III族窒化物半導体素子、及び、III族窒化物半導体素子の製造方法
【課題】結晶性が損なわれることなく比較的小さい接触抵抗と比較的高いキャリア濃度とを有するp型のコンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発光層17の上に設けられたコンタクト層25aとコンタクト層25aの上に設けられコンタクト層25aに直接接するコンタクト層25bとコンタクト層25bの上に設けられコンタクト層25bに直接接する電極37とを備える。コンタクト層25a及びコンタクト層25bはp型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度はコンタクト層25bのp型ドーパントの濃度よりも低く、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1はc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜しており、コンタクト層25bの膜厚は20nm以下である。
【解決手段】発光層17の上に設けられたコンタクト層25aとコンタクト層25aの上に設けられコンタクト層25aに直接接するコンタクト層25bとコンタクト層25bの上に設けられコンタクト層25bに直接接する電極37とを備える。コンタクト層25a及びコンタクト層25bはp型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度はコンタクト層25bのp型ドーパントの濃度よりも低く、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1はc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜しており、コンタクト層25bの膜厚は20nm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体素子、及び、III族窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動電圧の低下を目的とする発光素子に係る技術が開示されている。サファイア基板の上に、500オングストロームのAlNのバッファ層と、膜厚約2.0マイクロメートル、電子濃度2×1018/cm3のSiドープGaNの高キャリア濃度n+層と、膜厚約2.0μm、電子濃度2×1018/cm3のSiドープの(Alx2Ga1−x2)y2In1−y2Nの高キャリア濃度n+層と、膜厚約0.5μm、Mg、Zn及びSiドープの(Alx1Ga1−x1)y1In1−y1Nのp伝導型の発光層と、膜厚約1.0μm、ホール濃度2×1017/cm3のMgドープの(Alx2Ga1−x2)y2In1−y2Nのp層と、膜厚約0.2μm、ホール濃度5×1017/cm3、Mg濃度1×1020/cm3のMgドープのGaNから成る第2コンタクト層と、膜厚約500オングストローム、ホール濃度2×1017/cm3、Mg濃度2×1020/cm3のMgドープのGaNから成る第1コンタクト層と、が形成されている。更に、p層と高キャリア濃度n+層とに、それぞれ、接続するニッケルで形成された二つの電極が形成されている。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子は、特に、サファイア基板のc面の上の最表面に設けられた高Mg濃度のp型の第1コンタクト層と、この第1コンタクト層の下に設けられた低Mg濃度のp型の第2コンタクト層とを有する。第1コンタクト層のMg濃度は1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であり、第2コンタクト層のMg濃度は1×1019cm−3以上5×1020cm−3以下である。第1及び第2のコンタクト層の膜厚については、50nmと200nmとが開示されている。また、非特許文献1及び2には、ピエゾ電界の計算について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−97471号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.39 (2000) pp.413
【非特許文献2】Journal of Applied Physics, Vol.91 No.12 (2002) pp.9904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Mgがドープされたp型の窒化ガリウムのコンタクト層の接触抵抗は、Mg濃度によって増減する。接触抵抗の値は、Mg濃度が1×1020cm−3程度の場合に比較的小さい。しかし、Mg濃度がこのように高い場合、結晶性が低下してp型キャリア濃度の低下を招く。従って、接触抵抗、結晶性及びキャリア濃度の何れもが好適なp型コンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子の開発が望まれている。そこで、本発明の目的は、上記の事項を鑑みてなされたものであり、結晶性が損なわれることなく比較的小さい接触抵抗と比較的高いキャリア濃度とを有するp型のコンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子及びIII族窒化物半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子は、窒化ガリウム系半導体の発光層と、前記発光層の上に設けられた第1のコンタクト層と、前記第1のコンタクト層の上に設けられ前記第1のコンタクト層に直接接する第2のコンタクト層と、前記第2のコンタクト層の上に設けられ前記第2のコンタクト層に直接接する金属電極と、を備え、前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度よりも低く、前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、ことを特徴とし、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。
【0008】
第2のコンタクト層において、p型ドーパントが比較的高いので金属電極との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。第1のコンタクト層において、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、第2のコンタクト層と金属電極との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層の外部量子効率等が良好となる。
【0009】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を更に備え、前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、前記第1のコンタクト層は、前記クラッド層に直接接していることが好ましい。
【0010】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、窒化ガリウム系半導体からなる基板を更に備え、前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられており、前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜していることが好ましい。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いることができるので、基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している主面の上に、窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面にも主面と同様の傾斜が実現できる。
【0011】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下であることが好ましく、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接している第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的高いので、金属電極との接触抵抗は低下する。
【0012】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接していない第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。
【0013】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記p型ドーパントはマグネシウムであることが好ましい。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。Mgは窒化物半導体中で比較的浅いアクセプタ準位を形成し、そのためドーパント濃度に対する正孔濃度の活性化率が高く、比較的小さいドーパント濃度で比較的高い正孔濃度が得られる。
【0014】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなることが好ましい。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、第1及び第2のコンタクト層がGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることが好ましい。従って、第1及び第2のコンタクト層の材料に、窒化ガリウム以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。これにより基板との格子不整合度が変わり、コンタクト層に内包される歪み量が変化するために、第1コンタクト層のキャリア濃度を高めたり、第2コンタクト層と金属電極との接触抵抗を低減させることができる。
【0016】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることが好ましい。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。このIn組成領域では発光層に内包される歪みが大きく、基板主面の傾斜角を前記範囲に取ったときに抑制できるピエゾ電界が大きい。従って本発明を用いれば当該In組成領域でも良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0017】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなることが好ましい。このような材料の金属電極によって、第2のコンタクト層と良好な接触が実現される。これらの金属を用いることにより良好なオーミック接合が実現される。
【0018】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法は、窒化ガリウム系半導体からなる発光層を形成する工程と、前記発光層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第1のコンタクト層を形成する工程と、前記第1のコンタクト層の形成時に供給されたp型ドーパントの供給量を切り替えた後に前記第1のコンタクト層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第2のコンタクト層を形成する工程と、前記第2のコンタクト層の上に金属電極を形成する工程と、を備え、前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、前記第1のコンタクト層を形成する工程及び前記第2のコンタクト層を形成する工程において成長炉に供給されるp型ドーパントの供給量は、前記第2のコンタクト層を形成する工程で供給される量のほうが前記第1のコンタクト層を形成する工程で供給される量よりも多く、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度は、前記発光層に含まれている活性層の成長温度よりも高く、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下であり、前記第2のコンタクト層は前記金属電極に直接接し、前記第1のコンタクト層は前記第2のコンタクト層に直接接し、前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、ことを特徴とし、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。
【0019】
第2のコンタクト層において、p型ドーパントが比較的高いので金属電極との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。第1のコンタクト層において、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、第2のコンタクト層と金属電極との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層の外部量子効率等が良好となる。また、第1及び第2のコンタクト層の成長温度は発光層の成長温度よりも高く、第1及び第2のコンタクト層の成長温度と発光層の成長温度との差は、摂氏150度以上摂氏300度以下である。成長温度の差が当該差よりも小さいと、第1及び第2のコンタクト層の成長温度が低くなるために電気特性が低下する。成長温度の差が当該差よりも大きいと、活性層が受ける熱ダメージが増加するので発光効率が低下する。
【0020】
本発明に係る方法では、p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を形成する工程を更に備え、前記クラッド層は、前記発光層が形成された後に形成され、前記第1及び第2のコンタクト層は、前記クラッド層が形成された後に形成され、前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、前記第1のコンタクト層は前記クラッド層に直接接していることが好ましい。
【0021】
本発明に係る方法では、窒化ガリウム系半導体からなる基板を準備する工程を更に備え、前記クラッド層は、前記基板の上に形成され、前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられ、前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜していることが好ましい。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いることができるので、基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している主面の上に、窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面にも主面と同様の傾斜が実現できる。
【0022】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下であることが好ましく、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接している第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的高いので、金属電極との接触抵抗は低下する。
【0023】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接していない第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。
【0024】
本発明に係る方法では、前記p型ドーパントはマグネシウムであることが好ましい。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。Mgは窒化物半導体中で比較的浅いアクセプタ準位を形成し、そのためドーパント濃度に対する正孔濃度の活性化率が高く、比較的小さいドーパント濃度で比較的高い正孔濃度が得られる。
【0025】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなることが好ましい。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、第1及び第2のコンタクト層がGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0026】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることが好ましい。従って、第1及び第2のコンタクト層の材料に、窒化ガリウム以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。これにより基板との格子不整合度が変わり、コンタクト層に内包される歪み量が変化するために、第1コンタクト層のキャリア濃度を高めたり、第2コンタクト層と金属電極との接触抵抗を低減させることができる。
【0027】
本発明に係る方法では、前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることが好ましい。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。このIn組成領域では発光層に内包される歪みが大きく、基板主面の傾斜角を前記範囲に取ったときに抑制できるピエゾ電界が大きい。従って本発明を用いれば当該In組成領域でも良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0028】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は1×1017cm−3以下である。このように、炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0029】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0030】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0031】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法では、前記第1のコンタクト層の成長速度は、1μm/hour以下であり、前記第2のコンタクト層の成長速度は、0.1μm/hour以下であり、前記第2のコンタクト層の成長速度は、前記第1のコンタクト層の成長速度よりも遅く、前記第1及び第2のコンタクト層は、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される。このように、第1及び第2のコンタクト層の成長時の雰囲気ガスに水素を用い、第1及び第2のコンタクト層の成長速度も比較的に遅いので、第1及び第2のコンタクト層の成長時のV族原子数/III族原子数の比を比較的に高くできる。従って、第1及び第2のコンタクト層における炭素不純物濃度を比較的に低くでき、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が良好となる。
【0032】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。このように、炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0033】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下である。よって、コンタクト層の結晶性を向上できる一方で、コンタクト層の成長時に活性層が受けるダメージを抑制できる。
【0034】
本発明に係る方法では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0035】
本発明に係る方法では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0036】
本発明に係る方法では、前記活性層の成長温度は摂氏650度以上摂氏800度未満である。よって、前記波長範囲(480nm以上600nm以下)の発光波長を有する活性層を作製することができる。
【0037】
本発明に係る方法では、前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなることが好ましい。このような材料の金属電極によって、第2のコンタクト層と良好な接触が実現される。これらの金属を用いることにより良好なオーミック接合が実現される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、結晶性が損なわれることなく比較的小さい接触抵抗と比較的高いキャリア濃度とを有するp型のコンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子及びIII族窒化物半導体素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程を示す図である。
【図3】図3は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図である。
【図4】図4は、実施例1のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図5】図5は、実施例2のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図6】図6は、発光波長と外部量子効率との関係、及び、視感度曲線、を示す図である。
【図7】図7は、ピエゾ電界と主面のオフ角との関係を示す図である。
【図8】図8は、マグネシウム濃度とキャリア濃度との関係を示す図である。
【図9】図9は、マグネシウム濃度と接触抵抗との関係を示す図である。
【図10】図10は、本実施形態の効果を説明するための図である。
【図11】図11は、エピタキシャル積層の構造を表面側から分析したSIMS結果を示す図である。
【図12】図12は、実施例6のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図13】図13は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【図14】図14は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【図15】図15は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体素子の構造及びIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャル基板の構造を概略的に示す図面である。III族窒化物半導体素子11としては、例えば発光ダイオード、レーザダイオード等の発光素子を説明するが、本実施の形態は、p型III族窒化物半導体を含むIII族窒化物半導体素子に適用可能である。
【0041】
図1の(a)部にIII族窒化物半導体素子11が示され、図1の(b)部にIII族窒化物半導体素子11のためのエピタキシャル基板EPが示される。
エピタキシャル基板EPは、III族窒化物半導体素子11と同様のエピタキシャル層構造を有する。引き続く説明では、III族窒化物半導体素子11を構成する半導体層を説明する。エピタキシャル基板EPは、これらのIII族窒化物半導体素子11を構成する半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、III族窒化物半導体素子11のための説明が適用される。
【0042】
