説明

EGFR抗体及びSRC阻害剤を用いる治療方法及び関連製剤

本発明は、EGFR及びsrcを組み合わせてまたは同時に抑制または阻止することによるEGFR媒介性疾患、特に癌の治療に関する。本発明は、1つ以上のEGFRモジュレーター及びsrc阻害剤を組み合わせて用いる癌、特にEGFR媒介性疾患の治療、予防またはモジュレーションに関する。本発明は更に、抗EGFR抗体及びsrc阻害剤を用いる癌の治療に関する。抗体の抗EGFR mAb806をsrc阻害剤と組み合わせてまたは連続して用いる癌の治療方法及び組成物が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGFR媒介性疾患、特に癌の治療に関する。EGFRモジュレーター(特に、EGFR抗体)及びsrc阻害剤の組合せを用いる癌の治療方法が提供される。MAb806抗体及びsrc阻害剤の方法及び組合せが提供される。
【背景技術】
【0002】
標的癌治療は、発癌及び腫瘍増殖に必要な特定分子の機能を破壊し、よって癌細胞を死滅させまたはその増殖を予防するように設計されている(Ji Hら(2006)Cell Cycle,5(18):2072−2076,2006年9月l5日電子版)。従来の細胞毒性化学療法とは対照的に、標的癌治療はより有効であったり、正常細胞に対する害が少ないことがあり得る。標的癌治療分野における主な努力は上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とする物質の開発に向けられてきた。EGFRは、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)やHer4(ErbB−4)を含めた密接に関連する受容体のErbBファミリーのメンバーである。EGFRを活性化すると、受容体チロシンキナーゼが活性化され、細胞増殖、運動性、接着、侵入及び化学療法に対する耐性を媒介する一連の下流シグナル伝達事象、並びに癌細胞の連続的増殖及び生存にとって重要なプロセスであるアポトーシスの抑制が生じる。
【0003】
EGFRvIII変異受容体の発現は腫瘍細胞に限られているので、抗体治療に対するかなり特異的な標的に相当する。従って、de2−7 EGFRのユニークペプチドに対して特異的なポリクローナル及びモノクローナル抗体が作成された。ユニークなde2−7 ペプチドを用いて免疫化後単離した一連のマウスmAbはいずれも、ヌードマウスで増殖させた末端切断型受容体及び標的化de2−7 EGFRポジティブ移植移植片に対して選択性及び特異性を示した(Wikstrand CJら(1995)Cancer Res,55:3140−3148;Okamoto,Sら(1996)Br.J.Cancer,73:1366−1372;Hills Dら(1995)Int.J.Cancer,63:537−543;Reist CJら(1997)Cancer Res,57:1510−1515;Reist CJら(1995)Cancer Res.,55:4375−4382;米国特許第5,401,828号明細書)。抗EGFRvIII抗体の例には、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A.4及びY10が含まれる。
【0004】
MAb806は、元々免疫原としてEGFRvIII変異体を発現する全細胞を用いてユニークな末端切断型変異体EGFRvIIIを認識するように産生させた新規なマウス抗体である。重要なことは、mAb806により認識されるエピトープは不活性野生型(wt)EGFRでは接近できないが、EGFRが過剰発現し、EGFRvIIIが発現している細胞ではトランジション形態のwt EGFRで露出している。MAb806はEGFRvIII/Δ2−7 EGFR変異体中に存在しているかまたは利用可能なエピトープに結合するが、変異の結合ペプチドLEEKKGNYVVTDHとは異なるエピトープを認識する。エピトープ研究は、806抗体が神経膠腫及び広範囲の上皮癌中に存在するエピトープに結合するが、正常なヒト組織には結合しないことを立証している免疫組織化学的研究により裏付けられている。これらのデータ及び他の前臨床データから、mAb806はセツキマブや他の抗EGFR抗体とは異なる各種臨床活性スペクトル及び副作用プロフィールを有するであろうと示唆された。異種移植片モデルで、mAb806は正常組織を標的とすることなく強力な抗腫瘍活性を発揮した。よって、mAb806のユニークな標的能力は癌特異的分子標的治療に対する新しいモデルとなる。
【0005】
非受容体タンパク質チロシンのSrcは、増殖、分化、遊走、接着、侵入、血管形成及び免疫機能のような多くの細胞プロセスの調節において重要な役割を果たすSrc、Yes、Fyn、Lyn、Lck、Hck、Fgr、Blk及びYrkを含めた9遺伝子ファミリーのメンバーである60kDaタンパク質である(Yeatman TJ(2004)Nat.Rev.Cancer,4(6):470−80;Frame MC(2004)J.Cell Sci.,117:989−98)。Srcファミリーキナーゼは余り保存されないドメイン及び3つの保存Src相同ドメイン、すなわちSH2、SH3及びSH1、またはタンパク質チロシンキナーゼドメインを含んでいる。Srcの調節には、C末端Srcキナーゼ(Csk)によりリン酸化したときより不活性なSrcコンホメーションを生ずるCOOH末端チロシン(Y530)が重要である。Srcは、入力シグナルに応じて多くのタンパク質と相互作用する。更に、Y530の脱リン酸化及びY418の自動リン酸化によるその活性コンホメーションを推測する。Srcは構造及びシグナル伝達タンパク質にも関係し、生じた複合体は各種細胞プロセスにおけるSrcの役割にとって重要である。Srcは、大腸癌、乳癌、メラノーマ、卵巣癌、胃癌,頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、脳腫瘍及び血液癌のような多数の癌において過剰発現または異常に活性化されると報告されている(Dehm SM and Bonham K(2004)Biochem.Cell Biol.,2004;82:263−74)。いろいろなsrcの小分子阻害剤が公知であり、幾つか、例えばダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PD166326が臨床トライアルに入っている。
【0006】
癌を含めたEGFR媒介性疾患に対する改善された、より効率的で、より広く有効な治療プロトコルが臨床上必要とされている。
【0007】
ここに挙げられている参考文献は本発明に対する従来技術であることを容認するものとは解釈されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,401,828号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ji Hら(2006)Cell Cycle,5(18):2072−2076,2006年9月l5日電子版
【非特許文献2】Wikstrand CJら(1995)Cancer Res,55:3140−3148
【非特許文献3】Okamoto,Sら(1996)Br.J.Cancer,73:1366−1372
【非特許文献4】Hills Dら(1995)Int.J.Cancer,63:537−543
【非特許文献5】Reist CJら(1997)Cancer Res,57:1510−1515
【非特許文献6】Reist CJら(1995)Cancer Res.,55:4375−4382
【非特許文献7】Yeatman TJ(2004)Nat.Rev.Cancer,4(6):470−80
【非特許文献8】Frame MC(2004)J.Cell Sci.,117:989−98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、src発現または活性を変化させると抗EGFR治療の有効性が高まるという知見に関する。特に、src発現または活性を変化させると抗EGFR抗体の有効性、特にmAb806抗体の活性が劇的に高まる。
【0011】
本発明は、癌または他のEGFR媒介性疾患を治療するためのEGFR及びsrc阻害剤の組合せに関する。
【0012】
本発明は更に、哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を組み合わせて、同時に、または順々に連続して投与することを含む前記哺乳動物におけるEGFR媒介性癌の治療方法を提供する。1つの態様で、src阻害剤はチロシンキナーゼ阻害剤である。1つの態様で、抗EGFR抗体はMAb806である。
【0013】
方法の特定実施形態では、抗EGFR抗体はmAb806抗体またはその活性フラグメントである。MAb806には、マウス抗体、組換え抗体またはヒト化抗体が含まれる。
【0014】
EGFR媒介性癌は、神経膠芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化器癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、尿生殖器癌及び膀胱癌から選択され得る。癌は、更に結腸癌、乳癌、メラノーマ、卵巣癌、胃癌、膵臓癌、脳腫瘍及び血液癌から選択され得る。特に、癌は神経膠腫であり得る。
【0015】
本発明は、哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を同時に、組み合わせて、または順々に連続して投与することを含む前記哺乳動物における癌の治療方法を提供する。この方法の1態様では、抗EGFR抗体は腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である。この態様の特定実施形態では、抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである。
【0016】
上記方法では、src阻害剤は、ダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択され得る。この方法では、src阻害剤は特にチロシンキナーゼ阻害剤である。上記方法の特定の実施形態では、src阻害剤はダサチニブであり、抗EGFR抗体はmAb806である。
【0017】
癌は、神経膠芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化器癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、尿生殖器癌、膀胱癌、結腸癌、メラノーマ、胃癌、膵臓癌、脳腫瘍及び血液癌から選択され得る。
【0018】
本発明は、哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を同時に、組み合わせて、または順々に連続して投与することを含む前記哺乳動物におけるEGFR媒介性癌の腫瘍増殖の阻止または縮小方法を提供する。この方法の特定実施形態では、抗EGFR抗体は、腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である。抗EGFR抗体は特にmAb806またはその活性フラグメントである。
【0019】
本発明は、哺乳動物に対して阻害剤及び抗EGFR抗体を投与することを含む前記哺乳動物におけるEGFR媒介性癌の腫瘍増殖の阻止または縮小方法を提供し、前記src阻害剤はダサチニブであり、前記抗EGFR抗体はmAb806である。
【0020】
EGFR媒介性癌は、神経膠芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化器癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、尿生殖器癌及び膀胱癌から選択され得る。
【0021】
本発明は更に、哺乳動物に対して抗EGFR抗体及びsrc阻害剤の組合せを投与することを含む前記哺乳動物における抗EGFR抗体の有効性または活性の増強方法を提供する。src阻害剤は、ダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択され得る。抗EGFR抗体は特に、腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である。この態様の特定実施形態では、抗EGFR抗体はmAb806である。
【0022】
本発明は更に、医薬的に許容され得る担体または希釈剤中に抗EGFR抗体及び1つ以上のsrc阻害剤を含む医薬組成物に関する。この組成物には、抗EGFR抗体が腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である組成物が含まれる。この組成物の特定実施形態では、抗EGFR抗体はmAb806である。
【0023】
他の目的及び作用効果は、図面を参照してなされる以下の記載の検討から当業者には自明である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】EGFRの概略図。de2−7 EGFRにおいて欠失している細胞外領域は丸括弧で同定されている。de2−7 EGFRのデッドキナーゼバージョンは721位に単一点突然変異(K→M)を含んでいる。de2−7 EGFのDY2バージョンは残基1068及び1173にY→F突然変異を有しており、DY5バージョンはこれらの置換を992、1086及び1148にも有している。
