説明

FM復調装置とFM受信装置および電子機器

【課題】帰還ループでスレッショルドレベルを改善するFM復調装置において、回路の遅延による不具合を解消する。
【解決手段】FM変調信号の搬送波成分を除去する第1ミキサと第1信号発生器、第1ミキサの出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅と同程度で帯域制限する第1フィルタ、第1フィルタ通過後のFM信号を復調する第1FM復調器と共に、FM変調信号を一定時間遅延させる遅延バッファ、バッファ通過後のFM信号の所定周波数成分を除去する第2ミキサと第2信号発生器、第2ミキサの出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅より狭い帯域幅で帯域制限する第2フィルタ、第2フィルタ通過後のFM信号を復調する第2FM復調器を設け、第2信号発生器で生成する周波数信号を第1FM復調器で復調された信号によりFM変調する構成とし、かつ第1,2ミキサ・信号発生器・フィルタ・FM復調器を同一のデジタル信号処理回路で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FM(Frequency Modulation)ラジオ、FMトランシ−バなどの電子機器に用いられ、FM送信機より送信されたFM変調信号を受信してFM復調処理を行なう技術に係り、特に、FM復調処理を、回路規模を増大させることなく高品質に行なうのに好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FM放送波をはじめ全てのアナログ変調方式の放送波の受信品質は、受信機出力の信号対雑音比(SNR:Signal vs Noise Ratio)で決まる。送信機より送信された放送波は伝送中に通信路雑音を受け、受信機入力では大きく信号の減衰あるいは歪を発生させたものとなる。
【0003】
一般に、受信機入力信号の品質は、受信電力中に含まれる搬送波電力対雑音電力比(CNR:Carrier vs Noise Ratio)で表される。特にFM放送波においては、受信機入力の雑音電力と搬送波電力が同程度になると急激にSNRが悪化するスレショルド現象が現れる。
【0004】
FM放送受信用の受信装置は、アンテナの小形化および自然現象による信号減衰時で生じる低CNR受信時においても高SNR出力化の要請があり、これを実現する為に、スレッショルドレベルの改善が必要になる。このスレッショルドレベルの改善技術について,以下、図3を参照しながら説明する。
【0005】
図3において、FM信号入力端子Aより入力された高周波FM信号は、ミキサ31に印加される。また、同調電圧入力端子Cに加えられた直流電圧に応じた周波数でVCO(発振器)32は発振し、その出力はミキサ31に注入される。ミキサ31では、上述の2つの信号の差の周波数成分が中間周波FM信号として得られる。
【0006】
ミキサ31からの中間周波FM信号に対して、帯域通過フィルタ33において、必要な帯域以外の雑音成分を除き、FM復調器34において、FM復調してベースバンド出力として取り出す。
【0007】
このベースバンド出力は、LPF(ローパスフィルタ)35において、ベースバンド領域での不要な高域の雑音が除去され、直流増幅器36を通して復調信号出力端子Bに復調信号が導かれる。
【0008】
さらに、この復調信号を、VCO32における、端子Cとは別に設けられた電圧制御端子Dに印加し、VCO32の出力信号をFM変調する。
【0009】
この際、端子Aから入力されるFM信号とVCO32出力のFM信号の変調信号とが同相になるように、ミキサ31、帯域通過フィルタ33、FM復調器34、LPF35、直流増幅器36、VCO32のループを構成することにより、ミキサ31の出力の中間周波FM信号の周波数偏移を、端子Aに人力されるFM信号の周波数偏移よりも圧縮することができる。
【0010】
従って、周波数偏移の減少分だけFM信号の占有周波数帯域増幅が減少し、帯域通過フィルタ33の帯域幅も、それに応じて狭帯域化が可能となる。
【0011】
帯域通過フィルタ33の狭帯域化は、FM復調器34へ入力される信号の雑音電力を抑えることになり、スレッショルドレベルが改善される。
【0012】
このような技術を用いた従来技術としては特許文献1(特開平6−37823号公報)と、特許文献2(特開平7−273677号公報)に記載のものがある。
【0013】
