンパク質)が各種遺伝子を制御し、細胞の機能的条件を制御するという観察に従うものである。前記タンパク質は転写因子複合体のモジュレーターであるため、原則として、それらの標的遺伝子の発現に対し正及び負に作用し得る。このような作用においては、前記タンパク質の各プロモーターへの結合は、配列特異的ではなくより構造特異的であって、前記タンパク質はDNAを屈曲させ、転写因子の結合が仲介されるように、或いは転写因子がDNAの屈曲部分と結合する能力を失うようにする。上述の特性によって、前記タンパク質は構築転写因子(architectural transcription factors)とも称される。また、本発明者らは、前記タンパク質、特にHMGタンパク質が、胚・胎児発生期の細胞及び組織の発達に関与する一方、出生後には、分化した細胞の大部分においてこのタンパク質が検出できないことを見出した。胚形成初期には、HMGタンパク質の中には、そのmRNAを殆ど全ての組織で検出することができるものもある。胚形成後期においては、HMGタンパク質の発現は間葉派生体の一部及び上皮細胞組織の一部に制限される。
【0115】
本明細書に開示のように、上述のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、その転写物、その翻訳物、それらに由来する機能性核酸、及び本明細書に開示のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物は、様々な生物学的プロセス(本明細書においては「プロセス」と総称する)に関与する。これらのプロセス自体は当業者に知られている。より詳細には、これらのプロセスの一種以上が脊椎動物の疾患や病態へ関与すること、特に哺乳類やヒトの疾患や病態へ関与することは当業者に知られている。よって、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、その転写物、その翻訳物、それらに由来する機能性核酸、及び本明細書に開示のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物を、前記プロセスの一種以上が関与する疾患や病態の予防及び/又は治療のため、及びその医薬の製造のために使用することも本発明に包含される。本明細書に開示の疾患(障害ともいう)は、前記疾患の例である。しかし、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、その転写物、その翻訳物、それらに由来する機能性核酸、及び本明細書に開示のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物の用途は、これらに限定されない。
【0116】
また、本発明においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、その転写物、その翻訳物、それらに由来する機能性核酸、及び本明細書に開示のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物が、阻害及び活性化の双方に作用し得ること、よって、前記プロセスが望ましいとされる疾患でも前記化合物によって該プロセスを促進或いは支援して治療でき、前記プロセスが望ましくないとされる疾患でも前記化合物の阻害作用を利用して疾患を治療できることは当業者には明白である。これに関連して、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質やそれらをコードする核酸、その転写因子、その翻訳因子を前記プロセスの促進に用いることが好ましい。しかし、本発明においては、本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質やそれらをコードする核酸、その転写物、その翻訳物を前記プロセスの阻害にも用いることができる。本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質やそれらをコードする核酸、その転写物、その翻訳物の投与の際、その不足分を補償する或いはこれらの活性濃度を上昇させることになり、そのような追加的投与によって阻害、例えば競合的阻害を生じさせることもあり得る。これとは対照的に、本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質やそれらをコードする核酸、その転写物、及びその翻訳物を指向する本明細書に記載の機能性核酸、特にアンチセンス分子、RNAi、アプタマー、スピゲルマー、アプタザイムを、前記タンパク質等によって仲介されるプロセスの阻害に用いることが好ましい。このことは、本明細書に開示のスクリーニング方法によって特定或いは取得される、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質、それらをコードする核酸、その転写物、及びその翻訳物を指向する抗体、ペプチド及び化合物についても当てはまる。一般に、本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質やそれらをコードする核酸、その転写物、その翻訳物を指向する抗体及びペプチドは、本明細書に開示の機能性核酸と同様に且つ同程度に用いることができる。
【0117】
本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質、それらをコードする核酸、その転写物、及びその翻訳物の促進作用が期待される疾患の例としては、血管新生や、経心筋的血管再生による心筋梗塞、創傷治癒、創傷後血管新生、上皮化、歯や骨の移植における治癒が挙げられる。DNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質、それらをコードする核酸、その転写物、及びその翻訳物の阻害作用が期待される疾患としては、子宮内膜症や乾癬、黄斑変性、特に年齢依存型黄斑変性、角膜疾患、好ましくはヒトやイヌの角膜疾患、血管新生に伴う疾患、好ましくはパンヌス(即ち、慢性表在性角膜炎)、組織球増殖症、好ましくはそれらの急性型疾患、より好ましくは獣医学分野のそれらの疾患が挙げられる。
【0118】
本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、それらをコードする核酸、その転写物、及びその翻訳物の使用、前記タンパク質等に対する機能性核酸、抗体及びペプチドの使用、また、前記タンパク質等を用いることによって取得及び/又は特定された化合物の使用は、前記プロセスの数種が前記疾患に関与し、前記タンパク質等によって促進、阻害される場合、特に有利である。疾患の例としては、乾癬、黄斑変性、子宮内膜症、及びイヌのパンヌスが挙げられる。これら疾患は、炎症性プロセス及び血管新生プロセスの双方が関与し、本明細書に開示のDNA結合タンパク質、特に本明細書に開示のHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸によって(も)引き起こされ、特にHMGBタンパク質が重要な役割を果たす。故に、前記タンパク質等或いは各転写物に対する機能性核酸、ペプチド及び抗体は、治療のための好適な手段である。このことは、HMGBタンパク質及びそれらをコードする核酸の作用を阻害する化合物についても当てはまる。これら化合物は、例えば、本発明のスクリーニング方法によって特定し得る。
【0119】
本発明は、HMGAファミリー及びHMGBファミリーのメンバーが血管新生或いは新血管形成プロセスを引き起こし得るという驚くべき知見にも基づく。血管新生は、血管新生に非常に特化した因子(VEGF等)に匹敵する程度に促進される。VEGF等の非常に特化した血管新生因子を用いた場合とは対照的に、HMGタンパク質を用いると、後述のように更なる効果を得ることができる。
【0120】
更に、本発明は、HMGタンパク質の中でも特にHMGB1及びHMGA1が強い血管新生作用を示し、従ってこれらを、本明細書に開示したような血管新生に関与する疾患の治療に使用できるという驚くべき知見に基づく。この使用は、血管の芽の長さで表される血管新生作用が驚く程に大きいという驚くべき知見に基づく。上述の場合とは対照的に、このような作用はHMGB1誘発によるサイトカインの放出では期待できない。
【0121】
また、本発明者らは、驚くべきことに、壊死細胞、特に壊死腫瘍細胞が、細胞外リガンドとしてRAGEレセプターを用いて血管発生/血管新生のための内皮細胞を刺激する、HMGB1とある程度のHMGAタンパク質とを放出することを見出した。このメカニズムから、HMG、特にHMGB1及びHMGA、より詳細にはHMGA1に対してスクリーニングされた医薬が、特に、壊死細胞や壊死腫瘍細胞を伴う腫瘍疾患の治療に用い得ること、そして、本明細書に記載のスクリーニング方法によってこのような分子が得られる、或いは得ることが可能であるということが分かる。更に、このメカニズムから、前記タンパク質及びそれらをコードする核酸を指向する機能性核酸、抗体或いはペプチドが、腫瘍を治療する手段、特にHMGB1及び/又はある程度のHMGAタンパク質を放出し、及び/又は、細胞外リガンドとして、血管発生や血管新生の内皮細胞をRAGEを用いて刺激する腫瘍を治療するための手段として用い得ることが分かる。
【0122】
新しい血管の形成は、創傷治癒や腫瘍増殖、新血管形成、心筋組織における低酸素症や虚血の治療等の様々なプロセスにとって重要である。このようなプロセスには、大別して二種類のメカニズムが関与している。一方は血管発生、即ち、内皮前駆細胞のin situ分化によって血管が新しく形成されることであり、他方は血管新生、即ち、既存の血管から血管が新しく形成されることである。成体の成熟血管の内皮細胞は休止、非増殖期にある。内皮細胞は、例えば、感染、外傷、低酸素症或いは虚血によって刺激されているときだけ、血管新生プロセスに参加し血管新生プロセスを刺激する位置にいる。次いで、内皮細胞の移動や増殖、新しい結合等を含む様々なプロセスが互いに引き続くカスケードが生じる。その結果、新しい三次元血管が形成される。更に、血管新生時及び毛細血管より大きい血管の新生時に、血管平滑筋の筋細胞が成長し、新しく形成された血管の安定性が得られる。
【0123】
特に、線維芽細胞成長因子(FGF)や血管内皮成長因子(VEGF)の成長因子は、血管新生に関与する様々な成長因子やサイトカインの中でも重要なものとして考慮すべきである。これらの成長因子は内皮細胞の強力なマイトジェンとして知られている。これらの成長因子及び分子を投与することによって、別個の成長因子が刺激され、治療しようとする部分への血流が確実に改善される。
【0124】
臨床的に重要な血管新生は、いわゆる経心筋的レーザ血管再生(TMLR)のプロセスにて発生する。このプロセスにおいては、レーザパルスによって心筋に小さなチャネルが形成される。こうして形成されたチャネル周辺の心筋組織に外傷性刺激を与えた場合、その周辺に血管新生が起こり、最終的に心筋の血流、特に虚血組織部分の血流が改善される。経心筋的血管再生には、特に心筋梗塞後の血管再生と、虚血や血管関連心不全等の心疾患初期の血管再生とが含まれる。本発明においては、次の「血管新生」、「血管発生」、「新血管形成」及び「血管再生」という用語は同義語として用いるが、いずれの場合も、観察される作用、即ち、根本的な分子或いは細胞メカニズムとは独立した血管形成に着目している。
【0125】
上述のプロセスを促進或いは阻害するという点において、特異的に作用する血管新生や新血管形成は、血管新生や新血管形成に関連する疾患の治療を可能とする。
【0126】
このような血管新生や新血管形成は、例えば、血液供給が不十分なために虚血状態が存在する疾患、例えば、冠動脈狭窄や動脈硬化の場合に適用される。この場合、血管新生や新血管形成によって新しい血管を誘導することによって、血液供給のための代替血管が提供され、このような疾患の緩和に寄与する。血液供給が不十分なために生じる疾患の更なる例としては、腫瘍(growths)や治癒不良、慢性創傷、妊娠合併症(妊娠中毒症や不妊症等)が挙げられる。
【0127】
血管の過剰形成に基づく疾患の場合もある。その一例として、網膜上或いは網膜前への新しい血管形成が失明をもたらし得ることに関連する、増殖性糖尿病性網膜症が挙げられる。別の例として腫瘍の形成が挙げられる。ところで、腫瘍が十分に成長するには、腫瘍細胞への十分な栄養の供給、即ち、腫瘍部位への十分な血管の供給が必要であることはよく知られている。よって、十分な血管の供給が誘導できない腫瘍の場合、その成長は制限される。一方、血管の供給を停止することによって積極的に腫瘍を制限することができる。特に皮膚に関しては、非常に多くの癌類似疾患(基底細胞腫や、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、癌前駆症としての光線性角化症等)が過剰な血管新生に関連している。原則として、いずれの種類の癌や腫瘍も、過剰な血管新生に伴うものとして見なすことができる。過剰な血管新生によって生じる疾患の更なる例としては、乾癬や関節炎が挙げられる。
【0128】
本発明において、「障害」とは、伝統的な意味での障害や疾患(網膜症や乾癬、腫瘍等)だけを含めるのではなく、通常、障害や疾患をなくすることが患者の快適性を向上させる上で望ましいような病態をも意味する。この「障害」には、特に人工的に発生する創傷、例えば手術に関連して起こる創傷(手術創傷やプロテーゼ或いはインプラントの移植によって生じる創傷等)が含まれる。
【0129】
細胞と、細胞外基質と、血漿タンパク質との複雑な相互作用を伴う動的プロセスである創傷治癒に関連して、血管新生は、各種サイトカインや成長因子による統制下で起こる。血管新生の役割は、栄養分や他の物質を創傷部位の細胞へ輸送するための供給路を提供することであるが、この供給路は治癒プロセス終了後もそのままにしてもよく、任意的には、治癒組織の供給が維持できる程度に数を減らしてもよい。創傷の種類や組織損失の程度とは関係なく、創傷治癒は、時間的に重なる段階(炎症期や浸出期)、増殖期、そして分化期及び再構築期にグループ分けすることができる。このグループ分けは、修復プロセス時の形態学的変化に基づくものであり、実際には修復プロセスの複雑さを反映していない。
【0130】
創傷治癒のプロセスは、一次創傷治癒と二次創傷治癒とに分けることができるが、組織損傷の程度や種類に起因するであろう治療上の問題を考慮するために、このプロセスを更に遷延一次治癒と慢性創傷とに分けることができる。一次創傷治癒は、例えば、切創表面が滑らかに密接しており、大きな組織損失がなく、血管が十分に供給された組織内に異物の混入がない場合に行われる。一次創傷治癒は、通常、手術創傷や先の鋭い物によって時折生じる創傷に関連して行われる。創傷が生じた過程によって、感染を考慮に入れる必要がある場合、遷延一次治癒を行う。感染が起こった場合、創傷治癒は二次治癒として分類される。二次治癒は、大きな欠損が生じたために肉芽組織を形成する必要がある場合、或いは感染によって傷口を直ちに閉じることができない場合に行う。8週間以内に創傷治癒が完了しない場合、慢性治療過程と呼ばれる。慢性創傷は、どの創傷治癒段階でも生じ得るが、通常、起源の異なる組織疾患や、局所圧迫損傷、放射線損傷、腫瘍に起因する組織破壊の進行によって生じる。
【0131】
創傷治癒は更に、急性創傷と慢性創傷との区別に基づいて分類され得る。急性創傷の範囲は、急性外傷性創傷から、複合外傷性欠損、熱的及び化学的創傷、火傷及び切開、手術創傷に及ぶ。
【0132】
急性外傷性創傷においては、任意に創傷を切除した後、張っぱらずに傷口を合わせることができれる場合、創傷の一次閉鎖は縫合、ステープル或いは傷テープによって行う。感染の潜在的危険性を示す創傷の場合、先ず、感染が排除されるまで創傷を滅菌湿潤ドレッシング材によって開いたままにする。二次治癒及びより複雑な創傷においては、創傷の閉鎖はより複雑になる。
【0133】
熱的及び化学的創傷、例えば、加熱や冷却の影響、組織損傷放射線、酸或いは塩基によって生じる創傷の場合、損傷パターンに応じて治療がなされる。例えば、重度の熱傷患者の場合、先ず、壊死部切除術を行い、次いで皮膚移植によって外科的交換を行う。創傷に対して移植ができない場合、或いは熱傷の程度によって十分なドナー部位が得られない場合には、いわゆる同種異系移植或いは異種移植を用いる。十分なドナー部位がある場合、永久自家皮膚移植を用いることができる。具体的な形態の一種に自家角化細胞移植がある。
【0134】
慢性創傷とは、原因治療や適切な局所治療にもかかわらず、8週間以内に治癒しない二次治癒創傷である。慢性創傷は急性創傷からどの段階でも生じ得るが、慢性創傷の殆どは、静脈、動脈或いは代謝起因の血管障害、圧迫損傷、放射線損傷及び腫瘍によって引き起こされる組織破壊進行の最後の段階にある。各種慢性創傷はそれぞれ異なる病態によって引き起こされるが、生化学的観点で言えば、このような創傷は同類と見なされる。創傷治癒に影響を及ぼす局所因子としては、異物や虚血、反復外傷、感染等が挙げられる。また、創傷治癒に影響を及ぼし得る全身性因子としては、加齢や栄養不良、栄養失調、糖尿病、腎疾患等が挙げられる。経済的に見て最も本発明の適応が望まれる慢性創傷治癒障害としては、静脈性下腿潰瘍や動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷等が挙げられる。
【0135】
慢性損傷の重要な原因として、新しい組織の形成をもたらす修復プロセスと損傷組織の除去をもたらす破壊プロセスとのアンバランスが挙げられる。例えば、マトリックスメタロプロテアーゼの過剰発現等のプロテアーゼ活性の増加によって細胞外基質の制限分解が生じ得る。細胞外基質の合成と分解とのアンバランス、及びこれによってもたらされる創傷バランスの破壊プロセス方向へのシフトは、塩基性DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質の増殖促進作用等によって取り除くことができる。通常特定のシグナルカスケードを誘導する単一外因性成長因子を用いる場合と比べて、前記タンパク質は、該タンパク質が構築転写因子として各種増殖促進シグナル伝達経路に作用し、広範囲の活性を示す限り有利である。前記タンパク質は、様々な細胞(角化細胞や線維芽細胞、内皮細胞等)内で各種機能性タンパク質の合成を誘導する。また、高プロテアーゼ含量の慢性創傷滲出物によって急速に分解されることの多い初期作用外因性成長因子の場合と比べて、前記タンパク質は、より後の段階でシグナルカスケードと相互作用する。
【0136】
各種創傷の治療は、基本的に、受動的創傷治療と能動的創傷治療とに分類することができる。具体的な形態として、皮膚置換法も適用することができる。受動的創傷治療においては、感染に対する防御用の単なる被覆材としての不活性繊維ドレッシング材を用いる。不活性ドレッシング材とは対照的に、相互作用的創傷カバーの場合、通常、湿潤な創傷環境を生み出すことによって治癒プロセスを促進している。これに関連して、ハイドロコロイドやハイドロゲル、ハイドロポリマー、発泡体ドレッシング材、アルギン酸カルシウム等が用いられる。このような受動的創傷治療の不都合な点は、問題のある創傷、特に抗治療的であるとされることの多い慢性創傷の能動的治癒がドレッシング材によって促進されないということである。
【0137】
従来技術に記載の創傷治癒に用いられる高分子化合物、例えば、成長因子やサイトカイン、血液凝固因子等は、創傷治癒や皮膚老化のプロセスに対して選択的に介入する。しかし、HMGタンパク質等の塩基性DNA結合タンパク質を用いると、分化状態のごく初期における前記タンパク質の中心的作用モードによって、組織や個々の細胞の包括的再生がもたらされ得る。本明細書に記載の広義の創傷治癒の観点から見て驚くべき前記タンパク質の作用が観察されたが、この作用は次のプロセス及びメカニズムに基づくものである。即ち、創傷治癒プロセス(肉芽組織の発達、血管新生の刺激、及び上皮細胞の増殖や移動を含む)の増殖段階、分化段階及び再構築段階のいずれにおいて前記タンパク質が相互作用し、前記タンパク質がこのようなプロセス及び該プロセスに基づく方法に用い得ることが意図されている。従って、前記タンパク質及びそれらをコードする核酸は、このようなプロセスやフェーズに関連する疾患、該プロセスやフェーズに伴う疾患、該プロセスやフェーズを利用する疾患、及び/又は原因的或いは対症的に該プロセスやフェーズに基づく疾患に用いることができる。
