説明

IR感受性組成物用ヘテロ置換アリール酢酸共開始剤

ポリマーバインダーに加えて、フリーラジカル重合可能な不飽和モノマーと、フリーラジカル重合可能なオリゴマーと、主鎖および/または側鎖基中にC=C結合を含むポリマーとから選択される少なくとも1つからなるフリーラジカル重合可能な系、ならびに開始剤系を含み、開始剤系が以下の成分を含むIR感受性組成物。(a)IR吸収可能な少なくとも1種の材料、(b)ラジカルを発生可能な少なくとも1種の化合物、および(c)以下の一般構造で示される、少なくとも1種のヘテロ置換アリール酢酸共開始剤化合物
【化1】


式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Arは置換または無置換のアリール環であり、Rは任意の置換基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、IRで画像様露光可能な印刷版前駆体の製造に極めて適した、開始剤系およびそれを含有するIR感受性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特に高性能印刷版前駆体に有用な放射感受性組成物は、高い要件を満たさなければならない。
【0003】
印刷版前駆体の分野における最近の開発は、レーザまたはレーザダイオードによって画像様露光可能な放射感受性組成物に関する。このタイプの露光は、レーザをコンピュータで制御可能なので、中間情報キャリヤとしてのフィルムを必要としない。
【0004】
市販のイメージセッタで使用される高性能レーザまたはレーザダイオードは、それぞれ800〜850nmの波長帯、および1060〜1120nmの波長帯の光を放出する。したがって、かかるイメージセッタによって画像様露光されるべき印刷版前駆体、またはそれに含まれる開始剤系は、近IR帯において、感受性でなければならない。したがって、このような印刷版前駆体は、基本的に日光条件下で取り扱うことができ、それによって、その製造および処理が極めて容易になる。印刷版用の放射感受性組成物を生成する方法には、異なる2種類の方法がある。
【0005】
ネガ型印刷版では、放射感受性組成物を使用し、画像様露光した後、露光領域を硬化させる。現像ステップで、非露光領域だけが基体から除去される。ポジ型印刷版では、露光領域のほうが非露光領域よりも速く所与の現像剤に溶解する放射線感受性組成物を使用する。この工程は、光溶解と呼ばれる。
【0006】
しかしながら、ポジ型システムの放射感受性組成物については、ある種のジレンマがある。多量のコピーには、架橋ポリマーが必要であるが、そのようなポリマーは、プレートコーティングに適した溶媒または溶媒混合物に不溶であり、したがって、非架橋またはわずかに架橋しただけの出発物が必要となる。次いで、プレート処理の様々な段階で実行できる予熱ステップによって、必要な架橋を実現することができる。
【0007】
印刷版、プリント回路板、およびドライフィルムレジスト前駆体組成物は、通常は少なくとも1種のIR吸収性化合物と、フリーラジカルを発生可能な少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の共開始剤化合物と、フリーラジカル重合可能な不飽和のモノマー、オリゴマー、およびエチレン性不飽和を有するポリマーからなる群のうちの少なくとも1種の重合可能な成分とを含む。
【0008】
不飽和モノマー重合用のフリーラジカル開始剤として、トリアジンまたはN-アルコキシピリジニウム塩しか利用しないIR感受性画像形成組成物は、遅くて実用的でなく、共開始剤の使用が必要となる。
【0009】
開示全体が参照により本明細書に組み込まれるHauckらの米国特許第6,309,792号から、いくつかのポリカルボン酸化合物を共開始剤として、そのようなIR感受性画像形成組成物に添加すると、光化学反応速度が著しく向上することが知られている。そのようなIR感受性画像形成組成物の反応速度を向上させる共開始剤として作用可能な他の材料を特定する必要がある。
【0010】
