説明

OCTシステムを備える眼科手術用顕微鏡

【課題】本発明は、顕微鏡主対物レンズと、物体領域を視覚化するために顕微鏡主対物レンズを透過する観察光路とを備える眼科手術用顕微鏡を提供する。
【解決手段】眼科手術用顕微鏡100は、物体領域108の像を撮像するためのOCTシステム140を含んでいる。OCTシステム140は、スキャンミラー構造146を介して物体領域108へと案内されるOCT走査光路142を含んでいる。本発明によると、スキャンミラー構造146と顕微鏡主対物レンズ101の間に、スキャンミラー構造146から射出されるOCT走査光路142を集束させて顕微鏡主対物レンズ101を透過する光路へと移行させる光学部材147が設けられている。代替的または追加的に、眼科手術用顕微鏡100は、観察光路105とOCT走査光路142へ出入りするように内方旋回し外方旋回することができる検眼鏡検査ルーペ132を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡主対物レンズと、顕微鏡主対物レンズを透過する観察光路と、物体領域の像を撮像するためのOCTシステムとを備え、OCTシステムはスキャンミラー構造を介して物体領域へと案内されるOCT走査光路を含んでいる、眼科手術用顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた種類の手術用顕微鏡は特許文献1から公知である。この手術用顕微鏡は、短いコヒーレントのレーザ放射に由来する走査光路を生成するOCTシステムを含んでいる。OCTシステムは、干渉信号を評価するための分析ユニットを含んでおり、2つの運動軸を中心として位置調節することができる2つのスキャンミラーを備えた、OCT走査光路をスキャンする装置を含んでいる。手術用顕微鏡におけるOCT走査光路は、ビーム分割鏡を介して手術用顕微鏡の照明光路へと入力結合され、これとともに顕微鏡主対物レンズを通過して物体領域へと誘導される。
【0003】
OCTシステムは、光コヒーレンス断層撮影法を用いて、組織内部の構造を非侵襲的に表示し測定することを可能にする。光コヒーレンス断層撮影法は光学的な像生成法として、特に、生物組織の断面像または体積像をマイクロメートルの解像度で生成することを可能にする。これに対応するOCTシステムは、試料光路と参照光路に供給される、時間的にインコヒーレントで空間的にコヒーレントであるコヒーレンス長lcの光のための光源を含んでいる。試料光路は、検査されるべき組織に対して向けられる。OCTシステムは、組織内の散乱中心に基づいて試料光路へはね返されたレーザ放射を、参照光路に由来するレーザ放射と重ね合わせる。重ね合わせによって干渉信号が生じる。この干渉信号を基にして、検査された組織におけるレーザ放射に対する散乱中心の位置を決めることができる。
【0004】
OCTシステムについては、「タイムドメインOCT」と「フーリエドメインOCT」の構造原理が知られている。
【0005】
「タイムドメインOCT」の構造は、たとえば特許文献2で図1aを参照しながら、5欄40行から11欄10行に説明されている。このようなシステムでは、参照光路の光学的な経路長が、高速運動可能な参照鏡によって継続的に変えられる。試料光路と参照光路に由来する光は、光検出器で重ね合わされる。試料光路と参照光路の光学的な経路長が一致したときに、光検出器に干渉信号が発生する。
【0006】
「フーリエドメインOCT」は、たとえば特許文献3に説明されている。試料光路の光学的な経路長を測定するために、同じく、試料光路に由来する光が参照光路に由来する光に重ね合わされる。しかし「タイムドメインOCT」とは異なり、試料光路の光学的な経路長を測定するために、試料光路と参照光路に由来する光が直接検出器へ供給されるのではなく、まず分光計によってスペクトル分解される。そして、こうして生成された、試料光路と参照光路に由来する重ね合わされた信号のスペクトル強度が、検出器によって検出される。検出器信号を評価することで、同じく、試料光路の光学的な経路長を判定することができる。
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0697611B1号明細書
【特許文献2】米国特許第5,321,501号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/10544A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、人間の目のOCT断層像の撮像を可能にし、OCT走査光路を強度損失なくOCT走査平面へと案内することができる、コンパクトに構成された眼科手術用顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、スキャンミラー構造と顕微鏡主対物レンズの間に、スキャンミラー構造から射出されるOCT走査光路の光を集束させて顕微鏡主対物レンズを透過する光路へと移行させる光学部材が設けられている、冒頭に述べた種類の眼科手術用顕微鏡によって解決される。
