説明

NADPH消費生合成経路のために最適化された微生物菌株

【課題】本発明は、NADPH消費生合成経路を有する、分子のバイオトランスフォーメーションによる生成のために最適化された微生物菌株に関する。
【解決手段】本発明の菌株はNADPHを消費するバイオトランスフォーメーションプロセスで利用できる。それらの菌株は、NADPHを酸化する1つまたは複数の活性が制限されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート)は、その還元形のNADPHで、デヒドロゲナーゼまたはレダクターゼ活性を持つ酵素を含む細胞内酸化還元反応に関与している。
【0002】
本発明は、NADPH消費生合成経路を用いた、バイオトランスフォーメーションによる物質の生成のために最適化された微生物菌株に関する。本発明による菌株は、NADPH消費バイオトランスフォーメーションプロセスで使用できる。本発明によって定義された菌株は、原核生物または真核生物でありうる。好ましい実施形態において、原核生物菌株は、エシェリキア・コリの菌株である。さらなる実施形態において、真核生物菌株は、サッカロミセス、特にS.セレビシエの菌株である。
【0003】
本発明は、本発明によって最適化された菌株の適切な培地での増殖による、バイオトランスフォーメーションによる物質の調製のプロセスにも関し、最適化された菌株は、そのような物質の調製に必要な遺伝要素も含む。
【背景技術】
【0004】
バイオトランスフォーメーションプロセスが開発されて、必要な物質の大量かつ低コストでの生産を可能にすると同時に、各種の工業および農業副生成物の有益な使用が可能となっている。
【0005】
生体内バイオトランスフォーメーションによって興味のある物質を生成するための2つの主な手法がある。
1)物質が簡単な炭素源から微生物によって生成される、発酵(たとえば、グルコースの存在下でのC.グルタミカムの発酵によるリジンの生成について述べる、国際公開第01/02547号)。
2)微生物による、所与の補基質の興味のある物質への生物変換(たとえばR−ピペリジンの誘導体の生成について述べる、国際公開第00/12745号、およびタガトースの生成について述べる、国際公開第00/68397号)。補基質は同化されず、炭素源とは異なり、バイオマスおよび生物変換に必要なNADPHを生成するためのみに使用される。
【0006】
バイオトランスフォーメーションプロセスの改良は、温度、酸素化、培地組成、回収プロセスなどの各種の因子に関係しうる。興味のある物質の生成および/または排出を増加するために、微生物を修飾することもできる。
【0007】
たとえば発酵手法において、たとえば遺伝子調節を修飾することによって、または関与する酵素の特徴を変更するために遺伝子を修飾することによって、または補因子の再生を最適化することによって、生合成経路を改良できる。
【0008】
生物変換手法において、副生成物の生成を削減することと、1つまたは複数の生物変換ステップに関与する補因子の再生を最適化することとが重要視されるであろう。
【0009】
バイオトランスフォーメーションに関与する補因子のうちで、NADPHはアミノ酸(たとえばアルギニン、プロリン、イソロイシン、メチオニン、リジン)、ビタミン(たとえばパントテン酸塩、フィロキノン、トコフェロール)、芳香族化合物(たとえば国際公開第94/01564号)、ポリオール(たとえばキシリトール)、ポリアミン(たとえばスペルミジン)、ヒドロキシエステル(たとえばエチル−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラート)および他の高付加価値物質の生成で特に重要である。
【特許文献1】国際公開第01/02547号
【特許文献2】国際公開第00/12745号
【特許文献3】国際公開第00/68397号
【特許文献4】国際公開第94/01564号
【特許文献5】国際公開第01/27307号
【特許文献6】欧州特許第0885962号
【非特許文献1】Sambrook et al.,Molecular cloning:a laboratory manual. 2nd Ed. Cold Spring Harbor Lab.,Cold Spring Harbor;New York,1989
【非特許文献2】Datsenko K.A.,Wanner B.L.,One−step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K−12 using PCR products.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97;6640−6645,2000
【非特許文献3】Baudin et al.,Nucl.Acids Res.21,3329−3330,1993
【非特許文献4】Wach et al.,New heterologous modules for classical or PCR−based gene disruptions in Saccharomyces cerevisiae,Yeast 10,1793−1808,1994
【非特許文献5】Brachmann et al.,Designer deletion strains derived from Saccharomyces cerevisiae S288C:a useful set of strains and plasmids for PCR−mediated gene disruption and other applications,Yeast.14:115−32,1998
【非特許文献6】Bocanegra,J.A.Scrutton,N.S.;Perham,R.N.,Creation of an NADP−dependent pyruvate dehydrogenase multienzyme complex by protein engineering.Biochemistry 32:2737−2740,1993
【非特許文献7】Marchler−Bauer A,Anderson JB,Deweese−Scott C,Fedorova ND,Geer LY,He S,Hurwitz DI,Jackson JD,Jacobs AR, Lanczycki CJ, Liebert CA,Liu C,Madej T,Marchler GH,Mazumder R,Nikolskaya AN,Panchenko AR,Rao BS,Shoemaker BA,Simonyan V,Song JS,Thiessen PA,Vasudevan S,Wang Y,Yamashita RA,Yin JJ.Bryant SH.CDD:a curated Entrez database of conserved domain alignments.Nucleic Acids Research 31:383−387,2003
【非特許文献8】Anderson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 32;120−128,1946
【非特許文献9】Miller,A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1992
【非特許文献10】Schaefer et al.,Anal.Biochem.270:88−96,1999
【非特許文献11】Hugler et al.,Journal of Bacteriology,184:2404−2410,2002
【非特許文献12】Szczebara et al.,Nature Biotechnology,21:143−149,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、NADPH消費生合成経路を用いた物質の生成のために最適化された微生物の菌株に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
各バイオトランスフォーメーションのために微生物でのNADPH/NADP比を最適化しようと努める代わりに、発明者らは異なるNADPH/NADP比を得るために修飾微生物を生成することを選択し、次に修飾微生物を使用してNADPH消費バイオトランスフォーメーションを実施した。
【0012】
本発明により、微生物の菌株は、その種の少なくとも1つの微生物を含む同じ種の微生物のセットを意味すると見なされる。それゆえその菌株について説明された特徴は、その菌株の微生物それぞれに当てはまる。同様に、菌株の微生物のいずれか1つについて説明された特徴は、その菌株の微生物のセット全体に当てはまる。
【0013】
本発明によって最適化された微生物は、細菌、酵母および糸状カビ、特に以下の種に属する細菌および酵母:アスペルギルス種、バチラス種、ブレビバクテリウム種、クロストリジウム種、コリネバクテリウム種、エシェリキア種、グルコノバクター種、ペニシリウム種、ピキア種、シュードモナス種、ロドコッカス種、サッカロミセス種、ストレプトミセス種、キサントモナス種、カンジダ種を含む。
【0014】
NADPH/NADP比の最適化の原理をE.コリおよびS.セレビシエについて以下で説明する。同じ原理が好気性条件下で増殖したすべての微生物に同様に適用される。
【0015】
NADPH/NADP比の最適化の原理は、NADPHの酸化に関与する酵素活性を制限することおよび/またはNADPの還元を可能にする酵素活性に好都合であることに存する。NADPHの酸化に関与する酵素活性は、これらの活性、特にキノンオキシドレダクターゼおよび/または可溶性トランスヒドロゲナーゼなどの活性を低下させること、特に不活性化することによって制限される。NADPの還元に好都合である酵素活性は、ペントースホスフェートサイクルを介して炭素流量を設定することによって、および/または少なくとも1つの酵素の補因子特異性を修飾することによって向上するので、通常の補因子であるNADに優先してNADPを使用する。
【0016】
本発明によって最適化された菌株は、分子生物学方法によって得られる。当業者には、微生物の遺伝的形質を修飾するのに使用されるプロトコルが公知である。これらの方法は、当業者によって記録され、ただちに実施できる(Sambrook et al.,1989 Molecular cloning:a laboratory manual. 2nd Ed. Cold Spring Harbor Lab.,Cold Spring Harbor;New York.)。