【0138】
また、創傷部位の血流が十分かどうかは、治癒プロセスにおいて非常に重要である。血流がかなり低下している場合、十分な創傷代謝が得られず、慢性治療過程となることがある。塩基性DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質は、内皮細胞の増殖を誘導することによって創傷部位の血管新生も促進する。最終的に、細胞の老化が創傷治癒障害において特定の役割を果たす。皮膚線維芽細胞の老化は増殖作用の低下と相関している。慢性創傷の場合、成長因子に対する線維芽細胞の反応が低下するが、これは老化細胞の増加による可能性が高い。前記タンパク質によって、このような老化細胞を再び活性状態に移行させることができ、また、細胞を再プログラム化或いは若返りさせる能力によって細胞増殖を再活性化することができる。
【0139】
最終的に、上皮化がかなり遅れている場合には、更なる慢性創傷治癒障害が起こっており、創傷治癒を完了することができない。その一要因としては、潰瘍周縁部で上皮細胞の移動が制限されていることが挙げられる。本発明者らは、HMGタンパク質が細胞の移動度を上昇させて、上皮細胞の移動に対しても正の作用を示し得ることを示した。
【0140】
本発明で用いる塩基性DNA結合タンパク質は、本明細書に記載の機能を有する。
【0141】
HMGタンパク質は、そのアクリルアミドゲル内での高い電気泳動移動度によって名付けられた。HMGタンパク質は、染色体性非ヒストンタンパク質に属しており、主に、タンパク質機能ではなく、その化学的及び物理的特性によって定義されている。HMGタンパク質のメンバーは全て、0.35MNaClを用いてクロマチンから抽出することができ、2〜5%過塩素酸に溶解することができ、荷電アミノ酸含有量が高く、分子量が30000Da未満である。HMGタンパク質は、その配列相同性及び配列モチーフを考慮し、次の三種類のサブグループ、即ち、HMGB(旧HMGB−1/2)ファミリー、HMGN(旧HMG−14/17)ファミリー、及びHMGA(旧HMG−I/Y/C)ファミリーに分類される。
【0142】
HMGNファミリーのメンバーは、高等真核生物全てにおいて発現される。該メンバーの分子量は10000Da〜20000Daである。該メンバーは、その正に帯電したヌクレオソーム結合ドメイン(NBD)によって、非ヒストンDNAよりも高い親和力でヌクレオソームコアに結合する唯一の非ヒストンタンパク質である。この結合ドメインは、HMGN1タンパク質のアミノ酸12〜41とHMGN2タンパク質のアミノ酸17〜47とを含み、他のタンパク質の配列においても見出されている。例えば、NBP45はその一次配列内にNBDモチーフを含む。
【0143】
HMGAファミリーは、次の三種類のメンバー、即ち、HMGA1aとHMGA1b(これらは一遺伝子由来の二種のスプライスバリアントである)、及び別の遺伝子によってコードされる関連タンパク質であるHMGA2とから構成される。HMGAファミリータンパク質の平均分子量は10000Da〜12000Daである。通常、このタンパク質ファミリーのメンバーは、未分化胚細胞内、新生細胞内、及び分化細胞の指数増殖期にのみ見出される。一方、該メンバーは、正常組織の分化細胞内では殆ど検出できないか、或いは検出できたとしてもその濃度は非常に低い。
【0144】
このメンバーのタンパク質は各々、三種類のDNA結合ドメインと酸性タンパク質結合ドメインとを有する。HMGAタンパク質は、ATリッチDNAの小さなグローブ(grove)に結合する。そのプロモーター/エンハンサー配列がHMGA結合部位付近に局在しているような遺伝子におけるHMGAの結合が、転写に影響を及ぼす場合がある。例えば、HMGA1のアセチル化は、インターフェロンβ(IFN−β)遺伝子転写のためにエンハンセオソーム複合体を制御する上で重要な役割を果たす。また、HMGAタンパク質の翻訳後修飾は、ADPリボシル化及び細胞周期に依存するリン酸化である。
【0145】
HMGBファミリーのメンバーは、HMGタンパク質の中で最も種類の多いものである。その平均分子量は最大で25000Daである。
【0146】
HMGBタンパク質は三種類のドメインから構成されており、その内、高い配列相同性を有する二種類の保存ドメインは該タンパク質の非特異的DNA結合領域を示す。この機能的モチーフはHMGボックスと称される。HMGBタンパク質は、このようなHMGボックスの内の二種、即ち、ボックスA及びボックスBを含む。HMGB1タンパク質C末端部分は、HMGBタンパク質のタンパク質結合ドメインを形成する。HMGBタンパク質の他にも、HMGボックスが検出可能なタンパク質は多岐にわたって存在する。このようなタンパク質群には、SRY、SOXタンパク質、LEF1、及びUBF1が含まれる(A.D.バクセヴァニス(Baxevanis)及びD.ランズマン(Landsmann):HMG−1ボックスタンパク質ファミリー:分類及び機能的関係 NAR23、2002年、1604〜1613)。HMGタンパク質はクロマチンの構造成分であり、転写制御に関与している。
【0147】
原則として、HMGタンパク質は全て、既知のものであろうと将来見出されるはずのものであろうと、本発明において適用することができ、特に、本明細書に記載の実験を行った後、個々のケースにおいて特定のHMGタンパク質が本発明に応じたそれぞれの特性を示し、それぞれの用途に関連する挙動を示すかどうかを決定するために適用できる。
【0148】
現在、約15種類のHMGタンパク質が知られている。HMGBファミリーのタンパク質、HMGAファミリーのタンパク質、及び/又は特にHMGAファミリーとの組合せたHMGBファミリーのタンパク質は、本明細書に記載の用途及び使用に対して特に好ましい。前記ファミリーのタンパク質を、翻訳物のレベルにおいてだけでなく、転写物のレベル、或いは遺伝子やコード配列のレベルにおいて使用できることも本発明に包含される。
【0149】
HMGタンパク質の異常転写物(aberrant transcripts)を使用することも本発明に包含される。このような切断型(truncated)HMGタンパク質は、例えば、国際特許出願WO96/25493号或いはWO97/23611号に記載されているが、この出願の開示内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0150】
好ましくは、本発明において用いることのできる切断型HMGタンパク質は、HMGA2遺伝子の少なくともエキソン1、好ましくは、少なくともエキソン1〜3を示すと共に、染色体12の異なる染色体転座パートナー領域に由来する配列によってコードされるアミノ酸を示す。このような切断型HMGタンパク質、及び他のHMGタンパク質誘導体、例えば、HMGA2−LPP、HMGA2−RAD51L1(例えば、トカチェンコ(Tkachenko)、Aら、Cancer Res997;57(11):2276〜80;シェーンメーカーズ(Schoenmakers)EFら;Cancer Res1999 59(1):19〜23に記載)、HMGA1−LAMA4(例えば、シェーンメーカーズ(Schoenmakers)EFら、前掲;トカチェンコ(Tkachenko)、Aら、前掲に記載)、及びSP100−HMGB1、特にHMGA1a、HMGA1b及びHMGA2は、誘導体として存在し得る。このような誘導体は、例えば、翻訳後修飾(アセチル化やリン酸化等)によって形成することができるが、他の分子との結合によっても形成することができる。本発明においては、数種類のタンパク質を同時に用いる場合、該タンパク質は、互いに独立して同一或いは異なる修飾を有していてもよく、該タンパク質の全てが同時に修飾されていなくてもよいし、該タンパク質のいずれかが同時に修飾されていてもよい。このような他の分子は、例えば、糖類、脂質、ペプチド、及び分子量が1000未満の有機小分子から成る群から選択することができる。
【0151】
本発明の各種様相において用いることのできる好ましいHMGタンパク質は、次表1に記載した配列番号1〜30のものである。表1には、配列番号、アミノ酸長、及び知り得る限りにおいてデータバンク登録番号を総括的に示すと共に、エキソン構造の設計、更に添加アミノ酸があれば、それについても示す。
【0152】
【表1−1】

【0153】
【表1−2】

本発明の各種様相において用いる核酸は、本明細書に記載のHMGタンパク質をコードする核酸、及びその転写物、或いはそれらの誘導体である。上述のHMGタンパク質をコードするものであれば、いずれの核酸も本発明に包含される。それぞれの核酸は遺伝暗号の縮重によって構成され得る。特に好ましい核酸は、後述の配列番号によって参照されるものである。表2には各種DNA結合タンパク質及びそれらをコードする核酸を総括的に示すが、これらは特に好ましいものである。また、本発明における前記核酸には、前記核酸及びその転写因子、及び/又はそれらの相補鎖と、特にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするものも包含される。このようなストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、例えば、0.1×SSC/0.1 SDS(Perfect HybTM Plus(シグマ社のハイブリダイゼーションバッファー))中68℃で行う条件、或いは5×SSC/50%ホルムアミド/0.02%SDS/2%ブロッキング試薬/0.1%N−ラウロイルサルコシン中42℃で一晩行う条件である。
【0154】
また、前記核酸に対する同一性(identity)が少なくとも65%、好ましくは、70、75、80、85、90、95、98、或いは99%である核酸も含まれる。本明細書に記載の転写物は、具体的には、本明細書に記載のHMGタンパク質をコードする核酸に対するhnRNA、mRNA及びcDNAである。
【0155】
また、HMGタンパク質の遺伝子の核酸配列に由来する抑制配列、例えば、アンチセンス核酸、リボザイム或いはRNAiを使用することも本発明に包含される。通常アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いるアンチセンス核酸は、標的RNA(好ましくは、発現しようとする遺伝子のmRNA)に対し塩基相補性を示し、このため、前記標的RNAとハイブリダイズし、これによってRNアーゼH酵素が活性化され、核酸の分解がもたらされる。リボザイムは、触媒的に活性な核酸であり、RNAから構成されていることが好ましく、二種類のサブ部分を有する。第一のサブ部分は触媒活性に関与し、第二のサブ部分は標的核酸との特異的相互作用に関与する。標的核酸とリボザイムの第二のサブ部分との間に相互作用(通常、本質的に相補塩基から成るストレッチのハイブリダイゼーションに基づく)があった場合、リボザイムの触媒作用がホスホジエステラーゼ活性であれば、リボザイムの触媒部分は標的核酸を分子内或いは分子間で加水分解することができる。その結果、HMGタンパク質コード核酸は分解し、最終的に、標的分子の発現は転写レベル及び翻訳レベルの双方において低下する。RNAiは、RNA干渉を仲介する二本鎖RNAであり、通常、約21〜23ヌクレオチド長である。該RNAの二本鎖の内の一方が、分解しようとする遺伝子の配列に相当する。その一方の鎖が好ましくはある遺伝子のmRNAと相補的であるRNAiを導入することによって、該遺伝子の発現を低下させることができる。医薬や診断手段としてのRNAi分子の産生及び使用については、例えば、国際特許出願WO00/44895号及びWO01/75164号に記載されている。
【0156】
【表2−1】

【0157】
【表2−2】

本発明においては、ヒトHMGタンパク質及びこれをコードする核酸を用いることが好ましい。しかし、本発明においては、HMGタンパク質の配列相同性や高い保存度の理由から、前記タンパク質及びこれをコードする核酸は、ヒトとは異なる生物や種由来のものである。特に、他の哺乳類由来のもの、好ましくは、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウマ、ウシ及びブタ由来のものである。本発明において用いるHMGタンパク質の他の源としては、魚類や両生類、爬虫類、鳥類が挙げられる。魚類、特に塩水魚が好ましい。更に好ましい源としては、軟骨魚やソトイワシ(bone fish)が挙げられる。
【0158】
本発明においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、それらをコードする核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の用途及び使用は様々なプロセスに及ぶ。好ましくは、このようなプロセスは、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、創傷治癒、組織再生、細胞移動、血管新生、特に創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、血管形成、特に心筋梗塞に関連する血管形成、歯や骨の移植における治癒、細胞や組織の脱分化、細胞や組織の分化、及び脱分化プロセスと分化プロセスの組合せから成る群から選択されるものである。本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸は、前記プロセスの一種以上を開始、支持、維持及び/又は継続することができる。本発明において、前記プロセスは、HMG遺伝子の核酸配列に基づいて産生されるアンチセンス分子、リボザイム或いはRNAi分子(本明細書では通常、機能性核酸と称する)によって、或いは本明細書に開示のスクリーニング方法に基づいて特定される化合物によって阻害される。上述の各種プロセスは、前記タンパク質及びそれらをコードする核酸を用いて、同時に、或いは時系列的に、また任意で重複的に行うことができる。本明細書に開示のプロセス、特に上述の各種プロセスは、このような種々のプロセスに関与する細胞の活性化に基づいているという共通の特徴を有すると思われるが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。基本的に、上述のプロセスは全て、前記タンパク質及びそれらをコードする核酸によって開始、誘発、支持、維持及び/又は増幅可能であるという意味で、該タンパク質及び核酸による対処が可能である。本発明においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、前記タンパク質をコードする核酸、それらに由来する分子、特にアンチセンス分子やリボザイム、RNAi分子、及び本明細書に開示のスクリーニング方法の適用によって特定される阻害剤の用途及び使用は、本明細書に記載のプロセスの一種以上と原因的或いは対症的に関与する疾患にも及び、各医薬、医薬組成物、或いは化粧料組成物の製造に用いることができる。本発明における前記使用及び用途は、in vivo及び/又はin vitro及び/又はin situでの使用とすることができる。本発明において開示されるこの用途及び使用は、基礎となるメカニズムによって限定されるものではない。また、本発明及びその各種様相、特に本発明の使用に関する様相においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質(特に本明細書に記載のHMGタンパク質)それらをコードする核酸(その転写物及び/又はその翻訳物や本明細書に開示の機能性核酸を含む)、及び本明細書に開示のスクリーニング方法によって特定される化合物を、VEGF等の既知の血管新生因子と組合せて用いることもできる。
【0159】
血流や、創傷部位に存在する線維芽細胞の老化、創傷の上皮化等の上述の因子の複雑な相互作用に関し、本発明の一様相においては、HMGAファミリーのタンパク質の核酸、転写物或いは翻訳物を、HMGBファミリーのタンパク質の核酸、転写物或いは翻訳物と共に用いることを意図している。如何なる理論によっても拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、基本的に血管新生で発現されるタンパク質ファミリーであるHMGAファミリーのタンパク質の核酸、転写物或いは翻訳物が、細胞や組織の脱分化或いは若返りをもたらし、これによって最終的には線維芽細胞の増殖能力や上皮細胞の移動も向上すると考えている。HMGBファミリー、特にHMGB1のタンパク質の核酸、転写物或いは翻訳物は、基本的に、血管新生や新血管形成をもたらすシグナルカスケードを引き起こす。HMGAファミリー及びHMGBファミリーのメンバーによるこれらの様々な作用によって、血管新生や新血管形成、創傷治癒に関する相乗効果がもたらされる。
【0160】
本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、それらをコードする本明細書に記載の核酸、本明細書に開示の機能性核酸、及び本明細書に開示のスクリーニング方法によって特定される化合物を用いて、また、本明細書に開示の医薬或いは医薬組成物を用いて治療及び/又は予防する疾患や障害の好ましい例としては、特に、糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑変性症、関節炎、乾癬、子宮内膜症、酒さ、小静脈瘤、発疹性血管腫、海綿腫、唇血管腫、血管肉腫、痔核、動脈硬化、狭心症、虚血、梗塞、基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、腫瘍、妊娠中毒症、不妊症、角膜疾患、特にヒトやイヌの角膜疾患、特に血管新生に伴う疾患、パンヌス(慢性表在性角膜炎)、組織球増殖症、好ましくはこれらの急性型疾患、より好ましくは獣医学分野におけるこれらの疾患、一次及び二次創傷治癒、一次及び二次創傷治癒障害、慢性創傷治癒、急性創傷及び慢性創傷、外傷性創傷、複合外傷性欠損、熱的創傷、熱傷、化学的創傷、化学火傷、切創、手術創傷、静脈性下腿潰瘍、動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷、慢性光損傷、サンバーン(日光皮膚炎)、皮膚癌、サンバーン後皮膚癌、サンバーン後皮膚老化、真皮、色素性乾皮症、熱放射(特に紫外線放射)による火傷の他、高齢患者、栄養不良患者、栄養失調患者、糖尿病患者、皮膚色素沈着欠乏の患者、色素脱失の患者、色素過剰の患者、放射線治療を受けた患者、或いは放射線治療を受けている患者、及び/又は腎疾患の患者から成る特定の患者グループにおける上述の疾患の内のいずれかが挙げられる。
【0161】
必ずしもこの考え方に固執するものではないが、治療を行わなければ生体の障害をもたらしてしまう細胞損傷が治癒できると考えられる限り、上述のDNA損傷修復プロセスは、前記プロセスから成る群の内の特定のプロセスであると思われる。本明細書に記載の塩基性DNA結合タンパク質及びそれらをコードする核酸の影響下で、DNA損傷の自然治癒は通常支持或いは開始される。このようなDNA損傷は、特に紫外線への曝露後に生じるが、一般には高エネルギー放射線への曝露後にも生じる。このような例としては、腫瘍疾患の放射線治療の際に行う放射線照射等が挙げられる。他の適用分野としては、放射性物質取扱い時の事故による放射線損傷等が挙げられる。このプロセスの根底にある塩基性DNAタンパク質、特にHMGAタンパク質のメカニズムは、修復系の個々の化合物を利用せずに、クロマチンへの直接のアクセスによって細胞がそれ自身の修復系を活性化することでき、DNA損傷を除去するための包括的修復プログラムの基礎が得られる限り、特に有利であると思われる。各適用は、DNA損傷が全くないか、あったとしてもごく僅かである細胞物質を取得、修復することを目的として、in vitro或いはin vivoにおいて行うことができる。
