説明

GaN結晶の製造方法、GaN結晶、GaN結晶基板、半導体装置およびGaN結晶製造装置

【課題】核発生防止および高品質無極性面の成長の少なくとも一方を実現可能なGaN結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する方法であって、融液中の炭素の含有量を調整する調整工程と、ガリウムと窒素とが反応する反応工程とを包含する。アルカリ金属としては、Naを用いる。この製造方法により、核発生を防止し、無極性面を成長させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN結晶の製造方法、GaN結晶、GaN結晶基板、半導体装置およびGaN結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
III族元素窒化物結晶の半導体は、例えば、ヘテロ接合高速電子デバイスや光電子デバイス(半導体レーザー、発光ダイオード(LED)、センサ等)等の分野に使用されており、特に窒化ガリウム(GaN)結晶が注目されている。従来では、窒化ガリウムの単結晶を得るために、ガリウムと窒素ガスとを直接反応させることが行われていた(非特許文献1参照)。しかし、この場合、1300〜1600℃、8000〜17000atm(約800〜1700MPa)という超高温高圧を必要とする。この問題を解決するために、ナトリウム(Na)フラックス(融液)中で窒化ガリウム単結晶を育成する技術(以下、「Naフラックス法」ともいう)が開発された(例えば、特許文献1〜3、非特許文献2、3参照)。この方法によれば、加熱温度が600〜800℃と大幅に下がり、また圧力も、約50atm(約5MPa)程度まで下げることができる。前記Naフラックス法において、予め、前記Naフラックス中に種結晶を入れておき、この種結晶を核として結晶を育成させる方法がある。この方法によれば、バルクサイズの結晶を得ることもできる。前記種結晶としては、GaN単結晶を育成する場合、例えば、MOCVD法やHVPE法によりサファイア基板の上にGaN結晶薄膜層が形成された積層基板が使用される。このような技術を、「液相エピタキシャル成長法」ともいう。
【0003】
GaN単結晶を用いた電子デバイスの中で、発光ダイオード(LED)の照明への応用が期待され、研究開発が盛んである。これは、GaN単結晶を用いたLEDであれば、蛍光灯等の従来の照明器具に比べて大幅に電力を節約できるからである。しかしながら、従来のGaN単結晶を用いたLEDは、輝度を向上させるのに限界があり、理論的に予測されるレベルの高輝度を実現できなかった。その理由は、下記の3つの問題があるからである。
(1)LED内部での電荷の偏り
(2)高輝度化による発光波長の変化
(3)LED内部における高抵抗部分の存在
【0004】
前記(1)から(3)の三つの問題は、GaN結晶基板の無極性面上にLEDを作製すれば、理論上は解決できる。前記無極性面とは、電荷の偏りがない面である。しかしながら、従来の技術では、GaN結晶基板の無極性面上にLEDを作製することは不可能であった。図1に、LEDの基本構成を示す。図示のように、LEDは、サファイア若しくは炭化シリコンから形成された基板1の上に、低温緩衝層2、GaN結晶(Siドープ)層3、n−AlGaN(Siドープ)層5、InGaN層6、p−AlGaN(Mgドープ)層7、p−GaN(Mgドープ)層8、透明電極層9およびp層電極10が、この順序で積層され、かつ前記GaN結晶(Siドープ)層3の一部の上にn層電極4が配置されているという構成である。従来のLEDの作製において、図2に示すように、サファイア等の基板1の上に、低温緩衝層2を介して、液相エピタキシャル成長法によりGaN結晶層3を成長させることになるため、前記GaN結晶は、c面のみしか成長できず、前記GaN結晶層3の側面32はM面になるが、前記GaN結晶層3の上面31は、c面になってしまう。また、無理にM面等の無極性面を形成しようとしても、得られる結晶の品質が劣悪なために、輝度の向上が図れないのが実情である。
【0005】
さらに、Naフラックス(融液)を用いた液相エピタキシャル成長法では、種結晶以外の核が前記フラックス中に発生し、これが原因でGaN結晶の品質および収率が悪くなるという問題がある。図8のグラフに、窒素ガス圧力と、基板上に形成されるGaN結晶の厚み(膜厚)との関係の一例を示す。図示のように、窒素ガスの圧力を上げると、GaN結晶の厚みも向上するが、窒素ガス圧力が、ある点(図8においては、約34atm)を越えると、逆にGaN結晶の厚みが薄くなっていく。これは、同図に示すように、Naフラックス中に、種結晶以外の核が発生するためである。
【0006】
このように、無極性面の成長の問題および核発生の問題は、GaN結晶の製造において解決すべき重要な問題であるが、その他のIII族元素窒化物結晶の製造方法においても、解決すべき重要な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−327495号公報
【特許文献2】特開2001−102316号公報
【特許文献3】特開2003−292400号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. Solids, 1995、 56、 639
【非特許文献2】日本結晶成長学会誌30、 2、 pp38−45(2003)
【非特許文献3】J. J. Appl. Phys. 42, pp L879−L881(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、核発生の防止および高結晶性無極性面の成長の少なくとも一方を実現可能なGaN結晶の製造方法、GaN結晶、GaN結晶基板、半導体装置およびGaN結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の製造方法は、少なくともアルカリ金属とガリウム(Ga)とを含む融液中において、GaN結晶を製造する方法であって、