【0017】
酵素活性を制限するために使用する方法は、それを発現する遺伝子を、適切な方法によって、たとえば関与する遺伝子のコード化部分において1つ以上の変異を引き起こすことによって、またはプロモータ領域を修飾することによって、特に遺伝子発現を低減する配列と置換することによって修飾することに存する。
【0018】
酵素を不活性化するために使用する方法は、その発現が防止されるように(たとえばその発現に必要なプロモータ領域の一部または全部を欠失させる)、または発現生成物がその機能を失うように(たとえば関与する遺伝子のコード化部分における欠失によって)、関与する遺伝子の発現の生成物を適切な方法によって不活性化すること、または関与する遺伝子の発現を阻害すること、または関与する遺伝子の少なくとも一部を欠失させることに存する。
【0019】
好ましくは、遺伝子の欠失は、その遺伝子の除去、および必要ならば、本発明によって最適化された菌株の同定、単離および精製を促進するための選択マーカー遺伝子によるその置換を含む。
【0020】
E.コリ内の遺伝子の不活性化は好ましくは、相同組換えによって実施される(Datsenko K.A.,Wanner B.L.(2000)One−step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K−12 using PCR products.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97;6640−6645)。プロトコルの原理は、簡潔には以下の通りである:直鎖状断片であって、その遺伝子に隣接する2つの領域と、これらの2つの領域間に位置する少なくとも1つの選択遺伝子(一般に抗生物質抵抗性遺伝子)とを含む、試験管内で得られた直鎖状断片を細胞内に導入する。それゆえこの断片は不活性化遺伝子を含有する。組換え事象を受け、導入断片が組込まれた細胞は次に、選択培地にプレーティングすることによって選択される。野生遺伝子が不活性化遺伝子によって置換された、二重組換え事象を受けた細胞が次に選択される。このプロトコルは、二重組換え事象の検出を速めるために、ポジティブおよびネガティブ選択システムを使用することによって改良される。
【0021】
S.セレビシエ内の遺伝子の不活性化も、相同組換えによって優先的に実施される(Baudin et al.,Nucl.Acids Res.21,3329−3330,1993;Wach et al.,Yeast 10,1793−1808,1994;Brachmann et al.,Yeast.14:115−32,1998)。
【0022】
酵素活性に好都合なプロセスは、関与する遺伝子の発現の生成物を、適切な手段によって、たとえばアロステリックエフェクタに対するその感度を低下させることによって、または生成される酵素の量を増大させるために遺伝子の発現を上昇させることによって、安定化することを含む。
【0023】
遺伝子の過剰発現は、その遺伝子のプロモータをインサイチュで強力なまたは誘導性のプロモータと置換することによって実現できる。あるいは、複製プラスミド(1個または複数のコピー)を、遺伝子が過剰発現される細胞中に、適切なプロモータの制御下で導入する。エシェリキア・コリの修飾の場合、たとえばプロモータPlac−o、Ptrc−o、およびptac−o、すなわちそれらを構成型にするためにlacオペレータ(lacO)が欠失された3つの強力な細菌プロモータを使用することができる。サッカロミセス・セレビシエの修飾の場合、たとえばプロモータPpgk、Padh1、Pgal1、Pgal10を使用することができる。
【0024】
NADに優先してNADPを使用するように酵素の補因子特異性を修飾するために使用できるプロセスは、酵素の発現を可能にする遺伝子の配列を修飾することを含む(Bocangra,J.A.Scrutton,N.S.;Perham,R.N.(1993)Creation of an NADP−dependent pyruvate dehydrogenase multienzyme complex by protein engineering.Biochemistry 32:2737−2740)。
【0025】
本発明によって最適化された(すなわちNADP還元に関して向上した能力を備えた)菌株は、1つ以上のNADPH酸化酵素活性、特にキノンオキシドレダクターゼおよび/または可溶性トランスヒドロゲナーゼ型の活性の減弱または不活性化を特徴とする。
【0026】
以下にNADPH酸化酵素の活性および遺伝子のある非制限的な例を挙げる。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明によって最適化された(すなわちNADP還元について向上した能力を備えた)菌株は、1つ以上のNADP還元酵素活性に好都合である修飾、特にペントースホスフェート経路を介した炭素流量を設定する修飾、および/またはその通常の補因子であるNADに優先してNADPを利用するようにする、少なくとも1つの酵素の補因子特異性に関する修飾も含む。
【0029】
本発明によって最適化された(すなわちNADP還元について向上した能力を備えた)菌株における、1つ以上のNADP還元酵素活性に好都合である修飾を受けやすい活性を以下に挙げる。
【0030】
【表2】

【0031】
本発明による最適化菌株における修飾を受けやすい酵素活性は主に、E.コリまたはS.セレビシエ中のタンパク質または遺伝子の種類を使用して定義される。しかしながら、この用法は本発明に従いより一般的な意味を有し、他の微生物における対応する酵素活性をカバーする。E.コリまたはS.セレビシエ中のタンパク質および遺伝子の配列を使用して、当業者はE.コリまたはS.セレビシエ以外の微生物中の同等の遺伝子を同定することができる。
【0032】
相同配列および相同性のそのパーセンテージを同定する手段は当業者に周知であり、特にデフォルトパラメータが示されたウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から使用できる、BLASTプログラムを含む。得られた配列は次に、たとえばCLUSTAL Wプログラム(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALINプログラム(http://prodes.toulouse.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)を使用して、それらのウェブサイトに示されたデフォルトパラメータで利用(たとえば配列比較)することができる。
【0033】
あるいは、CD−Searchプログラム(http://www.ncbi.nih.gov/Structure/cdd/wrpsb.cgi)を使用して、E.コリまたはS.セレビシエのタンパク質配列中の保存ドメインを同定して、同じ1つまたは複数のドメインを示す他の微生物の配列を探索することができる。保存ドメインは、PFAMまたはCOG型のデータを集めたCDDデータベースに記録されている(Conserved domain database;Marchler−Bauer A,Anderson JB,DeWeese−Scott C,Fedorova ND,Geer LY,He S,Hurwitz DI,Jackson JD,Jacobs AR, Lanczycki CJ, Liebert CA,Liu C,Madej T,Marchler GH,Mazumder R,Nikolskaya AN,Panchenko AR,Rao BS,Shoemaker BA,Simonyan V,Song JS,Thiessen PA,Vasudevan S,Wang Y,Yamashita RA,Yin JJ,Bryant SH.CDD:a curated Entrez database of conserved domain alignments.Nucleic Acids Research 31:383−387(2003))。
【0034】
PFAM(Protein FAMilies database of alignments and hidden Markov models(配列比較および隠れマルコフモデルのタンパク質ファミリーデータベース);http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列の配列比較の大規模なコレクションである。各PFAMは、複数の配列比較を描出して、タンパク質ドメインを調査し、生物間での分布を評価して、他のデータベースにアクセスし、既知のタンパク質構造を描出することを可能にする。
【0035】
COG(Clusters of Orthologous Groups of proteins(タンパク質のオルソロガスグループのクラスタ);http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)は、30個の主要な系統発生系を表す43個の完全に配列決定されたゲノムからのタンパク質配列を比較することによって得られる。各COGは少なくとも3つの系統から定義され、それゆえ古代の保存ドメインを同定することを可能にする。
【0036】
これらの各種の方法から同定されたコンセンサス配列より、縮重オリゴヌクレオチドプローブを設計して、別の微生物中の相当する遺伝子をクローニングすることが可能である。これらの慣用的な分子生物学方法は、当業者に周知であり、たとえばSambrookら(1989 Molecular cloning: a laboratory manual. 2nd Ed. Cold Spring Harbor Lab.,Cold Spring Harbor,New York.)で述べられている。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
本発明によって最適化された(すなわちNADP還元について向上した能力を備えた)菌株は、NADPH酸化活性をコード化する少なくとも1つの遺伝子の欠失、特にキノンオキシドレダクターゼをコード化する遺伝子(たとえばqor、ZTA1)および/または可溶性トランスヒドロゲナーゼ活性をコード化する遺伝子(たとえばudhA)の欠失を特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、udhAおよびqor遺伝子はどちらも欠失される。
【0041】