【0162】
本発明において、血管新生や新血管形成は、外移植によって用意することのできる組織や器官に関連する。例えば、本発明の方法を用いて、移植用の組織や器官を血管新生や新血管形成のために刺激することができる。移植後、こうして処理された器官や組織では既に血管新生や新血管形成が誘導されているため、この器官や組織がレシピエント体内で成長し、また、外移植時に生じたであろう細胞損傷や組織損傷を抑制或いは治癒する可能性が高い。また、本発明においては、in vitroで培養した組織や器官も血管新生や新血管形成のために刺激する。
【0163】
本発明においては、再生された細胞や組織を基本的に材料としても用いることができる。例えば、創傷治癒において欠損皮膚組織を治療する場合、皮膚組織の再生は基本的には上述のHMGタンパク質の作用により引き起こされるのが好ましいが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。この皮膚再生に関与する組織再生や細胞の再プログラム化は、外因性刺激剤の投与によって促進することができる。このような刺激剤は、例えば、本発明の再プログラム化された細胞を移植した組織によって用意することができる。しかし、本発明においては、このような刺激剤、特に化学剤(そのままで有効であるか或いは有効となり得る)を単独で或いは組合せて(任意的にはそれぞれ前駆体分子の形態で)再プログラム化された細胞に接触させ、細胞が分化或いは変化する方向に対して影響を及ぼすようにする。
【0164】
本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質の上述した血管新生や新血管形成作用、増殖促進作用は、創傷治癒プロセスの促進と共に、創傷治癒において重要な役割を果たす。前記タンパク質の使用は、瘢痕形成の種類に関しては特に有利である。出生後治癒と比べて、胎児創傷治癒は、瘢痕の形成も無く、非常に迅速に行える創傷治癒である。前記タンパク質、特にHMGBファミリー由来のタンパク質とHMGAファミリー由来のタンパク質の組合せを用いた場合に、胎児創傷治癒のプロセスを反映した能動的創傷治癒が起こるという事実に関連して、本発明において前記タンパク質を用いた場合、迅速で瘢痕形成の無い創傷閉鎖を行うことができる。本発明において前記タンパク質を用いることに関連する上述のプロセスの各々における重要な様相は、HMGタンパク質が天然の内因性物質であるため、皮膚刺激作用及びアレルギー反応の危険性が非常に低いと推定できるという事実である。更に、ヒトと動物の前記タンパク質は、高い保存性に起因して殆ど同一であるため、試験動物を用いたin vivo実験の結果を非常に高い信頼度でヒトに用いることができる。また、創傷治癒においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸を本発明において用いると、in vitro刺激因子として用いた前記タンパク質によって(自家皮膚細胞から出発し任意の増殖を経て)産生された代用皮膚の移植が可能となる。このような目的に必要な自家皮膚細胞としては、例えば、生検試料に由来するものを用いることができる。典型的な適用分野は、広範な火傷や抗治療慢性潰瘍である。自家代用皮膚を用いる方法と同様に、上述の条件下で免疫系の拒絶反応が起こらない点で特に有利である。
【0165】
本発明で用いられるDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸の上述の複合作用モードによって、創傷部位では十分な血流が得られ、また、心筋梗塞における血管形成にこれらを用いることについての説明が与えられる。本明細書に記載され、本発明で用いられるDNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質の影響下で、創傷部位での血管新生を促進し心筋に血管を供給する内皮細胞の増殖が誘導される。このことは、歯や骨の移植における治癒に関連する用途にも当てはまる。これに関連して、DNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸の増殖促進作用も、上述の血管新生作用を示す。更に、本明細書に記載され、本発明で用いられるDNA結合タンパク質、特にHMG結合タンパク質の影響下で細胞の移動度が上昇するという作用は、特にこの適用分野において有用である。
【0166】
塩基性DNAタンパク質及びそれらをコードする本明細書に記載の核酸を組織老化の分野に適用することも有利であり、前記タンパク質の影響下で組織老化の進行が遅くなるか或いは見られなくなる。更に組織の若返りにも適用されるが、組織老化と組織若返りとの間には、その根底にあるプロセスが本明細書に記載の塩基性DNA結合タンパク質及びそれらをコードする核酸によって影響を受け得るという点で重なる部分がある。この効果は、前記DNA結合タンパク質の特徴、即ち、若い分化した細胞や胎児皮膚細胞の状態に非常によく似た状態へ細胞を移行させる特徴に基づくと思われるが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。このように、前記タンパク質によって処理された細胞は、若返りプロセス及び脱分化プロセスを経て、再び再生することができる。特に、ホルモンの変化や遺伝的要因等に影響を受ける年齢起因の細胞再生の遅延や低下に対しては、塩基性DNA結合タンパク質及びそれらをコードする核酸によって対抗することができる。また、本明細書に記載の塩基性DNAタンパク質により誘導される能動的細胞再生によって、外因性因子(遊離酸素ラジカル等)によって生じた損傷を低下、除去することができ、また損傷の発生を防ぐことができる。従って、本発明で用いられる塩基性DNAタンパク質及びそれらをコードする核酸は、既存の皮膚損傷に対して細胞再生により対抗するのに事実上好適な初期対症療法だけでなく、予防療法及び/又は原因療法を可能にする。更に、本発明において前記タンパク質を用いた場合、組織老化に影響を及ぼすプロセスにおいてコラーゲンの発現が活性化され、これによってコラーゲンの低下や損失(即ち、皺の一主要因)に対して対抗することができる。
【0167】
本発明においては、DNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質の代わりに、それらをコードする上述の核酸を各細胞や各組織に導入することもできる。こうして処理された核酸は、対応するDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質が分子内で発現するように、各細胞やそれから形成された組織内で核酸の発現を可能にする発現ベクターに組み込むことが好ましい。個々の細胞用の各発現ベクターについては当業者に知られており、例えば、コロシモ(Colosimo)A.ら(2000年)哺乳類細胞内での外来遺伝子の伝達及び発現、Review.Biotechniques 29:314〜331、及びサンブルック(Sambrook)、J.、フリッシュ(Fritsch)、E.F.、マニアティス(Maniatis)、T.(1989年)実験室マニュアル、CSH Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーに記載されている。遺伝子発現用の好適なウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルスやアデノ随伴ウイルス、エプスタイン−バーウイルス、単純ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ポリオーマウイルス、レトロウイルス、SV40、ワクシニアウイルス等の不活化ウイルス由来のものが挙げられる。好適なプラスミドベクターは通常、原核、真核及び/又はウイルス配列から成る。その例としては、特にpTK2やpHyg、pRSVneo、pACT、pCAT、pCAT系ベクター、pCI、pSI、pCR2.1、pCR2.1系ベクター、pDEST、pDEST系ベクターが挙げられる。また、前記細胞や組織に各DNAを導入するための方法についても当業者には知られており、この導入はin situ、in vivo、或いはin vitroで行うことができる。各方法には、例えば、コロシモ(Colosimo)A.ら(2000年)哺乳類細胞内での外来遺伝子の伝達及び発現、Review.Biotechniques 29:314〜331、及びサンブルック(Sambrook)、J.、フリッシュ(Fritsch)、E.F.、マニアティス(Maniatis)、T.(1989年)実験室マニュアル、CSH Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバーに記載された、PO沈殿(CaPO、BES−CaPO、SRPO)、カチオンポリマー、リポソーム、分子複合体(ポリリシン等)、グラミシジンS−DNA−脂質複合体、エレクトロポレーション、遺伝子銃、マイクロインジェクション、組換えウイルス、及びネイキッドDNA等が含まれる。
【0168】
同様のアプローチは、細胞的背景(細胞や、組織、器官等)内で本明細書に記載の機能性核酸を発現させることが望ましい場合、特に機能性核酸が、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質の発現(即ち、転写や翻訳)を阻害する場合に用いることができる。
【0169】
よって、本発明においては、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質の代わりに、それらをコードする核酸、即ち、発現系で各タンパク質の発現をもたらす核酸を用いることができる。好適な発現系としては、細胞溶解物、細胞、組織及び/又は器官等が挙げられる。
【0170】
組織の血管新生或いは新血管形成のための本発明の方法、特にin vitro法は、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記組織と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含み、前記核酸はHMGタンパク質の遺伝子からなる群から選択されるが、該方法においては、DNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、及び各核酸を用いることができる。
【0171】
組織の再生のための本発明の方法、特にin vitro法においては、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記組織と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含み、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択されるが、該方法においては、本明細書に記載のDNA結合塩基性タンパク質及び各核酸を用いることができる。
【0172】
用意する組織は、再生しようとする種類のものであることが好ましい。但し、本発明で用いる塩基性DNAタンパク質の作用モードの点では、この工程で用意、使用する組織が最終的に実際に得られる組織と同一である必要はない。例えば、本明細書に記載のHMG遺伝子、タンパク質、ポリペプチドの影響下で、脂肪細胞から軟骨細胞を、或いは軟骨細胞から筋細胞を産生することが可能である。本発明者らは、本発明で用いるDNA結合タンパク質によって、出発細胞としての細胞が幹細胞様状態を経て各細胞型になると考えているが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。本明細書に記載の方法は、幹細胞様細胞(quasi stem cells)を再生するための方法でもある。
【0173】
組織の用意は、例えば、生検或いは搾取作用によって行うことができる。
【0174】
組織を本明細書に記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と共にインキュベートしその組織或いはその一部に導入する場合、翻訳物、核酸、或いは転写物が組織内の一種以上の細胞に取り込まれるように行うことができる。このような目的に対し、核酸は、組織の一種以上の細胞のトランスフェクションを可能とする形態で用意することが好ましい。このような目的に対する好適な手段としては、例えば、核酸やその転写物をリポソームとして添加することや、核酸とその転写物を、リポソーム或いは細胞のトランスフェクションを可能とする異なる形態、及び他の核酸と共にインキュベートすることが挙げられる。翻訳物、特に本発明で用いるHMGタンパク質をインキュベーションの際に細胞へ導入する場合、従来技術で知られた方法、例えば、エレクトロポレーションや、細菌毒素(ストレプトリシンO)或いはタンパク質伝達ドメイン及びペプチド担体を用いた細胞の処理等を用いて行うことができる。
【0175】
上述の本発明の組織再生のための方法は、細胞内のDNA損傷或いは細胞のDNA損傷を修復するため、また、DNA損傷修復を支援するためにも用いることができる。これに関連して、特に上皮層でのDNA損傷の修復が引き起こされる或いは促進される。
【0176】
エレクトロポレーション、即ち、短い電気パルスによって膜に可逆的開口部(孔)を形成する方法は、細胞に外来分子を導入するため70年代に初めて用いられた。低分子物質(色素やペプチド等)及び高分子化合物(タンパク質やDNA、RNA等)のいずれも、形成された膜孔を通して細菌細胞及び真核細胞へ導入することができる。この方法は、他の方法と比べて比較的輸送効率が低いため、臨床適用においては次の方法や剤を用いるのが好ましいであろう。
【0177】
真核細胞の膜は、ストレプトリシンO等の細菌毒素を用いて透過性にすることができる。ストレプトリシンO(SLO)を用いた真核細胞へのHMGタンパク質の移動は、Ca2+濃度を変化させることによって行う。Caイオンの非存在下で細胞は溶解するが、続いてCa2+イオンを添加することによって細胞孔を再び閉じることができる。この溶解プロセスの可逆性を確保するため、当業者に知られた通常の実験の際に、各細胞型にとって最適のSLO濃度を決定する。例えば、in vitroで培養した自家角化細胞の増殖を刺激するため、この方法を用いて、本明細書に開示の医薬、即ち、本明細書に記載のHMGタンパク質及びそれらをコードする核酸を、例えば皮膚細胞へ導入する。高増殖性細胞を、慢性創傷の患者、例えば火傷患者に対し移植片として提供することができる。
【0178】
リポソームは、細胞膜を介するイオン輸送の研究のため1961年に初めて用いられ、その後、医薬輸送の好適な手段であることが見出された。リポソームでカプセル化した医薬の全身投与については殆ど成功しなかったが、リポソームの局所適用によって皮膚科学の分野に新しい可能性がもたらされた。また、リポソームベースの化粧品も、米国及び西欧では市場に出回っている。従って、リポソームは、HMGタンパク質或いはそれらをコードする核酸の投与、特に本明細書に記載の医薬及び外用品の製造に好適な適用形態を示している。
【0179】
リポソームは、細胞膜の脂質二重層と類似のデザインを有し、細胞に対して過剰に添加した際には細胞と融合するミセルである。従って、リポソームの親水相へ予め添加された医薬やカプセル化された医薬は細胞内へ放出され得る。リポソームは、そのサイズ及び脂質二重層の数に基づいて分類される。数個の脂質二重層を有する大型ベシクル(0.1〜>10μm)(多層状大型ベシクル:MLV)、1個の脂質二重層を有する大型ベシクル(≧0.06μm)(単層状大型ベシクル)、及び1個の脂質二重層を有する小型ベシクル(0.02〜0.05μm)(単層状小型ベシクル)が存在する。脂質二重層の数によって、細胞内への医薬の定量的な放出や送達をある程度制御することができる。また、リポソームと皮膚との間の適合性は、例えば、リン脂質成分ではなくセラミド(即ち、角化細胞の膜構造に類似した構造体)を配合することによって向上させることができる。よって、この方法は、本明細書に記載のHMGタンパク質及びそれらをコードする核酸をベースとした医薬を含み、局所的に適用しようとする組成物の場合、特に好適である。HMGタンパク質はサイズが小さく、特にHMGAタンパク質は小さい(<12kDa)ため、より一層リポソームへのパッケージングに適している。
【0180】
タンパク質伝達ドメイン(PTD)及びペプチド担体によって、本発明で用いるタンパク質を細胞内へ効率よく導入することができる。PTDは、一般に10〜16アミノ酸(通常、正に帯電したリシン及びアルギニン残基)から成る短いペプチドであり、輸送しようとするタンパク質と共有結合する。PTD仲介による伝達は、レセプター、トランスポーター及びエンドサイトーシスとは無関係の、現在殆ど知られていないメカニズムによって起こる。PTDによって、サイズが最大700kDaのタンパク質を細胞内へ導入することが可能である。また、タンパク質のin vivo伝達は既に組織や細胞内で検出可能であるため、PTDは、本発明で用いる本明細書に記載のHMGタンパク質及びそれらをコードする核酸等の医薬の作用物質の輸送に特に適している。しかし、PTDは移動させようとするタンパク質と共有結合するため、輸送しようとする医薬の機能性を維持しなければならないという点では、この技術は制限される。この理由からも、好ましくは、チャリオット試薬(chariot reagent)(カールズバッド)等の非共有結合ペプチド担体を好ましい実施形態で用いる。このタンパク質輸送系は、短い合成シグナルペプチド(Pep−1)に基づくものであり、このペプチドは輸送しようとするタンパク質と非共有結合性疎水的相互作用によって複合体を形成する。細胞内では、輸送されたタンパク質はPep−1ペプチドから解離し、細胞輸送メカニズムによって細胞内の目的位置まで輸送される。この方法の更に有利な点は、輸送効率が高いことであり、輸送効率は、細胞型やタンパク質にもよるが60%と95%との間である。よって、この方法は、HMGタンパク質によって仲介されるin vitro培養自家皮膚細胞の増殖促進に関連して用いるのに適しており、また、本明細書に記載の医薬を一種以上含み局所的に投与される組成物に関連して用いるのに適している。
【0181】
核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と共に組織をインキュベートする場合、これらを細胞や組織内に取り込むことができる条件下で行う。好ましくは、37℃、生理学的条件下でインキュベーションを行う。
【0182】
更なる様相において、本発明は、
a)一種以上の細胞を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を用意する工程と、
c)前記細胞と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含み、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は、上述の他の様相のいずれかに関連して記載したのと同様に具体化され得る、細胞の分化、脱分化及び/又は再プログラム化のための方法、特にin vitro法に関する。
【0183】
本明細書に記載の組織再生方法の個々の工程を行うことに関連して上述したことは、この方法にも適用される。用意することのできる細胞は任意の細胞であり、特に脂肪細胞や軟骨細胞、筋細胞等の間葉細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0184】
