説明

IH調理器

【課題】調理時の具材の軟化を促進させて、加熱調理時間を短縮させること。
【解決手段】調理物をいれた密閉袋あるいは密閉容器と水を湯煎部13に入れて蓋16をしてから、衝撃波発生制御手段21によって高電圧パルス電源20がONされて湯煎部13に備えられた一対の電極18、19間に立ち上がりの速い例えば1μsのパルス電圧が印加され、衝撃波を発生させる。衝撃波による圧力で瞬間的に具材の細胞が破壊されて軟化されるので、その後の加熱が短くてすみ、大幅に調理時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃波を用いたIH調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のIH調理器は、食品を短時間に軟化するための工夫がなされてきた。具体的には圧力鍋調理や凍結融解処理や凍結減圧含浸法などがある。
【0003】
圧力鍋では加熱中の食品や水から発生した蒸気を鍋から逃がさない構造とすることで鍋内を加圧状態にして食品自体を100℃以上にして加熱する方法である。100℃以上で加熱すると、20分ほどの短時間でも長時間煮込んだような柔らかさにすることができる。
【0004】
また、凍結融解処理では調理前の食品を一度凍結することで食品細胞内に氷結晶を生成させて細胞壁を破壊させる。その後、融解すると細胞が破壊されているので軟化した状態となり、加熱時の軟化に要する時間が削減できるというものである。
【0005】
さらに、凍結減圧酵素含浸法では凍結融解した食品を減圧下におき、ペクチン分解酵素を含んだ溶液を食品内部まで含浸させて軟化を促進させる(例えば、特許文献1参照)。これは、凍結融解によって溶液が浸透しやすい状態にしてペクチン分解酵素を食品内部まで含浸させて酵素作用によって細胞壁の結合を弱めて軟化処理するものである。この方法では食品細胞が単細胞化しているので、咀嚼が容易となり介護食や消化器官術後の病院食に適応できる。
【0006】
また、工業的には衝撃波の反射を利用した連続的な食品の処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
図5は、特許文献2に記載された従来の衝撃波の反射を利用した処理装置の構成図を示すものである。図5に示すように、水が満たされたタンク400内に導管100が浸漬しており、前記導管100は水に近い音響インピーダンスを有する壁からなる。水および肉片が前記導管100内をポンプ120で輸送される。爆発手段(火薬または容量放電電極)200が前記導管に隣接して設けられている。
【0008】
前記爆発手段200は容量放電回路220に接続されていて爆発用のエネルギーを供給し、水中に衝撃波を発生する。導管の壁材インピーダンスは水のインピーダンスと整合しているので、衝撃波は実質的に反射なしに導管を通過して衝撃波は肉を柔軟化する。衝撃波が反射体R1、R2で反射して導管100を通過することで導管内の全ての肉が柔軟化される。
【特許文献1】特開2003−284522号公報
【特許文献2】特表2002−519045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成では、圧力鍋は高圧を保持している時間は5分から20分ほどであるが、調理開始時の常圧から所定の圧力まで上昇させる間と、高圧状態から常圧に戻す間に時間を要し、調理開始から調理終了までの全工程時間を考慮すると調理時間は通常の調理方法と大差ない状態である。また、高温での加熱によって栄養成分が分解するなどの弊害も危惧される。
【0010】
また、凍結融解や凍結減圧酵素含浸法では、食品の形状によっては凍結と融解でトータル3〜5時間要することもあり、決して短時間でできる処理ではなかった。さらに家庭で酵素を少量入手するのは困難であり実用的ではなかった。
【0011】
さらに、衝撃波の反射を利用した連続的な食品の処理は工業的には有効であるが、装置が大掛かりで家庭で容易に出来ないという課題を有していた。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、天板の一部に設けた湯煎部に衝撃波発生装置を備え、加熱前あるいは加熱調理後に衝撃波を照射して食品の軟化を促進して短時間で調理ができるIH調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明のIH調理器は、湯煎を行う湯煎部と、前記湯煎部を加熱する第2の加熱手段と、前記湯煎部の上部を覆う蓋と、前記湯煎部内に衝撃波を発生する衝撃波発生手段をと備えたものである。
【0014】
