説明

F級増幅回路

【課題】増幅素子(FET)の出力容量が無視できない高周波でも高効率のF級増幅回路。
【解決手段】入力信号基本角周波数ωo及び高調波成分を含む信号を出力するFET10と、FETの出力端子NOFと接地端子を接続する第1のリアクタンス二端子回路12と、FETの出力端子NOF側に配置される基本波整合回路16と、基本波整合回路の入力端子とFETの出力端子間に接続される第2のリアクタンス二端子回路14と、基本波整合回路の出力端子と接地端子を接続する負荷22とを備え、FETの出力インピーダンスを出力抵抗Roと出力容量Coからなる並列回路とし、第1のリアクタンス二端子回路12は、直流成分に対して開放、偶数高調波成分に対して短絡、奇数高調波成分に対してFETの出力容量Coと並列共振し、第2のリアクタンス二端子回路は直流成分に対して短絡、奇数高調波数成分に対して開放となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、F級増幅回路に関し、増幅素子から負荷を見込んだインピーダンスを基本波に対しては整合、偶数調波に対しては短絡、奇数調波に対しては開放とするF級動作高周波半導体素子のF級増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)やヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:Hetero-junction Bipolar Transistor)などの高周波動作可能なトランジスタが実用化されている。これらの素子によれば、50〜60GHz帯の動作周波数を実現することができる。
【0003】
これらの素子においては、利得を向上させるために、高調波を積極的に利用することがある。この場合、高調波による電力消費を抑えることが、電力効率を向上させるために望ましい。
【0004】
このような目的のために、いわゆるF級増幅回路が使用される。F級増幅回路の原理は瞬時電圧波形と瞬時電流波形が如何なる時刻においても重ならないようにすることである。
【0005】
このためには、トランジスタの出力端子から負荷側を見込んだインピーダンスを、偶数次高調波に対して短絡、奇数次高調波に対して開放とすることが必要である。これにより、トランジスタ出力端子における電流は基本波と偶数次高調波のみの周波数成分とし、同電圧は基本波と奇数次高調波成分のみの周波数成分とすることができ、高調波による電力損失が無くなる。このとき基本波の電流と電圧の位相が完全逆相であれば、100%の効率で直流電力をマイクロ波電力に変換可能である。
【0006】
高周波電力増幅器を高効率にするために、増幅素子から負荷を見込んだインピーダンスを基本波に対して整合するだけでなく、偶数調波に対して短絡、奇数調波に対して開放とする高調波処理回路を備えることを特徴とするF級増幅回路は特許文献1および特許文献2に開示されている(例えば、特許文献1および特許文献1参照。)。
【0007】
例えば、増幅素子を電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)として、外囲器のRF出力端子からドレインにDCバイアスVddを供給する内部整合型FETの場合において、特許文献1に開示されているように、分布定数回路で構成される高調波処理回路を内蔵すると、分布定数回路の面積が大きくなるため、外囲器の面積も大きくなる。
【0008】
また、特許文献2に開示されているように、集中定数回路で構成する小型な高調波処理回路はDC的に開放で、高調波処理回路とは別経路のチョークコイルを介してFETのドレインに直接DCバイアスを供給する方式であるため、RF出力端子からDCバイアスを供給する高出力内部整合型FETには使用することはできない。
【0009】
そして、両者共にFETのドレインから負荷を見込んだインピーダンスを奇数次高調波で開放にしているので、FETの出力容量が無視できる周波数ではF級動作となるが、FETの出力容量が無視できない高周波ではF級動作から外れてしまう。
【特許文献1】特開2001−111362号公報
【特許文献2】特開2005−117200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、RF出力端子からDCバイアスを供給でき、小型化でき、FETの出力容量が無視できない高周波でもF級動作可能な高効率のF級増幅回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の請求項1に記載のF級増幅回路は、入力信号の角周波数ωoの成分およびその高調波成分を含む出力信号を出力する増幅素子と、前記増幅素子の出力端子と接地端子を接続する第1のリアクタンス回路と、前記増幅素子の前記出力端子側に配置される基本波整合回路と、前記基本波整合回路の入力端子と前記増幅素子の前記出力端子間に接続される第2のリアクタンス回路と、前記基本波整合回路の出力端子と前記接地端子を接続する負荷とを備え、前記増幅素子の出力インピーダンスを出力抵抗と出力容量からなる並列回路のインピーダンスとし、前記第1のリアクタンス回路は、直流成分に対して開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωo(ただし、nは1以上の自然数)成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して前記増幅素子の出力容量と並列共振し、前記第2のリアクタンス回路は直流成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して開放となることを特徴とし、第1のリアクタンス回路と第2のリアクタンス回路をインダクタとキャパシタからなる集中定数回路で構成する。特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のF級増幅回路によれば、RF出力端子からDCバイアスを供給でき、小型化でき、FETの出力容量が無視できない高周波でもF級動作可能であり、高効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0014】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器の模式的回路構成図を示し、図2は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器の模式的等価回路接続構成図を示す。
【0016】
本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器は、図1乃至図2に示すように、入力信号の角周波数ωoの成分およびその高調波成分を含む出力信号を出力する増幅素子(FET)10と、FET10の出力端子NOFと接地端子を接続する第1のリアクタンス二端子回路12と、高周波(RF)出力端子NORFに接続される基本波整合回路16と、FET10の出力端子NOFとRF出力端子NORF間に直列接続され、FET10出力端子NOFと基本波整合回路16の入力端子を接続する第2のリアクタンス二端子回路14と、基本波整合回路16の出力端子と接地端子を接続する負荷22とを備える。
【0017】
FET10の出力インピーダンスを出力抵抗ROと出力容量COからなる並列回路のインピーダンスとし、第1のリアクタンス二端子回路12は、直流成分に対して開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωo(ただし、nは1以上の自然数)成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対してFET10の出力容量COと並列共振し、第2のリアクタンス二端子回路14は直流成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して開放となることを特徴とする。
【0018】
FET10のドレインをFET10の出力端子NOFとし、ドレインと接地端子を第1のリアクタンス二端子回路12で接続し、ドレインと基本波整合回路16の入力端子を第2のリアクタンス二端子回路14で接続する。そして、基本波整合回路16の出力端子をRF出力端子NORFとし、RF出力端子NORF と負荷22の間にバイアス回路用のチョークコイル18とDCカットコンデンサ20を挿入する。なお、基本波整合回路16の少なくても一部を負荷に移しても良い。
【0019】
FET10の出力インピーダンスを出力抵抗ROと出力容量COからなる並列回路のインピーダンスとした図2において、第1のリアクタンス二端子回路12と出力容量Coを並列接続した回路のアドミッタンスをYp(s)とすると、Yp(s)はDCで開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωoで短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωoで開放となるので、
【数1】