前記融液中の炭素の含有量を調整する調整工程と、
前記ガリウム(Ga)と窒素とが反応する反応工程と
を包含するGaN結晶製造方法である。
【0011】
本発明のGaN結晶は、主要面として無極性面を有し、2結晶法X線回析によるロッキングカーブの半値全幅が0を超え200秒以下の範囲であり、転位密度が0を超え10個/cm以下の範囲であるGaN結晶である。
【0012】
本発明のGaN結晶基板は、前記本発明のGaN結晶を含み、前記無極性面が、半導体層が形成される基板面である。
【0013】
本発明の半導体装置は、前記本発明のGaN結晶基板を含み、前記基板面の上に、半導体層が形成された半導体装置である。
【0014】
本発明のGaN結晶製造装置は、少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する製造装置であって、
前記融液中の炭素の含有量を調整する調製部と、
前記ガリウムと窒素とが反応する反応部とを備えたGaN結晶製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明者等は、前記目的を達成するために、一連の研究を重ねた結果、アルカリ金属を含む融液中の炭素の含有量を調整すると(例えば、融液中に炭素を含有させると)、前記融液中における核発生の防止および高品質無極性面の成長の少なくとも一方が実現可能であることを見出し、本発明をなすに至った。また、本発明のGaN結晶は、前述のように、無極性面が主要面であり、所定範囲の前記ロッキングカーブの半値全幅および前記所定の範囲の転位密度の物性を有するものであり、これは、気相法等の従来法により製造されたものよりも、結晶性が高品位である。このような高品位の本発明のGaN結晶は、前記本発明の製造方法により製造することが可能であるが、製造方法は、これに限定されない。なお、前記「主要面」とは、結晶中で最も広い面をいう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、半導体装置の一例を示す構成図である。
【図2】図2は、基板上に形成されたGaN結晶の一例を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の基板上に形成されたGaN結晶の一例を示す構成図である。
【図4】図4は、本発明の実施例1におけるGaN結晶の写真である。
【図5】図5は、前記実施例1におけるGaN結晶のその他の写真である。
【図6】図6は、比較例1におけるGaN結晶の写真である。
【図7】図7は、前記実施例1および前記比較例1における、炭素添加割合と結晶収率との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、窒素ガス圧力とGaN結晶の厚み(膜厚)との関係の一例を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の実施例2および比較例2〜3における炭素添加割合と結晶収率との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の実施例3および比較例4〜6における炭素添加割合と結晶収率との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明のGaN結晶の製造方法に使用する製造装置の一例を示す構成図である。
【図12】図12は、本発明の実施例4におけるGaN単結晶の写真である。
【図13】図13は、GaN結晶の構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法において、前記調整工程は、前記融液中の炭素の一部を除去する除去工程および前記融液中に炭素を添加する添加工程のうちの少なくとも一方を包含することが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、前記融液中に種結晶を提供する種結晶提供工程を包含し、前記種結晶は、GaN結晶であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、前記炭素の形態は、特に制限されず、炭素単体および炭素化合物のいずれであってもよい。
【0020】
本発明の製造方法において、前記種結晶は、基板上に形成されたGaN結晶層であることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、前記融液中の炭素の含有量を調整することにより(例えば、前記融液中に炭素を含有させることにより)、前記融液中において前記種結晶以外の結晶核の発生を防止することが好ましい。この場合の前記融液中の炭素の含有割合は、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計に対し、例えば、0.1〜5原子%の範囲である。
【0022】
本発明の製造方法において、前記融液中の炭素の含有量を調整することにより(例えば、前記融液中に炭素を含有させることにより)、前記GaN結晶の無極性面を成長させることが好ましい。この場合の前記融液中の炭素の含有割合は、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計に対し、例えば、0.3〜8原子%の範囲である。なお、本発明の製造方法において、無極性面以外の面を成長させ、この面を切削して無極性面を表面に出してもよい。
【0023】
