説明

DPFシステム

【課題】排気管噴射による排気ガスの昇温制御を行う際に、HC被毒によるDOCの触媒活性不良を防ぐことができるDPFシステムを提供する。
【解決手段】排気管インジェクタ24から燃料を噴射し、これをDOC23で酸化燃焼させてDPFに堆積したPMを燃焼除去するDPF再生を行うDPFシステム10において、DOC23の前後に設けられた温度センサ25,26と、排気管インジェクタ24の噴射量Qと温度センサの検出値T1,T2とが入力され、入力された噴射量Qと検出値T1,T2とからDOC23の発熱量が適正か否かを判断する被毒防止手段29と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディーゼルエンジンの排気ガスから粒子状物質をDPFで捕集し、これを排気管噴射により燃焼除去するDPFシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジンの排気ガスからPM(Perticulate Matter;粒子状物質)を浄化するためのDPF(Diesel Particulate Filter)システムの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。このDPFシステムでは、DPFと呼ばれるフィルタを排気管に接続して排気ガスからPMを捕集すると共に、DPFの上流側に設けられたDOC(Diesel Oxidation Catalyst;酸化触媒)で排気ガス中のNOxをNO2とし、このNO2の酸化力でPMを酸化(燃焼)させてPMを除去することが行われる。
【0003】
また、PMの除去が促進されずDPFにPMが堆積する場合には、排気ガス中に未燃燃料を添加し、この燃料をDOCで酸化燃焼させて排気ガスの温度を昇温させ、DPFに堆積したPMを強制的に燃焼除去するDPF再生が行われる。排気ガスに未燃燃料を添加する手段としては、燃焼行程を終えた直後のエンジン筒内に燃料インジェクタから未燃燃料を噴射するポスト噴射と、DOCよりも上流側の排気管に設けた排気管インジェクタから未燃燃料を噴射する排気管噴射がある。
【0004】
ポスト噴射は従来のエンジンシステムの構成のままで実行可能であるが、エンジン筒内のオイル希釈、排気ガスのスモーク発生、運転性への影響などの問題がある。一方、排気管噴射では上述の問題を発生させることなく排気ガスを昇温し、DPF再生を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4175281号公報
【特許文献2】特許第4178960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポスト噴射ではエンジンが燃焼行程を終えた直後の上死点付近で噴射を行うため、燃焼行程直後の高温で分解される燃料は、活性化しやすい短鎖のHC(HydroCarbon)となる。一方、排気管噴射では排気ガスが比較的低温の排気管内で噴射を行うため、添加された燃料は活性化し難い長鎖のHCとなる。
【0007】
長鎖のHCは燃焼しがたく、噴射量の増加時には、DOCにHCが吸着してHC被毒となり、失火し易い(触媒活性が低下し易い)等のデメリットがある。
【0008】
図5は、排気管噴射を行うDPFシステムにおいて、排気管噴射の燃料噴射量(排気噴射量)と、DOC(酸化触媒)の温度変化との関係を示す図であり、DOCの入口側(上流側)で計測される温度(DOC入口温度)、DOCの中心で計測される排気ガス温度(DOC中心温度)およびDOCの出口側(下流側)で計測される排気ガス温度(DOC出口温度)の経時変化を示している。
【0009】
排気噴射量を約5,約10mm3/stとして排気管噴射したとき、DOC中心温度およびDOC出口温度は略一定の値に昇温されており、DOCの触媒活性が失われることなく排気ガスを安定的に昇温できていることがわかる。
【0010】
しかしながら排気噴射量を約15mm3/stとしたとき、噴射開始時にはDOC中心温度およびDOC出口温度が一時的に昇温されるものの、排気ガスに含まれる多量のHCがDOCに吸着し、DOCの触媒活性が低下して(DOCが失火して)温度が急激に減少している。
【0011】
DOCがHC被毒して失火すると、排気ガスを昇温制御できず、PMを燃焼させてDPF再生を行うことができない。さらに、HC被毒後にDOCの温度が上昇すると吸着したHCが燃焼するようになるが、HCが一気に燃焼して異常燃焼となり、最悪の場合にはDOCの溶損が発生する可能性もある。