となる。ただし、nは1以上の自然数である。
【0020】
高出力のFET10の出力インピーダンス{1/(1/Ro+jωoCo)}は負荷22より低インピーダンスとなるので、出力容量Coが大きいと基本波の角周波数ωoの整合の帯域幅が狭くなる。そこで、それ以上に帯域幅を狭くしない様に、アドミッタンスYp(s)を部分分数展開した。
【数2】

において、
【数3】

とする。なお、(2)式の右辺第二項のYp1(s)は第1のリアクタンス二端子回路12のアドミッタンスである。この第1のリアクタンス二端子回路12は奇数高調波でFET10の出力容量Coと並列共振するので、FET10の出力抵抗Roから負荷22側を見込んだインピーダンスを奇数高調波で開放にできる。従って、FET10の出力容量Coが無視できない高周波でもF級動作にできる。
【0021】
一方、第2のリアクタンス二端子回路14のインピーダンスをZs(s)とすると、DCで短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωoで開放である。フォスターのリアクタンス定理からZs(s)は3ωoと5ωoの間、5ωoと7ωo、・・・、(2n−1)ωoと(2n+1)ωoの間で短絡となる。その短絡となる周波数は任意に設定できるが、開放となる角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωoの高域と低域の対称性が良い請求項8の場合はnが1の時はDCだけで短絡、nが2の時はDCと角周波数4ωoで短絡、nの時はDC、角周波数4ωo、6ωo、・・・、2nωoで短絡となるので、
【数4】