本発明の製造方法において、前記種結晶は、基板上のGaN結晶層であることが好ましい。この場合、前記融液中の炭素の含有量を調整することにより(例えば、前記融液中に炭素を含有させることにより)、M面およびa面の少なくとも一方の面を成長させることが好ましい。さらに、この場合、前記基板のGaN結晶層の上面が、無極性面(a面およびM面の少なくとも一方)であることが好ましい。ただし、本発明の製造方法は、これに限定されず、M面およびa面以外で、かつc面以外の面を成長させてもよい。すなわち、本発明の製造方法において、GaN結晶を成長させる場合、M面およびa面に対して形成する角度が、c面よりも小さい面を成長させ、成長した面を切削してM面若しくはa面を表面に出してもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、前記融液は、例えば、Naを含む融液であることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、前記融液を撹拌する撹拌工程をさらに含んでもよい。前記撹拌工程を行う段階は、特に制限されないが、例えば、前記反応工程の前、前記反応工程と同時、および前記反応工程の後における少なくとも一つにおいて行ってもよい。より具体的には、例えば、前記反応工程の前に行っても、前記反応工程と同時に行っても、その両方で行ってもよい。
【0026】
本発明のGaN結晶は、炭素を含んでいてもよい。また、本発明のGaN結晶は、前記本発明の製造方法により製造されたものであることが好ましい。
【0027】
本発明の半導体装置は、例えば、LED、半導体レーザーまたはパワー高周波電子素子であることが好ましい。
【0028】
つぎに、本発明について詳細に説明する。
【0029】
前述のように、本発明の製造方法は、少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する方法であって、融液中の炭素の含有量を調整する調整工程と、ガリウムと窒素とが反応する反応工程とを包含する。調整工程は、融液中の炭素の一部を除去する除去工程および融液中に炭素を添加する添加工程のうちの少なくとも一方を包含してもよい。
更に、融液中に、III族元素窒化物を含む種結晶を提供する種結晶提供工程を包含してもよい。
例えば、本発明の製造方法は、アルカリ金属を含む融液中において、予め入れたGaNの種結晶を結晶核とし、ガリウムと窒素とを反応させてGaN結晶を成長させるGaN結晶の製造方法であって、前記融液中に炭素を含有させて前記GaN結晶を成長させる製造方法である。また、本発明は、前記GaN結晶の製造方法において、前記融液中に炭素を含有させることにより、GaN結晶の成長面を制御する方法でもあり、および/または、前記融液中の核発生を防止する方法でもある。
【0030】
前記融液における前記アルカリ金属は、液相エピタキシャル成長法におけるフラックスとして機能する。前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)であり、この中で、LiおよびNaが好ましく、より好ましくはNaである。前記融液は、その他の成分を含んでいてもよく、例えば、GaN結晶の原料となるガリウム(Ga)や窒素(N)、アルカリ金属以外のフラックス原料等を含んでいてもよい。前記窒素は、ガス、窒素分子、窒素化合物等、その形態に制限はない。前記フラックス原料としては、例えば、アルカリ土類金属があげられ、具体的には、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Br)およびラジウム(Ra)があり、この中で、CaおよびMgが好ましく、より好ましくはCaである。ガリウムに対するアルカリ金属の添加割合は、例えば、0.1〜99.9mol%、好ましくは1〜99mol%、より好ましくは5〜98mol%である。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属の混合フラックスを使用する場合のモル比は、例えば、アルカリ金属:アルカリ土類金属=99.99〜0.01:0.01〜99.99、好ましくは99.9〜0.05:0.1〜99.95、より好ましくは99.5〜1:0.5〜99である。前記融液の純度は、高いことが好ましい。例えば、Naの純度は、99.95%以上の純度であることが好ましい。高純度のフラックス成分(例えば、Na)は、高純度の市販品を用いてもよいし、市販品を購入後、蒸留等の方法により純度を上げたものを使用してもよい。
【0031】
ガリウムと窒素との前記反応条件は、例えば、温度100〜1500℃、圧力100Pa〜20MPaであり、好ましくは、温度300〜1200℃、圧力0.01MPa〜10MPaであり、より好ましくは、温度500〜1100℃、圧力0.1MPa〜6MPaである。前記反応は、窒素含有ガス雰囲気下で実施することが好ましい。前記窒素含有ガスが、前記フラックスに溶けてGaN結晶の育成原料となるからである。前記窒素含有ガスは、例えば、窒素(N)ガス、アンモニア(NH)ガス等であり、これらは混合してもよく、混合比率は制限されない。特に、アンモニアガスを使用すると、反応圧力を低減できるので、好ましい。
【0032】
前記本発明の製造方法において、前記フラックスによって、窒素濃度が上昇するまでに、前記種結晶が溶解するおそれがある。これを防止するために、少なくとも反応初期において、窒化物を前記フラックス中に存在させておくことが好ましい。前記窒化物としては、例えば、Ca、LiN、NaN、BN、Si、InN等があり、これらは単独で使用してもよく、2種類以上で併用してもよい。また、前記窒化物の前記フラックスにおける割合は、例えば、0.0001mol%〜99mol%であり、好ましくは、0.001mol%〜50mol%であり、より好ましくは0.005mol%〜10mol%である。
【0033】
前記本発明の製造方法において、前記混合フラックス中に、不純物を存在させることも可能である。このようにすれば、不純物含有のGaN結晶を製造できる。前記不純物は、例えば、珪素(Si)、アルミナ(Al)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、窒化インジウム(InN)、酸化珪素(SiO)、酸化インジウム(In)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、ゲルマニウム(Ge)等がある。
【0034】