米国特許第4,366,228号、およびWzyszczynskiらによる「Macromolecules」、2000、33、1577〜1582から、フェノキシ酢酸やチオフェノキシ酢酸、N-メチルインドール-3-酢酸などいくつかのモノカルボン酸誘導体を共開始剤として、UV感受性画像形成組成物に含めることも知られている。しかし、このような組成物は、IR感受性がない。米国特許第4,366,228号では、モノカルボン酸が単独の開始剤として使用され、トリアジンまたはN-アルコキシピリジニウム塩共開始剤のいずれも使用していない。また、モノカルボン酸組成物は、N-フェニルグリシン(NPG)含有組成物より遅いことも開示されている。参照文献「Macromolecules」の組成物中の開始発色団は、4-カルボキシベンゾフェノンである。
【0011】
様々なクラスのヘテロアリール酢酸化合物を、UV硬化性ハロゲン化銀写真乳化組成物に含めることも知られており、米国特許第6,054,260号が参照される。
【0012】
印刷版前駆体の製造に使用されるとき、高い放射感受性と十分に長い貯蔵寿命をともに示す放射感受性組成物は、現在UV吸収性染料(ヨーロッパ特許出願公開第0730201A号)に関連するものが知られているだけである。しかしながら、そのような組成物を使用する印刷版前駆体は、暗室条件下で製造および処理しなければならず、上述のレーザまたはレーザダイオードによって画像様露光することができない。特に、日光の下で処理できないので、実現可能な応用例が制限されている。
【特許文献1】米国特許第6,309,792号
【特許文献2】米国特許第4,366,228号
【特許文献3】米国特許第6,054,260号
【特許文献4】ヨーロッパ特許出願公開第0730201A号
【非特許文献1】Wzyszczynskiら、「Macromolecules」、2000、33、1577〜1582
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一目的は、ポリカルボン酸化合物以外の共開始剤化合物を含有する点以外は米国特許第6,309,792号と同様な、新規なIR感受性画像形成組成物を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、多量の連続コピーを可能にし、現像薬品に対する高耐性を付与して、長い貯蔵寿命を有するネガ型印刷版前駆体の製造を可能にし、さらに、高いIR感受性および解像力、ならびに日光の下で処理可能なことを特徴とするIR感受性組成物を提供し、ネガ型印刷版前駆体を調製するために、そのようなIR感受性組成物を使用することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの目的は、ポリマーバインダーに加えて、フリーラジカル重合可能な不飽和モノマーと、ラジカル重合可能なオリゴマーと、主鎖および/または側鎖基中にC=C結合を含むポリマーとから選択される少なくとも1つからなるフリーラジカル重合可能な系(free radical polymerizable system)、ならびに開始剤系を含むIR感受性組成物によって実現され、開始剤系(initiator system)は以下の成分を含む。
(a)IR吸収可能な少なくとも1種の材料(material)、
(b)ラジカルを発生可能な少なくとも1種の化合物、および
(c)以下の一般構造で示される、少なくとも1種のヘテロ置換アリール酢酸共開始剤化合物。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Arは置換または無置換のアリール環であり、Rは任意の置換基である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
有用な赤外吸収性材料(a)は、通常は最大吸収波長が約750nmを超える電磁スペクトルの近赤外領域にある。より具体的には、最大吸収波長が約800〜約1200nmの範囲にある。
【0019】
少なくとも1種の化合物(a)は、トリアリールアミン染料、チアゾリウム染料、インドリウム染料、オキサゾリウム染料、シアニン染料、ポリアニリン染料、ポリピロール染料、ポリチオフェン染料、およびフタロシアニン顔料から選択されることが好ましい。
【0020】
成分(a)が式(A)のシアニン染料であることがより好ましい。
【0021】
【化2】