図1を参照すると、座標系S及び結晶座標系CRが示されている。基板13の主面13aは、Z軸の方向を向いており、X方向及びY方向に延びている。X軸はa軸の方向に向いている。図1の(a)部に示されるように、III族窒化物半導体素子11は、基板13と、n型III族窒化物半導体領域15と、発光層17と、p型III族窒化物半導体領域19とを備える。n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19は、基板13の上においてエピタキシャル成長によって形成されている。
【0043】
基板13のc面は、図1に示された面Scに沿って延びている。面Scの上では、六方晶系窒化ガリウム系半導体の結晶軸を示すための結晶座標系CR(c軸,a軸,m軸)が示されている。基板13の主面13aは、基準軸Cxに直交する面Scを基準にして、基板13の窒化ガリウム系半導体のm軸又はa軸の方向に、傾斜角αで傾斜している。傾斜角αは、基板13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxを示すc軸ベクトルVCとの成す角度によって規定される。主面13aの上において、発光層17は、n型III族窒化物半導体領域15とp型III族窒化物半導体領域19との間に設けられている。主面13aの上において、n型窒化ガリウム系半導体領域15、活性層17及びp型窒化ガリウム系半導体領域19は、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、発光層17に含まれているn側光ガイド層29、活性層27及びp側光ガイド層31が法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、p型III族窒化物半導体領域19に含まれているp型窒化ガリウム系半導体層21、p型クラッド層23、コンタクト層25a及びコンタクト層25bが、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。
【0044】
基板13は、導電性を有する窒化ガリウム系半導体からなる主面13aを有する。基板13の主面13aは、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130度未満の範囲の角度で傾斜する。基板13は、主面13aを含めて、窒化ガリウム系半導体からなることができる。基板13の窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN(窒化ガリウム)、InGaN(In:インジウム)、AlGaN等であることができる。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した基板主面とを提供できる。また、基板13は、例えばAlN等であることもできる。
【0045】
n型III族窒化物半導体領域15は、n型の窒化ガリウム系半導体からなる。n型III族窒化物半導体領域15は、基板13の上に設けられる。n型III族窒化物半導体領域15は、基板13の主面13aに直接接している。n型III族窒化物半導体領域15は、一又は複数のn型窒化ガリウム系半導体層を含む。この一又は複数のn型の窒化ガリウム系半導体層は、主面13aの上に設けられる。n型III族窒化物半導体領域15は、例えばn型バッファ層、n型クラッド層、n型光ガイド層を含むことができる。n型III族窒化物半導体領域15は、例えば、n型のGaN、InGaN、AlGaN又はInAlGaN等からなることができる。
【0046】
発光層17は、例えば、インジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体からなる。発光層17は、基板13及びn型III族窒化物半導体領域15の上に設けられる。発光層17は、n型III族窒化物半導体領域15に直接接している。発光層17は、活性層27を含み、必要な場合にはn側光ガイド層29及びp側光ガイド層31を含むことができる。活性層27は、一又は複数の井戸層33と、複数の障壁層35とを含む。障壁層35は、井戸層33のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する。活性層27は、単一又は多重の量子井戸構造を有することができる。井戸層33及び障壁層35は、何れも、n型III族窒化物半導体領域15及びn側光ガイド層29の上に設けられている。井戸層33及び障壁層35は、何れも、例えば、AlGaN、GaN、InGaN又はInAlGaN等からなる。発光層17(活性層27)の発光波長は、例えば480nm以上600nm以下である。この発光波長範囲の光を発生する発光素子において、p型窒化ガリウム系半導体の電気的特性を向上できる。更に、長波長における発光を提供する発光素子において、p型窒化ガリウム系半導体の特性を向上できる。
【0047】
発光層17がインジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体からなり、発光層17のインジウム(In)の組成は、15%以上50%未満となっている。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。例えば、発光層17は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることができる。
【0048】
p型III族窒化物半導体領域19は、p型の窒化ガリウム系半導体からなる。p型III族窒化物半導体領域19のp型ドーパントはマグネシウム(Mg)である。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。なお、亜鉛(Zn)等もp型ドーパントに用いることができる。p型III族窒化物半導体領域19は、基板13、n型III族窒化物半導体領域15及び発光層17の上に設けられる。p型III族窒化物半導体領域19は、発光層17に直接接している。p型III族窒化物半導体領域19は、一又は複数のp型窒化ガリウム系半導体層を含む。p型III族窒化物半導体領域19は、例えばp型窒化ガリウム系半導体層21を含むことができる。p型窒化ガリウム系半導体層21は、発光層17の上に設けられ、発光層17に直接接している。p型窒化ガリウム系半導体層21は、p型電子ブロック層及びp型光ガイド層を含むことができる。p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、p型クラッド層23を含むことができる。p型クラッド層23は、p型窒化ガリウム系半導体層21の上に設けられ、p型窒化ガリウム系半導体層21に直接接している。p型窒化ガリウム系半導体層21及びp型クラッド層23のそれぞれは、例えば、p型のGaN、InGaN、AlGaN又はInAlGaN等からなることができる。
【0049】
p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、コンタクト層25a(第1のコンタクト層)を含むことができる。コンタクト層25aは、p型クラッド層23の上に設けられ、p型クラッド層23に直接接している。p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、コンタクト層25b(第2のコンタクト層)を含むことができる。コンタクト層25bは、コンタクト層25aの上に設けられ、コンタクト層25aに直接接している。
【0050】
コンタクト層25aとコンタクト層25bとの間には界面J1が形成されている。コンタクト層25aとコンタクト層25bとは、p型の同一の窒化ガリウム系半導体からなり、例えば、p型のGaNからなることができる。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、コンタクト層25a及びコンタクト層25bがGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0051】
コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、コンタクト層25bのp型ドーパントの濃度よりも小さい。コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である。例えば、コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることができる。電極37に直接接していないコンタクト層25aのp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。コンタクト層25bのp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることができる。電極37に直接接しているコンタクト層25bのp型ドーパントの濃度が比較的高いので、電極37との接触JCにおける接触抵抗は低下する。
【0052】
コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1は、c軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している。コンタクト層25bの膜厚は1nm以上50nm以下である。例えば、コンタクト層25bの膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。コンタクト層25aのバンドギャップはp型クラッド層23のバンドギャップよりも小さい。
【0053】
以上説明した構成を有するIII族窒化物半導体素子11では、コンタクト層25bにおいて、p型ドーパントが比較的高いので電極37との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。コンタクト層25aにおいて、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、コンタクト層25bと電極37との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層17の外部量子効率等が良好となる。
【0054】
また、III族窒化物半導体素子11は、窒化ガリウム系半導体からなる基板13を備えており、基板13の主面13aの上に、n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19といった窒化ガリウム系半導体層が順に設けられており、主面13aは、基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板13を用いることができるので、基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している主面13aの上に、p型III族窒化物半導体領域19等の窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1にも主面13aと同様の傾斜が実現できる。
【0055】
また、コンタクト層25a及びコンタクト層25bの同一の窒化ガリウム系半導体は、p型のInxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることができる。従って、コンタクト層25a及びコンタクト層25bの材料に、GaN以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。
【0056】
III族窒化物半導体素子11は、電極37及び絶縁膜39を更に備える。基板13、n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19の上には、電極37(例えば、アノード)と、コンタクト層25bを覆う絶縁膜39とが設けられている。電極37は、コンタクト層25bの上に設けられ、絶縁膜39の開口39aを介してコンタクト層25bに直接接している。コンタクト層25bと電極37とは、開口39aを介して接触JCを成す。電極37は、例えば、Pd、Au、又は、Ni/Au(Ni及びAu)等からなる。従って、このような材料の電極37によって、コンタクト層25bと良好な接触が実現される。また、III族窒化物半導体素子11は、電極41(例えば、カソード)を備える。電極41は、基板13の裏面13bの上に設けられ、裏面13bに直接接している。電極41は、例えば、Pd、Ti/Al等からなる。
【0057】
図1の(b)部に示すように、III族窒化物半導体素子11のエピタキシャル基板EPは、III族窒化物半導体素子11の上記の各半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、III族窒化物半導体素子11のための説明が当てはまる。エピタキシャル基板EPの表面粗さは、10μm角の範囲で1nm以下の算術平均粗さを有する。図2は、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程を示す図面である。図3は、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【0058】
図2に示される工程フローに従って、有機金属気相成長法により、発光素子の構造のエピタキシャル基板EPとIII族窒化物半導体素子11とを作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、及び、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0059】
工程S101では、窒化ガリウム系半導体からなる主面を有する基板(図3の(a)部に示される基板51)を準備する。この基板51(基板13に対応)の主面51a(主面13aに対応)の法線軸は、窒化ガリウム系半導体のc軸に対して50度以上130度未満の角度範囲内の傾斜角を有する。基板51の主面51aは、例えば、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜した{20−21}面であることができる。主面51aは鏡面研磨されている。
【0060】
次に、基板51の上に以下の条件でエピタキシャル成長を行う。まず、工程S102では、基板51を成長炉10内に設置する。成長炉10内には、例えば石英フローチャネル等の石英製の治具が配置されている。必要な場合には、摂氏1050度程度の温度及び27kPa程度の炉内圧力において、NH3とH2を含む熱処理ガスを成長炉10に供給しながら、10分間程度、熱処理を行う。この熱処理により、主面51a等において表面改質が生じる。
【0061】
この熱処理の後に、工程S103では、基板51の上にIII族窒化物半導体層を成長してエピタキシャル基板EPを形成する。雰囲気ガスは、キャリアガス及びサブフローガスを含む。雰囲気ガスは、例えば窒素及び/又は水素を含むことができる。工程S103は、下記工程S104、工程S105及び工程S110を含む。
【0062】
工程S104では、III族構成元素及びV族構成元素のための原料、及びn型ドーパントを含む原料ガス並びに雰囲気ガスを成長炉10に供給して、n型III族窒化物半導体領域53(n型III族窒化物半導体領域15に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。n型III族窒化物半導体領域53の主面53aの傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。n型III族窒化物半導体領域53は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、例えば、以下のIII族窒化物半導体層が成長される。摂氏950度程度において、TMG、NH3、SiH4、並びに、窒素及び/又は水素、を成長炉10に供給して、SiドープGaN層55aを成長して形成する。次いで、摂氏870度程度の基板温度で、TMG、TMI、TMA、NH3、SiH4及び窒素を成長炉10に供給して、SiドープInAlGaN層55bを成長して形成する。この後に、摂氏1050度程度において、TMG、NH3、SiH4、並びに、窒素及び/又は水素、を成長炉10に供給して、SiドープGaN層55cを成長して形成する。還元性を有する水素雰囲気では成長炉10内の治具や治具の付着物から酸素が脱離されやすくなる。
【0063】
工程S105では、発光層57(発光層17に対応)を成長して形成する。工程S105は、下記工程S106〜工程S109を含む。工程S106では、摂氏840度程度の基板温度で、TMG、TMI、NH3及び窒素を成長炉10に供給して、n側のInGaN光ガイド層59aを成長して形成する。InGaN光ガイド層59aの一部又は全部は、アンドープ又はn型導電性であることができる。
【0064】
次いで、工程S107及び工程S108において、活性層59b(活性層27に対応)を成長して形成する。工程S107では、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、アンドープInGaN障壁層61aを成長して形成する。アンドープInGaN障壁層61aの厚さは、15nm程度である。アンドープInGaN障壁層61aの成長後に、成長を中断して、障壁層の成長温度から井戸層の成長温度に基板温度を変更する。基板温度の変更後の工程S108では、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、アンドープInGaN井戸層61bを成長して形成する。InGaN井戸層61bの厚さは、3nm程度である。必要な場合には、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長を繰り返すことができる。本実施形態において、活性層59bの量子井戸構造は、3層のアンドープInGaN井戸層61bを含む。
【0065】
工程S109では、摂氏840度程度の基板温度で、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、p側のInGaN光ガイド層59cを成長して形成する。InGaN光ガイド層59cの一部又は全部は、アンドープ又はp型導電性であることができる。発光層57の主面57a及び活性層59bの主面59b−1の傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。
【0066】
工程S110では、III族原料、V族原料、及びp型ドーパントを含む原料ガス並びに雰囲気ガスを成長炉10に供給して、p型III族窒化物半導体領域63(p型III族窒化物半導体領域19に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。p型III族窒化物半導体領域63の主面63aの傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。p型III族窒化物半導体領域63は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施例では、以下のIII族窒化物半導体層が成長される。例えば、発光層57の成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を上昇する。TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、摂氏900度程度の基板温度でp型GaN電子ブロック層65aを成長して形成する。p型GaN電子ブロック層65aの成長において、雰囲気ガスの窒素が供給されることが好ましい。次いで、TMG、TMI、NH3、Cp2Mg及び窒素を成長炉10に供給して、摂氏840度程度の基板温度でMgドープInGaN光ガイド層65bを成長して形成する。この後に、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、MgドープGaN光ガイド層65cを成長して形成する。MgドープGaN光ガイド層65cの成長において、雰囲気ガスとして窒素が供給されることが好ましい。そして、摂氏870度程度の基板温度で、TMG、TMI、TMA、NH3、Cp2Mg及び窒素を成長炉10に供給して、MgドープInAlGaNクラッド層65d(p型クラッド層23に対応)を成長して形成する。
【0067】
MgドープInAlGaNクラッド層65dの成長の後、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e(コンタクト層25aに対応)及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65f(コンタクト層25bに対応)を成長して形成する。まず、工程S110aにて、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eを成長して形成する。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの厚みは、40nm程度である。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eのMg濃度は、1×1019cm−3程度である。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長が終了すると、工程S110bにて、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの形成時(工程S110a)において供給されたp型ドーパント(Mg)の供給量を切り替えた後に(p型ドーパント(Mg)の供給量を、例えば、1sccmから500sccmに変更。ただし流量制御装置の制御範囲の制限がある場合には、低濃度MgドープGaN層と高濃度MgドープGaN層の成長速度も変更して設計のMg濃度を得ることができる。)、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fを成長して形成する。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの膜厚は、10nm程度である。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのMg濃度は、5×1020cm−3程度である。
【0068】
低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとは、p型の同一の窒化ガリウム系半導体、例えば、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であるが、特に、GaN等からなる。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時に供給されるMgの供給量は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長時に供給されるMgの供給量より多い。よって、p型ドーパント(Mg)の濃度は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eよりも高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのほうが高い。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長において、雰囲気ガスとして窒素が供給されることが好ましい。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとの間には界面(界面J1に対応)が形成される。
【0069】
