説明

Mg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法、及び当該製造方法により得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末

【課題】Mgの組成比を広い範囲で存在させることができるとともに、合金としても安定であり、かつ、水素吸蔵能にも優れたMg−Al系水素吸蔵合金を、簡便な手段により高収率かつ低コストで製造可能なMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法、及び当該製造方法で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を提供すること。
【解決手段】本発明の水素吸蔵合金粉末の製造方法は、所望の割合のMgとAl、及び適量の希金属酸化物を含む金属原料粉末を、ボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、当該粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を含むことにより構成され、Mgの組成比が47.5〜70.0といった広い範囲で存在させることができ、水素吸蔵能に優れたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法、及び当該製造方法により得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末に関する。さらに詳しくは、合金としても安定であり、かつ、水素吸蔵能にも優れるため、例えば、燃料電池等の用途に最適なMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法、及び当該製造方法により得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、酸素ガスと反応することによって大きなエネルギーを放出する一方、反応しても水が生成するだけであり、化石燃料のように炭酸ガスや硫黄化合物を生成することもなく、さらには核燃料のように核分裂物質による環境汚染を懸念する必要もないので、石油・石炭等の化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして注目されている。一方、エネルギー源となる水素をどのように貯蔵・搬送するかという問題があるため、近年、水素の貯蔵・搬送のために水素吸蔵合金の採用が検討されている。
【0003】
かかる水素吸蔵合金は、常温付近で水素ガスを可逆的に吸蔵ないし放出することができ、代替エネルギーである水素ガスを軽量で安全にかつ多量に貯蔵ないし輸送することを可能とする。また、この水素吸蔵合金は、可逆反応を用いて、エネルギー媒体である水素ガスを、必要なときに熱、化学、機械及び電気エネルギーに変換できるという幅広い機能をも有している。
【0004】
水素吸蔵合金のうちマグネシウム(Mg)系の水素吸蔵合金は、質量あたりでは高容量の水素吸蔵能が期待でき、他の水素吸蔵合金と比較しても約3〜5倍の大きな吸蔵量を示すことより、開発が期待されている。水素吸蔵合金の製造方法については、従来から種々の方法が検討されており、代表的な製造方法としては、溶解炉に原料の金属を投入して溶解させ、除冷後に均質化するための熱処理を施して合金の粉体を製造する溶解法が知られている。また、2種類以上の金属粉体をボールミル等の高エネルギーの混合攪拌装置等を用いて、金属粉体の混合粉砕を繰り返すことにより固相反応させ、固体状態のまま均一な合金粒子を製造する、メカニカルアロイング法が用いられており、マグネシウム系水素吸蔵合金の製造方法としても、種々の報告がなされている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−292838号公報
【特許文献2】特開2005−78879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、Mg系水素吸蔵合金のうち、Mg−Al系合金は2段階の水素化過程を経てMgH(マグネシウム水素化物)とAl(アルミニウム)となり、このMgHの生成エンタルピーは非常に大きい負の値であるが、先の2段階の水素化のエンタルピーはそれぞれMgH生成エンタルピーより小さいため、それぞれの反応は容易に進行できる。このような理由から、Mg系水素吸蔵合金としてのMg−Al系水素吸蔵合金は、マグネシウムの有する水素吸蔵能を高めることができる。また、Mg系水素吸蔵合金にあっては水素吸蔵能を高めるため、γ相の比率を高め、構成するマグネシウムの組成比を高めることが望ましい。
【0007】
