説明

ICAM−1のsiRNA阻害のための組成物及び方法

【解決手段】 ICAM−1遺伝子に特異的な低分子干渉RNAを用いたRNA干渉は、この遺伝子の発現を阻害する。ICAM−1仲介性細胞接着を伴う疾患、例えば、炎症性疾患及び自己免疫疾患、糖尿病性網膜症及び糖尿病I型から生じる他の合併症、年齢関連性黄斑変性症、及び様々なタイプの癌などを、前記低分子干渉RNAを投与することによって治療され得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本明細書は、2003年1月16日出願の米国仮出願番号第60/440,579号明細書に対して優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、特に、細胞間接着に関する疾患若しくは状態を治療するための、低分子干渉RNAによるICAM−1遺伝子発現の制御に関するものある。
【背景技術】
【0003】
多くの生理学的過程において、細胞は、他の細胞若しくは細胞外マトリックスに密接に接触し、接着していることが必要とされている。細胞−細胞、及び細胞−マトリックス間の相互作用は、細胞間接着分子若しくは"ICAMs"のいくつかのファミリーを通じて仲介される。
【0004】
ICAM−1は、免疫グロブリンスーパーファミリーの110キロダルトンメンバーであり(Simmons et al.,1988,Nature(London) 331:624〜627)、限られた数の細胞上に発現し、刺激がなければ低レベルで発現する(Dustin et al.,1986 J.Immunol.137,245〜254)。炎症介在物質で刺激した場合、異なる組織で様々な細胞タイプがそれらの表面に高レベルでICAM−1を発現する(Springer et al.,supra;Dustin et al.,supra;Rothlein et al.,1988,J.Immunol.141:1665〜1669)。刺激されICAM−1を発現した細胞は、血管内皮細胞、胸腺や他の上皮細胞、及び線維芽細胞などの非造血性細胞、及び組織マクロファージ、分裂促進因子で刺激されたTリンパ球芽細胞、及び扁桃腺、リンパ節、パイエル板における胚中心樹状細胞などの造血性細胞を含む。ICAM−1誘導は、ICAM−1 mRNAの転写の増加を介して生じ(Simmons et al.,supra)、誘導後4時間で検出可能になり、誘導後16〜24時間でピークとなる。
【0005】
In vitro研究によって、ICAM−1に対する抗体がサイトカイン活性化内皮細胞への白血球の接着を阻害することが示された(Boyd et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3095〜3099;Dustin and Springer,1988,J.Cell.Biol.107:321〜331)。従って、ICAM−1発現は、免疫細胞の炎症部位への血管外遊走に必要とされるように見える。ICAM−1に対する抗体は、T細胞死滅、混合性リンパ球反応、及びT細胞仲介性B細胞分化も阻害し、これはICAM−1がこれら同族細胞相互作用に必要であることを意味している(Boyd et al.,supra)。抗原が存在する場合のICAM−1の関与は、ICAM−1欠損マウスB細胞変異が抗原依存性T細胞増殖を刺激することができないことによって示された(Dang et al.,1990,J.Immunol.144:4082〜4091)。反対に、マウスL細胞は、ヒトT細胞に対する抗原が存在するために、HLA−DRに加えてヒトICAM−1での形質移入を必要とする(Altmann et al.,1989,Nature(London)338:512〜514)。従って、ICAM−1機能を阻害することによって、移植拒絶の間の免疫細胞の認識と活性を阻害することができ、リュウマチ性関節炎、喘息、及び再灌流損傷の動物モデルの治療に有効である。
【0006】
ICAM−1の発現は、アレルギー性接触皮膚炎、固定薬剤皮疹、扁平苔癬、及び乾癬などの炎症性皮膚障害にも関連している(Ho et al.,1990,J.Am.Acad.Dermatol.,22:64〜68;Griffiths and Nickoloff,1989,Am.J.Pathology 135:1045〜1053;Lisby et al.,1989,Br.J.Dermatol.120:479〜484;Shiohara et al.,1989,Arch.Dermatol.125:1371〜1376)。さらに、ICAM−1発現は、リウマチ性関節炎の患者の滑膜において(Hale et al.,1989,Arth.Rheum.,32:22〜30)、糖尿病の膵臓B細胞において(Campbell et al.,1989,P.N.A.S.USA 86:4282〜4286)、バゼドウ病の患者の甲状腺濾胞細胞において(Weetman et al.,1989,J.Endocrinol.122:185〜191)、腎臓及び肝臓同種移植片拒絶において(Faull and Russ,1989,Transplantation 48:226〜230;Adams et al.,1989,Lancet 1122〜1125)、及び炎症性腸疾患(IBD)組織において(Springer T.,1990,Nature 346:425〜34)も検出された。
【0007】
ICAM−1発現は、既存の血管からの新規血管の形成である血管新生においても関係がある。血管新生とは、細胞遊走、増殖、及び分化に関連した内皮細胞遺伝子発現の特性の変化を伴う複雑な過程であり、親血管の基底膜の局在性分解から始まるものである。次にその内皮細胞は親血管から間質性細胞外マトリックス(ECM)へと遊走し、ECMの内皮細胞の継続した遊走や増殖に起因して伸張する毛細血管出芽を形成する。血管新生の間の内皮細胞とECMとの相互作用は、部分的にはICAM−1発現の増加によって引き起こされる細胞−マトリックス接触の変化を必要とする。
【0008】
異常血管新生、若しくは新規血管の病的な増殖は、様々な状態を意味している。これらの状態としては、糖尿病性網膜症、乾癬、滲出性若しくは"濡れた"年齢関連性黄斑変性症("AMD")、リュウマチ性関節炎や他の炎症疾患、及びほとんどの癌が挙げられる。AMDは特に、臨床的に重要な血管新生病である。この状態は、高齢者の片目若しくは両目における脈絡叢新生血管によって特徴付けられ、先進工業国における失明の主要な原因である。
【0009】
糖尿病I型で共通に見られるいくつかの合併症にも、ICAM−1の発現が関与している。例えば毛細血管内皮への白血球のICAM−1仲介性接着("leukostasis"とも呼ばれる)は、糖尿病の特定の組織、例えば網膜、末梢神経、及び腎臓などにおいて微小血管虚血を引き起こすことができる。これはこれらの組織の毛細非灌流を生じ、次に糖尿病性網膜症(Miyamoto K et al.,(2000),Am.J.Pathol.156:1733〜1739;Miyamoto K et al.(1999),P.N.A.S USA 96:10836〜1084)、神経障害(Jude EB et al.(1998),Diabetologia 41:330〜6)、若しくは腎障害を導く。Miyamotoら(1999,P.N.A.S USA 96:10836〜10841)は、ICAM−1仲介性leukostasisの阻害によって糖尿病に関連した網膜異常を阻害することができると示唆した。しかしながら、少なくとも1つの研究では、糖尿病の"ウィスター系脂肪"ラットモデルにおける糖尿病性腎障害の発展には、糸球体におけるICAM−1発現の関与は見られないと報告した(Matsui H et al.(1996),Diabetes Res.Clin.Pract.32:1〜9)。
【0010】
ICAM−1は、糖尿病I型における大血管性疾患(例えば冠動脈疾患、脳血管疾患、及び末梢血管疾患など)の発病にも関与しており、これは部分的には、アテローム性動脈硬化症の促進、及び血栓症の増加に起因するものである。例えば、ICAM−1は、アテローム性硬化硬化型プラークにおいて発見され、糖尿病におけるアテローム性動脈硬化症の開始と発展を伴っているようである(Jude EB et al.(2002),Eur.J.Intern.Med.13:185〜189)。
【0011】
従って、ICAM−1は、正常過程及び病態生理学的過程の両方において絶対不可欠な役割を担っている(Springer et al.,1987,Ann.Rev.Immunol.5:223〜252)。従って、ICAM−1機能或いは発現を阻害することによる細胞接着を媒介するための戦略が開発されてきた。そのような戦略では一般的に、抗ICAM−1抗体、ICAM−1結合を競合的に阻害するリガンド、若しくはICAM−1 mRNAに対するアンチセンス核酸分子を用いる。しかしながら、そのような治療で用いられた作用因子は、ICAM−1の化学量論的な減少のみ産生し、一般的には罹患細胞若しくは活性化細胞によるICAM−1の異常な高産生によって圧倒される。従って、これらの戦略によって達成された結果は満足できるものではなかった。
【0012】
RNA干渉(以後"RNAi"とする)は、転写後遺伝子制御の方法であり、多くの真核生物を通じて保存されているものである。RNAiは、すべての細胞に存在する、短い(例えば、<30ヌクレオチド)二本鎖RNA("dsRNA")分子によって誘導される(Fire A et al.(1998),Nature 391:805〜811)。"低分子干渉RNA"若しくは"siRNA"と呼ばれるこれらの短いdsRNA分子は、前記siRNAと配列相同性を有しているメッセンジャーRNAs("mRNAs")を破壊することで1ヌクレオチドの範囲での分解を引き起こす(Elbashir SM et al.(2001),Genes Dev,15:188〜200)。このsiRNAと標的mRNAは、前記標的mRNAを切断する"RNA誘導サイレンシング複合体"若しくは"RISC"に結合すると考えられている。siRNAは明らかに複数−回転(multiple−turnover)酵素と同様に再利用され、1つのsiRNA分子は約1000mRNA分子の切断を誘導することが可能である。従って、mRNAのsiRNA仲介RNAi分解は、標的遺伝子の発現を阻害するための現在利用可能な技術に比べてより効果的である。
【0013】
Elbashir SMら((2001),supra)は、21及び22ヌクレオチド長で短い3’オーバーハングを有する合成siRNAは、ショウジョウバエ細胞可溶化液中の標的mRNAのRNAiを誘導することができることを示した。培養哺乳類細胞でも合成siRNAによるRNAiが見られ(Elbashir SM et al.(2001)Nature 411:494〜498)、さらに、合成siRNAによって誘導されたRNAi分解は最近、生きているマウスでも示された(McCaffrey AP et al.(2002),Nature,418:38〜39;Xia H et al.(2002),Nat.Biotech.20:1006〜1010)。siRNA誘導性RNAi分解の治療上の潜在能力は、HIV−1感染のsiRNA指向性(siRNA−directed)阻害(Novina CD et al.(2002),Nat.Med.8:681〜686)、及び神経毒性ポリグルタミン疾患タンパク質発現の減少(Xia H et al.(2002),supra)を含む、最近のいくつかのin vitro研究で実証された。
【0014】
従って、ICAM−1仲介性細胞接着を効果的に減少する若しくは阻害するICAM−1の発現を阻害する、触媒的若しくは半化学量論的量の作用因子が必要とされている。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0015】
本発明は、特にICAM−1遺伝子からのmRNAのRNAi誘導分解を標的にし、それを引き起こすsiRNAに関するものである。本発明のsiRNA化合物や組成物は、細胞接着及び細胞接着仲介性病態を治療するために用いられる。特に、本発明のsiRNAは、例えば、癌性腫瘍、年齢関連性黄斑変性症、及び他の血管新生病の治療などにおいて、血管新生を阻害するために有用である。
【0016】
従って、本発明は、ヒトICAM−1mRNA、若しくはその選択的スプライシング型、変異体若しくは同族体を標的とする単離されたsiRNAを提供する。前記siRNAは、RNA二本鎖を形成するセンスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖とを有する。前記センスRNA鎖は、標的mRNAにおける近接した約19〜約25ヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を有している。
【0017】
本発明は、本発明のsiRNAを発現する組換えプラスミドとウイルス性ベクター、さらに本発明のsiRNAと薬学的に許容可能な担体とを有する薬学的組成物も提供する。
【0018】
本発明はさらに、ヒトICAM−1 mRNA、若しくはその選択的スプライシング型、変異体、若しくは同族体の発現を阻害する方法を提供し、これは標的mRNAが分解されるように本発明のsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有するものである。
【0019】
本発明はさらに、細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態を治療する方法も提供し、これはヒトICAM−1 mRNA、若しくはその選択的スプライシング型、変異体、若しくは同族体を標的としたsiRNAの有効量をそのような治療を必要としている対象に投与する工程を有するものである。
【0020】
本発明はさらに、対象における血管新生を阻害する方法も提供し、これはヒトICAM−1 mRNA、若しくはその選択的スプライシング型、変異体若しくは同族体を標的としたsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有するものである。