低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度は、摂氏1000度程度の同一温度であってもよい。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度は、活性層59bの成長温度よりも高い。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度と活性層59bの成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下の範囲内にあるが、例えば、摂氏150度以上摂氏300度以下の範囲内にあることができる。成長温度の差が当該差よりも小さいと、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度が低くなるために電気特性が低下する。成長温度の差が当該差よりも大きいと、活性層59bが受ける熱ダメージが増加するので発光効率が低下する。以上説明した工程S101〜工程S110の後に、エピタキシャル基板EP1が形成される。
【0070】
工程S111では、エピタキシャル基板EP1の上に(特に、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上に)電極を形成する。電極の形成は以下のように行われる。例えば、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上にNi/Au又はPd等の金属の電極(電極37に対応)を形成すると共に、エピタキシャル基板EP1の裏面にTi/Al等の金属の電極(電極41に対応)を形成する。電極の形成に先立って、エピタキシャル基板EP1を加工してリッジ構造を形成することができる。工程S111によって、エピタキシャル基板EPが形成される。そして、へき開によってエピタキシャル基板EPからレーザバーを形成し、このレーザバーの共振器端面に、誘電体多層膜(例えばSiO2/TiO2)からなる反射膜を成膜した後に、III族窒化物半導体素子11に分離する。
【0071】
窒化ガリウム系半導体の発光素子の発光波長を長くするには、発光層の品質向上が不可欠である。発光層の品質に影響を及ぼす要因としては、ピエゾ電界による影響と、発光層であるInGaNの組成の不均一性による影響と、がある。InGaNの組成の不均一性は、結晶中でInが偏析し、In組成が高い結晶域とIn組成が低い結晶域が形成され、結晶中に局所的な歪みが内包されること等によって生じ、この不均一性によって結晶欠陥が形成され、発光効率が低下する。まず、図6を参照する。図6は、InGaN井戸層の発光素子及びAlGaInP井戸層の発光素子における外部量子効率と人間の視感度曲線とを示す。図6の横軸は発光素子の発光波長(nm)を示し、図6の縦軸は外部量子効率(%)を示す。図6に示すように、視感度が比較的高い480nm以上600nm以下の発光波長を含む領域では、InGaN井戸層の発光素子及びAlGaInP井戸層の発光素子の外部量子効率が比較的低い。更に、図7を参照する。図7は、非特許文献1及び非特許文献2に示された計算結果を示す。図7の横軸はGaN層の主面のオフ角(度)を示し、図7の縦軸はGaN層内に生じる縦ピエゾ電界(MV/cm)を示す。図7に示すように、発光層やコンタクト層等を含んでおり窒化ガリウム系半導体のエピタキシャル層が設けられた窒化ガリウム系半導体の基板主面のオフ角は、50度以上130度未満の半極性又は無極性の場合に、縦ピエゾ電界は、基板主面がc面の場合の縦ピエゾ電界と逆向きの比較的小さい電界となるか、又は、ゼロとなる。従って、基板主面のオフ角が50度以上130度未満の場合には、縦ピエゾ電界が、c面を主面とする場合の電界と逆向き又はゼロとなるので、発光層の外部量子効率が良好となる。さらにオフ角が63度以上80度未満である場合には、その結晶表面状態に起因して発光層のIn組成が均一となり、In偏析が抑制され、外部量子効率が良好となる。よって、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子11の発光層の品質は向上されている。
【0072】
また、図8は、p型GaN層のMg濃度とキャリア濃度との関係を示す図である。図8の横軸はp型GaN層内のMg濃度(cm−3)を示し、図8の縦軸はp型GaN層内にキャリア濃度(cm−3)を示す。図8に示すように、Mg濃度が1×1019cm−3まではMg濃度の増加に伴ってキャリア濃度が増加し、Mg濃度が1×1019cm−3の場合にキャリア濃度が最大となる。Mg濃度が1×1019cm−3を超えると、結晶性の低下によってキャリア補償が顕著となり、よって、キャリア濃度が低下する。Mg濃度が増加するほどGaN層の結晶性は低下する。キャリア濃度は、Mg濃度が5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で最も高い。更に、図9は、p型GaN層のMg濃度と接触抵抗との関係を示す図である。図9の横軸はp型GaN層内のMg濃度(cm−3)を示し、図9の縦軸はp型GaN層と金属電極との接触抵抗(Ωcm2)を示す。図9に示すように、Mg濃度が1×1020cm−3までは、Mg濃度の増加に伴って接触抵抗の値が急激に減少し、Mg濃度が1×1020cm−3から1×1021cm−3に至るまでの区間は、増加率は低下するがMg濃度の増加に伴って接触抵抗の値はなお減少する。しかし、Mg濃度が1×1021cm−3を超えると、Mg濃度の増加に伴って接触抵抗の値が急激な増加に転じる。よって、接触抵抗の値は、3×1020cm−3以上5×1020cm−3以下の範囲内のMg濃度の場合に比較的小さい。Mg濃度が高いと、金属電極とp型GaN層との界面の障壁は図10に示すように低下するが、Mg濃度が1×1021cm−3を超える程度に高いと、結晶性の低下が顕著となりキャリア濃度が低下する。このように、Mg濃度が比較的高いと、金属電極とp型GaN層との界面の障壁が低くなっているにもかかわらず、接触抵抗の増加という結果を招く場合がある。
【0073】
図10は、p型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンド図である。図10の(a)部は、50nmの厚みと1×1019cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10の(b)部は、50nmの厚みと1×1020cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10の(c)部は、50nmの厚みと1×1021cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10に示す符号Efはフェルミエネルギーレベルを示す。
【0074】
図10の(a)部に示すようにMg濃度が比較的低いと、p型GaN層のバルク部分のキャリア濃度は増加するが、金属電極との界面のバンドの曲がりが比較的大きく、このため、障壁が比較的高く、よって、接触抵抗の値は比較的大きい。図10の(c)部に示すようにMg濃度が比較的高いと、金属電極との界面のバンドの曲がりが比較的小さく、このため、障壁が比較的低くなるが、p型GaN層のバルク部分のキャリア濃度が減少し、よって、接触抵抗の値は比較的大きい。また、図10の(b)部に示すように、Mg濃度が図10の(a)部及び図10の(c)部にそれぞれ示すMg濃度の中間の値となっている場合には、図10の(a)部及び図10の(c)部に示す場合に比較して接触抵抗の値は小さいが、50nmの厚みによって結晶性は比較的低いままであり、キャリア濃度は十分ではない。結晶性を維持するために厚みを減らすことも考えられるが、単に厚みを減らすだけでは、バルク容積が減少するので、キャリア濃度を改善させるのは困難である。
【0075】
そこで、図10の(d)部に示すように、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子11のコンタクト層25a及びコンタクト層25bを用いれば、結晶性が維持されつつも、接触抵抗が低下し、キャリア濃度が増加される。電極37に直接接触するコンタクト層25bの場合、Mg濃度は5×1020cm−3程度で比較的高いが、厚みが10nm程度で比較的小さい。従って、電極37に直接接触するコンタクト層25bは、比較的高いMg濃度によって、更に、厚みが比較的小さいので良好な結晶性を有することによって、十分に低い接触抵抗を有する。更に、コンタクト層25bには、コンタクト層25aが直接接して設けられている。コンタクト層25aの場合、Mg濃度は1×1019cm−3程度と比較的低いが、厚みが40nm程度で比較的大きい。コンタクト層25aは、比較的低いMg濃度によって良好な結晶性を有し、また、良好な結晶性を有することによって、更に、厚みが比較的大きいことによって、比較的高いキャリア濃度を有する。従って、コンタクト層25aとコンタクト層25bとからなるIII族窒化物半導体素子11のp型のコンタクト層は、結晶性が低下されることなく、比較的低い接触抵抗と、比較的高いキャリア濃度とを有する。
【0076】
なお、図7〜図10に示す物性は、p型ドーパントとしてMgに替えて、例えばZn等を用いても、同様であり、更に、GaN層に替えて他の窒化ガリウム系半導体、具体的には、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0<x+y≦1)、を用いても、同様である。いずれの場合もドーパントの量と結晶性、キャリア濃度の関係は同様であり、最適なドーピング濃度はドーパントの種類によって変わりうるが、本実施形態の通り二層のコンタクト層を用いることで、比較的低い接触抵抗と、比較的高いキャリア濃度とが両立される。
【0077】
(実施例1)図4の(a)部に示される素子構造のレーザダイオード(III族窒化物半導体素子11に対応)を作製する。図4の(b)部には、エピタキシャル構造の構成層の成長温度が示される。p−GaN層(コンタクト層25aに対応)は、40nm程度の厚みと1×1019cm−3程度のMg濃度とを有する。p+―GaN層(コンタクト層25bに対応)は、10nm程度の厚みと5×1020cm−3程度のMg濃度とを有する。p−GaN層及びp+―GaN層の成長温度は、摂氏900度程度の同一の温度である。{20−21}面GaN基板を準備する。このGaN基板の上に、有機金属気相成長法で、エピタキシャル積層を形成する。p型ドーパントはMgである。図11に、このエピタキシャル積層の構造を表面側から分析したSIMS結果を示す。図11の横軸は、このエピタキシャル積層の表面からの深さを示す。図11には、エピタキシャル積層の表面から深さ100nm程度までの分析結果が示されている。図11の左縦軸は、Mg濃度を示す。図11に示すSIMS結果によれば、p+−GaN層においては、2×1020cm−3程度のMg濃度が確認され、p−GaN層においては、2×1019cm−3程度のMg濃度が確認される(なお、図11には、例えば、1×1021が“1E+21”と表され、1×106が“1E+06”と表されている。)。図11に示すSIMS結果には、マーカーとしてアルミニウム(Al)及びインジウム(In)に対する分析結果も含まれている。図11を参照すれば、アルミニウム(Al)濃度及びインジウム(In)濃度の立ち上がり部分は、p−GaN層と、この層の下のp−InAlGaNクラッド層との界面である。再び、図4に戻って説明する。p型窒化ガリウム系半導体層の成長において、インジウム(In)を含まない窒化ガリウム系半導体層の成長は、雰囲気ガスとして水素のみを供給して形成された水素雰囲気中で成長する。また、インジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体層の成長は、雰囲気ガスとして窒素のみを供給して形成された窒素雰囲気中で成長する。エピタキシャル積層の上には、幅10μm程度のストライプ窓を有する絶縁膜(例えばSiO2膜)をウェットエッチングにより形成する。Pdからなるアノード電極(p側の電極)及びパッド電極を蒸着により形成する。この後に、裏面には、Pdからなるカソード電極(n側の電極)及びパッド電極を蒸着により形成する。このように作製された基板生産物を、600μm程度の間隔で、へき開を行って分離して、レーザバーを作製する。へき開面は、{20−21}面及び{11−20}面に対して垂直な面である。レーザバーの共振器端面に、誘電体多層膜からなる反射膜を成膜する。誘電体多層膜は、例えばSiO2/TiO2からなる。前端面の反射率は80%程度であり、後端面の反射率は95%程度である。525nm程度の波長、及び、3kA/cm2程度のしきい値電流で発振し、50mW出力時の動作電圧は6.5ボルト程度である。アノード電極の接触抵抗の測定結果は、1×10−3Ωcm2程度であった。
【0078】
(実施例2)実施例1と実施例2の相違点は、p−GaN層及びp+―GaN層の成長温度だけである。図5の(a)部に示される素子構造のレーザダイオード(III族窒化物半導体素子11に対応)を作製する。図5の(b)部には、エピタキシャル構造の構成層の成長温度が示される。実施例2の場合のp−GaN層及びp+―GaN層の成長温度は、摂氏1000度程度の同一の温度である。実施例2の場合のアノード電極の接触抵抗の測定結果は、1×10−4Ωcm2程度であり、実施例1に比較して向上されている。50mW出力時の動作電圧は5.5ボルトであり、実施例1に比較して向上されている。素子寿命は、10000時間を越えた。以上の実施例1及び実施例2の結果から、Mg濃度が大きいp+―GaN層の成長温度は、活性層(ud−InGaN層(3nm))にダメージを与えない範囲で高めに設定することがよい。
【0079】
(実施例3〜実施例5)他の実施例3〜実施例5は、実施例1及び実施例2のp−GaN層及びp+―GaN層に替えて、単一のp+―GaN層を備え、実施例3〜実施例5の単一のp+―GaN層の成長温度は摂氏900度程度である。このようなp+―GaN層の構成及び成長温度を除けば、実施例3〜実施例5と実施例1及び実施例2とは同様である。実施例3の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1019cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−1Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は8.5ボルト程度である。実施例4の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1020cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−2Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は7.5ボルト程度である。実施例5の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1021cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−1Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は8.5ボルト程度である。従って、実施例1及び実施例2は、実施例3〜実施例5に比較して、少なくともアノード電極の接触抵抗及び動作電圧は向上している(接触抵抗及び動作電圧の各値は小さい)。
【0080】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【0081】
(他の実施形態)緑色帯の長波長領域に発光波長を有するGaN系半導体発光素子を作製するにあたって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板を利用することは、発光層に印加されるピエゾ電界を低減できること、インジウム(In)偏析が低減された高品質なInGaN発光層を作製できること、等の理由から、非常に有利である。
【0082】
しかしながら、発明者は、半極性面及び無極性面の何れかを利用する際に障害となり得る課題が少なくとも二つあると考えた。第一の課題としては、p側電極との間の接触抵抗が比較的に高い、ということがある。典型的には、c面を主面とする基板上における接触抵抗は5×10−4Ωcm2程度であるのに対し、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上における接触抵抗は2×10−2Ωcm2程度であって約2桁近くも接触抵抗が増加する。この接触抵抗の増加は、縦方向に電流を流した際には約2V程度の電圧上昇に相当する。
【0083】
第二の課題としては、長波長で発光するインジウム(In)組成の高いInGaN発光層は熱耐性が弱く、そのためp型層の成長温度を(典型的には摂氏1100度程度から摂氏900度程度まで)下げる必要があるが、この場合、p型層の結晶品質が低下する、ということがある。p型層の結晶品質の低下は接触抵抗の悪化を招き、典型的にはc面を主面とする基板上における接触抵抗は5×10−3Ωcm2程度であり、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上における接触抵抗は5×10−2Ωcm2程度であって、基板の主面の面方位に関わらず、接触抵抗が悪化する。
【0084】
そこで、発明者は、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上においてp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子の製造が可能となる製造方法を、見出した。水素雰囲気のもとで、発光層の保護のためにp型層を比較的に低温(摂氏900度程度)で成長すると、成長速度が1μm/hour以上の場合に、1×1017cm−3を超えて1×1018cm−3程度の炭素不純物がp型層に導入される。このような炭素不純物濃度は、p型層の抵抗値を増加し、よって、p型層と電極との接触抵抗の悪化を招く。これに対し、発明者は、p型層の炭素不純物濃度を低下させる方法として、成長速度を下げることによってV族原子数/III族原子数の比を上げることが有効である、ことを見出し、実際に接触抵抗を低減できた。この場合の成長速度は、p側の電極に接触する表面を有しておりMgドープ量の多いコンタクト層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層)の場合には0.1μm/hour以下であり、このコンタクト層に接しており比較的Mgドープ量の小さいコンタクト層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層)の場合には1μm/hour以下である。
【0085】
なお、発明者は、炭素不純物濃度を低減させる方法として、窒素雰囲気下でp型層を成長させることが有効であることも見出したが、この場合、接触抵抗の大幅な改善は認められなかった。発明者は、この現象(窒素雰囲気下でp型層を成長させた場合、炭素不純物濃度を低減できても接触抵抗の大幅な改善は認められない、という現象)の原因を次のように考えた。すなわち、マグネシウム(Mg)原子は、GaN中のガリウム(Ga)を置換してアクセプタとして働く、という点と、水素雰囲気では、マグネシウム(Mg)原子は、ガリウム(Ga)原子を効率よく置換するのに対し、窒素雰囲気では、Mg原子は、ガリウム(Ga)原子を効率よく置換せず、格子間などに入り込む、という点とを鑑みれば、上記のような現象(窒素雰囲気下でp型層を成長させた場合、炭素不純物濃度を低減できても接触抵抗の大幅な改善は認められない、という現象)が、水素雰囲気と窒素雰囲気とではSIMS分析上では同程度の濃度のマグネシウム(Mg)原子がドープされていても、窒素雰囲気の場合にはマグネシウム(Mg)原子が有効なアクセプタとして働いていないことが起因して生じた、と発明者は考えた。
【0086】
以上の知見から、発明者は、水素雰囲気において成長速度を下げ、V族原子数/III族原子数の比を高めて成長することによって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上においてp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子と、GaN系半導体発光素子を作製する方法とを見出すことに成功した。このような、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上にp型層を低温で成長しても良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子の製造が可能となる製造方法と、この製造方法によって製造されるGaN系半導体発光素子とは、図3に示すエピタキシャル基板EP1の構成と、エピタキシャル基板EP1の製造方法とに対して、以下のような変更を加えることによって、実現できる。以下、変更後のエピタキシャル基板を、エピタキシャル基板EP11という。
【0087】
まず、エピタキシャル基板EP11の構成及び製造方法が、エピタキシャル基板EP1と異なっている点(変更点)を、下記に列記する。エピタキシャル基板EP11の場合、SiドープGaN層55aと低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとの成長時の雰囲気ガスに水素が用いられる点。エピタキシャル基板EP11の場合、エピタキシャル基板EP11のその他の層の成長時の雰囲気ガスに窒素が用いられる点が異なっており、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上で重要な要素である。その他にもエピタキシャル基板EP11の場合、p型III族窒化物半導体領域63の成長時にp型GaN電子ブロック層65aが設けられていない点。エピタキシャル基板EP11の場合、SiドープGaN層55cの成長温度が摂氏840度程度に設定される点。エピタキシャル基板EP11の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度が共に摂氏870度程度に設定される点。エピタキシャル基板EP11の場合、図中符号65dに示す位置に形成される層には、MgドープInAlGaNクラッド層ではなくMgドープAlGaNクラッド層が形成される点等が異なるが、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上では関係のない変更点である。また以上の点を除けば、エピタキシャル基板EP11の構成及び製造方法は、エピタキシャル基板EP1の構成及び製造方法と、同様である。
【0088】
また、エピタキシャル基板EP11の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0089】
更に、エピタキシャル基板EP11の場合、基板51の主面51aは、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸(基準軸Cx)に直交する面(面Sc)から70度以上80度未満の角度で傾斜している場合、及び、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸(基準軸Cx)に直交する面(面Sc)から100度以上110度未満の角度で傾斜している場合、が可能である。当該角度範囲の基板を用いると、発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0090】
エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長速度は、1μm/hour以下であり、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度は、0.1μm/hour以下であり、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長速度よりも遅く、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fは、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される。このように、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時の雰囲気ガスに水素を用い、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度も比較的に遅いので、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時のV族原子数/III族原子数の比を比較的に高くできる。従って、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fにおける炭素不純物濃度を比較的に低くでき、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が良好となる。なお、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの炭素不純物を減らすには、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fを窒素雰囲気で成長させる方法があるが、窒素雰囲気では高濃度のマグネシウム(Mg)をドープした結晶の成長が困難なため、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの結晶性が低下し、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が共に高くなる。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの炭素不純物を減らすには、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度を上げる方法があるが、比較的に長波長の場合には活性層の成長温度は低くその後のp層の成長中の熱耐性が低下するので、活性層59bがダメージを受ける場合がある。よって、水素雰囲気において成長速度を下げ、V族原子数/III族原子数の比を高めて成長することによって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上で、比較的長波長の光を発する発光層を保護する目的でp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子を作製することができる。
【0091】
エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、活性層59bの成長温度は、摂氏650度以上摂氏800度未満の範囲にある。更に、エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのそれぞれの成長温度と、活性層59bの成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下の範囲にある。よって、活性層59bがp型層成長中に受けるダメージを抑制できる。
【0092】
(実施例6)
次に、エピタキシャル基板EP11の実施例6を説明する。実施例6は、図12の(a)部に示す素子構造を有するレーザダイオードである。図12の(b)部には、図12の(a)部に示す素子構造のエピタキシャル積層の成長温度が示されている。
【0093】
図4と図12とを参照すると、実施例6は、実施例1とは、以下の点で相違するが、その他の点では、実施例1と同様であることがわかる。実施例6は、下記の七つの相違点において、実施例1と相違していた。すなわち、SiドープGaN層55aに対応するn−GaN層と、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層と、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層との成長時の雰囲気ガスには水素を用いた点、その他の層の成長時の雰囲気ガスには窒素を用いた点、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長速度を0.43μm/hourに設定し、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長速度を0.07μm/hourに設定した点が異なっており、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上で重要な要素である。その他にも、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長温度と高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長温度とを共に摂氏870度程度に設定した点、InGaN光ガイド層59aに対応するn−InGaN層は、0.145μm程度の厚みと0.05程度のインジウム(In)の組成比とを有していた点、InGaN光ガイド層59cに対応するud−InGaN層上には、p型GaN電子ブロック層65aに対応するp−GaN層を形成せずに、MgドープInGaN光ガイド層65bに対応し0.040μm程度の厚みを有するp−InGaN層を形成した点、MgドープGaN光ガイド層65cに対応するp−GaN層と低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層との間には、MgドープInAlGaNクラッド層65dに対応するInAlGaN層ではなく、0.40μm程度の厚みと0.05のアルミニウム(Al)の組成比とを有するp−AlGaN層を形成した点、等が異なるが、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上では関係のない変更点である。
【0094】
実施例6の構成では、525nm程度の波長、及び、3kA/cm2程度のしきい値電流で発振し、50mW出力時の動作電圧は5.5ボルト程度であった。実施例6の構成に対し、TLM法(Transmission Line Method)を用いて、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層と金属電極(パラジウム(Pd)の電極)との接触抵抗を測定した。このTLM法による測定結果によれば、p+−GaN層と金属電極(パラジウム(Pd)の電極)との接触抵抗が、p+−GaN層の全面において、5×10−4Ωcm2以下の範囲にあった。
【0095】
実施例6では、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長温度と高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長温度とを、共に、比較的低温(少なくとも実施例1,2の場合に比較して低温)の摂氏870度程度に設定した。このように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長温度を下げることによって、コンタクト層の成長中における活性層の熱劣化を抑制できる。
【0096】
図13〜図15に、エピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果を示す。なお、この分析に用いたエピタキシャル積層構造は、コンタクト層の原子濃度を正確に測るために、アンドープGaNキャップ層を高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上に積層した構造である。各図の横軸は、このエピタキシャル積層の表面(p側の表面)からの深さを示す。各図には、エピタキシャル積層の表面(p側の表面)から200nm程度までの分析結果が示されている。図13〜図15に示すSIMS結果には、マーカーとしてマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)に対する分析結果も含まれている。なお、各図の左縦軸は、各原子の濃度を示し、各図の左縦軸は、炭素(C)、マグネシウム(Mg)の濃度を示す。各図の曲線GC1,GC2,GC3は、炭素(C)に対する測定結果を示す。各図の曲線GMg1,GMg2,GMg3は、マグネシウム(Mg)に対する測定結果を示す。図13は、実施例6と同様に、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに水素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を0.43μm/hourの程度とし、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)の成長速度を0.07μm/hourの程度として形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、5×10−4Ωm2の程度であった。曲線GC1に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1016cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1016cm−3の程度であった。曲線GO1に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、7×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、7×1017cm−3の程度であった。曲線GMg1に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0097】
図14は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに水素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を、曲線GMg1に示す場合に比較して速い成長速度(3.5μm/hour程度であるが、p+−GaN層の場合には0.21μm/hour程度)で形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、2×10−3Ωm2の程度であった。曲線GC2に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、1×1018cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、1×1018cm−3の程度であった。曲線GO2に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1017cm−3の程度であった。曲線GMg2に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0098】
図15は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに窒素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を、曲線GMg1に示す場合と同様の成長速度で形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、2×10−3Ωm2の程度であった。曲線GC3に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、4×1016cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、4×1016cm−3の程度であった。曲線GO3に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、2×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、2×1017cm−3の程度であった。曲線GMg3に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0099】
図12に示す結果からは、曲線GC1に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられ成長速度が比較的に遅い場合には、炭素(C)の濃度が3×1016cm−3の程度であって比較的に低いことがわかる。これに対し、曲線GC2に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられていても成長速度が曲線GC1の状況に比較して速い場合には、炭素(C)の濃度が1×1018cm−3の程度であって比較的に高いことがわかる。なお、曲線GC3に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに窒素が用いられた場合には、炭素(C)の濃度が4×1016cm−3の程度であって比較的に低いが、結晶性が比較的に低いことがわかる。更に、曲線GC1,GO1,GMg1に示す測定結果が得られた状況、すなわち、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられ成長速度が比較的に遅い場合には、エピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗が5×10−4Ωm2の程度であって比較的に低かった。
【符号の説明】
【0100】
10…成長炉、11…III族窒化物半導体素子、13,51…基板、13a,51a,53a,57a,59b−1,63a…主面、13b…裏面、15,53…n型III族窒化物半導体領域、17,57…発光層、19,63…p型III族窒化物半導体領域、21…p型窒化ガリウム系半導体層、23…p型クラッド層、25a,25b…コンタクト層、27,59b…活性層、29…n側光ガイド層、31…p側光ガイド層、33…井戸層、35…障壁層、37,41…電極、39…絶縁膜、39a…開口、55a…SiドープGaN層、55b…SiドープInAlGaN層、55c…SiドープGaN層、59a…InGaN光ガイド層、59c…InGaN光ガイド層、61a…アンドープInGaN障壁層、61b…アンドープInGaN井戸層、65a…p型GaN電子ブロック層、65b…MgドープInGaN光ガイド層、65c…MgドープGaN光ガイド層、65d…MgドープInAlGaNクラッド層、65e…低濃度MgドープGaNコンタクト層、65f…高濃度MgドープGaNコンタクト層、Ax…法線軸、CR…結晶座標系、Cx…基準軸、EP,EP1,EP11…エピタキシャル基板、J1…界面、JC…接触、S…座標系、Sc…面、VC…c軸ベクトル、VN…法線ベクトル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体素子、及び、III族窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動電圧の低下を目的とする発光素子に係る技術が開示されている。サファイア基板の上に、500オングストロームのAlNのバッファ層と、膜厚約2.0マイクロメートル、電子濃度2×1018/cm3のSiドープGaNの高キャリア濃度n+層と、膜厚約2.0μm、電子濃度2×1018/cm3のSiドープの(Alx2Ga1−x2)y2In1−y2Nの高キャリア濃度n+層と、膜厚約0.5μm、Mg、Zn及びSiドープの(Alx1Ga1−x1)y1In1−y1Nのp伝導型の発光層と、膜厚約1.0μm、ホール濃度2×1017/cm3のMgドープの(Alx2Ga1−x2)y2In1−y2Nのp層と、膜厚約0.2μm、ホール濃度5×1017/cm3、Mg濃度1×1020/cm3のMgドープのGaNから成る第2コンタクト層と、膜厚約500オングストローム、ホール濃度2×1017/cm3、Mg濃度2×1020/cm3のMgドープのGaNから成る第1コンタクト層と、が形成されている。更に、p層と高キャリア濃度n+層とに、それぞれ、接続するニッケルで形成された二つの電極が形成されている。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子は、特に、サファイア基板のc面の上の最表面に設けられた高Mg濃度のp型の第1コンタクト層と、この第1コンタクト層の下に設けられた低Mg濃度のp型の第2コンタクト層とを有する。第1コンタクト層のMg濃度は1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であり、第2コンタクト層のMg濃度は1×1019cm−3以上5×1020cm−3以下である。第1及び第2のコンタクト層の膜厚については、50nmと200nmとが開示されている。また、非特許文献1及び2には、ピエゾ電界の計算について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−97471号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.39 (2000) pp.413
【非特許文献2】Journal of Applied Physics, Vol.91 No.12 (2002) pp.9904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Mgがドープされたp型の窒化ガリウムのコンタクト層の接触抵抗は、Mg濃度によって増減する。接触抵抗の値は、Mg濃度が1×1020cm−3程度の場合に比較的小さい。しかし、Mg濃度がこのように高い場合、結晶性が低下してp型キャリア濃度の低下を招く。従って、接触抵抗、結晶性及びキャリア濃度の何れもが好適なp型コンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子の開発が望まれている。そこで、本発明の目的は、上記の事項を鑑みてなされたものであり、結晶性が損なわれることなく比較的小さい接触抵抗と比較的高いキャリア濃度とを有するp型のコンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子及びIII族窒化物半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子は、窒化ガリウム系半導体の発光層と、前記発光層の上に設けられた第1のコンタクト層と、前記第1のコンタクト層の上に設けられ前記第1のコンタクト層に直接接する第2のコンタクト層と、前記第2のコンタクト層の上に設けられ前記第2のコンタクト層に直接接する金属電極と、を備え、前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度よりも低く、前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、ことを特徴とし、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。
【0008】
第2のコンタクト層において、p型ドーパントが比較的高いので金属電極との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。第1のコンタクト層において、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、第2のコンタクト層と金属電極との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層の外部量子効率等が良好となる。
【0009】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を更に備え、前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、前記第1のコンタクト層は、前記クラッド層に直接接していることが好ましい。
【0010】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、窒化ガリウム系半導体からなる基板を更に備え、前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられており、前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜していることが好ましい。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いることができるので、基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している主面の上に、窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面にも主面と同様の傾斜が実現できる。
【0011】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下であることが好ましく、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接している第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的高いので、金属電極との接触抵抗は低下する。
【0012】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接していない第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。
【0013】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記p型ドーパントはマグネシウムであることが好ましい。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。Mgは窒化物半導体中で比較的浅いアクセプタ準位を形成し、そのためドーパント濃度に対する正孔濃度の活性化率が高く、比較的小さいドーパント濃度で比較的高い正孔濃度が得られる。
【0014】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなることが好ましい。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、第1及び第2のコンタクト層がGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0015】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることが好ましい。従って、第1及び第2のコンタクト層の材料に、窒化ガリウム以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。これにより基板との格子不整合度が変わり、コンタクト層に内包される歪み量が変化するために、第1コンタクト層のキャリア濃度を高めたり、第2コンタクト層と金属電極との接触抵抗を低減させることができる。
【0016】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることが好ましい。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。このIn組成領域では発光層に内包される歪みが大きく、基板主面の傾斜角を前記範囲に取ったときに抑制できるピエゾ電界が大きい。従って本発明を用いれば当該In組成領域でも良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0017】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなることが好ましい。このような材料の金属電極によって、第2のコンタクト層と良好な接触が実現される。これらの金属を用いることにより良好なオーミック接合が実現される。