【0010】
上述の課題は、観察光路とOCT走査光路へ出入りするように内方旋回および外方旋回することができる検眼鏡検査ルーペが設けられている、冒頭に述べた種類の眼科手術用顕微鏡によっても解決される。検眼鏡検査ルーペは、OCT走査光路を患者の目の底に集束させることを可能にし、それによって眼底を走査すると同時に、手術用顕微鏡の光学的な観察光路によって、接眼レンズを覗き込んで眼底を見ることができるようにする。
【0011】
本発明の発展例では、スキャンミラー構造と顕微鏡主対物レンズの間の光学部材は可動のレンズユニットとして製作されている。このようにして、人間の目のさまざまな断層面をOCT放射で走査することができる。
【0012】
本発明の発展例では、この光学部材はレンズ交換装置に収容されている。このようにして、物体領域におけるOCT放射のさまざまな走査平面の間で迅速な往復切換が可能である。
【0013】
本発明の発展例では、光学部材は焦点距離が可変なズームシステムとして製作される。このようにして、OCT放射によって患者の目で検査される断層面を無段階に変えることが可能となる。
【0014】
本発明の発展例では、主対物レンズの焦点距離を調整する手段が設けられている。このようにして、眼科手術用顕微鏡を用いて物体領域のさまざまな平面を検査することができ、その際に、手術用顕微鏡を変位させる必要がない。
【0015】
本発明の発展例では、スキャンミラー構造はOCT走査光路をスキャンするために第1のスキャンミラーを含んでいる。これに加えて、第2のスキャンミラーが設けられているのが好ましく、この場合、第1のスキャンミラーは第1の回転軸を中心として動かすことができ、第2のスキャンミラーは第2の回転軸を中心として動かすことができ、第1および第2の回転軸は側方にオフセットされて、互いに直角をなしている。このようにして、互いに垂直に延びる網目パターンで物体領域を走査することができる。
【0016】
本発明の発展例では、OCTシステムは、動かすための手段が付属しているOCT走査光路のための光射出区域を有する光導波路を含んでいる。このようにして、さまざまな波長のOCT放射を使用するためにOCTシステムを適合化することができる。
【0017】
本発明の発展例では、眼科手術用顕微鏡では、観察光路とOCT走査光路へ出入りするように内方旋回および外方旋回することができる検眼鏡検査ルーペが設けられている。この検眼鏡検査ルーペは縮小レンズと組み合わされるのが好ましく、検眼鏡検査ルーペと縮小レンズは、OCT走査光路と観察光路へ出入りするように内方旋回し外方旋回することができる検眼鏡検査アタッチメントモジュールに配置されている。このようにして、眼科手術用顕微鏡を用いて、患者の目の前側区域だけでなくその眼底もOCT放射によって検査することができる。
【0018】
本発明の発展例では、眼科手術用顕微鏡のOCTシステムは、第1の波長をもつ第1のOCT走査光線を提供するために、および、第1の波長とは異なる第2の波長をもつ第2のOCT走査光線を提供するように設計されている。波長の異なるOCT走査光線を提供する、相応の第1のOCTシステムと相応の第2のOCTシステムが設けられるのが好ましい。このようにして、OCT放射に対する吸収特性がさまざまに異なる体組織を、優れた解像度で検査することができる。
【0019】
本発明の有利な実施形態が図面に示されており、以下において説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1の手術用顕微鏡100は、光学軸102と焦点面103をもつ顕微鏡主対物レンズ101を有している。顕微鏡主対物レンズ101には、双眼鏡筒106の立体視観察光路105が通っている。
【0021】
患者の目108としての物体領域を照明するために、手術用顕微鏡100は照明装置として照明モジュール120を有している。この照明モジュール120は、詳しくは図示しない光源からの照明光122を提供する第1の光導波路121を含んでいる。光導波路121から射出される照明光122によって、位置調節可能な視野絞り124が照明される。顕微鏡主対物レンズ101の物体と反対側に配置された反射鏡123によって、光導波路121から射出された照明光が、顕微鏡主対物レンズ101を通過して物体領域108へと誘導される。
【0022】
眼科手術用顕微鏡100には、二重矢印133,134に示すように手術用顕微鏡100の立体視観察光路105に出入りするように内方旋回し、かつ外方旋回することができる、縮小レンズ131と検眼鏡検査ルーペ132とを備える検眼鏡検査アタッチメントモジュール130が付属している。
【0023】