本発明の特定の実施形態において、本発明により最適化された菌株は、ホスホグルコースイソメラーゼ活性(たとえばpgi,PGI1)および/またはホスホフルクトキナーゼ活性(たとえばpfkA、PFK1)をコード化する1つまたは複数の遺伝子の欠失も特徴とする。
【0042】
本発明のさらなる特定の実施形態において、本発明により最適化された菌株は、ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ(たとえばlpd、LPD1)および/またはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(たとえばgapA、TDH1)活性をコード化する1つまたは複数の遺伝子の修飾も特徴とし、その修飾は、酵素にその通常の補因子であるNADよりもNADPを優先させることに存する。
【0043】
ホスホグルコースイソメラーゼおよび/またはホスホフルクトキナーゼ活性をコード化する遺伝子の欠失を特徴とする本発明の菌株は特に、バイオトランスフォーメーションプロセスに十分に適合している。
【0044】
本発明によって最適化された微生物中で利用可能なNADPHの量を増加させるためには、以下の酵素活性:グルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(たとえばzwf、ZWF1)、6−ホスホグルコノラクトナーゼ(たとえばSOL1)、6−ホスホグルコナートデヒドロゲナーゼ(たとえばgnd、GND1)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(たとえばicd、IDP1)および膜結合性トランスヒドロゲナーゼ(たとえばpntA)の1つをコード化する少なくとも1つの遺伝子を過剰発現させること、および/または以下の酵素活性:ホスホグルコナートデヒドラターゼ(たとえばedd)、マレートシンターゼ(たとえばaceB、DAL7)、イソシトレートリアーゼ(たとえばaceA、ICL1)およびイソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼ(たとえばaceK)の少なくとも1つをコード化する少なくとも1つの遺伝子を欠失することが好都合であり得る。
【0045】
本発明のさらなる目的は、上記および下記で定義するようなNADPHの生成のために最適化された微生物であり、該微生物は、興味のある物質のバイオトランスフォーメーションに関与する酵素活性をコード化する1つまたは複数の遺伝子および1つまたは複数の選択マーカー遺伝子も含有する。
【0046】
これらの遺伝子は、本発明によって最適化された菌株に固有であるか、または微生物のゲノムへの組込み、または複製ベクターのどちらかにより、適切なベクターを使用する変換によって、本発明によって最適化された菌株に導入することが可能であり、該適切なベクターは、興味のある適切な物質のバイオトランスフォーメーションに関与する適切な酵素をコード化する1つまたは複数の遺伝子および/または適切な選択マーカーを有する。
【0047】
これらの遺伝子は、興味のある物質のバイオトランスフォーメーションに関与する酵素および/または選択マーカーをコード化する核酸配列を含み、該コード化配列は、バイオトランスフォーメーションのために選択された原核および/または真核細胞内で有効なプロモータ配列と融合される。ベクター(またはプラスミド)は、E.コリと別の微生物との間のシャトルベクターでありうる。
【0048】
NADPH/NADP比について最適化された菌株の選択は、バイオトランスフォーメーション(発酵または生物変換)の種類、考慮される生物変換経路におけるNADPHに対する総要求、1つまたは複数の炭素源の性質、バイオマス流量要求などに従って決定される。
【0049】
解糖とペントースホスフェート経路との間の炭素流量の分布を制御できない場合に、ホスホグルコースイソメラーゼおよび/またはホスホフルクトキナーゼ活性をコード化する遺伝子の欠失が必要となるであろう。ホスホグルコースイソメラーゼをコード化する遺伝子の欠失は発酵に、またはNADPHへの要求が移入グルコース1モル当たりNADP2モルの最小還元流量を必要とするときに好ましい。ホスホフルクトキナーゼをコード化する遺伝子の欠失は、生物変換に、またはNADPHへの要求が移入グルコース1モル当たりNADP3〜4モルの最小還元流量を必要とするときに、優先的に選択されるであろう。上記および下記で説明するように、ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼおよび/またはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼをコード化する遺伝子の修飾は、バイオトランスフォーメーションが移入グルコース1モル当たりNADP3モルを超える最小還元流量を必要とするときに、特に菌株E.コリΔ(udhA、qor)またはE.コリΔ(udhA、qor、pgi)またはE.コリΔ(udhA、qor、pfkA、pfkB)を最適化するために実施されるであろう。他の提示された修飾、すなわち以下の酵素活性:グルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、6−ホスホグルコノラクトナーゼ、6−ホスホグルコナートデヒドロゲナーゼ、イソシトレートデヒドロゲナーゼおよび膜トランスヒドロゲナーゼの1つをコード化する少なくとも1つの遺伝子の過剰発現、および/または以下の酵素活性:6−ホスホグルコナートデヒドラターゼ、マレートシンターゼ、イソシトレートリアーゼまたはイソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼの1つをコード化する少なくとも1つの遺伝子の欠失は、NADPH/NADP比の最適化を、考慮されている細胞およびバイオトランスフォーメーションプロセスの要求に合せて微調整するために実施することができる。
【0050】
本発明は、それらがNADPを優先的に使用するための、キノンオキシドレダクターゼまたは可溶性トランスヒドロゲナーゼ活性をコード化する遺伝子の欠失によって、おそらくグルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼまたは6−ホスホグルコノラクトナーゼ活性をコード化する遺伝子の欠失によって、および/またはNAD酵素、特にジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼまたはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼをコード化する少なくとも1つの遺伝子の修飾によって、そして必要ならば、6−ホスホグルコナートデヒドラターゼ、マレートシンターゼ、イソシトレートリアーゼまたはイソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼをコード化する少なくとも1つの遺伝子の欠失によって特徴付けられ(該欠失および修飾は、適切な手段によって実施される)、および/または過剰発現を可能にする適切なベクターを使用して菌株を修飾すること、または過剰発現させる遺伝子を制御する内在性プロモータの強度を変更することのどちらかによる、以下の活性:グルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、6−ホスホグルコノラクトナーゼ、6−ホスホグルコナートデヒドロゲナーゼ、イソシトレートデヒドロゲナーゼまたは膜トランスヒドロゲナーゼをコード化する少なくとも1つの遺伝子の過剰発現によって特徴付けられる、上記および下記で定義するように本発明に従って最適化された菌株を調製する手順にも関する。
【0051】
本発明の特定の実施形態において、本発明による菌株を調製するプロセスは、興味のある物質のバイオトランスフォーメーションに関与する1つ以上の酵素をコード化する1つ以上の遺伝子、および1つ以上の選択マーカー遺伝子を含む、少なくとも1つの適切なベクターを用いた最適化菌株の変換も含む。
【0052】
本発明のさらなる目的は、NADPH依存性バイオトランスフォーメーションのために本発明に従って最適化されたこれらの菌株の使用と、それによりNADPHについて最適化されていない菌株と比較して改善したバイオトランスフォーメーション収率を得ることに関する。
【0053】
バイオトランスフォーメーションは、NADPH依存性反応を触媒する酵素活性をコード化する遺伝子が発現される、本発明に従って定義された菌株を使用して実施される。当業者は、そのような酵素を容易に同定できる。それらは特に以下を含む:EC 1.1.1.10 L−キシルロースレダクターゼ、EC 1.1.1.21 メチルグリオキサルレダクターゼ、EC 1.1.1.51 3(または17)β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.54 アリルアルコールデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.80 イソプロパノールデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.134 dTDP−6−デオキシ−L−タロース4−デヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.149 20α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.151 21−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.189 プロスタグランジン−E 9−レダクターゼ、EC 1.1.1.191 インドール−3−アセトアルデヒドレダクターゼ、EC 1.1.1.207 (−)−メントールデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.234 フラバノン4−レダクターゼ、EC 1.2.1.50 長鎖脂肪アシルCoAレダクターゼ、EC 1.3.1.4 コルチゾンα−レダクターゼ、EC 1.3.1.23 コレステノン5β−レダクターゼ、EC 1.3.1.70 Δ14−ステロールレダクターゼ、EC 1.4.1.12 2,4−ジアミノペンタノアートデヒドロゲナーゼ、EC 1.5.1.10 サッカロピンデヒドロゲナーゼ、L−グルタメート形成、EC 1.7.1.6 アゾベンゼンレダクターゼ、EC 1.8.1.5 2−オキソプロピル−CoMレダクターゼ(カルボキシル化)、EC 1.10.1.1 トランス−アセナフテン−1,2−ジオールデヒドロゲナーゼ、EC 1.14.13.7 フェノール2−モノオキシゲナーゼ、EC 1.14.13.12 ベンゾアート4−モノ−オキシゲナーゼ、EC 1.14.13.26 ホスファチジルコリン12−モノオキシゲナーゼ、EC 1.14.13.64 4−ヒドロキシベンゾアート 1−ヒドロキシラーゼ、EC 1.14.13.70 ステロール14−デメチラーゼ、EC 1.16.1.5 アクアコバラミンレダクターゼ、EC 1.17.1.1 CDP−4−デヒドロ−6−デオキシグルコースレダクターゼ、EC 1.18.1.2 フェレドキシン−NADPレダクターゼ。