【0018】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法は、窒化ガリウム系半導体からなる発光層を形成する工程と、前記発光層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第1のコンタクト層を形成する工程と、前記第1のコンタクト層の形成時に供給されたp型ドーパントの供給量を切り替えた後に前記第1のコンタクト層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第2のコンタクト層を形成する工程と、前記第2のコンタクト層の上に金属電極を形成する工程と、を備え、前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、前記第1のコンタクト層を形成する工程及び前記第2のコンタクト層を形成する工程において成長炉に供給されるp型ドーパントの供給量は、前記第2のコンタクト層を形成する工程で供給される量のほうが前記第1のコンタクト層を形成する工程で供給される量よりも多く、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度は、前記発光層に含まれている活性層の成長温度よりも高く、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下であり、前記第2のコンタクト層は前記金属電極に直接接し、前記第1のコンタクト層は前記第2のコンタクト層に直接接し、前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、ことを特徴とし、前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。
【0019】
第2のコンタクト層において、p型ドーパントが比較的高いので金属電極との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。第1のコンタクト層において、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、第2のコンタクト層と金属電極との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層の外部量子効率等が良好となる。また、第1及び第2のコンタクト層の成長温度は発光層の成長温度よりも高く、第1及び第2のコンタクト層の成長温度と発光層の成長温度との差は、摂氏150度以上摂氏300度以下である。成長温度の差が当該差よりも小さいと、第1及び第2のコンタクト層の成長温度が低くなるために電気特性が低下する。成長温度の差が当該差よりも大きいと、活性層が受ける熱ダメージが増加するので発光効率が低下する。
【0020】
本発明に係る方法では、p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を形成する工程を更に備え、前記クラッド層は、前記発光層が形成された後に形成され、前記第1及び第2のコンタクト層は、前記クラッド層が形成された後に形成され、前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、前記第1のコンタクト層は前記クラッド層に直接接していることが好ましい。
【0021】
本発明に係る方法では、窒化ガリウム系半導体からなる基板を準備する工程を更に備え、前記クラッド層は、前記基板の上に形成され、前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられ、前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜していることが好ましい。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板を用いることができるので、基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している主面の上に、窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、第1のコンタクト層と第2のコンタクト層との界面にも主面と同様の傾斜が実現できる。
【0022】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下であることが好ましく、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接している第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的高いので、金属電極との接触抵抗は低下する。
【0023】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることが好ましい。金属電極に直接接していない第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。
【0024】
本発明に係る方法では、前記p型ドーパントはマグネシウムであることが好ましい。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。Mgは窒化物半導体中で比較的浅いアクセプタ準位を形成し、そのためドーパント濃度に対する正孔濃度の活性化率が高く、比較的小さいドーパント濃度で比較的高い正孔濃度が得られる。
【0025】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなることが好ましい。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、第1及び第2のコンタクト層がGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0026】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることが好ましい。従って、第1及び第2のコンタクト層の材料に、窒化ガリウム以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。これにより基板との格子不整合度が変わり、コンタクト層に内包される歪み量が変化するために、第1コンタクト層のキャリア濃度を高めたり、第2コンタクト層と金属電極との接触抵抗を低減させることができる。
【0027】
本発明に係る方法では、前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることが好ましい。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。このIn組成領域では発光層に内包される歪みが大きく、基板主面の傾斜角を前記範囲に取ったときに抑制できるピエゾ電界が大きい。従って本発明を用いれば当該In組成領域でも良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0028】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は1×1017cm−3以下である。このように、炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0029】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0030】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0031】
本発明に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法では、前記第1のコンタクト層の成長速度は、1μm/hour以下であり、前記第2のコンタクト層の成長速度は、0.1μm/hour以下であり、前記第2のコンタクト層の成長速度は、前記第1のコンタクト層の成長速度よりも遅く、前記第1及び第2のコンタクト層は、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される。このように、第1及び第2のコンタクト層の成長時の雰囲気ガスに水素を用い、第1及び第2のコンタクト層の成長速度も比較的に遅いので、第1及び第2のコンタクト層の成長時のV族原子数/III族原子数の比を比較的に高くできる。従って、第1及び第2のコンタクト層における炭素不純物濃度を比較的に低くでき、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が良好となる。
【0032】
本発明に係る方法では、前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。このように、炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0033】
本発明に係る方法では、前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下である。よって、コンタクト層の結晶性を向上できる一方で、コンタクト層の成長時に活性層が受けるダメージを抑制できる。
【0034】
本発明に係る方法では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0035】
本発明に係る方法では、前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している。当該角度範囲の基板を用いると、前記発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0036】
本発明に係る方法では、前記活性層の成長温度は摂氏650度以上摂氏800度未満である。よって、前記波長範囲(480nm以上600nm以下)の発光波長を有する活性層を作製することができる。
【0037】
本発明に係る方法では、前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなることが好ましい。このような材料の金属電極によって、第2のコンタクト層と良好な接触が実現される。これらの金属を用いることにより良好なオーミック接合が実現される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、結晶性が損なわれることなく比較的小さい接触抵抗と比較的高いキャリア濃度とを有するp型のコンタクト層を有するIII族窒化物半導体素子及びIII族窒化物半導体素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程を示す図である。
【図3】図3は、実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図である。
【図4】図4は、実施例1のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図5】図5は、実施例2のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図6】図6は、発光波長と外部量子効率との関係、及び、視感度曲線、を示す図である。
【図7】図7は、ピエゾ電界と主面のオフ角との関係を示す図である。
【図8】図8は、マグネシウム濃度とキャリア濃度との関係を示す図である。
【図9】図9は、マグネシウム濃度と接触抵抗との関係を示す図である。
【図10】図10は、本実施形態の効果を説明するための図である。
【図11】図11は、エピタキシャル積層の構造を表面側から分析したSIMS結果を示す図である。
【図12】図12は、実施例6のレーザダイオードの素子構造及び成長温度を示す図である。
【図13】図13は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【図14】図14は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【図15】図15は、主に実施例6のエピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体素子の構造及びIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャル基板の構造を概略的に示す図面である。III族窒化物半導体素子11としては、例えば発光ダイオード、レーザダイオード等の発光素子を説明するが、本実施の形態は、p型III族窒化物半導体を含むIII族窒化物半導体素子に適用可能である。
【0041】
図1の(a)部にIII族窒化物半導体素子11が示され、図1の(b)部にIII族窒化物半導体素子11のためのエピタキシャル基板EPが示される。
エピタキシャル基板EPは、III族窒化物半導体素子11と同様のエピタキシャル層構造を有する。引き続く説明では、III族窒化物半導体素子11を構成する半導体層を説明する。エピタキシャル基板EPは、これらのIII族窒化物半導体素子11を構成する半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、III族窒化物半導体素子11のための説明が適用される。
【0042】
図1を参照すると、座標系S及び結晶座標系CRが示されている。基板13の主面13aは、Z軸の方向を向いており、X方向及びY方向に延びている。X軸はa軸の方向に向いている。図1の(a)部に示されるように、III族窒化物半導体素子11は、基板13と、n型III族窒化物半導体領域15と、発光層17と、p型III族窒化物半導体領域19とを備える。n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19は、基板13の上においてエピタキシャル成長によって形成されている。
【0043】
基板13のc面は、図1に示された面Scに沿って延びている。面Scの上では、六方晶系窒化ガリウム系半導体の結晶軸を示すための結晶座標系CR(c軸,a軸,m軸)が示されている。基板13の主面13aは、基準軸Cxに直交する面Scを基準にして、基板13の窒化ガリウム系半導体のm軸又はa軸の方向に、傾斜角αで傾斜している。傾斜角αは、基板13の主面13aの法線ベクトルVNと基準軸Cxを示すc軸ベクトルVCとの成す角度によって規定される。主面13aの上において、発光層17は、n型III族窒化物半導体領域15とp型III族窒化物半導体領域19との間に設けられている。主面13aの上において、n型窒化ガリウム系半導体領域15、活性層17及びp型窒化ガリウム系半導体領域19は、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、発光層17に含まれているn側光ガイド層29、活性層27及びp側光ガイド層31が法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。主面13aの上において、p型III族窒化物半導体領域19に含まれているp型窒化ガリウム系半導体層21、p型クラッド層23、コンタクト層25a及びコンタクト層25bが、法線ベクトルVNの向き(Z軸方向)に順に配列されている。
【0044】
基板13は、導電性を有する窒化ガリウム系半導体からなる主面13aを有する。基板13の主面13aは、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130度未満の範囲の角度で傾斜する。基板13は、主面13aを含めて、窒化ガリウム系半導体からなることができる。基板13の窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN(窒化ガリウム)、InGaN(In:インジウム)、AlGaN等であることができる。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、良好な結晶品質と安定した基板主面とを提供できる。また、基板13は、例えばAlN等であることもできる。
【0045】
n型III族窒化物半導体領域15は、n型の窒化ガリウム系半導体からなる。n型III族窒化物半導体領域15は、基板13の上に設けられる。n型III族窒化物半導体領域15は、基板13の主面13aに直接接している。n型III族窒化物半導体領域15は、一又は複数のn型窒化ガリウム系半導体層を含む。この一又は複数のn型の窒化ガリウム系半導体層は、主面13aの上に設けられる。n型III族窒化物半導体領域15は、例えばn型バッファ層、n型クラッド層、n型光ガイド層を含むことができる。n型III族窒化物半導体領域15は、例えば、n型のGaN、InGaN、AlGaN又はInAlGaN等からなることができる。
【0046】
発光層17は、例えば、インジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体からなる。発光層17は、基板13及びn型III族窒化物半導体領域15の上に設けられる。発光層17は、n型III族窒化物半導体領域15に直接接している。発光層17は、活性層27を含み、必要な場合にはn側光ガイド層29及びp側光ガイド層31を含むことができる。活性層27は、一又は複数の井戸層33と、複数の障壁層35とを含む。障壁層35は、井戸層33のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する。活性層27は、単一又は多重の量子井戸構造を有することができる。井戸層33及び障壁層35は、何れも、n型III族窒化物半導体領域15及びn側光ガイド層29の上に設けられている。井戸層33及び障壁層35は、何れも、例えば、AlGaN、GaN、InGaN又はInAlGaN等からなる。発光層17(活性層27)の発光波長は、例えば480nm以上600nm以下である。この発光波長範囲の光を発生する発光素子において、p型窒化ガリウム系半導体の電気的特性を向上できる。更に、長波長における発光を提供する発光素子において、p型窒化ガリウム系半導体の特性を向上できる。
【0047】
発光層17がインジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体からなり、発光層17のインジウム(In)の組成は、15%以上50%未満となっている。従って、480nm以上600nm以下の発光波長の発光が実現できる。例えば、発光層17は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)であることができる。
【0048】
p型III族窒化物半導体領域19は、p型の窒化ガリウム系半導体からなる。p型III族窒化物半導体領域19のp型ドーパントはマグネシウム(Mg)である。従って、p型ドーパントの供給が良好に行える。なお、亜鉛(Zn)等もp型ドーパントに用いることができる。p型III族窒化物半導体領域19は、基板13、n型III族窒化物半導体領域15及び発光層17の上に設けられる。p型III族窒化物半導体領域19は、発光層17に直接接している。p型III族窒化物半導体領域19は、一又は複数のp型窒化ガリウム系半導体層を含む。p型III族窒化物半導体領域19は、例えばp型窒化ガリウム系半導体層21を含むことができる。p型窒化ガリウム系半導体層21は、発光層17の上に設けられ、発光層17に直接接している。p型窒化ガリウム系半導体層21は、p型電子ブロック層及びp型光ガイド層を含むことができる。p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、p型クラッド層23を含むことができる。p型クラッド層23は、p型窒化ガリウム系半導体層21の上に設けられ、p型窒化ガリウム系半導体層21に直接接している。p型窒化ガリウム系半導体層21及びp型クラッド層23のそれぞれは、例えば、p型のGaN、InGaN、AlGaN又はInAlGaN等からなることができる。
【0049】
p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、コンタクト層25a(第1のコンタクト層)を含むことができる。コンタクト層25aは、p型クラッド層23の上に設けられ、p型クラッド層23に直接接している。p型III族窒化物半導体領域19は、例えば、更に、コンタクト層25b(第2のコンタクト層)を含むことができる。コンタクト層25bは、コンタクト層25aの上に設けられ、コンタクト層25aに直接接している。
【0050】
コンタクト層25aとコンタクト層25bとの間には界面J1が形成されている。コンタクト層25aとコンタクト層25bとは、p型の同一の窒化ガリウム系半導体からなり、例えば、p型のGaNからなることができる。GaNは、二元化合物である窒化ガリウム系半導体であるので、コンタクト層25a及びコンタクト層25bがGaNからなる場合には、良好な結晶品質を提供できる。
【0051】
コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、コンタクト層25bのp型ドーパントの濃度よりも小さい。コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である。例えば、コンタクト層25aのp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下であることができる。電極37に直接接していないコンタクト層25aのp型ドーパントの濃度が比較的低いので、結晶性が比較的良好であり、よってキャリア濃度も比較的高い。コンタクト層25bのp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下であることができる。電極37に直接接しているコンタクト層25bのp型ドーパントの濃度が比較的高いので、電極37との接触JCにおける接触抵抗は低下する。
【0052】
コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1は、c軸に沿って延びる基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している。コンタクト層25bの膜厚は1nm以上50nm以下である。例えば、コンタクト層25bの膜厚は1nm以上20nm以下であることができる。コンタクト層25aのバンドギャップはp型クラッド層23のバンドギャップよりも小さい。
【0053】
以上説明した構成を有するIII族窒化物半導体素子11では、コンタクト層25bにおいて、p型ドーパントが比較的高いので電極37との接触抵抗は低下し、膜厚が比較的小さいので結晶性は比較的良好となる。コンタクト層25aにおいて、p型ドーパント濃度が比較的低いので結晶性は比較的良好であり、キャリア濃度も比較的高い。従って、結晶性が損なわれることなく、コンタクト層25bと電極37との接触抵抗の向上、及び、キャリア濃度の向上、が実現される。更に、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1の傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して、ピエゾ電界が逆向きで比較的小さいか又はゼロとなる。従って、傾斜が50度未満又は130度以上の場合に比較して発光層17の外部量子効率等が良好となる。
【0054】
また、III族窒化物半導体素子11は、窒化ガリウム系半導体からなる基板13を備えており、基板13の主面13aの上に、n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19といった窒化ガリウム系半導体層が順に設けられており、主面13aは、基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している。従って、窒化ガリウム系半導体からなる基板13を用いることができるので、基準軸Cxに直交する面Scから50度以上130未満の角度で傾斜している主面13aの上に、p型III族窒化物半導体領域19等の窒化ガリウム系半導体層を成長させることによって、コンタクト層25aとコンタクト層25bとの界面J1にも主面13aと同様の傾斜が実現できる。
【0055】
また、コンタクト層25a及びコンタクト層25bの同一の窒化ガリウム系半導体は、p型のInxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であることができる。従って、コンタクト層25a及びコンタクト層25bの材料に、GaN以外の他の窒化ガリウム系半導体を用いることができる。
【0056】