となる。
【0022】
このHsはCoとは独立に設定でき、Hsを大きくすると3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωoで開放となる帯域幅が狭くなる。高出力のFET10の出力インピーダンスは負荷22より低インピーダンスなので、基本波整合回路16でインピーダンスを昇圧する必要がある。この基本波整合回路16として、FET10のドレインに直列のLを接続する方式を使えば、RF出力端子NORFからDCバイアスを供給できる。そして、基本波の角周波数ωoで第2のリアクタンス二端子回路14のインピーダンスZs(ωo)は誘導性なので、第2のリアクタンス二端子回路14は基本波整合回路16の一部として働く。尚、DCやωoで短絡になる回路よりこの回路の方が小型化できる。
【0023】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の回路構成図であって、第1のリアクタンス二端子回路12のアドミッタンスYp1(s)を部分分数展開した場合の接続図である。
【0024】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表1に示す。2ωoと4ωoを短絡し3ωoと5ωoを開放にするn=2の場合の方が、2ωoを短絡し3ωoを開放にするn=1の場合より高効率にできるが、n=2の場合は、n=1に対してインダクタンスの合計Σ(Lpip)が約1.5倍、キャパシタンスの合計Σ(Cpip)が約2倍になるので高調波処理回路は大きくなる。なお、nが3以上の場合でも同様に部分分数展開できる。
【表1】

表1 第1のリアクタンス二端子回路のYp1(s)の部分分数展開
【0025】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の別の回路構成図であって、第1のリアクタンス二端子回路12のインピーダンスZp1(s)=1/Yp1(s)を部分分数展開した場合の接続図である。
【0026】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表2に示す。n=1の場合は表1と同じである。n=2の場合はn=1の場合に対してインダクタンスの合計Σ(Lpis)が約0.4倍、キャパシタンスの合計Σ(Cpis)が約6倍になるので、例えばインダクタの大きさが支配的な場合には高効率なn=2の場合の方が高調波処理回路を小さくできる。なお、nが3以上の場合でも同様に部分分数展開できる。
【表2】

表2 第1のリアクタンス二端子回路のZp1(s)の部分分数展開
【0027】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の更に別の回路構成図であって、第1のリアクタンス二端子回路のインピーダンスZp1(s)=1/Yp1(s)を連分数展開した場合の接続図である。
【0028】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表3に示す。n=1の場合は表1や表2と同じである。2ωoと4ωoを短絡し3ωoと5ωoを開放にするn=2の場合の方が、2ωoを短絡し3ωoを開放にするn=1の場合よりも高効率にできるが、n=2の場合はn=1に対してインダクタンスの合計Σ(Lpil)が約1.1倍、キャパシタンスの合計Σ(Cpil)が約2倍になるので高調波処理回路は大きくなる。なお、nが3以上の場合でも同様に連分数展開できる。
【表3】

表3 第1のリアクタンス二端子回路のZp1(s)の連分数展開
【0029】
第1のリアクタンス二端子回路12のn=2の場合のΣ(Lpij)とΣ(Cpij)を表4に纏める(i=1,2、j=p,s,l)。インダクタンスΣ(Lpij)の値は、表2のZp1(s)の部分分数展開の場合の方が小さい。一方、キャパシタンスΣ(Cpij)の値は、表1のYp1(s)の部分分数展開や表3のZp1(s)の連分数展開の場合の方が小さい。
【表4】

表4 第1のリアクタンス二端子回路の比較(n=2)
【0030】
図6は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の回路構成図であって、第2のリアクタンス二端子回路のアドミッタンスYs(s)=1/Zs(s)を部分分数展開した場合の接続図である。
【0031】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表5に示す。2ωoと4ωoを短絡し3ωoと5ωoを開放にするn=2の場合の方が2ωoを短絡し3ωoを開放にするn=1の場合よりも高効率にすることができる。一方、n=2はn=1に対してインダクタンスの合計Σ(Lsip)が約3倍、キャパシタンスの合計Σ(Csip)が約1.3倍になるので高調波処理回路は大きくなる。なお、nが3以上の場合でも同様に部分分数展開できる。
【表5】