【0022】
式中、
Xはそれぞれ独立に、S、O、NR、またはC(アルキル)2を表し、R1はそれぞれ独立に、アルキル基、アルキルスルホナート、またはアルキルアンモニウム基であり、
R2は水素、ハロゲン、SR、SO2R、OR、またはNR2を表し、R3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、COOR、OR、SR、NR2、ハロゲン原子、または置換されていてもよいベンゾ縮合環を表し、
A-はアニオンを表し、
---は、オプションの5または6員の炭素環を表し、
Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表し、
nはそれぞれ独立に、0、1、2、または3である。
【0023】
R1がアルキルスルホナート基の場合、A-は存在しなくてよい(分子内塩の形成)。そうでない場合は、アルカリ金属カチオンが対イオンとして必要である。R1がアルキルアンモニウム基である場合、第2のアニオンが対イオンとして必要である。この第2のアニオンは、A-と同じでも、異なっていてもよい。
【0024】
化合物(b)は、ポリハロアルキル置換化合物、およびアジニウム化合物から選択されることが好ましい。
【0025】
このフリーラジカル重合可能な系では、開始ラジカルを発生するために、(a)、(b)、および(c)の3成分すべて、すなわち、成分(a)と成分(b)で形成されたラジカル、ならびにヘテロアリール酢酸が相互作用する。高い放射感受性を実現するために、3成分すべての存在が不可欠である。成分(b)がないと、完全に放射非感受性である組成物が得られることがわかった。必要とされる熱安定性を得るには、ヘテロアリール酢酸が必要である。ヘテロアリール酢酸の代わりに、例えば、メルカプト基を有する化合物、またはホウ酸アンモニウムを使用する場合、放射感受性がわずかに低下する可能性があり、そのような組成物の熱安定性は不十分になる可能性がある。
【0026】
基本的には、ポリマーバインダーとして、当該技術分野で周知のすべてのポリマーまたはポリマー混合物、例えば、アクリル酸コポリマーやメタクリル酸コポリマーを使用することができる。ポリマーの重量平均分子量が(GPCで決定して)10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。印刷工程中のインキ受容に関連して起こり得る問題を考慮して、使用するポリマーの酸価が>70mgKOH/gであること、またはポリマー混合物を使用する場合には、個々の酸価の算術平均が>70mgKOH/gであることが好ましい。ポリマーまたはポリマー混合物の酸価は、>110mgKOH/gが好ましく、140〜160mgKOH/gが特に好ましい。IR感受性組成物中のポリマーバインダー含有量は、IR感受性組成物の総固形分に対して、好ましくは30〜60wt%、より好ましくは35〜45wt%を占める。
【0027】
フリーラジカル重合可能な不飽和のモノマーまたはオリゴマーとして、例えば、1つまたは複数の不飽和基を有するアクリル酸またはメタクリル酸誘導体、好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸のエステルをモノマー、オリゴマー、プレポリマーの形態で使用することができる。それらは、固体状でも液体状でも存在してよく、固体および高粘性の形態が好ましい。モノマーとして適した化合物には、例えば、トリメチロールプロパントリアクリラートおよびメタクリラート、ペンタエリトリトールトリアクリラートおよびメタクリラート、ジペンタエリトリトールモノヒドロキシペンタアクリラートおよびメタクリラート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリラートおよびメタクリラート、ペンタエリトリトールテトラアクリラートおよびメタクリラート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリラートおよびメタクリラート、ジエチレングリコールジアクリラートおよびメタクリラート、トリエチレングリコールジアクリラートおよびメタクリラート、またはテトラエチレングリコールジアクリラートおよびメタクリラートが含まれる。適当なオリゴマーおよび/またはプレポリマーは、ウレタンアクリラートおよびメタクリラート、エポキシドアクリラートおよびメタクリラート、ポリエステルアクリラートおよびメタクリラート、ポリエーテルアクリラートおよびメタクリラート、または不飽和ポリエステル樹脂である。
【0028】
モノマーおよびオリゴマーのほかには、主鎖および/または側鎖にC=C結合を有するポリマーを使用することもできる。
【0029】
その例として、無水マレイン酸-オレフィンコポリマーとヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートの反応生成物、アリルアルコール基含有ポリエステル、ポリマーポリアルコールとイソシアナート(メタ)アクリラートの反応生成物、不飽和ポリエステル、及び(メタ)アクリラート末端ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル、およびポリエーテルがある。
【0030】
フリーラジカル重合可能なモノマーまたはオリゴマーの重量比は、IR感受性組成物の総固形分に対して、好ましくは35〜60wt%、より好ましくは45〜55wt%である。
【0031】
本発明の開始剤系は、必須成分として、IR吸収可能な材料を含む。このIR吸収剤は、トリアリールアミン染料、チアゾリウム染料、インドリウム染料、オキサゾリウム染料、シアニン染料、ポリアニリン染料、ポリピロール染料、ポリチオフェン染料、およびフタロシアニン顔料から選択されることが好ましい。式(A)のIR染料が、より好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】
式中、Xは、好ましくはC(アルキル)2基である。
R1は、好ましくは炭素原子1〜4個のアルキル基である。
