説明

FRP筒体およびその製造方法

【課題】各ヘリカル巻層の形状を安定化させ、繊維束境界に発生するボイドを消滅させることによって、目標とする強度特性を正確にかつ安定的に発現することができるFRP筒体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】筒軸方向に往復動されながらヘリカル巻された、連続繊維からなる強化繊維で強化された樹脂からなるFRP筒体において、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらされていることを特徴とするFRP筒体、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP筒体およびその製造方法に関し、特に、両端部に他部材が結合されるFRP筒体、例えばプロペラシャフト等に用いて好適なFRP筒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、各種産業分野でFRP(繊維強化プラスチック)筒体が使われてきつつある。たとえば近年、燃費の向上や環境保全といった観点から自動車の軽量化が強く望まれているが、それを達成する一手段としてプロペラシャフトのFRP化が検討され、一部で既に採用されるに至っている。その際、使用する強化繊維にも種々あり、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が検討されているが、この中で特に、強度、弾性率の面からプロペラシャフトの筒体として、炭素繊維を強化繊維とするCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製筒体が有力とされ、このようなCFRP筒体は、主にフィラメントワインディング法によって形成される。
【0003】
自動車のプロペラシャフトは、軸方向の弾性率とともに、エンジンから発生する大きなトルクを伝達する必要があることから、1000〜4000Nm程度の捩り強度を必要とする。また、高速回転時に共振を起こさないよう、危険回転数が5000〜15000rpm程度であることも要求される。これまでのCFRP製プロペラシャフト、特にその本体筒部は、特許文献1等に記載されているように、必要なトルクを伝達し、高い共振周波数を得るための強化繊維ヘリカル巻層(螺旋巻層)の積層角度とその積層構成、シャフトのサイズ(内径、外径、肉厚)、使用する強化繊維の種類、強化繊維の含有率等をパラメータとして設計されているが、必ずしも要求仕様を満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平2−236014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
とくにプロペラシャフトでは、要求共振周波数が高いケースも多く、強化繊維を可能な限り筒軸方向に配列したヘリカル巻層を筒体径方向に複数層積層し、筒軸方向における曲げ弾性率を高くする必要がある。このようなプロペラシャフトに使用されるFRP筒体は、マンドレル上に樹脂含浸強化繊維束を往復動させながらヘリカル巻きしていくフィラメントワインディング法によって形成されるが、上記ヘリカル巻層形成の際には次のような問題があった。
【0005】
マンドレル周方向に対するヘリカル巻層の押圧力が比較的低いため、複数層積層する場合、各ヘリカル巻層内にボイドが滞留しやすい傾向にある。特に図1に示すように、マンドレル1上に樹脂を含浸させた強化繊維束2を複数層積層してヘリカル巻層3を形成していく場合、N層目と(N+1)層目のヘリカル巻層3の強化繊維束2が同位相もしくは同位相付近に配置され、従って強化繊維束2の幅方向端部4(繊維束境界)も同位相もしくは同位相付近に配置されてしまうことが多くなり、このような場合には、繊維束境界周辺にヘリカル巻層押圧力がほとんど負荷されていないことになるため、ボイドが多く発生することとなっていた。また、各強化繊維束2の筒体周方向における位相が揃ってしまうため、成形された筒体断面も、上記繊維束境界4を頂点とする多角形状になることがあった。
【0006】
このように、単にヘリカル巻層を順に複数層積層する構成では、成形されたFRP筒体は、断面が多角形状で周方向同位相上にボイドが多く含まれ、捩り強度、共振周波数の要求を安定して十分に満たせるとは言い難い。
【0007】
本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、各ヘリカル巻層の形状を安定化させ、繊維束境界に発生するボイドを消滅させることによって、目標とする強度特性を正確にかつ安定的に発現することができるFRP筒体、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るFRP筒体は、筒軸方向に往復動されながらヘリカル巻された、連続繊維からなる強化繊維で強化された樹脂からなるFRP筒体において、もしくは強化繊維束を同一角度で少なくとも2層以上のヘリカル層複数層により構成されたFRP筒体であって、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらされていることを特徴とするものからなる。