これによって、前記湯煎部内へ加熱前あるいは加熱後に衝撃波を発生させることにより、食品を瞬時に軟化することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のIH調理器は、湯煎部の水中で衝撃波を発生させて湯煎部内の食品に衝撃波を伝播させることにより、瞬時に食品を軟化させて煮込みなどの調理時間を大幅に短縮できるとともに食品を何時間も煮込んだような柔らかさに仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明は、被加熱物を収容した加熱容器を載置する天板と、前記加熱容器を加熱する加熱手段と、湯煎を行う湯煎部と、前記湯煎部を加熱する第2の加熱手段と、前記湯煎部の上部を覆う蓋と、前記湯煎部内に衝撃波を発生する衝撃波発生手段を備え、湯煎部内に衝撃波を発生させることにより、その水圧で食材を瞬時に軟化することができる。
【0017】
第2の発明は、特に、第1の発明の湯煎部に収納する着脱自在の湯煎容器を備えることにより、流動性の調理物を湯煎容器内に入れて衝撃波を照射することができ、調理物で汚れた湯煎容器内を洗浄することができる。
【0018】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明の衝撃波発生手段を前記湯煎部内に備えた一対の電極と、前記電極間にパルス電圧を印加して衝撃波を発生させる衝撃波発生電源を備えることにより、パルス単位で連続して衝撃波を発生することができる。
【0019】
第4の発明は、特に、第3の発明の前記湯煎容器の温度を検出する温度検知手段と、前記温度検知手段で検出された温度値に基づいて前記第2の加熱手段を制御する制御手段を備え、前記容器を所定の温度に保持した状態で衝撃波を発生することにより、電極間の絶縁破壊が容易に起こり低電圧で衝撃波を発生させることができる。
【0020】
第5の発明は、特に、第3の発明の衝撃波発生手段は、加熱前に衝撃波を発生することにより、食品自体の軟化や調味液の浸透を促進することができる。
【0021】
第6の発明は、特に、第3の発明の衝撃波発生手段は、加熱調理後に衝撃波を発生することにより、粉砕手段を用いずとも食材を粉砕でき流動食や離乳食の状態にすることができる。
【0022】
第7の発明は、特に、第3の発明の衝撃波発生手段は、調理メニューに応じて1回あるいは数回の衝撃波を選択的に発生することにより、硬さおよび粉砕状態を任意の状態に調整することができる。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるIH調理器の構成概略図を示すものである。
【0025】
図1において、IH調理器本体1の上面は天板2が配設されている。前記天板2の下方に加熱手段である加熱コイル3が位置し、前記加熱コイル3の出力を制御する制御手段4と、メニューごとに予め設定された加熱プログラムを記憶する記憶手段5と、前記制御手段4および前記記憶手段5を冷却する送風機6がケース7に内装されている。
【0026】
前記ケース7前面には電源の入/切を行う電源スイッチ8と、メニューや湯煎温度および加熱時間の設定を行う操作手段9と、湯煎温度および加熱時間の設定を表示する出力表示手段10、加熱プログラムをスタートさせるスタートボタン11が備えられている。
【0027】
また、天板2には前記加熱コイル3が配設されている位置に加熱容器12を載せるため加熱領域内を示す円が描かれている。天板2に横並びで湯煎部13を配し、前記湯煎部13の下部には第2の加熱手段である加熱コイル14が位置している。
【0028】
前記湯煎部13は誘導加熱が可能な材質たとえばステンレスや鉄などの金属からなる。なお、実施の形態1では第2の加熱手段として加熱コイルを示しているが、ヒータを用いてもよい。
【0029】
前記湯煎部13の側面あるいは底面には温度検知手段15が備えられており、前記湯煎部13の外壁面と接触して温度を検知する。前記温度検知手段15の検知信号をもとに前記第2の加熱手段の出力制御が前記制御手段によって行われる。
【0030】
また、前記湯煎部13には上面を覆う蓋16が備えられている。衝撃波発生手段17は前記湯煎部13の内側側面に一対の電極18、19が備えられており、衝撃波発生電源である高電圧パルス電源20と接続している。
【0031】
また、前記電極18、19の材質は、チタンやステンレスのような金属で構成されており、金属成分の水中への溶出を防いでいる。前記高電圧パルス電源20から電極18、19に印加する電圧の制御は衝撃波発生制御手段21で行う。
【0032】
前記湯煎部13の底面には排水口22が設けられていて、配管を通じてIH調理器本体の外側に備えられたドレインバルブ23に繋がっており、前記湯煎部13内の水を排出できる構成としている。