眼科手術用顕微鏡100には第1のOCTシステム140が設けられている。さらに眼科手術用顕微鏡は、図2に示す第2のOCTシステムを含んでいる。これらのOCTシステムはOCT像の撮像を可能にする。
【0024】
図1に示すOCTシステム140は、OCT走査光路142を生成し、分析するためのユニット141を含んでいる。ユニット141は手術用顕微鏡100に組み込まれている。あるいは、このユニットは手術用顕微鏡100の外部で、相応の三脚柱に配置することもできる。ユニット141は、OCT走査光路142を提供する光導波路143と接続されている。
【0025】
光導波路143から射出されるOCT走査光路142は、発散光路によって、OCTスキャンユニット146の第1のスキャンミラー144と第2のスキャンミラー145へと案内され、そこから集光レンズ147の形態の光学部材に到達し、それから顕微鏡主対物レンズ101を透過する。OCT走査光路142は、OCT走査平面160で、患者の目108の前面区域に収束される。
【0026】
患者の目108の形態の物体領域からOCT走査光路へ後方散乱されたOCT光は、顕微鏡主対物レンズ101、集光レンズ147、OCTスキャンユニット146を介して、ユニット141へと戻っていく。そこで、物体領域から後方散乱されたOCT走査光が、参照光路に由来するOCT放射で干渉される。干渉信号が検出器によって検出され、計算機ユニットによって評価され、計算機ユニットはこの信号を基にして、物体領域におけるOCT光の散乱中心と、参照分路における光の経路長との間の光学的な経路長差を算定する。
【0027】
OCT走査平面160を調整するために、集光レンズ147には位置調節機構148が付属しており、それによって集光レンズを二重矢印149に示すように動かすことができる。
【0028】
第1のOCTシステム140は波長λ=1310nmで作動する。眼科手術用顕微鏡100の第2のOCTシステムは、第1のOCTシステム140に準じて構成されているが、λ=800nmの動作波長を有している。当然ながら、これ以外の動作波長用としてOCTシステムを設計することもできる。動作波長は特に600nm<λ<1500nmの範囲内で具体化することができ、好ましくはそれぞれ用途に応じる。
【0029】
図2は、第1のOCTシステム140に準じて構成、配置された第2のOCTシステム150を備える、図1の眼科手術用顕微鏡100を示している。
【0030】
手術用顕微鏡の同一のモジュールには、図2にも図1と同じ符号が付されている。
【0031】
OCTシステム150は、OCTシステム150のOCT走査光路152の生成と分析をするためのユニット151を含んでおり、光導波路153の射出端部でOCT走査放射152を生起する。このOCT走査放射152は、図1に示すOCTシステム190のOCT走査放射142と同じく、第1のスキャンミラー154と第2のスキャンミラー155を備えるOCTスキャンユニット156によって、集光レンズ157として構成された光学部材を介して、顕微鏡主対物レンズ101を通るように案内される。
【0032】
図2は、検眼鏡検査アタッチメントモジュール130の縮小レンズ131と検眼鏡検査ルーペ132が手術用顕微鏡100の観察光路205へ入るように内方旋回している動作モードで、眼科手術用顕微鏡100を示している。このことは、眼底190からはね返って手術用顕微鏡の観察光路へ入る光による、及びOCT走査光による、患者の目108の眼底190の検査を可能にする。
【0033】
集光レンズ157はOCT走査光路を集束させ、これを顕微鏡主対物レンズ101へと誘導する。OCT走査放射は、顕微鏡主対物レンズ101、縮小レンズ131、検眼鏡検査ルーペ132を通ってOCT走査放射が患者の目108に入り、OCT走査平面170で患者の目108の眼底190に集束される。
【0034】
患者の目108の形態の物体領域からOCT走査光路へと後方散乱されたOCT光は、顕微鏡主対物レンズ101、集光レンズ157、OCTスキャンユニット156を介して、OCT走査光路の生成と分析をするためのユニット151へ戻っていく。そこで、物体領域から後方散乱されたOCT走査光が、参照光路に由来するOCT放射でさらに干渉される。OCTシステム140の場合と同じく、OCTシステム150でも干渉信号が検出器によって検出され、計算ユニットによって評価され、この信号を基にして計算ユニットが、物体領域におけるOCT光の散乱中心と、参照分路における光の経路長との間の光学的な経路長差を算出する。
【0035】
集光レンズ157には位置調節機構157が付属しており、これによって集光レンズを二重矢印159に示すように動かすことができる。このようにして、OCTシステム150に由来するOCT走査放射についても、焦点面を調整することができる。
【0036】