III族窒化物半導体素子11は、電極37及び絶縁膜39を更に備える。基板13、n型III族窒化物半導体領域15、発光層17及びp型III族窒化物半導体領域19の上には、電極37(例えば、アノード)と、コンタクト層25bを覆う絶縁膜39とが設けられている。電極37は、コンタクト層25bの上に設けられ、絶縁膜39の開口39aを介してコンタクト層25bに直接接している。コンタクト層25bと電極37とは、開口39aを介して接触JCを成す。電極37は、例えば、Pd、Au、又は、Ni/Au(Ni及びAu)等からなる。従って、このような材料の電極37によって、コンタクト層25bと良好な接触が実現される。また、III族窒化物半導体素子11は、電極41(例えば、カソード)を備える。電極41は、基板13の裏面13bの上に設けられ、裏面13bに直接接している。電極41は、例えば、Pd、Ti/Al等からなる。
【0057】
図1の(b)部に示すように、III族窒化物半導体素子11のエピタキシャル基板EPは、III族窒化物半導体素子11の上記の各半導体層に対応する半導体層(半導体膜)を含み、対応する半導体層には、III族窒化物半導体素子11のための説明が当てはまる。エピタキシャル基板EPの表面粗さは、10μm角の範囲で1nm以下の算術平均粗さを有する。図2は、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程を示す図面である。図3は、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子の製造方法の主要な工程における生産物を模式的に示す図面である。
【0058】
図2に示される工程フローに従って、有機金属気相成長法により、発光素子の構造のエピタキシャル基板EPとIII族窒化物半導体素子11とを作製した。エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、及び、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0059】
工程S101では、窒化ガリウム系半導体からなる主面を有する基板(図3の(a)部に示される基板51)を準備する。この基板51(基板13に対応)の主面51a(主面13aに対応)の法線軸は、窒化ガリウム系半導体のc軸に対して50度以上130度未満の角度範囲内の傾斜角を有する。基板51の主面51aは、例えば、六方晶系GaNにおけるm軸方向にc面から75度の角度で傾斜した{20−21}面であることができる。主面51aは鏡面研磨されている。
【0060】
次に、基板51の上に以下の条件でエピタキシャル成長を行う。まず、工程S102では、基板51を成長炉10内に設置する。成長炉10内には、例えば石英フローチャネル等の石英製の治具が配置されている。必要な場合には、摂氏1050度程度の温度及び27kPa程度の炉内圧力において、NH3とH2を含む熱処理ガスを成長炉10に供給しながら、10分間程度、熱処理を行う。この熱処理により、主面51a等において表面改質が生じる。
【0061】
この熱処理の後に、工程S103では、基板51の上にIII族窒化物半導体層を成長してエピタキシャル基板EPを形成する。雰囲気ガスは、キャリアガス及びサブフローガスを含む。雰囲気ガスは、例えば窒素及び/又は水素を含むことができる。工程S103は、下記工程S104、工程S105及び工程S110を含む。
【0062】
工程S104では、III族構成元素及びV族構成元素のための原料、及びn型ドーパントを含む原料ガス並びに雰囲気ガスを成長炉10に供給して、n型III族窒化物半導体領域53(n型III族窒化物半導体領域15に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。n型III族窒化物半導体領域53の主面53aの傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。n型III族窒化物半導体領域53は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施形態では、例えば、以下のIII族窒化物半導体層が成長される。摂氏950度程度において、TMG、NH3、SiH4、並びに、窒素及び/又は水素、を成長炉10に供給して、SiドープGaN層55aを成長して形成する。次いで、摂氏870度程度の基板温度で、TMG、TMI、TMA、NH3、SiH4及び窒素を成長炉10に供給して、SiドープInAlGaN層55bを成長して形成する。この後に、摂氏1050度程度において、TMG、NH3、SiH4、並びに、窒素及び/又は水素、を成長炉10に供給して、SiドープGaN層55cを成長して形成する。還元性を有する水素雰囲気では成長炉10内の治具や治具の付着物から酸素が脱離されやすくなる。
【0063】
工程S105では、発光層57(発光層17に対応)を成長して形成する。工程S105は、下記工程S106〜工程S109を含む。工程S106では、摂氏840度程度の基板温度で、TMG、TMI、NH3及び窒素を成長炉10に供給して、n側のInGaN光ガイド層59aを成長して形成する。InGaN光ガイド層59aの一部又は全部は、アンドープ又はn型導電性であることができる。
【0064】
次いで、工程S107及び工程S108において、活性層59b(活性層27に対応)を成長して形成する。工程S107では、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、アンドープInGaN障壁層61aを成長して形成する。アンドープInGaN障壁層61aの厚さは、15nm程度である。アンドープInGaN障壁層61aの成長後に、成長を中断して、障壁層の成長温度から井戸層の成長温度に基板温度を変更する。基板温度の変更後の工程S108では、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、アンドープInGaN井戸層61bを成長して形成する。InGaN井戸層61bの厚さは、3nm程度である。必要な場合には、障壁層の成長、温度変更、井戸層の成長を繰り返すことができる。本実施形態において、活性層59bの量子井戸構造は、3層のアンドープInGaN井戸層61bを含む。
【0065】
工程S109では、摂氏840度程度の基板温度で、TMG、TMI、NH3及び雰囲気ガスの窒素を成長炉10に供給して、p側のInGaN光ガイド層59cを成長して形成する。InGaN光ガイド層59cの一部又は全部は、アンドープ又はp型導電性であることができる。発光層57の主面57a及び活性層59bの主面59b−1の傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。
【0066】
工程S110では、III族原料、V族原料、及びp型ドーパントを含む原料ガス並びに雰囲気ガスを成長炉10に供給して、p型III族窒化物半導体領域63(p型III族窒化物半導体領域19に対応)をエピタキシャルに成長して形成する。p型III族窒化物半導体領域63の主面63aの傾斜角は、基板51の主面51aの傾斜角に対応している。p型III族窒化物半導体領域63は、一又は複数のIII族窒化物半導体層を含むことができる。本実施例では、以下のIII族窒化物半導体層が成長される。例えば、発光層57の成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を上昇する。TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、摂氏900度程度の基板温度でp型GaN電子ブロック層65aを成長して形成する。p型GaN電子ブロック層65aの成長において、雰囲気ガスの窒素が供給されることが好ましい。次いで、TMG、TMI、NH3、Cp2Mg及び窒素を成長炉10に供給して、摂氏840度程度の基板温度でMgドープInGaN光ガイド層65bを成長して形成する。この後に、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、MgドープGaN光ガイド層65cを成長して形成する。MgドープGaN光ガイド層65cの成長において、雰囲気ガスとして窒素が供給されることが好ましい。そして、摂氏870度程度の基板温度で、TMG、TMI、TMA、NH3、Cp2Mg及び窒素を成長炉10に供給して、MgドープInAlGaNクラッド層65d(p型クラッド層23に対応)を成長して形成する。
【0067】
MgドープInAlGaNクラッド層65dの成長の後、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e(コンタクト層25aに対応)及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65f(コンタクト層25bに対応)を成長して形成する。まず、工程S110aにて、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eを成長して形成する。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの厚みは、40nm程度である。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eのMg濃度は、1×1019cm−3程度である。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長が終了すると、工程S110bにて、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの形成時(工程S110a)において供給されたp型ドーパント(Mg)の供給量を切り替えた後に(p型ドーパント(Mg)の供給量を、例えば、1sccmから500sccmに変更。ただし流量制御装置の制御範囲の制限がある場合には、低濃度MgドープGaN層と高濃度MgドープGaN層の成長速度も変更して設計のMg濃度を得ることができる。)、摂氏900度程度において、TMG、NH3、Cp2Mg及び雰囲気ガスを成長炉10に供給して、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fを成長して形成する。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの膜厚は、10nm程度である。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのMg濃度は、5×1020cm−3程度である。
【0068】
低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとは、p型の同一の窒化ガリウム系半導体、例えば、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)であるが、特に、GaN等からなる。高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時に供給されるMgの供給量は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長時に供給されるMgの供給量より多い。よって、p型ドーパント(Mg)の濃度は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eよりも高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのほうが高い。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長において、雰囲気ガスとして窒素が供給されることが好ましい。低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとの間には界面(界面J1に対応)が形成される。
【0069】
低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度は、摂氏1000度程度の同一温度であってもよい。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度は、活性層59bの成長温度よりも高い。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度と活性層59bの成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下の範囲内にあるが、例えば、摂氏150度以上摂氏300度以下の範囲内にあることができる。成長温度の差が当該差よりも小さいと、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度が低くなるために電気特性が低下する。成長温度の差が当該差よりも大きいと、活性層59bが受ける熱ダメージが増加するので発光効率が低下する。以上説明した工程S101〜工程S110の後に、エピタキシャル基板EP1が形成される。
【0070】
工程S111では、エピタキシャル基板EP1の上に(特に、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上に)電極を形成する。電極の形成は以下のように行われる。例えば、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上にNi/Au又はPd等の金属の電極(電極37に対応)を形成すると共に、エピタキシャル基板EP1の裏面にTi/Al等の金属の電極(電極41に対応)を形成する。電極の形成に先立って、エピタキシャル基板EP1を加工してリッジ構造を形成することができる。工程S111によって、エピタキシャル基板EPが形成される。そして、へき開によってエピタキシャル基板EPからレーザバーを形成し、このレーザバーの共振器端面に、誘電体多層膜(例えばSiO2/TiO2)からなる反射膜を成膜した後に、III族窒化物半導体素子11に分離する。
【0071】
窒化ガリウム系半導体の発光素子の発光波長を長くするには、発光層の品質向上が不可欠である。発光層の品質に影響を及ぼす要因としては、ピエゾ電界による影響と、発光層であるInGaNの組成の不均一性による影響と、がある。InGaNの組成の不均一性は、結晶中でInが偏析し、In組成が高い結晶域とIn組成が低い結晶域が形成され、結晶中に局所的な歪みが内包されること等によって生じ、この不均一性によって結晶欠陥が形成され、発光効率が低下する。まず、図6を参照する。図6は、InGaN井戸層の発光素子及びAlGaInP井戸層の発光素子における外部量子効率と人間の視感度曲線とを示す。図6の横軸は発光素子の発光波長(nm)を示し、図6の縦軸は外部量子効率(%)を示す。図6に示すように、視感度が比較的高い480nm以上600nm以下の発光波長を含む領域では、InGaN井戸層の発光素子及びAlGaInP井戸層の発光素子の外部量子効率が比較的低い。更に、図7を参照する。図7は、非特許文献1及び非特許文献2に示された計算結果を示す。図7の横軸はGaN層の主面のオフ角(度)を示し、図7の縦軸はGaN層内に生じる縦ピエゾ電界(MV/cm)を示す。図7に示すように、発光層やコンタクト層等を含んでおり窒化ガリウム系半導体のエピタキシャル層が設けられた窒化ガリウム系半導体の基板主面のオフ角は、50度以上130度未満の半極性又は無極性の場合に、縦ピエゾ電界は、基板主面がc面の場合の縦ピエゾ電界と逆向きの比較的小さい電界となるか、又は、ゼロとなる。従って、基板主面のオフ角が50度以上130度未満の場合には、縦ピエゾ電界が、c面を主面とする場合の電界と逆向き又はゼロとなるので、発光層の外部量子効率が良好となる。さらにオフ角が63度以上80度未満である場合には、その結晶表面状態に起因して発光層のIn組成が均一となり、In偏析が抑制され、外部量子効率が良好となる。よって、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子11の発光層の品質は向上されている。
【0072】
また、図8は、p型GaN層のMg濃度とキャリア濃度との関係を示す図である。図8の横軸はp型GaN層内のMg濃度(cm−3)を示し、図8の縦軸はp型GaN層内にキャリア濃度(cm−3)を示す。図8に示すように、Mg濃度が1×1019cm−3まではMg濃度の増加に伴ってキャリア濃度が増加し、Mg濃度が1×1019cm−3の場合にキャリア濃度が最大となる。Mg濃度が1×1019cm−3を超えると、結晶性の低下によってキャリア補償が顕著となり、よって、キャリア濃度が低下する。Mg濃度が増加するほどGaN層の結晶性は低下する。キャリア濃度は、Mg濃度が5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下の範囲で最も高い。更に、図9は、p型GaN層のMg濃度と接触抵抗との関係を示す図である。図9の横軸はp型GaN層内のMg濃度(cm−3)を示し、図9の縦軸はp型GaN層と金属電極との接触抵抗(Ωcm2)を示す。図9に示すように、Mg濃度が1×1020cm−3までは、Mg濃度の増加に伴って接触抵抗の値が急激に減少し、Mg濃度が1×1020cm−3から1×1021cm−3に至るまでの区間は、増加率は低下するがMg濃度の増加に伴って接触抵抗の値はなお減少する。しかし、Mg濃度が1×1021cm−3を超えると、Mg濃度の増加に伴って接触抵抗の値が急激な増加に転じる。よって、接触抵抗の値は、3×1020cm−3以上5×1020cm−3以下の範囲内のMg濃度の場合に比較的小さい。Mg濃度が高いと、金属電極とp型GaN層との界面の障壁は図10に示すように低下するが、Mg濃度が1×1021cm−3を超える程度に高いと、結晶性の低下が顕著となりキャリア濃度が低下する。このように、Mg濃度が比較的高いと、金属電極とp型GaN層との界面の障壁が低くなっているにもかかわらず、接触抵抗の増加という結果を招く場合がある。
【0073】
図10は、p型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンド図である。図10の(a)部は、50nmの厚みと1×1019cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10の(b)部は、50nmの厚みと1×1020cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10の(c)部は、50nmの厚みと1×1021cm−3のMg濃度を有するp型GaN層に金属電極が設けられた場合のエネルギーバンドを示している。図10に示す符号Efはフェルミエネルギーレベルを示す。
【0074】
図10の(a)部に示すようにMg濃度が比較的低いと、p型GaN層のバルク部分のキャリア濃度は増加するが、金属電極との界面のバンドの曲がりが比較的大きく、このため、障壁が比較的高く、よって、接触抵抗の値は比較的大きい。図10の(c)部に示すようにMg濃度が比較的高いと、金属電極との界面のバンドの曲がりが比較的小さく、このため、障壁が比較的低くなるが、p型GaN層のバルク部分のキャリア濃度が減少し、よって、接触抵抗の値は比較的大きい。また、図10の(b)部に示すように、Mg濃度が図10の(a)部及び図10の(c)部にそれぞれ示すMg濃度の中間の値となっている場合には、図10の(a)部及び図10の(c)部に示す場合に比較して接触抵抗の値は小さいが、50nmの厚みによって結晶性は比較的低いままであり、キャリア濃度は十分ではない。結晶性を維持するために厚みを減らすことも考えられるが、単に厚みを減らすだけでは、バルク容積が減少するので、キャリア濃度を改善させるのは困難である。
【0075】
そこで、図10の(d)部に示すように、本実施形態に係るIII族窒化物半導体素子11のコンタクト層25a及びコンタクト層25bを用いれば、結晶性が維持されつつも、接触抵抗が低下し、キャリア濃度が増加される。電極37に直接接触するコンタクト層25bの場合、Mg濃度は5×1020cm−3程度で比較的高いが、厚みが10nm程度で比較的小さい。従って、電極37に直接接触するコンタクト層25bは、比較的高いMg濃度によって、更に、厚みが比較的小さいので良好な結晶性を有することによって、十分に低い接触抵抗を有する。更に、コンタクト層25bには、コンタクト層25aが直接接して設けられている。コンタクト層25aの場合、Mg濃度は1×1019cm−3程度と比較的低いが、厚みが40nm程度で比較的大きい。コンタクト層25aは、比較的低いMg濃度によって良好な結晶性を有し、また、良好な結晶性を有することによって、更に、厚みが比較的大きいことによって、比較的高いキャリア濃度を有する。従って、コンタクト層25aとコンタクト層25bとからなるIII族窒化物半導体素子11のp型のコンタクト層は、結晶性が低下されることなく、比較的低い接触抵抗と、比較的高いキャリア濃度とを有する。
【0076】
なお、図7〜図10に示す物性は、p型ドーパントとしてMgに替えて、例えばZn等を用いても、同様であり、更に、GaN層に替えて他の窒化ガリウム系半導体、具体的には、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0<x+y≦1)、を用いても、同様である。いずれの場合もドーパントの量と結晶性、キャリア濃度の関係は同様であり、最適なドーピング濃度はドーパントの種類によって変わりうるが、本実施形態の通り二層のコンタクト層を用いることで、比較的低い接触抵抗と、比較的高いキャリア濃度とが両立される。
【0077】
(実施例1)図4の(a)部に示される素子構造のレーザダイオード(III族窒化物半導体素子11に対応)を作製する。図4の(b)部には、エピタキシャル構造の構成層の成長温度が示される。p−GaN層(コンタクト層25aに対応)は、40nm程度の厚みと1×1019cm−3程度のMg濃度とを有する。p+―GaN層(コンタクト層25bに対応)は、10nm程度の厚みと5×1020cm−3程度のMg濃度とを有する。p−GaN層及びp+―GaN層の成長温度は、摂氏900度程度の同一の温度である。{20−21}面GaN基板を準備する。このGaN基板の上に、有機金属気相成長法で、エピタキシャル積層を形成する。p型ドーパントはMgである。図11に、このエピタキシャル積層の構造を表面側から分析したSIMS結果を示す。図11の横軸は、このエピタキシャル積層の表面からの深さを示す。図11には、エピタキシャル積層の表面から深さ100nm程度までの分析結果が示されている。図11の左縦軸は、Mg濃度を示す。図11に示すSIMS結果によれば、p+−GaN層においては、2×1020cm−3程度のMg濃度が確認され、p−GaN層においては、2×1019cm−3程度のMg濃度が確認される(なお、図11には、例えば、1×1021が“1E+21”と表され、1×106が“1E+06”と表されている。)。図11に示すSIMS結果には、マーカーとしてアルミニウム(Al)及びインジウム(In)に対する分析結果も含まれている。図11を参照すれば、アルミニウム(Al)濃度及びインジウム(In)濃度の立ち上がり部分は、p−GaN層と、この層の下のp−InAlGaNクラッド層との界面である。再び、図4に戻って説明する。p型窒化ガリウム系半導体層の成長において、インジウム(In)を含まない窒化ガリウム系半導体層の成長は、雰囲気ガスとして水素のみを供給して形成された水素雰囲気中で成長する。また、インジウム(In)を含む窒化ガリウム系半導体層の成長は、雰囲気ガスとして窒素のみを供給して形成された窒素雰囲気中で成長する。エピタキシャル積層の上には、幅10μm程度のストライプ窓を有する絶縁膜(例えばSiO2膜)をウェットエッチングにより形成する。Pdからなるアノード電極(p側の電極)及びパッド電極を蒸着により形成する。この後に、裏面には、Pdからなるカソード電極(n側の電極)及びパッド電極を蒸着により形成する。このように作製された基板生産物を、600μm程度の間隔で、へき開を行って分離して、レーザバーを作製する。へき開面は、{20−21}面及び{11−20}面に対して垂直な面である。レーザバーの共振器端面に、誘電体多層膜からなる反射膜を成膜する。誘電体多層膜は、例えばSiO2/TiO2からなる。前端面の反射率は80%程度であり、後端面の反射率は95%程度である。525nm程度の波長、及び、3kA/cm2程度のしきい値電流で発振し、50mW出力時の動作電圧は6.5ボルト程度である。アノード電極の接触抵抗の測定結果は、1×10−3Ωcm2程度であった。
