説明

LNG気化器用伝熱管、その製造方法およびそれを用いたLNG気化器

【課題】被膜合金層の剥離を抑止し防食効果の優れたLNG気化器用伝熱管を提供する。
【解決手段】Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管であって、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜の界面の粗さが、平均粗さRa:15〜50μm、最大粗さRmax:150〜500μmであり、かつ、1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であるLNG気化器用伝熱管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンラック式の液化天然ガス(以下、LNGと称す)気化器用伝熱管、その製造方法およびそれを用いたLNG気化器に関するものであり、更に詳しくは、防食効果の優れた上記伝熱管、その製造方法およびそれを用いたLNG気化器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LNG等の液化燃料は、通常低温高圧の液状で移送あるいは貯蔵されるが、実際に使用されるときには事前に気化される。そして、大量の低温液化燃料を気化させるために通常オープンラック式気化器(以下、ORVと称す)が用いられる。
【0003】
図2は、上記従来例に係るORVの一例を示す概略斜視図である。この図に示すように、ORVは熱交換器の一種であり、海水との熱交換によって低温液化燃料を加熱して気化するものである。即ち、海水は海水ヘッダ6から散水ノズル7を経てトラフ8に溜められ、このトラフ8の両側縁部からパネル(伝熱管)3の外面を濡らしながら垂下する。一方、低温液化燃料はマニホールド1からヘッダ2に送られ、上記海水との熱交換によって加熱され、上記パネル3内で気化して上昇し、ヘッダ4からマニホールド5に導出される。
【0004】
そして、上記伝熱管としてのパネル3の材質は、熱伝導性が良好であること、およびパネル3が要求するの複雑な形状に加工しやすいこと等の観点から、通常アルミニウム(以下、Alと称す)合金が使用されている。しかしながら、元来Al合金は、海水に浸漬された状態では腐食し易く、一旦侵食が始まるとその部分が集中的に侵され、いわゆる孔のあく孔食を受け易いという欠点がある。
【0005】
そのようなことから、従来から上記のような用途に用いられるAl合金を対象として、それの防食処理が盛んに研究され、現在犠牲防食作用を利用した方法がその主流を占めている。
【0006】
犠牲防食作用を利用した従来例として、伝熱管母材のAl合金よりも腐食され易い金属、すなわちイオン化傾向の大きい金属あるいは合金バルクを電気的に接続し、前記バルクを優先溶出させるLNG気化器が提案されている。この従来例に係るLNG気化器は、前記伝熱管を構成するAl合金母材の表面に海水が噴出して当たって、いわゆるエロージョンコロージョンを生じて腐食を生じるため、前記バルクやAl合金母材よりもイオン化傾向の大きい合金で、Al合金からなる前記伝熱管外表面を被覆することが望ましい(特許文献1参照)。
【0007】
例えば、Al−Zn合金の溶射膜を被覆することによって、当初は前記伝熱管のAl母材自体が前記溶射膜で被覆されているため、海水はAl母材に直接接触せず、腐食が有効に阻止されるとともに、溶射膜が剥がれてAl母材が露出した状態では、イオン化傾向の大きいAl−Zn合金の溶射膜の犠牲防食作用によってAl母材の腐食が防止される。
しかしながら、前記溶射膜が剥がれると外観上問題があるのに加え、剥離面積が大きくなって来ると、犠牲防食作用の低下および海水の噴流がAl母材に直接当たることによって、Al母材の浸食が生じる。そのため、前記溶射膜等の被覆合金層は耐剥離性が求められる。
【0008】
従来、こうした観点からの提案は少ないが、従来例に係るORV用伝熱管によれば、例えば、表面に溶射による犠牲陽極被膜層を備える伝熱管であって、前記犠牲陽極被膜層の厚さが300〜800μmであり、犠牲陽極被膜層と伝熱管母材の界面の粗さが、平均粗さRa:0.1μm〜50μm、最大粗さRmax:10μm〜200μmとすることにより、耐剥離性が向上すると提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
そして、前記粗度の調整は、通常のブラスト処理や機械加工にて行い、例えば、ブラスト処理では、平均粒径で5〜80μmのアルミナ粒子等のセラミックス粒子、またはガラスビーズなどを用いて伝熱母管の表面に吹き付けて行うことや、機械加工では、番手の異なるベルトを用いてヘアライン仕上げを行って、伝熱母管の表面粗さを調整することができると記載されている。