【0033】
以上のように構成されたIH調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0034】
なお、加熱コイルによる誘導加熱の原理などは公知事項なのでここでは説明を省略する。
【0035】
まず、前記蓋16を開け、調理したい具材を密封したプラスチックからなる耐熱性の袋あるいは容器にいれ、具材の入った袋あるいは容器とともに水を前記湯煎部13に入れて前記蓋16を閉める。
【0036】
その後、電源スイッチ8を入れ、例えば短時間煮込みというメニューを操作手段9で使用者が選択してスタートボタン11を押すと、まず、前記衝撃波発生制御手段21によって、高電圧パルス電源20がONされて一対の電極18、19間に立ち上がりの速いパルス電圧、例えば1μsのパルス電圧が印加される。
【0037】
高電圧が印加された電極間には放電がおこり、水蒸気が瞬時に発生して前記湯煎部13内に衝撃波が発生する。発生した衝撃波は水中を伝播し、プラスチック製袋あるいは容器を透過して具材にも伝播し、瞬間的に具材の細胞破壊が起こる。
【0038】
さらに、前記湯煎部13壁面に到達した衝撃波は前記湯煎部壁面が金属からなるために、反射して伝播圧力が増大される。そして水および具材に伝播していく。その後、第2の加熱手段がONされて加熱が開始される。
【0039】
従来の加熱調理では加熱していく間に具材の細胞壁が破壊され、時間をかけて調味液を染みこませるが、衝撃波では細胞破壊が瞬時に起こり、破壊された細胞の隙間に調味液がすみやかに浸透していくので調味液の具材内部への浸透も瞬時にすますことができる。
【0040】
よって、加熱前に衝撃波による処理をしておけば、その後の加熱は温める程度ですみ、煮物の調理が短時間行え、消費電力の削減も可能となる。
【0041】
衝撃波発生後は、記憶手段5に記憶された加熱プログラムと温度検知手段15の検知信号に従って、IHコイルの出力制御が制御手段によって行われ、加熱が進む。加熱終了後に前記湯煎部13から調理済みの具材の入った密閉袋あるいは容器を取り出し、前記湯煎部内の湯温が下がってからドレインバルブ23を開いて湯を捨てる。
【0042】
衝撃波の特性として、水などの液体成分やゲル状のものがないと伝播しないため、食品に衝撃波を作用させる場合、食品の周りに液体を存在させる必要がある。しかし、上記したように湯煎部内には水があるので密封袋や容器に固形の食品のみでも衝撃波が伝播して食品のみを瞬時に軟化させることができる。
【0043】
以上のように、本発明の形態においては、湯煎を行う湯煎部と、前記湯煎部を加熱する第2の加熱手段と、前記湯煎部の上部を覆う蓋と、前記湯千部内に衝撃波を発生する衝撃波発生手段とを備え、湯煎部内へ加熱前あるいは加熱後に衝撃波を発生させることにより、食品を瞬時に軟化することができる。
【0044】
また、衝撃波を伝播させて軟化した後に加熱を行わず、生のままで軟らかい状態に仕上げることもできる。
【0045】
なお、衝撃波の発生は、加熱前に1回行う場合でも上記の効果は十分に得られるが、食品によっては硬く細胞破壊によって軟化しにくいものもある。そのような場合、加熱前の衝撃波をパルスで連続的に発生させるようにしてもよい。
【0046】
また、加熱調理後に具材をすり潰してつくるポタージュや餡子などの場合は、加熱調理後に衝撃波を1回発生させることで、瞬時に具材が粉々に潰すことができる。さらに、細かく潰した状態にしたい場合は加熱後の衝撃波を連続的に発生させればよい。
【0047】
また、湯煎部の水を室温よりも高温(例えば80℃)に加温してから電極間に電圧を印加するようにしてもよい。水温を上昇させると電極間が絶縁破壊しやすい状態となり、低電圧で電極間に放電を起こすことができ、衝撃波発生のための電力の低減を図ることができる。
【0048】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態におけるIH調理器の構成断面図を示すものである。図3および図4は、本発明の第2の実施の形態におけるIH調理器の細部の構成概略図を示すものである。
【0049】
実施の形態2は、前記湯煎部13に収納する湯煎容器24を備えた点が実施の形態1と異なっている。その他の構成については実施の形態1と同じであるので相違点についてのみ説明する。
【0050】
図3において、湯煎容器24は耐熱性のプラスチック、例えばポリプロピレン、ポリエチレンなどの材質からなる。図3に示すように湯煎容器24の開口部には持ち手部25が備えられており、湯煎部13に湯煎容器24を収納する際、図4に示すように持ち手部25を支えにして、湯煎容器24が湯煎部13に釣り下がった状態となる。