しかしながら、従来の製造方法で得られるMg−Al系合金は、γ相(Mg17Al12相)の存在領域を制御することができないため、マグネシウムの組成比が限定されたMg−Al系合金(Mg17Al12からなる合金)しか提供することができなかった。また、合金の性能としても、高容量の水素吸蔵能が期待できるマグネシウムを構成に含みながら、得られた合金の水素吸蔵能(水素吸蔵量や水素吸蔵速度)は期待通りとはいえない場合が多く、改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、マグネシウムの組成比を広い範囲で存在させることができるとともに、合金としても安定であり、かつ、水素吸蔵能にも優れたMg−Al系水素吸蔵合金を、簡便な手段により高収率かつ低コストで製造可能なMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法、及び当該製造方法で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を製造するにあたり、所望の割合のマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)、及び適量の希金属酸化物を含む金属原料粉末を、ボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、当該粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、前記した請求項1において、前記希金属酸化物がニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びアルミニウム(Al)の酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、前記した請求項1または請求項2において、前記加熱処理工程における加熱温度が100〜300℃であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、前記した請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、前記ボールミリングが、振動ボールミル、回転ボールミル及び遊星ボールミルのいずれかであることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末は、前記した請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、原料となる金属原料粉末の構成成分として、マグネシウムとアルミニウムに加えて適量の希金属酸化物を添加しているので、かかる希金属酸化物が触媒となって、マグネシウムとアルミニウムの合金化を進行させ、水素吸蔵量を高容量としたり、水素を吸蔵・放出する速度(水素吸蔵速度)を速くする等、得られる水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵能に優れたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を提供することができる。また、金属原料粉末をボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、かかる粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を組み合わせた構成を採用することにより、Mg−Al系合金におけるγ相(Mg17Al12相)の存在領域を制御し、マグネシウムの組成比が47.5〜70.0といった広い範囲で存在させることができるため、MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となる組成比のMg−Al系水素吸蔵合金粉末を簡便かつ低コストで提供することができる。
【0015】
本発明の請求項2に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、マグネシウム及びアルミニウムに対して添加される希金属酸化物としてニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)の酸化物を選択して採用するので、合金化を簡便かつ確実に進行させることができ、また、得られる水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵能を向上させ、水素吸蔵速度をより速めることができる。
【0016】
本発明の請求項3に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、加熱処理工程における加熱温度を100〜300℃としている。本発明の製造方法にあっては、前工程の粉砕処理工程において、金属原料粉末をボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理されていることから、比較的低い温度で加熱処理するだけで、合金化を促進することができる。
【0017】
本発明の請求項4に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、前記ボールミリングとして、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星ボールミルのいずれかを採用することにより、ミリングが安定してなされることになり、金属原料粉末に対して微細構造を確実に形成させ、前記の効果をより効率よく奏することができる。
【0018】