【図2A】各種異種移植片のEGFR特異的抗体に対する感受性。ヌードBALB/cマウスの両脇腹に3×10個の細胞を注入することにより異種移植片を樹立させた。異種移植片が約100mmの平均容積に達したら抗体治療を開始した。マウスを1mgのmAb528(左パネル)またはmAb806(右パネル)を用いて週3回、2週間(すなわち、全部で6回注射)治療した。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図2B】各種異種移植片のEGFR特異的抗体に対する感受性。ヌードBALB/cマウスの両脇腹に3×10個の細胞を注入することにより異種移植片を樹立させた。異種移植片が約100mmの平均容積に達したら抗体治療を開始した。マウスを1mgのmAb528(左パネル)またはmAb806(右パネル)を用いて週3回、2週間(すなわち、全部で6回注射)治療した。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図3】U87Mをベースとする細胞株の異種移植片増殖曲線。増殖曲線を作成するために、ヌードBALB/cマウスの両脇腹に1×10個の細胞を注入することにより異種移植片を樹立させた。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図4】A及びBは、U87MG.Δ2−7、U87MG.DK及びU87MG.DY5細胞におけるde2−7 EGFR変異体のインビトロリン酸化。A:de2−7 EGFRタンパク質をmAb806、mAb528、または無関係なアイソタイプマッチド対照抗体を用いて免疫沈降させ、生じたサンプルをイムノブロッティングした。de2−7 EGFR変異体はすべてユビキチン化及び分解に関連する主要部位であるY1045でのリン酸化に対してポジティブであった(上部パネル)。de2−7 EGFRはY1173位で構成的にリン酸化されたのに対して、DK及びDY5変異体は両方とも予想されたようにこの部位でのリン酸化に対してネガティブであった(中央パネル)。EGFRの存在をEGFRに対する家兎c末端ポリクローナル抗体を用いて確認した(下部パネル)。このc末端抗体はY1068F突然変異を含んでいるためにDY5変異体を認識しなかった。このことから、抗体結合のための重要な残基であることが分かる。よって、全DY5タンパク質の存在がmAb806を用いてイムノブロッティングすることにより(B)で確認された。
【図5】高レベルのde2−7 EGFRを発現するU87MG細胞。U87MG.Δ2−7細胞を低(L)、中(M)及び高(H)発現集団にFACS分類した。A:細胞を36時間血清飢餓させた後溶解し、de2−7発現(C13)及びde2−7 EGFRのチロシンリン酸化(4G10)についてイムノブロッティングにより分析した。リン酸化レベルはde2−7 EGFRと相関していた。B:増殖曲線を作成するために、ヌードBALB/cマウスの両脇腹に1×10個の細胞を注入することにより親U87MG、U87MG−L、U87MG−M及びU87MG−H異種移植片を樹立させた。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。C:(B)からの腫瘍をde2−7 EGFR(C13)の発現についてイムノブロッティングにより分析した。D:U87MG−H異種移植片を有するマウスを1mgのmAb528またはmAb806を用いて週2回、3週間(4、6、8、11、13及び15日目に)治療した。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図6】A〜Cは、NR6.Δ2−7異種移植片のEGFR特異的抗体を用いる治療。ヌードBALB/cマウスの両脇腹に3×10個の細胞を注入することにより異種移植片を樹立させた。異種移植片の平均容積が約100mmに達したら抗体治療を開始した。マウスを1mgのmAb806(A)またはmAb528(B)を用いて週3回、2週間(22、25、29、32、36及び39日目に)、またはmAb528(C)を用いて週2回、3週間(27、30、34、37、41及び44日目に)治療した。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図7】A〜Cは、de2−7 EGFRとSrcの相互作用。(A)細胞を一晩血清飢餓させた後、10μM PP1またはPP2、或いはビヒクル(DMSO)を用いて30分間または24時間治療し、次いでmAb528、mAb806、または無関係のアイソタイプ対照を用いて免疫沈降させた。イムノブロッティングをEGFRのY845に対して特異的な抗体を用いて実施し、全de2−7 EGFRを家兎c末端ポリクローナル抗体を用いて可視化した。示した結果は4つの独立した実験の代表例である。(B)増殖曲線を作成するために、ヌードBALB/cマウスの両脇腹に1×10個の細胞を注入することによりU87MG.Δ2−7ベクター対照及びU87MG.Δ2−7DNSrc異種移植片を樹立させた。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。(C)ヌードBALB/cマウスの両脇腹に3×10個の細胞を注入することによりU87MG.Δ2−7DNSrc異種移植片を樹立させた。異種移植片の平均容積が約100mmに達したら抗体治療を開始した。マウスを1mgのmAb806を用いて週3回、2週間(18、20、22、25、27及び29日目に)治療した。データは平均腫瘍容積±SEとして表示する。
【図8】A及びBは、U87MG.Δ2−7細胞における内部移行したmAb806−Cy3とEEAlまたはlgp−120の共局在。(A)カバーグラス上に接種した細胞をmAb806−Cy3(赤色)と4℃(0分)でプレインキュベートした。37℃で10、20及び30分間インキュベートすることにより内部移行を刺激した。細胞を固定し、透過化処理した後、抗EEA1及びCy2コンジュゲートしたロバ抗マウス抗体を用いて順次染色した(緑色)。共局在は合併像に黄色で示す。スケールバー=20μm。(B)細胞にGFPを標識したlgp−120(lgp−120−GFP;緑色)を一時的にトランスフェクトした。ポジティブにトランスフェクトされた細胞をlgp−120−GFPパネルに緑色アローヘッドにより示す。トランスフェクトした後、細胞を4℃でmAb806−cy3とインキュベートした(赤色;0分)後、37℃で30、60及び120分間インキュベートすることにより内部移行を誘導した。その後、サンプルを固定し、mAb806−Cy3とlgp−120−GFPの共局在を合併像(白色矢)において黄色の存在により示す。スケールバー=10μm。
【図9】A〜Fは、U87MG.Δ2−7細胞においてde2−7 EGFRに結合させた後のクラスリン媒介エンドサイトーシス及びmAb806の細胞内輸送の電子顕微鏡分析。金粒子(mAb806−Au;アローヘッド)は、5分間の内部移行の誘導後クラスリン被覆ピット(A−B)及び小胞(C)において容易に検出された。小窩に似た構造中には金粒子は存在していなかった(白抜きアローヘッド)(D)。10〜15分間内部移行後、金粒子が初期エンドソームに似た管状小胞構造において検出された(E)。長時間内部移行させた後、金粒子は多胞体において見られた(F)。スケールバー=10μm。
【図10】NR6.Δ2−7細胞におけるmAb806及びmAb528の内部移行。細胞を4℃(0分)でmAb806−Cy3(左パネル)またはmAb528−Cy3(右パネル)とプレインキュベートした後、内部移行を誘導するために37℃で異なる時間インキュベートした。37℃での15、30及び60分間のインキュベーションを表す像を示す。内部移行前の両抗体での染色は細胞間の膜接合(青色アローヘッド)及びフォーカルアドヒージョン(赤色アローヘッド)に関連しているが、幾つかの細胞は殆ど膜染色を示さなかった(黄色アローヘッド)。後に内部移行した抗体を白色矢印で示す。スケールバー=10μm。
【図11】de2−7 EGFR変異体と他の細胞成分の相互作用の概略図。de2−7 EGFRは活性キナーゼを有しており、よって自動リン酸化、トランスリン酸化し得、または他のキナーゼによるリン酸化の標的であり得る。対照的に、デッドキナーゼde2−7 EGFRはリン酸化の標的にすぎない。最後に、DY5構築物はリン酸化の標的であり得、wt EGFRのような他の細胞標的をトランスリン酸化し得る。mAb528及び806の両方はU87MG.DY5異種移植片を抑制するが、U87MG.DK異種移植片を抑制し得ないと仮定すると、これらの抗体が他の細胞成分のリン酸化を予防する能力が抗腫瘍活性にとって重要であると示唆される。
【図12】U87MG.Δ2−7src異種移植片のmAb806及びダサチニブの単独または組合せでの治療。ヌードBALB/cマウスの両脇腹に1×10個の細胞を注入することによりU87MG.Δ2−7src異種移植片を樹立させた。異種移植片の平均容積が約80mmに達したら治療を開始した。マウスはビヒクル(dHO中4% DMSO)、PBS中1mgのmAb806、dHO中4% DMSO中の10mg/kg−1のダサチニブ、または両方の組合せを用いて週3回、指定した日にちで2週間治療した。データを平均腫瘍容積±SEとして表示する。33日目に、組合せ治療群はmAb806単独で治療した群に比して有意に小さかった(p<0.0076)。
【図13】U87MGΔ2−7src異種移植片のmAb806及びダサチニブの単独または組合せでの治療。上記実験からのデータをカプラン−マイヤ−生存曲線に変換し、瀕死の、すなわち>1500mmの腫瘍容積のデュアルエンドポイントを用いるウィルコクソン分析により分析した。組合せ群は他の群よりも長く生存した。ログランクp<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によれば、当業界の技術の範囲内の一般的な分子生物学、微生物学及び組換えDNA技術が使用され得る。これらの技術は文献に詳しく説明されている。例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”(1989);“Current Protocols in Molecular Biology”,I〜III巻[Ausubel,R.M.編(1994)];“Cell Biology:A Laboratory Handbook”,I〜III巻[J.E.Celis編(1994))];“Current Protocols in Immunology”,I〜III巻[Coligan,J.E.編(1994)];“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait編,1984);“Nucleic Acid Hybridization”[B.D.Hames及びS.J.Higgins編(1985)];“Transcription And Translation”[B.D.Hames及びS.J.Higgins編(1984)];“Animal Cell Culture”[R.I.Freshney編(1986)];“Immobilized Cells And Enzymes”[IRL Press(1986)];B.Perbal,“A Practical Guide To Molecular Cloning”(1984)を参照されたい。
【0026】
従って、本明細書中に現れたなら、以下の用語は下記する定義を有している。
【0027】
用語「抗体」は、天然で産生されるか或いは部分的または完全に合成されるかにかかわらず免疫グロブリンを指す。抗体には、抗体及びそのフラグメントを含めた特異的エピトープを結合する免疫グロブリンが含まれる。この用語はポリクローナル、モノクローナル、組換え、ヒト化及びキメラ抗体を包含する。この用語は、抗体結合ドメインであるかまたは抗体結合ドメインと相同である結合ドメインを有するポリペプチドまたはタンパク質をも包含する。CDRグラフト化抗体もこの用語に包含される。
【0028】
抗体は多数の方法で修飾され得るように、用語「抗体」は、所要の特異性を有する結合ドメインを有する特異的結合メンバーまたは物質を包含すると解釈されるべきである。よって、この用語は、天然で産生されるか或いは部分的または完全に合成されるかにかかわらず、免疫グロブリン結合ドメインを含むポリペプチドを含めて抗体の抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能均等物及びホモログを包含する。従って、別のポリペプチドに融合している免疫グロブリン結合ドメインを含むキメラ分子または均等物が含まれる。キメラ抗体のクローニング及び発現は欧州特許出願公開第0120694号明細書及び同第0125023号、並びに米国特許第4,816,397号明細書及び同第4,816,567号明細書に記載されている。
【0029】