眼科手術用顕微鏡100の図2に示す動作モードのときのOCT走査光路の光学的な経路長は、図1に示す動作モードのときよりも長い。このことは、OCTシステム150の参照光路における光学的な経路長の適合化を必要にする。そのために、検眼鏡検査ルーペ132とOCTシステム150との結合器180が設けられており、この結合器によって、検眼鏡検査ルーペ132が観察光路とOCT光路へ入るように内方旋回したときに、OCTシステムの参照光路の光学的な経路長が一定の値に準じて拡大される。この値は調整可能に保たれているのが好ましい。固定的な値は、患者の目の平均長に準拠するのが好都合である。
【0037】
図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。この図面は、図1の手術用顕微鏡100の立体視観察光路105,205の推移を説明するものである。顕微鏡主対物レンズ101には2つの立体視部分光路105,205が透過している。顕微鏡主対物レンズの光学軸102はその中心310に位置している。図1のOCTシステム140のOCT走査光路142は、領域301で、顕微鏡主対物レンズ101を透過している。領域302では、図2に示すOCTシステム150のOCT走査光路152がこれを透過しており、領域303では照明光122が透過している。
【0038】
図4は、図1ないし図2に示す手術用顕微鏡100の第1のOCTシステム140と第2のOCTシステム150を示している。ただし、両方のOCTシステム140,150のOCT走査光路の波長領域は相違している。すなわち、第1のOCTシステムは波長λ1=1310nmのOCT走査放射に依拠している。第2のOCTシステム320は、波長λ2=800nmのOCT走査放射によって作動する。図4のOCTシステム140、150の各モジュールを表すために、図1ないし図2と同じ符号を使用している。
【0039】
OCTシステム140,150の第1のスキャンミラー144,154と第2のスキャンミラー145,155は、アクチュエータ401,402,403,404によって、互いに垂直に延びる2つの軸405,406,407、408を中心として回転運動可能なように配置されている。このことは、OCT走査光路142,152を互いに独立して1つの平面でスキャンすることを可能にする。
【0040】
第1のOCTシステム140のOCT走査光路142は、集光レンズ147を介して、顕微鏡主対物レンズ101へと案内される。第2のOCTシステム150のOCT走査光路152は、集光レンズ157を介して、顕微鏡主対物レンズ101を通過する。
【0041】
図5は、図1の光導波路143の前面区域502を示している。光導波路143は波長λ1=1310nmの光に対してモノモードファイバとして作用する。光導波路143のファイバコアの直径d1は次式、
【数1】

を満たしており、このときNA1は光導波路の前面の開口数である。光導波路122のファイバコアの直径dは、5μm<d<10μmの範囲内にあるのが好ましい。このパラメータ範囲内では、光導波路143はガウス形の波長モードで光を案内する。OCT走査光線501は、胴部パラメータW1と開口パラメータθ1によって特徴づけられる、近似的にガウス形の放射断面形状で光導波路143から射出され、このとき次式が成り立つ。
【数2】

したがって、d1=10μmのファイバコア直径と波長λ1=1310nmについては、光線発散を表す目安としてθ1≒0.0827radの開口角が得られる。
【0042】
光導波路143の前面502は、図1に示す手術用顕微鏡100にあるスキャンミラー144、145と集光レンズ147を介して、顕微鏡主対物レンズを通してOCT走査平面へ結像される。
【0043】
図6は、OCT走査光線501の強度分布の推移をOCT走査平面601に対して垂直に示している。OCT走査平面601では、OCT走査放射の強度分布は最小の狭隘部を有している。OCT走査平面の範囲外では、OCT走査光路の直径が増加していく。OCT走査光線501は図5の光導波路143から近似的にガウス形の放射断面形状で射出されるので、図1の手術用顕微鏡100の集光レンズ147と顕微鏡主対物レンズ101は、OCT走査光線にとってOCT走査平面160の領域で、OCT走査光線501のいわゆるガウス光束600を惹起する。このガウス光束600は、ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータz1によって、および、OCT走査平面におけるOCT走査光線501の最小の狭隘部602の直径を表す目安としての、すなわちその胴部の直径を表す目安としての胴部パラメータW1、Aによって特徴づけられ、このとき次式が成り立つ:
【数3】

ここでλ1はOCT走査光線の波長である。ガウス光束600の胴部パラメータW1、Aと、図5に示す、光導波路143から射出されるIII501の胴部パラメータW1との間には、次の関係が成り立つ:
1,A=β11