しかしながら、従来技術では、復調した信号でVCO32に変調をかけ、入力波の周波数変化を少なくするという、アンプの負帰還と同じような考え方をすることからも明らかなように、入力波の周波数に対して、復調された変調信号との時間のずれが大きいと、位相が回転して系が発散し発振現象を起こしてしまう。
【0014】
すなわち、帰還ループで発生する遅延による位相のずれは無視できないレベルになり、この遅延により、入力されるFM信号に対してVCO32で発生するFM変調信号と位相のずれが生じる。
【0015】
ループの遅延時間の2倍を一周期とする周波数の変調信号では、VCO32の変調信号と端子Aに入力されるFM信号の変調信号との位相が逆相となり、周波数偏移は、圧縮されず、逆に増大してしまうという現象が生じる。
【0016】
この増大した信号は、次段の狭帯域化を施した帯域通過フィルタ33で処理されてしまい、その結果、適切なFM復調信号が得られなくなる。
【0017】
上述の特許文献1,2に記載の従来技術では、このような課題に対する対策を施している。しかし、この特許文献1,2に記載の従来技術では、アナログ回路にて上述の課題に対する対策を行っており、個別の素子数が増えることに加えて、各アナログ素子特性に精度が要求されることから、素子のサイズが大きくなり不経済である。
【0018】
特に、近年ではFM復調器はLSI(Large Scale Integration)で構成されることが多い。そのLSIにおいてはプロセスの微細化技術が進み、微細化技術は、特にデジタル部へのサイズ貢献度は高いがアナログ部への貢献度は低いので、デジタル信号処理による、上述の素子サイズに関する課題の解決は非常に有意義なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
解決しようとする問題点は、従来のFM信号処理技術では、帰還ループで発生する遅延による位相のずれによる周波数偏移の不具合(圧縮されず、逆に増大してしまうという現象が生じる)に対する対策を、アナログ回路にて行っており、個別の素子数が増えることに加えて、各アナログ素子特性に精度が要求されることから、素子のサイズが大きくなり不経済である点である。
【0020】
本発明の目的は、これら従来技術の課題を解決し、回路規模を増大させることなく、帰還ループで発生する遅延による位相のずれによる周波数偏移の不具合(圧縮されず、逆に増大してしまうという現象が生じる)を解消させることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明では、(1)FM変調された信号に対する信号処理を行う信号処理手段として、入力されたFM変調信号の搬送波成分もしくは中間周波数成分を除去する第1のミキサと、第1のミキサにて除去する周波数信号を生成する第1信号発生器と、第1のミキサ出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅と同程度の帯域幅で帯域制限する第1のフィルタと、第1のフィルタ通過後のFM信号を復調する第1のFM復調器と、入力されるFM変調信号を一定時間遅延させる遅延バッファと、遅延バッファ通過後のFM信号の所定周波数成分を除去する第2のミキサと、第2のミキサにて除去する所定周波数信号を生成する第2の信号発生器と、第2のミキサ出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅より狭い帯域幅で帯域制限する第2のフィルタと、第2のフィルタ通過後のFM信号を復調する第2のFM復調器とを設けると共に、第2の信号発生器で生成する周波数信号を、第1のFM復調器で復調した信号によりFM変調する構成とする。(2)また、信号処理手段として、第1のFM復調器と第2の信号発生器間に、第1のFM復調器で復調された信号による第2の信号発生器に対するFM変調の周波数偏移係数を設定により変更する手段(FM変調帯域圧縮信号生成器)を設けると共に、第2のフィルタの制限帯域を設定により変更する手段を設け、設定した周波数偏移係数に応じて第2のフィルタの制限帯域を変更設定する。(3)また、遅延バッファの遅延量は、第1のミキサおよび第2信号発生器の各処理遅延時間(入力された信号が出力されるまでに要する時間)と、第1のミキサと第2信号発生器間で信号処理を行う第1のフィルタと第1のFM復調器を少なくとも含む、各信号処理手段の処理遅延時間の合計に正確に一致させる。(4)また、第1のFM復調器と第2の信号発生器間に、第1のFM復調器で復調された信号からDCオフセットを検出する手段(DCオフセット検出器)を設け、第2の信号発生器は、検出されたDCオフセット成分を除去する信号を含めて周波数信号を生成する。