【0021】
本発明はさらに、対象における糖尿病I型による合併症を治療する方法も提供し、これはヒトICAM−1 mRNA、若しくはその選択的スプライシング型、変異体若しくは同族体を標的としたsiRNAの有効量をそのような治療を必要とする対象に投与する工程を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
特に指示しない限り、この中の全ての核酸配列は5’から3’方向に示されているものとする。また、核酸配列における全てのデオキシリボヌクレオチドは、大文字で表されており(例えばデオキシチミジンは"T"である)、核酸配列におけるリボヌクレオチドは、小文字で表されている(例えばウリジンは"u"である)。
【0023】
ICAM−1 mRNAを標的にしたsiRNAを有する組成物及び方法は、細胞接着及び細胞接着仲介性病態の阻害若しくは予防において有利に用いられる。ここで用いられたように"細胞接着及び細胞接着仲介性病態"とは、疾患若しくは状態を発病する及び/若しくは維持するために、ある細胞と他の細胞との若しくはある細胞と細胞外マトリックスとのICAM−1仲介性接着を必要とするあらゆる疾患若しくは状態を言及する。例えば、血管新生は内皮細胞の細胞外マトリックスとのICAM−1仲介性接着を必要とするように、当業者にとってそのような疾患や状態は周知である。さらに、炎症部位への免疫細胞の血管外遊走は、白血球のサイトカイン活性化内皮細胞へのICAM−1仲介性接着を必要とする。他の細胞接着及び細胞接着仲介性病態としては、AIDS関連性痴呆、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アルツハイマー病、血管新生(病原性若しくは非病原性血管新生を含む)、抗原提示、喘息、アテローム性動脈硬化症、ある種の毒性及び免疫性腎炎、接触性経皮過敏症、角膜/辺縁系損傷、糖尿病I型、例えば糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎障害、及び大血管性疾患などの糖尿病I型から生じる合併症、バゼドウ病、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病を含む)、炎症性肺疾患、ウイルス感染の炎症性続発症、炎症性皮膚障害(例えば、アレルギー性接触皮膚炎、固定薬剤皮疹、扁平苔癬、及び乾癬など)、腎臓、肝臓及び骨髄移植を含む移植(同種移植)拒絶における免疫細胞認識と活性、免疫細胞相互作用(例えば、T細胞死滅、混合性リンパ球反応、及びT細胞仲介性B細胞分化など)、髄膜炎、多発性硬化症、多発性骨髄腫、心筋症、肺線維症、再灌流損傷、再狭窄、網膜炎、リュウマチ性関節炎、敗血性関節炎、脳卒中、腫瘍増殖と転移、及びuveititisを含む。
【0024】
本発明のsiRNAは、ICAM−1遺伝子のタンパク質産物が産生しない、若しくは少量で産生されるように、ICAM−1 mRNAのRNAi仲介性分解を引き起こす。ICAM−1遺伝子産物は、特定の細胞間若しくは細胞−ECM接着現象を必要とするため、ICAM−1 mRNAのsiRNA仲介性分解は細胞間若しくは細胞−ECM接着を阻害する。従って、細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態は、本発明のsiRNAを用いてICAM−1 mRNAのRNAi分解を誘導することによって治療され得る。
【0025】
従って、本発明は単離されたsiRNAを提供し、これは、前記標的mRNAを標的とした約17ヌクレオチド〜29ヌクレオチド長の、好ましくは約19〜25ヌクレオチド長の短い二本鎖RNAを有するものである。前記siRNAは、標準ワトソン−クリック塩基対相互作用(ここでは以後"塩基対の(base−paired)"とする)によってアニールされたセンスRNA鎖と相補的なアンチセンスRNA鎖とを有している。以下により詳細に記載されているように、前記センス鎖は、前記標的mRNA内に含まれる標的配列と実質的に同一な核酸配列を有している。
【0026】
ここで用いられたように、前記標的mRNA内に含まれる標的配列と"実質的に同一な"核酸配列とは、標的配列と同一な、若しくは1若しくはそれ以上のヌクレオチドが前記標的配列とは異なっている、核酸配列である。標的配列に実質的に同一な核酸配列を有する本発明のセンス鎖は、そのようなセンス鎖を有するsiRNAが前記標的配列に含まれるmRNAのRNAi仲介性分解を誘導するという点で特徴付けられる。例えば、本発明のsiRNAは、標的mRNAのRNAi仲介性分解がsiRNAによって誘導される限りで、1、2、或いは3、若しくはそれ以上のヌクレオチドが標的配列と異なっている核酸配列を有しているセンス鎖を有することができる。
【0027】
本発明のsiRNAのセンス及びアンチセンス鎖は、2つの相補的で一本鎖RNA分子を有することができる、若しくは2つの相補的な部分は塩基対であり、一本鎖"ヘアピン"領域で共有結合的にリンクしている、1分子を有することができる。あらゆる理論に束縛されることなく、後者タイプのsiRNA分子のヘアピン領域は、"ダイサー"タンパク質(若しくはその等価物)によって細胞間を切断され、2つの独立した塩基対RNA分子を形成すると信じられている(Tuschl,T.(2002),supraを参照のこと)。
【0028】
ここで用いられたように"単離された"とは、合成の、若しくはヒトの介入を通じて天然状態から変化した或いは除去されたことを意味する。例えば、生きた動物中に天然に存在するsiRNAは"単離され"てないが、合成siRNA、若しくはその天然状態の共存物質から部分的に或いは完全に分離されたsiRNAは"単離され"ている。単離されたsiRNAは、実質的に精製された形態で存在し得る、若しくは例えば、siRNAが運搬された細胞などの非天然環境中に存在し得る。一例として、天然過程により細胞内部に生産されるが、"単離された"前駆分子から生成されるsiRNAは、"単離された"分子である。従って、単離されたdsRNA若しくはタンパク質は、標的細胞へ導入され得、ダイサータンパク質(若しくはその等価物)によって単離されたsiRNA内へプロセシングされる。
【0029】
ここで用いられたように"標的mRNA"とは、ヒトICAM−1 mRNA、ヒトICAM−1 mRNAの変異体或いは選択的スプライシング体、若しくは同族ICAM−1遺伝子からのmRNAを意味する。ヒトICAM−1 mRNA配列は、cDNAに相当するものとして、配列ID番号:1に示されている。当業者は、cDNA配列はmRNA配列と同等であり、ここにおいて同じ目的、すなわち、ICAM−1の発現を阻害するためのsiRNAの産生で用いることが可能であることを理解するであろう。
【0030】
ここで用いられたように、ヒトICAM−1と"同族な"遺伝子若しくはmRNAは、ヒトICAM−1と相同な別の哺乳類種からの遺伝子若しくはmRNAである。例えば、マウスからの同族ICAM−1 mRNAは、cDNAに相当するものとして、配列ID番号:2に示されている。
【0031】
ヒトICAM−1遺伝子から転写されたmRNAは、選択的スプライシング体に対して本分野ではよく知られた技術を用いて解析され得る。そのような技術は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロッティング、及びin−situハイブリダイゼーションなどが含まれる。mRNA配列を解析するための技術は、例えば、Busting SA(2000),J.Mol.Endocrinol.25:169〜193に記載されており、そこで開示された全てはこの参照によって本明細書に組み込まれる。選択的スプライシングmRNAを同定するための代表的な技術は、以下にも記載されている。
【0032】
例えば、所定の疾患遺伝子に関連したヌクレオチド配列を含むデータベースは、選択的スプライシングmRNAを同定するために使用することができる。そのようなデータベースは、GenBank、Embase、the Cancer Genome Anatomy Project(CGAP)データベースが含まれる。例えば、このCGAPデータベースは、様々なタイプのヒト癌からの発現遺伝子配列(ESTs)を含む。ICAM−1遺伝子からのmRNA若しくは遺伝子配列は、選択的スプライシングmRNAsを表すESTsが発見されたかどうかを決定するためにそのようなデータベースをクエリーするために使用することができる。
【0033】
"RNAse(RNA分解酵素)保護"と呼ばれる技術は、選択的スプライシングICAM−1 mRNAを同定するために使用することができる。RNAse保護は、例えば、ICAM−1を発現するように誘導された細胞などの他の細胞に由来したRNAとハイブリダイズされた合成RNAへの遺伝子配列の翻訳を必要とするものである。次にこのハイブリダイズされたRNAは、RNA:RNAハイブリッドミスマッチを認識する酵素をともにインキュベートされる。予想より小さい断片(フラグメント)は、選択的スプライシングmRNAsの存在を意味している。推定上の選択的スプライシングmRNAsは、当業者にはよく知られた方法によって、クローニングされ、配列決定される。
【0034】
RT−PCRも、選択的スプライシングICAM−1 mRNAsを同定するために使用することができる。RT−PCRにおいて、活性化白血球からのmRNA、炎症性腸疾患組織の細胞からのmRNA、若しくはICAM−1を発現すると知られている他の組織の細胞からのmRNAは、当業者にはよく知られた方法を用いて、酵素逆転写によってcDNAへ変換される。次にこのcDNAの全コード配列は、3’非翻訳領域に位置付けられた前方(フォワード)プライマーと、5’非翻訳領域に位置付けられた後方(リバース)プライマーとを用いるPCRによって増幅される。増幅産物は、例えば、正常なスプライシングmRNAから発現した産物のサイズと増幅された産物のサイズとを比較すること(すなわち、アガロースゲル電気泳動)によって、選択的スプライシング体のための解析ができる。前記増幅産物のサイズにおけるどんな変化も、選択的スプライシングを意味するものである。
【0035】
変異ICAM−1遺伝子から産生されたmRNAも、ICAM−1選択的スプライシング体を同定するための上述された技術を用いて、容易に解析され得る。ここで用いられたように"変異ICAM−1遺伝子若しくはmRNA"は、ここで説明されたICAM−1配列からの配列とは異なるヒトICAM−1遺伝子、若しくはmRNAを含む。従って、ICAM−1遺伝子対立遺伝子型、及びそれらからのmRNA産物は、本発明の目的のために"変異体"として考えられる。
【0036】
ヒトICAM−1 mRNAは、そのそれぞれの選択的スプライシング体、同族体、若しくは変異体と共通した標的配列を含む可能性があると理解されている。従って、そのような共通の標的配列を有している1つのsiRNAは、共通の標的配列を含むそれらの異なるmRNAsのRNAi仲介性分解を誘導することができる。
【0037】
本発明のsiRNAは、1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換及び/若しくは変更による天然由来のRNAとは異なる変化RNAと同様に、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、若しくは組換え的に生成されたRNAを有し得る。そのような変化は、例えば、siRNAの末端へ或いは1若しくはそれ以上の内部ヌクレオチドへの非ヌクレオチド物質の付加、siRNAをヌクレアーゼ消化耐性にするような修飾(例えば、2’−置換リボヌクレオチドの使用、若しくは糖−リン酸バックボーンの修飾など)、若しくは、siRNAの1若しくはそれ以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドでの置換を含むことができる。血清、涙液(lachrymal fluid)、若しくは他のヌクレアーゼが豊富な環境にさらされたsiRNA、若しくは局所的に運搬された(例えば目薬などで)siRNAは、ヌクレアーゼ分解に対する耐性が増加するように変えられていることが好ましい。例えば、血管内に、若しくは眼に局所的に投与されたsiRNAは、1若しくはそれ以上のホスホロチオエート連鎖を有し得る。
【0038】
一本鎖若しくは両鎖の本発明のsiRNAは、3’オーバーハングも有することができる。ここで用いられたように、"3’オーバーハング"とは、RNA鎖の3’末端から伸長した少なくとも1つの不対ヌクレオチドを意味する。
【0039】
従って、1実施形態において、本発明のsiRNAは、1〜約6ヌクレオチド(リボヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドを含む)長、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長、からなる少なくとも1つの3’オーバーハングを有している。
【0040】
siRNA分子の二本鎖は3’オーバーハングを有しているという1実施形態において、前記オーバーハングの長さは、各鎖で同じ若しくは異なってもよい。最も好ましい実施形態において、前記3’オーバーハングは、siRNAの両方の鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば、本発明のsiRNAの各鎖は、ジチミジル酸("TT")若しくはジウリジル酸("uu")の3’オーバーハングを有することができる。
【0041】