前述のように、前記融液中の炭素の含有量を調整する。例えば、炭素の含有量を所定の量にするために、融液中の炭素の一部を除去する工程および融液中に炭素を添加する工程のうちの少なくとも一方を実行する。前記炭素は、炭素単体でもよいし、炭素化合物であってもよい。好ましいのは、前記融液において、シアン(CN)を発生する炭素単体および炭素化合物である。また、炭素は、気体状の有機物であってもよい。このような炭素単体および炭素化合物としては、例えば、シアン化物、グラファイト、ダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン等があげられる。また、前記炭素の含有量は、特に制限されない。前記融液中における核発生防止の目的で、融液中に炭素を添加する工程および融液中の炭素の一部を除去する工程のうちの少なくとも一方を実行する場合は、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計を基準として、例えば、0.01〜20原子(at.)%の範囲、0.05〜15原子(at.)%の範囲、0.1〜10原子(at.)%の範囲、0.1〜5原子(at.)%の範囲、0.25〜7.5原子(at.)%の範囲、0.25〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜2.5原子(at.)%の範囲、0.5〜2原子(at.)%の範囲、0.5〜1原子(at.)%の範囲、1〜5原子(at.)%の範囲、または1〜2原子(at.)%の範囲である。この中でも、0.5〜5原子(at.)%の範囲、0.5〜2.5原子(at.)%の範囲、0.5〜2原子(at.)%の範囲、0.5〜1原子(at.)%の範囲、1〜5原子(at.)%の範囲、または1〜2原子(at.)%の範囲が好ましい。GaN結晶の無極性面の成長の目的で、融液中に炭素を添加する工程および融液中の炭素の一部を除去する工程のうちの少なくとも一方を実行する場合は、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計を基準として、例えば、0.01〜25原子(at.)%の範囲、0.05〜20原子(at.)%の範囲、0.5〜15原子(at.)%の範囲、0.3〜8原子(at.)%の範囲、0.75〜10原子(at.)%の範囲、1.0〜5原子(at.)%の範囲、または2.0〜5原子(at.)%の範囲である。この中で、1.0〜5原子(at.)%の範囲または2.0〜5原子(at.)%の範囲が好ましい。なお、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計における前記「融液」は、融液を構成する成分の合計を意味する。例えば、前記融液がNa単独のフラックスの場合は、Naのみを意味し、NaとCaの混合フラックスの場合は、NaとCaの合計を意味する。
【0035】
前述のように、前記種結晶は、基板の上に形成されたGaN層であることが好ましい。前記基板は、前記サファイア基板や炭化ケイ素(SiC)基板等が使用できる。前記GaN層は、例えば、結晶であってもよいし、非晶質(アモルファス)であってもよいし、結晶の場合は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。また、前記GaN層の形態は、特に制限されないが、例えば、薄膜層の形態が好ましい。前記薄膜層の厚みは、特に制限されず、例えば、0.0005〜100000μm、0.001〜50000μm、0.01〜5000μm、0.01〜500μm、0.01〜50μm、0.1〜50μm、0.1〜10μm、0.1〜5μm、1〜10μmまたは1〜5μmの範囲である。前記GaN結晶層の表面(上面)は、M面およびa面のいずれかの無極性面であることが好ましい。前記基板上のGaN結晶層の表面(上面)が、無極性面であれば、図2に示すように、前記融液中に炭素を添加することにより、基板1の上のGaN結晶層2の表面に、平滑な無極性面31を有するGaN結晶3を育成することができる。この場合、前記GaN結晶3の側面32は、c面となる。これに対し、基板上のGaN結晶層の表面(上面)が、c面である場合、前記融液中に炭素を添加すると、図3に示すように、前記GaN結晶層2の上に形成されるGaN結晶3の上面(表面)31が、断面が折れ線状になってしまう。これは、GaN結晶層2の表面がc面であると、この上で成長するGaN結晶3において、a面およびM面の双方が成長するからである。なお、図3において、GaN結晶3の側面32は、c面である。しかし、このような断面が折れ線状の表面(上面)を有するGaN結晶であっても、前記表面を研磨して平滑面にすれば、実用に供することが可能である。前記薄膜層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)、ハライド気相成長法(HVPE)、分子線エピタキシー法(MBE法)等によって、前記基板上に形成できる。前記薄膜層の最大径は、例えば、2cm以上であり、好ましくは3cm以上であり、より好ましくは5cm以上であり、大きいほどよく、その上限は、限定されない。また、バルク状化合物半導体の規格が2インチであるから、この観点から、前記最大径の大きさは5cmであることが好ましく、この場合、前記最大径の範囲は、例えば、2〜5cmであり、好ましくは3〜5cmであり、より好ましくは5cmである。なお、前記最大径とは、例えば、前記薄膜層表面の外周のある点と、その他の点を結ぶ線であって、最も長い線の長さをいう。
なお、本発明の製造方法において、アルカリ金属を含む融液中に予めGaNの種結晶を結晶核として入れることは必ずしも必要ではない。融液中の炭素の含有量を所定の量に調整しさえすれば、予めGaNの種結晶を結晶核として入れなくても、上述した本発明の効果(融液中における核発生の防止および高品質無極性面の成長の少なくとも一方が実現可能であること)を得ることができる。
なお、融液中にGaNを含む種結晶を提供する場合には、種結晶を提供しない場合と比較して、GaN結晶が容易に成長し得る。
【0036】