(5)また、各信号処理手段による処理を、デジタル信号処理により実施する。(6)特に、第1のミキサと第2のミキサ、第1の信号発生器と第2の信号発生器、第1のフィルタと第2のフィルタ、第1のFM復調器と第2のFM復調器のそれぞれは、各々物理的には同一のデジタル信号処理回路であって、タイムシェアすることで各々のデジタル信号処理を行う。(7)第1のミキサおよび第2のミキサは、位相回転を行うデジタル信号処理によって実現し、第1の信号発生器および第2の信号発生器は、位相回転量を演算するデジタル信号処理によって実現する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、(1)FM帯域圧縮を行なうことで、自然現象による信号減衰時で生じる低CNR受信時においてもFM復調信号の高SNR出力化、つまりスレッショルドレベルの改善を行なうことができる。(2)また、FM帯域圧縮を実施するにあたり、圧縮率を任意に設定できるようにすることにより、最適なFM帯域圧縮率の選択および制御ができる。(3)また、入力されるFM変調信号を遅延させる遅延バッファの遅延量を、第1のミキサおよび第2信号発生器の処理遅延時間と、第1のフィルタおよび第1のFM復調器を含む、第1のミキサと第2信号発生器間での信号処理を行う各信号処理回路の処理遅延時間との合計と正確に一致させることにより、位相のずれが生じずにFM帯域圧縮を実現することができる。(4)また、第1のFM復調器で復調された信号からDCオフセットを検出する手段を設け、第2信号発生器で生成する周波数信号は、DCオフセット成分を除去する信号を含めて生成する構成とすることにより、FM送受信で生じる中心周波数のずれを補正することができる。(5)また、デジタル信号処理で行なうこととすることにより、微細化技術を適用したプロセスを用いたLSIへのインプリメントを行なう場合では、LSIのサイズの縮小に大きく貢献することができる。(6)また、第1のミキサと第2のミキサ、第1の信号発生器と第2の信号発生器、第1のフィルタと第2のフィルタ、第1のFM復調器と第2のFM復調器のそれぞれを、各々、物理的には同一のデジタル信号処理回路とすることにより、機能増加に伴う回路の増加を抑えることができる。(7)また、第1のミキサおよび第2のミキサを、位相回転を行うデジタル信号処理によって実現することで、回路の増加を抑えることができる。(8)特に、デジタル信号処理により、正確な信号の遅延量を見込めることにより、位相のずれを生じずにFM帯域圧縮を適正に行なうことができる。また、FM帯域圧縮のために追加する回路は、FM帯域圧縮を行わない回路と大部分は共通回路となるので、タイムシェアして処理することが可能であり、回路規模が増大しないという効果もある。(9)すなわち、本発明によれば、自然現象による信号減衰時で生じる低CNR受信時においてもFM復調信号の高SNR出力化、つまりスレッショルドレベルの改善を適切に行なうことができ、かつ、回路規模が増大しない装置を提供することができる。(10)また、微細化技術を適用したプロセスを用いたLSIへのインプリメントを行なう場合では、LSIのサイズの縮小に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るFM復調装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1におけるFM復調装置の詳細構成例を示すブロック図である。
【図3】従来のFM復調装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】図2におけるFM復調装置へ入力される信号FM変調信号の形態例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図を用いて本発明を実施するための最良の形態例を説明する。図1においては、本発明に係るFM復調装置の構成を従来技術と比較可能な形で表しており、図2においては、図1におけるFM復調装置の実施の形態例を示しており、この図2におけるFM復調装置へのFM変調信号入力は、図4に示すような形態で複素信号化されているものとする。
【0025】