【0054】
本発明は、以下のステップを含むことを特徴とする、少なくとも1つのNADPH依存反応を含む生合成経路によって形成される興味のある物質を生成するプロセスにも関する。
a)その増殖に好都合であり、NADPHを除いて、発酵または生物変換によるバイオトランスフォーメーションを実施するために必要な物質を含有する適切な培養培地における、本発明に従って最適化された微生物の培養での増殖。
b)培地からの興味のある物質の抽出および必要ならばその精製。
【0055】
好ましくは興味のある物質は、アミノ酸、ビタミン、ステロール、フラボノイド、脂肪酸、有機酸、ポリオール、またはヒドロキシエステルでありうる。アミノ酸およびその前駆物質は特に、リジン、メチオニン、トレオニン、プロリン、グルタミン酸、ホモセリン、イソロイシン、およびバリンを含む。ビタミンおよびその前駆物質は特に、パントアート、トランス−ニューロスポレン、フィロキノンおよびトコフェロールを含む。ステロールは特に、スクアレン、コレステロール、テストステロン、プロゲステロンおよびコルチゾンを含む。フラボノイドは特に、フランビノンおよびベスチトンを含む。有機酸はクマリン酸および3−ヒドロキシプロピオン酸を含む。ポリオールは、ソルビトール、キシリトールおよびグリセロールを含む。ヒドロキシエステルは、エチル−3−ヒドロキシブチラートおよびエチル−4−クロロ−3−ヒドロキシブチラートを含む。
【0056】
生物変換の場合、プロセスは、変換される基質の適切な培養培地への添加も含む。
【0057】
上述の本発明によるプロセスのステップb)で挙げた培養培地は、各種の同化可能な糖、たとえばグルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、糖蜜、またはこれらの糖の副生成物のいずれかであり得る少なくとも1つの同化可能な炭水化物を含有する。特に好ましい単純な炭素源はグルコースである。別の好ましい単純な炭素源はスクロースである。培養培地は、微生物の増殖および/または興味のある物質の生成に好都合な1つ以上の物質(たとえばアミノ酸、ビタミンまたは無機塩)も含有し得る。特にE.コリの無機培地はそれゆえ、M9培地(Anderson,1946,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 32:120−128)、M63培地(Miller,1992;A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)またはSchaeferら(1999,Anal.Biochem.270:88−96)によって述べられるような培地と同じまたは類似の組成を有することができる。
【0058】
バイオトランスフォーメーションの条件は、当業者によって設定される。特に微生物は、S.セレビシエでは20℃〜55℃、好ましくは25℃〜40℃、好ましくは約30℃の温度にて、E.コリでは約37℃にて発酵させる。
【0059】
以下の実施例は、例示のためのみであり、本発明の実施形態または範囲を決して限定しない。
【実施例1】
【0060】
エチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換での理論的最適収率の計算
a)E.コリによる生物変換
METabolic EXplorer社が開発した化学量論モデルであるアルゴリズムMetOpt(登録商標)−Coliを使用して予測モデル化を実施し、それを用いると1)エチルアセトアセテートからのエチル−3−ヒドロキシブチラートの最大生成収率と、2)細胞が増殖して、最大生物変換収率に達するために必要な増殖および酸化還元平衡への要求を満足する、グルコースからの最良の流量分布を決定することが可能であった。
【0061】
モデル変数の具体的な設定は、1)3mmol・g−1・h−1のグルコース移入流量、2)0、0.15および0.25h−1の可変増殖速度、3)1mmol・g−1・h−1以下の可変膜結合性トランスヒドロゲナーゼ流量(pntAB);膜結合性トランスヒドロゲナーゼ流量の制限値は、文献(Hanson,1979;Anderlund et al.,1999;Emmerlin et al.,2002)から決定した、4)5〜22mmol・g−1・h−1に制限された維持流量であった。
【0062】
すべての場合において、モデルはudhAおよびqor遺伝子の欠失を示唆した。しかしながら、実際にはペントースホスフェート経路と解糖との間の炭素流量の適切な分布を維持することが困難であり、この分布は増殖速度に従って変化するので、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)]は、理論的最適収率に等しい収率を与えない。実際に、したがって菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)]または[Δ(udhA,qor,pgi)]が好ましく、その間の選択は生物変換プロセス中の菌株の増殖速度に依存する。
【0063】
エチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換の理論的最適収率は、本発明に従って最適化されたE.コリの各種の菌株について計算した。
【0064】
【表5】

【0065】
NADP還元能力について最適化されたE.コリの菌株によるエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換の理論的最適収率(グルコース1mol当たりのmol)
本発明に従って最適化された菌株の理論的最適収率をさらに改善するために、さらなる修飾、たとえばzwf、gnd、pntA、pntBまたはicdでありうる少なくとも1つの遺伝子の過剰発現および/またはedd、aceA、aceBまたはaceKでありうる少なくとも1つの遺伝子の欠失を実施できる。
【0066】
b)S.セレビシエによる生物変換
METabolic EXplorer社が開発した化学量論モデルであるアルゴリズムMetOpt(登録商標)−Scereを使用して予測モデル化を実施し、それを用いると1)エチルアセトアセテートからのエチル−3−ヒドロキシブチラートの最大生成収率と、2)細胞が増殖して、最大生物変換収率に達するために必要な増殖および酸化還元平衡への要求を満足する、グルコースからの最良の流量分布を決定することが可能であった。
【0067】
モデル変数の具体的な設定は、1)3mmol・g−1・h−1のグルコース移入流量、2)0、0.15および0.25h−1の可変増殖速度、3)22mmol・g−1・h−1以下の維持流量、4)非可逆的であり、アセテート+NAD(P)H→アセトアルデヒド+NAD(P)の方向に設定されたアルデヒドデヒドロゲナーゼ反応(ALD2、ALD3、ALD6)、および5)udhAまたはpntA、Bに等しい活性なしであった。
【0068】
モデルは、ミトコンドリアおよびペルオキシソーム区画化を考慮した。
【0069】
すべての場合において、モデルは、NADPHを酸化する酵素をコード化する遺伝子、特に遺伝子ZTA1の欠失を示唆した。しかしながら実際には、ペントースホスフェート経路と解糖との間の炭素流量の適切な分布を維持することが困難であり、この分布は増殖速度と共に変化するので、菌株S.セレビシエ[ΔZTA1]は理論的最適収率に等しい収率を与えない。実際に菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PFK1,PFK2)]または[Δ(ZTA1,PGI1)]を使用することが好ましく、それらの間の選択は生物変換プロセス中の菌株の増殖速度に依存する。
【0070】
エチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換の理論的最適収率は、本発明に従って最適化されたS.セレビシエの各種の菌株について計算した。
【0071】
【表6】

【0072】
NADP還元能力について最適化されたS.セレビシエの菌株によるエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換の理論的最適収率(グルコース1mol当たりのmol)
本発明に従って最適化された菌株の理論的最適収率をさらに改善するために、さらなる修飾、たとえばZWF、SOL1、SOL2、SOL3、SOL4、GND1、GND2、IDP1、IDP2またはIDP3でありうる少なくとも1つの遺伝子の過剰発現および/またはICL1またはDAL7でありうる少なくとも1つの遺伝子の欠失を実施できる。
【実施例2】
【0073】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)]の作成
udhA遺伝子の不活性化は、DatsenkoおよびWanner(One−step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K−12 using PCR products,Prac.Natl.Acad.,Sci.USA,2000,97:6640−6645)によって述べられた方法を使用して、相同組換えによって実施した。
【0074】
本方法は、抗生物質(クロラムフェニコール)耐性カセットを挿入すると同時に、関与する遺伝子の大半を欠失させることに存する。このために、それぞれ100pbより成るヌクレオチド対を合成し、そのうち80bp(小文字)は欠失される遺伝子(たとえばudhA)と相同性であり、20bp(大文字)はクロラムフェニコール耐性カセットと相同性であった。
DudhAF
ggtgcgcgcgtcgcagttatcgagcgttatcaaaatgttggcggcggttgcacccactggggcaccatcccgtcgaaagcCATATGAATATCCTCCTTAG