【0012】
また、DOCの触媒活性は、運転条件の変化やDPF再生の繰返しによる触媒の劣化などにより変化する虞があり、触媒の劣化前と同じ噴射量で排気ガスに未燃燃料を添加し続けると、上述のHC被毒やDOC溶損の可能性がさらに増大する。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、排気管噴射による排気ガスの昇温制御を行う際に、HC被毒によるDOCの触媒活性不良を防ぐことができるDPFシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、排気管インジェクタから燃料を噴射し、これをDOCで酸化燃焼させてDPFに堆積したPMを燃焼除去するDPF再生を行うDPFシステムにおいて、前記DOCの前後に設けられた温度センサと、前記排気管インジェクタの噴射量と前記温度センサの検出値とが入力され、入力された前記噴射量と前記検出値とから前記DOCの発熱量が適正か否かを判断する被毒防止手段と、を備えるものである。
【0015】
前記被毒防止手段は、前記温度センサの検出値と排気ガス流量とから前記DOCの瞬時発熱量を計算して積算すると共に、前記排気管インジェクタの噴射量と前記DOCの発熱効率とから推定発熱量を計算して積算し、前記推定発熱量の積算値から所定値低い閾値を設定し、前記瞬時発熱量の積算値が前記閾値より大きいとき、前記DOCの発熱量が適正であると判断し、前記瞬時発熱量の積算値が前記閾値以下であるとき、前記DOCの発熱量が適正でないと判断すると良い。
【0016】
前記被毒防止手段は、前記噴射量から理論発熱量を算出して積算し、その理論発熱量の積算値が前記推定発熱量の積算値より小さいときには、前記閾値を前記理論発熱量の積算値から所定値低く設定すると良い。
【0017】
前記被毒防止手段は、前記DOC前方の温度センサの検出値と前記DOCの排気ガスSV比とから前記発熱効率を参照可能な第1の発熱効率マップと、前記DOC前方の温度センサの検出値と排気ガス空燃比とから前記発熱効率を参照可能な第2の発熱効率マップと、を有し、前記第1及び第2の発熱効率マップを参照して前記発熱効率を求めると良い。
【0018】
前記被毒防止手段は、前記温度センサの検出値から前記排気ガスを目標温度に昇温させるためのベース噴射量を算出すると共に、前記DOCの発熱量が適正であるか否かを判断した結果に応じて噴射ガード量を設定し、前記ベース噴射量から前記噴射ガード量を減算して前記噴射量を求め、求めた噴射量で前記排気管インジェクタから燃料を噴射させると良い。
【0019】
前記被毒防止手段は、前記DOCの発熱量が適正であると判断したとき、前記噴射ガード量の設定値を小さくし、前記DOCの発熱量が適正でないと判断したとき、前記噴射ガード量の設定値を大きくすると良い。
【0020】
前記被毒防止手段は、前記ベース噴射量を、前記DOCの触媒活性が保てる上限噴射量以下とさせると良い。
【0021】
前記被毒防止手段は、前記DOC前方の温度センサの検出値と前記DOCの排気ガスSV比とから前記上限噴射量を参照可能な第1の上限噴射量マップと、前記DOC前方の温度センサの検出値と排気ガス空燃比とから前記上限噴射量を参照可能な第2の上限噴射量マップと、を有し、前記第1及び第2の上限噴射量マップを参照して前記上限噴射量を求めると良い。
【0022】
前記被毒防止手段は、前記噴射ガード量を記憶しておき、前記DPF再生後に、記憶しておいた前記噴射ガード量に基づいて、前記第1及び第2の上限噴射量マップを補正すると良い。
【0023】
前記DOCが前後に2分割されると共に、その2分割されたDOC間に温度センサが設けられると良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排気管噴射による排気ガスの昇温制御を行う際に、HC被毒によるDOCの触媒活性不良を防ぐことができるDPFシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のDPFシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明のDPFシステムの動作を説明する流れ図である。
【図3】第1及び第2の発熱効率マップを示す図である。
【図4】第1及び第2の上限噴射量マップを示す図である。