ここで、GaN結晶の構造を、図13の模式図に基づき説明する。図示のように、GaN結晶において、M面およびa面は、c軸に平行であり、換言すれば、M面およびa面は、c面に直交している。そして、隣接する二つのM面相互が形成する角度の中間の角度の方向にa面は存在している。これらの関係は、M面とa面を逆にしても成立する。
【0037】
本発明のGaN結晶の製造方法において、製造対象となる前記GaN結晶は、例えば、単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、単結晶が好ましい。
【0038】
つぎに、本発明のGaN結晶製造装置は、前述の通り、少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する製造装置であって、前記融液中の炭素の含有量を調整する調製部と、前記ガリウムと窒素とが反応する反応部とを備えたGaN結晶製造装置である。本発明の製造方法は、どのような製造装置を用いて行ってもよいが、例えば、本発明のGaN結晶製造装置を用いて行うことが好ましい。図11に、本発明のGaN結晶製造装置の一例を示す。本発明のGaN結晶製造装置は、融液中の炭素の含有量を調整する調整部と、ガリウムと窒素とが反応する反応部とを備える。図示のように、この装置は、ガスタンク11、圧力調節器12、電気炉14および耐熱耐圧容器13、真空ポンプ17から構成されている。前記電気炉14としては、例えば、抵抗加熱ヒータがある。また、前記電気炉14は、断熱材を使用してもよい。前記抵抗加熱ヒータにおいて、1000℃以下で使用する場合は、発熱体としてカンタル線を用いることができるため、装置の構成が簡単になる。また、前記抵抗加熱ヒータにおいて、1500℃まで加熱する場合には、MoSiなどが用いられる。ガスタンク11には、窒素ガスやアンモニアガス等の窒素含有ガスが充填されている。ガスタンク11および真空ポンプ17は、パイプで耐圧耐熱容器13と連結しており、その途中に圧力調節器12が配置されている。圧力調節器12より、例えば、1〜100atmのガス圧に調整して窒素含有ガスを耐圧耐熱容器13中に供給でき、また真空ポンプ17により減圧することもできる。なお、同図において、16はリーク用バルブである。耐圧耐熱容器13は、例えば、ステンレス容器等が使用される。耐熱耐圧容器13は、電気炉14内に配置され、これにより加熱される。耐熱耐圧容器13内には坩堝15が配置され、坩堝材料としては、アルミナ(Al)、タングステン(W)、白金(Pt)、SUS等の材料が用いられる。なお、黒鉛坩堝やシリコンカーバイト坩堝等のように、炭素系素材から形成された坩堝を使用してもよい。ただし、炭素系材料から形成された坩堝を使用しても、これから溶出する炭素は微量であるため、別途、炭素を添加しない限り、本発明の効果を得ることはできない。前記坩堝15中には、結晶原料であるガリウム(Ga)、融液原料であるアルカリ金属(Na等)および炭素(例えば、グラファイト)を入れる。なお、本発明において、その他の成分を前記坩堝に入れてもよく、例えば、ドーピング用の不純物を加えてもよい。P型ドーピング材料としてはMgがあり、N型ドーピング材料としてはSiなどがある。坩堝の形状は、特に制限されず、例えば円筒状(断面が円形)であるが、円筒状に限定されない。坩堝の形状は、断面が非円形である筒状でよい。断面が非円形である坩堝を用いる場合は、断面が円である坩堝を用いる場合と比較して、坩堝を揺動することによる融液の撹拌効率がよい。
【0039】
この装置を用いたGaN単結晶の製造は、例えば、次のようにして実施することができる。まず、GaN結晶薄膜層が形成されたサファイア基板を前記坩堝内に配置する。一方、グローブボックスの中で、ガリウム(Ga)と、金属ナトリウム(Na)と、炭素(C)とを秤量して坩堝15内に入れ、この坩堝15を耐圧耐熱容器13内にセットする。そして、ガスタンク11から、前記耐熱耐圧容器13内に窒素ガスを供給する。この際、圧力調節器12により所定の圧力に調節する。そして、電気炉14によって耐熱耐圧容器13内を加熱する。すると、坩堝15内では、ナトリウムが溶解して融液が形成され、この融液中に前記窒素ガスが溶け込んで、炭素の存在下、前記窒素とガリウムとが反応して、前記基板上のGaN薄膜層の上でGaN結晶が成長する。この結晶成長において、前記融液中に炭素が存在しているため、前記融液中においてGaN結晶核の発生が防止され、かつ、前記基板上のGaN薄膜層の上で成長するGaN結晶は、無極性面(a面若しくはM面)が成長する。例えば、坩堝15は、本発明の「融液中の炭素の含有量を調整する調整部」に対応する。例えば、坩堝15は、本発明の「ガリウムと窒素とが反応する反応部」にも対応する。本発明のGaN結晶の成長メカニズムは、例えば、前記融液中の炭素が窒素と反応し、フラックスの気液界面近傍においてCNの形態で存在するため、窒素の過飽和度が抑制され、前記近傍における雑晶形成を回避できると推測される。したがって、本発明の製造方法は、窒素と炭素の存在下であれば、ガリウム以外のIII族元素窒化物結晶の製造にも利用することができる。前記III族元素窒化物結晶の製造の場合には、前記ガリウムを、その他のIII族元素(Al,In等)に置換、あるいはそれらを併用すればよい。前記III族元素窒化物結晶としては、例えば、AlGaIn(1−s−t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)が挙げられる。なお、本発明は、前記推測によりなんら限定されない。
【0040】
本発明の製造方法は、前述のように、前記融液を撹拌する撹拌工程をさらに含んでもよい。例えば、前記融液中におけるガリウムと窒素との反応を、前記融液およびガリウムを撹拌混合した状態で行えば、前記混合液中への窒素の溶解速度が増大するとともに、融液中のガリウムと窒素とが均一に分布し、しかも結晶の成長面に常に新鮮な原料を供給できるため、透明で転位密度が少なく、均一厚みで、高品位で大きなバルク状の透明窒化ガリウム結晶を、早く製造できるため、より好ましい。また、このようにすれば、例えば、表面がスムースなGaN結晶を得ることができる。