DudhAR
CccagaatctcttttgtttcccgatggaacaaaattttcagcgtgcccacgttcatgccgacgatttgtgcgcgtgccagTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
【0075】
プラスミドpKD3が保有する抗生物質カセットは、オリゴヌクレオチドDudhAFおよびDudhARを使用してPCRによって増幅させた。得られたPCR生成物を次に、相同組換えを触媒する酵素であるRedリコンビナーゼをコード化する遺伝子を保有する菌株E.コリ[pKD46]に電気穿孔によって導入した。次にクロラムフェニコール耐性形質変換体を選択して、耐性カセットの挿入を、オリゴヌクレオチドUdhAFおよびUdhARを使用してPCR解析によってチェックした。
UdhaF
Ggccgctcaggatatagccagataaatgac
UdhaR
Gcgggatcactttactgccagcgctggctg
【0076】
次にクロラムフェニコール耐性カセットを除去した。これを行うために、クロラムフェニコール耐性カセットのFRT部位に作用するFLPリコンビナーゼを保有するプラスミドpCP20を電気穿孔によって組換え菌株に導入した。42℃での一連の培養の後、抗生物質耐性カセットの消失を、オリゴヌクレオチドUdhAFおよびUdhARを使用してPCR解析によってチェックした。
【0077】
遺伝子qorの不活性化は、以下のオリゴヌクレオチドを使用して同じ方法によって実施した。
DqorF
ggtggcccggaagtacttcaagccgtagagttcactcctgccgatccggcggagaatgaaatccaggtcgaaaataaagcCATATGAATATCCTCCTTAG
DqorR
cgcccggctttccagaatctcatgcgcacgctgcgcatccttcagcggatatttctgctgctcggcgacatcgaccttaaTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
QorF
Cgcccaacaccgactgctccgcttcgatcg
QorR
cagcgttatgaccgctggcgttactaaggg
【0078】
実際的な理由で、2つの遺伝子を同時に欠失させることは有用であり得る。これを行うために、各遺伝子を異なる抗生物質耐性カセット(たとえばudhAではクロラムフェニコール、qorではカナマイシン)によって置換した。
【0079】
得られた菌株は、E.コリ[Δ(udhA,qor)]であった。
【実施例3】
【0080】
プラスミドpSK−PgapA−GRE2pの作成、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)]への導入およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの変換
プラスミドpSK−PgapAは、プロモータgapAのベクターpBluescript−SK(pSK)への挿入によって作成した。これを行うために、E.コリのプロモータgapAを、染色体DNAからポリメラーゼPwoを用いて増幅した。
【0081】
得られたPCR生成物を次に、制限酵素HindIIIによって消化して、制限酵素HindIIIによって消化して脱リン酸化したベクターpSKに連結して、プラスミドpSK−PgapAを得た。ベクターpSKは、E.コリの複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を保有していた。
【0082】
作成の検証のために、プラスミドpSK−PgapAを次に菌株E.コリDH5αに導入した。次にオリゴヌクレオチドユニバーサルM13フォワードを用いて、プラスミドpSK−PgapAのプロモータgapAの配列決定を実施して、作成を確認した。
【0083】
プラスミドpSK−PgapA−GRE2pは、遺伝子GRE2pのプラスミドpSK−PgapAへの挿入によって作成した。これを行うために、サッカロミセス・セレビシエの遺伝子GRE2pを、染色体DNAから、ポリメラーゼPwoを用いて以下のオリゴヌクレオチドを使用して増幅した。
Ome119_GRE2F (NdeI)
Acgtacgtggcatatgtcagttttcgtttcaggtgctaacggg
Ome120_GRE2R (PstI)
Acgtacctgcagttatattctgccctcaaattttaaaatttggg
【0084】
得られたPCR生成物を次に、制限酵素NdeI−PstIによって消化して、制限酵素NdeI−PstIによって消化して脱リン酸化したベクターpSK−PgapAに連結して、プラスミドpSK−PgapA−GRE2pを得た。プラスミドpSK−PgapAは、E.コリの複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を保有していた。
【0085】
作成の検証のために、プラスミドpSK−PgapA−GRE2pを次に菌株E.コリDH5αに導入した。次にオリゴヌクレオチドユニバーサルM13リバースおよびユニバーサルM13フォワードを用いて、プラスミドpSK−PgapA−GRE2pの遺伝子GRE2pの配列決定を実施して、作成を確認した。
【0086】
検証されたプラスミドは、電気穿孔によって菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)](実施例2)に導入した。
【0087】
得られた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)pSK−PgapA−GRE2p]を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。E.コリ[pSK−PgapA−GRE2p]の菌株を同じ条件で増殖させた。
【0088】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0089】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)pSK−PgapA−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることが見出された。
【実施例4】
【0090】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi)pSK−PgapA−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
実施例2で述べた方法および以下のオリゴヌクレオチドを使用して、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)](実施例2)における遺伝子pgiの不活性化を実施した。
DpgiF
ccaacgcagaccgctgcctggcaggcactacagaaacacttcgatgaaatgaaagacgttacgatcgccgatctttttgcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
DpgiR
gcgccacgctttatagcggttaatcagaccattggtcgagctatcgtggctgctgatttctttatcatctttcagctctgCATATGAATATCCTCCTTAG
pgiF
gcggggcggttgtcaacgatggggtcatgc
pgiR
cggtatgatttccgttaaattacagacaag
【0091】
作成は富栄養培地(たとえばLB)で実施した。プラスミドpSK−PgapA−GRE2pを次に、得られた菌株(実施例3)中に電気穿孔によって導入して、生じた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi)pSK−PgapA−GRE2p]を富栄養培地上で選択した。
【0092】
得られた菌株を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。E.コリ[pSK−PgapA−GRE2p]の菌株を同じ条件で増殖させた。
【0093】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0094】
発明者らは、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi)pSK−PgapA−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【0095】
【表7】

【実施例5】
【0096】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,edd)pSK−PgapA−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
実施例2で述べた方法および以下のオリゴヌクレオチドを使用して、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi)](実施例4)における遺伝子eddの不活性化を実施した。
DeddF (1932582-1932499)
CgcgcgagactcgctctgcttatctcgcccggatagaacaagcgaaaacttcgaccgttcatcgttcgcagttggcatgcggTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
DeddR (1930866-1930943)
cgcaaggcgctgaataattcacgtcctgttcccacgcgtgacgcgctcaggtcaggaatgtgcggttcgcgagcagccCATATGAATATCCTCCTTAG
EddF (1932996-1932968)
Gggtagactccattactgaggcgtgggcg
EddR (1930439-1930462)
Ccccggaatcagaggaatagtccc
【0097】
作成は富栄養培地(たとえばLB)で実施した。プラスミドpSK−PgapA−GRE2pを次に、得られた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,edd)](実施例3)中に電気穿孔によって導入して、生じた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,edd)pSK−PgapA−GRE2p]を富栄養培地上で選択した。