【図5】排気管噴射を行うDPFシステムにおいて、排気管噴射量とDOCの温度変化との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面に基づき説明する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るDPFシステムの構成を示す図である。
【0028】
本実施の形態のDPFシステム10はターボチャージャ11を搭載しており、エアクリーナ12から吸入される空気はターボチャージャ11のコンプレッサ13で圧縮されると共に吸気通路14に圧送され、吸気通路14に接続された吸気マニホールド15からエンジンEに供給される。吸気通路14には、エンジンEへの空気量を調節するための吸気バルブ16が設けられる。
【0029】
エンジンEから排出される排気ガスは排気マニホールド17からターボチャージャ11のタービン18に流入すると共にタービン18を駆動させ、排気管19に排気される。
【0030】
このDPFシステム10は、吸気マニホールド15と排気マニホールド17とを接続するEGR管20と、EGR管20を通過する排気ガスを冷却するためのEGRクーラ21と、排気マニホールド17から吸気マニホールド15へ還流させる排気ガス量を調節するためのEGRバルブ22と、を備え、排気ガスの一部を吸気側へ還流させてエンジンアウトのNOx量を低減させるEGR制御を行う。
【0031】
排気管19にはDOC23が配設され、そのDOC23の上流側の排気管19には排気管インジェクタ24が、下流側の排気管19には排気ガスからPMを捕集するためのDPF34が設けられる。本実施の形態では、DOC23を前方(上流側)DOC23aおよび後方(下流側)DOC23bに前後2分割した構造とする。
【0032】
さらに排気管19には、前方DOC23aの前方(上流側)、後方DOC23bの後方(下流側)および前方DOC23aと後方DOC23bとの間に温度センサ25,26,27が設けられる。
【0033】
エンジンE、吸気バルブ16、EGRバルブ22、排気管インジェクタ24、温度センサ25〜27はECU(Electronical Control Unit;電子制御装置)28と接続され、ECU28には温度センサ25〜27からの信号が入力される。またECU28は、エンジンEの運転、吸気バルブ16およびEGRバルブ22の開度、排気管インジェクタ24の排気管噴射等を制御する。この他にもECU28には車両に搭載される各種センサからの信号が入力されると共に、排気ガス流量および排気ガス空燃比の計算などを行う。
【0034】
さて、このDPFシステム10では、エンジンEから排出された排気ガス中に含まれるPMをDPF34で捕集し、DPF34に堆積したPMを燃焼除去してDPF再生を行うべく、排気ガスに排気管インジェクタ24から燃料を添加し(排気管噴射し)、この燃料をDOC23で酸化燃焼させて排気ガスを昇温することが行われる。
【0035】
このとき、DOC23の触媒活性以上に未燃燃料が添加されると、排気管噴射された燃料がDOC23上に吸着されてDOC23の触媒活性が失われ、DOC23の発熱量が低下して、DPF再生できなくなる虞がある。
【0036】
そこで本実施の形態に係るDPFシステム10では、排気管インジェクタ24から排気管噴射された燃料の噴射量Qと温度センサ25,26,27からの検出値T1,T2,T3とが入力されると共に、入力された噴射量と検出値とからDOC23の発熱量が適正か否かを判断する被毒防止手段29がECU28に搭載される。
【0037】
被毒防止手段29は、温度センサ25の検出値(DOC入口温度)T1、温度センサ26の検出値(DOC出口温度)T2、温度センサ27の検出値(DOC中心温度)T3と、排気ガス流量VとからDOC23の瞬時発熱量C1を計算して積算し、他方、排気管インジェクタ24の噴射量QとDOC23の発熱効率κとから推定発熱量C2を計算して積算し、推定発熱量C2の積算値J2から所定値低い閾値Jthを設定するようにされる。瞬時発熱量C1は、DOC23の排気ガス温度から求められる実際の発熱量であり、推定発熱量C2は、噴射量Qと発熱効率κとから推定される発熱量である。さらに被毒防止手段29は、瞬時発熱量C1の積算値J1と閾値Jthとを比較し、瞬時発熱量C1の積算値J1が閾値Jth以下であるとき、DOC23の発熱量が適正でないと判断し、瞬時発熱量C1の積算値J1が閾値Jthよりも大きいとき、DOC23の発熱量が適正であると判断するように構成される。
【0038】