完全抗体のフラグメントが結合抗原の機能を発揮し得ることが判明した。結合フラグメントの例は、(i)VL、VH、CL及びCHlドメインから構成されるFabフラグメント;(ii)VH及びCHlドメインから構成されるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVL及びVHドメインから構成されるFvフラグメント;(iv)VHドメインから構成されるdAbフラグメント(Ward,E.S.ら,Nature,341,544−546(1989));(v)単離CDR領域;(vi)2つの連結されたFabフラグメントからなる二価フラグメントであるF(ab’)フラグメント;(vii)VHドメイン及びVLドメインが会合して抗原結合部位が形成され得るように2つのドメインがリンカーにより連結されている単鎖Fv分子(scFv)(Birdら,Science,242,423−426,1988;Hustonら,PNAS USA,85,5879−5883,1988);(viii)多価抗体フラグメント(scFvダイマー、トリマー及び/またはテトラマー(Power and Hudson,J.Immunol.Methods,242:193−204 9(2000));(ix)二重特異性単鎖Fvダイマー(国際特許出願第US92/09965号明細書);及び(x)遺伝子融合物により構築される多価または多重特異性フラグメントである“二重特異性抗体”(国際公開第94/13804号パンフレット;P.Holligerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,6444−6448(1993))である。
【0030】
「抗体結合部位」は、特異的に抗原を結合する軽鎖または重鎖の可変及び超可変領域からなる抗体分子の構造部分である。
【0031】
本明細書中で使用されているいろいろな文法的で形のフレーズ「抗体分子」は、インタクトな免疫グロブリン及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の両方を意味する。
【0032】
抗体分子の例は、インタクトな免疫グロブリン分子、実質的にインタクトな免疫グロブリン分子、及び本明細書に記載されている治療方法で使用するのに好ましいパラトープを含む免疫グロブリン分子の部分であり、これらの部分にはFab、Fab’、F(ab’)及びF(v)として当業界で公知の部分が含まれる。
【0033】
抗体は、その抗体の1つの結合ドメインが本発明の特異的結合ドメインであり、他の結合ドメインが例えばエフェクター機能等を補強するような別の特異性を有している二重特異性であってもよい。本発明の二重特異性抗体には、その抗体の1つの結合ドメインが本発明の特異的結合ドメインまたはそのフラグメントであり、他の結合ドメインが別個の抗体またはそのフラグメントであるものが含まれ、前記した別個の抗体には抗EGFR抗体、例えば抗体528(米国特許第4,943,533号明細書)、キメラ及びヒト化225抗体(米国特許第4,943,533号明細書及び国際公開第9640210号パンフレット)、抗de2−7抗体、例えばDH8.3(Hills,D.ら(1995)Int.J.Cancer,63(4):537−543)、抗体L8A4及びY10(Reist,CJら(1995)Cancer Res.,55(19):4375−4382;Foulon CFら(2000)Cancer Res.,60(16):4453−4460),ICR62(Modjtahedi Hら(1993)Cell Biophys,Jan−Jun;22(1−3):129−46;Modjtahediら(2002)P.A.A.C.R.,55(14):3140−3148)、またはWikstrandらの抗体(Wikstrand C.ら(1995)Cancer Res.,55(14):3140−3148)が含まれる。他の結合ドメインは中性または膠細胞特異的抗体の場合のように特定細胞型を認識するまたは標的とする抗体であり得る。本発明の二重特異性抗体では、本発明の抗体の1つの結合ドメインは、特定の細胞受容体を認識する及び/または細胞を特定の様式でモジュレートする他の結合ドメインまたは分子、例えば免疫モジュレーター(例えば、インターロイキン、成長モジュレーターまたはサイトカイン(例:腫瘍壊死因子(TNF)、具体的には全文を本明細書中に組み入れる2002年2月13日出願の米国特許出願第60/355,838号明細書に示されているTNF二重特異性モダリティー)、毒素(例えば、リシン)、または抗−有糸分裂またはアポトーシス物質または因子と組み合わされ得る。
【0034】
抗体分子のFab及びF(ab’)部分は、公知の方法により実質的にインタクトな抗体分子に対してパパイン及びペプシンをタンパク質分解反応することにより生成され得る。例えば、Theofilopolousらの米国特許第4,342,566号明細書を参照されたい。Fab’抗体分子部分も公知であり、F(ab’)部分から2つの重鎖部分を連結するジスルフィド結合をメルカプトエタノールを用いて還元し、生じたタンパク質メルカプタンを試薬(例えば、ヨードアセトアミド)を用いてアルキル化することにより生成される。本発明では、インタクトな抗体を含む抗体が好ましい。
【0035】
いろいろな文法の形のフレーズ「モノクローナル抗体」は、特定の抗原と免疫反応し得る抗体結合部位の化学種を1つしか有していない抗体を指す。よって、モノクローナル抗体は典型的には免疫反応する抗原に対して単一の結合アフィニティーを示す。モノクローナル抗体は、各々が別々の抗原に対して免疫特異性である抗体結合部位を複数有する抗体分子、例えば二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体をも含み得る。
【0036】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部または全部に対して特異的に結合し、相補的である領域を含む抗体の一部を指す。抗原が大きい場合には、抗体はエピトープと称される抗原の特定部分のみにしか結合し得ない。抗原結合ドメインは1つ以上の抗体可変ドメインにより与えられ得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)からなる。
【0037】
用語「mAb806」、「806抗体」、「モノクローナル抗体806」、「ch806」、「ヒト化806」及び具体的にリストされていない変異体は本明細書中で互換可能に使用されており、明細書及び請求の範囲を通じて使用されているとき を指す。従って、組換え、キメラ、遺伝子組換えまたは代替抗体を含めて実質的に均等なまたは改変した活性を示す抗体も考えられる。これらの修飾は例えば部位特異的突然変異により得られる修飾のような故意であっても、抗体またはそのフラグメントの産生株である宿主での突然変異により得られるような偶然であってもよい。同様に、用語「mAb806」、「806抗体」、「モノクローナル抗体806」、「ch806」、「ヒト化806」はその範囲に本明細書中に具体的に記載されている、当業者に公知である、公表されているタンパク質及び免疫グロブリン、並びにすべての実質的に相同のアナログ及びアレリック変異体を含むと意図される。その世代を含めたmAb806抗体、特定活性、アミノ酸及び核酸配列、抗原結合ドメイン、可変領域配列は国際公開第02/092771号明細書;Luwor RBら(2001)Cancer Res,61:5355−5361;Mishima Kら(2001)Cancer Res,61:5349−5354;Johns TGら(2002)Int J Cancer,98:398−408;Jungbluth AAら(2003)Proc Natl Acad Sci,100(2):639−644に開示されており、当業者に公知である。各文献の全部は参照により本明細書に組み入れられる。
【0038】
公表されており、当業者に公知のmAb806抗体と同一のアミノ酸配列を有する抗EGFR抗体、その抗原結合ドメインまたはその活性フラグメントをコードするが、公知のmAb806配列に縮重される有効な抗EGFR抗体、特にmAb806及びch806を含めた有効な抗EGFR抗体をコード化及び/または発現するDNA配列が本発明の方法で使用するための組成物の範囲内に入ると考えられるべきである。「縮重」とは、具体的アミノ酸を特定するために異なる3文字コドンが使用されることを意味する。
【0039】
フレーズ「src阻害剤」は、srcの発現または活性を低下させる、特にEGFR上のsrcリン酸化部位のリン酸化を低下させる、またはsrcキナーゼカスケードのシグナルを減少させるモジュレーターを意図し、含まれる。モジュレーターには化合物、ペプチド、抗体、または他の物質等が含まれ得る。モジュレーターにはキナーゼ阻害剤、ホスファターゼ等が含まれ得る。
【0040】
数個のsrcの小分子阻害剤が公知であり、幾つか、例えばダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]− ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PD166326が臨床トライアルに入っている。
【0041】
フレーズ「医薬的に許容され得る」は、生理的に許容され得、ヒトに投与したとき典型的にはアレルギーまたは類似の不適当な反応(例えば、胃の不調、めまい等)を生じない分子及び組成物を指す。
【0042】
フレーズ「治療有効量」は、標的細胞塊のS相活性の臨床上有意な変化、或いは標的細胞塊または腫瘍のサイズまたは寸法の有意な変化、または存在及び活性を伴うことがあるような他の病理学的特徴を予防する、好ましくは少なくとも約20%、より好ましく少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%減少させるのに十分な量を意味するように本明細書中で使用されている。
【0043】
抗体または活性フラグメントは、中和された医薬的に許容され得る塩の形態として治療用組成物中に配合され得る。医薬的に許容され得る塩には、(ポリペプチドまたは抗体分子の遊離アミノ基を用いて形成される)酸付加塩、及び無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等)を用いて形成される酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基から形成される塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは鉄)及び有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等)からも誘導され得る。
【0044】
治療用抗体または活性フラグメントを含有する組成物は例えば単位用量を注射するように従来通り静脈内に投与される。本発明の治療用組成物を言及して使用されるとき、用語「単位用量」は、ヒトに対する1回用量として適した物理的にバラバラの単位を指し、各単位は所望の治療効果が生ずるように計算された所定量の活性物質を必要な希釈剤、すなわち担体またはビヒクルと一緒に含んでいる。
【0045】
組成物は用量及び製剤に適合する方法で治療有効量投与される。投与量は治療対象の被験者、その被験者の免疫系の活性成分を利用する能力、及び標的とされる腫瘍塊の所望の抑制度または程度に依存する。投与するのに必要な活性成分の正確な量は担当医の判断に依存し、各個人に固有である。しかしながら、適当な用量は約0.1〜20mg、好ましくは約0.5〜約10mg、より好ましくは1〜数mg−活性成分/kg−個人の体重/日の範囲であり得、投与ルートに依存する。初期投与及び追加投与のための適当なレジメも変更可能であるが、典型的には初期投与後、1時間以上の間隔で注射または他の投与により繰り返し投与する。或いは、血液中に10ナノモル〜10マイクロモルの濃度を維持するのに十分な連続静脈注射も考えられる。
【0046】
本明細書中で使用されている「pg」はピコグラムを意味する。「ng」はナノグラムを意味する。「ug」または「μg」はマイクログラムを意味する。「mg」はミリグラムを意味する。「ul」または「μl」はマイクロリッターを意味する。「ml」はミリリッターを意味する。「l」はリッターを意味する。
【0047】
よって、抗EGFR抗体、特にmAb806の抗腫瘍活性を立証することにより治療及び診断用途並びに方法が提供され、発案された。以前に示唆され、本明細書で更に詳記されているように、本発明は、キナーゼドメイン突然変異、一次的及び二次的耐性突然変異を含めたEGFR突然変異に関連する腫瘍形成能をモジュレートするためにEGFRが関与する反応及びシグナル伝達のカスケードにおける医薬的介入を考えている。
【0048】
本発明は更に、哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を投与することを含む前記哺乳動物におけるEGFR媒介性癌の治療方法を提供する。1つの態様では、src阻害剤及び抗EGFR抗体を同時に投与する。1つの態様では、一般的な化学療法の前またはその後にsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を同時にまたは順次繰り返し投与する。
【0049】