【0041】
本発明において、前記撹拌工程は、特に制限されず、例えば、本発明と発明者一部同一の特願2005−503673(国際公開WO2004/083498号パンフレット)の記載を参考にして行ってもよいし、その他の任意の方法により行ってもよい。本発明の前記撹拌工程は、具体的には、例えば、前記耐熱耐圧容器を揺動させたり、前記耐熱耐圧容器を回転させたり、若しくはこれらを組み合わせることにより、実施できる。その他に、例えば、坩堝中の融液に温度差を与えることによっても、融液を攪拌しえる。融液に熱対流が生じるからである。より具体的には、例えば、融液形成のための前記耐熱耐圧容器の加熱に加え、前記耐熱耐圧容器を加熱して熱対流を発生させることによっても、前記融液とガリウムとを撹拌混合できる。さらに、前記撹拌工程は、撹拌羽根を用いて実施してもよい。これらの撹拌混合手段は、それぞれ組み合わせることができる。
【0042】
本発明において、前記耐熱耐圧容器の揺動は、特に制限されず、例えば、前記耐熱耐圧容器を一定の方向に傾けた後、前記方向とは逆の方向に傾けるという耐熱耐圧容器を一定方向に揺り動かす揺動がある。また、前記揺動は、規則正しい揺動でもよいし、間欠的で不規則な揺動であってもよい。また、揺動に回転運動を併用しても良い。揺動における耐熱耐圧容器の傾きも特に制限されない。規則的な場合の揺動の周期は、例えば、1秒〜10時間であり、好ましくは30秒〜1時間であり、より好ましくは1分〜20分である。揺動における耐熱耐圧容器の最大傾きは、耐熱耐圧容器の高さ方向の中心線に対し、例えば、5度〜70度、好ましくは10度〜50度、より好ましくは15度〜45度である。また、後述のように、前記基板が前記耐熱耐圧容器の底に配置されている場合、前記基板上の窒化ガリウム薄膜が、常に、前記融液で覆われている状態の揺動でもよいし、前記耐熱耐圧容器が傾いたときに前記基板上から前記融液が無くなっている状態でもよい。
【0043】
前記熱対流のための耐熱耐圧容器の加熱は、熱対流が起こる条件であれば特に制限されない。前記耐熱耐圧容器の加熱位置は、特に制限されず、例えば、耐熱耐圧容器の底部でもよいし、耐熱耐圧容器の下部の側壁を加熱してもよい。前記熱対流のための耐熱耐圧容器の加熱温度は、例えば、融液形成のための加熱温度に対して、0.01℃〜500℃高い温度であり、好ましくは0.1℃〜300℃高い温度であり、より好ましくは1℃〜100℃高い温度である。前記加熱は、通常のヒータが使用できる。
【0044】
前記撹拌羽根を用いた撹拌工程は、特に制限されず、例えば、前記撹拌羽根の回転運動又は往復運動若しくは前記両運動の組み合わせによるものであってもよい。また、前記撹拌羽根を用いた撹拌工程は、前記撹拌羽根に対する前記耐熱耐圧容器の回転運動又は往復運動若しくは前記両運動の組み合わせによるものであってもよい。そして、前記撹拌羽根を用いた撹拌工程は、前記撹拌羽根自身の運動と、前記耐熱耐圧容器自身の運動とを組み合わせたものであってもよい。前記撹拌羽根は、特に制限されず、その形状や材質は、例えば、前記耐熱耐圧容器のサイズや形状等に応じて適宜決定できるが、融点若しくは分解温度が2000℃以上の窒素非含有材質により形成されていることが好ましい。このような材質で形成された撹拌羽根であれば、前記融液により溶解することがなく、また、前記撹拌羽根表面上での結晶核生成を防止できるからである。
【0045】
また、前記撹拌羽根の材質としては、例えば、希土類酸化物、アルカリ土類金属酸化物、W、SiC、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等があげられる。このような材質で形成された撹拌羽根も、前記同様に、前記融液により溶解することがなく、また、前記撹拌羽根表面上での結晶核生成を防止できるからである。前記希土類および前記アルカリ土類金属としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raがあげられる。前記撹拌羽根の材質として好ましいのは、Y、CaO、MgO、W、SiC、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等であり、このなかでもYが最も好ましい。
【0046】
つぎに、本発明のGaN結晶の2結晶法X線回析のロッキングカーブの半値全幅は、0を超え200秒以下の範囲であるが、低いほど好ましい。2結晶法X線回析のロッキングカーブの半値全幅は、X線源から入射したX線を第1結晶により高度に単色化し、第2結晶である前記GaN結晶に照射し、前記GaN結晶から回折されるX線のピークを中心とするFWHM(Full width at half maximum)を求めることで測定できる。なお、前記X線源は、特に制限されないが、例えば、CuKα線等が使用できる。また、前記第1結晶も特に制限されないが、例えば、InP結晶やGe結晶等が使用できる。
【0047】
本発明のGaN結晶の転位密度は、0を超え10個/cm以下の範囲であり、低いほど好ましい。前記転位密度の転位の種類は、特に制限されず、例えば、刃状転位、螺旋転位がある。前記転位密度の測定方法は、特に制限されないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により、III族元素窒化物結晶の結晶構造を観察して測定することができる。
【0048】
本発明のGaN結晶は、炭素を含んでいても良い。前記炭素は、例えば、前記融液中の炭素由来のものであってもよい。前記III族元素窒化物結晶に含まれる炭素の形態は、原子であってもよいし、分子であってもよいし、他の元素との化合物の形態であってもよい。前記III族元素窒化物結晶中の炭素の含有量は、特に制限されず、例えば、1015〜1022個/cmの範囲、好ましくは、1016〜1021個/cmの範囲、より好ましくは、1017〜1020個/cmの範囲である。本発明の製造方法により得られたGaN結晶は、前記融液中の炭素由来の炭素を含んでいるため、あるGaN結晶において炭素が検出されたら、それは、本発明の製造方法により製造された結晶ということになる。また、本発明のGaN結晶の製造方法は、特に制限されないため、本発明の製造方法以外で製造した場合は、炭素を含まない場合がある。前記GaN結晶からの炭素の検出方法は、特に制限されず、例えば、二次イオン質量分析法により検出できる。なお、本発明のGaN結晶における炭素の割合は、前述と同様である。また、本発明のGaN結晶が、炭素を含む場合、P型半導体になる場合があると考えられる。