ここでβ1は、OCT走査平面における図1の光導波路143の射出端部の上に述べた幾何学的結像の拡大パラメータないし縮小パラメータである。β1は、図1の集光レンズ147の焦点距離f147および顕微鏡主対物レンズの焦点距離f2との間で、次の関係によって結びついている:
2/f147=β1
【0044】
OCT走査光線501によって解像することができる構造のサイズは、OCT走査平面601におけるその直径によって決まり、すなわち胴部パラメータW1によって決まる。たとえば、ある用途が手術用顕微鏡におけるOCTシステムの約40μmの横解像度を必要とする場合、ナイキストの定理により、OCT走査平面におけるOCT走査光線501の断面積は約20μmでなければならない。したがって、図1に示すOCT走査光線501の波長がλ1のとき、OCTシステム140の希望する解像度のためには、OCT光路における光学的な結像の倍率と、光導波路143のファイバコアの直径とを適切に選択しなくてはならない。
【0045】
ガウス光束の胴部の縦方向長さを表す目安としての共焦点パラメータz1は、図1のOCT走査光路143で後方散乱された光を検出することができる軸方向の深部領域を決める。すなわち、共焦点パラメータz1が小さくなるほど、OCT走査放射で走査される物体からOCT走査平面601までの距離で、横解像度に関わるOCTシステムの損失は大きくなる。散乱中心の場所は、胴部パラメータW1および共焦点パラメータz1によって決まる「漏斗」の内部でしか、特定することができないからである。
【0046】
一方では、OCTシステムの軸方向解像度は、OCTシステムで使用される光源の光のコヒーレンス長lcによって制限されており、他方では、OCTシステムの横解像度は、その深度ストロークが共焦点パラメータを超えると減少するので、OCTシステムで使用される光源のコヒーレンス長lcに合わせて共焦点パラメータz1を調整するのが好都合である。
【0047】
そしてOCT走査光線501の特定の波長λ1について、図1のOCTシステムの可能な横解像度が得られる。波長λ1とレイリーパラメータz1が胴部パラメータW1、Aを規定するからである。そして、図1に示すOCT走査光路143の光学系ユニット、および光導波路143のファイバコアの寸法設定を、該当する胴部パラメータが具体化されるように選択することができる。
【0048】
手術用顕微鏡100の集光レンズ147は、可視スペクトル領域についての顕微鏡主対物レンズ101の焦点面170と、OCTシステム140のOCT走査平面160とが一致するように調整されているのが好ましい。そうすれば、図5に示すOCT走査光線の胴部502は手術用顕微鏡の焦点面に位置する。
【0049】
図2に示すOCT150のOCT走査光路152については、光導波路153は波長λ2=800nmの光に対してモノモードファイバとして作用する。光導波路153のファイバコアの直径d2は次式、
【数4】

を満たしており、このときNA2は光導波路153の前面の開口数である。OCT走査光線152は、胴部パラメータW2と開口パラメータθ2によって特徴づけられる、同じく近似的にガウス形の放射断面形状で光導波路153から射出され、このとき次式が成り立つ。
【数5】

【0050】
したがって、OCT走査平面170におけるOCT走査光線152の胴部パラメータについては次式が成り立つ:
2,A=β22
ここでβ2は、OCT走査平面170における図2の光導波路153の射出端部の幾何学的結像の拡大パラメータないし縮小パラメータである。
【0051】
β2は、図2の集光レンズ157の焦点距離、顕微鏡主対物レンズ101の焦点距離、ならびに縮小レンズ131、検眼鏡検査ルーペ132、患者の目108の角膜とレンズによって決まる。
【0052】
このとき集光レンズ157は、光学的な観察光路が顕微鏡主対物レンズ101によって患者の目108の眼底190を結像するときに、手術用顕微鏡100におけるOCTシステム150のOCT走査平面170が、眼底190と一致するように調整されているのが好ましい。
【0053】
手術用顕微鏡におけるOCTシステムの上述した設計に代えて、OCT走査平面と手術用顕微鏡の焦点面とのオフセットが意図されていてもよい。このようなオフセットは、OCT走査平面の領域におけるOCT走査光線の共焦点パラメータzよりも大きくないのが好ましい。
【0054】
OCT走査平面を共焦点パラメータzの分だけさらに図1の顕微鏡主対物レンズ101から遠ざけることによって、物体領域におけるOCTシステムの深度ストロークを最大限にすることができる。
【0055】
図7には、図1および図2に示す眼科手術用顕微鏡100で使用することができるOCTシステムの改変された実施形態が示されている。
【0056】
このOCTシステム700は、図1に示すOCTシステム140に準じて、OCT走査光路702の生成と分析をするためのユニット701を含んでいる。このユニット701は、異なる波長のOCT走査光路を生成して評価することができるように設計されている。OCTシステム700の波長の調整のために、制御装置703が設けられている。