更なる様相において、本発明は、一種以上の核酸、それらの転写物、それらの翻訳物、機能性核酸、及び本明細書に記載の本発明のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物と、薬学的に好適な担体とを含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、各種適用形態に具体化される組成物であり得る。このような適用形態としては、特に局所適用や皮下適用が挙げられる。同じことが本発明の化粧料組成物に対しても当てはまる。好適な薬学的担体及び化粧用担体としては、例えば、1995年6月19日付の化粧品に関する規制で定義されたドイツ連邦共和国において有効なもの(effective for)が挙げられる。さらに、バッファーや、安定剤、静菌剤、アルコール、塩基、酸、デンプン、保湿剤、クリーム、脂肪性軟膏、エマルジョン(水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、水中油中水(W/O/W)型)、マイクロエマルジョン、変性エマルジョン、ナノ粒子/ナノエマルジョン、リポソーム、ハイドロディスパージョンゲル(ハイドロゲル、アルコールゲル、リポゲル、テンサイドゲル)、ゲル−クリーム、ローション、オイル/オイルバス、スプレーが挙げられ、これらは単独で或いは組合せて用いることができる。
【0185】
本発明の医薬組成物は、本発明で用いるDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、これをコードする核酸、或いはこのようなタンパク質の核酸配列に由来する阻害性核酸(アンチセンス核酸や、リボザイム、RNAi等)だけでなく、他の薬剤を含んでもよい。少なくとも一種のHMGタンパク質或いはそれをコードする核酸を含む医薬組成物或いは化粧料組成物の形態としては、軟膏、クリーム及びゲルが好ましい。
【0186】
本発明は更に、本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質が、動物細胞、特に上皮細胞、より詳細にはヒト上皮細胞内へ自発的に移動するという驚くべき知見に基づく。このため、前記タンパク質を細胞被覆表面、特に処理しようとする細胞上へ直接適用し、次いでこの細胞が前記タンパク質を取り込むということが可能である。この自発的移動を促進するキャリア媒体に前記タンパク質を含ませることが好ましい。このような移動媒体としては、例えば、水溶液やアルコール溶液、好適なエマルジョン、他の相、相混合物等が挙げられる。本明細書に記載のDNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質はこのような驚くべき挙動を示すため、医薬組成物及び/又は化粧料組成物に該タンパク質を直接用いることができ、よって、処理しようとする細胞内へ該タンパク質を取り込むためにストレプトリシンを用いる等の具体策を更に講じる必要はなくなる。
【0187】
本発明に記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物、本明細書に開示の機能性核酸、本発明のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物、及びそれらによって調製される医薬組成物を用いて、従来技術で知られた適用方法のいずれも行うことができる。例えば、皮内、皮下、筋肉内、静脈内及び動脈内適用については、注射器を用いて行うことができ、また、適用は標的組織に対して直接行うことができる。また、自由に接触可能な標的組織に対しては、カテーテルプローブや直接適用を用いることもできる。通常、用いる適用方法は標的組織に応じて決定する。例えば、心筋組織の血管再生を目的とする場合には、カテーテル、ニードル、或いはTMLRに関連するレーザパルスの適用等も可能とする複合機器によって本発明の組成物を適用するのが好ましい。例えば、創傷治癒を促進するように本発明に記載の核酸、その転写物或いはその翻訳物を用いて血管新生を促進する皮膚組織である場合、或いは、血管腫や小静脈瘤等の場合に本発明に記載の核酸由来の阻害性分子(アンチセンス核酸や、リボザイム、RNAi等)や上述のスクリーニング方法で特定される阻害性物質によって血管新生を阻害する対象が皮膚組織である場合には、例えばクリームの形態で皮内投与、皮下投与或いは局所投与を行うのが適切であろう。好適な投与方法の選択は当業者の技量内で行う。
【0188】
更なる様相において、本発明は、本発明の方法によって得られる細胞、及び本発明の方法によって得られる組織に関する。
【0189】
更なる様相において、本発明は、一種以上の核酸、その転写物、その翻訳物、本明細書に記載の機能性核酸の一種以上、及び/又は本発明のスクリーニング方法の適用によって特定される化合物の一種以上を含む担体材料であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物が本明細書に記載のものであってもよい、担体材料に関する。この担体材料は、特にインプラントや被覆材料として用いられ、好ましくは、創傷治癒のため、本明細書に記載の他の疾患や病態の各々のため、また、本明細書に記載の他の用途、即ち、本明細書に記載の塩基性DNA結合タンパク質が共有結合或いは非共有結合する表面の提供を含む用途のためにも用いられる。原則として、インプラント材料や被覆材料、担体材料として用いられるいずれの材料も、創傷治癒のため、或いは本明細書に記載の他の用途、即ち、DNA結合タンパク質、特に本明細書に記載のHMGタンパク質が共有結合或いは非共有結合する表面の提供に関し、当該技術分野で知られた用途のために用いることができる。そのような材料の例として、ハイドロコロイドやハイドロゲル、ハイドロポリマー、発泡体ドレッシング材、アルギン酸カルシウム、活性炭、発泡プラスチック、シート、発泡シリコーン、フリース材料、人工連続フィラメント、綿ガーゼ、ゴム、パラフィン、及びパラフィンガーゼ等が挙げられるがこれらに限定されない。好適なプラスチックとしては、ポリエチレンや、ポリビニレン、ポリアミド、ポリウレタンが挙げられる。本発明で用いる核酸やDNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質は、非共有結合的に担体材料によって吸収されるのが好ましい。しかし、本発明においては、各適用条件によっては、これら材料が共有結合である及び/又は実際の担体材料からの前記タンパク質が放出したものであることもできる。好適な潜在的適用は当業者には知られている。担体材料の具体的な形態の一種として、被覆基材と、本明細書に具体的に記載された、一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とから成る創傷被覆材料が挙げられる。この場合、被覆基材は、本明細書に記載の意味において担体材料を形成し得る。
【0190】
更なる様相において、本発明は、特定のプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法に関する。前記プロセスは、本明細書に記載の各プロセスのいずれであってもよく、また、単独プロセス或いはプロセスの組合せであってもよい。より詳細には、前記プロセスは、組織再生、創傷治癒、細胞移動、皮膚損傷の修復、血管新生、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の変化、組織若返り、血管形成、新血管形成、心筋梗塞に関する血管形成、及び歯や骨の移植における治癒から成る群から選択することができる。また、一般に、前記プロセスは、再プログラム化、再分化或いは脱分化を含み、任意的にその後の新しい分化を伴うプロセスのいずれであってもよい。本明細書に記載のプロセスは、少なくとも一種の細胞の新しい分化の発生に基づく或いはそれに起因する幹細胞様状態へ該細胞を移行させることに関連すると思われるが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。
【0191】
本発明の化合物スクリーニング方法は、その最も簡単な形態において、
a)前記プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)候補化合物を用意する工程と、
c)前記候補化合物を試験し、前記試験系において候補化合物が起こす反応を決定する工程とを含む。
【0192】
前記試験系は、各プロセスを示すことが可能な系であることが好ましく、特に、前記プロセスを促進或いは阻害すると考えられる化合物(いわゆる候補化合物)の影響下でのプロセス、及び/又は参照化合物の影響下でのプロセスを示すことが可能な系であることが好ましい。このような系は当業者には知られている。この試験系は、一種以上の細胞と、任意的には前記細胞を含む組織とを含み、前記細胞及び組織それぞれの挙動が解析されることが好ましい。これに関連して、前記挙動は次のプロセス、即ち、細胞及び組織それぞれの増殖、細胞及び組織それぞれの分化、及びそれらの様々な局面や様相(例えば、脱分化や分化、好ましくは新しい分化、細胞の運動性、シグナル分子の放出、組織の血管新生や新血管形成等が挙げられるが、これらに限定されない)の内の一種以上である。試験系の反応を説明するために、直接の増殖だけでなく他の現象やパラメータを用いることができる。このようなパラメータとしては、例えば、生化学的パラメータや遺伝学的パラメータ、分子遺伝学的パラメータ、分子生物学的パラメータ、組織学的パラメータ、細胞学的パラメータ、生理学的パラメータ、表現型的パラメータが挙げられる。生化学的パラメータとしては、例えば、代謝経路や出発剤、前記プロセスに直接的或いは間接的に関連するその生成物(products thereof)が挙げられる。遺伝学的及び分子遺伝学的パラメータとしては、核酸やゲノム核酸、hnRNA、mRNA等のレベルで前記プロセスに関与するものが好ましい。本発明においては、前記プロセスが促進或いは阻害される際の各核酸の存在、各核酸の消失、或いは各核酸の定量的変化は遺伝学的パラメータとなり得る。分子パラメータは、前記プロセスにおける前記タンパク質の出現及び消失等に関連し得る。生理学的パラメータとしては、細胞や組織の挙動、特に、刺激(例えば、生物学的、化学的或いは物理的刺激)に呼応する細胞や組織の挙動を挙げることができるが、前記プロセスが促進される場合と阻害される場合とでは、各細胞系(即ち、細胞や組織)の刺激に対する反応の仕方が異なる。
【0193】
このようなプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための本発明方法の一実施形態においては、該プロセスのための各試験系とは別に参照化合物を用意し、この参照化合物を試験系に接触させること、即ち、この参照化合物を試験系において試験することが意図されている。この接触は、参照化合物(好ましくは溶液中、より好ましくはバッファー中に存在する)が試験化合物に接するように行うのが好ましく、そこへ培地を添加するのが好ましい。また、本発明においては、参照化合物は部位特異的に試験系に接触するが、例えば、参照化合物は組織の別個の細胞内、或いは該細胞の別個の区画内へ取り込まれる。このような参照化合物の細胞特異的送達や区画特異的送達については、基本的に当業者に知られている。例えば、ワン(Wang)Bら(2001年)ウシ接合体前核への哺乳類人工染色体のマイクロインジェクション後のレポーター遺伝子の発現、Mol.Reprod.Dev.60:433〜8に記載されているように、マイクロインジェクションによって参照化合物を細胞の所定の部位や区画へ注入することができる。更に、参照化合物を処理するための方法については、例えば、アミノ酸トランスポーターを用いる処理方法や、参照化合物が別個の細胞(線維芽細胞等)に到達するよう該化合物を変性することによる処理方法(例えば、パラシン(Palacin)Mら、(1998年)哺乳類原形質膜アミノ酸トランスポーターの分子生物学、Physiol.Rev.78:969〜1054に記載)、参照化合物が特定の細胞区画(核等)に到達するように該化合物を変性することによる処理方法(例えば、シャロイン(Chaloin)Lら、(1998年)迅速な膜転移及び核局在化特性によるキャリアペプチド−オリゴヌクレオチド複合体の設計、Biochem.Biophys.Res.Commun.243:601〜608に記載)、参照化合物がミトコンドリアに到達するように該化合物を変性することによる処理方法(例えば、ペイン(Pain)Dら、(1991年)葉緑体及びミトコンドリアへのタンパク質移入のための機械、Genet.Eng.(N Y)13:153〜166に記載)が挙げられる。細胞特異的送達や区画特異的送達については、本明細書に記載の候補化合物に対しても行うことができる。
【0194】
次の工程では、試験系において参照化合物が起こす反応を決定する。これに関しては、試験系における参照化合物の影響を決定するために上述のパラメータを用いることが好ましい。前記プロセスの一種を促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための本発明方法の本実施形態の更なる工程においては、候補化合物を用意し、参照化合物の場合と同様に試験系において試験する。次いで、試験系において候補化合物が起こす反応を決定するが、この際、基本的には参照化合物に対して用いた上述のパラメータを用いる。最後に、上述のパラメータで示される参照化合物の影響下での試験系の反応と候補化合物の影響下での試験系の反応との比較を試験系内で行う。試験系において候補化合物の影響下で前記プロセスの一種以上がもたらす反応が、参照化合物の影響下での反応と同等か或いはそれより顕著な場合、候補化合物を該プロセスを促進する化合物と見なす。一方、試験系において候補化合物が起こす反応が参照化合物の場合の反応と比べて顕著でない場合、候補化合物は前記プロセスの一種以上を阻害する化合物となる。本発明においては、同一の候補化合物であっても、プロセスの阻害や促進という意味では前記プロセスの内の一プロセスと別のプロセスに対して異なる作用を示すことがある。また、本発明においては、参照化合物と候補化合物を試験する順序を逆にしてもよい。
【0195】
前記プロセスの一種を促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための本発明方法の更なる様相においては、再度前記プロセスのための試験系を用意し、次いで、参照化合物を用意する。この実施形態においては、参照化合物を標識する。原則としていずれの標識も好適であるが、特に放射性標識、蛍光標識、免疫学的標識、酵素標識或いはアフィニティー標識を有し、このような標識を可能にするものが好適である。放射性標識としては、特にHやH、35S、32P、33P、125I、51Cr、13C、14Cが挙げられ、蛍光標識としては、フルオレセインやフルオレサミン、イソシアネート、ルシフェラーゼ、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5を用いた標識が挙げられる。免疫学的標識としては、各種免疫原や免疫グロブリンIgM、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1やIgG2a、IgG2b等が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。酵素標識としては、特にアルカリホスファターゼやペルオキシダーゼが挙げられる。アフィニティー標識としては、GST標識やHisタグ標識、そしてビオチンやジゴキシゲニンによる標識が挙げられる。標識としては、試験系において参照化合物により生じる反応に干渉しないものが好ましい。次いで、このように標識した参照化合物を上述のように試験系において試験し、該系において生じた反応を決定する。更なる工程においては、次に候補化合物を用意し、これも上述のように試験系において試験するが、候補化合物が起こす反応を試験する際、試験系には参照化合物が含まれる。この試験は、参照化合物が確実に生物学的に活性である(即ち、促進作用或いは阻害作用を示す)ような条件下で行うことが好ましい。候補化合物を添加した後、試験系の反応を再度決定するが、この際、原則として上述の生化学的パラメータを用いることが可能である。好ましくは、放出された標識自体の量或いは各標識によって、遊離した参照化合物の量を追加的或いは選択的に測定する。
【0196】
前記プロセスの一種を促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための本発明方法の更なる様相においては、候補化合物を標識することが意図されている。一実施形態においては、候補化合物を用意した後、試験系において試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する。次いで、参照化合物を用意した後、試験系において参照化合物を試験するが、この際、試験系は、特に参照化合物が生理学的に活性であることを可能にする条件下で、候補化合物を含んでいる。そして、試験系の反応を決定し、放出された候補化合物の量及び/又は候補化合物の放出された標識の量を測定する。或いは、これに加えて、各プロセスにおける参照化合物及び候補化合物双方の反応を特徴付けるために、前記パラメータを上述のように用いることができる。また、本発明においては、候補化合物や参照化合物を標識することとは関係無く、これらの化合物を添加する順序を逆にしてもよい。上述の二種類の手順の内、第一の手順においては、参照化合物が候補化合物と競合しており、第二の手順においては、候補化合物が参照化合物と競合している。最後に、本発明のスクリーニング方法の各種様相においては、候補化合物或いは参照化合物の一方が標識(以下第一の標識とも称する)を有しているが、更に他方が標識(以下第二の標識とも称する)を有することもでき、第一と第二の標識は互いに異なっているのが好ましい。
【0197】
前記プロセスの一種を促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための本発明方法のいずれにおいても、参照化合物は、核酸、その転写物或いはその翻訳物、また、任意的にはそれらの組合せであり、前記核酸は、DNA結合タンパク質及びHMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択されることが意図されている。特に好ましいDNA結合タンパク質やHMGタンパク質としては、本明細書に記載のもの、特に表1に記載の配列番号1〜30のものが挙げられ、タンパク質をコードする核酸としては、表2に記載の配列番号31〜64のものが挙げられる。
【0198】
本発明において、各種用途及び使用の際には、DNA結合タンパク質及びHMGタンパク質の一種、及び/又は本明細書に記載のDNA結合タンパク質及びHMGタンパク質の一種をコードする核酸の一種を用いる。しかし、本発明においては、前記各種タンパク質や前記タンパク質をコードする各種核酸の内の二種以上の混合物を用いることもできる。また、本明細書において用いられている次の「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」という用語は互いに置き換え可能である。
【0199】
本発明の更なる様相は、別個の生物学的プロセスを阻害するための、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質の使用、該タンパク質をコードする核酸の使用、好ましくは該タンパク質と相互作用する(好ましくは、該タンパク質に拮抗する)分子の使用に関する。この阻害に基づき、これらのプロセスに関連する疾患の予防や治療を原因的或いは対症的に行うことができる。このような疾患としては、腫瘍、腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症及び関節炎が挙げられる(以下、これらの疾患を「前記疾患」とも称する)が、これらに限定されない。前記疾患は、ヒトの各疾患であってもよく、動物、特にペットや動物園の動物、家畜等の各疾患であってもよい。この様相及び他の様相に記載のDNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質としては、このようなタンパク質全てが挙げられ、特に本明細書に記載のHMGタンパク質、HMGペプチド及びその断片、また、それらをコードする核酸が挙げられる。本明細書において別に明記していなければ、「タンパク質」はポリペプチドのことも指し、逆の場合も同様である。特に、「HMGタンパク質」にはHMGペプチド及びその断片も含まれる。