【0009】
また、本発明に係るFRP筒体は、マンドレル上に樹脂が含浸された強化繊維束を同一角度で巻き付け少なくとも2層以上のヘリカル巻層を複数層形成することにより構成されたFRP筒体であって、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらされていることを特徴とするものからなる。
【0010】
上記FRP筒体においては、例えば図2に本発明の一例に係るFRP筒体11を示すように、マンドレル1上に、樹脂を含浸した強化繊維束12をマンドレル軸方向に往復動させながらヘリカル巻層13を形成して成形されたFRP筒体11において、上層に位置する強化繊維束が、下層に位置する強化繊維束の幅方向一端部を覆うように配置される。例えば、筒体径方向に積層された各強化繊維束のうち、隣接強化繊維束間で筒体周方向における位相が互いにずらされる。好ましくは、筒体径方向に積層された強化繊維束の全てについて、筒体周方向における位相が互いにずらされる。つまり、図2に示すように、2層目ヘリカル巻強化繊維束は1層目ヘリカル巻強化繊維束境界(一端部)を押さえ込むように、3層目ヘリカル巻強化繊維束は1層目および2層目ヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように、4層目ヘリカル巻強化繊維束は1層目、2層目および3層目ヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように成形されるので、筒体横断面周方向において、各ヘリカル巻強化繊維束の位相が互いにずらされ、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることが回避される。その結果、図1に示したような、筒体周方向における特定の位置に(各強化繊維束の幅方向端部が重なる位置に)多く発生するボイドが低減あるいは消滅されるとともに、それによってヘリカル巻層の形状が安定化され、目標とする捩り強度、弾性率等の強度特性が正確にかつ安定的に発現される。
【0011】
上記のように筒体径方向に積層された各強化繊維束の位相を互いにずらす場合、ランダムにずらすことも可能であるが、図2に示すように、3層以上積層される各強化繊維束の筒体周方向における位相を、同一周方向に順次ずらすことが、制御の容易性、成形される筒体の形状安定性の面から、より好ましい。
【0012】
このようなFRP筒体は、その両端部に金属製継手を接合してプロペラシャフトに構成することができる。これによって、筒体横断面周方向での特定の位置にボイドが多く発生することが防止され、ヘリカル巻層の形状が安定化され、目標とする捩り強度、共振周波数等の強度特性を正確にかつ安定的に発現できるプロペラシャフトが提供される。
【0013】
本発明に係るFRP筒体の製造方法は、マンドレル上に、樹脂を含浸した強化繊維束をマンドレル軸方向に往復動させながらヘリカル巻してFRP筒体を成形するに際し、筒体径方向に積層されていく各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相を、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらすことを特徴とする方法からなる。
【0014】
また、本発明に係るFRP筒体の製造方法は、フィラメントワインディング成形において、マンドレル上に、樹脂が含浸された強化繊維束を同一角度で巻き付け少なくとも2層以上のヘリカル巻層を複数層形成することにより構成されたFRP筒体の製造方法であって、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらすとともに、筒体周方向の互いのずらし量を下記の量とすることを特徴とする方法からなる。
ずらし量=W2×(0.3〜0.7)+N2×W2 [N2:<N1の正整数]
ここで、
強化繊維合糸数 :N1
合糸状態糸幅 :W1
単ストランド糸幅:W2[=W1/N1]
である。
【0015】
上記製造方法により、筒体横断面周方向での特定の位置にボイドが多く発生することが回避され、筒体径方向に安定した形状にてヘリカル巻層が積層、成形されていき、全体として、形状が安定し、所望の優れた強度特性を正確にかつ安定的に発現できるFRP筒体が成形される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るFRP筒体およびその製造方法によれば、各ヘリカル巻層間で強化繊維束境界が同じ位置になることを避け、各ヘリカル巻層が下層のヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように成形しているので、断面が多角形状にならず、繊維束境界と推定される位置周辺に大きなボイドが存在しない優れた品質のFRP筒体を提供することが可能となる。さらに、多角形状を防ぎ、繊維束境界と推定される位置周辺に大きなボイドが存在しないことにより、共振周波数や捩り強度等の強度発現率の低下を防ぐこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係るプロペラシャフトの望ましい実施の形態を、とくに車両用のプロペラシャフトに適用した場合について説明する。