本発明の請求項5に係るMg−Al系水素吸蔵合金粉末は、前記した本発明の合金の製造方法により得られたものであるので、マグネシウムの組成比が47.5〜70.0といった広い範囲で存在させることができ、水素吸蔵量が多く、かつ、水素吸蔵速度が速いといった水素吸蔵能に優れた水素吸蔵合金粉末となり、例えば、車載用の燃料電池等の産業用機械等の用途に対応可能となる。また、アモルファス構造の3大特性(高耐食性、高い機械的強度、及び高磁性)を備えることが期待でき、合金としての高い耐食・防食性、高い機械的強度等、所望の性能を備える水素吸蔵合金粉末となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の合金粉末の製造方法を説明する。本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とする場合もある。)は、MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を製造するにあたり、所望の割合のマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)、及び適量の希金属酸化物を含む金属原料粉末を、ボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、かかる粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を含んで構成される。
【0020】
図1は、Mg−Al系の平衡状態図である。マグネシウムとアルミニウムは、マグネシウムの組成比を、系全体を100として47.5〜70.0とした場合には、(1)マグネシウムが47.5〜55at%(atomic%)の範囲(Mg47.5〜55Al52.5〜45)では、合金はβ相(MgAl相)とγ相(Mg17Al12相)の2相により構成されており、(2)マグネシウムが55〜62.5at%の範囲(Mg55〜62.5Al45〜37.5)では、合金はγ相のみにより構成されており、(3)マグネシウムが62.5〜70.0at%の範囲(Mg62.5〜70.0Al37.5〜30.0)では、合金はγ相とマグネシウムの2相により構成されている。
【0021】
一方、図1の状態図に従えば、γ相は室温にあっては、マグネシウムが58.6at%(Mg17Al12)のみでしか存在し得ず、それ以外の領域でγ相を存在させることは困難であった。一方、本発明の製造方法にあっては、ボールミリングによって原料粉末のマグネシウムとアルミニウムは数10nmオーダーにまで微細に粉砕されるため、全体積エネルギーに占める表面エネルギーの割合が極端に大きくなる(例えば、数kJ/molとなる。)。さらに、ボールミリング中に原料に投入される機械的エネルギーでも数10kJ/molのエネルギーが原料に投入されていることになる。今回、ボールミリングによって蓄えられたエネルギーと熱エネルギーによって、後工程の加熱処理を施すことも含めて、マグネシウムとアルミニウムは合金化され、非平衡状態のγ相として合成され、平衡状態より高いエネルギー状態の合金を作り出すことができることとなる。図1の平衡状態図を見れば明らかなように、γ相の存在領域は高温ではかなり広がっており、本発明の製造方法を用いることにより、この状態を室温領域で達成することとなる。
【0022】
本発明にあっては、MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を得るように、すなわち、Mg47.5Al52.5〜Mg70.0Al30.0までの組成範囲となるようにするので、MgAl100−xについて所望の割合のマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)を選択するようにすればよく、マグネシウムとアルミニウムの配合比としては、原子量比として、マグネシウム/アルミニウム=47.5/52.5〜70.0/30.0の間で、所望の組成比となるように配合比を選択するようにすればよい。
【0023】
Mg−Al系水素吸蔵合金粉末の原料としては、マグネシウム単体の粉末及びアルミニウム単体の粉末を混合させた混合粉末を使用することができる。使用されるマグネシウム単体の粉末やアルミニウム単体の粉末の平均粒径は、1μm〜3mm程度であることが好ましく、100μm〜1mm程度であることが特に好ましい。
【0024】
また、原料としては、前記の金属単体からなる粉末のほか、金属単体の水素化物からなる粉末を使用することができ、例えば、水素化物としてのマグネシウム水素化物(水素化マグネシウム:MgH)、アルミニウム水素化物(水素化アルミニウム:AlH)等を使用するようにしてもよい。
【0025】
本発明の製造方法にあっては、前記したマグネシウムとアルミニウムに加えて、希金属酸化物を添加して金属原料粉末として用いる。かかる希金属酸化物は、マグネシウムとアルミニウムの合金化にあたって触媒として作用し、マグネシウムとアルミニウムの合金化を進行させ、また、得られる水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵能を向上させ、特に水素吸蔵速度を向上させる(速くする)はたらきをもつ。
【0026】
使用できる希金属酸化物としては、例えば、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)等の酸化物を適用することができ、これらの酸化物を使用すれば、合金化が簡便かつ確実に進行し、また、得られる水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵能を向上させ、水素吸蔵速度をより速めることができる。また、この中でも、ニオブ(Nb)を使用することが好ましい。ニオブの酸化物としては、五酸化ニオブ(酸化ニオブ(V))(Nb)等、ジルコニウムの酸化物としては酸化ジルコニウム(ZrO)等、バナジウムの酸化物としては五酸化バナジウム(V)等、タンタルの酸化物としては五酸化タンタル(酸化タンタル(V))(Ta)等、アルミニウムの酸化物としては、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。また、希金属酸化物は、これらの1種類を単独で使用してもよく、また、これらの2種類を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