【0200】
この因果関係のため、本発明の更なる様相は、前記疾患のいずれかを予防及び/又は治療するための剤に関する。このような剤としては、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、及びそれらをコードする核酸の作用を阻害或いは拮抗するものが好ましい。このような剤は、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、或いはそれらをコードする核酸に結合するポリペプチドや、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、或いはそれらをコードする核酸に結合する抗体である。このような疾患の予防や治療に使用できる他の剤としては、siRNAやRNAi、アプタマー、スピゲルマー、アンチセンス分子、リボザイムが挙げられる。本発明は、医薬、特に前記疾患のいずれかの治療のための医薬を製造するためのこのような剤の使用に関する。
【0201】
上述の剤は当業者によって製造することができる。DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、その断片、或いは該タンパク質をコードする核酸やその断片、特に本明細書に開示のもののいずれもこのような製造の基礎となる。前記タンパク質は、HMGB1及びその一部、特にHMGB1のAドメインであることが特に好ましい。前記疾患のいずれかの治療及び/又は予防のための医薬を製造するために本発明で用いることのできる剤としては、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)に対する抗体や、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)に結合するペプチド、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)のmRNAを指向するsiRNA、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)をコードする核酸に対するアンチセンス分子が挙げられる。前記核酸は、具体的にはmRNAやhnRNAの他、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)をコードを指向するリボザイムが挙げられ、中でもmRNAやhnRNAである。更に、上述の剤としては、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質或いはその断片)或いはそれらをコードする核酸を思考するアプタマーやスピゲルマーが挙げられる。
【0202】
本発明で用いる抗体は、シーザー(Cesar)とミルシュタイン(Milstein)のプロトコル及びそれを更に改良した方法に従って産生することができるモノクローナル抗体であることが好ましい。原則としてHMGBに特異的に結合することができるのであれば、用いる抗体は、抗体の断片や誘導体、例えば、Fab断片やFc断片であってもよく、また、一本鎖抗体であってもよい。モノクローナル抗体だけでなく、ポリクローナル抗体を用いることもできる。原則として医薬としても用いることのできる基礎研究用ポリクローナル抗体としては、例えば、HMGB1を指向する抗体sc−12523(サンタクルーズ・バイオテクノロジー、米国サンタクルーズ)が挙げられる。用いる抗体はヒト抗体或いはヒト化抗体が好ましい。
【0203】
DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質、或いはそれらをコードする核酸)と相互作用するペプチドやポリペプチドは、従来技術で知られた方法、例えばファージディスプレイ法を用いてスクリーニングすることができる。このような技法は当業者に知られている。このようなペプチドの産生に関しては、通常、ペプチドライブラリーを、例えばファージの形態で作成し、このライブラリーを標的分子(即ち、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、好ましくはHMGB1)に接触させる。次いで、結合ペプチドを、通常、標的分子との複合体の状態でライブラリーの非結合メンバーから分離する。結合特性が実験条件(塩濃度等)に少なくともある程度依存することは当業者であれば容易に分かることである。高い親和性或いはより大きな力で標的分子に結合しているペプチドをライブラリーの非結合メンバーそして標的分子から分離した後、該ペプチドの特徴付けを行うことができる。任意的には、特徴付けの前に、例えば対応するペプチドをコードするファージを増殖することによる増幅工程が必要となる。特徴付けには、各DNA結合タンパク質(特に各HMG)に結合するペプチドの配列決定が含まれることが好ましい。原則として、ペプチドの長さは限定されない。しかし、上述の方法においては、通常、8〜20アミノ酸長のペプチドを使用或いは取得する。ライブラリーは、10〜1018種のペプチド、好ましくは10〜1015種のペプチドを含む。
【0204】
標的分子結合ポリペプチドの具体的な形態としては、例えば、ドイツ特許出願DE19742706号に記載のアンチカリンが挙げられる。
【0205】
更に、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質、それらをコードする核酸)の作用に拮抗する小分子も用いることができる。このような小分子は、例えば、スクリーニング方法、特に小分子ライブラリーのスクリーニングによって特定することができる。これに関連して、標的分子をライブラリーに接触させ、標的分子に結合するライブラリーのメンバーを決定し、任意的にはこれらのメンバーをライブラリーの他のメンバーそして標的分子から分離し、また、更に任意的にはその特徴付けも行う。この場合にも、小分子の特徴付けは当業者に知られた手法によって行うが、例えば、化合物を特定し、分子構造を決定する。このようなライブラリーに含まれるメンバー数は、最低2であり、多くとも数十万である。本明細書に記載のアプタマーは一本鎖或いは二本鎖のD核酸であり、標的分子に特異的に結合する。アプタマーの産生については、例えば、ヨーロッパ特許EP0533838号に記載されている。アプタマーの産生については次の通りである。
【0206】
アプタマーの産生方法において、核酸(無作為に選ばれた少なくとも8個の連続するヌクレオチドのセグメントから成る)の混合物、即ち、潜在的なアプタマーを用意し、この混合物をDNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、それらをコードする核酸、DNA結合タンパク質の相互作用パートナー、HMG相互作用パートナー、特に天然相互作用パートナー及び/又はそれらをコードする核酸に接触させ、標的に結合する核酸(任意的に、この結合は高い親和性に基づく)を候補混合物と比較し、候補混合物から分離し、こうして得られた標的に結合する核酸(任意的に、この結合は高い親和性或いはより大きな力による)を増幅する。上述のステップを数回繰り返し、この方法の終了後、対応する標的に特異的に結合する核酸、いわゆるアプタマーが得られるようにする。本発明においては、例えば、アプタマー開発分野の当業者に知られているように別個の化学基を導入することによって、このようなアプタマーを安定化させることができる。アプタマーは既に治療に用いられている。また、本発明においては、こうして産生したアプタマーを標的の確認のために用い、更に医薬、特に小分子の開発用リード化合物として用いることもできる。
【0207】
スピゲルマーの製造や産生は基本的に同様の原理に基づくものであり、本発明において、スピゲルマーは、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、それらをコードする核酸、DNA結合タンパク質の相互作用パートナー、HMGの相互作用パートナー、特に天然相互作用パートナー及び/又はそれらをコードする核酸を標的分子として用いて産生することができる。スピゲルマーの産生については、例えば、国際特許出願WO98/08856号に記載されている。スピゲルマーはL核酸であって、即ち、Lヌクレオチドによって構成されており、その基本的な特徴は、生物系で非常に高い安定性を示すことである。このため、アプタマーの場合と同様に、標的分子と特異的に相互作用し結合する。より詳細には、D核酸の異種集団を作製し、この集団を標的分子の光学対掌体、この場合、天然LエナンチオマーのDエナンチオマーに接触させた後、標的分子の光学対掌体と相互作用しないD核酸を分離し、標的分子の光学対掌体と相互作用するD核酸を特定し、任意的には分離、配列決定を行い、次いで、先に特定したD核酸と配列が同一のL核酸を合成する。アプタマーの製造プロセスと同様に、上述の工程を数回繰り返すことによって、適切な核酸、即ち、スピゲルマーを濃縮、産生することができる。
【0208】
DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質)及びそれらをコードする核酸を用いて製造或いは開発できる他の化合物クラスとしては、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAiが挙げられる。
【0209】
これらのクラスは全て、翻訳物のレベル、即ち、DNA結合タンパク質(特にHMGタンパク質やその相互作用パートナー、特にHMGB1)のレベルにおいて有効ではなく、各タンパク質をコードする核酸、特にHMGB1をコードするmRNAのレベルにおいて有効であるという点で共通している。
【0210】
リボザイムは触媒活性を有する核酸であり、RNAから構成されていることが好ましく、二種類の部分を有する。第一の部分は触媒活性に関与し、第二の部分は標的核酸との特異的相互作用に関与する。標的核酸とリボザイムの第二の部分の相互作用(通常、基本的に互いに相補的な塩基領域のハイブリダイゼーションによる)が起こり、リボザイムの触媒部分は標的核酸を分子内或いは分子間で加水分解するが、リボザイムの触媒活性がホスホジエステラーゼ活性の場合には、分子間加水分解が好ましい。次いで、任意的ではあるが、コード核酸の分解が起こり、この際、標的分子の力価が核酸レベル及びタンパク質レベルにおいて細胞内外で低下し、子宮内膜の処置に対する治療的アプローチが提供される。リボザイム、その使用及びその構造原理については、当業者に知られており、例えば、ドハーティー(Doherty)及びダウドナ(Doudna)(リボザイムの構造及びメカニズム(Ribozyme structures and mechanisms)、Annu Rev Biophys Biomol Struct 2001年;30:457〜75)やリューイン(Lewin)及びハウスワース(Hauswirth)(リボザイム遺伝子治療:分子医学への応用(Ribozyme gene therapy: applications for molecular medicine)、Trends Mol Med 2001年、7:221〜8)に記載されている。
【0211】
医薬や診断剤の製造のためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、ほぼ同様の作用モードに基づく。アンチセンスオリゴヌクレオチドは通常、塩基相補性によって、標的RNA(通常はmRNA)とハイブリダイズし、RNAアーゼHを活性化する。RNAアーゼHは、ホスホジエステル結合DNA及びホスホロチオエート結合DNAの双方によって活性化される。ホスホジエステル結合DNAは細胞ヌクレアーゼによって急速に分解するが、ホスホロチオエート結合DNAは分解しない。このような抵抗性非天然DNA誘導体は、RNAにハイブリダイズするとRNAアーゼHを阻害しなくなる。換言すると、アンチセンスポリヌクレオチドはDNA−RNAハイブリッド複合体としてのみ活性である。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドの例としては、例えば、米国特許第5,849,902号或いは米国特許第5,989,912号に記載されている。原則として、アンチセンスオリゴヌクレオチドの基本概念は、個別のRNAに相補的な核酸を提供することにある。換言すると、HMGタンパク質及びその相互作用パートナー、特に各mRNAの核酸配列についての知識を基に、コード核酸、特にmRNAの分解をもたらすアンチセンスオリゴヌクレオチドを塩基相補性によって産生することができる。
【0212】
原則として医薬や診断剤に好適な他の化合物クラスとしては、いわゆるRNAiが挙げられる。RNAiは、RNA干渉を仲介する二本鎖RNAであり、通常、約21〜23ヌクレオチド長である。RNAiにおいては、前記二本鎖の内の一方が分解しようとする遺伝子の配列に相当する。換言すると、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質及び/又はそれらの相互作用パートナーをコード核酸(特にmRNA)配列についての知識を基に、二本鎖RNA(ここで、RNA鎖の一方は、DNA結合タンパク質、特にHMG及び/又はそれらの相互作用パートナーをコードする前記核酸、特にmRNAと相補的である)を製造することができ、これに引き続き、各コード核酸の分解がもたらされ、それと同時に各タンパク質の力価が低下する。医薬や診断剤としてのRNAiの作製及び使用については、例えば、国際特許出願WO00/44895号やWO01/75164号に記載されている。
【0213】
上述の化合物クラス、即ち、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びRNAiの作用モードに関して、本発明においては、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、より詳細にはHMGB1、及び特に天然の相互作用パートナーだけではなく、そのコード核酸、特にmRNAも、前記疾患(即ち、腫瘍や腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症、関節炎)の治療及び/又は予防のための医薬の製造のため、前記疾患診断用の診断剤の製造のため、また、前記疾患やその治療の進行をモニタリングするために、直接的に或いは標的分子として用いることができる。
【0214】
本発明においては、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、それらの断片、或いはそれらをコードする核酸を指向し、好ましくは、これらタンパク質やそれらをコードする核酸の作用に拮抗する上述の化合物クラス(即ち、抗やペプチド、アンチカリン、小分子、アプタマー、スピゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAi)を、治療及び/又は予防のための医薬の製造、特に腫瘍や腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症、関節炎の治療及び/又は予防のための医薬の製造のために用いることができる。
【0215】
本発明においては、上述の医薬や剤は、前記疾患の治療用だけでなく、診断目的にも用いることができる。即ち、上述の剤は診断薬或いは診断剤、好ましくは、腫瘍や腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症、関節炎のための診断薬或いは診断剤として用いることもできる。
【0216】
一実施形態においては、上述の剤を含む医薬組成物或いは診断用組成物は、上述の各化合物及び本明細書の記載に従って生成される各化合物の内の一種以上だけでなく、薬学的或いは診断的に活性な他の化合物や剤と、好ましくは少なくとも一種の薬学的に許容し得る担体とを含有する。このような担体としては、例えば、液体や固体、例えば、溶液、バッファー、アルコール溶液等が挙げられる。好適な固体担体としては、例えば、デンプン等が挙げられる。上述の各種化合物クラスを、所望の投与経路(例えば、経口投与や非経口投与、皮下投与、静脈内投与等)によって投与できるよう、どのように調製すべきかについては、医薬組成物分野の当業者には公知である。
【0217】
DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、その断片及びそれらをコードする核酸に拮抗する上述の剤(即ち、小分子やペプチド、アンチカリン、抗体、アプタマー、スピゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド(本明細書においてはアンチセンス分子とも称する)、RNAi)だけではなく、細胞表面レセプターRAGE或いはその断片も、このような目的、即ち、腫瘍や腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症、関節炎の診断剤を製造するための剤として、或いは、腫瘍や腫瘍疾患、組織球増殖症、炎症性疾患、炎症、関節炎の治療及び/又は予防のための医薬を製造するための剤として用いることができる。該レセプター或いはそれに由来する断片は、HMGタンパク質の作用、特にHMGB1タンパク質の作用に拮抗する(好ましくは、競合的阻害によって拮抗する)こともあり得るが、必ずしもこの考え方に固執するものではない。前記疾患治療用の医薬や診断剤を製造するために本発明で細胞表面レセプターRAGE、その断片、或いはそれらをコードする核酸を用いることは、上述のことに由来する(results therefrom)。
【0218】
この作用モードは、DNA結合タンパク質、特にHMGタンパク質、より詳細にはHMGB1が、細胞表面レセプターRAGE(後期糖化最終産物のレセプター)に対する細胞外リガンドであるという事実に基づくものであり、例えば、タグチら(タグチ,A.、ブラッド(Blood),D.C.、デル トロ(del Toro),G.、カネット(Canet),A.、リー(Lee),D.C.、クー(Qu),W.、タンジ,N.、ルー(Lu),Y.、ララ(Lalla),E.、フー(Fu),C.、ホフマン(Hofmann),M.A.、キスリンガー(Kislinger),T.、イングラム(Ingram),M.、ルー(Lu),A.、タナカ,H.、ホリ,O.、オガワ,S.スターン(Stern),D.M.、シュミット(Schmidt),A.M.(2000年)、Nature 405:354〜360)によって記載されている。
【0219】
本発明において、「HMGタンパク質」とは特に本明細書に開示されたものを意味するが、これらに限定されない。また、本発明においては、「DNA結合タンパク質」という用語は「塩基性DNAタンパク質」と置き換え可能である。
【0220】
以下、図面、実施例及び配列プロトコルを参照しつつ本発明を説明するが、これらによって、更なる特徴や実施形態、利点が分かるであろう。
【実施例】
【0221】
実施例1:材料及び方法
特段の記載のない限り、以下の各実験においては次の材料及び方法を用いた。
【0222】
ストレプトリシンO(SLO)を用いた真核細胞へのタンパク質の導入は、Ca2+イオン濃度を変化させて行った。Ca2+イオン非存在下において真核細胞を溶解し、Ca2+イオンを添加することにより細胞を再度閉じるのが好適である。
【0223】
細胞培養