本発明に係るFRP筒体は、前述したように、例えば図2に示すような構成を有する。このようなFRP筒体11を、プロペラシャフトに適用する場合、前述したように、捩り強度、共振周波数等の強度特性を発現させるためのヘリカル巻層部で筒体本体を構成し、その両端内周面側に金属製継手(図示略)を圧入するための周方向巻層からなる補強層を設けてFRP本体筒を成形し、その両端に金属製継手としてのヨークを接合して、所定のプロペラシャフトを構成する。FRP筒体とヨークとは、ヨークの接合部がFRP筒体端部に圧入されることで接合することができる。
【0018】
FRP筒体の材料は、例えば、強化繊維として炭素繊維を、マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を使用する。なお、強化繊維としてアラミド繊維、ガラス繊維等の高強度、高弾性と言われる他の繊維を採用したり、炭素繊維と併用することもでき、マトリクス樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用することもできる。
【0019】
FRP筒体11のヘリカル層は、図2に示したように、マンドレル1(芯材)上に樹脂強化繊維束12(複数本の連続強化繊維を合糸した状態に束ねた強化繊維束)を互いに周方向位相がずれるように、フィラメントワインディング法によってヘリカル巻していき、極端な隙間や重なりを発生させないように各層を積層していく。樹脂含浸繊維をマンドレル1に巻き付けて筒体に成形した後に、繊維に含浸された樹脂を熱硬化させ、その後マンドレルを抜き取り、プロペラシャフトとして要求される所定の長さに切断することによって目標とするFRP筒体が作成される。
【0020】
次に、上記実施形態の項で説明した本発明の構成要件を満足するFRP筒体による効果を確認するために、捩り試験評価、共振周波数測定を実施した。以下に、これらについて詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
試験評価に使用したプロペラシャフト用FRP筒体はフィラメントワインディング法により製造した。繊維として炭素繊維束(東レ(株)製“トレカ”T700S、24000フィラメント、破断伸度2.1%)、マトリクス樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた。また、製造に使用したマンドレルは、外径(すなわち、FRP筒体の内径)がφ74mm、全長が1000mmのものを用い、FRP筒体1本(製品長900mm)を成形した。
【0022】
まず、エポキシ樹脂を含浸させたロービング(炭素繊維を複数本を引き揃えた束)を、金属製継手が圧入されるFRP筒体端部に相当する箇所にフープ巻き補強層を成形後、マンドレル面長部に渡り、FRP筒体に相当するヘリカル巻補強層を連続で成形する。この時、ヘリカル巻きの巻角度を±10°とし、積層数を4層として成形した(図2に示した形態)。また、マンドレルの外径およびヘリカル巻強化繊維束の幅からヘリカル巻強化繊維束がマンドレルの外周面を全て覆うために必要な数、つまり1層に必要なヘリカル巻強化繊維束の往復回数は13となった。
【0023】
ヘリカル巻層の巻状態に関してはフィラメントワインディングのためのプログラミングにより、1層目のヘリカル巻層が終了し2層目のヘリカル巻層が開始されるとき、2層目のヘリカル巻強化繊維束は1層目のヘリカル巻強化繊維束の境界(幅方向一端)を押さえ込むように、2層目のヘリカル巻層が終了し3層目のヘリカル巻層が開始されるとき、3層目のヘリカル巻強化繊維束は1層目および2層目のヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように、3層目のヘリカル巻層が終了し4層目のヘリカル巻層が開始されるとき、4層目のヘリカル巻強化繊維束は1層目、2層目および3層目のヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように配列し、各ヘリカル巻層を形成した。ヘリカル巻き終了後、最外層にフープ巻き(周方向巻き)を1層形成した。
【0024】
次に、所定の温度条件にて加熱炉内でエポキシ樹脂の硬化を行い、その後、マンドレルから成形品を脱芯した。脱芯後、プロペラシャフト用FRP筒体を得るために、所定の長さでで切断した。
【0025】