【0010】
ORVのパネルは非常に複雑形状をしており、また、前記被膜層損耗時の再施工は現場で行う必要があり、作業性が求められることから、ブラスト処理が現実的であるが、確かに本提案により、前記被膜合金層の耐剥離性が向上するが不十分であることが分かってきた。
【0011】
ブラスト処理でAl母材表面に粗面を形成する場合、ブラスト材としてAl母材より高硬度の粒子を用いる必要があるため、ブラスト処理後はAl母材にブラスト粉末が突き刺さって残存することが知られている。一般的な知見では、残存するブラスト粉末は被膜層とAl母材とのアンカー効果を生み、被膜層の耐剥離性を低下しない。また、残存するブラスト粉末は被膜層およびAl母材の腐食を促進しない。そのため、ブラスト後そのまま溶射処理がされる。
【0012】
例えば、アルミニウム溶射作業標準を記載したJIS H9301によると、本用途のような100μm以上の膜厚を有する被膜層を施す場合は、ブラスト粉末としては溶融アルミナまたは炭化珪素と同等の硬さの粒子を用い、#36と#46を混合して用いることなど細かく定められているが、ブラスト処理後のブラスト粉末の除去については記載がない。また、非特許文献1には、ブラスト粉末は特に除去されず、溶射皮膜界面に食い込んで残存していることが報告されているが、特に問題とされてはいない。
【特許文献1】特開平9−178391号公報
【特許文献2】特開2005−265393号公報
【非特許文献1】鈴木、馬場、石川,“チタン溶射/樹脂封孔処理コーティング被膜の耐食性”,第44回材料と環境討論会,P53−56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者等は、腐食のみならず冷却による氷結や温度差による応力が存在することに着目し鋭意研究したところ、腐食に加えて氷結や温度差による応力を受けることによって、残存するブラスト粉末を基点として伝熱管のAl母材と被膜合金層との密着が損なわれ、非密着部分が広がり、被膜合金層の剥離が生じることが明らかとなった。
【0014】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、被膜合金層の剥離を抑止し防食効果の優れたLNG気化器用伝熱管、その製造方法およびそれを用いたLNG気化器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1が採用したLNG気化器用伝熱管は、Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管であって、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜の界面の粗さが、平均粗さRa:15〜50μm、最大粗さRmax:150〜500μmであり、かつ、1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項2が採用したLNG気化器用伝熱管は、請求項1に記載のLNG気化器用伝熱管において、前記非密着点評価法によって求められた非密着点の内、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項3が採用したLNG気化器用伝熱管の製造方法は、請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法において、前記Al合金製伝熱管の外表面を、粒度#14〜24の粒子を含有するブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、前記伝熱管のAl母材上に残存するブラスト粉末を除去する除去処理を行ない、その後前記伝熱管の外表面に前記Al合金被膜を形成することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項4が採用したLNG気化器用伝熱管の製造方法は、請求項3に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法において、前記ブラスト粉末に、粒度#14〜20の粒子を混合して前記ブラスト処理することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項5が採用したLNG気化器用伝熱管の製造方法は、請求項3または4に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法において、前記ブラスト粉末が、アルミナ純度90〜98%の溶融アルミナであることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