表5 第2のリアクタンス二端子回路のYs(s)の部分分数展開
【0032】
図7は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の別の回路構成図であって、第2のリアクタンス二端子回路のインピーダンスZs(s)を部分分数展開した場合の接続図である。
【0033】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表6に示す。n=1の場合は表5と同じである。n=2の場合は、n=1の場合に対してインダクタンスの合計Σ(Lsis)が約0.6倍、キャパシタンスの合計Σ(Csis)が約4倍になるので、例えばインダクタの大きさが支配的な場合には高効率なn=2の場合の方が高調波処理回路を小さくできる。なお、nが3以上の場合でも同様に部分分数展開できる。
【表6】

表6 第2のリアクタンス二端子回路のZs(s)の部分分数展開
【0034】
図8は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の更に別の回路構成図であって、第2のリアクタンス二端子回路14のアドミッタンスYs(s)=1/Zs(s)を連分数展開した場合の接続図である。
【0035】
高周波で実用的なn=1,2の場合の各インダクタンスとキャパシタンスを表7に示す。n=1の場合は表5や表6と同じである。n=2の場合はn=1の場合に対してインダクタンスの合計Σ(Lsil)が約0.6倍、キャパシタンスの合計Σ(Csil)が約6倍になるので、例えばインダクタの大きさが支配的な場合には高効率なn=2の場合の方が高調波処理回路を小さくできる。なお、nが3以上の場合でも同様に連分数展開できる。
【表7】

表7 第2のリアクタンス二端子回路のYs(s)の連分数展開
【0036】
第2のリアクタンス二端子回路14のn=2のΣ(Lsij)とΣ(Csij)を表8に纏める(i=1,2、j=p,s,l)。インダクタンスΣ(Lsij)の値は、表6のZs(s)の部分分数展開や表7のYs(s)の連分数展開の方が小さい。一方、キャパシタンスΣ(Csij)は表5のYs(s)の部分分数展開の方が小さい。
【表8】