本発明のsiRNAの安定性を増強するために、前記3’オーバーハングも分解に対して安定化され得る。1実施形態において、前記オーバーハングは、アデノシン若しくはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含むことによって安定化される。あるいは、例えば3’オーバーハングのウリジンヌクレオチドの2’−デオキシチミジンでの置換などの、修飾された類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換は、耐容性を示し、RNAi分解の効率に影響を与えないものである。特に、2’−デオキシチミジンに2’ヒドロキシルが存在しないと、組織培養液中の3’オーバーハングのヌクレアーゼ耐性が著しく増強する。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明のsiRNAは、配列AA(N19)TT若しくはNA(N21)を有しており、ここにおいてNはあらゆるヌクレオチドである。これらのsiRNAは、約30〜70% G/Cを有し、好ましくは約50% G/Cを有している。センスsiRNA鎖の配列は、それぞれ(N19)TT若しくはN21(すなわち、3〜23位)と一致するものである。後者の場合において、前記センスsiRNAの3’末端はTTに変換される。この配列変換の理論的な解釈としては、センス及びアンチセンス鎖3’オーバーハングの配列組成に関して対照的な二本鎖を生じることである。次に前記アンチセンスRNA鎖は、前記センス鎖の1〜21位を補完するものとして合成される。
【0043】
これらの実施例における23−ntセンス鎖の1位は、アンチセンス鎖による配列特異的な方法では認識されないので、前記アンチセンス鎖のほとんどの3’−ヌクレオチド残基は意図的に選択され得る。しかしながら、前記アンチセンス鎖の最後から2番目のヌクレオチド(いずれの実施形態においても23−ntセンス鎖の2位を補完するもの)は、一般的に標的配列を補完するものである。
【0044】
別の実施形態において、本発明のsiRNAは、配列NAR(N17)YNNを有しており、ここにおいてRはプリン(例えばA若しくはG)であり、Yはピリミジン(例えばC若しくはU/T)である。従って、本実施形態の21−ntセンス及びアンチセンスRNA鎖のそれぞれは、一般的にプリンヌレオチドで始まる。最初に転写されたヌクレオチドがプリンである場合、pol IIIプロモーターからのRNAsの発現が唯一効果的であると信じられているように、そのようなsiRNAは、標的部位を変更することなく、pol III発現ベクターから発現され得る。
【0045】
本発明のsiRNAは、あらゆる標的mRNA配列("標的配列")における一続きの約19〜25の近接したヌクレオチドを標的とし得る。siRNAのための標的配列を選択するための技術は、例えば、Tuschl Tらの"The siRNA User Guide"(2002年10月11日改訂)に示されており、そこに開示されている全てはこの参照によって本明細書に組み込まれる。"The siRNA User Guide"は、Thomas Tuschl博士(Department of Cellular Biochemistry,AG105,Max−Planck−Institute for Biophysical Chemistry,37077 Gottingen,Germany)によって維持されているウェブサイトのワールドワイドウェブ(www)上で入手可能であり、Max Planck Instituteのウェブサイトにアクセスし、キーワード"siRNA"で検索ことによって発見することができる。従って、本発明のsiRNAのセンス鎖は、標的mRNAにおけるあらゆる近接した一続きの約19〜約25ヌクレオチドと実質的に同一なヌクレオチド配列を有している。
【0046】
一般的に、標的mRNAの標的配列は、標的mRNAに対応する特定の、好ましくは開始コドンから50〜100nt下流(すなわち3’方向)から始まるcDNA配列から選択され得る。しかしながら前記標的配列は、5’或いは3’非翻訳領域に、若しくは開始コドンに近接する領域に位置付けられ得る。例えば、ICAM−1cDNA配列中の適切な標的配列としては、
【0047】
【化1】

【0048】
従って、この配列を標的とし、各鎖に3’uuオーバーハング(オーバーハングは太字で表している)を有する本発明のsiRNAとしては、
【0049】
【化2】

である。
【0050】
配列ID番号:3を標的としているが、各鎖に3’TTオーバーハング(オーバーハングは太字で表している)を有する本発明のsiRNAとしては、
【0051】
【化3】

である。
【0052】
本発明のsiRNAが由来され得る他のICAM−1標的配列は、表1に記載された配列と、配列ID番号:20〜94に記載された配列とを含む。ここに記載された前記標的配列は、ヒトICAM−1cDNAを参照とし、従ってそれらの配列は"T"で示されたデオキシチミジンを含むことが理解される。当業者は、ICAM−1mRNAの実際の標的配列において、前記デオキシチミジンがウリジン("u")で置換されることを理解するであろう。同様に、本発明のsiRNA内に含まれる標的配列も、デオキシチミジンの代わりにウリジンを含むことが可能である。
【0053】
【表1】

【0054】
本発明のsiRNAは、当業者に知られた多くの技術を用いて得ることができる。例えば、Tuschlらによる米国公開公報第2002/0086356号に記載されたthe Drosophila in vitroシステム(この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。)などのsiRNAは従来技術において知られた方法を用いて、化学的に合成され得る、若しくは組換え的に産生され得る。
【0055】
好ましくは、本発明のsiRNAは、保護リボヌクレオシドホスホラミダイト、及び従来のDNA/RNAシンセサイザーを適切に用いて化学的に合成されるものである。siRNAは、2つ分離した相補的なRNA分子として、若しくは2つの相補的領域を有する1つのRNA分子として合成され得る。合成RNA分子若しくは合成試薬の商業的供給元としては、Proligo(Hamburg,ドイツ)、 Dharmacon Research(Lafayette、コロラド州、アメリカ)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部,Rockford、イリノイ州、アメリカ)、Glen Research(Sterling、ヴァージニア州、アメリカ)、ChemGenes(Ashland、マサチューセッツ州、アメリカ)、及びCruachem(Glasgow、英国)を含む。
【0056】
あるいは、siRNAは、あらゆる適切なプロモーターを用いて組換え環状DNAプラスミド、若しくは直線DNAプラスミドからも発現され得る。プラスミドからの本発明のsiRNAを発現するための適切なプロモーターは、例えば、U6若しくはH1RNA pol IIIプロモーター配列、若しくはサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術範囲内である。本発明の前記組換えプラスミドは、特定の組織或いは特定の細胞内環境におけるsiRNAの発現のための誘導性プロモーター若しくは制御可能なプロモーターも有することができる。
【0057】
組換えプラスミドから発現されたsiRNAは、標準技術によって培養細胞発現システムから単離され得る、若しくは細胞内で発現され得る。本発明のsiRNAを細胞へin vivoで運搬するための組換えプラスミドの使用は、以下でより詳細に論じる。
【0058】
本発明のsiRNAは、2つの分離した相補的なRNA分子として、若しくは2つの相補的な領域を有する1つのRNA分子として、組換えプラスミドから発現され得る。
【0059】
本発明のsiRNAを発現するのに適したプラスミドの選択、前記siRNAを発現するためにプラスミドへ核酸配列を挿入する方法、及び、目的細胞へ組換えプラスミドを運搬する方法は、当業者の技術範囲内である。例えば、Tuschl,T.(2002),Nat.Biotechnol,20:446〜448;Brummelkamp TR et al.(2002),Science 296:550〜553;MiyagishiM et al.(2002),Nat.Biotechhnol.20:497〜500;Paddison PJ et al.(2002),Genes Dev.16:948〜958;Lee NS et al.(2002),Nat.Biotechnol.20:500〜505;Paul CP et al.(2002),Nat.Biotechnol.20:505〜508を参照のこと(これらに開示された全体は、この参照により本明細書に組み込まれる)。
【0060】
1実施形態において、本発明のsiRNAを発現するプラスミドは、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つセンスRNA鎖コード(翻訳)領域と、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つアンチセンスRNA鎖コード領域とを有する。そのようなプラスミドは、本発明のsiRNAを発現するための組換えアデノ随伴ウイルスベクターを産生する場合に用いられ得る。
【0061】
ここで用いられたように、"polyT終止配列との操作可能な連結"とは、センス鎖若しくはアンチセンス鎖をコード化する核酸配列が5’方向のpolyT終止シグナルと即座に隣接することを意味する。前記プラスミドからの前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖の転写の間、前記polyT終止シグナルは転写を終了する働きをする。
【0062】
ここで用いられたように、プロモーターの"制御下"とは、前記プロモーターがセンス若しくはアンチセンスコード配列の転写を開始することができるように、前記センス鎖若しくはアンチセンス鎖をコード化する核酸配列がプロモーターの3’に位置することを意味する。
【0063】
本発明のsiRNAは、in vivo細胞内で組換えウイルスベクターからも発現され得る。本発明の組換えウイルスは、本発明のsiRNAをコード化する配列と、siRNA配列を発現するための適切な任意のプロモーターとを有する。適切なプロモーターは、例えば、U6或いはH1 polIIIプロモーター配列、及びサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術範囲内である。本発明の組換えウイルスベクターは、特定の組織若しくは特定の細胞内環境においてsiRNAを発現するための誘導性若しくは制御可能なプロモーターも有することができる。本発明のsiRNAをin vivoで細胞へ運搬するための組換えウイルスベクターの使用は、以下により詳細に述べる。
【0064】
本発明のsiRNAは、2つの分離した相補的なRNA分子として、若しくは2つの相補的な領域を持つ1つのRNA分子として、組換えウイルスベクターから発現され得る。
【0065】
siRNA分子を発現するためのコード配列を受容する能力があるあらゆるウイルスベクターで用いられ得、例えば、アデノウイルス(AV);アデノウイルス随伴ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えばレンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス);ヘルペスウイルス、及びそれと同等なものから由来したベクターなどである。ウイルスベクターの指向性は、ベクターをエンベロープタンパク質や他のウイルスからの別の表面抗原によってシュードタイピングすることによって、若しくは異なるウイルスキャプシドタンパク質で置換することによって、適切に修飾され得る。
【0066】
例えば、本発明のレンチウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、 Mokolaウイルス、およびそれと同等なものからの表面タンパク質でシュードタイピングされ得る。本発明のAAVベクターは、異なるキャプシドタンパク質血清型(serotype)を発現するようにベクターを設計することによって、異なる細胞を標的として作成され得る。例えば、血清型2ゲノム上の血清型2キャプシドを発現するAAVベクターは、AAV2/2と呼ばれる。AAV2/2ベクターにおけるこの血清型2キャプシド遺伝子は、AAV2/5ベクターを産生するために、血清型5キャプシド遺伝子によって置換され得る。異なるキャプシドタンパク質血清型を発現するAAVベクターを構成するための技術は、当業者の技術範囲内であり、例えば、Rabinowitz JE et al.(2002),J Virol 76:791〜801を参照のこと(なお、この全体の開示は、この参照により本明細書に組み込まれる。)。
【0067】
好ましいウイルスベクターは、レンチウイルス、AV若しくはAAVから由来したベクターである。特に好ましい実施形態において、本発明のsiRNAは、例えば、U6或いはH1RNAプロモーター、若しくはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを有する組換えAAVベクターから、2つの分離した相補的な一本鎖RNA分子として発現される。本発明のsiRNAを発現するための適切なAVベクター、組換えAVベクターを構成するための方法、及び前記ベクターを標的細胞へ運搬するための方法は、Xia H et al.(2002),Nat.Biotech.20:1006〜1010に記載されている。
【0068】
本発明のsiRNAを発現するための適切なAAVベクター、組換えAAVベクターを構成するための方法、及び前記ベクターを標的細胞へ運搬する方法は、Samulski R et al.(1987),J.Virol.61:3096〜3101;Fisher KJ et al.(1996),J.Virol,70:520〜532;Samulski R et al.(1989),J.Virol.63:3822〜3826;米国特許第5,139,941号公報;国際特許出願第WO94/13788号;国際特許出願第WO93/24641号に記載されており、これらの全体の開示は、この参照によって本明細書に組み込まれる。
【0069】