準備段階として、細胞、具体的には一次培養ヒト繊維芽細胞、一次培養ヒト軟骨細胞、一次培養ヒト角化細胞、マウス角化細胞(MSC−P5、細胞株サービス及び細胞バンク(Cell Lines Service and Cellbank)、ハイデルベルグ)及びヒトHeLa細胞(ECACC N 85060701)を6ウェルプレートの各ウェル中の2.5mLの培地199(Gibco−BRL;5%ウシ胎児血清添加)に均一に播種し、37℃、5%CO雰囲気下で細胞密度が50〜70%になるまで一晩インキュベートする。そのまま単層で用いるのとは別に、幾つかの試験においては実験の開始に先立ち、傷の状態を人工的に作るため、スクレーパを用いてウェルの中央部の細胞を取り除いて無細胞領域を創製した。
【0224】
ストレプトリシンOを用いた単層細胞培養物へのHMGA1aの導入方法
溶解に先立ち細胞を1×PBSで2回洗浄し、Ca2+イオンを含有する培地残留物を除去する。ストレプトリシンO(ストレプトリシンO試薬、シグマ−RBI)を用いた細胞溶解はCa2+無添加PBSバッファ(バイオクロム(Biochrom))中で行う。最適ストレプトリシン濃度(殆どの細胞が可逆的に細胞を閉じる濃度)は、事前の実験にてトリパンブルー染色(シグマ−RBI)により測定したところ、繊維芽細胞及びヒトの皮膚の角化細胞の場合は0.1U SLO/1mL PBSである。各ウェルにおいて、所望の濃度(100ng/mL、200ng/mL及び1000ng/mL HMGA1a等)の試験対象のHMGタンパク質を含有するPBS/ストレプトリシン混合物(1mL)をそれぞれ繊維芽細胞、上皮細胞及び角化細胞に添加する。室温で15分間インキュベートした後、3mLの氷冷培地199(5%ウシ胎児血清及び1.8mMCa2+添加)を添加して細胞を再び閉じる。この細胞を37℃、5%CO雰囲気下で2時間インキュベートする。次いで、新鮮培地2.5mLに交換し、解析を行うまで上と同様にインキュベートする。
【0225】
解析においては、無細胞領域の形態及びコロニー形成について顕微鏡にて観察する。更に、細胞をメタノール固定後、ギムザ染色(2%ギムザ溶液)を行って細胞全数あたりの分裂数を測定する。
【0226】
単層細胞培養物に蛍光標識HMGAタンパク質を自発的に取込ませる方法
準備段階として、各細胞をレイトン管内でカバーガラスを挿入した状態でインキュベートした(各々に対し1mLの培地199を添加して37℃、5%CO下で一晩インキュベートした)。
【0227】
培地を確実に取り除くため、室温で細胞を1mLのPBSで2回洗浄する。次いで、200μLの無血清培地と6μgの標識HMGAタンパク質或いは6μgのフルオレセイン溶液(陰性対照)を細胞に添加する。反応物を37℃、5%CO下、暗所で1時間インキュベートする。インキュベート後、250μLの培地を添加し、更に2時間半インキュベートする。次いで、カバーグラスをPBSで簡単に洗浄し顕微鏡のスライドに載せる。解析は約4時間後に行う。
【0228】
ストレプトリシンOを用いた単層細胞培養物への蛍光標識HMGA1bの導入方法
初めに、HeLa細胞及び繊維芽細胞をレイトン管内で各々1mLの培地199を用いて37℃、5%CO下一晩インキュベートする。HeLa細胞は20%ウシ胎児血清を含有する培地で、繊維芽細胞は5%ウシ血清を含有する培地で培養する。
【0229】
培地を確実に取り除くため、細胞をPBSで2回洗浄する。室温のストレプトリシンOをPBSに希釈し、終濃度を0.1U/mLとする。次いで、350μLの希釈したストレプトリシンO及び6μgの標識HMGA1bタンパク質或いは6μgのFLUOS溶液(陰性対照)をHeLa細胞及び繊維芽細胞に添加する。反応物を暗所において室温で15分間インキュベートする。1mLの氷冷培地199(HeLa細胞の場合は20%ウシ胎児血清添加、繊維芽細胞の場合は5%ウシ血清添加)を添加すると、細胞は再び閉じる。37℃、5%COで1時間半インキュベートした後、カバーグラスを簡単にPBSで洗浄し、顕微鏡のスライドに載せる。解析は約2時間後に行う。
【0230】
皮膚組織片へのHMGAタンパク質導入方法
皮膚試料を滅菌下で採取し、Hank's氏液(バイオクロム(Biochrom))に入れて輸送し実験開始まで保存する。皮膚は0.5〜1mm片に切断しザルスタットチューブに分配し実験に用いる。皮膚片を1×PBSで3回洗浄するが、洗浄は、全ての培地が洗浄除去されるまで室温で5分間遠心分離(120×g)して行う。最後の遠心分離段階の後、上清を完全に取り除き、皮膚片を室温で15分間インキュベートする。インキュベートは、一反応物あたり、1000ng/mLの各HMGタンパク質(HMGA1a、HMGA1b、HMGA2)を含有する1mLのSLO/PBS溶液(0.1 U SLO/1mL PBS)中で行う。溶解を終了させるため、3mLの氷冷培地199(20%ウシ胎児血清及び1.8mMCa2+添加)を添加し、反応物を37℃、5%CO雰囲気下で2時間インキュベートする。次に、皮膚片を殺菌カバーグラス上に載せ、逆さにして高湿度チャンバに移し、各々を5mLの20%培地199で覆って、更に37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートする。皮膚片は毎日顕微鏡で観察し、解析のため、種々の皮膚細胞種の成長を記録した。
【0231】
皮膚組織片への蛍光標識HMGA1bの導入方法
新たに用意したラットの皮膚を約1〜2mmの小片に切断する。切断は、殺菌器具を用いて20%ウシ胎児血清を含有する培地199中で行う。全ての培地とCa2+残留物を取り除くため皮膚片をPBSで4回洗浄する。次に、皮膚片をエッペンドルフカップに移し、350μLの希釈ストレプトリシンO(0.1 U/mL)と6μgの標識HMGA1bタンパク質或いは6μgのFLUOS溶液(陰性対照)を皮膚片に添加する。反応物を暗所において室温で15分間インキュベートする。細胞は、1mLの氷冷培地199(20%ウシ胎児血清添加)を添加することにより、再度閉じる。37℃、5%CO雰囲気下で1時間30分インキュベートした後、アンチフェード(Antifade)に包埋した皮膚の凍結切片試料を調製する。
【0232】
解析は、約2〜3時間後に蛍光顕微鏡下で行う。
【0233】
HMGタンパク質の蛍光標識方法
標識は、ロシュ社のフルオレセイン標識キットを用いて行う。
【0234】
各反応に対し、100μgのHMGタンパク質、具体的にはHMGA1bタンパク質を凍結乾燥後、100μLのPBSバッファーに浮遊させる。HMGA1b溶解物に対し1μLのFLUOS溶液(2mg/mL)を添加し、暗所において攪拌下室温で2時間インキュベートする。
【0235】
セファデックス(Sephadex)−G−25カラムを5mLのブロッキング溶液及び30mLのPBSで平衡化する。次に、反応物をカラムに移し標識タンパク質を3.5mLのPBSで溶出させる。標識タンパク質は、1〜2番目の画分(各画分は10滴分(約0.5mL))に含まれている。
【0236】
標識は、HPLC(FLUOS溶液/標識HMGA(特にHMGA1b)のピークを比較)及びPAゲルを用いて測定する。標識タンパク質を観察したところ、紫外光下で際立ったピークが見られ、クーマシー染色で確認した。約60μg/mLのHMGA、具体的にはHMGA1bがフルオレセインに標識されている。
【0237】
実施例2:内皮細胞の培養
方法:
ヒト内皮細胞の培養には、頚動脈から得た動脈調整物を用いた。組織片は除去後、調製までHank's氏液中で保管した。調製は、Hank's氏液中で、内膜と中膜を注意深く分離することにより行った。次に、約1mmの大きさの組織片をカバーグラスに載せ、逆さにして細胞培養フラスコ中で培養した。前培養は、対応する各成長因子を含有する1mLの内皮成長培地中で、37℃、5%CO下で行った。細胞は、細胞密度がコンフルーエンシーに達した後、PBSで一回洗浄し、トリプシン処理をして1:3に分けた。
【0238】
結果:
約2週間後、最初に移動した細胞を観察できた。細胞は、確認のため、抗ヒトCD31内皮細胞抗体を用いた免疫組織化学分析に付した。この細胞はヒト内皮細胞であることが確認された。
【0239】
実施例3:HMGB1を用いた内皮細胞の増殖試験
細胞数の最適化
方法:
増殖試験は、ロシュの細胞増殖ELISA、BrdUキットを用いて行った。
【0240】
最適な細胞数を決定するため、種々の内皮細胞希釈物(10〜10個/100μL)を96ウェルプレートに調製し、対応する増殖培地中で37℃、5%COで2日間培養した。対応する増殖培地を対照として用いた。次に、10μLのBrdU(濃度:10μM)を各ウェルに添加し、37℃、5%COで2時間30分インキュベートした。培地除去後、200μL/ウェルの固定溶液を用いて室温で30分間インキュベートすることにより細胞を固定した。次に、100μL/ウェルの抗BrdU抗体を添加し、室温で90分間インキュベートした。未結合抗体を取り除くため、反応物を200μLの洗浄液を用いて3回洗浄した。比色分析により増殖を測定するため、100μL/ウェルの基質を添加し、約5分後に25μL/ウェルの1M HSOを用いて停止させ、450nm〜750nmの吸光度をAnthosリーダーズ2001を用いて測定した。各希釈物に対し3連で試験した。
【0241】
結果:
平行して行った各試験の平均値を計算した後、種々の内皮細胞希釈物を図に記入し、マイクロソフトエクセルを用いて解析した。この結果、最適な細胞数は5000〜7500個/100μLであることが分かった。
【0242】
HMGB1の内皮細胞への投与
方法:
実施例2に記載のように培養を行った。最適細胞数の内皮細胞を96ウェルプレートの各ウェルに分配後、37℃、5%COで24時間インキュベートした。次に、種々の濃度(1μg、0.1μg、10ng)のHMGB1を添加した。各HMGB1濃度あたり3連で行った。更に24時間培養後、BrdUを添加した。次いで、実施例3「細胞数の最適化」と同様に処理した。
【0243】
結果:
増殖率は、陰性対照に比べ、HMGB1を投与した内皮細胞の方が高かった。増殖率とHMGB1投与濃度の間には相関が見られた。一般に、HMGB1を投与した細胞の方が、顕微鏡で観察できる有糸分裂速度はより大きかった。
【0244】
実施例4:球形細胞モデルを用いたHMGB1の血管新生促進作用の研究
方法:
準備段階として、ヒト内皮細胞を、対応する内皮成長因子を用いて37℃、5%COで培養して調製した。実験に用いる内皮細胞を2代目及び3代目から採取した。培養後、細胞をトリプシン処理し、methocel含量20%の対応する成長培地に浮遊させた。約4時間インキュベートした後、細胞は、自然に3次元の球形の細胞(球形細胞)となった。これをコラーゲンゲルに包埋した。2μg/mL、0.4μg/mL及び0.08μg/mLの濃度のHMGB1をゲルに添加し各増殖試験を行った。参照として内皮成長因子VEGF(25ng/mL)を用い、成長因子を添加しないものを陰性対照とした。インキュベーションを2週間行った後、デジタルカメラを備えた逆さの顕微鏡を用いて細胞を分析した。画像は直接走査してソフトイメージングシステムの画像解析ソフトウェアanalySISに送り、解析した。
【0245】
結果:
芽長さ増加分、即ち球形細胞から伸びた芽の長さを画像解析ソフトウェアにより解析した。HMGB1の血管新生促進作用は、2μg/mLの濃度において観察された。陰性対照と比較して、明確な芽形成が観察された。更に、HMGB1単独の場合よりも、VEGF/HMGB1の組合せの方がより際立った芽形成を示した。結果を図1に示す。
【0246】
実施例5:球形細胞モデルを用いたHMGA1の血管新生促進作用の研究
方法:
準備段階において、ヒト内皮細胞を37℃、5%COで対応する内皮増殖培地を用いて培養した。実験に用いる内皮細胞は2代目及び3代目から採取した。培養後、細胞をトリプシン処理し、methocel含量20%の対応する成長培地に浮遊させた。約4時間インキュベートした後、細胞は、自然に3次元の球形の細胞(球形細胞)となった。これをコラーゲンゲルに包埋した。各増殖試験において、2μg/mLのHMGA1をこのゲルに添加した。参照として25ng/mLの内皮成長因子VEGFを用い、成長因子を添加しないものを陰性対照とした。インキュベーションを2週間行った後、デジタルカメラを備えた逆さの顕微鏡を用いて細胞を分析した。画像は直接走査してソフトイメージングシステムの画像解析ソフトウェアanalySISに送り、解析した。
【0247】
結果:
累積芽長、即ち球形細胞からの芽形成の全長を画像解析ソフトウェアにより解析した。HMGA1aとHMGA1bの両者とも2μg/mLの濃度で血管新生促進作用が観察された。組合せた場合、HMGA1aは、HMGタンパク質無添加のVEGFに比べ高い芽形成を示した。結果を図2に示す。
【0248】
実施例6:ストレプトリシンOを用いたヒト皮膚繊維芽細胞単層培養物へのHMGA1aタンパク質の導入
陰性対照(ストレプトリシンOのみで処理)の皮膚細胞に比べ、HMGA1aタンパク質処理細胞の増殖率は極めて大きかった。細胞全数に対する有糸分裂細胞の個数を計数したところ、図3に示すように増殖率が高い程細胞分裂率も大きかった。更に、HMGAタンパク質処理細胞はより高い運動性を示した。この運動性は、例えば無細胞領域への細胞の内部成長により測定できる。
【0249】
実施例7:SLO処理細胞への標識HMGA1bタンパク質の導入
約2時間インキュベーション後にHeLa細胞の核(図4)及び繊維芽細胞の核(図5)への標識HMGA1bタンパク質の取込みが見られた。SLO処理直後の細胞を観察した時には、陽性信号は観察されなかった。即ち、核へのHMGA1bタンパク質の取込みには約2時間かかった。例えばHeLa細胞の場合には、HMGA1b陽性細胞核とHMGA1b陰性細胞核の比は16:32であった。
【0250】
フルオレセインだけを取込む陰性対照では陽性核の信号は得られず、図6に示すように細胞質の曖昧な緑色の染色だけが見られた。
【0251】
実施例8:ストレプトリシンOによるヒト及びラットの皮膚試料へのHMGAタンパク質の導入
ヒト及びラットの皮膚試料細胞に各HMGAタンパク質(HMGA1a、HMGA1b、HMGA2)を取込ませたところ、陰性対照に比べ頻繁な増殖が各HMGAタンパク質処理皮膚片において見られた。分析対象の皮膚試料(図7参照)から種々の皮膚細胞(角化細胞、繊維芽細胞等)が生長し、これらの分裂指数及び細胞生残性(vitality)はストレプトリシン処理をしたにも関わらず高かった。更に、HMGAタンパク質処理皮膚試料では、増殖率の向上とは別に細胞運動性が大きく向上したが、このことから本明細書に記載される治療用途という概念は、細胞培養物から組織まで適用できるということが分かる。
【0252】
実施例9:ストレプトリシンOを用いたラット皮膚への標識HMGA1bタンパク質の導入
凍結試料を解析した結果、図8に示すように鱗状上皮と結合組織の一部とにHMGA1に関連した強い核陽性信号がある。また、細胞培養物にも見られたように、核陽性信号は約2時間のインキュベーション後にのみ観察された。このことから、再び、HMGタンパク質の輸送には約2時間かかることがわかる。
【0253】
陰性対照と比較したところ、細胞質が曖昧に緑色に染色され、細胞核は全て染色陰性だったことが分かった。
【0254】
実施例10:HMGA1bタンパク質のフルオレセイン標識
標識は、HPLC(FLUOS溶液/標識HMGA1bのピークの比較)及びPAゲルを用いて測定した。標識タンパク質は紫外光下で際立ったピークを示し、これをクーマシー染色で確認した。60μg/mLのHMGA1bがフルオレセインに標識されていた。
【0255】
実施例11:組織再生に関するHMGA1bタンパク質の作用モードを決定するためのマイクロアレイを用いた発現プロファイル解析
組織再生におけるHMGA1bタンパク質の作用の分子遺伝的モードを解析するため、マイクロアレイ(ヒト30Kアレイ(A/B/C)、MWG−バイオテク)を用いて、HMGA1bタンパク質処理皮膚試料と未処理皮膚試料の発現パターンを比較し解析した。
【0256】
この目的のため、ヒト皮膚試料を0.5〜1mm片に切断し、ザルスタットチューブに分け入れた。皮膚片を1×PBSで3回洗浄したが、洗浄は、全ての培地が洗浄除去されるまで室温で5分間遠心分離(120×g)して行った。最後の遠心分離段階の後、上清を完全に取り除き、皮膚片を室温で15分間インキュベートした。インキュベートは、一反応あたり、1000ng/mLのHMGA1bタンパク質を含有する1mL SLO/PBS溶液(0.1 U SLO/1mL PBS)中で行った。このタンパク質を含有しないものを陰性対照として用いた。溶解を終了させるため、3mLの氷冷培地199(20%ウシ胎児血清及び1.8mMCa2+添加)を添加し、反応物を37℃、5%CO雰囲気下で12時間インキュベートした。
【0257】
皮膚試料からのRNAの単離は、RNeasy RNAアイソレーションキット(キアゲン)を用い、このメーカーのプロトコル「心臓、筋肉及び皮膚組織からの全RNAの単離(Isolation of total RNA from Heart, Muscle, and Skin Tissue)」に従い、更にDNaseによる消化を25℃で2×15分間行い実施した。ss cDNAの合成は、スーパースクリプト(インビトロジェン)の標準プロトコルに従い行った。cDNAの蛍光標識はCy3−UTP及びCy5−UTPを用いss cDNAの「直接標識」により行った。
【0258】
ハイブリダイゼーションのため、標識cDNAを95℃で3分間変性し、氷上で3分間インキュベートした。更に、任意的に析出物を42℃で溶解させた。ハイブリダイゼーションは、マイクロアレイジーンフレーム(Microarray Gene Frame)を用い、マイクロアレイのメーカー(MWG バイオテク)の指示に従い42℃で16〜24時間行った。次に、メーカーの指示に従い2×SSC、0.1%SDS(洗浄バッファー1)、1×SSC(洗浄バッファー2)及び0.5×SSC(洗浄バッファ3)で洗浄した。解析は、アフィメトリックス428アレイスキャナー(Affymetrix 428 Array Scanner)を用いて行った。
【0259】
発現パターンの解析により、皮膚細胞の増殖及び再賦活化におけるHMGAタンパク質、HMGA1bタンパク質の作用モードについての重要な情報を得ることができた。解析結果から、HMGA1bタンパク質添加により、タンパク質−DNAレベル或いはタンパク質−タンパク質レベルでHMGA1bタンパク質がそのパートナーと相互作用することによって目的組織の遺伝子発現に対しHMGA1bタンパク質が作用することが分かる。創傷治癒及び皮膚再生に関与する種々の遺伝子の発現パターンは、このタンパク質の相互作用メカニズムに調節されている。成体組織における胎児遺伝子(fetal genes)の再発現を検出することにより皮膚の組織再生や創傷治癒或いは老化防止(即ち組織の若返り)におけるHMGAタンパク質及びHMGA1bタンパク質の重要な役割を検証できた。
【0260】
実施例12:損傷DNAの修復に対する各HMGAタンパク質の作用モードを測定するための、マイクロアレイを用いた発現プロファイル解析
アレイを用いて損傷DNAの修復に関する各HMGAタンパク質の作用の分子遺伝的モードを解析し(クロンテックのAtlas−Arrays1.2、#7850〜1、ヒトゲノムの1176遺伝子配列を含む)、HMGAタンパク質で処理した角化細胞と未処理の角化細胞の発現パターンを比較分析した。
【0261】
細胞からのRNAの単離は、RNeasy RNAアイソレーションキット(キアゲン)を用い、このメーカーのプロトコル「心臓、筋肉及び皮膚組織からの全RNAの単離」に従い、更にDNaseによる消化を25℃で2×15分間行い実施した。ss cDNAの合成は、スーパースクリプト(インビトロジェン)の標準プロトコルに従い行い、cDNAは放射性標識(32P)してからハイブリダイゼーションに用いた。
【0262】