表8 第2のリアクタンス二端子回路の比較(n=2)
【0037】
図9は、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器を実装した、高出力内部整合型FETの模式的回路パターン構成例を示す。
【0038】
入力部は、図9に示すように、RF入力端子NIRFに接続され,ゲート電圧Vggが供給されるマイクロストリップ線路38と、周辺に配置される入力側外部回路40とを備え、マイクロストリップ線路38は、外囲器リード48を介してFET部に接続されている。
【0039】
FET部は、図9に示すように、外囲器26に囲まれており、マイクロストリップ線路38に接続された入力ゲート側基本波整合回路42と、入力ゲート側基本波整合回路42とボンディングワイヤ(BW)28を介してゲート電極が接続されたFET10と、FET10のドレイン電極に接続された高調波処理回路32と、高調波処理回路32と接続された出力ドレイン側基本波整合回路44とを備え、出力ドレイン側基本波整合回路44は、RF出力端子NORFに接続されている。
【0040】
出力部は、図9に示すように、RF出力端子NORFに接続されたマイクロストリップ線路に対して、DCバイアスVddが供給され、DCバイアスVddが供給されたマイクロストリップ線路からは、DCカットコンデンサ20を介してRF出力電圧VORFが出力される。また、DCバイアスVddが供給されたマイクロストリップ線路には、パスコンデンサ34が接続されている。
【0041】
図9の高出力内部整合型FETの例では、高調波処理回路32をFET10のチップ上に一体化しているが、寄生リアクタンスが問題にならなければ、高調波処理回路32を別基板に構成しても良い。また、インダクタとキャパシタの個別部品を組み合わせて構成しても良い。
【0042】
しかし、高周波で高出力になり、キャパシタの耐圧やインダクタの電流容量の点から高調波処理回路32を波長に比べて十分小さくできず、インダクタの寄生キャパシタンスやキャパシタの寄生インダクタンスが無視できない場合には、少なくとも高調波処理回路32の部分をFET10のチップと一体化してモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC:Monolithic Microwave Integrated Circuit)とするか、または、回路のQ値が高いMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使うことが有効である。
【0043】
例えば、n=2の場合の第1のリアクタンス二端子回路12に関して、MMICのビアホールの接地インダクタンスが無視できない場合、図4や図5に示す回路構成ではビアホールの接地インダクタンスをLp1sやLp1lに含めれば、ビアホールは1個で済むが、図3に示す回路構成ではビアホールの接地インダクタンスを別々のLp1p、Lp2pに含めなければならないので、2個のビアホールが必要になる。
【0044】
一方、マイクロチップコンデンサを接地面にマウントする場合は、接地インダクタンスの問題はない。また、図4や図5の回路構成ではドレインに接続する配線パターンをLp1sやLp1lの1本にできるが、図3の回路構成ではCpip(i=1,2)を介しても介さなくても、Lp1p、Lp2pの2本必要となるのでレイアウトの難易度が高くなる。
この様に、n=2の場合、第1のリアクタンス二端子回路12で3種類(図3〜図5)と第2のリアクタンス二端子回路14で3種類(図6〜図8)の合計9種類の組合せが可能となるので、インダクタやキャパシタの種類、サイズ、寄生リアクタンス、レイアウトなどを考慮して最適な回路を選定すれば良い。
【0045】
本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅回路に適用されるFETは接合型FET、ショットキーゲート型FET、MIS(Metal Insulator Semiconductor)型であっても良い。
【0046】
なお、増幅素子はFETに限らず、HEMTやLDMOS(Lateral Doped Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)やHBTなど他の増幅素子にも適用できることは言うまでもない。
【0047】
さらに、FETを構成する材料としては、シリコンに限定されるものではなく、GaN、InP、SiGe、SiC、GaAs、ダイヤモンドであってもよい。また、HBTとしては、例えば、GaAlN/GaN系などを適用することができる。
【0048】
本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅回路によれば、RF出力端子からDCバイアスを供給でき、小型化でき、FETの出力容量が無視できない高周波でもF級動作可能であり、高効率化を図ることができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
図10は、本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器の模式的回路構成図を示す。
【0050】
図10に示すように、2個のFET10a,10bを逆相で動作させてバラン50で電力合成するプッシュプル増幅器の場合、基本波整合回路の少なくとも一部を基本波整合回路17a,17bのように、接地端子を接地から浮かして2個のFET10a,10b間で接続しても良い。
【0051】
本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器は、図10に示すように、入力信号の角周波数ωoの成分およびその高調波成分を含む出力信号を出力する同相側のFET10aと、FET10aの出力端子NOF+と接地端子を接続する同相側の第1のリアクタンス二端子回路12aと、RF出力端子NORF+に接続される同相側の基本波整合回路17aと、FET10aの出力端子NOF+とRF出力端子NORF+間に直列接続され、FET10a出力端子NOF+と基本波整合回路17aの入力端子を接続する同相側の第2のリアクタンス二端子回路14aおよび基本波整合回路16aとを備える。
【0052】
さらに、本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器は、図10に示すように、入力信号の角周波数ωoの成分およびその高調波成分を含む出力信号を出力する逆相側のFET10bと、FET10bの出力端子NOF-と接地端子を接続する逆相側の第1のリアクタンス二端子回路12bと、RF出力端子NORF-に接続される逆相側の基本波整合回路17bと、FET10aの出力端子NOF-とRF出力端子NORF-間に直列接続され、FET10bの出力端子NOF-と基本波整合回路17bの入力端子を接続する逆相側の第2のリアクタンス二端子回路14bおよび基本波整合回路16bとを備える。
【0053】