また、被毒防止手段29は、噴射量Qから理論発熱量C3を算出して積算し、その理論発熱量C3の積算値J3が推定発熱量C2の積算値J2より小さいときには、閾値Jthを理論発熱量C3の積算値J3から所定値低く設定するように構成される。理論発熱量C3は、燃料がDOC23上で完全燃焼したときの発熱量であり、DOC23上での実際の発熱量は、理論発熱量C3を超えない。推定発熱量C2の積算値J2が実際の発熱量より大きく算出されるような運転条件ではDOC23の発熱量が適正か否かの判断が不確実となることから、このような運転条件においては理論発熱量C3の積算値J3を基に閾値Jthを設定することで、DOC23の触媒活性の低下をより確実に判断できる。
【0039】
閾値Jthは、排気管噴射の噴射量Qに対してDOC23の発熱量が適正か否かを判断するための値であり、本実施の形態では推定発熱量C2の積算値J2あるいは理論発熱量C3の積算値J3の0.8掛け(推定発熱量C2の積算値J2ラ0.8あるいは理論発熱量C3の積算値J3ラ0.8)に設定され、推定発熱量C2あるいは理論発熱量C3の積算値J2,J3よりも低い値に設定される。ただし、本発明は閾値Jthの設定方法について限定されるものではなく、推定発熱量C2あるいは理論発熱量C3の積算値J2,J3から所定の熱量を減算した閾値Jthを設定するようにしても良い。
【0040】
発熱効率κは、噴射量Qの完全燃焼時の発熱量に対するDOC23上での所定の条件での発熱量の割合を示す値であり、排気ガス温度、排気ガス空燃比、DOC23の排気ガスSV比により0〜1の範囲で変化する。発熱効率κは、予めDPFシステム10の試験運転から求めても良く、DPFシステム10を模したモデル計算から求めても良い。本実施の形態では、被毒防止手段29は、DOC23前方の温度センサ25で検出される排気ガス温度(すなわち、DOC入口温度T1)とDOC23の排気ガスSV比とから発熱効率を参照可能な第1の発熱効率マップ30と、DOC入口温度T1と排気ガス空燃比λとから発熱効率を参照可能な第2の発熱効率マップ31と、を有し、第1及び第2の発熱効率マップ30,31を参照して発熱効率κを求めるようにされる。
【0041】
第1及び第2の発熱効率マップ30,31の一例を図3に示す。第1の発熱効率マップ30は、図3(a)に示すように、排気ガス温度(本実施の形態では、DOC入口温度)およびDOC23の排気ガスSV比と、DOC23の発熱効率との関係を表すものであり、排気ガス温度が高いほど発熱効率は高い。また発熱効率は、排気ガスSV比が高くなるに伴い、一旦増加して極大値となった後に減少する傾向を有する。第2の発熱効率マップ31は、図3(b)に示すように、排気ガス温度および排気ガス空燃比λと、DOC23の発熱効率との関係を表すものであり、排気ガス温度が高いほど発熱効率は高い。また発熱効率は、排気ガス空燃比λが高くなるに伴い、一旦増加して極大値となった後に減少する傾向を有する。
【0042】
本実施の形態では、被毒防止手段29はECU28に入力される排気ガス温度T1、排気ガスSV比、排気ガス空燃比λから第1及び第2の発熱効率マップ30,31を参照し、求めた値のうち、より低い値をDOC23の発熱効率κとし、DOC23の触媒活性の低下を速やかに判断できるように構成される。ただし、本発明は発熱効率κの決定方法を限定されるものではなく、第1及び第2の発熱効率マップ30,31から求めた値を平均化してDOC23の発熱効率κとするなどしても良い。なお、本実施の形態では、排気ガスSV比および排気ガス空燃比λは、ECU28がエンジンEの運転状態(燃料噴射指示値、点火時期、吸入空気量など)から計算出力した値を用いることとする。ただし、排気管19に新たにλセンサ(空燃比センサ)を設けるなどし、排気管19内の排気ガスの状態を直接検出して、検出した値を用いるようにしても良い。
【0043】
さらに被毒防止手段29は、温度センサの検出値(ここではDOC出口温度)T2から、排気ガスを目標温度(例えば、約350〜450℃)に昇温させるために必要なベース噴射量Q1を算出すると共に、DOC23の発熱量が適正であるか否かを判断した結果に応じて噴射ガード量Q2を設定し、ベース噴射量Q1から噴射ガード量Q2を減算して噴射量Qを求め、求めた噴射量Qで排気管インジェクタ24から燃料を噴射させるように構成される。
【0044】