R2は、好ましくはSRである。
R3は、好ましくは水素原子である。
【0034】
Rは、好ましくはアルキルまたはアリール基であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0035】
破線は、好ましくは炭素原子5または6個の環の残部を表す。
【0036】
対イオンA-は、好ましくは塩素イオン、トシラートアニオン、またはアンモニウムイオンである。
【0037】
対称的な式(A)のIR染料が、特に好ましい。そのような特に好ましい染料の例として、
2-[2-[2-フェニルスルホニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド、
2-[2-[2-チオフェニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド、
2-[2-[2-チオフェニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロペンテン-l-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムトシラート、
2-[2-[2-クロロ-3-[2-エチル-(3H-ベンズチアゾール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3-エチル-ベンズチアゾリウムトシラート、および
2-[2-[2-クロロ-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムトシラートがある。
【0038】
以下の化合物も、本発明の組成物に有用なIR吸収剤である。
【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
IR吸収剤(a)は、IR感受性組成物の総固形分に対して、好ましくは0.05〜20wt%の量でIR感受性組成物中に存在し、0.5〜8wt%の量が特に好ましい。
【0043】
開始剤系のもう1つの必須成分は、ラジカルを発生可能な化合物(b)である。この化合物は、ポリハロアルキル置換化合物、およびアジニウム化合物から選択されることが好ましい。ポリハロアルキル置換化合物が特に好ましい。これは、1個のポリハロゲン化アルキル置換基か、複数のモノハロゲン化アルキル置換基を含む化合物である。ハロゲン化アルキル基は、炭素原子1〜3個が好ましく、ハロゲン化メチル基が特に好ましい。
【0044】
ポリハロアルキル置換化合物の吸収特性によって、基本的にIR感受性組成物の日光安定性が決まる。UV/VIS吸収極大が>330nmの化合物では、印刷版を日光中に6〜8分置き、次いで予熱した後では、もはや完全には現像することができない組成物を生じる。原則としては、このような組成物は、IRだけでなくUVでも画像様露光することができる。高い日光安定性が望まれる場合、UV/VIS吸収極大が>330nmにないポリハロアルキル置換化合物が好ましい。
【0045】
アジニウム化合物として、モノアジニウム核やジアジニウム核などのアジニウム核がある。適当なかかる化合物は、開示が参照により本明細書に組み込まれる英国特許第2,083,832号に開示されている。アジニウム核には、炭素環式芳香核を縮合することができ、つまりベンゾ縮合、またはナフト縮合することができる。すなわち、アジニウム核として、キノリニウム、イソキノリニウム、ベンゾジアジニウム、およびナフトジアジニウム核があり、最後の2種がベンゾ縮合ジアジニウム化合物である。達成可能な単位重量当たりの活性化効率(activation efficiency)を最大にするために、ピリジニウム核などの単環式アジニウム核を使用することが好ましい。
【0046】
アジニウム環などのラジカル発生化合物(b)中の窒素原子の四級化置換基は、光増感剤からアジニウム化合物などの化合物(b)に電子が移動するとき、フリーラジカルとして放出可能である。好ましい一形態として、四級化置換基はオキシ置換基である。アジニウム核の環窒素原子を四級化するオキシ置換基(-O-R)は、合成上都合のよい様々なオキシ置換基のうちから選択することができる。R部は、例えば置換されてもよいアルキル基とすることができる。例えば、アラルキル、およびスルホアルキル基が挙げられる。オキシ置換基(-O-R)が炭素原子1または2個を含むことが最も好ましい。
【0047】
本発明の組成物に特に適した化合物(b)の例として、テトラフルオロホウ酸N-メトキシ-4-フェニル-ピリジニウム、トリブロモメチルフェニルスルホン、1,2,3,4-テトラブロモ-n-ブタン、2-(4-メトキシフェニル)4,6ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-クロロフェニル)-4,6-ビス-(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-フェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリ-(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリ-(トリブロモメチル)-s-トリアジン、ヘキサフルオロアンチモン酸2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニルフェニルヨードニウム、およびヘキサフルオロリン酸2-メトキシ-4-フェニルアミノベンゼンジアゾニウムがある。
【0048】
さらに、以下の化合物は、本発明の組成物中の開始剤(b)として有用である。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
化合物(b)は、IR感受性組成物の総固形分に対して、好ましくは2〜15wt%の量でIR感受性組成物中に存在し、4〜7wt%の量が特に好ましい。
【0052】
このIR吸収性画像形成組成物の新規な共開始剤化合物(c)は、以下のうちの1つで示される構造を有するヘテロ置換アリール酢酸である。
【0053】
【化9】