標的mRNAのRNAi仲介性分解を引き起こすための所定の標的配列を含むsiRNAの能力は、細胞中のRNAレベル若しくはタンパク質レベルを測定するための標準技術を用いて評価され得る。例えば、本発明のsiRNAは培養細胞へ運搬され得、標的mRNAのレベルはノーザンブロット若しくはドットブロッティング技術によって、若しくは定量RT−PCRによって測定され得る。或いは、培養細胞中のICAM−1タンパク質のレベルは、ELISA若しくはウエスタンブロットによって測定され得る。
【0070】
例えば、天然にICAM−1を発現している、若しくはICAM−1が発現するように誘導される細胞は、96ウェルマイクロタイタープレート中でコンフルウエンス(confluence)まで増殖される。天然にICAM−1を発現している細胞に対して、この細胞は、ICAM−1発現を刺激するために、インターロイキン−1若しくは腫瘍壊死因子で8〜24時間、刺激され得る。本発明のsiRNAは、第1群のICAM−1発現細胞に投与される。非特異的siRNA(若しくはsiRNAなし)は、対照として、第2群のICAM−1発現細胞に投与される。細胞は洗浄され、1〜2%パラホルムアルデヒドでマイクロタイタープレートのウェルに直接固定された。マイクロタイタープレート上の非特異結合部位は、2%ウシ血清アルブミンでブロックされ、細胞はICAM−1特異的モノクローナル抗体とインキュベートされた。ICAM−1抗体の結合は、例えば、1:1000希釈のビオチン標識ヤギ抗マウスIgG(Bethesda Research Laboratories,Gaithersberg,Md)と1時間、37℃でインキュベーションし、1:1000希釈のベータ−ガラクトシダーゼと共役したスレプトアビジン(Bethesda Research Laboratories)と1時間37℃でインキュベーションすることによって、検出される。ICAM−1特異的モノクローナル抗体と結合したベータ−ガラクトシダーゼは、例えば、3.3mMクロロフェノールレッド−ベータ−D−ガラクトピラノシド。50mMリン酸ナトリウム、1.5mM MgCl(pH7.2)の溶液で、2〜15分、37℃でマイクロタイタープレートを展開し、ELISAマイクロタイタープレートリーダーを用いて575nmで結合した抗体の濃度を測定することによって決定される。
【0071】
ICAM−1発現を下方制御する本発明のsiRNAの能力は、神経突起伸長、内皮細胞間の接着、上皮細胞間の接着(例えば、正常ラット腎臓細胞及び/若しくはヒト皮膚)、若しくは癌細胞間の接着を当業者の技術範囲内の技術によって測定することによって、in vitroでも評価され得る。
【0072】
適切な神経突起伸長アッセイは、ICAM−1を天然に発現している、若しくはICAM−1の発現を誘導されている単層細胞上の培養ニューロンを有する。ICAM−1発現細胞上のニューロン伸長は、ICAM−1が発現していない細胞上で培養されたニューロンに比べて、長く突起が伸長していた。例えば、ニューロンは、ICAM−1をコードしているcDNAで形質移入された3T3細胞の単層上に培養され得、基本的には、Doherty and Walsh,1994,Curr.Op.Neurobiol.4:49〜55、及びSafell et al.,1997,Neuron 18:231〜242に記載された通りであり、これらに開示された全体はこの参照によって本明細書に組み込まれる。簡潔に説明すると、対照3T3線維芽細胞、及びICAM−1を発現した3T3線維芽細胞の単層は、8ウェル組織培養ディッシュの各ウェルに80,000細胞を一晩培養することによって、達成される。出生前3日目のマウス脳から単離された3000個の小脳ニューロンは、様々な単層上で18時間培養される。次にその培養は固定され、標準技術を用いてニューロン特異的抗体(例えばGAP43)で染色される。対照細胞及び本発明のsiRNAで処理された細胞の神経突起の長さは、コンピュータ補助形態計測によって測定される。テスト細胞中のICAM−1 mRNAのsiRNA誘導性RNAi分解は、対照細胞と比較して少なくとも50%、平均神経突起の長さが増加することによって示される。
【0073】
本発明のsiRNAによるICAM−1のRNAi分解は、細胞接着の離開を検出することによっても評価され得る。例えば、ICAM−1を天然に発現している、若しくはICAM−1発現が誘導された細胞は、細胞接着が可能な標準条件下で播種される。本発明のsiRNAを投与することによる細胞接着の離開は、細胞の他の細胞からの退縮を観察することによって、24時間以内に視覚的に決定される。細胞接着の離開を検出するための適切なアッセイは、以下の通りである。ウシ肺動脈内皮細胞は、無菌除去(ablation)と、0.1%コラゲナーゼ(タイプII;Worthington Enzyme,Freehold、ニュージャージー州)での消化によって播種される。播種された細胞は、10%ウシ胎児血清(FCS)と、1%抗生剤−抗真菌剤が添加されたダルベッコ最小必須培地(DMEM)で、37℃、7% CO(空気中)において培養される。この培養は、トリプシン−EDTAで週1回継代され、20,000細胞/cmで組織培養プラスチックへ播種される。培養コンフルエンス(confluency)が達成された後の約3日後である1週間の培養後、細胞は本発明のsiRNA、若しくは対照非特異的siRNAで処理(例えば30分)される。この細胞は、siRNAが投与されて24時間以内に1%パラホルムアルデヒドで固定され、細胞接着の離開の程度を、細胞の他の細胞からの退縮を観察することによって決定された。
【0074】
本発明のsiRNAによる標的mRNA仲介性分解は、例えば、未熟網膜症("ROP")マウスモデル、脈絡叢新血管新生("CNV")マウス及びラットモデルなどの、新血管新生の動物モデルでも評価され得る。例えば、CNVラットにおける新血管新生領域は、以下の実施例2にあるように、本発明のsiRNAの投与前後で測定され得る。siRNAの投与による新血管新生領域における減少は、ICMA−1 mRNAの下方制御と細胞接着の離開とを意味する。ICAM−1mRNAの下方制御と、細胞接着の離開とは、以下の、ストレプトゾトシン誘導糖尿病性網膜症ラットモデル(実施例3)、VEGF誘導性網膜血管透過性とleukostasisのラットモデル(実施例4)、及び角膜/輪部損傷による眼球新血管新生のラットモデル(実施例5)にも示されている。
【0075】
上述したように、本発明のsiRNAは、ヒトICAM−1 mRNA、若しくはその選択的スプライシング体、変異体或いは同族体のRNAi仲介性分解を標的にし、引き起こす。本発明のsiRNAによる標的mRNAの分解は、ICAM−1遺伝子からの機能遺伝子産物の産生を減少する。従って、本発明は、対象中のICAM−1の発現を阻害する方法を提供し、これは、標的mRNAが分解されるように、本発明のsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有する。
【0076】
ICAM−1遺伝子の産物は細胞間接着若しくは細胞とRCMとの接着に必要とされるので、本発明は、細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態を患っている対象における細胞接着を阻害する方法も提供する。1実施形態において、ICAM−1仲介性細胞接着は血管新生を開始し維持するために必要とされるので、本発明は、本発明のsiRNAによる標的mRNAのRNAi仲介性分解によって対象における血管新生を阻害する方法を提供する。別の実施形態において、本発明は糖尿病I型から生じる合併症を患った対象を、本発明のsiRNAによる標的mRNAのRNAi仲介性分解によって治療する方法を提供する。好ましくは、本発明の方法によって治療される糖尿病I型から生じた合併症としては、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎障害、及び大血管性疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患、及び末梢血管疾患を含む)である。
【0077】
ここで用いられたように、"対象"とは、ヒト、若しくは非ヒト動物を含む。好ましくは、前記対象はヒトである。
【0078】
ここで用いられたように、siRNAの"有効量"とは、標的mRNAのRNAi仲介性分解を引き起こすのに十分な量、若しくは対象における細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態の開始若しくは進行を阻害するのに十分な量を指す。
【0079】
標的mRNAのRNAi仲介性分解は、上述したmRNA若しくはタンパク質の単離及び定量するための標準技術を用いて、対象の細胞中の標的mRNAレベル若しくはタンパク質レベルを測定することによって検出され得る。
【0080】
細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態の阻害は、例えば、炎症、網膜症、神経障害、腎障害、若しくは対象が治療される疾患若しくは障害の特性を示す他の症状の程度を検出することによって、対象における病態の進行を測定することによっても評価され得る。
【0081】
例えば、血管新生の阻害は、本発明のsiRNAで処理する前後の新血管新生領域のサイズを観察することによってなど、対象における病原性若しくは非病原性血管新生の進行を直接測定することによって評価され得る。新血管新生領域が同じか減少していた場合は、血管新生の阻害を意味している。対象における新血管新生領域のサイズを観察及び測定するための技術は、当業者の技術範囲内であり、例えば、脈絡膜新血管新生の領域が検眼鏡検査によって観察され得る。
【0082】
血管新生の阻害は、血管新生に関連した病的状態における変化若しくは回復の観察を通じて推測することも可能である。例えば、AMDにおいて、視覚消失の遅延、停止、若しくは回復は、脈絡膜における血管新生の阻害を意味している。腫瘍に対しては、腫瘍成長の遅延、停止、或いは逆転、若しくは腫瘍転移の停止は、腫瘍部位での或いは近くでの血管新生の阻害を意味している。非病原性血管新生の阻害は、例えば、本発明のsiRNAの投与による脂肪消失若しくはコレステロールレベルでの減少など、からも推測され得る。
【0083】
本発明の方法は、非病原性である血管新生、すなわち、対象における正常過程に起因する血管新生、を阻害するために用いられ得る。非病原性血管新生の例えとしては、子宮内膜新血管新生、及び脂肪組織或いはコレステロールの産生に関連した過程を含む。従って、本発明は、例えば、体重を調節する或いは脂肪消失を促進するための、コレステロールレベルを減少するための、若しくは堕胎薬としての、非病原性血管新生を阻害するための方法も提供する。
【0084】
本発明の方法は、血管新生病、すなわち、不適切な或いは非制御の血管新生に関連した病原性の病気、に関連した血管新生も阻害することができる。例えば、ほとんどの癌性固形腫瘍は、腫瘍内と周囲に血管新生を誘導することによって腫瘍自体に十分な血液供給を発生する。この腫瘍誘導性血管新生は、腫瘍成長に対してしばしば必要とされ、転移性細胞が血流に入ることを可能にする。
【0085】
他の血管新生病としては、糖尿病性網膜症及び年齢関連性黄斑変性症(AMD)を含む。これらの病気は、新血管新生の領域における新しく形成された血管による正常組織の破壊によって特徴付けられている。例えば、AMDにおいて、脈絡膜は、毛細血管によって侵入され、破壊されている。AMDにおける脈絡膜の血管新生に由来する破壊は、最終的には部分的な或いは完全な失明を導く。
【0086】
好ましくは、本発明のsiRNAは、癌、例えば乳癌、肺癌、頭部と頚部の癌、脳腫瘍、腹腔内腫瘍、大腸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃腸癌、グリオーマ、肝癌、舌癌、神経芽細胞腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌(例えば黒色腫)、リンパ腫、及び血液癌などに関連した固形腫瘍の成長若しくは転移を阻害するために用いられる。
【0087】
より好ましくは、本発明のsiRNAは、糖尿病I型から生じる合併症、例えば、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎障害、及び大血管性疾患など、を治療するために用いられる。
【0088】
細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態を治療するために、特に、血管新生病及び糖尿病I型から生じた合併症を治療するために、本発明のsiRNAは、本発明のsiRNAとは異なる薬剤との組み合わせで対象に投与され得る。或いは、本発明のsiRNAは、前記病態を治療するために設計された別の治療方法との組み合わせで対象に投与され得る。例えば、本発明のsiRNAは、癌を治療する、若しくは腫瘍転移を予防するために現在用いられる医療方法(例えば、放射線療法、化学療法、及び手術)との組み合わせで投与され得る。腫瘍を治療するために、本発明のsiRNAは好ましくは、放射線療法との組み合わせで、若しくはシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、若しくはタモキシフェンなどの化学療法薬剤との組み合わせで、投与される。
【0089】
本発明のsiRNAは、サブ化学量論的な量でRNA干渉(従って、細胞接着を阻害する)を仲介することができることが理解される。どんな理論に束縛されることなく、本発明のsiRNAは、RISCを誘導し、触媒様態で標的mRNAを分解すること考えられている。従って、細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態に対する標準的な治療法と比較して、治療的効果を発揮するように対象に投与される必要があるsiRNAは、著しく少ない。
【0090】
当業者は、例えば、対象のサイズや体重、疾患侵食度の程度(長さ)、年齢、対象の健康度と性別、投与経路、及び投与が局所的なのか全身的なのか、などの評価要素を配慮することによって、特定の対象に投与される本発明のsiRNAの有効量を容易に決定することができる。一般的に、本発明のsiRNAの有効量は、細胞間若しくは細胞−マトリックス接着が阻害される部位での細胞内濃度が、約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMである。