【0098】
得られた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,edd)pSK−PgapA−GRE2p]を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。E.コリ[pSK−PgapA−GRE2p]の菌株を同じ条件で増殖させた。
【0099】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0100】
発明者らは、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,edd)pSK−PgapA−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【実施例6】
【0101】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)pSK−PgapA−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
実施例2で述べた方法および以下のオリゴヌクレオチドを使用して、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor)](実施例2)における遺伝子pfkAおよびpfkBの不活性化を実施した。
DpfkAF
ggt gtg ttg aca agc ggc ggt gat gcg cca ggc atg aac gcc gca att cgc ggg gtt gtt cgt tct gcg ctg aca gaa ggTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
DpfkAR
Ttcgcgcagtccagccagtcacctttgaacggacgcttcatgttttcgatagcgtcgatgatgtcgtggtgaaccagctgcatatgaatatcctccttag
PfkAF
Cgcacgcggcagtcagggccgacccgc
PfkAR
ccctacgccccacttgttcatcgcccg
DpfkBF (1804421-1804499)
gcgccctctctcgatagcgcaacaattaccccgcaaatttatcccgaaggaaaactgcgctgtaccgcaccggtgttcgTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
DpfkBR (1805320-1805241)
gcgggaaaggtaagcgtaaattttttgcgtatcgtcatgggagcacagacgtgttccctgattgagtgtggctgcactccCATATGAATATCCTCCTTAG
PfkBF (1803996-1804025)
tggcaggatcatccatgacagtaaaaacgg
PfkBR (1805657-1805632)
gccggttgcactttgggtaagccccg
【0102】
作成は富栄養培地(たとえばLB)で実施した。プラスミドpSK−PgapA−GRE2pを次に、得られた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)](実施例3)中に電気穿孔によって導入して、生じた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)pSK−PgapA−GRE2p]を富栄養培地上で選択した。
【0103】
得られた菌株[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)pSK−PgapA−GRE2p]は次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。E.コリ[pSK−PgapA−GRE2p]の菌株を同じ条件で増殖させた。
【0104】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0105】
発明者らは、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pfkA,pfkB)pSK−PgapA−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【0106】
【表8】

【実施例7】
【0107】
菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,lpd)plpd,pSK−PgapA−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
多酵素複合体ピルビン酸デヒドロゲナーゼに関与するNAD依存性ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼをコード化する遺伝子lpdを、初期菌株が野生菌株の代わりに実施例4で述べた菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi)]であることを除いて、実施例2で述べた方法を使用して欠失させた。修飾菌株の作成および選択は、富栄養培地(たとえばLB)で実施した。得られた菌株はE.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,lpd)]であった。
【0108】
加えて、NADP依存性ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼの過剰発現を可能にする、プラスミドp−lpdを作成した。酵素の補因子特異性を修飾する各種の考えられる方法がある。たとえばBocanegraら(1993)は、NADP依存性ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼを作成する方法を報告している。
【0109】
プラスミドp−lpdおよびpSK−PgapA−GRE2pを次に、電気穿孔によって菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,lpd)]に導入した。あるいはlpdをpSK−PgapA−GRE2pにクローニングして、プラスミドpSK−PgapA−GRE2p−lpdを得て、次に電気穿孔によって菌株E.コリ[(udhA,qor,pgi,lpd)]に導入した。修飾菌株の作成および選択は、富栄養培地(たとえばLB)で実施した。
【0110】
得られた菌株E.コリ[(udhA,qor,pgi,lpd)pSK−PgapA−GRE2p,p−lpd)]を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。E.コリ[pSK−PgapA−GRE2p]の菌株を同じ条件で増殖させた。
【0111】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0112】
発明者らは、菌株E.コリ[Δ(udhA,qor,pgi,lpd)pSK−PgapA−GRE2p,p−lpd)]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【実施例8】
【0113】
プラスミドpRSGK−GRE2pの作成
プラスミドpYGKは、ベクターpYPG2のプロモータPpgk、マルチクローニング部位およびターミネータcyc1の、ベクターpBluescript−SK(pSK)への挿入によって作成した。これを行うために、プロモータPpgk、マルチクローニング部位、およびターミネータcyc1をベクターpYPG2からPfu Turboポリメラーゼを用いて増幅した。得られたPCR生成物を次に、制限酵素SacII−NotIによって消化して、制限酵素ApaI−SmaIによって消化し、連結し、制限酵素NotI−SacIIによって消化し、脱リン酸化したベクターpSKに連結して、プラスミドpYGKを得た。
【0114】
作成の検証のために、プラスミドpYGKを次に菌株E.コリDH5αに導入した。次にオリゴヌクレオチドユニバーサルM13リバースおよびユニバーサルM13フォワードを用いて、プラスミドpYGKのプロモータPpgk、マルチクローニング部位およびターミネータcyc1の配列決定を実施して、作成を確認した。
【0115】
次にプラスミドpYGK−GRE2pは、遺伝子GRE2pのプラスミドpYGKへの挿入によって作成した。これを行うために、サッカロミセス・セレビシエの遺伝子GRE2pを、染色体DNAから、ポリメラーゼPwoを用いて以下のオリゴヌクレオチドを使用して増幅した。
Ome376_Gre2 pYGK F (SmaI)
Acgtacgtcccccgggaaaaatgtcagttttcgtttcaggtgc
Ome377_Gre2 pYGK R (ApaI)
ACGTACGGGCCCTTATATTCTGCCCTCAAATTTTAAAATTTGGG
【0116】
得られたPCR生成物を次に、制限酵素ApaI−SmaIによって消化して、制限酵素ApaI−SmaIによって消化し、脱リン酸化したベクターpYGKに連結して、プラスミドpYGK−GRE2pを得た。
【0117】
作成の検証のために、プラスミドpYGK−GRE2pを次に菌株E.コリDH5αに導入した。次にオリゴヌクレオチドユニバーサルM13リバースおよびユニバーサルM13フォワードを用いて、プラスミドpYGK−GRE2pの遺伝子GRE2pの配列決定を実施して、作成を確認した。
【0118】
プラスミドpRSGK−GRE2pを、制限酵素NotI−SacIIによるプラスミドpYGK−GRE2pおよびpRS426の消化と、それに続く連結とによって最終的に得た。
【実施例9】
【0119】
菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1)pRSGK−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