本発明の方法において抗EGFR抗体、特にmAb806は単独で投与しても、他の抗EGFR抗体と一緒に投与してもよい。MAb806をセツキマブ、ABX−EGF(パニツムマブ)、DH8.3、L8A4を含めた他の抗EGFRvIII抗体及び/またはその活性フラグメンと連続してまたは一緒に投与してもよい。本発明の方法において、src阻害剤は単独で投与しても、1つ以上の抗EGFR抗体と一緒に投与してもよく、場合によっては1つ以上のsrc阻害剤を投与してもよい。
【0050】
抗EGFR抗体は適当な担体と一緒に、患者に対していろいろな手段により投与するために有効な濃度で医薬組成物中に配合され得る。各種の投与技術が利用され得、その中には皮下、静脈内及び腹腔内注射、カテーテル法等のような非経口技術が含まれる。抗体またはその活性フラグメントの量は変更可能であり、本明細書中に記載されている結果及びデータの考慮を含めて資格のある医師または獣医師の推奨及び処方に基づいていなければならない。
【0051】
src阻害剤は適当な担体と一緒に、患者に対していろいろな手段により投与するために有効な濃度で医薬組成物中に配合され得る。各種の投与技術が利用され得、その中には皮下、筋肉内、静脈内及び腹腔内注射、カテーテル法等のような非経口技術及び/または経口投与または経皮投与もしくは適用が含まれる。src阻害剤の量は変更可能であり、特に本明細書中に記載されている結果及びデータの考慮を含めて資格のある医師または獣医師の推奨及び処方に基づいていなければならない。1つ以上の抗EGFR抗体及び1つ以上のsrc阻害剤の組合せである医薬組成物を投与に適するように製造してもよい。
【0052】
本発明の抗体は、検出可能なまたは機能的な標識を用いて標識され得る。検出可能な標識には、同位元素H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、111In、211At、198Au、67Cu、225Ac、213Bi、99Tc及び86Reのような放射標識が含まれるが、これらに限定されない。これらの放射標識は抗体イメージングの分野で公知の一般的な化学を用いて本発明の抗体に結合され得る。標識には蛍光標識及びMRI−CTイメージングのために当業界で慣用されている標識が含まれる。これらにはホースラディッシュペルオキシダーゼのような酵素標識も含まれる。標識には更に、特異的同族の検出可能部分に結合することにより検出され得るビオチンのような化学物質(例えば、標識アビジン)が含まれる。
【0053】
機能的標識には、腫瘍部位を破壊させるべく腫瘍の部位を標的とするように設計されている物質が含まれる。機能的標識には、細胞毒性剤(例えば、5−フルオロウラシルまたはリシン)及び酵素(例えば、細菌性カルボキシペプチダーゼまたはニトロレダクターゼ)が含まれ、これらは腫瘍部位でブロドラッグを活性薬物に変換させることができる。
【0054】
放射標識した抗EGFR抗体及びそのフラグメントはインビトロ診断技術、インビボ放射イメージング技術及び放射免疫治療において有用である。インビボイメージングの場合、本発明の特異的結合メンバーは放射性同位元素よりもイメージング剤にコンジュゲートされ得る。イメージング剤の中には、例えば抗体分子にキレート基を介して多数の常磁性イオンが充填されている磁性共鳴イメージング増強剤が含まれるが、これに限定されない。キレート基の例には、EDTA、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル及びポリオキシムが含まれる。常磁性イオンの例には、ガドリニウム、鉄、マンガン、レニウム、ユウロピウム、ランタン、ホルミウム及びフェルビウムが含まれる。本発明の更なる態様では、放射標識した特異的結合メンバー、特に抗体及びフラグメント、とりわけラジオイムノコンジュゲートは放射免疫治療において、特に癌治療のための放射標識した抗体として使用される。更なる態様では、放射標識した特異的結合メンバー、特に抗体及びそのフラグメントは放射性免疫誘導手術技術において使用され、癌細胞、前癌細胞、腫瘍細胞及び過剰増殖性細胞を除去するための手術前、その間またはその後に前記細胞の存在及び/または位置を同定し、示し得る。
【0055】
本発明の特異的結合メンバー、特に抗体及びそのフラグメントが他の分子または物質にコンジュゲートまたは結合されている本発明のイムノコンジュゲートまたは抗体融合タンパク質には、更に化学的アブレーション剤、毒素、イムノモジュレーター、サイトカイン、細胞毒性物質、化学療法剤または薬物にコンジュゲートされている結合メンバーが含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
放射免疫療法(RAIT)は、各種の抗体イムノコンジュゲートを用いて臨床段階に入っており、有効性が立証されている。131I標識されているヒト化抗癌胎児性抗原(抗CEA)抗体hMN−14は大腸癌で評価されており(Behr TMら(2002)Cancer,94(4Suppl):1373−81)、90Yで標識した同一抗体は甲状腺髄様癌で評価されている(Stein Rら(2002)Cancer,94(1):51−61)。モノクローナル抗体を用いる放射免疫療法は非ホジキンリンパ腫瘍及び膵臓癌に対して評価され、報告されている(Goldenberg DM(2001)Crit Rev Oncol Hematol,39(l−2):195−201;Gold DVら(2001)Crit Rev Oncol Hematol,39(1−2),147−54)。特定の抗体を用いる放射免疫療法も米国特許第6,306,393号明細書及び同第6,331,175号明細書に記載されている。放射性免疫誘導手術(RIGS)も臨床段階に入っており、効果及び有用性が立証されており、例えば抗CEA抗体及び腫瘍関連抗原に対する抗体が使用されている(Kim JCら(2002)Int J Cancer,97(4):542−7;Schneebaum Sら(2001)World J Surg,25(12):1495−8;Avital Sら(2000)Cancer,89(8):1692−8;McIntosh DGら(1997)Cancer Biother Radiopharm,12(4):287−94)。
【0057】
本発明の抗体は、治療を要する患者に対して適当なルートを介して、通常血流またはCSFに、または直接腫瘍部位に注入することにより投与され得る。正確な量は、抗体が診断用か治療用であるか、腫瘍の大きさ及び場所、抗体の正確な種類(全抗体、フラグメント、二重特異性抗体等かどうか)、抗体に結合させる検出可能なまたは機能性標識の種類を含めた複数の要因に依存する。治療のために放射性核種を使用する場合には、適当な1回用量は最大約45mCi/m〜最大約250mCi/mである。好ましい用量は15〜40mCiの範囲である。更に好ましい用量範囲は20〜30mCiまたは10〜30mCiである。前記治療は骨髄または幹細胞置換を必要とすることがある。腫瘍イメージングまたは腫瘍治療のために典型的な抗体用量は0.5〜40mg、好ましくは1〜4mgのF(ab’)形態の抗体の範囲である。1回投与あたり20〜1000mgタンパク質、20〜500mgのタンパク質、または20〜100mgのタンパク質の用量で裸の抗体を投与することが好ましい。これは、成人患者に対する1回治療あたりの用量であり、幼児及び小児に対しては比例して調節され得、他の抗体フォーマットの場合には分子量に比例しても調節され得る。医師の裁量で治療を毎日、1週間に2回、毎週または毎月の間隔で繰り返してもよい。src阻害剤の用量及び投与は医師または他の当業者により決定され、変更され得る。
【0058】
本発明は以下の非限定的実施例を参照することにより更に理解されるであろう。これらの実施例は本発明の例示として与えられている。以下の実施例は本発明の好ましい実施形態を更に十分に説明するために提示されており、決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0059】
EGFR特異的抗体の有効性はSRCを不活化及び抑制すると高まる
EGFRに対する治療用モノクローナル抗体(mAb)の有効性に影響を及ぼす要因は余り知られていないままであり、特に神経膠腫ではそうである。2つのEGFR特異的mAb(mAb806及び528)の有効性をEGFR変異体を発現するU87MG由来神経膠腫異種移植片に対して調べた。このアプローチを使用すると、遺伝的背景を一定に維持しながらEGFRの形態を変化させることができた。これらの変異体には、神経膠腫で発現されるEGFRの構成的に活性な突然変異であるde2−7 EGFR(または、EGFRvIII)が含まれる。
【0060】
mAbの有効性はEGFR数に相関していたが、最も重要な要因は受容体活性化であった。de2−7 EGFRを発現するU87MG異種移植片は治療に応答したが、デッドキナーゼde2−7 EGFRを示すU87MG異種移植片は難治性であった。キナーゼ活性であったが、自動リン酸化欠乏であった修飾de2−7 EGFRも応答した。このことから、これらのmAbはトランスリン酸化を阻止することによりde2−7 EGFR発現異種移植片において機能することが示唆された。de2−7 EGFR発現U87MG異種移植片はwt EGFRを共発現するので、mAbの有効性を単離状態でde2−7 EGFRを発現したNR6異種移植片に対しても試験した。mAb806はNR6異種移植片に対して抗腫瘍活性を示したが、mAb528治療は有効でなかった。このことから、mAb528はde2−7とwt EGFRの相互作用を壊すことによりその抗腫瘍活性を媒介することが示唆された。
【0061】
最後に、de2−7 EGFRを発現するU87MG異種移植片におけるSrcの遺伝子破壊はmAb806の有効性を劇的に高めた。神経膠腫におけるEGFR特異的抗体の効果的使用は活性化EGFRを有する腫瘍の同定に依存している。EGFRとSrc阻害剤の組合せは神経膠腫の治療に対して新しく有効な戦略を提供する。
【0062】
背景
上皮増殖因子受容体(EGFR)は固有のチロシンキナーゼ活性を有する貫膜糖タンパク質である。EGFRの過剰発現は多くの上皮腫瘍で観察され、しばしば悪い臨床予後に関連している(1〜3)。EGFRの過剰発現はEGFR遺伝子増幅、特に神経膠腫でのEGFR遺伝子増幅により生じ得る(4)。神経膠腫では、遺伝子増幅は、コード配列のエキソン2〜7の範囲の801塩基対のインフレーム欠失を特徴とするde2−7 EGFR(またはEGFRvIII)の最も一般的な突然変異を有するEGFR転位に関連している(4〜6)。この転位により、細胞外ドメインから267アミノ酸が欠失し、融合部位に新しいグリシンが挿入され、合わせてユニークな接合ペプチドが生ずる。de2−7 EGFRは公知のリガンドに結合できないが、受容体は低レベルの構成的活性化を示し、神経膠腫及び乳癌異種移植片の増殖を高めることができる(7、8)。
【0063】
EGFRを抑制することは、新しい癌治療を開発するための合理的な戦略である。考えられる治療には、EGFRに対するモノクローナル抗体(mAb)(例えば、C225、ABX−EGF、EMD 55900)(9〜11)及びEGFRの低分子量チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)(例えば、ZD1839、OSI 774)(12)が含まれる。実際、これらの治療薬の幾つかは肺癌(ZDl 839、イレッサ)及び結腸癌(C225、エルビタックス)の限定的な臨床的使用に対して容認されている。これらの臨床トライアルから、EGFRに対してポジティブなすべての患者がこれらの標的治療に応答するとは限らないことがきわめて明白である(表1)。患者をEGFR治療に対して感受性とする要因を決定することが患者の福祉及び経済の点から重要な目標である。また、EGFR治療に対する耐性の種類を理解すると、前記耐性を解消するためのアプローチを同定する助けとなり得る。
【0064】
【表1】



【0065】
EGFR標的TKIに対して耐性/感受性を引き起こすメカニズムは広く研究されてきたが、抗EGFR抗体の有効性に影響を及ぼす要因は余り知られていないままである(表1参照)。TKIに関する研究から幾つかの一般論が引き出され得る。第一に、TKIによる阻害に対する細胞株の感受性は増えている細胞表面EGFRと相関しており(表1)、このことから阻害在を機能させるにはEGFR発現の若干の固有レベルが必要であることが示唆される。第二に、EGFR不活化後PI3−キナーゼ/Akt経路によりシグナル伝達を持続させる能力によりTKIの有効性が低下する(表1)。これらの研究の大多数はインビトロで実施されており、これらの知見がインビボ設定でも当てはまるかどうかは分からない。最近、多数の研究でイレッサ(ZD1839)で治療した肺癌患者におけるEGFR遺伝子の状態を分析しており、治療に応答した患者は多くの場合キナーゼドメインにおける機能突然変異の増加を有していたことを知見した(表1)。更に、イレッサ耐性を導く二次キナーゼ突然変異も記載されている(表1)。しかしながら、最初の研究から、これらの知見が一般的でなく、肺患者で見られた突然変異は他の腫瘍型では観察されないと示唆される。
【0066】