図1に示すように、本発明に係るFM受信機に設けるFM復調装置は、FM変調された信号に対する信号処理を行ってベースバンド信号を生成するために、信号処理を行う信号処理回路として、入力端子Aから入力されるFM変調信号の搬送波成分を除去する第1ミキサ1と、第1ミキサ1にて除去する周波数信号を生成する第1信号発生器2と、第1ミキサ1の出力信号を、FM変調信号の占有周波数帯域幅と同程度の帯域幅で帯域制限する第1のフィルタ(図中「第1帯域通過フィルタ」と記載)3と、第1のフィルタ3の通過後のFM信号を復調する第1FM復調器4と共に、入力端子Aから入力されるFM変調信号を一定時間遅延させる遅延バッファ7と、遅延バッファ7通過後のFM信号の所定周波数成分を除去する第2ミキサ1’と、第2ミキサ1’にて除去する所定周波数信号を生成する第2信号発生器2’と、第2ミキサ1’からの出力信号を、FM変調信号の占有周波数帯域幅より狭い帯域幅で帯域制限する第2のフィルタ(図中「第2帯域通過フィルタ」と記載)3’と、第2のフィルタ3’通過後のFM信号を復調する第2FM復調器4’とを設け、かつ、第1FM復調器4で復調した信号により第2信号発生器2’で生成する周波数信号をFM変調する構成となっている。
【0026】
また、信号処理回路として、第1FM復調器4と第2信号発生器2’間に、第1FM復調器4で復調された信号による第2信号発生器2’に対するFM変調の周波数偏移係数を設定により変更可能とするFM変調帯域圧縮信号生成器(可変)5を設けると共に、第2のフィルタ3’には、その制限帯域を設定により変更可能とする機能を設け、設定した周波数偏移係数に応じて各フィルタの制限帯域を設定する構成とする。
【0027】
また、入力端子Aに入力されるFM変調信号を遅延させる遅延バッファ7の遅延量は、
第1ミキサ1および第2信号発生器2’の各信号処理遅延時間(入力された信号が出力されるまでに要する時間)と、第1ミキサ1と第2信号発生器2’間で信号処理を行う、第1のフィルタ3と第1FM復調器4を少なくとも含む、各信号処理回路の信号処理遅延時間の合計と正確に一致させる。
【0028】
図1に示す例では、遅延バッファ7の遅延量は、第1ミキサ1の信号処理時間と、第1のフィルタ3の信号処理時間と、第1FM復調器4の信号処理時間と、FM変調帯域圧縮信号生成器(可変)5の信号処理時間、および、第2信号発生器2’における信号処理時間の合計に正確に一致させる構成とする。
【0029】
また、FM変調帯域圧縮信号生成器(可変)5と並列に、第1FM復調器4で復調された信号からDCオフセットを検出するDCオフセット検出器6を設けることで、第2信号発生器2’が、DCオフセット成分を除去する信号を含めて周波数信号を生成する構成とする。
【0030】
尚、DCオフセット検出器6からは固定値(正確にはかなり低いサンプルレートで変更が入る)が出力されるの、DCオフセット検出器6での信号処理遅延時間は、遅延バッファ7の遅延量の特定に際しての考慮の必要はない。
【0031】
また、本例のFM復調装置では、各信号処理回路を、デジタル信号処理により実施する構成とし、さらに、第1ミキサ1と第2ミキサ1’、第1信号発生器2と第2信号発生器2’、第1のフィルタ3と第2のフィルタ3’、第1FM復調器4と第2FM復調器4’のそれぞれは、各々物理的には同一のデジタル信号処理回路からなり、タイムシェアすることでデジタル信号処理を行う構成とする。
【0032】
また、第1ミキサ1および第2ミキサ1’は、位相回転を行うデジタル信号処理によって実現し、第1信号発生器2および第2信号発生器2’は、位相回転量を演算するデジタル信号処理によって実現する構成とする。
【0033】
以下、図2を用いて、本例のFM変調装置の構成および動作説明を行う。図2において、位相回転器1a,1bは図1における第1,第2ミキサ1,1’に相当し、回転パラメータ係数生成器2a,2bは図1における第1,第2信号発生器2,2’に相当し、Digital Filter(広帯域)3a,3bは図1における第1,第2のフィルタ3,3’に相当し、FM復調器4a,4bは図1における第1,第2FM復調器4,4’に相当する。
【0034】
FM信号入力端子Aより入力されたFM信号は位相回転器1aに入力される。入力されるFM信号は、次の数1の式で表される。尚、この数1において、f(t)はFM変調信号、f(t)は搬送波、s(τ)は被変調信号、mは周波数偏移係数、fnは帯域外不要波である。
【0035】
【数1】

【0036】
入力されたFM信号に対して、位相回転器1aでは、上記数1の式の中の搬送波を除去する動作を行なう。位相回転器1aを実現する技術としては、例えばCORDIC(COordinate Rotation DIgital Computer
)アルゴリズムを使用すれば良い。
【0037】