【0054】
式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Arは置換または無置換のアリール環のいずれかであり、Rは任意の置換基である。
【0055】
好ましいモノ酢酸として、フェノキシ酢酸、(フェニルチオ)酢酸、N-メチルインドール-3-酢酸、(2-メトキシフェノキシ)酢酸、(3,4-ジメトキシフェニルチオ)酢酸、および4-(ジメチルアミノ)フェニル酢酸がある。
【0056】
IR感受性組成物は、画像のコントラストを向上させるための染料をさらに含んでもよい。適当な染料は、コーティング用に使用される溶媒または溶媒混合物によく溶解するか、あるいは分散形態の顔料として容易に導入されるものである。適当なコントラスト用染料として、とりわけ、ローダミン染料、トリアリールメタン染料、アントラキノン顔料、フタロシアニン染料および/または顔料がある。染料は、IR感受性組成物中に、好ましくは1〜15wt%の量で、特に好ましくは2〜7wt%の量で存在する。
【0057】
本発明のIR感受性組成物は、さらに可塑剤を含んでもよい。適当な可塑剤として、とりわけ、フタル酸ジブチル、リン酸トリアリール、およびフタル酸ジオクチルがある。可塑剤を使用する場合は、それが0.25〜2wt%の範囲の量で存在することが好ましい。
【0058】
本発明のIR感受性組成物は、印刷版前駆体の製造に使用可能であることが好ましい。しかし、さらに、これは、印刷版、スクリーンなどとして働くことができるレリーフを形成するため、適当なキャリアおよび受像シート上に画像形成するための記録材料に使用することもでき、表面保護用放射硬化性ワニスとしても、また放射硬化性印刷インキの配合にも使用することができる。
【0059】
オフセット印刷版前駆体の製造では、通常のキャリアを使用することができる。アルミニウムキャリアの使用が特に好ましい。アルミニウムキャリアを使用する場合には、まず、乾燥状態でブラッシングする、研磨懸濁液を用いてブラッシングする、または例えば塩酸電解液中で電気化学的にブラッシングすることによって、粗面化することが好ましい。粗面化した印刷版は、場合によって硫酸またはリン酸中で陽極酸化し、それから好ましくはポリビニルホスホン酸またはリン酸の水溶液中で親水性にする後処理にかける。上述の基体前処理の詳細は、当業者によく知られている。
【0060】
次いで、乾燥した印刷版は、層乾燥重量(dry layer weight)が好ましくは0.5〜4g/m2、より好ましくは0.8〜3g/m2で得られるように、有機溶媒または溶媒混合物を使用して本発明のIR感受性組成物で被覆する。
【0061】
IR感受性層の上に、当該技術分野で知られている酸素不透過性層、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール/ポリ酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/ポリ酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸、およびゼラチンの層など酸素透過性がほとんどないまたは全くない層を塗布する。酸素不透過性層の乾燥重量は、0.1〜4g/m2が好ましく、0.3〜2g/m2がより好ましい。このオーバーコートは、酸素遮断層として有用なだけでなく、IR露光中のアブレーション(ablation)からプレートを保護する。
【0062】
このようにして得られた印刷版前駆体は、800〜1,100nmの範囲で放出する半導体レーザまたはレーザダイオードで露光する。このようなレーザ光線は、コンピュータでデジタル制御することができる。すなわち、レーザはオンオフすることができ、したがって印刷版の画像様露光が、コンピュータに記憶されたデジタル化情報を用いて行われる。したがって、本発明のIR感受性組成物は、いわゆるコンピュータツープレート(computer-to-plate)(ctp)印刷版を作製するのに適している。
【0063】
印刷版前駆体は、画像様露光された後、露光領域の完全な硬化を行うために、任意に85〜135℃の温度に短時間加熱される。適用温度によって異なるが、20〜100秒しか要さない。
【0064】
次いで、プレートを、当業者に周知のように現像する。現像されたプレートは、通常は保存剤で処理する(「ガム引き」)。保存剤は、親水性ポリマー、湿潤剤、および他の添加剤の水溶液である。
【0065】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものである。
【実施例】
【0066】
実施例1〜5
5種のコーティング配合物を、表1に詳述するように調製した。その溶液を、電気化学的に研磨(grained)しかつ陽極酸化したアルミニウム基体に塗布し、塗布量が2g/m2になるように乾燥した。
【0067】
【表1】