【0057】
OCT走査光路702は、ユニット701と接続された光導波路704から射出され、2つのスキャンミラー705,706へ到達する。これらのミラーは、OCT走査平面707で物体領域708を走査することができるように、詳しくは図示しない駆動装置によって可動である。
【0058】
さまざまなOCT走査平面を設定するために、OCTシステム700では、一方では、屈折力の異なる集光レンズ710,711を含んでいるレンズ交換装置としての倍率変更装置709が設けられている。これらの集光レンズ710,711はOCT走査光路702へ出入りするように内方旋回し外方旋回することができる。さらに光導波路704には駆動ユニット712が付属しており、この駆動ユニットは、光導波路の射出端部713が二重矢印714に示すように動くことを可能にし、そのようにして、物体領域におけるOCT走査平面707の位置を変えられるようになっている。
【0059】
OCT走査光路707は、走査光路を集束させて相応の手術用顕微鏡の顕微鏡主対物レンズへとさらに誘導する集光レンズ709を通って、OCT走査平面へ到達する。
【0060】
図8は、眼科手術用顕微鏡のためのOCTシステムのさらに別の実施形態を示している。このOCTシステムは、OCTシステム700と同じく、光導波路803から射出されるOCT走査光路802を生成し分析するためのユニット801を有している。OCTシステム800では、光導波路の射出端部804から射出されたOCT走査光路802は、相応のスキャンミラーシステム805を介して、ズームシステムとして作用する、屈折力を調整可能なレンズユニット806を通るように案内される。このようにして、物体領域808におけるOCT走査平面807の位置を変えることが同じく可能である。
【0061】
図1を参照して説明した手術用顕微鏡100のさらに別の改変された実施形態は、焦点距離を調整可能である焦点合わせ可能な顕微鏡主対物レンズを含んでいる。この方策も、OCT走査平面の変位を可能にするとともに、OCT走査平面への光導波路射出端部の幾何学的結像を変更することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】検眼鏡検査アタッチメントモジュールと第1のOCTシステムとを備える眼科手術用顕微鏡である。
【図2】第2のOCTシステムを備える図1の眼科手術用顕微鏡であり、検眼鏡検査アタッチメントモジュールは眼科手術用顕微鏡の観察光路に入るように内方旋回している。
【図3】図1のIII−III線に沿った顕微鏡主対物レンズの断面図である。
【図4】第1および第2のOCTシステムを備えている眼科手術用顕微鏡の区域である。
【図5】手術用顕微鏡でOCTシステムの光導波路から射出されるOCT走査光線の強度分布である。
【図6】手術用顕微鏡の物体領域のOCT走査平面におけるOCT走査光線の強度分布である。
【図7】手術用顕微鏡のOCTシステムの改変された実施形態である。
【図8】手術用顕微鏡のOCTシステムの改変された実施形態である。
【符号の説明】
【0063】
100 眼科手術用顕微鏡、101 顕微鏡主対物レンズ、105 観察光路、108 物体領域、132 検眼鏡検査ルーペ、140 OCTシステム、142 OCT走査光路、146 スキャンミラー構造、147 光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡主対物レンズ(101)と、
物体領域(108)を視覚化するために前記顕微鏡主対物レンズ(101)を透過する 観察光路(105,205)と、
物体領域(108)の像を撮像するためのOCTシステム(140,150,700,800)とを備え、前記OCTシステム(140,150,700,800)はスキャンミラー構造(146,156,705,706,805)を介して物体領域(108)へと案内されるOCT走査光路(142,152,702,802)を含んでいる眼科手術用顕微鏡(100)であって、
前記スキャンミラー構造(146,156,705,706,805)と前記顕微鏡主対物レンズ(101)との間に、前記スキャンミラー構造(146,156,705,706,805)から射出される前記OCT走査光路(142,152,702,802)を集束させて前記顕微鏡主対物レンズ(101)を透過する光路へと移行させる光学部材(147,157,711,806)が設けられていることを特徴とする眼科手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記光学部材は可動のレンズユニット(147,157)として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項3】