【0091】
本発明の方法において、本発明のsiRNAは、運搬試薬との結合における裸の(naked)siRNAとして、若しくはsiRNAを発現する組換えプラスミド或いはウイルスベクターとして、対象に投与され得る。
【0092】
本発明のsiRNAとの結合での投与に対する最適な運搬試薬は、the Mirus Transit TKO lipophilic reagent(遷移TKO親油性試薬)、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、若しくはポリカチオン(例えば、ポリリジン)或いはリポソームを含む。好ましい運搬試薬は、リポソームである。
【0093】
リポソームは、例えば、網膜若しくは腫瘍組織などの特定の組織へのsiRNAの運搬を助け、siRNAの血中半減期も増加することができる。本発明での使用に適したリポソームは、一般的に中性若しくは負電荷リン脂質及びコレステロールなどのステロールを含む、標準ベシクル(小胞)形成脂質から形成される。リポソームを準備するための様々な方法が知られており、例えば、Szoka et al.(1980),Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467、及び米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、及び第5,019,369号公報があり、これら全体の開示はこの参照によって本発明に組み込まれる。
【0094】
好ましくは、本発明のsiRNAを被包するリポソームはリガンド分子を有しており、このリガンド分子は、血管新生部位、若しくは腫瘍などのICAM−1仲介性細胞接着が関連した他の病的過程の部位で或いは近くで、ICAM−1を発現する細胞に対するリポソームを標的とするものである。ICAM−1を発現する細胞は、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、及び腫瘍細胞を含む。腫瘍抗原若しくは内皮細胞表面抗原において広く見られる受容体と結合するリガンドは好ましい。
【0095】
特に好ましくは、本発明のsiRNAを被包しているリポソームは、例えば、構造の表面に結合するオプソニン化阻害部位を有することによって、単核マクロファージや網膜内皮性システムによるクリアランス(排除)を避けるように修飾される。1実施形態において、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部位、及びリガンドの両方を有することができる。
【0096】
本発明のリポソームを準備するために用いられるオプソニン化阻害部位は、リポソーム膜に結合する典型的に大きな親水性ポリマーである。ここで用いられたように、オプソニン化阻害部位は、化学的に或いは物理的にリポソーム膜に結合する場合、例えば、膜自体への脂質−可溶性アンカーの挿入によって、若しくは、膜脂質の活性基への直接的な結合によって、リポソーム膜へ"結合"されるものである。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、マクロファージ−単球システム("MMS")及び網膜内皮性システム("RES")によるリポソームの取り込みが著しく減少した保護表面層を形成し、例えば、米国特許第4,920,016号公報に記載されており、これに開示された全体はこの参照によって本発明に組み込まれる。従って、オプソニン化阻害部位で修飾されたリポソームは、非修飾リポソームに比べて、より長く循環中に残る。この理由により、そのようなリポソームはしばしば"ステルス(stealth;捕捉されない)"リポソームと呼ばれる。
【0097】
ステルスリポソームは、多孔性或いは"漏出性"微小血管によって供給された組織内に蓄積されることが知られている。従って、そのような微小血管欠損によって特徴付けられた組織、例えば固形腫瘍などは、これらのリポソームが効率的に蓄積する(Gabizon,et al.(1988),P.N.A.S.,USA,18:6949〜53を参照のこと)。加えて、RESによる減少した取り込みは、肝臓及び脾臓における蓄積を著しく阻止することによって、ステルスリポソームの毒性を低くする。従って、オプソニン化阻害部位で修飾された本発明のリポソームは、本発明のsiRNAを腫瘍細胞へ運搬するのに特に適している。
【0098】
リポソームを修飾するのに適しているオプソニン化阻害部位は、好ましくは、平均分子量が約500〜約40,000ダルトンの水可溶性ポリマーであり、より好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの水可溶性ポリマーである。そのようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、若しくはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体(例えばメトキシPEG或いはPPG、及びPEG或いはPPGステアリン酸)、ポリアクリルアミド或いはポリN−ビニルピロリドンなどの合成ポリマー、直線状、分枝状、或いは樹状(dendrimeric)ポリアミドアミン、ポリアクリル酸、ポリアルコール(例えば、カルボキシル基或いはアミノ基が化学的に結合したポリビニルアルコール及びポリキシリトール)、及びガングリオシドGMなどのガングリオシド、を含む。PEGのコポリマー、メトキシPEG或いはメトキシPPG、若しくはそれらの誘導体も適している。加えて、前記オプソニン化阻害ポリマーは、PEGのブロックコポリマー、及びポリアミノ酸、ポリサッカライド、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、若しくはポリヌクレオチドも含むことができる。前記オプソニン化阻害ポリマーは、例えばガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラギーナン、アミノ化ポリサッカライド或いはオリゴサッカライド(直線状或いは分枝状)などのアミノ酸若しくはカルボキシル酸、若しくは、例えばカルボキシル基の結合の原因となるカルボン酸の誘導体と反応した、カルボキル化ポリサッカライド或いはオリゴサッカライド、を含む天然ポリサッカライドも含むことができる。
【0099】
好ましくは、オプソニン化阻害部位は、PEG、PPG、若しくはそれらの誘導体である。PEG若しくはPEG誘導体で修飾されたリポソームは、しばしば"PEG化(PEGylated)リポソーム"と呼ばれる。
【0100】
オプソニン化阻害部位は、多数の既知技術における任意の一つによってリポソーム膜と結合可能である。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシニミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂溶性アンカーと結合し、次に膜と結合することができる。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BH3、及び例えばテトロヒドロフランと水(30:12の割合)などの溶媒混合液を60℃で用いて、還元性アミノ化を介してステアリルアミン脂溶性アンカーで誘導体化され得る。
【0101】
本発明のsiRNAを発現する組換えプラスミドは、上記で説明された。そのような組換えプラスミドは、直接若しくは、the Mirus Transit LT1 lipophilic reagent(遷移LT1親油性試薬)、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、若しくはポリカチオン(例えば、ポリリジン)或いはリポソームを含む適切な運搬試薬との組み合わせで投与され得る。本発明のsiRNAを発現する組換えウイルスベクターも、上記で説明されており、ICAM−1を発現している対象の細胞へそのようなベクターを運搬するための方法は、当業者の技術範囲内である。
【0102】
本発明のsiRNAは、ICAM−1を発現する細胞へ前記siRNAを運搬するのに適したあらゆる手段によって対象へ投与され得る。ICAM−1を発現している細胞は、例えば、血管内皮細胞、胸腺及び他の上皮細胞、及び線維芽細胞などの非造血性細胞、及び組織マクロファージ、分裂促進因子で刺激されたTリンパ球芽細胞、及び扁桃腺、リンパ節、パイエル板における胚中心樹状細胞などの造血性細胞を含む。当業者は、特定の細胞は特定の状態でICAM−1を発現する、例えば、ICAM−1は、糖尿病性網膜症或いはAMDなどの眼球新生血管疾患における網膜血管内皮細胞で発現することを理解する。
【0103】
本発明のsiRNAをICAM−1発現細胞へ運搬するのに適した技術としては、ジーンガン、電気穿孔法、ナノ粒子、マイクロ被包、及びそれらと同等のものによって、若しくは非経口及び経腸の投与経路によって、対象へ前記siRNAを投与する方法を含む。
【0104】
適した経腸投与経路は、経口、直腸、若しくは鼻腔内運搬を含む。
【0105】
適した非経口投与経路は、血管内投与(例えば、静脈内大量瞬時投与、静脈内注入、動脈内大量瞬時投与、動脈内注入、及び脈管構造へのカテーテル滴下など)、組織周囲および組織内投与(例えば、腫瘍周囲及び腫瘍内注射、網膜内注射、若しくは網膜下注射など)、皮下注射、或いは(浸透圧ポンプなどによる)皮下注入を含む沈着、例えば、カテーテル或いは他の設置装置(例えば角膜ペレット或いは坐薬、目薬、若しくは多孔性、非多孔性、或いはゼラチン物質を有する移植片)による新生血管新生の領域或いは部位の周辺への直接(例えば局所的)投与、及び吸入、を含む。適した設置装置は、米国特許第5,902,598号及び第6,375,972号公報に記載された眼球移植片、及び米国特許第6,331,313号公報に記載された生分解性眼球移植片を含む。また、これら特許文献に開示された全体は、この参照により本明細書に組み込まれる。そのような眼球移植片は、Control Delivery Systems,Inc.(Watertown、マサチューセッツ州)、及びOculex Pharmaceuticals,Inc.(Sunnyvale、カリフォルニア州)から利用可能である。
【0106】
好ましい実施形態において、前記siRNAの注射若しくは注入は、新生血管新生の部位に若しくは近くになされる。例えば、本発明のsiRNAは、眼の網膜色素上皮細胞へ運搬され得る。好ましくは、前記siRNAは局所的に眼へ、例えば、液体若しくはゲル状で下目瞼或いは結膜円蓋へ、投与され、これは当業者の技術範囲内である(Acheampong AA et al.,2002.Drug Metabol.and Disposition 30:421〜429を参照のこと。またこの全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。
【0107】
一般的に、本発明のsiRNAは、約5μl〜約75μlの量で、例えば約7μl〜約50μlで、好ましくは約10μl〜約30μlの量で、眼へ局所的に投与される。本発明のsiRNAは、水溶液に高い溶解性を有しており、75μl以上の量でのsiRNAの眼への局所的滴下は、流出や排液による眼からのsiRNAの損失に終わることになる。従って、高濃度のsiRNA(例えば、約10〜約200mg/ml、若しくは約100〜約1000nMなど)を約5μl〜約75μlの量で眼へ局所滴下することによって投与することが好ましい。
【0108】
特に好ましい非経口投与経路は、眼内投与である。本発明のsiRNAの眼内投与は、この投与経路によって前記siRNAが眼に入ることが可能である限り、眼への注射若しくは直接(例えば局所的)投与によって達成され得る。上記の眼への局所的経路の投与に加えて、適した眼内投与経路としては、硝子体内、網膜内、網膜下、テノン嚢下(subtenon)、眼窩周辺及び眼窩後、トランス角膜及びトランス強膜投与を含む。そのような眼内投与経路は、当業者の技術範囲であり、例えば、Acheampong AA et al.,2002、supra、Bennett et al.(1996),Hum.Gene Ther.7:1763〜1769、及びAmbati J et al.,2002,Progress in Retinal and Eye Res.21:145〜151を参照のこと(全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。
【0109】
本発明のsiRNAは、単一用量(single dose)若しくは複数用量(multiple dose)で投与され得る。本発明のsiRNAを注入で投与する場合、この注入は単一持続性用量である、若しくは複数注射(multiple injection)によって運搬され得る。組織への直接的な前記siRNAの注射は、新生血管新生の部位若しくはその近くであることが好ましい。新生血管新生の部位若しくはその近くの組織への前記siRNAの複数注射は、特に好ましい。
【0110】
当業者は、本発明のsiRNAを所定の対象へ投与するための適切な用量処方を容易に決定することもできる。例えば、前記siRNAは、単一注射若しくは新生血管新生部位へ若しくはその近くへの沈着など、対象へ一度で投与され得る。或いは、前記siRNAは、毎日若しくは週1回で複数回、対象へ投与され得る。例えば、前記siRNAは、約3〜約28週間、より好ましくは約7〜約10週間の期間で、週1回対象へ投与され得る。好ましい用量処方において、前記siRNAは、新生血管新生の部位へ若しくはその近くへ(例えば硝子体内へ)、週1回で7週間注射され得る。無期限の期間での本発明のsiRNAの周期的な投与は、wet AMD若しくは糖尿病性網膜症などの慢性新生血管新生病を患った対象にとって必要となることが理解される。
【0111】
用量処方が複数投与である場合、対象に投与されるsiRNAの有効量は、全体の用量処方を超えて投与されたsiRNAの総量より成ることが理解される。