ベース噴射量Q1は、排気ガス温度T2と目標温度との温度差から、排気ガスを目標温度へ昇温するために必要な不足分の発熱量を基に算出される噴射量である。本実施の形態では、DOC23がHC被毒する可能性を減らすため、被毒防止手段29は、ベース噴射量Q1をDOC23の触媒活性が保てる上限噴射量Qsup以下とさせる。
【0045】
噴射ガード量Q2は、DOC23がHC被毒して触媒活性が低下したとき、DOC23をHC被毒から回復させるべく、排気管インジェクタ24の噴射量Qを減少させるための値であり、0以上の値に設定される。この噴射ガード量Q2は、被毒防止手段29がDOC23の発熱量が適正であると判断したときには設定値を小さくされ、DOC23の発熱量が適正でないと判断したときには設定値を大きくされる。本発明は、噴射ガード量Q2の設定値の操作量について特に限定されるものではないが、例えば瞬時発熱量C1および推定発熱量C2の積算値J1,J2の熱量差を基に過不足分の噴射量を算出し、この算出した値より所定割合低い操作量で噴射ガード量Q2の設定値を変更するか、あるいは、噴射ガード量Q2の操作量を所定の固定値とし、噴射ガード量Q2の一回あたりの操作量を小さくして噴射量Qが徐々に増減するようにされると良い。
【0046】
上限噴射量Qsupは、DOC23がHC被毒せず触媒活性を保てる上限の噴射量であり、排気ガス温度、排気ガス空燃比、DOC23の排気ガスSV比により変化する。上限噴射量Qsupは、予めDPFシステム10の試験運転から求めても良く、DPFシステム10を模したモデル計算から求めても良い。本実施の形態に係る被毒防止手段29は、DOC23前方の温度センサ25で検出される排気ガス温度(すなわち、DOC入口温度T1)とDOC23の排気ガスSV比とから上限噴射量を参照可能な第1の上限噴射量マップ32と、DOC入口温度T1と排気ガス空燃比λとから上限噴射量を参照可能な第2の上限噴射量マップ33と、を有し、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を参照して上限噴射量Qsupを求めるようにされる。
【0047】
第1及び第2の上限噴射量マップ32,33の一例を図4に示す。第1の上限噴射量マップ32は、図4(a)に示すように、排気ガス温度(本実施の形態では、DOC入口温度)およびDOC23の排気ガスSV比と、DOC23の上限噴射量との関係を表すものであり、排気ガス温度が高いほど上限噴射量は高い。また上限噴射量は、排気ガスSV比が高くなるに伴い、一旦増加して極大値となった後に減少する傾向を有する。第2の上限噴射量マップ33は、図4(b)に示すように、排気ガス温度および排気ガス空燃比と、DOC23の上限噴射量との関係を表すものであり、排気ガス温度が高いほど上限噴射量は高い。また上限噴射量は、排気ガス空燃比λが高くなるに伴い、一旦増加して極大値となった後に減少する傾向を有する。
【0048】
本実施の形態では、被毒防止手段29はECU28に入力される排気ガス温度T1、排気ガスSV比、排気ガス空燃比λから第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を参照し、求めた値のうち、より低い値をDOC23の上限噴射量Qsupとし、DOC23のHC被毒の可能性をより低減できるように構成される。ただし、本発明は上限噴射量Qsupの決定方法を限定されるものではなく、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33から求めた値を平均化してDOC23の上限噴射量Qsupとするなどしても良い。
【0049】
また、被毒防止手段29はDPF再生中(排気管噴射中)に噴射ガード量Q2を記憶しておき、そのDPF再生が完了した後に、記憶しておいた噴射ガード量Q2に基づいて、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を補正するように構成される。より具体的には、噴射ガード量Q2と共に排気ガス温度T1、排気ガスSV比、排気ガス空燃比λを関連づけて記憶しておき、これらの値に基づいて第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を補正するようにされる。
【0050】