の請求項6が採用したLNG気化器は、複数のAl合金製伝熱管をカーテン状に配列してなるパネルと、このパネルの上下部に連結された上部および下部ヘッダーとからなるパネルユニットを並列に配置し、その上部から海水を前記パネルの両面に沿って流下させ、この海水の顕熱によって前記パネル内に流通する低温液化燃料を気化するように構成されたLNG気化器において、前記伝熱管の少なくともパネル下部と下部ヘッダーが、前記請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管によって構成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の請求項1に係るLNG気化器用伝熱管によれば、Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管であって、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜の界面の粗さが、平均粗さRa:15〜50μm、最大粗さRmax:150〜500μmであり、かつ、1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であるので、前記被膜の耐剥離性が良好であり、前記界面に非密着部が存在したとしても被膜の割れ剥離につながり難い。
【0022】
また、本発明の請求項2に係るLNG気化器用伝熱管によれば、前記非密着点評価法によって求められた非密着点の内、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であるので、前記非密着点が割れや剥離の起点となり難い。
【0023】
更に、本発明の請求項3に係るLNG気化器用伝熱管の製造方法によれば、前記Al合金製伝熱管の外表面を、粒度#14〜24の粒子を含有するブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、前記伝熱管のAl母材上に残存するブラスト粉末を除去する除去処理を行ない、その後伝熱管の外表面に前記Al合金被膜を形成するので、前記Al母材に残存するブラスト粉末を基点として伝熱管のAl母材と前記Al合金被膜との密着が損なわれて、このAl合金被膜の剥離を生じることがない。
【0024】
また更に、本発明の請求項4に係るLNG気化器用伝熱管の製造方法によれば、前記ブラスト粉末に、粒度#14〜20の粒子を混合して前記ブラスト処理するので、より大きな粒子で全体の粗面化を行うとともに、小さな粒子で凹部形状を有する部分の粗面化を行うことができる。
【0025】
本発明の請求項5に係るLNG気化器用伝熱管の製造方法によれば、前記ブラスト粉末が、アルミナ純度90〜98%の溶融アルミナであるので、凹凸の少ない球状であるため伝熱管のAl母材に食い込み難く、かつ茶褐色乃至は黒色であるため前記Al母材上で見分けがつき易く、除去作業が容易となる。
【0026】
一方、本発明の請求項6に係るLNG気化器によれば、複数のAl合金製伝熱管をカーテン状に配列してなるパネルと、このパネルの上下部に連結された上部および下部ヘッダーとからなるパネルユニットを並列に配置し、その上部から海水を前記パネルの両面に沿って流下させ、この海水の顕熱によって前記パネル内に流通する低温液化燃料を気化するように構成されたLNG気化器において、前記伝熱管の少なくともパネル下部と下部ヘッダーが、前記請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管によって構成されてなるので、Al合金母材の表面に海水が噴出して当たって、いわゆるエロージョンコロージョンを生じて腐食を生じることが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明に係るLNG気化器用伝熱管は、Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管である。そして、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管を構成するAl母材とAl合金被膜の界面の粗さとして、平均粗さRaが15〜50μm、最大粗さRmaxが150〜500μmであるのが好ましい。
【0028】
同時に、前記被膜断面の1mm×1mmの視野範囲において、間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であるのが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るLNG気化器用伝熱管は、前記非密着点評価法によって求められた界面の非密着点の内、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であるのが好ましい。