【0068】
次いで、得られたコーティングのそれぞれを、イソプロパノール3.94部および水89.97部中のポリビニルアルコール5.26部およびポリビニルイミダゾール0.93部の溶液でオーバーコートし、最終コーティング重量2g/m2になるまで乾燥した。
【0069】
実施例1〜3のコーティング試料は、クレオトレンドセッタ3230で、2W、20〜120mJ/cm2の出力設定で画像形成した。実施例4は、クレオトレンドセッタ3244xで、4W、25〜154mJ/cm2の出力設定で画像形成した。実施例5は、クレオトレンドセッタ3244xで、5W、52〜500mJ/cm2の出力設定で画像形成した。次いで、実施例1〜5のプレートを、プレート表面温度を125℃にするように調整した現像前加熱ユニットを備えたテクニグラフ(Technigraph)プロセッサによって、980現像剤(コダックポリクロームグラフィックス製)で処理した。表2では、5枚のプレートの処理後の最大光学濃度と、観察された結果を得るのに必要とされた露光量が比較されている。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に要約された結果は、本発明の処理したコーティングの最大光学濃度と、処理後の最大濃度に到達するのに必要な最小露光を示している。
【0072】
また、各プレートの試料を、5日間、38℃、相対湿度80%の加速劣化条件下でインキュベートしてから、上記のように画像形成と処理を行った。次いで、処理後の最大濃度に到達するのに必要な最小露光での各プレートの反射濃度(reflection density)を測定し、対応する新しいプレートの濃度と比較して、被覆濃度損失パーセントを求めた。表3に要約された結果は、本発明のコーティングが、劣化による被覆濃度損失の点で良好な貯蔵寿命安定性を有していることを示している。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例6
フェノキシ酢酸の代わりに、4-(ジメチルアミノ)フェニル酢酸を使用した点以外は実施例1に記述したのと同様にして、実施例6のベースコート配合物を調製した。このベースコートを塗布し、オーバーコートを、実施例1に記述したのと同様にして、調製し、塗布した。プレートは、実施例1に記述したのと同様にして、画像形成し、処理した。最小露光エネルギー約130mJ/cm2で、処理後の最大濃度0.55が得られた(このコーティングの処理前の濃度は、0.83であったが、実施例1〜5の処理前の濃度は、約1.0であった)。
【0075】
比較例7
フェノキシ酢酸を使用しなかった点以外は実施例1に記述したのと同様にして、比較例6のコーティング配合物を調製した。この溶液を、電気化学的研磨しかつ陽極酸化したアルミニウム基体に塗布し、コーティング重量2g/m2になるまで乾燥した。
【0076】
次いで、得られたコーティングは、イソプロパノール3.94部および水89.97部中のポリビニルアルコール5.26部およびポリビニルイミダゾール0.93部の溶液でオーバーコートし、最終コーティング重量2g/m2になるまで乾燥した。
【0077】
コーティング試料は、クレオトレンドセッタ3230で、10W、100〜800mJ/cm2の出力設定で画像形成した。次いで、プレートは、プレート表面温度を125℃にするように調整した現像前加熱ユニットを備えたテクニグラフプロセッサによって、980現像剤(コダックポリクロームグラフィックス製)で処理した。処理後の最大濃度に到達するために必要な最小露光エネルギーは、処理後の濃度0.78で、約300mJ/cm2であった。この比較例によって、本発明のヘテロ置換アリール酢酸共開始剤は、それを使用しない場合に得られたものに比べて、大幅に光反応速度(photo speed)を向上させることが示されている。
【0078】
以上の記述は、本発明を説明するだけのものであることを理解されたい。本発明から逸脱することなく、様々な代替や修正が、当業者には考えられる。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるこのような代替、修正、および変形のすべてを包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
(a)IR吸収可能な少なくとも1種の材料と、
(b)ラジカルを発生可能な少なくとも1種の化合物と、
(c)以下の一般構造:
【化1】