デジタル信号処理におけるサンプリング周波数をf(t)とすると、回転パラメ−タ係数生成器2aより発生する係数は、次の数2に示す式となる。
【0038】
【数2】

【0039】
結果として、位相回転器1aより出力される信号は、搬送波周波数「f(t)」と所望周波数「f(t)」とのずれが無い場合、すなわち、「f(t)=f(t)」の関係が成り立つ場合、次の数3の式となる。
【0040】
【数3】

【0041】
また、搬送波周波数と所望の周波数とのずれが有る場合、すなわち、「f(t)≠f(t)」の関係が成り立つ場合には、次の数4の式となる。尚、数4において、f(t)はFM変調信号、fnは帯域外不要波、fiはf(t)とf(t)の周波数ずれである。
【0042】
【数4】

【0043】
位相回転器1aより出力される信号は、Digital Filter(広帯域)3aに入力され、Digital Filter(広帯域)3aにおいて帯域外不要波が除去される。尚、Digital Filter(広帯域)3aの通過帯域は周波数偏移係数mで決まる帯域幅であるとする。
【0044】
Digital Filter(広帯域)3aより出力される信号はFM復調器4aに入力され、FM復調器4aにおいて、FM復調処理を行って被変調信号s(τ)をとりだす。尚、数4の式のように、搬送波周波数と所望周波数とのずれがある場合は、被変調信号s(τ)にDCオフセットが付くことになる。
【0045】
取り出した被変調信号s(τ)をFM変調帯域圧縮係数生成器(可変)5aに入力し、次の数5の式で表される圧縮係数Coを生成する。
【0046】
【数5】

【0047】
この数5の式から分かるように、圧縮係数Coは、周波数偏移係数mで決まる帯域幅のFM変調信号である。尚、生成する圧縮係数は、予め準備された係数を選択して使用するようにしても良い。あるいは、書き換え可能なレジスタに従って生成するようにしても良い。
【0048】
また、位相回転器1aより出力される信号を、FM復調器4aからDCオフセット係数生成器6aに入力し、DCオフセットを算出することでDCオフセット係数Dcを生成する。DCオフセットは、搬送波f(t)が所望周波数f(t)よりも大きい場合は正の値(+)に、小さい場合は負の値(−)になる。
【0049】
以上のようにして求めた圧縮係数CoおよびDCオフセット係数Dcを、回転パラメ−タ係数生成器2bに入力し、回転パラメ−タ係数生成器2bにおいて回転パラメ−タを生成する。この回転パラメ−タ係数生成器2bより発生する係数は、次の数6に示す式で表される。
【0050】
【数6】

【0051】
一方、FM信号入力端子Aより入力されたFM信号は遅延バッファ7aに入力される。遅延バッファ7aの役割は、FM信号入力端子Aより入力された信号が、回転パラメ−タ係数生成器2bによる回転パラメ−タ生成までの信号処理時間分だけFM変調信号f(t)を遅延させることである。
【0052】
遅延バッファ7aを実現する回路は、例えばシフトレジスタやFIFO(First In First Out)、メモリ等を用いて実現すれば良い。デジタル信号処理技術では、フィルタの群遅延特性を一定にする回路も容易に実現できるので、入力信号周波数の違いによるDigital Filter(広帯域)3aでの遅延のばらつきを気にせずに遅延時間を見積もることができる。
【0053】
遅延バッファ7aにおける段数は、サンプリング周波数f(t)を1サイクルとした信号処理とすると、例えば、位相回転器1aによる処理がN1サイクル、Digital Filter(広帯域)3aでの信号遅延がN2サイクル、FM復調器4aでの処理がN3サイクル、FM変調帯域圧縮係数生成器(可変)5aおよび回転パラメ−タ係数生成器2bでの処理(FM復調器4aで復調された信号によるFM変調)にN4サイクルがかかるとすると、遅延バッファ7aの段数は、「N1+N2+N3+N4」段とすれば良い。
【0054】
尚、FM変調帯域圧縮係数生成器(可変)5aでは、FM復調器4aの出力に係数(可変:レジスタ等で設定する)を乗算し、回転パラメータ係数生成器2bでは、FM変調帯域圧縮係数生成器(可変)5aの出力と固定係数およびDCオフセット係数生成器6aで生成された係数の演算を行なうが、DCオフセット係数生成器6aからは固定値(正確にはかなり低いサンプルレートで変更が入る)が出力されるので、DCオフセット係数生成器6aでの信号処理遅延時間は、遅延バッファ7aの段数の特定に考慮する必要はない。
【0055】
このようにして遅延バッファ7aにより遅延したFM変調信号に対し、位相回転器1bは、回転パラメータ係数生成器2bで発生する回転パラメ−タ係数を用いて位相回転を行う。