希金属酸化物の添加量としては、マグネシウムとアルミニウムの使用量にもよるが、添加対象となるMgAl100−x1molに対してのmol%として、概ね0.1mol%以上添加すればよく、0.1〜5.0mol%とすることが好ましく、1.0〜5.0mol%添加することが特に好ましい。添加量が0.1mol%より少ないと、希金属酸化物を添加した効果が現れない場合があり、一方、添加量が5.0mol%を超えると、合金の水素吸蔵能を向上させるという効果は横ばいとなる一方、マグネシウムやアルミニウムに対して不純物として存在してしまう場合がある。また、これらの希金属酸化物は比較的高価であるため、コスト高に繋がることともなる。希金属酸化物の形態としては、特に制限はなく、粒状、粉末状、ペレット状等、任意の形態のものを使用することができる。
【0028】
マグネシウム、アルミニウム及び希金属酸化物を用いて金属原料粉末を調製するに際しては、マグネシウムとアルミニウムを混合して得られた混合粉末に希金属酸化物を添加するようにしてもよいし、マグネシウム、アルミニウム及び希金属酸化物を同時に混合して、金属原料粉末を得るようにしてもよい。
【0029】
なお、本発明の製造方法で使用する金属原料粉末には、対象となる合金を構成する単体等及び触媒となる希金属酸化物のほか、本発明の目的や効果に影響を与えない範囲において、Pd、Mn、Co、V、Cr、Mo、Ni、Zr、Nb及びBeよりなる群の中から選ばれる1種または2種以上の金属粉末を添加することができる。
【0030】
また、本発明の製造方法では、本発明の目的や効果に影響を与えない範囲において、前記の金属原料粉末に対して、熱処理、表面処理、酸洗処理等の前処理を施してもよい。
【0031】
(1)粉砕処理工程:
本発明の製造方法では、マグネシウム、アルミニウム及び希金属酸化物からなる金属原料粉末を、ボールミリングを行って処理して、ナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理するようにする。ここで、本発明におけるナノレベルの結晶粒とは、結晶粒の大きさが概ね1μm以下(好ましくは、数10nm程度)の状態を意味するものである。本発明の製造方法において、金属原料粉末をナノレベルの結晶粒になるまで粉砕処理することにより、後工程である加熱処理工程において加熱処理したときに良好に相互の原子同士が拡散しあい、製造しようとする合金組成が粉末全体にわたってより均一なものになる。一方、金属原料粉末をナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理しなかった場合にあっては、相互の原子が良好に混合されない部分が生じ局部的に合金化されない、または不均一な組成を有する合金粉末となる。
【0032】
ボールミリングとは、ボールミル機等により金属原料粉末の混合粉砕を行う手法のことをいい、一般に、2種類以上の金属元素を含む金属原料粉末をボールミリングすることを、特に、メカニカルアロイング(MA)と呼ぶこともある。このメカニカルアロイング法(以下、「MA法」と略することもある。)とは、2種類以上の金属元素を含む金属原料粉末を、高エネルギーの混合攪拌装置等を用いて、当該金属原料粉末の混合粉砕を繰り返してボールミリングすることにより固相反応させ、固体状態のまま均一な合金粒子を粉末状で製造する方法である。製造法としてのメカニカルアロイング法は、機械的エネルギーを利用することにより2種類以上の金属粉体をその融点より低い温度で合金・粉末化することができるものである。
【0033】
ボールミリングの手法(ボールミル法)の種類としては、回転ボールミル法、振動ボールミル法、遊星ボールミル法、及び攪拌ボールミル法(アトライターとも呼ばれる。)等があるが、本発明の製造方法では、回転ボールミル法、振動ボールミル法、遊星ボールミル法を用いることが好ましく、回転ボールミル法、振動ボールミル法を用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末を製造する場合におけるミリング時間は、下記に示した使用されるボールミル法の種類、金属原料粉末の量、混合粉砕用ボールのサイズや個数、容器の容量等によって適宜決定されるが、概ね1時間以上とすることが好ましく、1〜10時間程度とすることがさらに好ましい。ミリング時間をこの範囲にしてボールミリングを行えば、金属原料粉末を確実にナノレベルの結晶粒になるまで粉砕処理することができる。これに対して、ミリング時間が前記した1時間より短いと、金属原料粉末をナノレベルまで粉砕処理することができない場合があり、一方、ミリング時間が10時間より長いと、容器に金属原料粉末が付着してしまうことから回収率が悪く、また、容器中の不純物が金属原料粉末中に混入することから合金特性としても満足が得られないことがある。ミリング時間は、1〜5時間とすることがさらに好ましく、1〜3時間とすることが特に好ましい。
【0035】
ボールミル法の種類の一つである回転ボールミル法は、金属原料粉末と混合粉砕用ボール(以下、単に「ボール」とすることもある。)が入った容器を回転させて、当該原料粉末と容器及びボールとの衝突により、容器内の金属原料粉末を機械的に高エネルギーな状態で混合粉砕して合金化、または微粉化させる方法である。