[式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Arは置換または無置換のアリール環であり、Rは任意の置換基である]
からなる群から選択された、少なくとも1種のヘテロ置換アリール酢酸共開始剤化合物とを含む開始剤系を含むIR感受性組成物。
【請求項2】
ヘテロ置換アリール酢酸共開始剤が、フェノキシ酢酸、(フェニルチオ)酢酸、N-メチルインドール-3-酢酸、(2-メトキシフェノキシ)酢酸、(3,4-ジメトキシフェニルチオ)酢酸、および4-(ジメチルアミノ)フェニル酢酸からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
IR吸収可能な材料が、トリアリールアミン染料、チアゾリウム染料、インドリウム染料、オキサゾリウム染料、シアニン染料、ポリアニリン染料、ポリピロール染料、ポリチオフェン染料、およびフタロシアニン顔料からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
IR吸収可能な材料が、式(A):
【化2】

[式中、
Xはそれぞれ独立に、S、O、NR、またはC(アルキル)2を表し、R1はそれぞれ独立に、アルキル基、アルキルスルホナート、またはアルキルアンモニウム基であり、
R2は水素、ハロゲン、SR、SO2R、OR、またはNR2を表し、
R3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、COOR、OR、SR、NR2、ハロゲン原子、または置換されていてもよいベンゾ縮合環を表し、
A-はアニオンを表し、
---は、オプションの5または6員の炭素環を表し、
Rはそれぞれ独立に、水素、アルキル基またはアリール基を表し、
nはそれぞれ独立に、0、1、2、または3である]
のシアニン染料である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
ラジカルを発生可能な化合物が、ポリハロアルキル置換化合物とアジニウム化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
IR吸収可能な材料が、
2-[2-[2-チオフェニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロペンテン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムトシラート、
2-[2-[2-フェニルスルホニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド、
2-[2-[2-チオフェニル-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムクロリド、
2-[2-[2-クロロ-3-[2-(1,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-2H-インドール-2-イリデン)-エチリデン]-i-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-1,3,3-トリメチル-3H-インドリウムトシラート、および
2-[2-[2-クロロ-3-[2-エチル-(3H-ベンズチアゾール-2-イリデン)-エチリデン]-1-シクロヘキセン-1-イル]-エテニル]-3-エチル-ベンズチアゾリウムトシラートからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ラジカルを発生可能な化合物が、テトラフルオロホウ酸N-メトキシ-4-フェニルピリジニウム、ヘキサフルオロアンチモン酸2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニルフェニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸2-メトキシ-4-フェニルアミノベンゼンジアゾニウム、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、トリブロモメチルフェニルスルホン、2,4,6-トリ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、および1,2,3,4-テトラブロモ-n-ブタンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ポリマーバインダー、ならびにフリーラジカル重合可能な不飽和モノマーと、フリーラジカル重合可能なオリゴマーと、主鎖および/または側鎖基中にC=C結合を有するポリマーとからなる群から選択される少なくとも1成分をさらに含む、請求項1に記載のIR感受性組成物。
【請求項9】
画像のコントラストを向上させるための、少なくとも1種の染料をさらに含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
酸素不透過性オーバーコーティングおよび請求項8に記載の組成物を用いたコーティングを含む印刷版前駆体。
【請求項11】
(a)任意に予熱した基体を、請求項8に記載のIR感受性組成物で被覆し、続いて酸素不透過性オーバーコーティングで被覆すること、
(b)ステップ(a)で得られた印刷版前駆体を、IRで画像様露光すること、
(c)ステップ(b)の処理後の前駆体を、任意に加熱ステップにかけること、および
(d)続いて、前駆体を水性現像剤で現像して、印刷可能な平版印刷版を得ることを含む画像形成方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)赤外吸収性化合物と、
(B)ラジカル発生化合物と、
(C)次式:
【化1】