抗EGFR抗体を用いた限定数の研究から、該抗体に対する感受性に関する一般論を引き出すことは難しい(表1)。インビボ研究がないことに加えて、感受性研究の多くが細胞パネルを用いてなされており、そのため細胞株の間のシグナル伝達経路の変化及び他のErbBファミリーメンバーの存在または不在を仮定すると、EGFR感受性または耐性に関連する単一要因を同定することが困難となる。これらの問題の幾つかを解決するために、我々は中程度レベルの野生型(wt)EGFRを発現するU87MG神経膠腫細胞株の2つのEGFR特異的抗体に対するインビボ感受性を試験した。その後、我々は、受容体の数及び活性化が抗体治療に対する感受性に対してどのような影響を有するかを調べるためにU87MG細胞に各種のwt及びde2−7 EGFR構築物をトランスフェクトさせた。
【0067】
本研究で使用した2つの抗体はmAb806及び528であった。MAb806は、de2−7 EGFRを発現する細胞に対して産生させた新規な抗EGFR特異的抗体である(13)。興味深いことに、mAb806は明らかにde2−7 EGFRに結合するが、受容体を過剰発現する細胞の表面で発現するwt EGFRの部分集合にも結合する(13)。最近の分析から、mAb806エピトープは受容体が不活性状態から活性状態に移動すると一時的に存在するEGFRのコンホメーション形態においてのみ露出していることが判明した(14)。wt EGFRとは異なり、de2−7 EGFRは構成的にこの移行コンホメーション状態にあり、よってmAb806結合のために利用され得る。我々の以前の研究から、de2−7を発現するかまたはwt EGFRを過剰発現する異種移植片をmAb806で治療すると腫瘍増殖が有意に抑制されることが判明している(15〜17)。528抗体はC225抗体(エルビタックス)のマウスバージョンと同時に産生、単離され、非常に類似した特性を示している(18)。MAb528はリガンドアンタゴニストとして作用し、異種移植片として増殖させたときインビトロ及びインビボの両方でEGFR発現細胞の増殖を抑制する(18)。
【0068】
材料及び方法
(細胞株及びモノクローナル抗体)
U87MGトランスフェクト細胞株U87MG.Δ2−7、U87MG.DK、U87MG.wt、U87MG.DY5及びU87MG.DY2は他のところにも詳細に記載されている(16、19)。A431細胞株も既に記載されている(20)。すべての細胞株をDMEM(DMEM/F12;ニューヨーク州グランド・アイランドに所在のLife Technologies,Inc.)、または10% FCS(豪州ビクトリア州メルボルンに所在のCSL)、2mM グルタミン(ミズーリ州セントルイスに所在のSigma Chemical Co.)及びペニシリン/ストレプトマイシン(ニューヨーク州グランド・アイランドに所在のLife Technologies,Inc.)を含有しているRPMIにおいて維持した。加えて、トランスフェクト細胞株を400mg/mlのジェネテシン(豪州ビクトリア州メルボルンに所在のLife Technologies,Inc.)において維持した。
【0069】
mAb806及び528をBiological Production Facility(豪州メルボルンに所在のLudwig Institute for Cancer Research)において作製し、精製した。EGFRの特異的チロシンリン酸化部位に対する抗体及び家兎ポリクローナル抗EGFR抗体はCell Signaling Technology(マサチューセッツ州ダンバースに所在)から入手した。Srcは、マウスモノクローナル抗体v−Src 327(米国カリフォルニア州に所在のOncogene Research Products)またはc−Src H−12(米国カリフォルニア州に所在のSanta Cruz Biotechnology,Inc.)を用いて検出した。ホスホ−Srcを検出するためには家兎ポリクローナル抗体PY418(米国カリフォルニア州に所在のBioSource International,Inc.)を使用した。抗ホスホチロシン抗体4G10はUpstate Biotechnology(ニューヨーク州レイク・プラシッドに所在)から購入した。野生型及び末端切断型EGFRの両方を検出するために使用されるC13はBD Transduction Laboratory(カリフォルニア州サンジェゴに所在)から入手した。
【0070】
(U87MG.Δ2−7DNSrc細胞株の作製)
ドミナントネガティブな(DN)キナーゼデッドSrc構築物(K296R/Y528F)はUpstate Biotechnology(米国ニューヨーク州レイク・プラシッドに所在)から入出した。DNSrcを含有するHind III断片をInvitrogen Life Technologies(カリフォルニア州カールズバッド所在)から入手したpcDNA3.1/Hygro(+)ベクターにサブクローン化し、生じた構築物をエレクトロポレーションによりU87MG.Δ2−7細胞にトランスフェクトした。pcDNA3.1/Hygroベクターのみをトランスフェクトした第二細胞株も作製した。細胞を1mlアリコートで96ウェルプレートにおいて約2×10細胞/ウェルの密度でプレートアウトし、37℃で48時間インキュベートした後、100μg/mlのハイグロマイシン(独国マンハイムに所在のRoche Diagnostics)を添加した。クローンが得られたら(約2週間後)、細胞を400μg/mlのジェネテシン及びハイグロマイシン中に戻した。
【0071】
まず、de2−7 EGFRの発現が保持されているかを確認するために、トランスフェクト細胞をFACS分析によりスクリーニングした。次いで、クローンを全細胞溶解または免疫沈降にかけた後、Src特異的抗体(v−Src 327、c−Src H−12)を用いるウェスタンブロッティングにかけた。全Srcレベル(Srcレベルは元の細胞株では非常に低い)の劇的な上昇を示す数個のクローンを同定し、増大させた。更に、35S標識細胞ライゼートをv−Src 327抗体を用いて免疫沈降させ、生じた沈降物をSDS−PAGE及び定量オートラジオグラフィーにかけることにより、高いSrcレベルを確認した。最高レベルのDNSrcを発現したクローンを選択し、DNSrcはY418位でリン酸化されていることが判明した。これは正しく折りたたまれていることを示唆している。
【0072】
(インビトロ増殖アッセイ)
mAb806及び528のインビトロでの抗増殖作用を既に詳記されているように調べた(18)。簡単に説明すると、細胞を24ウェルプレートにおいて1×10細胞/ウェルで0.5% FCSを含有する培地に接種した。4日後、細胞をトリプシンを用いて除去し、血球計算器を用いてカウントした。抗体を、異種移植片内で得られたものと一致する濃度である100μg/mlの最終濃度で使用した。
【0073】
(異種移植片モデル)
100μlのPBS中の腫瘍細胞(3×10個)を4〜6週齢の雌ヌードマウス(豪州パースに所在のAnimal Research Centre)の両脇腹に皮下接種した。すべての研究を既報(15、16)されているように樹立腫瘍モデルを用いて実施した。腫瘍の平均容積が約100mmに達したら治療を開始した。腫瘍容積(mm)は、式(長さ×幅)/2(ここで、長さは最長の軸であり、幅はその軸に直角な測定値である)を用いて測定した。データは、各治療群について平均腫瘍容積±SEとして表示する。すべてのデータをスチューデントt検定により有意さについて分析する。各研究において、1群あたり最低10個の異種移植片を使用した。
【0074】
(イムノブロッティング)
細胞を冷溶解バッファー(30mM HEPES、150mM NaCl、10mM NaF、1% トリトンX−100、200μM NaOV、0.4% HO、及び500μM AEBSF,150nM アプロチニン,1μM E−64プロテアーゼ阻害剤,0.5mM EDTA及び1μM ロイペプチンを含有するプロテアーゼ阻害剤カクテル組1(pH7.4,カリフォルニア州サンジェゴに所在のCalbiochem)中に溶解させた。ライゼートをmAb806または528を用いて免疫沈降させ、生じた沈降物を我々が詳細に記載しているように(21)イムノブロッティングにより分析した。
【0075】
(免疫蛍光顕微鏡検査)
MAb806及び528を直接Cy3モノクローナル抗体標識キット(英国バッキンガムジャーに所在のAmersham Pharmacia Biotech UK Ltd)を用いて製造業者の使用説明書に従ってシアニン3(Cy3)染料を用いて標識した。U87MG.Δ2−7細胞への結合をフローサイトメトリー分析することにより抗体の標識が成功したかを調べた。初期エンドソーム特異的抗マウス初期エンドソーム自己抗原1(EEAl)モノクローナル抗体はTransduction Laboratories(米国カリフォルニア州サンジェゴに所在)から購入した。Cy2コンジュゲートしたAffiniPure F(ab’)フラグメントロバ抗マウスIgG二次抗体及び非標識AffiniPure Fabフラグメントヤギ抗マウスIgG阻止抗体はJackson ImmunoResearch Laboratories(米国ペンシルバニア州ウェスト・グローブに所在)から購入した。U87MG.Δ2−7またはNR6.Δ2−7細胞を12mmカバーガラスまたは12mm Biocoat Cell Environmentsポリ−D−リシンカバーガラス(米国マサチューセッツ州ベッドフォードに所在のBecton Dickinson labware)上で10% FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン及びグルタメートを補充したMEM(米国ニューヨーク州グランド・アイランドに所在のGibcoBRL)において37℃で増殖させた。細胞に対する抗体結合を0.25% ウシ血清アルブミン(BSA)(米国ミズーリ州セントルイスに所在のSigma Chemical Co.)の存在下で実施した。Cy3−コンジュゲートしたmAb806及び528はそれぞれ5μg/ml及び2μg/mlの濃度で使用し、表面標識は湿潤条件下4℃で20分間実施した。細胞を氷冷0.25% ウシ血清アルブミン(BSA)/PBSで3回洗浄した。個々のカバーガラスを37℃でインキュベートすることにより表面結合抗体の内部移行を開始させた。異なる時間内部移行させた後、個々のカバーガラスを37℃で外し、内部移行を停止させるために氷冷BSA/PBSで3回洗浄し、4% PFAを用いて室温で20分間固定した。次いで、カバーガラスをBSA/PBSで洗浄した後、再蒸留水(DDW)で洗浄し、Fluoromount G封入培地(米国アラバマ州バーミンガムに所在のSouthern Biotechnology)を用いてガラススライド上に載せた。サンプルを適切な波長設定で共焦点顕微鏡(日本国神奈川県に所在のニコンインステック社)を用いて分析した。共局在研究のために、細胞を0.1% トリトンX−100を用いて1分間透明化処理した。次いで、サンプルを洗浄し、すべての存在しているマウス結合部位(すなわち、内部移行したmAb806または528)をブロックするために非標識ヤギ抗マウスFabフラグメントと室温で20分間インキュベートした。次いで、サンプルをBSA/PBSで洗浄した後、抗EEA1と室温で20分間インキュベートした。最後に、細胞を洗浄し、Cy2コンジュゲートした二次ロバ抗マウスF(ab’)抗体フラグメントとインキュベートした。緑色蛍光タンパク質(GFP)−標識したリソソーム糖タンパク質120(lgp−120−GFP)に対するDNAベクターは米国コネチカット州ニュー・ヘイブンに所在のエール医科大学細胞生物学部のIra Mellma教授らから善意で提供された。細胞を、包埋14mmカバーガラスを含むmat−tekガラス底マイクロウェル皿(米国マサチューセッツ州アッシュランドに所在のMatTek Corp.)において増殖させ、LipofectAMINE試薬(豪州ビクトリア州マルグレイヴに所在のInvitrogen(商品名)Life Technologies)を製造業者の使用説明書に従って使用して一晩トランスフェクトさせた。トランスフェクトしてから24時間後に、488nmの波長光で励起したとき緑色蛍光を発するポジティブにトランスフェクトされた細胞の共焦点像を撮影した。
【0076】
結果
(インビトロ及びインビボ感受性の相関関係)
表1に記載されている研究の多くはインビトロで実施されている。mAb及びTKI標的EGFR治療の両方を用いた我々の経験から、インビトロ感受性及びインビボ応答が確実には相関しないことが明らかに立証されている。実際、我々は最近インビトロでEGFR特異的TKI AG 1478に対して類似の感受性を示す2つの細胞株が同一物質に対するインビボ応答の点で顕著な差があった例を発表した(22)。C225について既報されている標準のインビトロ増殖抑制アッセイ及び異種移植片部位で得られる抗体濃度と一致する抗体濃度を用いて、我々はインビトロ及びインビボ抗腫瘍活性の抗体抑制の間に殆ど相関性がないことを知見した(表2)。mAb52も806もインビトロでU87MG.Δ2−7細胞の増殖を抑制しなかったが、これらの抗体は免疫エフェクター機能と非依存性であったインビボでロバストな抗腫瘍活性を示す(図2参照)。また、たとえ1つのEGFR標的抗体が特定細胞株においてインビトロ及びインビボで相関関係を示したとしても(例えば、A431細胞及び異種移植片でのmAb528、表2)、これは別のEGFR特異的抗体が同一細胞株において相関していることを必ずしも暗示しなかった(例えば、A431細胞及び異種移植片におけるmAb806、表2)。この簡単な分析と我々の以前の所見から、EGFR治療に対する感受性を調べる際のインビトロアッセイの限界が明らかとなった。