【0030】
前記Al合金被膜のAl合金製伝熱管の外表面への被覆方法は特に制限しないが、溶射による被膜形成が簡便で厚く被覆することが可能であるので好ましい。被膜するAl合金は特に限定されず、Al−Zn合金、Al−Mg合金、Al−Zn−Mg合金等を適用することができる。膜厚についても制限しないが、100〜1000μm、望ましくは250〜600μmの範囲が推奨される。また、封孔剤を前記溶射膜に含浸させると、この封孔剤が界面の凹凸に入り込むため、効果的に界面への海水侵入を防止することもできるので、より良い防食効果が得られる。
【0031】
本発明に係るLNG気化器用伝熱管においては、腐食のみならず冷却による氷結や温度差による応力がかかるため、伝熱管のAl母材と被膜合金層との界面に大きな密着力を必要とする。十分な密着性を得るために、前記界面はできる限り粗面とする必要があり、平均粗さRaおよび最大粗さRmaxはより大きい方が望ましく、そのためにはブラスト粉末径を大きくする(粒度を小さくする)必要がある。
【0032】
しかしながら、前記RaおよびRmaxが大き過ぎると、特にパネルで凸部形状が損なわれたり、ブラスト粉末が大きいために、凹部にブラスト粉末が当たらなくなる。このような関係から、前記界面の粗さとして、平均粗さRaが15〜50μm、最大粗さRmaxが150〜500μmとすると、前記界面の密着性に優れ、パネルの凹凸形状を損なうことなく全体の粗面化が可能である。
【0033】
そのような粗面は、粒度#14〜#24のブラスト粉末を含有するブラスト粉末を用いて、前記伝熱管を構成するAl母材外表面をブラスト処理することにより得られる。また、ヘッダー部に用いる伝熱管においては、形状が複雑でないため、予め、Al母材伝熱管外表面を機械加工して、界面凹凸を大きくすることも可能である。粒度#24では中心粒径(最も分布が多い粒径)が600〜850μmであり、それ以上の粒径であることが求められる。
【0034】
また、前記粒度#14〜#24のブラスト粉末を含有するブラスト粉末に、より大きな粒度#14〜#20のブラスト粉末と混合したブラスト粉末を用いて、前記Al母材をブラストすることも推奨される。これは、より大きな粒子で全体の粗面化、小さな粒子で凹部の粗面化を行うことができるためである。粒子の選択や混合比率は、パネル形状により選択すると良い。
【0035】
尚、平均粗さRaおよび最大粗さRmaxは、本発明に係る伝熱管の管軸方向または管軸と交差する方向の断面サンプルを準備し、その断面サンプルを基に下記のように解析して求められる。添付図1は、本発明に係る平均粗さRaおよび最大粗さRmaxの求め方を説明するための模式図である。図1において、Al母材とAl合金被膜の界面部における凹凸の最大のものをその視野の最大粗さRmaxとする。
【0036】
また、平均粗さRaは、Al母材とAl合金被膜の界面を示す凹凸の中間線Aと凹凸曲線Bとに囲まれた部分の面積に等しくなるような長方形を描いたときの長方形の縦の長さに相当し、画像解析などで求めることができる。画像処理装置は特に規定しないが、キーエンス社の高速・高精度画像処理システムXV−1000(プログラム不要のVision Tree System)等が推奨される。このような方法で、例えば、任意の10視野の平均値として算出される。尚、断面写真の倍率は最大粗さに応じて適宜変更できる。
【0037】
次に、非密着界面率について説明する。本発明に係るLNG気化器用伝熱管には、腐食のみならず冷却による氷結や温度差による応力がかかる。腐食に加えて氷結や温度差による応力を受けることによって、伝熱管のAl母材に残存するブラスト粉末を基点として、前記Al母材と被膜合金層との密着性が損なわれて非密着部分が拡大し、被膜合金層の剥離が生じることが明らかとなった。
【0038】
このような応力によってブラスト粉末は伸縮しないため、この応力によってAl母材および被膜合金層との界面に隙間が形成され、この隙間に入り込んだ海水が冷却することによって応力が生じ、割れや被膜合金層の剥離を生じるものと考えられる。更に、前記隙間に入り込んだ海水によって、前記被膜合金層とAl母材との間で電池が形成されて、前記被膜合金層が犠牲防食によって腐食して来るため、ますます被膜合金層の剥離が促進されるものと考えられる。
【0039】
本発明に係るLNG気化器用伝熱管は、こうした特殊な環境下における用途であるため、一般的には、腐食や耐剥離性を低下させることのないブラスト粉末が、前記被膜層の腐食や耐剥離性を促進することが分かった。即ち、前記被膜層の断面から解析した場合に、被膜合金層とAl母材間に存在するブラスト粉末および粒子(粉塵)の存在により生ずる被膜空隙が少なく、前記被膜合金層とAl母材が密着している部分が多い方が望ましい。但し、非密着部は腐食と応力によって徐々に広がるため、密着部は30μmの範囲以上に連続しないと耐剥離作用が働かないことが判明した。従って、30μm未満の密着部については非密着部と見做すこととする。