基本波整合回路17a,17bの出力端子はそれぞれRF出力端子NORF+,RF出力端子NORF-に接続される。RF出力端子NORF+,およびRF出力端子NORF-は、それぞれDCカットコンデンサ20a,20bを介して、バラン50に接続されており、バラン50の出力端子と接地端子間の負荷22から、プッシュプル増幅器の出力信号が得られる。
【0054】
FET10aの出力インピーダンスを出力抵抗ROと出力容量COからなる並列回路のインピーダンスとし、第1のリアクタンス二端子回路12aは、直流成分に対して開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωo(ただし、nは1以上の自然数)成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対してFET10aの出力容量COと並列共振し、第2のリアクタンス二端子回路14aは直流成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して開放となることを特徴とする。
【0055】
同様に、FET10bの出力インピーダンスを出力抵抗ROと出力容量COからなる並列回路のインピーダンスとし、第1のリアクタンス二端子回路12bは、直流成分に対して開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωo(ただし、nは1以上の自然数)成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対してFET10bの出力容量COと並列共振し、第2のリアクタンス二端子回路14bは直流成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して開放となることを特徴とする。
【0056】
FET10aのドレインをFET10aの出力端子NOF+とし、ドレインと接地端子を第1のリアクタンス二端子回路12aで接続し、ドレインと基本波整合回路16aの入力端子を第2のリアクタンス二端子回路14aで接続する。そして、基本波整合回路17aの出力端子をRF出力端子NORF+とし、RF出力端子NORF+ と負荷22の間に、バラン50を介して、バイアス回路用のチョークコイル18aとDCカットコンデンサ20aを挿入する。なお、基本波整合回路17aの少なくても一部を負荷に移しても良い。
【0057】
同様に、FET10bのドレインをFET10bの出力端子NOF-とし、ドレインと接地端子を第1のリアクタンス二端子回路12bで接続し、ドレインと基本波整合回路16bの入力端子を第2のリアクタンス二端子回路14bで接続する。そして、基本波整合回路17bの出力端子をRF出力端子NORF-とし、RF出力端子NORF-と負荷22の間に、バラン50を介して、バイアス回路用のチョークコイル18bとDCカットコンデンサ20bを挿入する。なお、基本波整合回路17bの少なくても一部を負荷に移しても良い。
【0058】
本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器においても第1のリアクタンス二端子回路12a,12bは、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器と同様に、図3乃至図5に示す回路構成を適用することができる。また、その場合には、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器と同様に、表1乃至表3に示す回路成分を有することも明らかである。
【0059】
本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器においても第2のリアクタンス二端子回路14a,14bは、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器と同様に、図6乃至図8に示す回路構成を適用することができる。また、その場合には、本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器と同様に、表5乃至表7に示す回路成分を有することも明らかである。
【0060】
本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅回路に適用されるFETは接合型FET、ショットキーゲート型FET、MIS型であっても良い。
【0061】
なお、増幅素子はFETに限らず、HEMTやLDMOSやHBTなど他の増幅素子にも適用できることは言うまでもない。
【0062】
さらに、FETを構成する材料としては、シリコンに限定されるものではなく、GaN、InP、SiGe、SiC、GaAs、ダイヤモンドであってもよい。また、HBTとしては、例えば、GaAlN/GaN系などを適用することができる。
【0063】
本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅回路によれば、2個のFET10a,10bを逆相で動作させてバラン50で電力合成するプッシュプル増幅器において、RF出力端子からDCバイアスを供給でき、小型化でき、FETの出力容量が無視できない高周波でもF級動作可能であり、高効率化を図ることができる。
【0064】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1乃至第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0065】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の第1乃至第2の実施の形態に係るF級増幅回路は、RF出力端子からDCバイアスを供給でき、小型化でき、FETの出力容量が無視できない高周波でもF級動作とすることができ、高効率化を図ることができることから、内部整合型電力増幅素子、電力MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)、マイクロ波電力増幅器、ミリ波電力増幅器など幅広い適用分野が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器の模式的回路構成図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器の模式的等価回路接続構成図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の回路構成図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の別の回路構成図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第1のリアクタンス二端子回路の更に別の回路構成図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の回路構成図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の別の回路構成図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器に適用する第2のリアクタンス二端子回路の更に別の回路構成図。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るF級増幅器を実装した、高出力内部整合型FETの模式的回路パターン構成例。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係るF級増幅器の模式的回路構成図。