【0056】
結果として、位相回転器1bより出力される信号は、搬送波周波数が所望の周波数である時、すなわち「f(t)=f(t)」の条件が成り立つ時、次の数7の式となる。尚、数7の式において、f(t)はFM変調信号、fnは帯域外不要波である。
【0057】
【数7】

【0058】
数7の式からわかるように、FM変調信号の帯域幅は元の周波数偏移係数mで決まる帯域幅から、「m−m」で決まる帯域幅に圧縮されている。つまり元の信号より狭帯域化が実現できている。
【0059】
遅延バッファ7aが無い、もしくは適切な遅延制御ができていない場合は、位相回転器1bより出力される信号は、搬送波周波数が所望の周波数である時、すなわち、「f(t)=f(t)」の条件が成り立つ時、次の数8の式となる。尚、数8の式において、nはゼロ(0)を除く自然数である。
【0060】
【数8】

【0061】
数8の式では、数7の式と違って、FM変調信号の帯域幅は、「m−m」で決まる帯域幅に圧縮されない。これは、従来技術で生じたループ遅延による結果と同等であり、遅延バッファ7aによる適切な制御が、非常に重要であることを意味する。
【0062】
位相回転器1bより出力される信号は、Digital Filter(帯域可変)3bにより帯域外不要波が除去される。Digital Filter(帯域可変)3bの通過帯域は、周波数偏移係数(m−m)で決まる帯域幅とする。
【0063】
この時、帯域幅に基づいたDigital Filterを実現する技術として、必要なFilter係数として予め準備された係数Tableを選択して使用するようにしても良い。また、Filter係数を生成するアルゴリズムを実装して通過させる帯域幅に応じた係数を生成しても良い。
【0064】
Digital Filter(帯域可変)3bより出力される信号は、FM復調器4bに入力され、FM復調器4bにおいてFM復調処理を行い、被変調信号s(τ)をとりだす。
【0065】
そして、ローパスフィルタであるLPF8aにおいて、ベースバンド領域での不要な高域の雑音を除去し、さらに、直流増幅器(図中「増幅器」と記載)9aを通して復調信号出力端子Bに復調信号を出力する。
【0066】
尚、図2において、破線で囲まれた「共通回路」として示すブロックは、Digital Filter(広帯域)3aとDigital Filter(帯域可変)3bで実現する通過帯域幅以外は共通の回路で実現されており、演算処理をタイムシェアすることで、回路量を増加することなく実現できる。
【0067】
以上、図1,2,4を用いて説明したように、本例のFM復調装置では、(1)信号処理回路として、FM変調信号の搬送波成分を除去する第1ミキサ1と、第1ミキサ1にて除去する周波数信号を生成する第1信号発生器2と、第1ミキサ1の出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅と同程度の帯域幅で帯域制限する第1フィルタ3と、第1フィルタ3通過後のFM信号を復調する第1FM復調器4と、入力されるFM変調信号を一定時間遅延させる遅延バッファ7と、遅延バッファ7通過後のFM信号の所定周波数成分を除去する第2ミキサ1’と、第2ミキサ1’にて除去する所定周波数信号を生成する第2信号発生器2’と、第2ミキサ1’の出力信号をFM変調信号の占有周波数帯域幅より狭い帯域幅で帯域制限する第2フィルタ3’と、第2フィルタ3’通過後のFM信号を復調する第2FM復調器4’とを設け、第2信号発生器2’で生成する周波数信号を、第1のFM復調器4で復調された信号によりFM変調する構成としている。このような構成でFM帯域圧縮を行なうことで、自然現象による信号減衰時で生じる低CNR受信時においてもFM復調信号の高SNR出力化、つまりスレッショルドレベルの改善を行なうことができる。
【0068】
(2)また、第1FM復調器4で復調された信号によるFM変調の周波数偏移係数を設定により変更可能とするFM変調帯域圧縮信号生成器(可変)5と、第2フィルタ3’を、制限帯域を設定により変更可能とし、設定した周波数偏移係数に応じてフィルタの制限帯域を設定する構成として、FM帯域圧縮を実施するにあたり、圧縮率を任意に設定できるようにすることにより、最適なFM帯域圧縮率の選択および制御ができる。
【0069】