【0036】
また、振動ボールミル法とは、金属原料粉末と混合粉砕用ボールが入った筒状の容器を高速円振動により、当該原料粉末と容器内壁、及び当該原料粉末同士の激しい衝撃、摩擦の同時作用により短時間で微粉砕し、容器内の金属原料粉末を機械的に高エネルギーな状態で混合粉砕して合金化、または微粉化させる方法である。本発明の製造方法において、振動ボールミル法は、乾式、湿式のいずれにも使用可能である。
【0037】
そして、遊星ボールミル法は、金属原料粉末と混合粉砕用ボールが入った容器を架台の上に載せて、当該容器を回転させる(自転させる)とともに、当該容器を載せた架台を回転させる(公転させる)という2つの回転運動を行い、当該原料粉末と容器及び混合粉砕用ボールとの衝突により、容器内の金属原料粉末を機械的に高エネルギーな状態で混合粉砕して合金化、または微粉化させる方法である。
【0038】
ボールミル法を用いる場合には、使用原料である金属原料粉末を混合粉砕用ボールとともに、容器(ポット)の中に入れて、容器を回転運動させる等の手段を用いて、金属原料粉末を混合粉砕する手段により水素吸蔵合金粉末を調製する。本発明の水素吸蔵合金粉末を製造する場合にあって、使用される容器の形状は、円筒型、角筒型など種々の形状のものを使用できるが、円筒型のものを使用することが好ましい。
【0039】
また、容器の容量は、使用される金属原料粉末の量、混合粉砕用ボールのサイズや個数等によって適宜決定されるが、一般に、50〜10000ml容程度であればよい。さらに、容器の材質は、ステンレス、クロム、タングステン、アルミナ、ジルコニア等とすることができ、特にステンレスとすることが好ましい。
【0040】
同様に、ボールミル法を実施するために使用される混合粉砕用ボールの材質は、ステンレス、クロム、タングステン、アルミナ、ジルコニア等とすることができ、特にステンレスとすることが好ましい。
【0041】
混合粉砕用ボールの大きさとしては、前記した使用される容器の容量等によって適宜決定されるが、金属原料粉末をナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理するにあっては、一般に、直径がφ1mm〜φ50mm程度のものを使用することが好ましい。なお、ボールミル法では複数個の混合粉砕用ボールが使用されることが通常であるが、本発明の水素吸蔵合金粉末を製造する場合にあっては、当該ボールの大きさはすべて同じものを使用してもよく、また、異なる大きさのものを使用してもよい。
【0042】
また、混合粉砕用ボールの数量も、10〜2000個とすることが好ましい。容器の容量と、混合粉砕用ボールの大きさ及び数量の関係をかかる関係とすることにより、金属原料粉末についてナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理することを効率よく実施することができる。
【0043】
さらには、金属原料粉末と混合粉砕用ボールの総量との重量比は、金属原料粉末と混合粉砕用ボール=1/10〜1/500とすることが好ましい。金属原料粉末と混合粉砕用ボールの総量との重量比をかかる範囲とすることにより、金属原料粉末についてナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理することを効率よく実施することができる。かかる重量比は、金属原料粉末と混合粉砕用ボール=1/10〜1/100とすることが特に好ましい。
【0044】
本発明の水素吸蔵合金粉末を製造するに際して、ボールミル法として遊星ボールミル法を用いる場合にあっては、容器の回転数及び当該容器を載せる架台の回転数は、容器の回転数(自転回転数)を200〜700rpmとすることが好ましい。また、架台の回転数(公転回転数)を200〜350rpmとすることが好ましい。回転数がこれらの範囲内である場合には、金属原料粉末を効率よくかつ確実にナノレベルの結晶粒になるまで粉砕処理することができる。さらには、遊星ボールミル法を用いる場合における公転半径は、30〜300cm程度とすればよく、50〜100cm程度とすることが好ましい。
【0045】
また、本発明の水素吸蔵合金粉末を製造するにあたり、ボールミル法として振動ボールミル法を用いる場合にあっては、容器の回転数(振動回転数)を100〜1000rpmとすることが好ましい。回転数(振動回転数)がこれらの範囲内である場合には、前記した遊星ボールミル法と同様に、金属原料粉末を効率よくかつ確実にナノレベルの結晶粒になるまで粉砕処理することができる。
【0046】
さらに、本発明の水素吸蔵合金粉末を製造するにあたり、ボールミル法として回転ボールミル法を用いる場合にあっては、容器の回転数を10〜100rpmとすることが好ましい。回転数がこれらの範囲内である場合には、前記した遊星ボールミル法や振動ボールミル法と同様に、金属原料粉末を効率よくかつ確実にナノレベルの結晶粒になるまで粉砕処理することができる。
【0047】
本発明の水素吸蔵合金粉末を製造するにあたっては、前記した容器内の雰囲気を、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気または水素ガス雰囲気とすることが好ましい。容器内の雰囲気をかかる状態にすることにより、金属原料粉末の酸化を防止することができる。容器内の雰囲気は、アルゴンガス雰囲気や水素ガス雰囲気の状態とすることが特に好ましい。
【0048】
また、粉砕処理工程における容器内は、ロータリーポンプ等で10Pa以下の条件で真空引きして真空状態としてもよく、これによっても、不活性ガス雰囲気等と同様に金属粉末の酸化を防ぐことができる。