【符号の説明】
【0068】
10,10a,10b…電界効果トランジスタ(FET)
12,12a,12b…第1のリアクタンス二端子回路
14,14a,14b…第2のリアクタンス二端子回路
16…基本波整合回路
16a,16b…基本波整合回路1
17a,17b…基本波整合回路2
18,18a,18b…チョークコイル
20,20a,20b…DCカットコンデンサ
22…負荷
26…外囲器
28…ボンディングワイヤ(BW)
32…高調波処理回路
34…パスコンサ
38…マイクロストリップ線路
40…入力側外部回路
42…入力ゲート側基本波整合回路
44…出力ドレイン側基本波整合回路
46…出力側外部回路
48…外囲器リード
50…バラン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の角周波数ωoの成分およびその高調波成分を含む出力信号を出力する増幅素子と、
前記増幅素子の出力端子と接地端子を接続する第1のリアクタンス回路と、
前記増幅素子の前記出力端子側に配置される基本波整合回路と、
前記基本波整合回路の入力端子と前記増幅素子の前記出力端子間に接続される第2のリアクタンス回路と、
前記基本波整合回路の出力端子と前記接地端子を接続する負荷と
を備え、
前記増幅素子の出力インピーダンスを出力抵抗と出力容量からなる並列回路のインピーダンスとし、
前記第1のリアクタンス回路は、直流成分に対して開放、角周波数2ωo、4ωo、・・・、2nωo(ただし、nは1以上の自然数)成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して前記増幅素子の出力容量と並列共振し、
前記第2のリアクタンス回路は直流成分に対して短絡、角周波数3ωo、5ωo、・・・、(2n+1)ωo成分に対して開放となることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第1のリアクタンス回路が、n個の直列共振回路を並列接続した回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項3】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第1のリアクタンス回路が、(n−1)個の並列共振回路と、1個のインダクタと、1個のキャパシタを直列接続した回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項4】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第1のリアクタンス回路が、直列インダクタと並列キャパシタを1段としたn段の梯子型回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項5】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第2のリアクタンス回路が、(n−1)個の直列共振回路と、1個のインダクタと、1個のキャパシタを並列接続した回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項6】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第2のリアクタンス回路が、n個の並列共振回路を直列接続した回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項7】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記第2のリアクタンス回路が、並列キャパシタと直列インダクタを1段としたn段の梯子型回路であることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項8】
請求項1記載のF級増幅器において、
前記第2のリアクタンス回路が、nが1の時は直流成分に対して短絡、nが2の時は直流成分と角周波数4ωoで短絡、nの時は直流成分と角周波数4ωo、6ωo、・・・、2nωoで短絡となることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項9】
請求項1に記載のF級増幅器において、
前記基本波整合回路の少なくとも一部を前記負荷に移したことを特徴とするF級増幅回路。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のF級増幅回路において、
前記増幅素子は、接合ゲート型電界効果トランジスタであることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載のF級増幅回路において、
前記増幅素子は、ショットキーゲート型電界効果トランジスタであることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれかに記載のF級増幅回路において、
前記増幅素子は、絶縁ゲート型電界効果トランジスタであることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項13】
請求項1乃至9のいずれかに記載のF級増幅回路において、
前記増幅素子は、高電子移動度電界効果トランジスタであることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれかに記載のF級増幅回路において、
前記増幅素子は、ヘテロ接合型バイポーラトランジスタであることを特徴とするF級増幅回路。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載のF級増幅回路を2個互いに逆相にプッシュプル動作させてバランで電力合成することを特徴とするF級増幅回路。
【請求項16】
請求項15に記載のF級増幅回路において、
前記基本波整合回路の少なくとも一部の接地端子を接地から浮かして互いに接続したことを特徴とするF級増幅回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−263438(P2008−263438A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105095(P2007−105095)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】