次回DPF再生時には、補正した第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を用いてDOC23の上限噴射量Qsupを求めるようにし、DPF再生毎に、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を噴射ガード量Q2に基づいて積算補正する。この補正は、記憶しておいた噴射ガード量Q2を一次遅れフィルタ処理して行うと、外乱などの影響でマップ補正量が大きく乱れて上限噴射量Qsupの値が不安定となることを防止できる。なお、本実施の形態では、DPF再生完了直前の噴射ガード量Q2と、そのときの排気ガス温度T1,排気ガスSV比,排気ガス空燃比λとに基づいて、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を補正するようにされるが、DPF再生中に設定された全ての噴射ガード量Q2を、排気ガス温度T1,排気ガスSV比,排気ガス空燃比λと関連づけて記憶しておき、DPF再生後に、記憶しておいた全ての値に基づいて補正を行っても良い。
【0051】
本実施の形態のDPFシステム10では、DOC23を前方DOC23aと後方DOC23bとに前後2分割し、前方DOC23aと後方DOC23bとの間に温度センサ27を設けた構成としているが、DOC23を前後2分割せず、DOCの前後に温度センサ25,26を設ける構成としても良い。DOC23を前後2分割とした構成では、温度センサ27でDOC中心温度T3を検出できるので、排気ガス温度の変化に対して、より迅速に対応できることとなる。他方、DOC23を前後2分割としない構成では、DPFシステム10をより安価に提供できる。また、DPF以外にも、排気ガス中のNOxを浄化するためのHC−SCR(HydroCarbon-Selective Catalytic Reduction)装置、LNT(Lean NOx Trap)装置などを排気管19に接続しても良い。
【0052】
次に、被毒防止手段29の動作について図2を用いて説明する。
【0053】
所定の距離を走行するなどし、DPF34にPMが堆積していると判断したECU28がPMを燃焼除去すべくDPF再生を開始したとき、ECU28に搭載される被毒防止手段29は、先ずステップS21において、ECU28からDOC入口温度(排気ガス温度)T1と、排気ガスSV比と、排気ガス空燃比λと、を読み込んで、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を参照し、当該環境下でのDOC23の上限噴射量Qsupを決定してステップS22に進む。
【0054】
ステップS22では、排気ガスの昇温目標温度とDOC入口温度T1との温度差から、排気ガス温度を目標温度とするのに必要なベース噴射量Q1を算出し、このベース噴射量Q1と上限噴射量Qsupとを比較する。ベース噴射量Q1が上限噴射量Qsupより小さいときには、ステップS24に進む。他方、ベース噴射量Q1が上限噴射量Qsupよりも大きいときには、DOC23のHC被毒の可能性を減らすべく、ステップS23に進んでベース噴射量Q1を上限噴射量Qsupとし、ステップS24へ進む。
【0055】
ステップS24では、DOC入口温度T1と、DOC中心温度T3と、DOC出口温度T2と、排気ガス流量Vと、排気ガスの熱容量と、から、DOC23の瞬時発熱量C1を算出して、ステップS25に進む。
【0056】
ステップS25では、ステップS21で読み込んだDOC入口温度(排気ガス温度)T1と、排気ガスSV比と、排気ガス空燃比λと、から第1及び第2の発熱効率マップ30,31を参照し、当該環境下でのDOC23の発熱効率κを決定し、次いでステップS26にて発熱効率κと噴射量Qと燃料の低位発熱量とから、DOC23の推定発熱量C2を算出する。
【0057】
続くステップS27では、噴射量Qと燃料の低位発熱量とから、DOC23の理論発熱量C3を算出する。なお、DPF再生を開始した直後では、排気管インジェクタ24は排気管噴射を行っていないため、噴射量Qは0であり、算出される推定発熱量C2および理論発熱量C3も0となる。後述するステップS28〜S38を経て噴射量Qを決定して排気管噴射を行った後に、ステップS21〜S27が再度実行されたときには、所定量の噴射量Qが設定されているので、所定の発熱量が算出されることとなる。
【0058】
しかる後、ステップS28において、算出した瞬時発熱量C1,推定発熱量C2および理論発熱量C3をそれぞれ積算し、瞬時発熱量C1,推定発熱量C2および理論発熱量C3の積算値J1,J2,J3を求め、ステップS29に進む。なお本発明は、積算値を求めるための積算時間範囲について限定されるものではなく、適宜変更可能である。積算時間範囲を大きくすると外乱による判断の乱れを小さくでき、積算時間範囲を小さくするとDOC23の触媒活性の変化を迅速に判断できる。