HMGA1a、HMGA1b、HMGA2の各タンパク質は6μg用いた。組換えヒトHMGAタンパク質の投与により損傷DNAの修復に関与するタンパク質の遺伝子がアップレギュレートされることが分かった。試料を表3に示す。ATMは、2重鎖切断により活性化されるタンパク質キナーゼである。ATMは、2重鎖切断に応答する更に重要なタンパク質をリン酸化する(ヨセフ・シロー(Yosef Shiloh):ATM及び関連タンパク質キナーゼ:ゲノム一体性をセーフガードする(ATM and related protein kinases: safeguarding genome integrity)、Nature Review Cancer 2003:3、155〜168)。TOP1は、DNA修復プロセスに関与するトポイソメラーゼ1である(パスター(Pastor)N、コルテス(Cortes)F:X線治療後のチャイニーズハムスター放射線感受性変異体におけるDNAトポイソメラーゼ作用(DNA topoisomerase activities in Chinese hamster radiosensitive mutants after X-ray treatment)Cell Biol.In7 2002:26、547〜555)。
【0263】
【表3】

実施例13:蛍光標識されたHMGA1bタンパク質及びHMGA2タンパク質のヒト上皮細胞への自発的移動
約4時間のインキュベーション後に、細胞の核への標識HMGAタンパク質、とりわけHMGA1b、HMGA2の自発的取込みが見られた。処理直後では、細胞核には陽性信号は見られなかった。即ち、細胞核へのこれらHMGAタンパク質の取込みには約4時間かかった。
【0264】
陰性対照、即ちフルオレセインだけの取込みと比較すると、核陽性信号はなく、細胞質の緑色の曖昧な染色だけが見られた。個々の実験により異なるが、実施例1に一般的に記述したように、50〜100%の細胞が核の蛍光染色を示した。この染色は比較的高いタンパク質濃度でのみ視認可能であるので、全ての細胞がHMGAタンパク質を取込むと考えられる。
【0265】
得られた発現パターンを解析することにより、皮膚細胞の増殖及び再賦活化におけるHMGAタンパク質、HMGA1bタンパク質の作用モードについての重要な情報を得ることができた。解析結果から、HMGA1bタンパク質添加により、タンパク質−DNAレベル或いはタンパク質−タンパク質レベルでHMGA1bタンパク質がそのパートナーと相互作用することによって目的組織の遺伝子発現に対しHMGA1bタンパク質が作用することが分かる。創傷治癒及び皮膚再生に関与する種々の遺伝子の発現パターンは、このタンパク質の相互作用メカニズムに制御されている。成体組織における胎児遺伝子の再発現を検出することにより皮膚の組織再生や創傷治癒或いは老化防止(即ち組織の若返り)におけるHMGAタンパク質及びHMGA1bタンパク質の重要な役割が検証された。
【0266】
実施例14:抗HMGB1抗体を用いた免疫組織化学測定
ヒト組織及びイヌ組織の試料のパラフィン切片(5μm)について、ヤギから得たポリクローナル抗体(sc−12523、サンタクルーズ・バイオテクノロジー、米国サンタクルーズ)を用いて免疫組織化学研究を行った。この抗体は、ヒトHMGB1タンパク質の内部領域のペプチドを標的とするものである。用いた抗体はHMGB1を検出する。HMGB2タンパク質も検出するがその程度は低い。
【0267】
実施例15:乾癬患者の皮膚試料におけるHMGB1の免疫組織化学的検出及び同患者の非罹患部分との比較
乾癬患者の皮膚部分を同一患者の非罹患部分と比較した免疫組織化学的研究(3組の組織で比較)により、対照の組織に比べて非常に高いHMGB1タンパク質の発現が罹患部分の毛細血管において見られるという驚くべき結果が得られた。陽性信号は主に、罹患部分の内非細胞の細胞質において観察され、特に乾癬部分の毛細血管の増殖活性のある領域において顕著であった。3組の内の2組の組織においては、乾癬部分に存在する単球も、細胞質において高い染色陽性を示した。
【0268】
従って、本明細書に記載のHMGB1タンパク質の阻害剤の使用は、この疾病の好適な治療手段である。
【0269】
実施例16:イヌの悪性組織球増殖症におけるHMGB1タンパク質の免疫組織化学的検出
悪性組織球増殖症は、イヌには比較的稀な疾病であり予後不良を伴う。ベルンナー・ゼネフント種において発症率が高い。この疾病の特徴の中でも特筆すべきはマクロファージの増殖である。ここでは5匹のイヌから得た組織試料を試験した。全ての被検試料においてマクロファージの強い免疫応答が見られ、それは対照組織と比較して非常に顕著であった。このタンパク質は主に、マクロファージの細胞質に存在していた。
【0270】
このため、本明細書に記載のHMGB1タンパク質阻害剤の使用はこの疾病の好適な治療手段である。
【0271】
実施例17:イヌ角膜の慢性表層性角膜炎におけるHMGB1タンパク質の免疫組織化学的検出
イヌ角膜の慢性表層性角膜炎とは、炎症プロセス及び新血管形成を惹き起こす組織の変化である。動物は、この疾病にかかると失明する虞がある。罹患した動物から細胞学的調製物を調製し、免疫組織化学測定により分析した。HMGB1を示す際立った陽性信号がリンパ球で得られた。
【0272】
従って、本明細書に記載のHMGB1タンパク質阻害剤の使用は、この疾病の好適な治療手段である。
【0273】
実施例18:HMGB1による内皮細胞内のVEGF1の調節
ヒト内皮細胞の調製及び培養を実施例2と同様に行った。80ng/mL、200ng/mL及び400ng/mLの組換えヒトHMGB1(rHMGB1)を添加し、添加10時間後に細胞を採取し、RNAを単離した(RNA調製については、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、フロー(Flohr)ら、Anticancer Res.2001;21:3881〜3886を参照)。定量は、ヒトVEGF AのオープンリーディングフレームのcDNA配列を用いてノーザンブロット解析により行った。タンパク質を含有しない対照と比較したところ、VEGF Aの発現は1.6倍、2.8倍及び3.2倍(2測定値の平均値)となり濃度依存的に増加した。
【0274】
従って、本明細書に記載のHMGB1タンパク質阻害剤の使用は、VEGF A媒介血管新生を減少させる好適な手段であり、ひいては腫瘍の適切な治療手段である。これに反し、HMGB1及びこれをコードする核酸は、VEGF A発現増加エフェクタとして投与でき、従ってVEGF Aを投与する疾病治療における剤として使用できる。
【0275】
実施例19:HMGB1による角化細胞の増殖及び移動
ヒト皮膚の生体外移植片を実施例1と同様に調製し培養した。2人のドナーから得た4個の試料を平行して培養した。培養反応物1個あたり5個の移植片を得た。組換えヒトHMGB1(rHMGB1)(200ng/mL)を添加した。顕微鏡観察による細胞数測定は、培養開始から8日後に、移植片から増殖した角化細胞を計数することにより行った(角化細胞と繊維芽細胞の形態相違)。角化細胞数は、対照よりも平均28%増加していた。
【0276】
この実施例によって、HMGB1は、角化細胞の増殖及び移動に有用であることがわかる。
【0277】
以上の明細書、特許請求の範囲、図面、及び明細書の一部である配列プロトコルに開示した本発明の特徴は、種々の実施形態において本発明を具現化するために個別で或いは組合せて用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1】VEGF或いはHMGB1タンパク質で処理後の球形細胞から発生した芽の長さを示すグラフである。
【図2】VEGF或いはHMGA1タンパク質で処理後の球形細胞から発生した芽の長さを示すグラフである。
【図3】HMGA1aの影響下での有糸分裂活性の皮膚細胞の量の増加を示す。
【図4】HeLa細胞の免疫蛍光写真であり、一部の細胞は、細胞核内で蛍光標識HMGA1bタンパク質を示している。
【図5】線維芽細胞の免疫蛍光写真であり、一部の細胞は、細胞核内で蛍光標識HMGA1bタンパク質を示している。
【図6】図4及び図5に示す写真に対する陰性対照として、フルオレセインだけを導入した細胞の蛍光写真である。
【図7】HMGAタンパク質処理皮膚片の光学顕微鏡写真であり、各種皮膚細胞型(角化細胞や線維芽細胞等)が成長している状態を示す。
【図8】ストレプトリシンO処理後に標識HMGA1bタンパク質がラット皮膚内へ移動することを示す凍結切片の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、創傷治癒、創傷後血管形成、上皮化、及び歯や骨の移植における治癒から成る群から選択されるプロセスにおける一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、
核酸は、HMGB1或いはその一部をコードする核酸である使用。
【請求項2】
不十分な或いは過剰な血管新生や新血管形成、或いは創傷治癒に関連するか、或いは経心筋的血管再生を必要とする疾患の群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、
核酸は、HMGB1或いはその一部をコードする核酸である使用。
【請求項3】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生、創傷治癒、創傷後血管形成、上皮化、及び歯や骨の移植における治癒から成る群から選択されるプロセスのための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、
核酸は、HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項4】
不十分な或いは過剰な血管新生や新血管形成、或いは創傷治癒に関連するか、或いは経心筋的血管再生を必要とする疾患の群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、
核酸は、HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項5】
疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特に請求項2及び/又は請求項4に記載の使用であって、前記疾患が、糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑変性症、関節炎、子宮内膜症、パンヌス、組織球増殖症、乾癬、酒さ、小静脈瘤、発疹性血管腫、腫瘍疾患、海綿腫、唇血管腫、血管肉腫、痔核、動脈硬化、狭心症、虚血、梗塞、基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、腫瘍、妊娠中毒症、不妊症、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷、手術創傷及び慢性創傷から成る群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項6】
慢性創傷は、褥瘡、下腿潰瘍、静脈性下腿潰瘍、動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷及び糖尿病性足潰瘍から成る群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
HMGタンパク質は、HMGAファミリー、HMGBファミリー及びHMGNファミリーから成る群から選択されることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
HMGタンパク質はHMGBファミリーから選択されることを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
HMGタンパク質は、HMGB1、HMGB2及びHMGB3から成る群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
HMGタンパク質はHMGB1であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
HMGタンパク質はHMGAファミリーから選択されることを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
HMGタンパク質は、HMGA1a、HMGA1b、HMGA1c及びHMGA2から成る群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
HMGタンパク質はHMGA1aであることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
第1のHMGタンパク質はHMGAファミリーから選択され且つ第2のHMGタンパク質はHMGBファミリーから選択され、好ましくはHMGAファミリーのタンパク質はHMGA1aであり、好ましくはHMGBファミリーのタンパク質はHMGB1であることを特徴とする、先の各請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
VEGF及び/又はこれをコードする核酸を更に用いることを特徴とする、先の各請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
組織の血管新生、新血管形成或いは創傷治癒に影響を及ぼすための方法であって、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と共に前記組織をインキュベートする工程とを含む方法において、前記核酸はHMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択され、任意的に
d)前記組織或いはその中間体を取得或いは回収する工程を含む方法。
【請求項17】
前記組織或いはその一部は、VEGF及び/又はこれをコードする核酸と共にインキュベートすることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記方法はin vitro法であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記組織は外植組織或いはin vitro培養組織であることを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記核酸、その転写物及びその翻訳物は、先の各請求項のいずれかに記載のものであることを特徴とする、請求項16〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
二種以上のHMGBタンパク質或いはそれらをコードする核酸を用い、好ましくは第1のHMGタンパク質はHMGAファミリーから選択されると共に第2のHMGタンパク質はHMGBファミリーから選択され、HMGAファミリーのタンパク質はHMGA1aが好ましく、HMGBファミリーのタンパク質はHMGB1が好ましいことを特徴とする、請求項16〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
HMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択される前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を用いることに加え、血管内皮成長因子の遺伝子から成る群から選択される新たな核酸、その転写物或いはその翻訳物を用いることを特徴とする、先の各請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項23】
先の各請求項のいずれかに記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物。
【請求項24】
先の各請求項のいずれかに記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含む担体材料。
【請求項25】
前記担体材料は、セルロース、アガロース、コラーゲン、シリコーン、ケイ素、プラスチック、ゲル、ハイドロゲル、フィブリン系マトリックス、人工連続フィラメント糸、ハイドロコロイド、脂肪コロイド、ポリウレタン、ポリウレタン樹脂、プラスター、合成生体材料、熱可塑性プラスチック、亜鉛膠(zinc glue)、ポリエステルフォーム、ポリイソブチレン、緩衝剤、安定剤、静菌剤、及び保湿剤から成る群から選択される材料から構成されることを特徴とする、請求項24に記載の担体材料。
【請求項26】
前記担体材料はインプラントとして、或いは創傷治癒のために用いることを特徴とする、請求項24又は25に記載の担体材料。
【請求項27】
被覆基材と、先の各請求項のいずれかに記載の一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とを含む創傷被覆材料。
【請求項28】
前記被覆材料は、ハイドロコロイドドレッシング材、アルギン酸カルシウムドレッシング材、活性炭製圧定布及びオーバーレイ、発泡プラスチック製オーバーレイ、フィルムドレッシング材、透明ドレッシング材、発泡シリコーンドレッシング材、フリースオーバーレイ、ハイドロセルラードレッシング材、ハイドロセレクティブ創傷オーバーレイ、吸収創傷パッド、スプレードレッシング材、人工連続フィラメント製ガーゼ、綿ガーゼ、パラフィンガーゼ、銀被覆創傷ドレッシング材、及びハイドロポリマー/発泡体ドレッシング材から成る群から選択されることを特徴とする、請求項27に記載の創傷被覆材料。
【請求項29】
一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と担体相とを含む組成物であって、前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は先の各請求項のいずれかに記載のものであり、前記担体相は、好ましくは、クリーム、脂肪性軟膏、エマルジョン(水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、水中油中水(W/O/W)型)、マイクロエマルジョン、変性エマルジョン、ナノ粒子/ナノエマルジョン、リポソーム、ハイドロディスパージョンゲル(ハイドロゲル、アルコールゲル、リポゲル、テンサイドゲル)、ゲル−クリーム、ローション、オイル/オイルバス、及びスプレーから成る群から選択される組成物。
【請求項30】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)候補化合物を用意する工程と、
c)前記候補化合物を試験し、前記試験系において候補化合物が起こす反応を決定する工程とを含む方法。
【請求項31】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
f)前記試験系における参照化合物の反応と候補化合物の反応とを比較する工程とを含む方法。
【請求項32】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)マーカーを有する参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記参照化合物を含む試験系において前記候補化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した参照化合物の量及び/又は参照化合物から放出されたマーカーの量を測定する工程とを含む方法。
【請求項33】
血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生及び創傷治癒から成る群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)マーカーを有する候補化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)参照化合物を用意する工程と、