前記光学部材(711)はレンズ交換装置(709)に収容されていることを特徴とする請求項1または2に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項4】
前記光学部材は焦点距離が可変なズームシステム(806)として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記顕微鏡主対物レンズの焦点距離を調整するための手段が設けられていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項6】
前記スキャンミラー構造(146,156)は前記OCT走査光路をスキャンするために第1の回転軸(301,303)を中心として動くことができる第1のスキャンミラー(144,154)を含んでいることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項7】
第2の回転軸(302,304)を中心として動かすことができる第2のスキャンミラー(145,155)が設けられており、前記第1の回転軸(301,303)と前記第2の回転軸(302,304)は側方にオフセットされて互いに直角をなしていることを特徴とする請求項6に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項8】
前記OCTシステムは前記OCT走査光路のための光射出区域(713)を有する光導波路(704)を含んでおり、前記光導波路(704)の前記光射出区域(713)を動かすための手段(712)が設けられていることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項9】
顕微鏡主対物レンズ(101)と、
物体領域(108)を視覚化するために前記顕微鏡主対物レンズ(101)を透過する観察光路(105,205)と、
物体領域(108)の像を撮像するためのOCTシステム(140,150,700,800)とを備え、前記OCTシステム(140,150,700,800)はスキャンミラー構造(146,156,705,706,805)を介して物体領域(108)へと案内されるOCT走査光路(142,152,702,802)を含んでいる、
請求項1から8までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡において、
前記観察光路と前記OCT走査光路へ出入りするように内方旋回し、外方旋回することができる検眼鏡検査ルーペ(132)が設けられていることを特徴とする眼科手術用顕微鏡。
【請求項10】
前記検眼鏡検査ルーペ(132)が内方旋回したときに前記OCTシステムの参照光路の光学的な経路長が一定の値だけ拡大されるように、前記OCTシステム140と前記検眼鏡検査ルーペ(132)との結合器が設けられていることを特徴とする請求項9に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項11】
前記観察光路と前記OCT走査光路(142)へ出入りするように内方旋回し、外方旋回することができる縮小レンズ(131)が設けられていることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項12】
前記OCT走査光路(142,152)へ出入りするように内方旋回し、外方旋回することができる、前記検眼鏡検査ルーペ(132)および/または前記縮小レンズ(131)を備える検眼鏡検査アタッチメントモジュール(130)が設けられていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項13】
前記OCTシステム(700)は、さまざまな波長λ1および前記波長λ1とは異なる第2の波長λ2をもつOCT走査光線を提供するように設計されていることを特徴とする請求項1から12までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項14】
異なる波長λ1、λ2のOCT走査光線(142,152)を提供する第1のOCTシステム(140)と第2のOCTシステム(150)が設けられていることを特徴とする請求項1から13までのいずれか1項に記載の眼科手術用顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−268852(P2008−268852A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290532(P2007−290532)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506085066)カール・ツアイス・サージカル・ゲーエムベーハー (17)
【Fターム(参考)】