【0040】
そして、後述する非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であるのが好ましく、10%未満であればより好ましい。非密着界面率が15%以上であると、前記被膜合金のAl母材に対する耐剥離性が不十分であり、腐食と応力により容易に被膜層が剥離するからである。一方、前記非密着界面率が10%未満であると耐剥離性が良好であり、前記界面に非密着部が存在しても被膜層の割れ剥離につながり難いのでより好ましい。
【0041】
また、前記非密着点評価法によって求められた非密着点の内、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であるのが好ましく、50μm未満であるのがより好ましい。非密着部におけるAl母材とAl合金被膜との距離が100μm以上になると、膜圧の厚み方向に温度差が存在するため、発生する応力も大きく、腐食と応力によりその部分から応力腐食割れが発生しやすいからである。この割れが被膜層の気孔と連なって、ますます気孔が大きくなり、最終的には被膜層の脱落を招くことになる。
【0042】
また、被膜層の厚みが薄い場合は、剥離しない場合もその部分は被膜層が無くなるのが早く、更には、Al母材に食い込んだブラスト粉末脱落後は、Al母材に孔形状の空隙を生じるため孔食を起こす可能性もある。更に、前記非密着部におけるAl母材とAl合金被膜との距離が50μm未満であれば、この非密着部が割れや剥離の基点となり難い。
【0043】
ここで、Al母材と合金被膜との界面は凹凸が存在するため、非密着界面率や非密着部の長さは、次のようにして求められる。即ち、被膜層を断面から顕微鏡解析し、被膜層界面を含む1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて界面の密着、非密着を判定し、非密着点の3つ隣の格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする。非密着界面率は、非密着点数/全格子点数を算出して求められる。前記界面が平面の場合は、界面を視野に平行として全格子点を100点とすることが推奨される。
【0044】
また、非密着部の長さは、上述のように評価した非密着点の連続点数にて評価し、連続20点が上述の200μm長さにあたる。尚、何れの評価も、出来るだけ多くの断面について行うことが望ましい。非密着界面率は、10視野の平均値にて評価し、非密着点の連続および非密着点でのAl母材と合金被膜層との距離は、10視野での最大値にて評価することが求められる。
【0045】
次に、本発明に係る伝熱管外表面のAl母材のブラスト処理について、以下詳細に説明する。ブラスト処理後の界面を観察すると、ブラスト粉末材質、粒度によって異なるが、粒度が大きい(粒子径が小さい)ブラスト粉末を用いてブラスト処理した場合は、複数の粉末が断続的にまとまって界面に存在する部位があり、このような場合は、前述した非密着界面率、非密着点の連続において本発明を満たさない。このような部位に、腐食と応力が作用すると、その部分がまとまって剥離する。
【0046】
また、粒度が小さい(粒子径が大きい)ブラスト粉末を用いたブラスト処理の場合は、非密着界面率、非密着点の連続および非密着点でのAl母材と合金被膜層との距離の全て本発明を満たさない。そして、その大粒子を基点として被膜層が剥離する。
【0047】
従って、本発明に係る界面構造を達成するためには、Al母材に残存するブラスト粉末を除去する必要があるが、ブラスト粉末は伝熱管のAl母材に突き刺さるように存在するため、得られた粗面を損なわずにブラスト粉末を完全に除去可能な実用技術は現在のところ見当たらない。現状では、先端がプラスチックや毛製のブラシや刷毛を用いて、刷き取ることにより除去することが望ましい。先端が金属製やセラミック製のものは、得られた粗面を損なう恐れがあるので避ける方が賢明である。
【0048】
尚、伝熱管外表面に設けられたフィン部凹状部に引っかかった大きなブラスト片については、先の細い金属棒でブラスト片を掻き出すように除去すればよい。このようにして、伝熱管外表面のAl母材に残存するブラスト粉末が腐食や耐剥離性阻害に及ぼす影響を低減するように、ブラスト粉末をできるだけ除去することが必要である。
【0049】