【0077】
【表2】

【0078】
(各種形態のEGFRを発現するU87MG神経膠腫異種移植片の抗体治療)
中レベルのwt EGFRを発現する親U87MG細胞、或いは追加のwt EGFR、de2−7 EGFRまたはde2−7 EGFRの各種修飾形態(図1)をトランスフェクトした同一細胞をヌードマウスに皮下注入し、腫瘍異種移植片として樹立させた。異種移植片が約100mmに達したら抗体治療を開始した。すべての腫瘍を1mgのmAb528または806を用いて週3回、2週間治療した。この抗体治療の用量及びスケジュールは、我々の標準U87MG.Δ2−7異種移植片モデルで強い抗腫瘍応答を引き出すように選択したが、さほど効率的でなく、EGFRの各種変異体を含む他のU87MG由来細胞株で見られる高い抗腫瘍活性を弱めるであろう。以下に詳細に検討するように、mAb806及び528の抗腫瘍効果はすべてのU87MG由来神経膠腫異種移植片において類似であった(図2)。
【0079】
1.親細胞(U87MG):
中レベルでEGFRを発現する(〜5×10受容体/細胞)という事実があるにもかかわらず(13)、いずれの抗体もU87MG異種移植片の増殖を抑制しなかった。
【0080】
2.wt EGFRを過剰発現する細胞(U87MG.wt):
発現を増加させるために(約1×10受容体/細胞)U87MG細胞にwt EGFRをトランスフェクトしても、異種移植片のインビボ増殖速度は変化しなかったが(図3A)、腫瘍は両抗体に対して感受性となった。このことはmAb806がwt EGFRを過剰発現する細胞に優先的に結合するのでこの抗体では驚くことではないが、mAb528ではやや予期せぬことであった。なぜならば、表現型の不在下で受容体の数が増加しても抗体治療に対する応答が誘発され得ると示唆されるからである。対照群を犠牲にした31日目では、ベヒクル群における異種移植片の平均腫瘍容積が950mmであったのに比してmAb528治療群では450mmであったようにmAb528により誘発される抑制は有意であった(p<0.01)。39日目でのmAb実験の分析から、腫瘍容積がPBS群及びmAb806群のそれぞれで960mm及び470mmであったように抗体治療が異種移植片の増殖を有意に(p<0.001)抑制したことが判明した。
【0081】
3.de2−7 EGFRを発現する細胞(U87MG.Δ2−7):
構成的に活性であるがリガンド非依存性であるde2−7 EGFRをトランスフェクトしたU87MG異種移植片の増殖も両抗体により抑制された(図2)。wt EGFRの過剰発現とは異なり、内因性wt EGFRの存在下でde2−7 EGFRを過剰発現させるとU87MG異種移植片に対する有意な増殖有利性が生じる(図3B)。この受容体の構成的リン酸化をイムノブロッティングにより確認した(図4)。接種後20日目のビヒクル群の平均腫瘍容積が1170mmであったのに比してmAb528群の平均腫瘍容積が510mmであったように、mAb528で治療すると腫瘍増殖が有意に(p<0.005)抑制された。mAb528の主要機能がリガンド拮抗であると推測されたと仮定すると、リガンド非依存性de2−7 EGFRを発現する異種移植片に対するその腫瘍活性は予期せぬことであった。よって、mAb528は多分リガンドをブロックする能力とは異なる他のメカニズムによりEGFRシグナル伝達を破壊するであろう。また、これらの細胞においてde2−7 EGFRを結合するがwt EGFRを結合しないmAb806は、異種移植片を発現するde2−7 EGFRの増殖をmAb528と類似レベルまで抑制したようにリガンド相互作用に対する作用とは無関係に抗腫瘍活性を媒介しなければならない。ビヒクル群を抜粋した21日目では、対照異種移植片は1500mmの平均腫瘍容積を有していたのに比較してmAb806治療群は390mmであり、有意に(p<0.0001)低かった。よって、両抗体はリガンド非依存性であるが構成的に活性な形態のEGFRを発現する神経膠腫異種移植片を抑制し得る。
【0082】
4.de2−7 EGFRのデッドキナーゼバージョンを発現する細胞(U87MG.DK):
de2−7 EGFRのデッドキナーゼ(DK)バージョンをトランスフェクトしたU87MG細胞を異種移植片として親細胞と類似の速度で増殖させ(図3B)、いずれの抗体によっても容易に抑制されなかった(図2)。この受容体はシグナル伝達に関連する主要部位ではリン酸化されないが、受容体内部移行及び分解に関連する部位ではリン酸化されたままである(図4)。これらの細胞への両抗体の結合はインビトロ及びインビボでde2−7 EGFR発現細胞で見られる結合と類似している(16)。更に、de2−7 EGFRのDK変異体は1つの細胞間点突然変異しか含んでいないので、両細胞該ドメインを結合するmAb806及び528のアフィニティーは変化してはならない。この結果から、インビボでこれらの抗体により媒介される免疫エフェクター機能は抗腫瘍応答を開始するには十分でないことが立証される。更に、抗EGFR抗体の抗腫瘍活性は機能的キナーゼドメインを有する受容体を必要とすることが示される。
【0083】
5.自己リン酸化に対する2つの主要部位が欠失しているde2−7 EGFRのバージョンを発現する細胞(U87MG.DY2):
2つの主要自己リン酸化部位(チロシン1068及び1173がフェニルアラニンに変化)で自己リン酸化できないde2−7 EGFR構築物を発現するU87MG異種移植片は、腫瘍異種移植片として増殖させたとき両抗体により有意に抑制された(mAb528及び806のそれぞれについてp<0.01及び0.006)(図2)。これらの所見とU87MG.DK異種移植片に対して見られた活性の欠如とから、自己リン酸化とは反対にキナーゼ活性は抗体治療に対する応答性に相関していることが示唆される。
【0084】
6.自己リン酸化できないde2−7 EGFRのバージョンを発現する細胞(U87MG.DY5):
シグナル伝達に関係する5つの主要自己リン酸化部位(チロシン1173、1148、1086、1068及び992がフェニルアラニンに変化)で自己リン酸化できないde2−7 EGFR構築物を発現するU87MG細胞を腫瘍異種移植片として増殖させた。この受容体はシグナル伝達に関係する主要部位ではリン酸化されないが、受容体内部移行及び分解に関連する部位ではリン酸化されたままである(図4)。DY2異種移植片で得た結果と整合して、両抗体はDY5 de2−7 EGFR構築物を発現する異種移植片の増殖を有意に抑制した(両抗体についてp<0.0001)(図2)。この結果がやや予期せぬことと仮定して、我々はこの実験を両抗体を用いてより低い用量(注射1回あたり0.5mg対1mg)で繰り返し、再び両方の場合で腫瘍増殖が有意に抑制される結果を得た(データ示さず)。de2−7 EGFRのDY5形態は下流シグナル伝達にとって不可欠であるアダプター分子を直接結合し得ないので、これらの分子の相互作用よりもむしろ活性キナーゼドメインがEGFR特異的抗体に対する応答性につながる不可欠な要件であると示唆される。
【0085】
(高レベルのde2−7 EGFRを発現するU87MG異種移植片の治療)
図2中のデータから、異種移植片がEGFRシグナル伝達に対してより依存性となるとEGFR特異的抗体治療に対する応答がより高くなることが示唆される。従って、FACSソーティングを用いて、我々は非常に高レベルでde2−7 EGFRを発現する細胞(U87MG.Δ2−7)を単離した(図5A)。U87MG.Δ2−7異種移植片は元のU87MG.Δ2−7異種移植片よりもより速く増殖した(図5B)。このことから、これらの異種移植片の急速増殖は高レベルのde2−7 EGFRに頼っていることが示唆される。de2−7 EGFR発現のレベルは、異種移植片ライゼートをイムノブロッティングして調べたところインビボで保持されていた(図5C)。mAb806またはmAb528の治療によりU87MG.Δ2−7異種移植片が有意に抑制され、これは他のU87MG由来細胞株について観察されたよりも高かった(図5D)。対照群を倫理的理由で犠牲にした18日目では、ビヒクル群、mAb806及びmAb528群の平均腫瘍容積はそれぞれ1760、90及び90mmであった(p<0.001)。有意には、以前のU87MG由来治療研究では完全な退縮はなかったが(図2)、mAb806治療したU87MG.Δ2−7異種移植片の40%及びmAb528治療したU87MG.Δ2−7異種移植片の20%が完全に退縮した。mAb806腫瘍の1つは接種から46日目に再発したが、他の腫瘍はマウスを犠牲にした126日目まで再発しなかった。よって、EGFRの構成的に活性な形態の過剰発現により誘導される異種移植片はEGFR特異的抗体に対してより感受性である。
【0086】
(樹立NR6由来異種移植片のmAb806及び528治療)
NR6マウス線維芽細胞株はErbBファミリーのメンバーを内因的に発現せず(23)、これは我々がEGFR、ErbB2及びErbB3についてFACSにより確認した所見である(データ示さず)。次いで、これらの細胞にヒトde2−7 EGFR(NR6.Δ2−7)をトランスフェクトした。de2−7 EGFRに対するmAb806及び528の有効性を調べるために使用したU87MG由来細胞株はすべてwt EGFRを共発現するので、我々は樹立NR6.Δ2−7異種移植片を有するマウスにおいて治療有効性を評価した。mAb806治療により、接種から42日目で非常に高かったビヒクルでの治療に比して全腫瘍増殖速度が遅くなった(P<0.003)(図6)。治療最終日(39日目)の平均腫瘍容積はビヒクル治療群及びmAb806治療群のそれぞれで1520及び670mmであった(図6A)。
【0087】
樹立NR6.Δ2−7異種移植片を有するマウスもmAb528で治療した。動物を倫理的理由で殺した接種から56日目では、mAb528で治療した腫瘍のサイズはビヒクル治療した異種移植片の腫瘍のサイズと差がなかった(図6B)。我々は、マウスに抗体を週2回、3週間与えるようにプロトコルを僅かに変更してmAb528を用いて第二の治療実験を実施した。この場合も、mAb528がこれらの条件下で樹立NR6.Δ2−7異種移植片の増殖を抑制できなかった(図6C)。よって、mAb806とは異なり、mAb528はwt EGFRの非存在下でde2−7 EGFRを発現する異種移植片を抑制できない。
【0088】
(Src活性はde2−7 EGFR発現異種移植片の抗体治療に対する応答をモジュレートする)
mAb806及び528はde2−7EGFRのDY5バージョンを発現する異種移植片を抑制し、またいずれの抗体もインビボで単一物質としてde2−7 EGFRリン酸化を低下させないので(16)、これらの抗体はde2−7 EGFRの下流の標的のトランスリン酸化を破壊することにより抗腫瘍活性を媒介するようである。NR6.Δ2−7異種移植片を用いた我々の観察から、mAb528の抗腫瘍活性はErbBファミリーの別のメンバーとの共発現に依存性であり、mAb806活性はこの相互作用と非依存性であることが示唆される。従って、de2−7“EGFR”がwt EGFRの場合のようにSrcと相互作用し得るか、この可能性ある相互作用がmAb806有効性に関連しているかを調べた。
【0089】
wt EGFRを活性化すると、Srcキナーゼが一時的に活性化される。Srcが活性化されると、相乗的に自己リン酸化部位ではなくむしくSrcリン酸化に対する標的であるEGFRのチロシン845(Y845)がリン酸化される(24)。Y845に対して特異的な抗体を用いて、我々はde2−7 EGFRにおけるY845のリン酸化を調べた。U87MG神経膠腫細胞において発現させると、de2−7 EGFRはY845のローバストなリン酸化を示した(図7A)。Y845でのリン酸化は、細胞をSrc−ファミリーキナーゼの阻害剤であるPP1及びPP2とインキュベートすることにより迅速に阻止されるのに対して、Y1173での自己リン酸化部位は殆ど影響されなかった(図7A)。
【0090】
de2−7 EGFRはwt EGFRと同様にSrcキナーゼリン酸化に対する標的であると見られると仮定して、我々はこの相互作用がmAb806 活性にとって重要であったかを調べようとした。まず、我々はY845F置換を含むde2−7 EGFRを構築したが、このタンパク質は複数の部位で少ないリン酸化を示し(Johns、未発表所見)、従ってこれらの研究にとって不適当であると見なされた。そこで、材料及び方法の欄に記載したように、我々はde2−7 EGFR及びDNSrcを共発現するU87MG細胞株(U87MG.Δ2−7DNSrc)を作製した。U87MG.Δ2−7DNSrc異種移植片をヌードマウスにおいて腫瘍異種移植片として増殖させたが、その増殖速度はベクター対照をトラクスフェクトしたU87MG.Δ2−7よりも遅かった(図7B)。U87MG.Δ2−7DNSrcをmAb806で治療すると、腫瘍増殖がローバストに抑制された(図7C)。接種から34日目で、ビヒクル群の平均異種移植片容積は1220mmであったのに対して、mAb806治療群では100mmであった(p<0.001)(図7C)。更に、mAb806治療群では、すべてのU87MG.Δ2−7DNSrc異種移植片の60%が完全に退縮し、接種から50日目まで再発しなかった。よって、Srcシグナル伝達を抑制するとmAb806治療の有効性が高まる(図7C対図2)。