【0049】
つぎに、本発明の基板は、前記本発明のGaN結晶を含む。本発明の基板は、例えば、サファイア等の基板の上のGaN結晶薄膜の上に、本発明の製造方法によりGaN結晶を形成したものであってもよい。この場合、前記サファイア等の基板を剥離して、GaN結晶単独の自立基板とすることが好ましい。図1に示すように、本発明の基板1の上に、LED等の半導体装置を構成すれば、高性能の半導体装置となり、例えば、高輝度のLEDとすることができる。本発明の半導体装置の種類は、特に制限されず、例えば、LED、半導体レーザー、パワー高周波電子素子があげられる。
【実施例】
【0050】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって限定されない。
【0051】
(実施例1)
図11に示す装置を用いて、GaN結晶を製造した。すなわち、まず、アルミナ坩堝15中に、GaN薄膜層(上面はc面)が形成されたサファイア基板を配置した。また、前記アルミナ坩堝15の中に、ナトリウム(Na)、ガリウム(Ga)および炭素(C:グラファイト)を入れた。前記ナトリウム(Na)とガリウム(Ga)のモル比は、Na:Ga=73:27である。また、炭素(C)の添加割合は、ナトリウム(Na)、ガリウム(Ga)および炭素(C)の合計(Na+Ga+C)に対し、原子%(at.%)で、0、0.02、0.1、0.5、1、2、5at.%とした。なお、0at.%は、比較例1となる。前記坩堝15をステンレス容器13の中にいれ、前記ステンレス容器13を、耐熱耐圧容器14の中に入れた。前記ガスタンク11から、窒素ガスを前記ステンレス容器13内に導入すると同時に、ヒータ(図示せず)により加熱して前記耐熱耐圧容器14内を、850℃、40atm(約4.0MPa)の高温高圧条件下とし、96時間処理を行い、目的とするGaN結晶を製造した。
【0052】
前記炭素添加が1at.%の場合のGaN結晶の写真を図4に示し、前記炭素添加割合が5at.%の場合のGaN結晶の写真を図5に示し、炭素添加割合が0at.%の場合(比較例1)のGaN結晶の写真を図6に示す。図6に示すように、炭素を添加しない場合のGaN結晶において、[0001](c面)と[10−11]面が成長している。これに対し、図4に示すように、炭素を1at.%の割合で添加した場合のGaN結晶では、[10−10]面(M面)が成長した。また、図5に示すように、炭素を5at.%の割合で添加した場合のGaN結晶では、[10−10]面(M面)が大きく成長した。また、図7のグラフに、炭素の各添加割合におけるGaN結晶の収率を示す。同図において、白の棒グラフで表す部分は、前記GaN結晶薄膜層上で成長したGaN結晶の収率(LPE収率)を示し、黒の棒グラフで表す部分は、前記融液中で核発生して成長したGaN結晶の収率(核発生収率)である。図7のグラフに示すように、炭素無添加の場合は、核が発生したが、炭素を添加すると、核発生が防止され、また、炭素の添加量の増加によるLPE収率の低下はなかった。
【0053】
(実施例2)
結晶成長の際の反応条件を、温度800℃、圧力50atm(約5.0MPa)とし、炭素の添加割合を、0at.%(比較例2、3)、1at.%、2at.%、3at.%とした以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶を製造した。その結果を、図9のグラフに示す。同図において、白の棒グラフで表す部分は、前記GaN結晶薄膜層上で成長したGaN結晶の収率(LPE収率)を示し、黒の棒グラフで表す部分は、前記融液中で核発生して成長したGaN結晶の収率(核発生収率)である。同図において、無添加1は、比較例2であり、無添加2は、比較例3である。図9のグラフに示すように、炭素無添加の場合は、核が発生し、前記GaN結晶薄膜層上でのGaN結晶の成長が阻害されたが、炭素を添加すると、核発生が防止され、前記GaN結晶薄膜層上で、高品質の無極性面を有するGaN結晶が成長した。
【0054】
(実施例3)
結晶成長の際の反応条件を、温度750℃、圧力50atm(約5.0MPa)とし、炭素の添加割合を、0at.%(比較例4、5、6)、1at.%、2at.%、3at.%とした以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶を製造した。その結果を、図10のグラフに示す。同図において、白の棒グラフで表す部分は、前記GaN結晶薄膜層上で成長したGaN結晶の収率(LPE収率)を示し、黒の棒グラフで表す部分は、前記融液中で核発生して成長したGaN結晶の収率(核発生収率)である。同図において、無添加1は、比較例4であり、無添加2は、比較例5であり、無添加3は、比較例6である。図10のグラフに示すように、炭素無添加の場合は、核が発生し、前記GaN結晶薄膜層上でのGaN結晶の成長が阻害されたが、炭素を添加すると、核発生が防止され、前記GaN結晶薄膜層上で、高品質の無極性面を有するGaN結晶が成長した。
【0055】
(実施例4)