(3)また、入力されるFM変調信号を遅延させる遅延バッファ7の遅延量を、第1ミキサ1の処理遅延時間と第2信号発生器2’における処理遅延時間、および、第1ミキサ1間と第2信号発生器2’間で信号処理を行う、第1フィルタ3と第1FM復調器4を少なくとも含む各信号処理回路の処理遅延時間の合計に正確に一致させることにより、位相のずれが生じずにFM帯域圧縮を実現することができる。
【0070】
(4)また、信号処理回路として、第1FM復調器4と第2信号発生器2’間に、第1FM復調器4で復調された信号からDCオフセットを検出するDCオフセット検出器6を設け、第2信号発生器2’においては、DCオフセット検出器6で検出されたDCオフセット成分を除去する信号を含めて周波数信号を生成する構成とすることにより、FM送受信で生じる中心周波数のずれを補正することができる。
【0071】
(5)また、各信号処理回路を、デジタル信号処理により実施する構成とすることにより、微細化技術を適用したプロセスを用いたLSIへのインプリメントを行なう場合では、LSIのサイズの縮小に大きく貢献することができる。
【0072】
(6)また、第1ミキサ1と第2ミキサ1’、第1信号発生器2と第2信号発生器2’、第1フィルタ3と第2フィルタ3’、第1FM復調器4と第2FM復調器4’のそれぞれを、各々、物理的には同一のデジタル信号処理回路とすることにより、本例で実現する機能増加に伴う回路の増加を抑えることができる。
【0073】
(7)また、第1ミキサ1および第2ミキサ1’を、位相回転を行うデジタル信号処理によって実現し、第1信号発生器2および第2信号発生器2’を、位相回転量を演算するデジタル信号処理によって実現することで、回路の増加を抑えることができる。
【0074】
このように、デジタル信号処理により、正確な信号の遅延量を見込めることにより、位相のずれを生じずにFM帯域圧縮を適正に行なうことができる。
【0075】
また、FM帯域圧縮のために追加する回路は、FM帯域圧縮を行わない回路と大部分は共通回路となるので、タイムシェアして処理することが可能であり、回路規模が増大しないという効果もある。
【0076】
すなわち、本例のFM復調装置によれば、自然現象による信号減衰時で生じる低CNR受信時においてもFM復調信号の高SNR出力化、つまりスレッショルドレベルの改善を適切に行なうことができ、かつ、回路規模が増大しない装置を提供することができる。
【0077】
また、微細化技術を適用したプロセスを用いたLSIへのインプリメントを行なう場合では、LSIのサイズの縮小に大きく貢献することができる。
【0078】
尚、本発明は、図1,2,4を用いて説明した例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、本例では、「搬送波」を用いた説明を行っているが、この「搬送波」は、スーパーヘテロダイン方式で用いる「中間周波」としても良く、その他の技術に関しても、本発明は、本例での説明で例示したものに制限されるものではない。尚、スーパーヘテロダイン方式における「中間周波」を対象とする場合には、例えば図1における第1ミキサ1と遅延バッファ7の前段に、図示しない信号処理回路(入力信号を中間周波数まで落とす機能回路)を設ける構成となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
図1,2に示す構成のFM復調装置をFM受信装置に設け、さらに、このFM受信装置を、例えば、FMラジオやFMトランシーバー等の電子機器に設けることにより、当該装置・機器の高性能化および小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1:第1ミキサ、1’:第2ミキサ、1a,1b:位相回転器、2:第1信号発生器、2’:第2信号発生器、2a,2b:回転パラメータ係数生成器、3:第1フィルタ(第1帯域通過フィルタ)、3’:第2フィルタ(第2帯域通過フィルタ)、3a:Digital Filter(広帯域)、3b:Digital Filter(帯域可変)、4:第1FM復調器、4’:第2FM復調器、4a,4b:FM復調器、5,5a:FM変調帯域圧縮信号生成器(可変)、6:DCオフセット検出器、6a:DCオフセット係数生成器、7,7a:遅延バッファ、8,8a:LPF(ローパスフィルタ)、9,9a:直流増幅器(増幅器)、31:ミキサ、32:VCO、33:帯域通過フィルタ、34:FM復調器、35:LPF、36:直流増幅器、A:入力端子、B:出力端子。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【特許文献1】特開平6−37823号公報