遺伝子ZTA1の不活性化は、マーカー(抗生物質耐性、栄養要求性)を挿入すると同時に、関与する遺伝子の大半を欠失させることによって実施した。使用した技法は、Brachmannらによって述べられている(Designer deletion strains derived from Saccharomyces cerevisae S288C:a useful set of strains and plasmids for PCR−mediated gene disruption and other applications,Yeast,1998,14:115−32)。Wachらによって述べられた方法を使用することも可能である(New heterologous modules for classical or PCR−based gene disruptions in Saccharomyces cerevisiae,Yeast,1994,10:1793−1808)。
【0120】
すべての場合において、S.セレビシエ[Δ(ZTA1)]の最終菌株が得られ、次にその中にプラスミドpRSGK−GRE2p(実施例8)を導入した。
【0121】
あるいはプラスミドpRSGK−GRE2pを入手可能なΔ(ZTA1)菌株、たとえば菌株EUROSCARF Y33183(遺伝子型:BY4743;Mat a/α;his3D1/his3D1;leu2D0/leu2D0;lys2D0/LYS2;MET15/met15D0;ura3D0/ura3D0;YBR046c::kanMX4/YBR046c::kanMX4)に導入することも可能であった。次に胞子形成の後、S.セレビシエ[Δ(ZTA1)pRSGK−GRE2p]のホモ接合体菌株を回収することが可能であった。
【0122】
得られた菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1)pRSGK−GRE2p]は次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。
【0123】
対照菌株S.セレビシエ[pRSGK−GRE2p]を同じ条件で増殖させた。
【0124】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0125】
発明者らは、菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1)pRSGK−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを見出した。
【実施例10】
【0126】
菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PGI1)pRSGK−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
実施例9で述べた方法および以下のオリゴヌクレオチドを使用して、菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1)pRSGK−GRE2p]における遺伝子PGI1の不活性化を実施した。
Dpgi1F
CCAACGCAGACCGCTGCCTGGCAGGCACTACAGAAACACTTCGATGAAATGAAAGACGTTACGATCGCCGATCTTTTTGCTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
Dpgi1R
GCGCCACGCTTTATAGCGGTTAATCAGACCATTGGTCGAGCTATCGTGGCTGCTGATTTCTTTATCATCTTTCAGCTCTGCATATGAATATCCTCCTTAG
Pgi1F
GCGGGGCGGTTGTCAACGATGGGGTCATGC
Pgi1R
CGGTATGATTTCCGTTAAATTACAGACAAG
【0127】
あるいは入手可能なΔ(PGI1)菌株、たとえば菌株EUROSCARF Y23336(Mat α/a;his3D1/his3D1;leu2D0/leu2D0;lys2D0/LYS2;MET15/met15D0;ura3D0/ura3D0;YBR196c::kanMX4/YBR196c)を使用することが可能であった。次に菌株をプラスミドpRSGK−GRE2p(実施例8)によって変換して、次に実施例9で述べた方法を使用して遺伝子ZTA1の欠失を実施した。
【0128】
得られた菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PGI1)pRSGK−GRE2p]を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。
【0129】
対照菌株S.セレビシエ[pRSGK−GRE2p]を同じ条件で増殖させた。
【0130】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0131】
発明者らは、菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PGI1)pRSGK−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【実施例11】
【0132】
菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PFK1,PFK2)pRSGK−GRE2p]の作成およびエチルアセトアセテートのエチル−3−ヒドロキシブチラートへの生物変換
実施例9で述べた方法および以下のオリゴヌクレオチドを使用して、菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1)]において遺伝子PFK1およびPFK2を欠失させた。
Dpfk1F
ATGCAATCTCAAGATTCATGCTACGGTGTTGCATTCAGATCTATCATCACAAATGATGAAAAGCTTCGTACGCTGCAGGTCG
Dpfk1R
TTTGTTTTCAGCGGCTAAAGCGGCTACCTCAGCTCTCAACTTTAATCTACCGGACAGGATGGGCCACTAGTGGATCTGATATC
Pfk1 int F
GCTTTCTTAGAAGCTACCTCCG
Pfk1 int R
GAACCGACAAGACCAACAATGG
Pfk2 int F
CAGTTGTACACTTTGGACCC
Pfk2 int R
GATCAGCACCAGTCAAAGAACC
【0133】
次に菌株をプラスミドpRSGK−GRE2p(実施例8)によって変換した。
【0134】
得られた菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PFK1,PFK2)pRSGK−GRE2p]を次に、グルコースおよびエチルアセトアセテートを含有する最小培地で増殖させた。
【0135】
対照菌株S.セレビシエ[pRSGK−GRE2p]を同じ条件で増殖させた。
【0136】
増殖が完了したときに、以下の変数を比較した。
−生物変換段階での各菌株のバイオマスの時間経過
−細胞外培地に生成されたエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−細胞中に蓄積したエチル−3−ヒドロキシブチラートの量
−エチル−3−ヒドロキシブチラートに関しての生産性
−収率グルコース/エチル−3−ヒドロキシブチラート
【0137】
発明者らは、菌株S.セレビシエ[Δ(ZTA1,PFK1,PFK2)pRSGK−GRE2p]が非最適化菌株よりもエチル−3−ヒドロキシブチラートのより高い収率を与えることを観察した。
【0138】
【表9】

【実施例12】
【0139】
エシェリキア・コリによるエチル−3−ヒドロキシブチラートの生成の最適化のための代謝モデルを使用する、実験値と予測との比較
発明者らは、予測モデル化(実施例1)と実施例3、4、5、6、7、9、10および11に述べた実験結果との間に密接な相関を見出した。
【0140】
上の実施例1〜11は、特許の具体的な適用であり、その範囲を制限しない。当業者は、NADPH依存性合成によって形成された物質のバイオトランスフォーメーションにこれらの例を容易に適合させることができる。アルゴリズムMetOpt(登録商標)およびNADPH/NADP比の最適化によるNADPH依存性バイオトランスフォーメーションプロセスを最適化する方法を検証する。それゆえ本特許は、E.コリ、S.セレビシエまたは他のいずれかの微生物を使用した、MetOpt(登録商標)、またはその派生物を用いてモデル化および予測できるすべてのNADPH依存性バイオトランスフォーメーションをカバーする適用を請求する。
【実施例13】
【0141】
E.コリにおける発酵プロセスでの理論的最適収率の計算
実施例12は、METabolic EXplorer社によって開発されたモデルMetOpt(登録商標)が生物変換に利用可能であり、発酵などのバイオトランスフォーメーションにより一般的に利用可能なはずであることを示している。
【0142】
たとえばMetOpt(登録商標)−Coliモデルは、本発明に従って最適化されたE.コリの菌株でのグルコース発酵によるシステインまたは3−ヒドロキシプロピオナートの生成に利用された。使用したパラメータは実施例1と同様であった、すなわち:1)3mmol・g−1・h−1のグルコース移入流量、2)0、0.15および0.25h−1の可変増殖速度、3)1mmol・g−1・h−1以下の可変膜結合性トランスヒドロゲナーゼ流量(pntAB);膜結合性トランスヒドロゲナーゼ流量の制限値は、文献(Hanson,1979;Anderlund et al.,1999;Emmerling et al.,2002)から決定した、4)5〜22mmol・g−1・h−1に制限された維持流量。
a)グルコースの発酵によるシステインの生成の場合
【0143】
【表10】

【0144】
NADP還元能力について最適化されたE.コリの菌株によるシステインの生成の理論的最適収率(グルコース1molあたりのmol)
本発明に従って最適化された菌株の理論的最適収率をさらに改善するために、さらなる修飾、たとえばzwf、gnd、pntA、pntBまたはicdでありうる少なくとも1つの遺伝子の過剰発現および/またはedd、aceA、aceBまたはaceKでありうる少なくとも1つの遺伝子の欠失を実施できる。
【0145】
実際にそのような収率を得るために、本発明に従って最適化された菌株に対して、たとえば特許国際公開第01/27307号に述べられた遺伝子cycBを過剰発現させることによって、または欧州特許第0885962号に述べるような遺伝子cycEを修飾することによって、他の修飾を行う必要がある。