【0112】
本発明のsiRNAは、本分野で知られた技術によって、対象に投与する前に薬学的組成物として処方されることが好ましい。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌で発熱物質を含まないものとして特徴付けられる。ここで用いられる、"薬学的な処方"とは、ヒトへの及び獣医学的な使用に対する処方を含む。本発明の薬学的組成物を調合する方法は、当業者の技術範囲内であり、例えば、Remington‘s Pharmaceutical Science,17th ed,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1985)に記載されており、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0113】
本発明の薬学的な処方は、生理学的に許容可能な担体培地と混合された、本発明のsiRNA(例えば、0.1〜90重量%)、若しくは生理学的に許容可能なその塩類を有する。好ましい生理学的に許容可能な担体培地は、水、緩衝液、食塩水(例えば、通常食塩水若しくはハンクス或いはアール平衡塩類溶液などの平衡塩類溶液)、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸、及びそれらと同等のものである。
【0114】
本発明の薬学的組成物は、従来の薬学的賦形剤及び/若しくは添加剤も有する。適した薬学的賦形剤は、安定剤、抗酸化剤、重量モル浸透圧濃度調節因子、緩衝液、及びpH調節因子を含む。適した添加剤は、生理学的な生体適合性緩衝液(例えば、トロメタミン塩酸塩)、キレートの添加(例えばDTPA若しくはDTPA−ビスアミドなど)或いはカルシウムキレート複合剤(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミドなど)、若しくは任意に、カルシウム或いはナトリウム塩の添加(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、或いは乳酸カルシウムなど)を含む。本発明の薬学的組成物は、液状での使用のために調合(包装)される、若しくは凍結乾燥される。
【0115】
眼への局所的投与のために、従来の眼内運搬因子が用いられ得る。例えば、局所的眼内運搬のための本発明の薬学的組成物は、上述した食塩水、角膜浸透増進剤、不溶性粒子、ワセリン或いは他のゲル状軟膏、眼における滴下による粘性増加に耐えるポリマー、若しくは粘膜付着性ポリマーを有する。好ましくは、前記眼内運搬因子は、角膜浸透が増加する、若しくは粘性効果を通じて、或いは角膜上皮を覆っているムチン層との物理化学的な相互作用によって前記siRNAの眼前(preocular)保持を延長する。
【0116】
局所的眼内運搬に適した不溶性粒子は、リン酸カルシウム粒子(Bellらによる米国特許第6,355,271号公報に記載されており、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)。眼における滴下による粘性増加に耐える、適したポリマーは、poloxamer 407などのポリエチルエネポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば25%濃度)、セルロースアセトフタル酸(例えば、30%濃度)、若しくはGelrite(商標)(CP Kelco、Wilmington、デラウェア州)などの低アセチルゲラン(gellan)ガムを含む。適した粘膜付着性ポリマーは、カルボキシル、ヒドロキシル、アミド及び/若しくは硫酸基などの多数の親水性機能基を有する親水コロイド(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、高分子量ポリエチレングリコール(例えば平均分子量が>200,000)、デキストラン、ヒアルロン酸、ポリガラクツロ酸、及びキシロカン(xylocan))を含む。適した角膜浸透増進剤は、シクロデキストリン、ベンザルコニウム塩化物、ポリオキシエチレングリコールラウリルエーテル(例えば、Brij(商標)35)、ポリオキシエチレングリコールステアリルエーテル(例えば、Brij(商標)78)、ポリオキシエチレングリコールオレイルエーテル(例えば、Brij(商標)98)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジギトニン、タウロコール酸ナトリウム、サポニン、及びCremaphor ELなどのポリオキシエチル化ヒマシ油を含む。
【0117】
固体組成物のために、従来の無毒性固体単体が用いられ得、例えば、薬学的グレードのマンニトール、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム(滑石粉)、セルロース、グルコース、スクロース、マグネシウム炭酸塩、及びそれらと同等なものである。
【0118】
例えば、経口投与のための固体薬学的組成物は、上記の任意の担体と賦形剤、及び10%〜95%、好ましくは25%〜75%の1若しくはそれ以上の本発明のsiRNAを有する。エアロゾル(吸入性)投与のための薬学的組成物は、0.01重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%の1若しくはそれ以上の本発明のsiRNAを有し、このsiRNAは上述したようにリポソームに被包され、噴霧剤となる。例えば鼻腔内運搬のためのレシチンなどの担体も要望通りに含むことができる。
【0119】
本発明は、以下の限定されない実施例によって説明される。
【実施例1】
【0120】
ヒトICAM−1 mRNAを標的としたsiRNAによるヒトICAM−1発現の阻害
サイトカイン若しくは低酸素によるHEK−293細胞中のICAM−1産生の刺激
ヒト胚性腎(HEK)−293細胞におけるICAM−1の産生を刺激するための、低酸素若しくはサイトカインである腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)やインターフェロンガンマ(IFN−γ)の能力を評価した。
【0121】
HEK−293細胞を、5%CO、37℃で一晩、24ウェルプレートにおいて標準成長培養液で培養した。次に細胞を、1、10、100或いは1000ngのTNF−α若しくはIFN−γ(R&D Systems、Minneapolis、ミネソタ州)で別々に処理した、若しくは、100、200或いは300mMデスフェリオキサミン(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)での処理によって低酸素とした。サイトカイン若しくはデスフェリオキサミンでの処理の1或いは2日後、細胞をM−PER Mammalian Protein Extraction reagent(哺乳類タンパク質抽出試薬)(Pierce、Rockford、イリノイ州)で溶解した。ヒトICAM−1 ELISA(R&D Systems、Minneapolis、ミネソタ州)を、Quantikineヒト"sICAM1"ELISA手順に記載されたように、細胞溶解液で実行し、このELISAの結果はAD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で検出した。
【0122】
図1に示すように、HEK−293細胞におけるヒトICAM−1タンパク質のレベルが上昇した唯一の条件は、100ng/ml TNF−αで2日間細胞を処理したものであった。
【0123】
ヒトICAM−1 mRNAを標的としたsiRNAによる、刺激されたHEK−293細胞の処理
HEK−293細胞を、実施例1のように一晩培養した。細胞が約50%コンフルエントになった時、実験細胞と対照細胞への形質移入を次の日実行した。実験細胞は、リン酸カルシウム形質転換試薬で混合した25nMヒトICAM−1 siRNAで形質転換した。対照細胞は、siRNAを欠いたリン酸カルシウム試薬で、若しくはリン酸カルシウム形質転換試薬中の25nM非特異的siRNA(EGFP siRNA)で処理した。
【0124】
実験細胞に対しては、ヒトICAM−1 mRNA内の異なる位置を標的とした10個のsiRNAを試験した。これらのsiRNAは、表2に挙げた配列を標的としており、全てのsiRNAは、3’TTオーバーハングを各鎖に含んでいた。
【0125】
【表2】

【0126】
形質転換4時間後、HEK−293細胞中のICAM−1の産生は、最終濃度100ng/mlでのTNF−αで処理することによって刺激した。形質転換後48時間で、全てのウェルから上清を除去した。実験細胞及び対照細胞の第1群は、M−PER Mammalian Protein Extraction reagent(Pierce、Rockford、イリノイ州)で溶解した。ヒトICAM−1 ELISA(R&D systems、Minneapolis、ミネソタ州)を、実施例1と同様に細胞溶解液で実行した。図2に示したように、hICAM1#2、hICAM1#3、hICAM1#7、hICAM1#9、及びhICAM1#10のsiRNAで刺激された、HEK−293細胞中に誘導されたICAM−1タンパク質のレベルは、siRNAなし、若しくは非特異的siRNAで形質転換された細胞と比較して減少した。
【0127】
細胞毒性アッセイは、実験細胞及び対照細胞の第2群で実行した。上述したように形質転換後48時間で上清を除去した後、10% AlamarBlue(Biosource、Camarillo、カナダ)を含む完全増殖培養液を、対象細胞及び実験細胞へと添加し、37℃、5% COで3時間インキュベートした。細胞増殖は、細胞恒常性活性に起因する培養液の色変化を検出することによって測定した。この色変化は、AD340プレートリーダー(Beckman Coulter)で検出し、その結果は図3に示した。図3から分かるように、hICAM1#1〜9はHEK−293細胞における著しい細胞毒性を示さなかった。hICAM1#10は、対照細胞と比較して、HEK−293細胞増殖のわずかな減少を引き起こした。
【0128】
細胞毒性アッセイが実行された後、AlamarBlueを含む増殖培養液を完全に除去し、製造者説明書に従ってRNAqueous RNA isolation kit(RNA単離キット)(Ambion、Austin、テキサス州)を用いて、RNAをHEK−293細胞から抽出した。前記細胞中のヒトICAM−1 mRNAのレベルは、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)によって測定し、内部標準としてはヒトグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAのレベルを用いた。このRT−PCR実験によって、TNF−αによって誘導されたICAM−1の産生は、siRNAなし若しくは非特異的siRNAで形質転換された細胞と比較して、ヒトICAM−1 siRNAによって、転写レベルで抑制された。
【実施例2】
【0129】
ICAM−1を標的としたsiRNAによるストレプトゾトシン誘導糖尿病性網膜症の治療
糖尿病性網膜症を患った個人の網膜における血管漏出と非灌流は、空間的、時間的に白血球静止と関連している。例えばMiyamoto K et al.(1999),Proc.Nat.Acad.Sci.USA96(19):10836〜41を参照し、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。ICAM−1を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、白血球静止を減少し、従って糖尿病ラットにおける網膜血管透過性を減少すると予想される。
【0130】
Miyamoto K et al.(1999),supra.に記載されたように、Long−Evans(ロングエバンス)ラット(約200g)に、一晩後、糖尿病を誘導するために、クエン酸緩衝液中のストレプトゾトシンを硝子体内に注射する。Long−Evansラット(約200g)に、一晩後、対照としてクエン酸緩衝液のみを注射する。血清血液糖を測定し、血圧を毎日記録する。対照動物と比較しての血清血液糖レベルの上昇は、糖尿病であると考えられる。
【0131】
ICAM−1を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、各ラットにおいてODを実行する。非特異的siRNAは対照OSとして注射される。全体の群図式は、表3に示している。
【0132】
【表3】

【0133】
Miyamoto K et al.(1999),supra.に記載されたように、処理後7日目で、ラットをAcridine Orange Leukocyte Fluorography(アクリジンオレンジ白血球蛍光光度分析:AOLF)に供する。簡潔に言うと、ラットを麻酔し、その瞳孔をトロピカミドで散大した。次にラットに無菌生理食塩水中に懸濁されたアクリジンオレンジを硝子体内に注射する。各眼の眼底を観察し、スキャニングレーザー眼底鏡(光源としてアルゴンブルーレーザー)を用いて白血球静止を画像化する。次にラットをフルオレセインデキストランで灌流し、眼をさらに画像化する。白血球静止の密度を、10ディスク直径範囲における光ピクセルのパーセンテージとして計算する。この白血球静止の密度はエンドポイントとして用いられる。
【0134】
Miyamoto K et al.(1999),supra.に記載されたように、7日目にラットはアイソトープ希釈技術にも供し、血管漏出を定量化する。簡潔に言うと、ラットに、第1の時点でBSA中のI125を、第2の時点でI131を硝子体内に注射する。このラットは第2の注射後、数分で屠殺し、その網膜を単離し、動脈サンプルを採取する。前記網膜及び前記動脈サンプルは、ヨウ素クリアランスの定量的指標を用いて網膜における活性を補正した後、γ−分光法を用いて解析する。次に測定値を、正確な用量を投与するために、体重及び組織重量を基に規準化する。γ活性の補正された量は、網膜内の血管漏出のマーカーとして用いる(第2エンドポイント)。実験動物の網膜内で減少するであろうγ活性は、血管漏出の減少を意味している。