【特許文献2】特開平7−273677号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FM変調された信号に対する信号処理を行いベースバンド信号を生成するFM復調装置であって、
前記信号処理を行う信号処理手段として、
入力されたFM変調信号の搬送波成分もしくは中間周波数成分を除去する第1のミキサと、
前記第1のミキサにて除去する周波数信号を生成する第1の信号発生器と、
前記第1のミキサ出力信号を前記FM変調信号の占有周波数帯域幅で帯域制限する第1のフィルタと、
前記第1のフィルタ通過後のFM信号を復調する第1のFM復調器と
を有すると共に、
前記入力されるFM変調信号を予め定められた時間遅延させる遅延バッファと、
前記遅延バッファ通過後のFM信号の所定周波数成分を除去する第2のミキサと、
前記第2のミキサにて除去する所定周波数信号を生成する第2の信号発生器と、
前記第2のミキサ出力信号を前記FM変調信号の占有周波数帯域幅より狭い帯域幅で帯域制限する第2のフィルタと、
前記第2のフィルタ通過後のFM信号を復調する第2のFM復調器と
を設けると共に、
前記第1のFM復調器で復調した信号により前記第2の信号発生器で生成する周波数信号をFM変調することを特徴とするFM復調装置。
【請求項2】
請求項1に記載のFM復調装置であって、
前記信号処理手段として、
前記第1のFM復調器と前記第2の信号発生器間に、該第1のFM復調器で復調された信号による前記第2の信号発生器に対するFM変調の周波数偏移係数を変更設定する第1の手段を設けると共に、
前記第2のフィルタの制限帯域を変更設定する第2の手段を設ける
ことを特徴とするFM復調装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2のいずれかに記載のFM復調装置であって、
前記遅延バッファの遅延量は、
前記第1のミキサおよび前記第2の信号発生器の各信号処理時間と、該第1のミキサと該第2の信号発生器間で信号処理を行う、前記第1のフィルタと前記第1のFM復調器を少なくとも含む、各信号処理手段の信号処理時間の合計とすることを特徴とするFM復調装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のFM復調装置であって、
前記信号処理手段として、前記第1のFM復調器と前記第2の信号発生器間に、
前記第1のFM復調器で復調された信号からDCオフセットを検出する第3の手段を設け、
前記第2の信号発生器は、検出されたDCオフセット成分を除去する信号を含めて周波数信号を生成することを特徴とするFM復調装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のFM復調装置であって、
各信号処理手段は、各信号処理をデジタル信号処理により行うデジタル信号処理回路からなることを特徴とするFM復調装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のFM復調装置であって、
前記第1のミキサと前記第2のミキサ、
前記第1の信号発生器と前記第2の信号発生器、
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタ、
前記第1のFM復調器と前記第2のFM復調器のそれぞれは、各々同じデジタル信号処理回路からなり、タイムシェアすることで各々のデジタル信号処理を行うことを特徴とするFM復調装置。
【請求項7】
請求項5もしくは請求項6のいずれかに記載のFM復調装置であって、
前記第1のミキサと前記第2のミキサは、デジタル信号処理によって位相回転を行う位相回転器からなり、
前記第1の信号発生器と前記第2の信号発生器は、デジタル信号処理によって位相回転量を演算する回転パラメータ係数生成器からなる
ことを特徴とするFM復調装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のFM復調装置を具備したことを特徴とするFM受信装置。
【請求項9】
請求項8に記載のFM受信装置を具備したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−183222(P2010−183222A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23355(P2009−23355)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】