【0078】
(実施例2)実施例1と実施例2の相違点は、p−GaN層及びp+―GaN層の成長温度だけである。図5の(a)部に示される素子構造のレーザダイオード(III族窒化物半導体素子11に対応)を作製する。図5の(b)部には、エピタキシャル構造の構成層の成長温度が示される。実施例2の場合のp−GaN層及びp+―GaN層の成長温度は、摂氏1000度程度の同一の温度である。実施例2の場合のアノード電極の接触抵抗の測定結果は、1×10−4Ωcm2程度であり、実施例1に比較して向上されている。50mW出力時の動作電圧は5.5ボルトであり、実施例1に比較して向上されている。素子寿命は、10000時間を越えた。以上の実施例1及び実施例2の結果から、Mg濃度が大きいp+―GaN層の成長温度は、活性層(ud−InGaN層(3nm))にダメージを与えない範囲で高めに設定することがよい。
【0079】
(実施例3〜実施例5)他の実施例3〜実施例5は、実施例1及び実施例2のp−GaN層及びp+―GaN層に替えて、単一のp+―GaN層を備え、実施例3〜実施例5の単一のp+―GaN層の成長温度は摂氏900度程度である。このようなp+―GaN層の構成及び成長温度を除けば、実施例3〜実施例5と実施例1及び実施例2とは同様である。実施例3の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1019cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−1Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は8.5ボルト程度である。実施例4の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1020cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−2Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は7.5ボルト程度である。実施例5の場合、p+―GaN層の厚みは50nm程度であり、Mg濃度は1×1021cm−3程度であり、アノード電極の接触抵抗の測定結果は1×10−1Ωcm2程度であり、50mW出力時の動作電圧は8.5ボルト程度である。従って、実施例1及び実施例2は、実施例3〜実施例5に比較して、少なくともアノード電極の接触抵抗及び動作電圧は向上している(接触抵抗及び動作電圧の各値は小さい)。
【0080】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【0081】
(他の実施形態)緑色帯の長波長領域に発光波長を有するGaN系半導体発光素子を作製するにあたって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板を利用することは、発光層に印加されるピエゾ電界を低減できること、インジウム(In)偏析が低減された高品質なInGaN発光層を作製できること、等の理由から、非常に有利である。
【0082】
しかしながら、発明者は、半極性面及び無極性面の何れかを利用する際に障害となり得る課題が少なくとも二つあると考えた。第一の課題としては、p側電極との間の接触抵抗が比較的に高い、ということがある。典型的には、c面を主面とする基板上における接触抵抗は5×10−4Ωcm2程度であるのに対し、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上における接触抵抗は2×10−2Ωcm2程度であって約2桁近くも接触抵抗が増加する。この接触抵抗の増加は、縦方向に電流を流した際には約2V程度の電圧上昇に相当する。
【0083】
第二の課題としては、長波長で発光するインジウム(In)組成の高いInGaN発光層は熱耐性が弱く、そのためp型層の成長温度を(典型的には摂氏1100度程度から摂氏900度程度まで)下げる必要があるが、この場合、p型層の結晶品質が低下する、ということがある。p型層の結晶品質の低下は接触抵抗の悪化を招き、典型的にはc面を主面とする基板上における接触抵抗は5×10−3Ωcm2程度であり、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上における接触抵抗は5×10−2Ωcm2程度であって、基板の主面の面方位に関わらず、接触抵抗が悪化する。
【0084】
そこで、発明者は、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上においてp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子の製造が可能となる製造方法を、見出した。水素雰囲気のもとで、発光層の保護のためにp型層を比較的に低温(摂氏900度程度)で成長すると、成長速度が1μm/hour以上の場合に、1×1017cm−3を超えて1×1018cm−3程度の炭素不純物がp型層に導入される。このような炭素不純物濃度は、p型層の抵抗値を増加し、よって、p型層と電極との接触抵抗の悪化を招く。これに対し、発明者は、p型層の炭素不純物濃度を低下させる方法として、成長速度を下げることによってV族原子数/III族原子数の比を上げることが有効である、ことを見出し、実際に接触抵抗を低減できた。この場合の成長速度は、p側の電極に接触する表面を有しておりMgドープ量の多いコンタクト層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層)の場合には0.1μm/hour以下であり、このコンタクト層に接しており比較的Mgドープ量の小さいコンタクト層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層)の場合には1μm/hour以下である。
【0085】
なお、発明者は、炭素不純物濃度を低減させる方法として、窒素雰囲気下でp型層を成長させることが有効であることも見出したが、この場合、接触抵抗の大幅な改善は認められなかった。発明者は、この現象(窒素雰囲気下でp型層を成長させた場合、炭素不純物濃度を低減できても接触抵抗の大幅な改善は認められない、という現象)の原因を次のように考えた。すなわち、マグネシウム(Mg)原子は、GaN中のガリウム(Ga)を置換してアクセプタとして働く、という点と、水素雰囲気では、マグネシウム(Mg)原子は、ガリウム(Ga)原子を効率よく置換するのに対し、窒素雰囲気では、Mg原子は、ガリウム(Ga)原子を効率よく置換せず、格子間などに入り込む、という点とを鑑みれば、上記のような現象(窒素雰囲気下でp型層を成長させた場合、炭素不純物濃度を低減できても接触抵抗の大幅な改善は認められない、という現象)が、水素雰囲気と窒素雰囲気とではSIMS分析上では同程度の濃度のマグネシウム(Mg)原子がドープされていても、窒素雰囲気の場合にはマグネシウム(Mg)原子が有効なアクセプタとして働いていないことが起因して生じた、と発明者は考えた。
【0086】
以上の知見から、発明者は、水素雰囲気において成長速度を下げ、V族原子数/III族原子数の比を高めて成長することによって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上においてp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子と、GaN系半導体発光素子を作製する方法とを見出すことに成功した。このような、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上にp型層を低温で成長しても良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子の製造が可能となる製造方法と、この製造方法によって製造されるGaN系半導体発光素子とは、図3に示すエピタキシャル基板EP1の構成と、エピタキシャル基板EP1の製造方法とに対して、以下のような変更を加えることによって、実現できる。以下、変更後のエピタキシャル基板を、エピタキシャル基板EP11という。
【0087】
まず、エピタキシャル基板EP11の構成及び製造方法が、エピタキシャル基板EP1と異なっている点(変更点)を、下記に列記する。エピタキシャル基板EP11の場合、SiドープGaN層55aと低濃度MgドープGaNコンタクト層65eと高濃度MgドープGaNコンタクト層65fとの成長時の雰囲気ガスに水素が用いられる点。エピタキシャル基板EP11の場合、エピタキシャル基板EP11のその他の層の成長時の雰囲気ガスに窒素が用いられる点が異なっており、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上で重要な要素である。その他にもエピタキシャル基板EP11の場合、p型III族窒化物半導体領域63の成長時にp型GaN電子ブロック層65aが設けられていない点。エピタキシャル基板EP11の場合、SiドープGaN層55cの成長温度が摂氏840度程度に設定される点。エピタキシャル基板EP11の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度が共に摂氏870度程度に設定される点。エピタキシャル基板EP11の場合、図中符号65dに示す位置に形成される層には、MgドープInAlGaNクラッド層ではなくMgドープAlGaNクラッド層が形成される点等が異なるが、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上では関係のない変更点である。また以上の点を除けば、エピタキシャル基板EP11の構成及び製造方法は、エピタキシャル基板EP1の構成及び製造方法と、同様である。
【0088】
また、エピタキシャル基板EP11の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である。炭素不純物濃度が比較的に低いので、接触抵抗、及び、素子の動作電圧、が向上される。
【0089】
更に、エピタキシャル基板EP11の場合、基板51の主面51aは、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸(基準軸Cx)に直交する面(面Sc)から70度以上80度未満の角度で傾斜している場合、及び、窒化ガリウム系半導体のc軸に沿って延びる基準軸(基準軸Cx)に直交する面(面Sc)から100度以上110度未満の角度で傾斜している場合、が可能である。当該角度範囲の基板を用いると、発光層中のIn組成の揺らぎを低減させることができ、良好な外部量子効率を有する発光素子を作製することができる。
【0090】
エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長速度は、1μm/hour以下であり、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度は、0.1μm/hour以下であり、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度は、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eの成長速度よりも遅く、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fは、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される。このように、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時の雰囲気ガスに水素を用い、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長速度も比較的に遅いので、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長時のV族原子数/III族原子数の比を比較的に高くできる。従って、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fにおける炭素不純物濃度を比較的に低くでき、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が良好となる。なお、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの炭素不純物を減らすには、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fを窒素雰囲気で成長させる方法があるが、窒素雰囲気では高濃度のマグネシウム(Mg)をドープした結晶の成長が困難なため、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの結晶性が低下し、よって、電極との接触抵抗、及び、素子の動作電圧が共に高くなる。低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの炭素不純物を減らすには、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの成長温度を上げる方法があるが、比較的に長波長の場合には活性層の成長温度は低くその後のp層の成長中の熱耐性が低下するので、活性層59bがダメージを受ける場合がある。よって、水素雰囲気において成長速度を下げ、V族原子数/III族原子数の比を高めて成長することによって、半極性面及び無極性面の何れかを主面とする基板上で、比較的長波長の光を発する発光層を保護する目的でp型層を低温で成長しても、良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子を作製することができる。
【0091】
エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、活性層59bの成長温度は、摂氏650度以上摂氏800度未満の範囲にある。更に、エピタキシャル基板EP11の製造方法の場合、低濃度MgドープGaNコンタクト層65e及び高濃度MgドープGaNコンタクト層65fのそれぞれの成長温度と、活性層59bの成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下の範囲にある。よって、活性層59bがp型層成長中に受けるダメージを抑制できる。
【0092】
(実施例6)
次に、エピタキシャル基板EP11の実施例6を説明する。実施例6は、図12の(a)部に示す素子構造を有するレーザダイオードである。図12の(b)部には、図12の(a)部に示す素子構造のエピタキシャル積層の成長温度が示されている。
【0093】
図4と図12とを参照すると、実施例6は、実施例1とは、以下の点で相違するが、その他の点では、実施例1と同様であることがわかる。実施例6は、下記の七つの相違点において、実施例1と相違していた。すなわち、SiドープGaN層55aに対応するn−GaN層と、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層と、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層との成長時の雰囲気ガスには水素を用いた点、その他の層の成長時の雰囲気ガスには窒素を用いた点、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長速度を0.43μm/hourに設定し、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長速度を0.07μm/hourに設定した点が異なっており、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上で重要な要素である。その他にも、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長温度と高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長温度とを共に摂氏870度程度に設定した点、InGaN光ガイド層59aに対応するn−InGaN層は、0.145μm程度の厚みと0.05程度のインジウム(In)の組成比とを有していた点、InGaN光ガイド層59cに対応するud−InGaN層上には、p型GaN電子ブロック層65aに対応するp−GaN層を形成せずに、MgドープInGaN光ガイド層65bに対応し0.040μm程度の厚みを有するp−InGaN層を形成した点、MgドープGaN光ガイド層65cに対応するp−GaN層と低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層との間には、MgドープInAlGaNクラッド層65dに対応するInAlGaN層ではなく、0.40μm程度の厚みと0.05のアルミニウム(Al)の組成比とを有するp−AlGaN層を形成した点、等が異なるが、これらは良好な接触抵抗を有するGaN系半導体発光素子、及びその製造方法を構成する上では関係のない変更点である。
【0094】
実施例6の構成では、525nm程度の波長、及び、3kA/cm2程度のしきい値電流で発振し、50mW出力時の動作電圧は5.5ボルト程度であった。実施例6の構成に対し、TLM法(Transmission Line Method)を用いて、高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層と金属電極(パラジウム(Pd)の電極)との接触抵抗を測定した。このTLM法による測定結果によれば、p+−GaN層と金属電極(パラジウム(Pd)の電極)との接触抵抗が、p+−GaN層の全面において、5×10−4Ωcm2以下の範囲にあった。
【0095】
実施例6では、低濃度MgドープGaNコンタクト層65eに対応するp−GaN層の成長温度と高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応するp+−GaN層の成長温度とを、共に、比較的低温(少なくとも実施例1,2の場合に比較して低温)の摂氏870度程度に設定した。このように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長温度を下げることによって、コンタクト層の成長中における活性層の熱劣化を抑制できる。
【0096】
図13〜図15に、エピタキシャル積層の構造を、表面側から分析したSIMS結果を示す。なお、この分析に用いたエピタキシャル積層構造は、コンタクト層の原子濃度を正確に測るために、アンドープGaNキャップ層を高濃度MgドープGaNコンタクト層65fの上に積層した構造である。各図の横軸は、このエピタキシャル積層の表面(p側の表面)からの深さを示す。各図には、エピタキシャル積層の表面(p側の表面)から200nm程度までの分析結果が示されている。図13〜図15に示すSIMS結果には、マーカーとしてマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)に対する分析結果も含まれている。なお、各図の左縦軸は、各原子の濃度を示し、各図の左縦軸は、炭素(C)、マグネシウム(Mg)の濃度を示す。各図の曲線GC1,GC2,GC3は、炭素(C)に対する測定結果を示す。各図の曲線GMg1,GMg2,GMg3は、マグネシウム(Mg)に対する測定結果を示す。図13は、実施例6と同様に、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに水素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を0.43μm/hourの程度とし、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)の成長速度を0.07μm/hourの程度として形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、5×10−4Ωm2の程度であった。曲線GC1に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1016cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1016cm−3の程度であった。曲線GO1に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、7×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、7×1017cm−3の程度であった。曲線GMg1に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0097】
図14は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに水素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を、曲線GMg1に示す場合に比較して速い成長速度(3.5μm/hour程度であるが、p+−GaN層の場合には0.21μm/hour程度)で形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、2×10−3Ωm2の程度であった。曲線GC2に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、1×1018cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、1×1018cm−3の程度であった。曲線GO2に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1017cm−3の程度であった。曲線GMg2に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0098】
図15は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)とp+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)との成長時の雰囲気ガスに窒素を用い、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)の成長速度を、曲線GMg1に示す場合と同様の成長速度で形成したエピタキシャル積層に対する測定結果を示す。この場合のエピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗は、2×10−3Ωm2の程度であった。曲線GC3に示す炭素(C)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、4×1016cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、4×1016cm−3の程度であった。曲線GO3に示す酸素(O)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、2×1017cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、2×1017cm−3の程度であった。曲線GMg3に示すマグネシウム(Mg)の濃度は、p−GaN層(低濃度MgドープGaNコンタクト層65e)においては、3×1019cm−3の程度であり、p+−GaN層(高濃度MgドープGaNコンタクト層65fに対応)においては、3×1020cm−3の程度であった。
【0099】