そのためには、ブラスト粉末がAl母材から除去しやすい構造であること、存在することが見出し易いことが望ましい。従って、前記ブラスト粉末の粒度が小さいこと(粒子径が大きいこと)が望ましく、粒子径が大きく500μm以上とすれば、完全にAl母材に埋まることなく、粒子の半分以上がAl母材表面より外側に突出した状態となって存在するため、上述した手工具で除去し易い。
【0050】
また、500μm以上の粒子では、目視でもその存在を見出すことが容易である。前記ブラスト粉末は、JISR6001により、各粒度の粒子径分布状態が定められているが、粒度#24以下の粒度であれば、500μm未満の粒子が少ない(#24でも3%未満)。
【0051】
更に、前記ブラスト粉末は、粒子表面の凹凸が少ないこと、粒子の外観(色)がAl母材と異なることが望ましい。例えば、純アルミナ粒子やアルミショット粒子は白く、粒子の外観がAl母材に近いため、目視や拡大鏡で判断し難く、超音波測定器や電気磁気特性を利用した機器等の特別な機器が必要となる。また、α-アルミナ粒子や炭化珪素、ジルコニア等は、表面の凹凸状態が激しい粒子であり、Al母材に食い込むために除去し難く、これを機械的に除去するとブラスト処理されたAl母材表面の凹凸状態が損なわれる。
【0052】
溶融アルミナ(β―アルミナ)を粉砕して作製されたブラスト粉末は、凹凸も少なく球状に近い粉体をしており、純度が低い(98%未満の)溶融アルミナでは、TiOが不純物として含まれるため、茶褐色乃至は黒色を呈しており、50μm以上の粒子であれば、Al母材上で目視や拡大鏡で見分けが付き易い。上述した手工具による除去も容易であるため、本発明に係る伝熱管のような複雑形状でも一様に除去が可能である。但し、粒度が高い(粒子径が低い)溶融アルミナでは、やはり除去が困難であるため、連続使用時は、粒子径が低い粒子が紛れ込まないような管理が必要となる。
【実施例】
【0053】
気化器(ORV)の伝熱パネルの下部とヘッダー付近の環境を模擬するため、35mm×100mm×5mmのアルミ5083板を準備し、片面を種々の条件にてブラスト処理することにより、種々の表面凹凸を有するAl母材とした。その後、一部のアルミ母材については、目視で判断し得る範囲で前記Al母材に残存するブラスト粉末を、先端がプラスチック製のデッキブラシで刷き落として除去した。フィン凹部に食い込んでいる大きなブラスト片については、鋼製の錐で掻き出して除去した。
【0054】
その後、Al−2%Zn線材を用いたフレーム溶射により、厚さ300μmのAl−2%Zn皮膜を同仕様で被膜し供試材とした。上述した手法にて断面を観察して、粗度と密着点評価を行った。各条件とも10視野で観察し評価した。
【0055】
次に、前記供試材について、下記の通り剥離試験を行った。即ち、各種溶射膜被膜サンプル群から、各作製条件毎に5枚、塩水噴霧試験を行う。23時間毎に、各サンプルを濡れた状態で溶射被膜している面を上にしてトレイに取り出し、溶射被膜が浸からない程度に液体窒素をトレイに入れて、溶射被膜層を凍結させた。その後、溶射被膜層に実機温度差による圧縮応力をかけるために、圧縮試験装置にて長辺方向に0.38%の圧縮応力を加えて5分保持し、除荷後、塩水噴霧試験装置に戻す作業を行った。
【0056】
その試験を3ヶ月間行った後、上述した手法と同様に密着点評価を行い、非密着界面率を測定した。各条件とも10視野で観察し評価した。この評価においては、非密着界面率が30%以下であれば界面密着性が「良好」といえるが、非密着界面率が30%を超えると実機でも早期に剥離することが分かっており、「不良」と判定される。また、剥離試験後の非密着界面率が20%以下であれば「より良好」、15%以下であれば「最良」と判定される。各種サンプルのブラスト処理条件、ブラスト粉末の除去処理有無と、得られたサンプルの粗度と密着点評価、剥離試験での非密着界面率の関係を表1にまとめた。
【0057】
比較例1は、前記Al母材にブラスト処理をしない供試材の試験結果を示し、非密着界面率は100%であるため、前記Al母材と被膜とは全く密着しない。また、比較例2〜4においては、前記Al母材を、95%溶融アルミナからなる粒度#36〜60のブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、フレーム溶射したが、界面粗度がRa<15μm、Rmax<150μm、かつ、非密着評価における非密着界面率>15%であった。そのため、ブラスト粉末除去有無に関係なく、剥離試験評価における非密着界面率は30%を越えており、前記Al母材と被膜の界面密着性は不良(×)と判定された。
【0058】
次に、比較例5は、同材質からなる粒度#16と#36の粒子を混合してブラスト粉末とし、前記Al母材をブラスト処理した後、このブラスト粉末を除去しフレーム溶射した。その結果、界面粗度がRa=25μm、Rmax=265μmであったが、非密着評価における非密着界面率>15%であったため、剥離試験評価における非密着界面率は30%を越えており、前記界面密着性は不良(×)と判定された。