本実施例では、MOCVD法によってサファイア基板上に育成した2inch−GaN薄膜(直径5cmのGaN薄膜、上面はM面)を種結晶として、バルクGaN単結晶育成時に炭素を添加し、その効果を確認した。具体的な実験手順は、つぎの通りである。すなわち、まず、Ga15g、Na14.8gを、前記種基板と共にアルミナ坩堝に充填した後、炭素源としてのグラファイトを、Naに対して、0.5mol%となるように加えた。そして、育成温度860℃、育成圧力45atmで96時間エピタキシャル成長を行った。その結果、前記種結晶基板上に、約2mmの厚さでGaN単結晶(直径約5cm)がエピタキシャル成長した。このGaN単結晶を、図12の写真に示す。本実施例のGaN結晶は、現在報告されているGaN単結晶としては世界最大の結晶である。本実施例において、坩堝上で成長したGaN結晶(a)と、前記種結晶上にエピタキシャル成長したGaN結晶(b)の比率(a:b)は、2:8であった。一方、炭素を添加しなかった以外は、同一の条件でGaN単結晶の育成を行った場合の前記比率(a:b)は、95:5であった。これらのことから、本発明において、炭素を添加することにより、坩堝上での核発生を抑制し、エピタキシャル成長が促進され、その結果、大型結晶の育成が可能になることが、実証されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明のGaN結晶の製造方法によれば、核発生防止および高品質無極性面の成長の少なくとも一方を実現可能である。本発明のGaN結晶を、例えば、基板として用いれば、高性能の半導体装置を作製することができる。したがって、本発明は、例えば、ヘテロ接合高速電子デバイスや光電子デバイス(半導体レーザー、発光ダイオード、センサ等)等のIII族元素窒化物結晶半導体の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する方法であって、
前記融液中の炭素の含有量を調整する調整工程と、
前記ガリウムと窒素とが反応する反応工程と
を包含するGaN結晶製造方法。
【請求項2】
前記調整工程は、前記融液中の炭素の一部を除去する除去工程および前記融液中に炭素を添加する添加工程のうちの少なくとも一方を包含する、請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項3】
前記融液中に種結晶を提供する種結晶提供工程を包含し、
前記種結晶は、GaN結晶である、請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項4】
前記炭素が、炭素単体および炭素化合物の少なくとも一方である、請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項5】
前記種結晶が、基板上に形成されたGaN結晶層である、請求の範囲3に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項6】
前記融液中の炭素の含有量を調整することにより、前記種結晶以外の結晶核の発生を防止する、請求の範囲3に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項7】
前記融液中の炭素の含有量が、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計に対し、0.1〜5原子%の範囲である、請求の範囲6に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項8】
前記融液中の炭素の含有量を調整することにより、前記GaN結晶の無極性面が成長する、請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項9】
前記融液中の炭素の含有量が、前記融液、前記ガリウムおよび前記炭素の合計に対し、0.3〜8原子%の範囲である、請求の範囲8に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項10】
前記融液が、Naを含む融液である、請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項11】
前記融液中の炭素の含有量を調整することにより、前記GaN結晶のM面およびa面の少なくとも一方の無極性面が成長する、請求の範囲10に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項12】
前記基板上の前記GaN結晶層の上面が、無極性面である、請求の範囲11に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項13】
前記融液を撹拌する撹拌工程をさらに含む請求の範囲1に記載のGaN結晶製造方法。
【請求項14】
主要面として無極性面を有し、2結晶法X線回析によるロッキングカーブの半値全幅が0を超え200秒以下の範囲であり、転位密度が0を超え10個/cm以下の範囲である、GaN結晶。
【請求項15】
炭素を含む、請求の範囲14に記載のGaN結晶。
【請求項16】
請求項1に記載の製造方法により製造された、請求の範囲14に記載のGaN結晶。
【請求項17】
請求の範囲14に記載のGaN結晶を含み、前記無極性面が、半導体層が形成される基板面である、GaN結晶基板。
【請求項18】
請求の範囲17に記載の基板を含み、前記基板面の上に、半導体層が形成されている、半導体装置。
【請求項19】
前記半導体装置が、LED、半導体レーザーまたはパワー高周波電子素子である請求の範囲18に記載の半導体装置。
【請求項20】
少なくともアルカリ金属とガリウムとを含む融液中において、GaN結晶を製造する製造装置であって、
前記融液中の炭素の含有量を調整する調製部と、
前記ガリウムと窒素とが反応する反応部とを備えたGaN結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−189270(P2010−189270A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95304(P2010−95304)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願2008−544184(P2008−544184)の分割
【原出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】