【0051】
湯煎容器24と湯煎部13に設けられている電極とが接触しないように両者の間には隙間をもって構成されている。
【0052】
以上のように構成されたIH調理器について、以下その動作、作用を説明する。
【0053】
まず、前記蓋16を開け、前記湯煎部13に水を入れる。前記湯煎容器24に具材を入れ、前記湯煎部13に装着する。蓋16を閉めて前記電源スイッチ8を入れ、例えば短時間煮込みというメニューを操作手段9で使用者が選択してスタートボタン11を押すと、まず、前記衝撃波発生制御手段21によって、高電圧パルス電源20がONされて一対の電極18、19間に立ち上がりの速い例えば1μsのパルス電圧が印加される。
【0054】
高電圧が印加された電極間には放電がおこり、水蒸気が瞬時に発生して衝撃波が発生する。発生した衝撃波による圧力は瞬時に前記湯煎部13の水を伝播して、さらに前記湯煎容器24も透過して具材内部を貫通し、瞬間的に具材の細胞が破壊される。
【0055】
その後、加熱が開始され、湯煎によって調理が進行していく。
【0056】
また、調理物で汚れた湯煎容器内を洗浄することもできる。
【0057】
以上のように、本実施の形態においては、湯煎部13に収納する着脱自在の湯煎容器24を備えることにより、大容量の液体成分を含む調理メニュー、例えば煮込みや煮物において、衝撃波の作用を及ぼすことができる。また、衝撃波によって起こった細胞破壊で調味液がすみやかに浸透し、軟化も促進され、湯煎による短時間調理が可能となり、消費電力の削減もできる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかるIH調理器は、加熱前に瞬時に具材を軟化させるので調理時間が短縮でき、省エネルギーな家庭用のIH調理器に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1におけるIH調理器の構成概略図
【図2】本発明の実施の形態2におけるIH調理器の構成断面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるIH調理器の細部の構成概略図
【図4】本発明の実施の形態2におけるIH調理器の細部の構成概略図
【図5】従来の衝撃波の反射を利用した処理装置の構成図
【符号の説明】
【0060】
1 IH調理器本体
2 天板
3 加熱手段(加熱コイル)
4 制御手段
5 記憶手段
6 送風機
7 ケース
8 電源スイッチ
9 操作手段
10 出力表示手段
11 スタートボタン
12 加熱容器
13 湯煎部
14 第2の加熱手段(加熱コイル)
15 温度検知手段
16 蓋
17 衝撃波発生手段
18、19 電極
20 衝撃波発生電源(高電圧パルス電源)
21 衝撃波発生制御手段
22 排水口
23 ドレインバルブ
24 湯煎容器
25 持ち手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収容した加熱容器を載置する天板と、前記加熱容器を加熱する加熱手段と、湯煎を行う湯煎部と、前記湯煎部を加熱する第2の加熱手段と、前記湯煎部の上部を覆う蓋と、前記湯煎部内に衝撃波を発生する衝撃波発生手段を備えたIH調理器。
【請求項2】
前記湯煎部に収納する着脱自在の湯煎容器を備えた請求項1に記載のIH調理器。
【請求項3】
衝撃波発生手段は前記湯煎部内に備えた一対の電極と、前記電極間にパルス電圧を印加して衝撃波を発生させる衝撃波発生電源からなる請求項1または2に記載のIH調理器。
【請求項4】
前記湯煎部の温度を検出する温度検知手段と、前記温度検知手段で検出された温度値に基づいて前記第2の加熱手段を制御する制御手段を備え、前記湯煎容器を所定の温度に保持した状態で衝撃波を発生させるとした請求項3に記載のIH調理器。
【請求項5】
前記衝撃波発生手段は、加熱前に衝撃波を発生するとした請求項3に記載のIH調理器。
【請求項6】
前記衝撃波発生手段は、加熱調理後に衝撃波を発生するとした請求項3に記載のIH調理器。
【請求項7】
前記衝撃波発生手段は、調理メニューに応じて1回あるいは数回の衝撃波を選択的に発生するとした請求項3に記載のIH調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−225407(P2010−225407A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71330(P2009−71330)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】