【0059】
更に、比較例6および7は、同材質からなる粒度#24と#16の粒子を夫々ブラスト粉末として用い、前記Al母材をブラスト処理した後、このブラスト粉末を除去せずにフレーム溶射した。その結果、界面粗度がRa=15〜50μm、Rmax=150〜500μmの範囲であったが、前記同様、非密着評価における非密着界面率>15%であったため、剥離試験評価における非密着界面率は30%を越え、前記界面密着性は不良(×)と判定された。
【0060】
ブラスト粉末を粒度#16のガラスビーズとした比較例8においても、界面粗度評価は良好であったが、前記同様、非密着評価における非密着界面率>15%であったため、剥離試験評価における非密着界面率が40%となり、前記界面密着性は不良(×)と判定された。
【0061】
一方、ブラスト粉末を粒度#16の炭化珪素とした実施例9においては、界面粗度評価も非密着界面率も良好で、非密着評価における非密着界面率も13.2%と15%未満であったため、剥離試験評価における非密着界面率は28.2%となり、前記界面密着性は良好(◇)と判定された。しかしながら、連続する非密着点は26点で20点を越え、かつAl母材と被膜層との最大距離が154μmと100μmを越えていた。
【0062】
【表1】

【0063】
次に、実施例10においては、前記Al母材を95%溶融アルミナからなるブラスト粉末とした以外は、全て実施例9と同一の条件にてブラスト処理した後、フレーム溶射して供試材を作成した。結果的には、界面粗度評価も非密着評価における非密着界面率も良好で、剥離試験評価における非密着界面率は22.1%となり、前記界面密着性は良好(◇)と判定された。しかしながら、実施例9と同様、連続する非密着点もAl母材と被膜層との最大距離も好ましい範囲を越えていた。
【0064】
また、実施例11〜14においては、前記Al母材を、95%溶融アルミナからなる粒度#14〜24の種々のブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、ブラスト粉末を除去しフレーム溶射した結果、界面粗度評価および非密着評価における非密着界面率につき好ましい値が得られた。
【0065】
また、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であった。そのため、前記実施例11においては、剥離試験評価における非密着界面率が18.3%となり、前記界面密着性はより良好(○)と判定された。更に、実施例12〜14においては、非密着界面率は15%未満となっており、前記界面密着性は最良(◎)と判定された。
【0066】
更に、実施例15,16においては、前記ブラスト粉末の粒度を夫々#16と#24との混合粒子、および#16と#20との混合粒子とした以外は、全て前記実施例11〜14と同一の条件にて供試材を作成した結果、界面粗度評価および非密着評価における非密着界面率につき好ましい値が得られた。
【0067】
そして、前記両実施例とも、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であった。その結果、剥離試験評価における非密着界面率は、実施例15において20%未満となって、前記界面密着性はより良好(○)と判定され、実施例16においては15%未満となって、前記Al母材と被膜の密着性は最良(◎)と判定された。
【0068】
以上の結果より、本発明で示す界面構造を得るには、本発明で示す条件にてブラスト処理とブラスト粉末の除去処理を行うことが必要であることが分かる。また、本発明で示す構造に界面を制御することによって、剥離試験後の非密着界面率が低いばかりか、剥離試験前後の非密着界面率の差異が低く、剥離が進行していないことがわかる。
【0069】
以上、本発明に係るLNG気化器用伝熱管によれば、Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管であって、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜の界面の粗さが、平均粗さRa:15〜50μm、最大粗さRmax:150〜500μmであり、かつ、1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であるので、前記被膜の耐剥離性が良好であり、前記界面に非密着部が存在したとしても被膜の割れ剥離につながり難い。
【0070】