e)前記候補化合物を含む試験系において前記参照化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した候補化合物の量及び/又は候補化合物から放出されたマーカーの量を測定する工程とを含む方法。
【請求項34】
前記試験系はin vitro試験系或いはin vivo試験系であることを特徴とする、請求項30〜33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの促進であり、好ましくは、試験系における候補化合物の反応が参照化合物の反応と同等か或いはそれよりも顕著である場合、候補化合物が前記プロセスを促進する化合物であることを特徴とする、請求項30〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの阻害であり、好ましくは、候補化合物が起こす試験系の反応が試験系において参照化合物が起こす反応よりも顕著でない場合、候補化合物が前記プロセスを阻害する化合物であることを特徴とする、請求項30〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
前記参照化合物は、一種以上の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含み、前記核酸はHMGタンパク質の遺伝子から成る群から選択されるものであり、好ましくは先の各請求項のいずれかに記載のものであることを特徴とする、請求項30〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記プロセスは血管新生の阻害であることを特徴とする、請求項30〜36のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
疾患の治療及び/又は予防のための化合物をスクリーニングするための請求項30〜38のいずれかに記載の方法の使用であって、用意される試験系は該疾患のための試験系である使用。
【請求項40】
前記疾患は、血管新生、新血管形成、経心筋的血管再生或いは創傷治癒の促進或いは阻害を必要とする疾患から成る群から選択されることを特徴とする、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記疾患は、糖尿病性網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑変性症、関節炎、子宮内膜症、パンヌス、組織球増殖症、乾癬、酒さ、小静脈瘤、発疹性血管腫、腫瘍疾患、海綿腫、唇血管腫、血管肉腫、痔核、動脈硬化、狭心症、虚血、梗塞、基底細胞腫、扁平上皮癌、黒色腫、カポジ肉腫、腫瘍、妊娠中毒症、不妊症、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷、手術創傷及び慢性創傷から成る群から選択されることを特徴とする、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記疾患は腫瘍疾患であって、好ましくは、前記腫瘍疾患は壊死細胞、好ましくは壊死腫瘍細胞を含むことを特徴とする、請求項39〜41のいずれかに記載の使用。
【請求項43】
請求項30〜38のいずれかに記載の方法によって得られる化合物。
【請求項44】
医薬、好ましくは先の各請求項のいずれかに記載の疾患を治療及び/又は予防するための医薬を製造するための、請求項43に記載の化合物の使用。
【請求項45】
組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスのための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、
前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項46】
組織発達及び/又は組織再生、特に、発達或いは再生される組織の脱分化及び/又は分化に基づく組織発達及び/又は組織再生のための細胞の脱分化及び細胞の再プログラム化から成る群から選択されるプロセスのための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用、特にin vitroでの使用であって、
前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項47】
DNA損傷の修復を必要とする疾患、組織再生を必要とする疾患、創傷治癒を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、歯や骨の移植を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、創傷治癒障害、皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン、皮膚癌、火傷後の皮膚癌、火傷後の皮膚老化、火傷、及び心筋梗塞から成る群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、
前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項48】
化粧品、好ましくは、組織再生、創傷治癒、レザースキンの防止、皮膚癌、特に日焼け(サンバーン)後の皮膚癌の防止、皮膚老化、特にサンバーン後の皮膚老化防止、組織老化抑制及び/又は組織若返りのための化粧品を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、前記核酸は塩基性DNAタンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項49】
皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン、皮膚癌、サンバーン後の皮膚癌、サンバーン、急性創傷及び慢性創傷からなる群から選択される疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するための核酸、その転写物及び/又はその翻訳物の使用であって、
前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される使用。
【請求項50】
前記急性創傷は、急性外傷性創傷、熱的創傷、化学的創傷及び手術創傷から成る群から選択されることを特徴とする、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
前記慢性創傷は、褥瘡、下腿潰瘍、静脈性下腿潰瘍、動脈性下腿潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡潰瘍、慢性外傷後創傷及び糖尿病性足潰瘍から成る群から選択されることを特徴とする、請求項49に記載の使用。
【請求項52】
前記塩基性DNA結合タンパク質はHMGタンパク質からなる群から選択されることを特徴とする、請求項45〜51のいずれかに記載の使用。
【請求項53】
前記HMGタンパク質は、HMGA、HMGB及びHMGNから成る群から選択されることを特徴とする、請求項45〜52のいずれかに記載の使用。
【請求項54】
前記HMGタンパク質はHMGAファミリーのタンパク質であることを特徴とする、請求項45〜53のいずれかに記載の使用。
【請求項55】
前記タンパク質は、HMGA1a、HMGA1b及びHMGA2から成る群から選択されることを特徴とする、請求項54に記載の使用。
【請求項56】
前記核酸は、配列番号31〜64の核酸及びそれぞれの誘導体から成る群から選択されることを特徴とする、請求項45〜55のいずれかに記載の使用。
【請求項57】
前記翻訳物は、配列番号1〜30の配列を有するポリペプチド及びそれぞれの誘導体から成る群から選択されることを特徴とする、請求項45〜56のいずれかに記載の使用。
【請求項58】
前記タンパク質は変性を有しており、変性はリン酸化及びアセチル化から成る群から選択されることを特徴とする、請求項57に記載の使用。
【請求項59】
組織を再生するための方法であって、
a)組織或いはその一部を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記組織と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含む方法において、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択され、任意的に
d)再生した組織或いはその中間体を取得或いは回収する工程を含む方法。
【請求項60】
前記方法はin vitro法であることを特徴とする、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
再生しようとする組織は工程a)で用意される組織と異なるか或いは同一であることを特徴とする、請求項59又は60に記載の方法。
【請求項62】
再生しようとする組織及び/又は工程a)で用意される組織は、互いに独立的に、皮膚組織、脂肪組織、軟骨組織、筋肉組織、血液細胞、造血細胞、及び神経細胞から成る群から選択されることを特徴とする、請求項59〜61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は、先の各請求項のいずれかに記載のものであることを特徴とする、請求項59〜62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
細胞を脱分化及び/又は再プログラム化するための方法であって、
a)一種以上の細胞を用意する工程と、
b)核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を添加する工程と、
c)前記細胞と前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とをインキュベートする工程とを含む方法において、核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される方法。
【請求項65】
前記方法はin vitro法であることを特徴とする、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記方法は更に、
d)脱分化した細胞及び/又は再プログラム化された細胞を取得する工程
を含むことを特徴とする、請求項64又は65に記載の方法。
【請求項67】
脱分化した細胞及び/又は再プログラム化された細胞及び/又は工程a)で用意された細胞は、独立的に、表皮細胞、皮膚細胞、脂肪組織細胞、軟骨組織細胞、筋肉組織細胞、血液細胞、造血組織細胞及び神経細胞から成る群から選択されることを特徴とする、請求項64〜66のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
前記核酸、その転写物及び/又はその翻訳物は、先の各請求項のいずれかに記載のものであることを特徴とする、請求項64〜67のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
先の各請求項のいずれかに記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と薬学的に適切な担体とを含有する医薬組成物。
【請求項70】
先の各請求項のいずれかに記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含む担体材料。
【請求項71】
前記担体材料は、セルロース、アガロース、コラーゲン、シリコーン、ケイ素、プラスチック、ゲル、ハイドロゲル、フィブリン系マトリックス、人工連続フィラメント糸、ハイドロコロイド、脂肪コロイド、ポリウレタン、ポリウレタン樹脂、プラスター、合成生体材料、熱可塑性プラスチック、亜鉛膠、ポリエステルフォーム、ポリイソブチレン、緩衝剤、安定剤、静菌剤、及び保湿剤から成る群から選択される材料を含むことを特徴とする、請求項70に記載の担体材料。
【請求項72】
前記担体材料はインプラントとして、或いは創傷治癒のために用いることを特徴とする、請求項70又は71に記載の担体材料。
【請求項73】
被覆基材と、先の各請求項のいずれかに記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物とを含む創傷被覆材料。
【請求項74】
前記被覆材料は、ハイドロコロイドドレッシング材、アルギン酸カルシウムドレッシング材、活性炭製圧定布及びオーバーレイ、発泡プラスチック製オーバーレイ、フィルムドレッシング材、透明ドレッシング材、発泡シリコーンドレッシング材、フリースオーバーレイ、ハイドロセルラードレッシング材、ハイドロセレクティブ創傷オーバーレイ、吸収創傷パッド、スプレードレッシング材、人工連続フィラメント製ガーゼ、綿ガーゼ、パラフィンガーゼ、銀被覆創傷ドレッシング材、及びハイドロポリマー/発泡体ドレッシング材から成る群から選択されることを特徴とする、請求項73に記載の創傷被覆材料。
【請求項75】
先の各請求項のいずれかに記載の核酸、その転写物及び/又はその翻訳物と担体相とを含む化粧料組成物であって、前記担体相は、好ましくは、クリーム、脂肪性軟膏、エマルジョン(水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、水中油中水(W/O/W)型)、マイクロエマルジョン、変性エマルジョン、ナノ粒子/ナノエマルジョン、リポソーム、ハイドロディスパージョンゲル(ハイドロゲル、アルコールゲル、リポゲル、テンサイドゲル)、ゲル−クリーム、ローション、オイル/オイルバス、及びスプレーから成る群から選択される化粧料組成物。
【請求項76】
組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)候補化合物を用意する工程と、
c)前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程とを含む方法。
【請求項77】
組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
f)前記試験系における参照化合物の反応と候補化合物の反応とを比較する工程とを含む方法。
【請求項78】
組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)標識を有する参照化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記参照化合物を試験し、該系において参照化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)候補化合物を用意する工程と、
e)前記参照化合物を含む試験系において前記候補化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した参照化合物の量及び/又は参照化合物から放出された標識の量を測定する工程とを含む方法。
【請求項79】
組織再生、DNA損傷の修復、創傷治癒、細胞移動、創傷部位での血管新生、上皮化、組織老化、組織老化の防止、組織の若返り、心筋梗塞後の血管形成、及び歯や骨の移植における治癒からなる群から選択されるプロセスを促進及び/又は阻害する化合物をスクリーニングするための方法であって、
a)該プロセスのための試験系を用意する工程と、
b)標識を有する候補化合物を用意する工程と、
c)前記試験系において前記候補化合物を試験し、該系において候補化合物が起こす反応を決定する工程と、
d)参照化合物を用意する工程と、
e)前記候補化合物を含む試験系において前記参照化合物を試験し、試験系の反応を決定し、遊離した候補化合物の量及び/又は候補化合物から放出された標識の量を測定する工程とを含む方法。
【請求項80】
前記試験系はin vitro試験系或いはin vivo試験系であることを特徴とする、請求項76〜79のいずれかに記載の方法。
【請求項81】
前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの促進であり、好ましくは、試験系における候補化合物の反応が参照化合物の反応と同等か或いはそれよりも顕著である場合、候補化合物が前記プロセスを促進する化合物であることを特徴とする、請求項76〜80のいずれかに記載の方法。
【請求項82】
前記参照化合物及び/又は候補化合物の反応は前記プロセスの阻害であり、好ましくは、候補化合物が起こす試験系の反応が参照化合物が起こす試験系の反応よりも顕著でない場合、候補化合物が前記プロセスを阻害する化合物であることを特徴とする、請求項76〜80のいずれかに記載の方法。
【請求項83】
前記参照化合物は、核酸、その転写物及び/又はその翻訳物であり、前記核酸は、塩基性DNA結合タンパク質、特に先の各請求項のいずれかに記載のものの遺伝子から成る群から選択されることを特徴とする、請求項76〜80のいずれかに記載の方法。
【請求項84】
疾患の治療及び/又は予防のための化合物をスクリーニングするための請求項76〜83のいずれかに記載の方法の使用であって、用意される試験系は前記疾患のための試験系である使用。
【請求項85】
前記疾患は、DNA損傷の修復を必要とする疾患、組織再生を必要とする疾患、創傷治癒を必要とする疾患、歯や骨の移植を必要とする疾患、組織老化に伴う疾患、創傷治癒障害、皮膚疾患、色素性乾皮症、レザースキン、皮膚癌、日焼け(サンバーン)後の皮膚、サンバーン後の皮膚老化、サンバーン、及び心筋梗塞から成る群から選択されることを特徴とする、請求項84に記載の使用。
【請求項86】
少なくとも核酸、その転写物及び/又はその翻訳物を含み、前記核酸は塩基性DNA結合タンパク質の遺伝子から成る群から選択される日焼け防止剤。
【請求項87】
前記塩基性DNAタンパク質は、HMGタンパク質、特に先の各請求項のいずれかに記載のものであることを特徴とする、請求項86に記載の日焼け防止剤。
【請求項88】
請求項76〜83のいずれかに記載の方法或いは請求項84又は85に記載の使用によって得られる化合物。
【請求項89】
医薬、好ましくは先の各請求項のいずれかに記載の疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための請求項88に記載の化合物の使用。
【請求項90】
生体を治療するための方法であって、有効量のDNA結合タンパク質、HMGタンパク質、それらをコードする核酸、或いはその転写物及び/又はその翻訳物、それらと相互作用する機能性核酸、それらと相互作用するペプチド、或いはそれらと相互作用する抗体、及び/又は請求項89に記載の化合物を生体に投与することを特徴とする方法。
【請求項91】
前記生体は、疾患、好ましくは先の各請求項のいずれかに記載の疾患に罹患しているか、前記疾患に罹患する可能性があるか或いはその疾患により症状を発する可能性があることを特徴とする、請求項90に記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−517537(P2006−517537A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500519(P2006−500519)
【出願日】平成16年1月5日(2004.1.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000030
【国際公開番号】WO2004/061456
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505251624)アルケド バイオテック ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】