【0091】
(U87MG.Δ2−7細胞におけるmAb806の内部移行)
U87MG.Δ2−7細胞において発現させたde2−7 EGFRへ結合させた後のmAb806の細胞内輸送を共焦点顕微鏡検査により研究した。mAb806−Cy3を4℃でインキュベートした後37℃で追跡する前に、de2−7 EGFRに結合したmAb806を血漿膜に沿って配置した(図8A;0分間,mAb806−Cy3)。37℃でインキュベートした後、小さい点状細胞質小胞へ転移させるためにmAb806を観察した(図8A;mAb806−Cy3)。その後、初期エンドソームを同定する抗初期エンドソーム自己抗原1(EEA1)を用いて免疫染色すると(図8A;EEA1)、黄色蛍光の存在により可視化されるようにmAb806との部分的共局在が示された(図8A;合併)。37℃で60分間追跡したところ、共局在は最小であった(図8A;合併,60分間)。このことから、大部分の抗体が初期エンドサイトーシス区画から移動したことが示唆された。これらの所見は、mAb806は内部移行後直ちに初期エンドサイトーシス区画に局在化し、その後細胞内輸送サイクルにより別の位置に移動することを示している。
【0092】
U87MG.Δ2−7細胞におけるde2−7 EGFRの結合及び内部移行後のmAb806のリソソーム局在化は、lgp−120−GFPを一時的にトランスフェクトした細胞の共局在化分析により実施した(図8B)。lgp−120−GFPをポジティブにトランスフェクトした細胞は、予期されたようにリソソーム区画への局在化に整合する細胞質核周囲緑色蛍光を示した(図8B;lgp−120−GFP)。内部移行を誘導する前、mAb806−Cy3は細胞表面でのみ検出され(図8B;0分間,mAb806−Cy3)、lgp−120−GFPと共局在されなかった(図8B;0分間,合併)。37℃で30分間加温した後、内部移行したmAb806に相当する小さい細胞内小胞構造が観察された(図8B;30分間,mAb806−Cy3)。これらの構造の幾つかはlgp−120−GFPと共局在したが、赤色及び緑色シグナルの大部分は分離したままであった(図8B;30分間,合併)。37℃で長く60分間及び120分間インキュベートすると、内部移行したmAb806−Cy3及びlgp−120−GFPの共局在が増加した(図8B;60〜120分間,合併)。これらの所見は、mAb806がまず初期エンドサイトーシス区画を横断するが、時間が経つとリソソーム区画に移動し、そこで蓄積するとの仮説と一致している。
【0093】
U87MG.Δ2−7細胞で発現したde2−7 EGFRに結合後のmAb806の内部移行も電子顕微鏡検査により分析した。37℃で5分間インキュベートした後、mAb806に相当する金粒子がクラスリン被覆ピットに似た構造で観察された(図9A及びB)。金粒子は細胞質内にある遊離クラスリン被覆小孔でも検出された(図9C)。カベオラに類似している構造では金粒子は観察されなかった(図9D)。37℃で10分間追跡したところ、mAb806は初期エンドサイトーシス区画に似た大きな管状小胞構造に局在していた(図9E)。より長く30分間追跡すると、抗体は多小胞体に似た構造に局在した(図9F)。これらの所見は、mAb806とlgp−120の共局在を30〜60分間示す免疫蛍光顕微鏡検査データと一致している。
【0094】
(NR6Δ2−7細胞におけるMAb806及び528の内部移行)
NR6.Δ2−7異種移植片に対するmAb806及び528の治療有効性の差を仮定すると、各抗体の内部移行特徴をこの細胞株で研究した。更に、NR6.Δ2−7細胞はErbBファミリーの内因性メンバーを発現しないので、wt EGFRの存在が抗体の内部移行のために必要であるかをこの細胞株で調べた。4℃でmAb806−Cy3とインキュベートした細胞は予期されたように細胞内蛍光なしに膜染色を示した(図10;mAb806,0分間)。U87MG.Δ2−7細胞(図8)とは対照的に、膜染色は均一でなかった。より強い染色は細胞間の膜結合(図10;mAb806,0分間)及びフォーカルアドヒージョン(図10;mAb806,0分間)と関連していた。幾つかの細胞では膜染色を殆ど示さなかった(図10;mAb806,0分間)。温度を37℃まで上げることにより内部移行を誘導した後、特徴的な細胞内点状小胞構造が観察された。核周囲パターンの蓄積(図10;mAb528,15〜60分間)は急速なリソソーム局在化と一致している。mAb528の初期局在化(図10;mAb528,0分間)及びその後の内部移行(図10;mAb528,1〜60分間)はmAb806のものと同一であった。よって、両抗体は、wt EGFRの非存在下であってもde2−7 EGFRに結合後迅速にリソソーム区画に内部移行した。
【0095】
考察
(mAb528)
すべてではないが、多くの以前の研究は、細胞表面上のEGFRの数がEGFR標的治療、特にTK1の有効性に影響を及ぼす1つの要因であると示唆している(表1)。しかしながら、これらの実験は常に各種細胞株を用いて抗腫瘍活性を比較しており、よって遺伝的背景、他のErbBファミリーメンバーの存在、及びEGFRシグナル伝達経路をモジュレートし得る他の機能的受容体/キナーゼの存在の点で管理されていない。更に、これらの研究の多くはインビトロで実施されており、我々はインビボ活性と相関していないことを知見した。wt EGFR数が10倍に増加すると、U87MG神経膠腫異種移植片はmAb528耐性から抗体応答性に変化する。wt EGFRの数が増加してもU87MG異種移植片の増殖速度は変化しなかったので、抗腫瘍活性の出現は単に誘導増殖有利性を抑制するmAb528の結果でなかった。U87MG.wtEGFR異種移植片内により多くのwt EGFRが存在すると、ほぼ確実に腫瘍部位での抗体局在化が増加するであろう。mAb528が低いが測定可能な免疫エフェクター機能を有していると仮定すると(25)、腫瘍部位での抗体の高いレベルにより腫瘍増殖の抑制に寄与する補体の高い沈着及び免疫細胞の補充が生じ得る。しかしながら、U87MG.DK異種移植片での我々のデータを仮定すると、mAb528の抗腫瘍活性の開始における免疫エフェクター機能の役割はありそうもないようである。これらの異種移植片はU87MG.wtEGFR異種移植片くらい多くのmAb528結合部位を有しているが、抗体により抑制されない。我々の興味ある可能性は、wt EGFRが過剰発現するとリガンド非依存性EGFRシグナル伝達がもたらされ、親U87MGは強いオートクリン−リガンドループを有していないようである)、これにより細胞はEGFRシグナル伝達系により依存するようになる。よって、U87MG.wtEGFR異種移植片は、親細胞株とは異なりEGFRシグナル伝達経路は活性で機能的であるのでmAb528治療に応答する。従って、wt EGFRの過剰発現はEGFRシグナル伝達に対する細胞依存性の代理マーカーであり、前記細胞はEGFR治療に対して応答する可能性が高いが、保証されない(26)。
【0096】
mAb528のような抗体の抗腫瘍活性は主にEGFRのリガンド活性化を拮抗させる能力により媒介されると推測されてきた。mAb528が有意なリガンド発現の非存在下でU87MG.wtEGFR異種移植片の増殖を抑制したとの仮定から、他のメカニズムが抗腫瘍効果に寄与し得ると示唆される。更に、mAb528はリガンド非依存性de2−7 EGFRを発現する異種移植片に対して有意な有効性を示した。この抗腫瘍活性は、いずれも同一レベルのwt EGFRを発現する親U87MGまたはU87MG.DK異種移植片の増殖を抑制しなかったようにmAb528がこれらの異種移植片で共発現する内因性wt EGFRを結合することから生じ得る。免疫エフェクター機能を除外して、代替抗腫瘍メカニズムは受容体ダウンレギュレーション、不適切なシグナル伝達の誘導、受容体の不適切な膜ドメインへの転位、及び受容体ダイマー化及び/またはオリゴマー化との干渉を含み得る。実際、EGFRに対する幾つかのTKIはキナーゼ活性を阻害することにより機能するだけでなく、予期せぬ抗腫瘍メカニズム(27)である過剰リガンドをモッピングし得る不活性ダイマーを誘導し得る。
【0097】
興味深いことに、C225に対して異なる応答を示す結腸患者におけるEGFR発現を分析する最近の免疫組織化学的研究は、数人のEGFR「ネガティブ」患者はこのEGFR特異的抗体に対して臨床応答を有していたことを報告した(26)。多分、これらの患者のEGFRレベルは、存在するEGFRを活性化し、腫瘍増殖/生存に寄与する組織化学の検出感度以下である。この所見から、単にEGFR発現のレベル以上のものがないならばEGFR活性化が少なくとも重要であることが示唆される。mAb528がこの末端切断型受容体のデッドキナーゼバージョンを発現するU87MG異種移植片(U87MG.DK)の増殖を抑制しなかったことを示す我々のデータから、EGFR特異的抗体の有効性がキナーゼ活性受容体に緊密に関連している所見が裏付けられる。上に示唆されているように、EGFR過剰発現はこの活性化が起こり得る1つのメカニズムに相当する。de2−7 EGFRのような構成的に活性な変異体の発現は別のメカニズムを示している。このようにEGFRが連続的に活性化すると、細胞はEGFRシグナル伝達に対して中毒状態になる。そのために、これらの細胞は抗EGFR治療に対して感受性となる。この考えは、EGFR特異的TKIに応答する多くの患者がEGFRキナーゼドメインに活性化突然変異を有している肺癌患者の状況に類似している(28)。
【0098】
mAb528がU87MG.DY2またはDY5異種移植片の増殖を抑制する能力は、有効性の決定要因としての自己リン酸化とは対照的に活性キナーゼドメインの有意性を強調している。よって、抗体治療に対する応答を決定するのは活性キナーゼであって、リン酸化チロシンのアダプターまたはシグナル伝達分子との直接相互作用ではない。この結果に対する1つの推論は、mAb528は下流標的のトランスリン酸化を防止することによりU87MG.Δ2−7/DY2/DY5異種移植片の増殖を見かけ上抑制することである(図11)。これらすべてのU87MG由来細胞株はwt EGFRを共発現するので、我々が最近de2−7 EGFRがダイマーを形成し、wt EGFRをリン酸化することを立証したとすると(29)、wt EGFRは多分この第二標的に対する候補となるであろう。この説は、wt EGFRの非存在下でde2−7 EGFRを発現するNR6細胞がmAb528の抗腫瘍効果に対して完全に難治性であったという事実により裏付けられる。これらの研究をまとめると、そのリガンド阻止性と合わせて、mAb528は過剰発現したwt EGFRのホモダイマー化及びwtとde2−7 EGFR間のヘテロダイマー化を防止することにより部分的に機能することが示唆される。興味深いことに、EGFRと複合化したC225(mAb528に非常に類似している抗体)の構造から、リガンド阻止とは別にこの抗体はEGFR係留解除を部分的に抑制することによりEGFRダイマー化を防止し得ることが示唆される(30)。
【0099】
(mAb806)
インビボでのU87MG由来細胞株のmAb806に対する応答性はmAb528で観察された応答性を完全に反映しており、幾つかの大きな差はあるが上記原則の多くが当てはまることが指摘される。この研究は、mAb806反応性がEGFR活性化に関連していることを立証している我々の以前の研究(16)を確認し、敷衍させる。mAb528及び臨床評価中のすべての現在の抗体とは異なり、mAb806は、EGFR活性化が肝臓のような臓器において殆どまたは全く検出され得ないように肝臓のような正常組織を標的としない。多くの要因が腫瘍内でEGFR活性化を刺激し得る(検討のために、(31)を参照されたい。)。我々は、これらのうちの少なくとも3つの要因、すなわちEGFR過剰発現(15)、突然変異(17)及びオートクリンループの存在(Johnsら,準備中)がmAb806反応性をもたらし得ることを確認した。mAb806抗腫瘍活性に対するwt EGFR過剰発現の関連性は、過剰発現がEGFRグリコシル化におけるリガンド非依存性活性化及び変化のような複数のメカニズムによりmAb806により認識されるEGFRの一過性の非係留形態を増加させる(21)ようにそのユニークな特異性と均密に関連している。本明細書に記載されている研究及びEGFR特異的TKIで得られた臨床データからEGFR阻害剤が活性化EGFRを有する腫瘍に対して殆ど有効であることが示唆されると仮定すると、mAb806がEGFRの活性化形態を特異的に認識するユニークな能力によりmAb806は有利な治療薬となる