また、本発明に係るLNG気化器用伝熱管の製造方法によれば、前記Al合金製伝熱管の外表面を、粒度#14〜24の粒子を含有するブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、前記伝熱管のAl母材上に残存するブラスト粉末を除去する除去処理を行ない、その後前記伝熱管の外表面に前記Al合金被膜を形成するので、前記Al母材に残存するブラスト粉末を基点として伝熱管のAl母材とAl合金被膜層との密着が損なわれて、このAl合金被膜層の剥離を生じることがない。
【0071】
更に、本発明に係るLNG気化器によれば、複数のAl合金製伝熱管をカーテン状に配列してなるパネルと、このパネルの上下部に連結された上部および下部ヘッダーとからなるパネルユニットを並列に配置し、その上部から海水を前記パネルの両面に沿って流下させ、この海水の顕熱によって前記パネル内に流通する低温液化燃料を気化するように構成されたLNG気化器において、前記伝熱管の少なくともパネル下部と下部ヘッダーが、前記請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管によって構成されてなるので、Al合金母材の表面に海水が噴出して当たって、いわゆるエロージョンコロージョンを生じて腐食を生じることが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る平均粗さRaおよび最大粗さRmaxの求め方を説明するための模式図である。
【図2】従来例に係るORVの一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
A:Al母材とAl合金被膜の界面を示す凹凸の中間線
B:Al母材とAl合金被膜の界面を示す凹凸曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金製伝熱管の外表面にAl合金からなる被膜を形成されたオープンラック式のLNG気化器用伝熱管であって、前記被膜断面を解析したとき、前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜の界面の粗さが、平均粗さRa:15〜50μm、最大粗さRmax:150〜500μmであり、かつ、1mm×1mmの視野範囲において間隔10μmの格子点法により各格子点にて前記界面の密着または非密着を判定し、非密着点の3つ隣りの格子点までに非密着点が存在する場合、2つの非密着点間の密着している点も非密着点とする非密着点評価法によって求めた非密着界面率の10視野の平均値が15%未満であることを特徴とするLNG気化器用伝熱管。
【請求項2】
前記非密着点評価法によって求められた非密着点の内、連続する非密着点が20点以内であり、かつ、この非密着点での前記伝熱管のAl母材とAl合金被膜との距離が100μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のLNG気化器用伝熱管。
【請求項3】
前記Al合金製伝熱管の外表面を、粒度#14〜24の粒子を含有するブラスト粉末を用いてブラスト処理した後、前記伝熱管のAl母材上に残存するブラスト粉末を除去する除去処理を行ない、その後伝熱管の外表面に前記Al合金被膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法。
【請求項4】
前記ブラスト粉末に、粒度#14〜20の粒子を混合して前記ブラスト処理することを特徴とする請求項3に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法。
【請求項5】
前記ブラスト粉末が、アルミナ純度90〜98%の溶融アルミナであることを特徴とする請求項3または4に記載のLNG気化器用伝熱管の製造方法。
【請求項6】
複数のAl合金製伝熱管をカーテン状に配列してなるパネルと、このパネルの上下部に連結された上部および下部ヘッダーとからなるパネルユニットを並列に配置し、その上部から海水を前記パネルの両面に沿って流下させ、この海水の顕熱によって前記パネル内に流通する低温液化燃料を気化するように構成されたLNG気化器において、前記伝熱管の少なくともパネル下部と下部ヘッダーが、前記請求項1または2に記載のLNG気化器用伝熱管によって構成されてなることを特徴とするLNG気化器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−111638(P2008−111638A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296422(P2006−296422)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】