【0146】
b)グルコースの発酵による3−ヒドロキシプロピオナートの生成の場合
3−ヒドロキシプロピオナートの生成は、3−ヒドロキシプロピオナート合成経路の酵素、たとえばChloroflexus aurantiacusのマロニル−coAレダクターゼをコード化する遺伝子を含有するE.コリの菌株において実施した(Hugler et al.,Journal of Bacteriology,2002,184:2404−2410)。
【0147】
【表11】

【0148】
NADP還元能力について最適化されたE.コリの菌株による3−ヒドロキシプロピオナートの生成の理論的最適収率(グルコース1molあたりのmol)
本発明に従って最適化された菌株の理論的最適収率をさらに改善するために、さらなる修飾、たとえばzwf、gnd、pntA、pntBまたはicdでありうる少なくとも1つの遺伝子の過剰発現および/またはedd、aceA、aceBまたはaceKでありうる少なくとも1つの遺伝子の欠失を実施できる。
【実施例14】
【0149】
S.セレビシエにおける発酵プロセスでの理論的最適収率の計算;ヒドロコルチゾンの生成への応用
実施例12は、METabolic EXplorer社によって開発されたモデルMetOpt(登録商標)が生物変換に利用可能であり、発酵などのバイオトランスフォーメーションにより一般的に利用可能なはずであることを示している。
【0150】
たとえばMetOpt(登録商標)−Scereモデルは、本発明に従って最適化されたS.セレビシエの菌株でのグルコース発酵によるヒドロコルチゾンの生成に利用された。使用したパラメータは実施例1と同様であった、すなわち:1)3mmol・g−1・h−1のグルコース移入流量、2)0、0.15および0.25h−1の可変増殖速度、3)22mmol・g−1・h−1以下の維持流量、4)非可逆的であり、アセテート+NAD(P)H→アセトアルデヒド+NAD(P)の方向に設定されたアルデヒドデヒドロゲナーゼ反応(ALD2、ALD3、ALD6)、および5)udhAまたはpntA、Bに等しい活性なし。
【0151】
モデルは、ミトコンドリアおよびペルオキシソーム区画化を考慮している。
【0152】
結果のこのような表現は、NADPH生成の改善への、そしてヒドロコルチゾン生成流量の改善への、本発明に従ってなされた各変異によってなされた真の寄与を証明している。
【0153】
ヒドロコルチゾンの生成は、ヒドロコルチゾン合成経路の酵素をコード化する遺伝子を含有するS.セレビシエの菌株において実現された(Szczebara et al.,2003,Nature Biotechnology,21:143−149)。
【0154】
【表12】

【0155】
NADP還元能力について最適化されたE.コリの菌株によるヒドロコルチゾンの生成の理論的最適収率(グルコース1molあたりのmol)
遺伝子PFK1およびPFK2が欠失した菌株は、ヒドロコルチゾンを生成することができず、生存可能ですらない可能性がある。これは、ヒドロコルチゾンの生成がNADPH要件によってよりも、炭素要求によってより制限されるためである。1つの解決策は、酵母におけるトランスヒドロゲナーゼタイプ活性の弱い発現を可能にすることである。しかしながらモデル化は、PGII遺伝子が欠失されたときほどにはヒドロコルチゾン生成が高くならないことを示している。
【0156】
本発明に従って最適化された菌株の理論的最適収率をさらに改善するために、さらなる修飾、たとえばZWF、SOL1、SOL2、SOL3、SOL4、GND1、GND2、IDP1、IDP2またはIDP3でありうる少なくとも1つの遺伝子の過剰発現および/またはICL1またはDAL7でありうる少なくとも1つの遺伝子の欠失を実施できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NADPH酸化活性の1つ以上が制限されていることを特徴とする、微生物の菌株。
【請求項2】
NADPH酸化活性の1つ以上がキノンオキシドレダクターゼおよび/または可溶性トランスヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の欠失によって制限されていることを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
NADP還元酵素活性の1つ以上に好都合である修飾も受けていることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の菌株。
【請求項4】
ホスホグルコースイソメラーゼおよび/またはホスホフルクトキナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の欠失を受けていることを特徴とする、請求項3に記載の菌株。
【請求項5】
NADPを優先的に利用させるためにジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼおよび/またはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の修飾も受けていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の菌株。
【請求項6】
グルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、または6−ホスホグルコノラクトナーゼ、または6−ホスホグルコナートデヒドロゲナーゼ、またはイソシトレートデヒドロゲナーゼまたは膜結合性トランスヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子も過剰発現することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の菌株。
【請求項7】
6−ホスホグルコナートデヒデヒドラターゼ、またはマレートシンターゼ、またはイソシトレートリアーゼ、またはイソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼをコード化する1つ以上の遺伝子の欠失も受けていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の菌株。
【請求項8】
興味のある物質のバイオトランスフォーメーションに関与する酵素をコード化する1つ以上の内在性または外来性遺伝子を保有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の菌株。
【請求項9】
1つ以上の選択マーカー遺伝子を保有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の菌株。
【請求項10】
アスペルギルス種、バチラス種、ブレビバクテリウム種、クロストリジウム種、コリネバクテリウム種、エシェリキア種、グルコノバクター種、ペニシリウム種、ピキア種、シュードモナス種、ロドコッカス種、サッカロミセス種、ストレプトミセス種、キサントモナス種、またはカンジダ種から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の菌株。
【請求項11】
興味のある物質のバイオトランスフォーメーションに関与する1つ以上の酵素をコード化する1つ以上の遺伝子および/または1つ以上の選択マーカー遺伝子を含有する適切なベクターによって菌株を変換すること、あるいは過剰発現させる1つまたは複数の遺伝子を制御する内在性の1つまたは複数のプロモータの強度を変更することのどちらかによる、NADPを優先的に利用させるための、キノンオキシドレダクターゼおよび/または可溶性トランスヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の欠失、ならびに必要ならばホスホグルコースイソメラーゼ、またはホスホフルクトキナーゼ、または6−ホスホグルコナートデヒドラターゼ、またはマレートシンターゼ、またはイソシトレートリアーゼまたはイソシトレートデヒドロゲナーゼキナーゼ/ホスファターゼをコード化する1つ以上の遺伝子の欠失、ならびに/またはジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼおよび/またはグリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の修飾であって、適切な手段によって実施される修飾および欠失、ならびに/またはグルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、または6−ホスホグルコノラクトナーゼ、または6−ホスホグルコナートデヒドロゲナーゼ、またはイソシトレートデヒドロゲナーゼまたは膜トランスヒドロゲナーゼをコード化する1つ以上の遺伝子の過剰発現を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の最適化された菌株を調製する方法。
【請求項12】
少なくとも1つのステップがNADPH依存性である生合成経路によって形成される興味のある物質の生成のための方法であって、
a)その増殖に好都合であり、NADPHを除いて、発酵または生物変換によるバイオトランスフォーメーションを実施するために必要な物質を含有する適切な培養培地における、請求項1〜10のいずれかに記載の最適化された微生物の培養での増殖と、
b)培地からの興味のある物質の抽出および必要ならばその精製、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
興味のある物質がアミノ酸、ビタミン、ステロール、フラボノイド、脂肪酸、有機酸、ポリオール、またはヒドロキシエステルであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。


【公表番号】特表2007−510411(P2007−510411A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537373(P2006−537373)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002848
【国際公開番号】WO2005/047498
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506153376)
【Fターム(参考)】