【実施例3】
【0135】
ICAM−1を標的としたsiRNAによるVEGF誘導血管透過性及び白血球静止の治療
眼内のVEGFの存在は、網膜内の血管透過性及び毛細血管非灌流の増加に対応する、網膜白血球静止を引き起こす。例えば、Miyamoto et al.(2000),Am.J.Pathol.156(5):1733〜9を参照し、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。ICAM−1を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、ラット内でVEGFの硝子体内注射によって作られた透過性及び白血球静止を減少すると予想される。
【0136】
Long−Evansラット(約200g)に麻酔をし、緩衝液OU中のVEGFを硝子体内に注射する。ICAM−1を標的としたsiRNAは、硝子体内注射によって各ラットへ同時にODを運搬する。非特異的siRNAは対照OSとして硝子体内に注射する。付加的な対照は、緩衝液のみ(VEGFなし)を注射されたラットを含む。全体の群図式は、表4に示している。
【0137】
【表4】

【0138】
注射後24時間で、実施例1に記載したように、ラットをAOLF、及びアイソトープ希釈技術に供する。
【実施例4】
【0139】
ICAM−1を標的としたsiRNAによる角膜/辺縁系損傷を患った眼における新血管新生の治療
眼球表面の損傷は、角膜辺縁系幹細胞の破壊を生じる。これらの細胞の破壊は、VEGF依存性角膜新血管新生を誘導し、これは失明を導く。新血管新生を促進するVEGFは、好中球及び単球によって供給され、眼球表面に対する損傷の後、角膜を浸潤する。例えば、Moromizato Y et al.(2000),Am.J.Pathol.157(4):1277〜81を参照し、この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。辺縁系損傷の後で角膜に適用される、ICAM−1を標的としたsiRNAは、マウスにおける角膜の新血管新生の結果生じる領域を減少するであろうと予想される。新血管新生領域は、直接測定される。或いは、角膜新血管新生における減少は、角膜におけるVEGF産生多形核細胞の数の減少から推測され得る。
【0140】
角膜新血管新生は、Moromizato Y et al.(supra)で記載されたように、辺縁系の損傷によって、C57B1/6において誘導される。簡潔に言うと、マウスを麻酔し、水酸化ナトリウムを角膜へ適用する。前記角膜と辺縁系上皮は、角膜ナイフを用いて壊死組織切除した(OU)。ICAM−1を標的としたsiRNAを、除去後すぐ、及び実験の間(7日間)1日3回、角膜表面ODに適用した。非特異的siRNAは、対照と同じ用量投与計画でOSに投与した。
【0141】
Moromizato Y et al.(2000),supra.に記載されたように、角膜及び辺縁系上皮の壊死組織切除後2、4、及び7日目に、マウスは角膜新血管新生の程度を評価する。簡潔に言うと、内皮特異的フルオレセイン共役レクチンを硝子体内に注射する。注射後30分で、マウスを屠殺し、その眼を回収し、24時間ホルマリンで固定する。角膜のフラットマウント(flat mounts)を作成し、この角膜フラットマウントの写真を蛍光顕微鏡下で撮り、解析のためにOpenlabソフトウェアにインポートする。Openlabソフトウェアを用いて、血管が見られる所でのみ蛍光の閾値レベルを設定する。蛍光血管の領域及び角膜の領域(辺縁系アーケードで境界を画定された)を計算する。血管の領域は、総角膜領域で分割され、この値は、新血管領域のパーセントと等しい。処置群及び対照群の新血管領域のパーセントを比較する。
【0142】
Moromizato Y et al.(2000),supra.に記載されたように、角膜及び辺縁系上皮の壊死組織切除後2、4、及び7日目に、付加的なマウスは、角膜多形核細胞(PMNs)の定量化のために屠殺する。簡潔に言うと、マウスを屠殺し、その眼を回収し、24時間ホルマリンで固定する。ホルマリン固定の後、眼球除去された眼をパラフィンで包埋し、切片を作成した。角膜の解剖学的な中心と相関する、各眼からの1つのパラフィン切片を選択し、顕微鏡用に用いる。この1切片上のPMNs(多小葉からなる細胞として同定される)を数え、処理群及び対照群からの切片中のPMNsの数を比較する。
【実施例5】
【0143】
ICMA−1を標的としたsiRNAによるレーザー誘導脈絡叢新血管新生の治療
Bruch’s膜を破裂するレーザー光凝固は、ウェット黄斑変性症において見られるものと同様な、脈絡叢新血管新生(CNV)を誘導する。ICAM−1を標的としたsiRNAの硝子体内注射は、マウスにおけるレーザー誘導CNVの領域を減少すると予想される。
【0144】
CNVはマウスにおいて、Sakurai E et al.(2003),Invest.Ophthalmol.&Visual Sci.44(6):2743〜9(この全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる)に記載された手順によって誘導する。簡潔に言うと、C57B1/6マウスを麻酔し、その瞳孔をトロピカミドで散大する。このマウスの網膜を、各網膜OUの9、12、及び3時の位置における1レーザースポットを用いてレーザー光凝固化する。レーザー光凝固化に続いて即座に、ICAM−1を標的としたsiRNAを、ODへ硝子体内に注射する。非特異的siRNAは、対照としてOSへ硝子体内に注射する。
【0145】
レーザー光凝固化の後14日で、マウスを屠殺し、Sakurai E et al.(2003),supra.に記載されたように、CNV領域定量化のために網膜フラットマウントを準備する。簡潔に言うと、マウスに麻酔をし、胸部を開き、下行性大動脈を遮断(cross−clamped)する。次に右心房を挟み、フルオレセイン標識デキストランを左心室にゆっくりと注射する。
【0146】
フルオレセイン標識デキストランの注射後、眼を眼球除去し、24時間、パラホルムアルデヒドで固定する。次に前眼房及び網膜を除去し、解析のために、各脈絡叢のフラットマウントを準備する。脈絡叢フラットマウントは、蛍光顕微鏡下で写真を撮ることによって解析し、その写真をOpenlabソフトウェアへインポートする。Openlabソフトウェアを用いて、新血管新生の領域の輪郭を描き(outlined)、定量化する(その際、既知のレーザー位置を蛍光タフトと比較することを必ずすること)。処理動物の新血管新生領域を、対照動物の新血管新生領域と比較する。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1は、未処理HEK−293細胞("未処理")の可溶化、若しくは1、10、50、100ng/mlの腫瘍壊死因子アルファ("TNF−α")、1、10、100、1000ng/mlのインターフェロンガンマ("IFN−γ")、及び100、200、300μMのデスフェリオキサミン("DFX")で1若しくは2日間処理したHEK−293細胞の可溶化液におけるヒトICAM−1タンパク質濃度の柱状図を示したものであり、それぞれはOD450ナノメーターでELISAによって測定した。
【図2】図2は、未処理HEK−293細胞("−")の可溶化液、若しくは100ng/mlのTNF−αで処理したHEK−293細胞("+")の可溶化液におけるヒトICAM−1タンパク質濃度の柱状図を示したものであり、それぞれはOD450ナノメーターでELISAによって測定した。前記細胞は、siRNAでの形質移入なし("なし")、非特異的siRNAで形質移入した("EGFP")、若しくはヒトICAM−1 mRNAを標的とした10個の異なるsiRNAで形質移入した("hICAM1#1〜10")ものである。
【図3】図3は、未処理HEK−293細胞("−")の可溶化液、若しくは100ng/mlのTNF−αで処理したHEK−293細胞("+")の可溶化液における細胞毒性の柱状図を示したものであり、それぞれはOD450ナノメーターでELISAによって測定した。前記細胞は、siRNAでの形質移入なし("なし")、非特異的siRNAで形質移入した("EGFP")、若しくはヒトICAM−1 mRNAを標的とした10個の異なるsiRNAで形質移入した("hICAM1#1〜10")ものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたsiRNAであって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有し、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成するものであり、
前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNA(配列ID番号:1)における約19〜約25の近接するヌクレオチドの標的配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列、若しくは、それらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有するものである、siRNA。
【請求項2】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記ヒトICAM−1 mRNA配列の同族体は、マウスICAM−1 mRNA(配列ID番号:2)である。
【請求項3】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖は1つのRNA分子を有し、前記アンチセンスRNA鎖は1つのRNA分子を有するものである。
【請求項4】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記RNA二本鎖を形成する前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、一本鎖ヘアピンによって共有結合的に連結されているものである。
【請求項5】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記siRNAはさらに、非ヌクレオチド物質を有するものである。
【請求項6】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記siRNAはさらに、1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、欠損、置換、若しくは変化を有するものである。
【請求項7】
請求項1のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、ヌクレアーゼ分解に対して安定化されているものである。
【請求項8】
請求項1のsiRNAであって、このsiRNAは、さらに、
3’オーバーハングを有するものである。
【請求項9】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは、1〜約6ヌクレオチドを有するものである。
【請求項10】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは、約2ヌクレオチドを有するものである。
【請求項11】
請求項3のsiRNAにおいて、
前記センスRNA鎖は、第1の3’オーバーハングを有し、前記アンチセンスRNA鎖は、第2の3’オーバーハングを有するものである。
【請求項12】
請求項11のsiRNAにおいて、
前記第1及び第2の3’オーバーハングは、別々に1〜約6ヌクレオチドを有するものである。
【請求項13】
請求項12のsiRNAにおいて、
前記第1の3’オーバーハングはジヌクレオチドを有し、第2の3’オーバーハングはジヌクレオチドを有するものである。
【請求項14】
請求項13のsiRNAにおいて、
前記第1と第2の3’オーバーハングを有する前記ジヌクレオチドは、ジチミジル酸(TT)若しくはジウリジル酸(uu)である。
【請求項15】
請求項8のsiRNAにおいて、
前記3’オーバーハングは、ヌクレアーゼ分解に対して安定化されているものである。
【請求項16】
請求項1のsiRNAを有する、網膜内皮細胞。
【請求項17】
センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAを発現するための核酸配列を有する組換えプラスミドであって、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有する、組換えプラスミド。
【請求項18】
請求項17の組換えプラスミドにおいて、
前記siRNAを発現するための核酸配列は、誘導性若しくは制御性プロモーターを有するものである。
【請求項19】
請求項17の組換えプラスミドにおいて、
前記siRNAを発現するための核酸配列は、ヒトU6RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つ配列をコード化するセンスRNA鎖と、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つ配列をコード化するアンチセンスRNA鎖とを有するものである。
【請求項20】
請求項17の組換えベクターにおいて、
前記プラスミドは、CMVプロモーターを有するものである。
【請求項21】
センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAを発現するための核酸配列を有する組換えウイルスベクターであって、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、RNA二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有する、組換えウイルスベクター。