図12に示す結果からは、曲線GC1に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられ成長速度が比較的に遅い場合には、炭素(C)の濃度が3×1016cm−3の程度であって比較的に低いことがわかる。これに対し、曲線GC2に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられていても成長速度が曲線GC1の状況に比較して速い場合には、炭素(C)の濃度が1×1018cm−3の程度であって比較的に高いことがわかる。なお、曲線GC3に示すように、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに窒素が用いられた場合には、炭素(C)の濃度が4×1016cm−3の程度であって比較的に低いが、結晶性が比較的に低いことがわかる。更に、曲線GC1,GO1,GMg1に示す測定結果が得られた状況、すなわち、コンタクト層(p−GaN層及びp+−GaN層)の成長時の雰囲気ガスに水素が用いられ成長速度が比較的に遅い場合には、エピタキシャル積層のp側の表面とPd電極との接触抵抗が5×10−4Ωm2の程度であって比較的に低かった。
【符号の説明】
【0100】
10…成長炉、11…III族窒化物半導体素子、13,51…基板、13a,51a,53a,57a,59b−1,63a…主面、13b…裏面、15,53…n型III族窒化物半導体領域、17,57…発光層、19,63…p型III族窒化物半導体領域、21…p型窒化ガリウム系半導体層、23…p型クラッド層、25a,25b…コンタクト層、27,59b…活性層、29…n側光ガイド層、31…p側光ガイド層、33…井戸層、35…障壁層、37,41…電極、39…絶縁膜、39a…開口、55a…SiドープGaN層、55b…SiドープInAlGaN層、55c…SiドープGaN層、59a…InGaN光ガイド層、59c…InGaN光ガイド層、61a…アンドープInGaN障壁層、61b…アンドープInGaN井戸層、65a…p型GaN電子ブロック層、65b…MgドープInGaN光ガイド層、65c…MgドープGaN光ガイド層、65d…MgドープInAlGaNクラッド層、65e…低濃度MgドープGaNコンタクト層、65f…高濃度MgドープGaNコンタクト層、Ax…法線軸、CR…結晶座標系、Cx…基準軸、EP,EP1,EP11…エピタキシャル基板、J1…界面、JC…接触、S…座標系、Sc…面、VC…c軸ベクトル、VN…法線ベクトル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体素子であって、
窒化ガリウム系半導体の発光層と、
前記発光層の上に設けられた第1のコンタクト層と、
前記第1のコンタクト層の上に設けられ前記第1のコンタクト層に直接接する第2のコンタクト層と、
前記第2のコンタクト層の上に設けられ前記第2のコンタクト層に直接接する金属電極と、
を備え、
前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度よりも低く、
前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、
前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項3】
p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を更に備え、
前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、
前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、
前記第1のコンタクト層は、前記クラッド層に直接接している、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項4】
窒化ガリウム系半導体からなる基板を更に備え、
前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられており、
前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記p型ドーパントはマグネシウムである、ことを特徴とする請求項5〜請求項7の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)である、ことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)である、ことを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項11の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項13】
III族窒化物半導体素子の製造方法であって、
窒化ガリウム系半導体からなる発光層を形成する工程と、
前記発光層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第1のコンタクト層を形成する工程と、
前記第1のコンタクト層の形成時に供給されたp型ドーパントの供給量を切り替えた後に前記第1のコンタクト層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第2のコンタクト層を形成する工程と、
前記第2のコンタクト層の上に金属電極を形成する工程と、
を備え、
前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、
前記第1のコンタクト層を形成する工程及び前記第2のコンタクト層を形成する工程において成長炉に供給されるp型ドーパントの供給量は、前記第2のコンタクト層を形成する工程で供給される量のほうが前記第1のコンタクト層を形成する工程で供給される量よりも多く、
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度は、前記発光層に含まれている活性層の成長温度よりも高く、
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下であり、
前記第2のコンタクト層は前記金属電極に直接接し、
前記第1のコンタクト層は前記第2のコンタクト層に直接接し、
前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、
前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下である、ことを特徴とする請求項13に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項15】
p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を形成する工程を更に備え、
前記クラッド層は、前記発光層が形成された後に形成され、
前記第1及び第2のコンタクト層は、前記クラッド層が形成された後に形成され、
前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、
前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、
前記第1のコンタクト層は前記クラッド層に直接接している、ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項16】
窒化ガリウム系半導体からなる基板を準備する工程を更に備え、
前記クラッド層は、前記基板の上に形成され、
前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられ、
前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項16の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項18】
前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項17の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項19】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項18の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項20】
前記p型ドーパントはマグネシウムである、ことを特徴とする請求項17〜請求項19の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項21】
前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなる、ことを特徴とする請求項13〜請求項20の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項22】
前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)である、ことを特徴とする請求項13〜請求項20の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項23】
前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)である、ことを特徴とする請求項13〜請求項22の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項24】
前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなる、ことを特徴とする請求項13〜請求項23の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項25】
前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は1×1017cm−3以下である、
ことを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項26】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項27】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項28】
前記第1のコンタクト層の成長速度は、1μm/hour以下であり、
前記第2のコンタクト層の成長速度は、0.1μm/hour以下であり、
前記第2のコンタクト層の成長速度は、前記第1のコンタクト層の成長速度よりも遅い、ことを特徴とする請求項13〜24の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項29】
前記第1及び第2のコンタクト層は、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される、ことを特徴とする請求項13〜24,28の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項30】
前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜24,28,29の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項31】
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下である、ことを特徴とする請求項13〜24,28〜30の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項32】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項16に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項33】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項16に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項34】
前記活性層の成長温度は摂氏650度以上摂氏800度未満である、ことを特徴とする請求項13〜24,28〜33の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項1】
III族窒化物半導体素子であって、
窒化ガリウム系半導体の発光層と、
前記発光層の上に設けられた第1のコンタクト層と、
前記第1のコンタクト層の上に設けられ前記第1のコンタクト層に直接接する第2のコンタクト層と、
前記第2のコンタクト層の上に設けられ前記第2のコンタクト層に直接接する金属電極と、
を備え、
前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度よりも低く、
前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、
前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項3】
p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を更に備え、
前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、
前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、
前記第1のコンタクト層は、前記クラッド層に直接接している、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項4】
窒化ガリウム系半導体からなる基板を更に備え、
前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられており、
前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項3に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下である、ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記p型ドーパントはマグネシウムである、ことを特徴とする請求項5〜請求項7の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)である、ことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)である、ことを特徴とする請求項1〜請求項10の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなる、ことを特徴とする請求項1〜請求項11の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項13】
III族窒化物半導体素子の製造方法であって、
窒化ガリウム系半導体からなる発光層を形成する工程と、
前記発光層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第1のコンタクト層を形成する工程と、
前記第1のコンタクト層の形成時に供給されたp型ドーパントの供給量を切り替えた後に前記第1のコンタクト層の上にp型の窒化ガリウム系半導体の第2のコンタクト層を形成する工程と、
前記第2のコンタクト層の上に金属電極を形成する工程と、
を備え、
前記第1のコンタクト層及び前記第2のコンタクト層は、p型の同一の窒化ガリウム系半導体から成り、
前記第1のコンタクト層を形成する工程及び前記第2のコンタクト層を形成する工程において成長炉に供給されるp型ドーパントの供給量は、前記第2のコンタクト層を形成する工程で供給される量のほうが前記第1のコンタクト層を形成する工程で供給される量よりも多く、
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度は、前記発光層に含まれている活性層の成長温度よりも高く、
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏350度以下であり、
前記第2のコンタクト層は前記金属電極に直接接し、
前記第1のコンタクト層は前記第2のコンタクト層に直接接し、
前記第1のコンタクト層と前記第2のコンタクト層との界面は、c軸に沿って延びる基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜しており、
前記発光層の発光波長は480nm以上600nm以下であり、
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上50nm以下である、
ことを特徴とするIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記第2のコンタクト層の膜厚は1nm以上20nm以下である、ことを特徴とする請求項13に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項15】
p型の窒化ガリウム系半導体のクラッド層を形成する工程を更に備え、
前記クラッド層は、前記発光層が形成された後に形成され、
前記第1及び第2のコンタクト層は、前記クラッド層が形成された後に形成され、
前記クラッド層は、前記発光層と前記第1のコンタクト層との間に設けられ、
前記クラッド層のバンドギャップは前記第1のコンタクト層のバンドギャップより大きく、
前記第1のコンタクト層は前記クラッド層に直接接している、ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項16】
窒化ガリウム系半導体からなる基板を準備する工程を更に備え、
前記クラッド層は、前記基板の上に形成され、
前記基板の主面の上に、前記発光層、前記クラッド層、前記第1及び第2のコンタクト層及び前記金属電極が順に設けられ、
前記主面は、前記基準軸に直交する面から50度以上130未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項15に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1020cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項16の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項18】
前記第2のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、1×1020cm−3以上1×1021cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項17の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項19】
前記第1のコンタクト層のp型ドーパントの濃度は、5×1018cm−3以上5×1019cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜請求項18の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項20】
前記p型ドーパントはマグネシウムである、ことを特徴とする請求項17〜請求項19の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項21】
前記第1及び第2のコンタクト層は窒化ガリウムからなる、ことを特徴とする請求項13〜請求項20の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項22】
前記第1及び第2のコンタクト層は、InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦1−x−y)である、ことを特徴とする請求項13〜請求項20の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項23】
前記発光層は、InxGa1−xN(0.15≦x<0.50)である、ことを特徴とする請求項13〜請求項22の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項24】
前記金属電極は、Pd、Au、又は、Ni及びAu、からなる、ことを特徴とする請求項13〜請求項23の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項25】
前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は1×1017cm−3以下である、
ことを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項26】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項27】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体素子。
【請求項28】
前記第1のコンタクト層の成長速度は、1μm/hour以下であり、
前記第2のコンタクト層の成長速度は、0.1μm/hour以下であり、
前記第2のコンタクト層の成長速度は、前記第1のコンタクト層の成長速度よりも遅い、ことを特徴とする請求項13〜24の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項29】
前記第1及び第2のコンタクト層は、水素を20%以上含む雰囲気下で成長される、ことを特徴とする請求項13〜24,28の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項30】
前記第1のコンタクト層中の炭素不純物濃度は、1×1017cm−3以下である、ことを特徴とする請求項13〜24,28,29の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項31】
前記第1及び第2のコンタクト層の成長温度と前記活性層の成長温度との差は、摂氏100度以上摂氏250度以下である、ことを特徴とする請求項13〜24,28〜30の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項32】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から70度以上80度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項16に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項33】
前記基板の前記主面は、前記基準軸に直交する面から100度以上110度未満の角度で傾斜している、ことを特徴とする請求項16に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項34】
前記活性層の成長温度は摂氏650度以上摂氏800度未満である、ことを特徴とする請求項13〜24,28〜33の何れか一項に記載のIII族窒化物半導体素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−33930(P2013−33930A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111478(P2012−111478)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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