【0049】
(2)加熱処理工程:
本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法にあっては、前記の粉砕処理工程によりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理された金属原料粉末の粉砕物を加熱処理することにより、金属原料粉末が確実に合金化される。かかる加熱処理は、前工程の粉砕処理工程により、完全には合金化されないが金属原料粉末の微細構造を形成させ、かかる微細構造が形成された金属原料粉末に対して、ナノ構造を壊さない程度に熱処理して、原子の拡散現象によって合金化を促進・達成させる役割を果たす。
【0050】
保持温度(加熱処理温度)としては、Mg−Al系合金の融点が約450℃であることから、かかる温度の20%程度である100℃以上とすればよく、100〜300℃程度で加熱処理することが好ましい。本発明の製造方法にあっては、前工程の粉砕処理工程において、金属原料粉末をボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理されていることから、比較的低い温度で加熱処理するだけで、合金化を促進することができる。もっとも、300℃を超えた温度で加熱処理しても問題はないが、例えば、350℃以上より高温にすると結晶粒の成長が顕著となり、偏析や分離等が起こる場合がある。
【0051】
加熱処理は、真空状態で行うことが好ましく、例えば、金属原料粉末の粉砕物が収容される容器を、ロータリーポンプ等で10Pa以下の条件で真空引きした状態で加熱処理を施すようにすればよい。
【0052】
加熱時間としては、1〜5時間とすることが好ましく、1〜3時間とすることが特に好ましい。昇温速度としては、10〜100℃/分とすることが好ましく、50〜100℃/分とすることが特に好ましい。なお、所定時間の加熱処理が終了したら、電気炉内で室温になるまで除冷すればよい。
【0053】
本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法は、原料となる金属原料粉末の構成成分として、マグネシウムとアルミニウムに加えて適量の希金属酸化物を添加しているので、かかる希金属酸化物が触媒となって、マグネシウムとアルミニウムの合金化を進行させ、水素吸蔵速度を速くする等、得られる水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵能を向上させ、特に水素吸蔵速度が速いMg−Al系水素吸蔵合金粉末の提供を可能とする。
【0054】
また、金属原料粉末をボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、かかる粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を組み合わせた構成を採用することにより、Mg−Al系合金におけるγ相(Mg17Al12相)の存在領域を制御し、マグネシウムの組成比が47.5〜70.0といった広い範囲で存在させることができるため、MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を提供することができる。
【0055】
さらに、本発明の製造方法は、数時間のミリングで達成できるナノレベルの結晶粒になるまでの粉砕処理により、完全には合金化されないが金属原料粉末の微細構造を形成させ、それ以降はナノ構造を壊さない程度に低温で熱処理して、原子の拡散現象によって合金化を促進・達成させるという簡便な手段により、短時間かつ低コストで、水素吸蔵合金粉末を効率よく安定に製造することが可能となる。
【0056】
そして、粉砕処理工程と加熱処理工程という異種の工程を組み合わせた前記の製造方法により得られた本発明の水素吸蔵合金粉末は、組織が均質となり、水素吸蔵合金としては、高い水素吸蔵能が得られるとともに、合金としての高い耐食・防食性、高い機械的強度等、所望の性能を備えた水素吸蔵合金粉末となる。本発明の製造方法で得られた水素吸蔵合金粉末は溶解法等と比較してアモルファス化、ナノ化している部分が多いことを考慮すると、アモルファス構造の3大特性(高耐食性、高い機械的強度、及び高磁性)を備えることが期待できる。
【0057】
このように、本発明の製造方法で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末は、水素吸蔵量が期待できるマグネシウムを主組成としているため、水素吸蔵量が多く、かつ、水素吸蔵速度が速いといった水素吸蔵能に優れたものとなり、例えば、車載用の燃料電池等、産業用機械等の用途に対応可能な水素吸蔵合金粉末となる。
【0058】
なお、一般に、Mg系水素吸蔵合金は、真空引き状態において、300℃(またはそれ以上)の温度で0.5〜3.0MPa程度で水素加圧すること(水素活性化)により水素を吸蔵させることができるが、本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末にあっては、概ね2回目から水素を安定して可逆的に吸蔵、放出することができる。一方、従来の製造方法で製造したMg系水素吸蔵合金は、水素を吸蔵しても放出が困難である。または、前記の条件にあっても水素吸蔵に5日以上の数日間を要する。
【0059】