【0059】
ステップS29では、DPF再生(排気管噴射)を開始してからの時間が、排気管噴射された排気ガスが温度センサ25〜27に到達するまでのタイムラグを見越した遅れ時間tdを経過しているか否かを判定する。遅れ時間tdを経過していないときには、DOC23は発熱しておらず、DOC23の発熱量が適正か否かを判断できないので、ステップS30に進んで噴射ガード量Q2を0とし、ステップS37に進む。他方、遅れ時間tdを経過しているときには、DOC23の発熱量が適正か否かを判断すべく、ステップS31に進む。なお、排気管噴射された燃料が温度センサ25〜27に到達するまでの時間は、DPFシステム10の構成(例えば、排気管19の長さおよび断面積など)や排気ガス流量Vにより変化するが、遅れ時間tdは、排気管噴射された排気ガスが温度センサ25〜27に到達していることを最低限保証できる固定値として設定すれば良い。また、DPFシステム10の構成と排気ガス流量Vとを基に、遅れ時間tdを都度計算して更新するようにしても良い。
【0060】
ステップS31では、ステップS28で求めた推定発熱量C2および理論発熱量C3の積算値J2,J3を比較し、理論発熱量C3の積算値J3が推定発熱量C2の積算値J2以上であるとき、ステップS32に進んで閾値Jthを推定発熱量C2の積算値J2の0.8掛けに設定し、ステップS34に進む。他方、理論発熱量C3の積算値J3が推定発熱量C2の積算値J2よりも小さいとき、ステップS33に進んで閾値Jthを理論発熱量C3の積算値J3の0.8掛けに設定し、ステップS34に進む。
【0061】
ステップS34では、ステップS28で求めた瞬時発熱量C1の積算値J1と、ステップS32あるいはステップS33で求めた閾値Jthとを比較して、DOC23の発熱量が適正であるか否かを判断する。より具体的には、瞬時発熱量C1の積算値J1が閾値Jth以下であるとき、DOC23の発熱量が適正でない(すなわち、DOC23がHC被毒している)と判断し、ステップS35に進んで噴射ガード量Q2の設定値を大きくし、ステップS37に進む。他方、瞬時発熱量C1の積算値J1が閾値Jthより大きいとき、DOC23の発熱量が適正である(すなわち、DOC23がHC被毒していない)と判断し、ステップS36に進んで噴射ガード量Q2の設定値を小さくし、ステップS37に進む。本実施の形態では噴射ガード量Q2の一回あたりの操作量を小さくされるため、ステップS35あるいはステップS36の実行毎に噴射量Qが徐々に増減するようになり、ステップS35あるいはステップS36が繰り返されることで、噴射量Qが、DOC23の触媒活性の劣化度合いに合わせた値に徐々に収束していくこととなる。
【0062】
しかる後、ステップS37では、ステップS21〜S23で求めたベース噴射量Q1から、ステップS30,S35,S36で設定した噴射ガード量Q2を減算して噴射量Qを求め、この噴射量Qで排気管インジェクタ24から燃料を噴射させる。このとき、被毒防止手段29は、設定した噴射ガード量Q2を、ステップS21で読み込んだDOC入口温度T1、排気ガスSV比および排気ガス空燃比λと関連づけて記憶しておく。
【0063】
その後、ステップS38においてDPF再生が完了したかどうかを判断する。DPF再生が未完了であるときにはステップS21に戻る。DPF再生が完了しているときにはステップS39に進み、ステップS37で記憶しておいた噴射ガード量Q2、DOC入口温度T1、排気ガスSV比および排気ガス空燃比λに基づいて第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を積算補正して制御を終了する。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係るDPFシステム10では、殆どコストを追加することなく、噴射量Q、排気ガス温度T1,T2,T3、排気ガスSV比、排気ガス空燃比λからDOC23の発熱量が適正か否かを判断し、その判断に応じて噴射量Qを増減するようにされるため、DOC23がHC被毒して触媒活性が低下したときには噴射量Qを減少させ、DOC23の触媒活性を速やかに回復させることができ、DOC23の異常燃焼による溶損を防止できる。
【0065】
また、第1及び第2の上限噴射量マップ32,33から求めた上限噴射量Qsup以下で排気管噴射するため、DOC23がHC被毒する可能性をさらに低減できる。