このようにして得られたFRP筒体を切断して横断面を観察したが、FRP筒体は多角形状になっておらず円形状であり、各ヘリカル巻層での規則的な位置においてボイドと呼ばれる空隙は発生していなかった。
【0026】
上記のように製造されたプロペラシャフト用FRP筒体の両端部にヨークと呼ばれる金属製継手を取り付けた。従来の製造方法で得られたプロペラシャフト用FRP筒体は多角形状になっており、繊維束境界と推定される位置周辺に大きなボイドも多く存在しており、FRP筒体の共振周波数、捩り強度が、設計基準値の150Hz、3000Nmに対し、測定値が100Hz、2000Nmとかなり低減する傾向があった。ところが上記本実施例で得られたプロペラシャフトFRP筒体は、多角形状になっておらず、大きなボイドも確認できなかった。このFRP筒体について共振周波数、捩り強度の測定を実施したところ、155Hz、3200Nmと、目標とするほぼ計算値通りの結果を得た。
【実施例2】
【0027】
試験評価に使用したプロペラシャフト用FRP筒体はフィラメントワインディング法により製造した。繊維として炭素繊維束(東レ(株)製“トレカ”T700S、24000フィラメント、破断伸度2.1%)、マトリクス樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた。また、製造に使用したマンドレルは、外径(すなわち、FRP筒体の内径)がφ74mm、全長が1000mmのものを用い、FRP筒体1本(製品長900mm)を成形した。この時、強化繊維合糸数N1=3本、合糸状態糸幅W1=18mm、単ストランド糸幅W2=6mm、ずらし量W2=6×0.5+0×6=3mm[N2=0]とした。
【0028】
まず、エポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維束を3本を引き揃えた状態(3本合糸状態)、で金属製継手が圧入されるFRP筒体端部に相当する箇所にフープ巻き補強層を成形後、マンドレル面長部に渡り、マンドレル面長部にFRP筒体に相当するヘリカル巻補強層を連続で成形する。この時、ヘリカル巻きの巻角度を±10°とし、3本合糸状態での糸幅18mm、積層数を4層として成形した(図2に示した形態)。また、マンドレルの外径およびヘリカル巻強化繊維束の幅からヘリカル巻強化繊維束がマンドレルの外周面を全て覆うために必要な数、つまり1層に必要なヘリカル巻強化繊維束の往復回数は13となった。
【0029】
ヘリカル巻層の巻状態に関してはフィラメントワインディングのためのプログラミングにより、1層目のヘリカル巻層が終了し2層目のヘリカル巻層が開始されるとき、2層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置が1層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置から3mmづれた位置となって境界(幅方向一端)を押さえ込むように、2層目のヘリカル巻層が終了し3層目のヘリカル巻層が開始されるとき、3層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置が2層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置から3mmづれた位置となって1層目および2層目のヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように、3層目のヘリカル巻層が終了し4層目のヘリカル巻層が開始されるとき、4層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置が3層目のヘリカル巻強化繊維束の開始位置から3mmづれた位置となって1層目、2層目および3層目のヘリカル巻強化繊維束境界を押さえ込むように配列し、各ヘリカル巻層を形成した。ヘリカル巻き終了後、最外層にフープ巻き(周方向巻き)を1層形成した。
【0030】
次に、所定の温度条件にて加熱炉内でエポキシ樹脂の硬化を行い、その後、マンドレルから成形品を脱芯した。脱芯後、プロペラシャフト用FRP筒体を得るために、所定の長さでで切断した。
【0031】
このようにして得られたFRP筒体を切断して横断面を観察したが、FRP筒体は多角形状になっておらず円形状であり、各ヘリカル巻層での規則的な位置においてボイドと呼ばれる空隙は発生していなかった。
【0032】
以上により、各ヘリカル巻層間でヘリカル巻強化繊維束境界が同じ位置になることを避けて成形することにより、断面が多角形状にならず、大きなボイドも内部に発生させず、強度発現率の低下も発生させないことを確認できた。
【0033】
実施例1と同様に、上記のように製造されたプロペラシャフト用FRP筒体の両端部にヨークと呼ばれる金属製継手を取り付けた。従来の製造方法で得られたプロペラシャフト用FRP筒体は多角形状になっており、繊維束境界と推定される位置周辺に大きなボイドも多く存在しており、FRP筒体の共振周波数、捩り強度が、設計基準値の150Hz、3000Nmに対し、測定値が100Hz、2000Nmとかなり低減する傾向があった。