また、従来のMg系水素吸蔵合金は、水素吸蔵における吸蔵・放出の速度(水素吸蔵速度)が遅く、また、水素吸蔵量も理論値どおりにはいかないことが欠点とされていたが、本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末は、初期活性化なしに水素を吸蔵し、4.0質量%以上の水素を可逆的に吸蔵・放出することが可能となる。さらに、2回目以降反応がさらに速くなり、4.0質量%以上の水素を数時間で可逆的に吸蔵・放出するようになる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0061】
[実施例1]
(Mg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造)
下記(1)及び(2)の工程により、Mg70Al30からなるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を製造した。なお、使用したMg粉末((株)高純度化学研究所製)は、平均粒径が53〜106μm、純度99.9%以上のものであり、Al粉末((株)高純度化学研究所製)は平均粒径が約1μm、純度99.9%以上のものである。
【0062】
(1)ボールミリングによる粉砕処理工程:
前記した仕様のMg粉末とAl粉末を、配合比を原子量比でMg/Al=70/30として1.123g(Mg:0.761g、Al:0.362g)混合して原料粉末とし、これに、希金属酸化物として粒状の五酸化ニオブ(Nb)粉末を原料粉末に対して1mol%(0.119g)添加して金属原料粉末とした。この金属原料粉末を、試験装置として振動型ボールミル(品名:メカニカルアロイング装置:日新技研(株)製)を用い、容量が80mLの容器に混合粉砕用ステンレス製ボールとの重量比が約1/80となるよう入れて密閉状態とした後、容器内をロータリーポンプで10Pa以下の真空雰囲気とした。この容器を振動ボールミル試験装置の架台に載せ、振動回転数を710rpm、ミリング時間を3時間としてボールミリングを行い、金属原料粉末の粉砕物を得た。
【0063】
(2)加熱処理工程:
(1)のボールミリングによる粉砕処理工程により得られた金属原料粉末の粉砕物を、原料粉末を大気に晒すことなく、後記する水素吸蔵評価装置に付随するステンレス製反応管内に適量を封入した。次に、容器ごとロータリーポンプで1Pa以下の真空雰囲気にして、300℃に昇温させた電気炉にて、1時間の加熱処理を行った。1時間経過後、電気炉内でステンレス容器が室温になるまで徐冷することにより、平均粒径が1〜50μmの本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末を得た。
【0064】
図2は、実施例1で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末のX線回折スペクトルを示す図である。図2に示すように、実施例1で得られた本発明の水素吸蔵合金粉末は、Mg70Al30を構成するMg17Al12(γ相)とMg相のピークのみが確認でき、Mg70Al30からなるMg−Al系合金が製造できたことが確認できた。
【0065】
[試験例1]
(水素吸蔵性能の評価)
実施例1で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を下記の方法を用いて水素活性化処理を施し、水素吸蔵能を評価した。
【0066】
水素吸蔵測定装置(JIS H7201に準拠)に繋がるステンレス製反応管(容量:18mL)に、実施例1で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末を約1.0g封入して密閉状態にした。次に、測定装置内を真空ポンプにて1Pa以下の真空に達するまで排気を行い、真空に達したら、水素吸蔵合金粉末が封入された反応管のみを電気炉で300℃に加熱した。
【0067】
温度及び真空度が安定した後に、高圧水素ボンベから密閉した測定装置内に1.52MPa(15気圧)の水素を導入した。このようにして測定装置内に水素を導入した場合における反応管内の圧力の変化を確認した。なお、測定装置には圧力計が取り付けてあり、反応管内の圧力を測定できるようになっている。
【0068】
本試験において、測定装置内に高圧水素を導入した後に、反応管内に封入された水素吸蔵合金粉末が水素を吸蔵すれば、測定装置内の水素圧力は徐々に低下することとなる。よって、密閉した圧力容器内の最初の導入水素圧力がわかれば、圧力の変化より合金が吸蔵した水素の量を知ることができる(なお、気体の体積は、温度によって変化することや、反応管の箇所のみの電気炉による加熱であるので、測定装置内には温度勾配が発生するため、実際の測定では、測定された圧力に上記の修正を行い、実際の水素吸蔵量を二次的に算出するようにしている。)。また、水素の圧力が時間に対して速く低下すれば、水素の吸蔵速度が速いことを意味する。
【0069】
なお、1回目の水素活性化処理については、水素との反応性が悪く、水素と反応して吸蔵・放出するのに長い時間がかかるのが通常であり、本試験にあっても、2.0質量%の水素を吸蔵するのに60時間を要した。
【0070】
図3は、2回目の測定結果(活性化処理における反応管内の水素圧力と時間との関係。以下、3回目及び4回目について同じ。)を示したグラフである。反応管内のMg−Al系水素吸蔵合金粉末が水素を吸蔵したため、時間が経過するに従い反応管内の水素圧力は低下し、所要時間として3時間(10800s)でおよそ0.65V(0.658MPa:6.5気圧)で飽和状態となった。当該圧力から、およそ4.0質量%の水素を吸蔵したと算出された。