【請求項22】
請求項21のウイルスベクターにおいて、
前記siRNAを発現するための核酸配列は、誘導性若しくは制御性プロモーターを有するものである。
【請求項23】
請求項21のウイルスベクターにおいて、
前記siRNAを発現するための核酸配列は、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つ配列をコード化するセンスRNA鎖と、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下でのpolyT終止配列との操作可能な連結を持つ配列をコード化するアンチセンスRNA鎖とを有するものである。
【請求項24】
請求項21の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、及びヘルペスウイルスベクターからなる群から選択されるものである。
【請求項25】
請求項21の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、若しくはMokolaウイルスからの表面タンパク質でシュードタイピングされているものである。
【請求項26】
請求項24の組換えウイルスベクターにおいて、
前記組換えウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターを有するものである。
【請求項27】
siRNAと薬学的に許容可能な担体とを有する薬学的組成物であって、
前記siRNAは、センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有し、前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、二本鎖を形成しており、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有する、薬学的組成物。
【請求項28】
請求項27の薬学的組成物であって、この薬学的組成物は、さらに、
リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン、若しくはリポソームを有するものである。
【請求項29】
請求項17のプラスミド若しくはその生理学的許容可能な塩類、及び薬学的に許容可能な担体を有する、薬学的組成物。
【請求項30】
請求項29の薬学的組成物であって、この薬学的組成物は、さらに、
リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン、若しくはリポソームを有するものである。
【請求項31】
請求項21のウイルスベクター、及び薬学的に許容可能な担体を有する、薬学的組成物。
【請求項32】
ヒトICAM−1 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体の発現を阻害する方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有し、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有し、それにより前記ヒトICAM−1 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体が分解される、方法。
【請求項33】
請求項32の方法において、
前記対象は、ヒトである。
【請求項34】
請求項32の方法において、
ヒトICMA−1 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、若しくは同族体の発現は、前記対象の片目若しくは両目において阻害されるものである。
【請求項35】
請求項32の方法において、
ヒトICMA−1 mRNA、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、若しくは同族体の発現は、前記対象の網膜色素上皮細胞において阻害されるものである。
【請求項36】
請求項32の方法において、
前記siRNAの有効量は、約1nM〜約100nMである。
【請求項37】
請求項32の方法において、
前記siRNAは、運搬試薬との組み合わせで投与されるものである。
【請求項38】
請求項37の方法において、
前記運搬試薬は、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン、及びリポソームからなる群から選択されるものである。
【請求項39】
請求項38の方法において、
前記運搬試薬は、リポソームである。
【請求項40】
請求項39の方法において、
前記リポソームは、ICAM−1を発現している細胞を前記リポソームが標的とするためのリガンドを有するものである。
【請求項41】
請求項40の方法において、
前記リガンドは、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、若しくは腫瘍細胞上の受容体に結合するものである。
【請求項42】
請求項41の方法において、
前記内皮細胞は、網膜血管上皮細胞である。
【請求項43】
請求項41の方法において、
前記造血細胞は、組織マクロファージ、分裂促進因子で刺激されたTリンパ球芽細胞、扁桃腺における胚中心樹状細胞、リンパ節における胚中心樹状細胞、及びパイエル板における胚中心樹状細胞からなる群から選択されるものである。
【請求項44】
請求項41の方法において、前記リガンドは、モノクローナル抗体を有するものである。
【請求項45】
請求項39の方法において、
前記リポソームは、オプソニン化阻害部位で修飾されるものである。
【請求項46】
請求項45の方法において、
前記オプソニン化阻害部位は、PEG、PPG、若しくはそれらの誘導体を有するものである。
【請求項47】
請求項32の方法において、
前記siRNAは、組換えプラスミドから発現されるものである。
【請求項48】
請求項32の方法において、
前記siRNAは、組換えウイルスベクターから発現されるものである。
【請求項49】
請求項48の方法において、
前記組換えウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、若しくはヘルペスウイルスベクターを有するものである。
【請求項50】
請求項49の方法において、
前記組換えウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、若しくはMokolaウイルスからの表面タンパク質でシュードタイピングされているレンチウイルスベクターである。
【請求項51】
請求項32の方法において、
前記siRNAは、経腸的投与経路によって投与されるものである。
【請求項52】
請求項51の方法において、
前記経腸的投与経路は、経口、直腸、及び鼻腔内からなる群から選択されるものである。
【請求項53】
請求項32の方法において、
前記siRNAは、非経口的投与経路によって投与されるものである。
【請求項54】
請求項53の方法において、
前記非経口的投与経路は、血管内投与、組織周辺及び組織内投与、皮下注射或いは沈着(deposition)、皮下注入、眼内投与、及び、新血管新生部位での或いはその近くでの直接適用からなる群から選択されるものである。
【請求項55】
請求項54の方法において、
前記血管内投与は、静脈内大量瞬時注射、静脈注入、動脈内大量瞬時注射、動脈内注入、及び脈管構造へのカテーテル滴下からなる群から選択されるものである。
【請求項56】
請求項54の方法において、
前記組織周辺及び組織内注射は、腫瘍周辺注射、腫瘍内注射、網膜内注射、及び網膜下注射からなる群から選択されるものである。
【請求項57】
請求項54の方法において、
前記眼内投与は、硝子体内、網膜内、網膜下、テノン嚢下(subtenon)、眼窩周辺及び眼窩後、トランス角膜及びトランス強膜投与を有するものである。
【請求項58】
請求項54の方法において、
前記新血管新生部位での或いはその近くでの直接投与は、カテーテル、角膜ペレット、点眼剤、坐薬、多孔性物質を有する移植片、非多孔性物質を有する移植片、若しくはゼラチン物質を有する移植片による適用を有するものである。
【請求項59】
請求項58の方法において、
前記新血管新生部位は眼にあり、新血管新生部位での或いはその近くでの前記直接投与は、点眼剤による適用を有するものである。
【請求項60】
対象における細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態を阻害する方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量を対象に投与する工程を有し、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有する、方法。
【請求項61】
請求項60の方法において、
前記細胞接着若しくは細胞接着仲介性病態は、AIDS関連性痴呆、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アルツハイマー病、血管新生、抗原提示、喘息、アテローム性動脈硬化症、毒性腎炎、免疫性腎炎、接触性経皮過敏症、角膜/辺縁系損傷、糖尿病I型、糖尿病I型から生じる合併症、バゼドウ病、炎症性腸疾患、炎症性肺疾患、ウイルス感染の炎症性続発症、炎症性皮膚障害、同種移植片の拒絶、T細胞死滅、混合性リンパ球反応、及びT細胞仲介性B細胞分化などの免疫細胞相互作用、髄膜炎、多発性硬化症、多発性骨髄腫、心筋症、肺線維症、再灌流損傷、再狭窄、網膜炎、リュウマチ性関節炎、敗血性関節炎、脳卒中、腫瘍転移、及びuveititisからなる群から選択されるものである。
【請求項62】
請求項61の方法において、
前記炎症性皮膚障害は、アレルギー性接触皮膚炎、固定薬剤皮疹、扁平苔癬、及び乾癬である。
【請求項63】
請求項61の方法において、
前記同種移植片は、網膜、肝臓、若しくは骨髄移植である。
【請求項64】
請求項62の方法において、
前記血管新生は、非病原性であり、脂肪組織の産生、コレステロールの産生、若しくは子宮内膜新血管新生に関連するものである。
【請求項65】
対象における血管新生病を治療する方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNAを有するsiRNAの有効量をそのような治療を必要とする対象に投与する工程を有し、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有し、それにより血管新生病に関連する血管新生が阻害される、方法。
【請求項66】
請求項65の方法において、
前記血管新生病は、癌である。
【請求項67】
請求項66の方法において、
前記癌は、乳癌、肺癌、頭部と頚部の癌、脳腫瘍、腹腔内腫瘍、大腸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃腸癌、グリオーマ、肝癌、舌癌、神経芽細胞腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌、リンパ腫、及び血液癌からなる群から選択されるものである。
【請求項68】
請求項65の方法において、
前記血管新生病は、糖尿病性網膜症、及び年齢関連性黄斑変性症からなる群から選択されるものである。
【請求項69】
請求項68の方法において、
前記血管新生病は、年齢関連性黄斑変性症である。
【請求項70】
請求項65の方法において、
前記siRNAは、血管新生病を治療するための薬剤との組み合わせで投与されるものであり、この薬剤は前記siRNAとは異なるものである。
【請求項71】
請求項70の方法において、
前記血管新生病は癌であり、前記薬剤は化学療法薬剤を有するものである。
【請求項72】
請求項70の方法において、
前記化学療法薬剤は、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、及びタモキシフェンからなる群から選択されるものである。
【請求項73】
請求項65の方法において、
前記siRNAは、血管新生病を治療するように設計された別の治療方法との組み合わせで、対象へ投与されるものである。
【請求項74】
請求項73の方法において、
前記血管新生病は癌であり、前記siRNAは放射療法、化学療法、若しくは手術との組み合わせで投与されるものである。
【請求項75】
対象における糖尿病I型から生じる合併症を治療するための方法であって、
センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖を有するsiRNAの有効量をそのような治療を必要としている対象に投与する工程を有し、
前記センスRNA鎖及びアンチセンスRNA鎖は、二本鎖を形成し、前記センスRNA鎖は、ヒトICAM−1 mRNAにおける約19〜約25の隣接したヌクレオチドの標的配列と実質的に同一なヌクレオチド配列、若しくはそれらの選択的スプライシング体、変異体、或いは同族体を有する、方法。
【請求項76】
請求項75の方法において、
前記糖尿病I型から生じる合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎障害、及び大血管性疾患からなる群から選択されるものである。
【請求項77】
請求項76の方法において、
前記大血管性疾患は、冠動脈疾患、脳血管疾患、若しくは末梢血管疾患である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−524349(P2007−524349A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500988(P2006−500988)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001166
【国際公開番号】WO2004/065546
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】