【0034】
ところが上記実施例2で得られたプロペラシャフトFRP筒体は多角形状になっておらず、大きなボイドも確認できなかった。このFRP筒体について共振周波数、捩り強度の測定を実施したところ、155Hz、3500Nmと捩り強度に関しては実施例1よりも高い強度を発現し、目標とするほぼ計算値通りの結果を得た。
【0035】
以上により、各ヘリカル巻層間でヘリカル巻強化繊維束境界が同じ位置になることを避けて成形することにより、断面が多角形状にならず、大きなボイドも内部に発生させず、強度発現率の低下も発生させないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るFRP筒体およびその製造方法は、あらゆるFRP筒体に適用でき、とくに車両用プロペラシャフトのFRP筒体に適用して好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来のFRP筒体の横断面図である。
【図2】本発明の一実施態様に係るFRP筒体の横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 マンドレル
11 FRP筒体
12 強化繊維束
13 ヘリカル巻層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒軸方向に往復動されながらヘリカル巻された、連続繊維からなる強化繊維で強化された樹脂からなるFRP筒体において、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらされていることを特徴とするFRP筒体。
【請求項2】
マンドレル上に樹脂が含浸された強化繊維束を同一角度で巻き付け少なくとも2層以上のヘリカル巻層を複数層形成することにより構成されたFRP筒体であって、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらされていることを特徴とするFRP筒体。
【請求項3】
筒体径方向に積層された各強化繊維束のうち、上層に位置する強化繊維束が、下層に位置する強化繊維束の幅方向一端部を覆うように配置されている、請求項1または2に記載のFRP筒体。
【請求項4】
筒体径方向に積層された各強化繊維束のうち、隣接強化繊維束間で筒体周方向における位相が互いにずらされている、請求項1〜3のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項5】
筒体径方向に積層された強化繊維束の全てについて、筒体周方向における位相が互いにずらされている、請求項1〜4のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項6】
筒体径方向に強化繊維束が3層以上積層されており、各強化繊維束の筒体周方向における位相が、同一周方向に順次ずらされている、請求項1〜5のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項7】
両端部に金属製継手が接合されプロペラシャフトに構成されている、請求項1〜6のいずれかに記載のFRP筒体。
【請求項8】
マンドレル上に、樹脂を含浸した強化繊維束をマンドレル軸方向に往復動させながらヘリカル巻してFRP筒体を成形するに際し、筒体径方向に積層されていく各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相を、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらすことを特徴とする、FRP筒体の製造方法。
【請求項9】
フィラメントワインディング成形において、マンドレル上に、樹脂が含浸された強化繊維束を同一角度で巻き付け少なくとも2層以上のヘリカル巻層を複数層形成することにより構成されたFRP筒体の製造方法であって、筒体径方向に積層された各ヘリカル巻層の強化繊維束の筒体周方向における位相が、各強化繊維束の幅方向端部位置が同位相もしくは同位相周辺になることを避けるように、互いにずらすとともに、筒体周方向の互いのずらし量を下記の量とすることを特徴とするFRP筒体の製造方法。
ずらし量=W2×(0.3〜0.7)+N2×W2 [N2:<N1の正整数]
強化繊維合糸数 :N1
合糸状態糸幅 :W1
単ストランド糸幅:W2[=W1/N1]

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−62355(P2006−62355A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217487(P2005−217487)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】