【0066】
さらに、DPF再生終了後には噴射ガード量Q2に基づいて第1及び第2の上限噴射量マップ32,33を補正するため、運転条件変化や触媒劣化によるDOC23の触媒活性の変化にも対応できる。
【符号の説明】
【0067】
10 DPFシステム
23 DOC
24 排気管インジェクタ
25 温度センサ
26 温度センサ
29 被毒防止手段
Q 噴射量
1 温度センサの検出値(排気ガス温度)
2 温度センサの検出値(排気ガス温度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管インジェクタから燃料を噴射し、これをDOCで酸化燃焼させてDPFに堆積したPMを燃焼除去するDPF再生を行うDPFシステムにおいて、
前記DOCの前後に設けられた温度センサと、
前記排気管インジェクタの噴射量と前記温度センサの検出値とが入力され、入力された前記噴射量と前記検出値とから前記DOCの発熱量が適正か否かを判断する被毒防止手段と、を備えることを特徴とするDPFシステム。
【請求項2】
前記被毒防止手段は、前記温度センサの検出値と排気ガス流量とから前記DOCの瞬時発熱量を計算して積算すると共に、
前記排気管インジェクタの噴射量と前記DOCの発熱効率とから推定発熱量を計算して積算し、
前記推定発熱量の積算値から所定値低い閾値を設定し、前記瞬時発熱量の積算値が前記閾値より大きいとき、前記DOCの発熱量が適正であると判断し、前記瞬時発熱量の積算値が前記閾値以下であるとき、前記DOCの発熱量が適正でないと判断する請求項1記載のDPFシステム。
【請求項3】
前記被毒防止手段は、前記噴射量から理論発熱量を算出して積算し、その理論発熱量の積算値が前記推定発熱量の積算値より小さいときには、前記閾値を前記理論発熱量の積算値から所定値低く設定する請求項2記載のDPFシステム。
【請求項4】
前記被毒防止手段は、前記DOC前方の温度センサの検出値と前記DOCの排気ガスSV比とから前記発熱効率を参照可能な第1の発熱効率マップと、
前記DOC前方の温度センサの検出値と排気ガス空燃比とから前記発熱効率を参照可能な第2の発熱効率マップと、を有し、
前記第1及び第2の発熱効率マップを参照して前記発熱効率を求める請求項2又は3記載のDPFシステム。
【請求項5】
前記被毒防止手段は、前記温度センサの検出値から前記排気ガスを目標温度に昇温させるためのベース噴射量を算出すると共に、前記DOCの発熱量が適正であるか否かを判断した結果に応じて噴射ガード量を設定し、前記ベース噴射量から前記噴射ガード量を減算して前記噴射量を求め、求めた噴射量で前記排気管インジェクタから燃料を噴射させる請求項1〜4いずれかに記載のDPFシステム。
【請求項6】
前記被毒防止手段は、前記DOCの発熱量が適正であると判断したとき、前記噴射ガード量の設定値を小さくし、前記DOCの発熱量が適正でないと判断したとき、前記噴射ガード量の設定値を大きくする請求項5記載のDPFシステム。
【請求項7】
前記被毒防止手段は、前記ベース噴射量を、前記DOCの触媒活性が保てる上限噴射量以下とさせる請求項5又は6記載のDPFシステム。
【請求項8】
前記被毒防止手段は、前記DOC前方の温度センサの検出値と前記DOCの排気ガスSV比とから前記上限噴射量を参照可能な第1の上限噴射量マップと、
前記DOC前方の温度センサの検出値と排気ガス空燃比とから前記上限噴射量を参照可能な第2の上限噴射量マップと、を有し、
前記第1及び第2の上限噴射量マップを参照して前記上限噴射量を求める請求項7記載のDPFシステム。
【請求項9】
前記被毒防止手段は、前記噴射ガード量を記憶しておき、
前記DPF再生後に、記憶しておいた前記噴射ガード量に基づいて、前記第1及び第2の上限噴射量マップを補正する請求項8記載のDPFシステム。
【請求項10】
前記DOCが前後に2分割されると共に、その2分割されたDOC間に温度センサが設けられる請求項1〜9いずれかに記載のDPFシステム。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−127297(P2012−127297A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280880(P2010−280880)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】