【0071】
次に、以上のように圧力が飽和して、水素平衡圧に達した状態で、真空ポンプにより真空排気をした。これにより、容器内はいったん0V(0Pa:0気圧)となった。真空排気終了後、試料(水素吸蔵合金粉末)から水素が放出されることにより、容器内の圧力が上昇して、0.25V(0.253MPa:2.5気圧)で飽和した。当該圧力から、およそ2.0質量%の水素を放出したと算出された。
【0072】
図4は、3回目の測定結果を示したグラフである。反応管内のMg−Al系水素吸蔵合金粉末は再び水素を吸蔵し、時間が経過するに従い反応管内の水素圧力は低下した。そして、所要時間として40分(2400s)でおよそ1.28V(1.30MPa:12.8気圧)で飽和状態となった。当該圧力から、およそ2.8質量%の水素を吸蔵したと算出された。
【0073】
図5は、4回目の測定結果を示したグラフである。反応管内のMg−Al系水素吸蔵合金粉末は三度水素を吸蔵し、時間が経過するに従い反応管内の水素圧力は低下した。そして、所要時間として120分(7200s)でおよそ0.145V(0.147MPa:1.45気圧)で飽和状態となった。当該圧力から、およそ0.9質量%の水素を吸蔵したと算出された。
【0074】
また、図6は、300℃でのPCT測定試験の結果を示したグラフである(横軸:水素吸蔵量(質量%)、縦軸:平衡水素圧(MPa))。なお、PCT測定試験とは、JIS H7201に規定される水素吸蔵合金の圧力―組成等温線(PCT線)の測定方法のことである。図6に示すように、実施例1で得られた本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の最大水素吸蔵量は約5.3質量%であることが確認できた。
【0075】
さらに、図7は、250℃、300℃及び350℃でのPCT測定試験の結果を示したグラフである(横軸:水素吸蔵量(質量%)、縦軸:平衡水素圧(MPa)。また、グラフにおける吸蔵時及び放出時については図6と同様。)。なお、PCT測定試験とは、JIS H7201に規定される水素吸蔵合金の圧力―組成等温線(PCT線)の測定方法のことである。図7に示すように、実施例1で得られた本発明のMg−Al系水素吸蔵合金粉末はいずれの温度においても、約4.8質量%の水素吸蔵が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば、車載用の燃料電池等に適用される水素吸蔵合金粉末として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】Mg−Al系の平衡状態図である。
【図2】実施例1で得られたMg−Al系水素吸蔵合金粉末のX線回折スペクトルを示した図である。
【図3】試験例1における測定結果(2回目)のグラフを示した図である。
【図4】試験例1における測定結果(3回目)のグラフを示した図である。
【図5】試験例1における測定結果(4回目)のグラフを示した図である。
【図6】試験例1における300℃でのPCT測定試験の結果を示したグラフである
【図7】試験例1における250℃、300℃及び350℃でのPCT測定試験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgAl100−x(x=47.5〜70.0)となるMg−Al系水素吸蔵合金粉末を製造するにあたり、所望の割合のマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)、及び適量の希金属酸化物を含む金属原料粉末を、ボールミリングによりナノレベルの結晶粒となるまで粉砕処理する粉砕処理工程と、
当該粉砕処理により得られた金属原料粉末の粉砕物を加熱処理する加熱処理工程を含むことを特徴とするMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記希金属酸化物がニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)及びアルミニウム(Al)の酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理工程における加熱温度が100〜300℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ボールミリングが、振動ボールミル、回転ボールミル及び遊星ボールミルのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のMg−Al系水素吸蔵合金粉末の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とするMg−Al系水素吸蔵合金粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−266781(P2008−266781A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66507(P2008−66507)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素安全利用等基盤技術開発、水素に関する共通基盤技術開発、高容量水素吸蔵合金と貯蔵タンクの開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】