[式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Rは1つまたは複数の置換基である]
のモノカルボン酸共開始剤化合物とを含む開始剤系。
【請求項2】
モノカルボン酸共開始剤が、
【化2】

[式中、Rは任意の置換基である]
である、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
モノカルボン酸共開始剤が、
【化3】

[式中、Rは任意の置換基である]
である、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項4】
モノカルボン酸共開始剤が、
【化4】

式中、[Rは任意の置換基である]
である、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項5】
モノカルボン酸共開始剤が、4-(ジメチルアミノ)フェニル酢酸である、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項6】
赤外感受性組成物であって、
(A)ポリマーバインダーと、
(B)フリーラジカル重合可能な系とを含み、前記フリーラジカル重合可能な系が、
(1)フリーラジカル重合可能な不飽和モノマーと、フリーラジカル重合可能なオリゴマーと、主鎖および/または側鎖基中にC=C結合を有するポリマーとからなる群から選択される少なくとも1成分、ならびに
(2)開始剤系を含み、前記開始剤系が
(a)赤外吸収性化合物と、
(b)ラジカル発生化合物と、
(c)次式:
【化5】

[式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、Rは任意の置換基である]
のモノカルボン酸共開始剤化合物とを含む赤外感受性組成物。
【請求項7】
印刷版前駆体であって、
(A)基体と、
(B)開始剤系を含む基体上の赤外感受性コーティングとを含み、前記開始剤系が
(1)赤外吸収性化合物と、
(2)ラジカル発生化合物と、
(3)次式:
【化6】

[式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、
Rは任意の置換基である]
のモノカルボン酸共開始剤化合物とを含む印刷版前駆体。
【請求項8】
画像形成方法であって、
(A)基体を赤外感受性組成物で被覆することによって、印刷版前駆体を生成すること、
(B)ステップ(A)で得られた印刷版前駆体を、赤外画像様露光すること、ならびに
(C)露光後の印刷版前駆体を水性現像剤で現像して、印刷可能な平版印刷版を得ることを含み、前記赤外感受性組成物が
(1)赤外吸収性化合物、
(2)ラジカル発生化合物、
(3)次式の:
【化7】

[式中、Xは窒素、酸素、または硫黄であり、
Rは任意の置換基である]
モノカルボン酸共開始剤化合物、
(4)ポリマーバインダー、ならびに
(5)フリーラジカル重合可能な不飽和モノマーと、フリーラジカル重合可能なオリゴマーと、主鎖および/または側鎖基中にC=C結合を有するポリマーとからなる群から選択される成分
を含む画像形成方法。
【請求項9】
(A)赤外吸収性化合物と、
(B)ラジカル発生化合物と、
(C)次式:
【化8】

[式中、Xは酸素、または硫黄であり、
Rは任意の置換基である]
のモノカルボン酸共開始剤化合物とを含む開始剤系。
【請求項10】
モノカルボン酸共開始剤が、
【化9】

[式中、Rは任意の置換基である]
である、請求項9に記載の開始剤系。
【請求項11】
モノカルボン酸共開始剤が、
【化10】

[式中、Rは任意の置換基である]
である、請求項9に記載の開始剤系。
【請求項12】
(A)赤外吸収性化合物と、
(B)ラジカル発生化合物と、
(C)次式:
Ar-NH-CH2CO2H
[式中、Arは置換芳香族部である]
のモノカルボン酸共開始剤化合物とを含む開始剤系。

【公表番号】特表2006−505009(P2006−505009A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550104(P2004−550104)
【出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/033820
【国際公開番号】WO2004/041544
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(598108641)コダック ポリクロウム グラフィクス リミティド ライアビリティ カンパニー (10)
【Fターム(参考)】