分子モデリングから、mAb806結合が活性wt EGFRダイマーの形成を予防することが示唆され(14)、この仮説についてエピトープと複合しているmAb806の結晶構造を解決することにより我々は確認した(Johnsら,準備中)。このmAb806は異種移植片モデルにおいてde2−7またはwt EGFRのリン酸化を有意に抑制しないにもかかわらず(16)、mAb806に対する作用の提案されているメカニズムには自己リン酸化の阻止以上を含むことが強く示唆される。更に、EGFRシグナル伝達の公知の下流標的(例えば、Akt及びMAPK)はmAb806によっても抑制されない(T.G.Johns,未発表の所見)。この仮定と一致して、mAb806は自己リン酸化が関連しない2つのモデルであるU87MG.DY2/DY5異種移植片に対してローバストな抗腫瘍活性を示した。mAb806がU87MG.DK異種移植片に対して有効でないことから、活性キナーゼの存在及びトランスリン酸化事象の存在(図11)は感受性をもたらす重要な要因であることが強調される。mAb528とは対照的に、mAb806は他のErbBファミリーメンバーの非存在下でde2−7 EGFRを発現するNR6細胞の増殖を抑制し得た。この結果は、mAb806はwt EGFRとは異なりde2−7 EGFRトランスリン酸化の他の標的を潜在的に破壊することを示している。興味深いことに、NR6細胞において表面de2−7 EGFRへmAb806及び528を結合させた後の各抗体の内部移行及び細胞内輸送に明らかな差はなかった。このことから、抗体輸送がこの異種移植片モデルでの有効性の差に寄与しないことが示唆される。
【0100】
我々はここで初めて、Y845がSrc依存的にde2−7 EGFRでリン酸化されることを報告している。よつて、我々はde2−7 EGFRとSrcの相互作用がmAb806活性の潜在的標的であったかどうかを試験した。mAb806がこの相互作用を抑制することによりその抗腫瘍活性の一部を媒介したならば、この相互作用をDNSrcを用いて遺伝的に破壊するとmAb806の有効性は低下せざるを得ない。この可能性とは対照的に、DNSrcの存在によりmAb806の抗腫瘍活性が劇的に強化された。このことから、SrcがEGFR治療の有効性を制限する役割を有しており、SrcとEGFR阻害剤の併用が合理的であることが示唆される。
【0101】
結論
これらの研究から、EGFR治療に対する細胞株の感受性を分析するためのインビボ研究の関連性が立証された。従来の研究とは異なり、我々は我々の分析の殆どを同一遺伝的背景で実施し、主要な変数をEGFRの種類とすることができた。このアプローチを用いて、我々は最終的に有効性に対する受容体数の有意差を示した。EGFR数はEGFR治療感受性に関連しているが、この要因単独は受容体が機能キナーゼを含有する必要があるので十分でない。実際、やや直観的であるが、この研究は、EGFRシグナル伝達を使用するためにwt EGFRの過剰発現または構成的に活性な変異体の発現により細胞株を強制すると、非応答性から応答性にスイッチされ得ることを形式的に示している。よって、EGFRは細胞表面上に存在しているだけでなく、細胞の増殖及び生存に有意に関与しなければならない。従って、EGFR治療に応答する患者を選択するための戦略は単に受容体タンパク質の存在の有無だけでなく腫瘍がEGFRに対してかなり依存しているかを同定するように向けられなければならない。この仕事は、de2−7 EGFR、EGFR遺伝子増幅またはキナーゼ活性化変異遺体が存在するような幾つかの場合には比較的進展しているが、wt EGFRが遺伝的に正常である場合には明らかにより難しい。これらの場合、複数の受容体キナーゼの複雑な相互作用により真にEGFRシグナル伝達に依存している腫瘍を同定することが難しくなる。長い間、各受容体キナーゼにユニークなこれから同定されるであろう標的遺伝子の詳細な発現プロフィールがこの問題を解決するための唯一の実行可能なアプローチであり得る。
【0102】
【表3】






【実施例2】
【0103】
Src阻害剤ダサチニブ及びmAb806治療の動物治療研究
抗EGFR抗体mAb806の単独またはsrc阻害剤ダサチニブとの組合せのインビボ効果を評価するために動物治療研究を実施した。8週齢の雌Balb/C nu nuマウスに(1腫瘍部位あたり)1×10個のU87MG.Δ2−7SRC細胞を皮下注入した。U87MG.Δ2−7SRC細胞は活性化Src(Y529F突然変異)及びΔ2−7変異EGFRを発現する。右脇腹及び左脇腹の各々に前記細胞を注入することによりマウス1匹あたり2つの腫瘍を発生させた。平均腫瘍サイズが約80mmに達したときに治療を開始した。1群あたり4〜5匹のマウスで構成する4治療群のマウスを3回/週、2週間治療した。治療群は、(1)対照−l00μlの希釈剤4% DMSO/dHO;(2)ダサチニブ−希釈剤中に溶解させた10mg/kgの薬物;(3)mAb806−lmg;(4)mAb806 lmg及びダサチニブ 10mg/kgであった。
【0104】
(抗体)
Srcをマウスモノクローナル抗体v−Src 327(米国カリフォルニア州に所在のOncogene Research Products)またはc−Src H−12(米国カリフォルニア州に所在のSanta Cruz Biotechnology,Inc.)を用いて検出した。ホスホ−Srcを検出するためには家兎ポリクローナル抗体PY418(米国カリフォルニア州に所在のBioSource International,Inc.)を使用した。
【0105】
(U87MG.Δ2−7src細胞株の構築)
活性化Src構築物(Y529F突然変異)はUpstate Technologies(米国ニューヨーク州レイク・プラシッドに所在)から入手した。活性化Src c−DNAを含むPmel断片をInvitrogen Life Technologies(カリフォルニア州カールスバッドに所在)から入手したpcDNA3.1/Hygro(+)ベクターにサブクローン化した後、エレクトロポレーションによりU87MG.Δ2−7をトランスフェクトした。細胞を1mlアリコートで96ウェルプレートにおいて約2×10細胞/ウェルの細胞密度でプレートアウトし、37℃で48時間インキュベートした後、100μg/mlのハイグロマイシン(独国マンハイムに所在のRoche Diagnostics)及び400μg/mlのジェネテシン(カリフォルニア州カールスバッドに所在のInvitrogen Life Technologies)を添加した。
【0106】
まず、トランスフェント細胞をFACS分析によりスクリーニングして、de2−7 EGFRの発現が保持されているかを確認した。次いで、クローンを全細胞溶解または免疫沈降にかけた後、Src特異的抗体(v−Src 327、PY418)を用いるウェスタンブロッティングにかけた。全Src及びリン酸化Srcのレベル(Srcレベルは元の細胞株では非常に低い)の劇的な増加を示した数個のクローンを同定し、増大させた。
【0107】
(異種移植片モデル)
8週齢の雌ヌードマウス(豪州パースに所在のAnimal Research Centre)の両脇腹に100μlのPBS中の腫瘍細胞(1×10個)を皮下接種した。すべての研究を上記したような樹立腫瘍モデルを用いて実施した。腫瘍の平均容積が約80mmに達したら治療を開始した。腫瘍容積(mm)は、式(長さ×幅)/2(ここで、長さは最長の軸であり、幅はその軸に直角な測定値である)を用いて求めた。データは、各治療群について平均腫瘍容積±SEとして表示する(図12)。すべてのデータをスチューデントt検定により有意さについて分析する。データをカプラン−マイヤ−生存曲線に変換し、瀕死の、すなわち>1500mmの腫瘍容積のデュアルエンドポイントを用いるウィルコクソン分析により分析した(図13)。
【0108】
33日目で、mAb806とダサチニブの組合せで治療した群の腫瘍増殖はmAb806単独で治療した群よりも有意に小さかった(p<0.0076)(図12)。腫瘍増殖実験のデータをカプラン−マイヤ−生存曲線に変換し、瀕死の、すなわち>1500mmの腫瘍容積のデュアルエンドポイントを用いるウィルコクソン分析により分析した(図13)。mAb806とダサチニブの組合せで治療した群はすべての他の群よりも長く生存した(ログランクp<0.0001)。
【0109】
本発明を本発明の趣旨または必須要件から逸脱することなく他の形態で具体化しても、または他の方法で実施してもよい。従って、本明細書の開示内容は、すべての点で例示され、限定的でないと見なされ、本発明の範囲は添付の請求の範囲により記載され、均等の意味及び範囲に入るすべての変化が本発明に包含されると意図される。
【0110】
本明細書を通じていろいろな文献が引用されており、各引用文献の全文は参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を同時に、組み合わせて、または順々に連続して投与することを含む前記哺乳動物における癌の治療方法。
【請求項2】
抗EGFR抗体は腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
src阻害剤はダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
src阻害剤はダサチニブであり、抗EGFR抗体はmAb806である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
癌は神経膠芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化器癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、尿生殖器癌、膀胱癌、結腸癌、メラノーマ、胃癌、膵臓癌、脳腫瘍及び血液癌から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物に対してsrc阻害剤及び抗EGFR抗体を同時に、組み合わせて、または順々に連続して投与することを含む前記哺乳動物におけるEGFR媒介性癌の腫瘍増殖の阻止または縮小方法。
【請求項8】
抗EGFR抗体は腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
src阻害剤はダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項11】
阻害剤はダサチニブであり、抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである請求項7に記載の方法。
【請求項12】
EGFR媒介性癌は神経膠芽腫、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、神経系の癌、消化器癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、尿生殖器癌及び膀胱癌から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物に対して抗EGFR抗体とsrc阻害剤の組合せを投与することを含む前記哺乳動物における抗EGFR抗体の有効性または活性の増強方法。
【請求項14】
src阻害剤はダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗EGFR抗体は腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である請求項13に記載の方法。
【請求項16】
抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗EGFR抗体及び1つ以上のsrc阻害剤を医薬的に許容され得る担体または希釈剤中に含む医薬組成物。
【請求項18】
抗EGFR抗体は腫瘍原性、過剰増殖性または異常細胞中に見られるが、正常細胞では検出され得ないEGFRエピトープを認識する抗体である請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
抗EGFR抗体はmAb806またはその活性フラグメントである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
src阻害剤はダサチニブ(BMS354825)、AZD−0530、SKI−606、PP1(4−アミノ−5−(4−メチルフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)、PP2(4−クロロフェニル)−7−(t−ブチル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミジン)及びPD166326から選択される請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
阻害剤はチロシンキナーゼ阻害剤である請求項17に記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−521468(P2010−521468A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553634(P2009−553634)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/003369
【国際公開番号】WO2008/115404
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(500025570)ルードヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ (16)
【Fターム(参考)】